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[822] ヒカリストーリーEvolution STORY30 旅人の思い
フリッカー - 2009年05月29日 (金) 17時58分

 今回から気持ちを新たに書いていくヒカスト!
 今回は否定的な意見が多いエテボース離脱を主軸に書きます。
 新たな準レギュラーキャラも登場!

・ゲストキャラクター
ミライ イメージCV:かかずゆみ
 こおりポケモンの使い手であるポケモントレーナーの少女で、自称『氷の魔女』。旅の目標はなく、純粋に旅を楽しむために、各地方を自由気ままに旅している。
 サトシのいとこであり、タケシと同世代でありながら、家族が少なかったサトシからは「ミライ」と呼ばれ、実の姉のように慕われている。彼女自身にとってもサトシは実の弟のような存在であり、幼い頃からサトシの事をよく知っている。
 いつも明るさとユーモアを忘れず、才色兼備で思いやりのある誰にでも好かれるタイプの美少女だが、意外にも猫舌。カンが鋭い。ポケモンバトルの実力はいとこ譲りのもので、キッサキジムのジムリーダー候補に選抜された事もある。その繋がりで、現キッサキジムリーダー・スズナとは深い友情で結ばれている。口癖は「〜、なんてね」。
 この回からは服装がFR/LG女主人公の服装になる。

ミホ(第5の準レギュラー) イメージCV:こやまきみこ
 ヒカリのトレーナーズスクール時代の友人であり、旅に出たまま行方不明になっていたと思われていた少女。
 底抜けに陽気で、いつも元気いっぱいな子供っぽい性格で、誰とでもすぐに親しくなれる。しかし友達思いであり、ヒカリの事を『ヒカリン』と呼び、ヒカリを『ピカリ』と呼んだ者に怒るなど、その仲の良さは近所でも評判だった。
「ハイテンション」という言葉をよく使い、現れる時は「今日もあたしはハイテンショーン!!」が口癖になっている。気に入ったポケモンに「惚れちゃう」と言うほど結構なポケモン好きだが、手持ちポケモンは持っておらず、故にポケモントレーナーではない。主な特技はポフィン作りだが、他にもいろいろな事を起用にこなせ、本人曰く「苦手な事はない」らしい。
 その底抜けな明るさとは裏腹に、旅の目的が曖昧、人の口には合わないはずのポケモンフーズやポフィンを普通に食べておいしいと言う、ポケモンと会話できる能力を持つなど、多くの謎を持つ。
 モデルはバトリオ女主人公。

・スズナ(アニメ登場キャラ)
 現キッサキジムジムリーダー。こおりタイプのエキスパート。
 ジムリーダー業が暇なため、トレーナーズスクールの先生も兼任している。出身地が同じノゾミは、彼女の後輩にあたる。
 何かと「気合」という言葉をよく使い、強気で勝負事には比較的厳しいが、ファッション好きで女の子らしい一面もある。

[823] SECTION01 エテボースのモンスターボール!
フリッカー - 2009年05月29日 (金) 17時59分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 エテボースのモンスターボール!


「ほらほら、こっちこっち!」
 あたしは目の前にいる黒髪の女の子――スズナに案内されて、雪が積もる森の中を歩いていた。パートナーのイーブイちゃんも、雪に足を取られそうになりながらも、しっかりと後をついて来ているのを確かめる。
 スズナの話じゃ、ここにあたしにピッタリな場所があるって聞いたんだけど、こんな森の奥に一体何があるのか、あたしは想像できなかった。お宝でもあるのー? なんてね! って冗談まじりで聞くと、スズナはある意味そうかもね、と答えるだけだった。
 どれくらい森の中を歩いたかと思ったその時、目の前が急に眩しく光った。あたしは思わず、顔を手で覆った。
「着いたよ」
 スズナが言った。
 改めて見てみると、それは家の部屋の天井くらいの高さがある、大きな氷だった。しかも、ただの氷じゃない。その氷はキラキラとまるで宝石のように輝いていて、見る人が見たら、これを氷とは思わないかもしれないほどのきれいな氷だった。
「凄いでしょ」
「凄い……こんな所にこんな氷があったなんて……知らなかったあ……」
 あたしはもう、そんな言葉しか出なかった。こんなものがどうしてキッサキの観光名物にならないのか、不思議でならなかった。
「さて、本題。ミライ、イーブイをその岩に触らせてみて」
 スズナはいきなり、意味のわからない事を言い出した。
「え?」
「いいから」
 スズナに言われるままに、あたしはイーブイちゃんを抱き上げて、そっと氷に近づけていく。これで何か起こるとしたら……
「まさか、イーブイちゃんが進化するとか、ないよね……?」
 あたしが冗談交じりにそう言った時、イーブイちゃんが氷に触れた。するとイーブイちゃんの体が、眩しく光り始めた。体がどんどん大きくなっていく。まさか、あたしが言った事が、本当に……!?
 そしてイーブイちゃんが変わった姿は、水色の体に、首を覆う毛がなくなって、スラリとした体を持つ、見た事のないイーブイの進化系だった。進化形が多いイーブイだけど、こんな姿があったなんて聞いた事がない。あたしは驚くしかない。当の本人も、自分が変わった姿に驚いていた。
「これって……!?」
「しんせつポケモン・グレイシア。こおりタイプのポケモンよ」
 スズナが説明した。
「グレイシア……ちゃん……」
 あたしは初めて、スズナがここに連れて来たかった理由がわかった。スズナは、イーブイちゃんを進化させるために、ここへ……
 その瞬間、あたしはこのしんせつポケモン・グレイシアちゃんの事が好きになっていた。そしてこれが、あたしがこおりポケモンを集めるきっかけになった。

 * * *

 そんな何年か前の事を、この景色を見ていると思い出す。
 外は一面、雪景色。周りの景色が、雪で覆われて真っ白になっている。雪はしんしんと降っていて、弱くだけど冷たい風が吹いている。
 コートを着ないととても外には出られない寒さだけど、こういう景色は、あたし好き。こういう景色を見た事が、あたしが『氷の魔女』になる全てのきっかけだったなあ。場所も場所だし、まさに何もかもが懐かしい場所。
「サトシ達もそろそろ、ここに来ている頃かもしれないわね。じゃ、行こっか。グレイシアちゃん!」
 最近手に入れたばかりの白い帽子を整えて、あたしは足元にいるグレイシアちゃんに声をかけた。そしてグレイシアちゃんの返事を確かめて、あたしは雪道の中へ、足を踏み出していった。

 * * *

 グランドフェスティバル出場が決まる5つ目のリボンをかけて挑んだ、ポケモンコンテスト・タツナミ大会。
 サトシと「グランドフェスティバルへ連れて行ってくれ」って約束したエテボースで挑んだあたしは、無事にファイナルにまで進んだ。そしてファイナルでぶつかった相手はケンゴ。ケンゴはしばらく見ない内に結構腕を上げていて、あたしは初めてのバトルオフ負けになっちゃった。ちょっと5つ目のリボンを意識しすぎちゃったかな、って反省してる。
 その後開催されたポケモンピンポン大会にも、あたしはエテボースで出場した。ポケモンピンポンをエテボースの演技の参考にした事がきっかけなんだけど、その実力をポケモンピンポントップクラスの選手、オウさんに見いだされて、エテボースをスカウトしたいと言われた。サトシと一緒に悩んだけど、エテボース自身に決めさせる事にした。そしてエテボースは、ポケモンピンポンの方を選んで、オウさんと一緒にクチバシティへと旅立っていった……

 * * *

 外は結構吹雪いている。こんな天気で外に出ようなんて誰も考えないはず。下手したら遭難しかねない。
 そんな吹雪に巻き込まれたあたし達も、ちょうどいい洞窟を見つけて、その奥で吹雪が治まるまで留まる事になった。
 雪の中での野宿は、今まで以上にしんどい。下手したら凍死する可能性だって充分にあるから、今まで以上に体に気を使う。雪国っていうのは、結構大変なのねとつくづく思う。
 目の前の焚き火と、ママからもらった赤いコートで寒さをしのぎながら、洞窟の入り口から見える外の景色をふと見てみる。吹雪のせいで真っ白で、先に何があるのか全く見えない。それを見ていても、何も面白くない。別に理由があって見てる訳じゃない。ただ、あたしはずっと考えていた事があって、ただぼけっと眺めているだけ。
「エテボース……」
 自然と口から、その名前が出た。

 * * *

 ポケモンピンポン大会に出場したエテボースは、その身軽さもあって結構活躍して、決勝戦まで進んだ程だった。そして本人も、ポケモンピンポンが気に入ったみたいで、急にいなくなったと思ったら、外でピンポンの壁打ちを1人でしていたくらい。
 そんなエテボースをスカウトしたいとオウさんが言ったのも、当然だったのかもしれない。でもエテボースは、コンテストでも欠かせないメンバーの1人になっていたし、交換した相手のサトシに凄く悪いと思っていた。第一、前のタツナミ大会で優勝できなかったから、「あたしをグランドフェスティバルに連れていく」っていうサトシとの約束も破る事になっちゃう。だから、エテボースが離れちゃうのには抵抗があった。あたしはサトシと相談して、とりあえずはエテボース自身にどうするかを決めさせる事にした。
 そしてオウさんが出発する日。
 あたしはエテボースを連れて、コンテストかポケモンピンポン、どっちがやりたいのかを、ボールカプセルとピンポン球を両手で差し出してエテボースに聞いた。エテボースは少し考えていた様子だけど、気分を和ませるためなのか、あたしとサトシの帽子を取って、ボールカプセルとピンポン球と一緒にジャグリングをしてみせた。そしてそれが終わった後、エテボースがあたしの手に返したのは……

 ボールカプセルだった。
 エテボースが選んだのは、ポケモンピンポンだった。

 それが、あたしは正直言ってショックだった。
 本当は、コンテストを選んで欲しかった。いや、必ずそうすると思っていた。でも、今まであれだけコンテストで一生懸命がんばってくれたのに、ポケモンピンポンを選ばれた事が、とてもショックだった。
 でもそれは、エテボースが本当にやりたいもの。あたしが無理にコンテストをやれと強制する事はできない。この考えは、あたしの1人よがりなのかもしれない。そして、目の前のエテボースも、笑顔を浮かべている。
 正直、悲しい気持ちだったけど、あたしはそれを押し殺して、エテボースと笑顔を見せて最後の握手をして、みんなとエテボースを明るく見送った。

 でもやっぱり、後になってくるとそれが悲しくなってくる。
 エテボースはなんで、ポケモンピンポンの方に行っちゃったのか、あたしは気になっていた。あれだけ大好きだったサトシの側、そして同じように大好きだったコンテストから、あっさりピンポンに切り替えるなんて、普通できるはずがないと思うのは、あたしだけじゃないはず。
 でもエテボースはそれをした。その理由は何? あたしに考えられる事は1つだった。

 ――ひょっとしてエテボースは、あたし達を見捨てたんじゃかな……?

