[788] FINAL SECTION ポフィン大作戦! マンムーの声! |
- フリッカー - 2009年02月05日 (木) 17時42分
アヤメのパルシェンの寒さを味方に付けた猛攻撃を受けて、一時撤退したあたし達。 ポケモンセンターに戻って、あたしは冷えた体をすぐに温めてもらった。温かいベッドの中で横になって、しばらくは安静にしてなきゃならない。これで少しは楽になったけど、まだ相変わらず寒気は残ったまま。あの“あられ”と“ふぶき”による寒さの攻撃がどれほど凄まじかったのかを、改めて思い出した。あたしの体を診てくれたジョーイさんは、あたしは軽い低体温症になっていて、あともう少し対処が遅れていたら命に関わる事態になっていたって話していた。 「ヒカリさん、体の方はどうですか?」 ハルナがポッチャマと一緒に、温かい飲み物を持ってきて、あたしに言う。 「うん、大分楽になったわ」 「そう、よかったです……あのままヒカリさんが凍死しちゃったら、どうしようかと思いましたよ……」 「全てはハルナのお陰さ。あそこでハルナが踏ん張ってくれなかったら、ヒカリは確実に寒さで致命的なダメージを受けていただろう」 「そんな……ハルナはただ、ヒカリさんをあそこまで痛めつけるあいつが許せなかっただけで……」 タケシの言葉に、ハルナが少しだけ照れたように笑みを見せた。他の人に褒められて笑みを見せるハルナの姿は、少し珍しい。 「でも、マンムーなんか奪って、どうするつもりなんでしょうね?」 「単なる憂さ晴らしかもしれないし、強いポケモンでコンテストに出たいって思いもあるかもしれないわ。どちらにしても、本当に『カンナギの鬼百合』の子なのかと疑っちゃうわね」 「ですね……あの気迫は、とても子供とは思えませんでしたよ……ああ、恐ろしい……」 ユミさんとタクさんが、部屋の奥でそんなやり取りをしていた。 それを聞きながらハルナから受け取ったココアを飲んで、あたしはアヤメの事を考えてみる。あの時、あたしはアヤメに対して何もできなかった。あの寒さを味方に付けた猛攻撃の前に、マンムーに会う事もできないまま、ただ寒さに苦しめられるしかなかった。アヤメのやり方は、凄く残酷に見えた。それしかできなかったのが悔しかったのと同時に、どうしてアヤメはあんな残酷な事が平気でできるのかな、と疑問に思った。たかが1回くらい負けた程度で、あんなにまで恨みたくなるものなのかな……? 『あんたはあたしによってママを倒した仇、つまり、あたしの「敵」よ!! あんたのママはあたしのママに負けたくせに、あんたのせいで、ママの子供のあたしもプライドを傷付けられたわ!!』 そういえば、アヤメが決闘をする前に、そんな事を言っていたのをあたしは思い出した。 単純に負けたからってだけじゃない、何かが他にあるのかもしれない。どっちにしても、そんな事は絶対間違ってる。そうやって人を恨んで、恨みを晴らしたとしても、何も変わらない。悪い事をしたって事で、逆に印象が悪くなるだけ。もっとがんばって強くなろうって、なんで思わないの……? コップを握る手に、自然と力が入った。
FINAL SECTION ポフィン大作戦! マンムーの声!
