【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中

小説板

ポケモン関係なら何でもありの小説投稿板です。
感想・助言などもお気軽にどうぞ。

名前
メールアドレス
タイトル
本文
URL
削除キー 項目の保存


こちらの関連記事へ返信する場合は上のフォームに書いてください。

[827] ヒカリストーリーEvolution STORY31 ヒトという名のポケモン
フリッカー - 2009年06月09日 (火) 17時51分

 STORY31、公開です。
 今回はミホの謎が遂に明らかに!

ゲストキャラクター
ミホ(第5の準レギュラー) イメージCV:こやまきみこ
 ヒカリのトレーナーズスクール時代の友人であり、旅に出たまま行方不明になっていたと思われていた少女。
 底抜けに陽気で、いつも元気いっぱいな子供っぽい性格で、誰とでもすぐに親しくなれる。しかし友達思いであり、ヒカリの事を『ヒカリン』と呼び、ヒカリを『ピカリ』と呼んだ者に怒るなど、その仲の良さは近所でも評判だった。
「ハイテンション」という言葉をよく使い、現れる時は「今日もあたしはハイテンショーン!!」が口癖になっている。気に入ったポケモンに「惚れちゃう」と言うほど結構なポケモン好きだが、手持ちポケモンは持っておらず、故にポケモントレーナーではない。主な特技はポフィン作りだが、他にもいろいろな事を起用にこなせ、本人曰く「苦手な事はない」らしい。
 その底抜けな明るさとは裏腹に、旅の目的が曖昧、人の口には合わないはずのポケモンフーズやポフィンを普通に食べておいしいと言う、ポケモンと会話できる能力を持つなど、多くの謎を持つ。
 その正体は、ミホの姿と記憶をコピーして生活しているへんしんポケモン・メタモン(色違い)であり、本物のミホは既に死亡している。

ポケモンハンター・J(アニメ登場キャラ)
 ポケモンを不法に奪っては闇ルートで高く売りさばく、『ポケモンハンター』と呼ばれる人物。多数の部下を引き連れ、自ら先頭に立って取引や仕事を行う。
 徹底した効率主義者で、状況によっては部下でさえ容赦なく切り捨てるのもためらわない、冷酷無比な人物。手持ちポケモンののレベルも高い。左腕に装着された光線銃は、受けたポケモンを石のように固めて動けなくさせてしまう。

[828] SECTION01 衝撃! ミホの素顔!
フリッカー - 2009年06月09日 (火) 17時52分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 衝撃! ミホの素顔!


 森の中を、あたしは1人で追いかけていた。
 逃げようとする、1匹のへんしんポケモン・メタモンを。

「待てーっ!! 絶対ゲットしてやるんだからーっ!!」
 あたしはそう叫んで、メタモンを追いかける。メタモンは普通、体の色が紫だけど、このメタモンは体が青い、世にも珍しい色違いポケモン。色違いポケモンに出会えるなんて、奇跡としか言い表せない。だから、逃がす訳には行かない!
 逃げる青いメタモンは、アメーバのような体の形を自由に変えられる事を活かして、地面にべったり体を張り付かせた状態で、ぬるぬると滑るように走っていた。それは、水溜りが形を保ったまま動いているように見える。でも、逃げるメタモンとの距離は、なかなか開ける気配がない。向こうが速いのか、あたしが遅いだけなのか……とにかく、じれったくてテンション下がりそう。
 とにかく、絶対ゲットしてやるんだから! あたしはモンスターボールを取り出した。えいっ、と思いっきり1個投げる。当たる! と思ったのも束の間、メタモンは当たろうと下部分の体を縮めて、モンスターボールをかわしてみせた。地面にモンスターボールが跳ね返されて、乾いた音が出る。
 あいつ、やるじゃない。でも、あたしだって負けない! 何だか逆にハイテンションになってきた! あたしは何個かのモンスターボールをまとめて取り出した。1個でダメなら連続で! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うし! あたしはモンスターボールを連続で投げつける。えいっ、えいっ、えーいっ! それでもメタモンは伸び縮みする体を活かして、器用にかわしてみせる。しぶといーっ!
 6個目を投げた所で、手元にモンスターボールがなくなっちゃった。あたしはバッグに手を突っ込んで、新しいモンスターボールを取り出そうとした。でも、手探りでモンスターボールが見つからない。
「ボールが切れちゃった!?」
 思わずそう叫んじゃった時、メタモンが急に反転した。こっちに仕掛けてくるつもり!? そう思って足を止めた瞬間、メタモンの体があたしの足に絡みついた。きゃあって叫んだのも束の間、物凄いスピードで体を伸ばして、あたしの体に縄のように巻きついた。
「ああ……っ!!」
 体が強く締め付けられる。アメーバのような体を持っているのがウソみたいな、強い力。これじゃ、身動きが取れない……っ! でも、メタモンの反撃はこれで終わりじゃなかった。あろう事か、あたしの首に体を巻きつけて、体と同じように締め付け始めた! 息ができない。胸がどんどん苦しくなってくる。このままじゃ、首を絞め殺されちゃう……!
「あ……あ、あ…………」
 助けを呼ぼうにも、声が出ない。そもそも、こんな森の中で叫んでも、誰も助けてくれない。苦しさはどんどん増していって、目の前がどんどん、真っ暗になっていく。そんな……あたしもう、ここで死んじゃうの……?
「ヒ、カ……リ………ン…………」
 やがて、あたしの目の前が真っ暗になった瞬間、体の力が抜けたのがわかった。




 あたしは、目の前で倒れている『あたし』を上から見下ろしていた。

 逃げても逃げても追いかけてきて、あまりにしつこかったから、隙を見て首を絞めてやった。そして、勝った。でも、今まで見た事の無かったこの体は、何だか面白そう。そう思って、この姿と同じ姿に、体を変えてみたの。
 改めて、新しくなった体を見てみる。『目の前で倒れているヤツ』の姿と、全く同じ体、同じ手、同じ足。そして目線の高さも、高すぎず低すぎず。この体、何だか気に入っちゃった。今までいろんな奴の体を使ってみたけど、この体は何だか今までのとは違う感触がある。それが凄く心地よく感じた。
「この体、何だかハイテンションになっちゃう」
 あたしの口から、そんな言葉が出た。なんでこんな使った事のない言葉が出てきたのかは、わからなかったけど。
 そしてあたしは、意気揚々とした気分でその場を後にしていった。

 この時からあたしは、ふと頭に思い浮かんだミホって名前を名乗って、ニンゲンの中で暮らしていく事になった。

 でも、この時からだった。
 ヒカリンの事が気になり始めたのは。

 ヒカリンって、誰なんだろう……?
 でも、あたしはヒカリンを知っている……
 いつも明るくて、『ダイジョウブ』が口癖の女の子……
 ヒカリンは少し前までいつも、あたしと一緒にいた……
 あたしの大切な、ベストフレンドだった……

 だから、あたしは決めたの。
 ヒカリンに会いに行こうって。
 ヒカリンの事が、知りたくなったから。

 * * *

 キッサキシティに到着したあたし達は、遂に7個目のバッジを懸けた、サトシのジム戦を迎えた。
 初めての4対4戦。ジムリーダー、スズナさんとのバトルは白熱したものになった。サトシは見事勝利! そして7個目のバッジ、グレイシャバッジをゲットした。
 それからすぐに、バトルフロンティアの1つ、バトルピラミッドがキッサキ神殿の調査にやってきた。でも、たまたまジム戦をしに来たシンジが、バトルピラミッドのピラミッドキング、ジンダイさんにバトルを申し込んだ。シンジはジンダイさんに因縁があったからなんだけど、結果は完敗。でもその後で、サトシとエイチ湖でフルバトルの約束をした。
 その直後、キッサキ神殿があのポケモンハンターJに襲われた! 狙いは神殿に眠る伝説のポケモン、きょだいポケモン・レジギガス。Jによって無理やり目覚めさせられたレジギガスは暴れ始めて、ジンダイさんの力で止めようとしてもJに邪魔されちゃって、あと少しで捕まりそうになっちゃったけど、その時にやっとレジギガスは我に返って、J達を退けた。そしてまた、レジギガスは神殿で眠りについた。
 そんないろんな事があったキッサキシティを、あたしは出発した。シンジとの約束の場所、エイチ湖へ向かうために。

 * * *

 シンジとの約束の場所、エイチ湖に向かって旅を続けるあたし達。
 とりあえず今の目的は、エイチ湖の畔へ直通する列車に乗る事。でも、その駅は小さな田舎町にある。だから駅まではまたしばらく、歩きで行かなきゃならない。
 そんな田舎町の前にあるポケモンセンターで一休みしていたあたしは、ママに電話をしていた。
 クレナイシティで開かれる、ポケモンコンテスト・エキシビションに出場が決まった事と、ミホに会った事を報告するために。
 エキシビションに招待された事を言うと、ママは驚いた。ママの話では、あのルビーさんも出場するらしい。
 でも、話題がミホの事になった途端、ママは信じられない事を口にした。
「ええっ!? ミホはもう死んでる!?」
「そうよ。ミホちゃんは旅の中で、野性ポケモンに襲われて亡くなったのよ」
 声を合わせて驚くあたし達に、画面の向こうのママは、詳しく説明する。
「何でも、首を絞められた跡と、刺し傷があった状態で森の中で発見されたそうよ。ミホちゃんのパパとママも、それを知って悲しそうにしていたわ。ヒカリにもいつか教えようと思っていたけど……」
 ママは顔をうつむけた。その悲しそうな顔は、ウソをついているようには見えない。
 でも、あたしはママの言葉が信じられなかった。確かにあたしは、間違いなくミホに会って、話もしたんだから。それは夢なんかじゃない。
「でもあたし、本当にミホに会ったのよ! 普通に元気そうにしていたわ! ねえ、みんな!」
「俺も、間違いなく見ました!」
「自分もです!」
 画面の後ろに居るサトシ達も、うなずく。
「きっと、何かの間違いじゃない? 夢でも見たんじゃないの?」
 ママはあたしの言葉を信じていない。
「じゃあ、あのミホは……幽霊って事か……!?」
 サトシの顔が青ざめる。ママの言葉が合っているとすれば、サトシの言う通り、あのミホは幽霊……!? あたしは首を横に振った。
「そんなはずないわ!! あたし、本当にミホと会ったんだから!! 人違いなんかじゃない、本物のミホだったのよ!!」
 あたしは必死に画面の向こうのママに主張した。それにはさすがにママも驚いている。でもママはいつものように落ち着きを取り戻して、少し考えた後、こう言った。
「……それだったら、ひょっとしたらポケモンかもしれないわよ?」
「ど、どういう事?」
「ほら、こんな話聞かない? 死んだはずの人が蘇ったら、それは本人じゃなくてポケモンが化けた姿なんだって」

