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[797] ヒカリストーリーEvolution STORY28 対抗心の果てに
フリッカー - 2009年03月10日 (火) 13時28分

 うっかりしていて、先週ここに投稿するのを忘れていました(汗
 なので大学PCから2話連続投稿です。
 今回はウララ登場&ハルナの成長エピソード!

・ゲストキャラクター
ウララ(アニメ登場キャラ)
 アケビ大会でヒカリと優勝を争った、ポケモンコーディネーターの少女。
 外観はお嬢様的な雰囲気を持つ可憐な少女だが、それ故か高飛車で負けず嫌いなため、協調性に欠ける一面がある。しかし、1次審査をなかなか突破できなかったらしく、アケビ大会でヒカリと対等に戦えるほどの実力をつけるまで、下積みを重ねていたという苦労人でもある。「ミクリカップはまぐれで優勝した」とヒカリの実力を認めておらず、ライバル心をむき出しにしている。
 手持ちポケモンはガバイトとミノマダム(すなちのミノ)。わざを繰り出す前には独特のポーズを取るのが特徴。

ハルナ イメージCV:釘宮理恵
 かつてトップコーディネーターとして活躍したヒカリの母アヤコに憧れ、ポケモンコーディネーターになった少女。コトブキシティ出身。ヒカリよりも後に旅立っているルーキーである。
 性格は無邪気なムードメーカーで、やや思い込みが激しく自分勝手な一面がある。コンテストで目立つために前口上を作ったり、演技するわざを『ハルナスペシャルその○』と勝手に名付けたりする。また、根っからのポケモンコンテストマニアでもあり、ポケモンコーディネーターのプロフィールを空で言えるほどである。三日月がトレードマーク。左利きのため、ポケッチを右手に着けている。
 ヒカリを『崇拝』ともとれるほど尊敬しており、コンペキタウンで出会って以来『ヒカリさんの一番弟子』を自称する。反面、本人が思っている以上にヒカリに依存しているようなのだが……

ルビー イメージCV:小宮和枝
 赤い瞳が特徴的な、ポケモンコーディネーターの女性。アヤコとは旧知の仲で、彼女を「アヤちゃん」と呼ぶ。また、ヒカリともヒカリが生まれたばかりの時に会っている。
 年齢はアヤコと同じだが、アヤコ曰く「私以上にコンテストに夢中」らしく、現在でも現役で活動を続けている大ベテラン。そのため結婚はしておらず、現在も旅を続けている。
 容姿端麗で、落ち着いた印象を持つ女性だが、ポケモンコンテストでは意外にもポケモンのパワーを活かして攻める、一見すると力任せな印象の戦法をとるが、それはかっこよさとたくましさを魅せるためであり、「ポケモンのかっこよさは、いいバトルをしていると自然に出てくるもの」という考えを持っている。グランドフェスティバルでも常連で幾度かの優勝経験がある、トップクラスの実力の持ち主。手持ちポケモンのカイロスで、“ハサミギロチン”の一撃で一瞬の内に優勝を決めたエピソードはあまりにも有名で、『一撃必殺の鬼』とも呼ばれている。しかしそれでも向上心を忘れず、グランドフェスティバル出場の度にリボンを集め直しており、コーディネーターとの交友関係も広い。
 以前、カントー地方のコンテストでハルカと対戦し、打ち破った事がある。そのため、サトシやタケシとも面識がある。

[798] SECTION01 傷心のハルナ!
フリッカー - 2009年03月10日 (火) 13時29分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 傷心のハルナ!


 森の中の開けた場所。
 ハルナの目の前で、ハルナのポケモン、ルナトーンのルーナが向こうのポケモン、ほらあなポケモン・ガバイトと正面からにらみあっている。ルーナの目は疲れている様子を見せるけど、向こうのガバイトはいつでも来いと余裕を見せているかのように、こっちをにらんで身構えている。ハルナには、その目付きが凄くイヤミに見えた。そしてその向こうには、ガバイトと同じように余裕の表情を見せているアイツがいた。態度だけでかい、お嬢様気取りのアイツが。
「ルーナ、“シャドーボール”!!」
 尚更アイツなんかに、負ける訳にはいかない! ヒカリさんのためにも! ハルナはその思いを思いきり声にして、ルーナに届けた。それに答えるように、ルーナはガバイトに向けて発射! でもガバイトは、それをサッとかわしてみせる。向こうは簡単によけたつもりでしょうけど、それがハルナの狙い!
「今よ!! “ねんりき”!!」
 すかさず指示を出した。ルーナが念じる先は、ガバイトじゃなくて、かわされた“シャドーボール”。“ねんりき”によって、“シャドーボール”はこっち側に引き寄せられて、ちょうどガバイトの背中に飛んでいく形になった! やった!
「これが! ハルナスペシャルその1、変幻自在……」
「ガバイト、“つばめがえし”!!」
 でもアイツの指示は、ハルナにとって予想外のものだった。ガバイトはサッと両腕を広げたポーズをとった後、“つばめがえし”でルーナの真正面に突っ込んできた! “シャドーボール”を“ねんりき”で動かす事に集中していたルーナは、ガバイトの動きに気付く事が遅れちゃった! 直撃! 効果は今ひとつだったから、態勢を少し崩しただけで済んだ……と思ったら、こっち側に引き寄せていた“シャドーボール”が、気が付くとルーナの目の前にあった! よけられるはずない。直撃! 効果は抜群! ルーナが地面に落ちた。まさかハルナが決めようとしていたアピールわざが、ルーナ自身に決まっちゃうなんて……
「何しようとしてたか知らないけど、わざわざガバイトに隙を見せてくれるなんてダメねえ、あんたの師匠さんと一緒で」
 アイツは、最後の言葉を強調して余裕を見せながら言った。
「く……っ!!」
 アイツ、またヒカリさんをバカにした……! この前のアケビ大会じゃ負けたくせに……! ハルナは思わず両手をグッと握りしめた。
 そもそも、このバトルが始まったきっかけは、簡単に言えばたまたま出くわしたアイツが、ヒカリさんをバカにする事を言ったから。アイツがアケビ大会に参加してヒカリさんに負けた事は、アケビ大会を見ていたから当然知っていた。でもアイツは、負けたくせに「あの時はたまたま運がよかったからあいつが優勝できただけ、本気を出せばあんなまぐれでしか勝てない奴くらいバトルオフできる」なんて事を言ったの! ヒカリさんは運で勝った訳じゃない、実力で勝ったのに……それにアイツは、ハルナが『ヒカリさんの一番弟子』って言ったら、いきなり笑い出して「あいつの弟子だなんて、バッカじゃないの!?」なんて言ったの! ヒカリさんに負けたくせに、どこまでヒカリさんをバカにするつもりなの! ヒカリさんをバカにする悪い人は、ハルナが許さない! そんな訳で、ハルナはアイツにコンテストバトルを挑んだの。
 でも、アイツはただ威張ってただけじゃなかった。強い。正直言ってアイツの実力を見くびっていた。リボンを3つゲットした実力はウソじゃなかった。始まった時からこっちの攻撃がまるで通用しないの。そしてアイツは確実にこっちに攻撃を決めてくる。完全に一方的な展開。
「さあて、本当のコンテストだったら、もうあんたのポイントなくなってるんじゃないの?」
 アイツが勝ちを確信したようにハルナに言った。それはまるで、ハルナに勝ち目はないからギブアップしろと言ってるみたいにも聞こえた。それは絶対嫌だった。ヒカリさんをバカにした奴なんかに、負ける訳にはいかない! ヒカリさんだって、こんな状況でも絶対あきらめないはず!
「そんな事ない!! これからヒカリさんみたいに、逆転してみせるんだから!!」
 ハルナが思い切り叫ぶと、それに答えるようにルーナが浮かび上がった。それをみたアイツはどうかしらね、とバカにするようにせせら笑った。
「このハルナスペシャルその5、『爆裂花火メガファイヤーワークス・バージョン2.0』で!! ルーナ、“スピードスター”から“ねんりき”!!」
 ハルナが思いきり指示すると、ルーナはまず“スピードスター”を発射。それを“ねんりき”でコントロールする。“スピードスター”はルーナの周りを不規則に回り始める。これで準備OK!
「それならガバイト、“ドラゴンクロー”!!」
 向こうも黙っていない。ガバイトはまたサッと両腕を広げたポーズをとった後、ツメを翻してルーナに向かっていった! でもそれなら尚更、こっちには都合がいい!
「今よ!! “だいばくはつ”!!」
 そう、ここでガバイトがギリギリまで近づいてきた時に“だいばくはつ”をすれば、それで終わり。ルーナの体が、眩い光に包まれる。これでハルナの逆転勝ち! と、ハルナは思っていた。
 でも、その期待は大きく裏切られた。
 ガバイトの動きは、ハルナが予想していたよりも、かなり速かった。ルーナの周りを回る“スピードスター”の隙間を狙って、ガバイトが“ドラゴンクロー”を叩き込んだ! 光ったまま、弾き飛ばされるルーナ。“スピードスター”もバラバラに散らばっちゃって、演技は総崩れ。ルーナが森の中に消えた瞬間になって、やっと爆発が起きた。それは、ハルナの負けが決まった瞬間だった。
「そこまで! このバトルの勝者は、ウララちゃん!」
 審判をしていた白い髪と赤い目の女の人、ルビーさんが、アイツのいる方向の腕、つまり右腕を挙げた。その瞬間、ハルナは体の力が抜けたのを感じた。膝が自然と地面に着いて、がっくりと顔を落とした。
「負けた……ヒカリさんを、バカにした奴なんかに……!?」
 そんな事をつぶやかずにはいられなかった。あんな奴を、ハルナは懲らしめる事ができなかった……ハルナの目の前が真っ暗になっていた。
 気が付くと、ハルナに何かの影が覆った。顔を上げると、そこには勝ち誇ったように笑みを浮かべているアイツの顔があった。
「一番弟子だとか言ってて、大した事なかったわね。ま、あいつの弟子って言うからには、あまり期待してなかったけど」
 相変わらずイヤミにハルナに言うアイツ。期待してなかったって言葉にはムカついたけど、負けてしまった事の悔しさの方が強くて、ハルナは何も言い返せなかった。
「あんた、あんな奴の弟子になったって、強くなんてなれないわよ。強くなりたかったら、他の人をあたった方がいいんじゃないのかしら?」
 あんな奴の弟子になったって、強くなんてなれない。その言葉が、ハルナの心に深く突き刺さった。屈辱的だった。ここまで動揺したのは、生まれて初めての事だった。強くなんてなれないなんて、そんな事は……! でも、アイツとの勝負で負けた事は隠せない。もうハルナの力だけじゃ、アイツに言い返せない。こんな時に、ヒカリさんがいてくれたら……またがっくりと顔を落とす。
「ああ……ヒカリさん……ヒカリさん……っ!」
 ハルナは自然とヒカリさんの名前を呼んでいた。そしてそのまま、悔し涙がハルナの頬を流れていった。
「……あんた、あいつがいないと、すぐそうやって泣く訳? 呆れた」
 呆れた。アイツのその言葉が、さらにハルナの心に追い打ちをかけた。ヒカリさんがいないと、ハルナは何もできない……1人じゃ、何もできない……?
 すると、ハルナとアイツの間に、ルビーさんが入った。アイツに何か言ってたけど、ハルナにはそんな事を聞いてる余裕なんて心になかった。アイツがハルナに背中を向ける。
「……ま、ついて行きたいなら行けばいいじゃない。あいつがいないと何もできない、泣き虫さん。オーッホッホッホッホ!!」
 アイツは『泣き虫さん』を強調して言った後、勝ち誇ったように高らかに笑って、ハルナの前を去って行った。

