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[807] ヒカリストーリーEvolution 30作達成記念3部作 第1部:もう1人のヒカリ
フリッカー - 2009年04月09日 (木) 22時15分

 今回は、皆さんの応援に感謝して、『30作達成記念3部作』と称した特別編『SPECIAL STORY』になります。
 ポケスペに登場する主人公の1人プラチナと、ヒカリの夢の共演が実現します!

・ゲストキャラクター
プラチナ・ベルリッツ イメージCV:那須めぐみ
 シンオウ地方に200年以上続く大財閥にして学者の家系『ベルリッツ家』の令嬢で、ヒカリと瓜2つの容姿を持つ。ベルリッツ家に代々受け継がれてきた「ベルリッツ家をつぐ者は、家紋を刻んだアクセサリーを作るため、その材料をみずからテンガン山の山頂まで取りに行かねばならない」という伝統に挑戦するため旅をしている。
 プライドが高く、普段は常に冷静で無表情。学者の家系出身だけあってポケモン知識は豊富。しかし世間知らずな部分もあるためか、中身は好奇心の強い少女であり、それが自然と行動に現れるため、事件に巻き込まれる事もしばしば。
 ちなみに、服装もヒカリのものと似ているが、色が若干異なる(ヒカリではピンク色の部分がワインレッドになっている。髪飾りの色も異なる)。またマフラーは長め。

ゲイリー イメージCV:藤原啓治
 プラチナを誘拐しようと目論む、謎の組織の中心人物。
 その目的は、ベルリッツ家と何か関係があるようなのだが……
 モンスターボールを打ち出すエアーガン『ボールシューター』を自在に使いこなす。
 手持ちポケモンはプテラなど。

ケンゴ(アニメ登場キャラ)
 ヒカリの幼馴染で、ヒカリよりも先に旅立っているポケモンコーディネーター。
 ヒカリを彼女が嫌う呼び方『ピカリ』と呼ぶなど、何かとヒカリをからかう事が多いが、仲は悪い訳ではなく、むしろヒカリに好意を抱いている節がある。
 子供っぽい部分が目立つが、ポケモンコーディネーターとしてはちゃんとした考えを持っており、バトルの実力もなかなかのもの。ポケモンコンテストでも、徐々に成績を伸ばしつつある。

[808] PROLOGUE プラチナ・ベルリッツ
フリッカー - 2009年04月09日 (木) 22時16分

PROLOGUE プラチナ・ベルリッツ


 ポケットモンスター。縮めてポケモン。
 それは、この世界に生きる不思議な生き物。
 世界のあらゆる所に住み、400種類以上も発見され、長い間人間と共に暮らしている生き物ですが、その生態は未だにわからない事が多い生き物です。
 そう。ポケモンの事に限らず、この世界には知らない事が、たくさんあります。
 旅をしていると、本を読むだけではわからない事が、いっぱい体験できます。世界はやはり、本を読むだけではわからないほど広いのです。本で読む事と実際に体験する事は違う。知識は体験によって、初めて本物になる。私は旅の中で、それを実感しました。
 一歩外に出ると、知らない事がいっぱいです。困難な事もありましたが、私はそんな旅を毎日楽しんでいます。

 私の名前は、プラチナ・ベルリッツ。200年以上続く学者の家系・ベルリッツ家出身の学究の徒です。
 ベルリッツ家を継ぐ者は、家紋を刻んだアクセサリーを作るため、その材料をみずからテンガン山の山頂まで取りに行かねばならない。そんな私の一族に代々伝わる伝統に挑戦するため、私は旅をしています。
 一族を継ぐにふさわしい者になるための修練の旅でもある、この旅のお伴は、3匹のポケモン達。
 1匹目は、今私の足元にいる、ペンギンポケモン・ポッチャマ。成長の様子を観察して欲しいと頼まれて託されたポケモンであり、私の最初のポケモンです。
 2匹目は、今私を乗せて歩いている、ひのうまポケモン・ポニータ。長旅には欠かせない、私の大切な足となっています。
 3匹目は、うさぎポケモン・ミミロップ。今はモンスターボールに入っていますが、他の2匹と同じく、欠く事のできないポケモンです。

 * * *

 さて、そんな私達は、長い道のりを経て、1つの町にたどり着きました。
 そびえ立つ山のふもとにある町。町の名前はロクショウシティ。ガイドブック『シンオウの歩き方』によれば、自然と伝統の町、と書かれています。
 読んでみれば、古くから伝わる自然と調和した文化が、今でも残っているのだそうです。その代表として、ポケモンの体から金属を取って精錬する、『製鉄牧場』というものがあるんだそうです! その文化がどのようなものなのか。考えただけで心がわくわくしてきます。
 顔を上げると、早速私の目に、あるものが止まりました。
 柵で囲まれた広い荒野。草木はそんなに生えてなく、ほとんどの場所で茶色の地面がむき出しになり、少し荒れ果てた土地のような印象がありますが、その中にいる、たくさんの白くて小さなポケモン。てつヨロイポケモン・ココドラです。中にはその進化系のコドラや、ボスゴドラの姿もあるではありませんか!
「まあ!!」
 これが、ガイドブックにも書いてあった『製鉄牧場』に間違いありません! 私はすぐにポニータから降りて、ポッチャマを抱えて柵の側へと向かいました。当然、もっと近くで『製鉄牧場』というものを見たかったからです。
 ココドラの体を覆う鋼の鎧は、成長すると抜け落ち、鉄製品の材料になると本で読みましたが、その作業をこの『製鉄牧場』でやるのでしょう。私はますます、この牧場に興味が湧いてきました。
「お嬢ちゃん、この牧場に興味があるのかい?」
 すると、そんな声が後ろから聞こえてきました。そこには、1人の男の人の姿が。どうやら、この牧場の関係者のようです。
「もしかして、この牧場の方ですか?」
「ああ、そうだよ」
 男の人はうなずきました。それなら話は早いですね。
「それならば、よければこの牧場を見学したいと思っているのですが……」
「見学か。ああ、もちろんだよ。ここは結構観光スポットしても人気でね、お客さんもたくさん来るからね。そういう人は大歓迎だよ」
「本当ですか!?」
 見学を許してもらった。それだけで、私の心が躍りました。
「やあ、こんな所にいたんだ、ピカリ」
 見学となれば、ココドラの抜け落ちた鎧に触れたり、鎧から作られた鉄製品を見る事ができるかもしれません!
「なあ、ピカリ? ピカリってば!」
 この『製鉄牧場』での体験を、しっかりとこの身に刻み込みまなくては……! 私のテンションはもう最高潮でした。
「ピカリ!!」
 その時、いきなり私の肩を誰かに叩かれました。はっと我に帰って振り向くと、そこには私の知らない人が立っていました。緑色の服を着た男の人。見るからに、私と同世代。
「なんで無視するんだよ〜。いくら『ピカリ』って呼ばれるのが嫌だからって、無視する事ないじゃないか〜」
 彼は、初めて会う人の前だというのに、まるで私と親しい間柄であるかのように、馴れ馴れしい態度で私に話しかけてきました。彼は私にとって全然身に覚えのない人。見知らぬ人にいきなりそんな事をされるのは、当然不自然に思いました。この人は、何者なのでしょう?
「あの……誰ですか?」
「え!?」
 私が聞いてみると、彼は急に目を丸くして、声を裏返しました。そしてなぜか動揺した表情を見せて、一瞬言葉に詰まった様子を見せましたが、すぐに苦笑いを浮かべて答えました。
「じょ、冗談言うなよピカリ……幼馴染のボクに対して『誰ですか?』なんて、どんな冗談なんだよ〜」
 幼馴染。ピカリ。私の身に覚えのない単語を、彼は普通に言う。ますます不思議に思いました。
「冗談なんて言ってません。あなたは誰なのですか?」
「だ、誰って……なんでボケるんだよヒカリ? 普通にわかるだろ?」
「ボケてません」
「だからなんで……」
「ボケてません。しつこいですよ。聞いているのはこちらなのです。質問に答えてください」
 普通にわからないから聞いているのですが、彼はなかなか名前を喋ろうとしません。彼はなぜか困った表情を見せました。
「ボクはケンゴだよ! わからないのかヒカリ?」
 彼は溜息を1つついた後、やっと名乗りました。
「ケンゴ……」
 そんな名前の人の知り合いなんて、私の記憶にはありません。そして気になるのは、さっきから出てくる『ピカリ』『ヒカリ』という単語。このケンゴという人は、私の事をなぜかそう呼んでいるようです。
「お嬢ちゃん、その人は知り合いなのかい?」
 牧場の男の人が、私にそう質問しました。私は首を横に振って、すぐに答えました。
「いいえ、知りません」
「し、知りませんじゃないだろ!? だってボクは……」
「知りません。そもそも『ピカリ』とか『ヒカリ』とは何なのですか? 私はそういう名前ではありません」
 言葉を挟もうとするケンゴを無視して、私ははっきりとそう否定しました。
「そ、そういう名前じゃないって……な、何か企んでるなヒカリ? さっきからやけに言葉使いが丁寧だし……」
 ケンゴの発言は、どんどん意味がわからなくなってきました。どういう理由か私の事を知っているようなケンゴ。でも私は彼と会った事は一度もありません。彼は本当に、何者なのでしょうか?

 と、考えていた時。
 突然何か重いものが落ちたような音と共に、地面が激しく揺れました。私達の体も揺さぶられ、危うく倒れそうになりました。地震でしょうか? いいえ、地震ならこのようにいきなり激しく揺れるはずはありません。
 ふと牧場に目をやると、大きな砂ぼこりが舞い上がっていて、ココドラ達が驚いたように逃げ惑っています。砂ぼこりの中には、何か大きい影が。あれは何でしょう?
 砂ぼこりが晴れると、その姿が露わになりました。それは、ココドラでした。でも、ココドラにしてはあまりにも大き過ぎます。その高さは、2階建ての建物ぐらいにあります。こんなに大きなココドラはいません。しかも見るからに、明らかに体は人の手で作られたもの。ココドラの姿を象った、ロボットのようです。
『わーっはっはっは!!』
 すると、どこかにスピーカーが付いているのか、高らかな笑い声が巨大ココドラから響きました。
「何者なのですか!?」
 私が聞くと、それに答えるように、巨大ココドラの頭のてっぺんが開き、中から人の姿がせり上がってきました。
「『何者なのですか!?』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
 そこにいるのは、三日月のように長く曲がった赤い髪の女の人、青いショートヘアーの男の人の2人組。その2人の服装は、白くそして胸の部分に『R』と書かれた服に統一されていました。そしてその2人の間に、ばけねこポケモン・ニャースが。
 その2人と1匹は、ポーズを取っていきなり前口上みたいな事を言い始めましたが、なぜか急に止めてしまいました。
「……ってちょっと待て? なんか違わないか?」
「ジャリガール、あんな言葉使い丁寧じゃなかったわよね? 声も少し違うし」
「でも間違いなくジャリガールなのニャ」
 2人と1匹は、そんなやり取りをした後、改めて私に視線を向けました。そして、「うん、確かにどこからどう見てもジャリガールだ」とつぶやいていました。『ピカリ』『ヒカリ』の次は『ジャリガール』。どんどん私の知らない単語が、ここに来てから出てきます。
「またお前達か、ロケット団!!」
 すると、ケンゴが前に出て2人と1匹に叫びました。ケンゴはどうやら彼らの事を知っているようです。しかし、聞いた事がない名前。
「ろけっとだん?」
 私は首を傾げました。
「いつまでボケてるんだよ!? ヒカリをいつも追いかけ回してる奴らじゃないか!」
 すかさずケンゴが説明を入れました。私をいつも追いかけ回している? でも私は、今までそんなストーキングのような事をされた覚えはありません。
「何を言っているのですか? 私は怪しい人物に今まで狙われた事も、襲われた事もありません」
「おいジャリガール!! いっつも追いかけてるのに、ニャー達の事知らないように言うんじゃないニャ!!」
 私が答えた途端、いきなり怒鳴りつけられました。でも、声のした方を見て驚きました。喋っているのはニャースです。あのニャースが、しっかりと口を動かして喋っているではありませんか! 言葉を話せるポケモンなんて、聞いた事がありません。
「あのニャース、人の言葉が話せるのですか!?」
 思わずそう言ってしまいました。その瞬間、ロケット団というらしい2人組と1匹は、いきなりその場に崩れ落ちました。
「なんでニャーの事も知らないように言うのニャーッ!!」
 ニャースはすぐに立ち上がって怒鳴っていましたが、私はそれで、確かにニャースが口を動かして喋っている事を確かめる事ができました。世界には、こんな人の言葉を普通に話すポケモンもいるんですね! 私はあのニャースの事が、無性に知りたくなりました。
「どうやって人の言葉を話せるようになったのですか?」
「話せるようになった訳? そうだニャ。それは全て、あのマドンニャちゃんとの出会いが始まりだったのニャ……ってなんでそんな事聞くのニャーッ!!」
 ニャースは途中まで説明してくれましたが、なぜか途中で止めてしまい、私に怒鳴りつけました。ただ人の言葉を話せるようになった理由を聞きたかっただけなのですが、何か気に障るような事だったのでしょうか。
「いえ、私はただ……」
「いつまでボケてるんだよヒカリ!! 相手は悪者なんだぞ!!」
 私は続きを聞こうとしましたが、ケンゴに止められてしまいました。悪者!? 私は耳を疑いました。
「どうなってるのニャ、ジャリガールは!?」
「わかったぞ。きっと俺達の事知らないフリして、嫌がらせする作戦なんだ!」
「そんな事はいいから、早く本題に入りましょうよ!」
「おお、そうだった」
 2人と1匹はそんなやり取りをした後、すぐに巨大ココドラの頭に潜り込みました。すると、巨大ココドラが金属音を立てて動き出しました。
『前置きが長くなっちゃったけど、本業開始よ!』
『このメカココドラで、この牧場のココドラをぜ〜んぶいただいてやるのだ!』
『ほいニャ!!』
 すると、メカココドラというらしい巨大ココドラの背中に穴が開いたと思うと、そこから2本の腕が伸びてきました。その腕は素早く牧場のココドラを捕まえたと思うと、どんどんメカココドラの背中に投げ込んでいくではありませんか! ケンゴが言っていた事は、本当だったのですね……!
「ああっ、うちの牧場のココドラ達が!!」
『いい感じ、いい感じーっ!!』
『このココドラ達をボスにプレゼントすれば……!』
『シンオウ征服、スピード出世でいい感じーっ!!』
 牧場の男の人が叫ぶのを裏腹に、メカココドラはどんどんココドラ達を捕えていきます。挙句の果てにはコドラやボスゴドラまでも。
「そんな事させるか!! ポッタイシ、“バブルこうせん”だ!!」
 ケンゴが真っ先にモンスターボールを取り出し、投げ付けました。中から出てきたのは、ポッチャマの進化形であるペンギンポケモン・ポッタイシ。
 ポッタイシは、ケンゴの指示に答えて“バブルこうせん”をメカココドラに向けて発射しました。“バブルこうせん”はメカココドラの体を直撃しましたが、メカココドラは微動だにしません。
「私達も行きましょう! ポッチャマ、“ふぶき”!!」
 私も黙っている訳にはいきません。すぐにポッチャマに指示を出しました。ポッチャマはすぐに私の腕の中から飛び出すと、メカココドラに対して“ふぶき”を発射しました。“ふぶき”メカココドラに当たりはしましたが、当たった部分をほんの少し凍らせただけでした。
『わーっはっはっは!! 無駄無駄!!』
『このメカココドラは、ココドラと同じく頑丈にできているのニャ!!』
 ロケット団の高笑いがスピーカーに響きました。
『ついでに知らないフリされた仕返しニャ!! ジャリガールのポッチャマもゲットするのニャ!!』
 すると、メカココドラがこちらに顔を向けたと思うと、腕の1つがポッチャマに伸びてきたではありませんか!
「ポッチャマ!!」
 私が叫んだ頃には手遅れでした。ポッチャマは腕に捕らえられ、そのままメカココドラの背中へと吸い込まれていってしまいました。
「くそ!! ポッタイシ、“ドリルくちばし”!!」
 ケンゴのポッタイシが、すぐにメカココドラの体に“ドリルくちばし”を打ち込みましたが、やはりメカココドラの頑丈なボディに弾かれてしまいました。
『なんか今回、いい感じじゃない?』
『そうだな、コンテストボーイがいてもジャリボーイはいないからな』
『まさに鬼の居ぬ間に洗濯なのニャ!!』
 勝ち誇ったように叫ぶロケット団。
「くそ、何か方法はないのか……!?」
 ケンゴが唇を噛みました。確かに、普通に攻撃してもあの頑丈なボディは破れそうにありません。どこかにある弱点を見抜けなければ、牧場のココドラ達も、私のポッチャマも奪われてしまいます。
 弱点は……弱点は………

