[817] SECTION06 Zファイルの秘密! |
- フリッカー - 2009年05月19日 (火) 18時56分
「『Zファイル』とは、何なのですか?」 私は、目の前を右に左に歩くゲイリーに聞きました。いくら私を人質に取っている相手とはいっても、『Zファイル』というものが何なのか、私は無性に知りたかったんです。 「ほう……同じベルリッツ家の人間なのにZファイルの事は知らないと来たか……まあ、Zファイルの事は奴らの中でも一握りの人間しか知らないみたいだからな。お前が知らないのも無理はない」 ゲイリーは私の前を歩きながら、自信あり気に言いました。 「簡単に言えば、『ポケモンの秘密を解く技術が封印されているファイル』さ」 ゲイリーの顔が、こちらに向きました。その言葉は、さっきも聞きましたが…… 「それは一体何なのですか?」 「……知りたいか?」 ゲイリーは私をじらすように、逆に聞き返しました。私ははっきりとうなずきました。 「それなら教えてやるよ。お前の爺さん、クロム・ベルリッツが残した、物凄え発見の事をな!」 ゲイリーは語り始めました。
SECTION06 Zファイルの秘密!
製鉄牧場の前を封鎖する警官達が、急に慌ただしく動き始めた。 「何の騒ぎだ?」 「何か動きがあったんじゃないか?」 すると、目の前で1台の自動車がやってきて、あたし達の目の前で止まった。それは、きれいな白い自動車で、結構高級そうな印象があった。その運転席のドアが開いて、1人の男の人が降りてきた。眼鏡をかけていて、茶色のコートの下には、しっかりとしたスーツを着ている。その人の側に、ジュンサーさんが駆け寄ってきた。 「あなたが、コバルト・ベルリッツさんですね?」 「はい、そうです」 ジュンサーさんの質問に、男の人ははっきりと答えた。コバルト・ベルリッツ!? って事は、プラチナのパパ? 「犯人が要求するものを、ここに持ってきた……」 そう言いかけて何か取り出そうとした時、偶然コバルトさんの顔がこっちに向いた。そしてコバルトさんは当然、驚いた表情を見せた。ま、まさか……! 「プ、プラチナ!? どうしてここにいるんだ!? いつ助け出されたんだ!?」 コバルトさんは、いきなりあたしに詰め寄ってきて、そんな事を聞いてきた。やっぱり思った通りだった。コバルトさんは、あたしの事をプラチナだと間違えてるみたい…… 「ち、違います!! あたしは……」 「どういう事なんだ!? 娘はまだ人質に取られているんじゃなかったのか!?」 あたしがすぐに違うと話そうとしても、コバルトさんはそう警官に対して怒鳴り付ける始末。完全にあたしが話す隙はなかった。 「待ってください! 彼女は、プラチナのそっくりさんなんですよ」 そこをとっさにフォローしたのは、やっぱりタケシだった。それを聞いて、コバルトさんはようやく言葉を止めた。そして、目を見開いて、改めてあたしの顔を見る。 「そ、そうだったのか……ごめんごめん。あまりにそっくりだったものだから、つい……」 「本物の自分の子供もわからないんですか?」 コバルトさんは謝ったけど、あたしは少しいらっとして、思わずそうぼやいた。
その事がきっかけで、あたしはコバルトさんとプラチナとの関わりについて話をした。 たまたまあたし達は、プラチナがやってきていたこのロクショウシティに来ていた事。その時、今プラチナを人質に取った黒ずくめの集団に、あたしがプラチナと勘違いされた事。そのいざこざの中で、あたしとプラチナが偶然会った事を。 「そうだったのか……それで君達は、プラチナと友達になって、ここを訪れていたっていう事なんだね」 コバルトさんは納得してうなずいた。 「それにしてもコバルトさん、あいつらが狙っているものって何なんですか? その、『Zファイル』とかって、一体どんなものなんですか?」 あたしは一番疑問に思った事を、コバルトさんに聞いてみた。それを聞いたコバルトさんは、一瞬驚いた様子を見せたけど、すぐに口を開いた。 「自分の父さんが生み出した、最重要機密を封印しているファイルだ」 「最重要機密!?」 その言葉を聞いて、あたし達の声が合わさった。コバルトさんのパパって事は、プラチナのおじいちゃんって事だよね。 