[803] SECTION01 闇の波導使い、現る! |
- フリッカー - 2009年03月26日 (木) 20時46分
あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事! パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……
SECTION01 闇の波導使い、現る!
それは、私が家族と一緒に旅行に出かけた時の事だった。
家から遠く離れた場所に行くんだから、いじめっ子達に邪魔はされない。だから、私は体を縛っていた縄から解放された、自由な気分になれた。 しかも、行った場所は私の好きなグラシデアの花がいっぱい咲き乱れている花畑。『花の楽園』って呼ばれている場所だった。一面に咲くグラシデアの花の色合い。一面に漂う心地いい匂い。それが、私の心を溶かしてくれる。いじめっ子達にいじめられる苦しくて、辛い思いを忘れさせてくれる。私にとっては、まさに楽園だった。辛い事から私を自由にしてくれる楽園。それも、誰にも邪魔される事はない。このままずっとここにいられたらいいな、と考えずにはいられなかった。 私はその花畑の真ん中で仰向けになって、目を閉じてグラシデアの花の香りを味わっていた。まるで空に浮いているような、ふんわりとした心地いい感触に包まれる。癒される。その言葉しか言いようがない。 その時だった。
誰かが苦しんでいる。
誰かの苦しんでいる声が聞こえてくる。
それも、ただ苦しんでいるんじゃない。
今にも倒れてしまいそうなほどに、弱っている。
それを感じて、私ははっと体を起こした。 波導。私がいじめられている理由になっているそれを、私の体が感じ取った。 私は何かの波導を感じたら、その場で黙ってなんていられない。必ず何か行動しちゃう。どんなにその事でいじめられても、それだけは変えられなかった。 それに、苦しんでいる『何か』は、助けて、と言っているようにも感じた。どんな人なのかはわからないけど、このまま放っておく訳にはいかなかった。 私はすぐに、波導を感じる方向に向けて駈け出していた。そう遠い場所じゃない。その場所に付くには、長く時間はかからなかった。
波導は、すぐ近くに感じる。でもそこには誰の姿もない。でも確かに、波導は感じる。この近くに、間違いなくいるはず。 もしかして、足元……? 私は足元を見てみた。 一見すると何もないように見えるけれど、よく見てみると、そこに苦しんでいる『何か』の姿を見つける事ができた。
背中が草で覆われているけれど、その下には白い体が見える。そしてその草には、私の好きなグラシデアの花が咲いていた。 小さなポケモンだった。でも、グラシデアの花が咲いているポケモンなんて、私は見た事がなかった。そのポケモンは、背中で息をしながら、ぐったりと横に倒れている。明らかに弱っている。 そのポケモンが、私の影に気付いて小さな顔を上げた。そのポケモンと、初めて目が合った瞬間だった。 私はポケモンに触った経験なんて、この時は一度もなかった。でも、だからってこのままにしておく訳にはいかない。 「だ、大丈夫?」 私は小さなポケモンにそっと手を伸ばした。恐る恐るが半分、脅かさないように気をつけているのがもう半分。 「……!!」 すると、小さなポケモンの目がひきつった。そして、体を縮めた。怯えているんだ。この子の波導が、そう私に教えてくれている。 「こ、怖がらないで。私、助けてあげたいだけだから」 そう言うと、小さなポケモンの波導が落ち着いてきた。体の力も抜けてきている。よかった、話をわかってくれて。 私は小さなポケモンをそっと抱き上げると、すぐに急いでパパとママの所に走って行った。
