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[792] ヒカリストーリーEvolution STORY27 赤い瞳のルビー
フリッカー - 2009年02月13日 (金) 22時02分

 予定通り公開する事ができました。タイトルは予告と変更になりましたが。
 今回は第4の準レギュラーが登場します!

・ゲストキャラクター
ルビー(第4の準レギュラー) イメージCV:小宮和枝
 赤い瞳が特徴的な、ポケモンコーディネーターの女性。アヤコとは旧知の仲で、彼女を「アヤちゃん」と呼ぶ。また、ヒカリともヒカリが生まれたばかりの時に会っている。
 年齢はアヤコと同じだが、アヤコ曰く「私以上にコンテストに夢中」らしく、現在でも現役で活動を続けている大ベテラン。そのため結婚はしておらず、現在も旅を続けている。グランドフェスティバルにも何度も出場している実力の持ち主だが、その度にリボンを集め直している。
 容姿端麗で、落ち着いた印象を持つ女性だが、ポケモンコンテストでは意外にも『バトルにおけるありのままのかっこよさ・たくましさ』を追求し、「ポケモンのかっこよさは、いいバトルをしていると自然に出てくるもの」という考えを持っている。そのため、コンテストバトルでもポケモンを飾り立てるような戦法はしない。手持ちポケモンのカイロスで、時には“ハサミギロチン”の一撃で一瞬の内に倒してしまう事もあるため、『一撃必殺の鬼』とも呼ばれている。他の手持ちはボーマンダ、ハリテヤマなど。
 以前、カントー地方のコンテストでハルカと対戦し、打ち破った事がある。そのため、サトシやタケシとも面識がある。

スウィフト(ミバキ) イメージCV:荒木香恵
 ギンガ団の活動の裏で暗躍するエージェントの1人。サターンの指揮下にあったカッシーニ、ホイヘンスに対して、マーズの指揮下で活動している。素性を隠して活動する際はミバキという偽名を使う。最高幹部に昇進する野心を抱き、マーズの命を受けてヒカリ達一行を追う。
 普段は冷静沈着な性格だが、切れると真反対の性格になる。手持ちポケモンはアリアドスなど。

[793] SECTION01 ベテランコーディネーター・ルビー登場!
フリッカー - 2009年02月13日 (金) 22時04分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 ベテランコーディネーター・ルビー登場!


 鋼鉄島で突然、はがねポケモン達が暴れだすという事件が起きた。その犯人はギンガ団。地面に埋もれていた遺跡で機械を使って、何かを探そうとしていたの。サトシの活躍で機械は壊せて、はがねポケモン達も元に戻ったけど、ギンガ団の目的は相変わらず謎のまま。ただ、その遺跡は『やりのはしら』って場所を示すといわれているらしいんだけど……
 そしてあたし達はコンテストが開催される場所、アケビタウンへ。そこで出会ったウララって女の子は、あたしに強いライバル心を抱いているのか、あたしに嫌味な事ばっかり言うの。ファイナルで実際にぶつかったけど、そのコンテストバトルでもその気迫を感じ取った。それでもあたしは怯まない。結果はあたしの勝ちで、見事4つ目のリボンをゲット! これでグランドフェスティバルまであと1つ! でも、あのウララの性格は、あんまり気にならないなあ。
 そして次の目的地は、ジムがあるキッサキシティ。サトシのジム戦も、がんばってもらわないとね!

 * * *

「う……う〜ん……」
 あたしは、ゆっくりと目を開けた。目の前に広がるのは、木でできた天井。あれ、ここって……?
「ポチャ!!」
 すると、視界にポッチャマの顔が入る。ポッチャマはあたしの顔を見て嬉しそうな表情を見せる。
「ポッチャマ、ここは……?」
 体をゆっくりと起こして、辺りを見回してみる。ここは、木でできた部屋の中だった。その端にあるベッドで、あたしは寝ていた。あたしのいるベッドの隣にも、ベッドが1つ。ナイトテーブルもある。そして窓からは、心地よい風が入ってくる。
 そっか、ここは小屋の中。あたし達は旅をする中で、よく小屋を利用する。旅のトレーナーのために山道とか森の中とかいろんな場所にある小屋で、水道もちゃんとあって、どんなトレーナーも自由に利用できる、見つけると安心する所。でもあたし、なんでいつの間にこんな所に……? そう思っていると、カチャッ、とドアが開く音がした。
「あら、目が覚めたのね」
 聞き覚えのない声が聞こえてきた。柔らかくて落ち着いた印象の、女の人の声。あたしは声がした方を振り向く。そこには、1人の女の人が立っていた。白いロングヘアーに赤い瞳が特徴的な、きれいで落ち着いた印象の顔。服装はワインレッドのブラウスに、青のズボン。見るからに大人の人だった。初対面のはずなのに、その人をあたしは知っているような気がした。なぜだかわかんないけど。
「あなたは……?」
「海で流されていた人を助けてみたら、まさかあなただったなんてね。ヒカリちゃん」
 女の人は、最後の言葉を強調するように言って、ほほ笑んだ。見ず知らずの人に自分の名前をいきなり当てられて、当然あたしはびっくりした。そんなあたしをよそに、女の人はそっとあたしの側に来る。
「ど、どうしてあたしの事……!?」
「……そっか、覚えていないのも無理はないわね。私と会った時は、あなたはまだ赤ちゃんだったんですものね」
 女の人はあたしの反応に少し驚いた表情を見せたけど、すぐに落ち着いた表情に戻ってそう答えた。
「え……?」
 あたしが赤ちゃんの時に会ってる……!? それじゃあ、あたしは知らない訳ね。
「自己紹介しないとね。私はルビー。アヤちゃん、いえ、あなたのお母さんの昔馴染みなの。そして、今でもポケモンコーディネーターをやって旅をしている、物好きな女よ」
「そうだったんですか」
「この前のポケモンコンテストアケビ大会、見せてもらったけど、驚いたわ。あの時赤ちゃんだったヒカリちゃんが、あんな立派なポケモンコーディネーターになっていたんだもの。まるで昔のお母さんみたいだったわ」
「そ、そんな……」
 あたしはそんな褒め言葉を言われて、思わず照れて顔を赤くしちゃった。
「私も昔はあんな時があった……と、こんな話は後にしないと」
 すると、急にルビーさんの表情が変わって、話を切った。そして、あたしにこう質問した。
「で、どうして流されていたの? あなたの身に、何があったの?」
 それを聞いて、あたしは現実に引き戻される。ここで目が覚める前の事を、あたしは思い返してみる。そうだ、あたしはあの時……