「父さんが生み出してしまった、ポケモンの秘密を解く技術が封印されているんだ。詳しい事は言えないが、それは悪にも転がりかねない技術なんだ」 「悪にも、転がりかねない……」 コバルトさんの表情を見て、あたしは改めてゲイリーがどんな要求をしているのかを理解できた。プラチナと引き換えに欲しいものは、ポケモンの秘密を解く、悪にも転がりかねない技術。それが何なのかは、具体的にはわからないけど、もし悪い奴らに使われたら、大変な事になるのは間違いない。 コバルトさんは、それと引き換えにプラチナを助けようとしている。あたしは事の重大さを、初めて理解できた。
* * *
事の始まりは、今から13年前の事だ。 お前の爺さん、クロム・ベルリッツは、ポケモンの体を研究していく中で、あるとんでもねえ発見をしたんだ。
ポケモンの細胞1つ1つに眠る、ポケモンの力の源を発見したんだ。
そいつはどこからやってきたのかわらない、起源不明の小さな小さな生命体だったんだ。そいつは生命体だけでなく、非生命のものにも命と実体を与え、ポケモンに強いパワー、わざのエネルギー源を与える。そして、その属性の違いで、タイプや覚えられるわざが決まる。 その摩訶不思議な共生生命体は、『P』と名前を付けられた。
その発見は大発見だった。 何せ、ポケモンの計り知れないパワーの源が、発見できたんだからな。その存在を実証できた者は、今まで誰もいなかった。 そしてもっと重要なのは、『P』が俺達人間の細胞にも属性こそ違うが潜んでいる事、そして『P』そのものが生命体だった事だ。 遺伝子操作技術を利用して、人の体から簡単に採取できる『P』を改良すれば、人の手で思うがままのポケモンを作り出せると、クロムは考えた。
そして、クロムが中心となって、人工ポケモンの開発が始まったんだ。 開発コード名『POkemon by aRtificial lIfe of new GeneratiON』、略して『ポリゴン』。『新世代の人工生命によるポケモン』って意味だ。 まずは非生命のものにも命と実体を与える特徴を活かし、パソコン上で作り出したデータの体に、こいつを与えたんだ。 そして見事、そいつは完成した。データの体だが実体を持ち、呼吸はしていないのに生きている、そして電脳空間に自ら出入りできる、常識で考えてありえねえポケモンの完成だ。 だが、これはあくまで第1段階。これに喜んだクロムは、さらなる能力をポリゴンに与えるべく、『本命』といえるシステムの研究を始めた。
長い研究機関を経て完成したそいつは、『ベルリッツ・システム』と名付けられた。 遺伝子操作技術で、ポケモンの体内にいる『P』を思い通りに変化させる事ができるシステムだ。 このシステムを組み込まれた暁には、ポリゴンは環境ごとに適応できるタイプと姿にデータの体を変化させる能力を持つ、今までの常識を超えたポケモンになるはずだった……
だが、それは途中まで行った所で、実現しなかった。 クロムが急に、ポリゴンの開発中止を決めやがったんだ。ポリゴンそのものに何も問題点はなかったにも関わらず、な。 クロムはこう言いやがったんだ。 「今になって気付いた。人の手でポケモンが作れるようになってしまったら、この技術を悪へと利用するものが必ず現れる。そうなってしまえば、ポケモンは人間に利用されるだけの存在になってしまう。この世界そのものが、ひっくり返ってしまいかねない。私はそんな事を望んではいない」とな。 そしてポリゴンは搭載されたベルリッツ・システムが不完全なまま、開発は中止。そして開発に使用された『ベルリッツ・システム』は、『P』の詳細なデータもろとも記録を全て抹消され、『なかった事に』された。そしてその記録は二度と使われる事がないように、1枚のファイルで厳重に封印された。それが、『Zファイル』だ。 そしてそのまま、クロム・ベルリッツは亡き人となり、『Zファイル』の存在も、闇に消えていった……