そのポケモンは、シェイミってポケモンだった。結構珍しいポケモンらしくて、見せるとパパもママも驚いていた。 早速私はシェイミを元気にしてあげようと、ポケモンを治してくれるっていうポケモンセンターに連れて行った。治療室の前で待っていた時、「とんでもないものを連れてきたなあ」とパパに言われたけど、私はそんな事はどうでもよかった。ただ、シェイミが無事でいてくれますように。そう祈るだけだった。 そしてしばらくすると、病室の前のランプが消えた。手当てが終わった事を表している。その後ジョーイさんにシェイミは無事ですよ、と言われて、私はほっとした。 それからしばらくはシェイミを休ませるために病室に入る事はできなかったけど、次の日になって、病室に入る許可をもらえた。ベッドには、あの時と違って顔色のいいシェイミの顔を見る事ができた。 (ありがとう、ボクを助けてくれて) 側に行くと、いきなりそんな言葉が私の頭の中に響いて、驚いた。波導じゃない。これって、テレパシー? テレパシーでポケモンが喋れるなんて、私は驚くしかなかった。 「あ、その……どういたしまして」 私はそのせいで少し慌てちゃって、拍子抜けした答えを返す事しかできなかった。すると、シェイミの少し笑った顔を見せた。 (君、なんていうの?) 「えっ?」 私は声を裏返しちゃった。他人に名前を聞かれるなんて、初めてだった。私は当然ドキッとしたけど、聞かれたからにはここで教えない訳にはいかない。 「……シナっていうの」 (そう、シナっていうんだ。助けてくれてありがとう、シナ) シェイミは笑みを浮かべた。名前を呼ばれた事にも、私はなぜかドキッとした。シェイミの波導は、なぜか今まで会った他人の中で、とても暖かいものに感じられた。今まで会った人達は、みんな波導が冷たかった。でも、シェイミは違う。パパやママと同じ、暖かい波導。このシェイミとなら、私はずっと欲しかった友達になれるかもしれない。 私は何気なく、シェイミをそっと抱き上げた。今回は恐る恐る、って気持ちはない。抱いてみると、波導の暖かさを体で感じる事ができた。 (シナって、優しいんだね) すると、シェイミは安心したようにそっと目を閉じると、背中の草にまた2つのグラシデアの花が咲いた。 シェイミが、私に心を許してくれた。私は波導を感じてそうわかると、嬉しくなった。 周りからはいじめられる私でも、このシェイミとなら、友達になれる。それがはっきりわかったから。
そう、それが私とシェイミの出会いだった――
* * *
たまたま水を汲みに行った時、あたしは野生のボスゴドラに襲われちゃった! あたしはマンムーで応戦したけど、マンムーは逆にケガをしちゃって大変な事に。あたしはポケモン達と一緒にケガの手当てをしてあげた。そしてボスゴドラはまた襲ってきたけど、元気になったマンムーはあたしと一緒に戦ってくれた。あたしの言う事も、ちゃんと聞いてくれたの! よかった、言う事を聞いてくれるようになってくれて。 そんな訳で、あたし達のキッサキシティへの旅は、今日も続く。
旅を続けるあたし達が到着したのは、大きな町。大きな建物が連なって、通りにはたくさんのお店が並んでいる。そしてたくさんの人でにぎわっていて、いかにも大きい町って感じがする。 そんな町に久しぶりに来たんだから、やりたい事はいっぱいある。でも、一番したい事と言ったら、もちろん……! 「ねえ、せっかくだからショッピングに行きましょうよ!」 あたしは迷わずサトシとタケシにそう提案した。ちょうど予定も入ってないんだし、タケシもいろいろ買い出しをしたいって言っていたし。でも、2人はなぜか表情を曇らせる。 「行くって……どこにショッピングをしに?」 「決まってるでしょ! コンテスト用のシールとか、アクセサリーとか、いろいろ……」 サトシの質問に、あたしは胸をときめかせながら答えた。だって、こういうのを見て回ったり、買ったりするのって、とっても楽しいんだもん! 「ね、いいでしょ?」 「……う、うん、まあ、悪くはないよな。な、タケシ?」 「あ、ああ……確かに、買い出しに行くついでに寄るのも、悪くはないよな……」 2人はなぜか苦笑いしながらそうやり取りをしていた。何だか行くのが嫌そうな顔をしてるけど……なんで? そこが何だかムッとするんだけど。 「ねえ、どうしてそう、嫌そうな顔してるのよ?」 「あ、いや……そんな事は、ないよ……なあタケシ?」 「あ、ああ、まあな……」 素直に聞いてみると、2人はやっぱり苦笑いしながらぎこちない言葉で答える。サトシの肩の上にいるピカチュウが、おいおいと言っているように、溜息を1つついていた。やっぱり怪しい。ひょっとして、前にアケビタウンでショッピングした時、2人にあたしが買った物を運んでもらったけど、それが嫌で…… と考えていると、あたしの背中に、ドンと何かがぶつかった。そしてあたしのすぐ足元に、何かがバッと落ちた音が聞こえた。