[763] SECTION01 マンムーとテレビ取材! |
- フリッカー - 2008年12月17日 (水) 23時30分
あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事! パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……
SECTION01 マンムーとテレビ取材!
ウリムーが、イノムーに進化した。でも、なぜか全然言う事を聞いてくれなくなっちゃった。あたしが指示してもまるで聞こえていないように動かないし、そう思ったら急に暴れたりする。あたしの作ったポフィンにだけは、ちゃんと反応するんだけどね…… そしてそのまま、イノムーは“げんしのちから”を覚えてマンムーに進化したはいいけど、言う事を聞かないのは相変わらずで、一度暴れたら止められない! ウリムーの時はちゃんと言う事聞いていたのに、一体どうしちゃったんだろう……? これじゃ、次のコンテストにエントリーどころじゃない……
* * *
ポケモンセンターの外であたし達は、いつものようにポケモン達にご飯をあげていた。みんなおいしそうにタケシ特製のポケモンフーズを食べている。 そんなポケモン達の中に、ひときわ目立つポケモンが1匹いる。他のポケモン達の何倍もある『巨大』って言葉がぴったりの、ずっしりした大きな茶色い体と、立派に生えた2本の大きなキバが特徴のポケモン。 2ほんキバポケモン・マンムー。あたしのウリムーがイノムーに進化した後、さらに進化してこの姿になった。 でも、イノムーに進化した時から、急にあたしの言う事を聞かなくなった。進化したばかりの頃はそうでもなかったったのに、コンテストの練習をしようとした時から、あたしの指示はまるで筒抜けだし、そう思ってたらいきなり暴れ出して止めるのに一苦労。マンムーに進化してからさらに拍車がかかって、もう暴れ出したら呼びかけても止まらないし、パワーも上がった事もアダになっちゃって、完全に手が付けられなくなっちゃった。ご飯を食べてる今でも、急に暴れ出さないかハラハラしてるくらい。ただ、ポフィンとかの食べ物にはちゃんと反応して動いてくれるから、それだけがせめてもの救い。逆にそんな食べ物には目がない性格だから、暴れちゃうようになっちゃったのかもしれない。 だからって、どうして言う事を聞かなくなっちゃったんだろう……? 「進化したら性格が変わる時もある」ってタケシは言ってたけど、あたしは進化する前にウリムーに何も悪い事なんてしてないはず。原因は全然わからない。とりあえず今は、焦らないでゆっくり仲良くなっていこうって思ってる。ポケモンの事をよく知る事が、仲良くなるための第一歩だし、それで初めてポケモンの魅力を引き出せる。それは今までの旅の中であたしが学んだ事……なのはわかってるんだけど、あたしが聞いてみても全然答えてくれないし、今はマンムーがどんな事を考えているのか、あたしの事をどう思っているかなんて、全然知る事ができない。これじゃ、いつまで経っても先に進めない。マンムーと仲良くなるには、まだ結構時間がかかりそう。次のアケビ大会まで間に合うのかな……? 「マンムー……あたしにどこか不満な所でもあるの? それなら、はっきり教えて……あたし、何言われても平気だから……」 あたしはその答えの知りたさから、ご飯をガツガツと進化する前と同じように食べているマンムーの体にそっと右手をあてて、ささやくように言った。でも、相変わらず顔を向けるどころか、返事1つすらしない。まあ、食べているのに夢中になっているかもしれないから、ある意味当然なのかもしれないけど。 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 その時、マンムーがいきなり体を起こして力強く吠えた。 「わあっ!!」 すぐ近くで吠えられたもんだから、驚いてつい尻もちをつくあたし。当然他のみんなも驚く。ま、まさか、また暴れ出すの!? その予想通りだった。マンムーはそのまま目の前の器をガチャンとまるで怪獣映画のように蹴散らして、勢いよく走り出した。 