ゲイリーの口から発せられた言葉全てが、信じられないものでした。 ポケモンの細胞に潜む共生生命体『P』。その発見にともない開発された人工のポケモン、ポリゴン。それに使用された技術、『ベルリッツ・システム』。『Zファイル』には、そんな事が封印されていたなんて…… 「俺は、そんなポリゴンの開発チームの1人だった。ポリゴンが常識を超えたポケモンになる事を、俺は何より楽しみにしていた。だが、奴はそれを完成させないまま、グ術を全て封印しやがった……!」 ゲイリーが、右手をグッと握り、拳を作りました。それには、強い怒りがこもっている事に。私はすぐに気付きました。 「だから俺は、その時作られたプロトタイプのポリゴンを奪い、ここまで来た。全ては、完全なポリゴンを作り出すためにな……! だからそのために、協力させてもらうぜ、プラチナ・ベルリッツ……!」 ゲイリーの鋭い視線が、こちらに向きました。 彼が求める、完全なポリゴン。それがどんなものなのかは、私にはわかりません。ただ、彼の求めるものは、とてつもなく恐ろしいもののような感じがしました。 『研究は、人を幸せにするためのもの』 私はそう、お父様に教えられましたが、その研究が今、ゲイリーの手によって得体の知れないものに利用されようとしている事が、私は怖く感じました。
* * *
コバルトさんが、ゲイリー達が立てこもっている建物に、ゆっくりと向かって行った。警官達がしばらく様子を見て、安全を確かめてからコバルトさんを行かせたみたい。 コバルトさんの後ろには、ジュンサーさん率いる警官達が、いつでも飛び出せるように待機している。プラチナの安全が確保された隙を突いて、ゲイリー達を捕まえようって作戦みたい。でも、立てこもっている黒ずくめの人達も、何かしようものならすぐに行動に移せるようにしているかのように、窓から顔を覗かせて周りをうかがっている。まさに一触即発の状態。重い空気が、辺りに漂う。あたし達はその様子を、固唾を呑んで見守るしかなかった。 「ゲイリー!! いるんだろう!! コバルト・ベルリッツだ!! 約束のものを渡しに来たぞ!!」 コバルトが建物の入り口の前に出て、叫んだ。すると、入り口の大きなドアがゆっくりと開いて、中からゲイリーの姿が現れた。その横には、腕を後ろで縛られた状態のプラチナもいる。それを見たあたしは、すぐに助けに行きたい気持ちになったけど、下手に手が出せないのはわかっているから、その気持ちを押さえ込んだ。 「久しぶりだな、コバルト。例のものは持ってきてるんだろうな?」 顔を見せたゲイリーは、真っ先にそう聞いた。プラチナはその横で、お父様、と声を上げた。 「まずは娘を渡してくれ。そうしないと……」 「それはこっちのセリフだなあ。まずは持ってきたファイルが本物かどうか確かめてからだ。そうでなきゃ、娘は渡せねえ」 コバルトが言いかけた言葉の意味を、ゲイリーはそのまま返した。それを聞いたコバルトは、少し戸惑った様子を見せたけど、すぐに懐から何かを取り出した。それは、ケースに入った1枚のCDだった。そこに、『Z』の文字が書いてある。あれが『Zファイル』……! ゆっくりとそれをゲイリーに差し出すコバルトさん。それにゲイリーが手を伸ばした、その瞬間。
「ガーディ、“かえんほうしゃ”!!」 ジュンサーさんの声が響いた。すると、ジュンサーさんの側にいたこいぬポケモン・ガーディがサッと飛び出した。そしてゲイリーに向かって口から火を吹いた! それにゲイリーもすぐに気付いた。すぐに飛んできた炎をよける。人質のプラチナを離さないようにしながら、一歩後ずさりした。 「全員、突撃!!」 ジュンサーさんの指示で、警官達が一斉に建物に向かって突撃していった。 「そういう作戦だったのか……!」 ゲイリーはすぐに、懐から銀色の太い銃を取り出した。ボールシューター。それをガーディの方に素早く向けて、ポンと乾いた音と同時に、モンスターボールが発射された。そのモンスターボールが開くと、プテラが飛び出した。そして風を巻いて警官達に襲いかかった! プテラのスピードを前にして、警官達は一瞬怯む。そしてそれを合図にしたかのように、黒ずくめの集団も、一斉に建物から飛び出して、テッカニンを連れて警官達と正面からぶつかった! たちまち建物の前で大乱戦が始まった。それはもう、まるで戦争映画の1シーンみたいだった。 「俺達も行こう!!」 「ええ!!」 サトシの言葉に、あたし達はうなずいた。こうなったら俺達も黙っていられないとサトシも考えていたはず。