 * * *

 それは、ポケモンコンテストが終わって、アケビタウンを出発しようとした時だった。
 すぐ横に海が見える道。空には何匹かのキャモメが飛んでいる。いつもと何ら変わりなく、荷物を整えて、ポケモンセンターを出発してこの道を歩くあたし達。目的地は、キッサキシティ。このアケビタウンからは近い町。そこにはポケモンジムがあって、サトシはそこに挑もうとしているから。
「よ〜し、次はジム戦だ!! ヒカリには負けてられないぜ!! な、ピカチュウ!!」
「ピッカチュ!!」
 サトシの気持ちは高ぶっていて、張り切ってあたしの前を歩いている。歩く速さもいつもより速く感じる。ジム戦が近くなると、いつも見られる姿だった。
「サトシったら、張り切っちゃって」
「ポチャポチャ」
 そんなサトシの姿を見たあたしは、腕に抱いているポッチャマと一緒にそうつぶやかずにはいられなかった。
「ヒカリがグランドフェスティバルに王手をかけたんだ。張り切らずにはいられないだろう」
 タケシがあたしに言う。それを聞いて、あたしも「それもそっか」と納得してつぶやく。
 何気ない会話が続いて、いつものように町を出発しようとした、その時だった。
 突然、どこからかたくさんの針がミサイルのようにこっちに飛んできた! それは、あたし達の目の前に当たって爆発を起こした!
「きゃあっ!!」
 爆風があたし達に吹き付けられてくる。吹っ飛ばされるほどのものじゃないけど、思わず顔を腕で遮った。何!? またロケット団!? サトシの肩の上にいたピカチュウと、あたしが腕に抱いていたポッチャマが、すぐにサッと地面に降りて身構える。
「いきなり何なんだ!?」
「フフフ、あの時ギンガ団に抵抗さえしていなければ、こういう事にはならなかったのに」
 聞こえて来たのは女の人の声だった。そして、攻撃が飛んで来た所からゆっくりと姿を現した人影。青紫色の髪をしている。そして、真ん中に『G』の文字が書いてある、一度見たら忘れられない特徴的な模様の、黒を基調にした下が膝上くらいのスカートになっているスーツ。それには見覚えがある。そう、前にあったギンガ団に、あれと同じ服装をした赤い髪のリーダー格の女の人を見た事がある。それを見て一目でわかった。
「ギンガ団!!」
 あたし達は揃って叫んだ。
 そう、最近シンオウで活動を始めた謎の秘密結社、ギンガ団。「新世界を作る」なんて事を言ってる、訳のわからない悪の組織。そんなギンガ団が、今目の前にいる。今度は何をするつもりなの!?
「一体俺達に何をするつもりなんだ!!」
「すっとぼけたって無駄よ。あなた達3人は、前に我々の鋼鉄島でのミッションを妨害した……カッシーニが警告した通り、あなた達は遂に我々の行動に支障をきたした」
 それを聞いて、あたしはこの間の鋼鉄島での出来事を思い出す。ミオジム戦が終わった頃、鋼鉄島で住んでいる野生のはがねポケモンを暴走させた事件が起きた。ギンガ団は、鋼鉄島の地面に埋もれていた遺跡で機械を使って、何かを探そうとしていた。その機械が悪さをして、はがねポケモンを暴走させる引き金を作っていたの。サトシの活躍で機械を止める事はできたけど、今度は地下に爆弾を仕掛けて、逃げた後に島を吹っ飛ばそうとまでした。その爆弾は、一緒にいた波導使いの男の人・ゲンさんのお陰で、何とか爆発を押さえ込む事ができて、島は無事だった。
 そんな事をした連中の仲間が目の前にいるんだから、当然怒りが込み上げてくる。野生ポケモン達を苦しめてまで、訳のわからない悪事をする奴らなんだから!
「ギンガ団のエージェントとして、やりのはしら探索を妨害した罪、償ってもらうわよ!!」
 鋭い視線があたし達に突き刺さる。一瞬、背筋に寒気が走る。
 エージェント。前にもあたしとサトシはミオシティにいた時、ギンガ団のエージェントに狙われた事があった。シンオウのあちこちには、ギンガ団のエージェントがあたし達の知らない所で密かに活動していて、ネットワークを張り巡らせているって前にあたし達を狙ったエージェント・ホイヘンスが言っていた事を思い出した。このエージェントの狙いは前と同じように、間違いなくあたし達! それでも、あたし達は怯まなかった。だって、あたし達にはポケモン達がいる! こっちを狙って襲い掛かってきたというのなら、こっちだって戦うだけ!
「アリアドス!!」
 エージェントが叫ぶと、エージェントの後ろからサッと1匹のポケモンが姿を現した。あしながポケモン・アリアドス。
「“ミサイルばり”!!」
 エージェントが指示すると、アリアドスは背中のトゲからたくさんの針をミサイルのようにこっちに撃ってきた! その狙いはポケモンにじゃなくて、明らかにあたし達自身に向いている。あいつは本気みたい! あたし達は慌ててよける。“ミサイルばり”が、次々とさっきまでいた場所の地面に突き刺さって、爆発した。
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 反射的にあたしとサトシは指示を出していた。
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ピカチュウが電撃を、ポッチャマが泡を発射して応戦する。アリアドスは驚いてそれを素早くかわす。
「ウソッキー、“すてみタックル”だ!!」
 タケシも続けてモンスターボールを強く投げる。
「ウソッキィィィィィッ!!」
 中から出てきたのはウソッキー。アリアドスがピカチュウとポッチャマの攻撃に怯んだ隙を突いて、体を挺して突撃していく!
「ちっ、“ふいうち”!!」
 でも、ウソッキーがまさに目の前にまで来た時、アリアドスが急にウソッキーに向けて体を翻した。隙を突いたように見えたウソッキーにとっては、完全に不意を突かれた動きだった。アリアドスがタックルを返して、ウソッキーが跳ね飛ばされた。でも、アリアドスも“すてみタックル”を完全に返せた訳じゃないみたいで、反動で跳ね飛ばされて体制を崩す。今のは相打ちって感じかな。
「3対1か……それにしても情報通り、なかなかの実力の持ち主ね」
 エージェントが唇を噛む。一見弱音を吐いているようにも見えるけれど、その表情にはまだ自信をなくしているようには見えない。何か、切り札でも用意しているかのような……
「だけど、私はあんた達と正々堂々と戦って勝つつもりはないわ……そうしたら、効率が悪いもの。大きな騒動になる前に、片をつけなきゃならないからね」
 エージェントはにやりと笑ってみせる。すると、懐から何やらリモコンみたいなものを取り出した。
「それにしても、あなた達の目の前に何か置いてある事に気付かないの?」
 え? 目の前? そういえば、さっきからピッ、ピッ、って何か音がしているような……そう思って言われた通りに見てみると、そこには黒い鉄の塊みたいなものが地面にピタリとくっついている。平べったい機械のようなもの。赤いランプが点滅する度にピッ、ピッ、っと音が鳴る、見るからに怪しいもの。あれは何!?
「フフフ、その中には高性能爆薬が入っているわ。私がスイッチを押せば、あんた達なんて簡単に吹っ飛ばせるんだから」
「何!?」
 爆薬!? その言葉を聞いて、また背筋に寒気が走った。
「ドータクン、“とおせんぼう”!!」
 エージェントはモンスターボールを投げた。出てきたのは、神社の鐘に顔が付いたような姿をした青いポケモン。どうたくポケモン・ドータクンだった。そのドータクンが念じ始めると、あたし達の周りが、急に青白く光る壁に覆われた!
「あっ!?」
 驚いてあたし達は壁を触ってみる。透明だけど普通に触れる、バリアーのような壁。それは、あたし達の回りはもちろん、真上も天井のように覆っていた。閉じ込められちゃった!? しかも、その真ん中には高性能爆薬。
「しまった!! これだと、ドータクンを倒すまで逃げられないぞ!!」
「御名答! これでもう、あなた達は中で爆薬が爆発するのを黙って見ているだけしかできない……」
 “とおせんぼう”の壁の外で、ニヤリと笑って見せたエージェントの言葉を聞いて、あたしはゾッとした。こうやってあたし達を逃げられなくしてから、爆薬を爆発させるつもりだったの!? こんな近くで爆発なんてしたら、ただじゃ済まない……!
「だが、ここで爆発させるならお前だって……!!」
 タケシが叫んだ時、ドータクンが青いバリアーでドータクン自身を覆って、エージェントの前に出る。まるでエージェントの壁になるように。
「残念だけど、ドータクンの“まもる”があるから、こっちは平気なのよね」
「くっ……!!」
「そんな……!!」
 唇を噛むタケシ。そしてあたしの心が、絶望感に覆われていく。目の前で爆薬が爆発する恐ろしさ。それから、あたし達は逃げる事はできない。このまま、あたし達は……!
「じゃ、ここでお別れね」
 エージェントはそんなあたし達の様子を楽しんでいるかのように微笑むと、何のためらいもなくリモコンのスイッチを力強く押した。

 目の前が閃光に包まれる。そしてその瞬間、強い衝撃があたしの体を走る。そして、あたしの体が一瞬、宙を舞った。そのまま、あたしの意識も一緒に吹っ飛んでいった。
 最後に感じたのは、水の中にドボンと強く落ちたような感触だけだった……

 * * *

「!!!!」
 そんな悪夢のような出来事が、頭の中にはっきりと蘇った。
「サトシは……!? タケシは……!?」
 真っ先にその言葉が、あたしの口からルビーさんに向けて出た。
「サトシ……タケシ……? お友達なの?」
 ルビーさんが頭に「?」を浮かべた様子で、逆にあたしに聞く。あたしはうなずく。
「一緒に旅をしていたんです! ここにいないんですか!」
「いいえ、流されていたのは、ヒカリちゃんだけでしたもの……」
「そんな……!!」
 じゃあ、ひょっとして助かったのはあたしだけ……? 嫌でもそんな考えが浮かぶ。でも、サトシとタケシの事だもの、そんな簡単にそうなる訳……ポッチャマの表情も、自然と暗くなる。
「……何か、普通じゃない事が遭ったみたいね」
 ルビーさんの目付きが変わった。あたしの反応を見て、何があったのか大まかに予想できたんだ。
「それが……」

 あたしは、あの時に起きた事を一通りルビーさんに説明した。
「ギンガ団……最近世間を騒がせている謎の組織ね。そんな物騒な組織と、ヒカリちゃんは関わってしまったのね」
 ルビーさんが落ち着いた表情を崩さないまま、つぶやいた。
「……でも、どうしてそんな得体の知れない人間なんかに手を出したの? 怪しい人と関わりにはなるなって、学校で教わらなかったの?」
 ルビーさんの表情が急に鋭くなって、あたしに向いた。静かにだけど、明らかに怒っている。悪い奴と戦った事で怒られるなんて、あたしは初めてだった。
「だって……許せなかったんです。あいつらのやってる事が」
「だからといって、簡単に手を出せばいいってものじゃないのよ。あなたみたいな子供1人の力で何とかなるほど、世の中は甘いものじゃないわ。それが逆に、事態を混乱させかねないし、現にそうやってあなたは危険な目に遭ってしまった。それを解決するのは、大人の仕事よ」
「でも、あのままあいつらのやっている事を黙って見ているなんてできません! あたし達だってポケモントレーナーなんです、ちゃんと戦える力があるのに……!」
 あたしはグッと自分の両手を握り締めて、自分の思いを伝えた。サトシだって、必ずそう言うはず。そう思いながら。
 すると、ルビーさんのお説教が、急に途切れた。その表情は緩んでいる。そのまましばしの沈黙。
「……若いのね。そんな悪事がストレートに許せないから戦うなんて……若さ故の勇気が成し遂げられる事ね」
 ルビーさんの表情には、なぜか笑みさえ浮かんでいる。でも。それはすぐにさっきまでの鋭い表情に戻った。
「……ポケモンを手にすれば、誰でも簡単に『力』を手にする事ができるわ。それを真っ直ぐな正義のために使えるって事はいい事よ。だけど、あなたのような子供がただ、がむしゃらに立ち向かうのは危険すぎるわ。そうしていると、いずれあなた自身の力じゃ対処できなくなる、大きな危険に晒される事だってありえるわ。あなたにも、あなたの友達や家族にも。そんな事になっても、後悔しない? そんな事をした自分に、責任が持てる?」
 そんな事を聞かれたあたしは、一瞬言葉に詰まった。ルビーさんの言う通り、あたしはそんな難しい事を考えて、悪者と戦った事なんてなかった。ただ悪い事をする奴らが許せないって事しか考えていなかった。実際、今の状態はルビーさんの言った通りになっている。だから悪者と戦うなって、ルビーさんは言いたいのかな? でも、それは納得がいかない。悪い奴らをやっつける力が、あたしにはあるのに……!
 その時だった。
 急に窓ガラスが、ガシャンと音を立てて割れた。そして中から、1匹の銀色のポケモンが飛び込んできた。じしゃくポケモン・コイルが3匹三角の形に繋がったポケモン。コイルの進化系、レアコイル!
「レアコイル!?」
 あたし達が叫んだのと同時に、レアコイルがこっちを向いたと思うと、いきなり電撃をこっちに撃ってきた! 反射的に体が動いた。体のすぐ横を電撃がかすめる。でもベッドの上で体を動かしたもんだから、ベッドから思い切り落ちちゃった。そんなあたしの体をすぐに起こすルビーさん。何なの、あのレアコイル!?
「逃げましょう!!」
 ルビーさんはすぐにあたしの手を引っ張って部屋の外に素早く出て行った。こんな狭い場所でバトルなんてしたくないのはあたしも同じ。素直にルビーさんの言う通りにする。でも、レアコイルも追いかけてくる。閉めたドアを強引に打ち破ってまで、あたし達を追いかけてくる。何なのこいつ? すぐに小屋を出る。すると、目の前に人影が見えて、あたし達はすぐに足を止めた。
「へへ、待っていたぜ。海に落ちたっていうスウィフト隊長の報告を聞いて見てみたら、こんな所にいたなんてな」
 そこに立っていたのは、一度見たら忘れられない、黒を基調にした特徴的な模様のスーツを着た男の人が、あたし達がここに来るのを待っていたかのように立っていた。
「ギンガ団……!!」
 あたしの口から自然とその言葉が出る。噂をすれば影って聞いた事があるけど、まさにその通りな状態になっちゃうなんて……! 目の前の奴は前のエージェントの手下っぽい。
「海に落ちて命拾いしたのは幸運だった。しかし、それが長く続くとは思うなよ!! やっちまいな、レアコイル!!」
 ギンガ団員が指示すると、後ろからレアコイルが勢いよく飛び出してきた! 体に電気を纏って突撃してくる。“スパーク”だ!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 あたしは反射的に指示を出していた。ポッチャマが向かってくるレアコイルに“バブルこうせん”で応戦する。それに驚いたレアコイルは、突撃を止めて“バブルこうせん”をかわす。そして、あたし達の横を通り過ぎてギンガ団員の前に来る。
「あんた、サトシとタケシはどうしたの!!」
 あたしは真っ先にそう聞かずにはいられなかった。あたしの今一番知りたい事だったから。
「……ああ、あの2人か。今別の奴が確認に行っているが、あの爆弾をまともに食らったんだ。くたばって当たり前だろう」
「そんなはずないわ!! あの2人の事だもの、そんな簡単にやられる訳……!!」
「そんなごたくは、あの世に行ってからするんだな!! レアコイル、“きんぞくおん”!!」
 あたしの言葉を軽く流したギンガ団員が指示を出すと、レアコイルは電車がブレーキをかけた時のような、甲高い音を鳴り響かせた。耳が引き裂かれそうな激しい音には、あたし達も耳を塞がずにはいられない。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 音が鳴り止んだ隙を突いて、あたしは指示を出す。ポッチャマがレアコイルに“バブルこうせん”で反撃! でもレアコイルは、サッとかわしてみせた。
「“トライアタック”だ!!」
 レアコイルが反撃する。3つのエネルギーがレアコイルの目の前で1つに集まって、三角を作り出す。そしてそれを、ポッチャマに向けて発射した!
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! たちまちポッチャマは跳ね飛ばされる。凄い威力……というより、“きんぞくおん”の影響で、こういう特殊攻撃に弱くなってるんだ!
「ヒカリちゃん、ここは逃げましょう。そして警察を呼んで……」
「ポッチャマ、“つつく”!!」
 ルビーさんの言葉もあたしには全然気に留めなかった。今は戦う。それしかあたしは考えていなかった。
「さっきの話、聞いてなかったの!? あなたのような子供がただ、がむしゃらに立ち向かうのは危険すぎるって……」
「覚悟はあります!!」
 あたしは、さっきは答えられなかったその言葉に対する答えを、自然と口に出していた。それには、ルビーさんも驚いていた。そのまま、ルビーさんは言葉を続けない。
「ポチャマアアアアアッ!!」
 ポッチャマがクチバシに力を込めてレアコイルに向かっていく!
「“スパーク”だ!!」
 レアコイルが“スパーク”で応戦! 向かってくるポッチャマを迎え撃つ……と思ったら、クチバシを突きたてようとするポッチャマをひらりとかわして、こっちに向かってきた! まさか、狙いはあたし……!? そう気付いた時には、もう手遅れだった。
「きゃあああああああっ!!」
 強い電撃が、あたしの体を走った。そして、思い切り弾き飛ばされた。体に強い衝撃が走る。衝撃の痛さと体中のしびれが合わさって、立とうとしてもなかなか立ち上がれない。
「う、く……」
「ヒカリちゃん!!」
「ダイジョウブ、です……パチリスで、少しは慣れてますから……」
 すぐに駆け寄るルビーさん。でもあたしは、自力で立ち上がってみせる。そして真っ直ぐ、ギンガ団員をにらむ。
「ギンガ団……あたしは、あんた達が許せない……!! こんな所で……負けてたまるもんですか……っ!!」
 そして、力の限りギンガ団員に向かって叫ぶ。それに答えて、ポッチャマも力強くレアコイルの前で身構える。そんなあたしを見ていたルビーさんは、沈黙したままだった。
「へっ、心意気だけは上等だな。だが、そう言ってられるのも今の内だ!! レアコイル!!」
 レアコイルが勢いよく飛び出した。来る……! あたしはレアコイルの動きを見て、それからポッチャマに指示を出そうとしていた。今更逃げるなんてしない。あたしは戦う。だって、ポケモントレーナーだから……!