「行かなきゃ……!」 体が自然と動いた。ここでのんびりココアを飲んでいる場合じゃない。早くアヤメを止めて、マンムーを取り戻さないと……! すぐにあたしはベッドから降りようとした。 「あっ、ダメです!!」 「しばらく安静にしてなきゃダメだと言われただろ?」 でも。すぐにハルナとタケシに体を押さえられる。 「でも……! このままアヤメを放ってなんかおけないわ!」 「ダメだ! マンムーを助けたい気持ちはわかるが、今は自分の体の方を考えた方がいい。下手に体を壊したらマンムーを助ける事もできないぞ」 すぐにあたしは食い下がろうとするけど、タケシが言った事には一理ある。でも、自分のポケモンは自分の手で取り戻したい。それができないもどかしさに、あたしは両手をグッと握りしめるしかなかった。 「……なら、俺が代わりに行く!!」 「あっ、それならハルナも行く!! ひょっとしたら、このまま逃げるかもしれないからね!!」 そんなあたしの気持ちを読み取ったのか、サトシが真っ先にそう切り出した。それを聞いたハルナも、続けて言った。 「ポチャッ!!」 その隣で、ポッチャマも一緒に行くと言わんばかりに強気の声を上げた。 「サトシ、ハルナ、ポッチャマ……でも……」 3人の気持ちはわかるけど、こんな時に3人に迷惑をかけたくない。そうあたしが切り出そうとした時、タクさんが首を突っ込んだ。 「ちょ、ちょっと待ってくれないか? どうしてそこまでして、自分達の力で解決しようとするんだ? どうにもならないなら、警察を呼んだ方がいいじゃないのか?」 タクさんの表情は、少し弱気になっているようにも見えた。でもその時、サトシが真っ先に答えを返した。 「俺達はポケモントレーナーなんです! 自分の力で戦う事ができるんです!」 そんなサトシの答えはシンプルなものだったけど、あたし達の気持ちを全部代弁してくれていた。それにはタクさんも目を丸くしていた。 「でもヒカリは、今動けないから、助けに行きたくてもできない。だから俺は、そんなヒカリの代わりにマンムーを助けに行きたいんです!!」 サトシがそう続ける。その言葉に、今度はあたしが驚いた。サトシの真っ直ぐな気持ちがそのまま喋り方に表れていて、あたしの代わりに行きたいって強い気持ちがストレートに伝わった。それならサトシに任せてあげられる、と一瞬考えちゃったくらい。 「タケシ、ヒカリが作ったポフィンは?」 「ああ、蓋をしていたお陰で、かろうじて無事だ」 「よし、なら早速持って行こう! ハルナも一緒に来てくれ!」 「もっちろん!」 サトシとハルナが、すぐに行動を始めた。 「……タク、ポケモントレーナーっていうのは、こういう人なのよ。子供だからって、弱気だと思ったら大間違いなのよ」 「そ、そうですか……」 唖然とするタクさんに、ユミさんがそう付け足した。そして、タクさんは納得したようにうなずいた。 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 その時、いきなりそんな低い鳴き声が外から響いてきた。 「あの鳴き声は!?」 そこにいた全員が、窓の外を見た。もちろんあたしも、例外じゃなかった。 「マンムー……!?」 マンムーが、この近くに来ている!? あたしは確信した。少しすると、森の中からドドドドと何かが走ってくる重い足音が聞こえてきた。もう、あたしはいてもたってもいられなかった。すぐにベッドから降りて、素早く部屋を出て行った。 「お、おい!! 待てよヒカリ!!」 そんなサトシの声も、あたしの耳には入らなかった。
ポケモンセンターの外に出る。そしてすぐに、足音がする方向に向かう。 足音は、間違いなくこっちに近づいてきているように、どんどん大きくなっていく。近い。体力を消耗していたから、すぐに息が切れる。でも、そんな事にかまってなんかられない。そしてさっきまであたし達がいた部屋のちょうど前に来ると、森の中からこっちに走ってくる茶色い大きな影が見えた。 「マンムー!!」 間違いなくマンムーだった。あたしはそれが嬉しかった。理由はどうしてだかわからないけど、それはどうでもよかった。ただ、向こうからこっちに来てくれただけでも嬉しかった。 「マンムーッ!! こっちよーっ!!」 あたしはすぐにマンムーに手を振って呼びかける。答えてくれなくてもいい。ただあたしがいる事を知らせてあげたかった。 