[828] SECTION01 衝撃! ミホの素顔! |
- フリッカー - 2009年06月09日 (火) 17時52分
あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事! パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……
SECTION01 衝撃! ミホの素顔!
森の中を、あたしは1人で追いかけていた。 逃げようとする、1匹のへんしんポケモン・メタモンを。
「待てーっ!! 絶対ゲットしてやるんだからーっ!!」 あたしはそう叫んで、メタモンを追いかける。メタモンは普通、体の色が紫だけど、このメタモンは体が青い、世にも珍しい色違いポケモン。色違いポケモンに出会えるなんて、奇跡としか言い表せない。だから、逃がす訳には行かない! 逃げる青いメタモンは、アメーバのような体の形を自由に変えられる事を活かして、地面にべったり体を張り付かせた状態で、ぬるぬると滑るように走っていた。それは、水溜りが形を保ったまま動いているように見える。でも、逃げるメタモンとの距離は、なかなか開ける気配がない。向こうが速いのか、あたしが遅いだけなのか……とにかく、じれったくてテンション下がりそう。 とにかく、絶対ゲットしてやるんだから! あたしはモンスターボールを取り出した。えいっ、と思いっきり1個投げる。当たる! と思ったのも束の間、メタモンは当たろうと下部分の体を縮めて、モンスターボールをかわしてみせた。地面にモンスターボールが跳ね返されて、乾いた音が出る。 あいつ、やるじゃない。でも、あたしだって負けない! 何だか逆にハイテンションになってきた! あたしは何個かのモンスターボールをまとめて取り出した。1個でダメなら連続で! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うし! あたしはモンスターボールを連続で投げつける。えいっ、えいっ、えーいっ! それでもメタモンは伸び縮みする体を活かして、器用にかわしてみせる。しぶといーっ! 6個目を投げた所で、手元にモンスターボールがなくなっちゃった。あたしはバッグに手を突っ込んで、新しいモンスターボールを取り出そうとした。でも、手探りでモンスターボールが見つからない。 「ボールが切れちゃった!?」 思わずそう叫んじゃった時、メタモンが急に反転した。こっちに仕掛けてくるつもり!? そう思って足を止めた瞬間、メタモンの体があたしの足に絡みついた。きゃあって叫んだのも束の間、物凄いスピードで体を伸ばして、あたしの体に縄のように巻きついた。 「ああ……っ!!」 体が強く締め付けられる。アメーバのような体を持っているのがウソみたいな、強い力。これじゃ、身動きが取れない……っ! でも、メタモンの反撃はこれで終わりじゃなかった。あろう事か、あたしの首に体を巻きつけて、体と同じように締め付け始めた! 息ができない。胸がどんどん苦しくなってくる。このままじゃ、首を絞め殺されちゃう……! 「あ……あ、あ…………」 助けを呼ぼうにも、声が出ない。そもそも、こんな森の中で叫んでも、誰も助けてくれない。苦しさはどんどん増していって、目の前がどんどん、真っ暗になっていく。そんな……あたしもう、ここで死んじゃうの……? 「ヒ、カ……リ………ン…………」 やがて、あたしの目の前が真っ暗になった瞬間、体の力が抜けたのがわかった。
あたしは、目の前で倒れている『あたし』を上から見下ろしていた。
逃げても逃げても追いかけてきて、あまりにしつこかったから、隙を見て首を絞めてやった。そして、勝った。でも、今まで見た事の無かったこの体は、何だか面白そう。そう思って、この姿と同じ姿に、体を変えてみたの。 改めて、新しくなった体を見てみる。『目の前で倒れているヤツ』の姿と、全く同じ体、同じ手、同じ足。そして目線の高さも、高すぎず低すぎず。この体、何だか気に入っちゃった。今までいろんな奴の体を使ってみたけど、この体は何だか今までのとは違う感触がある。それが凄く心地よく感じた。 「この体、何だかハイテンションになっちゃう」 あたしの口から、そんな言葉が出た。なんでこんな使った事のない言葉が出てきたのかは、わからなかったけど。 そしてあたしは、意気揚々とした気分でその場を後にしていった。