 その時、私の頭にメカココドラが現れた時の様子が浮かび上がりました。

「メカココドラの弱点……あります!!」
「え?」
 私がつぶやくと、ケンゴが声を裏返しました。私はすぐに、もう1つのモンスターボールを取り出しました。
「ミミロップ!!」
 モンスターボールを開けると、中からミミロップが飛び出しました。
「メカココドラの足を狙って、“きあいだま”!!」
 私が指示すると、ミミロップは両手にパワーを集め、“きあいだま”を作り出すと、それを思い切り投げ付けました。“きあいだま”は私が指示した通り、メカココドラの足に命中しました。しかしこれだけでは、まだ充分なダメージは与えられません。
「もう一度です!!」
 私の指示で、ミミロップは再び“きあいだま”を発射しました。再び足に命中。それでもまだ足りません。ダメージが通じるまで、何度でも! 私は指示を出し続け、ミミロップは“きあいだま”を撃ち続けます。
「ポニータもお願いします! “かえんほうしゃ”!!」
 ここはポニータの力も借りましょう。そう判断して、私はポニータを呼びました。ポニータはミミロップの横に並び、ミミロップに合わせて“かえんほうしゃ”をメカココドラの足を狙って放ちます。
『ニャハハハハ!! 無駄ニャ!! メカココドラのボディはそんなものでは壊れないのニャ!!』
 自信たっぷりに叫ぶニャース。でもその時、手応えがありました。攻撃を当て続けたメカココドラの足に、火花が走り始めました。ダメージが通り始めている証拠です。
「今です!!」
 私の一声で、ミミロップはさらに“きあいだま”に込めるパワーを強め、パワーの高まった“きあいだま”を発射しました。それがメカココドラの足に直撃した途端、メカココドラの足が小さな爆発を起こしました。すると、メカココドラはバランスを崩し、ゆっくりと横に倒れ始めました。ロケット団の悲鳴と共に、メカココドラは重い音を立てて横転し、横向きになった背中から、ココドラ達が倒れたコップからこぼれた水のように、次々と飛び出してきました。もちろん、私のポッチャマも。
「そうか!! あのメカの弱点は足だったのか!!」
「そうです。あれだけ重い体なのですから、足が1本でももろくなれば、重量を支えきれなくなって立つ事もままならなくなるはず、と考えたのです」
 重い体を支えるには、足が肝心です。足がもろければ、重い体を支える事は当然できなくなります。だから自然と、がっしりとした足が必要になります。逆に言えば、そんな足が1つでも欠けてしまえば、体の重さを支える事ができなくなります。私はメカココドラが現れた時の様子を思い浮かべて、メカココドラは相当な重さがあるはず、と考え、足に攻撃を集中させたのです。
「それにしてもヒカリ、いつの間にミミロップやポニータなんて……」
 ケンゴがそう言いかけた時、ロケット団がメカココドラの頭から姿を現しました。
「もーっ!! あと少しって所だったのにーっ!!」
「ロケット団の強さって奴は、こんなものじゃないぞ!!」
 2人組はさっと立ち上がり、モンスターボールを取り出して叫びました。
「行くのよメガヤンマ!!」
 赤い髪の女が、真っ先にモンスターボールを投げました。出てきたのは、オニトンボポケモン・メガヤンマ。
「行け、ポッタイシ!!」
 すぐにケンゴが応戦します。ケンゴのポッタイシが前の飛び出し、メガヤンマと向かい合いました。そしてすぐに、メガヤンマとポッタイシのわざのぶつかり合いが始まりました。
 私はちょうどポッチャマを抱き上げた所で、すぐにケンゴに加勢しようとしましたが、その時、空からいきなり黒い塊が私の周りに降り注ぎました。周りで起こる小さな爆発。新手でしょうか!? 見上げるとそこには、しのびポケモン・テッカニンの大群が、一斉にこっちに向かってきているではありませんか! きっとロケット団が送り込んだポケモンなのでしょう。
 ロケット団の強さは、こんなものじゃない。さっき言われた言葉を思い出しました。テッカニンをこれだけ大量に送りこまれたら、相手にする事はできません。多勢に無勢です。ここは無理に戦わず、この場から逃げた方がよさそうです。
 私はすぐにポニータを呼び、ポニータの背中に乗り、メカココドラとの戦いで疲れているミミロップをモンスターボールに戻しました。
「おい、どうしたんだヒカリ!?」
「ここは逃げましょう。多勢に無勢です」
「え!? でも、ちょっと……!」
 事態は一刻を争います。ケンゴの言葉を聞く前に、ポニータは走り始めていました。その後を、テッカニン達は容赦なく追いかけて来ました。

 走るポニータの後を、テッカニン達はしっかりと追いかけて来ています。横を通り過ぎていくいくつもの“シャドーボール”。私の背中では、ポッチャマが“みずのはどう”でテッカニン達に応戦しています。
 このような状態では、町の中に逃げ込む訳にはいきません。そうしたら、流れ弾などで町に大きな迷惑がかかってしまうでしょう。私はポニータを町の郊外に向かわせました。せっかく見学しようと思っていた『製鉄牧場』からは遠ざかってしまいますが、そんな事は気にしていられません。
 向かう先には森があります。ポニータは真っ直ぐその中に飛び込みました。入り組んだ森の中なら、スピードの速さが自慢のテッカニン達もスピードを出しづらくなり、追いかけにくくなるはずです。それに対して、ポニータは小回りが利きます。地形ではポニータの方が有利。郊外へ出たのには、こういう理由もあるのです。
 その効果があってか、追いかけてくるテッカニン達の数も次第に減っていき、やがて追いかけてくるテッカニンの姿は見えなくなりました。
「これで、逃げられた……でしょうか?」
 私は後ろを確かめました。追いかけてくるテッカニンの姿は見当たりません。
 どうやら逃げられたようです、と思ったその時、突然目の前の地面が割れて、巨大な岩が地面から姿を現しました。ポニータはそれに驚き、慌てて向きを変えてよけようとしました。でもその時、ポニータの体は何かにつまづいたかのように急に前に倒れました。
「きゃあっ!!」
 私の体は、たちまち前へ投げ出されてしまいました。体が地面に叩きつけられ、体に強い衝撃が走りました。
「ポニータ……」
 私はかろうじて立つ事ができたので、すぐにポニータの様子を確かめました。でも、そのポニータの姿を見て驚きました。ポニータの体は、地面から突き出た岩に体を封じ込まれ、身動きが取れなくなっていたのです。
「これは……“がんせきふうじ”!?」
 私は確信しました。しかし“がんせきふうじ”は、テッカニンは覚えられないはずです。という事は、他のポケモンがいる……!?
 その時、空から甲高い鳴き声が聞こえてきました。見ると、1つの大きな影が、私の方に空からスピードを上げて近づいてきています。テッカニンより大きい影。シルエットも明らかに違います。
 その影が私の真上を滑るように通り過ぎました。灰色の体に、大きな翼と細長い顔を持つ、テッカニンとは似ても似つかない姿。その姿を見て、私は驚きました。
 かせきポケモン・プテラ。コハクに残された遺伝子から復元された、古代のポケモン。そうそういるはずのないポケモンが、私の目の前に立ちはだかっているのです。
 その背中には、何やら人が乗っています。その影は、私の目の前でサッと地面に降り立ちました。
「さあ、鬼ごっこはもう終わりだぜ、ベルリッツ家のお嬢さんよお!!」
 その人は、全身黒ずくめの服装をした、男の人でした。黒い帽子の下に見えたその鋭い瞳は、獲物を見つけたポケモンのように、真っ直ぐこちらを捕えていました。
 私の出自を言い当てられて、私は驚きました。なぜ私の出自を知っているのでしょうか? もしかして、私を狙っているのでしょうか?
「あなたも、ロケット団なのですか?」
「ロケット団? あんなへんてこな奴らと一緒にするんじゃねえっての! 俺達はあいつらの行動のドサクサに紛れて、あんたをターゲットにしただけさ!!」
 黒ずくめの男は私を指差して、はっきりとそう言い放ちました。
 やはり彼は私を狙っていた。このような経験は今までなかっただけに、私の体が一瞬震えました。
『一歩外へ出れば、危険がいっぱいなのですぞ!』
 旅立つ前に聞いた、そんなじいの言葉が頭によみがえりました。今までは野生ポケモンに襲われた時には、ポケモン達が助けてくれたので、この事は心配しすぎなじいの杞憂だったと思っていたのですが……じいは、この事も危惧してあのような事を言っていたのでしょうか……?
「わかったら、さっさとお縄になってもらうぜ!! プラチナ・ベルリッツ!!」
 黒ずくめの男の言葉に合わせるように、プテラが前に飛び出しました。私のフルネームまで言い当てられて、私は驚きと怖さで一瞬、体が動かなくなっていました。
 目の前にプテラが迫った時、ポッチャマが飛び出しました。ポッチャマは“みずのはどう”を発射してプテラに応戦しました。しかし、プテラは素早く反転してそれをかわして見せました。ポッチャマが続けて攻撃しても、わざを“ふぶき”に切り替えても、プテラは素早い動きでかわして見せます。何という速さ。その動きに、ポッチャマは翻弄され始めていました。
「ポッチャマ、ここは逃げましょう!!」
 私は反射的にそんな結論を出していました。このような人物とは、関わりにならない方がいいでしょう。そう判断したのです。
 とはいっても、ポニータは“がんせきふうじ”で身動きが取れず、抜け出したとしてもダメージが溜まっています。私はポニータを素早くモンスターボールに戻し、ポッチャマと共に走ってその場を逃げ出しました。
「へへ、逃げようったってそうはいかないぜ!! サンダース!!」
 そんな黒ずくめの男の声が聞こえたと思うと、背後でドンという音がして、私の横を何かが通り過ぎました。私の逃げようとしていた方向に落ちたのは、1個のモンスターボール。それが開くと、全身がトゲで覆われた黄色のポケモン、かみなりポケモン・サンダースが姿を現し、たちまち逃げ道を塞いでしまいました。
「“でんじは”!!」
 私達が驚いて止まった瞬間、サンダースはこちらに向けて電撃を放ちました。その電撃は、私の体を一瞬で通り抜けました。
「ああっ……!!」
 たちまち体がしびれて、体の自由が利かなくなってしまいました。足の力が抜けて、自然と膝が地面に着きました。後ろを見てみると、そこには1丁の太い銀色の銃を構えたあの黒ずくめの男の姿が。あれは、モンスターボールを発射するエアーガン、ボールシューター。本来は空のモンスターボールを発射して、ポケモンに正確に当てて捕獲しやすくするためのアイテムなのですが、あれを利用して、投げるよりも遠くの場所にポケモンを繰り出したのでしょうか……?
 彼の側にはプテラ。私達は完全に、はさみ打ちの状態になってしまいました。
 それでもポッチャマは、プテラに真っ直ぐ向かっていきました。“みずのはどう”を発射しますが、やはりかわされてしまいます。
「まだ抵抗するか!! サンダース、“10まんボルト”!!」
 すかさず黒ずくめの男が指示を出しました。ポッチャマの背後から、サンダースは電撃を発射しました。ポッチャマ、と私が叫んだ時にはもう手遅れでした。ポッチャマは背後から電撃の直撃を受けてしまい、その場に倒れてしまいました。効果抜群の攻撃を受けてしまったのですから、ひとたまりもありません。
「ハハッ、学者の家計ベルリッツ家の娘も、大した事はないな。さあ、観念してもらおうか!」
 黒ずくめの男は勝利を確信したように、私の方にゆっくりと近づいてきました。このままでは、この黒ずくめの男に何をされるのかわかりません。とはいえ、ミミロップはさっきのロケット団との戦闘で消耗しています。何とかして、ここから逃げる方法は……ありました!
「ポッチャマ、“しろいきり”!!」
 私が指示すると、ポッチャマは残った体力を振り絞り、口から白い煙を噴き出しました。辺り一面の視界が、白く染まりあがりました。