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 でも、マンムーは案の定止まらない。こっちに向かって突撃していくのを止めようとしない! それに気付いたのはマンムーがもう目の前まで来ていた時だった。 「ヒカリッ!!」 そんなサトシの声が聞こえたと思うと、いきなりあたしの体が横に引っ張られた。そして、マンムーの体があたしのすぐ横を通り過ぎた。そのままポケモンセンターの壁にガシャンという凄まじい音をたてて、マンムーは激突した。壁にヒビが入る。そして、マンムーの動きが止まった。 「大丈夫か、ヒカリ?」 その声を聞いて、あたしを引っ張ったのはサトシだった事に気付いた。あたしはすぐに「うん」とうなずく。見ると、他のみんなも駆け付けてきている。 「そっか、そういう事だったのね」 すると、マンムーが走ってきた先から、女の子の声が聞こえてきた。マンムーの後を追いかけるように現れたその女の子は、紛れもなくアヤメだった。 「よっぽど前の主人が気に入っていなかったのね。言う事聞かないと思ったら、ここまでしてうっぷんを晴らしたかったんだ」 「アヤメ!!」 「まあ、好都合だわ。三度目の正直、今度こそあんたを殺してやるんだから!!」 その声からは想像できないほど残忍な言い回しで、アヤメはあたしを眼鏡越しににらみつけた。そんなアヤメに、あたしは疑問に思っていた事をそのまま聞いた。 「どうしてこんな事をするの!? こんな事をしたって、何も変わらないじゃない!!」 「何も変わらない……!? あたしの周りを全部めちゃくちゃにしてくれたのは、あんたじゃないのさ!!」 「!?」 「そうよ、あんたがママに勝ってちやほやされるようになってから、みんなあたしをあんたと比べるようになったのよ!! それから、あたしはコンテストで優勝できなくなったし、この前のガーベラ大会でなんか、あんたに負けたはずのママ以下だってまで言われて、卵とか投げられて散々な目に遭ったんだから!! おまけにママだって、あんたに負けたのに全然悔しそうにしないで、あたしをあんたと比べて見習いなさいなんて言うんだから!!」 そう言い返したアヤメの言葉に、あたしは驚いた。プライドを傷付けたってあの時言ってたけど、その事だったんだ。卵を投げ付けられたなんて、かなりショックだったに違いない。それだったら、あたしを恨みたくなるかもしれない。でも……! 「だったら、なんでもっと努力しようとしなかったの!? そうすれば……」 「だからあたしはあんたに決闘で勝って、あんたより強いって事を世間に証明したかったのよ!! でもあんたは、決闘で全然言う事を聞かないポケモンを使って、余裕を見せつけて勝ってみせたじゃない!!」 「違うわ!! あれは、マンムーを……」 「あんたまであたしをバカにするんだからもう、あたしはあんたが許せなくなったわ!! あたしの全部をぶち壊しにしたあんたがね……!! だからあたしは、ここで今度こそあんたを殺して、『カンナギの鬼百合』の子供らしく振る舞うんだからね!!」 その気迫には、あたしも押し返されそうなほどのものだった。 『あの子とは1回会った事があったけど、その時からユリさんの子供っていう名前にこだわりすぎていた所があったから……』 そんなナオミさんの言葉を思い出す。アヤメは、『カンナギの鬼百合』の子供って名前に強いプライドを持ってるんだ。プライドが高いのはポッチャマも同じだけど、アヤメのは明らかに度が過ぎている。鼻を高くしてるって奴でしかない。 「わかったら、さっさと地獄に落ちちゃって!!」 その時、マンムーがぶつかったポケモンセンターの壁から下がったのが見えた。またマンムーが来るの……!? あたしの背筋に寒気が走った。 「さあ、あいつに“とっしん”よ!!」 アヤメが指示を出した。そしてそれに答えて、マンムーが動いた……と思ったら、またポケモンセンターの壁に“とっしん”する。さっきとは違って、一度ぶつかっても、何度も何度もまるで『こんらん』しているかのようにひたすら壁に“とっしん”を続ける。でも、マンムーの目は『こんらん』しているようには見えない。 「ちょ、ちょっと何やってるの!? あんたのターゲットはこっちでしょ!!」 アヤメがあたしを指差しながらマンムーに叫び続ける。でも、マンムーは反応しないで、壁に“とっしん”を続ける。壁にどんどんヒビが入っていく。