【広告】Amazonにて人気の 日替わり商品毎日お得なタイムセール

小説板

ポケモン関係なら何でもありの小説投稿板です。
感想・助言などもお気軽にどうぞ。

名前
メールアドレス
タイトル
本文
URL
削除キー 項目の保存


こちらの関連記事へ返信する場合は上のフォームに書いてください。

[762] ヒカリストーリーEvolution STORY25 マンムーの声(前編)
フリッカー - 2008年12月17日 (水) 23時29分

 今回は、Evolution初の、そして『夢の続き』以来久しぶりの2部構成ストーリーです。
 前回の予告で登場したケンゴは都合により登場しません。すみません。
 しかしゲーム版からキャラクターが登場していたり。

・ゲストキャラクター
アヤメ イメージCV:戸松遥
 かつて『カンナギの鬼百合』の異名を持ったポケモンコーディネーターで、現在はトップポケリストとして活動しているユリの実の娘。カンナギタウン出身。
 母が実力のあるコーディネーターであった事を自負しており、プライドが高く、負けず嫌い。しかしそれ故、自分の弱さを認めようとせず、母の名に頼り過ぎている面がある。
 母親のようなトップポケリストになるために、まずはコーディネーターから始めようとコンテストに挑戦している。時々母のパフォーマンスである『鬼百合の氷の微笑』を真似する事がある。しかし、まだその実力は開花しておらず、彼女のスタイルは『鬼百合の猿真似』と非難されている。前回出場したコンテストでは、カンナギ大会での母と比較されたために大きな非難を浴び、観客から卵を投げられ、プライドを散々に傷つけられた。
 母を破り、名声を獲得したヒカリに逆恨みしており、彼女に勝てば汚名返上になると考え、ヒカリに決闘を申し込むが……
 手持ちポケモンはフシギソウ、ピジョン。

ハルナ イメージCV:釘宮理恵
 かつてトップコーディネーターとして活躍したヒカリの母アヤコに憧れ、ポケモンコーディネーターの道を歩み始めたルーキートレーナーの少女。コトブキシティ出身。ヒカリよりも数ヶ月年下。
 性格は無邪気なムードメーカーで、コンテストで目立つために前口上を作ったり、演技するわざを『ハルナスペシャルその○』と勝手に名付けたりする。また、根っからのポケモンコンテストマニアでもある。三日月がトレードマーク。
 地元コトブキシティのコンテストを見に行った時から、アヤコの子であるヒカリに崇拝ともとれるほどの尊敬の情を抱いており、彼女に対しては常に敬語で話す。自称『ヒカリさんの一番弟子』。
 ちなみに左利き。

ユミ イメージCV:恒松あゆみ
 テレビコトブキのレポーター。

タク イメージCV:我妻正崇
 ユミと行動を共にする、テレビコトブキのカメラマン。

[763] SECTION01 マンムーとテレビ取材!
フリッカー - 2008年12月17日 (水) 23時30分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 マンムーとテレビ取材!


 ウリムーが、イノムーに進化した。でも、なぜか全然言う事を聞いてくれなくなっちゃった。あたしが指示してもまるで聞こえていないように動かないし、そう思ったら急に暴れたりする。あたしの作ったポフィンにだけは、ちゃんと反応するんだけどね……
 そしてそのまま、イノムーは“げんしのちから”を覚えてマンムーに進化したはいいけど、言う事を聞かないのは相変わらずで、一度暴れたら止められない!
 ウリムーの時はちゃんと言う事聞いていたのに、一体どうしちゃったんだろう……? これじゃ、次のコンテストにエントリーどころじゃない……