 いつしかあたしは、そんな事ばかり考えるようになった。

 * * *

 洞窟から吹きこんでくる風が、冷たく感じた。
 あたしの手には、入るポケモンがいなくなった、空っぽのモンスターボールがある。あの時エテボースにどっちを選ぶか聞いた時に使ったままの状態だから、ボールカプセルも付いたまま。
 このモンスターボールに、またエテボースが入る事はあるのかな? また、ボールカプセルの演出と一緒に、このモンスターボールから出てくる事はあるのかな?
 ボールの握る手に、そっと力が入った。

「どうしたんだ?」
 サトシの声を聞いて、あたしははっと我に返った。見ると、サトシとタケシの視線が、真っ直ぐあたしに突き刺さっている。サトシの側にいるピカチュウも、あたしのすぐ横にいるポッチャマも、同じ顔をしている。
「まだ、気にしているのか? エテボースの事……」
「うん、まあね……」
 そう答えて、あたしはまた空のモンスターボールを見つめる。
「ねえ、みんな」
 あたしは試しに、みんなに聞いてみた。
「エテボースは、あたし達を見捨てたんじゃないかな……って思わない?」
 あたしの言葉に、みんなは一瞬驚いた。
「どうして、そう思うんだ?」
 素直にサトシが聞いてきた。
「だって、あんなにサトシやコンテストが好きだったなら、あんなにあっさり別れられる訳ないよ……それなのに……」
「まあ、エテボースは前からいろんな事に興味持つ奴だったからな……」
 サトシも続けるようにつぶやく。
 サトシの話だと、進化する前のエテボースは、自分からサトシの後をついてきて、自分からサトシにゲットされたらしい。そして旅の中でコンテストに興味を持って、ノゾミの勧めでブイゼルとの交換って形であたしのポケモンになった。
 ここまでは、サトシと一緒にいられる事に変わりはないから、別に気にならない。でも問題なのは、その後。
 ポケモンピンポンに興味を持ったエテボースは、コンテストをやめる所か、大好きなサトシの側からも離れる事になるのに、別れの時には寂しそうな様子を1つも見せなかった。隠していたって可能性もあるけど……
「だから、あたし達にはもう興味がなくなって、あたし達を……」
「考えすぎだよ、ヒカリ」
 あたしは思った事を口に出したけど、途中でサトシに遮られた。
「エテボースがどんな事を思っているのかはわからないけど、少なくともエテボースは、そんな事を考える奴じゃない。俺はわかるさ」
 サトシは当然、あたしよりもエテボースとの付き合いは長い。だからわかるのかもしれない。サトシはエテボースの事をあまり心配していない様子。
 それでも、あたしは不安だった。あたしもそう信じたいけど、やっぱりエテボースが、あんな事をしたのは不自然に見える。

 こんな時に、エテボースとまた会う事ができたら、それを確かめられるのに……

 * * *

 吹雪が治まったのを見計らって、あたし達は洞窟から出発した。
 周りの葉っぱの生えていない木は、全部雪を被っていて、一面真っ白。その景色はとてもきれい。でも、そんな景色に見とれてばかりはいられない。時々雪が深くなっている所があるから、うっかりそこに足を入れたら足が埋まって大変な事になっちゃう。だから、足元に気を付けながら歩いて行く。
 日は射しているけど、吹く風は相変わらず冷たいから、コートが手放せない。あたしと同じように、サトシとタケシもデザインがお揃いの青いコートを着ているけど、これはあたしのコートと一緒にママが送ってきたもの。そしてあたしはもらったコートに合わせて、白い大きなマフラーと、今まで履いていたのとは違うタイプのブーツを履いている。サトシの肩の上のピカチュウも、少し寒そうにしているけど、ポッチャマはいつも通りの顔をしている。ポッチャマは元々、こういう寒い地方に住んでいるポケモンだから、寒さはへっちゃらなのね。
「この先を行けば、ポケモンセンターだ」
 タケシが地図を確かめて、そう言った。
「本当!?」
「やっと暖かい場所に入れるぜ〜!」
 あたしとサトシは、思わず声を上げた。これだけポケモンセンターがあると聞いて、嬉しいと思った事があるかな? やっぱり寒い外を長い間歩いていたからかな。寒い所に長くいる事は、思ってたより辛い事だったから。
 すぐにサトシが駆け出した。おい、とタケシが声をかけたけど、サトシは止まらない。でもその時、サトシが突然、つまずいてバタリと雪の中に倒れた。
「ああっ、サトシ!?」
 何が遭ったのかなと思って見ると、サトシの左足が雪に深く埋まっている。雪の深みにはまっちゃったのが、転んだ原因だった。体を起こしたサトシは、埋まった左足を抜こうとしているけど、なかなか抜けない。結構深く埋まっちゃっている。あたしはすぐに、足を抜くのを手伝ってあげた。それで、サトシの足は無事に抜く事ができた。
「もうサトシ、足元ちゃんと注意してなきゃダメでしょ?」
「ごめんごめん。ああ、足が冷てぇ……」
 サトシは右足で片足立ちをしながら、左足の靴を脱いで、中に入った雪を落とす。こういう時、あたしが履いているような長靴を履いていればあまり困らないんだけど、サトシは違うから、それが完全にアダになっちゃった。結局サトシは、足が冷たくなるハメになった。

 その時だった。
 突然あたし達の後ろから、何かが素早く伸びてきた。途端に聞こえたピカチュウの悲鳴。気がつくと、ピカチュウの姿は、サトシの肩の上から消えていた。
「ピカチュウ!?」
 あたし達はピカチュウの声が吸い込まれた後ろを見ると、そこには、空から延びるマジックハンドが、ピカチュウを鷲掴みにしている光景が見えた。
『わーっはっはっは!!』
 そのマジックハンドをたどった先から聞こえてくる、聞き慣れた高笑い。そこには、横長のキャタピラを付けた、まるで装甲車のような雪上車があった。その真ん中には、赤い文字で、『R』と書いてある。
「お前達は!!」
 サトシが叫ぶと、運転席がせりあがって、そこからいつも聞くあの言い回しが聞こえてきた。
「『お前達は!!』の声を聞き!!」
「雪原乗り越えやって来た!!」
「雪よ!!」
「あられよ!!」
「北風よ!!」
「世界に届けよ、ブリザード!!」
「宇宙に伝えよ、アヴァランチ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える、魅惑の寒さ!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役は、あたし達!!」
「我ら雪の!!」
「ロケット団!!」
 そこに現れたのは、間違いなくいつものあいつら――ロケット団だった。
「ロケット団!!」
 あたし達はいつものように声を揃えて叫ぶ。そしてサトシが、またお前達か、と続ける。
「本日は雪上車で、ピカチュウをゲットしに来たのニャ!!」
 ニャースが堂々と言う中で、鷲掴みにされているピカチュウは、抵抗しようとして電撃を出した。でも、雪上車に手応えは全くない。
「わ〜っはっはっは!! 例によって電気対策はバッチリなのだ!!」
「そのままピカチュウゲットでチュウ!!」
 コジロウが自信満々に笑った。そのままピカチュウを鷲掴みにしたマジックハンドは、雪上車の中に引き込まれていった。
「ピカチュウ!! こうなったらブイゼル、君に決めた!!」
 もちろん、こんな状況を黙って見ている訳にはいかない。サトシはすぐにモンスターボールを投げた。中からブイゼルが飛び出す。
「“アクアジェット”!!」
 ブイゼルは“アクアジェット”で、雪上車目掛けて、真っ直ぐ突撃していった。水の槍になったブイゼルは、そのまま雪上車に体当たり! でもブイゼルは、簡単に跳ね飛ばされた。なんて頑丈なの!?
「ニャハハーッ!! この雪上車は電撃以外にも耐えられるように頑丈にできているのニャ!!」
 ニャースが高笑いした。
「くそっ、こうなったらもっと強い攻撃で……!!」
 サトシがすぐに別のモンスターボールを取り出した。でもその手はすぐに止められた。
「待てサトシ!! 闇雲に攻撃するのは危険だ!!」
 タケシだった。
「どうしてだよ!?」
「下手にここで強い攻撃をしたら、衝撃が広がって雪崩が起きる可能性がある……そうなったら、助けるどころじゃないぞ!!」
 タケシの言う言葉は正しかった。あたしは、雪山でポケモンバトルをしちゃいけないって言われていた事を思い出した。こんな山間の中で、何か大きな衝撃を地面に与えたら、それは雪崩の原因になる。ポケモンの攻撃1つで、大きな災害が起きてしまいかねない。あたしは雪山でポケモンバトルをしちゃいけない理由が、改めて理解できた。
「どうしたジャリボーイ? 相棒のピカチュウを助けられないのか?」
「雪崩が怖くて攻撃できないんじゃなーい?」
 コジロウとムサシがサトシを挑発する。サトシはただ、唇を噛むしかなかった。
 雪山でポケモンバトルは厳禁。でも今は、そんな場合じゃない。何とか雪崩のリスクを少なくして、ピカチュウを助ける方法は……
 何とかして雪上車に穴を開ければ、ピカチュウを助けられそう。そのためには、なるべく爆発は起こさずに、強い攻撃ができるポケモンが理想的。それができるポケモンといったら……1匹しかいない。
 あたしは自然とボールカプセルが付きっぱなしのモンスターボールを手に取った。
「ならエテボース、お願い!!」
 そう叫んで、あたしはモンスターボールを投げた。そしてその中から、エテボースが飛び出す……

 事はなかった。
 空のモンスターボールは、そのままムサシの頭にコツンと当たっただけだった。そして跳ね上がったモンスターボールを、コジロウがキャッチした。あたしは一瞬、目を疑った。
「なんだ、このモンスターボール? ……空じゃねえか?」
 コジロウがスイッチを押して、モンスターボールを開けて中を確かめてみる。でもその中からは、何も出てこない。
「ああっ!! エテボースはもういないんだった!!」
 あたしはそれを見て、初めてあたしが勘違いをしていた事に気付いた。エテボースはもう、あたしの側にはいない。それをどういう訳か、まだいるって勘違いしちゃってた!
「おいヒカリ、しっかりしろよ!! こんな時にボケてる場合じゃないだろ!?」
「……ごめん」
 サトシの注意に、あたしは素直に謝るしかなかった。
「ちょっとアンタ!! あたしに空のモンスターボールぶつけるなんて、何のつもり!?」
「落ち着くニャ、ムサシ!! こんな事に構ってないで撤収するのニャ!!」
「そ、そうね……!!」
「じゃ、撤収だ!!」
 怒るムサシを、ニャースが説得する。そして、ムサシとコジロウと一緒に雪上車にまた潜り込んだ。そして、雪上車のエンジンがうなり始めた。
『今日はとっても、いい感じ〜っ!!』
 スピーカーから、そんな勝ち誇った声が響く。そのまま雪上車は、反転してその場を去ろうとする。
「ピカチュウ!!」
 サトシの声が空しく響く。
 このままピカチュウは、ロケット団に……!