 * * *

 電話が終わった後、あたしはコートを着て、外へと飛び出した。
 雪に覆われた森。外は晴れていて、積もった雪が太陽の光を反射して、少しだけ眩しく感じる。日差しはあるけど、空気が冷たいのは変わらない。
 ママの話は、絶対に信じられない。だって、間違いなくあたしはミホと会ったんだから。この目で見たんだから。絶対に夢なんかじゃない。
「ヒカリ、これからどうするんだよ?」
 後ろから追いかけてくるサトシが聞いてくる。
「決まってるでしょ。ミホを探すのよ」
 あたしは振り向いて、今これからしようとしている事を答えた。
 こうなったら直接ミホに会って、聞くしかない。そうすれば、本当の事がわかる。
「でも、どうやってミホを探すんだ?」
「あ……」
 でもタケシにそう言われて、思わず足を止めた。そういえば、その事全然考えていなかった……考えてみれば、この近くにミホが必ずいるなんて保証はないよね……
「……サトシ、ムクホーク貸して!」
 あたしはとっさに、サトシにそう頼んだ。でもサトシにもタケシにも、やっぱり考えてなかったのかよ、と少し呆れた顔をされた。気まずい空気が、辺りに漂う。それに追い打ちをかけるかのように、冷たい風が1つ吹いた。

 その時だった。
 森の中から、急に誰かが飛び出した。一瞬、野生ポケモンかと思ったけど、白い雪の中では目立つ、赤い服が目に留まった。
「ミホ!!」
 袖が黒い赤い長袖の服にピンクのミニスカート、茶色がかったショートヘアーの女の子。その頭には赤い耳当てを付けている。間違いなくミホだった。
 ちょうどよく出てきてくれた、って思って声をかけようとしたけど、何か様子がおかしい。ミホは慌てている様子で、あたし達に気付かないまま、後ろを気にしながら目の前を通り過ぎて行っちゃった。どうしたんだろう、って思ったけど、その答えはすぐに出た。
 ミホが通り過ぎてすぐに、ポケモンが吠える声が聞こえてきた。重々しさと甲高さが混じった、ドラゴンポケモン特有の鳴き声だった。そして目の前を通り過ぎた影。青い体に赤い羽、そしていかつい顔を持つドラゴンポケモン。ボーマンダ。それよりも驚いたのは、それに乗っていた人。黒い服に黒いマント、黒いバイザーで素顔を隠した、黒ずくめって言葉がふさわしい人。その左腕には、穴の開いた大きな機械が付いている。
「あれは……ポケモンハンター・J!?」
 サトシが声を上げた。
 そう、売りさばく事を目的にしてポケモンを奪う、悪名高き指名手配犯のポケモンハンター・J。左腕に着けているのは光線銃で、光線を当てたポケモンを固めて、そのまま奪っていっちゃう。基本的に無駄なバトルはしないみたいだけど、バトルでも結構強い実力者。それに光学迷彩を付けた飛行艇に乗っている事もあって、なかなか捕まらない強敵。
「ミホを追いかけていなかったか?」
「ええ。でも、どうして……?」
 タケシの言う通りだった。ポケモンハンター・Jは、明らかにミホの後を追いかけていた。ポケモンを狙うはずのJだけど、なんでミホを……?
「追いかけるぞ!!」
 サトシの一声にあたしはうなずいて、あたし達はJの後を追いかけた。
 雪に足を取られそうになってなかなか思うように走れないけど、それでも目だけでもJを見失わないように追いかけていた。
 Jを乗せたボーマンダは、急にスピードを上げて、ミホの正面に回り込んだ。ミホが驚いて足を止めた時、Jはモンスターボールを取り出して、ミホの前に投げた。そこから出てきたのは、ばけさそりポケモン・ドラピオンだった。ドラピオンのツメが、ミホに容赦なく襲いかかる。間一髪でかわすミホ。空を切ったツメは、地面の雪に突き刺さった。それでもドラピオンは、攻撃をやめようとしない。雪からツメを引き抜いて、またミホを狙う。ミホは、ポケモンは持っていないと言っていた。だから、こんな状況じゃ手も足も出ない。
「ミホを攻撃しているぞ!?」
「どうして!? なんでミホを攻撃しているの!?」
 あたしが見ても、Jの行動は不自然だという事がわかった。ポケモンを狙うJは、邪魔な人間には構おうとはしない。不利になったらすぐに逃げる事からもわかる。バトルになる時は狙っているポケモン相手の時か、あたし達のようなしつこい奴らを軽く追い払おうとする程度。そんなJが、ポケモンを持っていないミホに直接攻撃している。まるで、ミホそのものが狙いのような……
 そうこうしている間に、とうとうミホはドラピオンの腕に首を掴まれた! そのまま苦しがるミホを片手で持ち上げてみせるドラピオン。
「なぜその姿のままでいる? その姿のままでは戦えないだろう?」
「な、何の話かしら……?」
 Jはミホにそんな事を聞いたけど、ミホは答えない。その姿って、何の事……?
 とにかく、ミホを助けないと! あたしはサトシ達と一緒に飛び出した。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 あたしはポッチャマに指示を出した。ピカチュウのでんきわざは、ドラピオンがミホを掴んでいる状況じゃ使えないけど、ポッチャマなら!
 ポッチャマは指示通りに、“バブルこうせん”をドラピオンに向けて発射! ドラピオンは、飛んでくる“バブルこうせん”に気付いて、ミホを掴んだまま“バブルこうせん”をかわした。
「ピカチュウ、“アイアンテール”だ!!」
 そこにサトシが続く。サトシの指示で、ピカチュウはドラピオンに飛びかかって、“アイアンテール”でミホを助けようとした。でも、ドラピオンは空いているもう片方の腕でピカチュウを弾き飛ばした。体勢を立て直して、着地するピカチュウ。
「またお前達か」
 Jの視線が、こっちに向いていた。邪魔に入られたからか、口元は不機嫌そうにしている。
「J!! ミホを離しなさい!!」
 あたしはそんなJに向かって、言い放つ。その後、ミホの「ヒ、カリン……?」という弱い声が聞こえた。
「ミホを攻撃して、どうするつもりなんだ!!」
 サトシが後に続く。
「……そうか。お前達、こいつの知り合いのようだな」
 するとJは、そうつぶやいてドラピオンが掴むミホに顔を向けた。そしてまた、あたし達に顔を戻す。
「なら教えてやろう。こいつはお前達の知っている奴ではない」
 Jは急に、訳のわからない事を言い出した。
「……どういう意味よ!!」
「わからないなら、見せてやる。ドラピオン!」
 Jが指示すると、ドラピオンは掴んでいたミホを乱暴に投げ飛ばす。地面の雪に叩きつけられるミホ。
「正体を現してもらおうか! ドラピオン、“クロスポイズン”!!」
 あたしはすぐにミホの側に行こうとしたけど、その隙を与えず、Jはドラピオンに指示を出した。ドラピオンがツメを閃かせて、ミホに向かっていく。まさか、ミホを攻撃する気!? そんな事したら、ミホは……!
「ポッチャマ!!」
 あたしはとっさにポッチャマに呼びかけた。ポッチャマはすぐに、ドラピオンに向かっていく。でもそれに気付いたドラピオンは、ポッチャマは腕で弾き飛ばす。そのままスピードを緩めないで、ミホに躍りかかった!
「ミホ、逃げて!!」
 あたしは、そうミホに呼びかける事しかできなかった。




「きゃああああっ!!」
 ドラピオンのツメは、ミホの体を容赦なく十字に切り裂いた。ミホの悲鳴が、森にこだました。そのままミホは、雪の中に崩れ落ちた。
「ミホ!!」
 あたしはすぐに、ミホの側に行こうとした。でもその時、信じられない事が起きた。
 ミホの前進が急に青くなり始めたと思うと、熱を持ったアイスクリームのように、体が溶け始めた。ミホの体の形は、みるみるうちに消えていく。
「な、何だ……!?」
「ミホの体が……溶けてる……!?」
 あたしとサトシは、そんなSF映画のワンシーンのようなグロテスクな光景に、そう言葉を出すしかなかった。そのままあたしの目の前で、ミホは訳のわからない、青い水溜りへと変わっちゃった。そのまま水溜りは、蒸発してしまうようにゆっくりと大きさを小さくしていく。人が溶けるなんて、どういう事なの……!?
「きゃあああああああっ!!」
 あたしはもう、悲鳴を上げずにはいられなかった。
「待て……よく見てみろ!」
 タケシが声を上げた。タケシが指差す先には、水溜りの真ん中。そこに、何かがある。落ち着いてよく見るとそこには、小さな顔がある。ミホの顔とは似ても似つかない、小さな目と、小さな口。あれって……ポケモン!?
「あれは……青いメタモンだ!!」
 タケシが声を上げた。メタモン? それってポケモン? あたしは半信半疑でポケモン図鑑を取り出した。すると、図鑑は反応した。
「メタモン、へんしんポケモン。全身の細胞を組み替えて、見たものの形そっくりに変身する能力を持つ」
 図鑑の音声が流れた。やっぱりポケモンだった。でも画面に映るメタモンの色は、紫色。という事はこのメタモン、色違い? でも、今はそんな事はどうでもよかった。

