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[781] ヒカリストーリーEvolution STORY26 マンムーの声(後編)
フリッカー - 2009年01月22日 (木) 22時02分

 テスト中で執筆停滞中ですが、皆さんお待たせしました。

・ゲストキャラクター
 ナオミ(佳奈美さんの投稿) イメージCV:島本須美
 元ポケモンコーディネーター。現在は引退し、ポケモン・人間用のエステサロン『やすらぎのすず』を開いて活動している。彼女の手に掛かれば『ポケモンやトレーナーの外見の美しさだけでなく、中身も美しくしてくれる』という評判を持ち合わせている。
 過去にアヤコとユリと戦った事があり、グランドフェスティバルにも出場経験がある。
 しとやかな性格で、外見や中身の美しさをこだわる。

[782] SECTION04 絆を信じて! ヒカリの作戦!
フリッカー - 2009年01月22日 (木) 22時04分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。
 相変わらず暴走ばかりするマンムー。そんな時、あたしはテレビ局の取材を受ける事になった。あたしの事をニュース番組で特集するんだって。あたしはマンムーと仲良くなろうとしている姿を見てもらおうとして取材を受ける事にしたけど、そんな時、『2代目鬼百合』を自称するユリさんの子、アヤメがあたしに挑戦状を叩きつけてきた! あたしはマンムーの事を見てもらうためにあえてマンムーでこの挑戦を受けて、勝つ事はできた。思い通りのバトルはできた訳じゃないけどね。
 でもその後、マンムーが盗まれちゃった! 盗んだのは決闘に負けた恨みを晴らそうとするアヤメ。アヤメはあろうことかマンムーをあたしにぶつけてきて、あたしを殺そうとした。サトシとハルナが助けに来てはくれたけど、結局マンムーは持って行かれちゃった……
 そして、アヤメがあたしに言った言葉は、あたしの心に深々と突き刺さっていた……


SECTION04 絆を信じて! ヒカリの作戦!


 マンムーがアヤメに盗まれた次の日。
 夕べアヤメとのバトルが繰り広げられた場所に、マイクを持ったユミさんと、カメラを構えるタクさんがいた。
「取材中に起こった緊急事態。何と、ヒカリさんに決闘を申し込んだアヤメさんが、ヒカリさんのマンムーを盗み取るという事件が発生したのです。アヤメさんは、決闘が終わった昨日の夜に、私達がいたポケモンセンターに忍び込み、マンムーを盗んでいきました。さらに、偶然異変に気付いたヒカリさんとポケモンバトルを行い、殺そうとまでしましたが、すぐに他の人に発見されたため、逃走したとの事です。アヤメさんは、現在も逃走中です」
 カメラに向かって、緊迫した表情でしゃべるユミさん。そんな様子を、あたしは横から見ていた。
 みんなは、逃げたアヤメの行方を必死になって探している。それでも、あたしは全然探す気が起きなかった。

『決まってるじゃない。この子はあんたの事が嫌いなのよ!!』
『あんたなんかといるより、あたしといた方がこの子はずっと幸せになれるのよ!!』

 あの時のアヤメのそんな言葉が、今もあたしの心に深々と突き刺さってうずいている。
 普通にあたしのポケモンが盗まれたなら、いつものように助けに行く。でも、この言葉のせいで、助けようとする気が全然起きない。

 ――あたしがマンムーを取り返しても、マンムーは喜ぶのかな……?

 そんな思いが、頭から離れない。理由はわからないけど、あたしの事が嫌になって、言う事を聞かなくなったのは確実。それだったら、あたしが助けに行っても、マンムーは喜んでくれる訳ない。逆に迷惑だって思われるかもしれない。それも全部、あたしの育て方が足りなかったせい……
「……っ!!」
 あたしがちゃんとウリムーを育てていれば、こんな事にはならなかった……そんな後悔と悔しさで、両手に自然と力が入る。
 アヤメを探し続けているみんなの目を盗んで、あたしはそっとポケモンセンターを後にした。少し風に当たりたかったから。そんなあたしの後を、ポッチャマが心配そうについて行った。

 * * *

 あてもなく街の中を歩きながら、あたしはマンムーが進化する前の事を思い出す。
 出会ったばかりの頃、ポフィンを見た瞬間、無邪気に飛びついてガツガツと食べ始めるウリムー。そういえば、ポッチャマ達がロケット団に連れ去られた時には、「元気出して」と言うように、リンゴをあたしに差し出した事もあった。ポケモンコンテストカンナギ大会の時も、ポンポンを振って客席で他のポケモン達と一緒にあたしを応援してくれた。そして、満月島でロケット団に捕まったクレセリアとあたし達を助けようと奮闘して、イノムーに進化した。
 それなのに……どうして……?
 あたしは本当に、ウリムーに悪い事をした覚えなんてない。それなのに、どうしてあたしの事が嫌いになっちゃったの……? できるなら本当なのか、マンムーに聞いてみたい。こんな時、ポケモンの言葉をわかる事ができたならなあ、と思った。
「やっぱり、ちゃんと育てていなかったからなんだ……」
 自然とそんな言葉が口に出た。
 自分のポケモンが言う事を聞かなくなるのは、やっぱりトレーナーの育て方が悪いから。前にブイゼルがマンムーほどじゃないけど、言う事を聞かなかった時があったけど、その時は四天王のゴヨウさんに「ポケモンの心を理解する」事を教わって、ブイゼルは言う事を聞くようになった。
 でも、マンムーの場合はパターンが違う。食べ物の事がない限り全然言う事を受け付けないから、心を理解しようにも、何を考えてるのかが全然わからない。ブイゼルのようにそう簡単にはいかなかった。そんな状態のまま、マンムーは盗まれちゃった。

『自業自得って奴ね。言う事聞かないまま、進化させちゃった事を後悔する事ね!!』

 そんなアヤメの言葉を思い出す。今あたしはまさに、アヤメの言う通りの状態になっちゃっている。
「……っ!!」
 そんな後悔と悔しさで、また両手に自然と力が入った。そしてもっと悔しいのは、目からほっぺたに流れる涙。
「ポチャ……?」
 ポッチャマが心配して顔を見上げる。
「あの時……ミクリカップの時から決めてたのに……もう絶対に泣かないって……ダメだよね、こんなんじゃ……」
 そんな事をポツリとつぶやいた、その時だった。
「ヒカリーッ!」
「ヒカリさーん!」
 2人の声が、後ろから聞こえてきた。サトシとハルナの声。あたしは慌てて流れた涙を拭いて、振り向いた。見るとやっぱり、サトシとハルナがこっちに駆け寄ってきていた。
「どこ行ってたんだよヒカリ? 俺達探したんだぜ」
「ハルナ達みんなでマンムーの事探してるんですよ! ヒカリさんも戻って、一緒にマンムーを探しましょうよ!」
 やっぱりみんなは、マンムーの事を探してたんだ。それなのに、トレーナーのあたしだけこんな所でぶらぶらしているのは不謹慎かもしれない。でも……
「……」
 あたしは顔をうつむけたまま、言葉を返せなかった。
「……どうしたんだヒカリ?」
 サトシがあたしの顔を覗きこむ。
「あの時……」
 隠してても仕方がない。あたしは重い口をゆっくりと開いた。
「あの時、アヤメが言ったのよ……『決まってるじゃない。この子はあんたの事が嫌いなのよ!!』って……『あんたなんかといるより、あたしといた方がこの子はずっと幸せになれるのよ!!』って……」
「!?」
 あたしの言葉を聞いて、サトシとハルナは目を丸くした。
「だから……あたしがマンムーを取り返しても、マンムーは喜ぶのかな、って……」
「あんな奴の言葉なんか、信じちゃダメですよ! ヒカリさんは今マンムーと仲良くなろうとしてるんですから、今は仲良くなくたって関係ないじゃないですか!」
「ポチャポチャ!」
 あたしの言葉に反論するハルナ。ポッチャマも「そうだそうだ!」と言ってるみたいに、あたしに呼びかける。
「でも、やっぱり言う事を聞かないのは、あたしの事が嫌いな事に間違いないよ……そんなあたしに、マンムーを助ける資格なんて……」
 うつむいたまま、あたしはそう答える事しかできなかった。
「あら? あなた、ヒカリちゃんだったわね?」
 その時、別の方向から聞き覚えのない声が聞こえてきた。見るとそこには、顔に覚えのない1人の女の人が立っていた。背中まである茶髪のロングヘアーに、白いファスナー付きの服とふくらはぎが隠れるぐらいのスカートと白のショートブーツを履いている、しとやかな顔付きをした大人の女の人だった。その隣には、スラリとしたクリーム色の毛と、おでこの赤い宝石のような玉が特徴のシャムネコポケモン、ペルシアンがいる。
「……そうですけど?」
「やっぱり。私はナオミ。あなたのお母さんの知り合いなのよ」
「……ママの知り合い?」
 女の人の自己紹介を聞いて、あたしは驚いた。見ず知らずの人に、いきなりママの知り合いって言われたら、そりゃ驚く。
「今はエステサロンをやっているけれど、私もあなたぐらいの頃はポケモンコーディネーターだったの。あなたのお母さんとも何回か手合わせした事もあるのよ」
 ナオミさんは笑みを浮かべて説明する。そうか、ナオミさんはユリさんみたいに昔はコーディネーターだったんだ……ってエステサロン? ちょっと待って……!
「……あっ! もしかして『ポケキャン』にも載ってた、エステサロン『やすらぎのすず』のナオミさん!?」
「そうよ」
 ナオミさんはうなずいた。あたしがいつもチェックしているポケモンの雑誌『ポケキャン』で、ポケモンと人の両方のエステをやってくれるエステサロンとして、エステサロン『やすらぎのすず』が取り上げられていたのを見た事がある。そのエステサロンを運営している人が、ナオミさんだった。とにかく、そんな人がママの知り合いだったなんて驚いた。
「何なんだ、そのエステサロン『やすらぎのすず』って?」
「知らないの!? そこにいけばポケモンや人の外見だけじゃなくて、心もきれいにしてくれるって評判のエステサロンなの!」
 首を傾げるサトシに、ハルナが説明する。
「ここで会ったのも何かの縁ね。よかったら、私の店に来ない?」
「えっ? 本当ですか!」
 ナオミさんの誘いに、あたしはマンムーの事も忘れて、胸が躍った。エステサロンに誘ってくれるなんて、あたしにとってこれほど嬉しい事はないからね!
 そんな訳で、あたし達はすぐにその誘いに乗った。