「ちょ、ちょっとマンムーッ!! 戻って来なさーい!!」 あたしが呼びかけても、マンムーはやっぱり戻ってこない。そのままどこかへ走って行っちゃう。 「どうしたんだ、いきなり!?」 「わかんない……ただ話しかけただけなのに、いきなり……」 駆け寄ってきたサトシに、あたしはそう答えた。 「何だって!? ひょっとして、食事の途中で話しかけたのか!?」 そんなあたしの言葉に、タケシが反応した。 「そ、そうだけど……?」 「ポケモンが食事をしている最中にちょっかいを出したりしちゃダメだ! どんなに懐いてるポケモンだって、食事を邪魔されたら誰だって怒るんだぞ!」 「ええっ!?」 タケシの言葉を聞いて、あたしは自分がとんでもない事をしちゃった事に初めて気付いた。あたしがマンムーの事を知りたくてした事が、マンムーを暴れさせちゃうなんて……! 一度暴れ出したらマンムーは、手が付けられないっていうのに! 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 すると、またマンムーの吠える声がしたと思うと、マンムーがこっちに反転して向かって突撃してくる! やっぱりこうなるの!? 「ご、ごめんマンムー!! そ、そんなつもりじゃなかったのよ!! だから止まって!!」 あたしは慌ててそうやって説得しようとするけど、やっぱりマンムーは止まってくれない! 「ポチャッ!!」 その時、ポッチャマが前に飛び出した。マンムーを止めようとしている。でも、ポッチャマは前にも止めようとしてマンムーのパワーに敵わないまま失敗している。無茶はしないでって前に言ったばかりなのに……! 「待ってポッチャマ!!」 「マァァァァァンムゥゥゥゥゥッ!!」 だからあたしはポッチャマを止めようとしたけど、その前にマンムーがポッチャマに向けて“こおりのつぶて”を発射! 「ポチャアアアアッ!!」 直撃! 効果は今ひとつだけど、たちまち跳ね飛ばされたポッチャマは、完全に体が氷漬けになっていた。すさまじい威力。 「ああっ、ポッチャマ!!」 そんなポッチャマの姿に驚いてる間にも、マンムーはどんどんこっちに近づいてくる! もう、こうなったら最後の手段……! 「マンムー、戻って!!」 あたしはすぐにモンスターボールを取り出して、マンムーをモンスターボールに戻す。こういう解決の仕方は、はっきり言って好きじゃない。なるべくなら説得して止めたいけど、あたしの言う事は聞かないし、他のポケモンならまだしも、体重が291キロもあるっていうあんな体に思い切りぶつけられたら、ケガどころじゃ済まない。だから結局、今のあたしにはこうするしか止める方法がない。あたしはマンムーが入ったモンスターボールを見つめて、はあ、とため息を1つついた。 「ごめんね……ただ、マンムーとコミュニケーションが取りたかっただけなの……」 あたしはこうやってモンスターボール越しにしか、マンムーに謝る事ができない。そして、自分のした事でマンムーを暴れさせちゃった自分が情けなく思えてくる。 「仲良くなりたくて、コミュニケーションを取りたい気持ちはわかるさ。だが、だからって闇雲にやってもうまくいかない。コミュニケーションが取れるタイミングを、しっかり見極めてからやるんだ。人同士の関係と同じさ」 焦らないで、じっくり仲良くなっていけばいい。この間言われたそんな事を、あたしは思い出した。 「そうだよね……焦るなって言われたばかりなのに、あたし焦っちゃったのかも……」 そんな事をあたし自身に言い聞かせる。 「えー、私達取材班は、ヒカリさんがやって来ているとの情報を入手し、このポケモンセンターにやって来ました。……あっ、あそこにいるのがヒカリさんですね! 旅の仲間達も一緒です! では、早速直撃してみましょう!」 そんな時、遠くで誰かがそんな事をしゃべっていた事には、あたしは気付かなかった。 「こんにちは! あなたがヒカリさんですね?」 聞き慣れない声が急にあたしの耳に入った。誰なのと思って振り向くと、そこにはしっかりと整えられた服装をした、マイクを手に持ってる緑の髪の女の人と、大きなカメラをこっちに向けている、赤い帽子を被った男の人がいた。