 泣き虫さん。その言葉が、頭に深く突き刺さって離れない。
 ハルナは、生まれて初めて泣き虫だと言われた……それも、憧れのヒカリさんの弟子になっちゃったせいで……ハルナは今まで、ヒカリさんを信じれば、強くなれると思っていた。それは、全然違うって事なの……!? ヒカリさんを信じるだけじゃ、強くなれないって事なの……!? こんなんじゃ、ハルナは『ヒカリさんの一番弟子』失格……
 悔し涙が止まらない。すぐにヒカリさん、と叫びたかった。でもそれは、のど元まで来た所で、抑え付けられてできなかった。そう叫んだら、またアイツが何か言い出しそうだったから。

 ああ、ヒカリさん……ハルナは……


 ハルナは……



 ハルナは………




 ハルナは…………っ!

「――――――――!!」
 言葉にならない叫び声を、ハルナは空に向かって上げる事しかできなかった……

 * * *

 サトシが次に挑もうと思っているジムがある、キッサキシティに向けて旅を続けるあたし達。そんなあたし達は、森の中のポケモンセンターで今日の朝を迎えた。
 外はいい天気で、気持ちいい。こんな天気だと、心も晴れ晴れとする。サトシはジム戦に向けて、外で今日もポケモン達と特訓をしている。相変わらずの張り切りぶり。
 そんな訳で、あたしもちょうど切らせていたポフィンを作っていた所だった。ポフィンを作るにはオーブンが不可欠。だからこういう場所でないと作れないからね。
 早速できあがったポフィンを、器に入れて外に持っていく。外ではあたしのポケモン達が、あたしがポフィンを作っている間サトシの特訓の相手をしていたから。
「みんなー、ポフィンができたわよー!」
「ポチャーッ!!」
「ミミーッ!!」
「チュパーッ!!」
「エポーッ!!」
 あたしが呼びかけると、みんなはすぐにあたしの周りに集まってきた。そして器に入ったできたてのポフィンを見ると、みんなはすぐあたしに催促し始める。ポフィンができあがるのを、みんなとても楽しみにしてたんだね。
「はいはいみんな、順番にあげるから、まずは並んで……」
 あたしがそう言いかけた時、あたしの背中に何かの気配を感じた。誰かの鋭い視線を感じる。ポフィンに反応してるとしたら、嫌な予感……はっと振り向くと、そこには茶色の大きな塊があたしの目の前にあった。
「マンムーーーーーーーーッ!!」
 こっちに笑顔を見せて真っ直ぐ走ってくるマンムー! ポフィンを見て嬉しいのはわかるんだけど、そんな勢いでこっちに来られたら……!
「わあっ!!」
 あたしは思わず叫び声をあげた。間一髪マンムーの体をかわす。そしてそのまま一目散に逃げ出す。別にあたしはマンムーにポフィンをあげたくない訳じゃない。今までポフィンをあげようとして、マンムーに思いきり吹っ飛ばされた事が何回かあった。毎回そんな事されるのはたまったものじゃない。だからポフィンの器をしっかりと抱えて、あたしは必死で走った。少し後ろを確認してみると、やっぱりあたしを真っ直ぐ追いかけてくるマンムーの姿が。
「お、お、落ち着いてマンムーッ!! ちゃんとあげるからーっ!! ポフィンは逃げないからーっ!!」
 走りながら必死に叫ぶけれど、そんなものでマンムーは止まらない。前から食べ物を見たらすぐ飛びつくほどの食いしん坊さんだったけど、マンムーに進化してからは、こうなったらもう手が付けられない。少しでもスピードを緩めたらすぐにでも距離を詰められそう。だからあたしも距離を詰められまいと必死で走った。
 結果的に、あたしはその場をぐるぐると回る形で追いつ追われつの追いかけっこをするハメになった。そんなあたし達の様子を、サトシ達はただポカンと見ているだけの様子だったのが一瞬見えた。なんでポフィンあげるだけでこんな事しなきゃならないの〜!? 見てないで助けてよ〜っ!
 一体何周したかな……そうこうしている内に、息が切れてきて、足がどんどん重くなってくる。いけない、体力がもう限界になっちゃったかも……もうこれ以上走るのはきつい……自然とスピードが落ちる。当然、マンムーとの距離があっという間に詰まる。振り向くと、マンムーの大きな顔が視界いっぱいに移った。
 追いかけっこはあたしの負け。また同じように吹っ飛ばされる……! あたしは覚悟を決めて、目をつぶった。