この時からあたしは、ふと頭に思い浮かんだミホって名前を名乗って、ニンゲンの中で暮らしていく事になった。
でも、この時からだった。 ヒカリンの事が気になり始めたのは。
ヒカリンって、誰なんだろう……? でも、あたしはヒカリンを知っている…… いつも明るくて、『ダイジョウブ』が口癖の女の子…… ヒカリンは少し前までいつも、あたしと一緒にいた…… あたしの大切な、ベストフレンドだった……
だから、あたしは決めたの。 ヒカリンに会いに行こうって。 ヒカリンの事が、知りたくなったから。
* * *
キッサキシティに到着したあたし達は、遂に7個目のバッジを懸けた、サトシのジム戦を迎えた。 初めての4対4戦。ジムリーダー、スズナさんとのバトルは白熱したものになった。サトシは見事勝利! そして7個目のバッジ、グレイシャバッジをゲットした。 それからすぐに、バトルフロンティアの1つ、バトルピラミッドがキッサキ神殿の調査にやってきた。でも、たまたまジム戦をしに来たシンジが、バトルピラミッドのピラミッドキング、ジンダイさんにバトルを申し込んだ。シンジはジンダイさんに因縁があったからなんだけど、結果は完敗。でもその後で、サトシとエイチ湖でフルバトルの約束をした。 その直後、キッサキ神殿があのポケモンハンターJに襲われた! 狙いは神殿に眠る伝説のポケモン、きょだいポケモン・レジギガス。Jによって無理やり目覚めさせられたレジギガスは暴れ始めて、ジンダイさんの力で止めようとしてもJに邪魔されちゃって、あと少しで捕まりそうになっちゃったけど、その時にやっとレジギガスは我に返って、J達を退けた。そしてまた、レジギガスは神殿で眠りについた。 そんないろんな事があったキッサキシティを、あたしは出発した。シンジとの約束の場所、エイチ湖へ向かうために。
* * *
シンジとの約束の場所、エイチ湖に向かって旅を続けるあたし達。 とりあえず今の目的は、エイチ湖の畔へ直通する列車に乗る事。でも、その駅は小さな田舎町にある。だから駅まではまたしばらく、歩きで行かなきゃならない。 そんな田舎町の前にあるポケモンセンターで一休みしていたあたしは、ママに電話をしていた。 クレナイシティで開かれる、ポケモンコンテスト・エキシビションに出場が決まった事と、ミホに会った事を報告するために。 エキシビションに招待された事を言うと、ママは驚いた。ママの話では、あのルビーさんも出場するらしい。 でも、話題がミホの事になった途端、ママは信じられない事を口にした。 「ええっ!? ミホはもう死んでる!?」 「そうよ。ミホちゃんは旅の中で、野性ポケモンに襲われて亡くなったのよ」 声を合わせて驚くあたし達に、画面の向こうのママは、詳しく説明する。 「何でも、首を絞められた跡と、刺し傷があった状態で森の中で発見されたそうよ。ミホちゃんのパパとママも、それを知って悲しそうにしていたわ。ヒカリにもいつか教えようと思っていたけど……」 ママは顔をうつむけた。その悲しそうな顔は、ウソをついているようには見えない。 でも、あたしはママの言葉が信じられなかった。確かにあたしは、間違いなくミホに会って、話もしたんだから。それは夢なんかじゃない。 「でもあたし、本当にミホに会ったのよ! 普通に元気そうにしていたわ! ねえ、みんな!」 「俺も、間違いなく見ました!」 「自分もです!」 画面の後ろに居るサトシ達も、うなずく。 「きっと、何かの間違いじゃない? 夢でも見たんじゃないの?」 ママはあたしの言葉を信じていない。 「じゃあ、あのミホは……幽霊って事か……!?」 サトシの顔が青ざめる。ママの言葉が合っているとすれば、サトシの言う通り、あのミホは幽霊……!? あたしは首を横に振った。 「そんなはずないわ!! あたし、本当にミホと会ったんだから!! 人違いなんかじゃない、本物のミホだったのよ!!」 あたしは必死に画面の向こうのママに主張した。それにはさすがにママも驚いている。でもママはいつものように落ち着きを取り戻して、少し考えた後、こう言った。 「……それだったら、ひょっとしたらポケモンかもしれないわよ?」 「ど、どういう事?」 「ほら、こんな話聞かない? 死んだはずの人が蘇ったら、それは本人じゃなくてポケモンが化けた姿なんだって」