まさか、テレビ局の人!? 「テレビコトブキのものです。今回、ヒカリさんの事がニュース番組の特集で取り上げられる事になりまして、取材に来ました!」 「ええ〜っ!?」 女の人、もといレポーターさんの言葉を聞いて、あたし達は一斉に声を上げちゃった。だって、今までコンテストの時にインタビューを受ける事はあったけど、テレビ番組の特集で取り上げられるなんて事は初めて。これほど嬉しい事はないでしょ? 「そういう訳で、お忙しい所すみませんが、現在躍進中の元トップコーディネーターの娘、ヒカリさんの姿を、是非取材させて欲しいのですが……」 「はい!! もちろんです!! ちょっと準備するので、待っててください!!」 あたしはすぐに手鏡とブラシを取り出して、髪を整えようとした。でもその時、あたしははっと思い出した。さっきまでのマンムーの事を…… それを思い出した途端、あたしは反射的にサトシとタケシの後ろに隠れて、体を屈めた。 「どうしたんだヒカリ?」 「ああ〜っ! よく考えたらマンムーが全然言う事聞かない事もテレビに見せる事になっちゃう〜っ! これじゃ、テレビに映す顔なんてないよ〜っ! どうしてこんなタイミングで……!」 あたしは頭を抱えながら、レポーターさんには聞こえないように、そんな事をつぶやいていた。いくらなんでも、あんなマンムーの姿をテレビに映されたら、完全に恥さらしになっちゃう……! でも、もうさっき何も考えないまま「はい!! もちろんです!!」って答えちゃったし、今更断る訳にもいかない……ああ、あたしのバカ…… 「あの……どうしましたヒカリさん?」 レポーターさんの声が聞こえてくるけど、あたしは何も答えられなかった。 「ヒカリさん!! さっきのあのマンムーを、テレビに見せてあげてくださいよ!!」 すると、今度は聞き慣れた声が聞こえてきた。顔を上げてみると、そこにはオレンジの髪に三日月の髪飾りが特徴的な、あたしの知っている顔が、こっちに笑顔を見せていた。その横で、いんせきポケモン・ルナトーンも同じように顔を見せている。 「ハ、ハルナ!?」 そう、コトブキシティ出身の、左利きの新人ポケモンコーディネーター、ハルナ。あたしのファンで、あたしに対してはいつも敬語を使って、周りから見たらバカだって思われてるんじゃないかなって思うくらい、あたしを慕ってくれる自称『ヒカリさんの一番弟子』。とはいっても、あたしとハルナのキャリアには大きな差がある訳じゃない。でも、ハルナは全然気にしていなくて、どこへ行っても『ヒカリさんの一番弟子』って名乗ってるみたい。 「ハルナ、お前も来てたんだな」 「当たり前よ! ヒカリさんがテレビの特集に取り上げられるって聞いて、黙っていられる訳ないでしょ!」 サトシの言葉に、隣にいるルナトーン、ルーナと一緒に得意げに答えるハルナ。 「あの、あなたは……?」 レポーターさんがハルナに聞いた。 「ヒカリさんの一番弟子、ハルナよ!」 ハルナは見たか、と言わんばかりに胸を張ってカメラの前で自己紹介する。それを聞いたレポーターさんの反応は「一番弟子……?」って微妙な感じだったけど。そして、ハルナはすぐに顔をあたしに戻す。 「ヒカリさん!! あのマンムー、ウリムーが進化したんですよね!! あのパワー、凄いです!! トレーニングでポッチャマも敵わないなんて!! さすがヒカリさんのポケモンですね!!」 ハルナは目を輝かせながら、ずかずかとあたしに言葉を浴びせてくる。ハルナ、さっきのマンムーが暴れていたのを見てたみたい。それを、トレーニングだと勘違いしてるみたい。 「え、いや、その……」 「あのマンムーさえいれば、コンテストバトルじゃ無敵ですよ!! これをテレビで紹介したら、みんなヒカリさんの実力にぶったまげますよ!!」 あたしはすぐに違うと答えたかったけど、ハルナの言葉はあたしにしゃべる隙を与えてくれない。完全にハルナが一方的にしゃべってる状態。 「いや、ハルナ。違うんだ」 「ちょっと、今ヒカリさんと話してるんだから、邪魔しないで!」 「あのマンムーは、ヒカリの言う事を全然聞いてくれないんだ」 「……へっ!?」 そんなタケシの言葉を聞いたハルナは、一瞬声を裏返した。 「えっ!? 