 ドン、と目の前で鈍い音がした。そしてザザザ、と何かが地面を引きずる音。
 あたしの体は、吹っ飛ばされるどころか、思い切りぶつけられる感触も感じなかった。
「……?」
 重い足を止めて、目を開けて見てみると、マンムーが、それよりも小さい茶色の影に力ずくで体を押さえつけられている。特徴的な2本のツノで、それがくわがたポケモン・カイロスだって事にすぐに気付いた。マンムーが必死で進もうとしても、カイロスはそれを許さない。凄いパワー……
「“きあいだま”!!」
 そしてすぐに聞こえてきた女の人の声。カイロスはマンムーを押さえつけたまま、ツノの間にエネルギーを集めて、“きあいだま”を発射! 至近距離。2匹の間で、大きな爆発が起きた。爆風で2匹は吹っ飛ばされる。カイロスはサッと受け身を取って態勢を立て直して、マンムーは足を踏ん張って何とか踏み止まる。
「大丈夫?」
 あたしの所に駆け寄ってくる女の人。白いロングヘアーに赤い瞳が特徴的な、きれいで落ち着いた印象の顔。服装はワインレッドのブラウスに、青のズボン姿の大人の女の人だった。
「ルビーさん……ありがとうございます……」
 あたしは息切れする声でその女の人、ルビーさんにお礼を言った。
 ルビーさんは、この間会ったばかりのポケモンコーディネーター。ママの昔からの友達で、あたしともあたしが赤ちゃんの時に会った事があるんだって。サトシとタケシにも会った事があったけど、後で2人に聞いてみたら、あのハルカとカントー地方のポケモンコンテストでぶつかった事があるんだって。ハルカは負けちゃったみたいだけど、その時は凄いバトルになっていたって2人は言っていた。
「ともかくこれで、あの子もおとなしくなったでしょう」
 ルビーさんの顔が、マンムーに向いた。見ると、マンムーはさっきの効果抜群の攻撃で驚いたせいか、さっきまで追いかけっこしてたのがウソみたいにおとなしくなっていた。
 あたしはすぐに、疲れた足でそっとマンムーに近づいていく。当然、ポフィンをあげるために。これは他の4匹の分だけど、ストックは他にもあるし、何よりこうでもしなかったらまた追いかけっこになりそうだし。また吹っ飛ばされるんじゃないかとドキドキしたけど、マンムーはあたしが目の前に来ても動かなかった。
「マンムー、おとなしくしていたら、こうやってちゃんとあげたかったのよ……だから……」
 そう言って、そっとマンムーの前に器を置く。その後も言葉を続けたかったけど、マンムーは待ってましたとばかりにポフィンをがつがつと食べ始める。そのせいで言うチャンスを逃しちゃった。あっという間に器のポフィンを全部食べ尽くすと、満足したのかこっちにお尻を向けて座り込んで、そのまま寝始めちゃった。とりあえずはこれで一安心だけど……
「ヒカリ、大丈夫だったか?」
「何とかね……はあ……なんでポフィンあげるだけでこんなに疲れなきゃいけないのよ……」
 みんながやっと側に来てくれた。ほっとしたあたしは、疲れで思わず膝が地面に着いた。ホント、こんなマンムーが言う事を聞いてくれるようにするには、どうしたらいいの……?
「そのマンムー、ヒカリちゃんのポケモンだったのね」
 背中からルビーさんの声が聞こえて、あたしはギクッとした。
「どうしてあんな事になってたの?」
「それは……」
 一瞬答えようか戸惑ったけど、隠してたって仕方がない。あたしはマンムーの事を話す事にした。
「イノムーに進化してから、急に言う事を聞かなくなっちゃったんです……マンムーに進化してから、もっと手に負えなくなっちゃって……」
「そうだったの……難しい問題ね、言う事を聞かなくなったポケモンを、また言う事を聞くようにさせるのは」
 あたしはルビーさんに何か注意されるんじゃないかって思ってたけど、意外にも帰ってきた答えは優しい物だった。ルビーさんは話を続けようとしたみたいだけど、その時、誰かがルビーさんの両手をサッと取った。それがタケシだと気付くのには、そんなに時間は掛からなかった。
「しかし、自分はあなたの言葉には忠実に従います……! どうか、自分にとっての良きパートナーとなってください……!」
 タケシはルビーさんの前で、この時しか見せない爽やかな笑顔を見せてそう言った。この時だけ、辺りがタケシの空気に包まれる。あーあ、また始まっちゃった。タケシのアタック。こんな話の最中でもやるの……? ちゃんと空気読んで欲しいな……
「話に便乗したいのはわかるけど、こんな話の最中には止めてくれないかしら?」
「え!?」
 でもルビーさんは落ち着いた様子でそう言って、タケシの言葉を流す。それにはさすがのタケシも驚いた。その時。
「ぐっ!? シ……ビレ……ビレェ………」
 タケシの顔が急に真っ青になって、そのままその場に倒れちゃった。その背中には、やっぱりいつの間にかグレッグルがいた。いつものように、グレッグルの“どくづき”を背中に受けて倒れたタケシは、そのまま不敵に笑うグレッグルに引きずられて、その場を退場した。さっきとは一転して、気まずい空気が辺りに漂う。そんな気まずい空気は、ルビーさん自身が晴らした。
「……とにかく、この問題はすぐに解決する事はできないわ。言う事を聞かなくなる理由はポケモンそれぞれだから、まずはどうして言う事を聞かなくなったのか、原因を調べる事から始めてみるといいわ」
「はい」
 そんなルビーさんの言葉に返事をすると、ルビーさんは本を見ればいろいろ情報が載っているからね、と付け足した。ルビーさんのアドバイスはとてもありがたかった。そういえば、あたしはポケモンの育て方について本で調べた事なんてなかった。タケシがいたからかもしれないけど。やっぱり自分からも積極的にいろいろ調べてみないとダメだよね。
 そんな時、あたしはちょうどルビーさんの背中側に見えるポケモンセンターのドアから、見慣れた人影が出て来るのがあたしの視界に入った。オレンジの髪に三日月の髪飾りが特徴的な、いんせきポケモン・ルナトーンを連れている、見覚えのある女の子。
「あ、ハルナ」
 あたしはその女の子がハルナだってすぐ気付いた。そう、コトブキシティ出身の、左利きの新人ポケモンコーディネーター。あたしのファンで、あたしに対してはいつも敬語を使って、周りから見たらバカだって思われてるんじゃないかなって思うくらい、あたしを慕ってくれる自称『ヒカリさんの一番弟子』。でも何だか、ハルナもルナトーンのルーナも元気がないしょんぼりした顔をしている。その足取りもトボトボと重そうなものだった。いつもは元気なハルナなのに、何か遭ったのかな?
「ハルナ!」
 あたしはハルナに声をかけた。ハルナが気付いて、足を止めてこっちを向く。
「……」
 ハルナはあたしを見て、驚いた表情を見せた。でも何も言わないまま、こっちを見ているだけ。いつもと反応が違う。いつもだったら、「あっ、ヒカリさん!」って言って、真っ直ぐ嬉しそうにこっちに駆け寄ってくるのに。それに違和感を覚えた時、ハルナは急にあたしから顔をそらして、いきなりあたしの目の前から走り去っていっちゃった。まるで、その場から逃げようとしているかのように。
「あっ、ちょっとハルナ! どこ行くの?」
 あたしが呼び止めようとしても、ハルナは止まらなかった。そのままハルナの姿は、森の中に入って見えなくなっちゃった。明らかにあの反応は普通じゃない。ハルナに何か遭ったんだ。一体何が遭ったのか、あたしは気になってきた。
「ハルナ、いつもと様子が違うな」
「何か遭ったのか?」
 サトシとタケシも同じ事を考えてたみたい。その時、あたしの背中からいきなり声が聞こえてきた。
「あのハルナって奴、あんたの一番弟子なんだって?」
 挑発的な、聞き覚えのある女の子の声。振り向くと、いつの間にか1人の女の子があたしの目の前に立っていた。2つに分けたピンクの髪を、きれいにカールさせて根元を藤色のリボンで縛っている。そしてスカートにフリル付いた水色のワンピースの上に、やっぱりフリルの付いた白い上着を着ている。その側には、ほらあなポケモン・ガバイトを連れている。
「ウララ」
 あたしはその女の子の名前を口にした。
 そう、この間のアケビ大会で会ったポケモンコーディネーターの女の子、ウララ。見た目はお嬢様って印象の女の子だけど、それとは裏腹に「ミクリカップをまぐれで優勝したあんたなんかに……」とかあたしに嫌味な事ばっかり言ってくるの。どうもミクリカップであたしが優勝したのを見て、あたしにライバル心を持っているみたいなんだけど。態度はでかいけど前のあたしと同じように苦労を重ねて実力を付けてきたみたいで、ファイナルでぶつかった時も、その気迫を感じ取った。ウララのガバイトとあたしのパチリスの対決はこっちが勝てたけど、相性の不利や、鍛えられたガバイトの能力もあって、まともにやりあってたら確実に勝ち目はなかった。
 そんなウララが目の前にいるもんだから、あたしは嫌な予感がした。その予感はやっぱり的中した。
「弟子を作るなんて、いつからそんなに偉くなったのかしら? まだグランドフェスティバルにも行ってないのに?」
 ウララの鋭い視線と嫌味に言われた言葉が、あたしに突き刺さる。
「ち、違うわよ! あれは、ハルナが勝手にそう言ってるだけで……!」
「……あら、そうだったの。『自称』だったのね。ま、あんたの一番弟子だとか、あんたをバカにしたとか散々言ってたけど、その割に全然ダメな奴だったわ。あんたと一緒で」
 大した事ない奴だった……? その言葉が頭に引っかかった。
「まさか、ハルナに何かしたの!?」
「向こうがコンテストバトルで勝負しなさいって言ったから受けただけよ。でもあいつ、負けたらすぐにあんたの名前呼んでたわよ。そしてすぐに泣きだして……だから言ってやったわ。『あんな奴の弟子になったって、強くなんてなれないわよ』ってね」
 ウララのその言い方は、明らかにハルナをバカにするものだった。あたしはその言い方にいら立った。
「ちょっと! そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
「あたしは事実を言っただけよ。あんな一番弟子をつけちゃって、あんたもさぞかし大変でしょうねえ……ま、あんたの事だから鍛えられるのかどうかも怪しいけど」
 あたしが言い返しても、ウララは不敵な笑みを崩さない。それどころか、さらに嫌味を言ってくる。尚更ムカついてくる。そんな時、あたしとウララの間にルビーさんが割って入った。
「2人共、口喧嘩はみっともないわよ」
「ルビーさん」
 ルビーさんの顔を見たウララの表情が急に変わった。
「いくらバトルに勝ったからって、負かした相手の事をバカにするのはよくないわ。そういう高飛車な所がウララちゃんの悪い所よ。もっと広い心を持ちなさい」
「……」
 ウララはルビーさんの言葉に反論しようとしない。あたしに対してとは明らかに態度が違う。まあ、ルビーさんはグランドフェスティバルに常連といわれるほど出場して、優勝した事もあるトップクラスのコーディネーターだから、態度が違うのは当然なのかもしれない。ルビーさんの言葉を聞くと、ルビーさんはウララとも知り合いなのかな?
「……わかりました。気を付けますよ」
 ウララは口ではそう言うけど、口調は明らかにうざったさを感じているように強いものだった。そして、ガバイトに呼びかけて、あたしに背中を向ける。そのまま去って行くかと思ったら、何歩か歩くとまたこっちに体を向けた。
「これだけは言っておくわ。いくらママがトップコーディネーターだからって、優勝できたとか弟子ができたとかでいい気になってると、その内痛い目に遭うわよ!!」
 ウララはあたしを指差して、はっきりとそう言い放って、またあたしに背中を向けた。
「あたし、そんな事考えてない!!」
 あたしが言い返しても、ウララは無視してその場を後にしていった。もう、何なのあいつ……
「やっぱり女の子同士の関係っていうのは、難しいものね……」
 それを見ていたルビーさんも、困ったように溜息を1つして、そうつぶやいた。


TO BE CONTINUED……

[799] SECTION02 ハルナの葛藤と殺意の芽生え!
フリッカー - 2009年03月10日 (火) 13時31分

 どこをどう森の中を進んだかさえ、もうわからなくなっていた。
 疲れて、走るのが辛くなってきた。ハルナは適当な場所で足を止めて、側にあった木に思い切り両手を叩きつけた。そして、体をかがめた。

 ――ついて行きたいなら行けばいいじゃない。あいつがいないと何もできない、泣き虫さん。

 そんなアイツの言葉が、今も頭から離れない。
 その言葉が引っかかって、ハルナはあそこにいたヒカリさんの所に行けなかった。声をかける事もできなかった。
 本当ならすぐにでもこの事を話して、助けて欲しかった。でも、できなかった。ヒカリさんに助けてもらう事は、いけない事だってわかっちゃったから。
 今までハルナは、ヒカリさんは助けを呼んだら必ず答えてくれる人だと思っていた。だから困った時には、ハルナは必ずヒカリさんの所に行った。でも逆に言えば、ハルナはいっつもヒカリさんに頼ってばかりいた。だからハルナは1人じゃ何もできないんだ。
 それがわかっちゃったから、ヒカリさんに頼る事に抵抗を感じた。だから、ヒカリさんに声をかける事も、かなりの抵抗を感じた。それが耐えられなくて、ハルナはヒカリさんの前から逃げるなんて事をしちゃった。そんな自分が嫌だった。こんなハルナの有様を見たら、ヒカリさんだって心配するかもしれない。でも……
 心の中のもどかしさで、余計に悔しくなってくる。自然と頬を悔し涙が流れていった。

 ――あんた、あいつがいないと、すぐそうやって泣く訳? 呆れた。

 そんなアイツの言葉をまた思い出す。今まさにそんな事をしているハルナ自身が情けなく思えてくる。余計に悔し涙が強くなってきた。
 ハルナは木の根元にかがみこんで、声を上げて泣き叫ぶしかなかった。




 バカにして……!