 その時だった。
「カイロス!!」
 突然後ろから、ルビーさんの力のこもった声が聞こえてきた。すると、あたしの目の前を大きな影が通り過ぎた。ドンと、強くぶつかる音。その瞬間、レアコイルはあっけなく弾き飛ばされていた。
「何!?」
 ギンガ団員の驚く声。そして、影がドシンと思い足音を立てて着地した。茶色い体に、頭には短いトゲがたくさん生えた、ハサミのような長い2本のツノ。細い手に太い足。そして、強烈な印象を出しているいかつい顔をしたむしポケモン。
「カイロスだと……!?」
 ギンガ団員がつぶやいた。これがカイロス……? あたしはすぐにポケモン図鑑を取り出した。
「カイロス、くわがたポケモン。2本のツノで獲物を挟んでちぎれるまで離さない。ちぎれない時はかなたまで投げ飛ばす」
 図鑑の音声が流れた。このカイロス、まさかルビーさんの……? ちょっとルビーさんの見た目からは想像できないけど……
「ごめんね、ヒカリちゃん。子供だからって、ちょっと考え方を甘く見ていたかもしれないわ」
 ルビーさんが、あたしの横に出て言う。その表情は、笑みが浮かんでいる。さっきまで逃げてと言っていたのがウソみたいに。
「その勇気を見せつけられたら、大人の私も黙っていられないわ……!」
 ルビーさんはそう言って、ギンガ団員に顔を向き直して、強くにらんだ。
「ちっ、そんな奴ごときに!! レアコイル!!」
 唇を噛んだギンガ団員の指示で、レアコイルが勢いよくカイロスに向かって飛び出した。それでも、ルビーさんとカイロスは冷静にレアコイルを見つめていた。
「カイロス、“ハサミギロチン”!!」
 ルビーさんが指示したのは、いきなり一撃必殺わざ。カイロスはツノに力を込めて、レアコイルに向かっていく! そして、レアコイルをがっしりと挟み込んだ。でも、ちょっと待って……!
「ハハハ、無駄無駄!! レアコイルのとくせいは『がんじょう』だって事を忘れているのかい?」
 ギンガ団員が勝ちを確信したように笑ってみせる。そう、レアコイルの持つ『がんじょう』ってとくせいは、確か一撃必殺わざが通用しないとくせいだったはず。カイロスが“ハサミギロチン”を使った所で、焼け石に水……
「それは普通のポケモンに対して言う事ね」
 でも、ルビーさんの口元がほほ笑んだ。まるでこれも計算の内かのように。何か手があるっていうの? カイロスのツノに更に力が入る。すると、レアコイルの体にビシッとヒビが入った!
「何!?」
 ギンガ団員が驚く間に、カイロスはレアコイルを挟んだまま、ジャンプして空中で一回転。そのまま、レアコイルを思い切り地面に叩きつけた! 土ぼこりが舞い上がる。土ぼこりが晴れると、そこには勝ち誇ったように勇ましく立つカイロスと、痛々しく挟まれた跡を残して地面に落ちたレアコイルの姿があった。レアコイル、戦闘不能!?
「バカな!? “ハサミギロチン”が『がんじょう』のレアコイルに通用するはずなど……!!」
「親切心で言わせてもらうけど、カイロスのとくせいは『かたやぶり』なの。『がんじょう』を持っていたとしても、カイロスの前には紙同然よ」
 とくせい『かたやぶり』! クロガネジムのジムリーダー・ヒョウタさんのラムパルドも持っていた、あのとくせい。相手のとくせいを無視してわざを出せる、強力なとくせい。これがあったから、『がんじょう』も打ち破れたんだ!
「『一撃必殺の鬼』の名は伊達じゃないわよ」
 一撃必殺の鬼。それを聞いて、あたしはピンと来た。聞いた事がある、ずっと昔のポケモンコンテストのファイナルで、いきなり“ハサミギロチン”を使って一瞬で優勝を決めたカイロス使いのコーディネーターがいたって事を……その人ってまさか……
「ルビーさん、もしかして……」
「そうよ。自慢じゃないけど、そんな事もあったわね」
 あたしが聞いてみると、ルビーさんは少し微笑んで答えた。でも、すぐに顔を向き直した。
「その話は後にしましょう。今は目の前の敵に集中しないと」
「……はい!!」
 そうだ、こんな話をしている場合じゃない。今はあのギンガ団を倒す事に集中しないと!
 ルビーさんが味方になってくれるなら、これほど心強いものはない。力を合わせて一緒に戦えば、ダイジョウブ!


TO BE CONTINUED……

[794] SECTION02 ルビーの瞳!
フリッカー - 2009年02月19日 (木) 18時29分

 今の大人には、勇気が足りないのかもしれない。私は思った。
 今の大人のほとんどは、長いものに巻かれてばかり。自分が恐れる者には、逃げるか服従するかだけしかしない。それに、他人よりも自分の体の方が大事という大人もほとんど。だから、ほとんどの大人は周りの『空気』を気にしてばかりで、思い切った行動ができない。
 この子を見ていると、そんな大人が情けなく見えてくる。私も、知らず知らずそんな大人になっていたのかもしれない。
 自分より遥かに強大な敵であるにも関わらず、「悪い事は許せない」という感情だけで、自分が危険に晒される事も恐れずに、正面から立ち向かっていく。ポケモンという力があるにしても、こんな事ができるトレーナーは多くいるでしょうか? いや、いない。得体の知れない悪に対してこういう事ができるのは、警察か相当な実力を持つトレーナーしかいない。少なくとも、私はそう考えていた。
 この子はどちらにも当てはまらない。でも、この子は強い勇気を持っている。どんな危険も恐れずに、自分が傷付く事も恐れずに、正面から立ち向かっていける、本物の勇気を。お母さんであるアヤちゃんと、同じものを持っている。私は子供でありながらそんな勇気を持つこの子――ヒカリちゃんの姿に感動した。こんな勇気を持つ大人がたくさんいたら、世の中はどんな素敵なものになるでしょうか。
 だから私も、黙って見ている訳には行かない。ポケモンという力を持つ者として、何より大人の1人として――

「では、行きましょう!!」
 私は隣にいるヒカリちゃんに呼びかける。正面には私のポケモン、カイロスと、ヒカリちゃんのポケモン、ポッチャマが横に並んで指示を待っている。この状態だとタッグバトル。タッグバトルの時には、2人の息をしっかり合わせなければならないのは当たり前の事。
「はい、ダイジョウブです!!」
 ヒカリちゃんは強く答えた。その横顔が、あの頃のアヤちゃんの横顔と重なった。本当にあの頃のアヤちゃんに似ている。そのせいか、私は安心感を抱いた。この子の勇気に、私も負けてられない。
 私達は、正面に立つ男――ギンガ団員の男をにらむ。そして私は気を引き締めるために、コンテストでポケモンを出す時に使う言葉を叫ぶ。
「カイロス、ショウタイム!!」


SECTION02 ルビーの瞳!