このままじゃ壊れそう……! 「一体どうしたんだ、マンムー……?」 サトシがつぶやく。その理由は、あたしにもわからない。でもその時、タケシが急に声を上げた。 「……そうか!!」 「何かわかったの、タケシ?」 「ヒカリ、この間作ったポフィンを食べさせるチャンスだ!!」 「えっ!? どういう事!?」 「ポフィンなら、ハルナ持ってきてますよ!」 もう少し様子を見てから上げようと思っていたあたしは、タケシの言葉に一瞬戸惑ったけど、ハルナがすぐにあたしにこの間持っていたポフィンを入れたかごを差し出した。 理由はどうしてなのかわからないけど、ポケモンの事にも詳しいタケシの事なから、何かあるはず。 「ポチャ!」 足元にいたポッチャマも、「行こう」って言ってるみたいに、あたしの足をポンと叩いた。 あたしは、タケシの言葉を信じて、ハルナの手からかごを受け取った。 「……わかったわ。やってみる!」 マンムーがあたしの事を嫌いなら、あたしの作ったポフィンを食べてくれるのかはわからない。でもマンムーに戻ってきてくれるようにと願いながら作ったこのポフィン。この気持ちは必ず伝わると信じて、あたしはマンムーに体を向き直した。そして、闇雲に“とっしん”を続けるマンムーに、そっと近づいていく。そんなあたしの様子を見て、アヤメは目を丸くしていた。 「マンムー」 あたしが一言呼びかけると、マンムーがなぜか“とっしん”をやめて、こっちに体を向けた。またあたしを跳ね飛ばすんじゃないかと思ったけど、あたしは勇気を出して、マンムーにかごを差し出して、ふたを開けた。 「これ、マンムーが気に入ってくれたあたしのポフィンよ。食べて!」 そう言って、あたしは足元にかごを置いた。そして一歩下がる。これを見たマンムーは、どんな反応をするのかな……? 胸がドキドキと高鳴っているのがわかった。 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 すると、マンムーが急に吠えた。その声は、いつもと違う声のようにも聞こえた。そしていきなり、あたしに向かって突っ込んできた! 「きゃあああああああっ!!」 一瞬の出来事だった。あたしの体はたちまち宙を舞った。「ヒカリッ!!」ってみんなの叫ぶ声が一瞬聞こえた。そのまま、体は重力で地面に思い切り叩きつけられた。体中に強い衝撃が走る。 「う……ぐ……」 あたしが恐れていた事が、本当になっちゃった……やっぱりあたしは、マンムーに嫌われちゃってたの……? そんな絶望感があたしの心を覆い尽くしていった。 「アッハハハハハハ!! 残念だったわね!! あんたの事が嫌いなんだから、エサで釣ろうとしたって無駄……あっ!?」 アヤメの得意気な声が途中で止まった。何か驚いたものを見たように、最後のトーンを上げていた。何があったの、と思ってマンムーを見てみると、マンムーはかごの中に入ったポフィンをガツガツと食べている。しかも、その表情はとても嬉しそうだった。その姿は、ウリムーの頃と何も変わっていなかった。 「マンムー……!」 あたしの作ったポフィンを、食べてくれた……! あたしはウリムーと初めて出会った時と同じ気持ちになれた。気持ちを込めて作ったポフィンだから、嬉しさはあの時以上のものだった。 「見て!! マンムーがヒカリさんのポフィンを食べてる!!」 「やっぱりマンムーは、何だかんだ言ってヒカリのポフィンが食べたかったんだよ」 「え?」 「マンムーが“とっしん”していった先には、あの時ヒカリが作っておいたポフィンの残りが置いてある。マンムーは、その匂いにつられてここまで来たんだよ」 「そうか……! 別にマンムーはヒカリが嫌いって訳じゃないんだ!」 3人のそんなやり取りが聞こえた。そっか、マンムーはあたしの作ったポフィンが食べたくて、ここまで……! あたしは尚更嬉しくなった。 「ちょっと!! 何やってるの!! 敵が渡したポフィンなんて食べてる場合じゃないでしょ!! もう……っ!!」 アヤメは怒って、マンムーを奪ったモンスターボールに戻そうと、モンスターボールを突き出した。 「ポチャマアアアアッ!!」 その時、アヤメに向かってポッチャマが“つつく”で突っ込んでいった! ポッチャマのクチバシは、アヤメの手に命中! アヤメは思わずモンスターボールを手放した。そして地面に落ちるモンスターボールを、ポッチャマはナイスキャッチ! 