 ――ほら、こんな話聞かない? 死んだはずの人が蘇ったら、それは本人じゃなくてポケモンが化けた姿なんだって。

 ママが電話で言っていた言葉を思い出す。そんなママの言う通りだった。ただの噂話だって思ってたけど、本当の事だったなんて……
「嘘……ミホが……メタモン……!?」
 それでも、あたしは目の前で起きた出来事が信じられなかった。まるで悪い夢を見ているようだった。試しに頬をつねってみるけど、痛い。やっぱり夢じゃない……!?
「まさか、メタモンが“へんしん”していたなんて……」
「電話の話、嘘じゃなかったって事か……」
 サトシとタケシがそう言葉を漏らした。
「これでわかっただろう、こいつの正体が」
 Jは堂々と言い放った。これなら、Jが狙うのも納得がいく。人に化けられる、しかも色違いのメタモンだったら、Jが狙ってもおかしくはない。
「だから私は、こいつをいただく!!」
 Jはすぐに、左腕を突き出した。そこには、ポケモンを固めちゃう光線銃が着いている。その銃口は、真っ直ぐメタモンに向いていた。
「させるか!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
 でもサトシが、すぐに反応した。ピカチュウがすぐに飛び出して、“10まんボルト”で攻撃! その電撃に驚いて、Jを乗せているボーマンダが一瞬、体勢を崩す。そのせいで、Jはメタモンを狙えなかった。
「タケシ!! メタモンを!!」
「ああ!!」
 サトシの呼びかけに、タケシはすぐに反応した。タケシは素早くメタモンの所に行く。
「させるか!! ボーマンダ、“かえんほうしゃ”!!」
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
 Jがそうはさせまいと指示したけど、サトシも同じように、そうはさせまいと指示を出した。ボーマンダがタケシに向けて発射した炎と、ピカチュウの電撃がぶつかり合う。そして、大きな爆発を起こした。その間に、タケシはメタモンを抱き抱えていた。
「ちっ……ここは分が悪いか……」
 するとJは状況を不利と見たのか、攻撃の指示は出さないで、ドラピオンをモンスターボールに戻した。
「最後に1つ言っておく。そのメタモンが姿を借りている少女がどうなったか、教えてやる」
 Jは急に、そんな事を言い出した。その言葉に、あたしは反応した。Jの言葉とはいえ、ママの言っていた事が本当なのか知りたい気持ちはあった。あたしが顔を向けると、それを確かめたJは、話し始めた。
「その少女は殺されたんだ。そのメタモンによってな!」




 その瞬間、木に被っていた雪が地面に落ちた。
「ええっ!?」
 その言葉に、あたしは耳を疑った。あたしはタケシが抱いている、メタモンに恐る恐る目を向けた。このメタモンが、本物のミホを殺した……!?
「嘘だ!! そんな話信じられるか!! 証拠はあるのか!!」
 サトシが言い返す。するとJは、余裕たっぷりに答えた。
「私は実際に見たからな。メタモンを追いかけていた少女が、メタモンに首を絞められて死に、そのメタモンが少女に姿を変えた所をな!」
 するとボーマンダが、反転して空へと飛び去って行った。Jの姿は、ボーマンダと一緒に空へと消えていった。でもあたしは、そんなJを追いかけようとはしなかった。

 足の力が抜けて、膝が冷たい雪に着いた。そのまま雪の上にしゃがみ込む。
「そんな……ミホは……メタモンに……」
 ママは野生ポケモンに襲われてミホは亡くなったって言ってたけど、その野生ポケモンが、あのメタモンだったなんて……そしてそのメタモンが、本物のミホと入れ替わっていたなんて……
「とにかく、すぐにポケモンセンターに運ぼう!」
「ああ!」
 サトシとタケシのそんなやり取りが聞こえる。でもあたしは、その場を動けなかった。何だか胸に、やるせない思いが湧き上がってきた。タケシが抱いているメタモンに、近づこうとは思わなかった。
 何やってるんだヒカリ、とサトシに呼びかけられるまでは。

 * * *

 う、うぐ……
 あたしは、そっと目を開けた。目の前に、建物の天井が映った。そしてその横で顔を覗かせている、ラッキーの姿が見えた。
「よかった、目を覚ましたわね」
 そしてその横には、ジョーイさんの姿が。ジョーイさんはすぐに、サトシ君達に知らせないと、とつぶやいて、ラッキーと一緒に部屋を後にしていった。
 それにしても、ここはどこ? あたしは体を起こしてみる。
 あたしがいたのは、病室の中にある、横長のカプセルの中だった。横には同じ形をしたカプセルがあって、他にも何匹かのポケモン達が眠っている。
 ふと、ガラスに映った影を見て、あたしは驚いた。あたしの体は、気に入っているニンゲンの体じゃなくて、『すっぴん』の体になっちゃっていた! あたしの知らない内に、『すっぴん』になっちゃってたなんて! 途端にあたしは、不安になった。『すっぴん』でいる事は、あたし凄く不安なの! あたしはすぐに体をニンゲンの体に戻した。カプセルに何とか体のサイズは収まった。そしてそのまま、カプセルを手で押して開けて、外に出た。周りのポケモン達が驚いていたけど、そんな事はどうでもいい。
「あー、やっぱり元の体が一番!」
 あたしはそう言って背伸びしようとしたけど、急に体に痛みが走って、体が崩れ落ちた。まだ、さっきの奴に攻撃された時のダメージが残ってたみたい……
 その時、開いているドアに、驚いているジョーイさんと、サトシ達がいるのが見えた。
「おい、大丈夫か!?」
「どうしてまたその姿になってるんだ!?」
 サトシとタケシが、すぐに駆け寄って、あたしの体を支える。もうあたしがニンゲンじゃないって事、みんなにばれてるみたい。
「ご、ごめん、バレちゃってた……? 『すっぴん』だとあたし、すっごく不安になって……」
 あたしはそう言って立とうとしたけど、やっぱり痛みが走って立てない。あの“クロスポイズン”、結構効いたみたいね……
 ふと、あたしの顔に、あたしのベストフレンド、ヒカリンが見えた。
「ああ、ヒカリン……さっきはありがと、助けに来てくれて……」
 そこまで言ってから、あたしはヒカリンの様子がおかしい事に気付いた。あたしの言葉にも答えないで、なぜか怒っているような鋭い目付きで、こっちをにらんでいる。
「……どうしたの、ヒカリン?」
「ミホ……いや、メタモン……あんたに聞きたい事があるの」
 ヒカリンはなぜか、あたしをメタモンって呼んだ。それに、今度はあんたって呼んだ。今まであたし、ヒカリンにあんたって呼ばれた事はなかったのに。ヒカリンは間を置いて、あたしに言った。
「あんたなの、『本物のミホ』を殺したのは!?」
「へ……!?」
 あたしはその質問に、声を裏返しちゃった。一瞬、ヒカリンの言ってる事の意味がわからなかった。
「とぼけないで! ちゃんと答えて! 本物のミホは、あんたが殺したの!? それでミホに成りすましていたの!?」
 ヒカリンはなぜかキレた様子で、あたしに迫る。本物のミホ……成りすました……ああ、そういう事か。あたしはヒカリンの聞いてる事が大体わかった。
「この体、あたしを追いかけてきた奴の体なの。あんまりしつこかったから、首を絞めてやって勝ったんだけど、それでこの体が……」
 そこまで答えた途端、ヒカリンはいきなり、あたしの襟を乱暴に掴んで、あたしに突っかかってきた。
「やっぱりあんただったのね!! あんたが殺したのね!! 本物のミホを返してよ!!」
 あたしのすぐ目の前で、そう怒鳴り始めるヒカリン。
「ヒ、ヒカリン……何するの……!? やめて……っ!!」
 あたしは息が苦しかったけど、そう言う事しかできなかった。
「『ヒカリン』って呼ばないで!! あんた、メタモンなんでしょ!! 本物のミホじゃないんでしょ!!」
 その言葉が、あたしの心にグサッと突き刺さった。
 あたし、ヒカリンに嫌われちゃった……!?


TO BE CONTINUED……

[829] SECTION02 真犯人は誰?
フリッカー - 2009年06月11日 (木) 17時48分

「『ヒカリン』って呼ばないで!! あんた、メタモンなんでしょ!! 本物のミホじゃないんでしょ!!」
 その言葉が、あたしの心にグサッと突き刺さった。何だか知らないけどあたし、ヒカリンに嫌われちゃった……!?
「やめろヒカリ!! 八つ当たりしたって、何も解決にならないじゃないか!!」
 サトシがそう言って、あたしからヒカリンを離す。それでもヒカリンは、乱暴にサトシの手を振り払った。
「本物のミホを殺したのなら、あたし……!!」
 ヒカリンはそう言って、モンスターボールを取り出した。まさか、ポケモンであたしを……!?
「やめなさい!」
 でも、その手を止めたのはジョーイさんだった。
「ここはバトルをする場所じゃないわ! それに……」
「でも……!!」
 ヒカリンはジョーイさんの手を振り払って、ボールを開けようとする。でもジョーイさんは、そんなヒカリンに、ビンタを一発かました。その衝撃で、ヒカリンが持っていたモンスターボールが乾いた音を出して床に落ちた。
「落ち着きなさい! このメタモンはただ、人に手を出されたから、自分の身を守ろうとしただけよ! 人に危害を加えるポケモンは、みんなそうなのよ!」
「……」
「だから人はそんなポケモンを駆除する……それはあってはならない事よ。人が手を出したのが原因なのに、何も罪のないポケモンの命を奪うなんて……あなたのしようとしている事は、それと同じよ! いくら自分の友達が殺されたからって、そんな事したって、何も解決にはならないわ!」
 ジョーイさんの言葉に、ヒカリンは何も言い返さない。ヒカリンはそのまま、立ち尽くすだけだった。
「そう……ですね……ごめんなさい……」
 しばらくして、ヒカリンはただ一言、顔をうつむけてそう言うと、そのまま逃げるように病室を出て行っちゃった。あたしはそんなヒカリンの後ろ姿を、黙って見送る事しかできなかった。
「ヒカリン……」
 あたしの口から、その言葉だけがこぼれた。
 ヒカリンが謝ったのは、ジョーイさんに対してだった。あたしに対してじゃない。出て行ったのも、怒られたからここにいる事が気まずくなったからだけなのかもしれない。
 本当なら、ヒカリンを追いかけたい。でもヒカリンはそれを嫌がるかもしれない。だからあたしは、その場で何もできないままでいた。
 あたしはメタモン。ミホじゃない。じゃあ、あたしは何者なの……?


SECTION02 真犯人は誰?