それはあたしも同じだった。サトシを先頭に、あたし達は建物に向かっていった。あたし達だって、プラチナを助けてみせる! 「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 真っ先に攻撃したのは、ピカチュウとポッチャマ。黒ずくめの集団に撃ち込む。それに驚いた黒ずくめの集団の真ん中に穴が空いた。これで建物までの道が空いた。 でも、向こうも黙っていない。テッカニン達が、一斉にこっちに向かってくる! 「ポッタイシ、“メタルクロー”!!」 すぐにケンゴのポッタイシが応戦する。両手のツメを使って、近づいてくるテッカニン達を片っ端からなぎ払う。 「グレッグル、“どくばり”だ!!」 タケシもグレッグルを出す。グレッグルは口から放つ“どくばり”で、近づこうとするテッカニン達を近づけさせない。 とはいっても、テッカニンの攻撃も単純じゃない。近づけない事がわかると、黒ずくめの集団は“シャドーボール”の指示を出した。たちまち“シャドーボール”の雨あられ。あたしのすぐ側でも、“シャドーボール”が爆発した。衝撃で倒れそうになったけど、何とか踏み止まる。 「ヒカリ、大丈夫か?」 「ええ、何とか……」 サトシの言葉に答えた時、どこからか今度は別の光線が飛んできた。白い光線。それが、ポッチャマ達の目の前で命中すると、地面がたちまち凍りついた。 「“れいとうビーム”!?」 「じゃあ、別のポケモンが!?」 あたしはすぐにわかった。見ると“れいとうビーム”が飛んできた先には、何匹かのかぎづめポケモン・ニューラの姿があった。ニューラはすぐに、その素早さを活かして、こっちに間合いを詰めてくる! あたしとサトシは、反射的にもう1個モンスターボールを取り出した。 「ブイゼル、君に決めた!!」 「エテボース!!」 サトシが出したのはブイゼル、あたしが出したのはエテボース。身軽なポケモンの方がいいと思ってエテボースを選んだけど、偶然だけど交換したポケモン同士になった。 「ブイゼル、“アクアジェット”だ!!」 ブイゼルが“アクアジェット”で真っ先にニューラ達に切り込む。でも、そんなの見え見えの攻撃だと見たのか、ニューラに“れいとうビーム”の指示が入った。ニューラは“れいとうビーム”をブイゼルに向けて発射する。でもブイゼルはよけようとしないで正面から受け止める。たちまちブイゼルを纏う水が正面から凍っていく。それでもブイゼルのスピードは緩まない。氷の槍となったブイゼルは、そのままニューラに体当たり! ニューラは簡単に弾き飛ばされた。 「決まったぜ、『氷の“アクアジェット”』!!」 これぞブイゼルの得意技、『氷の“アクアジェット”』! あたしが考えたこの戦法を、ブイゼルはもうすっかりモノにしている。 あたしも負けてられない! あたしもエテボースに指示を出した。 「エテボース、“かげぶんしん”!!」 エテボースの体が、いくつにも分裂し始める。それを前にした2匹のニューラは、突然の事に戸惑う。この隙に! 「“ダブルアタック”!!」 分裂したエテボースが、一斉に“ダブルアタック”をかける。実際に攻撃しているのは1匹だけだけど、“かげぶんしん”しているからたくさんのエテボースに攻撃されているように見えて、ニューラは反撃がおぼつかない。それがあたしの狙い! ニューラはどうしていいかわからないまま、エテボースの分身が消えた頃には、ノックアウトされていた。 でもその時、目の前に凍ったままのブイゼルが倒れこんだ。 「しまった!!」 サトシの声が聞こえた。どうやら反撃に遭って、跳ね飛ばされちゃったみたい。凍ったままのブイゼルは、どうする事もできない。そこに、ニューラはツメを閃かせてブイゼルに向かっていく! 危ない! 「エテボース、ブイゼルを助けて!! “スピードスター”!!」 とっさにあたしはそう指示を出した。エテボースはブイゼルに向かってくるニューラに“スピードスター”を発射! それに驚いたニューラは、怯んで足を止めたから、ブイゼルは攻撃されずに済んだ。 「サンキュ、ヒカリ。助かったぜ」 そうお礼を言ったサトシに、あたしはこういう時は助け合わなきゃ、笑みを返した。 