 * * *

 ポケモンセンターの外であたし達は、いつものようにポケモン達にご飯をあげていた。みんなおいしそうにタケシ特製のポケモンフーズを食べている。
 そんなポケモン達の中に、ひときわ目立つポケモンが1匹いる。他のポケモン達の何倍もある『巨大』って言葉がぴったりの、ずっしりした大きな茶色い体と、立派に生えた2本の大きなキバが特徴のポケモン。
 2ほんキバポケモン・マンムー。あたしのウリムーがイノムーに進化した後、さらに進化してこの姿になった。
 でも、イノムーに進化した時から、急にあたしの言う事を聞かなくなった。進化したばかりの頃はそうでもなかったったのに、コンテストの練習をしようとした時から、あたしの指示はまるで筒抜けだし、そう思ってたらいきなり暴れ出して止めるのに一苦労。マンムーに進化してからさらに拍車がかかって、もう暴れ出したら呼びかけても止まらないし、パワーも上がった事もアダになっちゃって、完全に手が付けられなくなっちゃった。ご飯を食べてる今でも、急に暴れ出さないかハラハラしてるくらい。ただ、ポフィンとかの食べ物にはちゃんと反応して動いてくれるから、それだけがせめてもの救い。逆にそんな食べ物には目がない性格だから、暴れちゃうようになっちゃったのかもしれない。
 だからって、どうして言う事を聞かなくなっちゃったんだろう……? 「進化したら性格が変わる時もある」ってタケシは言ってたけど、あたしは進化する前にウリムーに何も悪い事なんてしてないはず。原因は全然わからない。とりあえず今は、焦らないでゆっくり仲良くなっていこうって思ってる。ポケモンの事をよく知る事が、仲良くなるための第一歩だし、それで初めてポケモンの魅力を引き出せる。それは今までの旅の中であたしが学んだ事……なのはわかってるんだけど、あたしが聞いてみても全然答えてくれないし、今はマンムーがどんな事を考えているのか、あたしの事をどう思っているかなんて、全然知る事ができない。これじゃ、いつまで経っても先に進めない。マンムーと仲良くなるには、まだ結構時間がかかりそう。次のアケビ大会まで間に合うのかな……?
「マンムー……あたしにどこか不満な所でもあるの? それなら、はっきり教えて……あたし、何言われても平気だから……」
 あたしはその答えの知りたさから、ご飯をガツガツと進化する前と同じように食べているマンムーの体にそっと右手をあてて、ささやくように言った。でも、相変わらず顔を向けるどころか、返事1つすらしない。まあ、食べているのに夢中になっているかもしれないから、ある意味当然なのかもしれないけど。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 その時、マンムーがいきなり体を起こして力強く吠えた。
「わあっ!!」
 すぐ近くで吠えられたもんだから、驚いてつい尻もちをつくあたし。当然他のみんなも驚く。ま、まさか、また暴れ出すの!?
 その予想通りだった。マンムーはそのまま目の前の器をガチャンとまるで怪獣映画のように蹴散らして、勢いよく走り出した。
「ちょ、ちょっとマンムーッ!! 戻って来なさーい!!」
 あたしが呼びかけても、マンムーはやっぱり戻ってこない。そのままどこかへ走って行っちゃう。
「どうしたんだ、いきなり!?」
「わかんない……ただ話しかけただけなのに、いきなり……」
 駆け寄ってきたサトシに、あたしはそう答えた。
「何だって!? ひょっとして、食事の途中で話しかけたのか!?」
 そんなあたしの言葉に、タケシが反応した。
「そ、そうだけど……?」
「ポケモンが食事をしている最中にちょっかいを出したりしちゃダメだ! どんなに懐いてるポケモンだって、食事を邪魔されたら誰だって怒るんだぞ!」
「ええっ!?」
 タケシの言葉を聞いて、あたしは自分がとんでもない事をしちゃった事に初めて気付いた。あたしがマンムーの事を知りたくてした事が、マンムーを暴れさせちゃうなんて……! 一度暴れ出したらマンムーは、手が付けられないっていうのに!
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 すると、またマンムーの吠える声がしたと思うと、マンムーがこっちに反転して向かって突撃してくる! やっぱりこうなるの!?
「ご、ごめんマンムー!! そ、そんなつもりじゃなかったのよ!! だから止まって!!」
 あたしは慌ててそうやって説得しようとするけど、やっぱりマンムーは止まってくれない!
「ポチャッ!!」
 その時、ポッチャマが前に飛び出した。マンムーを止めようとしている。でも、ポッチャマは前にも止めようとしてマンムーのパワーに敵わないまま失敗している。無茶はしないでって前に言ったばかりなのに……!
「待ってポッチャマ!!」
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 だからあたしはポッチャマを止めようとしたけど、その前にマンムーがポッチャマに向けて“こおりのつぶて”を発射!
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! 効果は今ひとつだけど、たちまち跳ね飛ばされたポッチャマは、完全に体が氷漬けになっていた。すさまじい威力。
「ああっ、ポッチャマ!!」
 そんなポッチャマの姿に驚いてる間にも、マンムーはどんどんこっちに近づいてくる! もう、こうなったら最後の手段……!
「マンムー、戻って!!」
 あたしはすぐにモンスターボールを取り出して、マンムーをモンスターボールに戻す。こういう解決の仕方は、はっきり言って好きじゃない。なるべくなら説得して止めたいけど、あたしの言う事は聞かないし、他のポケモンならまだしも、体重が291キロもあるっていうあんな体に思い切りぶつけられたら、ケガどころじゃ済まない。だから結局、今のあたしにはこうするしか止める方法がない。あたしはマンムーが入ったモンスターボールを見つめて、はあ、とため息を1つついた。
「ごめんね……ただ、マンムーとコミュニケーションが取りたかっただけなの……」
 あたしはこうやってモンスターボール越しにしか、マンムーに謝る事ができない。そして、自分のした事でマンムーを暴れさせちゃった自分が情けなく思えてくる。
「仲良くなりたくて、コミュニケーションを取りたい気持ちはわかるさ。だが、だからって闇雲にやってもうまくいかない。コミュニケーションが取れるタイミングを、しっかり見極めてからやるんだ。人同士の関係と同じさ」
 焦らないで、じっくり仲良くなっていけばいい。この間言われたそんな事を、あたしは思い出した。
「そうだよね……焦るなって言われたばかりなのに、あたし焦っちゃったのかも……」
 そんな事をあたし自身に言い聞かせる。
「えー、私達取材班は、ヒカリさんがやって来ているとの情報を入手し、このポケモンセンターにやって来ました。……あっ、あそこにいるのがヒカリさんですね! 旅の仲間達も一緒です! では、早速直撃してみましょう!」
 そんな時、遠くで誰かがそんな事をしゃべっていた事には、あたしは気付かなかった。
「こんにちは! あなたがヒカリさんですね?」
 聞き慣れない声が急にあたしの耳に入った。誰なのと思って振り向くと、そこにはしっかりと整えられた服装をした、マイクを手に持ってる緑の髪の女の人と、大きなカメラをこっちに向けている、赤い帽子を被った男の人がいた。まさか、テレビ局の人!?
「テレビコトブキのものです。今回、ヒカリさんの事がニュース番組の特集で取り上げられる事になりまして、取材に来ました!」
「ええ〜っ!?」
 女の人、もといレポーターさんの言葉を聞いて、あたし達は一斉に声を上げちゃった。だって、今までコンテストの時にインタビューを受ける事はあったけど、テレビ番組の特集で取り上げられるなんて事は初めて。これほど嬉しい事はないでしょ?
「そういう訳で、お忙しい所すみませんが、現在躍進中の元トップコーディネーターの娘、ヒカリさんの姿を、是非取材させて欲しいのですが……」
「はい!! もちろんです!! ちょっと準備するので、待っててください!!」
 あたしはすぐに手鏡とブラシを取り出して、髪を整えようとした。でもその時、あたしははっと思い出した。さっきまでのマンムーの事を……
 それを思い出した途端、あたしは反射的にサトシとタケシの後ろに隠れて、体を屈めた。
「どうしたんだヒカリ?」
「ああ〜っ! よく考えたらマンムーが全然言う事聞かない事もテレビに見せる事になっちゃう〜っ! これじゃ、テレビに映す顔なんてないよ〜っ! どうしてこんなタイミングで……!」
 あたしは頭を抱えながら、レポーターさんには聞こえないように、そんな事をつぶやいていた。いくらなんでも、あんなマンムーの姿をテレビに映されたら、完全に恥さらしになっちゃう……! でも、もうさっき何も考えないまま「はい!! もちろんです!!」って答えちゃったし、今更断る訳にもいかない……ああ、あたしのバカ……
「あの……どうしましたヒカリさん?」
 レポーターさんの声が聞こえてくるけど、あたしは何も答えられなかった。
「ヒカリさん!! さっきのあのマンムーを、テレビに見せてあげてくださいよ!!」
 すると、今度は聞き慣れた声が聞こえてきた。顔を上げてみると、そこにはオレンジの髪に三日月の髪飾りが特徴的な、あたしの知っている顔が、こっちに笑顔を見せていた。その横で、いんせきポケモン・ルナトーンも同じように顔を見せている。
「ハ、ハルナ!?」
 そう、コトブキシティ出身の、左利きの新人ポケモンコーディネーター、ハルナ。あたしのファンで、あたしに対してはいつも敬語を使って、周りから見たらバカだって思われてるんじゃないかなって思うくらい、あたしを慕ってくれる自称『ヒカリさんの一番弟子』。とはいっても、あたしとハルナのキャリアには大きな差がある訳じゃない。でも、ハルナは全然気にしていなくて、どこへ行っても『ヒカリさんの一番弟子』って名乗ってるみたい。
「ハルナ、お前も来てたんだな」
「当たり前よ! ヒカリさんがテレビの特集に取り上げられるって聞いて、黙っていられる訳ないでしょ!」
 サトシの言葉に、隣にいるルナトーン、ルーナと一緒に得意げに答えるハルナ。
「あの、あなたは……?」
 レポーターさんがハルナに聞いた。
「ヒカリさんの一番弟子、ハルナよ!」
 ハルナは見たか、と言わんばかりに胸を張ってカメラの前で自己紹介する。それを聞いたレポーターさんの反応は「一番弟子……?」って微妙な感じだったけど。そして、ハルナはすぐに顔をあたしに戻す。
「ヒカリさん!! あのマンムー、ウリムーが進化したんですよね!! あのパワー、凄いです!! トレーニングでポッチャマも敵わないなんて!! さすがヒカリさんのポケモンですね!!」
 ハルナは目を輝かせながら、ずかずかとあたしに言葉を浴びせてくる。ハルナ、さっきのマンムーが暴れていたのを見てたみたい。それを、トレーニングだと勘違いしてるみたい。
「え、いや、その……」
「あのマンムーさえいれば、コンテストバトルじゃ無敵ですよ!! これをテレビで紹介したら、みんなヒカリさんの実力にぶったまげますよ!!」
 あたしはすぐに違うと答えたかったけど、ハルナの言葉はあたしにしゃべる隙を与えてくれない。完全にハルナが一方的にしゃべってる状態。
「いや、ハルナ。違うんだ」
「ちょっと、今ヒカリさんと話してるんだから、邪魔しないで!」
「あのマンムーは、ヒカリの言う事を全然聞いてくれないんだ」
「……へっ!?」
 そんなタケシの言葉を聞いたハルナは、一瞬声を裏返した。
「えっ!? 言う事を聞かない!?」
 その言葉に、レポーターさんも反応した。タケシが代わりに本当の事を話してくれたのはいいけど、とうとうレポーターさんにもマンムーが言う事を聞かない事がばれちゃった……気まずい空気が辺りに漂う。そのまましばしの沈黙。
「……そんな訳ないでしょ!! ヒカリさんに限って、手持ちのポケモンが言う事聞かないなんて……!!」
 それを最初に断ち切ったのはハルナだった。ハルナは、怒ってタケシに言い返した。ハルナが信じられないのはわかるけど……
「……ごめんハルナ、本当の事なの」
 でも、もうばれちゃった事は仕方がない。あたしはゆっくりと立ち上がって、本当の事を話す事にした。
「えっ!?」
「ウリムーがイノムーに進化した時から、全然言う事聞かなくなっちゃって、マンムーに進化したらもっと手が付けられなくなっちゃったの……仲良くなろうとはしてるんだけどね……」
 あたしはマンムーが入ったモンスターボールを手にとって見つめながら、そう言った。
「じゃ、じゃあ、さっきのは……」
「暴れ出したマンムーを、止めようとしていたのよ」
「そ、そうだったんですか……」
 ハルナの言葉が、そこで途切れた。いくらハルナが『弟子』って言うのは大げさだとわかっていても、あたしは先輩として恥ずかしい所を見せちゃったなあって思った。ああ、なんでこんなタイミングでテレビから特集番組の取材が来て、しかもハルナまでやって来るんだろう……今日は何だかついてないなあ……
「う〜ん、進化させたポケモンが言う事を聞かず、悪戦苦闘するヒカリさんの姿……これは特ダネになりそうだわ! そう思わない?」
「そうですね! 自分もそう思います!」
 その時、レポーターさんがカメラマンさんとそんなやり取りをしていた。そして、レポーターさんが改めてあたしに顔を向けて、こう聞いた。
「ヒカリさん、そのマンムーについて、詳しく取材させてくれませんか?」
「えっ!?」
「言う事を聞かなくなった詳しいいきさつや、これからヒカリさんがしようと考えている事を……」
 そんな事をレポーターさんに聞かれて、あたしははっとした。そっか、よく考えたら、言う事を聞かないポケモンとがんばって仲良くなろうとしている所をテレビに見せれば、恥さらしにはならない! 逆にいい印象で見られる!
「そうだよヒカリ! マンムーと仲良くなるためにがんばってる所を取材してもらえばいいじゃないか!」
 サトシも、同じ事を考えてたみたい。
「うん! あたしも同じ事考えてた! あたし、取材受けます!」
「ありがとうございます!」
 レポーターさんも、笑みを浮かべた。
「紹介が遅れましたが、私はテレビコトブキのレポーター、ユミといいます。こちらは、カメラマンのタクです」
 レポーターさんは、丁寧に自己紹介した。そしてレポーターさんに紹介されたカメラマンさんも、「よろしくっ!」と笑みを見せて挨拶した。
「俺はサトシです」
「タケシと言います」
 サトシとタケシも、ユミさんとタクさんに自己紹介した。
「よし、じゃあ早速準備しなきゃ!」
 そうと決まったら、身だしなみを整えておかないと! あたしは早速、さっき落としちゃった手鏡とブラシを拾って、髪を整える。