 * * *

 エステサロン『やすらぎのすず』は、とてもきれいなお店だった。『ポケキャン』で見た通りだったけど、実際に自分の目で見ると、一層きれいに見える。
 そんなお店のマッサージ室で、ポッチャマがナオミさんのマッサージを受けていた。ナオミさんはていねいな手付きで、ポッチャマの体をマッサージする。ポッチャマもリラックスしていて、気持ちよさそう。
「まあ、きれいな毛並みをしているのね。いいポフィンをあげている証拠ね」
「ありがとうございます」
 ナオミさんに毛並みの事をほめられて、自然とあたしの顔に笑みが浮かんだ。
「そういえば昨日、ヒカリちゃん昨日バトルしてたわよね。私たまたま見ていたの」
「えっ!?」
 いきなり持ち出された話題を聞いて、あたしは一瞬、ドキッとした。昨日のアヤメとのバトルを見ていたという事は、自動的にマンムーの事も見ている事になる……
「あのマンムー、育てるのに苦労しているみたいだったわね。でも気にする事はないのよ。そういう事は、いろんなトレーナーが経験してる事だから、恥ずかしい事じゃないの」
「あっ、そうですか……」
 何か注意されるんじゃないかって思ってたけど、ナオミさんが言ったのはいい意味のアドバイスだった。それであたしはほっとしたのか、何だか拍子抜けした返事しかできなかったけど。
「そうだ、夕べ何だか事件があったみたいじゃない。大丈夫だった?」
「あっ……」
 事件。その言葉を聞いて、あたしは急に言葉が詰まった。さっきまで忘れかけていた、マンムーを盗まれたという事実が、また頭に蘇ってくる。その事をあたしの口で言うのは、少し抵抗があった。
「それが……ヒカリのマンムーが盗まれたんです」
 でも、サトシが素直に口を開いちゃった。言いたくない事を言われちゃったあたしは、思わず「あっ」と声を漏らした。
「マンムーが!? ひょっとして、昨日ヒカリちゃんがバトルで使っていた、あの?」
 ナオミさんのマッサージしていた手が止まる。
「そうなんです、昨日の夜中に急に盗まれちゃって……」
「そうなのよ!! それにヒカリさんのマンムーを盗んだのは、決闘を申し込んだ『2代目鬼百合』アヤメだったのよ!!」
 そしてサトシとハルナが説明を続けた時、ナオミさんの表情が驚きの表情に変わった。
「『2代目鬼百合』アヤメ!? そんな……ユリさんの娘さんなの!?」
「ユリさんの事も、知ってるんですか?」
「ええ、アヤコさんと同じで、ユリさんとも知り合いだったし、アヤメちゃんにも会った事があるの。でもまさか……あのアヤメちゃんがポケモンを盗むなんて……」
 ナオミさんの顔から、ナオミさんが相当ショックを受けているのがわかる。
「そうなのよ!! あいつ、ユリさんの名前ばっかし言って、すっごく嫌味な奴だったの!! ヒカリさんに負けた事が悔しくて、あいつは……」
「……もういいよ、ハルナ」
 そんなやり取りを聞いて罪悪感がよみがえってきたあたしは、話し続けようとするハルナを止めた。
「全部、あたしが悪いんです。マンムーが言う事を聞かなくなったから……嫌われちゃったから……あたしとバトルするのもためらわなかったのよ……」
 あたしはうつむいて、自分の思いをそっとつぶやいた。
「バトル……? どういう事なの?」
「アヤメは、マンムーが言う事聞かないのを利用して、マンムーをヒカリと戦わせたんです!」
「そんな……!?」
 ナオミさんの質問にサトシが答えた。それを聞いたナオミさんは絶句していた。
「だからあたし……マンムーのトレーナー失格よ……こんなんじゃ、助けたってマンムーは喜ばない……」
 そんな本音が思わず口からこぼれた。そして、やっぱりそんな自分が情けなく思えてきて、目に涙が溜まってくる。

『決まってるじゃない。この子はあんたの事が嫌いなのよ!!』
『あんたなんかといるより、あたしといた方がこの子はずっと幸せになれるのよ!!』

 そんなアヤメの言葉が、また頭の中で流れた。
 やっぱりあたしがちゃんと育てていれば、こんな事にはならなかった……でも、過ぎた時間はもう戻せない……
「あたしは……」
 とうとう今までこらえていた涙が、あたしの頬をそっと流れていったのがわかった。そのまましばしの沈黙。

「……ヒカリちゃんはきれいな心を持っているのね」
 すると、ナオミさんがそんな言葉を口に出した。あたしの予想もしなかった言葉。えっ、と思ってナオミさんに顔を向けると、ナオミさんの顔には笑みが浮かんでいた。
「……きれいな、心?」
「言う事を聞かないポケモンの事も、それだけ思っているんですもの。ポケモンが自分の思い通りにならなかったら、切り捨ててしまうトレーナーもいるって言うのに」
 ナオミさんはあたしの前にゆっくりと出て、そんな事をあたしに言った。
「それが、ヒカリちゃんのいい所ね。それさえあれば、マンムーだって必ず言う事を聞いてくれるようになるはずよ」
「……え?」
「手持ちのポケモンが言う事を聞かなくなっても、それに悲しむ事ができるって事は、それだけマンムーに愛情をこめて育てている事、それだけ優しい心を持っている証拠よ」
「優しい、心……」
 ナオミさんが言った言葉を、自分で口に出してみる。
「今の人間にはそれが足りないと思うわ。きっとアヤメちゃんも、それよりも自分の満たされない欲望を満たしたい心が強すぎたから、ポケモンを盗むなんて事に手を染めちゃったのよ。あの子とは1回会った事があったけど、その時からユリさんの子供っていう名前にこだわりすぎていた所があったから……でもヒカリちゃんは、アヤコさんの子供って名前にはこだわらないで、自分の力で高みを目指していたじゃない。ミクリカップで復活優勝できたのは、その証よ」
「……」
 その言葉に、あたしははっとした。あの時あたしはミクリカップで復活優勝ができた事で、やっぱりあきらめない事は大事なんだなって学んだ。それをアヤメの言葉で惑わされて、忘れかけていたのかもしれない……ナオミさんは話を続ける。
「だからヒカリちゃん、その優しい心は、絶対に忘れちゃダメよ。たとえそれが、何十回、何百回裏切られても……そうすれば、あの子も必ずあなたの優しさに気付いて、振り向いてくれるわ」
「ナオミさん……」
 そんな事を言われたのが嬉しくて、あたしの目から流れていた涙が、逆に強くなりそうになった。
「そうですよヒカリさん! だからあいつの言葉なんて、気にしちゃダメです! だから、一緒にマンムーを取り返しましょうよ!」
「そうだよヒカリ! 『ダイジョウブ、ダイジョウブ!』さ!」
「ポチャマ!」
 サトシとハルナ、そしてポッチャマも、あたしに優しく励ましてくれた。
「それに、言葉で伝える事だけが、ポケモンへの愛情を伝える方法じゃないからね」
 最後に、ナオミさんもそう付け加えた。そんな事を言われて、1つの思い、いや、今まで心の奥にしまいこんでいたあたしの本音が、心の中で込み上げてくる。
「マンムー……」
 そう、マンムーはあたしのポケモン。今は言う事を聞かなくたって、あたしの大切なポケモン……そんなマンムーを、あたしは……! あたしの両手に、自然と力が入る。
「助けなきゃ……助けなきゃ、マンムーを……!」
 自然とあたしの口から、その言葉が出た。頬に流れていた涙を、あたしは右手で拭った。

 * * *

 その後、あたし自身もナオミさんのエステを受けてもらった。行ったからには受けたかった事だし、とにかく、まずは気持ちをすっきりさせたかったから。
 それで気持ちをリラックスさせてから、あたしはマンムーを取り戻す方法を考えた。そして、1つの結論にたどりついた。
「戻ったらまず、ポフィンを作らなきゃ!」
 エステサロンを出た時、あたしは真っ先にそう言った。
「え? なんでポフィンなんて作るんだ? そんな事してる場合じゃ……」
「だって、マンムーは食いしん坊じゃない。ポフィンを出せばきっと、戻ってくるはずよ!」
 そう、マンムーは食いしん坊。食べ物を見つけたらすぐに向かっていっちゃうほど、食べ物には目がない。それに、あたしの作ったポフィンは、マンムーのお気に入り。それなら、あたしの作ったポフィンを使えば、マンムーは必ず戻ってくるに違いない! 言葉で伝える事だけが、ポケモンへの愛情を伝える方法じゃない。そんなナオミさんの言葉から考えた事。言葉で伝えられないなら、マンムーが大好きなあたしのポフィンで、あたしの思いを……!
「なるほど〜! じゃ、ハルナも手伝いますっ!」
 あたしの言葉に真っ先に納得するハルナ。そんなハルナに、あたしは「ありがとう」と言葉を返した。
「そう、マンムーは食いしん坊なポケモンなのね。自分のポケモンがどんなポケモンなのか知ってるって事はいい事よ。でも、無理はしちゃダメよ」
「でも、あたしだってポケモントレーナーです! 自分のポケモンは、自分の力で取り返します!」
 ナオミさんの言葉に、あたしはさっきと違って自分の思いをはっきりと言った。
「……そう、なら止める事はできないわね。やっぱり若いって事はいい物ね。じゃ、気を付けて」
「はい!」
 そんなナオミさんに見送られて、あたしはエステサロンを後にしていった。

 ポケモンセンターに戻ると、タケシとユミさん、タクさんが待っていた。3人ともあたしの姿を見ると、すぐにこっちに来た。
「ヒカリ! いつの間にかいなくなったと思って、心配してたんだぞ」
「さっきまで、どこで何をしていたんですか?」
 タケシとユミさんが真っ先にあたしに言った。
「ごめん。でもあたし、もうダイジョウブだから!」
 あたしがそう言うと、みんなは目を丸くした。当然か、みんなの前じゃここを出る前は落ち込んでいたからね。
「あたし、決めたから! マンムーを助けるって!」
 あたしは自分の思いを、はっきりと3人に聞こえるように言った。
「助ける? でも、どうやってだい?」
 タクさんがあたしに聞く。
「タケシ、料理道具用意してくれない? これからポフィンを作るから」
「ポフィンなんか作って……まさか、それでマンムーを?」
 タケシはすぐに、あたしの考えてる事を当てて見せた。
「うん!」
 あたしは、はっきりとうなずいた。

