【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中

小説板

ポケモン関係なら何でもありの小説投稿板です。
感想・助言などもお気軽にどうぞ。

名前
メールアドレス
タイトル
本文
URL
削除キー 項目の保存


こちらの関連記事へ返信する場合は上のフォームに書いてください。

[749] ヒカリストーリーEvolution STORY23 シンジの目
フリッカー - 2008年11月06日 (木) 18時30分

 お待たせしました! 遂にシンジが待望の登場!
 彼がおりなす物語とは?

・ゲストキャラクター
シナ イメージCV:斎藤千和
 森羅万象が持つ気のようなもの『波導』を見る事ができる能力を持つ少女。具体的には、物体の存在を遠くからでも感じ取ったり、相手の考えや行動を読み取ったりする事ができる。昔でいう『波導使い』であり、その能力はわずかしか波導を捕らえられないサトシとは比べ物にならない。しかし、その能力故に周りからは『魔女』と呼ばれて気味悪がられ、その影響で心に傷を負っていたが、ヒカリ達との出会いによって克服し、「波導の力を他の人に役立てる」という夢を抱いて、パートナーのシェイミと共に旅立った。
 普段は物静かで、感情をあまり表に出さないが、自分に正直な性格であるため、自分の力を隠す事はせず、思った事ははっきりと言う。グラシデアの花が好き。

ミライ イメージCV:かかずゆみ
 各地方を自由気ままに旅している、こおりポケモンの使い手であるポケモントレーナーの少女で、自称『氷の魔女』。
 サトシのいとこであり、タケシと同世代でありながら、家族が少なかったサトシからは「ミライ」と呼ばれ、実の姉のように慕われている。彼女自身にとってもサトシは実の弟のような存在であり、幼い頃からサトシの事をよく知っている。
 いつも明るさとユーモアを忘れず、才色兼備で思いやりのある誰にでも好かれるタイプの美少女だが、意外にも猫舌。カンが鋭い。ポケモンバトルの実力はいとこ譲りのもので、ジムリーダー候補に選抜された事もある。口癖は「〜、なんてね」。

[750] SECTION01 逆襲のゲンガー!
フリッカー - 2008年11月06日 (木) 18時31分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 逆襲のゲンガー!


 旅の途中、偶然シンジと会ったあたし達。サトシはシンジと言い争いになって、バトルする事に。その時、バトル中にピンチになったナエトルがハヤシガメに進化! でも、持ち前のスピードを失っちゃった事が仇になって、結局負けちゃった。
 原因は、進化して体重が重くなったからなんだって。ハヤシガメはそれにショックだったけど、そこにシンジのドダイトスが勝手にやってきて、スピードよりもその体格と体重を活かした防御力が大事なんだってハヤシガメに教えてくれたの。それを知ったサトシも、反省していた。でもシンジは、相変わらず無愛想だったけど。
 そして、あたし達のヨスガシティに向けた旅は、今日も続いていく……

 * * *

「ロストタワー……死んだポケモンの魂が眠る場所、か……」
 森の中に空高くそびえ立つ、グレーの高い塔を見上げて、あたしはつぶやいた。大きな町にありそうな塔と違って、古い建物のような石造りっぽくて、月の出ていない暗い夜空と相まって、オバケ屋敷のような不気味な雰囲気が漂う。
 そんなズイタウンの郊外にある塔、ロストタワーの前に、あたし達は来ていた。
「なあ、このロストタワーって、どんな塔なんだ?」
「……簡単に言えば、『墓場』だな。ここに、死んだポケモン達がたくさん埋葬されてるそうだ。メリッサさんも、ここをよく訪れるそうだぞ」
「えぇ〜、お墓の近くで野宿するのか……」
「ピカ……」
 ガイドブックを見ながら説明するタケシに、サトシが愚痴った。肩の上のピカチュウも、気が進まない様子。
 その気持ちはあたしも同じ。成り行きとは言っても、墓場の側で野宿するなんて、何か出てきそうで絶対に嫌。誰だって嫌がると思う。あたしは肝試しとかは嫌いじゃないけど、いくらなんでもこういうのには、さすがに抵抗がある。
「どこか他の場所ないの〜?」
「ポチャ〜?」
「俺だって嫌だが、仕方がないだろう、もうこんな時間なんだし……食事を遅くして、もう少し歩くか?」
「う……」
 あたしもサトシに続けて愚痴ったけど、そんなタケシの言葉には、あたしもサトシも答えを返せなかった。だってタケシに言われた瞬間、サトシと一緒にお腹がグーッて鳴っちゃったんだから。正直、あたしはお腹が空いていた。こんな状況で歩くのは、やっぱり嫌。
「わかったよ……」
「しょうがないか……」
 あたしとサトシは仕方なくそう答えた。ご飯は確かに食べたいけど、こんな所で食べるご飯って、いくらタケシの手作りでも、おいしいのかなあ……?
 その時、突然ロストタワーの中からドドーンと何かが爆発する音が聞こえてきた。
「何、今の!?」
「ロストタワーから聞こえてきたぞ!?」
 突然の爆発音に、あたしとサトシはロストタワーに顔を向けた。そして気が付くと、あたし達はお腹が空いているのも忘れて、ロストタワーへと走っていた。