 本物のミホは、メタモンに殺された。そして、そのメタモンがミホに入れ替わっていた。
 タケシの話によると、メタモンは見たものの姿と能力だけじゃなくて、記憶もコピーする事ができるらしい。だからメタモンは怪しまれる事なく、本物と入れ替わっていたんだ。
 あたしはそんなメタモンが許せなくなって、思わずあんな事をしちゃった。
 ジョーイさんに怒られて、あたしは自分のやった事に気付いた。あたし、あの時と全く同じ事をしようとしちゃった。
 ヨスガシティに向かう途中で出会ったわざわいポケモン・アブソルと心を通わせたあたしは、そいつを殺したポケモン殲滅用ロボット・バルドールが許せなくなって、バルドールを滅多打ちにした。でもバルドールを壊しても、嬉しい気持ちは湧き上がってこなかった。逆に空しい気持ちになった。その殺気だった思いを力でぶつけた所で、アブソルはもう戻って来ない。あたしは後でそう言われた。
 ミホに成りすましたメタモンに八つ当たりしても、本物のミホが帰ってくる訳じゃない。ミホがもうこの世にいない人なのは、変わらないから。そんな事をした自分が恥ずかしくなって、あたしは病室を出ていっちゃった。
 これからどうしよう。あたしは悩んでいた。
 何だか、気まずくてメタモンに合わせる顔がない。会った所で、いくらポケモンとはいっても、身を守るためだったとはいっても、本物のミホを殺したメタモンに対して、どう接すればいいのかも、わからなかった。何だか、心はゴチャゴチャしている。それが、何だか気持ち悪い。
「ほんと、どうすればいいの……」
 あたしは部屋に閉じこもって、ベッドに座って顔をうつむかせながら、そうつぶやくしかなかった。隣にいるポッチャマも、あたしを見て心配そうな顔をしている。
 すると、部屋のドアが開く音がした。
「ここにいたのか」
 ドアの前に立っていたのは、タケシだった。タケシはゆっくりと部屋に入って、あたしに前に来る。
「やっぱり考えていたのか?」
 タケシはあたしの顔を覗いて、そう一言だけ聞く。あたしは何も言わないで、ゆっくりとうなずいた。タケシは少し間を置いて、話し始めた。
「その事なんだが、俺は本物のミホを殺したのはメタモンじゃないと思ってるんだ」
「え?」
 タケシが言った言葉は予想外のものだった。あたしは思わず声を裏返しちゃった。
「どういう事なの?」
「ほら、電話でママさんが言ってたじゃないか。ミホの遺体は『首を絞められた跡「と、刺し傷があった」状態で発見された』って。メタモンは首を絞めたとは言っていたが、体を刺したとは言っていなかった……変だと思わないか?」
 そういえば、ママがそんな事を言っていたっけ。確かにタケシの言う通りなら、メタモンの言っていた言葉と、ママが言っていた言葉は矛盾する。
 タケシは話を続ける。
「仮にメタモンがそのままの体で応戦したとすると、体を刺す事は不可能だ。それだと、刺したのはメタモン以外の誰か、という事になるが、メタモンが他のポケモンと組んでいたような事は言っていなかったし、そもそもメタモンは、そんな群れるようなポケモンじゃない……」
「……でも、証拠はあるの?」
 あたしは素朴に思った事を聞いた。この事はあくまで理論上の事でしかない。証拠がなかったら、それが正しいと証明する事はできないのは当たり前。そう聞くと、タケシは言葉を詰まらせた。
「……そうなんだ。これはあくまで俺の予想に過ぎないからな。だから俺は聞こうと思うんだ、メタモン本人に。そのメタモンなんだが……」
「……どうかしたの?」
「急にいなくなってしまったんだ」
 その言葉を聞いて、あたしは驚いた。メタモンの体は完全には回復していないはず。ジョーイさんも、当分は安静が必要、って言ってたし。それなのに、出て行っちゃったって事!?

 * * *

 白く光る雪に覆われた森の中を、あたしは1人歩いていた。
 風が冷たい。ところどころ体が痛んで、動けなくなりそうになる時もあるけど、そんな事を気にしてはいられない。だって、あたしはもう、ヒカリンの前にはいられないんだから。
 あたしがこの体を借りた『本物のあたし』を倒して、殺したせいで、あたしはヒカリンに嫌われちゃった。よくわからないけど、結局あたしは、ヒカリンの知っているあたしじゃなかった。せっかくこの前出会えたばかりでハイテンションだったっていうのに、こんな結果に終わっちゃうなんて、あたしは完全にローテンションになっていた。もう気に入っていたこの体も、使えなくなるかもしれない。
 気がつくと、泣いていた。

 ――さようなら、ヒカリン……

 そう思いながら、あたしは重い足を動かして、森の中を進んでいく。
 でもあたしの体は、悲鳴を上げ始めた。とうとうあたしは体を動かせなくなって、雪の中に倒れこんだ。雪の冷たさを、体中で感じる。
「メタモン!」
 すると、あたしを呼ぶ声が聞こえてきた。でもその声は、ヒカリンじゃなかった。
「大丈夫か! しっかりしろ!」
 あたしの体が、雪の中から起こされた。そして目の前に映った顔は、サトシだった。
「サトシ……」
「こんな時に外に出ようとしちゃダメだ! すぐにポケモンセンターに戻ろう!」
 サトシはあたしの肩を担ごうとする。でもあたしは、両手で押してそれを拒んだ。
「もう、いいよ……だってあたし、ヒカリンに……」
 あたしはもうヤケになっていたのかもしれない。あたしはそう言って、また歩こうとした。でもまた、サトシに止められる。
「ヒカリの事なら気にするなよ! 1つ聞きたい事があるんだ」
「聞きたい、事……?」
 その言葉を聞いて、あたしは足を止めた。
「タケシから聞いたんだ。本物のミホを殺したのは、メタモンじゃないんじゃないかって」
「え?」
「だから聞きたいんだ。本物のミホを倒した時、ミホの体を何かで刺したのかって」
 あたしがサトシの言いたい事が、一瞬わからなかった。でもとりあえず、質問に答える。
「……刺した? 刺してなんかないよ、だってあたし、あの時『すっぴん』だったんだもん、刺す事なんてできる訳ないでしょ。それがどうかしたの?」
「刺さなかった……本当なのか?」
「そうよ」
 念を押して聞いてきたサトシに、そう答えるあたし。するとサトシは、やっぱりそうだったのか、と一言つぶやいた。
「やっぱり本物のミホを殺したのは、メタモンじゃなかったんだ!」
「へ!?」
 そして続けたサトシのつぶやきに、あたしは驚いた。
「ど、どういう事なの?」
「前に電話で言われたんだ、ミホの遺体は『首を絞められた跡「と、刺し傷があった」状態で発見された』って。メタモンが刺していないのなら、真犯人が別にいて、メタモンはミホを殺していないって事になるんだよ!」
 その言葉を聞いて、あたしは驚いた。何だかよくわからないけど、あたしは無実になったって事?
「じゃ、じゃあ、あたしは……」
「メタモンは無実なんだ! だから戻ろうぜ! ヒカリにこの事を教えなきゃ!」
 サトシはあたしの肩に手を置いて、笑顔を見せてそう言った。そうか……あたしは『本物のあたし』を殺した事にはならないから、ヒカリンと仲直りできるって事よね! それがわかった途端、あたしはハイテンションになってきた。
「うん!」
 あたしははっきりとうなずいた。そしてあたしはサトシと一緒に、ポケモンセンターに戻ろうと体を向き直した。
 でも、その時だった。
 あたしの背中に何か感じたと思った途端、目の前が急に真っ暗になった。

 * * *

 それは、突然に起こった出来事だった。
 タケシと一緒に、あたしは抜け出したメタモンの後を追いかけていた。もうサトシが、メタモンを探しに行ったって聞いた。もし見つけたなら、何か知らせてくれるかもしれない。
 案の定、すぐにサトシのムクホークが、あたし達に知らせに来てくれた。その後を追いかけていくと、なるほどそこにはサトシと、メタモンの姿があった。サトシはあたし達に気付いて、手を振っていた。
 でもその時。メタモンの背中に、黄色い光線が当たった。その瞬間、メタモンの体はたちまち茶色く染まっていって、そのまま身動き1つしなくなっちゃった。それはもう、ミホの姿をした銅像にしか見えない。
 あんな事が起きたという事は……! と思った時、どこからともなく透明な入れ物が飛んできて、銅像のようになったメタモンを閉じ込めた! そのまま入れ物は、どこかへと飛んでいく。その先にいたのは、ボーマンダの背中に乗るポケモンハンター・Jだった!
「まんまと罠にかかってくれたな」
 Jの口元は笑っていた。その後ろには、Jが使う灰色の装甲車のような車があった。その中に、メタモンを閉じ込めた入れ物が入っていくのが見えた。
「ポケモンハンター・J!!」
「メタモンを返せ!!」
「メタモンは野生のポケモンだ。お前達のものじゃない」
 あたし達が言っても、Jはそう冷たく答えるだけ。そしてJは勝ち誇ったように、こんな事を言い出した。
「せっかくだから、タネを明かそう。さっき私はメタモンがミホとかいう少女を殺したと言ったが……あれはウソだ」
「ど、どういう事!?」
 Jが前に言った言葉を撤回? 一体何が言いたいの?
「少女を殺したのはな、メタモンじゃない。私だ」
「ええっ!?」
 Jは最後の言葉を強調して言った。当然、あたし達は驚いた。Jは続ける。
「私は別の獲物を追っている途中、偶然見た。色違いのメタモンが、少女の首を絞めて倒し、その少女に“へんしん”した所をな。私は少女になったメタモンが去った後、倒れていた少女に、ドラピオンのツメを叩き込んでやった。少女に“へんしん”したメタモンを、いずれ確実にいただくためにな!」
 Jの言葉は自信に満ちていた。
「そうか……だから首を絞めた跡だけじゃなくて、刺し傷もあったのか!!」
「お前が真犯人だったんだな、J!!」
 タケシやサトシの言う通り。ミホの遺体は首を絞められた跡と、刺し傷があった。メタモンは首を絞めたとは言っていたけど、刺したとは言っていなかった。タケシの予想は、見事的中した。それもそのはず、刺してミホにとどめを刺したのは、J……! Jはポケモンを奪うためなら手段は選ばない。メタモンを奪うために、ミホを殺したなんて……! あたしの両手に、自然と力が入った。
「奴らの足止めをしろ」
 Jが突然そう言うと、ちかくにいつの間にかいた、黒ずくめのJの手下達が、一斉に前に出てきた。その周りには、たくさんのこうもりポケモン・ゴルバットがいる。
「自ら私の口車に乗った事を、後悔するんだな」
 Jはそう言うと、ボーマンダが反転して飛んでいく。すると、灰色の車も動き出した。反転して、その場を去ろうとする。
「“ちょうおんぱ”!!」
 その瞬間、手下達が一斉に指示を出した。するとゴルバット達が、一斉に耳が裂けそうなほどの甲高い事を出し始めた! 思わず耳を塞ぐあたし達。うるさすぎて、耳を開けられない。開けたら耳が破れちゃいそう……

 でも、このままじゃ、逃げられちゃう……!
 Jが、メタモンを奪っていっちゃう……!