「くそっ、2対1になるなんて!! 行けっ、スカンプー!! ニャルマー!!」
 あたし達の様子を見て、怒ったギンガ団員がモンスターボールを2個投げる。出てきたポケモンは、スカンクポケモン・スカンプーと、ねこかぶりポケモン・ニャルマーだった。
「私が先に出るわ。後に続いて!!」
「はい!!」
 ルビーさんの指示に、あたしははっきりと答える。そして真っ先に、ギンガ団員が指示を出す。
「スカンプー、“かえんほうしゃ”!! ニャルマー、“スピードスター”!!」
 スカンプーが口から火を吹いて、ニャルマーがやっぱり口から星型弾を発射!
「カイロス!!」
 ルビーさんが叫んだ。すぐにカイロスが飛び出す。でも待って、あんな事したらカイロスは2匹の攻撃をもろに……!
 案の定、カイロスは2匹の攻撃を同時に受けた。何よりほのおわざはカイロスに効果は抜群! でもカイロスは、受けた瞬間に少しよろけた様子を見せただけで、そのまま突撃を止めない。苦しい様子も見せないまま、“かえんほうしゃ”と“スピードスター”の中を突き進んでいくカイロス。その姿はまさに圧巻。相当鍛えられている事が、あたしにも簡単にわかる。
「“シザークロス”!!」
 ルビーさんがわざの指示を出す。その時にはもう、カイロスはスカンプーとニャルマーの目の前にまで迫っていた。カイロスのハサミのようなツノの餌食になったのは、スカンプーだった。がっちりとツノで挟まれて、身動きが取れない。でも、それだけじゃない。そんなスカンプーを助けようと飛び出したニャルマーに、カイロスは挟んでいたスカンプーを思い切り投げ付けた! ニャルマーにとって、思わぬ反撃だったに違いない。投げられたスカンプーに思い切りぶつけられて、折り重なって倒れる2匹。
「今よ!!」
「はい!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ルビーさんの一声を聞いて、あたしはポッチャマに指示を出した。2匹が折り重なっている所に、“バブルこうせん”を発射! よけられるはずなんてない。たくさんの泡は2匹に次々と命中! そっか、カイロスが飛び込んで隊形を乱した所に、ポッチャマが攻撃するって寸法だったのね!
「ポッチャマをジャンプさせてくれる?」
 急にルビーさんがそんな注文をした。いきなりジャンプさせてって言われても……
「どうしてですか?」
「巻き込まれるからよ」
 巻き込まれる? って事は何か凄いわざでも繰り出すつもりなのかな? とりあえず、あたしはルビーさんの言う通りにする事にした。
「ポッチャマ、ジャンプして!!」
 あたしが指示すると、ポッチャマはサッとジャンプする。それを確認すると、ルビーさんは指示を出した。
「カイロス、“じしん”!!」
 カイロスが、両手を頭の上で組んだと思うと、それを思い切り地面に叩きつけた! 地面が激しく揺れた。あたしもちょっと踏ん張っていないと立っていられなくなりそうなほどのものだった。途端に地面に亀裂が走って、衝撃波が走るように伸びていく! 直撃! 特にスカンプーには効果抜群! 凄い威力。揺れが治まって、ポッチャマが着地した頃には、スカンプーは目の前で崩れ落ちて動かなくなった。戦闘不能。
「まずは1匹ね」
 ルビーさんが自信に満ちた笑みを見せてつぶやいた。
「くそっ、こうなりゃヤケだ!! ニャルマー、“きりさく”攻撃だ!!」
 残ったニャルマーがツメを振りかざしてこっちに向かってくる! ギンガ団員が言う通り、まさにヤケに見える。
「ヒカリちゃん、足止めをお願い!!」
 ルビーさんがそう言ったから、あたしはすぐに指示を出す。
「はい!! ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!! ポッチャマッ!!」
 向かってくるニャルマーに向かって、ポッチャマが“うずしお”を投げ付けた! ニャルマーは驚いて動きを止めたけど、もう手遅れ。水の渦は容赦なくニャルマーを飲み込んだ。
「カイロス、“きあいだま”!!」
 すかさずルビーさんが指示を出した。カイロスの2本のツノの間にエネルギーが集まって、白く光るボールを作り出す。それをそのまま水の渦に閉じ込められて動けないニャルマー目掛けて発射! 水の渦を豪快に突き破って、命中! そして爆発! 効果は抜群! 辺りに水がはじけ飛ぶ。その真ん中には、倒れて動かなくなっているニャルマーの姿が。戦闘不能。
「な、何なんだこいつ……ただもんじゃねえぞ!?」
 ギンガ団員は出てきたばかりの時とは打って変わって、信じられないものを見たように唖然とした表情でそう言うだけで、固まったままだった。
「さあ、次のポケモンはあるのかしら? 無いのなら、私達の勝ちよ」
「く……いいだろう、ここは一旦見逃してやる!! だが、ギンガ団がこの程度であきらめると思うなよ!!」
 挑発するように言うルビーさんを前にして、いかにも負けた人が言いそうな捨て台詞を言い残して、モンスターボールにポケモンを戻したギンガ団員は、素早くその場を逃げて行った。
「……終わったわね。ありがとう、カイロス」
 ルビーさんはほっとした様子でそう言ってカイロスの頭をなでる。カイロスも笑顔を見せた。
 それにしてもルビーさんのカイロスは凄かった。普通にバトルしていただけで、特にコンテストのために使うようなテクニックは使っていないはずなのに、そのパワーが見ているだけで伝わってきた。サトシも普通にやる攻めのバトルスタイルだったけど、カイロスのパワーをしっかりと活かせているそれは、まさに豪快って言葉がふさわしい。あれをコンテストでやったとしても、違和感は全然ないと思う。やっぱりルビーさんは凄い。
「ところで、ヒカリちゃん」
 ルビーさんの視線が、急にあたしに向いた。
「え?」
 突然声をかけられたから、声がちょっぴり裏返った。
「これからどうするつもりなの? やっぱり、はぐれた友達の事が気になるんでしょ?」
 その質問を聞いて、あたしははっとした。ルビーさんの言う通り、サトシとタケシがどうしているのか気になる。探しに行きたい。あたしだって助かったんだし、あの2人の事だから、絶対にやられているはずなんて無い。
「サトシもタケシも、絶対やられてなんてないはずです。あたしは信じます! だから、探しに行きます!」
 あたしははっきりと、自分の意志をルビーさんに伝えた。すると、ルビーさんはその答えを待っていたように、笑みを浮かべた。
「……やっぱりね。なら、私も協力するわ」
 ルビーさんは意外な事を口に出した。あたしはてっきり、この後ルビーさんと別れて、1人で行くつもりでいた。だから、その答えには驚いちゃった。
「言ったでしょう? その勇気を見せつけられたら、大人の私も黙っていられないって。それに、サトシ君とタケシ君には、私も会った事があるの」
 衝撃発言。ルビーさんはサトシとタケシに会った事がある!?
「ピカチュウを連れている子と、それより年上の細目の子でしょ?」
 ルビーさんが質問する。その特徴はしっかりと当てている。あたしはもちろん「はい」と答える。ルビーさんは「やっぱりね」とうなずいた。ルビーさん、サトシ達といつ会ったんだろう……
「ヒカリちゃんの持ち物はちゃんと保管してあるわ。もちろん、モンスターボールもね」
 ルビーさんが笑みを見せる。よかった、なくしていたらどうしようかと思ってたけど、ちゃんと拾ってくれていたんだ。これなら、2人を探しに行くにも何も支障はない!
「準備したら、早速行動開始しましょう。2人も探しているかもしれないわ」
「はい!!」
 あたしはすぐに支度をするために、ルビーさんと一緒に小屋へと戻って行った。

 * * *

 支度を整えて、すぐに小屋を出たあたし達。
 あのエージェントに襲われたのは、アケビタウンから出たばかりの所だった。ルビーさんがいた小屋からは、そう遠い所じゃないらしい。でも、爆発で全然違う場所に吹き飛ばされた事だって十分あり得る。闇雲に探すより、ちゃんと2人がいる場所を絞った方がいいのは当たり前。こういう時、飛べるポケモンがいれば簡単に探す事ができる。でもあたしは、飛べるポケモンを持っていない。持っているのは今探しているサトシだけ。匂いで探そうにも、マンムーはまだあたしの言う事を聞いてくれないし、そもそももし2人が遠い場所にいるのだとしたら、匂いだけで見つかる保証はない。
「でも、どうやって探せばいいのかな……」
 ポツリとそんな言葉が口から出た。
「心配しないで。手ならあるわ」
 すると、ルビーさんがそれでもダイジョウブって言うみたいに、笑みを浮かべてみせる。そして、1個のモンスターボールを取り出した。
「ボーマンダ」
 モンスターボールを開けると、中から1匹のポケモンが姿を現した。青い体と赤い羽が特徴的な、大きなドラゴンポケモン。その表情はカイロスと同じように、鋭いものを感じさせる。ドラゴンポケモン・ボーマンダ。空を飛べるボーマンダを出したって事は……
「このボーマンダで、空から捜すって事ですか?」
 あたしはルビーさんに聞くと、ルビーさんは「そうよ」とうなずいた。ルビーさんはボーマンダの背中にサッと飛び乗る。そして、あたしの前に手を差し出す。
「さあ、行きましょう」
「はい!!」
 あたしはすぐに、ルビーさんの手を取った。ルビーさんに引っ張られて、ボーマンダの背中に上がる。ちょうどルビーさんの背中側に、あたしは馬乗りする。乗ってみると、改めてボーマンダのどれだけ大きいか実感できた。ポケモンの背中に乗って空を飛ぶなんて、あたしは初めてだった。だから少しだけドキドキする。
「しっかり捕まっていてね」
「は、はい」
 そんなあたしの気持ちに気付いたのか、ルビーさんがそうあたしに呼びかけた。あたしはすぐに返事する。
「ボーマンダ、お願いね」
 ルビーさんが指示すると、ボーマンダは力強く空に向かって吠えた。そして、力強く羽を羽ばたかせる。途端に体が上に勢いよく跳ね上がったのを感じた。下を見ると、地面が次第に離れていくのがわかった。そしてボーマンダはそのまま加速を付けて、勢いよく空へと飛び上がっていった。正面から吹き付ける風を感じて、改めて飛んでいる事を実感した。どれくらいの速さで飛んでいるのかはスピードメーターがないからわからないけど、吹き付けてくる風で思ってたより結構速い事が実感できる。慣れてくれば結構気持ちいい。ポケモンが飛んでるのって、こんな感じなんだ……でも、あたしは遊覧飛行しにボーマンダに乗っている訳じゃない。それを思い出した。
「サトシ……タケシ……」
 今これから探しに行くからね……! あたしは心の中でそうつぶやいた。