 早速あたしは、みんなの手伝いを借りてポフィン作りの準備を始める。場所はポケモンセンターのキッチンを借りてもらった。そしていつも使っているお鍋とお玉を、そしていつでもポフィンを作れるように用意していたいろいろな木の実を用意して、準備OK!
「マンムーを救い出すためにヒカリさんは、マンムーの好きなポフィンを作って、マンムーを呼び戻す方法を提案しました。ヒカリさんのポフィンを作る思いも、普段以上です」
 タクさんが構えるカメラの前で、ユミさんがアナウンスする。ユミさん達はこの事も取材のためにカメラに映しているみたいだけど、そんな事は今は気にしない。とにかく、マンムーのために、おいしいポフィンを作る事だけを考えた。
 準備が整った所で、早速ポフィン作りを始める。まずは用意した木の実の皮を、包丁を使って丁寧にむいて、細かく刻む。食いしん坊のマンムーのために、作る量は結構あるから、自動的に用意する木の実の量も多い。ましてやマンムーに進化して体が大きくなったから、食べる量もウリムーの時より多いから、前よりも作るのは大変。だから隣でハルナも、あたしを手伝って一緒に皮むきをする。こうやって手伝ってくれるとあたしも助かる。ハルナがポフィンを作っている所は今まで見た事がなかったけど、ぱっと見て意外と器用な包丁さばきだった。
「結構うまいでしょ、ヒカリさん?」
 ハルナがあたかも自分を褒めてと催促してるように、目を輝かせてあたしに聞く。
「え? ええ、そうね」
「きゃはっ!! ヒカリさんに褒められたよ!! こう見えてもハルナ、料理するのは得意な方なんですよ!!」
 あたしは少ししか見てなかったから空返事しかできなかったけど、すぐにハルナはいつものようにはしゃいで、得意気に付け足しまでした。そうだったんだ、ハルナって料理も得意なんだ。あたしはポフィンや教わった簡単なものしかできないけどね。
「さ、それじゃ張り切って皮むき皮むき!!」
 褒められて気分が乗ってきたのか、ハルナの包丁を動かす手が早くなった。よし、あたしも負けてられない! あたしも張り切って、木の実の皮むきに専念した。

 ようやく木の実をむき終わって、次は生地作り。お鍋に入れた種の中に、細かく刻んだ木の実を入れていく。そしてコンロの火を入れてかき混ぜる訳だけど、ここからがポフィンをうまく作るのに肝心な所。あたためながら種をうまく混ぜ合わなきゃならない。もしも焦がしたりしたら、当然できるポフィンの質が悪くなっちゃう。それに、ポフィンの滑らかさを決めるのも、このかき混ぜ方。
 コンロに火を入れて、お玉でゆっくりと丁寧に、そして中身もちゃんと混ざるようにかき混ぜていく。火を通していくと、ポフィンの独特の匂いも漂ってきた。
「待っててね……あなたの大好きなポフィンを、いっぱい作ってあげるから……だから……必ず戻ってきて……マンムー……」
 自然とマンムーへの思いが、あたしの口からこぼれた。
 おいしくなれと念じながら作れば、おいしい食べ物ができるってよく言うけど、今あたしはそれをやりながらポフィンを作っている。
 マンムーに喜んでもらえるように、おいしいポフィンを作らなきゃ。そう思いながら、あたしは種を混ぜ続けた。

 * * *

「おい、ヒカリ。起きなよ」
 そんなサトシの声が耳に入って、あたしはまどろみから目を覚まして、ゆっくりと顔を上げた。いけない、完成した種を型に入れてオーブンで焼いた後で、うとうとしちゃってたみたい。結構量があったから、作るの大変だったから、疲れちゃったからね。
「あ……ごめん、寝ちゃってた……?」
「ほら、ポフィンができたぞ」
 サトシが顔を向けた先には、オーブンから出されて並べられたピンク色のポフィンが。
「結構いい感じでできてますよ、ヒカリさん!」
 その見た目は結構きれいで、ハルナもご満悦の様子。早速ピカチュウとポッチャマが、一口味見してみている。
「どう?」
「ピカチュ!」
「ポチャマ!」
 あたしが聞いてみると、ピカチュウもポッチャマも、文句なしの笑顔を見せた。
「味も文句なしみたいですね! さすがヒカリさん!」
 2匹の表情を見たハルナが、真っ先に声を上げた。よかった、うまくできて。
「とりあえず、第1陣はうまくいったな。さ、次のを焼かないと」
 タケシがつぶやくと、またすぐにポフィンの型を用意し始めた。そう、量が結構あるから、いっぺんに焼く事なんてできない。だから、回数を分けてやるしかない。
「あ、あたしがやる」
 あたしは反射的に、真っ先に座っていた椅子から立っていた。
「無理しなくていいですよヒカリさん! 種作りで疲れてるんですから、少し休んでいてください!」
「ありがとうハルナ。でも、これはマンムーのためのポフィンだから、あたしが最後までしっかり作らなきゃ!」
 あたしを休ませようとするハルナだけど、あたしはそれをきっぱり断った。
「そう、ですか……」
「でも、あんまり無理はするなよ」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ!」
 あたしはいつもの言葉で答えて、種を型に入れる作業を自分の手で始めた。
「……いいわね、ポケモンのために休む間も惜しんで、ポフィンを最後まで作ろうとするヒカリさんの姿……! タク、最後までしっかりカメラに撮っておいてね!」
「了解です」
 カメラをあたしに向けながら、ユミさんとタクさんはそんなやり取りをしていた。


TO BE CONTINUED……

[783] SECTION05 鉄壁! 2まいがいポケモン・パルシェン!
フリッカー - 2009年01月29日 (木) 22時07分

 ポフィンもできあがって、あとはアヤメを探し出すだけ。
 あたし達はポケモンセンターの外で、偵察に行ったサトシのムクバードの帰りを待って、空を見上げていた。こういう時には、空からものを探せるムクバードが、一番頼りになる。
「ムクー……ッ!!」
 すると空から、ムクバードの声が聞こえてきた。でも、普段と違う。何だか少し苦しそうな声だった。そしてすぐにあたし達の前に飛んできたムクバードだったけど、その姿はかなりボロボロで、飛び方もふらふら。かなり無理して飛んでいるのは一目瞭然。
「ムクバード!?」
「ボロボロじゃない!?」
 ムクバードに何か遭ったみたい! あたし達は、すぐにこっちに飛んでくるムクバードを迎えに行く。するとムクバードはあたし達を見てほっとしたのか、ゆっくりと目を閉じたと思うと、急に地面に向かって真っ逆さまに落ち始めた! 完全に力尽きちゃったんだ!
「ムクバード!!」
 サトシが真っ先に飛び出した。ムクバードが落ちる先に素早く向かうと、両手でしっかりとムクバードを受け止めた。
「大丈夫かムクバード!?」
「ム……ムク……」
 サトシが呼びかけると、ムクバードは弱々しくだけど返事をした。すると、サトシがふと何かに気付いたようで、右手の平を顔の前に持ってきて見つめる。そのサトシの右手には、小さな氷の粒が付いていた。
「氷……羽根に氷が付いてる?」
「じゃあひょっとして、こおりタイプのポケモンに……!?」
 よく見ると、ムクバードの羽はところどころ凍っている。ひこうタイプのポケモンは、こおりタイプのポケモンに対して相性が悪い。そんなポケモンに、途中で襲われたのかもしれない。でも、森が多いこんな所に、こおりタイプのポケモンなんてあまりいそうな雰囲気じゃないけど……? あたしのミミロルがそうだったように、単にこおりタイプのわざを使うだけの、こおりタイプじゃないポケモンだったのかな……?
「とにかく、すぐに手当てをしないと!!」
 何が遭ったのかはわからないけど、あれこれ考えるのは後回し。まずはムクバードの手当てが先。タケシがすぐにムクバードの様子を調べ始めた。


SECTION05 鉄壁! 2まいがいポケモン・パルシェン!


 タケシは慣れた手付きでムクバードの羽に付いた氷を一通り丁寧に取って、キズぐすりを吹きかけて傷を消毒していく。
「う〜む……羽に付いた氷や傷の状態から見て、こおりタイプのわざで攻撃されたのは間違いなさそうだ」
 タケシは傷の状態を観察して、そんな事をつぶやいた。さらにタケシは、こう付け加えた。
「しかも、これだけのダメージを与えられるとなると、単純にこおりタイプのわざが使えるポケモンじゃない。こおりタイプを持ったポケモンの可能性が高いぞ」
 ポケモン全部にタイプがあるように、ポケモンのわざにもタイプがある。どんなポケモンでも得意としているのは、やっぱり自分のタイプと同じタイプのわざ。その方が、同じわざでも威力はタイプが違う時よりも少し大きくなる。これはポケモンの常識。
「じゃあ、ムクバードはやっぱり、こおりタイプのポケモンに……?」
「……だが、この辺りは、こおりタイプのポケモンが住んでいる環境じゃない。だとしたら……」
「……はっ!! 人のポケモンって事!?」
 あたしが真っ先にひらめいた事を言うと、タケシはコクンとうなずいた。
「ム……ムク……!」
 すると、台の上でおとなしくしていたムクバードが、急に立ち上がろうとした。でも、体の傷がひどいから、思うように立つ事はできない。
「やめろムクバード。手当は済んだが、しばらくは安静にしている必要があるぞ。下手に動いちゃダメだ」
 タケシはすぐにそう言い聞かせて、ムクバードをまた寝かせようとする。でも、ムクバードはそれでもおとなしくしようとしない。ぎこちなくだけど立ち上がろうとして、こっちを見て何かを訴えているように声を上げ続けている。
「……まさかムクバード、何か見つけたのか!?」
 サトシが聞くと、ムクバードははっきりとうなずいた。
「これは、何か事件の臭いがするわね。行ってみる価値はあるんじゃない、タク?」
「そうですね! ひょっとしたら、アヤメがそこにいるかもしれない!」
 すぐ口を切りだしたのはユミさんとタクさんだった。テレビの取材をするって仕事をしている2人だから、こういう事を言うのは当然かもしれない。
「でも、肝心のムクバードがこんなんじゃ、探しに行けないじゃない」
 でも、ハルナがそんなツッコミを入れる。確かにその通り。ポケモンは言葉を喋れないから、場所を口で直接教えてもらう事はできない。だから、実際に飛んで行って案内してもらうしかないけど、こんな状態で飛べるはずなんてない。
「……そうだ! 1ついい方法があるぞ!」
 その時、サトシが何かひらめいたのか、声を上げた。