「“れいとうビーム”!!」
 すると、あたし達の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。すると、あたし達のすぐ横を、白い光線が通り過ぎた。その光線は、キャタピラに命中! キャタピラはたちまち凍り付いて、雪上車の動きはゆっくりと止まった。
「だ、誰!?」
 あたし達は、後ろを振り向いた。するとそこには、1人の女の人が立っていた。赤のアクセントが入った白い帽子を被っていて、水色のジャンパーに赤いミニスカート。でもその顔は、知っているものだった。そして足元にはしんせつポケモン・グレイシア。
「はいはーい皆さん、そこまでー! なんてね!」
「ミ、ミライさん!?」
 そこにいたのは、間違いなくミライさんだった。カンが鋭いサトシのいとこで、サトシにとってはお姉さんのような存在。あたし達と違って目標っていうのは特になくて、ただ自由気ままに旅をする事自体を楽しんでいる。こおりタイプの使い手で、『氷の魔女』っていつも名乗っている。
「ミライ!!」
「全く、こんな所で何やってるのかと思ったら……でも、状況は大体わかったわ。ここはこの、『氷の魔女』にお任せ! なんてね!」
 サトシの横に歩いてきたミライさんは、そう言って笑みを見せた。そして、モンスターボールを1個取り出した。
「呼ばれて飛び出てジュゴンちゃん!!」
 ミライさんはそのモンスターボールを投げた。そして中から飛び出したのは、一見すると人魚とも間違えそうな、白くてきれいなポケモンだった。あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「ジュゴン、あしかポケモン。全身が真っ白な体毛で覆われているため、雪の中では天敵に見つかりにくい」
 図鑑の音声が流れた。
「“つのドリル”!!」
 ミライさんが指示すると、ジュゴンは頭のツノに力を込めて、雪上車に体当たりした! すると、ツノがドリルのように回り出して、たちまち装甲車のボディに大穴が開いた! そのままさらに穴を開け続けると、ある程度した所でジュゴンは下がる。すると、空いた穴から、ピカチュウが飛び出してきた。
『な、何!? 何が起きてるの!?』
「“せったいれいど”でフィニッシュ!!」
 ジュゴンはサッと雪上車から離れると、口の中にパワーを蓄え始める。そしてそれを一気に解き放つと、“れいとうビーム”より強烈な白い光線を発射! それの直撃を受けた雪上車は、一瞬で見事なまでの氷の塊と化した。これでもう、雪上車は動けなくなった事は確実。
「これにて一件落着〜! なんてね!」
 ミライさんがそうつぶやく横で、サトシは戻ってきたピカチュウを、しっかりと受け止めていた。
 さすがはミライさん。こおりタイプの使い手だけあって、こういう場所でのバトル方法も、ちゃんとわかってるんだ……あたしは感心しちゃった。

 * * *

 ミライさんの案内で、あたし達はポケモンセンターに無事に到着した。
 ロケット団はほっといたままだけど、ミライさんは「いいのよ、それで。あのまま動けないんだから、後は野となれ山となれ、なんてね!」って言っていた。まあ、下手に手を出していたらそれこそ雪崩が起きていたかもしれないし。
 とりあえず、暖かいポケモンセンターに着いてほっと一息。当然、あたし達はコートを脱いだ。ミライさんもジャンパーを脱いでいるけど、その姿を見て、あたしはミライさんの中の服装も変わっている事に初めて気付いた。
 服も水色になっていて、あたしのと同じようにノースリーブになっている。両手首には黒いリストバンド。今まではスカートの下にジーパンを履いていたけど、今は履いていない。そして水色の靴下に、白い靴。白い帽子や赤いミニスカートとも色合いはマッチしていて、結構かわいい感じになっていると思う。
「どうでしょ、ヒカリちゃん。いい感じでしょ?」
 ミライさんはあたしが見ていた事に気付いたのか、わざとらしくポーズをとってそう聞いてきた。
「はい、すごく似合ってると思います」
「ありがと」
 あたしが答えると、ミライさんは嬉しそうにほほ笑んだ。そこに、サトシがやってきた。
「なあヒカリ、お前に手紙が来ているぞ。『ポケモンコンテスト協会』から」
「え、手紙?」
 あたしは驚いた。手紙が来る事自体珍しい事だし、何よりポケモンコンテスト協会からって言うのが気になる。一体何だろうと思いながら、あたしはサトシから封筒を受け取る。それを開けて、中に入っている手紙を読んでみた。


 フタバタウンのヒカリさん
 あなたはポケモンコンテストにおける素晴らしい活躍ぶりと、ヨスガコレクションで優勝し、優秀なポケモンコーディネーターである事が評価され、あなたを『ポケモンコンテスト・エキシビション』に招待する事を決めました。


「ええーっ!? エキシビションに出られるのー!?」
 あたしはそこまで読んだだけで、思わず声を上げちゃった。それを聞いて、みんなの視線が一斉にこっちに向いた。
「まさか、『ポケモンコンテスト・エキシビション』か?」
「うん!! これに出られるなんて、夢みたい……!!」
 あたしは信じられない気持ちもあったけど、それ以上に嬉しかった。あたしは飛び上がって喜ばずにはいられなかった。側にいたポッチャマも、つられたのか一緒に飛び上がって喜ぶ。
「『ポケモンコンテスト・エキシビション』?」
「ポケモンコンテストで3回以上優勝したコーディネーターの中で選ばれた者だけが出場できる、採点や順位付けをやらない特別実演のポケモンコンテストさ」
「テレビでも盛大にやってる競技よ。それに出られるなんて、凄いじゃないヒカリちゃん!!」
 サトシの疑問に、タケシとミライさんが答える。
「じゃ、すぐにどんな演技するか決めて、練習しなきゃ! ね、ポッチャマ!!」
「ポチャマ!!」
 あたしはもうハイテンションだった。ポッチャマとそんなやり取りをすると、早速あたしはバトル場へ行こうとした。もちろん、あたしのポケモン達にこの事を教えるために。

 その時だった。
「ハーイ!! 今日もあたしはハイテンショーン!!」
 急にそんな聞き覚えのあるような声が聞こえたと思うと、あたしの体に突然、正面から出てきた何かにぶつかった。目の前に衝撃が走った。反動で、あたしは尻もちをついた。
「おい、大丈夫か!?」
 みんながすぐに、あたしの側に駆けつけてくれた。
「いったー……誰、いきなり……!?」
 こんな時にぶつかったのは誰……? と思って体を起こして目の前を見た瞬間、あたしは驚いた。

 袖が黒い赤い長袖の服にピンクのミニスカート、茶色がかったショートヘアーの女の子。その頭には赤い耳当てを付けている。
 この子の姿は、はっきりと覚えている。だって、この子は……

「あれ……!? もしかして、ミホ……!?」
「あっ、ヒカリン! ひっさしぶりねーっ!」
 その女の子――ミホはすぐにあたしの事がわかったみたいで、すぐに満面の笑顔を見せた。ミホはすぐに立ち上がって、立ち上がったばかりのあたしに抱き付いた。
「こんな所で会えるなんて、思ってなかったよ! ヒカリ〜ン!」
「え、ええ……」
 その底抜けに陽気な性格は、相変わらずみたい。あたしは、思わず苦笑いした。でも決してミホは、付き合いづらい人じゃない。それより……
「でも……今まで行方不明になってたんじゃ……?」
「行方不明? 変な事言わないでよ〜! あたしはこうやって健在じゃない! 人を勝手に死んだような扱い方しないでよ〜!」
 でもミホは、そんな事を何も知らないように、笑顔を返した。まあ、旅をしている人に対しては、どうしても連絡が取れなくなっちゃう。あたしだって最近はママに連絡入れていないし、ノゾミとも連絡を取る事はあまりない。だから、行方不明って言っても、ある意味そんな暗い事じゃないのかもしれない。
「ヒカリ……その子は知り合い?」
 すると、サトシのそんな質問が耳に入った。見ると、サトシ達も少しミホを見て驚いたような顔をしていた。あたしは答えようとしたけど、その前にミホが口を開いた。
「あたし、ミホ! ヒカリンのベストフレンドなの!」
 ミホはあたしの顔の側で、得意気にVサインを作ってこれでもか、というくらいの笑顔を見せた。


TO BE CONTINUED……

[824] SECTION02 エテボースの思い!
フリッカー - 2009年06月02日 (火) 18時14分

「あたし、ミホ! ヒカリンのベストフレンドなの!」
 ミホはあたしの顔の側で、得意気にVサインを作ってこれでもか、というくらいの笑顔を見せた。

 ミホは、あたしがトレーナーズスクールにいた時の友達の1人。
 底抜けって言葉がピッタリなくらい陽気で元気いっぱいな女の子で、出てきただけで周りの空気が変わっちゃう。その分誰とでも仲良くなる事ができて、友達は結構多かった。だからなのかな。友達の事は大切に思っていて、特にあたしの事はいつも『ヒカリン』って呼んで、ほとんどあたしと一緒にいる事が多かった。そして、あたしを『ピカリ』って呼んだ奴には容赦なく怒る事もあった。その仲のよさは、周りでも結構評判になっていたみたい。
 あたしが旅に出る前に、ポケモンをもらって旅に出たんだけど、あたしが旅をしている途中で、急に連絡が取れなくなって、行方不明になっちゃったって聞いていた。とにかく、そんなミホが無事でいてよかった。

