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[755] ヒカリストーリーEvolution STORY24 ギンガ団の罠
フリッカー - 2008年11月27日 (木) 18時31分

 今回はリニューアルして初めてのサトヒカ話です!

・ゲストキャラクター
モトヤ イメージCV:山口勝平
 探偵として活動しているポケモントレーナーで、世間からは「探偵トレーナー」と呼ばれている。どちらの腕も確か。性格は基本的に冷静で、大抵はどんな事が起こっても冷静に判断できる。自分の目的や任務は、絶対に達成させるという信念を持っている。アラモスタウンで起きたディアルガ・パルキア出現事件『アラモス事件』を調べるという名目で、事件に関連したサトシとヒカリに接触する。
 しかし、その正体は……

ホイヘンス イメージCV:矢尾一樹
 ギンガ団の活動の裏で暗躍するエージェントの1人。ギンガ団にとって脅威となるトレーナーを始末する事が任務の暗殺者で、自称『ギンガ団影のヒットマン』。彼のようなエージェントはシンオウ中でネットワークを張り巡らせているのだという。自信家だが、思い通りに行かなくなると、冷静さをなくしてしまう。
 彼の手持ちポケモンのオクタンは、百発百中の攻撃命中率を誇り、豊富なわざととくせい『スナイパー』によって負けた事は一度もない。

[756] SECTION01 ギンガ団のエージェント現る!?
フリッカー - 2008年11月27日 (木) 18時32分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 ギンガ団のエージェント現る!?


 遂にヨスガシティでのジム戦に挑戦したサトシ。この日のために特訓した戦法『カウンターシールド』を使って、いいバトルを繰り広げた。結果は見事勝利! あたしが考えた戦法をいろいろ進化させちゃうサトシは、やっぱり凄いと思う。
 その後、ジム戦の前に知り合ったトレーナー、ジュンと一緒に飛行船でミオシティへ。そしてあたし達は、船で鋼鉄島へ行くジュンを見送って、ミオシティでのジム戦に向けた旅を楽しんでいた……

 * * *

 町全体が小さな島の集まりになっていて、それが迷路のように橋で繋がっているミオシティ。その風景を飛行船で空から見た時は、とてもきれいだった。でも、その構造が仇になって大変だった時もあったけど。
 そんなミオシティのにぎやかな街並みを、あたしはサトシと一緒に散策していた。
 タケシは今、買い出しの真っ最中。ポケモンセンターで待ってるだけじゃつまらないから、町をあちこち回ってみようって、あたしが提案したの。ジムを目の前にして特訓に熱くなってるサトシも、「たまには息抜きもしなきゃ」って言ったら、快くOKしてくれた。
 今日はいい天気。町も人でにぎわっている。途中で買ったソフトクリームを食べながら、街並みを歩いて行くあたしとサトシ。こうしているだけでも、あたしは楽しい。何だかサトシと一緒にいると、どんな時も元気がもらえる気がする。コンテストでうまくいかなくなって、落ち込んでいた時も、こんな風にサトシと一緒にいる間は、それを忘れる事ができた。
「おっ」
 急にサトシが足を止めた。何だろうと思って見てみると、サトシの視線の先には、公園でポケモンバトルが繰り広げられている風景があった。ルクシオとコロトックが繰り広げる激しいポケモンバトルに、時間を忘れてサトシは見入っていた。あたしもしばらく見ていたけど、少し経って見てみてもバトルに釘付けになっているサトシを見て、ちょっぴりイタズラしたい気分になった。前にアラモスタウンでサトシがタケシにやった事を、あたしもやってみよっかな……!
 あたしは頃合いを見計らって、サトシが右手に持っている食べかけのソフトクリームに思い切りかぶりついた。
「あっ!?」
 サトシが気付いた頃にはもう手遅れ。サトシが手に持っていた食べかけのソフトクリームは、コーンだけ残してあたしのお腹の中に納まった。しめしめ。
「な、何するんだよヒカリ!?」
「だってサトシ、バトルに夢中になってたんだもん」
 サトシの驚く顔を見て、あたしは思わずクスクスと笑った。サトシは本気で怒ってるのかもしれないけど、イタズラしたあたしから見れば、おかしくて仕方がなかったから。
「だからってひどいじゃないか〜!」
「サトシだって、前にタケシに同じ事した事あるくせに〜♪」
 そんなサトシに、わざとにやけ顔を見せてあたしは言い返す。それを聞いたサトシは「うっ……」と言葉を詰まらせる。そのリアクションがやっぱりおかしくて、あたしはまたクスクス笑った。
「それだからってやっていい訳じゃ……!」
「ピカアアッ!?」
「ポチャアアッ!?」
 サトシのその言葉は、ピカチュウとポッチャマの場を切り裂くような悲鳴に遮られた。
「な、何だ!?」
 こんな時に何? 顔を正面に戻すと、そこには網に入れられて空に吊り下げられているピカチュウとポッチャマが! 網の中にはさっきまでバトルしていたルクシオやコロトック、それ以外のポケモンも網いっぱいに入れられている。
「わ〜っはっはっは!!」
 網をぶら下げている先から、聞き慣れた高らかな声が聞こえてきた。まさか……! 見上げた先には見慣れたニャースの顔を象った気球が堂々と浮かんでいた。そしてそのゴンドラから、あの聞き慣れたフレーズが聞こえてきた。
「『な、何だ!?』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役はあたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。
「ロケット団!!」
 あたし達は声を揃えた。
「そんな訳で、この公園にいるポケモン達はいただいていくのニャ!!」
 ニャースの高らかな声が響く。
「ロケット団!! ピカチュウを返せ!!」
「ポッチャマも返して!!」
「へへ〜んだ!! 誰が返すもんですか〜!! このポケモンは全部あたし達のものなんだからね〜!!」
 あたし達が叫んでも、ムサシがアカンベーをして返すだけ。もう、なんて図々しいのよロケット団は……!
「こうなったら力ずくでも取り返してやる!!」
「ええ!!」
 あんな奴らに情けなんてかけるもんか! あたしとサトシはすぐに、ポッチャマとピカチュウを取り返そうと、モンスターボールを構えた。
 でも、その瞬間だった。
「モジャンボ、“げんしのちから”!!」
 突然、そんな男の人の声が聞こえてきたと思うと、あたしの後ろから光るボールが飛んできて、あたしの真上を通り過ぎると、気球に直撃した!
「うわああああああっ!!」
 そんなロケット団の悲鳴が聞こえたと思うと、穴の開いた気球はそのまま地面へと吸い込まれていった。そして、ドドーンと地響きを立てて、気球は墜落した。
「誰!?」
 あたしは後ろに振り向いた。そこには、1人の男の人が立っていた。茶色っぽい金髪で、チェック柄のパリッとした青い服に青いジーパンを着ている。その表情は、結構落ち着いた印象がある。その隣にいるのは、男の人よりも大きい体格の、ヘビー級のポケモンがいる。顔がちゃんと見えないくらい、丸い体が青いツタで覆われていて、ツタの塊って言葉がぴったり。
 その男の人は、ツタの塊なポケモンを連れて、あたし達の横を通り過ぎて、墜落したロケット団の気球の前に出た。
「いたたたた……」
 ロケット団が墜落した気球のゴンドラの中から這い出てきた時、正面に立つ男の人に気付いた。
「人のポケモンを強奪しようとは、許せない行為ですよ」
 男の人は落ち着いた声で、ロケット団に言い放った。
「な、何よあんた!! あんたがさっきあたし達をやったのね!!」
「お前はいったい何なんだ!!」
「あなた達のような輩に、名乗る名前などありません。モジャンボ」
 怒ってるロケット団の言葉を軽く流した男の人は、側にいたツタの塊なポケモンに呼びかけた。
「あれがモジャンボ……」
 あたしはすぐにポケモン図鑑を取り出した。
「モジャンボ、ツルじょうポケモン。植物でできた腕は、放っておくと絡み付いてくる。切っても切ってもすぐに生える」
 図鑑の音声が流れた。そんなツタの塊なポケモン、モジャンボは、のっしのっしと歩いてロケット団の前に出る。
「そっちがやる気なら、受けて立とうじゃないの!! 行くのよメガヤンマ!!」
 ムサシはすぐにモンスターボールを投げた。出てきたのは、メガヤンマ。
「マスキッパ、お前も行け!!」
 コジロウも続けてモンスターボールを投げる。も、中から出てきたマスキッパはいつものように……
「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」
 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。
「2対1、ですか……こちらも受けて立とうと言わせてもらいましょうか」
 2対1っていう不利な状況だけど、男の人は余裕そうに口元に笑みを浮かべていた。まるで、自分の実力に強い自信があるように。
「言ってくれるわね!! メガヤンマ、“はがねのつばさ”!!」
 カッとなったムサシは、すぐにメガヤンマに指示を出した。メガヤンマは羽根に力を込めて、真っ直ぐモジャンボに向かっていく!
「“でんげきは”!」
 男の人はそれでも落ち着いて指示を出した。モジャンボは、向かってくるメガヤンマに向けて、電撃を発射! 見ただけでも威力がありそうな電撃だった。突然の攻撃に、メガヤンマはよける事ができなかった。というより、“でんげきは”は必中のわざだから、そもそも余程の事がない限りよけられるはずなんてないんだけど。たちまち電撃に飲み込まれるメガヤンマ。効果は抜群! そのままムサシの所に吹き飛ばされるメガヤンマは、もう戦闘不能に。
「マスキッパ、“かみつく”だ!!」
 続けてマスキッパが、キバを剥いてモジャンボに躍りかかる!
「“つばめがえし”!」
 するとモジャンボは、その長いツタを、マスキッパに素早く振った! マスキッパのお腹に直撃するツタ。効果は抜群! これまた必中の攻撃を受けて、コジロウの所に弾き飛ばされるマスキッパ。やっぱり一撃で戦闘不能に。なんてパワーなの……!?
「最後は“パワーウィップ”!」
 そしてモジャンボは、長いツタを思い切り後ろに振ったと思うと、勢いよくロケット団に向けて振った! 直撃! すさまじい威力。そのパワーで、ロケット団はたちまち弾き飛ばされた。
「うっそだああああああっ!!」
 そんな悲鳴を上げながら、ロケット団はいつものように空の彼方へと消えていった。
「……無敵と言っていた割には、大した事のない連中でしたね」
 男の人はそうつぶやいて、モジャンボをモンスターボールに戻した。