 でも、そんなあたしの姿を陰からじっと見つめる、1人の女の子がいた事には、あたしは気付いていなかった……

 * * *

 そんな訳で、早速取材の準備が始まった。
 最初に、ユミさんからインタビューを受ける事になった。タケシが用意してくれたテーブルの前に座って、その横にユミさんが座る。そしてあたしの正面には、タクさんがいつでもOKというように、カメラをこっちに向けている。
「カメラの前だからって、硬くならなくていいからね! 自然体でいればいいんだよ!」
 タクさんが、台座に付けたカメラを覗きながらあたしに呼びかける。
「ダイジョウブです!」
「ポチャポ〜チャ!」
 あたしはタクさんに、はっきりとそう答えた。抱いているポッチャマもあたしに続けて答えた。カメラの前に立つ事は、コンテストでのインタビューで慣れてるからね。
「いいなあ、ヒカリさん……ハルナもあんな風にインタビュー受けられたらなあ……やっぱりヒカリさんって凄いねえ、ルーナ……」
 ハルナがうらやましそうにあたしの姿を見てつぶやいた。
「ポケモンコーディネーターというのは、おのずとテレビに出る機会が多いからな。いい成績を残したコーディネーターは、こうやってテレビで取り上げられてもおかしくないさ」
 そんなハルナのつぶやきに、タケシが答えた。それを聞いたハルナは、「そっか、じゃあハルナもいい成績上げればいいんだ!」と1人で納得していた。
「俺もあんな風にインタビューされてみたいぜ……」
 サトシも、珍しくうらやましそうにつぶやいた。
「あなた達にも、インタビューをしたいと思っていますよ。ヒカリさんの旅の仲間として、是非お話を聞かせて欲しいですから」
「えっ、本当ですか!?」
 ユミさんの言葉に、サトシとハルナが声を揃えて反応した。2人共嬉しそうな顔。
「おいおい、あくまでメインはヒカリだって事を忘れるなよ」
 そんな突っ込みを入れるタケシに、サトシは「わかってるさ」と答える。
「ユミさん、準備はいいですか?」
「こっちは準備OKよ!」
 カメラを覗きながら、タクさんはユミさんとやり取りをする。
「それでは、そろそろ本番入ります! ヒカリちゃんは大丈夫かい?」
「ダイジョウブです!」
「ポチャポ〜チャ!」
 あたしはポッチャマと一緒に、カメラに向かってはっきりと答えた。
「では、本番行きます!」
 タクさんが声をかけると、タクさんはカメラを覗き込みながら、右手でカウントを始めた。
 5、4、3、2、1。
 右手の指が、カウントしていく毎に1本ずつ折れていく。こうやって目の前で本番までの時間がカウントされると、ちょっぴり緊張する。そして1までカウントして立てた指が人差し指だけになると、右手の人差し指が、こっちを向いた。カメラが動き出した合図。
「それでは、ヒカリさんに早速インタビューを行いたいと思います。ヒカリさん、よろしくお願いします」
 ユミさんの顔がカメラに向いたかと思えば、すぐにあたしに向いた。
「よろしくお願いします」
「ポチャマ」
 あたしは落ち着いてユミさんに向けてお辞儀する。ポッチャマも、それに合わせてお辞儀する。
「では、まず最初に。ヨスガ大会、ズイ大会と続けて成績が伸び悩み、大変苦悩していたと聞きましたが、その時はどんな思いだったのですか?」
 最初の質問をされて、ユミさんの持つマイクがあたしの口元に回される。
「はい。2回連続で1次審査落ちしちゃった事は、本当にショックでした。もうあたしは、何をしたらいいのかわからなくなって、コンテストには向いてないのかなってまで思って……はっきり言って、完全に自分に絶望しちゃってました」
「では、その絶望からヒカリさんを救ってくれたのは何だったと思いますか?」
「……やっぱり、一緒に旅をしてくれたみんなだと思います。みんなと一緒に旅をしていて、あたしはみんなからいっぱい元気をもらえました。だから、あたしも負けてられないって思うようになったんです」
「それが、ミクリカップの優勝に繋がった訳ですね」
「そうですね……」
 そんな事を言われると、あたしはちょっぴり照れちゃう。思わずエヘヘと笑いがこぼれちゃった。

 * * *

 そんなインタビューが、しばらくの間続いた。そして遂に、話題はあの話になった。
「さて、ヒカリさん。最近新しい手持ちを加えたそうですが、その事で今は悩んでいるそうですね」
 ユミさんのその言葉を聞いて、いよいよ話がマンムーの事に移ったんだと確信した。自分のポケモン悪い所をカメラの前で言うのはやっぱり抵抗があったけど、ここはあたしががんばっている所を見せなきゃ、って気を引き締めて、口を開いた。
「はい。ミクリカップが終わった後にゲットしたウリムーなんですが、イノムーに進化してから急に言う事を聞かなくなっちゃったんです。そしてそのままマンムーに進化しちゃって、もう暴れ出したら手に負えなくなっちゃんたんです。どうして言う事を聞かないのかなって思いましたけど……」
 そんな時、1匹のとりポケモンがあたしの真上を通り過ぎた。すると、そのまま何かをあたしの頭の上に落とした。急に頭に何か軽いものが当たったのに気付いて、あたしは言葉を止めた。
「何、今の?」
 上から落ちてきた何かは、あたしの足元に落ちたような気がしたから、すぐに席を立って足元を探す。すると、ポッチャマが白い筒のようなものを拾って、あたしに差し出した。
「何だろ、これ?」
 手にとって見た感じ、どう見ても筒のように丸めてひもで縛った白い紙。でもそこに、とんでもない言葉が書かれていたのをあたしは見つけちゃった。
「なになに、『挑戦状 フタバタウンのヒカリへ』!?」
 あたしは自分の名前が書いてあった事に驚いて、最後の方の言葉を、トーンを上げて読んじゃった。
「どうしたんだ?」
「何があったんですか?」
 インタビューを見守っていたみんながすぐに、あたしの周りに集まる。そしてすぐに、あたしが手に取っている『挑戦状』の紙を覗き込む。
「ちょ、挑戦状!?」
「ヒカリさんに、挑戦状ですか!?」
「誰からなんだ?」
 みんなが驚いてあたしに言葉を浴びせてくる。でも、そんなにいっぺんに言われても答えられる訳ない!
「待って! 今読んでみるから」
 あたしはそう一言言ってみんなを落ち着かせると、ひもをほどいて丸まった紙を開く。そして、書いてある字に目を通して、声に出して読んでみる。
「えーと、『フタバタウンのヒカリへ あなたはあたしのママを前のコンテストで下して、優勝しましたね。その敵討ちをさせてもらいます。勝負はもちろんコンテストバトルで』……」
 紙に書いてある事の意味が、全然理解できなかった。前のコンテストでママを下した? あたし、そのような人とカンナギ大会でぶつかった覚えなんてないよ……?
 とりあえず続きを読んでみる。
「『場所はこの下に書いてある地図に書いてあります。その場所に、今日の夕方必ず来てください。絶対に逃げないでください。逃げたらみんなに言いふらしますよ』……」
 言葉遣いが丁寧な割には最後に随分生意気な事書くのね、って思って最後の名前が書いてある所に目をやった。するとそこには、またとんでもない言葉が書いてあった。
「『「カンナギの鬼百合」の娘、「2代目鬼百合」アヤメ』!?」
 あたしは驚いて、また最後の方の言葉を、トーンを上げて読んじゃった。
「何だって!?」
「『カンナギの鬼百合』って言ったら、前にヒカリさんとぶつかったユリさんの事じゃないですか!!」
 ハルナの言う通り。『カンナギの鬼百合』は、前にあたしがカンナギ大会でぶつかった、元ポケモンコーディネーターのトップポケリスト、ユリさんの通り名。コーディネーターとして活動していた頃は、連勝記録を伸ばしていたあたしのママを破った実力者。実際あたしがぶつかった時も、その気迫を感じ取った。今はトップポケリストとして活動しているけど、あたしの活躍を見た事がきっかけで、カンナギ大会で復帰したんだって。その実力は本物だった。でもあたしは一歩も引かないで全力でぶつかって、ユリさんに勝ってリボンをゲットした。
 そんなユリさんに子供がいたなんて、全然知らなかった。しかも、『2代目鬼百合』って名乗っているって事は、ポケモンコーディネーター?
「……そうだ、思い出しました! このアヤメって人、『2代目鬼百合』って名乗って最近デビューした女の子です。でも、まだ優勝した事はないですから、大した相手じゃないと思いますよ」
 ハルナは、ポケモンコンテストの事に詳しい。だから、このアヤメって人がどんな人なのかもすぐに当ててみせた。
「こんな奴なんて、ヒカリさんに挑戦状叩きつけるのにふさわしくなんかないですよ! ヒカリさん、無視してもいいんじゃないですか?」
 ハルナが、あたしの顔を覗き込んだ。でもあたしは、ハルナとは逆の事を考えていた。別に「絶対に逃げないでください。逃げたらみんなに言いふらしますよ」って言葉が怖かったからじゃない。あのユリさんの娘だから、どんな人なのか興味がある。それに、今ちょうどマンムーの事について聞かれた所。この機会を使って、マンムーがどんなポケモンなのかをテレビに見せる事もできる。ひょっとしたらマンムーとの事で何か掴めるかもしれない。
 そう考えて、あたしはすぐに結論を出した。
「あたし、この挑戦受けるわ。ポケモンはマンムーで」


TO BE CONTINUED……

[767] SECTION02 決闘! 『2代目鬼百合』登場!
フリッカー - 2008年12月28日 (日) 09時35分

「あたし、この挑戦受けるわ。ポケモンはマンムーで」
「ええっ!?」
 あたしの言葉に、みんな揃って驚きの声を上げた。
「……言う事聞かないまま、コンテストバトルなんてできるのか?」
 サトシが、心配してあたしに聞く。
「……できないと思う。でも、ひょっとしたらマンムーとの事で何か掴めるかもしれないじゃない」
「でも、そんな事して、負けちゃったらどうするんですか? だって『決闘』なんですから、負けちゃったら……」
 ハルナも、心配そうな顔を浮かべている。
「ダイジョウブ。負けても平気だから。決闘だからって普通のポケモンバトルでしょ。別に負けても死んじゃう訳じゃないんだから。それに、ポケモンバトルさせれば、ポケモンも成長するし」
「なるほど! 勝ち負けよりも、マンムーを成長させる事を重視して考えたんですね!」
 あたしの言葉にハルナは納得した。そう、前にもあたしは、なかなか言う事を聞いてくれないリーシャンが、ポケモンバトルをさせる事で成長して、言う事を聞くようになったのを見た事がある。それなら、マンムーだってきっと、バトルを重ねていけば言う事を聞くようになるはず。そう考えて、あたしは挑戦を受ける事を決めたの。
「タク、聞いた? これは言う事を聞かないマンムーの真相を確かめる絶好のチャンスよ!」
「そうですね! そのバトルの様子、僕達が取材させてもらってもいいかな?」
 タクさんの顔が、あたしに向く。
「はい」
 あたしは、はっきりそう答えた。


SECTION02 決闘! 『2代目鬼百合』登場!