 * * *

「グライオーンッ!!」
 風の流れに乗って、サトシのグライオンが羽を広げて勢いよく空に舞い上がっていく。その背中には、ムクバードがおんぶする形で乗っている。
 サトシが持ってるもう1匹のひこうポケモン、グライオン。そんなグライオンに、ムクバードの代わりに飛んで案内してもらう事になったの。ムクバードが何か見つけた場所をグライオンに教えて、グライオンはその通りに飛んでいく。ただ、グライオンはムクバードと違って、自力でちゃんと飛ぶ事はできない。グライオンは元々、風に乗って飛ぶポケモンだから、ちゃんと飛ぶには、しっかり風の流れに乗らなきゃならない。でも今日は幸い、風のコンディションがちょうどよくて、グライオンはムクバードを乗せながらでもしっかりと飛ぶ事ができた。僅かな風の流れにうまく乗れば、この星も一周できるっていうグライオンだけど、今まさにそれを表しているかのように、誇らしげに飛ぶグライオン。
「グライオン、無理して落ちるんじゃないぞー!」
「グライッ!」
 サトシの呼びかけに、グライオンは笑みを見せてこたえる。グライオンは、こんな形で役に立てる事が、嬉しいみたい。
 そんなグライオンを追いかけながら、あたし達は森の中を駆け足で進んでいく。あたしの手には、昨日作ったポフィンを入れたかご。ムクバードが見つけたのは、アヤメなのかどうかは、まだわからない。でも、もしアヤメなら、間違いなくマンムーはそこにいる。食べ物に目がないマンムーは、進化する前から食べ物の匂いを嗅ぎつけるとすぐに向かって行っちゃうポケモンだった。だからこうしているだけで、マンムーは臭いを嗅ぎつけてこっちに来てくれるかもしれない。
「ヒカリさんのマンムー強奪事件の鍵を、私達取材班は遂に突き止める事ができました! 自らの手でマンムーを取り戻そうとするヒカリさんは、仲間達と共に、いよいよ事件の核心に迫ります!」
 後ろでは、あたし達と同じように駆け足で進むタクさんの持つカメラの前で、ユミさんが掛け足ででも緊迫した表情を見せてアナウンスしている。そんな言葉を聞くと、あたしもアヤメのいる場所に近づいているっていう実感が湧いてくる。
「待ってて、マンムー……今、行くからね!」
 自然とあたしの口から、そんな言葉がこぼれた。

 と、その時だった。
 突然どこからか、たくさんの白い針がミサイルのように飛んできた! 飛んでいく先には、グライオンが!
「グラァァァァァァイッ!!」
 直撃! たちまちグライオンの体が凍りついていく。グライオンはかなりのダメージを受けたみたいで、そのままムクバードもろとも真っ逆さまに地面に落ちて行っちゃった!
「グライオン!?」
「今のは“つららばり”!? ま、まさか!!」
「正体を現したわね!!」
 真っ先に向かったサトシに続いて、タケシとハルナも後に続く。あたしもすぐに、みんなの後を追いかけた。
「タク、私達も!!」
「はい!!」
 ユミさんとタクさんも、後に続く。
「大丈夫かグライオン!?」
 すぐにサトシはグライオンと、一緒に落ちちゃったムクバードの状態を確かめる。こおりタイプのわざの“つららばり”をもろに受けて、グライオンのダメージは相当なものだった。どう見ても、もう一度飛ぶ事はできなさそうなのは明らか。それを確かめたサトシは、すぐにモンスターボールを取り出して、グライオンとムクバードをモンスターボールに戻した。
「さっきから上でポケモンがちょろちょろして**と思ってたら、やっぱりあんた達だったんだ」
 皮肉っぽい女の子の声が、森の中から聞こえてきた。見るとそこには、紛れもなくアヤメの姿があった! その傍らには、前には見せなかった、1匹のポケモンがいた。結構な大きさのある、紫の2枚貝のポケモン。重そうな紫の貝殻には鋭いトゲが生えていて、貝殻の中からは丸い顔が見える。そんな2人に、タクさんがカメラを向ける。
「あれはパルシェン……ムクバードを攻撃したのはあいつだったのか!!」
「パルシェン……」
 そのポケモンはパルシェンって言うみたい。あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「パルシェン、2まいがいポケモン。ダイヤモンドよりも硬い殻で守るだけでなく、付いているトゲを飛ばしてくるのでかなり手強い」
 図鑑の音声が流れた。
「ま、こっちは逆に好都合だったわ。わざわざ向こうからあんたが来てくれたんだからね……」
 眼鏡越しの鋭い視線が、あたしに向けられた。その視線から、アヤメはあの時と同じ事をしようとしている事が、すぐにわかった。
「この間は取り逃がしちゃったけど、今度はそうはいかないんだから!! あたしが一番育てた自信がある、このパルシェンがいるんだから!!」
 アヤメが自信たっぷりに叫ぶと、パルシェンが前に飛び出した。その鋭い目付きから、パルシェンは明らかに戦う気がある事を感じさせる。
「今日こそあたしは、あんたを殺す!! “つららばり”!!」
 アヤメが思い切り叫ぶと、パルシェンはこっちに向けて“つららばり”を撃ってきた! 明らかにあたしを狙っている!
「きゃああっ!!」
 あたし達は慌てて降り注ぐつららの雨から逃げる。降ってきたつららが、さっきまでいた場所の地面に次々と突き刺さった。あれに当たっていたら、と考えるとゾッとしちゃう。
「ユ、ユミさん……これは、まずいんじゃないですか……!?」
「何言ってるの!! 私達テレビリポーターは、真実を伝えなきゃならない義務があるのよ!! だからこんな事で弱気になっちゃダメよ!! カメラを回して!!」
「は、はい!!」
 パルシェンの攻撃を見て、すっかり弱腰になっちゃったタクさんだけど、ユミさんに一喝されて、すぐにまたカメラを向ける。
「ヒカリさんに何するのよ!! それならハルナが相手になってやるわ!! ルーナ!!」
 ハルナが真っ先に、ルーナと一緒に前に出て、戦う気満々。
「ふん、やれるもんなら、やってみなさいよ!!」
 アヤメはよっぽどパルシェンに自信があるのか、余裕を見せてハルナを挑発してみせる。
「なら、お望み通りにっ!! ルーナ、“シャドーボール”!!」
 挑発に乗っちゃったハルナは、すぐにルーナに指示を出す。ルーナはパルシェンに向けて、“シャドーボール”を発射!
「パルシェン、“てっぺき”よ!!」
 アヤメが自信たっぷりに指示すると、パルシェンはその重そうな殻をがっちりと閉じた。そこに、“シャドーボール”が命中! でも、殻には傷1つ付いていない。なんて硬さなの!?
「まだよっ!! “スピードスター”!!」
 それでもハルナは怯まないで指示を出す。ルーナは続けて“スピードスター”で攻撃! たくさんの星が殻を閉じたままのパルシェンに降り注ぐ。それでも、紫色の殻はビクともしない。
「そんな……!?」
「ふふん、パルシェンの殻はナパーム弾を使っても壊せないくらい硬いのよ!! そう簡単には破れるもんですか!! “こうそくスピン”!!」
 余裕たっぷりに説明した後、アヤメは次の指示を出す。すると、パルシェンは殻を閉じたままコマのように回転し始めて、真っ直ぐルーナに向かっていく! ルーナが必死で“スピードスター”を撃っても、パルシェンはそれを簡単に弾きながら、どんどん間合いを詰めていく! そのままルーナを跳ね飛ばした! 地面に落ちたルーナの前で、パルシェンは堂々と着地して殻を開いた。
「ルーナ!! なんて防御力なの……!?」
「ふふん、さっきまで大口叩いてたくせに、大した事ないじゃない」
 パルシェンの防御力の高さを前にして動揺するハルナの前で、アヤメは見たか、と余裕そうな笑みを見せた。
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 すぐにサトシが加勢する。ピカチュウの自慢の電撃が、パルシェンに向けて飛んで行った!
「また来たわね!! パルシェン、“てっぺき”!!」
 でも、パルシェンはまた殻を閉じる。ピカチュウの自慢の電撃も、頑丈な殻の前に完全にシャットアウトされちゃった! 当たれば効果は抜群なのに!
「そのまま“つららばり”!!」
 そして、パルシェンは殻を閉じたまま、トゲから“つららばり”を発射! ピカチュウは慌ててつららの雨を紙一重でかわす。
「“ふぶき”!!」
 そしてアヤメの指示を聞くと、パルシェンの殻が開いて、口から“ふぶき”をピカチュウに向けて発射!
「ピカアアアアッ!!」
 さっきの“つららばり”に怯んでいた所に撃たれたものだから、ピカチュウはよけられなかった。ピカチュウの体を飲み込む“ふぶき”。ピカチュウの体は、たちまち氷漬けにされて動かなくなっちゃった!
「ピカチュウ!!」
「あんた達には用はないの。あたしが用があるのは、あんたなんだからね!!」
 アヤメがあたしに向けて指差すと、パルシェンの“ふぶき”がこっちに向けられた! 慌てて逃げるあたし。“ふぶき”で氷漬けにされるなんて、今のあたしの服装からしてもひとたまりもない。後ろから迫ってくる“ふぶき”から、必死で逃げる。後ろから感じる寒気。振り向くと、あたしの後ろの風景が、どんどん氷漬けになっていく。尚更あたしの心が焦った。
「隙ありっ!! “つららばり”!!」
 するとパルシェンが、急に攻撃を切り換えた。今度は“つららばり”が、あたしに向かって飛んでくる! つららの雨は真っ直ぐこっちに向かって飛んで来ていた! よけられない!
「ポッチャマアアアアッ!!」
 そこを助けてくれたのはポッチャマだった。ポッチャマが撃った“バブルこうせん”で、“つららばり”を相殺してくれた。
「ポッチャマ!!」
「ポチャッ!!」
 ポッチャマはすぐに、あたしの前に飛び出して身構えて、パルシェンをにらむ。パルシェンも、そんなポッチャマを強くにらみ返す。
「ふん、少しはやるじゃない。でも、今のはまだまだ小手調べよっ!! “あられ”!!」
「“あられ”!?」
 そのわざの名前を聞いて、あたしは驚いた。
 パルシェンが空に向かって、一筋の光を撃つ。それは空高くまで飛んで行った時、空が急にどんよりと曇り始めた。それと同時に、急に寒気を感じた。周りが冷えてきている? そう思った時、空を覆った雲からパラパラとあられが降ってきた。思わず顔を腕で遮るけど、腕に当たるあられがちくちくと痛い。それよりも、何だか急に寒くなってきてるような……?
「まずい!! “あられ”はこおりタイプのポケモン以外ダメージを受けるぞ!!」
 タケシが叫んだ。
「それよりも……寒くなってきてないか……?」
「ハルナも、そう思う……」
 サトシとハルナの体が震え始めている。
「ううっ……寒い……?」
 それより、寒気は何だか強くなってきている気がする。息が白くなっている。持っているポフィンのかごを下ろして、思わず体をすくめる。体が震えているのがわかる。あたしのこんな薄着じゃ、寒くなるとまずい。
「フフ、そんな服装じゃ、寒いでしょ? だからもっと寒くしてあげる!! パルシェン、“ふぶき”!!」
 アヤメがにやりと笑った。まさか、この寒さも狙って……!? そう思っている間に、パルシェンが“ふぶき”を発射! それは、降っているあられと一緒に、あたし達を飲み込んだ!
「きゃあああああっ!!」
 それは、薄着のあたしにとって、耐えられないものだった。刺すような寒さが、あたしの体をどんどん冷たくしていく。そういえば“ふぶき”って、“あられ”が降っている時には必ず当たるんだったっけ……
「あっ、ヒカリさんが……!!」
「ま、まずい……!! このままだと、ヒカリが……!!」
「だが、こっちもこの状態だと……!!」
 ハルナとサトシ、そしてタケシが叫んだ。でも3人も“ふぶき”に飲み込まれていて、動く事ができない。それでもアヤメは、平気な顔をして立っている。いつの間にか帽子と手袋を身に付けていた。
「この寒さ加減は、どう!! 足りないなら、もっと強くしてあげる!!」
 アヤメが強気に叫ぶと、パルシェンはさらに“ふぶき”を強くする。さらに強い寒さが、あたしに容赦なく襲いかかる。
「ううっ、うああああああっ!!」
 まるで、猛吹雪の雪山に、この服装のまま放り出された気分だった。寒さをしのぐものなんて、今は持っている訳なんてない。このままじゃ、凍え死んじゃいそう……地面に足がついて、その場で身を屈めたまま、あたしは動けなくなっちゃった。それでも“ふぶき”は容赦なく、あたしの体力を奪っていく。
「あそれ!! 見事に花が、咲いたぜよ〜っ!!」
 アヤメは扇子を取り出して両手に持つと、あの『鬼百合の氷の微笑』をやってみせた。でもそれは、もうコンテストのパフォーマンスじゃない。何をどう見ても、あたし達に対する皮肉にしか見えない。
「ポッチャマアアアアッ!!」
 すると、ポッチャマが“ふぶき”の中でパルシェンに向けて飛び出した。そういえば、ポッチャマは元々北国に住むポケモン。寒さには慣れている。それに、みずタイプのポケモンだから、こおりタイプのわざにも耐性がある。
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマが力を込めて、パルシェンに向けて“バブルこうせん”を発射!
「無駄よ!! “てっぺき”!!」
 それでも、パルシェンは“てっぺき”を使って“バブルこうせん”を完全に防いだ。仮に当たったとしても、効果は今ひとつ。それでもポッチャマは、あきらめずに“バブルこうせん”を撃ち続ける。
「ポ、ポッチャマ……」
 あたしはポッチャマに指示を出そうとしたけど、寒さのせいで声が出ない。それどころか、目の前の風景が何だかぼやけて見えてきた……
「ヒカリ……!! 大丈夫か……!!」
 すると、降ってくるあられをしのぎながら、誰かがあたしの側に来てくれた。震える肩に手が掛けられる。顔を見ると、それはサトシだった。
「サ、サト、シ……?」
 あたしはそれしか声が出なかった。それどころか、来てくれたのがサトシなのかさえ、さっきまでわからなかった。
「“ふぶき”!!」
 アヤメの指示が聞こえた。するとまた、辺りが“ふぶき”に飲み込まれる!
「ポチャアアアッ!!」
 ポッチャマが“ふぶき”をもろに受けて、“バブルこうせん”を止めた。
「ああっ……う……ううっ……」
 そしてあたしは、もう悲鳴を上げる事もできなかった。そんなあたしをかばうように、サトシが“ふぶき”の盾になるようにあたしの体を抱く。それでも、この“ふぶき”の前には焼け石に水だった。
「くそっ、このままじゃ……!!」
 サトシの声が聞こえる。あたしも、だんだん目の前が真っ暗になってきた。このまま、あたしは凍え死んじゃうの……? せっかく、マンムーのために、ここまで来たのに……マンムー……あたしは……
「さあ、これでまとめて……!!」