 * * *

 奪われたポケモン達はみんな無事に戻ってきて、それそれのトレーナーに返された。もちろんピカチュウとポッチャマも、取り返す事ができた。
「どうもありがとうございます」
「いえいえ、私は人として当然の事をしたまでですよ」
 サトシがお礼を言うと、男の人は少しだけ笑みを見せて答えた。
「名乗り遅れましたが、私は世間からは『探偵トレーナー』と言われております、モトヤと申します」
「探偵トレーナー……?」
 探偵トレーナー。自己紹介した男の人の聞き慣れない言葉に、あたしもサトシも首を傾げた。
「私は、本業は探偵なのですよ。それでも、ポケモンバトルの実力も確かなものと言われていまして、故に『探偵トレーナー』と言われているのです」
 ああ、そういう事だったのね。
「そうだったんですか。俺はサトシです」
「ピカ、ピカチュ!」
「あたし、ヒカリです」
「ポチャマ!」
 あたし達も、男の人――モトヤさんに自己紹介した。すると、モトヤさんは急に目を見開いた。
「サトシさんに、ヒカリさん……おお、何という偶然! 私はちょうど、お2人を探していたんですよ」
「え?」
「あたし達を?」
「サトシさん、ヒカリさん、お2人に聞きたい事があるのです。『アラモス事件』について……」
「『アラモス事件』……?」
 ピンとこない言葉を言われて、あたしとサトシは顔を見合わせた。
「アラモスタウンにじかんポケモン・ディアルガと、くうかんポケモン・パルキアが出現して、町があわや消滅の危機にさらされた事件ですよ」
「!!」
 それを聞いて、あたしとサトシははっとした。
 そう、ポケモンコンテスト出場のためにアラモスタウンに行った時、あたし達はその事件に遭遇した。町にいろいろな異変が起こり始めたと思うと、突然町にパルキアが現れて、それを追いかけるように、ディアルガも現れて、激しいバトルを繰り広げた。それだけなら何も問題はないんだけど、パルキアが町を全部異空間に飲み込んじゃって、さらに激しい力のぶつかり合いで、町はどんどん崩壊して、あわや異空間に消滅しそうになった。あたしとサトシはそんな2匹の戦いを止めるために、力を合わせて町のシンボル『時空の塔』に登って、戦いを鎮める曲『オラシオン』を流した。そのお陰で、2匹はおとなしくなって帰って行って、町も元通りになった。それもこれも、全部町にいたダークライのお陰だった。ダークライがいなかったら、この異変に気付く事はもっと遅くなっていたかもしれない。
「その時、あなた達お2人が事件を鎮めるのに貢献したそうじゃないですか。ですから是非お聞きしたいのです。アラモス事件で見た事を。私は今、アラモス事件の事について、いろいろ調べているのです。あの事件は、多くの人々を恐怖に陥れました。今でも、ディアルガとパルキアに恐怖心を抱いている人々は大勢います。だからこそ、この事件の真実を私は探りたいのです」
 モトヤさんの気持ちを感じたあたしとサトシは、顔を見合わせた。そういう事だったら、協力しない訳にはいかないね。サトシも、同じ事を言ってるような表情をしていた。
「わかりました。俺達、協力します」
 サトシは顔を戻して、はっきりと答えた。
「ありがとう、お2人共。しかしこんな時によろしいのですか?」
「いいえ、別にいいんですよ。あたし達は別に……」
「お2人のようなカップルの、デートの最中にこういう事を頼む事はさすがに……」
 そう言うモトヤさんの視線の先には、あたし達が手に持っているソフトクリームがあった。それに気付いたあたしもサトシも、恥ずかしくなって顔が真っ赤になった。慌ててソフトクリームを隠すあたしとサトシ。
「い、いえ、違います!! 俺達は別に、そんな関係じゃ……!!」
「あ、あたし達はただ、一緒に旅をしてるだけで……!! そうよねサトシ?」
「あ、ああ……」
 あたしとサトシは慌てて反論する。あ、あたしとサトシは別に、恋人同士とか、そんな関係じゃないんだから!! 本当に!! 第一、一緒にソフトクリーム食べてただけで、デートだなんて決め付けないでよ!! あたしとサトシはただ、暇だったから町を回ってみようって思っただけで……!!
「……ああ、これは失礼。関係ない事を聞いてしまいましたね」
 モトヤさんもさすがに空気を読んだのか、苦笑いしながらあたしとサトシに謝った後、ゴホンとわざとらしく咳ばらいをした。あたしとサトシはほっと胸をなで下ろした。
「話を戻しましょう。この先に私の事務所がありますので、そこで話を聞きましょう。案内しますので、ついて来てください」
「はい」
 とにかく、あたし達はモトヤさんの案内で、事務所で事件の事について話を聞く事になった」

「カッシーニよりホイヘンスへ。ターゲットとの接触に成功。これよりターゲットと共に、作戦開始ポイントに向かいます」
 その時、モトヤさんが胸元に向けてそんな事をボソボソつぶやいていた事には、あたしもサトシも気付かなかった……

 * * *

 モトヤさんは、迷路のようなミオシティの街並みを、迷う様子もなく進んでいく。モトヤさんは、この町に結構慣れてるんだなって思った。やっぱり地元の人だからかな。
 そしていくつかの島を渡っていくと、町から外れた所にある、小さな建物にたどり着いた。町外れにはあるシンプルな建物だけど、見るからにきれいな建物で、いかにも探偵の事務所なんだなあって印象。
 そんな事務所の中に入ると、これまた中はきれいに整頓されていた。散らかっているものは何もなくて、床もテーブルの上もきれいに掃除されているのがわかった。
「どうぞこちらに」
 モトヤさんは、テーブルにある椅子を2つずらした。あたしとサトシは、その椅子に並んで座る。そして向かい側の席に、モトヤさんが座る。
「では、話を聞かせてもらいましょうか」
「はい」
 モトヤさんはメモ帳とペンを片手に、あたし達の話を聞く準備をした。あたしとサトシもあの時の事をじっくり思い返して、質問に答える準備をする。
「ではまず、事件の経緯について聞きましょう」
「はい。最初はアラモスタウンに来た時から、異変があったんです」
「……といいますと?」
「ダークライが現れて、町の人に悪夢を見せているって騒ぎがあったんです。でもそれは、後でディアルガとパルキアが来るって事を知らせるためだったってわかったんです」
 あたしが説明する。
「何と、2匹が来る事を予測していた、という事ですね?」
「はい」
「時空の塔も、その時のために作られたって話を聞きました。確かそのための曲もあって……えっと、何だっけ……」
 サトシも口を開いた。
「『オラシオン』でしょ」
「あっそうそう、『オラシオン』」
 曲名を思い出せないサトシに、あたしがそっと答えを言うと、サトシははっと思い出してそう答えた。
「なるほど……古の人もこの事件が起こる事を予測していたとは……」
 モトヤさんは感心したようにつぶやいて、メモを書く手を進める。
「あっ、そういえば、ディアルガとパルキアが戦った理由ですけど……」
 その時、あたしはふと前に聞いた事のある事を思い出した。
「むっ!? まさか戦っていた理由も知っているのですか!?」
 モトヤさんの驚いた眼差しがあたしに向いた。
「後で別の人から聞いたんですけど、時間と空間が何かの理由で混じり合っちゃって、ディアルガとパルキアはお互いのテリトリーを侵されたって思って、戦ったみたいです」
 その話を聞いたのは、偶然世界の裏側にあるもう1つの世界『反転世界』に来ちゃった時、反転世界の研究者ムゲンさんから聞いた事。そういえば反転世界に住むポケモン・ギラティナも、ディアルガとパルキアが戦った事に怒って、ディアルガを引きずり込んで戦ったって話も聞いたっけ。でも、ギラティナの事は今の話題には関係ないから、心の中にしまっておく事にする。
「時間と空間が混じり合った……なるほど、そういう理由で2匹は……」
 モトヤさんのメモを書くスピードが速くなる。
「……さて、話を戻しましょう。ダークライが現れた後、どうなったのですか?」
「はい。その後、町が変な霧に覆われて町から出られなくなったり、ダークライが見せる悪夢が現実に現れたりとか……」
「その後、ダークライがパルキアの場所を見つけて、見つかったパルキアとバトルになったんです。そして、パルキアを追いかけていたようにディアルガも現れて……」
 あたしに続けて、サトシがそう言いかけた時だった。
 突然、バリンとガラスが割れる音がした。何があったの、と思って椅子から立ち上がって見ると、部屋の窓が大きく割られていた。するとそこから、サッと人影が入ってきた。まさか、ドロボウ!?
「……へえ、ディアルガとパルキアに会ったのか。面白い奴だなあ、殺しがいがあるぜ!!」
 その人は、群青色の髪にサングラスをかけていて、サングラス越しに鋭い目線をこっちに向けている。そして何より、一度見たら忘れられない、特徴的な模様のスーツを着ていた。黒をメインにしているけれど、それは間違いなく前に戦った悪の秘密結社、ギンガ団のものだった!
「お前は……ギンガ団!!」
 サトシが叫んだ。
「ギンガ団だと!? 最近噂になっている悪の秘密結社か!?」
 モトヤさんも驚きを隠せない。
 ギンガ団。それは、最近シンオウで活動を始めた謎の秘密結社。その目的はよくわからないけど、「新世界を作る」なんて事を言っていた。表立って出てきたのは、トバリシティが最初。そこに落ちていた隕石を奪おうとして現れた。あたし達は精一杯戦って、何とか隕石は奪われずに済んだけど、一筋直じゃいかない相手だった。その次に現れたのはカンナギタウン。歴史研究所にあったお宝『しらたま』を奪おうとして、大群で襲いかかってきた。その場にはチャンピオンのシロナさんもいたけど、やっぱり多勢に無勢で、ギンガ団を食い止める事はできなかった。結局『しらたま』も、ギンガ団に奪われちゃった。それより前にも、ハクタイシティで『こんごうだま』を奪おうとした事や、ズイタウンでアンノーンを暴れさせた事にも関係してるみたい。
「ご名答だよ、皆さん。俺はギンガ団影のヒットマン、ホイヘンス。お前達2人の命をいただきに来た、マサラタウンのサトシ、フタバタウンのヒカリ!!」
 その男の人――ホイヘンスは、サングラス越しの鋭い目線でこっちをにらんで、あたしとサトシを指差した。ヒットマンって事は、ひょっとして殺し屋!? それに一瞬驚いたけど、あたしも負けじと言葉を返す。
「ど、どうしてあたし達の事を知ってるの!?」
「フフ、ギンガ団と以前二度も戦ったくせに、よく言うねえ。それに、俺達ギンガ団をなめちゃいけない。シンオウのあちこちには、俺達ギンガ団のエージェントがお前達の知らない所で密かに活動し、ネットワークを張り巡らせているんだ。お前達の素性を調べる事など、お茶の子さいさいさ。ま、2人はそれなりに名の知れたトレーナーだったから、情報はすぐに集まったがな」
 ホイヘンスは余裕そうに笑みを浮かべた。
「エージェント……ギンガ団にそんなものがいたとは……やはりただの秘密結社ではないようですね」
 モトヤさんが唇を噛んでつぶやく。
「お前達2人は今の所、我々の計画に支障をきたすような行為はしていないが、危険度は高いと判断された。だから、この場で消えてもらうぜ! 狙い撃て、オクタン!!」
 ホイヘンスが叫ぶと、ホイヘンスの背中から、サッと1匹のポケモンが飛び出してきた。8本の足が生えて、丸い頭に管のような口を持つ真っ赤なポケモン。あまり強そうには見えない印象のポケモンだけど、こっちに向けて黒いスミを吐いてきた!
「ピカアアッ!?」
 スミはピカチュウの体に直撃! 弾き飛ばされるピカチュウ。スミまみれになった顔を、ブルッと振って墨を落とすピカチュウ。
「あれがオクタン……」
 あたしはすぐに、ポケモン図鑑を取り出した。
「オクタン、ふんしゃポケモン。岩穴に潜り込むのが好き。そのまま口だけ出して獲物にスミを吹きかける事もある」
 図鑑の音声が流れた。
「私が相手になりましょう、ギンガ団のエージェントとやら! モジャンボ!!」
 すぐにモトヤさんがモンスターボールを素早く投げた。中から出てくるモジャンボ。
「サトシさん、ヒカリさん、ここは私が相手をします!! 今の内に!!」
 モトヤさんはあたし達の方を向いて叫んだ。
「いいえ、俺も戦います!!」
「君達には危険です!!」
「あたし達にだって、ポケモン達がいるんです!! あたしだって!!」
 それでもあたしもサトシも逃げようとはしなかった。だって、あたし達にはポケモン達がいる。ポケモンで戦えば、怖いものなんてない!
「しかし……!!」
「“かえんほうしゃ”!!」
 そんなやり取りをしている間に、ホイヘンスの指示が聞こえた。すると、オクタンは管のような口から火を噴いた! たちまち炎に包まれるモジャンボ。効果は抜群! 炎に包まれたモジャンボは、そのままゆっくりと倒れた。ロケット団を簡単にやっつけちゃったモジャンボが、もう戦闘不能!?
「しまった!!」
「君達の言い争いを黙って聞いて待つつもりはないのでね。先手を取らせてもらったよ」
 動揺するモトヤさんに、ニヤリと笑ってみせるホイヘンス。
「卑怯だぞ!! ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
「ポッチャマアアアッ!!」
 すぐにあたし達が代わってホイヘンスとのバトルに入る。ピカチュウの“10まんボルト”と、ポッチャマの“バブルこうせん”がオクタン目掛けて飛んでいく! でもオクタンは、その見た目からは想像できない瞬発力で、ジャンプして攻撃をかわしてみせた。
「よけた!?」
 あたしは驚いて思わず、そうつぶやいた。
「“エナジーボール”!!」
 今度は緑色のエネルギー弾を作り始めるオクタン。オクタンって、くさタイプのわざも使えるの!?
「かわすんだピカチュウ!!」
 オクタンの“エナジーボール”が放たれた瞬間、ピカチュウはそれをかわそうと横に動いた。でも“エナジーボール”は、ピカチュウが動いた先に向かって飛んで行った!
「ピカアアッ!!」
 直撃! たちまち弾き飛ばされるピカチュウ。
「ピカチュウ!!」
 サトシが叫んでも、倒れたピカチュウは何も答えない。もう戦闘不能!? そんな、サトシのピカチュウは、たった1発の攻撃だけでやられるポケモンじゃないのに……!?
「“チャージビーム”!!」
 すると今度は、オクタンは口から電撃を発射! 今度はでんきわざ!? オクタンってどんだけわざが使えるの!? でも、今はそんな事に驚いてる場合じゃない。
「ポッチャマ、回って!!」
 こういう時には『回転』! あたしはすぐに、そう指示を出した。ポッチャマはグッと身構えて、“チャージビーム”がギリギリまで近づいてくるのを待つ。そして……ギリギリまで来た所で『回転』して……!
 そこまではうまく行った。でも、ポッチャマが飛び出した瞬間、オクタンがポッチャマの動きを読み取ったように口をずらした。当然、“チャージビーム”も動いて……
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! 効果は抜群! 弾き飛ばされたポッチャマは、あたしに目の前でぐったりと倒れた。
「そんな!? ポッチャマ!?」
 ポッチャマも、もう戦闘不能になっている。どういう事!?
「フフフ、『スナイパー』というとくせいを知ってるかな? 急所に当たった時にダメージを倍増させるとくせいさ」
 ホイヘンスが勝ち誇ったように話しだした。そっか、その『スナイパー』の効果で、ピカチュウもポッチャマも……
「俺のオクタンの狙いからは逃げられないぞ。さあ、どうする?」
「まだ負けた訳じゃない!! ハヤシガメ……」
「あたしだって!! ミミロル……」
「“れいとうビーム”!!」
 次のポケモンを出そうとモンスターボールを投げる前に、ホイヘンスが指示を出した。オクタンから放たれた“れいとうビーム”が、あたし達の目の前に飛んできた! 気付いた時にはもう手遅れだった。
「きゃあああああっ!!」
 途端に体中が寒気に襲われて、体の自由が金縛りにあったように奪われていく。そしてそのまま、あたしの意識も、急に遠くなっていった……