「メタモンは……いや、ミホは……絶対助ける!!」
 あたしはそう叫んだ時、“ちょうおんぱ”が治まった。その隙に、あたしはモンスターボールを取り出した。
「マンムーッ!!」
 あたしがモンスターボールを開けると、目の前にマンムーの姿が現れた。ここを早く抜け出さないと、Jに逃げられる。なら、強行突破するしかない! それができるのは、マンムーだけ! あたしはすぐにマンムーに背中に乗せてもらうように催促すると、マンムーはあたしを素早く背中に乗せてくれた。もちろん、ポッチャマも忘れずに。
「強行突破よ!! “とっしん”!!」
 あたしが指示すると、マンムーはあたしの気持ちを受け取ったように、強い声で吠えた。その声を聞いたJの手下達は、驚いて一瞬怯んだ。そして足を踏みしめて、マンムーは力強く走りだした。元々氷河期時代のポケモンだけに、雪の上を物ともせずに走っていく。
 向かってくるマンムーに驚いて、手下達は逃げ出すのもいた。でも、残った手下達のゴルバット達は、一斉に“ヘドロばくだん”を発射した! マンムーの体に何発も当たる“ヘドロばくだん”だけど、その程度じゃマンムーは止まらない。そのままマンムーは、手下達やゴルバット達を跳ね飛ばした! よけて追いかけようとしたゴルバットは、ポッチャマが対応する。“バブルこうせん”でゴルバット達を近づけさせない。
「あの車を追いかけて!!」
 目の前に見えるのは、ミホを連れ去った灰色の車が見える。マンムーはそれに向かって、真っ直ぐ全速力で走り出した。でも、車との距離は、ゆっくりと離れていく。引き離される前に、止めないと!
「タイヤを狙って“こおりのつぶて”!!」
 マンムーは車に狙いを定めて、“こおりのつぶて”を発射! タイヤに見事命中! タイヤが一撃で吹っ飛んだ。それでバランスを崩した車はたちまちスリップして半回転した。マンムーはそれにぶつからないようにうまく車をかわして、止まった。後ろを見ると、完全に止まった車の姿が見えた。
「くそっ、ボーマンダ!!」
 Jのボーマンダが反転する。ボーマンダはマンムーに狙いを定めている。そして、そのまま攻撃体勢になった。
「“こおりのつぶて”!!」
 あたしはすぐに指示を出した。マンムーはすぐに、“こおりのつぶて”を発射! Jが何かボーマンダに指示を出そうとしていたけど、その前に“こおりのつぶて”はボーマンダに命中! 効果は抜群! ボーマンダは体勢を崩して、雪の上に少し乱暴に着地した。Jはボーマンダの上に、かろうじて立っていた。ボーマンダはまだ戦闘不能にはなっていない。それでも、かなりダメージが溜まったのか、苦しそうな顔をしている。
「くっ、しつこい奴め!! ドラピオン!!」
 Jは状況を不利と見たのか、ドラピオンを繰り出して、ボーマンダに代わって前に出る。ドラピオンは真っ直ぐ、こっちに向かってきた! あたしもすぐにマンムーの背中から降りて、モンスターボールを取り出す。
「パチリス!!」
 あたしが出したのは、パチリス。パチリスはすばしっこいけどメインの戦闘要員じゃないし、パワーじゃドラピオンには到底及ばない。でもパチリスには、そんなドラピオンにも効果的なわざがある。
「“いかりのまえば”!!」
 あたしが指示すると、パチリスは真っ直ぐドラピオンに飛びかかっていった。ドラピオンのツメを自慢の素早さでかわしつつ、頭に思い切り噛み付いた! その痛さはさすがのドラピオンもたまげて、思わず引き下がる。
 ポケモンコンテスト・アケビ大会で覚えたわざ、“いかりのまえば”。相手の体力を必ず半分削る破壊力を持つわざ。これがあったから、あたしはこの場面でパチリスを出せた。
 でもその時、J様、という声が聞こえてきた。さっき止まった車にいたJの部下が、割って入ってきた。Jをかばうように、モンスターボールを投げて繰り出したポケモンは、キッサキ神殿に現れた時にも見た、てつツメポケモン・メタングだった。パチリスに猛スピードで近づいてくる。あたしは、それに気付くのが少し遅れちゃった! 慌てて指示をしようとしたけど、間に合わない!
「“しねんのずつき”!!」
 その瞬間、パチリスはメタングの頑丈なボディに弾き飛ばされていた。目の前で倒れていたパチリスは、もう戦闘不能になっていた。凄い威力。あたしはすぐにモンスターボールに戻した。あたしの手持ちではがねタイプに対抗できるのは、ポッチャマしかいない。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 ポッチャマはすぐに、“バブルこうせん”でメタングに応戦する。命中! メタングは怯んだ様子を見せたけど、すぐにまた向かってきた!
「“バレットパンチ”!!」
 メタングはポッチャマに向けて、パンチを繰り出した! そのスピードは速い。ポッチャマは慌ててよける。間一髪。でもメタングは、何度も“バレットパンチ”を繰り出しながら、ポッチャマを追いかけてくる。ポッチャマはもう、逃げ回るのがやっとだった。強い、あのメタング!
 そう思っていると、ふとあたしの目に、ミホが閉じ込められた入れ物を持ち出して、ボーマンダで飛び去ろうとするJの姿が映った。いけない、手下達に時間稼ぎをしてもらう間に逃げるつもりね! でもその時、横から何かが迫ってくる気配がした。見るとそこには、ポッチャマと戦っているものとは別のメタングの姿が!
「よそ見は厳禁だ!! メタング、“かみなりパンチ”!!」
 メタングの拳に、電流が走っている。それであたしを殴るつもり!? でもポッチャマはこっちには来れない。このまま、あたしは……!
 と思った瞬間、あたしの目の前を大きな影が覆った。マンムーだった。マンムーの大きな体が、メタングの体を受け止める。じめんタイプのマンムーは、“かみなりパンチ”を受けても平気な顔をしていた。マンムーがかばってくれたおかげで助かった……
 メタングがそれに怯んだ瞬間、今度は横から炎が飛んできて、メタングに容赦なく襲いかかった! 効果は抜群! メタングはたちまち地面に落ちる。
「ヒカリーッ!!」
 後ろからサトシの声がした。振り向くとそこには、ヒコザルと一緒にこっちに走ってくるサトシとタケシの姿があった。
「サトシ!! タケシ!!」
 心強い援軍。これほど嬉しい事はなかった。あたし達に追いついたサトシとタケシは、すぐに指示を出した。
「ヒコザル、“かえんほうしゃ”だ!!」
「グレッグル、“かわらわり”!!」
 サトシの指示で、ヒコザルはポッチャマが苦戦するメタングに向かって火を吹いた! 命中! 効果は抜群! そこに、タケシが繰り出したグレッグルが、メタングにチョップをお見舞いした! 突然の2段攻撃を受けたメタングは、たちまちノックアウト。
 それでも手下達は退こうとしない。また新しいポケモンを出してくる。まだやるつもりなの!? 見ると、ミホを閉じ込めた入れ物を持ったJを乗せたボーマンダは、もうその場から飛び去ろうとしている。早く追いかけないと!
「ヒカリ、Jを追いかけるんだ! ここは俺達に任せろ!」
 サトシがあたしにそう言った。迷ってる時間はなかった。あたしはすぐにうなずいて、ポッチャマを呼び戻すと、マンムーの背中に乗った。すると、サトシがまた声をかけた。
「ヒカリ、ブイゼルを連れてってくれ! 役に立つはずだ!」
 サトシがあたしに投げたのは、1個のモンスターボールだった。それは、前はあたしのポケモンだったブイゼルが入っているモンスターボールだった。味方としてブイゼルがいてくれると頼もしい。
「ありがと、サトシ!」
 あたしはそう言った後、マンムーにボーマンダの後を追わせた。
 あたしを乗せたマンムーは、ボーマンダを追いかけて、全速力で走っていった。