* * *
電話が終わった後、あたしはコートを着て、外へと飛び出した。 雪に覆われた森。外は晴れていて、積もった雪が太陽の光を反射して、少しだけ眩しく感じる。日差しはあるけど、空気が冷たいのは変わらない。 ママの話は、絶対に信じられない。だって、間違いなくあたしはミホと会ったんだから。この目で見たんだから。絶対に夢なんかじゃない。 「ヒカリ、これからどうするんだよ?」 後ろから追いかけてくるサトシが聞いてくる。 「決まってるでしょ。ミホを探すのよ」 あたしは振り向いて、今これからしようとしている事を答えた。 こうなったら直接ミホに会って、聞くしかない。そうすれば、本当の事がわかる。 「でも、どうやってミホを探すんだ?」 「あ……」 でもタケシにそう言われて、思わず足を止めた。そういえば、その事全然考えていなかった……考えてみれば、この近くにミホが必ずいるなんて保証はないよね…… 「……サトシ、ムクホーク貸して!」 あたしはとっさに、サトシにそう頼んだ。でもサトシにもタケシにも、やっぱり考えてなかったのかよ、と少し呆れた顔をされた。気まずい空気が、辺りに漂う。それに追い打ちをかけるかのように、冷たい風が1つ吹いた。
その時だった。 森の中から、急に誰かが飛び出した。一瞬、野生ポケモンかと思ったけど、白い雪の中では目立つ、赤い服が目に留まった。 「ミホ!!」 袖が黒い赤い長袖の服にピンクのミニスカート、茶色がかったショートヘアーの女の子。その頭には赤い耳当てを付けている。間違いなくミホだった。 ちょうどよく出てきてくれた、って思って声をかけようとしたけど、何か様子がおかしい。ミホは慌てている様子で、あたし達に気付かないまま、後ろを気にしながら目の前を通り過ぎて行っちゃった。どうしたんだろう、って思ったけど、その答えはすぐに出た。 ミホが通り過ぎてすぐに、ポケモンが吠える声が聞こえてきた。重々しさと甲高さが混じった、ドラゴンポケモン特有の鳴き声だった。そして目の前を通り過ぎた影。青い体に赤い羽、そしていかつい顔を持つドラゴンポケモン。ボーマンダ。それよりも驚いたのは、それに乗っていた人。黒い服に黒いマント、黒いバイザーで素顔を隠した、黒ずくめって言葉がふさわしい人。その左腕には、穴の開いた大きな機械が付いている。 「あれは……ポケモンハンター・J!?」 サトシが声を上げた。 そう、売りさばく事を目的にしてポケモンを奪う、悪名高き指名手配犯のポケモンハンター・J。左腕に着けているのは光線銃で、光線を当てたポケモンを固めて、そのまま奪っていっちゃう。基本的に無駄なバトルはしないみたいだけど、バトルでも結構強い実力者。それに光学迷彩を付けた飛行艇に乗っている事もあって、なかなか捕まらない強敵。 「ミホを追いかけていなかったか?」 「ええ。でも、どうして……?」 タケシの言う通りだった。ポケモンハンター・Jは、明らかにミホの後を追いかけていた。ポケモンを狙うはずのJだけど、なんでミホを……? 「追いかけるぞ!!」 サトシの一声にあたしはうなずいて、あたし達はJの後を追いかけた。 雪に足を取られそうになってなかなか思うように走れないけど、それでも目だけでもJを見失わないように追いかけていた。 Jを乗せたボーマンダは、急にスピードを上げて、ミホの正面に回り込んだ。ミホが驚いて足を止めた時、Jはモンスターボールを取り出して、ミホの前に投げた。そこから出てきたのは、ばけさそりポケモン・ドラピオンだった。ドラピオンのツメが、ミホに容赦なく襲いかかる。間一髪でかわすミホ。空を切ったツメは、地面の雪に突き刺さった。それでもドラピオンは、攻撃をやめようとしない。雪からツメを引き抜いて、またミホを狙う。ミホは、ポケモンは持っていないと言っていた。だから、こんな状況じゃ手も足も出ない。 「ミホを攻撃しているぞ!?」 「どうして!? なんでミホを攻撃しているの!?」 あたしが見ても、Jの行動は不自然だという事がわかった。ポケモンを狙うJは、邪魔な人間には構おうとはしない。