TO BE CONTINUED……

[758] SECTION02 囚われのサトシとヒカリ!
フリッカー - 2008年12月04日 (木) 21時42分

「う、うーん……」
 あたしは、ゆっくり目を開けた。体に“れいとうビーム”を受けた時の寒さが、まだ残っている。すると、さっきまでの風景とは、全然違う風景が広がっていた。
 薄汚れた、薄暗くて冷たい部屋の中に、あたしは立っていた。部屋は全体的に少しゆらゆら揺れているように感じる。そして、外からは波の音も聞こえる。ここはどこ……? すぐに動こうとしたけど、何かがあたしの体に食い込んでそれを阻む。見ると、あたしの体は柱にロープで縛られている! 捕まっちゃったの!? どんなにもがいても、ロープは固く縛られていて、全然ほどけない。
「う……」
 すると、今度はあたしの後ろから聞き慣れた声が聞こえた。自由の利かない首を動かして、後ろを確かめると、そこにはサトシの後ろ姿が見えた。同じ柱の裏で、サトシもあたしと背中を向き合わせる形で、縄で縛りつけられているのは、すぐにわかった。
「サトシ……?」
「ヒカリ……そこにいるのか?」
 サトシも、目は合わせられないけどすぐに返事をした。とりあえず無事みたい。ほっとしたけど、ポッチャマは見当たらない。ピカチュウも見当たらない。2匹は……?


SECTION02 囚われのサトシとヒカリ!


「目が覚めたかい」
 すると、ドアがガチャッと音を立てて開いた。そこに立っていたのは、紛れもなくホイヘンスだった!
「ホイヘンス!!」
「俺達をどうするつもりだ!! ここから出せ!!」
「やはりそう言うのかい。ここは海の真ん中だ。ここから出た所で、どうやって帰るんだい?」
「海!?」
 ホイヘンスの言葉に、あたしとサトシは声を揃えて驚いた。そうか、ここは船の中なんだ! どうりでゆらゆらしてると思った。
「お前達は、ここで俺の手によって処刑される運命なんだ。おとなしくあきらめる事だな」
「しょ、処刑!?」
 その言葉を聞いて、あたしはぞっとした。あたし達、これから殺されるって言うの!?
「そうだよ、この人目の届かない海の真ん中でお前達を処刑し、海の中に投げ捨てるんだ。そうすれば、何も証拠は残らない……世間には『事故に巻き込まれて行方不明になって捜索中』だと偽の情報を流しておくから、安心しな」
「冗談じゃない!! 俺達はこんな所で……」
「処刑されるもんか、とでも言うのかい? 君達のポケモンは全部、俺が預かっているんだ。どうやって抵抗すると言うんだい?」
 するとホイヘンスは、フッ、と笑みを浮かべてドアの向こうから何かを取り出した。右手には、透明なカプセルに入れられたポッチャマとピカチュウ。そして、左手にはモンスターボールが入っている箱!
「ポッチャマ!!」
「ピカチュウ!!」
 あたしとサトシは、思わず叫んだ。ポッチャマとピカチュウも、必死であたしとサトシに呼び掛けている。
「それでも命乞いをするというのなら……1回だけチャンスをやろう」
 ホイヘンスはカプセルと箱を横に置くと、そんな事を提案した。
「チャンス……?」
「新世界を作るため、君達もギンガ団に入らないかい?」
 その提案は、とんでもないものだった。
「ふ、ふざけるな!! 誰がお前達みたいな奴らの仲間になるもんか!!」
「そうよ!! 新世界とか何だとか言って、いろいろ悪い奴らをしてるあんた達の仲間になんかならないわよ!!」
「ちっちっ、君達は勘違いをしているな」
 それでもホイヘンスは余裕を見せるように、顔の横で人差し指を振ってみせた。
「今この世界は、不完全である故に腐りきっているんだ。人間だって、己の欲望で争い合い、環境を破壊し、世界を破滅に導こうとしているじゃないか。そんな腐りきった世界を変革し得るのは、ギンガ団以外に他にないんだよ。そのためには、腐りきったこの世界を敵に回す必要があるだけなんだよ」
 何だか訳のわからない建前で、自分のやってる事が正しいって言ってるように聞こえて、余計ムカついてきた。
「いつまで訳のわからない事……!」
「そんな腐りきった世界に、君達は味方するつもりなのかい? 俺達の味方になった方が、もっといい世界が生まれるんだ」
 言い返すあたしに、顔を近づけてあたしのあごに手をかけて、じっとあたしの顔を見つめながら言うホイヘンス。その言い方も、何だかムカつく……! あたしは顔を思い切り振ってあごにかけられた手を振り払うと、強く言い返した。
「訳わかんない事言ったって、あたしはあんた達の仲間になんて絶対にならないわよ!!」
「俺だって絶対なるもんか!!」
「……そうか、なら残念だな」
 ホイヘンスはあっさりとあきらめて、顔を下げる。
「それなら日が落ちた後に、お前達を処刑するとしよう」
「!!」
 でもその言葉を聞いて、あたしとサトシが完全に処刑される事を自分から選んじゃった事に改めて気付いて、背筋がまた凍りついた。
「せいぜい日が暮れるまでに、お別れの言葉でも考えておく事だね」
 ホイヘンスはそう言い残して、部屋を後にしていった。ドアがガチャッと戸を立てて閉まる。
 このまま捕まってたら、殺されちゃう! そう思うとあたしはじっとしていられなくなって、必死でもがいた。でも、固く縛られた縄は、いつまで経ってもほどけなかった。