 ロストタワーに入ると、お墓がずらりと並ぶ真っ暗な部屋の真ん中で、ポケモンバトルが繰り広げられていた。
 戦ってるポケモンの片方は、前にも見た事があるおおボスポケモン、ドンカラス。そのドンカラスで戦っているポケモントレーナーの姿は、見慣れたものだった。
「シンジ!?」
 あたし達は声を揃えた。
 そう、トバリシティのポケモントレーナー、シンジ。こいつの事を一言で言えば、『自己中心的』ってところかな。ゲットしたポケモンは能力で判断して連れて行くかどうか決めて、気に入らなかったポケモンは簡単に逃がしたり他の人に渡したりしちゃう、「使えないな」が口癖の嫌な奴。でも、ポケモンバトルは強い。これまで何度もサトシはバトルしたけど、まだ一度も勝った事はない。実際あたしも、ヨスガシティのタッグバトル大会でシンジと戦ったけど、その強さは本物だった。サトシの事はいっつもいっつも「使えないな」とか「ぬるいな」とか言ってるけど、それなりに実力は認めてるっぽい。それでもやっぱり、嫌な奴には変わりないけど。
 そんなシンジが鋭い眼差しで見つめる先には、相手のポケモンが。紫色の寸胴な体をした、赤い目を持つ影のようなポケモン。あれって、確かサマースクールの『肝試し』でも見たゴーストポケモン……
「あれって、ゲンガーじゃないか!」
 タケシが叫んだ。
「あれがゲンガー……」
 あたしはすぐに、ポケモン図鑑を取り出した。
「ゲンガー、シャドーポケモン。山で遭難した時、命を奪いに暗闇から現れる事があるという」
 図鑑の音声が流れた。
 そんなゲンガーは、右手から黒いツメを伸ばして、ドンカラスにこれでもかと飛びかかっていった! “シャドークロー”だ!
「ドンカラス、“あくのはどう”!!」
 それでもシンジは怯まずに指示を出す。ドンカラスは“あくのはどう”を発射して応戦! ゲンガーは、振りかざした“シャドークロー”で正面から“あくのはどう”を受け止めて見せた。でも、“あくのはどう”は簡単に“シャドークロー”を打ち破って、ゲンガーに直撃! 効果は抜群! あくタイプのわざは、ゴーストタイプに相性がいいから、“シャドークロー”を壊せたんだ!
 “あくのはどう”をもろに受けて、弾き飛ばされるゲンガー。かなりのダメージを受けたみたい! すかさず、シンジは懐からモンスターボールを取り出した。でもそのモンスターボールはいつも見慣れてるモンスターボールじゃなくて、黒字に緑色の丸い模様が6つ入ったモンスターボールだった。
「ダークボール、アタック!!」
 シンジはそのモンスターボールの名前を叫んで、思い切りゲンガーに投げ付けた。黒いモンスターボールはゲンガーに当たると、開いてゲンガーを吸い込んで、閉じた。
「ダークボール?」
「暗い場所にいるポケモンが捕まえやすくなるモンスターボールだ」
 そんなサトシの疑問に、タケシが答えた。
 ゲンガーを吸い込んで、地面に落ちたダークボールは、スイッチの赤いランプが点滅しながら、しばらくの間モゾモゾと動き続ける。でも、最後にはスイッチの赤いランプが消えて、動かなくなった。しっかりとロックがかかった証拠。そんなダークボールをシンジが拾うと、懐から取り出したポケモン図鑑越しに硬い表情のまま、まじまじと眺め始めた。ポケモン図鑑を使ってゲンガーの事を調べている。シンジはいつもそうやって、自分の気に入らなかったポケモンはすぐに逃がしちゃう。またそんな事するんじゃないかと思ったけど……
「……使えないな」
 やっぱりそうだった。シンジはゴミを捨てるようにダークボールを投げると、中からゲンガーが出てきた。ゲンガーは突然の事に、驚いた顔をシンジに向けていた。
「もうお前には用はない」
 シンジはドンカラスをモンスターボールに戻してゲンガーに言い放つと、ゲンガーに背中を向けてその場を去ろうとした。
「おいシンジ! またそんな事するのか!?」
 そんなシンジを、真っ先にサトシが呼び止めた。声をかけられたシンジは、その愛想のない表情をこっちに向けた。
「……またお前か」
 そう一言答えると、シンジはまた背中を向けた。
「お前達に何を言われようと、俺は俺のやり方でやる。余計な口出しはするな」
「何だと!?」
「そういう事を言うなら、せめて俺に勝ってからにするんだな」
 冷たい表情を変えないまま、シンジはサトシを挑発するようにそう言った。
「そういうなら、今ここで俺と……!!」
 バトルしろ。そう言いたかったに違いない。サトシが強気にそう言いかけた時、サトシのお腹が急にグーッて鳴った。突然の事に戸惑ったサトシを見たシンジは、フッと口元に笑みを浮かべて「相変わらずぬるいな」と一言だけ言い残して、あたし達の前を後にしていった。
「……何よ、相変わらず嫌な奴ね!」
 あたしはそんな事をつぶやかずにはいられなかった。そしてそんなシンジの背中を、ゲンガーも見ていた。その視線が鋭いものだった事には、あたし達は気付かなかった。

 あたし達は、まだ考えてもいなかった。この出来事が、後で起きる事件の引き金になるなんて……

 * * *

 結局あたし達は、ロストタワーの近くで一晩過ごす事になった。やっぱり何か出てきそうなのが怖くて、寝袋に潜ったまま、なかなか眠れなかった。
 そんな夜が明けようとしていた頃。
 やっと寝られたあたしは、急に目が覚めた。何だか寝袋に入っているのに、急に寒気を感じたから。
「う〜ん……何だか寒い……なんで……?」
 眠い目をこすりながら、体を起こすあたし。でもその時、急に背中に誰かの気配を感じた。振り向いてみても、そこにはテントの壁があるだけ。そもそもこのテントの中にいるのは、あたしと側で寝ているポッチャマだけ。真っ暗なテントの中に、何だか不気味な空気が漂う。ロストタワーの側にいるんだから、こんな風に思っちゃうか。気のせいだよね、と思って納得しようとしたら、今度は正面に誰かがいる気配がした。すぐに顔を戻してみるけど、やっぱり誰もいない。それでも、1人でいるはずなのに、何だかあたしに刺さる誰かの視線を感じる。誰かが……あたしとポッチャマ以外に、近くにいる……? 嫌でもそんな考えが頭をよぎる。
「ね、ねえポッチャマ……」
 あたしは不安になって、すぐに寝ているポッチャマの体をゆすった。
「ポ、ポチャ……?」
「何だか変なのよ、なんか、あたし達以外に誰かがここにいるような気がして……」
「ポチャッ!?」
 すると、ポッチャマが急に声を上げて、あたしの後ろを指差した。えっ、と思って振り向いてみるけど、やっぱり誰もいない。
「……ま、まさかポッチャマ、何か見えたの……!?」
 顔を戻して恐る恐るポッチャマに聞くと、ポッチャマも恐る恐るうなずいた。
「やっぱり、ここに……!?」
 そう聞こうとした時、あたしの肩にちょんちょんと何かが触れたのを感じた。
「ひ……っ!?」
 突然の感触に、あたしの体に寒気が走った。慌てて振り向いてみるけど、やっぱり誰もいない。込み上げてくる怖さをごまかそうと、ポッチャマを抱きかかえて、テントを見回してみる。でも誰もいない。何だか、さっきよりも寒気が増している気がしてきた……
「だ……誰……? 誰なのよ……?」
 あたしはそう言いながら、後ろにあるランプに手を伸ばして明かりを付けようとした。振り向かないまま、手探りでランプを探す。すると、何かに触れた。でも、ランプじゃない。明らかに触り心地が違う。何だか、それにしては何だか柔らかそうな気が……そう思って振り向いた時、そこにランプはなかった。その代わりにいたのは、鋭い赤い目を浮かべてこっちをにらむ、黒い影……