 そして、ついに日は暮れて、夕方――約束の時間になった。
 あたし達は地図に書いてあった通りの場所にやって来た。そこは、ポケモンセンターの近くにあるどこにでもありそうな、ごく普通の公園だった。その真ん中に、ポケモンバトル用のコートがある。たぶんここで、決闘をやるんだと思う。
「予想外の事態が発生しました。何とヒカリさんが、『挑戦状』を受け取ったのです。私達取材班は、その挑戦を受ける事を決めたヒカリさんを取材するべく、挑戦を受ける場所となったこの公園にやって来ました」
 もう撮影は始まっている。ユミさんがタクさんの構えるカメラの前で、歩きながらマイクを持って冷静にしゃべっている。
「挑戦状の送り主は、『2代目鬼百合アヤメ』と書かれていました。この名前が正しければ、かの『カンナギの鬼百合』ユリさんの娘で、最近デビューしたばかりのカンナギタウンのコーディネーター、アヤメさんという事になります。挑戦状によれば、アヤメさんが挑戦を申し込んだ理由は、母ユリさんの仇打ちと書いてありました。果たして、彼女が挑戦を申し込んだ真意とは、一体何なのでしょうか? 全ては、まもなく明らかになります!」
 ユミさんがそう言い終わった時、コートの奥から声が聞こえてきた。
「待っていたわよ、フタバタウンのヒカリ!」
 女の子の声。その高い声にしては、どこかたっぷりな自信を感じさせる口調だった。そして、ちょうどコートの向かい側に、1人の女の子がゆっくりと姿を現した。藍色のショートヘアーに、きらりと輝く眼鏡の裏から見える赤い瞳。そして、青を基調にした、ファスナーを開けて着ているパーカーの間から、白いシャツが見える。
「あなたが、アヤメ?」
「そう、あたしが『2代目鬼百合』、アヤメよ!」
 あたしが聞くと、アヤメは自信たっぷりに自己紹介して見せた。
「やはり……! 挑戦状の送り主は『カンナギの鬼百合』ユリさんの娘、アヤメさんでした!」
 タクさんのカメラがアヤメに向いて、ユリさんのアナウンスに力が入る。
「前のカンナギ大会で、あなたのママとコンテストでぶつかったから、どんな人だと思ってたけど……」
「馴れ馴れしくしないでっ!!」
 あたしが話を持ちかけようとした瞬間、アヤメはそれを嫌うように途中で怒鳴りつけた。そんな反応に、あたしはちょっぴり驚いた。
「あんたはあたしによってママを倒した仇、つまり、あたしの『敵』よ!! あんたのママはあたしのママに負けたくせに、あんたのせいで、ママの子供のあたしもプライドを傷付けられたわ!! だからママの仇は、ここであたしが取るんだから!! ママの名に賭けて!!」
 アヤメは眼鏡越しの強い眼差しであたしを強くにらみつけながら、あたしを指差して強気に言い放った。な、何なの、この子……ユリさんの子供なのに、ユリさんのイメージとは全然違う雰囲気……何だか自信たっぷりというか、プライド高いというか、高飛車というか……とにかく、あまりいい印象には見えない。
「何なのアイツ……ユリさんの子だからって、調子こいてない?」
 それを見たハルナが、不満そうにつぶやいた。それにはサトシもタケシも、「確かに……」とうなずいていた。みんなもあたしと考えてる事はほとんど同じみたい。
「ちょうどテレビ屋さんも来てるみたいだし、ここであたしが勝った姿をテレビで流せば、あたしは有名人になれるわ!! カメラマンさん、あたしがここで咲かせる、ママにも負けない華麗な花を、瞬きしないで映してよね!!」
 アヤメはカメラを向けているタクさんに向けて、自信たっぷりにそう言い放った。それにはタクさんも驚いて、「あ、ああ……」と拍子抜けした返事をするしかなかった。
「さ、それじゃ始めましょ!! 挑戦状通り、ルールはコンテストバトルで!! あたしはこのポケモンで行くわ!! いくよ、フシギソウ!!」
 アヤメが一方的に話を続けて、あたし達が話す隙が全然ないまま、アヤメはモンスターボールを取り出した。そのモンスターボールには、青いボールカプセルが付いていた。それを勢いよく投げ上げると、たくさんの桜色の花びらが花吹雪となって飛び出して、中からポケモンの姿が現れた。背中に赤い花のつぼみを背負った、緑色のポケモン。前に見た事のある、フシギバナが小さくなったような感じ。
「あれがフシギソウ……」
 あたしはすぐに、ポケモン図鑑を取り出した。
「フシギソウ、たねポケモン。フシギバナの進化前。つぼみが背中に付いていて、養分を吸収していくと大きな花が咲くという」
 図鑑の音声が流れた。
 そんなフシギソウは、あたしの前でタッと着地すると、器用に逆立ちを決めて一回転してみせた。
「さあ、あんたは何を出すの?」
 こっちを挑発するように、あたしに聞いてくるアヤメ。あたしはすぐに1個のモンスターボールを取り出した。もちろん、その中に入っているのはマンムー。でもその時、あたしの手が自然と止まった。

 本当にマンムーでいいの? マンムーが言う事を聞かない姿を、テレビに映しちゃって本当にダイジョウブ?