 * * *

 私は“しろいきり”で視界を遮った隙に、ポッチャマと共にしびれた体で何とか近くの森の茂みの中に隠れる事ができました。私はそのまま息を殺し、音と立てないようにその場でじっと身を屈めました。後はこのまま、あの黒ずくめの男があきらめて去ってくれればいいのですが……
「ちっ、どこへ消えやがった……? “でんじは”を浴びたからには、遠くには行けないはずだが……」
 黒ずくめの男の声が聞こえます。そして辺りを歩く音。私は外の様子を窺おうとは思わず、ただ見つからない事を祈る事しかできませんでした。
 その時、足音がすぐ近くにまで近づいてきました。そして足音は、私のいる茂みの近くで止まりました。まさか、見つかってしまったのでしょうか!? 私の胸が大きく高鳴りました。黒ずくめの男の気配は、茂みの前で止まったまま動きませんでした。調べているのでしょうか?
 見つかってしまう。そう思った時、何やら機械のスイッチを押す音が聞こえました。
「……俺だ。奴をあと一歩の所まで追いつめたんだが、うまい事やられて逃げられちまった。ああ……ああ。だが、奴はまだこの辺りにいるはずだ。『まひ』しているから遠くには行けないはずだからな。俺ももう一度、この辺りを空から探してみる。奴の姿を見つけたらすぐに知らせろ。どんな手段を使ってでも捕える!」
 そう言って、またスイッチを押す音が聞こえました。どうやら電話をしていたようです。
 茂みから離れる足音。そしてそのすぐ後に、プテラがその場から飛び去る音が聞こえました。どうやらこちらには気付かなかったようです。
 私はほっとしました。しかしそれでも、怖さがなくなる事がありませんでした。私が得体の知れない何者かに狙われている、という怖さが。
 私はこれから、どうすればいいのでしょうか?
 小さな体の震えが、まだ止まっていない事に気付きました。


TO BE CONTINUED……

[810] SECTION01 黒ずくめの集団、襲撃!
フリッカー - 2009年04月16日 (木) 18時38分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 黒ずくめの集団、襲撃!


 次にサトシが挑戦するジム、キッサキシティに向けて、旅を続けるあたし達。
 そんなあたし達は、1つの町を見下ろせる場所に来ていた。そびえ立つ山のふもとにある町。ここを降りれば、すぐにあの町に着ける。
 このように町を目の前にすると、いつも心が躍る。ジムやコンテストがなくても、長い山や森の道を通った後にたどり着くと安心するし、その間できなかった事がいっぱいできる。それに、あちこちの違う町をいろいろ回れるのも、旅の醍醐味だからね。
「ここがロクショウシティか!」
 町の風景を見たサトシが、声を上げた。
「あのロクショウシティは、自然と伝統の町、古くから伝わる自然と調和した文化が、今でも残っているそうだ」
 タケシがガイドブックに目を通しながら言った。そのままタケシは続ける。
「そんなロクショウシティには、『製鉄牧場』って所があるようだぞ」
「『製鉄牧場』?」
 タケシが言った聞き慣れない言葉に、あたしは首を傾げた。
「ココドラってポケモン、知ってるだろ? ココドラは、成長する時に体の鎧が抜け落ちるんだ。その鎧を、鉄製品の材料にする場所なのさ」
「へえ、そうだったんだ!」
 あたしはポケモン図鑑を取り出した。もちろん、ココドラのデータを見るために。
「ココドラ、てつヨロイポケモン。進化の時に新しい鎧ができる。取れた鎧は鉄製品の材料になる」
 図鑑の音声が流れた。なるほど、確かに図鑑もそう言ってる。ポケモンには、こういう役立て方もあるんだ。あたしは感心しちゃった。
「なあ、ひょっとしてあれが『製鉄牧場』なんじゃないのか?」
 サトシが町のある場所を指差している。その場所を見ていると、そこには確かに、1つの牧場が見える。ほとんどの場所で茶色の地面がむき出しになっていて、少し荒れ果てた土地のような感じだから見た目は普通の牧場のようにきれいじゃないけど、そこにはたくさんのココドラがいるのが見える。中には進化形のコドラやボスゴドラの姿も。
「わぁーっ! ココドラがいっぱいいるわ!」
「ああ、あそこが『製鉄牧場』で間違いないだろう」
 タケシの言葉を聞いて、あたしは決めた。ロクショウシティに着いたら、まずはあの『製鉄牧場』を見に行くって。
「着いたら行ってみようぜ!」
「ええ!」
 サトシも同じ事を考えてたみたい。あたしはすぐにうなずいた。
「そうだな。でもまずは、ポケモンセンターに寄って一休みだ。それから行こう」
「よし! それなら早速、ロクショウシティまで一直線だ!」
 これで話はまとまった。サトシは待ちきれないのか、真っ先にロクショウシティへと一目散に走って行った。それはあたしも同じで、あたしもすぐに後を追いかけた。タケシの呼び止める声も聞こえたけど、それでもあたしは高まる気持ちを抑えられなかった。

 遠くから、誰かがあたし達に鋭い視線を送っていた事には気付かなかったけど……

 * * *

 走って行った事もあると思うけど、ロクショウシティに着くのには、そう時間はかからなかった。
 改めて見てみると、都会って感じの建物はそれほどなくて、田舎を感じさせる建物が多かった。それに、緑も結構多い。自然と伝統の町って呼ばれ方は本当なのね。
 正面にポケモンセンターが見えてきた。サトシはもう着いていて、あたしが着くのを待っている。あたしもそんなサトシの所に早く行こうとした。
 その時、大きな建物があたしの視界に入った。周りの建物とは結構違う雰囲気を出してたから、あたしは自然と足を止めた。
 それは、とても大きなホテルだった。そのきれいな色合いといい、鉄片にあるムクホークの像といい、見ただけでかなり豪華そうな印象がある。この町に、こんなホテルがあったなんて……
 後ろから、おーい待ってくれー、とタケシの声が聞こえてきた。タケシはあたしの様子に気付いたのか、あたしの横で足を止めた。
「どうしたんだ?」
「このホテル、何だか凄くない……?」
 タケシの質問に、あたしはそう答えた。するとタケシもホテルを見て、ホテルの看板に目を通した。
「『ホテル・グランドロクショウ』か……結構高級なホテルだぞ、ここは」
 やっぱり高級なホテルだったんだ。
「やっぱり。こんな所に、こんな豪華なホテルがあるのって、意外よねえ……でもいいわよねえ……一度でいいから、こういう所に泊まってみたい……」
 あたしはそんな事を思わず口にした。豪華なホテルに泊まるのって、夢のまた夢な話だけど、もしそれができるってなったら、と思わずにはいられなかった。そんなあたしを見て、タケシは少し苦笑いをしていたけど。

 その時だった。
 急にあたしの耳に、ブーンとむしポケモンの羽の音が聞こえてきた。それも、結構大きい。何だろうと思って振り向くと、そこには茶色の空飛ぶむしポケモンの大群がいて、真っ直ぐこっちに向かってきていた! 1匹、2匹、3匹……もう何匹いるのかわからない。
「な、何あれ!?」
 あたしが思わず声を上げた時、むしポケモンの大群は、一斉に黒い塊を作りだして、一斉にこっちに向けて発射! あ、あれって……“シャドーボール”!?
 そうだとわかった時には、あたしは一目散に逃げ出していた。“シャドーボール”が、一斉に雨あられと降り注いできた! あたしの後ろでいくつもの爆発が起きた。こんな町の真ん中で野生ポケモンに襲われるなんて、どういう事なの!?
「テッカニンだ! だが、なんでこんな所に……!?」
 タケシがそのポケモンの名前を言った。あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「テッカニン、しのびポケモン。どんな攻撃もよけてしまうといわれるほど素早いポケモン。甘い樹液が大好物」
 図鑑の音声が流れた。どんな攻撃もよけるほど素早いポケモン……!? その言葉に驚いてる間に、前を見るともうテッカニンが何匹か回り込んでいた! やっぱり素早い!
 とっさに、あたしの頭の上にいたポッチャマが、前に飛び出した。そして、“バブルこうせん”を発射! テッカニン達は素早く反応してそれをかわす。そして、テッカニン達は甲高い鳴き声を上げて一斉に騒ぎ始めた。あんな数で一斉に騒がれたらたまったものじゃない。あたし達は反射的に耳を塞いだ。うるさすぎて、耳を開けられない。開けたら耳が破れちゃいそう……
「な、何なのよこれ〜!!」
「これは、“むしのさざめき”だ……!!」
 タケシの声がかすかに聞こえた。
 その時、一筋の電撃がテッカニンの大群に穴を開けた。テッカニン達はそれに驚いて鳴き止んだから、あたし達はやっと塞いでいた耳を開けられた。
「ヒカリーッ!! タケシーッ!! 大丈夫かーっ!!」
 正面から、サトシとピカチュウが走ってくる。やっぱりあの電撃は、ピカチュウの“10まんボルト”だったのね!
「サトシ!!」
「ああ、何とか大丈夫だ」
 駆け寄ってきたサトシに、あたし達はそう答えた。
「それにしても何なんだ、このテッカニンは……?」
「わからない……こんな所に、なんでこんなたくさんのテッカニンが……」
 タケシの言う通り。こんな町の真ん中に、テッカニンなんて普通はいる訳ない。町の中に緑があるにしても、こんなにいっぱいいるのはおかしい。ひょっとして、前のグライガーの群れみたいに、何かの拍子で町に紛れ込んできたのかも……
 でも、そんな事を考えてる暇はなかった。だって、テッカニン達がそんな時間を与える間もなくこっちに襲いかかってきたんだから!
「と、とにかく逃げるぞ!!」
 タケシの言葉に、あたしは反論しなかった。
 そんな訳で、あたし達は一目散に逃げ出した。後ろからテッカニンがすぐに追いかけてくる。少なくとも、ポケモンセンターに入れば何とかなるはず。あたしはそう考えていた。でも、そんなポケモンセンターの目の前に、またしてもテッカニンがあたし達の前に回り込んで立ちはだかった!
「速い!!」
 サトシが声を上げるまでもなく、テッカニンは一斉にこっちに向かってきた! 後ろに下がろうにもそこには追いかけてきたテッカニン達が。完全にはさみ打ち状態! 逃げられない! あたし達の周りに、たちまちテッカニンが群がってくる。
「きゃあっ!!」
 次々とあたしの体に張り付いてくるテッカニン。何度も振り払っても、また次々と張り付いてくる。サトシ達もそれに気付いてテッカニンを振り払おうとしても、結果は同じ。キリがない。
「な、何なの!? なんであたしばっかり……!?」
 サトシやタケシを見ても、あたしと同じようにテッカニンに張り付けられていない。テッカニンはあたしばっかり狙ってくる。なんであたしばっかり狙うの? あたし、テッカニンに何か悪い事した覚えなんてないのに……!?
 そうこうしている内に、体中がテッカニンに覆われて、どんどん体が重くなって、身動きが取れなくなっていく。そしてとうとう、あたしの重くなった体がアスファルトの地面に倒れた。
「へへっ、遂にプラチナを捕えたぞ!!」
 すると、そんな聞き覚えのない声があたしの耳に入った。プラチナ? 何の事だろう。見ると、そこには黒ずくめの服と帽子のいかにも怪しそうな人達が立っている。明らかにロケット団とは違う。ギンガ団でもない。その周りに、何匹かのテッカニンが集まってくる。あのテッカニンは野生ポケモンじゃなくて、あいつらのポケモンだったの?
「誰だお前達は!?」
「お前には要はない。用があるのは、その娘さ」
 サトシが聞くと、黒ずくめの集団の1人が、あたしを指差して言い放った。狙いはあたし!? 当然あたしは驚いた。
「悪い事はいわない。その娘を渡してもらうぞ」
「どうしてヒカリを狙うんだ!」
 黒ずくめの集団の前に、サトシが立ちはだかる。
「なんだこいつ? ひょっとしてボディガードか? ボディガードがいるなんて初めて聞いたが……とにかく、邪魔するならどけてもらうぞ!!」
 その一声で、テッカニン達が一斉に飛びかかってきた。それでもサトシは怯む事なく指示を出した。
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
 ピカチュウの電撃が、テッカニンに向けて一直線に飛んで行った! 直撃! 効果は抜群! 4、5匹のテッカニンをまとめて地面に落とした。すぐに次のテッカニンが来るけど、それも同じように、“10まんボルト”で次々と蹴散らしていく。
「ウソッキー、お前も頼む!!」
 タケシもサトシに加勢する。モンスターボールを素早く投げて、ウソッキーを繰り出した。ウソッキーはテッカニン達目掛けて『いしあたま』を活かした“すてみタックル”で飛び込む。
 2匹共果敢に戦っているけど、相手は数が多い。だから無傷という訳にはいかない。テッカニンのスピードと、数にものを言わせた攻撃に、2匹も苦しんでいる。
 2匹の戦いは、時間稼ぎにしかならなさそう。その間に、あたしも早くまとわりつくテッカニン達を何とかしないと……! 外では、ポッチャマが必死でテッカニンを引き離そうとしている。今は身動きが取れないから、ポッチャマに何とかしてもらうしかない。それなら……!
「ポッチャマ、“うずしお”でこいつらを流しちゃって!」
 あたしの指示に、ポッチャマは一瞬、驚いた表情を見せた。でもあたしは、いいから! って続けた。
 ポッチャマはそれをわかってくれて、両手をあげて“うずしお”を作り出す。そしてそれを、こっちに投げつけた!
 水の渦が、あたしの体を一瞬、飲み込んだ。強い水の流れが、あたしの体を洗い流す。そして水の渦が止んだ頃には、体に張り付いていたテッカニンは、全部洗いながされていた。やっと体が自由になった。体はびしょ濡れだけど、電撃で追い払って自分がしびれるよりはマシだと思う。
「ありがとう、ポッチャマ」
 あたしが立ち上がってお礼を言うと、ポッチャマも笑顔で答えてくれた。
「まずい!! プラチナに逃げられるぞ!!」
 すると、黒ずくめの集団があたしの様子を見て、少し慌てた様子を見せた。それにしても、また『プラチナ』って言った。でも、そんな事はどうでもいい。今度はあたしからあいつらにお礼をしてやらないと! あたしは黒ずくめの集団に体を向き直して、サトシ達の横に駆け寄った。
「ヒカリ!! テッカニンを追い払えたんだな!!」
「ええ!! 今度はあたし達があいつらに仕返ししないと!!」
 あたしはそう言って、黒ずくめの集団をにらみつけた。
「ちっ……だが、お前のポケモンの事は解析してあるんだ。直接対決ならこっちが有利だ!!」
 すると、黒ずくめの集団の1人が、自信満々にそう言い放った。いくらこっちの事が解析されていたって……!
「そうだって勝てないなんて事はないわ!! パチリス、お願い!!」
 あたしが取り出したモンスターボールを投げると、中からパチリスが飛び出した。パチリスは広い範囲を攻撃できるわざ“ほうでん”が使える。テッカニンがうじゃうじゃいるこの状況じゃ、一番有利だと思ったから。
「何!? パチリスだと!?」
 さっき解析してるって言った奴はそれを見て、なぜか信じられないものを見たかのような驚きの声を上げた。解析してたんじゃなかったの? とにかく、こっちからやらせてもらうわ!
「パチリス、“ほうでん”よ!!」
 あたしが指示すると、パチリスは空に向かって、青い電撃を発射! 電撃は広い範囲に飛んで行って、周りにいたテッカニン達に、次々と命中! 効果は抜群! いくら素早いテッカニンでも、広い範囲を網の目のように飛んでいく電撃を完全にはよけられない。直撃を受けたテッカニン達は、次々と地面に落ちていく。
「く……まさかでんきタイプの隠し玉を持っていたなんて……聞いてないぞ!!」
「解析の仕方、間違えたんじゃないの?」
 解析してるって言った奴は動揺している。そんなそいつに、あたしはそう言ってやった。そんな事を言われたそいつは、ただ唇を噛むしかなかった。
 そんなやり取りの間にも、パチリスは“ほうでん”を続けて、テッカニン達を次々と落としていく。そして気が付けば、飛び回っているテッカニン達の姿は、完全になくなっていた。テッカニンは、みんなしびれて地面に落ちている。
「く……ここは作戦変更だ、退却するぞ!!」
 黒ずくめの集団の1人の一声で、黒ずくめの集団は風のように、あたし達の目の前から去って行った。やっと追い払えた……あたしはほっと一息ついた。
「何だったんだ、あいつら……」
「理由はわからんが、ヒカリを狙っていたようだったな……」
 サトシとタケシがつぶやく。あたしはふと、あいつらが言っていた、あの言葉を思い出した。
「そういえばあいつら、あたしの事『プラチナ』って呼んでなかった?」
「そういえば、そうだったな。ヒカリが動けなくなったのを見て『プラチナを捕らえた』って言ってたから、ヒカリの事を指しているのは間違いなさそうだ」
「でも、なんでヒカリの事を『プラチナ』って言うんだ?」
 サトシが素朴な疑問を口に出した。
 それは当然、あたしも考えていた事。あたしの事を、どうして『プラチナ』って呼ぶんだろう。あたし、プラチナとは何の関係もないはずだけど……