 * * *

 そうこうしている内に、小さな窓から少しだけ見える空が、だんだん赤くなってくる。もう夕方になってるんだ。
 あたしの心が焦る。夜になったら、あいつらに殺されちゃう! 早く逃げないと! そう思って必死に縛られた体でもがき続けるけど、やっぱり縄はほどけない。ポケモン達の力を借りたくても、モンスターボールは部屋の奥にある箱の中。そしてだんだん、あたしの心の中に、殺される事への怖さが襲い掛かってくる。
「嫌……こんな所で……絶対に……死にたくなんてない……」
 遂に体が動かなくなって、体重が縛っている縄にかかる。
「このまま殺されちゃうなんて……嫌……絶対嫌……うっ……うっ……」
 気が付くと、あたしの頬を涙が流れていった。殺されるのが怖い。でも、ここから逃げられない。もう、どうする事もできないの……? あきらめるしかないの……? そんな怖さに、あたしは心が押しつぶされそうになった。
「ヒカリ」
 そんな時、サトシの声が聞こえた。
「……サトシ?」
「あきらめちゃダメだ。絶対ここから逃げられる方法が何かあるはずだよ」
「……でも、そんな事……」
「ダイジョウブさ」
 すると、後ろに回されて動かないあたしの左手に、サトシの手が触れた。そして、あたしの左手をグッと握った。
「俺だって、こんな所で死にたくなんてないさ。だから、必ずここから逃げなきゃならないじゃないか。ポケモン達も、ヒカリも一緒にな」
 あたしの背中越しにいるサトシの顔を、あたしは見る事ができない。でも、握る手の暖かさが、サトシの強い意志をそのまま表してるように感じた。
「俺は最後まで絶対にあきらめない……だからヒカリもあきらめちゃダメさ。こういう時こそ、『ダイジョウブ!』って言わなきゃな」
「サトシ……」
 そんなサトシが、とても心強く思えた。やっぱりサトシは、普段はちょっぴり頼りないけど、ここぞという時には、あたしを守ってくれる、あたしのポケモン達と同じくらい、頼りになる人。そんな人が近くにいるなんて、さっきからずっと忘れていた。
「ごめん」
 あたしはそう答えて、目から流れる涙を止めた。手がふさがっているから、涙を拭く事はできないけど。そして、あたしの左手を握っているサトシの手を、強く握り返した。
「ダイジョウブ……だよね……?」
「ああ、俺達は絶対に逃げられるさ。そう信じなきゃ!」
「……うん!」
 サトシの言う通り、あたしはサトシの言葉を信じた。必ずここから逃げられるチャンスがあるって。

「ポッチャマアアアッ!!」
「チュウウウウウッ!!」
 その時、急にカプセル越しのポッチャマとピカチュウの声が聞こえてきた。何だろうと思って見ると、カプセルの中でポッチャマとピカチュウが、“バブルこうせん”と“10まんボルト”で、カプセルを壊そうとしている!?
「ポッチャマ!? それに、ピカチュウ!?」
 カプセルはなかなか壊れない。それでも、ポッチャマもピカチュウもいつも以上に必死だった。何回も何回も攻撃して、カプセルを壊そうとしている。
「もしかして……あたし達の気持ちに、答えたくて……?」
 そうつぶやいて、あたしはポッチャマに目を向ける。するとポッチャマも、こっちに顔を向けて、はっきりとうなずいたのが見えた。
「ピカチュウ……お前もなのか?」
 サトシもピカチュウに聞くと、ピカチュウもはっきりとうなずいた。ポッチャマもピカチュウも、さっきのあたし達の話を聞いて、カプセルから出てあたし達を助けようとしてるんだ!
「……がんばってポッチャマ!!」
「ピカチュウもがんばれ!!」
 それがわかると、あたしは応援しない訳にはいかなくなった。それは、サトシも同じだったみたい。
「ポッチャマアアアッ!!」
「チュウウウウウッ!!」
 すると2匹もそれに答えるように、アタックを再開した。さっきよりも力が入っている。そんなポッチャマとピカチュウを、あたし達も精一杯応援した。すると、カプセルに少しだけどヒビが入った。
「ヒビが入ったわ!! もう少しよ!!」
 あたしが言うと、2匹の攻撃のパワーが、更に上がったように感じた。そして、ヒビが少しずつ大きくなっていく。そして……!

 バリンと音を立てて、カプセルが壊れた! すぐにポッチャマとピカチュウが飛び出す。
「やったあっ!!」
 あたしは思わず声を上げた。でも2匹は喜ぶ事はしないで、すぐにあたし達の所に来た。そして、あたしを縛っていた縄を、切ってくれた。
「ありがとう、ポッチャマ!」
「ポチャマ!」
 やっと体が自由になったあたしは、ポッチャマを抱いてお礼を言うと、ポッチャマも笑顔で答えてくれた。
「ピカチュウもよくやったぞ!」
「ピッカ!」
 サトシも、ピカチュウを笑顔で褒めている。すると今度は、ごそごそと何かが揺れる音がした。何だろうと思って見てみると、あたし達のモンスターボールが入った箱が、ごそごそと揺れている。中でモンスターボールが揺れているんだって、すぐにわかった。まるでポッチャマ、ピカチュウと同じように、あたし達の気持ちに答えようとしているように見えた。
「みんな……?」
 あたしがつぶやくと、箱はバタンと倒れて、中からモンスターボールがこぼれた。そして、モンスターボールが一斉に開いて、みんなが一斉に出てきた。ミミロル、パチリス、エテボース、ウリムー、そしてハヤシガメ、ムクバード、ヒコザル、ブイゼル、グライオン。
「みんなも、ピカチュウと同じ思いなんだな!」
 サトシが聞くと、みんなも強い眼差しではっきりと答えてくれた。
「みんな……!!」
 あたしは嬉しくなった。あきらめない気持ちがみんなに伝わって、あたし達を助けてくれるなんて……!
「だから言っただろ? 必ず逃げられる方法があるって」
「うん!」
 まさにサトシの言う通りだった。サトシを信じてよかった。あきらめない気持ちがあれば、ポケモン達も答えてくれる。これなら、絶対ダイジョウブ!
「じゃ、早速ここから出ようぜ」
「うん!」
 サトシの言葉にあたしははっきりと答えて、みんなをモンスターボールに戻した後、すぐにこの部屋から出て行った。