不利になったらすぐに逃げる事からもわかる。バトルになる時は狙っているポケモン相手の時か、あたし達のようなしつこい奴らを軽く追い払おうとする程度。そんなJが、ポケモンを持っていないミホに直接攻撃している。まるで、ミホそのものが狙いのような…… そうこうしている間に、とうとうミホはドラピオンの腕に首を掴まれた! そのまま苦しがるミホを片手で持ち上げてみせるドラピオン。 「なぜその姿のままでいる? その姿のままでは戦えないだろう?」 「な、何の話かしら……?」 Jはミホにそんな事を聞いたけど、ミホは答えない。その姿って、何の事……? とにかく、ミホを助けないと! あたしはサトシ達と一緒に飛び出した。 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 あたしはポッチャマに指示を出した。ピカチュウのでんきわざは、ドラピオンがミホを掴んでいる状況じゃ使えないけど、ポッチャマなら! ポッチャマは指示通りに、“バブルこうせん”をドラピオンに向けて発射! ドラピオンは、飛んでくる“バブルこうせん”に気付いて、ミホを掴んだまま“バブルこうせん”をかわした。 「ピカチュウ、“アイアンテール”だ!!」 そこにサトシが続く。サトシの指示で、ピカチュウはドラピオンに飛びかかって、“アイアンテール”でミホを助けようとした。でも、ドラピオンは空いているもう片方の腕でピカチュウを弾き飛ばした。体勢を立て直して、着地するピカチュウ。 「またお前達か」 Jの視線が、こっちに向いていた。邪魔に入られたからか、口元は不機嫌そうにしている。 「J!! ミホを離しなさい!!」 あたしはそんなJに向かって、言い放つ。その後、ミホの「ヒ、カリン……?」という弱い声が聞こえた。 「ミホを攻撃して、どうするつもりなんだ!!」 サトシが後に続く。 「……そうか。お前達、こいつの知り合いのようだな」 するとJは、そうつぶやいてドラピオンが掴むミホに顔を向けた。そしてまた、あたし達に顔を戻す。 「なら教えてやろう。こいつはお前達の知っている奴ではない」 Jは急に、訳のわからない事を言い出した。 「……どういう意味よ!!」 「わからないなら、見せてやる。ドラピオン!」 Jが指示すると、ドラピオンは掴んでいたミホを乱暴に投げ飛ばす。地面の雪に叩きつけられるミホ。 「正体を現してもらおうか! ドラピオン、“クロスポイズン”!!」 あたしはすぐにミホの側に行こうとしたけど、その隙を与えず、Jはドラピオンに指示を出した。ドラピオンがツメを閃かせて、ミホに向かっていく。まさか、ミホを攻撃する気!? そんな事したら、ミホは……! 「ポッチャマ!!」 あたしはとっさにポッチャマに呼びかけた。ポッチャマはすぐに、ドラピオンに向かっていく。でもそれに気付いたドラピオンは、ポッチャマは腕で弾き飛ばす。そのままスピードを緩めないで、ミホに躍りかかった! 「ミホ、逃げて!!」 あたしは、そうミホに呼びかける事しかできなかった。
「きゃああああっ!!」 ドラピオンのツメは、ミホの体を容赦なく十字に切り裂いた。ミホの悲鳴が、森にこだました。そのままミホは、雪の中に崩れ落ちた。 「ミホ!!」 あたしはすぐに、ミホの側に行こうとした。でもその時、信じられない事が起きた。 ミホの前進が急に青くなり始めたと思うと、熱を持ったアイスクリームのように、体が溶け始めた。ミホの体の形は、みるみるうちに消えていく。 「な、何だ……!?」 「ミホの体が……溶けてる……!?」 あたしとサトシは、そんなSF映画のワンシーンのようなグロテスクな光景に、そう言葉を出すしかなかった。そのままあたしの目の前で、ミホは訳のわからない、青い水溜りへと変わっちゃった。そのまま水溜りは、蒸発してしまうようにゆっくりと大きさを小さくしていく。人が溶けるなんて、どういう事なの……!? 「きゃあああああああっ!!」 あたしはもう、悲鳴を上げずにはいられなかった。 「待て……よく見てみろ!」 タケシが声を上げた。タケシが指差す先には、水溜りの真ん中。そこに、何かがある。落ち着いてよく見るとそこには、小さな顔がある。ミホの顔とは似ても似つかない、小さな目と、小さな口。あれって……ポケモン!? 「あれは……青いメタモンだ!!」 タケシが声を上げた。メタモン? それってポケモン? あたしは半信半疑でポケモン図鑑を取り出した。すると、図鑑は反応した。 「メタモン、へんしんポケモン。全身の細胞を組み替えて、見たものの形そっくりに変身する能力を持つ」 図鑑の音声が流れた。やっぱりポケモンだった。でも画面に映るメタモンの色は、紫色。という事はこのメタモン、色違い? でも、今はそんな事はどうでもよかった。