「この人達は、ヒカリンの新しいお友達?」
 ミホが聞かれて、あたしはうなずく。
「俺、サトシ」
「俺はタケシだ」
「あたしはミライ。人呼んで『氷の魔女』」
 3人はそれぞれ自己紹介した。ミホは3人の名前を確かめると、すぐに側にいた2匹のポケモンに視線を変えていた。
「で、このポッチャマとピカチュウは、ヒカリンのポケモン?」
「ポッチャマはそうだけど、ピカチュウはサトシのポケモンなの」
「へぇ〜、そうなんだ〜」
 ミホはポッチャマに顔を近づけて眺めると、ポッチャマはいつものように胸を張ってみせた。ふふっ、威張ってる〜! と少し笑ってコメントすると、すぐに顔をピカチュウに向けた。
「それにしてもこのピカチュウ、カッコイイ〜ッ!」
「へ?」
 突然の事を言われて、サトシが声を裏返した。
「この体、結構鍛えられてて、まさに戦士って感じよね〜! こんなにカッコよかったら、あたし惚れちゃう〜っ!!」
 ミホは目を輝かせながら、ピカチュウを抱き上げて、頬をすり寄せながらそんな事を言った。当のピカチュウは当然、戸惑っている。
「ミ、ミホ……?」
 あたしはこういうミホを見たのは、初めての事だった。ポケモンの事はそりゃ好きだったけど、トレーナーズスクールでも、こんなに過激に(?)反応した事は今までなかった。ミホって、そんな人だったっけ? みんなも当然、目を丸くしている。ポケモンを見て本気で「惚れちゃう」なんて言う人なんて、見た事がないからね。もし、これをミミロルが聞いたら、どう思うだろう……?
「そうだ!」
 するとミホは何か思い出したのか、ピカチュウを抱いたまま、あたしに顔を向けて、こんな提案をした。
「ヒカリン、ポケモンコンテストやってるんでしょ? だからあたしの自慢のポフィン、作ってあげる!」
「えっ、いいの!?」
「もっちろん! ヒカリンのためなら、喜んで腕ふるっちゃうんだから! あ〜、ハイテンションになってきた〜っ! あたしやっちゃうよ〜っ!」
 ミホはすぐにピカチュウを下ろして、スキップしながらその場を去っていっちゃった。多分、あのノリだと自由に使える調理場で早速ポフィンを作り始めるんだと思う。
「……何だか嵐みたいな子ね、ミホちゃん」
 ミライさんが唖然とした表情で、そんな事をつぶやいた。そんなミライさんに、あたしはミホはそういう人ですから、と一言入れた。


SECTION02 エテボースの思い!


 みんなと一緒に調理場に来てみれば、なるほどそこにはミホちゃんがいて、鼻歌を歌いながらポフィン作りの準備に励んでいる。勢い余ってミスするんじゃないかって感じのノリだったけど、結構テキパキと準備をしている。結構この事には慣れていそう。
「ミホちゃんって、料理が得意なの?」
 あたしは試しに聞いてみる。
「もっちろん! だって、あたしに苦手な事はないもん!」
 ミホちゃんは見たか、と言わんばかりに胸を張って、答えた。苦手な事はないなんて、結構自信があるのは間違いなさそう。
「じゃあ、ポケモンバトルも得意なのか?」
 そこに、サトシが割って入った。いかにもサトシが聞きそうな質問。
「えっ……!? 残念だけど、あたしポケモンは持ってないのよね〜……」
 でも、ミホちゃんの答えは意外なものだった。あたしも含めたみんなは当然、ええっ、と声を上げた。ポケモントレーナーっぽい服装してるのに、ポケモンを持ってないなんて意外だった。
「こういうのだったら、持ってるんだけどね〜」
 すると、ミホちゃんは四角い小さな箱を取り出した。その蓋にはモンスターボールが描かれている。それを開けて取り出したのは、3枚のコインだった。モンスターボールをイメージしたデザインになっていて、表にはポケモンの名前と絵が、裏にはモンスターボールのデザインがそのまま描いてある。スナック菓子のおまけにありそうな感じのものだった。
「おい、コインじゃポケモンバトルできないじゃないか……」
 サトシが溜息を1つついた。
「ちょっと待ってミホ、ポケモンもらって旅に出たんじゃなかったの!? ポケモントレーナーになるって、言ってたじゃない!?」
 ヒカリちゃんがすぐに聞いた。ヒカリちゃんはミホちゃんにベストフレンドって言われてるんだから、ミホちゃんの事は知っているはず。だから、ヒカリちゃんの言葉は正しいものだと思った。
「えっ……まあ……そうだったけど、気が変わっちゃったの!」
 ミホちゃんは少し戸惑った様子を見せたけど、すぐに元の笑顔を戻して答えた。
「じゃ……じゃあ、今まで何のために旅してたの……!?」
「そ、れ、は、ね。ヒカリンに会いたかったから」
 ミホちゃんはヒカリちゃんに顔を近づけて、これでもか、というくらいの笑顔を見せた。まるで、自分のかわいさで恋人を悩殺させようとしている人のように。
「だからあたし、ヒカリンに会えたから、今すっごくハイテンションなの。じゃ、ポフィン作っちゃうよ〜っ!!」
 ミホちゃんはヒカリちゃんにそう言うと、コインをしまって、すぐにポフィン作りの準備に戻った。
「ミホ、待って……!」
 ヒカリちゃんは、そんなミホちゃんにさらに食い下がろうとする。そんなヒカリちゃんを、あたしは止めた。
「まあまあ、その辺にしなさい。ポフィンが作れないじゃない」
「ミライさん?」
「それに、人の心なんて結構ころころ変わるものなのよ。不自然に見えるかもしれないけど、人ってそういう生き物だから」
 あたしはヒカリちゃんに、そうフォローを入れてあげた。それを聞いたヒカリちゃんは、
 ミホちゃんが最初どんな人だったのかは、あたしは知らない。ヒカリちゃんの言う通りなら、簡単にポケモントレーナーをやめたとか、ヒカリちゃんに会うために旅をしていたとか言うのは、そりゃ不自然に見えちゃうよね。でも単純に気が変わってそうなった事は別に変な事じゃない。そんな人なんて、そこんじょそこらにいくらでもいると思うし。
「あたしも実際、そんな人の1人かもしれないしね」
 あたしは最後にそう付け足した。

 * * *

 ミホが少しおかしいと思ったのは、ミライさんの言葉を聞いて、とりあえず置いておく事にした。
 あたしはミホが作ったポフィンができるまでの間に、バトル場を借りて、エキシビションに向けた練習をする事になった。都合よく開いていたし、練習にはもってこい。
「さあみんな、出てきて!」
 あたしは3個のモンスターボールをバトル場に一斉に投げ上げた。中からミミロルとパチリス、そしてマンムーが出てきた。
「みんな聞いて! あたし、特別実演のポケモンコンテスト、エキシビションに招待されちゃったの! だからみんな、張り切って練習しましょ!」
 あたしが言うと、みんなは一斉に声を上げた。たった1匹、マンムーを除いては。
「へぇー、マンムーかあ……ヒカリちゃん、いつの間にこんな凄いポケモン持ってたのね。『氷の魔女』としては、少し親近感が湧くわね」
 そこに、ミライさんが現れた。ミライさんはマンムーの横に立って、展覧会の絵を見るように、その茶色い大きな体を見上げていた。
「ウリムーから進化したんです」
「ウリムー……そういえばいたね。でもそんなウリムーが、こーんな立派なポケモンになるなんて、ヒカリちゃんも腕を上げたな、なんてね!」
 ミライさんがそう言った時、マンムーはその場を動きだした。ミライさんが何かしら、という様子でマンムーを目で追う。マンムーは、バトル場の隅に座ると、そのまま昼寝を始めちゃった。まあ、いつもの事なんだけど。
「あら、ひょっとして昼寝をするのが好きなの?」
「あ、はい……まあ……暇な時はいつもああで……」
「ふーん……そういえばヒカリちゃん」
 その時、ミライさんの視線がこっちに変わっていた。
「エテボースはどうしたの? 見当たらないけど……」
「えっ……?」
 いきなりそんな質問をされて、あたしは声を裏返しちゃった。今までいろいろあったから、すっかり忘れていたエテボースの事が、頭の中に蘇った。
「エテボースは……」
 あたしはミライさんから目を逸らして、答えようとするけど、言葉が続かない。ミライさんは、エテボースはサトシと交換したポケモンだって事を、当然知っている。そんなエテボースを手放したって言ったら、何か言われるかもしれないって、少し怖い気がした。
「預けたんだ」
 代わりに答えたのは、ミライさんの後ろからやって来たサトシだった。
「……やっぱりね。でもなんで?」
 ミライさんはやっぱりカンが鋭い。預けたって事もちゃんと予想していた。
「あいつ、ポケモンピンポンってスポーツが好きになってさ、素質を見出されてスカウトされたんだよ」
「へぇー……だからいなくなって寂しい思いをしてたって訳ね、ヒカリちゃん。手放したばかりだから、そう思っちゃうのも無理はないわね」
 ミライさんの視線が、またこっちに向いた。その言葉は、ある意味当たっていた。エテボースがいなくて寂しいから、今までいろいろ考えていたのかもしれない。でもやっぱり、エテボースに見捨てられたかもしれないって事が……
「さ、そんな事でクヨクヨしていても仕方がないわ。ヒカリちゃん、あたしがコンテストバトルの練習の相手になってあげる」
 ミライさんはそう提案した。そうだ、今は練習しようとしているんだ。ミライさんの言う通り、クヨクヨしてたら練習できない。気持ちを切り替えないと。
「待ってくれミライ、俺が……」
「気持ちはわかるけど、あたしあんまりヒカリちゃんとバトルした事ないからね。それに、見る事も立派な勉強になるわよ」
 ジム戦が近いからか、どうやらサトシがあたしと練習バトルをしたかったみたいだけど、ミライさんは軽くサトシの言葉を跳ね除けた。