 その時だった。
「アルテミス、“あくのはどう”!!」
 ハルナの声が響いた。気が付くと、パルシェンに向かってげっこうポケモン・ブラッキーのアルテミスが飛び出していた。パルシェンに向かって“あくのはどう”を発射! でも、パルシェンはとっさに殻で受け止める。でも、そのせいで“ふぶき”が止まった。
「よくも……よくもヒカリさんをっ!! 許せないっ!!」
 ハルナの表情は怒りに満ちていた。その手は、グッと強く握られていた。それは、吹き荒れる“あられ”にも負けない強さを感じさせた。それは、アルテミスにも伝わっているように、アルテミスの眼差しにも、強いものを感じた。
「ちっ、さっき負けたくせに、邪魔しないでっ!! “つららばり”!!」
 すぐにアヤメは反撃の指示を出す。パルシェンは容赦なく“つららばり”をアルテミスに向けて発射! でも、アルテミスはかわそうとする様子は見せなかった。そのまま“つららばり”がアルテミスに次々と直撃! でも、アルテミスは足を踏ん張って耐える。パルシェンも負けじと“つららばり”を撃ち続けるけど、それでもアルテミスは壁になったように動かない。
「“あやしいひかり”!!」
 ハルナが怒りのこもった声で指示を出す。アルテミスの頭の輪っか模様がぽうっと光り出した。
「ふんっ、そんなものでっ!! パルシェン、“ふぶき”!!」
 アヤメはそれでも負けじと指示を出す。でも、“あやしいひかり”を見たパルシェンは、その場で棒立ち状態になったまま、アヤメの指示を聞かないまま上の空になって動かない。目は完全にふらふらの状態。『こんらん』してる!
「何やってるのパルシェン!? 早く攻撃するのよ!!」
 アヤメは慌てて叫ぶけれど、パルシェンは上の空のまま。全然反応してくれない。アヤメは動揺し出している。
「今よ!! “アイアンテール”!!」
 隙ありとばかりに、アルテミスが尻尾に力を込めて正面からパルシェンに突撃していく!
「パルシェン、“てっぺき”よ!! ほら、何やってるのよ!! 早くしないと……!!」
 パルシェンは相変わらず『こんらん』のせいでわざを繰り出せない。そしてパルシェンだけじゃなくて、アヤメも動揺して混乱し出している。その隙を突いて、アルテミスが力を込めた尻尾を、無防備なパルシェンの顔面へと振り下ろした! 直撃! たちまち跳ね飛ばされるパルシェン。
「パルシェン!!」
 アヤメの叫び声も空しく、パルシェンは倒れたまま動かなかった。完全に戦闘不能。それと同時に、“あられ”が止んで、空を覆っていた雲が晴れていく。やっと暖かい日差しが、辺りに降り注ぐ。さっきまでずっと寒い思いをしたからか、いっそう日差しが暖かく感じた。
「さあ、ヒカリさんのマンムーを返しなさい!!」
「く……っ!!」
 ハルナの怒りのこもった声を前にして、アヤメは唇を噛む。
「みんな!! ここは一旦逃げるぞ!!」
 その時、タケシが声を上げた。
「何言ってるのよ!! それだったら、ヒカリさんのマンムーは……!!」
「ヒカリはさっきの寒さで、かなりのダメージを受けている。これ以上は危険だ」
 すぐに反論するハルナだけど、タケシの説得を聞いて、はっと我に帰った表情を見せた。そんな中で、サトシがあたしの肩を担いで立ち上がった。
「ポッチャマ、“うずしお”で時間稼ぎをしてくれ!!」
「ポチャ!! ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 サトシはあたしの代わりに、ポッチャマに指示を出した。ポッチャマはうなずいて答えると、すぐに両手を上げて“うずしお”を作り出す!
「ポッチャマッ!!」
 それをそのまま、勢いよくアヤメに向かって投げ付けた! 目の前に迫ってくる“うずしお”を前に、アヤメは驚いて立ち尽くすだけだった。そのまま、“うずしお”はアヤメを容赦なく飲み込んだ。“うずしお”は長く効果が続くわざだから、この間アヤメを足止めする事ができる。
「今だ、行くぞ!!」
 サトシの一声で、みんな一斉にその場を後にする。後ろからカメラを回していたユミさんとタクさんも、すぐに後に続いた。
「ご、ごめん、サトシ……」
「いいさ。気にすんなって」
 弱くなった声で、あたしはサトシに謝る。でもサトシはいつものように、笑みを浮かべて見せた。
「それにしても……なんて気迫だったの、アヤメさんは……本当に『カンナギの鬼百合』の子なのかって思っちゃったわ」
「……ですね。完全に悪魔に取り付かれたって感じでしたよね……ああ、恐ろしい……」
 ユミさんとタクさんは、そんなやり取りをしていた。

 * * *

 ナオミさんがやっているエステサロン『やすらぎのすず』。
 その裏にある部屋で、ナオミさんはテレビ電話で話をしていた。
「……何ですって!? それは本当なの!?」
「……残念だけど、本当の話よ。アヤメちゃんはヒカリちゃんのポケモンを盗んで、それだけでは足りず、挙句の果てには殺そうともしたらしいのよ」
「そんな……」
 画面の向こう側にいる女の人は、信じられないものを見たように、絶句していた。でも、すぐにその表情が険しいものに変わった。
「……あの子ったら、昔から私の事ばかり自慢ばかりして、変にプライドが高くて、『ライコウの意を駆るロコン』だったぜよ……でもまさか、あんな事までするなんて……! もう黙ってられんぞよ!!」
 女の人が怒った様子でそう言うと、テレビ電話の画面が突然プツリと切れた。ナオミさんは、真っ暗になった画面をしばらく見つめていた。
「……自分の子供の事だから、黙ってられないのも当然ね」
 ナオミさんは自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。