いけない、今まで2人の方に顔を向けていたから、前をちゃんと見ていなかった! 「あっ、ごめんなさい!」 あたしはすぐにそう言って、振り向いた。するとそこには、見覚えのある顔があった。物静かそうな顔立ちをした女の子。右目が赤で、左目が水色と、左右違う色の目。縛ってポニーテールにした長い緑色の髪には、グラシデアの花が一輪刺さっている。そして何も飾りがついてない、青紫色一色の半袖、ひざ丈くらいの長さのスカートの地味でシンプルなワンピース姿。 「シナ!」 そう、それは間違いなく『波導』を見る事ができる女の子、シナだった。波導が見えるって事でいじめられていたけど、今はもう、それで苦しんでいるような表情はなくなっている。 「ヒカリ!」 シナもあたし達の顔を見て、嬉しそうな顔を見せた。 「ごめん、ちょっと話してたから前に気付かなくて……」 「いいよ、こっちは平気だから」 あたしが謝ると、シナは笑みを見せて許してくれた。そして、あたしの足元に落ちていた何かを拾って、ついちゃったほこりをはたき落した。それは、1冊の本だった。といっても、雑誌とかじゃなくて、小さいけど渋そうで難しい事が書いてありそうな印象の本だった。シナって、読書するのかな? 「久しぶりだな、シナ。その本は何なんだ?」 サトシが挨拶と一緒に、その本の内容を聞いた。 (波導についての本だよ) すると、頭の中でそんな言葉が響いた。テレパシーだ。まさかと思ってシナの足元を見てみると、そこにはシナのパートナー・シェイミの姿があった。 「私、今まで波導の事、全然知らなかったの。だから波動の事、もっと知らなきゃって思って……」 なるほど、見てみるとシナが持っている本のタイトルは、『波導の謎』って書いてある。 「なるほど、自分の持っている力の事を勉強している訳だな。いい心がけだな」 タケシが言うと、シナは少し恥ずかしがるように、少しだけ顔を赤くして、うん、とうなずいた。 ふと、あたしはシナの服装に目を止めた。飾りは何もついてない、青紫色一色の半袖、ひざ丈くらいの長さのスカートのシンプルなワンピース。この服装、見てみるとやっぱり地味だよね……こんな地味なものじゃなくて、もっとかわいいものも似合いそうな気がするのよね……そうだ! せっかくこれからショッピングに行こうとしてたんだから……! 「ねえ、シナって、おしゃれに興味ないの?」 「……え!?」 思いがけない質問だったのか、シナが声を裏返した。そのままシナは答えに戸惑っている。 「そんな地味な服装よりも、もっとかわいいものの方が、あたし似合うと思うよ?」 「え? そ、そうかな……?」 シナは言葉に詰まっているみたいで、あたしから顔をそらす。そこであたしは本題を持ち出す。 「ねえ、あたし達これからショッピングに行こうと思ってるんだけど、ついでにシナの服もコーディネートしてあげる!」 「え……!?」 それを聞いた途端、シナの顔が真っ赤になった。 「でも、私……このままでいいよ……」 「恥ずかしがらなくていいから! あたしがいいのを選んであげる! じゃ、行きましょ!」 「あっ、ちょっと、待って……!」 あたしは早速、ポッチャマと一緒になってあたしがシナの腕を引っ張って、ポッチャマがシナの足を押す形で、通りを進み始めた。 「ほ、ホントに、いいってば……!」 「心配しないで! こう見えても、ヨスガコレクションじゃ優勝してるんだから! ダイジョウブ、ダイジョウブ!」 「そ、そういう問題じゃなくて……!」 恥ずかしがるシナをなだめながら、あたしは引っ張られるのを踏ん張るシナを引っ張って進み続けた。こういう事は、恥ずかしがってちゃ始まらないからね! そんなあたし達を見て、みんなも笑みを浮かべながら、あたし達の後をついて行った。
* * *