 あたしとミライさんは、バトル場のフィールドに向かい合って立つ。練習だから、審判はいない。その代わり、サトシが横でピカチュウと一緒に見学している。
「呼ばれて飛び出てマニューラちゃん!!」
 ミライさんが繰り出したのは、かぎづめポケモン・マニューラだった。マニューラは、いつでも来いと言っているように、身構えている。
 マニューラはこおりタイプのポケモンだけど、あくタイプも持ち合わせている。かくとうタイプのわざがあると有利。それに、マニューラ自体素早いポケモン。その素早さにも対抗できるポケモンと言ったら……
 エテボース、と思い浮かんだ所で、あたしは首を横に振る。しっかりして、今はエテボースはいないじゃない、と自分に言い聞かせる。でも、こういう時エテボースは頼りになるポケモンだったよね……
「どうしたの? まだ出すポケモン選定中なの?」
 そんなミライさんの言葉を聞いて、あたしははっと我に返った。あたしの足元では、ポッチャマ達があたしに視線を集めている。そうだ、ミライさんを待たせちゃいけない。
「ポ、ポッチャマ、お願い!」
 あたしは慌ててポッチャマを呼んだ。すぐに、ポッチャマはフィールドに飛び出して、身構えた。それを見たミライさんは、待ってましたとばかりに、指示を出した。
「マニューラちゃん、“つじぎり”!!」
 マニューラが、真っ直ぐポッチャマに向けて走ってくる。素早い! あっという間にポッチャマとの間合いが詰まっていく。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 すぐにあたしも応戦する。ポッチャマは指示通り“バブルこうせん”で応戦するけど、マニューラはそれを軽やかにかわしてみせる。あっという間にポッチャマの目の前に迫る。
 これがエテボースだったら、長い尻尾のリーチを活かして、返り討ちにする事もできるし、“かげぶんしん”も使えるからかく乱も……
 そう思った時、目の前でドン、と音がした。見ると、目の前に青い何かが転がっている。それは、“つじぎり”の直撃を受けて、弾き飛ばされたポッチャマだった!
「どうしたの? よそ見でもしていたの?」
 ミライさんの言葉を聞いて、あたしは我に返った。いけない、またエテボースの事を考えちゃって、指示を……!
「でも、情けは無用、なんてね! マニューラちゃん、“れいとうパンチ”!!」
 マニューラは、倒れているポッチャマに、容赦なく冷気を纏った拳を突き立てた。いけない、このままじゃ……!
 と思った時。
 どこからともなく、氷の塊がマニューラに向かって飛んできた。それにマニューラは気付いて、飛んできた氷の塊に向けて拳を振った。たちまち、氷の塊は吹っ飛ばされて壁に当たる。
「今のは……マンムー?」
 間違いなく“こおりのつぶて”だった。こういう事は、タツナミ大会の練習の時もあったのを思い出す。
 あたしはすぐにマンムーに顔を向ける。さっきまで寝ていたはずのマンムーは、驚いたようにきょとんとした顔を見せていたと思うと、また何事もなかったかのように寝始めちゃった。
「何、あのマンムー? バトルに横槍入れて、何したいの?」
 ミライさんがつぶやいた。
 その理由はズバリ、マンムーが練習に興味があるから。普段は興味持っていないような素振りを見せるけど、こういう時には寝たふりをしながらちょっかいを出してくる。それが、練習、そしてコンテストそのものに興味を持っている事の何よりの証拠。あたしはそう答えようとした。
「ヒカリンの練習に、ちょっかい出したかったみたいよ」
 それを答えたのは、いつの間にかいたミホだった。その手には、バスケットに入れたポフィンがある。ポフィンがもうできたみたい。それよりも、いきなり出てきてマンムーの事をあまり見てないはずなのに当てた事に、あたしは驚きを隠せなかった。
「ミ、ミホ!? どうしてわかったの!?」
「だって、そんな事マンムーが言ってたんだもん。多分、ヒカリンの練習に興味あるんじゃない?」
「い、言ってた……!?」
 衝撃発言だった。ミホはポケモンの言ってる事がわかる!? ミホはそんな事ができる人だったの!? 今までそんな事知らなかったけど……
「それよりヒカリン、ポフィンできたよ〜! ヒカリンのポケモンのためにがんばって作ったから、ハイテンションな出来になってるから!」
 ミホは堂々と、バスケットに入れたポフィンをあたしに見せた。じゃ、ポッチャマに食べさせないと、と言って、ミホは起き上がっていたポッチャマの側に行く。
「ほらポッチャマ、リクエストした味にしたから、食べてみて!」
 ミホはそう言って、ポッチャマにポフィンを1個差し出した。リクエスト。あたしはその言葉が引っ掛かった。
「リクエストって……」
「ポッチャマに聞いたの。どんな味がいいってね。ね、ポッチャマ?」
 サトシの質問にミホが答える。そしてミホがポッチャマに聞くと、ポフィンを食べていたポッチャマは、おいしそうに笑顔を見せた。ポッチャマの好みの味に作ったことは間違いないみたい。
「凄いな! ホントにポケモンの言葉がわかるんだ!」
 そう言うサトシだけじゃなくて、ミライさんもミホの能力に感心していた。
 それにしても、ミホがここに来てくれたお陰で、あたしはここから抜け出すチャンスを作る事ができた。エテボースの事を考えすぎて、練習がまともにできないから、少し落ち着かないと。
 あたしはみんながミホに気を向けている間に、そっとバトル場を抜け出した。

 * * *

 ポケモンセンターのロビーに戻ったあたしは、窓の外に映る景色を何気なく眺めた。
 柔らかそうな雪が、しんしんと降っている。結構きれいな風景だったけど、それを見ても、あたしの心は癒されなかった。

 エテボース……

 考えちゃいけない。こんな調子じゃ、またちゃんと練習できなくなる。
 あたしは窓の外から、テレビに目を向ける。そこでは、偶然ポケモンコンテストの事がやっていた。
『先日開かれたポケモンコンテスト・オウニ大会では、最近勢いに乗るコトブキシティのハルナさんが、見事優勝を収めました。ハルナさんの優勝は、これで3回目になります……』
 そこに映っていたのは、コンテストリボンを手にして笑顔を見せている、あのハルナの姿が映っていた。
 自分の力で強くなるって言って別れてから、どうしているかなって思っていたけど、もう3つ目のリボンをゲットしていたんだ。ハルナの足元で一緒に喜ぶポケモンは、どくばりポケモン・ニドラン♂が少しいかつくなった感じのポケモンだった。具体的な名前はわからないけど、クレセントが進化したポケモンに間違いない。あたしの知らない内に、ハルナはあそこまで強くなっていたんだ。タツナミ大会でのケンゴと同じように。
 そういえば、タツナミ大会は実質、エテボース最後のコンテストになっちゃったなあ。あそこで優勝を決めて、サトシとの約束を果たしてあげるはずだった。でも、それはできなかった。そしてそのまま、エテボースは……
「ヒ〜カリン!」
 その時、そんな声があたしの耳に入った。はっとして声がした方を見ると、そこには笑顔を見せるミホの姿が。
「ミホ……」
「こんな所で何しているのさ、しょぼんとして。ヒカリンらしくないよ?」
 ミホは笑顔を振りまきながら、あたしの隣に来た。
「……ちょっと、考え事してたの」
「それって、どんな悩みなの? 教えてよ。ほら、ヒカリンっていっつも悩む時1人じゃない。ベストフレンドのあたしがここにいるんだから、1人で悩まないで」
 ミホはあたしの顔を覗き込んで、そう言った。あたしは一瞬、答えるべきかどうか戸惑った。
「エテボースの事でしょ?」
 すると今度は、別の声が入ってきた。誰かと思って見てみると、そこにはミライさんの姿があった。

「ミライさん……」
 ヒカリちゃんは、驚いた様子だった。あの様子だと図星みたいね。あたしのカン通り。あたしはヒカリちゃんの前に行く。
「どうしてわかったんですか?」
「エテボースの事を聞いてからだもん、ヒカリちゃんの様子がおかしくなったのは。バトルでも何だか少し上の空だったし。単純に寂しいだけじゃない、何かがあるんでしょ?」
 あたしは足を止めて、カンで思った事をそのまま口に出した。すると、ヒカリちゃんは無言でうなずいた。
「エテボース、あんなにサトシやコンテストが好きだったのに、どうしてあんなにあっさり別れられたのかなって思って……」
「あっさり? それって、どういう事なの?」
 あたしが聞くと、ヒカリちゃんは説明を始めた。
 たまたま参加したポケモンピンポン大会で、エテボースが予想外に活躍した事。それに目をつけた選手が、エテボースをスカウトした事。エテボースにコンテストとピンポンのどっちをやりたいか聞いたら、ピンポンを選んで、別れた事。
「どうしてポケモンピンポンの方に行っちゃったのか気になって……ひょっとしたらあたし達、エテボースに見捨てられたんじゃないかなって思って……」
「そう……」
 なるほど、そういう事で悩んでいたのね。でも、あたしはエテボースの気持ちがわかった気がした。エテボース自身とはそれほどコミュニケーション取ってた訳じゃないけど、そのような経験は、あたしもした事があったからかもしれない。
「本当にエテボースは、ヒカリちゃんを見捨てたと思う?」
 あたしがそう聞いても、ヒカリちゃんは答えない。それを確かめたあたしは、言葉を続けた。
「あたしは違うと思うなあ。エテボースはエテボースなりに、ヒカリちゃんの事を大事に思っていたはずよ」
「……どうしてそう思うんですか?」
 ヒカリちゃんが逆に聞いてきた。あたしは一呼吸置いて、答えた。
「あたしにはわかるよ。そうやって、あちこちを歩き回る人の気持ちがね」
 そう聞いても、ヒカリちゃんの頭には「?」が浮かんでいる。それなら、話してあげよっか。あの時の話。
 あたしは一呼吸置いてから、あの時の話を始めた。