 * * *

 気付かれないように、狭い船の廊下をそっと進んでいくあたし達。船は思ってたより小さい船みたいで、結構狭苦しい。波でゆらゆら揺れるのを感じながら、そっと進んでいく。
「……そういえば、モトヤさんはどうしたのかしら?」
 あたしは、ふと思い出した事を口に出した。あたし達がいた部屋には、モトヤさんはいなかった。一緒に捕まっちゃったのかどうかも、確かめていない。
「言われてみれば、確かに……? 俺達と一緒に捕まったのかな? 俺達とは別の部屋に閉じ込められてるのかな?」
 サトシがあれこれ考え始める。
「だったら、モトヤさんも助けてあげなきゃ!」
「そうだな!」
 あたしとサトシの意見は一致。モトヤさんを助ける事にした。でも、かといって声を出して探したら、あたし達が逃げた事がばれちゃう。そっと部屋を覗いて探そうとした。すると、どこかの部屋から声が聞こえてきた。
「……今頃奴らは、殺される恐怖に怯えている頃だろうね」
 それは、ホイヘンスの声。近くに部屋に、ホイヘンスがいる。あたしとサトシは、声が聞こえる部屋のドアの窓を、そっと覗いてみた。窓から、ホイヘンスの後ろ姿が見えた。
「しかし、驚いたよ。あんな美少女がギンガ団に抵抗していたなんてね。抵抗したとはいえ、あんなかわいい女の子を殺すとなると、少しばかり抵抗があるなあ。一緒に旅をしてるって言うあの少年がうらやましいよ」
 ホイヘンスがあたしの事を言ってる。あんな奴に『美少女』とか『かわいい』とか言われても、全然嬉しくない。むしろ逆にムカついてくる。
「不謹慎な事を言わないでください、ホイヘンス。これは任務なのですよ」
 すると、今度は別の声が聞こえてくる。聞き覚えのある声と、話し方。それは、モトヤさんのものに似ている。誰だろう……? でも、ホイヘンスの後ろ姿に隠れて見えない。
「ハハハ、そりゃもちろん承知しているさ、カッシーニ。今のはジョークだよ」
 ホイヘンスが軽く笑ってみせる。
「あんたがどんな任務も絶対に成し遂げなきゃ気が済まない性分なのはわかるさ。だがな、硬くなりすぎないで、少しはジョークに笑うとかしてもいいだろ?」
「……私はそういうのは好きじゃない」
「……相変わらずだなあ、カッシーニも」
 カッシーニっていう人にあっさり言葉を返されて、少しため息をつくホイヘンス。
「さっきの事も半分本当なんだよなあ。あの少女が敵じゃなかったら、俺の好みのタイプなんだけどな」
 またあたしの事を話し始めるホイヘンス。何なのあの人? 何だか気持ち悪い……!
「だがな、敵となった美少女には、敵になった故の美しさがあるってもんだ。殺す事には、何も抵抗はないぜ、カッシーニ」
 すると、ホイヘンスがその場を動いた。そして、ホイヘンスの目の前にいたカッシーニっていう人の姿があたし達にも見えた。
「!?」
 その姿に、あたし達は驚きを隠せなかった。だって、そこにいたのは、間違いなくモトヤさんだったんだから!
「モトヤさん!?」
 あたしとサトシは、声を揃えて思い切り叫んじゃった。そのせいで、2人の視線がこっちに向いた! その視線に気付いて、改めてあたしとサトシは、自分達のした事に気付いた。ばれちゃった!
「待て!!」
 そんな声が聞こえた時には、あたし達は反射的にドアから離れてその場を逃げようとした。でも、後ろから伸びてきた何かに、あたしとサトシは捕まっちゃった!
「ああっ!!」
 強い力で引っ張られて、あたしとサトシは逃げる事ができない。足を力いっぱい踏みしめても、どんどん引き戻されていく。振り向くと、あたし達を捕まえていたのは、モトヤさんのモジャンボのツタだった。
「ポッチャマアアアアッ!!」
 すると、ポッチャマが“バブルこうせん”でモジャンボのツタを切った。踏ん張っていた所で切れたもんだから、急に力が抜けてあたしもサトシも転んじゃった。
「大丈夫か、ヒカリ?」
「う、うん」
 サトシがあたしを気遣ってくれる。そして体を起こすと、こっちを強い眼差しでにらむモトヤさんの姿が見えた。
「どういう事なんですか、モトヤさん……!?」
「……仕方がありません。もうばれた事です」
 サトシに聞かれても、モトヤさんは冷静なまま答えた。
「探偵トレーナー、モトヤというのは仮の姿……真の名はカッシーニ。ギンガ団のエージェントです」
「ギンガ団の……」
「エージェント……!?」
 その言葉が、あたし達には信じられないものだった。さっきまで味方してくれていた探偵トレーナーが、ギンガ団のエージェントだなんて……
「じゃあ、あたし達を騙してたって事なの……!?」
「その通りですよ。『アラモス事件』の事を調べているというのは真っ赤な偽りです。あなた達に近づくための」
 じゃあ、ホイヘンスが襲ってきて応戦しようとしたのも、全部お芝居だったって事だったのね……! 裏切られた悔しさで、あたしの心の中で、モトヤさん――いや、カッシーニが許せないという思いが、どんどん強くなっていく。
「この幽閉した状況から逃走を図るとは、さすがは調べた通りのトレーナーと見ました。しかし、そうは問屋が卸しません。我々の理念を成し遂げるためにも、あなた達を黙って帰す訳にはいきません!」
 カッシーニの目付きが鋭くなって、あたし達に突き刺さった。そして、懐から別のモンスターボールを取り出したカッシーニは、それを勢いよく投げ付けた。
「デンリュウ!!」
 出てきたのは、細身の背が高くて、黄色い体が特徴のポケモンだった。頭と尻尾の先にはきれいな水晶が付いている。
「デンリュウ……」
 あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「デンリュウ、ライトポケモン。尻尾の先が光り輝く。昔の人達はその灯りを使って合図を送り合った」
 図鑑の音声が流れた。
 デンリュウは、モジャンボの横に並んで、ザッと身構えた。ポッチャマとピカチュウも、すぐに場に出て身構えた。完全にダブルバトルの状態。緊迫した空気が漂う。
「モトヤさん……いや、カッシーニ……俺はお前が許せない!!」
 サトシが、強くカッシーニに向かって叫んだ。
「ならば、あなた達の実力を、私にぶつけてみてください」
 カッシーニは、自身あり気に答えた。
「受けて立つぜ!! 行くぞヒカリ!!」
「ええ!!」
 サトシの言葉に、あたしもはっきりと答える。そして、バトルの火蓋が切って落とされた。
「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ピィィィカ、チュウウウウウッ!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 あたしとサトシの指示が、“10まんボルト”になって、“バブルこうせん”になって、モジャンボとデンリュウに向かって飛んでいく! 直撃! でも、2匹共効果は今ひとつ。それは承知していた事だったけど、モジャンボもデンリュウも平気な顔をしている。ここまで効かなかったのは予想外だった。
「フフ、タイプ相性ではこちらが有利ですよ。それを把握しないままそのポケモンで挑んだというのですか?」
 カッシーニはこっちを挑発するように口元に笑みを浮かべて言った。
「それなら、モジャンボに“つつく”よ!!」
「ポチャマアアアアッ!!」
 それなら、効果が抜群なわざで……! そう思ったあたしは、すぐに指示を出した。ポッチャマはクチバシに力を込めて、モジャンボに向かっていく!
「……ダブルバトルとは、こうやるのですよ。デンリュウ、“フラッシュ”!!」
 カッシーニはそんなポッチャマを見てバカにするようにつぶやいた後、指示を出す。すると、ポッチャマの前にデンリュウが立ちはだかって、頭に付いた水晶から眩しい光を放った!
「ポチャッ!?」
 目の前で眩しい光が近くで光った訳だから、当然目がくらんで、動きを止めるポッチャマ。「あっ!!」とあたしが思わず声を出した時には、もう手遅れだった。
「モジャンボ、“パワーウィップ”!!」
 今度は、モジャンボが切られたはずのツタを何事もなかったように伸ばして、ポッチャマを思い切りムチ打った!
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! 効果は抜群! たちまち弾き飛ばされるポッチャマ。
「ポッチャマ! ダイジョウブ?」
「ポ……ポチャ……」
 ポッチャマはぎこちなく立ち上がる。かなりダメージを受けたみたい! それよりも、ポッチャマは目を堅く閉じたまま開けようとしていない。さっきの“フラッシュ”のせいで、目が開けられなくなってるんだ! そんな、これじゃ……!
「デンリュウ、ポッチャマに“かみなり”!!」
 それでも相手は容赦しない。デンリュウがポッチャマに向けて“かみなり”を発射した!
「まずい!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ピィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 すぐにピカチュウがリリーフに入った。“10まんボルト”を発射して、“かみなり”を受け止めた! 正面からぶつかり合う電撃。でも、ピカチュウの電撃が押されている。ピカチュウも必死で電撃を放ち続けるけど、とうとうピカチュウの電撃が打ち破られて、デンリュウの電撃がピカチュウに直撃!
「ピカアアアアッ!!」
 弾き飛ばされるピカチュウ。効果は今ひとつなはずなのに、ピカチュウはかなりダメージを受けてる! なんてパワーなの!?
「ピカチュウ!!」
「タイプ相性ではこちらが有利なのに、連携が取れていませんよ! デンリュウ、“パワージェム”!!」
 続けてデンリュウは頭の水晶から白いエネルギー弾を作り出して、ピカチュウに向けて発射!
「かわせピカチュウ!!」
 サトシの指示で、ピカチュウはデンリュウが放った“パワージェム”を素早くかわした。でも、その時カッシーニがニヤリと笑った。
「モジャンボ、“パワーウィップ”!!」
 モジャンボが、またツタを思い切り振った。それは、“パワージェム”をかわして、ピカチュウがちょうど着地した所に飛んできた!
「ピカアアアアッ!!」
 着地したばかりのピカチュウは、よける事ができなかった。たちまち弾き飛ばされるピカチュウ。そしてさらに、モジャンボはすぐにそのままツタでピカチュウを捕まえた! 強い力で締め付けられて、身動きの取れないピカチュウ。
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ピィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 すぐにピカチュウは“10まんボルト”を放つ! ツタを巻きつけているモジャンボはそれをよける事ができないけど、効果はやっぱり今ひとつで、モジャンボはそれでも平気な顔をしている。
「くそっ、このままじゃ……!!」
 サトシも焦り出している。このままじゃ、ピカチュウがやられちゃう!
「ポッチャマ、ピカチュウを助けて!!」
「ポ……ポッチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマは目が開けられない。だから必ず攻撃を当てられる保障はない。それでも、あたしはこのまま黙って見ているだけなんてできない! 我慢できないであたしが指示を出すと、ポッチャマも答えてくれた。でも、発射された“バブルこうせん”は、モジャンボとは全然違う場所に飛んでいく。何回撃っても結果は同じ。
「……連携が完全に崩れましたね。これでまずはピカチュウを!! デンリュウ、“れいとうパンチ”!!」
 デンリュウの右手に冷気が纏わりついた。そして、その拳でそのまま動けないピカチュウを殴ろうとする! このままじゃ、ピカチュウがやられちゃう! どうしたら、どうしたらピカチュウを……!
「ポッチャマ、“うずしお”っ!!」
 もうこうなったら一か八か、攻撃できる範囲が広い“うずしお”にかけるしかない! もう完全にヤケだった。
「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 ポッチャマはすぐに、廊下の幅いっぱいの大きさの“うずしお”を作り出して、思い切り投げつけた!
「何!? あんなわざをこんな所で……!?」
 カッシーニが全部言い終わらない内に、モジャンボとデンリュウが“うずしお”に飲み込まれた! そして廊下中に広がった“うずしお”は、まるで津波のような波へと変わって、一気に2匹を押し流す!
「うおっ!?」
 そして“うずしお”はカッシーニまでも飲み込んで、廊下の奥へと押し流していった! 意外な結果に、あたしも少し驚いちゃった。そんな2匹とカッシーニをよそに、ツタから抜け出す事に成功したピカチュウが、サトシの所にジャンプして戻ってきた。
「ピカチュウ! サンキュ、ヒカリ。助かったぜ」
 ピカチュウを両手で受け止めたサトシは、あたしにお礼を言った。
「え? 今の、まぐれだったんだけどね……」
 まぐれであんな事になってお礼を言われると、ちょこっと恥ずかしい。あたしは照れて、少しだけ顔を赤くしちゃった。
 でもその時、突然“うずしお”が流れて行った廊下の奥から、ドドーンと爆発音が響いた。見ると、廊下の一番奥の部屋のドアが破れて、中から出ている黒い煙と赤い炎が見える。ドアの端にあるプレートには、『エンジン室』と書いてあった。さっきの“うずしお”でカッシーニを押し流したのはいいけど、エンジン室まで壊しちゃったんだ! これは一大事!
「まずい!! 船が壊れる!! 逃げるぞ!!」
「う、うん!!」
 もうやる事は1つだった。とにかく早くここから逃げる事! あたしは目が開けられないポッチャマをモンスターボールに戻して、すぐにサトシと一緒に船の外を目指した。

 * * *

 船の外に出ると、外はすっかり日が暮れて、夜になっていた。辺り一面に広がる海。その向こうに、小さく街明かりが見えた。あそこがミオシティかな? 結構遠くまでこの船来ちゃってたんだ。
 船の後ろから、何回か爆発音が聞こえる。船の後ろで炎が燃えている。そのお陰で、夜でも周りははっきりと見えた。
「よし、ブイゼルでミオシティまで戻ろう!」
「うん!」
 ポッチャマは目が開けられないから、泳ぐ事なんてできない。なら、今頼れるのはサトシのブイゼルしかない。サトシはすぐにモンスターボールを取り出した。
「そうはさせないぜ」
 でもその時、船の中から声が聞こえて、あたし達の足を止めた。振り向いてみると、そこにいたのは、オクタンを連れてこっちにやってくるホイヘンスだった!
「ホイヘンス……!」


NEXT:FINAL SECTION

[759] FINAL SECTION VSホイヘンス! 力を合わせて!
フリッカー - 2008年12月11日 (木) 22時19分

 船の後ろは黒い煙を立てながら、大きな炎を立てて燃えている。そしてその炎は、ドドーンという音がする度に爆発する。
 そんないつ沈んでもおかしくない船をそっと見つめる、空中に浮いた黒いポケモンがいた事には、あたし達は気付いていなかった。

 * * *

「ホイヘンス……!」
「ここであんた達に逃げられたら、こっちもいろいろと困るんでね。船はこんな状況だが、あんた達を止めない訳には行かないんだよ!」
 ホイヘンスの叫び声に答えるように、オクタンが飛び出す。
「くそっ、こんな時に……!!」
 サトシが唇を噛んだ。こんなとてもバトルなんてしている状況じゃないのに、ホイヘンスはあたし達を止めようとしてしかけてきた。無視して逃げようにも、相手はみずタイプのポケモン。追いかけてくるかもしれない。かと言って、ここでバトルしたら船と一緒に沈んじゃうかもしれない。
「どうする、サトシ……?」
「ヒカリは先に逃げるんだ」
 あたしがサトシに聞くと、サトシはすぐにそう答えを返した。その答えに、当然あたしは驚いた。
「ええっ!? サトシは、どうするの!?」
「俺がホイヘンスと戦うから、その間に!」
 サトシはそう言って、あたしの右手首を掴むと、あたしの右手の平に1個のモンスターボールを置いた。それは、ブイゼルが入っているものだという事に、あたしはすぐに気付いた。


FINAL SECTION VSホイヘンス! 力を合わせて!