 そんな事を考えていた時、地面が突然、地震のように揺れ始めた。結構激しくて体が横に揺さぶられる。
「わわわっ!!」
「何だ!? 地震か!?」
 すると、アスファルトの地面に亀裂が入り始めた。そしてその部分が、ゆっくりと盛り上がってくる。何か出てくる!? あたし達は、反射的に亀裂が入った場所から離れた。
 するとそこから、銀色の塊が飛び出した。それも大きくて、長い。2階建ての家くらいの高さがあって、何個もの岩をくっつけて長くしたような銀色の体。そして尖った尻尾にいかつい表情。
「ハガネール!?」
 てつへびポケモン・ハガネールだった。頑丈な鋼の体を持つ、イワークの進化系。そんなハガネールは、あたしを鋭い目でにらみつけると、低い声で吠えた。
「まだ終わりだと思うな、プラチナ・ベルリッツ!!」
 その背中の上には、さっきとは別の黒ずくめの人が立っていた。このハガネール、あの黒ずくめの奴らの別動隊だったの!? それにしても、また『プラチナ』って言われた。それも今度は、名字みたいなものも付けて。
「何よ、そのプラチナ何とかって!! あたしはフタバタウンのヒカリ!! ヒ、カ、リ、で、す〜っ!!」
「とぼけたって無駄だ!! 服の色を変えて偽名を名乗っても、その顔は隠せないからな!!」
 あたしが自分の名前をちゃんとフルネームで言っても、向こうは訳のわからない事を言い返すだけ。何なのあいつら?
「行け、ハガネール!! 奴を捕えろ!!」
 背中に乗った黒ずくめが指示すると、ハガネールはすぐにその長い体をあたしに向かって伸ばしてきた! ポッチャマがとっさに“バブルこうせん”を撃って応戦するけど、効果抜群の攻撃にもハガネールは怯まない。そのまま頭の頭突き一発でポッチャマを簡単に跳ね飛ばしちゃった! あれは“アイアンヘッド”! そのままあたしの方に体を伸ばしていく。
 あたしは反射的に逃げ出していた。ポケモンセンターやサトシ達とは離れちゃう方向になっちゃうけど、そんな事はどうでもよかった。とにかく逃げる事だけしか頭になかった。後ろには、真っ直ぐこっちを追いかけてくるハガネール。そんなハガネールに、ポッチャマが“バブルこうせん”を撃って応戦する。パチリスも、前歯を使った“いかりのまえば”で、ハガネールに飛びかかる。でも、ハガネールの大きな体にはほとんど効果がない。
「“ストーンエッジ”!!」
 すると、ハガネールはたくさんの尖った岩を、一気にこっちに向けて撃ってきた! 岩があたし達の周りに降り注ぐ。あんなの1発でも食らっちゃったったら、ただじゃ済まない! あたしは頭を低くして岩の雨を何とかしのぎながら、走り続けた。
 道を曲がると、道には人が何人かいる。それでも構ってられない。あたしは真っ直ぐその道を走り続けた。後ろからハガネールが来る。それに驚いたのか、周りの人達も一斉に逃げ始めた。
「人ごみに紛れたって、逃げられると思うな!! “でんじふゆう”だ!!」
 そんな声が聞こえたと思うと、ハガネールが走ってくる地響きが、急に聞こえなくなった。そして、あたしの真上を大きな影が覆った。何だろうと思って見上げてみると、そこには空に浮かんでいるハガネールの姿が!
「そんな!? ハガネールって飛べたの!?」
 あたしは思わずそう声を上げた。じめんタイプのハガネールが空を飛ぶなんて、誰も想像なんてしないはず。そんな事が、目の前で起きている。
 理由はわからないけど、あたしはとんでもない奴らを敵に回しちゃったみたい。そう思ったあたしは、走る速度を必死で上げようとした。
 でも、ハガネールの飛ぶ速さは結構速い。あっという間にあたしを追い抜いて、あたしの正面に回り込んだ。あたしは慌てて道を変える。ちょうど横にあった建物の間に小さな道があった。あそこを通れば、ハガネールも追いかけてこれないはず。とっさにそう判断したあたしは、その細道の中へと向かっていった。建物の間は薄暗い。どこへ繋がっているのかはわからない。それでも、あたしは走り続けた。少しだけ後ろを確認すると、ハガネールの姿は見えない。あたしはほっとした。やっとあのハガネールから逃げられた、と。
 すると、正面に外の道が見えてきた。あそこから抜けられる。あたしは真っ直ぐ外の道へと走って行った。
 でも、外の道に出て周りが明るくなった瞬間、目の前にいきなり銀色の塊がズシンと音を立てて目の前に着地した。間違いなくあのハガネール。回り込まれてた!
 あたしはすぐに、元の道を引き返そうとした。でも、後ろを向くとそこには、迫ってくるハガネールの銀色の尻尾が目の前にあった。
「ああっ!!」
 そのままあたしは、ポッチャマやパチリスもろともハガネールの尻尾に体を巻きつけられた。鋼の尻尾に巻きつかれるのは、当然痛い。締め付けないように、力を抑えているのかもしれないけど。
「残念だったな、プラチナ・ベルリッツ。お前の逃げる道は見え見えだったんだよ」
 背中に乗る黒ずくめが、勝ち誇ったように笑った。
「さあ、もう観念するんだ」
 このままじゃ、あいつらに捕まる……! 何とかして、逃げないと……! でも、どうあがいてもハガネールの尻尾は動かない。あたしだけの力じゃ、完全に無理。
 何とか、右手を少し動かせるだけの余裕があった。こうなったら、最後の手段……!
「マンムーッ!!」
 あたしはモンスターボールを一個取り出して、上に向けるとスイッチを押した。モンスターボールから、光が飛び出す。その光はハガネールの横で、マンムーの姿になった。
「何!? マンムーだと!?」
 黒ずくめは、マンムーの姿を見て驚いた。
「“とっしん”よ!!」
 あたしの指示を聞いたマンムーは、ハガネール目掛けて一直線に突撃! その茶色の大きな体が、ハガネールに思いきりぶつかった! 効果は今ひとつだけど、そのパワーはハガネールの態勢を崩すのには充分だった。衝撃であたしに巻きついていたハガネールの尻尾が緩んで、あたしはハガネールの尻尾から抜け出す事ができた。これもマンムーのパワーのお陰。あたしは素早くハガネールの側から離れて、マンムーと合流する。
「しまった!!」
 背中に乗る黒ずくめが声を上げた。あたしは別のモンスターボールを取り出す。はがねタイプのハガネールに、効果が抜群な強力な攻撃を使えるあたしのポケモンは、1匹しかいない!
「エテボース!!」
 あたしはそのモンスターボールを、思い切り投げつけた。そして、その中からエテボースが飛び出す。
「今度はエテボース!?」
 黒ずくめは、また驚いた様子を見せた。
「“きあいパンチ”!!」
 あたしの指示で、エテボースは尻尾の拳に力を込めて、ハガネールの頭に向かって一気に飛び出した!
「お、応戦だ!! “アイアンヘッド”!!」
 ハガネールも黙っていない。その大きな頭を、真っ直ぐエテボースに伸ばしてくる。“きあいパンチ”のパワーを溜めている間に攻撃されちゃうと、“きあいパンチ”が出せなくなっちゃう。それなら……!
「エテボース、回って!!」
 ハガネールの頭がエテボースの目の前にまで迫った時、あたしはそう指示した。ハガネールの頭がまさにエテボースに直撃しようとした時、エテボースは体にひねりを入れて一回転。ハガネールの頭をギリギリの所でかわしてみせた。
「な!?」
「今よ!!」
 エテボースはそのままハガネールの後ろに回り込んだ。そして、尻尾の拳をハガネールの頭に叩き込んだ! 効果は抜群! 頭にかくとうタイプ最強のわざを叩き込まれたハガネールはひとたまりもなかった。そのままハガネールはズシンと音を立てて崩れ落ちて、そのまま動かなかった。戦闘不能。
「くそ、ハガネールが……だが、次はこうはいかないぞ!! 覚えておけ!!」
 黒ずくめはそんないかにも捨てゼリフな言葉を残して、ハガネールをモンスターボールに戻して逃げて行った。
「ふう……ありがとう、みんな」
 あたしはほっとして、パチリスとエテボース、マンムーをモンスターボールに戻した。後はサトシ達と合流して……
 その時、空から何か甲高い鳴き声が聞こえてきた。そう思った時、あたしの両肩を思い切り何かに掴まれた。そしてそのまま、あたしの体は勢いよく飛び始めた!
「きゃあああああっ!!」
 突然の事態に、あたしは訳がわからなかった。どんどん飛ぶ高さは上がっていく。足にはポッチャマがかろうじてしがみついているのが見えた。
「ハハハハハ!! 油断大敵、一難去ってまた一難とはまさにこの事だなあ、プラチナ・ベルリッツ!!」
 すると、上からそんな男の人の荒々しい声が聞こえてきた。見上げると、そこには大きな羽を広げる、紫色のポケモンが、あたしの両肩を掴んでいるのがわかった。かせきポケモン・プテラ!? あたしは驚いた。プテラは古代の化石から復元されたポケモン。見た事があるのは、博物館があるクロガネシティでだけ。そんな普通はいないポケモンが、あたしを連れ去ろうとしているの!? 人の声はプテラの背中から聞こえてくるけど、ここからじゃその姿は見えない。でも、またプラチナ何とかって言うからには、あの黒ずくめの集団に間違いなさそう。二度ある事は三度あるっていうのは、まさにこの事。
「あたしをどうするつもりなのよ!! 放して!!」
「放して? じゃあお望み通り放してやるぜ。地面に落っこちてペチャンコになってもいいんならな」
 あたしが言うと、そんな余裕に言い返す声が聞こえてきた。そうだ、ここはもう空の上。下手に離してって言っても通用するはずない。そういう訳だ、観念するんだな、とまた余裕の声が聞こえてくる。そういう訳にはいかない。何とかして逃げないと! あたしはひこうタイプのポケモンは持ってないけど、このポケモンなら……!
「ミミロル!!」
 あたしは取り出したモンスターボールから、ミミロルを出した。あたしのデザインしたベストを着たミミロルは、そのジャンプ力でプテラの背中に乗ったのを確かめた。
「何!? ミミロルだと!? 退化しちまったのか!?」
「ミミロル、お願い!!」
 背中の上の人が驚いてる間に、あたしは指示を出した。