 そんな考えが一瞬、頭を過ぎった。一度は心に決めた事だけど、直前になるとやっぱり気になってくる。そして、少しだけそれが怖くなってきて、モンスターボールを持つ手が動かせない。
「どうしたのよ? 早く出しなさいよ!!」
 そんなアヤメの声が聞こえてきて、あたしははっと我に返った。こんな事考えちゃダメ。一度決めた事なんだし、マンムーの事も考えたんだから、ちゃんとやらなきゃ! そんな気持ちが、あたしの心に喝を入れた。
「行くわよ、マンムーッ!!」
 あたしは手に持ったモンスターボールを、思い切りフィールドに投げた。そしてモンスターボールが開いて、中から『巨体』って言葉がふさわしい、マンムーの茶色くて山のように大きな体が姿を現した。
「ええっ!? こんなデカブツを、あいつが持ってたの!?」
 そんなマンムーを目の当たりにしたアヤメは、驚いてそんな事を口に出していた。目の前にいるフシギソウも、あまりの大きさの差に驚いて固まっちゃっている。それはもう、大人と子供ってレベルじゃない。その気になれば、マンムーはフシギソウを踏み潰す事だってできるくらいの大きさの差がある。
「うわ〜っ、近くで見るとやっぱ大きい……」
 マンムーを間近で見たハルナは、感心して思わずそんな事をつぶやいた。
「……あんた、バカにしてるの!? 大きいからって調子に乗るんじゃないわよ!!」
 しばらく言葉を失っていたアヤメだけど、すぐに強気であたしに言い返した。
「さあ、ヒカリさんが繰り出したのは、ヒカリさんが言う事を聞かずに困っているという2ほんキバポケモン、マンムーです! そしてアヤメさんが繰り出したのはフシギソウです! 体格の差では明らかにマンムーが有利ですが、ヒカリさんの言う事を聞かないというマンムーは、どんな動きを見せるのでしょうか?」
 ユミさんのアナウンスにも熱が入って、まるで実況みたいになっている。
「いくわよマンムー! “こおりのつぶて”!!」
 先手を取るために、あたしははっきり聞こえるようにマンムーに指示を出した。
「……」
 でも、マンムーは石のように微動だにしない。そのまましばしの沈黙。
「あれ? 聞こえてないの?」
 ハルナのつぶやきが聞こえた。アヤメも微動だにしないマンムーを見て、目を丸くしている。
「なんとマンムー、ヒカリさんの指示が聞こえていない、のでしょうか……? ヒカリさんがおっしゃっていた通り、指示を受けても全く動く気配を見せません」
 ユミさんも驚いた様子で、だけどテレビのレポーターらしく冷静さを保ったままで、アナウンスを続ける。
 ああ、やっぱり変わってない……なんて嘆いてる場合じゃない。ここでいう事を聞かせるようにさせなかったら、先には進めない。あたしはもう一度指示を出す。
「じゃあ、“とっしん”!!」
「………」
 でも、やっぱりマンムーは銅像のように動かない。
「アッハハハハハハ!! 何なの、そのマンムー!! 耳が遠いんじゃないのぉ!?」
 するとアヤメが、バカにしたようにその場でマンムーを指差しながら大声で笑い出した。やっぱりあたしがちょっと恐れていた事が、実際に起きちゃった。
「ち、違うわよ! マンムーはただ、言う事を聞かないだけで……」
「言う事を聞かない〜!?」
 あたしはすぐに訳を説明しようとするけど、アヤメは途中まで聞いて、目を丸くしてあたしの言葉を最後の方のトーンを上げて繰り返した。そして、またすぐに大声で笑い出した。
「アッハハハハハハ!! そんなポケモンで決闘するつもりなのぉ!? あたしもなめられたものね!! アッハハハハハハ!!」
 あたしを、そしてマンムーをバカにして笑うアヤメに、あたしはちょっぴりムカついてきた。いくら言う事を聞かないからって、そこまでバカにする事はないでしょ……!
「じゃあ、ただでかいだけで中身は大した事ないかもね!! 行くよフシギソウ!! “はなびらのまい”!!」
 とうとう先手をアヤメに取られた。アヤメの指示に答えて、フシギソウはピンク色の花吹雪をマンムーに向けて発射! それはマンムーの動かない体に簡単に当たった。そもそもマンムーのような体の大きい、しかも動かない相手に当てられない事自体ありえないけど。
「あそれ! 見事に花が、咲いたぜよ〜っ!!」
 するとアヤメは急に両手に扇子を持って、膝立ちしながらパッと扇子を開いて振りながらポーズを決めた。そしてそのまま、フッ、と言ってるように笑みを作ってみせる。
「あ!! あれってまさか、『鬼百合の氷の微笑』!?」
 それを見たハルナが、真っ先に声を上げた。そう、あれはアヤメのママ、ユリさんもやっていたパフォーマンス、『鬼百合の氷の微笑』そのまんま。でも、ポーズとかも明らかにそのままだから、パクってるようにしか見えない。いくらユリさんの子供だからって、これはどうなのかな……?
「……ってあれ!?」
 すると、アヤメが急にパフォーマンスをやめて驚いた目をした。見ると、そこにはさっきの“はなびらのまい”を受けたにも関わらず、平気で立っているマンムーの姿があった。
「そんな!? 効果抜群のばずよ!?」
 アヤメもフシギソウも動揺している。そっか、そういえば進化したばかりの時、暴れだしたまま止まらなくなったマンムーを止めようとして、ポッチャマが攻撃した時があったけど、マンムーはポッチャマの“バブルこうせん”にも、“うずしお”にもビクともしなかった。それを考えれば、効果は抜群でも“はなびらのまい”に耐えられたのは不思議な事じゃない。
「なんと! フシギソウが放った“はなびらのまい”にも、マンムーはビクともしません! 何という防御力!」
「す、凄い……言う事は聞かなくても、さすがヒカリさんのポケモンだあ……」
 実況をしてるユミさんも、観戦しているハルナも、マンムーの防御力には感心していた。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 すると、マンムーが急に重い声で吠えて、2本足で一瞬体を起こした。さすがに攻撃された事には反応しないほど、鈍感じゃないか。体を起こしたその姿は、見てて凄いプレッシャーを感じる。
「わああっ!!」
 そんなマンムーの姿に驚いて、尻餅をつくアヤメ。そのままマンムーが体を戻すと、ズシンと地響きが響いた。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 そのまま、マンムーはフシギソウに向けて“こおりのつぶて”を発射! 直撃! 効果は抜群! たちまち氷付けになって、跳ね飛ばされるフシギソウ。バトルは一瞬でケリが付いた。こんなあっさりバトルが終わっちゃうなんて、あたしも予想外だったけど。
「マンムーの“こおりのつぶて”で、フシギソウは1発ノックアウト!! 何というパワーでしょう!! コンテストバトルと言えるかどうかは疑問な所はありますが、文句なしにヒカリさんの勝利です!!」
 ユミさんの熱の入った実況が聞こえてくる。
「フ、フシギソウ!? そんな、1発で……!?」
 一撃で戦闘不能になったフシギソウを見て、動揺するアヤメ。
「す、凄い!! さすがはヒカリさんのポケモンだあっ!!」
 ハルナが、歓声を上げた。
「いや、大変なのはこれからだぞ」
 でも、タケシがそうハルナに言うと、ハルナは「えっ!?」と声を裏返した。
「よくやったわ、マンムー」
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 するとあたしがそう言った途端、またマンムーが雄叫びを上げた。そして、そのまま真っ直ぐアヤメに向かって突撃していった! まずい! あたしが一番恐れていた事が、本当に起きちゃった!
「あっ!! ちょっと待ってマンムー!! もうバトルは終わったのよ!!」
 あたしが呼びかけるけど、マンムーの耳にはやっぱり届かない。むしろどんどん加速していってる気がする。
「おっと!! マンムーが急に暴走を始めました!! ヒカリさんの指示を聞いても全く止まる気配を見せません!!」
 ユミさんの熱の入った実況が、また始まった。見てる場合じゃない、って言いたい所だけど、カメラマンさんとレポーターさんだから仕方がない。
「ちっ、まだやる気なら受けて立つわよ!! ピジョン!!」
 でも、アヤメは逃げる所か、逆にモンスターボールを取り出してバトルを続ける気満々。すぐにモンスターボールを投げ上げる。出てきたポケモンは、頭にあるトサカが特徴的な、茶色の体のとりポケモン、ピジョンだった。
「“フェザーダンス”!!」
 アヤメの指示で、ピジョンは羽根をばら撒きながら空中で激しく舞い始めた。ばら撒かれた羽根は、そのままマンムーにまとわり付く。でも、マンムーは止まらない。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 そのままピジョン目掛けて“とっしん”した! 直撃! あんな巨体を思い切りぶつけられたら、ひとたまりもない。ピジョンはたちまち上に跳ね飛ばされた。
「ああっ、ピジョン!!」
 ピジョンは何とか空中で持ちこたえた。でも、あの一撃はかなり強烈だったみたい。かなり体力を消耗している。
「ど……どうしたのよアヤメ……あたしのママは、『カンナギの鬼百合』なのよ……!! こんな奴なんかに、負けるはずなんて……!!」
 するとアヤメは、急に呪文のようにそんな事をぶつぶつとつぶやき始めた。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 アヤメがそんな事している間にも、マンムーは“とっしん”してくる! その先には、アヤメがいる!
「止まってマンムー!! その先にはアヤメがいるのよ!!」
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 あたしは必死で呼びかけるけど、マンムーはやっぱりスピードを緩めない! このままじゃ、アヤメが……!
「アヤメ、逃げて!!」
 もう止まらないと判断したあたしは、すぐにアヤメに呼びかけた。
「わわわっ!!」
 アヤメもマンムーが真っ直ぐこっちに向かってくるのみ気付いて、慌てて逃げ出した。アヤメがさっきまでいた場所を、マンムーは音を立てながら走り去っていく。あそこにもしアヤメが残っていたら……と思うと、ゾッとする。
「く……っ!! ピジョン、“はがねのつばさ”!!」
 でもアヤメは逆にマンムーを強くにらみつけて、ピジョンに指示を出した。完全にバトルして倒すつもり。ピジョンは羽に力を込めて、マンムーに後ろから真っ直ぐ向かっていく!
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 でも、マンムーはすぐに振り向いて、“げんしのちから”で応戦! 体から集めたエネルギーを、ボールにして発射! 直撃! 効果は抜群! ピジョンはあっけなく弾き返されて、地面に墜落した。
「ああっ、ピジョン!!」
 アヤメが叫んでも、ピジョンは立ち上がらない。完全に戦闘不能になっている。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 それでも、マンムーの暴走は止まらない! そのまま今度はこっちに向かってくる!
「もうやめて!! 戻ってマンムー!!」
 もうマンムーはあたしの手じゃ止められない。そう思ったあたしは、すぐにモンスターボールを取り出して、マンムーにモンスターボールを向けた。マンムーの大きな体が、モンスターボールに吸い込まれていく。ようやくマンムーを止められて、あたしはほっと一息付いた。それは、やっぱりまだ言う事を聞いてくれないもどかしさで出た、ため息にもなっていた。
「ヒカリさんのおっしゃっていた通り、マンムーはヒカリさんにとって制御不能なポケモンになっていた事が、皆さんもおわかりいただけた事でしょう。それにしても、あのパワーは凄まじいものがありました。それをヒカリさんが制御可能になれば、ヒカリさんにとってとても心強いポケモンとなる事は間違いないでしょう」
 ユミさんがカメラにまた体を向けて、アナウンスしていた。
「ダイジョウブ、アヤメ?」
 あたしはすぐにアヤメの所に駆け寄った。アヤメは負けたのが悔しいのか、手に持っていた扇子を足元に落として立ち尽くしたままだった。でも、アヤメから帰ってきたのはあたしが思っていたものとは、全然違う言葉だった。
「……何よ!! あんな言う事を聞かないポケモンで勝つなんて、こっちに余裕見せつけるつもりなの!?」
 その眼鏡越しの鋭い目線に、あたしは一瞬ビクッとした。でも、その目には少しだけ、涙が溜まっているのが見えた。
「い、いや、そんなつもりはなかったけど……」
「あたしは認めないわよ、あんな勝ち方!! あんな力で強引に突破するやり方、コンテストバトルじゃないじゃない!! あのマンムーのパワーだけで勝ったって事を忘れないでよ!! ポケモンの魅せ方なら、あたしの方が絶対に上なんだからね!! あのマンムーくらい強いポケモンをゲットして、コンテストらしく魅せて、次は絶対あんたに勝つんだからね!! 覚えてなさいよ!!」
 あたしの言葉を最後まで聞こうとしないで、アヤメはあたしを指差しながら、そんな捨てゼリフをさんざん言った後、フシギソウとピジョンをモンスターボールに戻して、そのまま背中を向けて走り去って行っちゃった。
「何よっ!! あんたみたいな奴なんかに、ヒカリさんを倒せるもんか!! ベーだ!!」
 ハルナがあたしの後ろで、アヤメに向けてアカンベーをしていた。
「いやあ、それにしても凄いパワーだったね、君のマンムー」
 すると、カメラを上に向けて担いだタクさんが、あたしに近づいてきてそう声をかけた。
「ハルナもそう思います! あれで言う事聞くようになったら、ホント凄いポケモンになると思いますよ!」
 ハルナも、目を輝かせながらあたしに駆け寄って言う。
「えっ、そんな……それでも言う事聞いてくれなかったし……ちゃんとしたコンテストバトルにもなってなかったし……」
「あれだけ強いんだったら、尚更仲良くならない訳にはいかないじゃないか! 自分でゲットしたポケモンが強くなったって事はうれしいだろ?」
「コンテストバトルは、後からでもできるようにすればいいさ。今は仲良くなれるようにする事を考えればいいと思うぞ」
 そんな事言うあたしに、サトシもタケシも明るい表情でそんな事を言った。あたしはちゃんとしたコンテストバトルができなかったから、みんなに何かダメ出しされるんじゃなかったと思ったけど、みんなあたしが思ってた事とは逆の事を言っている。
「ポチャマ!」
 足元にいるポッチャマも、みんなと同じ事を言ってるように、そうあたしに呼びかけた。
「ありがとう、みんな。そうよ、ダイジョウブよね!」
 あたしはみんなにお礼を言って、あたしがよく使う言葉を自分自身に言い聞かせた。
「あの子、確かアヤコさんの……」
 そんなあたしのバトルを見ていた、そんな事をつぶやいている1人の女の人がいた事には、あたしは気付かなかった。