「きゃあああああああっ!!」


 もう、あたしは悲鳴を上げるしかなかった。
 あたしは慌ててテントの外に出て逃げようとした。でも足がすくんじゃって、立って思うように逃げられない。テントの外に出るのが精一杯だった。そこにのしのしとあたしの前に迫ってくる影。赤い目をぎょろりと光らせている。
「うっ……!?」
 そんな赤い目ににらまれた瞬間、あたしの胸が急に苦しくなった。体をうつぶせにして、思わず胸に手を当てる。心臓が体の中から締め付けられるように痛くて、息もできなくなりそう。その苦しさで、あたしは動けなくなっちゃった。な、何なの、これ……!? そのまま影は右手をスッとあげると、不気味な黒いツメが伸びた! ま、まさか……!
「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 突然、そんなサトシの声が聞こえたと思うと、ピカチュウの電撃が場を切り裂いた。それに気付いた影は、すぐにジャンプしてかわした。
「ヒカリ、大丈夫か!?」
「何があった!?」
 すぐにサトシとタケシが、あたしの側に駆けつけてくれた。
「き、急に、オバケが出てきて……うっ……!!」
 体を起こしても、あたしは体が苦しくて、ちゃんと喋る事ができなかった。すぐに左手が地面に着いた。
「ど、どうしたんだヒカリ!?」
「何だか……オバケににらまれたら、胸が……うぐっ……!!」
 あたしを心配したサトシは、すぐにあたしの右手をかついで、あたしの体を立たせてくれた。それでも、胸に突き刺さる痛みは消えない。
「おい、あれはゲンガーじゃないか!!」
 タケシが声を上げた。目が慣れたせいか、あたしにも『オバケ』の姿がはっきりと見えた。そう、夕べも見た、ゲンガーだった。あいつがあたしを脅かしてたの……?
「……そうか、ゲンガーはヒカリに“のろい”をかけたのか!!」
「えっ、“のろい”!?」
 タケシの言葉を聞いて、あたしはぞっとした。だから、今こんなに苦しいんだ……このままじゃ、呪い殺されちゃうかも……あたし、ゲンガーに呪われるような事してないのに、何で呪われなきゃいけないの?
「おいゲンガー!! ヒカリにかけた“のろい”を解くんだ!!」
 サトシが呼びかけても、ゲンガーは聞く耳を持たない。今度は“シャドーボール”をこっちに撃ってきた!
「わあっ!!」
 慌ててよけるサトシとタケシ。あたしはサトシにかばわれる形で、何とか当たらずに済んだ。
「ダメか!! “のろい”を消すにはゲンガーを倒すしかない!!」
「ああ!! 行け、ピカチュウ!!」
「ピッカ!!」
 サトシの指示で、ピカチュウが力強く前に出た。
「がんばって、ピカチュウ……うぐっ……!!」
 何だか胸の苦しさはどんどん激しくなってきてる気がする。体がどんどん重くなってくる。このままじゃ、本当に……
「ピカチュウ……」
 サトシが指示を出そうとした時、ゲンガーが先に動いた。ピカチュウなんか丸っきり無視して、またこっちに向けて“シャドーボール”を発射!
「うわっ!!」
 目の前で爆発する“シャドーボール”。そのせいでサトシは指示を出せなかった。さらにゲンガーは右手の黒いツメを伸ばして、ピカチュウを無視したままこっちに飛びかかってきた!
「“シャドークロー”か!!」
 タケシが叫んだ。
「ピカッ!!」
 それを見たピカチュウは、焦って“でんこうせっか”を使ってゲンガーを止めようとした。でも、ゲンガーの体を素通りするだけ。ノーマルタイプのわざは、ゴーストタイプには効果がない! そのままゲンガーはツメを振り上げて、こっちに躍りかかってきた!
「に、逃げろ!!」
 慌てて逃げ出そうとするあたし達。でもサトシはあたしを担いでる状態だから、素早く逃げられない!
「う……ぐっ……!!」
 しかもこんな時になって胸の痛みが急に激しくなった。そのまま崩れ落ちるあたしの体。
「ヒカリ!?」
 サトシが驚いて足を止めた隙に、ゲンガーはすぐ側まで来て、“シャドークロー”を振り下ろそうとした! サトシが気付いた時には、もう手遅れ……
 と思った、その時!