「あっ!!」 アヤメが叫ぶのを尻目に、ポッチャマは素早くあたしの所にモンスターボールを運んでくれた。あたしの前に来て、マンムーのモンスターボールを差し出すポッチャマ。 「ありがとうポッチャマ」 あたしはそうお礼を言って、モンスターボールを受け取った。そうしていると、マンムーがもうポフィンを食べ終わっちゃった。あたしは改めて、あたしの気持ちを伝えるために、マンムーに体を向き直した。 「マンムー……まだあたしは、おいしいポフィンをいっぱい用意しているから。戻ってきたら、いっぱいポフィンを食べさせてあげるから。だから……戻ってきて。今だけでいいから……あたしに力を貸して!!」 あたしは自分の気持ちを、はっきりと聞こえるようにマンムーに向かって言った。すると、マンムーの目付きが急に変わった。いきなりサッとアヤメの方に体を向き直したと思うと、鼻息を荒くして、前足で地面をひっかく。明らかにやる気がある。 「マンムー……!? 力を貸してくれるのね!!」 その言葉に、マンムーは答えなかった。それでもよかった。初めてマンムーが、言う事を聞いてくれる。それが、何より嬉しい事だったから。 「マンムーがヒカリの言う事聞いてるぞ!」 「ポフィンを食べて機嫌がよくなったのかな? さっすがヒカリさん!」 サトシとハルナも声を上げた。 「これは凄いわ!! 言う事を聞かなかったマンムーが、遂に言う事を聞くなんて!! タク、カメラ回してる?」 「……あっ!! すみません、カメラ置いてきちゃました!!」 ユミさんの気持ちも高ぶっていたけど、タクさんのそんな返事を聞いて、一気に気が抜けてガクッとこけそうになっていた。 「ど、どうして……!? あんた、あいつが嫌いだったんじゃなかったの!?」 アヤメは動揺している。アヤメの言葉は、思い込みでしかなかった。あたしはそれを確信した。 「違うわ! だって、マンムーは……あたしの大切なポケモンなんだから!!」 あたしはアヤメに向かって、強くそう言った。 「く〜っ!! こうなったらやってやろうじゃないの!! パルシェン!!」 アヤメはとうとう逆ギレして、懐からモンスターボールを取り出して力任せに投げた。中からあのパルシェンが出てくる。あの殻の防御力は伊達じゃない。急所に攻撃が当たらない『シェルアーマー』ってとくせいもあるし、マンムーのパワーでも、突破できるのかな……あたしは少し不安になった。 「ヒカリ!! パルシェンの弱点は、軟らかい中身だ!!」 タケシの声が聞こえた。そっか、殻は硬くても、その下にある中身を攻撃すればいいんだ! それなら、隙を見て……! 「調子こくんじゃないわよ!! “あられ”!!」 パルシェンが空に向かって、一筋の光を撃つ。みるみる内に空がどんよりと曇り始めて、やがてパラパラとあられが降ってきた。そして、また周りが寒くなってあたしの体を襲う。でも、マンムーはこおりタイプだから影響は何もない。アヤメはやっぱり、あたしを狙って“あられ”を指示したんだ! 「また……!!」 寒さで体を震わせて、かがみこみながら、あたしはつぶやく。マンムーの事ばっかり気にしてて、パルシェンの“あられ”対策はしていなかった。このままじゃ、あの時の二の舞に……! なるべく早くケリをつけないと……! 「マンムー、“とっしん”!!」 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 あたしの指示に答えて、マンムーはパルシェン目掛けて“あられ”の中を“とっしん”していく! 「そんなもの!! “てっぺき”!!」 でも、パルシェンはすぐに殻を閉じる。そのままマンムーはパルシェンを跳ね飛ばした! 一瞬宙を舞うパルシェン。いくら殻に閉じこもっていても、あれだけ跳ね飛ばされたら、ただじゃ済まないはず。その証拠に、地面に落ちた後、パルシェンは反動で殻を開けちゃっている。マンムーは反転して、もう一度仕掛けに行こうとする。 「くっ、いくらパワーがあるからって……っ!! “こうそくスピン”!!」 でも、パルシェンも反撃する。また殻を閉じて、マンムーに向かって“こうそくスピン”で向かっていく! 「危ないマンムーッ!!」 あたしは思わず声を上げた。体の大きいマンムーが、この攻撃をよけられるはずなんてない! そんなあたしの心配をよそに、パルシェンはマンムー目掛けて突撃していく! そして……!