NEXT:FINAL SECTION

[788] FINAL SECTION ポフィン大作戦! マンムーの声!
フリッカー - 2009年02月05日 (木) 17時42分

 アヤメのパルシェンの寒さを味方に付けた猛攻撃を受けて、一時撤退したあたし達。
 ポケモンセンターに戻って、あたしは冷えた体をすぐに温めてもらった。温かいベッドの中で横になって、しばらくは安静にしてなきゃならない。これで少しは楽になったけど、まだ相変わらず寒気は残ったまま。あの“あられ”と“ふぶき”による寒さの攻撃がどれほど凄まじかったのかを、改めて思い出した。あたしの体を診てくれたジョーイさんは、あたしは軽い低体温症になっていて、あともう少し対処が遅れていたら命に関わる事態になっていたって話していた。
「ヒカリさん、体の方はどうですか?」
 ハルナがポッチャマと一緒に、温かい飲み物を持ってきて、あたしに言う。
「うん、大分楽になったわ」
「そう、よかったです……あのままヒカリさんが凍死しちゃったら、どうしようかと思いましたよ……」
「全てはハルナのお陰さ。あそこでハルナが踏ん張ってくれなかったら、ヒカリは確実に寒さで致命的なダメージを受けていただろう」
「そんな……ハルナはただ、ヒカリさんをあそこまで痛めつけるあいつが許せなかっただけで……」
 タケシの言葉に、ハルナが少しだけ照れたように笑みを見せた。他の人に褒められて笑みを見せるハルナの姿は、少し珍しい。
「でも、マンムーなんか奪って、どうするつもりなんでしょうね?」
「単なる憂さ晴らしかもしれないし、強いポケモンでコンテストに出たいって思いもあるかもしれないわ。どちらにしても、本当に『カンナギの鬼百合』の子なのかと疑っちゃうわね」
「ですね……あの気迫は、とても子供とは思えませんでしたよ……ああ、恐ろしい……」
 ユミさんとタクさんが、部屋の奥でそんなやり取りをしていた。
 それを聞きながらハルナから受け取ったココアを飲んで、あたしはアヤメの事を考えてみる。あの時、あたしはアヤメに対して何もできなかった。あの寒さを味方に付けた猛攻撃の前に、マンムーに会う事もできないまま、ただ寒さに苦しめられるしかなかった。アヤメのやり方は、凄く残酷に見えた。それしかできなかったのが悔しかったのと同時に、どうしてアヤメはあんな残酷な事が平気でできるのかな、と疑問に思った。たかが1回くらい負けた程度で、あんなにまで恨みたくなるものなのかな……?
『あんたはあたしによってママを倒した仇、つまり、あたしの「敵」よ!! あんたのママはあたしのママに負けたくせに、あんたのせいで、ママの子供のあたしもプライドを傷付けられたわ!!』
 そういえば、アヤメが決闘をする前に、そんな事を言っていたのをあたしは思い出した。
 単純に負けたからってだけじゃない、何かが他にあるのかもしれない。どっちにしても、そんな事は絶対間違ってる。そうやって人を恨んで、恨みを晴らしたとしても、何も変わらない。悪い事をしたって事で、逆に印象が悪くなるだけ。もっとがんばって強くなろうって、なんで思わないの……?
 コップを握る手に、自然と力が入った。


FINAL SECTION ポフィン大作戦! マンムーの声!


「行かなきゃ……!」
 体が自然と動いた。ここでのんびりココアを飲んでいる場合じゃない。早くアヤメを止めて、マンムーを取り戻さないと……! すぐにあたしはベッドから降りようとした。
「あっ、ダメです!!」
「しばらく安静にしてなきゃダメだと言われただろ?」
 でも。すぐにハルナとタケシに体を押さえられる。
「でも……! このままアヤメを放ってなんかおけないわ!」
「ダメだ! マンムーを助けたい気持ちはわかるが、今は自分の体の方を考えた方がいい。下手に体を壊したらマンムーを助ける事もできないぞ」
 すぐにあたしは食い下がろうとするけど、タケシが言った事には一理ある。でも、自分のポケモンは自分の手で取り戻したい。それができないもどかしさに、あたしは両手をグッと握りしめるしかなかった。
「……なら、俺が代わりに行く!!」
「あっ、それならハルナも行く!! ひょっとしたら、このまま逃げるかもしれないからね!!」
 そんなあたしの気持ちを読み取ったのか、サトシが真っ先にそう切り出した。それを聞いたハルナも、続けて言った。
「ポチャッ!!」
 その隣で、ポッチャマも一緒に行くと言わんばかりに強気の声を上げた。
「サトシ、ハルナ、ポッチャマ……でも……」
 3人の気持ちはわかるけど、こんな時に3人に迷惑をかけたくない。そうあたしが切り出そうとした時、タクさんが首を突っ込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか? どうしてそこまでして、自分達の力で解決しようとするんだ? どうにもならないなら、警察を呼んだ方がいいじゃないのか?」
 タクさんの表情は、少し弱気になっているようにも見えた。でもその時、サトシが真っ先に答えを返した。
「俺達はポケモントレーナーなんです! 自分の力で戦う事ができるんです!」
 そんなサトシの答えはシンプルなものだったけど、あたし達の気持ちを全部代弁してくれていた。それにはタクさんも目を丸くしていた。
「でもヒカリは、今動けないから、助けに行きたくてもできない。だから俺は、そんなヒカリの代わりにマンムーを助けに行きたいんです!!」
 サトシがそう続ける。その言葉に、今度はあたしが驚いた。サトシの真っ直ぐな気持ちがそのまま喋り方に表れていて、あたしの代わりに行きたいって強い気持ちがストレートに伝わった。それならサトシに任せてあげられる、と一瞬考えちゃったくらい。
「タケシ、ヒカリが作ったポフィンは?」
「ああ、蓋をしていたお陰で、かろうじて無事だ」
「よし、なら早速持って行こう! ハルナも一緒に来てくれ!」
「もっちろん!」
 サトシとハルナが、すぐに行動を始めた。
「……タク、ポケモントレーナーっていうのは、こういう人なのよ。子供だからって、弱気だと思ったら大間違いなのよ」
「そ、そうですか……」
 唖然とするタクさんに、ユミさんがそう付け足した。そして、タクさんは納得したようにうなずいた。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 その時、いきなりそんな低い鳴き声が外から響いてきた。
「あの鳴き声は!?」
 そこにいた全員が、窓の外を見た。もちろんあたしも、例外じゃなかった。
「マンムー……!?」
 マンムーが、この近くに来ている!? あたしは確信した。少しすると、森の中からドドドドと何かが走ってくる重い足音が聞こえてきた。もう、あたしはいてもたってもいられなかった。すぐにベッドから降りて、素早く部屋を出て行った。
「お、おい!! 待てよヒカリ!!」
 そんなサトシの声も、あたしの耳には入らなかった。