TO BE CONTINUED……

[811] SECTION02 それぞれの勘違い?
フリッカー - 2009年04月23日 (木) 21時09分

 ホテル・グランドロクショウ。
 得体の知れない黒ずくめの男に襲撃された後、私は何とか見つからないようにしながらこのホテルに向かい、夜を過ごしました。このホテルはベルリッツ家の所有物であったので信頼でき、安心して眠る事ができました。
 しかし、これから私はどうするべきでしょうか。
 以前の騒動で製鉄牧場の見学を許されながらできなかったので、行ってちゃんと見学したいという気持ちはあるのですが……

 ――奴の姿を見つけたらすぐに知らせろ。どんな手段を使ってでも捕える!

 あの男が言っていたその言葉が頭に思い浮かびました。
 彼は今でも、私の事を探しているのは、間違いありません。
 それに、つい先程、このホテルの近くで、騒ぎがあったというのも気になります。話によれば、謎の『黒ずくめの』集団が、一般トレーナーを襲ったそうです。
 黒ずくめ。まさか、あの男の仲間なのではないでしょうか。もしそうならば、この町にもあの男の仲間が潜んでいる事になります。下手に町の目立つ場所に出れば、見つかってしまうかもしれません。
 それでも、私は製鉄牧場に行きたい……製鉄牧場での体験を、での体験を、しっかりとこの身に刻み込みたい……

 すると、私が抱いていたポッチャマが、私の腕をポンと叩きました。見ると、ポッチャマは小さな両手を、グッと胸の前で握ってこぶしを作っていました。そしてその強い意志を感じさせる眼差し。
 自分に任せて。だから心配しなくていい。私はそう言ってるように感じ取れました。
 思えば、いざという時には、ポッチャマだけでなく、私のポケモン達はいつも力になってくれました。あの時黒ずくめの男を振り切れたのも、ポッチャマががんばってくれたお陰です。
 そんなポッチャマが、自分に任せてと言っている。そんなポッチャマを、私のポケモン達を、私は信じなければなりませんね。
「ありがとうポッチャマ。私はあなたを信じます」
 私は、ポッチャマにそう言いました。すると、ポッチャマも笑顔を返しました。


SECTION02 それぞれの勘違い?


 という訳で、私は製鉄牧場へ再び行く決心をしました。
 ホテルを出ると、目の前の道にはテープが張られていて、警察が封鎖していました。どうやら何か捜査をしているようです。そのテープの先には、何かが爆発した跡のような、生々しい穴がいくつも開いていました。ここで、あの騒動が起きたのでしょうか。
「……行きましょう」
 私はそう言って、ポニータの背中に座りました。
 改めて現場を見ると、少し怖い気持ちも湧きますが、恐れる事はありません。私はポッチャマを……いや、ポケモン達を信じているのですから。これは、一族を継ぐにふさわしいものになるための修練の旅でもあります。外の怖さを恐ろしがっているようでは、一族にふさわしい人間にはなれません。私は自分にそう言い聞かせて、現場の前を出発しました。不思議と、自分の心にあの時抱いた怖さは、すうっと消えていきました。
「おーい、ヒカリーッ!」
 牧場にいたあの人も、やむを得ない事とはいえ私がいなくなった事に戸惑ったはずです。今日改めて、見学のお願いをしましょう。
「こんな所にいたのか。探したんだぜ俺達……」
 そういえば、あのロケット団という集団の襲撃の後、製鉄牧場はどうなったのでしょうか? 少し気になります。ちゃんと牧場はやっているのでしょうか。
「ヒカリ? ヒカリってば!」
 とにかく、まずは予定通りに行動しましょう。何かあれば、その時に予定を修正すればいいですし。
「ヒカリ!!」
 その時、私はいきなり左手を誰かに引っ張られました。はっと我に帰って振り向くと、そこには私の知らない人が2人立っていました。1人は、白と黒のツートン模様に、黄色のアクセントが入ったジャケットを着て、肩にねずみポケモン・ピカチュウを乗せている男の人。見るからに、私と同世代。そしてもう1人は、緑系のカラーリングで統一された服装の男の人。この人は明らかに年上。こんな身に覚えのない人に声をかけられたのは、最近になって二度目。
 手を引っ張られたせいで、私はポニータから降ろされてしまいました。ポニータも驚いて止まります。
「どうしたんだよ、ボーっとして? 俺達探してたんだぜ?」
「とにかく、無事で何よりだ。ところで、そのポニータは?」
 2人は、親しそうに私に話しかけてきました。探していた。無事で何より。私にとって、全然身に覚えのない言葉でした。
 そして、私の側に1匹のポケモンが駆け寄ってきました。先が手になった2本の尻尾が特徴的な、おながポケモン・エテボースです。この2人が連れてきたポケモンなのでしょう。そのエテボースは、私を見て嬉しそうな様子を見せました。人懐っこいポケモンですね、とは思いましたが、こんな2人は、何者なのでしょうか? 私は聞いてみました。
「あの……誰ですか?」
「え!?」
 すると、2人は急に目を丸くして、声を裏返しました。エテボースもなぜか驚いている様子でした。そしてなぜか動揺した表情を見せて、それを隠せないまま答えました。
「な、何変な事聞いてるんだよ? いつも一緒に旅をしてるサトシとタケシじゃないか!」
 サトシ、タケシ。指の指し方を見るに、どうやらピカチュウを連れている方がサトシ、年上の方がタケシという名前のようです。でも、やはりそんな名前の人の知り合いなんて、私の記憶にはありません。しかも、一緒に旅をしてる、なんて全然心当たりのない言葉まで言いました。
「一緒に旅……? 私は旅に付き添いは連れていません」
「ええ!?」
 私が普通に答えると、2人と1匹はまた驚いた様子を見せて、声を上げました。
「な、何言ってるんだよヒカリ!?」
「ヒカリ、俺達はさっきまで……」
「連れていません。しつこいですよ。それに、私は『ヒカリ』という名前ではありません」
 あの時ケンゴが私を呼んだ時と同じように、2人も私を『ヒカリ』と呼びました。なぜ2人も私の事を『ヒカリ』と呼ぶのでしょうか? そもそも、『ヒカリ』とは何なのでしょうか?
「ヒ、ヒカリじゃないって……どうしちゃったんだヒカリ!? ヒカリはヒカリなんだよ!!」
 サトシが急に、私の両肩をつかんで体を軽く揺すりました。その表情は、かなり焦っているように見えます。いきなり体を揺すられて私も戸惑いましたが、私はすぐに気持ちを落ち着かせて答えました。
「意味のわからない事を言わないでください。私は『ヒカリ』ではありません」
「何言ってるんだ!? ヒカリは……」
「『ヒカリ』ではありません。しつこいですよ」
「そういうなら、自分の名前は何だというんだ?」
 その時、タケシが間に入って私に聞きました。自分の名前を聞かれる事はあまりありませんが、私はそういう時にいつも答える言葉を、2人に言いました。
「下々の者には、気安く名乗ってはならないと、じいに言われています」
「ええええ!?」
 それを聞いた2人と1匹は、まだ驚いて声を上げました。
「誰かを探しているのなら、きっと人違いです。私は行くべき所がありますので、失礼します」
 私はそう言って、ポニータに乗ろうとしました。
「行くって……どこ行くんだよ!?」
 しかしその体は、サトシとエテボースに止められてしまいました。
「目を覚ますんだヒカリ!! 俺達は、今まで一緒に旅をしていたじゃないか!!」
 サトシは、エテボースと一緒に私の顔の前で真剣な表情を見せて、そう言いました。彼は、なぜ私を『ヒカリ』と呼び、止めようとするのでしょう?
「していません」
「しっかりしてくれヒカ……」
「していません」
 私はサトシの言葉を否定し続けましたが、彼は気持ちを変えたようには見えませんでした。
 その時、腕に抱いていたポッチャマが、怒ってサトシの顔に向かって“みずのはどう”を発射しました。顔面に直撃を受けたサトシは、反射的に私から離れました。そして、ポッチャマは私の腕から飛び出し、身構えました。きっとしつこいとポッチャマも思ったのでしょう。
「お、お前まで何するんだよポッチャマ? 俺達は一緒に旅してきた仲間だろ!?」
 サトシはポッチャマを見て驚いた様子でそう言いました。彼の肩にいたピカチュウが肩から降りてポッチャマの前に立ち、エテボースと一緒に何やら訴えていますが、ポッチャマはそれでも身構えを解く事なく、“みずのはどう”を発射しました。2匹は驚いてかわします。
「待てポッチャマ!! どうしてお前まで……!?」
 その間にタケシが入ろうとしましたが、ポッチャマはタケシにも“みずのはどう”を発射しました。タケシの顔面にも“みずのはどう”が当たり、タケシは後ずさりしました。
 2人はなぜか、ポッチャマの事も知っているようです。でも私には覚えはありません。ますます謎は深まっていくばかりです。
「どうしちゃったんだ、ポッチャマも!?」
「まさか、俺達とはぐれた時に何か遭って、記憶をなくしたんじゃないのか? ポッチャマもろとも」
「そんな……!?」
 サトシとタケシは、そんなやり取りをしていました。2人の発言は、ますます意味がわからなくなってきました。私の事を『ヒカリ』と呼び、どういう訳か私を強引にでも連れて行こうとする。そして、ポッチャマの事もなぜか知っている……
「あなた達は、何者なのですか?」
 私は、そんな2人に向けて、そう質問しました。

 * * *

 顔に突然、水の冷たさを感じた。それで、あたしは目を覚ました。
「う、う〜ん……」
 視界のピントが合うと、そこにはあたしを見て嬉しそうな表情を見せるポッチャマとミミロルの姿があった。さっきのは、多分ポッチャマの“バブルこうせん”。それで、あたしを起こしてくれたんだ。
「ポッチャマ、ミミロル……」
 あたしは体を起こす。周りの風景が視界に入る。あたしがいる場所は、ロクショウシティの街並みではなく、森の中だった。
「ここ、どこ……?」
 あのバトルの間に、あたし、こんな所にまで飛ばされちゃってたんだ……あたしはあの時のバトルの事を思い返してみる。

 突然現れたプテラに連れ去られそうになったあたしは、ミミロルを使って応戦した。
 ミミロルは、プテラの背中に飛び乗ると、プテラの顔に“ピヨピヨパンチ”をお見舞いした。効果は今ひとつだけど、飛んでいるプテラの妨害にはこれで充分だった。たちまちプテラの飛び方にブレが出始める。そして遂には、プテラは“ピヨピヨパンチ”の追加効果で『こんらん』して、プテラは真っ直ぐ飛ぶ事もできなくなった。そしてプテラの足の力が緩んで、あたしを離した。でも当然、あたしは真っ逆さまに地面に吸い込まれて……

 その後の事は覚えてない。
 普通だったらあのまま地面に落ちてたら完全に即死だったけど、あたしは今こうやって無事でいる。きっとポッチャマが“バブルこうせん”を使って、落ちる衝撃を和らげてくれたんだと思う。
 ふと森の木の間から、ロクショウシティの街並みが見えた。結構遠くに見える。どうやらここは、ロクショウシティの外れみたい。
「とにかく、早く町に戻らなきゃ」
 サトシ達は、あたしの事を心配しているはず。早く合流しないと。あたしはすぐに立ち上がった。そうだ、その前にポケモン達がちゃんといるか確かめないと。
「ポッチャマ、ミミロル……」
 ポッチャマとミミロルを改めて確認した後、あたしはモンスターボールを1個取り出す。
「パチリス……」
 モンスターボールを開けると、そこからパチリスが出てきた。そして、次のモンスターボールを取り出す。
「エテボースに……」
 そう言ってモンスターボールを開けると、なぜか出てきたのはマンムーだった。
「あれ!?」
 あたしはエテボースのモンスターボールを開けたはずだった。でも出てきたのはマンムー。開けるモンスターボール間違えちゃった? あたしはあと1個のモンスターボールを探す。でも、いつも入れている場所にモンスターボールはもうなかった。何回確かめても、やっぱりない。これで、あたしは確信した。
「エテボースのモンスターボールがない!?」
 あたしの知らない内に、エテボースの入ったモンスターボールをなくしちゃったみたい!
 あたしには、心当たりが1つあった。プテラに連れ去られそうになった直前。あの時あたしは、ポッチャマ以外のポケモン達をモンスターボールに戻して、しまっている途中だった。確かに3匹全部モンスターボールに入れた事は間違いない。でも、プテラが襲ってきたのは、しまっている途中だったような……落としたとしたら、きっとその時に違いない。
 そんな……サトシ達とはぐれただけじゃなくて、エテボースのモンスターボールもなくしちゃうなんて……でも、ここで落ち込んでなんかいられない。
「とにかく、まずは町に戻らなきゃ。エテボースを探しながら、サトシ達の所に行きましょ!」
 あたしがポケモン達に言うと、ポケモン達は元気よく答えてくれた。それだけで、あたしは大きな力をもらえる。
 あたしはマンムーの背中に乗る。他のポケモン達も、一緒にマンムーに乗った。そして、マンムーは全速力で、ロクショウシティへと走って行った。