 * * *

 2人はなかなか見つからなかった。ルビーさんはいろいろな場所を見てくるようにボーマンダに指示したけど、どこに行っても返ってくる答えは同じだった。
 あちこち捜し回っている間に、とうとう日が暮れて、空が真っ暗になった。さすがにこうなっちゃったら、さすがに空から探すって言っても分が悪い。結果、2人を捜すのは一旦中止。再開は夜が明けてから。だから、あたしは森の適当な場所を見つけてテントを作って、野宿する事になった。
 ルビーさんが夕ご飯を用意してくれた。全部ルビーさんが作ったもので、結構慣れた手付きで料理を作っていた。あるものでしか作っていないと遠慮気味に言ってたけど、結構うまくできている。ルビーさん曰く、「1人旅している大人だから、これくらいはできないとね」。なるほど、確かに。
 用意された野菜スープを口に運びながら、あたしは考えた。
 あれだけ探したのに、2人は全然見つからなかった。余程遠い所まで飛ばされちゃったのかな……? それとも、本当にあの爆発で……
 そこまでで考えるのをやめた。振り払うように首を強く振る。あの2人があんな簡単にやられるはずなんてない。きっとそうよ。きっとダイジョウブ……! それでも、本当にそうなのかと不安になってくる。あたしはダイジョウブって言った時に限って、全然ダイジョバなくなる事がほとんどだから。
 もし、本当に2人がやられちゃっていたら……
 嫌でもそんな事を考えちゃう。それだけは、それだけは絶対に……!
「どうしたの? そのスープ、味が合わなかったかしら?」
 そんなルビーさんの声を聞いて、あたしははっと我に帰った。考え事していたから、食べる事を忘れちゃっていた。これじゃ、作ってくれたルビーさんに悪いよね。
「あ、いえ、そんな事はありません。おいしいです」
 あたしは少し早口になっちゃったけど、そう答えてすぐにスプーンを手に取ってスープをすすった。

 * * *

 食事が終わって、私は明日に備えて寝るようにヒカリちゃんに言った。テントは私のとヒカリちゃんのと、横に並べて2つ分けて建ててある。ヒカリちゃんはもうテントの中。ヒカリちゃんも今頃は、もう寝袋に入っている頃でしょう。
 そして私はまだテントには入らず、森の開けた場所でカイロスのツノを、研ぎ石を使って研いでいた。いつも欠かさない事でもあるし、何よりこれからいつギンガ団と戦う事になるかわからないから尚更の事。
 すると、私の後ろで誰かの足音が近づいてくる事に気付いた。振り向くと、そこには寝る時に着るジャージ姿のヒカリちゃんと、ポッチャマの姿があった。こんな時にどうしたのかしら?
「どうしたの、こんな時間に?」
「ルビーさん……何だか眠れなくて……」
 ヒカリちゃんの答える声はどこか弱い。昼間見せた勇気が、まるで風に煽られた炎のように消え失せてしまっている。食事の時もそうだった。何かに悩んでいる事は間違いない。そう、今この状況でヒカリちゃんが悩んでいる事は、1つしか考えられない。
「何やっているんですか?」
 それを確かめようとする前に、ヒカリちゃんが口を開いた。
「カイロスのツノの手入れよ」
「ツノの手入れ、ですか?」
「そう。カイロスのツノは、カイロス自身の力強さをアピールできるポイントであるのと同時に、戦うための武器でもあるの。このツノに何かあれば、カイロスの戦闘力に大きな支障がでるわ。だから私は常にカイロスの力強さがアピールできるように、そしてカイロスがいつでも全力を出せるように、こうやって手入れをしているのよ」
 研ぎ石を持つ手を動かしながら、私はヒカリちゃんの質問に丁寧に答える。
「力強さ……ルビーさんはそれを、コンテストでアピールするんですね」
「ええ、そうよ。正確に言えば、『バトルにおける、ありのままのかっこよさ・たくましさ』ね」
「『バトルにおける、ありのままのかっこよさ・たくましさ』……」
 ヒカリちゃんが私の言葉を反芻(はんすう)する。その表情はさっきより緩んできているのを横目で確かめて、私は手を動かしながら話を続ける。
「そう。みんなは魅せる事を追及していろいろ飾り立てた戦法をするけど、私はしないの。私はただ、ひたすら相手にこちらの力をぶつけていくだけ」
「え……?」
 ヒカリちゃんの声が裏返った。これだとただ力押ししているだけのように見えてしまう。ここで驚くのも無理はないわね。私は話を続ける。
「でも、相手だって簡単にはそうさせてくれない。いろいろな戦法を駆使して、こちらを阻んでくるわ。そして、力と力がぶつかり合う。そうすれば、ポケモンのかっこよさやたくましさは自然と出てくるものなのよ」
「へえ、そんなコンテストバトルの仕方もあるんですね」
 ヒカリちゃんが納得した様子を見せた。きりのいい所で話も終わったから、今度は私が聞く番。
「……で、コンテストの事で気分が和んだ所だから、聞いてもいいかしら?」
「……え?」
 ヒカリちゃんは突然話題を変えられたからか、また声を裏返す。
「……眠れないのは、2人の事が心配なんでしょう?」
 私が聞くと、ヒカリちゃんは少し言葉を詰まらせた。そして少し間を置いて、はいと答えた。その声は、どこか不安そうに弱いものだった。
「もし、本当に2人がやられちゃってたら、どうしようって……」
 答えは意外に素直なものだった。少し間を置いて、ヒカリちゃんは続ける。
「あれだけ探しても見つからないから……もしかしたら……」
 あの時は絶対にやられていないって断言していたヒカリちゃんの表情が、弱気になっている。足元のポッチャマの表情も曇る。
「絶対そうじゃないって思いますけど、本当にやられちゃってたら、あたし……」
 心なしか、ヒカリちゃんの目に涙が溜まっているように見えた。あれだけ探しても見つからないとなったら、不安になるのも当然なのかもしれない。
 この子は純粋なのね。私は思った。離れ離れになってしまった友達の事を、そこまで思いやれるなんて……ヒカリちゃんがサトシ君やタケシ君と、どこでどう知り合ったのかは私は知らない。でも旅でたくさんの時間を一緒に過ごした、大切な友達なのは間違いない。そう、私にとってのアヤちゃんのように……
「それだけ、大切な友達なのね」
 私はそっとヒカリちゃんの肩に手を置いた。ヒカリちゃんははっとして私の顔を見る。
「その友達のためなら、自分の全ての力を捧げられる友達がいるっていう事はいい事ね。私にとっても、アヤちゃんはそんな人だから、わかるわ」
「ルビーさん……?」
 私が言うと、ヒカリちゃんは興味を持ったように目を見開いた。私は思い出す。あの日の事を、ちょうど今のヒカリちゃんと同じくらいだった時の事を。
「アヤちゃんが私と一緒にいた時、偶然あの凶悪犯『切り裂きゴロー』に狙われてしまった事があったの」
「切り裂きゴローに……!?」
 ヒカリちゃんは切り裂きゴローの事を知っているような様子を見せた。切り裂きゴローは15年前に姿を見せた凶悪犯。そういえば、この前脱走して、ヒカリちゃんとアヤちゃんが彼の復讐の対象にされた事件があった。アヤちゃんの話を聞く限り、ヒカリちゃんは切り裂きゴローにも勇敢に立ち向かって勝ったらしいわね。
「そう、アヤちゃんはその時、それなりに名の知れたポケモンコーディネーターになっていたの。だから狙われた。ポケモンを持っていた私でも、戦おうとは思わなかったわ。だからアヤちゃんに言ったの、『逃げた方がいい』って。でも、アヤちゃんはそれを拒否した。それどころか、逆に切り裂きゴローに挑もうとしたの。『ポケモンを持っているんだから、戦わなくてどうするの!?』ってアヤちゃんは言ったわ。そして2人は戦った。私は無謀だと思ったわ。見ている事しかできなかったわ。こんな相手にバトルを挑んでも、勝てる保証なんてどこにもないって思っていたから。でも、アヤちゃんは絶対に諦める表情を見せなかった。そして激戦の果てに、切り裂きゴローを打ち破って、逮捕にまで貢献したの。私にはそれが信じられなかった。そして、それを成し遂げて見せたアヤちゃんが凄いと思った。だから私は決めたの。アヤちゃんのためなら、私はどんな事でも力になるって」
 私が話し終わると、ヒカリちゃんはそんなことがあったんですか、とつぶやいた。
「あなたが大切に思っている友達のために力を尽くすなら、私も精一杯力になるわ。だから、信じましょう。2人の無事を」
 私はヒカリちゃんの肩にそっと手を置いた。
「ルビーさん……」
「2人だって無事なら、ヒカリちゃんを捜しているわ。だから行きましょう、私達も2人の所へ」
 最後にそう付け足すと、ヒカリちゃんの表情から迷いが消えていくのがわかった。
「……はい!!」
 ヒカリちゃんは昼間と同じ力強い声で、そう答えた。私はほっとした。
 ふと思った。ここまで私が親近感を持てた子供がいたでしょうか? 今まで私は、たくさんの子供達とコンテストで交流してきた。それでも、ここまで親近感を持てた子供はヒカリちゃんが初めてだった。アヤちゃんの子供だから? それもあるかもしれないけど、それだけじゃない。やはりヒカリちゃんの心は清らか。そして、何事にも恐れない勇気を持っている。それが子供とは思えないくらい立派に見えたからかもしれない。
 アヤちゃんに対してと同じように、私もヒカリちゃんの思いに答えよう。
 私は、そう決心していた。

 * * *

 次の日の朝。
「あの、すみません」
 テントのサトシとタケシを捜しに行くために身支度をしていると、そんな声が聞こえてきた。誰かが来たみたい。まさか、サトシとタケシ、じゃないよね? 一瞬あたしは思ったけど、声はどう聞いても女の人のもの。そんなあたしをよそに、ルビーさんがこんな時に誰かしら? とつぶやいた声が聞こえた。ルビーさんがテントの前を通り過ぎる。あたしもテントから出て様子を見てみた。
「……どなたでしょうか?」
 目の前にいるその人は、ルビーさんにとってもあたしにとっても、初めて見る人だった。水玉模様にクモの糸が描いてある服を着ていて、髪は白い帽子で完全に隠している女の人。何だか趣味悪そう……ただ、その顔はどこかで見たような……?
「ごめんなさい、いきなり訪ねてしまって。私はミバキといいます。ここに、ヒカリさんっていますか?」
 女の人はその見た目とは裏腹に丁寧に挨拶した後、いきなりあたしの名前を呼んだ。当然あたしはギクッとした。
「え!? あたし、ですけど……」
 恐る恐る聞いてみる。
「サトシさんとタケシさんと名乗る御方から、あなたを捜しているって話を聞いたんです」
「えっ!?」
 その言葉に、あたしは耳を疑った。
「本当に、サトシとタケシからなんですか!?」
 あたしは思わずミバキさんに詰め寄って、念のため聞いてみた。
「ええ、間違いありません。ちょうどたまたま、この辺りであなたの姿を見かけたので、私はこうやって訪ねてきたんです」
 ミバキさんは戸惑いながらも、はっきりとそう答えた。間違いない。2人は助かってたんだ! 私は嬉しかった。なら、やる事は1つだった。
「2人は、今どこにいるんですか!?」
「2人はあなたを待っていますよ。案内しますから、すぐに支度をしてくれますか?」
「はい!!」
 あたしはすぐに支度をするために、まっしぐらにテントに戻っていった。
「あっ、待ってヒカリちゃん!!」
 ルビーさんのそんな声が聞こえてきたけど、あたしは気にも留めなかった。もうすぐ2人に会える! それが嬉しくて仕方がなかったから。
 ただその時、ルビーさんがミバキさんに対して、何か疑い深い目線を送っていた事には気付かなかったけど……