言う事を聞かない!?」 その言葉に、レポーターさんも反応した。タケシが代わりに本当の事を話してくれたのはいいけど、とうとうレポーターさんにもマンムーが言う事を聞かない事がばれちゃった……気まずい空気が辺りに漂う。そのまましばしの沈黙。 「……そんな訳ないでしょ!! ヒカリさんに限って、手持ちのポケモンが言う事聞かないなんて……!!」 それを最初に断ち切ったのはハルナだった。ハルナは、怒ってタケシに言い返した。ハルナが信じられないのはわかるけど…… 「……ごめんハルナ、本当の事なの」 でも、もうばれちゃった事は仕方がない。あたしはゆっくりと立ち上がって、本当の事を話す事にした。 「えっ!?」 「ウリムーがイノムーに進化した時から、全然言う事聞かなくなっちゃって、マンムーに進化したらもっと手が付けられなくなっちゃったの……仲良くなろうとはしてるんだけどね……」 あたしはマンムーが入ったモンスターボールを手にとって見つめながら、そう言った。 「じゃ、じゃあ、さっきのは……」 「暴れ出したマンムーを、止めようとしていたのよ」 「そ、そうだったんですか……」 ハルナの言葉が、そこで途切れた。いくらハルナが『弟子』って言うのは大げさだとわかっていても、あたしは先輩として恥ずかしい所を見せちゃったなあって思った。ああ、なんでこんなタイミングでテレビから特集番組の取材が来て、しかもハルナまでやって来るんだろう……今日は何だかついてないなあ…… 「う〜ん、進化させたポケモンが言う事を聞かず、悪戦苦闘するヒカリさんの姿……これは特ダネになりそうだわ! そう思わない?」 「そうですね! 自分もそう思います!」 その時、レポーターさんがカメラマンさんとそんなやり取りをしていた。そして、レポーターさんが改めてあたしに顔を向けて、こう聞いた。 「ヒカリさん、そのマンムーについて、詳しく取材させてくれませんか?」 「えっ!?」 「言う事を聞かなくなった詳しいいきさつや、これからヒカリさんがしようと考えている事を……」 そんな事をレポーターさんに聞かれて、あたしははっとした。そっか、よく考えたら、言う事を聞かないポケモンとがんばって仲良くなろうとしている所をテレビに見せれば、恥さらしにはならない! 逆にいい印象で見られる! 「そうだよヒカリ! マンムーと仲良くなるためにがんばってる所を取材してもらえばいいじゃないか!」 サトシも、同じ事を考えてたみたい。 「うん! あたしも同じ事考えてた! あたし、取材受けます!」 「ありがとうございます!」 レポーターさんも、笑みを浮かべた。 「紹介が遅れましたが、私はテレビコトブキのレポーター、ユミといいます。こちらは、カメラマンのタクです」 レポーターさんは、丁寧に自己紹介した。そしてレポーターさんに紹介されたカメラマンさんも、「よろしくっ!」と笑みを見せて挨拶した。 「俺はサトシです」 「タケシと言います」 サトシとタケシも、ユミさんとタクさんに自己紹介した。 「よし、じゃあ早速準備しなきゃ!」 そうと決まったら、身だしなみを整えておかないと! あたしは早速、さっき落としちゃった手鏡とブラシを拾って、髪を整える。
でも、そんなあたしの姿を陰からじっと見つめる、1人の女の子がいた事には、あたしは気付いていなかった……
* * *
そんな訳で、早速取材の準備が始まった。 最初に、ユミさんからインタビューを受ける事になった。タケシが用意してくれたテーブルの前に座って、その横にユミさんが座る。そしてあたしの正面には、タクさんがいつでもOKというように、カメラをこっちに向けている。 「カメラの前だからって、硬くならなくていいからね! 自然体でいればいいんだよ!」 タクさんが、台座に付けたカメラを覗きながらあたしに呼びかける。 「ダイジョウブです!」 「ポチャポ〜チャ!」 あたしはタクさんに、はっきりとそう答えた。抱いているポッチャマもあたしに続けて答えた。カメラの前に立つ事は、コンテストでのインタビューで慣れてるからね。 「いいなあ、ヒカリさん……ハルナもあんな風にインタビュー受けられたらなあ……やっぱりヒカリさんって凄いねえ、ルーナ……」 ハルナがうらやましそうにあたしの姿を見てつぶやいた。 