そんな訳で、あたしはシナを1件の洋服屋さんに連れて行った。あたしは早速、シナに似合いそうな服をいろいろ見て回る。そして目に止まったものは、試着室でシナに試着してもらう。シナは相変わらず恥ずかしそうにしていたけど、仕方ないと思っていたのか、恥ずかしさで動けなくなっちゃったのか、逃げるような事はしなかった。あたしはそんなシナにダイジョウブ! って何回も言いながら、シナにいろんな服を試着してもらった。そして。 「よし、これでダイジョウブ!」 ようやくシナに似合う服装が完成! 「ほ、ホントに、大丈夫なの……?」 「ダイジョウブ、ダイジョウブ! とっても似合ってるから!」 「ポチャポ〜チャ!」 シナの不安そうな質問に、あたしは自信を持ってそう答えた。ポッチャマも一緒に答える。それでもシナは不安そうな表情を変えなかったけど。きっとみんなに見てもらえば、シナだって気に入るはず。 カーテンを大きく開けないように気をつけて、試着室を出る。そこにはサトシとタケシ、そしてシェイミがいる。結構時間がかかっちゃったから、みんな待ちぼうけをくらって少しいらだっていた様子だった。 「おまたせ!」 あたしが呼ぶと、みんなの顔が一斉にあたしに集まった。 「ようやく決まったのか?」 「うん! じゃ、早速お披露目するわ!」 あたしはそう言って、試着室のカーテンに手をかけた。ポッチャマがあたしの前で得意げに胸を張る。服を選んだのはあたしなんだけど、ってつっこみたいけど、いつもの事だから、いっか。 「ジャジャーン!」 そう叫ぶのと同時に、あたしは勢いよくカーテンを開けた。そこに、あたしがコーディネートした新しい服装のシナの姿が、みんなの前に披露された。 今まで縛っていた髪はほどいている。そして今までのワンピースも一新。水色に白いアクセントが入っている、明るい感じのものに。その上に、小さめの青いカーディガン。そして手首には、ブレスレットも付けてあげた。 みんなの視線がシナに集まる。シナは恥ずかしさからか、顔を真っ赤にしてそのまま凍ったように動かなかった。 「どう、みんな?」 あたしはみんなに感想を聞く。 「結構イメージ変わったな」 まず最初に、サトシが感想を言う。 「うーん。明るい印象になって、いいと思うぞ。ヒカリのコーディネートは、うまくいったと思うぞ」 次にタケシ。 (印象が変わっていいじゃない。似合ってるよ) そして最後にシェイミ。 「ほ、本当……?」 (うん。ボクは前よりいいと思うよ、その服装) シナが念を入れるように聞くと、シェイミは笑みを浮かべて答えた。 「あ、ありがとう……」 シナは相変わらず真っ赤な顔のまま、ぎこちなくだけどお礼を言った。 「ほらね、みんな似合ってるって言ってるじゃない」 「う、うん……」 シナは恥ずかしそうな顔は変わってないけど、その表情には嬉しさも混じっているように見えた。シナはこの服装に馴染んでくれるはず。あたしはそう確信できた。
と、その時。 「ミイッ!!」 いきなり、シェイミの悲鳴のような鳴き声が聞こえた。見ると、シェイミが誰かに体を鷲掴みにされている。その人は、どう見ても3人組の店員さんだった。赤い髪の女の人、青い髪の男の人、そして不自然なくらいに背が低い人。 「シェイミ!?」 「このシェイミはいただいていくわよ!!」 女の人が堂々と叫んだ。その声は、聞き慣れたものだった。まさか……! 「何なんだ、お前達は!!」 サトシが叫ぶ。すると、3人組は聞き慣れたフレーズを言い始めた。 「『何なんだ、お前達は!!』の声を聞き!!」 「光の速さでやって来た!!」 「風よ!!」 「大地よ!!」 「大空よ!!」 「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」 「誰もが震える魅惑の響き!!」 「ムサシ!!」 「コジロウ!!」 「ニャースでニャース!!」 「時代の主役はあたし達!!」 「我ら無敵の!!」 「ロケット団!!」 「ソーナンス!!」 「マネネ!!」 いつものように自己紹介して、身を翻すと着ていた服と帽子を一気に脱ぎ捨てた。その姿は、間違いなくいつものロケット団だった。 「ロケット団!!」 あたし達は声を揃えた。 「ここでバイトをしていたら、わざわざあんた達からやって来るなんて、めったにないチャンスだったぜ!!」 「そんな訳で、シェイミはいただいていくのニャ!!」 コジロウとニャースがそう言い放つと、ロケット団はさっと身を翻して、店の中から素早く逃げだした。 「待てっ、ロケット団!!」 「シェイミを返して!!」 あたし達は、すぐにロケット団を追いかけた。店の外に出る。するとそこには、もうロケット団の姿はなかった。相変わらず逃げ足だけは速い……! すると、あたし達を大きな影が覆った。そして、ロケット団の高らかな笑い声が上から聞こえてくる。見上げると、どこに隠していたのか、いつものニャースの顔を象った気球が、あたし達の真上に浮いていた。 