 町に戻るのには、意外と時間はかからなかった。
 でも戻った場所は、あたし達が来た所とは全然違う場所だった。その町並みは、全然見覚えがない。
 迷っちゃった。道を調べようにも、地図は持っていない。地図はいつもタケシが持っているし、見るのも大抵タケシの役目だから。それが裏目に出ちゃった。
 はあ、どうしよう、って言葉が自然と出た。とりあえず、交番を探して、ジュンサーさんに聞いてみるしかない。そう考えた時だった。
「ヒカリーッ!」
 あたしの背中から、あたしを呼ぶ声が聞こえてきた。一瞬サトシ達かな、と思ったけど、サトシにしてもタケシにしても、声が高い。でも、聞き慣れた声。
 まさか、と思って振り向くと、そこにはこっちに駆け寄ってくる、緑系のカラーリングでまとまった服装をした、1人の男の子が走ってくる。やっぱりサトシ達じゃないけど、その姿は見慣れたものだった。
「ケンゴ!」
 そう、ケンゴはあたしと同じフタバタウン出身の、あたしの幼馴染。ポケモンコンテストにも出場していて、ソノオ大会やズイ大会とかじゃ実際にあたしと一緒にコンテストに出た。最近のコンテストじゃ、テレビを見る限り結構成果を挙げてるみたい。あたしの事をたまに『ピカリ』って呼んだりしてからかってきたりするけど、それでも悪い人じゃない。なんであたしの事を『ピカリ』って呼ぶのかって? それは聞いちゃダメッ!
 そんなケンゴと、ここで会うなんて意外だった。
「こんな所にいたのか……探したんだぜ、ボク」
「え?」
 ケンゴもあたしの事探してたの? あたしは驚いた。でもよく考えたら、きっとサトシ達に会って、探すのを手伝っているんだ!
「そっか! サトシ達と一緒にあたしを探していたのね! だったら……」
「違う違う。何言ってるんだよ。この前製鉄牧場に来た時、ロケット団と戦って、そのまま逃げたじゃないか。だからどこに行ったのか心配してたんだ」
 でもケンゴの言ってる事は、あたしにとって全然訳のわからない事だった。製鉄牧場には行きたいと思ってたけどまだ行ってないし、そもそもこの町でロケット団とは会ってない。変な黒ずくめの集団には会ったけど。
「何の話? あたし、まだ製鉄牧場に行ってないし、ロケット団とも会ってないけど?」
「え!?」
 するとケンゴは、驚いたように声を裏返した。
「じょ、冗談言うなよ……実際ボクと会ったじゃないか、そこで」
「ケンゴの方こそ、冗談言ってるんじゃないの? あたしはケンゴとここで会うのは最初よ?」
 あたしが言い返すと、ケンゴは言葉を詰まらせた。すると、はっと何か思い出したように、こう言った。
「そうだヒカリ。その時、なんでボクに対してあんな事したんだ?」
「あんな事?」
 ケンゴの表情が急に、怒っているように鋭いものになった。あんな事って言われても、よくわからない。何が言いたいんだろ?
「とぼけるなよ! あの時やけに丁寧な言葉遣いして、ボクの事知らないとか、私はヒカリという名前じゃないとか、いろいろボケてたじゃないか!」
 ケンゴの口調がいきなり強くなる。明らかに怒っている。でも、あたしには全然覚えがない。そもそも、知ってる人の事を知らないって言うなんて、あたしはした事がない。そもそも、そんな事してどうするの?
「何、訳わからない事言ってるの? ケンゴの事知らないって言ってボケてどうするのよ? それにそもそも、あたしはそんな事してないわよ、ケンゴとはその時まだ会ってなかったんだから」
「隠したってわかるんだぞ!! ボクが『ピカリ』って言っても『ピカリ』って何、みたいな事言ってたじゃないか!!」
「隠してません!! それに、その『ピカリ』って呼び方ダメって言ってるでしょ!!」
「それに、新しくポニータもゲットしてて、ミミロルもミミロップに進化してたじゃないか!!」
「何チンプンカンプンな事言ってるのよ!! あたしはポニータなんて持ってないし、ミミロルも進化してないわよ!! ほら!!」
「え……!?」
 たちまちあたしとケンゴは口ゲンカになった。でも、あたしが連れて来ていたポケモン達を見せた途端、ケンゴは静かになった。あたしのポケモン達は、信じられないものを見たかのように目を丸くしたケンゴを見て、首を傾げるだけだった。
「そんな……!? 確かにポニータとミミロップがいたのに……!?」
「ケンゴ、何だか変よ? 変な夢でも見たんじゃないの?」
「いや、あれは夢なんかじゃない!! 間違いなく見たんだ!! ボクは間違いなく、あの時ヒカリと会ってるんだ!!」
「会ってないって言ってるでしょ!!」
 それでもケンゴは、訳のわからない話を止めようとしない。結果的に、あたしはその事に反論し続けたから、口ゲンカはしばらく続く事になった。いつまで訳わからない話するのって思うのと同時に、こうやって言い争いしてると疲れてくる。
 それを止めたのは、突然飛んできた一筋の光線だった。いきなり目の前で起きた大きな爆発に驚いて、あたし達の口ゲンカは自然と止まった。
「な、何!? 今の!?」
「口ゲンカはそこまでにしてもらおうか、プラチナ・ベルリッツ!!」
 爆発で起きた煙の向こう側から、そんな聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 煙が晴れると、爆発を起こした犯人が正体を現した。かせきポケモン・プテラと、その横に立っている1人の男の人。全身黒ずくめに、黒い帽子をかぶった男の人。その服装は、あの時あたしを襲った黒ずくめの集団と同じものだった。そしてあの声。まさか、あの時の……!
「あんたは、あの時の……!!」

 * * *

 ポッチャマは、なおもサトシのポケモン2匹に攻撃をしています。その一方で、相手の2匹はまともに攻撃しようとせず、なぜか攻撃をよけるばかりです。
 先に仕掛けたのはポッチャマの方ですが、あの2人はしつこく私を連れて行こうとしてきましたから、ここで2人を止めて製鉄牧場に行くためには、ポケモンバトルをするしかないようです。そう判断した私は、ポッチャマに指示を出しました。
「ポッチャマ、“みずのはどう”!!」
 ポッチャマが放った“みずのはどう”は、ポッチャマに必死に何かを訴えているピカチュウに命中しました。効果は今ひとつですが、直撃を受けたピカチュウは、たちまち目を回して千鳥足になりました。追加効果で『こんらん』したようです。相性が不利なピカチュウを、『こんらん』させる事ができたのは大きいです。
「ピカチュウ!! くそっ、どうしてこんな事するんだよ!!」
「あなた達がしつこいからですよ」
 ピカチュウを抱き上げるサトシの言葉に、私はそう答えました。
「ダメだサトシ、今はポケモンバトルをしながら、ヒカリの記憶を思い出させるしかない」
 サトシの横にいたタケシがそう言うと、サトシは唇を噛んで、指示を出しました。
「エテボース、頼む!!」
 その一声で、エテボースがポッチャマの前に出ました。
「ヒカリ、思い出すんだ。このエテボースは、エイパムの時にブイゼルと交換したポケモンじゃないか。そのエイパムを、お前がエテボースに進化させたんだ」
 サトシが急に、そんな話をし出しました。エテボースも、私に何かを訴えるように、声を上げています。でも私はエイパムを手持ちに加えた覚えはありませんし、そもそも交換もした事はありません。
「私はエイパムを捕まえてません。そもそもポケモンの交換もしていません」
「思い出すんだ! 約束したじゃ……」
「していません」
 そんな私の言葉に合わせるように、ポッチャマが飛び出しました。
「“みずのはどう”!!」
 私が指示すると、ポッチャマは“みずのはどう”をエテボースに発射しました。エテボースはよけようとしません。これなら当たる。私は確信しました。
「くっ……! エテボース、“ダブルアタック”で跳ね返せ!!」
 するとサトシが、そんな指示を出しました。エテボースはその指示通りに、2本の尻尾の拳を体にスピンをかけて振り、“みずのはどう”を打ち返して見せました。こちらに戻ってくる“みずのはどう”。ポッチャマは慌ててよけたので、当たらずに済みました。
「この攻撃を攻撃で跳ね返す戦法だって、エテボースでお前がやったわざじゃないか。それを俺は利用して、ヨスガジム戦で『カウンターシールド』にして使ったじゃないか!」
 どうやらこの“ダブルアタック”で攻撃を跳ね返す戦法も、何か私と関係があるようですが、そもそもエテボースを手持ちに入れた事のない私にとっては、意味のわからない話でしかありません。
「そんな事はしていません。そもそもエテボースは手持ちに入れていないのですから」
 私がそう答えると、サトシもエテボースも、驚いた表情を見せました。
 さて、相手が“ダブルアタック”で攻撃を跳ね返す戦法を使えるとなれば、“ダブルアタック”で跳ね返せない攻撃を使えば……!
「ポッチャマ、“ふぶき”!!」
 ポッチャマは指示通りに、“ふぶき”でエテボースに攻撃しました。雪を強い風に乗せて発射する“ふぶき”なら、“ダブルアタック”を使っても防ぐ事はできないはずです。
「エテボース、“スピードスター”で防ぐんだ!!」
 でもサトシはまた、違う指示を出しました。エテボースは“スピードスター”を周囲にばら撒きました。ただばら撒くだけかと思いましたが、その“スピードスター”は1つに結集し、エテボースの体を隠すほどの大きな星となって“ふぶき”の前に立ちはだかったのです。それはそのまま大きな盾となって、“ふぶき”を簡単に防いでしまいました。私は驚きました。まさか“スピードスター”にあんな使い方があったなんて……
「もうやめるんだヒカリ!! エテボースだって、こんな事望んでないんだ!!」
 サトシはエテボースと一緒に、私に訴えます。やめろと言われても、あなた達がしつこいから、こうやっているのですが……
 その時、サトシの足元でピカチュウが何やら訴え始めました。どうやら『こんらん』が治ったようです。
「どうしたんだピカチュウ? ……お前が説得に行ってくれるのか?」
 サトシが言うと、ピカチュウはコクンとうなずき、それを見たサトシのわかった、行ってくれ、の言葉を聞くと、エテボースと入れ替わってポッチャマの前に出ました。
 でんきタイプのピカチュウを相手にするのは、みずタイプのポッチャマにとって不利です。それに、さっきまでわざを何度も繰り出しているので、疲れも溜まっているはずです。ここは交替した方がいいでしょう。
「ポッチャマ、一度交代です!」
 私はモンスターボールを取り出してポッチャマをモンスターボールに戻し、もう1つのモンスターボールを取り出しました。
「ミミロップ!!」
 私は中に入っているポケモンの名前を呼び、モンスターボールを投げました。中から名前を呼んだ、ミミロップが出てきます。すると、それを見た2人と1匹が、驚いた様子を見せました。
「ミ、ミミロップ!?」
「いつの間に進化したのか!?」
 サトシとタケシの驚く声。それよりも、ピカチュウの驚き方はその2人以上で、動揺しているようにも見えます。どうやら2人はミミロップの事も進化する前から知っているようです。ですがいつの間に進化したと言われても、私のミミロップは、手持ちに入れた時からミミロップです。ポッチャマの事と言い、どんどん謎は増えていきます。
 ピカチュウは何やら、ミミロップに話しかけていますが、ミミロップは相手のポケモンの言葉に耳を貸すはずはありません。
「“きあいだま”!!」
 私が指示すると、ミミロップは両手を突き出し、“きあいだま”をピカチュウに発射しました。それに驚いたのか、ピカチュウはその場で動かないままかわそうとせず、そのまま“きあいだま”の直撃を受けました。爆発に弾き飛ばされ、倒れるピカチュウ。
「今です!! “おんがえし”!!」
 私の指示で、ミミロップはすかさず飛び出しました。ピカチュウが起き上がった頃には、ミミロップはもうピカチュウの目前に迫っていました。そのままミミロップの拳が、ピカチュウの体に叩き込まれました。衝撃で飛ばされるピカチュウ。
「ピカチュウ!?」
 サトシが叫びましたが、ピカチュウが立ち上がる事はありませんでした。戦闘不能です。
「そんな……あんなにピカチュウの事好きだったのに、どうしてピカチュウを平気で攻撃できるんだ……!?」
「まさか、ミミロップも記憶をなくしているというのか……!?」
 2人はやはり意味のわからない事を言って、動揺しています。ピカチュウが好き、と言われましても、私のミミロップはピカチュウを好きになったという経験はありません。本当に、2人は何者なのでしょう?
 その時、私達を黒い影が覆いました。上から何かが落ちてくる気配。私達はバトルをやめて上を見ると、大きな黒い影が今まさに、ここに落ちてきているではありませんか!
 私達は、慌ててその場から離れました。その直後、私達がいた場所に大きな影が音を立てて落ちました。衝撃で、私達は少し吹き飛ばされてしまいました。
 転んだ体を起こすと、影が落ちた所は、土煙で覆われていました。その中で不気味な光が2つ輝いています。それは、目のようにも見えました。
 土煙が晴れると、その影が正体を現しました。それは、てつヨロイポケモン・コドラ。ココドラの進化系です。でも、コドラにしてはあまりにも大き過ぎます。その高さは、2階建ての建物ぐらいにあります。こんなに大きなコドラはいません。しかも見るからに、明らかに体は人の手で作られたもの。コドラの姿を象った、ロボット……?
『わーっはっはっは!!』
 すると、どこかにスピーカーが付いているのか、高らかな笑い声が巨大コドラから響きました。その声には、聞き覚えがありました。まさか……!