「ポケモンコーディネーターというのは、おのずとテレビに出る機会が多いからな。いい成績を残したコーディネーターは、こうやってテレビで取り上げられてもおかしくないさ」 そんなハルナのつぶやきに、タケシが答えた。それを聞いたハルナは、「そっか、じゃあハルナもいい成績上げればいいんだ!」と1人で納得していた。 「俺もあんな風にインタビューされてみたいぜ……」 サトシも、珍しくうらやましそうにつぶやいた。 「あなた達にも、インタビューをしたいと思っていますよ。ヒカリさんの旅の仲間として、是非お話を聞かせて欲しいですから」 「えっ、本当ですか!?」 ユミさんの言葉に、サトシとハルナが声を揃えて反応した。2人共嬉しそうな顔。 「おいおい、あくまでメインはヒカリだって事を忘れるなよ」 そんな突っ込みを入れるタケシに、サトシは「わかってるさ」と答える。 「ユミさん、準備はいいですか?」 「こっちは準備OKよ!」 カメラを覗きながら、タクさんはユミさんとやり取りをする。 「それでは、そろそろ本番入ります! ヒカリちゃんは大丈夫かい?」 「ダイジョウブです!」 「ポチャポ〜チャ!」 あたしはポッチャマと一緒に、カメラに向かってはっきりと答えた。 「では、本番行きます!」 タクさんが声をかけると、タクさんはカメラを覗き込みながら、右手でカウントを始めた。 5、4、3、2、1。 右手の指が、カウントしていく毎に1本ずつ折れていく。こうやって目の前で本番までの時間がカウントされると、ちょっぴり緊張する。そして1までカウントして立てた指が人差し指だけになると、右手の人差し指が、こっちを向いた。カメラが動き出した合図。 「それでは、ヒカリさんに早速インタビューを行いたいと思います。ヒカリさん、よろしくお願いします」 ユミさんの顔がカメラに向いたかと思えば、すぐにあたしに向いた。 「よろしくお願いします」 「ポチャマ」 あたしは落ち着いてユミさんに向けてお辞儀する。ポッチャマも、それに合わせてお辞儀する。 「では、まず最初に。ヨスガ大会、ズイ大会と続けて成績が伸び悩み、大変苦悩していたと聞きましたが、その時はどんな思いだったのですか?」 最初の質問をされて、ユミさんの持つマイクがあたしの口元に回される。 「はい。2回連続で1次審査落ちしちゃった事は、本当にショックでした。もうあたしは、何をしたらいいのかわからなくなって、コンテストには向いてないのかなってまで思って……はっきり言って、完全に自分に絶望しちゃってました」 「では、その絶望からヒカリさんを救ってくれたのは何だったと思いますか?」 「……やっぱり、一緒に旅をしてくれたみんなだと思います。みんなと一緒に旅をしていて、あたしはみんなからいっぱい元気をもらえました。だから、あたしも負けてられないって思うようになったんです」 「それが、ミクリカップの優勝に繋がった訳ですね」 「そうですね……」 そんな事を言われると、あたしはちょっぴり照れちゃう。思わずエヘヘと笑いがこぼれちゃった。
* * *
そんなインタビューが、しばらくの間続いた。そして遂に、話題はあの話になった。 「さて、ヒカリさん。最近新しい手持ちを加えたそうですが、その事で今は悩んでいるそうですね」 ユミさんのその言葉を聞いて、いよいよ話がマンムーの事に移ったんだと確信した。自分のポケモン悪い所をカメラの前で言うのはやっぱり抵抗があったけど、ここはあたしががんばっている所を見せなきゃ、って気を引き締めて、口を開いた。 「はい。ミクリカップが終わった後にゲットしたウリムーなんですが、イノムーに進化してから急に言う事を聞かなくなっちゃったんです。そしてそのままマンムーに進化しちゃって、もう暴れ出したら手に負えなくなっちゃんたんです。どうして言う事を聞かないのかなって思いましたけど……」 そんな時、1匹のとりポケモンがあたしの真上を通り過ぎた。すると、そのまま何かをあたしの頭の上に落とした。急に頭に何か軽いものが当たったのに気付いて、あたしは言葉を止めた。 「何、今の?」 上から落ちてきた何かは、あたしの足元に落ちたような気がしたから、すぐに席を立って足元を探す。