 * * *

 ボーマンダはダメージが溜まっているからなのか、追いかけてくるこっちを攻撃しようとはしてこない。それに、飛ぶスピードも若干遅くなっているような気がする。マンムーも、しっかりボーマンダについて行っている。
 そんなボーマンダを追いかけていると、森の中の開けた場所に出た。そこには、大きな鉄の塊があった。
 Jが移動に使う、銀色の飛行船。飛んでいる時は光学迷彩を使うから、その大きさとは裏腹に、見つける事はほぼ不可能。Jは真っ直ぐそこに向かっていた。
 飛行艇の後ろにあるハッチが開いている。ボーマンダはその中に飛び込んだ。その瞬間、ハッチがゆっくりと音を立てながら閉まり始めた。あのハッチが閉じちゃったら、ミホを助ける事ができなくなっちゃう!
「マンムー、急いで!!」
 あたしが言うと、マンムーはスピードを上げる。それでも、間に合うかどうかはわからない。目の前でどんどん閉じようとしているハッチ。お願い、間に合って、とあたしは祈り続けるしかなかった。
 でも、それも空しく、ハッチはとうとう、あたし達よりも高く上がっちゃった。これじゃ、いくらマンムーでもジャンプして飛び乗る事はできない。
 それでもあたしはあきらめなかった。ハッチはまだ閉まっていない。何とかして飛びこむ事ができれば……!
 一か八か。あたしは立ち上がると、サトシが貸してくれたモンスターボールを取り出して、スイッチを押した。中からブイゼルが現れる。
「ブイゼル、“アクアジェット”であたしをあそこまで運んで!!」
 あたしは閉まろうとするハッチの奥を指差して、そう言った。ブイゼルは少し驚いたけど、時間がない。あたしが早く、と言うと、ブイゼルはうなずいて、あたしの背中に張り付く。そしてあたしは忘れずに、ポッチャマをしっかりと抱き上げる。
 ブイゼルは尻尾をスクリューのように回して、パワーを蓄え始める。そしてその溜めた力を、ジェット噴射にして一気にあたしと一緒に飛び出した!
「いっけえええええええっ!!」
 あたしの体が一気に空へと舞い上がった。ロケットのように猛スピードで閉まろうとするハッチの奥へと向かっていく。まるで、ジェットコースターに乗った時のような感覚に一瞬なった。そして目の前の飛行船が、あっという間に目の前に迫る。
 一瞬の出来事だった。ハッチの奥に飛び込んだ瞬間、ジェット噴射が終わって、あたしの体は落ち始める。今まさに閉まろうとしていたハッチに尻もちをついた形になったあたしは、そのまま滑り台の要領でハッチを滑って行く。ハッチの角度はどんどん大きくなるから、必然的にスピードも速くなる。あたしは思わず、悲鳴を上げていた。そして、滑り台の終点。そこに着いた途端、あたしは滑った勢いで転んじゃった。そのまま何回かその場を転がって、あたしの体はやっと止まった。
「いたたたた……間に合ったの……?」
 あたしは痛む体を立たせながら、周りを見てみる。銀色の床と天井が広がる、大きな部屋だった。飛行船の中に間違いない。何とか間に合った。ポケモン達を確かめる。抱いていたポッチャマも無事。横にはブイゼルもいる。確かめが終わった瞬間、ハッチが大きな音を立てて閉まった。
「よりによってここまで追いかけてくるとは……!」
 その時、Jの声が耳に入った。正面を見るとそこには、Jを中心に、たくさんのJの手下達がこっちをにらんでいる。
「やれ」
 Jが一言指示すると、手下達は一斉にポケモンを繰り出す。ゴルバットやメタング、さらにはよろいどりポケモン・エアームドまでいる。
 あたしは改めて、Jの『本拠地』に乗り込んだって実感が湧いた。失敗したら、あたしは袋だたきにあって、捕まっちゃう。しかも、マンムーはさっき置いてきちゃったし、戦力にできるのは、今いるポッチャマとブイゼル、そしてモンスターボールの中のミミロルの3匹だけ。戦力的にも不利。でも、ここを何とかしないとミホを助ける事はできない。あたしは逃げるつもりはなかった。
 あたしはすぐに立って、モンスターボールに入っていたミミロルを出す。そしてポッチャマ、ブイゼルと合わせた3匹は、手下のポケモン達を強くにらんだ。
「みんな、行くわよ……!!」


NEXT:FINAL SECTION

[830] FINAL SECTION ミホ、“へんしん”!
フリッカー - 2009年06月12日 (金) 17時51分

 手下達が繰り出したポケモン達が、一斉にあたし目掛けて襲い掛かってきた! 目の前にいるあたしの3匹――ポッチャマ、ミミロル、ブイゼルは、サッと身構えた。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!! ミミロル、“れいとうビーム”!! ブイゼル、“ソニックブーム”!!」
 あたしの指示で、3匹は一斉に攻撃開始! ポッチャマの“バブルこうせん”がポケモン達を押し出して、ミミロルの“れいとうビーム”がポケモン達を凍らせて、ブイゼルの“ソニックブーム”がポケモン達を切り裂いていく。あたしの体が一瞬、浮かび上がったような感じを受けたけど、そんな事はどうでもいい。悪いけど、あんた達に構ってる暇はないの。あたしは、ミホを助けなきゃならないんだから! Jはもう、その場を離れようとしている。早くここを強行突破して、Jの所に……!
「ポッチャマ、“うずしお”で正面を開けて!!」
 ポッチャマが“うずしお”を思い切り正面に投げつけた。“うずしお”は正面にいたポケモン達を押し流しただけじゃなくて、その奥にいる手下達もまとめて押し流した!
 これで、目の前に道が開いた。
「今よ!!」
 あたしは3匹に呼びかけて、走り出した。その先には、廊下に繋がる自動ドアが見える。Jはそこに行ったのを、あたしは確かめている。
 でもその時、あたしの体が急に締め付けられたような感触に襲われて、動けなくなった。どんなに力を入れても、体は固まったように動かない。それどころか、あたしの体は宙に浮き始めた! これってもしかして、メタングの“ねんりき”……!?
「ブイーッ!!」
 すると、ブイゼルの鳴き声が響いた。そしてガツンと音がした瞬間、あたしの体は床に落ちた。急だったからそのまま転んじゃった。起き上がって後ろを見てみると、そこには“アクアジェット”で飛び回りながらポケモン達を蹴散らすブイゼルの姿があった、蹴散らされたポケモンの中には、メタングもいた。やっぱりブイゼルのとっさの判断力は、こういう時に頼りになってくれる。
 するとブイゼルはそのまま反転して、なぜかポッチャマに真っ直ぐ向かっていった。ポッチャマは驚いてあたふたした様子を見せるけど、それでもブイゼルはスピードを緩めない。そのままポッチャマの横を通り過ぎた瞬間、ポッチャマの姿はなくなっていた。見ると、ポッチャマはブイゼルの背中の上にいた。バランスを整えたポッチャマは、そのままブイゼルと一緒に連携攻撃を開始! ブイゼルが“アクアジェット”で複雑に飛び回りながら、ポッチャマは“バブルこうせん”でポケモン達を蹴散らしていく!


FINAL SECTION ミホ、“へんしん”!


「ミミロル、ブイゼルに“れいとうビーム”よ!!」
 よし、それなら、とあたしはミミロルに指示を出した。ミミロルは指示通り、“れいとうビーム”を発射! それは、真っ直ぐブイゼルに向かっていった。それに気付いたポッチャマがジャンプした途端、ブイゼルの体は凍りついた。ポッチャマは、氷の槍になったブイゼルにまた乗って、一緒に飛び回ってポケモン達を次々と蹴散らしていった! 決まった、『氷の“アクアジェット”』! “アクアジェット”を凍らせて、威力を高める、あたしが考えて、サトシがものにした戦法。
 ブイゼルとポッチャマがあたしの目の前に戻ってきた時には、ポケモン達はあらかた片付いていた。
「もうダイジョウブそうね。行くわよみんな!!」
 あたしはそう言って、廊下に向かって行った。3匹も、後に続いていった。