「ミィィィィィィッ!!」
 そんな甲高い鳴き声と同時に、どこからか“タネマシンガン”が飛んできた! 命中! 効果は今ひとつだけど、ゲンガーは足を止められた。
「何だ!?」
 あたし達は、驚いて“タネマシンガン”が飛んできた先を見た。そこには、こっちに走ってくる小さなポケモンと、1人の人影がいた。
「あ、あれは……シェイミ……!? じゃあ、あの人は……」
 その小さなポケモンは、間違いなくかんしゃポケモン・シェイミだった。だとしたら、シェイミを連れているトレーナーなんて、1人しかいない……!
 するとゲンガーがシェイミに気付いて、“シャドークロー”を振りかざしてシェイミに向かって行った!
「“サイコキネシス”!!」
「ミィィィィィィッ!!」
 シェイミは指示通りに“サイコキネシス”を使って、飛びかかろうとするゲンガーを食い止めた! そしてそのまま、逆に投げ飛ばす! 効果は抜群! 地面に倒れたゲンガーに、シェイミのトレーナーが1歩前に出て、シェイミと一緒に、こう言った。
(暴れるのはやめるんだ!)
「この人達はあなたの探してる人と何も関係はないよ」
 その言葉を聞いたゲンガーは、しばらく黙っていたままだった。
「何が憎いの? どうして……」
 シェイミのトレーナーがそう聞こうとした時、ゲンガーは体を翻して、そのままぎこちなくだけど森の中へと逃げて行った。それと同時に、東の空から日差しが差し込んできた。あたしの胸を締め付けていた“のろい”の痛みも、スウッと消えていった。やっと体が楽になったあたしは、自然と息が荒くなっていた。そこに、シェイミとそのトレーナーがやってきた。
「みんな、大丈夫だった?」
「うん、ダイジョウブ……ありがとう、シナ」
 あたしはそんなシェイミのトレーナー――物静かそうな顔立ちをした女の子にお礼を言った。右目が赤で、左目が水色と、左右違う色の目。縛ってポニーテールにした長い緑色の髪には、グラシデアの花が一輪刺さっている。そして何も飾りがついてない、青紫色一色の半袖、ひざ丈くらいの長さのスカートの地味でシンプルなワンピース姿。
 そう、前に会ったばかりの女の子、シナ。『波導』が見える、正真正銘の『波導使い』の素質がある女の子。でもそのせいで周りから気持ち悪がられていて、あたし達と出会った時にはネガティブで、人間不信になっていた。でも、あたし達が友達になったら、少しずつ自信を取り戻していって、最後には自分の目標を見つけて旅に出たの。
「どういたしまして」
 お礼を言ったあたしに、シナは笑みを見せて返事をした。
「シナ、やっぱり波導で、ゲンガーの事に気付いたのか?」
 サトシの言葉に、コクンとうなずくシナ。
「何だか、凄い恨みを感じ取ったの。その感じる方向に行ったら、ここに……」
「凄い、恨み? あたし達、ゲンガーに恨まれるような事してないのに、なんで……?」
「あのゲンガー、みんなを恨んでる人の仲間だと思ってたみたいなの」
「恨んでる人の、仲間……? ますます訳わかんないや……」
 そうか、だからさっき「この人達はあなたの探してる人と何も関係はないよ」ってゲンガーに言ったんだ。でも、その理由がわからない。あたしもサトシも、首を傾げた。
「そのゲンガーについてなんだが……」
 その時、タケシが口を開いた。
「あのゲンガー、ロストタワーでシンジがゲットしようとして逃がしたゲンガーじゃないのか?」
「えっ、あの時の!?」
 あたしとサトシは、驚いて声を揃えた。
(誰なのさ、シンジって?)
 シェイミがテレパシーで話しかけてきた。
「ポケモンを捕まえても、強そうなポケモンじゃなかったらすぐに逃がすトレーナーなんだ。ポケモンの事も考えてなくて、いくら力を引き出すためといっても、そのせいで、ひどい目にあったポケモンだって……」
 サトシは1個のモンスターボールを取り出して、それを見つめながら言った。そのモンスターボールに、前にシンジのポケモンだったヒコザルが入っている事に、すぐに気付いた。
「それに、いっつも自分の事しか考えてなくて、いっつも嫌味な事ばっかり言う奴なのよ!」
 あたしも自然と、そんなあいつの不満な所をシナとシェイミにぶつけた。そんな事を言われて、シナは少し戸惑っていたけど。
「それはとにかく、“シャドークロー”を使った所から見ても、シンジが逃がしたゲンガーに間違いないだろう。それなら、恨んでいた理由も充分考えられる」
「それって……?」
「もしゲンガーが、自分の実力をシンジに認めてもらえなかった事に怒ったのだとしたら……?」
 タケシのそんな考えを聞いて、あたし達は一瞬沈黙した。
「……そうだとしたら、シンジに怒ってるって事なの!?」
 驚いたあたしの言葉に、タケシは「ああ」とうなずいた。
(……なら、それが本当か確かめないとね)
「うん。ゲンガーを探しに行かないと!」
 シナとシェイミは、顔を合わせてそう言った。
「俺達も手伝わせてくれ! シンジのせいでああなったのなら、放っておけない!」
 サトシがシナに聞くと、シナもコクンとうなずいた。