 ポケモンセンターの外に出る。そしてすぐに、足音がする方向に向かう。
 足音は、間違いなくこっちに近づいてきているように、どんどん大きくなっていく。近い。体力を消耗していたから、すぐに息が切れる。でも、そんな事にかまってなんかられない。そしてさっきまであたし達がいた部屋のちょうど前に来ると、森の中からこっちに走ってくる茶色い大きな影が見えた。
「マンムー!!」
 間違いなくマンムーだった。あたしはそれが嬉しかった。理由はどうしてだかわからないけど、それはどうでもよかった。ただ、向こうからこっちに来てくれただけでも嬉しかった。
「マンムーッ!! こっちよーっ!!」
 あたしはすぐにマンムーに手を振って呼びかける。答えてくれなくてもいい。ただあたしがいる事を知らせてあげたかった。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 でも、マンムーは案の定止まらない。こっちに向かって突撃していくのを止めようとしない! それに気付いたのはマンムーがもう目の前まで来ていた時だった。
「ヒカリッ!!」
 そんなサトシの声が聞こえたと思うと、いきなりあたしの体が横に引っ張られた。そして、マンムーの体があたしのすぐ横を通り過ぎた。そのままポケモンセンターの壁にガシャンという凄まじい音をたてて、マンムーは激突した。壁にヒビが入る。そして、マンムーの動きが止まった。
「大丈夫か、ヒカリ?」
 その声を聞いて、あたしを引っ張ったのはサトシだった事に気付いた。あたしはすぐに「うん」とうなずく。見ると、他のみんなも駆け付けてきている。
「そっか、そういう事だったのね」
 すると、マンムーが走ってきた先から、女の子の声が聞こえてきた。マンムーの後を追いかけるように現れたその女の子は、紛れもなくアヤメだった。
「よっぽど前の主人が気に入っていなかったのね。言う事聞かないと思ったら、ここまでしてうっぷんを晴らしたかったんだ」
「アヤメ!!」
「まあ、好都合だわ。三度目の正直、今度こそあんたを殺してやるんだから!!」
 その声からは想像できないほど残忍な言い回しで、アヤメはあたしを眼鏡越しににらみつけた。そんなアヤメに、あたしは疑問に思っていた事をそのまま聞いた。
「どうしてこんな事をするの!? こんな事をしたって、何も変わらないじゃない!!」
「何も変わらない……!? あたしの周りを全部めちゃくちゃにしてくれたのは、あんたじゃないのさ!!」
「!?」
「そうよ、あんたがママに勝ってちやほやされるようになってから、みんなあたしをあんたと比べるようになったのよ!! それから、あたしはコンテストで優勝できなくなったし、この前のガーベラ大会でなんか、あんたに負けたはずのママ以下だってまで言われて、卵とか投げられて散々な目に遭ったんだから!! おまけにママだって、あんたに負けたのに全然悔しそうにしないで、あたしをあんたと比べて見習いなさいなんて言うんだから!!」
 そう言い返したアヤメの言葉に、あたしは驚いた。プライドを傷付けたってあの時言ってたけど、その事だったんだ。卵を投げ付けられたなんて、かなりショックだったに違いない。それだったら、あたしを恨みたくなるかもしれない。でも……!
「だったら、なんでもっと努力しようとしなかったの!? そうすれば……」
「だからあたしはあんたに決闘で勝って、あんたより強いって事を世間に証明したかったのよ!! でもあんたは、決闘で全然言う事を聞かないポケモンを使って、余裕を見せつけて勝ってみせたじゃない!!」
「違うわ!! あれは、マンムーを……」
「あんたまであたしをバカにするんだからもう、あたしはあんたが許せなくなったわ!! あたしの全部をぶち壊しにしたあんたがね……!! だからあたしは、ここで今度こそあんたを殺して、『カンナギの鬼百合』の子供らしく振る舞うんだからね!!」
 その気迫には、あたしも押し返されそうなほどのものだった。
『あの子とは1回会った事があったけど、その時からユリさんの子供っていう名前にこだわりすぎていた所があったから……』
 そんなナオミさんの言葉を思い出す。アヤメは、『カンナギの鬼百合』の子供って名前に強いプライドを持ってるんだ。プライドが高いのはポッチャマも同じだけど、アヤメのは明らかに度が過ぎている。鼻を高くしてるって奴でしかない。
「わかったら、さっさと地獄に落ちちゃって!!」
 その時、マンムーがぶつかったポケモンセンターの壁から下がったのが見えた。またマンムーが来るの……!? あたしの背筋に寒気が走った。
「さあ、あいつに“とっしん”よ!!」
 アヤメが指示を出した。そしてそれに答えて、マンムーが動いた……と思ったら、またポケモンセンターの壁に“とっしん”する。さっきとは違って、一度ぶつかっても、何度も何度もまるで『こんらん』しているかのようにひたすら壁に“とっしん”を続ける。でも、マンムーの目は『こんらん』しているようには見えない。
「ちょ、ちょっと何やってるの!? あんたのターゲットはこっちでしょ!!」
 アヤメがあたしを指差しながらマンムーに叫び続ける。でも、マンムーは反応しないで、壁に“とっしん”を続ける。壁にどんどんヒビが入っていく。このままじゃ壊れそう……!
「一体どうしたんだ、マンムー……?」
 サトシがつぶやく。その理由は、あたしにもわからない。でもその時、タケシが急に声を上げた。
「……そうか!!」
「何かわかったの、タケシ?」
「ヒカリ、この間作ったポフィンを食べさせるチャンスだ!!」
「えっ!? どういう事!?」
「ポフィンなら、ハルナ持ってきてますよ!」
 もう少し様子を見てから上げようと思っていたあたしは、タケシの言葉に一瞬戸惑ったけど、ハルナがすぐにあたしにこの間持っていたポフィンを入れたかごを差し出した。
 理由はどうしてなのかわからないけど、ポケモンの事にも詳しいタケシの事なから、何かあるはず。
「ポチャ!」
 足元にいたポッチャマも、「行こう」って言ってるみたいに、あたしの足をポンと叩いた。
 あたしは、タケシの言葉を信じて、ハルナの手からかごを受け取った。
「……わかったわ。やってみる!」
 マンムーがあたしの事を嫌いなら、あたしの作ったポフィンを食べてくれるのかはわからない。でもマンムーに戻ってきてくれるようにと願いながら作ったこのポフィン。この気持ちは必ず伝わると信じて、あたしはマンムーに体を向き直した。そして、闇雲に“とっしん”を続けるマンムーに、そっと近づいていく。そんなあたしの様子を見て、アヤメは目を丸くしていた。
「マンムー」
 あたしが一言呼びかけると、マンムーがなぜか“とっしん”をやめて、こっちに体を向けた。またあたしを跳ね飛ばすんじゃないかと思ったけど、あたしは勇気を出して、マンムーにかごを差し出して、ふたを開けた。
「これ、マンムーが気に入ってくれたあたしのポフィンよ。食べて!」
 そう言って、あたしは足元にかごを置いた。そして一歩下がる。これを見たマンムーは、どんな反応をするのかな……? 胸がドキドキと高鳴っているのがわかった。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 すると、マンムーが急に吠えた。その声は、いつもと違う声のようにも聞こえた。そしていきなり、あたしに向かって突っ込んできた!
「きゃあああああああっ!!」
 一瞬の出来事だった。あたしの体はたちまち宙を舞った。「ヒカリッ!!」ってみんなの叫ぶ声が一瞬聞こえた。そのまま、体は重力で地面に思い切り叩きつけられた。体中に強い衝撃が走る。
「う……ぐ……」
 あたしが恐れていた事が、本当になっちゃった……やっぱりあたしは、マンムーに嫌われちゃってたの……? そんな絶望感があたしの心を覆い尽くしていった。
「アッハハハハハハ!! 残念だったわね!! あんたの事が嫌いなんだから、エサで釣ろうとしたって無駄……あっ!?」
 アヤメの得意気な声が途中で止まった。何か驚いたものを見たように、最後のトーンを上げていた。何があったの、と思ってマンムーを見てみると、マンムーはかごの中に入ったポフィンをガツガツと食べている。しかも、その表情はとても嬉しそうだった。その姿は、ウリムーの頃と何も変わっていなかった。
「マンムー……!」
 あたしの作ったポフィンを、食べてくれた……! あたしはウリムーと初めて出会った時と同じ気持ちになれた。気持ちを込めて作ったポフィンだから、嬉しさはあの時以上のものだった。
「見て!! マンムーがヒカリさんのポフィンを食べてる!!」
「やっぱりマンムーは、何だかんだ言ってヒカリのポフィンが食べたかったんだよ」
「え?」
「マンムーが“とっしん”していった先には、あの時ヒカリが作っておいたポフィンの残りが置いてある。マンムーは、その匂いにつられてここまで来たんだよ」
「そうか……! 別にマンムーはヒカリが嫌いって訳じゃないんだ!」
 3人のそんなやり取りが聞こえた。そっか、マンムーはあたしの作ったポフィンが食べたくて、ここまで……! あたしは尚更嬉しくなった。
「ちょっと!! 何やってるの!! 敵が渡したポフィンなんて食べてる場合じゃないでしょ!! もう……っ!!」
 アヤメは怒って、マンムーを奪ったモンスターボールに戻そうと、モンスターボールを突き出した。
「ポチャマアアアアッ!!」
 その時、アヤメに向かってポッチャマが“つつく”で突っ込んでいった! ポッチャマのクチバシは、アヤメの手に命中! アヤメは思わずモンスターボールを手放した。そして地面に落ちるモンスターボールを、ポッチャマはナイスキャッチ!
「あっ!!」
 アヤメが叫ぶのを尻目に、ポッチャマは素早くあたしの所にモンスターボールを運んでくれた。あたしの前に来て、マンムーのモンスターボールを差し出すポッチャマ。
「ありがとうポッチャマ」
 あたしはそうお礼を言って、モンスターボールを受け取った。そうしていると、マンムーがもうポフィンを食べ終わっちゃった。あたしは改めて、あたしの気持ちを伝えるために、マンムーに体を向き直した。
「マンムー……まだあたしは、おいしいポフィンをいっぱい用意しているから。戻ってきたら、いっぱいポフィンを食べさせてあげるから。だから……戻ってきて。今だけでいいから……あたしに力を貸して!!」
 あたしは自分の気持ちを、はっきりと聞こえるようにマンムーに向かって言った。すると、マンムーの目付きが急に変わった。いきなりサッとアヤメの方に体を向き直したと思うと、鼻息を荒くして、前足で地面をひっかく。明らかにやる気がある。
「マンムー……!? 力を貸してくれるのね!!」
 その言葉に、マンムーは答えなかった。それでもよかった。初めてマンムーが、言う事を聞いてくれる。それが、何より嬉しい事だったから。
「マンムーがヒカリの言う事聞いてるぞ!」
「ポフィンを食べて機嫌がよくなったのかな? さっすがヒカリさん!」
 サトシとハルナも声を上げた。
「これは凄いわ!! 言う事を聞かなかったマンムーが、遂に言う事を聞くなんて!! タク、カメラ回してる?」
「……あっ!! すみません、カメラ置いてきちゃました!!」
 ユミさんの気持ちも高ぶっていたけど、タクさんのそんな返事を聞いて、一気に気が抜けてガクッとこけそうになっていた。
「ど、どうして……!? あんた、あいつが嫌いだったんじゃなかったの!?」
 アヤメは動揺している。アヤメの言葉は、思い込みでしかなかった。あたしはそれを確信した。
「違うわ! だって、マンムーは……あたしの大切なポケモンなんだから!!」
 あたしはアヤメに向かって、強くそう言った。
「く〜っ!! こうなったらやってやろうじゃないの!! パルシェン!!」
 アヤメはとうとう逆ギレして、懐からモンスターボールを取り出して力任せに投げた。中からあのパルシェンが出てくる。あの殻の防御力は伊達じゃない。急所に攻撃が当たらない『シェルアーマー』ってとくせいもあるし、マンムーのパワーでも、突破できるのかな……あたしは少し不安になった。
「ヒカリ!! パルシェンの弱点は、軟らかい中身だ!!」
 タケシの声が聞こえた。そっか、殻は硬くても、その下にある中身を攻撃すればいいんだ! それなら、隙を見て……!
「調子こくんじゃないわよ!! “あられ”!!」
 パルシェンが空に向かって、一筋の光を撃つ。みるみる内に空がどんよりと曇り始めて、やがてパラパラとあられが降ってきた。そして、また周りが寒くなってあたしの体を襲う。でも、マンムーはこおりタイプだから影響は何もない。アヤメはやっぱり、あたしを狙って“あられ”を指示したんだ!
「また……!!」
 寒さで体を震わせて、かがみこみながら、あたしはつぶやく。マンムーの事ばっかり気にしてて、パルシェンの“あられ”対策はしていなかった。このままじゃ、あの時の二の舞に……! なるべく早くケリをつけないと……!
「マンムー、“とっしん”!!」
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 あたしの指示に答えて、マンムーはパルシェン目掛けて“あられ”の中を“とっしん”していく!
「そんなもの!! “てっぺき”!!」
 でも、パルシェンはすぐに殻を閉じる。そのままマンムーはパルシェンを跳ね飛ばした! 一瞬宙を舞うパルシェン。いくら殻に閉じこもっていても、あれだけ跳ね飛ばされたら、ただじゃ済まないはず。その証拠に、地面に落ちた後、パルシェンは反動で殻を開けちゃっている。マンムーは反転して、もう一度仕掛けに行こうとする。
「くっ、いくらパワーがあるからって……っ!! “こうそくスピン”!!」
 でも、パルシェンも反撃する。また殻を閉じて、マンムーに向かって“こうそくスピン”で向かっていく!
「危ないマンムーッ!!」
 あたしは思わず声を上げた。体の大きいマンムーが、この攻撃をよけられるはずなんてない! そんなあたしの心配をよそに、パルシェンはマンムー目掛けて突撃していく! そして……!