「ジャリボーイ、今回はピカチュウゲットは見逃してあげるわ!」 「まずはこのシェイミを、確実にボスにプレゼントするのだ!」 「ニャー達は今まで欲張ってたから、失敗してたのニャ。物事は計画的に行かニャいとダメニャ」 コジロウの手には、シェイミが閉じ込められた檻がある。シェイミは必死でこっちに声を上げている。 「そんな訳で!!」 「帰るっ!!」 ロケット団が最後の言葉を合わせた後、気球が上昇を始めた。逃げられる! 「逃がすもんですか!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 「ポッチャマアアアアッ!!」 あたしはすぐに指示を出した。それに応えて、ポッチャマは今まさに上昇しようとしている気球目掛けて、“バブルこうせん”を発射! 真っ直ぐ気球に吸い込まれていく“バブルこうせん”。命中! 気球に、大きな穴が開いた。たちまち気球は、上昇する力を次第に失っていって、そのまま地面に吸い込まれ始めた。 「うわああああああっ!!」 そんなロケット団の悲鳴が聞こえた直後、ドドーンと地響きを立てて、気球は墜落した。土煙が舞い上がる。それが晴れると、気球の残骸のそばで、衝撃で外に転がったシェイミの檻が見えた。シナはすぐにピンク色のモンスターボールを取り出す。ゲットしたポケモンを回復させる事ができる優しいモンスターボール、ヒールボールを。 「ゲンガー、“シャドークロー”でシェイミを助けて!!」 シナはヒールボールを素早く投げ付ける。中から出てきたのは、シャドーポケモン・ゲンガー。ゲンガーは右手を引くと、右手から黒いツメが伸びてきた。そして檻に向かって勢いよく降った瞬間、檻の鉄格子はたちまちバラバラに砕け散った。シェイミはさっと檻から飛び出す。これでシェイミは自由になった! 「あっ!! シェイミに逃げられたのニャ!!」 気球の残骸の中から這い出てきたニャースがその事に気付いたけど、もう手遅れだった。 「ええい、こうなったらポケモンバトルで取り返すわよ!! 行くのよハブネーク!!」 「マスキッパ、お前もだっ!!」 一緒に這い出てきたムサシとコジロウは、すぐにモンスターボールを投げてきた。中から飛び出すハブネークとマスキッパ。でも、マスキッパはすぐに反転。 「いて〜っ!! だから俺じゃないってば〜っ!!」 そしていつものようにコジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。 「シナ!!」 「うん!!」 あたしはシナに声をかけると、シナはうなずいた。 「ハブネーク、“ポイズンテール”!!」 先に仕掛けてきたのはハブネークだった。ハブネークは尻尾を構えると、尻尾が紫に光った。 「ゲンガー、上に“シャドークロー”!!」 シナがまだハブネークが攻撃を始めてない時に指示を出した。波導で動きを読んだんだ。ゲンガーはシナの指示通りに、指を揃えて1本に束ねた“シャドークロー”を上に向けて振る。同時にハブネークは、尻尾をゲンガーの上から振り下ろそうとしていた。その瞬間、ハブネークの尻尾が、がっちりと“シャドークロー”に受け止められた。こうするために、シナは上に“シャドークロー”を振るように指示したんだ。ムサシもハブネークも驚いたに違いない。その隙に、ゲンガーは左手で“シャドークロー”を作り出して、無防備な左側から叩き込んだ! よけられるはずがない。“シャドークロー”の一突きを受けたハブネークは、たちまち跳ね飛ばされる。 「マスキッパ、“つるのムチ”だ!!」 マスキッパがポッチャマに狙いを定めて、口から2本のツルを伸ばしてきた! ツルのひと振りを、ポッチャマは紙一重でかわす。でも、ツルを連続で振り回してくるせいで、近づく事ができない。マスキッパに効果抜群のわざ“つつく”を当てるには、まず近づかなきゃならないっていうのに。そこでとっさに思いついた戦法を、あたしは指示した。 「ポッチャマ、口に向かって“バブルこうせん”!!」 「ポッチャマアアアアッ!!」 ポッチャマはその指示通りに、“つるのムチ”を口から出しているために半開きになっているマスキッパの口に向けて“バブルこうせん”を発射! 命中! 口の中を攻撃されたもんだから、マスキッパは怯んで“つるのムチ”を一瞬止めた。今がチャンス! 「今よ! “つつく”攻撃!!」 「ポチャマアアアアッ!!」 