 * * *

 自動ドアは結構あちこちにあるけど、ロックがかかっている事はなかった。結構スムーズに中へと進んでいく。
 どこ、どこにいるのJは? あたしは走りながら廊下の前や曲がり角を確かめていた。ちょうどその時、目の前に自動ドアを開けようとしていたJの後ろ姿が見えた! 追いついた!
「J!!」
 あたしがそう叫んで、すぐにブイゼルに指示を出した。
「ブイゼル、“アクアジェット”!!」
 ブイゼルは真っ直ぐ、Jに向かって一直線に突撃!
「ぐわっ!!」
 Jの体に、ブイゼルの“アクアジェット”は直撃! Jは弾き飛ばされる。その反動で、ミホを閉じ込めた入れ物が倒れて、こっちに転がってきた。あたしはすかさず、それを受け止めて起こすと、レバーを倒す。すると、入れ物の透明な部分が消えて、ミホの体も元通りになった。あたしはふらりと倒れたミホの体を、しっかりと受け止めた。
「ミホ!! しっかりして!! ミホ!!」
 あたしが呼びかけると、ミホはゆっくりと目を開けた。
「ヒ、ヒカリン……?」
「よかった……!」
 あたしは思わず、ミホを強く抱きしめた。それにミホは驚いた様子だった。あたしは嬉しくて、少しだけ泣いていた。
「ヒカリン……?」
「ごめん、あなたが『本物のミホ』を殺したなんて言っちゃって。ホントはそうじゃなかったのに……」
「え?」
 その時、あたしの後ろで急に、何かが閉まる音がした。振り向くと、そこには今までなかったはずの壁が立ちはだかっていた。こんな所に自動ドアもなかったはずなのに!?
「な、何!?」
「感動の再会もそこまでだ!!」
 ミホが言った後すぐにJがそう叫んで、モンスターボールをこっちに投げてきた。その中から、ドラピオンが飛び出した! ドラピオンはツメを振りかざして、いきなりこっちに向かってきた!
 すぐに飛び出したのはブイゼルだった。“アクアジェット”でドラピオンの懐に飛び込む! でもドラピオンは、そんなブイゼルをがっちりとツメで受け止めてみせた。ブイゼルは何とかツメから抜け出そうと体をじたばたさせるけど、ドラピオンの力が強いのか、抜け出す事ができない。
「余程痛い目に遭わなければ懲りないようだな。ならばここで、ここまで追いかけてきた事を後悔させてやるまでだ」
「そんな事!! あたしは負けない!! ミホは絶対、ここから助け出してみせるんだから!!」
 余裕そうに言うJに対して、あたしは強く言い返してやった。後ろは壁になっていて、逃げる事はできない。でもあたしは負けない! ミホを助けるためにも! そして、絶対にここから脱出するんだから!
「なぜそいつを助ける? 言っておくが、そいつはお前の知り合いではない。お前の知り合いの姿を借りたメタモンだ。本物のお前の知り合いとは、違う存在だ」
 Jがそう言うと、ミホの顔が曇った。でもあたしは、こう言ってやった。
「人でも、メタモンでも関係ないわ。ミホはミホだもの! 今でもメタモンの心の中で、ミホは生きてる。だから素顔がメタモンになっても、ミホはあたしの友達よ!」
 それを聞いたミホは、目に涙を溜めた様子で「ヒカリン……!」とつぶやいた。
「口だけは達者だな。だが! ドラピオン、“かみなりのキバ”!!」
 でもその指示を聞いて、あたしは驚いた。“かみなりのキバ”はでんきタイプのわざ。ブイゼルには効果は抜群、しかもブイゼルは今、身動きが取れない! ドラピオンのキバから、火花が出始めたのが見えた。
「ブイゼル、逃げて!!」
 あたしは慌ててそう叫んだけど、遅かった。ブイゼルは抵抗できないまま、火花が出るキバに噛み付かれた! ブイゼルの体に電気が走る。ブイゼルは悲鳴を上げる事しかできない。効果は抜群!
「ブイゼル!!」
 あたしが呼んだ時、ドラピオンはブイゼルを離した。目の前に崩れ落ちるブイゼルは、もう戦闘不能になっていた。そんな、あのブイゼルが、あっという間に戦闘不能!?
「どうした? 友を助けるという覚悟は、そんなものなのか?」
 挑発するように、Jが言う。あたしはブイゼルをモンスターボールに戻して、気持ちを落ち着かせる。Jは強敵、慌てちゃったら、こっちが負ける……!
「ヒカリン……」
「ダイジョウブ、あたしを信じて! ミミロル!!」
 あたしは不安そうなミホにそう言った後、ミミロルに呼びかけた。ミミロルが前に出る。ミミロルも気合充分。
「“ピヨピヨパンチ”!!」
 ミミロルは耳の拳を使って、ドラピオンに殴りかかる! でもドラピオンは、腕でガード。ミミロルの拳がそこに当たるけど、全然手応えがない。
「“どくばり”!!」
 ドラピオンは隙を突いて腕のガードを解くと、口から“どくばり”を発射!
「ミミロル、“とびはねる”!!」
 ミミロルはすぐに、ジャンプして“どくばり”を間一髪かわした。そしてそのまま、ドラピオンの後ろに回り込んだ! これなら、攻撃のチャンス!
「ミミロル、“れいとう”……」
「“どくばり”!!」
 でもその時、ドラピオンの顔が180度ぐるりと回ってミミロルを捉えた! そのまま“どくばり”を発射! 不意を突かれたミミロルは、よける事なんてできなかった。そのまま床に落ちたミミロルに、今度はドラピオンの尻尾が迫る!
「“アイアンテール”!!」
 立ち上がろうとしたミミロルを、“アイアンテール”で殴りつけた! あたしの目の前に飛ばされて戻ってきたミミロルは、もうかなりダメージがたまっていた。
「フフ、ドラピオンの頭は180度回転できる。だから背後から不意打ちをかけようとしてもそうはいかん」
「く……!」
 後ろにも死角なしなのね、ドラピオンは……だったら、どうしたら……?
「ドラピオン、“クロスポイズン”!!」
 あたしが考えてる間に、ドラピオンが仕掛けてきた! ドラピオンのツメが、容赦なくミミロルを十字に切り裂いた! そのままミミロルは、ノックアウトされた。戦闘不能。
「ミミロル!!」
 あたしはすぐに、モンスターボールにミミロルを戻す。これでもう、残ったのはポッチャマだけ。ポッチャマに目を向けると、ポッチャマは強気な表情を見せて、うなずいた。そして自分から、ドラピオンの前に出た。
 これでポッチャマがやられちゃったら、あたしの負けになっちゃう。何としても、ここで勝たないと……!
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
 あたしはポッチャマに指示を出した。ポッチャマはあたしの気持ちを受け取ったように、大きな水の渦を作っていく。
「……いいのか?」
 するとJが、なぜか口元に笑みを浮かべてそう言った。
「え?」
「ここは密閉された空間だ。そんな所で“うずしお”を使えば、お前だって巻き添えになるぞ?」
 その言葉を聞いて、あたしははっとした。こんな密閉された場所で“うずしお”を使ったら、水がここに溜まって、あたしも無事じゃ済まなくなる。そうなったら、バトル所じゃない!
「ポッチャマ、やめて!!」
 あたしがとっさにそう言うと、ポッチャマはすぐに水の渦を小さくした。
「そこだ!! ドラピオン、“クロスポイズン”!!」
 でもそこに、ドラピオンが“クロスポイズン”で攻撃してきた! 突然の攻撃に、ポッチャマはどうする事もできない。直撃! そのまま弾き飛ばされるポッチャマ。
「“かみなりのキバ”!!」
 今度はブイゼルを一撃で倒した“かみなりのキバ”が来る! あんなわざくらったら、ポッチャマだって一発で……! ドラピオンは真っ直ぐ、倒れたポッチャマに近づいていく!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 とっさに応戦する。ポッチャマが放った“バブルこうせん”は、ドラピオンの顔に命中! ドラピオンは驚いて後ずさりする。でも、近づくのを防げた訳じゃなかった。ドラピオンはすぐに体勢を立て直して、ポッチャマに腕を伸ばした! ポッチャマの体が、簡単に鷲掴みにされちゃった!
「ポッチャマ!!」
「やれ!!」
 あたしが叫ぶのをよそに、ドラピオンが火花を出すキバで、ポッチャマに噛み付いた! 効果は抜群!
 ポッチャマの悲鳴が響く。ポッチャマはもう、倒されるのを待つだけだった。
「ポッチャマァ!!」
 あたしが叫ぶのも空しく、ポッチャマはドラピオンの前で崩れ落ちた。ポッチャマはもう動かない。戦闘不能……あたしの負けが決まった瞬間だった。
「残念だが、お前の負けだ」
 Jが笑みを浮かべて言うと、ドラピオンはあたしに向かって腕を伸ばしてきた! とっさの事だったから、あたしはよける事なんてできなかった。
「きゃあっ!!」
 あたしの喉を、強引に掴まれた。息が苦しい……! そのままゆっくりと持ち上げられる。思わず足をじたばたさせるけど、悪あがきにしかならない。そのまま壁に押し付けられる。ドラピオンのツメは、ダンプカーも引き裂けるって話。だからドラピオンはその気になれば、あたしを簡単に殺せる……
「ここまで来た事を、地獄で後悔するがいい……」
 ああ、このままあたしは、ここで殺されるの……? ミホを、助ける事もできないで……? ごめん、ミホ……あたしは……

「たあああああっ!!」
 その時、そんな声が聞こえたと思うと、誰かがドラピオンの顔を思い切り殴った。それに驚いたドラピオンは、あたしの首から手を離した。床に崩れ落ちるあたしの体。思わずゲホゲホと咳が出た。
 あたしの前を覆った影。そこには、ミホが立っていた。
「あんた……今ヒカリンを負かしたね……!!」
 両手は強く握られていて、その目は鋭くなっていた。明らかに怒っている。普段の底抜けな陽気さからは、想像できない顔。そういえばミホは、あたしを『ピカリ』と呼んだ奴に対して、いつもあんな顔を見せていたっけ……
「貴様……!」
「だからあたし、今キレるくらいハイテンションなのよね……!!」
 するとミホはおもむろに、1つの箱を取り出した。蓋にモンスターボールが描いてある、四角い小さな箱。それを開けて、中から1枚のコインを取り出した。そこには、1ぽんヅノポケモン・ヘラクロスの絵が描いてある。でも、そのコインを使って、何をするつもりなの? と思っていたら、ミホはそのヘラクロスの絵を少し見つめた後、コインを握りしめて、胸の前で両腕をクロスさせた。
「“へんしん”!!」
 そう一言叫んで、サッと両腕を横に下ろすミホ。するとその瞬間、ミホの体が青くなり始めたと思うと、あの時と同じように、体が溶け始めた。たちまちミホの体は、メタモンへと戻った。でもそれも一瞬だけだった。素早く粘土で形を作るように、人の姿からシルエットが変わっていく。長いツノが伸びて、丸い体と細い手足が伸びる。そして体から青が消え始めて、変わった姿はさっきとは全然違う姿だった。
 それは、さっきコインにも絵が描いてあった、ヘラクロスそのものだった。ツノの形から、オスだとわかる。だけど、色が違う。普通のヘラクロスの色は青。コインにも当然、その色で描いてあった。でもその体は、明るい赤紫色になっていた。その体が、一瞬光ったように見えた。色違いのヘラクロス!?
 ミホが、色違いのヘラクロスに“へんしん”した!? じゃあ、あの時雪崩からあたしを助けてくれたエルレイドって、もしかしてミホ……?