――ほら、こんな話聞かない? 死んだはずの人が蘇ったら、それは本人じゃなくてポケモンが化けた姿なんだって。
ママが電話で言っていた言葉を思い出す。そんなママの言う通りだった。ただの噂話だって思ってたけど、本当の事だったなんて…… 「嘘……ミホが……メタモン……!?」 それでも、あたしは目の前で起きた出来事が信じられなかった。まるで悪い夢を見ているようだった。試しに頬をつねってみるけど、痛い。やっぱり夢じゃない……!? 「まさか、メタモンが“へんしん”していたなんて……」 「電話の話、嘘じゃなかったって事か……」 サトシとタケシがそう言葉を漏らした。 「これでわかっただろう、こいつの正体が」 Jは堂々と言い放った。これなら、Jが狙うのも納得がいく。人に化けられる、しかも色違いのメタモンだったら、Jが狙ってもおかしくはない。 「だから私は、こいつをいただく!!」 Jはすぐに、左腕を突き出した。そこには、ポケモンを固めちゃう光線銃が着いている。その銃口は、真っ直ぐメタモンに向いていた。 「させるか!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」 でもサトシが、すぐに反応した。ピカチュウがすぐに飛び出して、“10まんボルト”で攻撃! その電撃に驚いて、Jを乗せているボーマンダが一瞬、体勢を崩す。そのせいで、Jはメタモンを狙えなかった。 「タケシ!! メタモンを!!」 「ああ!!」 サトシの呼びかけに、タケシはすぐに反応した。タケシは素早くメタモンの所に行く。 「させるか!! ボーマンダ、“かえんほうしゃ”!!」 「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」 Jがそうはさせまいと指示したけど、サトシも同じように、そうはさせまいと指示を出した。ボーマンダがタケシに向けて発射した炎と、ピカチュウの電撃がぶつかり合う。そして、大きな爆発を起こした。その間に、タケシはメタモンを抱き抱えていた。 「ちっ……ここは分が悪いか……」 するとJは状況を不利と見たのか、攻撃の指示は出さないで、ドラピオンをモンスターボールに戻した。 「最後に1つ言っておく。そのメタモンが姿を借りている少女がどうなったか、教えてやる」 Jは急に、そんな事を言い出した。その言葉に、あたしは反応した。Jの言葉とはいえ、ママの言っていた事が本当なのか知りたい気持ちはあった。あたしが顔を向けると、それを確かめたJは、話し始めた。 「その少女は殺されたんだ。そのメタモンによってな!」
その瞬間、木に被っていた雪が地面に落ちた。 「ええっ!?」 その言葉に、あたしは耳を疑った。あたしはタケシが抱いている、メタモンに恐る恐る目を向けた。このメタモンが、本物のミホを殺した……!? 「嘘だ!! そんな話信じられるか!! 証拠はあるのか!!」 サトシが言い返す。するとJは、余裕たっぷりに答えた。 「私は実際に見たからな。メタモンを追いかけていた少女が、メタモンに首を絞められて死に、そのメタモンが少女に姿を変えた所をな!」 するとボーマンダが、反転して空へと飛び去って行った。Jの姿は、ボーマンダと一緒に空へと消えていった。でもあたしは、そんなJを追いかけようとはしなかった。
足の力が抜けて、膝が冷たい雪に着いた。そのまま雪の上にしゃがみ込む。 「そんな……ミホは……メタモンに……」 ママは野生ポケモンに襲われてミホは亡くなったって言ってたけど、その野生ポケモンが、あのメタモンだったなんて……そしてそのメタモンが、本物のミホと入れ替わっていたなんて…… 「とにかく、すぐにポケモンセンターに運ぼう!」 「ああ!」 サトシとタケシのそんなやり取りが聞こえる。でもあたしは、その場を動けなかった。何だか胸に、やるせない思いが湧き上がってきた。タケシが抱いているメタモンに、近づこうとは思わなかった。 何やってるんだヒカリ、とサトシに呼びかけられるまでは。