 * * *

 日が昇って、すっかり朝になった。でも、朝ご飯を食べる時間もないまま、事件は起きた。
 森の中で、何度も爆発が起きている。シナはそこであのゲンガーが暴れているって突き止めて、あたし達は急いでその場所に向かっていた。息が切れるけど、そんな事気にしてられない。シナの波導と爆発の音を頼りに、急ぐあたし達。
 爆発音がどんどん大きくなってくると思うと、遂にその場所に来た。そこに、確かにゲンガーがいた。ゲンガーは、1人の女の人を襲ってる!
「もう、何なのよ、あのゲンガー!! マニューラちゃん、“つじぎり”!!」
 ゲンガーの“シャドーボール”から逃げながら、逃げながら手持ちのマニューラに指示を出す女の人。すぐにマニューラが追いかけてくるゲンガーに、特徴的なツメで聞きかかろうとした! でも、ゲンガーも“シャドークロー”で応戦! 2つのツメがぶつかり合って、つばせり合いになった。そのままどちらも引かないで、押し合いになる2匹。
 そんなマニューラを不安そうに見つめる女の人。色の髪に青い服の、見ただけで美人だとわかる、見覚えのある女の人。
「ミライ!?」
「ミライさん!?」
 あたしとサトシは声を揃えた。だってその女の人は、間違いなくサトシのいとこ、ミライさんだったんだから!
「あの人、知り合い?」
「うん、サトシのいとこなの」
 シナの質問に、あたしが答えた。
 ミライさんはこおりタイプポケモンの使い手で、『氷の魔女』って名乗ってる。ヨスガシティを出た辺りで知り合ったのが最初。あたし達と違って目標っていうのは特になくて、ただ自由気ままに旅をする事自体を楽しんでるみたい。でも、この間のお祭りコンテストで会った時には、コンテストに初挑戦していた。明るくて面白い人だけど、頭もよくて、カンも鋭い、サトシのお姉さんのような人。
「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ミライさんを助けなきゃ! すぐにあたし達は指示を出した。それに答えて、ピカチュウとポッチャマはゲンガーに向けて攻撃! それに驚いたゲンガーは、すぐにマニューラから離れて2匹の攻撃をかわした。それを見計らって、すぐにサトシがミライさんの所に行った。あたし達も続く。
「ミライ! 大丈夫か?」
「サ、サトシ!? それに、ヒカリちゃん達も……!?」
 サトシに気付いたミライさんは、驚いてこっちに顔を向けた。その時、シナがゲンガーの前に出た。
「ゲンガー、どうして人を襲うの? 一体何の恨みがあるの?」
 シナがゲンガーを怒らせないように、優しく話しかけた。ゲンガーはしばらく黙っていたけど、急に右手を突き出して“シャドーボール”を作り出した! すると、シナは急にはっとした表情を見せた。そして、ゲンガーが“シャドーボール”を発射! シナは慌ててよけようとしたけど、間に合わない! このままじゃ、シナに当たっちゃう!
「危ない! ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 すぐにあたしは指示を出した。それに答えて、ポッチャマが“バブルこうせん”を発射! “シャドーボール”に正面から命中して、爆発!
「ミィィィィィィッ!!」
 さらにそこに、シェイミが“タネマシンガン”を発射! 命中! “タネマシンガン”の雨にさらされるゲンガー。するとゲンガーは怯んで、すぐにまた森の中へと消えていった。
「あっ……」
 シナが右手を伸ばして追いかけようとしたけど、もうゲンガーの姿はなかった。それを見たタケシは、「逃げたか……」とつぶやいた。
「何とか逃げたみたいね……朝っぱらから大変な目に遭っちゃった……とにかく、みんなありがとう。改めてお久しぶり、なんてね!」
 ほっとした表情を浮かべたミライさんは、すぐにいつもの明るさであたし達に挨拶した。
「おけがはありませんか?」
 シナも、ミライさんに声をかける。
「……サトシ、この女の子は新しいお友達?」
「ああ、シナっていうんだ。最近旅に出たばかりなんだよ」
「あ、はい、シナっていいます」
 サトシに紹介されたシナは、少し恥ずかしそうに、ミライさんに挨拶した。
(そんなに硬くならなくたっていいんだよ)
 そこに、シェイミがテレパシーでそんな事を言った。すると、ミライさんの視線はシェイミに向いた。
「あら、シェイミじゃない? 結構珍しいポケモン持ってるのね。あ、そうそう、あたしはミライ。人呼んで『氷の魔女』。よろしくね」
「こ、『氷の魔女』、ですか……?」
「そう、『氷の魔女』。知ってる人は知っている、知らない人は覚えてね、なんてね!」
 ミライさんはいつものようにユーモアが入った明るい言葉を言った後、シナにウインクして見せた。
「は、はあ……」
 それにピンと来ないのか、シナはキョトンとした表情を見せるだけだった。


TO BE CONTINUED……

[751] SECTION02 シンジとゲンガー! 犯人はどっち?
フリッカー - 2008年11月13日 (木) 18時23分

「あのゲンガー、逃がしたトレーナーが憎くて暴れてるの!?」
 あたし達の話を聞いたミライさんは、目を丸くした。
「逃がしたトレーナーはシンジって言って、ゲットしたポケモンの能力が気に入らないと、すぐ逃がしちゃうんだ」
「気に入らないポケモンには容赦なく『使えないな』って言うんですよ! それに、ゲットしたポケモンにも厳しくしてるんですよ! ひどいですよね〜?」
 サトシの説明に続いて、あたしはそんな質問をミライさんにした。でも、ミライさんの答えは意外だった。
「……そうかな〜? あたしはそうは思わないけど?」
「ええっ!?」
 あたしとサトシの声が揃った。
「そのシンジ君って人がどんなトレーナーかは知らないけど、要は『キャッチアンドリリース』してるだけでしょ? それされただけで、なんで怒らなきゃならないの?」
「だけどミライ、一度ゲットしたポケモンを連れて行こうとしないなんて……!」
「『ゲットしたポケモンは必ず連れて行かなきゃならない』なんて決まりはないでしょ? 自分の好き嫌いでポケモンを連れていくのは、サトシ達だって同じでしょ?」
 そんなミライさんの言葉には、サトシも言い返す事ができなかった。あたしも反論しようとしたけど、その言葉のせいで言えなくなっちゃった。それでも、納得できない。あたしもサトシも、シンジとは違う!
「俺達を、シンジのやり方と一緒にしないでくれ!!」
「落ち着いて。何か勘違いしてない? ゲットしてすぐ逃がすんだったら、『仲間にする』とは一言も言ってない訳でしょ? 『ゲットした事イコール仲間にする』っていうのは違うと思うけどなあ?」
「う……」
 またミライさんの鋭い言葉。その言葉にはかなり説得力がある。サトシはまた反論ができなかった。でも、サトシの顔は納得していない。両手をグッと握って拳を作るサトシ。あたしも同じ。確かにそうかもしれないけど、シンジの事をいい人のように言ってる事は、あたしも納得できない。
「結論! シンジ君もサトシ達と同じ、普通のポケモントレーナーって事よ」
 人差し指を立てたミライさんは最後に、そう付け足した。


SECTION02 シンジとゲンガー! 犯人はどっち?