TO BE CONTINUED……

[812] SECTION03 邂逅! ヒカリとプラチナ!
フリッカー - 2009年04月28日 (火) 20時28分

「一体何なんだ!?」
 サトシが声をあげました。すると、その言葉に答えるように、スピーカーから高らかな声が聞こえてきたと思うと、巨大コドラの頭のてっぺんが開き、中から人の姿がせり上がってきました。
「『一体何なんだ!?』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「世界に届けよ、デンジャラス!!」
「宇宙に伝えよ、クライシス!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える、魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役は、あたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
 その姿は、間違いなくあの時製鉄牧場に現れ、ココドラ達を奪おうとしたあの『ロケット団』の2人と1匹でした。2人と1匹はポーズを取って前口上みたいな事を言い終わると、がまんポケモン・ソーナンスと、マイムポケモン・マネネも飛び出してきました。
 以前会った時に聞いた前口上を初めて最後まで聞きましたが、『無敵の』と言うからには相当な実力があるという事でしょうか? 私は少し怖い感じがしました。
「ロケット団!!」
 サトシとタケシが、声を合わせて叫びました。この2人も、ロケット団の事を知っているのでしょうか?
「知っているのですか、あのロケット団の事を?」
「当然だろ! ってなんでロケット団の事は覚えてるんだ!?」
 私がサトシに聞くと、サトシは途中までは答えましたが、すぐに驚いて逆に私に聞きました。
「覚えているも何も、この間私が行った製鉄牧場に現れて、そこのココドラ達を奪おうとしたんですもの」
「何だって!?」
「この間はよくもやってくれたわね、ジャリガール!!」
 私が答えていると、ロケット団の赤い髪の女の人、ムサシが話に割り込んできました。
「俺達の事知らないふりして、製鉄牧場のココドラを奪うのを妨害したんだからな!!」
「そんな訳で、そのお返しはバッチリ返させてもらうのニャ!! メカココドラから進化したこの、メカコドラでニャ!!」
 ロケット団の2人と1匹は、私を指差して、堂々とそう言うと、メカコドラの頭の中に潜り込みました。
 彼らは私を狙っている。それを知って、私はあの時黒ずくめの男に狙われた時のように、体が一瞬震えるのを感じました。


SECTION03 邂逅! ヒカリとプラチナ!


「どういう事なんだ……? 俺達はまだ製鉄牧場に行ってないし……ロケット団にもここに来てから会ったのは最初だが……」
 タケシは首を傾げてつぶやきました。その時は彼らとは会ってないので当然なのですが。
『ミサイル発射なのニャ!!』
 その時、そんな声がスピーカーから響きました。すると、メカココドラの口が開き、中から赤いミサイルが飛び出してきました。それは飛び出してすぐ爆発したと思うと、いきなりネットが広がり、ミミロップを覆ってしまいました。
「ミミロップ!!」
 私が叫ぶ間もなく、ミミロップはそのままネットごとメカコドラの口の中へと吸い込まれてしまいました。その時、さっきのバトルでミミロップに敗れたピカチュウが、ミミロップを見てしきりに震える手を伸ばしていました。
『わーっはっはっは!! まずはミミロップをゲットよ!!』
 ミミロップを飲み込んだメカコドラのスピーカーから、勝ち誇った声が響きました。
「エテボース、“スピードスター”だ!!」
 その時聞こえたサトシの声。すると、エテボースがメカコドラに向けて“スピードスター”を放ちました。ですが命中した“スピードスター”は、メカコドラのボディに空しく弾かれるだけでした。それを見て唇を噛むサトシ。
『ニャハハハ!! このメカコドラもコドラと同じように頑丈にできているのニャ!!』
『さあ、今度はフルスロットルで突撃だ、ニャース!!』
『ほいニャ!! メカコドラ必殺、“すてみタックル”なのニャ!!』
 すると、メカコドラが動き出しました。その体の大きさからは想像できないほどのスピードで加速し、こっちに向かってきました! 私達は慌てて横に走ってよけます。メカコドラはそのまま、後ろに立っていた建物に激突しました。強い衝撃が、こちらにも伝わってきました。建物が崩れるほどではありませんでしたが、体の半分以上が建物に食い込む、凄まじい突進力。あれをまともに受けていたら、ポケモンでもただでは済まないでしょう。メカコドラは、すぐに後退して体を建物から抜き、こちらに向こうとしています。
「ポニータ……」
『隙ありだニャ!!』
 私はポニータの様子を確かめようとしましたが、すぐに私の後ろから、銀色の腕が伸びてきました。それがメカコドラのものと気付いた時には、腕は既にポニータを捕えてしまっていました。ポニータはそのまま、メカコドラの背中へと飲み込まれてしまいました。
『へへ、これでポニータもゲットだぜ!!』
 また勝ち誇った声が響きました。私は驚きのあまり声も出ませんでした。あっという間に2匹もポケモンを奪うロケット団。彼らは『無敵の』と名乗るにふさわしい実力を持っている。私の背中が凍りつきました。あの時私がメカココドラを止められたのは、まぐれだったのでしょうか?
『何だかいい感じじゃない!? この調子でどんどんやっちゃいましょ!!』
『さあ、次のポケモンを出すのニャ、ジャリガール!!』
 メカコドラの頭が、こちらに向きました。メカコドラの機械の目がこちらに向き、私は1歩だけ、後ずさりをしました。相手は相当な実力者、このまま戦っても勝てる保証はありません。あの時の黒ずくめの男のように。ですが、肝心のポニータはメカコドラに捕らえられてしまいました。逃げるとしても、この状況からどうやって逃げるべきでしょうか? 私はポッチャマが入ったモンスターボールに手を伸ばしかけたまま、動く事ができませんでした。
『出す気がないならこっちから出させてもらうぞ!! ニャース!!』
『わかってるニャ!!』
 すると、待ちかねたのかメカコドラの方から先に動き出しました。先程建物を貫通したほどの突進力で、こっちに向かって来たのです! 私は突然の事に驚き、体が動きませんでした。そしてメカコドラの巨体が、すぐ目の前にまで迫ってきました。

「ヒカリ、危ない!!」
 このまま潰される。そう思った時、そんな声が聞こえたと思うと、いきなり私の体が横に引っ張られました。メカコドラの体がすぐ横を通り過ぎたのを感じてすぐ、私の体は引っ張られた反動で地面に倒れました。誰かと思って隣を見てみると、そこには私の肩を抱えるサトシの姿が。
「大丈夫か、ヒカリ?」
 彼は相変わらず私の事を『ヒカリ』と呼びますが、私はまさか彼に助けられるとは思ってもいませんでした。
「どうして、私を……?」
「ヒカリは、俺達の大事な仲間だからじゃないか」
 私が聞くと、サトシは少しだけ笑みを見せてそう答えました。
「今は俺達の事は思い出してくれなくてもいい……それでも、ヒカリは俺達にとって大切な旅の仲間なんだ!」
 サトシの言葉は相変わらず意味がわからないものでしたが、その強い眼差しを見た私は、彼は私に心当たりがない事を言ってばかりですが、この人は決して悪い人間ではないと感じました。何か勘違いをしているかもしれないというのは変わりませんが、心はとてもいい人のように思えました。
『く〜っ、またあんたなのね、ジャリボーイ!!』
 その時、私の横を通り過ぎたメカコドラが、停止してこちらに向き直りました。またこちらに向かって来るかもしれません。その時、サトシが立ち上がりました。
「ヒコザル、君に決めたっ!!」
 サトシはそう叫んで、取り出したモンスターボールを強く投げ付けました。中から飛び出したのは、こざるポケモン・ヒコザルです。そしてサトシはこちらに顔を向けて、こう言いました。
「ヒカリ、ポッチャマを出してくれ。ポッチャマの力が必要なんだ」
「あ、はい!!」
 それを聞いた私は、すぐにモンスターボールを取り出し、ポッチャマを出しました。先程のバトルでの疲れはもう回復しているようです。
「ヒコザルが先に攻撃するから、その後に続けてくれ!!」
 相手は『無敵の』と名乗っているにも関わらず、そんな人を相手にしているとは思えないほどの比較的落ち着いた様子で私にそう言いました。何か策があるのかもしれません。
「はい!!」
 私はそんなサトシの言葉を信じて、うなずきました。それを確かめたサトシは、ヒコザルに指示を出しました。
「ヒコザル、“かえんほうしゃ”!!」
 ヒコザルはサトシの指示に応えて、メカコドラに向かって勢いよく炎を吹きつけました。メカコドラの頭に炎が命中しますが、それでもメカコドラのボディにダメージを与えたようには見えません。炎が当たった部分が熱を持って赤くなっただけ……でもそれを見て、私ははっとしました。まさか、サトシの狙いは……!
『ニャーハハハ!! 無駄ニャ無駄ニャ!! さっきの話を聞いてなかったのかニャ?』
 余裕を見せるニャースの声が響きました。そのまま平気で立っているメカコドラ。その時、ヒコザルが火を止めました。
「今だヒカリ!!」
 サトシの一声に合わせて、私は指示を出しました。
「行け、ポッチャマ!! “ふぶき”!!」
 ポッチャマはメカコドラに向けて、“ふぶき”を発射しました。先程“かえんほうしゃ”が当たって熱を帯びていた頭が冷やされ、白い煙が出始めます。
「今だエテボース、“きあいパンチ”だ!!」
 そこにすかさず、エテボースが飛び出しました。尻尾の拳に力を込め、“かえんほうしゃ”で熱され、“ふぶき”で冷やされた頭にパンチを叩き込みました。すると、拳を叩き込んだ部分からヒビが入り始め、メカコドラの頭が音を立てて割れました。そしてパンチの衝撃で、メカコドラは横転してしまいました。
「ど、どうなってんのよニャース!!」
「まさか、かくとうタイプのわざは効果抜群になってるとかじゃないよな!?」
「そ、そんなはずはないのニャ!!」
 操縦席らしきものがむき出しになり、ロケット団の2人と1匹が慌てた様子でそんなやり取りをしていました。
 サトシの作戦。それはまず先に“かえんほうしゃ”でボディを熱してから、“ふぶき”で冷やす。金属は熱せられた後に急に冷やされると、膨張した後に急に縮んでしまってもろくなってしまう性質があります。それを利用して、ボディをもろくさせたのです。
「エテボース、“スピードスター”だ!!」
 むき出しになったメカコドラの頭に向けて、エテボースは“スピードスター”を発射しました。それに気付いたロケット団は慌てて逃げ出した所に、“スピードスター”は命中。メカコドラの頭は爆発し、そして連鎖反応で体の他の部分も次々と小さな爆発を起こしました。やがてその中から、自由の身になったポニータとミミロップが飛び出してきました。
「ポニータ!! ミミロップ!!」
 私はその2匹をすぐに迎えました。2匹共特に大きなケガもなく、無事でよかったです。
「この〜っ!! こうなったらポケモンバトルよ!! 行くのよハブネーク!!」
「マスキッパ、お前もだ!!」
 するとロケット団の2人が怒って、ポケモンを繰り出してきました。片方はキバへびポケモン・ハブネーク、もう片方はむしとりポケモン・マスキッパ。マスキッパは、なぜかロケット団の青い髪の男の人、コジロウに噛みついていましたが。
「どうするのですか? 相手は『無敵の』と言っているんですよ?」
「心配するなって。そんな言葉は飾りさ。いつも俺達の力で追い払ってたじゃないか」
 ポケモンバトルで直接対決になる事に、私は少し不安になってサトシに聞きましたが、サトシは1つも不安な様子を見せずにそう答えました。私はその言葉を聞いて、なぜか安心できました。彼がいい人だとわかったからでしょうか。
 サトシの前に、エテボースが飛び出しました。そして私もそれに続こうと、ポッチャマに指示を出しました。
「行け、ポッチャマ!!」