* * *
う、うぐ…… あたしは、そっと目を開けた。目の前に、建物の天井が映った。そしてその横で顔を覗かせている、ラッキーの姿が見えた。 「よかった、目を覚ましたわね」 そしてその横には、ジョーイさんの姿が。ジョーイさんはすぐに、サトシ君達に知らせないと、とつぶやいて、ラッキーと一緒に部屋を後にしていった。 それにしても、ここはどこ? あたしは体を起こしてみる。 あたしがいたのは、病室の中にある、横長のカプセルの中だった。横には同じ形をしたカプセルがあって、他にも何匹かのポケモン達が眠っている。 ふと、ガラスに映った影を見て、あたしは驚いた。あたしの体は、気に入っているニンゲンの体じゃなくて、『すっぴん』の体になっちゃっていた! あたしの知らない内に、『すっぴん』になっちゃってたなんて! 途端にあたしは、不安になった。『すっぴん』でいる事は、あたし凄く不安なの! あたしはすぐに体をニンゲンの体に戻した。カプセルに何とか体のサイズは収まった。そしてそのまま、カプセルを手で押して開けて、外に出た。周りのポケモン達が驚いていたけど、そんな事はどうでもいい。 「あー、やっぱり元の体が一番!」 あたしはそう言って背伸びしようとしたけど、急に体に痛みが走って、体が崩れ落ちた。まだ、さっきの奴に攻撃された時のダメージが残ってたみたい…… その時、開いているドアに、驚いているジョーイさんと、サトシ達がいるのが見えた。 「おい、大丈夫か!?」 「どうしてまたその姿になってるんだ!?」 サトシとタケシが、すぐに駆け寄って、あたしの体を支える。もうあたしがニンゲンじゃないって事、みんなにばれてるみたい。 「ご、ごめん、バレちゃってた……? 『すっぴん』だとあたし、すっごく不安になって……」 あたしはそう言って立とうとしたけど、やっぱり痛みが走って立てない。あの“クロスポイズン”、結構効いたみたいね…… ふと、あたしの顔に、あたしのベストフレンド、ヒカリンが見えた。 「ああ、ヒカリン……さっきはありがと、助けに来てくれて……」 そこまで言ってから、あたしはヒカリンの様子がおかしい事に気付いた。あたしの言葉にも答えないで、なぜか怒っているような鋭い目付きで、こっちをにらんでいる。 「……どうしたの、ヒカリン?」 「ミホ……いや、メタモン……あんたに聞きたい事があるの」 ヒカリンはなぜか、あたしをメタモンって呼んだ。それに、今度はあんたって呼んだ。今まであたし、ヒカリンにあんたって呼ばれた事はなかったのに。ヒカリンは間を置いて、あたしに言った。 「あんたなの、『本物のミホ』を殺したのは!?」 「へ……!?」 あたしはその質問に、声を裏返しちゃった。一瞬、ヒカリンの言ってる事の意味がわからなかった。 「とぼけないで! ちゃんと答えて! 本物のミホは、あんたが殺したの!? それでミホに成りすましていたの!?」 ヒカリンはなぜかキレた様子で、あたしに迫る。本物のミホ……成りすました……ああ、そういう事か。あたしはヒカリンの聞いてる事が大体わかった。 「この体、あたしを追いかけてきた奴の体なの。あんまりしつこかったから、首を絞めてやって勝ったんだけど、それでこの体が……」 そこまで答えた途端、ヒカリンはいきなり、あたしの襟を乱暴に掴んで、あたしに突っかかってきた。 「やっぱりあんただったのね!! あんたが殺したのね!! 本物のミホを返してよ!!」 あたしのすぐ目の前で、そう怒鳴り始めるヒカリン。 「ヒ、ヒカリン……何するの……!? やめて……っ!!」 あたしは息が苦しかったけど、そう言う事しかできなかった。 「『ヒカリン』って呼ばないで!! あんた、メタモンなんでしょ!! 本物のミホじゃないんでしょ!!」 その言葉が、あたしの心にグサッと突き刺さった。 あたし、ヒカリンに嫌われちゃった……!?
TO BE CONTINUED……
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