「ねえシナ、確かにゲンガーはシンジを憎んでたんでしょ? 何を考えていたのか、ミライさんに教えてあげて!」
 ミライさんはシンジの事を全然理解していない。そう思ったあたしは証拠を出そうと、シナに顔を向けた。シナはちょっぴり驚いた表情を見せたけど、すぐに答えた。
「あのゲンガーは、確かにシンジってトレーナーを憎んでいました。ゲンガーの波導は、そう言っていたんです」
「は、波導!? シナちゃん、それってどういう事!?」
 ミライさんはシナの『波導』って言葉に驚いた。そうだ、まだシナの事詳しく教えてなかった。
「シナは、波導を見る事ができるんだよ」
「波導が見える……へえ、凄いじゃない。正真正銘の『波導使い』って訳ね」
 サトシが説明すると、ミライさんはシナに笑みを見せた。サトシが説明した時、シナは少し不安そうな表情を浮かべていたけど、そんなミライさんの笑みを見て、ほっとした表情を見せていた。
(シナ、説明続けてよ)
「うん。ゲンガーは、自分の強さに自信があったみたいなんです。でもそれを、シンジが認めなかったせいで怒ったんだけど……」
「そうだろ? シンジは、あのゲンガーが弱いって決めつけたんだ!! 育てればどんなポケモンだって強くなれるのに……!!」
 シナの説明の途中でサトシが立ち上がって、ミライさんに訴えた。シナは「あっ……」と声を出したけど、それは気にも留めなかった。
「……いや、確かにポケモンは自分が認めたトレーナーをリーダーとして認める習性だが、この事は……」
「タケシもそう思うだろ? ゲンガーを暴れさせたのはシンジが原因なんだ!! シンジがあんな事言うから、ゲンガーは怒って暴れてるんだ!!」
 タケシが口を開いたけど、すぐにそれを聞いたサトシがタケシに顔を向けた。タケシは「いや、そうじゃなくて……」と答えたけど、あたしはそれを聞かないでサトシと同じように立ち上がった。サトシの言う通りだと、あたしも思ったから。
「そうよ!! こうなったらあいつを探して、ゲンガーに謝らせましょうよ!!」
「そうだな!!」
 あたしとサトシの意見は一致。早速サトシはモンスターボールを取り出した。
「ムクバード、シンジを探してくれ!!」
 サトシが空高く投げたモンスターボールから、ムクバードが出てきた。ムクバードはサトシの言う通りに、シンジを探しに空へと飛び立っていった。
「俺達は、ロストタワーに行ってみようぜ! まだあそこでポケモンを探してるかもしれない!」
「ええ!」
 あたしがうなずくと、サトシはピカチュウと一緒に真っ先にその場から飛び出した。あたしも、ポッチャマを抱いたまま、その後に続こうとした。
「ちょ、ちょっと2人共……」
 そんな時、ミライさんの声があたしを止めた。あたしは、そんなミライさんに、こう言った。
「ミライさん、シンジはミライさんが思うより、ず〜っと嫌な奴ですから!」
 あたしはそう言った後、サトシの後を追いかけて行った。ミライさんは、シンジと直接会ってないから、あんな事が言えるんだ。きっとシンジと直接会えば、考えを変えるはず!
「あ〜あ、2人揃って勝手に出て行っちゃうなんて……」
「2人共早とちりしすぎだ……」
(シンジってどんな人だか知らないけど、完全に犯人だって決めつけちゃってるね)
 そんなあたし達の背中を見送ったミライさんとタケシ、そしてシェイミは、そんな事をつぶやいていた。
「私が言いたかったのは、あんな事じゃなかった……」
「シナちゃん、それって何なの?」
「えっ?」
「聞かせてよ。シナちゃんが感じた事、まだあるんでしょ?」

 * * *

 あたしとサトシがやってきたのは、ロストタワー。
 夕べ見た時と違って、空は明るいから、夕べほどの不気味さはなくなっているから、安心して中に入る事ができた。中に入ると、部屋にはあの時と同じようにお墓が並んでいる。電気はないけど、壁をくり抜いたように開いている窓から外の明かりが差し込んで、部屋を照らしているから、やっぱり不気味さは感じない。
 しんと静まり返っている部屋の中を、あたしとサトシは進んでいく。でも、人影は全然見当たらない。
「……シンジ、もうここでポケモン探すのやめたのかな?」
 サトシがつぶやく。
「上に上がってみようよ。ひょっとしたら、上にいるかもしれないし」
 そう言ったあたしの見る先には、2階へ繋がる灰色の階段がある。タワーっていうからには上に行けると思ってたけど、やっぱりそうだった。あたしは早速、階段を上って2階へと上がっていった。