 だからって、あそこまでバカにして……!

 元はといえば、全部アイツが悪いんだ……!

 ヒカリさんをバカにしておいて勝った、アイツが……!

 ヒカリさんには負けたくせに、それを認めないでバカにし続けるアイツが……!

 アイツが……!


 アイツが………!!



 アイツが…………っ!!!




 アイツが憎いっ!!!!




「ハルナは、アイツを殺したい……!!」
 ハルナの口から、自然とそんな言葉が出た。


SECTION02 ハルナの葛藤と殺意の芽生え!


 あたしは、ポケモンセンターのロビーで、ルビーさんから話を聞いていた。ウララが言っていた、ハルナとウララのコンテストバトル対決の事を。
 ウララが言っていた通り、勝負を挑んだのはハルナの方だった。ウララがあたしをバカにした事を言ったって理由で口喧嘩になって、そういう事になったらしい。でも、勝負はウララがペースを握り続けて、結果はほとんど圧勝と呼べるものだったんだって。
 ウララのガバイトは、かなり鍛え上げられていた。パチリスとの対決でも、あたしの『回転』を崩すほどのスピードを見せ付けて、覚えたばかりの“いかりのまえば”も決定打にはならなかった。相性の良し悪しを抜いても、単純なガバイトの実力はパチリスより上だったと思う。それでも勝てたのは、ディフェンス重視の戦法に切り替えたお陰だった。とにかく、そこまで強いガバイトだったんだから、ルーキーのハルナ相手に圧勝したとしても不思議じゃない。
 ハルナはウララに負けた事にショックを受けて、その場で泣き叫んだんだんだって。でも、ウララは最後までハルナをからかい続けていて、挙句の果てには「あいつがいないと何もできない、泣き虫さん」ってまで言ったらしい。間に入ったルビーさんも仲を解決させる事はできなかったみたい。
「ハルナにそんな事が……」
「ウララちゃんは高飛車で協調性に欠ける所があるから、私も何回も注意してるんだけど……ほんと、女の子同士の関係は簡単なものじゃないわ」
 ルビーさんは溜息を1つした。ウララの性格には、ルビーさんも手を焼いてるみたい。まあ、ルビーさんの言葉はわからなくもないんだけど。
「だからハルナはあんなに落ち込んでたのか……」
「あのハルナの事だ、自分の慕う人をバカにした人に負けた事がかなりのショックだったんだろうな……そこにさらに『泣き虫さん』なんて言われたら、精神的ダメージも大きかったに違いない……」
 サトシとタケシがそんな事をつぶやく。
 あの時のハルナの表情を思い返してみる。その表情に、あたしは前の自分自身の姿を重ね合わせた。ヨスガ大会、ズイ大会と連続で1次審査落ちして、自信をなくしちゃったあたし自身の姿を。
 あの時は、まるで悪い夢を見ているように一瞬感じたほど、ショックが大きかった。あたしは好きなコンテストに向いてないのかな、って悩み始めて、胸が苦しくなった。ダイジョウブって言って笑いたくても、何をどうしたら笑う事ができるのか思い出す事もできなかった。ママには合わせる顔がなかったし、サトシ達にも自分の弱い所を見られたくなかった。だから自暴自棄になってサトシ達と離れちゃった事もあったけど、やっぱりあたしは離れる事ができなくて、2人との旅を続けた。
 そして続いていった旅の中で、あたしはゆっくりとだけど心の中の明るさを取り戻していった。そしてそんな時に明るさを取り戻すきっかけを作った1人に、ハルナもいた。
 よくわからないけどあたしを慕ってくれて、あたしが落ち込んでいても失望しないで励ましてくれたハルナ。そんなハルナに、あたしは勇気をもらった。
 そんなハルナが、今はあの時のあたしみたいに落ち込んでいる。今度はあたしが、ハルナを励ましてあげないと……!
 あたしのやる事は1つだった。
「あたし、ハルナを探してくる!」
 あたしはすぐに席を立って、真っ直ぐハルナの所に行こうとした。でもその時、誰かに右の手首を引っ張られた。
「ダメよ。今は1人にさせてあげなさい」
 ルビーさんだった。
「ルビーさん!? どうして!?」
「あなたは気付いていないかもしれないけど、あの子はヒカリちゃんに頼りすぎている所があるわ。何かあったらすぐにヒカリちゃんの事を挙げるし、ヒカリちゃんの事を過大評価しすぎているわ」
 ルビーさんの言葉に、あたしは耳を疑った。ルビーさんは話を続ける。
「今ヒカリちゃんが励ましに行けば、あの子はまたヒカリちゃんに甘えようとするわ。あの子はただ、ヒカリちゃんの名前を借りて威張っていただけにすぎないのよ。それだと何も変わらないわ。その考えからは、もう卒業しないとダメなのよ」
「でも……! あたしだって、コンテストで失敗して、ハルナみたいに落ち込んじゃった事もありますけど、みんなの励ましがあったから、リボン4つまで来れたんだと思っています! だから……!」
「それは励まされたからじゃないわ。ヒカリちゃんが強い心を持っていたからよ」
 あたしは食い下がろうとしたけど、意外な答えを返されて、あたしは言葉を続ける事ができなかった。
「どんなに励まされても、最終的に物事を決めるのは自分自身なの。だから下手に弱気な人を励まそうとすると、逆に追い詰める事になりかねないわ。そういう人には、余計に手を出さない方がいいのよ」
「でも……!」
「どんな人間も、いずれは誰かに頼る事をやめて、自分の足で歩くようにならなきゃならないの。あの子がそういう事に気付き始めているわ。だから、今はそっとしておいてあげなさい。誰でも励ませばいいってものじゃないんだから」
 そんな事を言われると、あたしは反論する事ができなかった。あたしはゆっくりと、席に座り込む事しかできなかった。

 * * *

「ルビーさん、俺のトレーニングの相手をしてもらいますか?」
 ポケモンセンターの外にあるグラウンドで、サトシがルビーさんにそんな事をお願いした。
「あら、どうして私なの?」
「俺、ルビーさんのポケモンと、一度でいいから相手をしてみたかったんです」
「あら、それは嬉しいわね。いいわ。引き受けましょう」
「ありがとうございます」
 そんなやり取りをすると、2人は早速準備を始めた。2人は充分な距離を取って、それぞれのポケモンを出す。ルビーさんが出したのは、つっぱりポケモン・ハリテヤマ。対して、サトシが出したのはピカチュウだった。ハリテヤマがサッと大きな両手を前に突き出して、身構える。ピカチュウもいつでもOKというように身構えて、サトシの指示を待つ。
「行くぞピカチュウ!! “アイアンテール”だ!!」
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 ピカチュウはサッとジャンプすると、尻尾に渾身の力を込めて、ハリテヤマに向けて勢いよく振り下ろした! 直撃! 凄い勢いだったけど、ハリテヤマの手はまるで壁のようにぴくりとも動かなかった。反転して着地するピカチュウ。
「なかなか手応えのある攻撃ね」
 ルビーさんが笑みを見せてそんなコメントをした。
「よしピカチュウ、その調子でもう1回だ!!」
「ピカッ!!」
 サトシの指示で、ピカチュウはもう一度ハリテヤマの手に向かって“アイアンテール”を繰り出す。それを何度も繰り返す。なるほど、これで打撃の特訓をしているのね。
 そうだ、こうやって特訓を見に来た訳じゃなかったんだ。ルビーさんはサトシの特訓に集中している。今なら、ここから出てハルナの所に行ける。やっぱりハルナは放っておけない。だからあたしはルビーさんの隙を見て抜け出して、ハルナを探そうと思っていた所なの。
 あたしはルビーさんがこっちの動きを見ていない事を確かめて、ポッチャマと一緒にそっとその場を抜け出そうとした。
「ヒカリ、どこ行くんだ?」
 その時、急に後ろから声がかかったから、あたしはドキッとした。そこには特訓を見ていたタケシがいた。
「え!? ああ、ちょっとポッチャマと一緒に散歩しようと思って……」
「ああ、そうか」
 あたしは慌てて言い訳を考えて言ったけど、タケシの返事は意外にあっさりしたものだった。あたしはほっとして、その場をルビーさんに悟られないように、そっと後にしていった。

 * * *

「ハルナーッ! どこにいるのー!」
「ポチャマーッ!」
 ポッチャマと一緒に、森の中で呼びかけ続けるあたし達。でも、今の所全然返事がない。まあ、あんなに落ち込んでいて返事ができるのかどうかはよく考えてみれば疑問だけど、ハルナの事だから、必ず反応するはず。そう思って、あたしは森の中を呼びかけ続ける。
 でも、ハルナが具体的にどこに行ったのかはあたしは知らない。ひこうタイプのポケモンは持ってないし、かといってサトシは特訓の真っ最中。手掛かりはハルナがあの時歩いて行った方向だけ。でも、だからと言って真っ直ぐ歩いて行ったって保証はどこにもない。だから森の中を手探りで探している状態。
「もう、どこに行っちゃったの……」
 思わずそんな言葉が口から出る。もう探してからかなりの時間が経ったけど、相変わらず見つからない。こういう時に、サトシだけが持ってるひこうタイプのポケモンが一瞬、うらやましくなってくる。
 そんな時、森の奥でカサカサと草が揺れる音がした。何かポケモンがいる? そう思ってすぐに音がした方向に顔を向ける。確かに草村が揺れている。でも、出てきたポケモンがいきなり襲ってくるかもしれないから、気が抜けない。
 そう思っていると、草村の中から出てきたポケモンは、1匹のニドランだった。紫色の体から、♂だとわかる。
「ニドラン♂……」
 あたしはこのニドラン♂を、どこかで見た事があるような気がした。するとニドラン♂は、あたしの顔を見ると、すぐに足元に来て、何かを訴え始める。そんな行動を見て、あたしは確信した。
「……まさか、クレセント!?」
 あたしが聞くと、ニドラン♂ははっきりとうなずいた。やっぱりそうだった。あたしがハルナに譲ってあげたニドラン♂、クレセント。それがどうしてこんな所に? クレセントの動きをよく見ると、訴え方は何やら慌てているように見える。という事は……
「ハルナに、何か遭ったの!?」
 あたしが聞くと、クレセントははっきりとうなずいた。そしてクレセントはすぐに身を翻して、森の中へと走っていく。ついて来てって言ってるみたいに。
「行きましょう、ポッチャマ!!」
「ポチャ!!」
 あたしはポッチャマと一緒に、クレセントの後を追いかけた。
 ハルナに、何か嫌な事が遭ったみたい。まさか、ショックのあまり自殺しようとしてるとか……!? それは考えすぎだと願いながら、あたしはクレセントの後を追いかけ続けた。