「ちょ、ちょっと待ってサトシ!! 無茶よ!! それじゃ、サトシも……!!」
 予想外のサトシの言葉に、あたしは驚いた。船に1人残って戦うという事は、サトシだけ船と一緒に沈んじゃう可能性が大きくなっちゃう。しかも、ただ1匹のみずポケモンのブイゼルをあたしに渡したら、逃げる方法もなくなっちゃう。自分からそうするって言うなんて、相変わらずの無茶ぶり。
「俺はヒカリを巻き込みたくないんだ。だからホイヘンスとは、俺1人で戦う! だからヒカリは先に逃げてくれ!」
 あたしの両肩に、サトシの手が触れた。サトシがあたしを守ってくれるのは嬉しい。でも……
「でも……!!」
「心配するなって! 俺は絶対に勝って、後を追いかけるから! 俺を信じてくれ!」
「……」
 信じる。サトシがポケモン達によく使う言葉。それを言われると、食い下がろうとしていたあたしは、途端に反論できなくなった。
「ダイジョウブさ」
 そして最後は、あたしがよく言う言葉を、少しだけ微笑んで口に出した。しばしの沈黙。そこまで言われたら、あたしはとうとう食い下がる事ができなくなって、そんな事を言うサトシを信じなきゃって思った。
「……ほほう、その少女を逃がして、お前が時間を稼ぐって言うのかい? 結構ジェントルマンなんだねえ、お前も。カッシーニがカップルって言うのもわかる」
 そんなホイヘンスの言葉が耳に入って、あたしは現実に引き戻された。見ると、ホイヘンスがオクタンと一緒に、じりじりとこっちに近づいてくる。そんなホイヘンスの前に、サトシが立ちはだかって、両手を広げた。ピカチュウも、そんなサトシの前に飛び出して、身構えた。
「うるさい!! お前の相手は俺だ!! ヒカリを追いかけるのは、俺を倒してからにしろ!!」
「望む所だと言わせてもらおうか」
 そんなサトシの姿を見て、ホイヘンスの口元が笑った。
「ピカチュウ、一旦戻っていてくれ」
 最初に会った時のバトルの教訓からピカチュウを温存しようとしてるのか、サトシは一旦ピカチュウを呼び戻した。言われた通りに、後ろに下がるピカチュウ。
「ムクバード、君に決めたっ!!」
 サトシはすぐにモンスターボールを取り出して、その場に力強く投げる。出てきて勢いよく空に舞ったのは、ムクバード。
「ムクバード、気を付けろ!! あのオクタンの狙いは正確だ!! それに何で攻撃してくるかもわからない!! スピードを活かしてかわしていくぞ!!」
「ムクバッ」
 サトシが注意すると、ムクバードもはっきりと答えた。サトシはオクタンの特徴を、はっきりと掴んでいる。
「……ほほう、そんなポケモンで挑まれるなんてね、俺もなめられたもんだなあ」
 それでも余裕そうに、サトシを挑発するように言うホイヘンス。
「ヒカリ、早く!!」
 サトシの顔があたしに向く。
「……うん。でも、必ず戻ってきてね!」
 あたしはサトシにそれだけ言って、体を海に向けて翻した。

 その後も、バトルの様子が聞こえてくる。
「ムクバードのスピードで、オクタンの攻撃をかわして勝ってやる!! ムクバード、“ブレイブバード”だ!!」
「ムクゥゥゥゥッ!!」
 サトシの力強い指示に答えるように、ムクバードは一番の大技“ブレイブバード”を使っている。そのままオクタンに真っ直ぐ突っ込んでいるはず。
「“れいとうビーム”!!」
 すぐにホイヘンスも応戦する。“れいとうビーム”が飛ぶ音がした。
「かわすんだムクバード!!」
 すぐにサトシは指示を出す。でも、その後聞こえたのは、ムクバードの悲鳴だった。
「ムクゥゥゥゥッ!!」

「あっ!?」
 そんなムクバードの悲鳴を聞いて、今まさに海にブイゼルを出そうとしていたあたしは、思わず振り向いた。そこにいたのは、左の羽が凍りついて床に落ちたムクバードの姿だった!
「ムクバード!!」
「言っただろう、俺のオクタンの狙いからは逃げられないってな!! “チャージビーム”!!」
 オクタンは床に落ちたムクバードに、さらに“チャージビーム”を発射! 羽が凍って飛べないムクバードは、それをかわす事なんてできる訳ない!
「ムクゥゥゥゥッ!!」
 直撃! 効果は抜群!
「ムクバード!!」
 サトシの叫び声も空しく、そのままムクバードは、その場に倒れて動かなくなった。もう戦闘不能!?
「サトシ……」
 あたしは不安になった。これじゃ、最初の時と完全に同じ展開。このままだと、サトシが負けちゃいそうな気がしてきた。あたしのために、戦ってくれているのに……
「その程度のポケモンなど、俺のオクタンの敵じゃない。さあ、次は何を出すんだい?」
「くっ……!!」
 サトシは唇を噛んでモンスターボールにムクバードを戻す。そして、別のモンスターボールを取り出した。
「ハヤシガメ、君に決めたっ!!」
 次にサトシが繰り出したのは、ハヤシガメだった。みずタイプのオクタンには、相性では有利。でも、あたしの不安は晴れなかった。今までオクタンは、くさタイプに有利なわざ“かえんほうしゃ”と“れいとうビーム”を使っている。それよりハヤシガメ自身は、ナエトルの時のスピード重視の戦法から、別のバトルスタイルに変えている最中。100%の力を出せるかどうかもまだわからない状態で、戦う事になっちゃう。
「ハヤシガメ、特訓通りオクタンの攻撃をがっちり受け止めるんだ!!」
「ハヤッ」
 サトシの言葉に、うなずくハヤシガメ。
「ほう、よけきれないと判断してディフェンス重視のポケモンを出したか……しかしそれはどうかな? “かえんほうしゃ”!!」
 ホイヘンスが指示を出したのは、やっぱり有利なわざ“かえんほうしゃ”だった。オクタンは容赦なくハヤシガメに炎を浴びせた!
「ハァァァァァァ……ッ!!」
 たちまち炎に包まれるハヤシガメ。効果は抜群! それでも、ハヤシガメは歯を食いしばって必死で耐えている。
「がんばれハヤシガメ!! 耐えてチャンスを待つんだ!!」
 サトシも精一杯応援している。ようやくオクタンの吐く炎が治まる。ハヤシガメは“かえんほうしゃ”を耐えきってみせた。でも、体中は『やけど』だらけで、ハヤシガメの息も荒い。かろうじて耐えきったって感じ。
「よし、反撃だハヤシガメ!! “はっぱカッター”!!」
「ハヤッ、ガァァァァッ!!」
 サトシの指示で、オクタンに反撃するハヤシガメ。“はっぱカッター”を、オクタン目掛けて発射! 直撃! 効果は抜群……のはずだけど、オクタンは平気な顔をして立っていた。
「そんな!? 効いてない!?」
「ハハハ、“かえんほうしゃ”を耐えきったのは見事だ。だが、『やけど』を負ったせいでパワーが落ちてしまったようだね」
 ポケモンが『やけど』しちゃうと、攻撃力が落ちちゃう。耐えきって反撃したはいいけど、“かえんほうしゃ”を受けた事が完全に仇になっちゃったんだ!
「それに……だ。“れいとうビーム”!!」
 今度はオクタンが攻撃する。オクタンが発射した“れいとうビーム”が、ハヤシガメに直撃! さっきとは逆のわざを受けて、ハヤシガメの体が凍り始める。
「負けるなハヤシガメ!! 耐えるんだ!!」
 そう叫ぶサトシの目の前で、とうとうハヤシガメは氷漬けになっちゃった!
「ハヤシガメ!! ハヤシガメ!!」
 サトシがどんなに叫んでも、ハヤシガメは氷漬けになったまま動かない。完全に戦闘不能。
「急所に当たってしまえば、防御力など関係ない。ディフェンス重視のポケモンで攻めようが、焼け石に水さ」
「くそっ……!!」
 余裕綽々に話すホイヘンスを前にして、サトシは唇を噛んでモンスターボールにハヤシガメを戻した。今残っている手持ちは、ピカチュウを除けばヒコザルとグライオンしかない。どっちもみずタイプには不利。「相性なんてひっくり返してやる!!」って言うかもしれないけど、有利な相手でも簡単に勝っちゃったオクタン相手には、それも通用する気がしない。それでもサトシはモンスターボールを取り出した。
「こうなったら……!!」
「おっと」
 その時、ホイヘンスがつぶやいたと思うと、オクタンが急に“エナジーボール”を発射! それは、サトシが投げようとしていたモンスターボールに命中して、モンスターボールを弾き飛ばしちゃった!
「なっ!?」
「もう1発だ」
 ホイヘンスの表情は笑っていた。何かを企んでいるかのように。そしてまた1発発射された“エナジーボール”は、今度はサトシの体に直撃!
「ぐわっ!!」
「サトシッ!!」
 もろに直撃を受けて倒れたサトシを見て、あたしは叫ばずにはいられなかった。やっぱりあたしの不安は本当になっちゃった。このままじゃ、サトシが……!
「ピカアアッ!!」
 そんなサトシを守ろうとして、ピカチュウが飛び出した。
「来たか! “エナジーボール”!!」
 ピカチュウに気付いたホイヘンスは、すぐにオクタンに指示する。オクタンはすぐにピカチュウに顔を向けて、“エナジーボール”を発射!
「ピカアアアアッ!!」
 直撃! あっけなくサトシの横まで弾き飛ばされるピカチュウ。
「ヒカリ……!? 何やってるんだ!? 俺の事はいいから……逃げろ!! 早く!!」
「……」
 サトシがまだあたしがいる事に気付いて、あたしにそう促す。でも、あたしは動ける訳がなかった。サトシ自身まで攻撃を受けちゃってる状況で、黙って逃げるなんてできる訳なかった。サトシがあたしを助けようとしてやられちゃう事は、あたしにとってただ負けるよりもずっと嫌な事だから。
「ぐあっ!!」
 その時、サトシの体にまた“エナジーボール”が直撃! サトシが悲鳴を上げた。あたしの恐れていた事が、どんどん本当になろうとしている。体の中から、抑えきれない強い力が湧いてきて、両手に自然と力が入って拳になる。やっぱり、あたしはできない……ピンチになってるサトシを見捨てて、黙って逃げるなんてできない……!
「俺の勝ちだな。とどめを刺せ、オクタン!!」
 オクタンが一気にジャンプして、サトシに狙いを定める。サトシが危ない! 気が付くとあたしは、自然とサトシの前へと飛び出していた。