「くっ、あんなポケモンをあいつだけ持ってるなんて……っ!!」
 そして、走り去りながらアヤメがそんな事をつぶやいていた事にも、あたしは気付かなかった……

 * * *

 その日の夜。
 ポケモンセンターに戻ったあたし達は、自分達の泊まる部屋に戻っていた。
 ユミさんとタクさんの取材はまだしばらく続くみたいだから、2人も残っている。そして、ベッドが1つ空いていたから、ハルナも同じ部屋に泊まる事になった。
 そんな部屋の中で、あたし達はいつもと変わらない話をしていた。寝る準備をして、いつでも寝られる状態で。
「ねえヒカリさん、次はいつのコンテストに出るんですか?」
「アケビタウンのコンテストに出ようと思ってるの。それをマンムーのデビュー戦にしたいんだけど、ね……」
「へえ、そうなんですか! じゃ、忘れずに応援に行きますね! マンムーもそれまでに言う事聞くようになるといいですね! いや、ヒカリさんだったらそうなれますよ!」
「ありがとう、ハルナ」
 ハルナは極端な所はあるけど、あたしの事を真っ直ぐに信じてくれる。あたしが落ち込んでいるところを見ても、失望したりなんかしないで、あたしの事を信じて応援してくれた。それはまるで、トレーナーの事を信じるポケモンみたい。
「それにしても、最近あまりコンテストに出ていませんよね? どうしてですか?」
「出たいからってあれもこれもってコンテストに出たってよくないって、教えられたからよ」
「あれもこれもって出てもよくない?」
「そう。たまには充電もする必要があるって、ノゾミに言われたのよ」
「へー、なるほど! 息抜きも必要って事ですね!」
「そういう事!」
「わかりました! 肝に銘じておきます!」
 ハルナははっきりと答えた。
「ヒカリさんとハルナさん、お2人は仲がいいんですね」
 すると、部屋の奥にいたユミさんの声が聞こえてきた。その隣には、カメラをこっちに向けているタクさん。そう、今の話も全部カメラに映されていたの。「ヒカリさんの日常の風景も取材したい」って話だから。
「当然ですよ! ハルナはヒカリさんの一番弟子だからね! ね、ヒカリさん?」
「え!? ま、まあね……」
 ハルナはカメラの前で見たか、と言うように胸を張ってみせる。でも、『一番弟子』って言葉はやっぱり言い過ぎだと思うから、あたしは苦笑いするしかない。でも、それもハルナらしいと思うんだけどね。
「ヒカリもすっかり、ハルナの先輩って感じだよな」
「ああ」
 サトシとタケシも、顔を合わせてそんなやり取りをしていた。
「あ、もうこんな時間ね! そろそろ取材はお開きって所ね、タク」
 ユミさんが部屋の時計に目をやった。見ると、時計の針はもう10時を過ぎている。
「ああ、そうですね! ここまで取材してもらっていろいろ疲れさせちゃったけど、みんなごめんね!」
「いいえ、そんな事無いです」
 カメラを止めて謝るタクさんに、あたしは明るく答える。
「また明日も、取材よろしくお願いしますね! じゃ、私達はこの辺で」
「お休みなさい」
 そう言って部屋を出て行く2人に、あたしははっきりと挨拶した。
「俺達もそろそろ寝ないとな」
「そうね……ハルナも眠い……ふわあああ……」
 サトシが言った時、ハルナが大きなあくびをした。それを見ると、あたしも眠たくなってくる。それはみんなも同じみたい。あたし達はすぐに、ベッドに入り込んだ。
「じゃ、もう寝ましょうみんな」
「そうだな。じゃ、みんなお休み」
「お休み〜」
 タケシが部屋の明かりを消す。そしてあたしは、ベッドの中でゆっくりと目を閉じた。そしてそのまま、いつものように自然と眠りに引き込まれていった。


TO BE CONTINUED……

[778] SECTION03 対決!? ヒカリVSマンムー!?
フリッカー - 2009年01月12日 (月) 22時09分

「ポチャッ!! ポチャマッ!!」
 急にポッチャマの声が聞こえてくる。そして、あたしの頭が強く横に揺さ振られた。そのせいで、あたしは無理やり眠りから引きずり出された。
「う〜ん……うるさいわよ、ポッチャマ……」
 当然、あたしはまだ寝たいから、うっすらしかない意識の中で、ポッチャマにそう言って毛布を頭に被る。
「ポチャマッ!!」
 それでもポッチャマは、頭に被った毛布をひっぺがしてまで、あたしに呼びかけてくる。
「もう……やめてよポッチャマ……寝かせてよ……」
 外からは明かりを感じない。それなのに、なんでポッチャマは起こそうとするの……? あたしはポッチャマの声が聞こえてくる方から顔を背ける。
「ポチャーッ!!」
 すると今度は、ポッチャマがあたしのほっぺたを思い切りつついてくる。これは痛い。さすがにこれにはあたしも耐えられなかった。まどろんでいたあたしの目が、すっかり覚めちゃった。
「いた〜っ!! もうっ!! まだ夜じゃない!! なんで起こすのよ!?」
「ポチャッ!! ポチャマッ!!」
 外はまだ夜。だからあたしはすぐにポッチャマを叱るけど、ポッチャマは何やら慌てた様子で、ベッドの下を指差している。
「……どうしたのポッチャマ? 何かあったの?」
 明らかにポッチャマの様子は普通じゃない。何かあったのは間違いなさそう。あたしはすぐに、ポッチャマが指差すベッドの下を除いてみる。そこって確か、あたしのカバンがあったはずだけど……
「ああっ!?」
 それを見たあたしは、声を上げずに入られなかった。
 だって、そこには確かにあたしのカバンがあったけど、閉めていたはずのあたしのカバンは開けられていて、中に入っていたものがその場に無造作に散らかっていたんだから! 大変! ドロボウにあっちゃったみたい!


SECTION03 対決!? ヒカリVSマンムー!?


 あたしは慌ててカバンの中身を確かめる。いろいろ確かめてみるけど、取られた物は今の所見つからない。そして、モンスターボールの数を確かめた時だった。
「1、2、3、4……あれ!? 1個ない!?」
 入っているモンスターボールが、ポッチャマを入れるモンスターボール1個と、他のポケモン達が入っているモンスターボールが4個の、合わせて5個のはず。でも、入っているモンスターボールは4個しかない。念のため、もう一度カバンの中身を確かめてみるけど、やっぱり1個足りない。間違いない、ポケモンを盗まれたんだ!
「大変!!」
 見ると、寝る前に閉めたはずの部屋のドアが、開けっ放しになっている。ポッチャマは、しきりにあたしをドアの向こう側に催促している。
「まさか、ドロボウが逃げたのを見たの!?」
「ポチャ!!」
 あたしの質問に、ポッチャマははっきりとうなずいた。
「追いかけなきゃ!!」
 まだドロボウはそう遠くに逃げていないかもしれない。そうじゃないにしても、もたもたしてたら逃げられちゃう! あたしは着替える暇もないまま、すぐにポッチャマと一緒に部屋を飛び出した。