 * * *

 しばらくクレセントの後を追いかけ続けると、何やら騒がしい音が聞こえてきた。光線や爆発の音。誰かがポケモンバトルをしてる?
 先頭を走るクレセントが足を止めて、森の中の開けた場所を指差している。あたしはその方向に目をやる。
 そこには、あたしの思っていたのとは違う光景が広がっていた。一見すると、確かにあたしの思ってた通り、1匹のポケモン――いんせきポケモン・ルナトーン――がポケモンバトルをしているように見える。でもその相手は、ポケモンじゃない。何もどう見ても人だった。そしてその人は、紛れもなくあのウララだった。そしてそんなウララと向かい合って立つのは、紛れもなくあたしが探していたハルナだった。
 ウララはかなりルナトーン、ルーナの攻撃にさらされたのか、ボロボロ。その顔に、あの時の強気な表情は見えない。でも、ハルナの表情にはそんな人を目の前にしているのが不自然なくらいの、不敵な笑みを浮かべていた。まるでそれを見て楽しんでいるかのように。今まであんな表情のハルナは見た事がない。
 ハルナが、ルーナにウララ自身を攻撃させている。どう考えてもそんなシチュエーション。それが、あたしには信じられなかった。
「フフフフフ……いいざまね。あれだけヒカリさんをバカにしていたあんたが、何もできないままボロボロにされるなんて……」
「く……自分で人のモンスターボールを使えなくさせておいて、言う言葉なの!!」
 ウララの足元には、1個のモンスターボールが落ちている。でもそのモンスターボールのスイッチは、何かの衝撃で壊された跡があった。モンスターボールのスイッチが壊されてしまったら、中のポケモンは出す事ができなくなる。あれもハルナがやったって言うの……!?
「今までヒカリさんをバカにした罰よ!! ルーナ、“ねんりき”!!」
 ハルナが指示を出すと、ルーナはためらいもなくウララに“ねんりき”を浴びせる。途端に、ウララの体が一瞬、宙に浮いたと思うと、凄い勢いで弾き飛ばされた。そしてそのまま、ウララは太い木に思い切り背中から叩きつけられた。
「う、く……」
 そのまま力なく崩れ落ちるウララの体。
「……そうよ、ハルナはヒカリさんのためだったら、何だってするんだから。ヒカリさんをバカにする奴らを、懲らしめてやる事もね!!」
 ハルナはウララの前で、まるでハルナとは違う何かが乗り移ったような笑みを見せて、堂々とそんな言葉を口にした。
 その言い方も表情も、もうあたしの知ってるハルナのものじゃなかった。何があったのかは知らないけど、どうしてあんな事……!
「あんた……最低の人間ね……!」
 ウララがそうつぶやいた時、ウララは右手で足元の地面をグッと握って、ハルナに向けて投げつけた。それは、土じゃなくて1個のモンスターボールだった。モンスターボールが開くと、中からみのむしポケモン・ミノマダムが飛び出す。体が茶色の、「すなちのミノ」を纏ったむし・じめんタイプのミノマダム。
「ミノマダム、“ねんりき”!!」
 ウララが叫ぶと、ミノマダムがルーナに素早く“ねんりき”を浴びせた。今度はルーナが勢いよく弾き飛ばされて、木に叩きつけられる番だった。
「くっ、それなら!! エクリプス!! アルテミス!!」
 ハルナが叫ぶと、ハルナの後ろからふうせんポケモン・プリンのエクリプス、げっこうポケモン・ブラッキーのアルテミスが一斉に飛び出してきた。まさか、ミノマダム相手に2匹がかりで!?
「“みずのはどう”!! “あくのはどう”!!」
 その予想は的中した。エクリプスとアルテミスはミノマダムに向かって同時に攻撃した! 直撃! 2匹の攻撃をもろに受けたミノマダムは、ひとたまりもない。たちまちウララの目の前に跳ね飛ばされた。
「ミノマダム……!!」
「さあ、そろそろ死んでもらうわよ!! ヒカリさんをバカにした罰として!!」
 ハルナがウララに獲物を見つけたポケモンのような、鋭い視線を向けた。ハルナ、ウララを殺そうとしてるの!? これまであまりにハルナの行動が信じられなくて見ている事しかできなかったけど、もう黙ってなんかいられない! あたしはすぐに、その場から飛び出した。
「やめて!!」
「!!」
 あたしの一声で、そこにいた全員の視線が、あたしに集まった。特にハルナは、あたしを見て目を丸くしていた。
「ヒカリ、さん……!?」
「ハルナ、どうしてこんな事するの!? こんな事したって、何も自分のためにならないじゃない!!」
「どうしてって……悔しくないんですか!! 勝ったのにバカにされ続けるなんて、嫌じゃないんですか!! だからハルナはやります!! 止めないでください!!」
 ハルナの答えはあたしの予想していたものと違って、あたしに強く反論するものだった。そしてハルナはあたしの肩を強く押して目の前からどけて、ウララの前に出ようとする。
「ダメよ!! 今どんな事をしようとしてるのか、わかってるの!?」
 あたしはすぐにハルナの左手首を握った。でもハルナは、あたしの手を強く振りほどいた。あたしも驚くくらいの、強い力で。
「どうして止めようとするんですか!! ハルナはヒカリさんをいじめる奴を懲らしめたいだけなんですよ!! あんな奴なんか、生かしちゃおけませんよ!!」
 ハルナはまた反論する。いつもならこういう時は話をわかってくれるハルナなのに、今は全然違う。あたしの知っているハルナは、もうそこにはいなかった。それがショックで、胸が苦しくなった。
 その時、あたしの足元にいたクレセントが、ハルナに呼びかけた。ハルナはすぐに気付いて、足元に目をやる。
「クレセント!! さっきまでどこ行ってたのよ!! さあ、みんなと一緒に、あいつをぶっ殺すわよ!!」
 すると途端に、ハルナはまるで脅すような口調でクレセントに怒鳴って、木の根元で腰を落としたままのウララを指差した。それでもクレセントは首を横に振る。
「何よ!! トレーナーのハルナに従えないって言うの!?」
 そんな言葉を聞いて、あたしはさらにショックを受けた。今のハルナは、クレセントの事を、いや、ポケモンの事を何だと思ってるの!? ポケモンに対する考え方も変わっちゃったの!?
「もう、いいわ!! 使えない子ねえ!!」
 ハルナは不満そうな表情を見せてそうつぶやくと、モンスターボールを突き出して、クレセントをモンスターボールに戻しちゃった。使えない。その言葉を聞いて、あたしは捕まえたポケモンも気に入らなければ簡単に手放しちゃう、シンジと同じ残酷さを感じた。ハルナの心は、どこまで変わっちゃったの!?
「ハルナ……どうして、そんな事……!?」
「さあ、とどめを指すわよ!! ルーナ、“シャドーボール”!! エクリプス、“みずのはどう”!! アルテミス、“あくのはどう”!!」
 あたしの言葉を無視して、ハルナは指示を出した。ルーナ、エクリプス、アルテミスの3匹があたしの横を通り過ぎて、すぐにウララに狙いを定めて、攻撃準備に入った。いけない!
「ポッチャマ、“がまん”よ!!」
「ポチャッ!!」
 とっさのあたしの言葉で、ポッチャマはすぐにウララの前に飛び出した。その時、3匹の攻撃がウララに向かって放たれた! それを生身で受け止めるポッチャマ。でも、3匹の攻撃を同時に受けたもんだから、しばらく耐えただけで簡単に跳ね飛ばされちゃった。だから、攻撃を倍返しする事はできなかった。
「どうして邪魔をするんですか!! ハルナはヒカリさんのために……!!」
「全然ためにならないわよ!! ハルナが人殺しをするなんて、あたしは嫌よ!! だからやめて!!」
 あたしは必死にハルナに呼びかける。でもハルナはそれを聞いて改心する所か、後ずさりをしてあたしと距離を取った。
「どうしても邪魔をするというのなら……力ずくでもそこをどけてもらいます!!」
 ハルナがそう叫んだのと同時に、ハルナのポケモン3匹がハルナの所に戻ってきて、ハルナと一緒にあたしに鋭い視線を向けた。
 その言葉が、あたしはショックだった。あたしのためにとは言っておいて、あたしがダメだと言ったら、あたしをどけてまでウララを殺そうとする。おかしいよ、そんな考え! ハルナの頭は一体、どうなっちゃったの!?
「待ってハルナ!! どうして……」
「ルーナ、“ねんりき”!!」
 あたしの言葉を無視して、ハルナが指示を出した。すると、いきなりあたしの体が思いきり突き飛ばされたように後ろに吹っ飛ばされた。
「きゃあっ!!」
 そのままウララの横に倒れこむあたし。体に強い衝撃が走った。
「最低の人間ね、あいつ……あんた、あんな人を弟子にしていたの……?」
 あたしが体を起こした時、ウララはそんな事をつぶやいた。
「そんな事ない……ハルナは、あんな人じゃなかった……どうして、どうして……!?」
 あたしは立ち上がりながら、そう答える。正面には、こっちに鋭い視線を向けるハルナが。
 ハルナは容赦なくあたしを攻撃してくる。あたしが逃げていても仕方がない。なら、ポケモンバトルをするしかない。ハルナがバトルで負ければ、ハルナも冷静になってくれるかもしれない。
「アルテミス!!」
 そう考えている間に、ハルナの叫びでアルテミスがサッと前に飛び出して、こっちに向かってきた!
「ポッチャマ、まだやれる?」
「ポチャマ!!」
 あたしはポッチャマの様子を確かめる。ポッチャマはまだダイジョウブそう。これならいける!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアアッ!!」
 ポッチャマが向かってくるアルテミスに向けて“バブルこうせん”を発射! 命中! 正面から“バブルこうせん”をもろに受けたアルテミスは、怯んで動きを止める。
「何をっ!! “あくのはどう”!!」
 ハルナが叫ぶと、アルテミスは“バブルこうせん”の雨の中でも足を踏ん張って、“あくのはどう”を発射! “あくのはどう”は“バブルこうせん”を突き抜けて、ポッチャマに向かっていった!
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! ポッチャマは体勢を崩したけど、何とか踏み止まって体勢を立て直す。攻撃に曝されていてもわざを繰り出せるなんて、アルテミスってあんなにタフだったっけ?
「“アイアンテール”!!」
 そう思っている間に、アルテミスはすぐに間合いを詰めてくる。ジャンプしてポッチャマの上を取ると、尻尾に力を込めて、勢いよく振り下ろしてくる!
「ポッチャマ、回って!!」
 とっさに指示したのは、『回転』だった。ポッチャマはアルテミスの尻尾がすぐ近くまで来た所で、体をクルリと一回転させながらジャンプした。アルテミスの尻尾が、ポッチャマのすぐ横を通り過ぎて行った。間一髪。アルテミスが勢いあまって着地した瞬間、態勢を崩した。
「“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアアッ!!」
 その隙を突いて、ポッチャマは“バブルこうせん”を叩き込んだ! 命中! それでもアルテミスには、まだ決定打にはならない。“バブルこうせん”が止んだ後、アルテミスはすぐに反転して態勢を整える。
 その時、空を黒い影が覆った。空から何かが降りてくる気配を感じて見上げると、そこにはドラゴンポケモン・ボーマンダの姿が。羽を広げてこっちに降りてくる。
「ヒカリーッ!!」
「サトシ!?」
 その声を聞いて、ボーマンダにサトシが乗っている事にすぐに気付いた。よく見てみると、タケシやルビーさんもいる。そんな3人を乗せたボーマンダは、あたしの目の前にゆっくりと降り立った。
「一体どうしたんだ? なかなか戻ってこないからみんなで探してたんだ」
「大変なのよ!! ハルナが急におかしくなっちゃって……」
「ウララちゃん!!」
 あたしがサトシにいきさつを説明していると、ルビーさんがウララの様子に気付いて、すぐにウララの所に駆け寄った。
「どうしたの!? 一体何が!?」
「ルビーさん……あいつがいきなり、あたしを殺すって言い出して……」
 ウララは正面にいるハルナを震える手で指差して、ルビーさんの質問に答える。
「殺す、ですって!?」
「そうなんです、あたしが説得しても、全然聞こうとしなくて、なんか変なんです!!」
「何ですって!?」
 あたしの言葉を聞いて、ルビーさんが驚く。そして、みんなの視線は一斉に正面にいるハルナに向けられた。
「ちっ、何よ、みんなでぞろぞろと……こうなったら、みんなまとめて相手してやるんだから!!」
 ハルナは唇を噛みながらそうつぶやくと、ハルナの3匹のポケモンが、あたし達に鋭い視線を向けながら身構えた。