 2階へ上がった途端、急に目の前が真っ白になった。
「うわっ、何だこれ……?」
「霧……?」
 部屋中が霧に覆われていて、視界が悪い。結構濃くて、足元から少し先がやっと見えるほど。道の横のお墓がうっすらとしか見えない。建物の中で霧がかかるなんて、ありなの……?
「とにかく、先に進もう」
 かと言って、このままシンジを探すのをやめる訳にはいかない。あたし達は視界が悪いまま、部屋の中を進んでいく。単純な部屋の中のはずなのに、何だか迷路に入っちゃったように感じた。
「はぐれるなよ」
 サトシが呼びかける。サトシの言う通り。一度離れちゃったら、そのまま迷子になっちゃいそう。サトシから離れないようにしなきゃ。そう思いながら、辺りをキョロキョロ見回しながら歩いていると、足を前に出そうとした途端、何かが足に当たった。
「あっ!!」
 そのせいで、あたしはつまづいて思いきり転んじゃった。そのせいで、ポッチャマは思い切り投げだされちゃった。
「お、おい、大丈夫か!?」
「ピカピカ!?」
「ポチャ!?」
 サトシとピカチュウが慌てて駆け寄ってきた。
「ダ、ダイジョウブダイジョウブ……」
 あたしは体を起こして、そう答えた。幸い、足は少しすりむいただけ。足元を見ると、少しだけ飛び出しているお墓の階段の角があった。もう前が見えないから、これに気付かないでつまづいちゃったんだ。
「ちゃんと、足元にも気を付けなきゃね……」
 あたしは苦笑いしながら、立ち上がった。その時だった。
「うわああああああっ!!」
 突然、霧の奥からそんな悲鳴が聞こえたと思うと、ドドーンと爆発音が響いた。霧の奥が、一瞬ピカッと光ったのが見えた。
「何、今の声!?」
「何が遭ったんだ!? 行ってみよう!!」
 そう思ったあたし達は、すぐに爆発がした方向に向かっていった。といっても、前が見えないから、闇雲に走る訳にはいかない。下手したら、またさっきみたいに転んじゃうかもしれないから。速く、でも慎重に道を縫って進んでいく。そして少し進むと、そこには膝をついて何かに脅えている1人の男の人がいた。
「どうしたんですか!!」
「な、何だか、霧の中から、黒い何かが襲ってきたんだ……!!」
「黒い何か……?」
「それってもしかして……!!」
 男の人の話を聞いて、あたし達が顔を合わせてそう言った時、霧の中からその『黒い何か』がいきなり飛び出してきた!
「ぐっ!!」
 黒い影がサトシの横を通り過ぎると、サトシは急に顔を歪めて、右の二の腕を左手で抑えて、屈みこんだ。
「サトシ!?」
 あたしは慌ててサトシに駆け寄った。見ると、サトシの右の二の腕には、切り傷が付いている。
「で、出たあっ!!」
 すると、男の人が声を上げた。見ると、近くのお墓の上に、霧に紛れて黒い影が立っていた。紫色の寸胴な体をした、赤い目を持つ影のようなポケモン……
「あれは……ゲンガー!!」
 それは、間違いなくゲンガーだった。右手には“シャドークロー”が見える。“シャドークロー”を使うゲンガー……間違いなくシンジに逃がされたゲンガー! そんなゲンガーは、“シャドークロー”を振りかざして、またこっちに躍りかかってきた!
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 とっさにピカチュウが“アイアンテール”で応戦! “シャドークロー”を正面から受け止めて、弾き返した。でも、その反動を使って、ゲンガーは霧の中へ溶け込むように姿を消した。
「逃げられた!!」
「どこに行ったの!?」
 完全にゲンガーを見失っちゃった! どこに逃げたのかわからない。それよりも、今度はどこから飛び出して、攻撃してくるかがわからない! 辺りを見回してみても、霧、霧、霧。ゲンガーはどこ? それからしばらく、不気味なくらいの沈黙が続いた。慎重に辺りを見回す。でも、ゲンガーの気配は感じない。ゲンガーは逃げたのかな? と一瞬そう思った。でもその時、急にゲンガーが霧の中から飛び出してきた!
「ポチャアアッ!!」
 ポッチャマが、すれ違い様に“シャドークロー”で切り裂かれた! まさに一瞬の出来事だった。
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 すぐにピカチュウが“10まんボルト”で反撃! でもゲンガーはそれをヒラリとかわして、また霧の中に姿を消した。
「くっ、また逃げられた!!」
 唇を噛むサトシ。
「それならポッチャマ、回りながら“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 とっさに思いついた指示通りに、ポッチャマはジャンプした後空中でクルクルと回りながら“バブルこうせん”を発射! 輪を描いて広がっていく“バブルこうせん”は、そのまま霧の中へと消えていく。これならゲンガーがどこへ逃げても、どれかには当たるはず! でも、ゲンガーに当たったような手応えはなかった。
「当たった、の……?」
 そうつぶやいた時、急に霧の中から“シャドーボール”が何発か飛んできた!
「ピカアアアアッ!!」
「ポチャアアアアッ!!」
 たちまち“シャドーボール”の爆発にさらされるピカチュウとポッチャマ。直撃はしていないけど、このままじゃ……!
「こうなったら、パチリス!!」
 作戦変更。あたしはモンスターボールを1個取り出して上に投げ上げた。出てきたのは、パチリス。
「思いっきり“ほうでん”して!!」
「チュゥゥゥパ、リィィィィィッ!!」
 パチリスはあたしの指示通りに、体の中から一気に吐き出すように、一気に“ほうでん”した! 霧の中へ次々と飛んでいく電撃。今度こそ……と思ったけど、やっぱり手応えがない。そう思った時、またゲンガーが霧の中から“シャドークロー”を振りかざして飛び出してきた!
「チュパアアアアッ!!」
 たちまち“シャドークロー”に切り裂かれるパチリス。そしてゲンガーは、またすぐに霧の中に飛び込んだ。
「卑怯だぞゲンガー!! 正々堂々と勝負しろ!!」
 サトシが叫んでも、ゲンガーは答えてくれない。顔を出そうともしない。
「くっ、それなら!! グライオン、君に決めたっ!!」
 ダメだとわかったサトシは、すぐにモンスターボールを取り出して、場に投げた。出てきたのは、グライオン。何がいい手があるのかな?
「グライオン、“シザークロス”で霧を切り裂くんだ!!」
「グラァァァイ、オンッ!!」
 グライオンは両手のハサミを一気に振り下ろして、X字に霧を切り裂いた……と思ったけど、ただ空を切っただけで、霧が晴れる事はなかった。サトシは、グライオンの“シザークロス”で霧を吹き飛ばそうとしたみたい。でもできなかった。
「そんな!?」
「き、君、そんな事したって、霧を晴らす事はできないよ……霧を晴らすには、“きりばらい”ってわざが必要なんだよ……」
 それに驚くサトシに、男の人がゲンガーに怯えながら言った。
「くそっ、どうすりゃいいんだ……!!」
 唇を噛むサトシ。そうしている間にも、ゲンガーはまた霧の中から飛び出してきて、“シャドークロー”を振りかざした!
「グラァァァイッ!!」
 グライオンが切り裂かれた! そのまま、また霧の中へ逃げようとするゲンガー。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 それを止めようと、あたしは指示を出した。ポッチャマは“バブルこうせん”でゲンガーを止めようとしたけど、ゲンガーはそれをうまくかわして、霧の中へ消えていった。
「これじゃきりがないわ……!!」
「何がいい手はないのか……!!」
 あたしもサトシもお手上げ状態。何か手を打たないと……と思った、その時だった。