「きゃあああああっ!!」
 オクタンから放たれた“かえんほうしゃ”が、あたしの体を飲み込んだ。体中に焼けるようなってレベルじゃない熱さが駆け巡る。それでもあたしは必死に耐えて立ち続けた。サトシを守りたかったから……!
「あ、ああ……」
 ようやく炎が治まると、あたしの体はゆっくりとその場に崩れ落ちた。体中をビリビリとやけどの強い痛みが走る。とても苦しくて、その場から立つ事ができない。
「ヒ、ヒカリ……!?」
 サトシはあたしがかばったのを見て、目を丸くしていた。
「……おやおや。お前みたいなか弱い女の子が攻撃をかばうなんて、どういう風の吹きまわしかな?」
 ホイヘンスも目を丸くしていたけど、それでもその喋り方に余裕さは消えていなかった。
「やらせ、ない……!」
 苦しんでなんかいられない。あたしはやけどでビリビリと痛む体に出せるだけの力を出して、ゆっくりと立ち上がった。そして、思いきり両手を広げて、ホイヘンスを強くにらむと、お腹の底から思い切り叫んだ。
「サトシは絶対にやらせない!! ここから先は、一歩も通さないんだからっ!!」
「ヒカリ……」
 あたしの後ろにいるサトシは、それだけしか声が出なかった。
「エテボース!!」
 あたしはすぐにモンスターボールを取り出して、エテボースを出した。エテボースはオクタンの前に飛び出して、サッと身構える。
「エテボース、“スピードスター”!!」
「エェェェイポッ!!」
 あたしの思いが伝わるように思いきり指示すると、エテボースはすぐに“スピードスター”をオクタンに向めてばら撒いた! 直撃! たちまち弾き飛ばされるオクタン。
「やった!!」
 あたしはすぐにそう思った。でも、オクタンはまだやられていなかった。弾き飛ばされて倒れても、また立ち上がった。
「!?」
「“かえんほうしゃ”!!」
 すぐに反撃するオクタン。オクタンの口から炎が見えた。やばい!
「エテボース、“かげぶんしん”!!」
「エポッ!!」
 とっさにあたしは指示を出した。エテボースの姿が、次々と分裂していく。たくさん現れたエテボースの姿に、オクタンも驚いている。これならいくら百発百中の攻撃でも……! でも、それはすぐに裏切られた。オクタンは鋭い目線で落ち着いて狙いをつけると、口に溜めていた炎を発射! 分身に当たった……と思ったら、周りの分身があっという間に消える。当たったのは本物のエテボース!?
「エポォォォォッ!!」
 炎の直撃を受けて、悲鳴を上げるエテボース。そのままあたしの前までエテボースは弾き飛ばされた。
「エテボース!!」
 あたしが呼びかけても、エテボースは答えてくれない。完全に戦闘不能。そんな……“かげぶんしん”も通用しないで、あっさりやられちゃうなんて……! あたしはすぐにエテボースを戻した。それなら、次はパチリスで……! でも、その時だった。
「次はあいつに“エナジーボール”!!」
「っ!?」
 オクタンはあたしに向けて“エナジーボール”を発射! ホイヘンスがこっちを狙ってくるなんて、予想外の事だった。
「きゃあああああっ!!」
 もろに直撃だった。体に強い痛みが走った。爆発で体が後ろに弾き飛ばされた。そのまま倒れるあたしの体。「ヒカリッ!!」とサトシの声が一瞬聞こえた。
「う、ぐ……」
 体中が痛い……痛くて、体に力が入らない……! あたしは倒れたまま動けなかった。
「女の子なのにいい度胸だね。だけど俺は、お前みたいなかわいい女の子をいたぶるのは嫌いじゃない! “チャージビーム”!!」
 ホイヘンスは余裕を見せながら指示を出した。今度は“チャージビーム”をあたしに向けて撃ってきた!
「きゃああああああああっ!!」
 強い電撃があたしの体に流れ続ける。もう完全にあたしは悲鳴を上げるしかなかった。こんなボロボロの体で電撃なんて耐えられる訳がない。どんどん体の力が電撃に奪われていく。ああ、このままあたしは……
「やめろおおおっ!!」
 すると、そんなサトシの叫び声が聞こえたと思うと、ピカチュウがオクタンに向かって飛び出した!
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 ピカチュウの電撃が、オクタンに向かって飛んでいく! それに気付いたオクタンは、“チャージビーム”を止めて、素早く電撃をかわした。やっと電撃から解放されたけど、あたしの体は重くて力が入らないから、大きく動かす事はできない。
「ヒカリ!! 大丈夫か!! しっかりしろ!!」
 サトシがあたしの所に駆け寄ってきた。そして、あたしの動けない体を起こしてくれた。
「う、うん……何とか……」
「どうして……どうしてこんなに……」
「ご、ごめん……サトシが、ピンチになってるのに……1人で逃げるなんて、できなかったから……」
 あたしは途切れ途切れに弱くだけど、サトシの声に答えた。
「く……っ!!」
 サトシが唇を噛んだ。背中を支えている腕が震えている。顔は伏せていてその目付きを見る事はできないけど、サトシが怒っている事はすぐにわかった。その鋭い視線は、真っ直ぐホイヘンスに向けた。
「許さない……許さないぞホイヘンス!!」
 サトシはグッと右手で拳を作って、その怒りを強い叫び声にしてホイヘンスにぶつけた。
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 サトシの怒りが、ピカチュウの“10まんボルト”になってオクタン目掛けて飛んで行った! でも、オクタンはすかさずかわす。
「ポッチャマ……あなたも行って!!」
 あたしもじっとしてなんかいられなかった。すぐにモンスターボールを取り出して、スイッチを押して開けた。中から出てくるポッチャマ。その目はしっかりと開いている。
「ポッチャマ……目は、もうダイジョウブ?」
「ポチャマ!」
 あたしの声に、ポッチャマははっきりと答えた。もう目が開けられるようになったかなって判断して出したんだけど、当たっててよかった。
「“バブルこうせん”……!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 体は自由に動かせなくても、あたしはポッチャマにはっきりと聞こえる声を精一杯出して、指示を出した。それに答えて、ポッチャマも力いっぱいの“バブルこうせん”を発射! 当たった! でも、効果は今ひとつ。オクタンには致命傷にはならない。少しだけ怯んだけど、すぐに態勢を立て直すオクタン。そんなオクタンの前で身構える、ポッチャマとピカチュウ。
「2対1か……だが、俺のオクタンなら手応え充分だ。どこからでもかかって来な!!」
 2対1っていう不利な状況なのに、ホイヘンスは余裕の表情を崩さない。
「ヒカリ、あのオクタンには普通のバトルじゃ勝てない。またヒカリだって、巻き込まれるかもしれないんだ。だから……」
 サトシはあたしの側にかがみこんで、あたしにそう言う。
「だからって……あたし、逃げない。このままサトシを置いて行くなんて、できないもん……あたしも一緒に戦う!」
 サトシはあたしに逃げてって言おうとしたのかもしれない。でも、あたしは逃げるつもりなんてなかった。体はボロボロでも、1人じゃ無理でも、2人なら……
「でも、その体じゃ……」
「体は、ボロボロだけど、あたしにはポケモン達がいるから……ポケモン達の力で、サトシに力を貸してあげたいの……!」
「ヒカリ……」
 あたしは自分の思っている事を、そのままサトシに伝えた。すると、サトシの表情も変わった。
「……わかった。でも、無理はするなよ。何かあったら、俺が何とかするから」
 サトシがそう言ってくれた事が、あたしは嬉しかった。あたしはすぐに、「うん……!」とうなずいた。
「さて、最後の挨拶は済んだかい? そろそろ始めようじゃないか」
 そんなホイヘンスの声を聞いて、あたし達は改めてホイヘンスの方に顔を向けた。
「だけど……どうする? オクタンの攻撃はよけられない、かといって防ぐ事もできない……」
 サトシが珍しくそんな弱気な事をつぶやく。オクタンの狙いの正確さは、『回転』や“かげぶんしん”も通用しないほど。かといって防ごうとしても、急所に当たっちゃえば、防御力なんて無意味。実際、そうやろうとしたハヤシガメはやられちゃった。よける事もダメ、防ぐ事もダメ……かといってあたし達のポケモンには、“まもる”や“みきり”を使えるポケモンはいない。これじゃ攻撃をよける事なんてできない。サトシの言う通り、何か対策を考えないと、また同じ展開になっちゃう。どうしたら……どうしたら……!
「先に仕掛けないならこっちから行かせてもらう! “かえんほうしゃ”!!」
 そうこうしている内に、オクタンが口から炎を吹こうとしている! やばい! 早く何か手を打たないと……!


 ――――――!!