 それは、確かにマンムーに命中すると思っていた。でも、パルシェンの“こうそくスピン”は、空しく空を切っていた。攻撃を空振りしたパルシェンは、地面に落ちて体制を崩した。
「え……!?」
「いない……!?」
 それには、あたしもアヤメも驚きを隠せなかった。そこに、確かにマンムーはいたはず。でも、攻撃したらそこにはいない。まるでマジックのようにその場から姿を消していた。マンムーって、こんなに素早く動けたっけ?
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 すると、マンムーがいきなり、パルシェンの横から現れた。いつの間にそこに? そう思ってる間もなく、“とっしん”が炸裂! とっさの事で“てっぺき”もできなかったパルシェンは、また跳ね飛ばされるしかない。
「ちっ、いつの間にそこに!! “つららばり”!!」
 パルシェンが“つららばり”で応戦する。でも、撃った先にはもうマンムーの姿はなかった。また消えた!? すると、いつの間にかマンムーはパルシェンの後ろに回り込んでいた!
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 パルシェンがそれに気付いて振り向いた時、マンムーの鋭い氷の牙がパルシェンの顔に突き立てられた! 直撃! たちまち跳ね飛ばされるパルシェン。木にぶつかって倒れたパルシェンは、そのまま動かない。完全に戦闘不能。
「そんな……こんな簡単に、パルシェンが……!?」
 動揺するアヤメを尻目に、“あられ”が止んで、空が晴れていく。やっと寒さから解放されて、あたしはほっとした。あの時より時間は短かったし、“ふぶき”も使われなかったから、何とかしのぐ事ができた。それでも、まだ寒気は止まらないけど。
「マンムーのとくせい『ゆきがくれ』が発動したんだ!」
「『ゆきがくれ』?」
「“あられ”が降っている間、攻撃をよけやすくなるとくせいだ」
 タケシとサトシがそんなやり取りをしていた。そっか、とくせいのおかげで、マンムーはあれだけ攻撃をよけられたんだ。
「……調子こかないでよっ!! あたしは『2代目鬼百合』、あんたなんかに負けなんてしないんだからっ!!」
 でも、アヤメはまた逆ギレして2個のモンスターボールを一気に力任せに投げる。中から飛び出すフシギソウとピジョン。2匹は真っ直ぐ、こっちに向かってきた!

 その時だった。
 急にどこからか一筋の光線が飛んできて、あたしの目の前を通り過ぎた。それを見たフシギソウとピジョンは、思わず動きを止めた。これは、“ソーラービーム”!?
「くっ、誰よ!! また邪魔する奴は……あっ!?」
 アヤメがビームの飛んできた方を見た時、何か驚くものを見たのか、急に言葉を失った。誰かと思って見てみたら、そこには2人の女の人がいた。1人は前にあたしが会ったナオミさん。そしてもう1人は、紫の短くまとめた髪をした女の人……あれって?
「ママ……!?」
 アヤメがつぶやいた。そう、間違いなくユリさんだった! いつの間にここに……? アヤメを見つめるその目は、どこか悲しそうで、そして怒っているようにも見えた。何も言わないまま、ゆっくりとアヤメに近づいていくユリさん。
「なんで邪魔なんかしたのママ!? あたしは、ママを負かして、あたしまでバカにするコイツが許せなくて……!」
 アヤメの言葉が、そこでパチンという乾いた音と一緒に、途切れた。ユリさんが、アヤメのほっぺたを思い切りぶっていた。その衝撃からか、アヤメのメガネが地面にカチャンと軽い音をたてて落ちた。
「どうしてこんな事をするのアヤメ!! あんたは自分のプライドのためなら、犯罪もする子だったの!? 私は、そんな子供に育てた覚えはないぞよ!!」
 ユリさんがアヤメに怒鳴りつける。ユリさんの目は怒っていたけど、涙が溜まっていた。その声も、少しだけ震えていた。
「ママ……!?」
「どうして……どうして自分の思い通りにならなかったからって、そんな事をするの……!? ママとして私は……恥晒しじゃないの……!! 私が、そんな事望んでる訳ないでしょ……!!」
 とうとう目から涙をこぼすユリさん。次第に震えだすユリさんの言葉を聞いて、アヤメははっとした表情を見せた。その体は、少しだけ震えだしているように見える。そこに、ナオミさんがユリさんの横にやってきた。
「アヤメちゃん、どうしてユリさんがヒカリちゃんを見習えって言ったか、わかる? ママの名前にこだわってばかりいるあなたと、そんな事にはこだわらないで、自分の力で更なる高みを目指しているヒカリちゃん……どっちが立派なポケモンコーディネーターにふさわしいか、わからない?」
「う……」
 ナオミさんの質問に、アヤメは何も答えなかった。というか、動揺していて答えられないんだ。
「親の名前ばかりにこだわって何もしないんじゃ、本当にいいコーディネーターにはなれないわ。どんなに辛い事があっても、自分の力で努力を重ねた人が、最後にいいコーディネーターになれるのよ」
 ナオミさんがそう付け足した。
「そんな……あたし……あたし……」
 それを聞いたアヤメはそのまま、体の力が抜けたみたいに、ゆっくりと膝をついた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ママ……」
 アヤメはがっくりと体を落として、急に泣き出した。ユリさんの失望した顔を見て、やっと自分がどんな事をしたのか、目を覚ましたみたい。そんなアヤメの姿を、フシギソウとピジョンは黙って見つめていた。
「……わかったら、一緒に警察に来なさい」
 ユリさんは震えながらも厳しい声でそう言って、アヤメの腕を引っ張って立たせる。それに、アヤメは何も抵抗しようとしなかった。アヤメは無言で3匹のポケモンをモンスターボールに戻す。それを確かめたユリさんは、アヤメとナオミさんと一緒に、その場を後にしていく。
「ヒカリちゃん、ごめんね」
 あたしの前を通り過ぎようとした時、ユリさんは足を止めて、そう一言だけあたしに行った。そしてまた歩き出して、そのままその場を去って行った。
「アヤメ……」
 そんなユリさん達の背中を見送るあたしの口からも、自然とそうこぼれた。

 * * *

 こうして、事件は無事に解決した。
 でも、「『カンナギの鬼百合』の子が犯罪をした」ってニュースは、すぐに広まった。ユリさんは自分の娘が犯罪をした事を知ってとてもショックでした、とコメントしたといろんなニュースでやっていた。この事件は、おのずとユリさんの評判そのものにも影響する事は間違いないみたい。アヤメは自分のした事が逆に名前を傷付ける事になるって事に、なんで早く気付かなかったのかな……
 そんな暗い事もあったけど、しばらく中断していた取材もまた始まった。でも、困った事がまだ1つある。それは……
「行くわよマンムー!! “こおりのつぶて”!!」
 後ろにタクさんが構えるカメラ。あたしは気合を入れて、マンムーに指示を出す。
「……」
 でも、マンムーは何も反応しない。最初の時と全く同じで、指示がまるで筒抜け。何だかあの時の出来事がまるでウソみたいに、あたしの言う事を聞いてくれない。
「あれ? あれから言う事聞くようになったんじゃないのか?」
「あの時言う事聞いてくれたのは、たまたまだったって事、なのでしょうか?」
「う〜ん、その辺あたしにもよくわかんないんのよ……」
 サトシとユミさんの質問に、あたしはそう答えるしかない。
「じゃあ、あの時の同じようにポフィンあげてみたらいいじゃないですか?」
 ハルナがふと、そんな事を提案した。そっか、あの時言う事を聞いてくれる前、マンムーはポフィンを食べていた。ひょっとしてポフィンを食べたら言う事を聞くの? そう思いながら、あたしはかごに入ったポフィンを用意する。
「マンムー、ご褒美にポフィンあげるから、あたしの言う通りにして」
「!!」
 あたしがポフィンを見せてそう言った途端、マンムーの目付きが急に変わった。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 マンムーはいきなり指示通りに“こおりのつぶて”を発射。正面にある大きな木に命中して、たちまち木は凍りつく。言う事を聞いてくれた……? やっぱりポフィンがあるって事なら言う事を聞いてくれるって事?
「何と! マンムーがヒカリさんの指示通りに動きました! どうやらマンムーは、ご褒美にポフィンがあると知ると、言う事を聞くようです」
 ユミさんが熱の入ったアナウンスをした。でもその時、
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 マンムーがいきなり、笑みを浮かべながらこっちに向かってくる。まさか、もう食べたいの!? ちょ、ちょっと待って! まだ1つしか指示してないのに! かと言って、自分で止める事はできない。あたしは思わず逃げだす。
「ままま、待ってよマンムー!! ポフィンは逃げないから、そんなに焦らないで〜っ!!」
 あたしはマンムーに追いかけられながら、そう叫ぶ。でもマンムーはそれでも構わずに、あたしの背中を追いかけてくる。こうして、あたしとマンムーの追いかけっこが始まった。

 * * *

 マンムーがちゃんと言う事を聞いてくれるようになるのは、まだ先の話になりそう。でも、少しずつマンムーと仲良くなっていければいい。そのためにも、ポフィンは気持ちを込めて作るつもり!
 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY26:THE END

[789] 次回予告
フリッカー - 2009年02月05日 (木) 17時44分

 あたし達の前に、突然現れたギンガ団!

「やりのはしら探索を妨害した罪、償ってもらうわよ!」
「きゃああああああっ!!」

 その攻撃で、あたしはサトシやタケシとはぐれちゃった!
 そんなあたしを助けてくれたのは、赤い瞳の女の人。

「随分見ない内に、大きくなっちゃったわね、ヒカリちゃん」
「ど、どうしてあたしの事知ってるんですか?」
「覚えていないのも無理はないわね。私と会った時は、あなたはまだ赤ちゃんだったんですものね」

 女の人の名前は、ルビー。ママの知り合いで、今でも現役バリバリなポケモンコーディネーター!

「若い子達に、手本を見せてあげないとね。行くわよカイロス!!」

 そんなルビーさんと一緒に、サトシ達を探さなきゃ!

 NEXT STORY:一撃必殺の鬼

「この一発で決める!!」

 COMING SOON……



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