 * * *

 旅に出たばかりの頃は、あたしはこおりタイプになんて興味はなかった。
 パートナーのイーブイちゃんと一緒に、ただいろんな所を旅して回る事を楽しんでいた。ポケモンゲットにもあまり興味はなくて、気が向いたらイーブイちゃんでバトルするって感じだった。
 そんなあたしに転機が訪れたのは、今まさにヒカリちゃん達が向かおうとしている、キッサキシティに来た時だった。
 たまたまあたしはそこでポケモンバトルをしていたんだけど、そのバトルセンスを急に評価されて、キッサキジムのジムリーダーにならないかって言われた。ジムリーダーって言うのには今まであまり興味がなかったけど、どんな風な仕事なのか、あたしは興味が湧いた。だからあたしは、そのスカウトを受け入れた。
 スカウトって言っても、すぐにジムリーダーになれる訳じゃない。何人かの候補がいて、ある程度の訓練を受けてから、一番成績のいい人がジムリーダーになれる。そんなシステムだった。その候補の中に、その人がいた。
 その人の名前は、スズナ。
 キッサキシティのトレーナーズスクール出身の女の子で、何かと「気合」って言葉をよく使って、勝負事には熱くなる人だった。だから、訓練ではいつもあたしも含めた他のメンバーに絶対に負けないって張り切っていた。
 でも、ひとたび訓練が終わると、普通の女の子だった。あたしとスズナはすぐに仲が良くなって、訓練以外の時でも積極的に会うようになった。そして、イーブイちゃんをグレイシアちゃんに進化させてくれたのも、スズナだった。気が付けば、スズナはあたしのよきライバル兼、よき友達になっていた。
 訓練の成績はあたしの方が優秀で、周りはあたしがジムリーダーになる事がほぼ確定したような話ばっかりしていた。そして気が付けば、あたしはこおりポケモンに興味を持つようになっていて、いつしか『氷の魔女』って呼ばれるようになっていた。でもその時になって、あたしはジムリーダーになるのはやめるって言った。

「ミライ、どうしてジムリーダーにならないって決めたの!?」
 あたしの後ろにいるスズナが、そう聞いた。
「なってくれなきゃイヤなの? スズナから見れば最大のライバルが消える事になるんだから、逆に喜ぶと思ってたんだけどなあ、なんてね!」
「だって……もうジムリーダーになれるって、確定したも同然って言ってたじゃない! あの時の気合、どこに行っちゃったのよ?」
 あたしはジョークで答えたけど、スズナは真剣な表情を見せていた。そんな表情を見たあたしは、あたしの本心を言う事にした。
「……確かに、ジムリーダーになるのも悪くないと思うわ。でもね、あたし気付いたのよ。これは、あたしが本当にやりたい事じゃないって。興味本位でジムリーダーの訓練受けてみたけど、やっぱりあたしは、いろいろな場所を旅して回る方がいいってわかったのよ」
「ミライ……」
「でも、ここも楽しかったわ。スズナがいてくれたお陰でね」
 そう言った途端、スズナが驚いた表情を見せた。
「イーブイちゃんがグレイシアちゃんに進化したお陰で、あたしは新しいポケモンも持てたんだし」
 あたしは1個のモンスターボールを取り出して、それを眺めた。この中には、この辺りでゲットしたポケモン、ニューラちゃんが入っている。
「スズナ、今までありがとう。ここでの経験、あたし忘れないから。もしスズナが気合でジムリーダーになれたら、必ず行くからね」
 あたしは改めてスズナの顔を見て、一番言いたかった事を言った。そして、あたしは顔を正面に向けて、歩き出した。
 気が付くと、目から涙が流れていた。きっとスズナも、同じに違いない。
 この時の雪は、あたしの記憶に今でも強く焼き付いている。

 * * *

「そんな事があったんですか……」
 話を聞いたヒカリちゃんが、そうつぶやいた。
「エテボースもきっと、いろんな所を旅して回りたいんだと思うわ。だからサトシにゲットされてからヒカリのポケモンになって、そしてポケモンピンポンの選手になった。エテボースも、あたし達と同じ、旅人なのよ」
 そう言った後、ヒカリちゃんが旅人、とあたしの言葉を繰り返した。
「だからヒカリちゃん、見捨てたなんていうのは杞憂よ。エテボースは、ヒカリちゃんを見捨てるはずはないもの。だって、時間は短くても、一緒に1つの目標を目指して旅をしていたポケモンなんだからね!」
 あたしがそう言った時、テレビで気になる声が流れた。
『ところでオウさん、最近新しいポケモンを選手として加えたようですが?』
『はい、このエテボースがそうなんですが、まだ新しい環境に慣れていないようで、調子が出ないんですよ。ひょっとしたら、前の「親」が恋しいのかもしれません』
 テレビでは、偶然というか都合よくというか、ポケモンピンポンの事をやっていた。そこに映っている選手が紹介しているポケモンは、紛れもなくエテボースだった。あたしも見覚えのあるそのエテボースは、どこか寂しそうな表情を見せて座っている。そんな姿を見て、ヒカリちゃんが反応した。ヒカリちゃんのエテボースに、間違いなさそう。
「このエテボース、ヒカリンの名前つぶやいてるよ」
 ミホが、そんな事を言った。その言葉を聞いて、ヒカリちゃんはようやくエテボースの気持ちに気付けた様子。さっきも見せた、ポケモンの言葉がわかるミホちゃんの能力が、まさかここで役に立つなんて。
「エテボース……」
 そうつぶやくヒカリちゃんの目から、涙がこぼれていた。そんなヒカリちゃんの肩を、あたしはそっと叩いた。
「これでわかったでしょ。エテボースがヒカリちゃん達の事、見捨ててないって事がね」


NEXT:FINAL SECTION

[825] FINAL SECTION 取り戻せ! エテボースのボール!
フリッカー - 2009年06月05日 (金) 17時48分

「話は済んだかい?」
 ミライさんの話が終った所で、タケシの声が聞こえてきた。見るとそこには、ポフィンを載せたお皿を持つタケシがいた。その隣にはサトシもいる。
「タケシ、サトシ。何してたの?」
「いや、ミホがポフィンを作っていたから、ついでに俺もポフィンを作ってたんだ」
 タケシが持っているのは、タケシ自身が作ったポフィンだった。料理やポケモンフーズを作るのがうまいタケシは、当然ポフィンを作る事もうまい。そのおいしさといったら、あたしが作ったものなんて、遠く及ばないほど。
「材料の木の実を変えてみたんだ。ヒカリのポケモン達に味見してもらってもいいか?」
 タケシはあたしにそう聞いた。でも、あたしが答える前に、他の声が答えた。
「いいよ。あたしが味見してあげる!」
 それはなんと、ミホだった。タケシは驚いて、ミホに顔を向ける。
「ちょ、ちょっと、ミホが味見してどうすんのよ?」
「ポフィンはポケモンの食べ物だ、人が味見したって口には……」
「いいのいいの!」
 ミホはあたしとタケシの言葉も聞かないで、一方的にそう言うと、勝手にお皿のポフィンを1個取って、口に入れちゃった。そして、よく噛んで味わっている。でも、タケシの言う通り、ポケモン用のポフィンを人が食べても、おいしくはないんだけど……
「……うん! 結構いけるわこれ! ヒカリンのポケモン達も喜ぶんじゃない?」
「ええっ!?」
 ミホはおいしそうな顔を見せている。その反応には、あたしもタケシも驚いた。ポケモンの食べ物を食べておいしいって言う人なんて、初めて見た。ミホってひょっとして、味オンチだったの?
「おっ、エテボースじゃないか! でも何だか元気がなさそうだな……」
 その時サトシが、テレビに映るエテボースを見てそうつぶやいた。それを聞いたタケシも、テレビに目を向けた。
「ひょっとして、ホームシックになってるんじゃないか? とにかく、これでヒカリも安心しただろ? エテボースは俺達を見捨てた訳じゃないって」
 タケシの顔が、こっちに向いた。あたしはうん、とうなずく。
「そうだヒカリ、エテボースに手紙を送らないか? 俺達は元気にしてるってさ」
 するとサトシが、そんな事を提案した。
「いいわね、それ!」
 サトシのアイデアはナイスだと思った。手紙を送ってエテボースを励ましてあげれば、エテボースも元気になるはず!
「……あっ!!」
 その時、あたしは今まで忘れていた、大事な事に気付いた。
「エテボースのモンスターボール!!」


FINAL SECTION 取り戻せ! エテボースのボール!


「エテボースのモンスターボールが……どうしたの?」
「エテボースのモンスターボールが、ない!!」
 ミライさんの言葉に、あたしはそう続けた。
 そう、何気なくエテボースのモンスターボールを取り出そうとしたら、ない。
 よく思い返してみる。そういえば、ここに入る前にロケット団が現れた時、間違ってエテボースのモンスターボールを投げちゃって、それから……そのままロケット団が持って、雪上車で逃げようとした所でミライさんが……
「ロケット団と一緒に雪上車の中だわ!!」
 たどり着いた結論を、あたしはそのまま口に出した。
「どういう事なの?」
「ミライさんが来る前、あたし、間違ってエテボースのモンスターボールを投げちゃって、それをロケット団が取っちゃったまま……」
「ええっ!? そりゃ大変じゃない!!」
 ミライさんが声を上げた。これは一大事。一度は氷漬けにして止めたロケット団を、また元に戻してボールを取り返さなきゃならない。でもそうしなきゃ、ボールは取り返せない。
「一度凍らせた奴らを溶かして取り返すなんて、厄介な事になりそうね……」
「とにかく、取り返しに行こうぜ!!」
 こうして、あたし達の意見は一致した。