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[795] FINAL SECTION ギンガ団の罠! ルビーの怒り!
フリッカー - 2009年02月25日 (水) 17時33分

「ヒカリちゃん、あの人の事、何とも思わないの?」
「ダイジョウブですよ。きっと、2人を見つけた事を教えに来てくれたんですよ」
 私がテントの中で支度をするヒカリちゃんにそう言っても、ヒカリちゃんは笑みを浮かべてそう答えるだけ。そして私が止める間もなく、そのまま軽い足取りで素早くテントを出て行ってしまった。友達に会えるのが余程楽しみなのがわかる。
 でも、私はあの女性、ミバキが何だか怪しく見えた。あの笑みがどうも心からのものではなく、作ったもののようにしか見えなかった。まるで何かを企んでいるかのように。
 そもそも、ここにいきなり現れて「サトシさんとタケシさんと名乗る御方が、あなたを捜している」と告げる行為そのものが怪しい。もしそれが本当なら、なぜ2人を一緒に連れて来ないのでしょうか? 2人は待っていると言っていたけれど、わざわざ2人を待たせておいて、彼女1人が探すのを一任しているとは考えにくい。3人それぞれが分かれて探していると考えても、待っているという表現はしないはず。
 彼女はヒカリちゃんを騙して、何か企んでいるのかもしれない。最悪のシナリオが頭を過る。2人の所に連れて行くと見せかけて誘拐する、典型的な誘拐の手口。
 でもこれは、私の考え過ぎかもしれない。今までの考えは、『2人が動ける状態である』事を前提にして考えた事。ヒカリちゃんはたまたま海に落ちたから大きな怪我はなかったけれど、2人も同じとは限らない。爆発の影響で、大きな怪我をして動けなくなっている可能性もある。それなら、彼女1人がヒカリちゃんを捜している理由も説明がつく。
 それでも、私は不安だった。何か嫌な匂いがする。女の感っていうものでしょうか。
 私は途中だった荷物の支度を手短に終えるべく、動き出していた。

「えっ、ルビーさんも行くんですか?」
 ヒカリちゃんは目を丸くしていた。
「いいでしょ。私だってあの2人とは無関係じゃないんだから、無事なのか知りたいのは同じなんだから」
 私はあえて心配だからついて行く、とは言わなかった。この心配は単なる杞憂かもしれないから、何もなければそれでいい。それに、ミバキの考えを探るという意味合いでも。ふとミバキに視線を向けると、ミバキの表情は平常を保っているように見えたけれど、どこか気に食わない部分がある事が顔にしっかりと書かれていた。
「あなたも私が同行する事に、何も不満はないでしょう?」
 私は試しにそうミバキに聞いてみた。
「え? ええ、まあ、そうですね」
 ミバキは言葉に詰まっている。それを笑ってごまかす様子を見せるミバキ。ミバキは明らかに何か隠している。私がいると何かまずい事がある何かを。それがヒカリちゃんに伸ばそうとしている魔の手なのかどうかは、実際にこの目で見て確かめる必要がある。どうやらヒカリちゃんに同行する事は正解だったみたいね。
「では、行きましょうか。2人がいるという場所に」
「はい」
 私達は早速、ミバキさんの案内で2人がいるという場所に向かって歩き出した。そもそも、そこに2人がいるのかどうかが問題なんだけれども。


FINAL SECTION ギンガ団の罠! ルビーの怒り!


 ミバキさんの案内で、あたし達は森の中を進んでいく。もう結構歩いている。2人は結構あたし達から遠くにいたんだ。
「……っ、よりによってこんな時に……」
 あたしから見て前にいるミバキさんが、ふとそんな事をつぶやいていた。声が小さかったから、はっきりとは聞こえなかったけど。
「どうしたんですかミバキさん?」
「あっ、いえ、別に何でもないわよ」
 試しに聞いてみると、ミバキさんは少し驚いていた様子だったけど、すぐに笑みを見せて答えた。なんだ、それなら別にいいんだけど。
 それにしても、さっきから隣のルビーさんは黙ったまま。その赤い瞳はただ真っ直ぐ、ミバキさんを見つめていた。いや、にらんでいたって言った方がいいかもしれない。何か普段とは違う雰囲気。
「ルビーさん?」
「……いいえ、何でもないわ」
 あたしは試しに聞いてみると、ルビーさんは顔を向けてそう一言答えるだけ。そして顔を戻すと、またミバキさんに目を向ける。何でもなくない。何か雰囲気的に何かありそう。ミバキさんに何か気になる事があるのかな? でもそれをあたしが知る方法はない。
 ま、いっか。あたしはそう考えて、正面に向き直った。

 * * *

 歩いている間に、あたし達は大きく開いた洞窟の前に差し掛かった。ミバキさんはそこに真っ直ぐ足を踏み入れる。あたし達も、その後に続く。
 入口から離れて行くと、どんどん視界が暗くなっていく。ところどころでズバットが飛んでいる、少し怖い雰囲気の洞窟。まあ、これくらいの洞窟なら何度も通ってるからダイジョウブなんだけど。それにしても長い。結構奥まで入ってきてるみたい。それでもミバキさんは歩き続ける。ここを通って、本当に2人の所に着くのかな? そんな事をふと考えた。
「……さっきから何も言ってなかったけど、2人がいる場所というのは、どんな場所なのかしら?」
 ルビーさんが立ち止まって口を開いたのは、あたしの目がやっと暗さに慣れてきた時だった。そういえばさっきから、ミバキさんは2人がいる場所が具体的にどこなのかをあたし達に教えていなかった。
「えっ? まあ、来ればわかりますよ」
 突然の質問だったからか、ミバキさんは足を止めて少し驚いていた様子を見せたけど、すぐに笑みを見せてそう答えて、歩き出そうとした。でも、それを聞いてもルビーさんのミバキさんを見つめる目付きは変わらなかった。
「どうして隠すの? 別に隠さなくたって困る事はないじゃない」
 すると、ルビーさんはまた鋭い質問をする。ミバキさんの足が引っ張られるように止まった。
「か、隠すって……変な事言わないでくださいよ」
「なら教えられるでしょ。2人がいる場所がどんな場所なのかを」
「う……それは……」
 ミバキさんはルビーさんから目をそらしたまま、言葉を詰まらせている。普通なら簡単に答えられるはずなのに。ルビーさんの目付きがまた鋭くなる。
「……隠しているのでしょう。私達が知ると困る事を……」
「……」
 とうとうミバキさんは立ち尽くしたまま何も言わなくなった。あたし達が知ると困る事って……? 気まずい空気が辺りに漂う。

 その時!
 あたし達の後ろで、ドドーン、といきなり何かが爆発した音が洞窟に響き渡った。洞窟が激しく揺れだす。あたしも倒れそうになったけど、ルビーさんがとっさにあたしを地面に伏せさせてくれた。な、何、いきなり!? すると、今まであたし達の後ろの天井が音を立てて崩れだした。崩れた岩は、そのままあたし達が通ってきた道に積み重なって、塞いじゃった!
「大丈夫だった?」
「あ、はい」
 あたしに覆いかぶさっている形のルビーさんがあたしに呼びかけに、あたしは答える。
「バレちゃったわね……でも、残念ながら遅すぎたわね」
 急にミバキさんの口調が変わった。どこか聞き覚えのある喋り方。見ると、こんな状況にも関わらず、こちらに背中を向けて立っているミバキさんの姿が。
「やはり、最初から騙すつもりだったのね……!」
「その通りっ!!」
 ルビーさんがそう言うと、ミバキさんは堂々と答えて、身を翻すと来ていた服と帽子を一気に脱ぎ捨てた。その姿を見て、あたしは驚きを隠せなかった。露わになった青紫色の髪に、黒を基調にした特徴的な模様のスカート付きスーツ。その胸に付いている『G』のマーク。ミバキさんの顔って、どこかで見た事があったと思ったら……!
「あんたは、あの時の……!?」
「そうよ……ミバキというのは仮の名、その素顔はギンガ団エージェント、スウィフトよ!!」
 ミバキさん、いや、スウィフトは堂々と胸を張って目の前で名乗った。間違いない、あの時爆薬であたし達を吹っ飛ばしたギンガ団のエージェント……!
「サトシとタケシがあなたを探している、なんて簡単なウソに引っ掛かるなんて、さすがは子供ね」
 スウィフトはあたしの顔を見て、嫌味な笑みを浮かべた。よく考えたら、いきなりやってきてサトシとタケシがあたしを探しているなんて言うのは変だよね。2人の名前を聞いて無事だった事がつい嬉しくなっちゃったから、まさかそれがウソだなんて考えてもいなかった。こんなウソに簡単に騙されちゃうなんて……
「狙いはヒカリちゃんのようね。ここに閉じ込めて、ヒカリちゃんをどうするつもりなの!」
 ルビーさんが立ち上がって、スウィフトに聞く。
「決まってるじゃない。ここで誰にも見られる事なく始末するの。そして証拠をすべて消せば、始末された事なんて誰も気付かない。もう1人連れが来る事は予想外だったけど、同じ罠にかかったからには、あんたも一緒に消えてもらうよ!!」
 スウィフトはモンスターボールを取り出して、スイッチを押す。中から飛び出したのはアリアドス。すると真っ先にこっちに向かって口から白い糸を発射! あたしとルビーさんはお互い離れる形で糸をよけようとした。でも、急にあたしの右足が急に後ろに引っ張られて、つまづいちゃった。体が思いきり岩場の地面に叩きつけられる。見ると、あたしの右足に糸が絡みついている。その伸びる先には、アリアドスの姿が。捕まっちゃってる!
「ポチャチャアアアアアッ!!」
 それに気付いたポッチャマがすぐに飛び出した。糸を切ろうと“つつく”でアリアドスに飛びかかる!
「そうはさせないわ!! ポリゴンZ!!」
 でもスウィフトも黙って見てはいない。すぐに別のモンスターボールを取り出して、素早く投げる。出てきたのは、バーチャルポケモン・ポリゴンZだった。ポリゴンZは素早くポッチャマの前に立ちはだかる。
「“10まんボルト”!!」
 スウィフトの指示で、ポリゴンZは目の前のポッチャマに対して電撃を発射! 至近距離。よけられる訳ない!
「ポチャアアアアアアッ!!」
 電撃をもろに受けて、跳ね飛ばされるポッチャマ。効果は抜群! それでもポッチャマは怯まずに立ち上がって、何とかして糸を切ろうとするけど、ポリゴンZはその隙を与えない。的確に攻撃してポッチャマの行動を妨害する。
「ヒカリちゃん!!」
 ルビーさんも黙っていない。すぐにあたしの側に駆け寄ろうとする。
「ドータクン、“サイコキネシス”!!」
 そんなルビーさんの動きをスウィフトは見逃さなかった。すぐにまた別のモンスターボールを取り出す。そこから出てきたのは、ドータクン。ルビーさんはあたしの目の前まで来た所で、ドータクンの強い念力に跳ね飛ばされた。
「うっ!!」
 そのまま洞窟の壁に叩き付けられるルビーさん。そのままはりつけにされたように動かなくなるルビーさん。余程強い念力で押さえつけられてるんだ。その前に、ドータクンが立ちはだかる。
「フフフ、まずはこの子がやられるのをそこで見ていなさい」
「く……」
 ルビーさんが唇を噛む。ルビーさんは“サイコキネシス”で縛り付けられて動けない。ポッチャマもポリゴンZの相手をしていてあたしを助けるどころじゃない。こうなったら、別のポケモンを出して……そう考えてモンスターボールを取り出した時だった。
「アリアドス、“ギガドレイン”!!」
 そんな声が聞こえたと思うと、いきなりあたしの体に糸から強い電撃のような何かが走った。
「きゃあああああああっ!!」
 あたしは悲鳴を上げる事しかできなかった。体の力が凄まじいスピードでどんどん抜けていく。どんどん体に力が入らなくなって、持っていたモンスターボールが自然と手からこぼれ落ちる。このままじゃ……!
「ポチャチャ!!」
「ヒカリちゃん……っ!!」
 ポッチャマとルビーさんの声が聞こえてくる。でも、2人はあたしを助けられない。さっきスウィフトが言ったように、こんなあたしの状態を黙って見ている事しかできない。
「フフフ、終わったね。これで私は、昇進への道が開けたも同然! アッハハハハハハ!!」
 スウィフトが勝った事を確信したように、高らかに笑い声をあげた。
 ああ、体の力がどんどん入らなくなってくる……頭もだんだんふらふらしてきた……このまま、あたしは殺されちゃうの……? サトシとタケシに、二度と会えないまま……