迷わずポッチャマはマスキッパに突撃する。力を込めた光るクチバシが、グイッと伸びる。コンテストでアピールわざとして考えたものだけど、これで攻撃力のアップも望める! そのままポッチャマは、突撃した勢いに任せて、クチバシをマスキッパに突き立てた! 直撃! 効果は抜群! たちまちマスキッパもハブネークと同じように跳ね飛ばされた。 「今だピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」 「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」 最後の仕上げ。いつものようにピカチュウが自慢の電撃をお見舞いした! 電撃が、ロケット団を容赦なく飲み込んだ。そして爆発! そしていつものように、ロケット団は空の彼方へと流れ星のように飛んで行っていた。 「やな感じ〜っ!!」 そんなロケット団の叫び声が、空にこだました。 「ふう、相変わらず懲りない奴らねえ……ねえポッチャマ」 ポッチャマに顔を向けると、ポッチャマもその通りだね、と言うようにうなずいた。 「シェイミ!!」 (シナ!!) シナが、真っ先にシェイミに向かっていく。シェイミもそれに気付いて、シナに真っ直ぐ走っていく。そしてそのまま2人はひしっと抱き合う……
事はなかった。 シナがいきなり、何かに気付いたように足を止めた。シェイミがそんなシナの様子に気付いて足を止めた瞬間、空から甲高い書き声が聞こえてきた。そして、空から何か鳥のような影が2人に向かって降りてくる。 「危ない!!」 シナはとっさにシェイミをかばおうと飛び出した。でも、影のスピードはかなり速くて、影が目の前を通り過ぎた途端、シェイミの姿はなくなっていた。結果、シナは何もない地面にただ転ぶだけの形になった。 「ミィィィィィィッ!!」 シェイミの悲鳴が響いた。見ると、シェイミは影に捕まえられて、そのまま運び去られようとしている! 「何だ!?」 「またシェイミが!!」 あの影は間違いなくシェイミを連れ去ろうとしていた。ロケット団を追い払った直後の、こんな時に新手なんて、まさに一難去ってまた一難。 影の正体は、おおボスポケモン・ドンカラス。すぐに後を追いかけようとしたけど、ドンカラスは急に地面に降り始めた。その先には、1つの人影がある。 男の人だった。黒くウェーブがかかった背中まで伸びている髪の毛。瞳の色は右が灰色で左が淡い茶色。黒いジャンパーに茶色のシャツに黒いジーパン。顔付きも悪くて、いかにも悪い人って感じだった。 「あの人……何か違う……」 その姿を見たシナが、少し震えた声でそんな事をつぶやいた。 「違うって、何が?」 「何だか……あの人の波導……凄く邪悪なものに感じる……」 シナの表情は、言い方が表わしているように、少し怯えた様子だった。邪悪な波導を感じたって事は、やっぱりあいつはシェイミを……! 「これがシェイミか……面白いポケモンじゃねぇか」 その男の人は、ドンカラスから受け取ったシェイミを背中から乱暴に鷲掴みにして、顔の前で舐めるように眺めると、満足げにつぶやいた。その口調も、あきらかにワルっぽい。 「シェイミを返しなさい!!」 あたしは真っ先にその男の人に叫んだ。すると、その男の人の鋭い視線がこっちを向いた。 「返す……? せっかくこんな珍しいポケモンを盗めるんだ。黙って返す訳ねぇだろ?」 男の人は余裕を見せるように、鷲掴みにしたシェイミを前に突き出してみせる。 「それに、力ずくで返そうったってムダだぜ。オレには力があるからな! 見ろ!!」 そう言うと、男の人はシェイミを掴んでいる手とは逆の、左手を広げて、目の前に突き出した。すると、その手の平に、青く光るボールが作られ始めた! 人がそんな事をする事自体が信じられないけど、それよりも大事なのはその見た目。 「あ、あれは……“はどうだん”!?」 タケシが声を上げた。そう、何をどう見てもポケモンのわざ“はどうだん”にしか見えない。“はどうだん”が使えるって事は…… 「そう! このオレ、ワトは『波導使い』なのさ!!」 男の人はその言葉を待っていたかのように、堂々と叫んだ。
TO BE CONTINUED……
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