 * * *

 あたし達はコートを着て、雪を踏みしめながらポケモンセンターに向かった道を逆に進んでいた。
 雪は弱く降っている。でも、吹雪とまではいかなくても、風が比較的強め。だから、結構寒く感じる。
「ううっ、寒〜い!」
 あたしの後ろにいるミホが、そうつぶやいた。
「それにしても、なんでミホまで来たの?」
 あたしは気になっていた事をそのまま質問した。ロケット団とバトルになる事はほぼ確実なのに、ポケモンを持っていないミホまで、勝手について来たから。
「だって、少しでもヒカリンの力になりたいから……」
「でもポケモン持ってないんじゃ、何もできないじゃない?」
「でもさ、でもさ……!」
「お話はそこまでにして。雪上車があったわよ」
 あたしとミホがやりとりしていると、ミライさんがそう言われて、口を止めた。
 ミライさんが見つめる先には、あの時氷漬けになったまま雪を被っているロケット団の雪上車があった。氷が解けてる……わけないか。雪上車の中からも壊せるとは思えないし。
「よし! ヒコザル、君に決めた!!」
 サトシがモンスターボールを取り出して、それを投げると、中からヒコザルが飛び出してきた。
「ヒコザル、“かえんほうしゃ”だ!!」
 サトシが雪上車を指差して、指示を出した。その指示通りにヒコザルは、雪上車に向けて口から火を噴いた! ヒコザルの炎は見る見るうちに雪上車の氷を溶かしていく。場所も変えながらまんべんなく炎を浴びせていくと、雪上車を封じ込めていた氷はたちまちなくなっていった。
 すると、雪上車の運転席の上にあるハッチがゆっくりと開いて、中からロケット団の2人と1匹が姿を現した。
「ふえーっ、やっと出られた……」
 2人と1匹は、素潜りから戻って浮かんできた時のように、深く息継ぎをしていた。ずっと密閉状態だったからか、中は相当苦しかったみたい。
「あっ、ジャリンコ!!」
「おミャー達が氷を溶かしてくれたのかニャ!?」
 すると、ロケット団はあたし達がいる事に気付いて、声を上げた。中にいる間は、どうして氷が溶けたのか、わからなかったみたい。自由になったロケット団は、こっちに仕掛けてくるはず……! あたしはいつでもバトルができるように、身構えていた。
「とにかく、助けてくださってありがとうございました〜!」
 するとロケット団は、急にその場で土下座をして、お礼を言った。それを聞いたあたしは、拍子抜けしそうになった。
「おいおい、俺達はお前達を助けに来たんじゃないんだ!」
 ロケット団に言ったサトシの言葉を聞いて、あたしは何とか気持ちを立て直す事ができた。そしてあたしは、サトシに続けて言った。
「エテボースのモンスターボール、返してもらうわよ!!」
「エテボースのモンスターボール?」
「エテボースが入ったモンスターボールなんて、持ってないニャ」
「もしかして、この空のモンスターボールの事じゃないか?」
「じゃあ、なんで空なのよ!」
 ロケット団は、そんなやり取りを始めた。コジロウが取り出したのは、間違いなくあたしが探していた、エテボースのモンスターボール。でもロケット団は、『エテボースが入っているモンスターボール』って勘違いしてるみたい。
「あの3人が『ロケット団』って奴なの、ヒカリン?」
 ミホがあたしにそう聞いた。するとロケット団は、その言葉に急に反応して、立ち上がった。
「『あの3人が「ロケット団」って奴なの』の声を聞き!!」
「その通りだと答え、やって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
 そして、またいつもの自己紹介が始まった。でもミホは、少しきょとんとした顔で見ていたけど、すぐにあたしに顔を向けた。
「何なの、あの人達? どっかの芸人さん?」
「違うわよ! ポケモンを盗もうとする、悪い奴らなの!」
「ええっ!? そんな奴らなの、あれが……!?」
「そういう奴らなのよ。いっつもあたし達をしつこく追いかけてくるのよ……」
 ロケット団が勝手に自己紹介を続ける中で、ミホが聞いてきたから、あたしはミホに答えていた。
「私語は慎みなさーいっ!!」
「集中して最後まで聞けーっ!!」
 すると、聞いてくれない事に怒ったのか、まるで授業中の先生みたいな事を怒鳴ったムサシとコジロウ。それにあたし達は驚いて、話すのをやめちゃった。それを確かめた後で、2人はエヘンと咳払いを1つして、自己紹介を続けた。
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役は、あたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
 いつものように、そう言って自己紹介をしめくくったロケット団。でもミホの反応は、冷たいものだった。
「……だから何?」
 その言葉を聞いた途端、ロケット団は一斉に凍りついた。そして、いつもよりやけに冷たく感じる風が、1つ吹いた。
「せっかく自己紹介したのに、そんな言い方はないでしょーっ!!」
 ムサシがキレて、ミホに怒鳴りつける。でもミホも負けじと、怒鳴って言い返す。
「あんた達の自己紹介、センスなさすぎなのよーっ!! どうせやるなら、もっとカッコよくできないのーっ?」
「センスがないだとーっ!? もう1回言ってみろーっ!!」
 コジロウも巻き込んで、あっという間にミホとロケット団の言い争いが始まった。その様子を唖然とした様子で見つめるサトシ達。でも、そんな事で言い争ってたって、本当の目的は解決できない。しょうもない言い争いを聞いていると、何だかイライラしてきた……!

「や、め、な、さーーーーーーーーーいっ!!」

 あたしは出せる限りの声で、そう叫んでやった。その一声で、ロケット団とミホは驚いて、一瞬で静かになった。これでやっと本題に入れる。あたしはコホンと咳払いをして喉を整えた後、本題に入る。
「とにかく、あたしが返してほしいのは、あんたが持ってる、そのモンスターボールよ!!」
 あたしははっきりと指差して、そう言ってやった。するとロケット団もようやく、コジロウの持ってるボールがあたしの探しているボールだった事に気付いた様子。
「ほら、やっぱりこのモンスターボールだったじゃないか! どうせこんなもの持ってたって、何も役に立たないし、さっさと……」
「ちょっと待つニャーッ!」
 コジロウがあたしにボールを返そうとしたけど、なぜかニャースが止める。そして急に、2人と1匹で集まって、何やらひそひそ話を始めた。そして話が終わったのか、また正面に体を向き直した。
「このモンスターボールを返してほしいなら、おミャー達のポケモンをこっちに渡すのニャ!!」
 ニャースは突然、突拍子のない事を言い出した。嫌な予感が少ししたけど、遂にロケット団、本性を現したわね……!
「なんでそうなるの!! そんな事、できる訳ないじゃない!!」
「なーに言ってるのよ? これは『交換条件』って奴よ?」
「これほど平等な事はないと思うんだがなあ?」
 あたしが言い返しても、ムサシとコジロウが言い返して笑うだけ。そんなの交換条件じゃないって言いたかったけど、あのロケット団の事だから、言ってもムダそう。これからどうしようか、あたしは考え始めた。
「隙ありニャ!!」
 するとニャースがいきなりそう叫んで、取り出したリモコンのスイッチを押した。すると、雪上車から2本のマジックハンドが飛び出した。マジックハンドは一瞬で、ピカチュウとポッチャマを鷲掴みにした!
「ああっ!?」
「ニャハハーッ!! ピカチュウとポッチャマ、まとめてゲットなのニャ!!」
 ニャースが高らかに叫んだ。すると、ピカチュウとポッチャマを鷲掴みにしたマジックハンドが、雪上車に引き込まれていく。このままじゃ、また……!
「ポッチャマ!!」
「ピカチュウ!!」
 あたしはすぐに、サトシと一緒に引き込まれるマジックハンドを追いかけた。そしてあたしは、ポッチャマを掴むマジックハンドの手首につかまる。サトシもピカチュウを掴むマジックハンドの手首につかまっている。
「サトシ!! ヒカリ!!」
「2人共!!」
「ヒカリン!!」
 残った3人の声が聞こえた。あたし達はそのまま、マジックハンドで雪上車の中へと飲み込まれていった。

 マジックハンドで引きずり込まれた場所は、銀色の壁と天井しかない、広くて薄暗い部屋だった。
 マジックハンドからほどかれたあたし達は、そのまま床に乱暴に落とされた。そしてマジックハンドは、壁の中へと引き込まれた。
「みんな、大丈夫か……?」
「ダイジョウブ……」
「ピカ……」
「ポチャ……」
 サトシの言葉に答えるあたし達。ポッチャマもピカチュウも、無事だった。
「おいおい、おまけまでついて来ちゃったぞ!?」
 すると、奥からコジロウとムサシの声が聞こえてきた。見ると、壁の1つに小さな覗き窓があって、そこからロケット団が顔を覗かせている。どうやらこの壁の向こうは運転席みたい。
「ロケット団!! ここから出せ!!」
「やーなこった!! ここは乗りかかった船よ、このまま適当な場所まで連れていっちゃいましょう!」
 サトシが叫んでも、いつものようにムサシはアカンベーをするだけ。こうなったら、何とかしてここから抜け出すしかない。
「ヒカリ、こうなったら強行突破だ!」
「ええ!」
 あたしはサトシとそうやり取りをすると、指示を出した。
「ピカチュウ、“アイアンテール”だ!!」
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 ピカチュウは尻尾で壁を叩いて、ポッチャマは壁に向かって“バブルこうせん”を発射! でも銀色の壁は、ビクともしない。ヒビ1つ入らない硬さ。
「ムダニャムダニャ! この壁は頑丈にできているのニャ! そう簡単には壊れないのニャ!」
 ニャースが高笑いした。
 その時、壁の向こうで何か音がした。そして、ロケット団の驚く声が聞こえた。誰かが入ってきた?
「お、お前は!!」
「エ、エルレイドニャ!!」
 え、エルレイド? あたしは気になって、覗き窓から運転席の様子を見てみた。見るとそこには、確かにやいばポケモン・エルレイドがいる。でも、ただのエルレイドじゃない。普通は緑色の部分が、水色になっている。その体は、一瞬キラリと光っているようにも見えた。色違いのエルレイド。こんな時に野生ポケモン?
 そう思っていると、エルレイドが身構えた。その顔は、怒っているように見える。そしてエルレイドは、何やらロケット団に言っている。でも、その声はやけに高かった。オスしかいないはずのエルレイドが、あんなに高い声出せるの? それにその声は、聞き覚えのあるような……
「な、何なんだコイツ!? ニャース、何て言ってるんだ?」
「『さあ、やっちゃうよ!!』……って来たニャーッ!!」
 ニャースが言葉を通訳する間もなく、エルレイドはロケット団に殴りかかっていった。たちまち運転席はドタバタ騒ぎになる。具体的にどうなっているのかは、視界の狭い覗き窓からじゃ見る事ができない。
「何が遭ったんだ?」
「何だかわからないけど、エルレイドが乱入してきて……」
 後ろにいるサトシが聞いてきたから、あたしは答える。
「とにかく、俺達は早くここから抜け出さないと!!」
「あ、うん!!」
 サトシの言葉を聞いて、あたしは今やるべき事を思い出した。エルレイドがロケット団の気を逸らしている間に、あたし達は抜け出せる。頭のスイッチを元に戻さないと!
「マンムー、お願い!!」
 あたしはすぐにマンムーを出した。部屋はマンムーが入れるほど余裕があったし、壁を突き破るには、マンムーのパワーしかないと思ったから。
「マンムー、“とっしん”よ!!」
 マンムーは、そのパワーを活かして、壁に全ての力を込めて突撃した! ドンと壁に衝撃が走ると、覗き窓が割れて、壁が大きくへこんだ。これなら行ける! そしてもう一撃! すると、マンムーの体は壁を貫通して突き破った! やった!
「うわっ、壁が壊れた!?」
 エルレイドと乱闘していたロケット団が手を止めて、こっちに気付いた。一方のエルレイドは、なぜか嬉しそうな表情を見せていた。
「マンムー、“げんしのちから”!!」
 あたしは指示を出した。マンムーは“げんしのちから”を、ロケット団に向けて至近距離で発射!
「うわああああっ!!」
 爆発! たちまち運転席もろとも、ロケット団は外の雪原に吹っ飛ばされた。あたしはすぐに、運転席が吹っ飛んだ雪上車から降りる。
「サトシ!! ヒカリ!!」
 そこに、タケシとミライさんが駆け付けてくれた。
「タケシ!! ミライさん!!」
「こっちからじゃ下手に手出しできないから、どうしようか困っていたのよ……それより、ミホちゃんは?」
「え?」
 ミライさんがいきなりそう聞いて、あたしは何の事だかわからなかった。でも確かに、さっきまでいたはずのミホの姿がない。
「さっき、2人を助けようとして、雪上車に飛び込んで行ったんだけど」
「そんな、ミホは見ていません。野生のエルレイドなら、飛び込んできましたけど……」
 あたしがそう言った途端、目の前にいきなりエルレイドの姿が現れた。“テレポート”。その姿には、タケシもミライさんも驚いた。
「くーっ、こうなったら力ずくでもゲットするわよ!! 行くのよハブネーク!!」
「マスキッパ、お前もだっ!!」
 すると、ムサシとコジロウのそんな声が聞こえてきた。はっと後ろを振り向くと、そこにはムサシが繰り出したハブネークと、コジロウの頭に噛み付いているマスキッパがいた。いけない、こんな話してる場合じゃない! すぐに応戦しないと!
 でもその時、エルレイドがあたしの前に出た。そしてロケット団の前で身構える。
「エルレイド……あたし達に味方してくれるの?」
 まさかと思ってそう聞くと、エルレイドはわざとらしくウインクをした。それを見ると、あたしはなぜか、このエルレイドの事を知っているような気がした。味方する理由はわからないけど、信用してもダイジョウブそう。
「何なの、あのエルレイド?」
「こんな所に野生のエルレイドなんて、いるのか?」
 ミライさんとタケシが、そんな疑問をつぶやいていた。
 そんな2人をよそに、エルレイドはロケット団に向けて、「来い」と言ってるみたいに、笑みを見せながら右手を突き出して、指を動かす。
「何アイツ!? まだやる気なの!! それなら受けてやるわ!! ハブネーク、“ボイズンテール”!!」
「マスキッパ、“かみつく”だ!!」
 ハブネークとマスキッパが、風を巻いてエルレイドに襲いかかろうとする。
 でもエルレイドはその瞬間、体がいくつにも分身させ始めた! “かげぶんしん”! 突然増えたエルレイドの姿に、2匹は戸惑って動きを止める。その隙を見たエルレイドは、肘の刃を伸ばして2匹に向かっていった! 当然分身も、同じ動きをするから、エルレイドの軍団が一斉に切りかかりに行っているように見える。一斉に襲い掛かってくるエルレイドのどれが本物なのかわからないまま、ハブネークとマスキッパは切り刻まれていく。そして2匹の前で動きを止めたエルレイドの影が1つに結集した瞬間、2匹は崩れ落ちた。戦闘不能。あっという間の出来事だった。強い……!
「つ、強い!」
「あのエルレイド、かなりやるぞ!」
 サトシとタケシが声を上げた。するとエルレイドの刃が、光り始めた。パワーを蓄えている。ここで大技を決めるつもり?
「あれは、“サイコカッター”だ!!」
 タケシが叫んだ。でもそれを聞いた瞬間、ミライさんの表情が変わった。
「ちょ、ちょっと待って!! そうしたら……!!」
 ミライさんが叫ぶのをよそに、エルレイドは光る刃を勢いよく降る。すると刃から衝撃波が出て、ロケット団に向けて飛んでいく! 倒れたハブネークとマスキッパを巻き込みながら、真っ直ぐロケット団に向かっていく! そして大爆発!
「何なのよ、あのエルレイド!!」
「あいつ、俺達に一体何の恨みがあったんだ?」
「まさか……あの口調はまさか……そんなはずはニャいか」
「やな感じいいいいいいいっ!!」
 ロケット団はいつものように、声を上げながら空の彼方へと消えていった。それを見送ったエルレイドは、わざとらしく目の前でポーズを決めた。