NEXT:FINAL SECTION

[800] FINAL SECTION 目を覚まして、ハルナ!
フリッカー - 2009年03月18日 (水) 23時57分

 みんなの視線が、一斉に正面にいるハルナに向けられた。
「ちっ、何よ、みんなでぞろぞろと……こうなったら、みんなまとめて相手してやるんだから!!」
 ハルナは唇を噛みながらそうつぶやくと、ハルナの3匹のポケモンが、あたし達に鋭い視線を向けながら身構えた。その視線から、みんなもハルナの様子がおかしい事に、すぐに気付いたみたい。
「どういう事だよハルナ!? なんでこんな事を……!?」
「いくら負けたからって、こんな事をする事ないじゃないか!!」
「うるさいわね!! あたしはね、ヒカリさんをバカにしたアイツを殺さないと気が済まないのよ!! あんな奴は、1人も生かしちゃおけない!! だから邪魔しないで!!」
 サトシとタケシが説得しようとしても、ハルナはやっぱり聞く耳を持たない。あんな奴は、1人も生かしちゃおけないっていうハルナの言葉には、残酷さを覚えた。あんな言葉、あたしの知ってるハルナの言うセリフじゃない。あたしはハルナの背中に、何か悪魔でも取り付いているんじゃないかとまで思うほどに、ハルナから強い殺気が出ているのを感じた。
「邪魔しないでって……人を殺そうとする事が、どんな事か……」
「いい加減にして!! ルーナ、“スピードスター”!!」
 サトシの言葉を途中で断ち切って、ハルナは思い切り叫んだ。ルーナはそれに答えて、こっちに容赦なく“スピードスター”を浴びせてきた!
「わああっ!!」
 目の前で爆発が起きた。思わずみんなは後ずさりをする。
「待ってくれハルナ!! 俺達の話を聞いてくれ!!」
「もう、無駄よ……あいつ、もう完全に頭おかしくなってるから……」
 必死に叫ぶサトシに、ウララが途切れ途切れにだけど口を挟んだ。それを聞いたサトシは、くっ、と唇を噛んだ。
「ウララの言う通り、ハルナは完全に我を忘れている状態だ……こうなったらポケモンバトルをして、ハルナの頭を冷やすしかないな」
「そうするしか、ないのか……!」
 結局2人が出した結論も、あたしと同じ結論だった。
「ヒカリは、大丈夫なのか?」
 サトシの視線が、あたしに向いた。あたしを気遣っているんだ。
「ダイジョウブ。あたしだって、ハルナがあんな事する人じゃないって、信じてるから」
 あたしははっきりとそう答えた。
「……わかった。じゃ、行くぞ!!」
「ええ!!」
 あたし達は、真っ直ぐハルナを見据えながら、モンスターボールを取り出した。
 その一方で、あたし達の後ろにいるルビーさんは、ウララを気遣いながら、ハルナを真っ直ぐ見つめていた。


FINAL SECTION 目を覚まして、ハルナ!