ブイゼルの氷を壊さないと、と思ってふと見ると、ブイゼルを覆う氷の先が、削れているのに気付いた。さっきの“スピードスター”が少しだけ当たって、氷を削っていたみたい。鋭くなっていて、まるで氷の剣のように見えた。それを見て、あたしははっとひらめいた。 「エテボース、凍ったブイゼルを持ってみて! ほら、こんな風に!!」 あたしはちょうど、細いものを両手で持つ時の手振りをエテボースに見せて、そう指示した。エテボースは少し驚いてたけど、言われた通り、エテボースは尻尾の手で凍ったブイゼルを持ち上げる。少し重さに戸惑っていたけど、エテボースはそれをしっかりと持ってみせた。エテボースが持つ凍ったブイゼルは、まさに氷の剣になっていた。 「何をする気なんだ?」 「ごめん、ちょっと乱暴かもしれないけど……」 あたしがそう言った時、ニューラが真っ直ぐこっちに向かってきた! あたしはとっさに指示を出した。 「思いっきり振って、なぎ払っちゃって!!」 あたしが指示すると、エテボースは持ち上げた氷の剣を、思いきり振った! それにニューラが驚いた時にはもう手遅れ。ニューラはたちまち氷の剣になぎ払われて、弾き飛ばされた。 「す、凄え……!! まるで氷の剣じゃないか!!」 さすがのサトシも、それには驚いていた。 「そうよ、たまたま端っこが削れていたから、こんな事できるんじゃないかなって、思って」 あたしは説明した。成り行きでできたとは言っても、ブイゼルの氷の剣は、かなりのリーチを持つ武器になっていた。これを振り回すエテボースに、ニューラ達はなかなか近付けない。結構強い。 「結構いけるじゃないか、これ!! なら俺も!!」 すると、サトシも何かひらめいたようで、エテボースに顔を向けた。 「エテボース、こんな風に持ってみてくれ!!」 サトシはエテボースに、鉄砲を持つような構え方を見せる。エテボースもそれを真似して、氷の剣の構え方を変える。氷の剣を横に倒して、まさに鉄砲を構えるような構え方になる。 「よし、そのまま狙いを定めるんだ!!」 ちょうどそこに、ゲイリーが繰り出したプテラが真正面から向かってきた。サトシの指示通り、エテボースは刃先をプテラに向けて、狙いを定める。 「ブイゼル、“みずのはどう”!!」 刃先がプテラに向いた時、氷の中のブイゼルが、“みずのはどう”を発射! 氷の刃先を割って、まさに鉄砲玉のように飛び出した“みずのはどう”。それに驚くプテラの顔面に、“みずのはどう”が直撃! 効果は抜群! 「今度は氷の鉄砲ね!!」 あたしは思わず声を上げた。またサトシは、あたしが考えた戦法を進化させちゃった。 たちまちプテラは地面に落ちる。飛ぶ力を失ったひこうポケモンなんて、ただの的にしかならない。そんなプテラを、エテボースはバッチリ狙っている。今がチャンス! 「今だブイゼル、“アクアジェット”だ!!」 氷の中のブイゼルの周りを、水が覆った。氷の中でブイゼルは、パワーを溜めている。それを表すかのように、氷の後ろが割れて、そこから勢いよく流れた水が吹き出した。 「行っけーっ!!」 サトシに合わせて、あたしも叫ぶ。すると、その声を力に変えたように、ブイゼルは氷を突き破って鉄砲玉のように飛び出した! そして起き上がろうとしたプテラに、ブイゼルは体当たり! 効果は抜群! 跳ね飛ばされたプテラはそのまま動かなくなっていた。戦闘不能! 「やったぜ!!」 「やったあ!!」 あたしとサトシは、思わず一緒に声を上げて、ハイタッチした。ただの筒になった氷を捨てたエテボースの前に、ブイゼルが戻ってきた。でもブイゼルは着地した途端、急にふらりと地面に倒れちゃった。 「あっ、ブイゼル!?」 「エテボースに散々振り回されたから、気持ち悪くなっちゃった……? ごめんブイゼル、乱暴な事しちゃって……」 あたしはすぐにブイゼルに謝った。するとブイゼルは右手を上げて、どうって事ない、って言ってるみたいに、少しだけ笑みを見せた。そんなブイゼルを、サトシはゆっくり休んでくれ、と言ってモンスターボールに戻した。 そんな時、あたしは乱戦の中をどうしていいのかわからない様子で、端で体を縮めてしどろもどろしているコバルトさんを見つけた。あたしは周りを飛び回るテッカニンに気を付けながら、サトシと一緒にコバルトさんに近づいていく。 