 その時、あたしの頭の中で名案がひらめいた。
「ポッチャマ、回りながら“バブルこうせん”!!」
 あたしはすぐに思い付いた事を指示した。そして、あたしが指示を出したのと同時に、オクタンが口から炎を吹いた! オクタンの炎が、真っ直ぐこっちに向かってくる!
「ポッチャマアアアアアアッ!!」
 ポッチャマは指示通り、『回転』の要領で体を回転させながら、“バブルこうせん”を発射! “バブルこうせん”がカーテンのように辺りに降り注ぐ。炎はそれにぶつかって、ポッチャマには当たらないまま押し返されていく!
「な!? 攻撃で攻撃を受け止めただと!?」
 ホイヘンスが初めて動揺した。そして“バブルこうせん”はそのままオクタンの周りに降り注いだ! 次々と降り注ぐ“バブルこうせん”の雨に、玉突きのように何回も弾かれ続けて身動きが取れないオクタン。
「あ、あれは……!!」
「そうよサトシ、『カウンターシールド』よ!!」
 カウンターシールド。それは、サトシが前のヨスガジム戦に備えて編み出した戦法。あたしの考えた『回転』を活かして、攻撃を弾いちゃって、そのまま攻撃もしちゃおうというもの。『カウンターシールド』って名前は、ヨスガジムのジムリーダー、メリッサさんが付けたもの。これを本番でもうまく使いこなして、サトシはバッジをゲットした。攻撃をよける事ができない。防ぐ事もできない。それなら、攻撃を受け止めるしかない。それで、あたしはこの戦法を使う事をひらめいたって訳。あたしの『回転』をサトシが進化させた戦法をまさかあたしが使う事になるなんて思ってもいなかったけどね。
「そうか、それがあったか!!」
「サトシ、今がチャンスよ!! 思いっきりやっちゃって!!」
 攻撃する事も思うように動く事も『カウンターシールド』のせいでできない状態のオクタンなんて、もう怖くない! あたしはそこにピカチュウの電撃をお見舞いさせてもらおうと、サトシに呼びかけた。
「ああ!! ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 ピカチュウが力を込めて、自慢の電撃を発射! ちょうど“バブルこうせん”の『カウンターシールド』が止んだ所に、電撃は真っ直ぐ飛び込んで行った! 直撃! 効果は抜群! 手応えもある! そして大爆発!
「オクタン!?」
 ホイヘンスが叫んだのも空しく、オクタンはホイヘンスの前に弾き飛ばされる。そのまま動かなくなったオクタン。勝った!
「やったぜ!!」
「勝った!! 力を合わせたら勝てた!!」
 あたし達は、一緒になって歓声を上げた。
「バ、バカな……あんなポケモン2匹に、俺のオクタンが……!!」
 ホイヘンスがよっぽど自身があったせいか、完全に動揺していた。
 でも喜んでいたのもつかの間、急にドドーンとホイヘンスの後ろで大きな爆発が起きた。
「きゃあああっ!!」
 当然、あたし達は爆風で強く弾き飛ばされた。あたしの体が、激しく床に叩きつけられた。
「……ちっ、もう船が持たないか……!」
 ホイヘンスはすぐに立ち上がってそうつぶやくと、懐から別のモンスターボールを取り出して、投げ上げた。出てきたのは、大きなトサカをもった大きなとりポケモンだった。ピジョットだ。
「どうやら勝負はここまでのようだ。だが、お前達はその体ではここから逃げられまい! 船と一緒に海の底に沈むんだな!」
 ホイヘンスはそう言って、ピジョットの足にぶら下がって、そのまま夜空へと飛んで行った。
「きゃああっ!!」
 すると、床が急に傾き始めた。倒れているあたしの体が、傾いたせいで床を滑り始めた。
「ヒカリッ!!」
 すぐにサトシも、傾いた床を滑り台のように滑って追いかけてくる。そして右手を思い切り伸ばして、あたしの右手をがっしりと掴んだ。同時に、あたしの体がガクンと止まる。見ると、サトシが左手で船のフェンスにつかまっている。そして後ろを見ると、そこには普通は見えないはずの海原が、船の後ろ側を飲み込んでいるのが見えた。船の後ろ側が、もう沈み始めている! こうしている間にも、どんどん傾きは急になっていく。とうとう海に対して垂直に近くなるまで傾いた。
「ヒカリ……手を離すな……!! 今、助けるからな……!!」
「ダメ!! あたしの事はいいから……逃げて!!」
 サトシはさっきのバトルで攻撃を受けたから、体力が少ない。そのせいか、フェンスを掴んでいる左手が震えているのが見えた。サトシの表情もどこか苦しそう。ピカチュウとポッチャマがサトシの手を必死で掴んでいるけど、いつ手が離れてもおかしくない状態。このままじゃ助かる所か、サトシも巻き添えになっちゃう! それだけは、あたしが一番嫌な事だった。
「何言ってるんだ……!! ヒカリを置いて逃げるなんて、できるもんか……!!」
「ダメよ!! サトシまで巻き添えになっちゃう!!」
 あたしがそう言った時、あたし達の近くで爆発が起きた。
「きゃあああああっ!!」
 爆風であたし達は海へと簡単に投げ出された。あたしの手を掴んでいたサトシの手が離れた。そして、ドボンと海の中に落ちた。体を動かせないあたしは、当然泳げる訳なんてない。そのまま、体は暗い海の底へと沈んでいく。でも、誰かの手があたしの体を受け止めて、すぐに体を水面に浮かび上がらせた。それがサトシだったという事に、あたしはすぐに気付いた。
「大丈夫か、ヒカリ!!」
「う……ダイ、ジョバ……ない………」
 水面に浮かび上がると、サトシがあたしに呼びかける。でも、あたしの体力はもう限界だった。そのままあたしの目の前は、どんどん真っ暗になっていく。あたし……もう、ダメかも……
 最後に、サトシの後ろに、何か赤い目をもった黒い影が見えたような気がした。

 * * *

「う……う〜ん……」
 あたしの目が、ゆっくりと開いた。すると、目の前にサトシとピカチュウ、ポッチャマの顔が映った。
「……ヒカリ!! よかった……!!」
 サトシが嬉しそうな顔を見せた。側にいるピカチュウとポッチャマも、同じ表情を見せている。
「……サトシ? あたし、いったい……うぐっ!!」
 周りを見ると、あたし達がいるのはどこかの岸。そう遠くない場所に、ミオシティの街明かりが見えた。あたしは自然と体を起こそうとした。でも、すぐに体に強い痛みが走って、体を動かせなかった。
「ああっ、ダメだよヒカリ! ヒカリはボロボロなんだから、変に体を動かしちゃダメだ」
 そう言って、サトシはピカチュウ、ポッチャマと一緒にあたしの体をすぐに寝かせた。そして、さっきのあたしの質問に答えた。
「海に落ちた時、あいつがここの岸まで案内してくれたんだ。そうじゃなかったら、俺達もどこかに流されちゃってたかもしれない」
 そう言うサトシが顔を向けた方向に、あたしも顔を向けた。そこには、こっちに笑みを浮かべながら立っている、シャドーポケモン・ゲンガーの姿があった。
「ゲンガー……?」
 あのゲンガーが、あたし達を助けてくれたんだ……でも、どうして助けてくれたんだろう? 逆にあの世とかに連れて行かれそうな気がするけど……それよりあのゲンガー、どこかで見た事があるような……? するとゲンガーは、体を横に向けて、こっちに手招きをした。「ついて来い」って言ってるみたいに。
「町まで案内してくれるんだな? わかった」
 サトシはゲンガーとやけに親しく話している。どうしてそんな事がわかるの? そう考えていると、あたしの体が、急にひょいと持ち上げられた。
「あっ……!?」
 サトシがあたしの腰と両足を支えた状態で、あたしの体を持ち上げている。いきなり持ち上げられたから、あたしはびっくりしたけど。
「ヒカリ、これから町まで運んでやるからな」
 サトシはあたしにそう言って、ゲンガーの後を歩いてついて行った。そっか、町まで動けないあたしを運んでくれるんだ。少しだけ揺れるから、念のため落ちないようにあたしも両手をそっとサトシの首に回す。
「……サトシ、ダイジョウブなの? 重たくないの?」
 あたしは気になって、そんな事を聞いてみる。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ! これくらいへっちゃらさ。気にすんなって」
 サトシはあたしに笑みを見せて、そう答えた。もし重いって言われてたら、それはそれでショックだったけど。そんなサトシの優しさが、あたしは嬉しかった。
「ありがとう、サトシ」
「あっ、いや、俺を言わなきゃいけないのはこっちだよ。ヒカリが『カウンターシールド』を思い出してくれなかったら、あいつにも勝てなかった。サンキュ、ヒカリ」
「えっ、そんな……あたしは、ただ……」
 お礼を言ったあたしだけど、逆にお礼を返された。こうされると、こっちが恥ずかしくなって、顔が思わず赤くなっちゃう。
「でも、もう『あたしの事はいいから』なんて言うなよ」
「えっ?」
 突然切り出したそんな言葉の意味が、あたしにはわからなかった。
「前にヒカリは言ってたじゃないか、俺はあたしの大切な人なんだってさ。俺にとっても、ヒカリはとても大切な人なんだ。だから、何かあったら、俺が必ずヒカリを助けるから。あんな事はもう言わないでくれ」
「サトシ……」
 そう言われると、あたしは嬉しくなった。やっぱりサトシは、普段はちょっぴり頼りないけど、こういう時にはとても頼りになる。そう、何かあったら、サトシは必ずあたしを守ってくれる……
「うん!」
 あたしははっきりそう答えた。サトシの顔に笑みが浮かんだ。それを見たあたしも、自然と顔に笑みが浮かんだ。
「サトシーッ! ヒカリーッ!」
 すると、サトシが歩いている先から聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。そして、すぐにその姿が見えた。右目が赤で、左目が水色と、左右違う色の目。縛ってポニーテールにした長い緑色の髪には、グラシデアの花が一輪刺さっている。そして何も飾りがついてない、青紫色一色の半袖、ひざ丈くらいの長さのスカートの地味でシンプルなワンピース姿の、物静かそうな顔立ちをした女の子。腕にはかんしゃポケモン、シェイミを抱いている。
「シナ!」
 そう間違いなく波導が使える女の子、シナだった。そっか、あのゲンガーはシナのポケモンだったんだ! きっと波導の力を使って、あたし達を助けに来てくれたんだ。
「2人共、無事だった……あっ」
 でもシナは、あたし達の姿を見た途端、急に顔を赤らめて、急に背中を向けた。
「ご、ごめん……いい所邪魔しちゃって」
「えっ? 何を邪魔したってんだ、シナ?」
「あたし達、何もシナの邪魔になる事してないよ?」
 シナの言った言葉の意味が、あたし達には全然わからなかった。いい所って何の事? そのまましばしの沈黙。

「ねえ、2人共……すっごく変な事聞いちゃうけど……いいかな?」
「えっ、何?」
「ひょっとして2人って……その……恋人、同士……?」
「!!!」
 シナのそんな言葉を聞いた途端、あたしの顔もサトシの顔も真っ赤になった。そして、あたしとサトシは揃ってすぐに言い返した。
「ち〜が〜い〜ま〜す〜っ!!!」
「……やっぱり」

 * * *

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY24:THE END

[760] 次回予告
フリッカー - 2008年12月11日 (木) 22時21分

 あたしは突然、テレビの取材を受ける事になっちゃった!

「実は、今度のニュース番組の特集で、ヒカリさんの特集を組む事になったんです! 是非、取材をお願いします!」
「ええ〜っ!!」

「へえ、ニュース番組に特集されるなんて凄いじゃないか、ピ〜カ〜リ〜?」
「もう、それだけはダメって言ってるでしょ!!」
「ケンゴか、久しぶりだな」

「ぐわっ!!」
「ちょっとアンタ!! ヒカリさんを侮辱するつもりなの!!」
「ハ、ハルナ!?」

 そんな時、突然あたしの所に届いた手紙……

「なになに……『挑戦状』!?」
「ヒカリさんに、挑戦状ですか!?」
「誰からなんだ?」
「『「カンナギの鬼百合」の娘、アヤメ』!?」

 あたしに挑戦状を送ったアヤメって、何者なの?

 NEXT STORY:マンムーの声(前編)

「ママの仇は、あたしが取って見せるんだから!!」

 COMING SOON……

[761] 次回予告
フリッカー - 2008年12月14日 (日) 19時36分

 進化したはいいけど、相変わらず言う事を聞いてくれないマンムー。

「マンムー……あたしにどこか不満な所でもあるの? それなら、はっきり教えて……あたし、平気だから……」
「マァァァァァァンッ!!」
「わあっ!!」

「す、凄いですねヒカリさん……あのマンムーのパワー、ちゃんとコントロールできれば最強じゃないですか!」
「そうなってくれるといいんだけどね……」
「く……っ!! 何よ、なんであいつだけあんな強いポケモンを……っ!!」

 でもその後、大変な事が起きちゃった!

「このマンムー、あんたに懐いてないみたいだから、あたしのポケモンにしてやるわ!」
「マンムーを返して!!」
「さあ、前の主人へのうっぷんを思いきり晴らしちゃいなさい! マンムーッ!!」
「っ!?」

 どうして……? あたしが戦う相手は、マンムー!?

 NEXT STORY;マンムーの声(前編)

「自業自得よ、あんたの言う事を聞かないのは、あんたの事が嫌いだからに決まってるじゃない!!」
「違うっ!! そんなの違うっ!! あたしのマンムーは……っ!!」
「そんな事全部ウソだって、マンムーも言ってるみたいだよ……?」
「……っ!?」

 あたしの声は、マンムーには届かない……

「マンムーーーーーッ!!」

 COMING SOON……



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