それは、確かにマンムーに命中すると思っていた。でも、パルシェンの“こうそくスピン”は、空しく空を切っていた。攻撃を空振りしたパルシェンは、地面に落ちて体制を崩した。 「え……!?」 「いない……!?」 それには、あたしもアヤメも驚きを隠せなかった。そこに、確かにマンムーはいたはず。でも、攻撃したらそこにはいない。まるでマジックのようにその場から姿を消していた。マンムーって、こんなに素早く動けたっけ? 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 すると、マンムーがいきなり、パルシェンの横から現れた。いつの間にそこに? そう思ってる間もなく、“とっしん”が炸裂! とっさの事で“てっぺき”もできなかったパルシェンは、また跳ね飛ばされるしかない。 「ちっ、いつの間にそこに!! “つららばり”!!」 パルシェンが“つららばり”で応戦する。でも、撃った先にはもうマンムーの姿はなかった。また消えた!? すると、いつの間にかマンムーはパルシェンの後ろに回り込んでいた! 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 パルシェンがそれに気付いて振り向いた時、マンムーの鋭い氷の牙がパルシェンの顔に突き立てられた! 直撃! たちまち跳ね飛ばされるパルシェン。木にぶつかって倒れたパルシェンは、そのまま動かない。完全に戦闘不能。 「そんな……こんな簡単に、パルシェンが……!?」 動揺するアヤメを尻目に、“あられ”が止んで、空が晴れていく。やっと寒さから解放されて、あたしはほっとした。あの時より時間は短かったし、“ふぶき”も使われなかったから、何とかしのぐ事ができた。それでも、まだ寒気は止まらないけど。 「マンムーのとくせい『ゆきがくれ』が発動したんだ!」 「『ゆきがくれ』?」 「“あられ”が降っている間、攻撃をよけやすくなるとくせいだ」 タケシとサトシがそんなやり取りをしていた。そっか、とくせいのおかげで、マンムーはあれだけ攻撃をよけられたんだ。 「……調子こかないでよっ!! あたしは『2代目鬼百合』、あんたなんかに負けなんてしないんだからっ!!」 でも、アヤメはまた逆ギレして2個のモンスターボールを一気に力任せに投げる。中から飛び出すフシギソウとピジョン。2匹は真っ直ぐ、こっちに向かってきた!
その時だった。 急にどこからか一筋の光線が飛んできて、あたしの目の前を通り過ぎた。それを見たフシギソウとピジョンは、思わず動きを止めた。これは、“ソーラービーム”!? 「くっ、誰よ!! また邪魔する奴は……あっ!?」 アヤメがビームの飛んできた方を見た時、何か驚くものを見たのか、急に言葉を失った。誰かと思って見てみたら、そこには2人の女の人がいた。1人は前にあたしが会ったナオミさん。そしてもう1人は、紫の短くまとめた髪をした女の人……あれって? 「ママ……!?」 アヤメがつぶやいた。そう、間違いなくユリさんだった! いつの間にここに……? アヤメを見つめるその目は、どこか悲しそうで、そして怒っているようにも見えた。何も言わないまま、ゆっくりとアヤメに近づいていくユリさん。 「なんで邪魔なんかしたのママ!? あたしは、ママを負かして、あたしまでバカにするコイツが許せなくて……!」 アヤメの言葉が、そこでパチンという乾いた音と一緒に、途切れた。ユリさんが、アヤメのほっぺたを思い切りぶっていた。その衝撃からか、アヤメのメガネが地面にカチャンと軽い音をたてて落ちた。 「どうしてこんな事をするのアヤメ!! あんたは自分のプライドのためなら、犯罪もする子だったの!? 私は、そんな子供に育てた覚えはないぞよ!!」 ユリさんがアヤメに怒鳴りつける。ユリさんの目は怒っていたけど、涙が溜まっていた。その声も、少しだけ震えていた。 「ママ……!?」 「どうして……どうして自分の思い通りにならなかったからって、そんな事をするの……!? ママとして私は……恥晒しじゃないの……!! 私が、そんな事望んでる訳ないでしょ……!!」 とうとう目から涙をこぼすユリさん。次第に震えだすユリさんの言葉を聞いて、アヤメははっとした表情を見せた。その体は、少しだけ震えだしているように見える。そこに、ナオミさんがユリさんの横にやってきた。 「アヤメちゃん、どうしてユリさんがヒカリちゃんを見習えって言ったか、わかる? ママの名前にこだわってばかりいるあなたと、そんな事にはこだわらないで、自分の力で更なる高みを目指しているヒカリちゃん……どっちが立派なポケモンコーディネーターにふさわしいか、わからない?」 「う……」 ナオミさんの質問に、アヤメは何も答えなかった。というか、動揺していて答えられないんだ。 