 * * *

「あんたは、あの時の……!!」
 あたしの目の前にいる人は、間違いなくあの時プテラを指示していた奴。あたしがサトシ達とはぐれる原因を作った奴。
「何なんだあいつ!?」
「何だかよくわかんないけど、あたしを追いかけてる奴らなの!! あいつらのせいで、あたしはサトシ達とはぐれちゃって……」
 驚いた声を上げるケンゴに、あたしはそう答えた。
「鬼ごっこにはもう飽きたんだ。そろそろ決着をつけさせてもらうぜ、プラチナ・ベルリッツ!!」
 黒ずくめの男は、私にいきなり銀色の太い銃みたいなものを取り出して、あたしに向けた。そんなものを向けられたあたしは当然ドキッとした。その間に、銃がポンと乾いた音を出して撃たれた。あたしは思わず体を縮めたけど、その時いきなりあたしの目の前に1匹のポケモンが姿を現した。全身が鋭く尖ったトゲに覆われている、黄色い体のポケモン。結構身軽そうな印象だけど、そのシルエットや顔立ちはどこか見た事があるようなものだった。
「サンダース!!」
 黒ずくめの男の声が聞こえた。そのポケモンはあたしの目の前で、体中から火花を出した。まさか、電撃!?
 そう思った途端、そのポケモンは横に弾き飛ばされた。ポッチャマだ。ポッチャマが“つつく”で助けてくれたんだ。ポッチャマはあたしの目の前に立って、弾き飛ばしたポケモンをにらむ。あたしはそのポケモンが何なのか確かめるために、ポケモン図鑑を取り出した。
「サンダース、かみなりポケモン。イーブイの進化形。感情が高ぶると、電気を帯びて真っ直ぐになった体毛を何本も飛ばす」
 図鑑の音声が流れた。このポケモンは、進化形が多いポケモン、イーブイの進化形の1つなんだ。それにしても、なんでこのサンダースがいつの間にあたしの目の前に出てきたの!?
「あいつ、『ボールシューター』を使うのか!?」
 その時、ケンゴが叫んだ。
「何、その『ボールシューター』って?」
「モンスターボールを撃つ空気銃だよ。ポケモンにモンスターボールを確実に当ててゲットするための道具なんだけど、あんな使い方もあるなんて……!」
 あたしの質問に、ケンゴは答えた。
「それにしても、『プラチナ・ベルリッツ』って何なんだよ!?」
「そんな事、あたしにもわかんない!!」
「“10まんボルト”だ!!」
 そんなやり取りをしていると黒ずくめの男がいきなり指示を出した。サンダースが、すかさずポッチャマを狙って電撃を発射! “10まんボルト”はサトシのピカチュウの得意技でもあるから、その威力はよく知っている。相性の悪いポッチャマが受けちゃったらたまったものじゃない。
「ポッチャマ、かわして!!」
 あたしはすぐに指示を出した。ポッチャマは間一髪、サンダースの電撃をかわした。でもその時、サンダースはいつの間にかポッチャマの目の前にいた。速い!?
「“アイアンテール”!!」
 そこに、サンダースは“アイアンテール”を叩き込んだ! 直撃! 効果は今ひとつだけど、結構威力がありそう。ポッチャマはたちまち跳ね飛ばされた。
「へっ、サンダースに対して相性の悪いみずタイプで来るとは、このゲイリー様もなめられたもんだなあ」
 黒ずくめの男は余裕そうにそんな事をつぶやいた。あの黒ずくめの男、どうやらゲイリーって名前みたい。
「僕だって!! 頼むぞポッタイシ!!」
 ケンゴも負けじとモンスターボールを投げた。出てきたのはポッチャマの進化形、ポッタイシ。ポッタイシは前に相性じゃ悪いサトシのピカチュウと戦って、いいバトルをした事があった。だから相手がでんきタイプでも出てきてくれると助かる。
「2匹出してくるか。ならこっちも2匹でいかないとなあ!! マニューラ!!」
 するとゲイリーは、ボールシューターにモンスターボールを入れて、それを発射した。ポンと撃ち出されたモンスターボールからかぎづめポケモン・マニューラが飛び出してきた。あっという間にポッタイシの前に躍り出る。
「“つじぎり”!!」
 そしてそのままポッタイシを、素早くその鋭いツメで切りつけた! ポッタイシはたちまち反動で倒れそうになるけど、何とか踏み止まった。
「ポッタイシ、“メタルクロー”だ!!」
「“でんこうせっか”!!」
 すかさずケンゴも指示したけど、ゲイリーもほぼ同時に指示をしていた。ポッタイシは羽根の先にあるツメでマニューラに切りかかろうとしたけど、それよりも早くマニューラが“でんこうせっか”でポッタイシに飛び込んだ! 反撃する隙もないまま、ポッタイシは跳ね飛ばされた。
「ポッタイシ!!」
「ハハッ、スピードから俺のポケモンの方が上だ!!」
 叫ぶケンゴを尻目に、ゲイリーは自信満々に叫んだ。そして、今度はその目をあたしに向けた。
「……わかったらとっとと観念するんだな、プラチナ・ベルリッツ!!」
 すると、ゲイリーを乗せたプテラが吠えて、真っ直ぐこっちに向かってきた! まさか、あの時みたいにあたしを捕まえるつもりなの!? ポッチャマとポッタイシが気付いて行こうとするけど、サンダースとマニューラの攻撃がそれを許さない。
 向かってくるプテラに、応戦したのは残りのあたしのポケモン達、ミミロル、パチリス、マンムーだった。3匹であたしの前に立って一斉攻撃をかけて、プテラの道を阻む。プテラはすぐに反転して離脱する。素早い。
「ちっ、でんきタイプのポケモンに、あんなデカブツまで連れているだと……!? 俺は奴の手持ちは完璧に調べたはずだ!!」
 プテラの上でゲイリーは、そんな事をつぶやいた。唇を噛んでいたけど、弱気な表情は見せなかった。
「なら、これでどうだ!! “ふきとばし”!!」
 ゲイリーが指示すると、プテラは一旦動きを止めて、羽を猛スピードで羽ばたかせ始めた。物凄い突風が、あたし達に吹き付けてくる。真っ直ぐ前を見る事もできなくて、踏ん張ってもそのまま飛ばされちゃいそう……! もうミミロルとパチリスは、飛ばされて後ろにある建物に叩きつけられている。
「ミミロル……パチリス……きゃあっ!!」
 あたしがその様子を確かめた時、とうとう踏ん張りきれなくなって、あたしも飛ばされちゃった! ヒカリ、とケンゴの声が聞こえた。でもすぐに、あたしの体は受け止められた。何かと思って見てみると、そこにはマンムーの顔があった。体重の重いマンムーだけは、飛ばされないで済んでいる。そのお陰で助かった。
「ありがとう、マンムー」
「隙ありぃっ!!」
 マンムーにお礼を言う間もなく、プテラはまた、真っ直ぐこっちに向かってきた! それに気付いたあたしは、すぐにマンムーの横に回って、指示を出した。
「マンムー、“こおりのつぶて”!!」
 マンムーは氷の塊を素早く作って、プテラに向けて発射! それに気付いたプテラは、すぐに上昇してかわした。やっぱり速い……! プテラはまだ、あたしを狙い続けている。一瞬でも隙を見せたら、すぐにでもこっちに来そう。これじゃ、バトル所じゃない……!
「ヒカリ! 悔しいけど、こいつらとまともにやりあったら勝ち目がない! 逃げよう!」
 ケンゴが唇を噛んであたしに呼びかけた。見ると、ポッチャマもポッタイシも、サンダースとマニューラとのバトルでかなり消耗している。その一方で、サンダースとマニューラはピンピンしている。あたしは、ケンゴの判断は正しいと思った。あたしの方も、状況が状況だし。
「……ええ!!」
 あたしはケンゴの言葉にうなずいた。それを確かめたケンゴは、指示を出した。
「ポッタイシ、“しろいきり”!!」
 ポッタイシはすぐに、口から白い煙を吐いた。それが広がって、辺り一面の視界が真っ白になった。
 今だ、ってケンゴの声を合図に、あたし達はその場から逃げる。突進力のあるマンムーの背中に2人で乗って、素早くその場から離れる。マンムーが“しろいきり”の中を抜け出した。ゲイリーは、視界を遮られて戸惑っているはず。今の内に……!
「これで逃げられると思ったか!!」
 でもその思いは、簡単に打ち砕かれた。そんなゲイリーの一声が聞こえたと思うと、“しろいきり”の中からゲイリーを乗せたプテラが飛び出してきた! あっという間にあたし達の正面に回り込む。
「さあ、これで鬼ごっこは終わりだ!! プラチナ・ベルリッツ!!」
 そんあゲイリーの叫び声に合わせるように、プテラが真っ直ぐこっちに向かってきた! このままじゃ、逃げられない! 何とかして、あいつの足止めをしないと……! その時、あたしの中にあの時の記憶が思い浮かんだ。力ずくじゃ勝てなかった、ブイゼルをゲットした時の事を。これなら……!
「ポッチャマ、回りながら“バブルこうせん”!!」
 とっさにあたしは指示を出した。ポッチャマはその指示通りに、残った力を振り絞って、回りながら“バブルこうせん”を発射! クルクルと渦を描きながら飛んでいく“バブルこうせん”は、そのままプテラの周りを回り始めて、プテラの体にくっつく。プテラの動きが、自然と止まった。
「な、何だこりゃ!?」
 ゲイリーも動揺を隠せない。普通のバトルじゃかなわない相手なら、ポケモンコンテストの戦法を使って相手を惑わせる。あたしはこうやって、ブイゼルをゲットできた。
「ナイスだ、ヒカリ!!」
「今の内よ!!」
 すぐにマンムーが走り出す。でも、プテラも黙っていない。くっついた“バブルこうせん”を振り払って、また追いかけてくる。
「くそっ、調子に乗りやがってえっ!! “ストーンエッジ”だ!!」
 ゲイリーのキレた叫び声が聞こえてくる。するとプテラは、“ストーンエッジ”でこっちを攻撃してきた!
「まずい、来たぞ!!」
「ダイジョウブ!! パチリス!!」
 ケンゴが少し怯えたような声を上げたけど、それでもあたしは怯まなかった。パチリスが、サッと飛び出した。
「回りながら“ほうでん”!!」
 あたしの指示通りに、パチリスは回りながら“ほうでん”した! 電撃が渦を描いて飛んで行って、飛んできた岩の破片を跳ね返していく。そのまま電撃はプテラの周りを回り始めて、触れたプテラにもダメージを与えた! 効果は抜群!
「攻撃を“ほうでん”で跳ね返した!?」
「そうよ、これが『カウンターシールド』よ!!」
 驚いて声を上げたケンゴを前にして、あたしはそう叫んだ。ポケモンコンテスト・カンナギ大会でエテボースがたまたま使った戦法を元に、サトシがヨスガジム戦用に編み出した戦法。それが、この『カウンターシールド』!
 渦を描く攻撃で攻撃を跳ね返して、そのまま攻撃に転じさせるこの戦法は、プテラにもかなり効いている。この戦法でプテラを足止めしている間に、あたし達はプテラと距離を取る事ができた。
「くそっ、何なんだこの攻撃は!? だが怯むな!! 追え!!」
 ゲイリーも戸惑っているけど、それでも怯む様子は見せなかった。すぐにプテラは、またあたし達を追いかけてくる。
 でも、追いかけてくるなら、こっちだって……! あたしは追いかけてくるプテラに、何度も応戦し続けた。向こうがあきらめるまで、何度でも……!

 * * *

 そうこうしている内に、マンムーは町の中を複雑に進んでいた。
 プテラに対して応戦するのに必死だったから、どれくらい時間が経ったのか、どこをどう進んだのかは全然わからない。気が付けば、少しだけ見覚えのある景色が周りに流れていた。
「おい、ヒカリ!!」
 あたしがプテラに応戦している中で、ケンゴが突然声を上げた。
「どうしたの?」
「見ろよ!!」
 ケンゴは、真っ直ぐ正面を指差している。見ると、そこには誰かが道の真ん中でポケモンバトルをしているのが見えた。そこにいたのは、見覚えのある顔だった。
「サトシ!! それにタケシも!!」
「それに、ロケット団もいるじゃないか!!」
 あたしの言葉に、ケンゴが付け足した。確かに、サトシ達が戦っているのはロケット団だったけど、あたしはどうでもよかった。はぐれちゃったサトシ達を、やっと見つける事ができたんだから!
「サトシーッ!! タケシーッ!!」
 あたしははっきりと聞こえるように叫んで、右手を大きく振った。すると、サトシ達がバトルを一瞬やめて、こっちを向いた。そんな2人の目の前に、マンムーは止まった。するとなぜか、2人共驚いた表情を見せているのがはっきりと見えた。
「ヒ、ヒカリ!?」
 2人はなぜか、信じられないものを見たような顔を見せた。まあ、バトルしてる途中なんてタイミングで出てきたんだから、驚くのも当然かもしれない。あたしはマンムーの背中からそんな2人の前に降りた。
「ほ、本当にヒカリなのか……!?」
「当たり前でしょ! だって……」
「じゃあ、今いるヒカリは……!?」
 タケシが、なぜか横を向く。今いるヒカリ? 何の事だろうと思ってあたしもタケシの視線の先をたどってみた。
 するとそこには、信じられない人がいた。




 見慣れた服装に、見慣れた髪型、見慣れた帽子の女の子。

 それもそのはず、それはいつもあたしが鏡で見ている姿、つまり、あたしと全く同じ姿に見えたんだから。

 あたしは驚いて声も出なかった。その時、その女の子があたしの視線に気付いたのか、こっちに顔を向けた。それで、あたしはもっと驚いた。

 その女の子の表情も、見慣れたものだった。

 それもそのはず、それはいつもあたしが鏡で見ている顔……つまり、あたしと同じ顔に見えたんだから。

 あたしと全く同じ姿をした女の子が、今あたしの目の前に立っている。それも、鏡に映った姿なんかじゃなくて、正真正銘の本物の人……!?




「あ、あ……あたしがいる〜〜〜〜!?」
 あたしは思わず、その得体の知れない女の子を指差して、声を上げた。


SPECIAL STORY PART01:THE END
THE STORY IS CONTINUED ON PART02……

[813] 次回予告
フリッカー - 2009年04月28日 (火) 20時28分

 偶然出会ったあたしのそっくりさん、その名はプラチナ・ベルリッツ。

「あ、あ……あたしがいる〜〜〜〜!?」
「ど、どうなってるんだ!? どっちが本物のヒカリなんだ!?」
「なんでわからないの!? あたしがヒカリです〜っ!!」

「ちっ、影武者を用意していたとはな……!」
「こうなったら、2人まとめて仕返ししてやるんだから!!」
「……!!」

 でも、驚いてる場合じゃない。一緒に力を合わせて、戦わないと!

「行くわよ、ポッチャマ!!」
「行け、ポッチャマ!!」
「ポチャッ!!」

 そして、黒ずくめの集団の目的は……?

「何としてでも奴を誘拐して、『Zファイル』を手に入れるんだ!」

 NEXT STORY:
 30作達成記念3部作 第2部:ベルリッツ家の秘密

 COMING SOON……



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