すると、ポッチャマが白い筒のようなものを拾って、あたしに差し出した。 「何だろ、これ?」 手にとって見た感じ、どう見ても筒のように丸めてひもで縛った白い紙。でもそこに、とんでもない言葉が書かれていたのをあたしは見つけちゃった。 「なになに、『挑戦状 フタバタウンのヒカリへ』!?」 あたしは自分の名前が書いてあった事に驚いて、最後の方の言葉を、トーンを上げて読んじゃった。 「どうしたんだ?」 「何があったんですか?」 インタビューを見守っていたみんながすぐに、あたしの周りに集まる。そしてすぐに、あたしが手に取っている『挑戦状』の紙を覗き込む。 「ちょ、挑戦状!?」 「ヒカリさんに、挑戦状ですか!?」 「誰からなんだ?」 みんなが驚いてあたしに言葉を浴びせてくる。でも、そんなにいっぺんに言われても答えられる訳ない! 「待って! 今読んでみるから」 あたしはそう一言言ってみんなを落ち着かせると、ひもをほどいて丸まった紙を開く。そして、書いてある字に目を通して、声に出して読んでみる。 「えーと、『フタバタウンのヒカリへ あなたはあたしのママを前のコンテストで下して、優勝しましたね。その敵討ちをさせてもらいます。勝負はもちろんコンテストバトルで』……」 紙に書いてある事の意味が、全然理解できなかった。前のコンテストでママを下した? あたし、そのような人とカンナギ大会でぶつかった覚えなんてないよ……? とりあえず続きを読んでみる。 「『場所はこの下に書いてある地図に書いてあります。その場所に、今日の夕方必ず来てください。絶対に逃げないでください。逃げたらみんなに言いふらしますよ』……」 言葉遣いが丁寧な割には最後に随分生意気な事書くのね、って思って最後の名前が書いてある所に目をやった。するとそこには、またとんでもない言葉が書いてあった。 「『「カンナギの鬼百合」の娘、「2代目鬼百合」アヤメ』!?」 あたしは驚いて、また最後の方の言葉を、トーンを上げて読んじゃった。 「何だって!?」 「『カンナギの鬼百合』って言ったら、前にヒカリさんとぶつかったユリさんの事じゃないですか!!」 ハルナの言う通り。『カンナギの鬼百合』は、前にあたしがカンナギ大会でぶつかった、元ポケモンコーディネーターのトップポケリスト、ユリさんの通り名。コーディネーターとして活動していた頃は、連勝記録を伸ばしていたあたしのママを破った実力者。実際あたしがぶつかった時も、その気迫を感じ取った。今はトップポケリストとして活動しているけど、あたしの活躍を見た事がきっかけで、カンナギ大会で復帰したんだって。その実力は本物だった。でもあたしは一歩も引かないで全力でぶつかって、ユリさんに勝ってリボンをゲットした。 そんなユリさんに子供がいたなんて、全然知らなかった。しかも、『2代目鬼百合』って名乗っているって事は、ポケモンコーディネーター? 「……そうだ、思い出しました! このアヤメって人、『2代目鬼百合』って名乗って最近デビューした女の子です。でも、まだ優勝した事はないですから、大した相手じゃないと思いますよ」 ハルナは、ポケモンコンテストの事に詳しい。だから、このアヤメって人がどんな人なのかもすぐに当ててみせた。 「こんな奴なんて、ヒカリさんに挑戦状叩きつけるのにふさわしくなんかないですよ! ヒカリさん、無視してもいいんじゃないですか?」 ハルナが、あたしの顔を覗き込んだ。でもあたしは、ハルナとは逆の事を考えていた。別に「絶対に逃げないでください。逃げたらみんなに言いふらしますよ」って言葉が怖かったからじゃない。あのユリさんの娘だから、どんな人なのか興味がある。それに、今ちょうどマンムーの事について聞かれた所。この機会を使って、マンムーがどんなポケモンなのかをテレビに見せる事もできる。ひょっとしたらマンムーとの事で何か掴めるかもしれない。 そう考えて、あたしはすぐに結論を出した。 「あたし、この挑戦受けるわ。ポケモンはマンムーで」
TO BE CONTINUED……
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