「ムクホーク、君に決めたっ!!」
 サトシが真っ先にモンスターボールを投げた。出てきたのは、大きなトサカが特徴的な、体の大きい鳥ポケモン、もうきんポケモン・ムクホーク。そう、サトシのムクバードが進化した姿。この前サトシが参加したポケリンガって競技で、進化したの。進化する前よりも大きくなった羽を羽ばたかせて、ムクホークは力強く空に舞い上がる。
「頼むぞ、ウソッキー!!」
 続けてタケシがモンスターボールを投げる。タケシが繰り出したのは、ウソッキー。
「ポッチャマ、一旦戻ってくれる?」
「ポチャ」
 ポッチャマはさっき3匹の攻撃を一気に受けて、さらに少しバトルを続けたせいで、結構疲れが溜まっている。これ以上はきつい。だからあたしは、交代させる事に決めた。ポッチャマはあたしの足元に下がる。それを確認してから、あたしは別のモンスターボールを取り出した。
「エテボース、お願い!!」
 あたしが代わりとして出したのはエテボース。モンスターボールから飛び出した後、2本の尻尾に付いた手で、サッと着地してみせる。そんな3匹は、目の前にいるハルナやそのポケモン達の様子が違う事に、すぐに気付いた。少しだけだけど戸惑う様子は隠せない。
「ルーナ、“スピードスター”!!」
 先にハルナが仕掛けてきた。あたし達が驚くくらいの強い気迫のこもった声で指示を出す。ルーナが“スピードスター”をばら撒く。“スピードスター”は、敵が多い時も相手にしやすいわざ。ばら撒かれた星型弾は、3匹に降り注ぐ!
「エテボース、こっちも“スピードスター”よ!!」
「エェェェイポッ!!」
 とっさにあたしはそう指示していた。それに答えてエテボースは、“スピードスター”を前に向けてばら撒いた。ルーナが放った“スピードスター”に正面からぶつかって、いくつもの爆発が次々と起こった。だから当然、煙で視界も遮られる。
「今だムクホーク、突っ込め!!」
「ムクホーッ!!」
 そこでサトシが指示を出すと、ムクホークは煙の中を自ら突っ込んでいった。煙で周りが見えない状態の時は、相手がどう動くのかは当然わからない。だから、普通は煙が晴れるまでは下手に動かない方がいいんだけど、ここで思い切って突っ込ませるなんて、いかにもサトシらしい。ムクホークが飛んでいった衝撃で煙が晴れると、いきなりムクホークが目の前に飛び出してきたのを見て、驚くハルナのポケモン達が見えた。
「“つばめがえし”だ!!」
 その瞬間、ムクホークはスピードを上げて一気に飛び込んだ。エクリプスに直撃! エクリプスはたちまちボールのように跳ね飛ばされた。他の2匹も怯んで、3匹のフォーメーションが崩れる。今がチャンス!
「エテボース、“きあいパンチ”!!」
「ウソッキー、“すてみタックル”だ!!」
 あたしとタケシは、揃って指示を出していた。
「エイッ、ポオオオオオッ!!」
 エテボースはアルテミスに向かって尻尾の拳を叩きこんだ! 直撃! 効果は抜群! かくとうわざ最強のわざを受ければ、あくタイプのブラッキーはひとたまりもないはず。たちまちアルテミスはエクリプスと同じように跳ね飛ばされた。
「ウソッキィィィィッ!!」
 そしてウソッキーも残ったルーナに突撃! 体を張ったタックルの一撃で、ルーナはたちまち弾き飛ばされた。
「くっ、まだよっ!!」
 それでもハルナは怯まない。その叫びに答えるように、3匹のポケモン達もすぐに体勢を立て直した。
「ルーナ、“シャドーボール”!! エクリプス、“みずのはどう”!!」
 ハルナの指示で、ルーナが“シャドーボール”を、エクリプスが“みずのはどう”をそれぞれ一斉に発射!
「かわせ!!」
「かわして!!」
 あたし達の声が揃った。それに答えて、エテボース、ムクホーク、ウソッキーは2匹の攻撃をひらりと動いてかわしてみせる。“シャドーボール”と“みずのはどう”が空を切った。でもそれを見た時、ハルナの口元が笑った。まるで考えていた事がうまく行ったかのように。
「“ねんりき”!!」
 ハルナの自信に満ちたその指示を聞いて、あたしははっとした。まさか、これって……! その予想は的中した。空を切った“シャドーボール”と“みずのはどう”が、“ねんりき”に引き寄せられて戻ってくる! これは、間違いなくハルナスペシャル『変幻自在スーパーシャドーボール』!
「みんな、後ろ!!」
 あたしがとっさに叫んだ時にはもう手遅れ、引き寄せられた“シャドーボール”と“みずのはどう”が、もう3匹のすぐ後ろにまで迫っていた。
「ウソォォォォッ!!」
 ウソッキーに“みずのはどう”が直撃! 効果は抜群! もう1つの“シャドーボール”はムクホークに飛んで行ったけど、ゴーストタイプのわざの“シャドーボール”は、ノーマルタイプには全く効かないから、ムクホークは何とか羽で受け止める事ができた。
「今よ!! エクリプス、“ころがる”!! アルテミス、“アイアンテール”!!」
 でもそのせいで、みんなの目が後ろに向いちゃっていた。その隙をハルナは見逃さなかった。エクリプスとアルテミスが、サッと飛び出した。エクリプスがその丸い体で転がり始めたのに続いて、アルテミスは尻尾を振り上げて飛びかかってくる!
「エテボース、後ろに“きあいパンチ”!!」
「エイッ、ポオオオオオッ!!」
 とっさのあたしの指示で向かってくる2匹に気付いたエテボースは、体の向きを変えないまま、尻尾の拳を後ろに向かって振った。尻尾に手があるエテボースだからこそできる方法。今まさにエテボースに体当たりしようとしたエクリプスにクリーンヒット! 効果は抜群! エクリプスはたちまち弾き飛ばされて木に思い切り叩きつけられると、空気が抜けた風船のようにしぼんで地面に落ちた。
「ムクホーク、“インファイト”だ!!」
 その次に向かってきたアルテミスを、ムクホークが迎え撃つ。ムクホークは攻撃を仕掛けようとしたアルテミスとの間合いを一気に詰めると、羽と足を使ってパンチを浴びせるように連続格闘攻撃を浴びせた! 嵐のように繰り出される羽と足の連続攻撃を前にアルテミスは、完全になす術なし。最後にムクホークが羽の一撃をお見舞いすると、アルテミスは簡単に弾き飛ばされて、倒れこむ。
「くっ、調子に乗らないでっ!! ルーナ、“シャドーボール”!!」
 それでもハルナは怯まない。残ったルーナが、こっちに向けて“シャドーボール”を発射!
「ウソッキー、かわして“ものまね”だ!!」
 そこでタケシが指示を出した。まずウソッキーは、飛んでくる“シャドーボール”をサッとかわしてみせる。
「ウソォォォォッ、キィィィィッ!!」
 そしてウソッキーは“ものまね”して両手で“シャドーボール”を作り出すと、それをルーナに向かって勢いよく投げ付けた! 予想外の攻撃だったのか、ルーナは驚いて一瞬動きを止めた。そこに命中! 効果は抜群! ルーナもまた、やっぱり大きく弾き飛ばされて、地面に落ちた。
「な、何なのよ、これ……!!」
 ハルナは動揺しているのか、そんな震えた声を出した。これで、ハルナのポケモンはみんな、かなりのダメージを受けた。ハルナもこれで気持ちを落ち着かせてくれたかもしれない。
「ハルナ!! もうやめて!! これで気が済んだでしょ!!」
「……まだよ、まだ終わってなんかない!!」
 あたしはハルナを説得しようとしたけど、ハルナはまだ目を覚ましていなかった。ハルナの目にまた殺気が宿ったのがわかった。そして、ハルナのポケモン達も、また立ちあがって、こっちを強くにらみつけた。
「そんな……まだやる気なの……!?」
 あたしの口から思わず、そんな言葉がこぼれた。そこまでしてまで、ハルナは人殺しをしたいって事なの……!?
「ハルナ、もうやめるんだ!!」
「やめないわよ……!! ハルナはヒカリさんのために、アイツを殺さないと気が済まないのよ!!」
「ヒカリがそんな事、望んでいると本気で思っているのか!?」
「うるさいわね!! 誰が何て言っても、ハルナはアイツを殺すんだからっ!!」
 サトシとタケシの言葉も、やっぱり聞こうとしないハルナ。あたしは何だか、今のハルナを止める事はあたし達の力じゃ無理なような気がしてきた。もうハルナの心は、完全な悪者の心になっちゃったの……? あたしの知っているハルナには、もう戻らないの……? どうして……どうして……!? ハルナはそんな事する人じゃないはずなのに……胸が苦しくなってくる。
「ヒカリさんのために、ハルナはアイツを絶対に殺す!! ルーナ……」
 その時、右手を突き出して叫んだハルナの言葉が、急に途切れた。
 ハルナの目から急に鋭さが消えたかと思ったら、そのまま眠るようにゆっくりと目を閉じて、その場に崩れ落ちた。ハルナのポケモン達も、ハルナと同じようにいきなりその場に崩れ落ちていった。そこにいたみんなが、予想外の状況に目を疑った。
「ハルナ!?」
 あたし達の声が合わさった。あたしはすぐにその場に駆け寄ろうとしたけど、その時、何か光る玉があたしの横を通り過ぎていった。それは、“きあいだま”だった。その“きあいだま”は、倒れたハルナの後ろ側に落ちて、爆発! 誰、今攻撃したの!?
「さあ、そこに隠れているんでしょう!! 姿を見せなさい!!」
 ルビーさんの声が後ろから聞こえた。振り向くと、そこには鋭い眼差しを向けて立っているルビーさんと、カイロスの姿があった。ルビーさんの見つめる先。そこには、さっき“きあいだま”が爆発した場所があった。その煙の中から、何やら小さい影が慌てた様子で飛び出してきた。それは空中に浮いた、黒いてるてる坊主のようなポケモンだった。
「あれは、カゲボウズじゃないか!」
 タケシが叫んだ。
「やはりいたのね、カゲボウズ」
 ルビーさんがそのポケモンの名前をつぶやいた。カゲボウズ? あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「カゲボウズ、にんぎょうポケモン。恨みや妬みの感情が大好物。ピンと立ったツノが人間の感情をキャッチする」
 図鑑の音声が流れた。
 そのポケモン――カゲボウズは、あたし達を見ると、さっきの攻撃で驚いたせいなのか、怯えた表情を見せて、そのまま森の奥へと逃げて行った。何だったの、あのカゲボウズ? そうだ、それよりも! あたしはすぐに、倒れたハルナの所に駆け寄った。
「ハルナ!! ハルナ!!」
 あたしはうつぶせに倒れたハルナの体を起こしてハルナの体をゆすりながら呼びかける。すると、ハルナの目がゆっくりと開いた。
「ヒカリ、さん……? あれ……ハルナ、なんでここに……?」
 ハルナは体を起こして辺りをゆっくりと見回した後、そうつぶやいた。その黄色い瞳は、あたしの知っているハルナそのものだった。さっきまでの殺気はまるでウソのように消えている。
「ハルナ……? さっきまでの事、何も覚えてないの?」
「さっきまでの事? 何の事ですか?」
 あたしが聞いても、ハルナの頭には「?」が浮かぶだけ。ウソをついているようには見えない。覚えてないのは本当みたい。すると、周りで倒れていたハルナのポケモン達も、ゆっくりとその場で起き上がった。そしてやっぱり、ハルナと同じように辺りを見回している。ハルナのポケモン達も状況は同じ?
「覚えてなくて当然よ。ハルナちゃんは、さっきまで我を忘れて暴走していたのよ。さっきのカゲボウズのせいでね」
 ハルナの質問に答えたのはルビーさんだった。
「暴走していた?」
 カゲボウズのせいで我を忘れて暴走していた? あたしはその言葉の意味がわからなかった。
「ルビーさん、どうしてハルナの背中側にカゲボウズがいるとわかったんですか?」
 タケシが質問する。
「カゲボウズは、人の恨みや妬みの感情を食べて生きているポケモンなの。だから人の恨む心が強くなると、そこにカゲボウズが集まってくる」
 うん、それはポケモン図鑑も言ってたけど……
「じゃあ、あのカゲボウズは、ハルナの恨みの感情に引かれて……」
 あたしはそう言いかけたけど、ルビーさんは首を横に振った。
「まあそうなんだけど、厳密にいえばそうじゃないわ。確かにカゲボウズは、恨みの感情を見つけて、それを食べるわ。でも、たまにだけどいるのよ」
「何が、ですか?」
「その恨みの感情だけじゃ物足りないから、その恨みの感情を増幅させてから食べようとする、頭のいいカゲボウズが」
「ええっ!?」
 そのルビーさんの言葉に、あたし達は驚いた。
「自らの力で恨みの心を増幅させて、それが充分に育ってから食べる。でもそれをされた人は、恨みの感情を爆発させて、我を忘れて暴走してしまうの。だからよく言われるのよ、『カゲボウズが住んでいる場所では、犯罪が増える』ってね。それに、この看板」
 ルビーさんがそう言うと、顔を横に向けた。あたしも目で追って見てみると、そこには1つの看板が立っていた。「カゲボウズ出没注意!」と書かれている。今までこんな看板がある事に、あたしは全然気付かなかった。ルビーさんの言ってる事は、ウソじゃないんだ。
「ハルナちゃんはポケモンセンターの前でヒカリちゃんを見た時、この看板が立っていた森の中に入っていった。だから私は思ったの。ハルナちゃんはカゲボウズに、憎しみを増幅させられて暴走しているんじゃないかって。ポケモン達と一緒に」
「なるほど……」
 みんなの口からそんな言葉がこぼれる。ルビーさんの推理は凄い。まるで探偵みたい、と一瞬考えちゃった。でも、1つだけ気になる事が。クレセントの事。
「でも、クレセントは普通でしたよ」
「きっとそれは、たまたまカゲボウズの力の影響を受けなかったんだと思うわ。たまたまカゲボウズの近くにいなかったとか、モンスターボールに入っていたとか」
 なるほど、よく考えてみたらそうか。
「それはともかく……」
 ルビーさんの視線が、ハルナに向けられた。ハルナもそれに気付く。
「ハルナちゃんはこうやって恨みの感情を増幅させられた結果として、ウララちゃんを自分の手で殺そうとした」
「えっ……!?」
 ハルナは声を裏返した。
「ハルナが……人殺しを……!?」
 ハルナは震える両手の平を見つめながら、震える声でつぶやく。自分が知らない内に人殺しをしようとしてたなんて、信じられないに決まってる。
「それはカゲボウズに恨みを増幅されたせいだと私は言ったけど、ハルナちゃんは悪くないと言った訳じゃないわ」
 ルビーさんはハルナに鋭い視線を向けた。
「そうよ!! いくらカゲボウズのせいだからって、殺人未遂した事には変わりないで……」
 ウララがその隙を待っていたかのようにハルナに言葉を浴びせる。でもルビーさんが無言でウララの前に右手をかざすと、ウララは黙り込んだ。
「カゲボウズに恨みを増幅させられたのは、ハルナちゃんが強い心を持っていなかったからよ。それがあったから、ほんの僅かでも恨みの感情が生まれてしまう。そこをカゲボウズに付け入られてしまったのよ」
「強い、心……」
 ルビーさんが、あたしにも言った言葉。あたしは自然と、その言葉を繰り返していた。
 ハルナの顔が曇り始める。ハルナはルビーさんの言葉に、何も反論はしなかった。
「つまり、こうなったのは身から出たさび。逆境に抗える強い心がなかったから、ハルナちゃんは自分を暴走させてしまったっていう事よ。あなたの心が弱かったから、あわや大惨事になりかけたのよ」
「……」
 ハルナは顔を落として黙り込んだままだった。地面に着いた両手は、わなわなと握られていた。