「コバルトさん、ダイジョウブですか!」 「君か……ああ、何とかね……」 「プラチナは……プラチナはどうしたんですか?」 あたしは一番気になる事を、コバルトさんに聞いた。今の大乱戦の中確認する余裕はなかったけど、プラチナが逃げた様子は今まで見ていなかった。 「プラチナは……」 コバルトさんの言葉は1回そこで途切れたけど、少し間を置いてコバルトさんは続けた。 「まだ、中だ……」 「ええっ!?」 その言葉を聞いて、あたしとサトシは驚いた。 「ゲイリーは……どさくさに紛れてZファイルを奪って、そのままプラチナもろとも中に……」 コバルトさんの視線の先には、開きっぱなしになったドアがあった。 ゲイリー、Zファイルを渡せばプラチナを返すんじゃなかったの? Zファイル手に入れたら、そのまま逃げる気でもあったの? そんな怒りが、あたしの中でこみ上げてきた。 あたしはサトシと顔を合わせて、無言でうなずいた。サトシも無言でうなずく。そしてあたし達は、すぐに建物の中へと向かった。コバルトさんが止める声が聞こえたけど、そんな事はどうでもよかった。プラチナを助けたかったから……!
* * *
建物の中に入ると、真っ先にプラチナの姿が見えた。 「おっと、強引に人質を連れ戻す気か?」 その横には、ゲイリーの姿があった。ノートパソコンを片手に持っている。さっきまでノートパソコンをいじっていたみたい。 「ゲイリー、プラチナを返しなさい!!」 「ファイルを渡したら、返す約束じゃなかったのか!!」 「ああ、返してやるよ。ちょうど、このZファイルはニセモノじゃねえって事がわかったからなあ」 すると、ゲイリーは横にいたプラチナの体を乱暴にドンと突き飛ばした。突き飛ばされたプラチナは、あたし達の目の前で倒れそうになった。あたしはそんなプラチナの体を受け止める。 「プラチナ、ダイジョウブ!?」 「ええ、何とか……」 「ほらよ、持ち物も返してやる」 続けてゲイリーは、プラチナが持っていたバッグを乱暴に投げて、さらに側にあった檻を開けた。バッグはサトシが慌てて受け止めた。そして檻から出てきたのは、プラチナのポッチャマだった。プラチナのポッチャマはすぐにプラチナの所に駆け寄る。そして心配そうにしていたあたしのポッチャマと、少しだけやり取りをしていた。 「ヒカリ……ゲイリーは、Zファイルを使って何か企んでいます……」 すぐにあたしが手を縛っている縄を解こうとした時、プラチナがそう言った。 「ええっ!?」 「企んでいるとは言葉が悪いなあ。俺はただ、こいつを完成形にしたいだけだからな」 あたしが驚くと、ゲイリーが横槍を入れてきた。見ると、ゲイリーの横にはポリゴンがいる。そのポリゴンの体は、持っているノートパソコンと1本のケーブルで繋がっていた。ポリゴンは特殊なプログラムを使えば進化できるって聞いたけど…… 「せっかくだから、見せてやるよ。本来の計画通りの、本当のポリゴンの姿をな……!」 ゲイリーは自信に満ちた声でそう言うと、ノートパソコンのキーボードを1回叩いた。すると、ポリゴンの体が、急に眩しい光を出し始めた。 「これって、まさか……」 「進化……!?」 間違いなく、進化が始まっている。ポリゴンの進化系と言えば、ポリゴン2だけど……目の前のポリゴンは、明らかにポリゴン2に進化するとは思えない進化をしていた。 体から2本の手と、2本の足が伸びて、首も長く伸びていく。シルエットも角が取れて、どんどんスマートになっていく。そして光が収まると、ポリゴンは今まで見た事のない、全く別のポケモンになっていた。 カラーリングにポリゴンの面影は残しているけど、そのシルエットは全くの別物で、細長い足でちゃんと立っていて、短いけど手も生えている。そして長い尻尾。顔も少し鋭くなっている。まるで恐竜時代のポケモンのような姿になっていた。 「見たか!! これがポリゴンの真の姿だ!!」 ゲイリーは高らかに叫んだ。
SPECIAL STORY PART02:THE END THE STORY IS CONTINUED ON PART03……
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