 * * *

 このまま、あの子をやらせる訳にはいかない……!
 あの子がここで殺されてしまえば、アヤちゃんだって、あの2人だって悲しむ……!
 何より、大人の1人として、子供の危機を黙って見ているだけなんて……!

 力を振り絞らなきゃ……! あの時の、アヤちゃんのように……!!

 * * *

 その時だった。
 急にドン、と強い音が洞窟に響き渡った。すると、あたしの横を大きな影が物凄いスピードで通り過ぎた。それは、アリアドスに正面から激突。アリアドスもろとも弾き飛ばされて、洞窟の壁に激突。そのお陰で、アリアドスが伸ばしていた糸が切れて、あたしはやっと“ギガドレイン”から解放された。アリアドスと重なって洞窟の壁にぶつかったのは、ルビーさんを“サイコキネシス”で押さえつけていたはずのドータクンだった。
 まさか、と思った時、あたしの体がそっと起こされた。そしてあたしの視界に、さっきまでドータクンに抑えつけられていたはずのルビーさんの顔が映った。
「大丈夫だった?」
 ルビーさんはあたしの顔を確かめて、呼びかける。あたしはどうしてドータクンから逃げられたのかわからなかったけど、ゆっくりうなずいた。それを確かめたルビーさんはよかった、と言ってるように笑みを浮かべた後、屈めていた体を起こして、さっきとは一転して鋭い目付きでスウィフトをにらんだ。
「あ、あんた、ドータクンをどうやって……!?」
 スウィフトが少し動揺した様子でルビーさんに叫んだ。すると、ルビーさんの目の前に大きな影がズシン、と思い足音を立てて現れた。
 メタボという言葉がぴったり合う、っていうかそんなレベルじゃないほどに極端に太ったボディ。そしてそこから伸びる足は体以上に太い。そしてまるでグローブのように大きな手の平を大きく広げて、正面に突き出している。全体的にかなりどっしりした感じのポケモンだった。
「あのポケモンは、ハリテヤマ……!!」
 スウィフトが叫んだ。あれがハリテヤマ……あたしはそっとポケモン図鑑を取り出した。
「ハリテヤマ、つっぱりポケモン。両足で地面を踏み鳴らしてパワーをため、張り手一発で10トントラックを吹き飛ばす」
 図鑑の音声が流れた。張り手一発で10トントラックを吹き飛ばす!? そんな凄いポケモンがいたなんて……!
「ちっ、あんたもギンガ団に抵抗するのなら、容赦はしないわよ!! ドータクン、“ジャイロボール”!!」
 スウィフトはすぐにドータクンを呼び出して、反撃する。ドータクンは体を横回転させながら、真っ直ぐハリテヤマ目がけて突撃していく! それでも、ハリテヤマは微動だにしない。ドータクンとの距離が、どんどん詰まっていく。危ない!
「“ふきとばし”!!」
 ドータクンが目の前にまで迫ったその時、ルビーさんが指示を出した。それは、いつもの落ち着いた印象とは違う、気迫のこもった声だった。ハリテヤマは向かってくるドータクンに対して、大きな手の平を勢いよく突き出した! 途端にドータクンは、あれだけ大きいのがまるでウソみたいに、いとも簡単に弾き飛ばされた。それも強く蹴られたボールのように、凄い勢いで。そしてまた、洞窟の壁に勢いよく叩きつけられるドータクン。こっちも一瞬、背筋が凍るくらいの凄いパワー。これなら10トントラックも一撃で吹き飛ばせるよね……
「な、何なのあのパワーは!?」
 壁に叩きつけられたドータクンを見て、動揺を隠せないスウィフト。
「ヒカリちゃんは、私の大切な友達の子供なの。あなたのような悪人の手で、殺させはしないわ!!」
 ルビーさんは力強く、スウィフトに言い放った。ルビーさんは怒っている。その赤い瞳は、ルビーさんの強い意志と怒りを感じさせる。それを見たスウィフトは、ルビーさんをただ者じゃないと判断したのか、顔が少しひきつった。そしてルビーさんは、モンスターボールを2個取り出した。でも片方は、黒いモンスターボールだった。でも白や赤、金色のラインが入っていて、ボタンも金色。そしてツヤもかかっていて、結構高級な印象。
「それに、そうやって子供を平気で殺そうとするあなたが許せない!! カイロス、ボーマンダ、ショウタイム!!」
 そう叫んで、勢いよくモンスターボールを投げるルビーさん。黒いモンスターボールの中からはカイロス、普通のモンスターボールからはボーマンダが現れた。そしてボーマンダが閉じ込めていた力を解放するみたいに吠えると、スウィフトのポケモン3匹全員の表情がこわばった。
「くっ、それならやってやろうじゃないの!! ポリゴンZ!! あいつに“れいとうビーム”をお見舞いしちゃいなさい!!」
 スウィフトが怒った様子でポリゴンZに指示を出した。ポリゴンZがサッと前に飛び出す。そして、“れいとうビーム”を発射!
「ハリテヤマ!!」
 ルビーさんの気迫のこもった指示で、ハリテヤマが前に飛び出す。ハリテヤマは飛んでくる“れいとうビーム”に向けて、手の平を突き出す。そこに“れいとうビーム”が命中! でもハリテヤマの手はビクともしない。まるでそれが、大きな壁になっているかのように。
「“つっぱり”!!」
 ルビーさんの怒りをぶつけるかのように、ハリテヤマはその平手を、左右交互に豪快に繰り出した! たちまち猛烈な張り手の嵐に晒されるポリゴンZ。効果は抜群! そして怯んだ隙を見て、ハリテヤマはそのまま左手で、ポリゴンZの頭を鷲掴みにした。大きさの差がありすぎる。ポリゴンZはただ体をじたばたさせるしかない。
「“きあいパンチ”!!」
 ハリテヤマは右手をグッと握り締めて、力を込める。そしてさらに力を溜めるように右手を引いてから、豪快にポリゴンZに向けて拳を突き出した! たちまちボールのように跳ね飛ばされるポリゴンZ。効果は抜群! かくとうタイプ最強わざの直撃を受けたら、ポリゴンZはひとたまりもない。ドータクンと同じように洞窟の壁に叩きつけられたポリゴンZは、そのまま戦闘不能になっていた。
「な、何なのよあれは……」
 あっけなくやられちゃったポリゴンZを見て、スウィフトは動揺してつぶやいた。
「でも、まだ勝ちが決まった訳じゃないわ!! ドータクン!!」
 それでもスウィフトは逆に怒った様子で叫んだ。今度はドータクンが前に出る。
「ボーマンダ!!」
 ルビーさんの指示で、応戦するのはボーマンダ。勢いよく飛び出して、たちまちドータクンとの間合いを詰める。
「“リフレクター”!!」
 それを見てまずいと思ったのか、スウィフトはとっさに指示した。ドータクンの目の前に、透明な光の壁が作り出された。
「“かわらわり”!!」
 それを見て、ルビーさんは攻撃を指示した。ボーマンダはツメを勢いよく振り上げて、“リフレクター”に豪快に叩きつけた! すると、“リフレクター”は音を立てて簡単に割れて、ツメはドータクンに直撃! 怯んで後ずさりするドータクン。“かわらわり”は、“ひかりのかべ”や“リフレクター”を壊す事ができるわざ。ドータクンが“リフレクター”を張ったのを、ルビーさんはチャンスと見たんだ!
「“アクアテール”!!」
 ルビーさんは反撃する隙は与えないと言わんばかりに、指示を出す。ボーマンダの尻尾の周りを水が覆った。そしてボーマンダはそれをドータクンに叩き込んだ! 直撃! たちまち跳ね飛ばされたドータクンは、洞窟の壁にまた叩きつけられる。
「“ドラゴンダイブ”!!」
 その隙を、ルビーさんは逃さない。ボーマンダは滑るように低空飛行してドータクンに突撃する。ボーマンダの体を、強いエネルギーが覆う。それはまるで流れ星、いや、そんなレベルじゃない。隕石って言った方がいい。そのまま豪快にドータクンに体当たり! 衝撃で壁の岩が崩れ落ちて、土ぼこりが舞う。さすがに洞窟そのものが崩れるほどじゃなかったけど、その衝撃がどれだけ凄まじいものなのかが、あたしにも伝わってきた。ボーマンダがサッとルビーさんの前に戻ってくると、土ぼこりの中から完全に戦闘不能になったドータクンの姿が現れた。“ドラゴンダイブ”の効果は今ひとつだったはずなのに……
「そ、そんな……!?」
 スウィフトは動揺を隠せない。当然か、ほとんど反撃もできないで一方的にやられちゃったんだから。
「ええい、調子に乗らないでっ!! アリアドス、“どくづき”!!」
 でもそれでヤケになったのか、怒りに任せた様子でスウィフトはアリアドスに指示した。アリアドスは真っ直ぐ、こっちに向かって怪しく光る腕を振り上げて向かってくる!
「カイロス!!」
 そんなアリアドスを迎え撃つのは、カイロス。そしてアリアドスは、前に出たカイロスに飛びかかって“どくづき”を叩き込もうとした!
「“ハサミギロチン”!!」
 そこでルビーさんが指示したのは、あの“ハサミギロチン”! アリアドスが飛びかかろうとした所を、カイロスはツノでがっちりと受け止めた。お腹からツノに捕まったアリアドスは、ただじたばたするだけしかできない。そして、カイロスがツノに力を込める。アリアドスが抵抗できないままゆっくりと締め付けられていく。そして爆発!
「一撃必殺っていうのは、こういう事よ」
 その瞬間、ルビーさんはそんな事をつぶやいていた。勝ち誇るように立つカイロスの目の前には、戦闘不能になって崩れ落ちたアリアドスの姿が。
「……」
 一瞬で倒されちゃったアリアドスを見て、スウィフトはとうとうその場で固まっちゃった。そのまま言葉も出ない。凄い……やっぱりルビーさんって凄い……! あたしは感心しちゃった。
 その時、あたし達の目の前に突然、大きな穴が開いた。そしてその中から、1匹のポケモンが飛び出した。こざるポケモン・ヒコザル。その姿には、見覚えがある。
「何だ、このヒコザルは!?」
「このヒコザル、もしかして……!!」
 まさか、と思った時、ヒコザルが開けた穴の中から、誰かが姿を現した。その赤い帽子を見て、あたしはすぐにわかった。その人がまさかここで現れるなんて驚いたけど。
「サトシ!!」
「ヒカリ!!」
 あたしとその人――サトシと声が合わさった。サトシはすぐに穴から上がってきて、あたしの様子を確かめた。
「よかった、無事だったのね!!」
「ああ、タケシも一緒だ」
 サトシが、穴の方に顔を向けた。すると、また1人穴の中から誰かが顔を覗かせた。誰なのかはもう言うまでもない。
「ヒカリ!! よかった、無事だったんだな!!」
「タケシ!! よかった……2人共無事で……!!」
 タケシも元気な顔を見せている。あたしは嬉しかった。どういういきさつでここに来たのかはわからないけど、向こうからこっちに来てくれるなんて……!
「驚いたわ。まさか探していたあなた達からこっちに来てくれるなんて」
 そんなルビーさんの声を聞いて、サトシとタケシがはっとルビーさんの方を見た。
「あなたは……ルビーさん!?」
「お久しぶりね2人共。とにかく、無事でよかったわ」
 ルビーさんは2人に笑みを見せると、すぐにまたスウィフトの方に体を向き直した。
「……さて、こんな状況で、あなたはどうする?」
「……ちっ、これじゃさすがに分が悪いわね……いいわ。今回は見逃してあげる。だけど覚えておきなさい。ギンガ団に逆らう者は破滅を見るという事を!」
 ルビーさんにそう言われたスウィフトは、負け惜しみを言うようにそうあたし達に言い放つと、3匹のポケモンを素早くモンスターボールに戻して、素早く洞窟の奥へと消えていった。