 * * *

 ポケモンセンターの外に出る。空は曇っていて、月が見えない。そして、風が冷たい。やっぱり夜は冷える。
 でも、そんな事を気にしてる場合じゃない。まずはドロボウがどこに行ったのかを探さなきゃならない。でもあたしは、サトシのように空を飛べるポケモンを持っていない。そんな時に役に立ってくれたのは、においで探してくれるウリムーだった。でもそんなウリムーもマンムーになって、全然言う事を聞いていくれないんじゃ、役に立ってくれるはずなんてない。ああ、こんな時に言う事を聞いてくれたなら……!
 とりあえず、残っているポケモンの無事と、誰が盗まれたのかを確かめるために、あたしは3つのモンスターボールを全部手に取って、投げ上げた。
「ミミ!!」
「チュパ!!」
「エポ!!」
 出てきたのは、ミミロル、パチリス、エテボース……あれ? マンムーがいない!?
「マンムー!? じゃあ、盗まれたのは……」
「フフ、そのまさかよ!!」
 その時、急にそんな聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。それと同時にあたしの所に、一筋の光線がいきなりこっちに飛んできた!
「わわっ!!」
 それに気付いたあたし達は、慌てて逃げた。あたしがいた所に、光線が命中、そして爆発! 危ない所だった……と思いながら光線が飛んできた先を見ると、そこには見覚えのある女の子とポケモンが立っていた。その姿を見て、あたしは驚いた。
「ア、アヤメ!?」
 そこにいたのは、眼鏡越しの鋭い眼差しでこっちをにらむ、あのアヤメの姿があった! その側には、フシギソウもいる。
「あなたが、マンムーを……!?」
「そうよ!! このマンムー、あんたになついていないみたいだから、あたしのポケモンにしてやるのよ!!」
 アヤメは右手に持つモンスターボールを堂々とこっちに見せびらかした。それは、間違いなくあたしの持ってるモンスターボール、すなわち、マンムーの入っているモンスターボールだった。
「マンムーを返して!!」
「でもねえ……あんたは前も昼間の決闘の時も、あたしのプライドをズタズタにしてくれたじゃない!! だからこのマンムーをゲットするだけじゃ、あたしは気が済まないのよ!!」
 あたしの言葉を無視してしゃべるアヤメの鋭い目付きは、何だか昼間見たアヤメじゃない、何だか全然違う人の目付きに見えた。そしてアヤメは、マンムーが入ったモンスターボールのスイッチを押した。
「さあ、前の主人へのうっぷんを思いきり晴らしちゃいなさい! マンムーッ!!」
 そのままアヤメはマンムーが入ったモンスターボールを思い切り投げ上げた。モンスターボールが開いて、マンムーの大きな体があたしの目の前に現れた。前の主人へのうっぷん? 一体何する気なの?
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 すると、マンムーが急に重い声で吠えたと思うと、いきなりこっちに“とっしん”してきた! こっちに戻って来たいんじゃない。明らかに様子が違う。イノムーの時と同じように、暴走してる! でも、なんでいきなり!?
「ちょ、ちょっと待ってマンムー、止まって!!」
 あたしは慌ててマンムーに呼びかける。でも、やっぱりマンムーは止まらない所か、むしろ加速してきている! 入っているモンスターボールはアヤメの手元だから、これじゃ止めようがない!
「さあ、そのまま“こおりのつぶて”をお見舞いしちゃいなさい!!」
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 そんなアヤメの言葉が聞こえたと思うと、マンムーがこっちにわざを繰り出してきた! でも、発射されたのは“こおりのつぶて”じゃなくて、“げんしのちから”だった。どっちにしても、こっちに平気で攻撃してきた事に、あたしは驚いた。そのせいで、よけようと体を動かす事ができなかった。
「きゃあああっ!!」
「ポチャアアッ!!」
「ミミィィッ!!」
「チパアアッ!!」
「エポォォッ!!」
 あたし達の目の前で爆発が起きた。そして、あたしとポケモン達はたちまち爆風で吹き飛ばされた。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 あたしが倒れた所に、マンムーが真っ直ぐ“とっしん”してくる! こんな状態じゃよけられない! あたしにできる事といったら、そのまま体を伏せたままにする事だけだった。確実に踏み潰されるか、吹っ飛ばされる! そう思っていたけど、体を伏せていたおかげで、マンムーの体はあたしのすぐ上を通り過ぎて行った。足の間を通り抜ける形になったみたい。よかった……そのままマンムーは、ポケモンセンターの壁にトラックのように激突した。ガシャンという凄まじい音が響いて、マンムーの動きが止まった。壁にはヒビが入っていて、どれだけ破壊力が凄まじいものかを物語っていた。
「ちっ、命拾いしたわね……」
 アヤメが舌打ちをした。
「一体マンムーで何するつもりなの!?」
「あんたへの仕返しを、マンムーにさせてあげているだけよ!!」
「っ!?」
 それを聞いて、あたしはさっきのアヤメの言葉がどういう意味なのか、やっとわかった。何だかわからないけどアヤメは、マンムーをあたしとバトルさせる気でいる! でも、普通はそんな事したって……
「そんな!! 盗んだばかりのポケモンが、言う事を聞くはずなんてないでしょ!!」
「それはどうかしらね……?」
 アヤメがニヤリと余裕そうに笑った時、あたしの後ろでマンムーが体をこっちに向けた。その鋭い目が、またあたしに向けられた。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 マンムーは雄叫びを上げながら、またこっちに“とっしん”してくる!
「さあ、どんどんやっちゃいなさい!!」
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 アヤメの声に続けて吠えながら“とっしん”するマンムーの姿は、まるでアヤメに答えているように見えた。完全じゃないけど、あたしにはそれが凄くショックだった。
「ポチャッ!!」
 するとポッチャマが、すかさずマンムーの前に飛び出した。
「あっ、待ってポッチャマ!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 あたしが止めるのも聞かないで、ポッチャマは“バブルこうせん”をマンムーに向けて発射! マンムーの大きな体には簡単に命中するけど、マンムーのスピードは緩まない。もう焼け石に水。それでもポッチャマは“バブルこうせん”を撃ち続けるけど、マンムーは“バブルこうせん”をものともしないでスピードを緩めないままポッチャマを体で跳ね飛ばした!
「ポチャアアアアアアッ!!」
 簡単に跳ね飛ばされるポッチャマ。
「ああっ、ポッチャマ!!」
 あたしは思わず声を上げた。
「ミミ!!」
「チュパ!!」
「エポ!!」
 すると今度は、ミミロル、パチリス、エテボースまでマンムーの前に飛び出した。ちょっと待って、みんなで力ずくでマンムーを止める気なの!?
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
「チュィィィィパ、リィィィィッ!!」
「エェェェイポッ!!」
 ミミロルが“れいとうビーム”、パチリスが“ほうでん”、エテボースが“スピードスター”をまだ“とっしん”を止めないマンムーに向けて発射! でも、“れいとうビーム”を受けてもマンムーの大きな体の一部分を凍らせるだけで、動きを止められない。“ほうでん”はじめんタイプのマンムーには無力。そして“スピードスター”もマンムーの体に簡単に弾かれちゃってばかり。結局マンムーは3匹の攻撃をものともしないで“とっしん”してくる!
「ミミィィッ!!」
「チパアアッ!!」
「エポォォッ!!」
 マンムーはそのまま、3匹もポッチャマと同じように簡単に跳ね飛ばした! まるでボウリングのピンのように簡単に跳ね飛ばされる3匹。マンムーのパワーは、やっぱりあたしのポケモン達じゃ抑えきれない! でも4匹は、それでも怯まずにマンムーに向かっていく。
「待ってみんな!! もうやめて!!」
 これじゃ完全に同士討ち。なんでマンムーと戦わなきゃならないの? あたしはなるべくなら、マンムーを説得して止めたい。同士討ちするなんて、一番嫌な事だった。でも、マンムーはあたしの言葉を聞いてくれない。だから、ポッチャマ達はマンムーを力ずくで止めるしかない。
「ポオオオオチャアアアアアアッ!! ポッチャマッ!!」
 ポッチャマが“うずしお”をマンムーに向けて発射! でも、マンムーは水の渦を難なく突き破る。
「ミミィィィィッ!!」
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 次はミミロルが“ピヨピヨパンチ”で、エテボースが“きあいパンチ”でマンムーに飛びかかる!
「ミミィィッ!!」
「エポォォッ!!」
 でも、やっぱり体格の差がありすぎる。マンムーの大きな体には逆に跳ね飛ばされるだけ。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 今度はマンムーが“こおりのつぶて”を発射! その先には、攻撃態勢に入ろうとしていたパチリスが!
「チュパアアッ!!」
 直撃! たちまちあけなく弾き飛ばされるパチリス。
 それでも、ポッチャマ達は攻撃をやめようとしない。何回もマンムーに攻撃しては逆に弾き飛ばされる。そしてマンムー自身の攻撃に翻弄されてばかり。こんなのは絶対嫌!
「もうやめてマンムー!! あたしの話を聞いて!!」
 あたしはいてもたってもいられなくなって、マンムーに向かって叫んだ。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 すると、マンムーは4匹を跳ね飛ばした勢いのまま、こっちに向かってくる! 気が付いたらマンムーはもうすぐ目の前まで迫っていた!
「きゃあああああっ!!」
 もろに“とっしん”を受けちゃった! そのまま4匹と同じようにあたしも跳ね飛ばされた。あたしの体が一瞬、宙を舞う。そしてそのまま、体は重力で地面に思い切り叩きつけられた。体中に強い衝撃が走った。
「フフフ、自業自得って奴ね。言う事聞かないまま、進化させちゃった事を後悔する事ね!!」
 そんなバトルの様子を涼しい顔で見ていたアヤメは、不敵な笑みを浮かべてつぶやいていた。
「そ、そんな事……!」
 あたしは体の痛みをこらえて立ち上がりながら、そう言い返した。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 でもその時、マンムーがこっちに反転して戻ってきた! 体を起こしたばかりのあたしに、よけられる訳なんてない!
「ポチャーッ!!」
 その時、ポッチャマがあたしを助けようとして、あたしの前に飛び出した。そして、マンムーに向かってクチバシに力を込めて突撃した! “つつく”だ! でも、そんな事したって、マンムーには焼け石に水……!
「ポチャアアアアアアッ!!」
「きゃあああああっ!!」
 結局ポッチャマはマンムーを止められないまま逆に跳ね飛ばされて、続けてあたしも跳ね飛ばされた。また体が宙を舞って、思い切り地面に叩きつけられる。2回連続だからたまったものじゃない。もう体中が痛くて、しばらく立つ事ができなさそう……!
「う……ぐ……どう、して……マンムー……? なん、で……あたし達を……?」
 あたしはマンムーを見ながら、そう呼びかけた。
「決まってるじゃない。この子はあんたの事が嫌いなのよ!!」
「っ!?」
 あんたの事が嫌い。その言葉が、あたしの心に深々と突き刺さった。じゃあ、あたしの言う事を聞かなくなったのは……! 嫌でもそんな考えが頭を過った。
「だから、あたしとは似た者同士って訳なのよ!! あんたなんかといるより、あたしといた方がこの子はずっと幸せになれるのよ!!」
 さらに追い打ちをかけるアヤメの言葉。似た者同士。あたしといた方がこの子はずっと幸せ。その言葉が、またあたしの心にさっきよりも深々と突き刺さる。あたしは、マンムーに嫌われちゃってたの……!? 嫌でもそんな結論になっちゃう。じゃあ、あたしはマンムーに見捨てられたって事……!?
「……ち、違うっ!! そんなの違うっ!! あたしのマンムーは……っ!!」
 動揺する心を抑えて、あたしは強く首を横に振って言い返した。
「じゃあ、何だって言うのよ? 他に何か理由があるとでも?」
「う……」
 またまた心に深々と突き刺さるアヤメの鋭い質問。それには、あたしも言葉が詰まって、答える事ができない。受け入れたくない現実に、心がどんどん追い詰められていく。
「……答えられないようね。だったら、このマンムーをあんたからトレードしたって事にすれば、あたしは今のあんたを見逃してやってもいいよ? もっとも、この事を他の人に話したりしたらダメだけどね」
 余裕を見せてあたしにそんな提案をするアヤメ。そのメガネが一瞬、きらっと光ったのが見えた。
「い……嫌よ!! 人のポケモンを盗んでおいて、トレードした事にするだなんて、ずるすぎじゃない!! マンムーは渡さない!! マンムーは、あたしのポケモンなんだから!!」
 そんな要求なんて、受け入れられる訳ない。あたしはその事だけははっきりと断った。
「……そう、それは残念ね。それならもう、やる事は1つね!! やっちゃうのよ、マンムー!!」
 アヤメのメガネがきらっと光った。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 アヤメが言い終わる前に、マンムーはまたこっちに向かってきた。だから、冷静に考えればアヤメの言う事を完全に聞いている訳じゃない。でも、あたしにはどうしても、マンムーがアヤメの言う事を聞いているように見えちゃう。
「あたしのプライドを散々に傷つけた代償は、あんたの命でしっかり払ってもらうからねっ!!」
 あんたの命。そんなアヤメの叫び声を聞いて、あたしはゾッとした。アヤメ、完全にあたしを殺すつもりでいるんだ!
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 マンムーがこっちに“こおりのつぶて”を撃ってきた! あたしは何とか立ち上がる力が戻ったから、かわす事ができた。ポッチャマ達も慌ててかわす。あたし達がさっきまでいた場所が、一瞬で凍りついた。
「ポッチャマアアアアッ!!」
「ミミィィィィッ!!」
「チパアアアアッ!!」
「エポォォォォッ!!」
 ポッチャマ達がマンムーに向かって突撃する。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
「ポチャアアアアアアッ!!」
「ミミィィッ!!」
「チパアアッ!!」
「エポォォッ!!」
 でも、マンムーは“とっしん”して強引にポッチャマ達を跳ね飛ばした! またしても簡単に跳ね飛ばされたポッチャマ達は、とうとう倒れたまま動かなくなっちゃった。もう戦闘不能。
「そ、そんな……!?」
 もうあたしの口からは、そんな言葉しか出なかった。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 気が付くとマンムーは、そのままあたしの方にも突撃してくる!
「きゃあああああっ!!」
 また跳ね飛ばされるあたしの体。これでもう3回目。3回も跳ね飛ばされて地面に叩きつけられたら、もう体の痛さも限界まで来て、立つ体力なんてない。もう、そのまま気絶しちゃうかもしれない。
「う……ぐ……」
「さあ、これでとどめよ!!」
 アヤメが勝利を確信したように声を上げた。でも、その時だった。