「親の名前ばかりにこだわって何もしないんじゃ、本当にいいコーディネーターにはなれないわ。どんなに辛い事があっても、自分の力で努力を重ねた人が、最後にいいコーディネーターになれるのよ」 ナオミさんがそう付け足した。 「そんな……あたし……あたし……」 それを聞いたアヤメはそのまま、体の力が抜けたみたいに、ゆっくりと膝をついた。 「ごめんなさい……ごめんなさい……ママ……」 アヤメはがっくりと体を落として、急に泣き出した。ユリさんの失望した顔を見て、やっと自分がどんな事をしたのか、目を覚ましたみたい。そんなアヤメの姿を、フシギソウとピジョンは黙って見つめていた。 「……わかったら、一緒に警察に来なさい」 ユリさんは震えながらも厳しい声でそう言って、アヤメの腕を引っ張って立たせる。それに、アヤメは何も抵抗しようとしなかった。アヤメは無言で3匹のポケモンをモンスターボールに戻す。それを確かめたユリさんは、アヤメとナオミさんと一緒に、その場を後にしていく。 「ヒカリちゃん、ごめんね」 あたしの前を通り過ぎようとした時、ユリさんは足を止めて、そう一言だけあたしに行った。そしてまた歩き出して、そのままその場を去って行った。 「アヤメ……」 そんなユリさん達の背中を見送るあたしの口からも、自然とそうこぼれた。
* * *
こうして、事件は無事に解決した。 でも、「『カンナギの鬼百合』の子が犯罪をした」ってニュースは、すぐに広まった。ユリさんは自分の娘が犯罪をした事を知ってとてもショックでした、とコメントしたといろんなニュースでやっていた。この事件は、おのずとユリさんの評判そのものにも影響する事は間違いないみたい。アヤメは自分のした事が逆に名前を傷付ける事になるって事に、なんで早く気付かなかったのかな…… そんな暗い事もあったけど、しばらく中断していた取材もまた始まった。でも、困った事がまだ1つある。それは…… 「行くわよマンムー!! “こおりのつぶて”!!」 後ろにタクさんが構えるカメラ。あたしは気合を入れて、マンムーに指示を出す。 「……」 でも、マンムーは何も反応しない。最初の時と全く同じで、指示がまるで筒抜け。何だかあの時の出来事がまるでウソみたいに、あたしの言う事を聞いてくれない。 「あれ? あれから言う事聞くようになったんじゃないのか?」 「あの時言う事聞いてくれたのは、たまたまだったって事、なのでしょうか?」 「う〜ん、その辺あたしにもよくわかんないんのよ……」 サトシとユミさんの質問に、あたしはそう答えるしかない。 「じゃあ、あの時の同じようにポフィンあげてみたらいいじゃないですか?」 ハルナがふと、そんな事を提案した。そっか、あの時言う事を聞いてくれる前、マンムーはポフィンを食べていた。ひょっとしてポフィンを食べたら言う事を聞くの? そう思いながら、あたしはかごに入ったポフィンを用意する。 「マンムー、ご褒美にポフィンあげるから、あたしの言う通りにして」 「!!」 あたしがポフィンを見せてそう言った途端、マンムーの目付きが急に変わった。 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 マンムーはいきなり指示通りに“こおりのつぶて”を発射。正面にある大きな木に命中して、たちまち木は凍りつく。言う事を聞いてくれた……? やっぱりポフィンがあるって事なら言う事を聞いてくれるって事? 「何と! マンムーがヒカリさんの指示通りに動きました! どうやらマンムーは、ご褒美にポフィンがあると知ると、言う事を聞くようです」 ユミさんが熱の入ったアナウンスをした。でもその時、 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 マンムーがいきなり、笑みを浮かべながらこっちに向かってくる。まさか、もう食べたいの!? ちょ、ちょっと待って! まだ1つしか指示してないのに! かと言って、自分で止める事はできない。あたしは思わず逃げだす。 「ままま、待ってよマンムー!! ポフィンは逃げないから、そんなに焦らないで〜っ!!」 あたしはマンムーに追いかけられながら、そう叫ぶ。でもマンムーはそれでも構わずに、あたしの背中を追いかけてくる。こうして、あたしとマンムーの追いかけっこが始まった。
* * *
マンムーがちゃんと言う事を聞いてくれるようになるのは、まだ先の話になりそう。でも、少しずつマンムーと仲良くなっていければいい。そのためにも、ポフィンは気持ちを込めて作るつもり! こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……
STORY26:THE END
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