 その時。
 どこからか、ゴゴゴゴと、地面が動くような音が聞こえてくる。あたしは何だか、嫌な予感がした。
「……何?」
「これは、まさか……」
 タケシがつぶやいた時、目の前から何か白いものが迫ってきているのが見えた。それは、白い波。という事は……
「雪崩よ!!」
 ミライさんが叫んだ。
 そうだ、エルレイドは野生ポケモンだから、雪山までバトルするななんて事は知らない。それでバトルをして、爆発でロケット団を吹っ飛ばしたせいで……!
「とにかく、逃げろーっ!!」
 サトシの一声で、あたし達はすぐに一目散に逃げ出した。雪崩に巻き込まれたら、まず助かる保証はない。でも、雪に足を取られて思うように走れない。その間にも、雪崩はものすごいスピードで迫ってくる。それどころかそのせいで、あたしはつまづいて転んじゃった。
「ヒカリ!!」
 サトシの声が聞こえた。あたしはすぐに立ち上がろうとしたけど、その時にはもう、雪崩が目の前にまで迫っていた!
 ああ、このままあたしは雪崩に飲み込まれて……! あたしは覚悟を決めて、目をつぶった。

 ……?
 迫ってくるはずの雪崩が、なぜか来ない。体を飲み込まれた感覚もない。
 目を開けて見てみると、あたしの目の前に誰かが立っている。でもそれは、人じゃない。
「エルレイド……?」
 さっきのエルレイドだった。その目の前で、雪崩があたし達の周りをよけて流れ落ちている。そのエルレイドの目は、ぼうっと光っていた。あれは、“ねんりき”……!
 そしてそのまま、雪崩はあたし達の横を完全に流れ切った。周りはまた、静かな雪景色に戻る。
「ありがとう、エルレイド」
 あたしはエルレイドにお礼を言った。するとエルレイドは、ウインクしながら右手でサムズアップをしたと思うと、いきなりその場を飛び出していった。
「あっ、待って! どこに行くの?」
 あたしが呼びかけても、エルレイドは止まらない。雪に足を取られながらも、森の木の裏へと姿を消した。あたしもすぐに後を追いかける。こっちも雪で思うように追いかけられないけど、幸い足跡が残るから、それをたどっていけば追いかけるのは簡単。
 足跡は、木の裏に伸びている。あたしは足跡をたどってたどり着いたその木の裏を見てみようとした。
「ハーイ!」
 するといきなり、目の前に人の手が出てきて、あたしは驚いて尻もちを付きそうになった。そこにいたのは、エルレイドじゃなくて、いつの間にかいなくなっていたミホだった。
「ミ、ミホ!? こんな所で何してるの!?」
「さあ……よくわかんない。気が付いたら、ここにいたの」
 笑顔で返すミホの答えはよくわからないものだった。何か怪しい。足元を見ていると、エルレイドの足跡がミホの足元まで伸びて、止まっている。という事は、まさか……
「もしかしてさっきのエルレイド、ミホのポケモンだったの?」
「え、エルレイド? 何の事? 言ったじゃない、あたしはポケモン持ってないって」
 ミホは、マジシャンが手品の前に仕掛けがない事を示す時みたいに、両手の平を広げてあたしに見せる。
「でも、足跡ここまで続いているじゃない?」
 あたしはミホの足元まで続く足跡を指差した。するとミホは少しギクッとした顔を見せたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「きっと“テレポート”したんじゃない? だから足跡途切れちゃってるのよ」
「ああ、そっか……」
 ミホの言葉を聞いて、あたしは納得した。実際エルレイドは、“テレポート”を使っていた。それを途中で使ったなら、足跡が消えちゃうのも納得。
「じゃ、行こっ!」
 ミホはそう言って、あたしの背中を押して、あたしが元来た道を無理やり逆に進まされた。まあ、ミホが無事だった事はよかったけど、エルレイドがなんであたしを助けたのかも、気になる。
 そう考えていたあたしは、気付かなかった。ミホが、エルレイドの絵が描かれているコインを手に持って眺めていた事には……

 * * *

 エテボースへ
 元気にしてる? ポケモンピンポンの練習、がんばってる?
 あたし達はみんな元気で旅を続けているわ。サトシはもう近いキッサキシティのジム戦に向けてがんばっているし、あたしもタツナミ大会の反省を活かして、新しいパフォーマンスを練習しているから。
 そんなエテボースに、1つ報告したい事があるの。
 あたし、ポケモンコンテスト・エキシビションに招待されちゃったの! ポケモンコンテストで3回以上優勝したコーディネーターの中で選ばれた者だけが出場できる、採点や順位付けをやらない特別実演のポケモンコンテスト。これに出場できる事は、すごく名誉な事なの! だからあたし、張り切って練習に励んでいるの!
 開催されるのは1ヶ月後のクレナイシティ。必ずテレビでやると思うから、あたしの演技を、エテボースにも見てもらいたいの。ポケモンピンポンでがんばってるエテボースにも、元気を与えられるような、そんな演技をしたいから。だから、ポケモンコンテスト・エキシビション、絶対に見て!

 最後に。
 エテボース、あなたがポケモンピンポンでもコンテストと同じように活躍できる事を、あたし信じているから。ダイジョウブ!

 みんなを代表して、ヒカリより

 * * *

 あたしはそう手紙に書いて、送った。
 これを読んでくれたら、エテボースもきっと、元気になってくれるハズ。
 さあ、そのためにも、ポケモンコンテスト・エキシビションへの練習、がんばらないと!

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY30:THE END

[826] 次回予告
フリッカー - 2009年06月05日 (金) 17時49分

 ママにミホの事を話したら、とんでもない事実が明らかに!

「ミホちゃんは旅の中で、野性ポケモンに襲われて亡くなったって聞いたけど……?」
「ええっ!?」
「じゃあ、あのミホは……幽霊!?」

 そんな時、あのポケモンハンターJが再び! その狙いは……

「なぜその姿のままでいる? その姿のままでは戦えないだろう?」
「な、何の話かしら……?」
「ミ、ミホ!? なんでJに!?」

「そろそろ正体を現してもらうか!! ドラピオン、“クロスポイズン”!!」
「きゃああああっ!!」
「ミホ!!」

 その時、ミホの本当の姿が明らかになった!

「ミホの体が……溶けてる……!?」
「いや、あれは……青いメタモンだ!!」

 NEXT STORY:ヒトという名のポケモン

「嘘……ミホが……メタモン!?」

 COMING SOON……



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