 突然、ポケモンセンターの方から電撃と黒いボールがマンムーの目の前に飛んできた! 突然の別方向からの攻撃には、さすがのマンムーも驚いた。見ると、そこにはピカチュウとルナトーン! という事は……
「ヒカリーッ!!」
「ヒカリさーんっ!!」
 一緒に来たのは、間違いなくサトシとハルナだった! きっと、マンムーがポケモンセンターの壁にぶつかった事で目を覚まして、すぐにこの事に気付いたんだ。
「やばっ!! 人が来ちゃった!!」
 2人の姿を見たアヤメは、さすがに動揺した。
「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」
 マンムーはすぐさま2人に体を向けて、真っ直ぐ“とっしん”してきた!
「ルーナ!!」
 すると、ハルナはすかさずルナトーンのルーナに指示を出した。でも、ハルナのポケモンとマンムーじゃ、パワーの差がありすぎる! “ねんりき”とかで止めようとしても、止められるはずなんてない!
「いちかばちかの……“だいばくはつ”!!」
 でも、ハルナが指示したのは予想外のわざだった。ルーナの体が眩い光を放ち始める。そのままマンムーまで突撃して、あと少しでぶつかりそうって思った時、ルーナの体が凄まじい爆発を起こした! マンムーの体が爆発に飲み込まれる。爆風が消えると、さすがに目の前で大きな爆発をされたからか、マンムーの動きは怯んで止まっていた。そしてその目の前で、ルーナが地面に落ちていた。
「ふう、何とかうまく行った……特訓中の“だいばくはつ”」
 ハルナがつぶやいた。“だいばくはつ”は、凄まじい威力を持つ代わりに、使ったポケモンは必ず戦闘不能になるほどの大技。こんなわざをルーナがいつの間に覚えていたなんて……
「サトシ……ハルナ……」
「大丈夫か!?」
「ボロボロじゃないですか!? どうしたんですか!?」
 すぐにあたしの側に駆け寄って、体を起こしてくれるサトシとハルナ。
「アヤメが……マンムーを奪って、あたしと戦わせているのよ……」
「何だって!?」
「言う事聞かない事をいい事にして……もうあたしの力だけじゃ止められなくて……」
「そんな……!?」
 2人の視線が、一斉にアヤメに向いた。
「ちっ、ここは逃げた方がよさそうね……!!」
 舌打ちをしたアヤメは、マンムーを奪ったモンスターボールに戻して、すぐに背中を向けた。逃げる!
「よくもヒカリさんをこんな目に……!! 許さないわよ!! エクリプス!! クレセント!!」
 するとハルナは途端に激怒。すぐに2個のモンスターボールを力強く投げた。中から出てきたのは、ふうせんポケモン・プリンのエクリプスと、どくばりポケモン、ニドラン♂のクレセント。
「あいつを逃がさないで!! エクリプス、“みずのはどう”!! クレセント、“れいとうビーム”!!」
 ハルナの怒りがこもった指示で、エクリプスは“みずのはどう”、クレセントは“れいとうビーム”を発射! アヤメが向かおうとしていた先に命中して、アヤメを足止めする。
「ちっ、仕方ないわね……!! フシギソウ、“タネばくだん”で応戦よ!!」
 すぐにアヤメも応戦する。フシギソウは背中のつぼみから大きなタネを発射!
「かわして!!」
 でもエクリプスとクレセントは、“タネばくだん”をしっかりと見てかわしてみせた。
「クレセント、“つのでつく”!!」
 ハルナの怒りがこもった指示を表すように、クレセントは一気にフシギソウとの間合いを詰めて、頭のツノで怒涛の攻撃を浴びせる! これにはフシギソウも怯む。
「ヒカリさんの大切なポケモンを奪って戦わせて、どうするつもりなのよ!!」
「どうせ言う事聞かないんだから、あたしのポケモンにした方がマンムーだって幸せなのよ!! だからマンムーはあいつを攻撃できたんじゃないの!!」
「くっ、あんたねえ……っ!!」
 そんなアヤメの言葉を聞いて、ハルナの怒りの表情がさらに険しくなった。
「そうやってヒカリさんをいじめる悪い人は、ハルナが許さないっ!! エクリプス!!」
 エクリプスが、フシギソウの真上に飛び出した。そのまま真上から攻撃を仕掛けるつもりみたい。
「上から……!! でもそうはいかないわよ!! フシギソウ!!」
 それにアヤメも最初は驚いていたけど、それでも打つ手があるのか、余裕の表情を見せた。すると、フシギソウの背中のつぼみが急に膨らみ始める。そしてエクリプスが目の前に近づいたその時、つぼみが大きく炸裂してエクリプスをふっとばした!
「!?」
 その攻撃に、ハルナも驚いた。つぼみの炸裂をもろに受けたエクリプスは、そのまま地面に落ちて動かなくなった。
「どうしちゃったのエクリプス!?」
 ハルナが呼びかけても、エクリプスは反応しない。よく見ると、寝ちゃっている!?
「フフフ、“ねむりごな”を背中のつぼみで炸裂させたのよ。これがあたしのフシギソウの自慢、『ばくれつフラワー』よ!!」
 アヤメが自慢気に言い放った。“ねむりごな”にそんな使い方があったなんて……!
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 そこに、ピカチュウが割って入る。自慢の電撃が、フシギソウに襲い掛かる! それに気付いたフシギソウは、慌てて電撃をかわした。そして、ピカチュウはクレセントの横に並んで身構える。ほっぺたの電気袋からはピカチュウの闘志を表しているように、火花がバチバチと出ている。
「くっ、2対1……これじゃさすがに不利ね……ピジョン!!」
 2人のトレーナーを相手にするのはさすがに不利と見たのか、アヤメは一歩後ずさりした。そして、もう1個モンスターボールを取り出して、ピジョンを繰り出した。
「“フェザーダンス”よ!!」
 ピジョンが空中で激しく舞い始めると、たくさんの羽根が辺りに散らばり始める。それが、まるで紙吹雪のようにあたし達に降り注いで、視界を遮る。そして、羽根の吹雪がやっと治まったと思ったら、そこにアヤメとそのポケモンの姿はなかった。逃げられた……
「逃げた!?」
「追いかけるぞ!!」
「もちろん!!」
 サトシとハルナは、すぐに後を追いかけようと動き出す。でも、あたしはその場を動く気になれなかった。
『決まってるじゃない。この子はあんたの事が嫌いなのよ!!』
『あんたなんかといるより、あたしといた方がこの子はずっと幸せになれるのよ!!』
 胸に深々と突き刺さった、あのアヤメの言葉が、頭から離れない。
 そんな事なんて信じたくないけど、マンムーの言う事を聞かない理由の答えが、この1つで決まっちゃう。よく考えてみればアヤメの言う通り、嫌いになった以外に言う事を聞かなくなった理由なんて……あたし自身はゲットした時から何も悪い事はしていないはずだったけど、ひょっとしたあたしが無意識に何か気に障る事をしちゃったのかもしれない……
「う……っ」
 そう思うと、そんな自分が情けなくて、悲しくて、地面に付いた両手に冷たいものがこぼれ落ちるのがわかった。
「どうしたんだヒカリ!?」
「早く追いかけないと、あいつが逃げちゃいますよ!!」
 そんなサトシとハルナの声も、あたしの耳には入らなかった。
「マンムーーーーーッ!!」
 あたしの切ない思いが、そのまま叫び声になって夜空にこだました。
 でも、そんなあたしの声は、マンムーには届かない……

 夜の風が、いつもより冷たく感じた。


STORY25:THE END
THE STORY IS CONTINUED ON STORY26……

[779] 次回予告
フリッカー - 2009年01月12日 (月) 22時25分

 マンムーを奪われちゃったあたしだけど、取り返す気は全然起きない……

「どこ行ってたんだよヒカリ!」
「マンムーの事は心配じゃないんですか?」
「マンムーを取り返しても、マンムーは喜ぶのかな……?」

 そんな時現れた、1人の女の人。

「あなた、ヒカリちゃんだったわね?」
「……そうですけど?」
「やっぱり。私はナオミ。あなたのお母さんの知り合いなのよ」
「……ママの知り合い?」
「よかったら、私のお店に来る?」

 そしてやってきたエステサロンで、あたしは……

「ヒカリちゃんはきれいな心を持っているのね」
「きれいな、心?」

 NEXT STORY:マンムーの声(後編)

「言う事を聞かないポケモンの事も、それだけ思っているんですもの」

 COMING SOON……



Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】Amazonにて人気の 日替わり商品毎日お得なタイムセール
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板