 * * *

 あの時サトシ達も、ムクバードであたし達の事を探していて、たまたまあたし達が洞窟に入る所を、ムクバードが見つけたから駆けつけてくれたらしい。とにかく、あたしの信じた通り、2人は無事でいてくれた。それが何より嬉しかった。
 何はともあれ、こうして無事に合流できたあたし達は、近くにあったポケモンセンターに立ち寄ったそのついでに、ママの所に電話を入れる事にした。ルビーさんが電話をしたいと言ったのがきっかけ。だからついでに、あたしもグランドフェスティバルまでリボンがあと1つになった事を報告しようと思って。
「久しぶりね、アヤちゃん」
「まあ、ルビーじゃない! 久しぶりね」
 画面の向こうで、ママはルビーさんの顔を見て喜びに満ちた驚きの表情を見せた。
「ルビーさんは、ヒカリのママさんと知り合いだったんですか?」
「そうよ。このカイロスのゴージャスボールだって、アヤちゃんがプレゼントしてくれたものなのよ」
 サトシの質問に、ルビーさんはカイロスが入っている黒いモンスターボール、ゴージャスボールを見せて答えた。後で知った事だけど、ゴージャスボールは高級な部品で作られていて、中のポケモンが普通のモンスターボール以上に居心地がよくなれる、その名の通りゴージャスなモンスターボールだった。
「ママ、あたしもいるよ!」
「ポチャマ!」
 ルビーさんの顔の横に、あたしもポッチャマと一緒に顔を出した。
「あら、ヒカリも一緒なのね。見たわよ、この間のアケビ大会。遂に4つ目のリボンね」
「うん! もうこれであと1つリボンゲットしたら、もうグランドフェスティバルよ!」
「そうやって喜ぶのはいいけど、浮かれてばかりいちゃダメよ。次でグランドフェスティバル出場が決まるなら、それでちゃんとリボンが取れるようにちゃんと練習するのよ」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ! あたし、がんばるから!」
 そんなあたしとママのやり取りを見て、ルビーさんはほほ笑んでいた。そして、また画面に顔を向けてママに話しかけた。
「それにしてもアヤちゃん、いい子供を産んだわね」
「え?」
 ママの声が裏返った。
「あの時赤ちゃんだったヒカリちゃんが、こんな立派なポケモンコーディネーターになっていたんですもの。それにアヤちゃんに似て強い勇気があって、純粋な心をもっていて……何だか私、運命的なものを感じちゃった」
 そんな事を言われると、あたしもちょっぴり恥ずかしくなって、顔が赤くなった。
「ちょ、ちょっと! 私をおだてるつもりなの?」
「私はおだててなんかないわ。本当の事を言っただけよ」
 ママはルビーさんの言葉に少しだけ顔を赤くしていた。ルビーさんも笑顔を浮かべる。それを見ていると、ママとルビーさんがどれだけ仲がいいのかがわかる。
「そういえばルビーは、結婚はまだしないの?」
「え?」
 お返しとばかりに、ママがルビーさんに聞く。今度はルビーさんの声が裏返った。
「もういい年なんだから、いい加減相手を見つけたらどうなの?」
「もう、アヤちゃんったらしつこいのね。私の事はいいのよ。私はただ……」
 ルビーさんの言葉はそこで途切れた。それは、タケシがいきなり割り込んでルビーさんの両手を取ったから。
「それならば、自分がそのお相手になりましょう……! あなたの宝石のような美しさに、自分はもう、一撃必殺ですから……!」
 タケシはルビーさんの前で丁寧にひざまずいて向かい合った状態で、この時しか見せない爽やかな笑顔を見せてそう言った。この時だけ、辺りがタケシの空気に包まれる。あーあ、また始まっちゃった。タケシのアタック。
「相変わらず冗談がうまいのね」
「え?」
 でも、ルビーさんの答えは意外なものだった。それにはさすがのタケシも驚く。
「でもあなたのような若い子が、三十路を過ぎた女に対して言うセリフじゃないと思うんだけど……」
「いいえ、そんな事は……ぐっ!?」
 タケシの言葉がそこで途切れた。それは、タケシの背中に、いつもの鋭いツッコミが入ったから。そう、タケシの背中にいつの間にかいるのは、タケシの背中に“どくづき”をかましたグレッグル。
「シ……ビレ……ビレェ………」
 グレッグルの“どくづき”を受けたタケシは、いつものように顔を真っ青にしてその場に倒れる。そのまま動けなくなったタケシを、グレッグルは不敵に笑って引っ張りながら、その場を離れていった。
「……前より随分荒っぽくなったわね。平気なの?」
「い、いえ、いつもの事ですから……」
 これにはさすがのルビーさんも目を丸くしていた。それにサトシも苦笑いを浮かべながらフォローするしかなかった。気まずい空気が、辺りに漂う。でも、ルビーさんはその空気を自分から断ち切った。
「……とにかく、私はコンテストを渡って旅をする方が楽しいのよ。ヒカリちゃんのような子がいるなら尚更」
 ルビーさんがママにそう言った後、あたしに顔を向けた。
「そ、そんな……あたしだって、まだ……」
「それだから楽しみなのよ。これからどんなコーディネーターになるのか、楽しみで仕方がないの。少なくとも、ヒカリちゃんはいいコーディネーターになるわ、間違いなく」
 恥ずかしくなってしどろもどろになったあたしに、ルビーさんはそう答えた。そう言われると、余計恥ずかしくなっちゃうんだけど……
「相変わらずコンテストに夢中なのね」
「夢中で、何か悪いかしら?」
 ママとルビーさんはそんなやり取りをして、互いに笑みを浮かべていた。

 * * *

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY27:THE END

[796] 次回予告
フリッカー - 2009年02月25日 (水) 17時35分

 ひょんな事から、ウララにバトルを挑んだハルナ。でも……

「負けた……!? ヒカリさんを、バカにした奴なんかに……!?」
「あんた、あんな奴の弟子になったって、強くなんてなれないわよ」
「そんな……ヒカリさん……っ!」
「……あんた、あいつがいないと、すぐそうやって泣く訳? 呆れた」

「あっ、ハルナじゃない!」
「……」
「あっ、ちょっと待って! どこ行くの?」

 落ち込むハルナを励まそうとしたあたしだけど……

「1人にさせてあげなさい」
「ルビーさん!? どうして!?」
「今ヒカリちゃんが励ましに行けば、あの子はまたヒカリちゃんに甘えようとするわ。その考えからは、もう卒業しないとダメなのよ」

 でもそんな時、ハルナに異変が……

「全部あいつが悪いんだ……ヒカリさんをバカにしておいて勝った、あいつが……!」

 NEXT STORY:対抗心の果てに

「ハルナは、あいつを殺したい……!!」

 COMING SOON……



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