 * * *

 夜。
 事件が無事に解決して、あたし達はポケモンセンターで夜を過ごしていた。
 これでほっと一息、と行きたい所だけど、あたしはハルナの事が気になって仕方がなかった。一応ハルナは自分からウララを殺そうとした訳じゃなくて、ポケモンの力のせいで暴走しちゃったからって理由で、警察に捕まるような事にはならなかった。それでも、ハルナのショックは大きいものだったに違いない。現に事件が無事に解決しても、ハルナに笑顔は戻らなかった。
 あたしは散歩をする、とみんなに言っておいて、ポケモンセンターから出て、ハルナを探していた。ひょっとしたらこの辺りで、1人で落ち込んでいるかもしれない。あたしも落ち込んだ時は、こうやって1人になりたかったからね。
 そうやって探していると、ポッチャマがあたしに呼びかけた。見ると、ポッチャマが指差す、森の中の開けた場所にハルナが座っている。あたしはハルナを脅かさないように、そっとハルナに近づく。そして、そっと声をかけた。
「ハルナ」
 すると、ハルナが少しだけ驚いた顔をこっちに向けた。
「ヒカリさん……なんで来たんですか?」
 ハルナらしくない質問が来た。暗い表情を見ても、やっぱり弱気になっている事がわかる。
「ハルナが心配で来たのよ。それ以外に何があるっていうの?」
「いえ……でも、ハルナはもう、ヒカリさんの弟子なんかじゃありません……だから、もう関係ありませんよ」
 ハルナはそう言って立ち上がろうとした。1人になろうとしているんだ。ウララにあたしの一番弟子だって名乗ってた事をからかわれたんなら、そうしたいのも無理はない。でも……!
「待って!」
 あたしはハルナの腕を捕まえて、呼び止める。
「確かにハルナはあたしの弟子じゃないけど、それでもあたしは心配なのよ! ハルナは、あたしの『友達』なんだから」
「友達……」
 ハルナはそうつぶやいて、あたしがつかんでいた手をゆっくりと下ろした。
「そう。だから、弟子にこだわる必要なんてないじゃない。友達なら、それでいいでしょ?」
「友達……そうですか……」
 ハルナはそうつぶやいて、また座り込んだ。そして、話し始めた。
「ハルナは、ヒカリさんにずっと憧れてました……でも、ずっとハルナは、ヒカリさんに頼ってばかりでした……だからハルナは、1人じゃ何もできないんじゃないかって……」
「そんな事ないよ!」
 あたしはハルナの言葉を途中で切ってまでそう言った。そうしてまで、その事を言いたかった。
「あたしだって、落ち込んだ時にはいっぱい人に助けられたよ。サトシ達はもちろんだけど、他にもいっぱいいる。もちろんハルナにもあたしは勇気をもらったんだから。頼ってばかりいるのはダメだってルビーさんも言ってたけど、いっぱい人に助けてもらうのは、恥ずかしい事じゃないって、あたしは思うよ」
 あたしは側にいるポッチャマに顔を向けると、ポッチャマもうなずいた。
「それに、自分が強くないなら、これから強くなる事ができるって事じゃない! 今がダメなら、変わる事ができるって事じゃない!」
 あたしがそう言うと、ハルナははっとした表情を見せて、あたしに顔を向けた。
「今がダメなら、ダメな所を直せばいいのよ。それだけ! だからハルナだって自分でその気になれば、絶対変われるよ!」
「ダメな所は直せばいい……そうは言いますけど、難しい事ですよね……でも、ハルナは変われるでしょうか……?」
「やってみなきゃ、何も始まらないでしょ? 自分を信じなきゃ! ダイジョウブ、ダイジョウブ!」
「ポチャポ〜チャ!」
 あたしのダイジョウブ! に続けて、ポッチャマも真似して声を出した。
「そうですね……そう考えないと何も始まりませんよね……!」
 ハルナの表情に、次第に明るさが戻ってくる。そして、ハルナはいきなりザッと立ち上がると、こう叫んだ。
「よし、決めました! ハルナ、今日からヒカリさんの一番弟子をやめます! ハルナはハルナの力で、強くなります!」
 叫び終わると、ハルナはこっちに顔を向けた。
「ヒカリさん、今までハルナは、ヒカリさんの事をずっと追いかけて旅していたんです。だからこれからそれをやめて、ヒカリさんが行く所とは違う所に行って、1人で修行します!」
 ハルナのその表情には、いつもの明るさが戻っている。そしてその瞳には、強い決意が宿っているのがあたしにはわかった。
「そして、次にコンテストでヒカリさんと会った時には、必ずいいコンテストバトルができるようになります!」
「ハルナ……!」
 あたしはそれが嬉しかった。やっとハルナは、いつものハルナに戻ってくれた。これなら絶対ダイジョウブなはず。そういう時に限ってダイジョバない時があるのはしょっちゅうだけど、今はそう確信できる。

 ハルナは変われるよ。間違いなく。

 * * *

 そして次の日。
 あたし達は、ポケモンセンターを出発する時が来た。荷物をまとめて、いざ出発しようとしたその時になって、ハルナはあたし達に声をかけてきた。
「……そうですか、キッサキシティに向かうんですね」
「ああ。そこでジム戦に挑戦するんだ」
「それなら、ハルナは逆に南に行かなきゃ!」
 ハルナのそんな言葉に、サトシとタケシは少し驚いていた。
「それなら南に行くって……どういう事だよ?」
「あんたには関係ないの! これはハルナ自身の事なんだから!」
 サトシの質問も、ハルナは余裕があるように笑みを見せて受け流してみせる。
「一体ハルナはどうしたんだ?」
 タケシがあたしに聞く。
「ハルナはがんばろうとしてるだけよ。自分なりに強くなるために」
 あたしは単純明快にそう答えた。それでもタケシは、首を傾げたままだったけど。夕べの話はあまり詳しくしてないから、まあ当然なのかもしれないけどね。
 あたしは改めて、ハルナに顔を向けた。
「じゃあ、もう前のようにあまり会えなくなっちゃうわね。ちゃんと1人でもがんばってよ!」
「もちろんです! 今のハルナは前向きですから! じゃ、失礼します!」
 ハルナは元気よくそう答えると、あたし達に背中を向けて、そのままその元気さを表すように、その場を走っていく。
「じゃあな〜!」
「コンテストで会ったら、負けないからね〜!」
 あたし達は手を振って、ハルナの背中を見送る。すると、ハルナも走りながら手を振って答えてくれたのが見えた。
「ハルナちゃん、随分張り切ってたわね」
 すると、あたしのすぐ後ろでルビーさんの声がした。振り向くとそこには、あたし達と同じようにハルナの背中を見送るルビーさんの姿があった。
「はい。ハルナはもうダイジョウブです。自分でがんばろうって決めましたから」
「そう、それならよかったわ。ようやくその気になったのね」
 あたしの答えを聞いて、ルビーさんはほっとした様子の表情を見せた。そしてまた、すっかり小さくなったハルナの背中を見つめた。
 そんなハルナの後ろ姿を、あたし達から少し離れた場所で見ていたウララがいた事には、気付かなかったけど。

 * * *

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY28:THE END

[801] 次回予告
フリッカー - 2009年03月22日 (日) 21時31分

 町であたし達は、シナと再会した。

「ねえシナ、せっかくだからおしゃれしたらどう?」
「え……!? でも、私……このままでいいよ……」
「恥ずかしがらなくていいから! あたしがいいのを選んであげる! ダイジョウブ、ダイジョウブ!」

 でもそんな時、シェイミが何者かに奪われちゃった!

「これがシェイミか……面白いポケモンじゃねぇか」
「シェイミを返して!」
「返す? 返そうったってムダだぜ。オレには力があるからな!」
「力……?」
「そう、オレは『波導使い』なのさ!!」

 シェイミを奪ったのはシナと同じ、波導使い!?

「オレに歯向かおうなんて10年早え!! あばよ!!」
「シェイミーッ!!」

 NEXT STORY:2人の波導使い

「闇の……波導使い……」

 COMING SOON……



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