 * * *

 あたしはもうキレた。
 ヒカリンを負かして、それでも懲りずにいじめようとするから、あたしは完全にキレた。そしてあたしは、ヒカリンの目の前で、ポケモンに“へんしん”した。ヒカリンを守るために。ヘラクロスを選んだのは、ほとんど直感。
 ポケモンに“へんしん”したら、ヒカリンと直接話す事はできなくなる。だって、ポケモンと人の言葉は違うんだもん。だからあたしは、目の前のドラピオンを倒す事に集中する。
〈な、何なんだ、あいつは……?〉
 ドラピオンは動揺していた。そんなドラピオンの前で、あたしは両腕を回して軽く準備運動。それが終わるとあたしは、ドラピオンを指差して、こう言ってやる。当然、トレーナーのJとかいう奴や、ヒカリンには聞き取れないけど。
〈さあ、今のあたしはハイテンション!! ボコボコにしてやるから、覚悟しなさい!!〉
 それを聞いたドラピオンは、すぐに身構える。
「ドラピオン、“クロスポイズン”!!」
 Jは、ドラピオンにわざの指示を出した。ドラピオンは真っ直ぐ、こっちに向かってくる。腕を振り上げて、そのままあたしに切り裂く……つもりみたいだけど。
 あたしはその両手を、こっちも両手で受け止めてやる。軽く止まった。それに驚くドラピオン。そのままあたしクロスさせたドラピオンの両手を引きはがして、ゆっくり外にひねってやる。当然、痛さでドラピオンの顔が歪む。
〈なあんだ、こんなものだったの?〉
 そう言って、あたしはがら空きになった正面に、ツノの一撃をお見舞いしてやった。クリーンヒット! ドラピオンはたちまち跳ね飛ばされたけど、何とか踏み止まった。
〈その程度ぉ? そんなんじゃあたし、ローテンションになっちゃうなあ〜。もっと本気出さなきゃ、あたしに勝てないよ〜?〉
 あたしはわざとキレさせるように、そう言ってやった。
〈貴様……ふざけるなーっ!!〉
 するとドラピオンは当然キレて、こっちに向かってくる。でも急に、ドラピオンは壁に向かって方向転換。ふざけるなーっ、って言いながら、壁に向かって頭突きばかり。そんな光景を見ていると笑っちゃう。
「今のは……“いばる”!?」
 ヒカリンがつぶやいた。そう、これはヒカリンの言う通り、“いばる”ってわざ。わざとキレさせるような事を言って、相手を『こんらん』させるの。
「何をしてるんだ、ドラピオン!!」
〈さあ、やっちゃうよーっ!!〉
 お待ちかね、今度はあたしの番! あたしは『こんらん』しているドラピオンに間合いを詰める。ヒカリンをいじめようとした罰よ!
〈それっ!! せいっ!! やーっ!!〉
 ツノを使って“インファイト”! これでもかとツノでドラピオンを突きまくり! ドラピオンは何もできない。さらにもひとつ! 今度は腕で受け止められた。でもね!
〈ええーいっ!!〉
 そんな時は、思い切り投げ飛ばしてやる。こんな奴を投げ飛ばすのは、お茶の子さいさい。ひょいと投げてやると、ドラピオンは簡単にJの目の前に飛ばされた。技あり!
「しっかりしろ、ドラピオン!! “ほのおのキバ”!!」
 すると、その一撃で正気に戻ったのか、ドラピオンは立ち上がると、真っ直ぐこっちに向かってきた! まず……! と思った瞬間、ドラピオンはあたしの右腕に噛み付いた! 途端に、物凄く熱いものを感じる。物凄い痛みが、あたしの体を走った。いつまでもこんな事される訳にはいかない。あたしはそんなドラピオンを、何とか押しのけた。でも、『やけど』の痛みがピリピリする。
「ああっ、『やけど』してる……!」
 ヒカリンが声を上げた。
〈やってくれたじゃないの……!! でもあたし、何だかハイテンションになってきたよーっ!!〉
 いつもなら、ここで力がなくなっちゃう。でもあたしは、逆に力がみなぎってきた。それも、この体になったお陰みたい。体中にみなぎる力を、あたしは思わず声に出して、叫んだ。
〈うおおおおおおおっ!!〉
「まさか、あいつのとくせいは『こんじょう』なのか!?」
 Jがそうつぶやいた時、あたしはドラピオンにツノを向けて向かって行った。さっきの仕返しに、“リベンジ”よ!
〈うおりゃああああああっ!!〉
 さっきよりも力が入ったツノの一撃で、ドラピオンはまたJの前に簡単に弾き飛ばされた。技あり! ドラピオンはそのまま、なかなか立ち上がる事ができないでいる。さて、そろそろ決めちゃおうかな!
〈楽にさせてあげる!!〉
 そう言って、あたしはツノに全ての力を込める。ヘラクロスが最大奥義、“メガホーン”を使うの!
〈はあああああああっ!!〉
 背中の羽を広げて、あたしは一気にドラピオンに加速をつけて向かって行った! 弱ったドラピオンは、その場から動く事ができない。これならいける!
 直撃! ドラピオンは一撃で跳ね飛ばされて、真後ろにあるドアに叩きつけられた。そのままドラピオンは、のびて動かなくなった。戦闘不能。
「凄い……サトシもかなわないドラピオンに、勝った……!!」
 ヒカリンは、後ろで喜びと驚きが混じった声を上げた。
〈やったあ〜!! 勝ったあ〜っ!!〉
 あたしも思わず、飛び跳ねて喜ぶ。でもその時、殺気を感じた。見るとJが、左腕の銃をこっちに向けている。それが光って、こっちに光線が飛んできた! またあたしを捕まえるつもり? でもそうはいかないわ!
〈おっと!!〉
 あたしはすぐに体を傾けてかわす。それでもまた光線を撃ってくるけど、かわすのは簡単。軽く体を動かすだけで、簡単にかわせる。
〈そんなしつこい奴は、こうよ!!〉
 あたしは隙を突いて、Jに一気に近づく。そして、手のツメを使った“つじぎり”で、銃を切り裂いてやった。銃はたちまちボンと小さく爆発して壊れて、使い物にならなくなった。
「おのれ!!」
 Jが唇を噛んだ。さて、この隙にここから逃げるとしますか! あたしはヒカリンに、〈逃げるよ、ヒカリン!〉って声をかけた。当然、ヒカリンには直接伝わらないから、ヒカリンは首を傾げていた。
〈じゃあね!!〉
 あたしはJに手を振ってから、一度飛び上がってから、床に向かって“あなをほる”で穴を開けた。すると、なぜか高い空の上に出ちゃった。下には白い森が見える。え!? ここ空の上だったの!? あたしは飛べるからいいけど、これじゃヒカリンが……!
「きゃあああああああっ!!」
 当然、ヒカリンがポッチャマと一緒に穴から真っ逆さまに落ちた。まずっ!
〈ヒカリン!!〉
 あたしはすぐに、ヒカリンの側に飛んで行った。そして、ヒカリンとポッチャマをしっかりと抱いて飛ぶ。
「ミホ……!」
 ヒカリンが、嬉しそうな顔を見せた。あたしも、笑顔を返す。そしてあたしはスピードを緩めながら、降りられそうな開けた場所へと向かって行った。木ぐらいの高さまで来た所で、スピードを緩め始める。そうすると、ふわりと地面に降りる事ができた。
「ありがとう、ミホ」
 ヒカリンが、あたしにお礼を言った。そんなヒカリンに、あたしも笑顔で答えた。
「ヒカリーッ!!」
 すると、遠くからサトシの声が聞こえてきた。見ると、ヒカリンのマンムーと一緒に、サトシとタケシがこっちに向かってきている。
「サトシ! タケシ!」
 ヒカリンが声を上げた。そして、サトシとタケシ、マンムーがヒカリンの目の前に来た。
「よかった、無事だったんだな!」
「ええ、何とかね……」
「それにしても、メタモンはどうした? それに、そのヘラクロスは?」
 タケシの一言で、サトシの視線があたしに向いた。
「ここにいるわよ」
「え?」
 ヒカリンが答えたけど、サトシの頭には「?」が浮かんでいた。じゃ、見せた方がよさそうね。あたしはヘラクロスの体から、『すっぴん』を介して元の『ミホ』としての姿に戻ってみせた。
「ジャーン!」
 あたしはポーズを決めて、笑顔を見せる。
「なあんだ、メタモンが“へんしん”していたのか……」
「メタモンじゃないわ」
 そんなサトシの言葉に、ヒカリンが突っ込んだ。そしてヒカリンは、あたしに顔を向ける。
「ミホだもん。ね?」
 そう言われた途端、あたしは嬉しくなった。あたしの事を、ミホと呼んでくれた。それだけでも、とても嬉しかった。
「ヒカリイイイイイイインッ!!」
 あたしは思わず、泣きながらヒカリンに抱き付いた。ヒカリンは最初少し驚いてたけど、すぐにあたしを優しく受け止めていた。
 あたしはそんなヒカリンを抱きしめながら、思い切り泣いていた。

 * * *

 ポケモンセンターでミホは、ちゃんとした治療を受けてもらった。やっぱりミホには、ちゃんと体を治してもらいたかったからね。
 そして元気になったミホは、エイチ湖畔行きの列車が出る駅まで、一緒に行った。あたしはいっぱいミホと、今までの旅の話をした。ゲットしたポケモン達の事や、コンテストの成績の事とか。話してるだけで、とても楽しかった。
 そんな事をしている中で、あたし達は駅に無事たどり着いた。列車が着くまで、あと少し。あたしはミホと、最後の話をしていた。
「ヒカリン、次の列車に乗ってどこ行くの?」
「エイチ湖よ」
「俺、そこでバトルの約束をしてるんだ」
「そうなんだ。で、ヒカリンはどうするの?」
「クレナイシティで、ポケモンコンテスト・エキシビションが開かれるの。あたし、それに招待されたから、あたしも練習をバッチリするつもりよ!」
「へえ、あのエキシビションに出られるんだ! 凄いじゃない、ヒカリン! あたし、応援するからね!」
「ありがとう」
 そんなやり取りをしていた時、列車が到着するってアナウンスが響いた。もう列車がくるみたい。

 列車に乗ったあたし達は、開けた窓越しに、見送るミホに挨拶をした。
「じゃ、ヒカリン。元気でね!」
「ミホも元気にしててね!」
 そう言った時、汽笛が鳴って、列車が動き始めた。ミホの姿が、横に流れていく。あたしは窓から体を少し出して、ミホの姿を追いかける。するとミホが、大きく手を振っているのが見えた。あたしもそれに負けないように、大きく手を振った。それは、列車がホームを離れて、ミホの姿が小さくなるまで続けた。

 * * *

 ミホの素顔が人でも、メタモンでも関係ない。ミホは、大切な友達に変わりはない。本物のミホはもういないけど、その心は、今でも生きているんだから。
 ホント、世の中には不思議なポケモンがいっぱいいるのね。
 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……



STORY31:THE END

[831] 次回予告
フリッカー - 2009年06月12日 (金) 17時52分

 あれほど強いルビーさんだけど、そんなルビーさんも不安だった。

「私の実力が若い子達に、どこまで通用するか、って思って……」
「焦る必要はないさ、ルビー。ルビーはまだ強いんだ、考える時間はまだいっぱいあるさ」
「レイ……」

「でも、もし私がヒカリちゃんに負けたなら……」

 そしてクレイナイシティで開かれる、ポケモンコンテスト・エキシビションが開幕!

「待っていたわ、ヒカリちゃん」
「ルビーさん! ルビーさんもこのエキシビションに出るんでしたよね?」
「ええ。あなたと同じ舞台に立てるなんて、これほど楽しみな事はないわ」

 そして、模擬戦形式で行われるコンテストバトルの相手は……

「さあ、次の対戦は、まさに夢の対決です! かなたは、期待の新人コーディネーター・ヒカリさん! こなたは、歴戦のベテラン・ルビーさん!」
「さあヒカリちゃん、あなたのコーディネーターとしての全てを、私にぶつけなさい!」

 NEXT STORY:エキシビションの舞台

「ポッチャマ、チャームアーップ!!」
「カメックス、ショウタイム!!」

 COMING SOON……



Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板