「デリバードちゃん、“きりばらい”!!」
 突然そんな声が聞こえたと思うと、部屋に強い風が吹いて、霧がどんどん晴れていく。そして、部屋全体の霧が晴れて、1階と同じような部屋の景色が広がった。誰、と思って振り向くと、そこにはタケシにシナ、ミライさんが!
「みんな!! どうしてここに?」
「その話は後回しよ。ほら、見て」
 そう言ってミライさんが指差す先には、今まで味方にしていた霧が晴れて、お墓の上であたふたしているゲンガーの姿があった。
「デリバードちゃん、“れいとうビーム”!!」
 ミライさんが指示を出すと、1匹のポケモンが飛び出した。赤い体に、白い頭が特徴の鳥ポケモン。左手には白い袋を持っていて、その姿はまるでサンタさん。その鳥ポケモンは、ゲンガーに向けて口から“れいとうビーム”を発射! ゲンガーは慌ててかわした。ゲンガーが立っていたお墓に“れいとうビーム”が当たって、凍りつく。
「あれがデリバード……」
 あたしは、すぐにポケモン図鑑を取り出した。
「デリバード、はこびやポケモン。尻尾で餌を包んで運ぶ。山で遭難した人に餌を分け与える習性がある」
 図鑑の音声が流れた。
 そんな時、ゲンガーは反撃しようと“シャドークロー”を振りかざして、デリバードに向かって行った!
「これはあたしからの手向けだ、なんてね!! “プレゼント”!!」
 ミライさんが指示すると、デリバードは袋の中から光るボールを何個か取り出して、まとめてゲンガーに投げつけた! ゲンガーの目の前で爆発するボール。ゲンガーはそれに驚いて、怯んで動きを止めた!
「いただきっ!! “こおりのつぶて”!!」
 そこをミライさんは見逃さなかった。デリバードは氷の塊を作って、ゲンガーに向けて発射! 直撃! たちまち弾き飛ばされるゲンガー。
「さあ、どうするの? 相手ならあたしとデリバードちゃんがしてあげるけど?」
 ミライさんは余裕そうにゲンガーに言う。それを見たゲンガーは立ち上がって、そのままサッとその場から逃げだしていった。
「……あら、結構諦めが早いのね、あのゲンガー。それに、効果がないノーマルわざにも驚くなんて……まあ、運がよかったって事で、なんてね!」
 そんなゲンガーの背中を見送ったミライさんは、そんな事をつぶやいた。

「全く、勝手に出て行かないでよね……追いかけてみれば、こんな状況になってるんだから……」
「早く調べたいのはわかるが、焦っちゃダメだぞ」
 ミライさんもタケシも、あたし達が勝手に出て行っちゃったせいで、ご機嫌斜めだった。
「ごめんなさい……」
「でもミライ、どうしてここに……?」
「ロストタワーに行ってみようぜって最初言ってたでしょ? それに、この子の事もあるしね」
 ミライさんが振り向くと、サトシのムクバードが飛んできて、サトシの前に降り立った。
「ムクバード……もしかして、シンジが見つかったのか!」
 サトシがはっとしてムクバードに聞くと、ムクバードははっきりとうなずいた。
「どこにいるんだ? 教えてくれ!」
 サトシが言うとムクバードはうなずいて、勢いよく飛び上がった。

 飛んでいくムクバードを追いかけて、森の中を進んでいくあたし達。
「ねえヒカリ、ゲンガーは……」
 そんな時、シナがあたしに話しかけてきた。
「ダイジョウブ。シンジに会えば、ゲンガーの事も必ず解決するから!」
 あたしはシナにそう答えた。
「いや、そうじゃなくて……」
「え?」
 シナはまだ何か話したそうにしていた。その言葉にあたしが少し驚いた時、サトシが足を止めた。
「いたぞ!」
 サトシが見つめる先には、森の開けた場所に1人で立っているシンジがいた。
「あれがシンジ君?」
「ああ」
 ミライさんの質問に、サトシはうなずいた。シンジの視線の先にいるのは、シンジの手持ちポケモンのドダイトス、リングマ、グライオンの3匹がいる。シンジ側にドダイトスがいて、リングマとグライオンはドダイトスと向かい合っている形になっている。
「ドダイトス、“ハードプラント”!!」
 シンジの指示で、ドダイトスが吠えたと思うと、地面からたくさんの太い根が飛び出してきた。根はそのままリングマとグライオンに襲いかかる! あんなわざが当たったら、2匹もただじゃ済まない。
「リングマ、“ひっかく”!! グライオン、“シザークロス”!!」
 すると、今度はリングマとグライオンに指示を出すシンジ。すると、2匹は迫ってくる根を片っ端から次々と切り裂いていく。何発かは当たっちゃったけど、それでも2匹は怯まない。すぐに態勢を整えてまた迫ってくる根を切り裂いて、連続ヒットするのを防ぐ。それは、サトシもよくやっている、普通のトレーニングのように見えた。
「ふ〜ん……」
 それを見たミライさんが、ポツリとつぶやいた。
「よし、そこまでだ」
 頃合いを見てシンジが言うと、ドダイトスの“ハードプラント”が緩んで、根が地面に戻っていく。リングマとグライオンも、体の力を抜いた。その時、ミライさんがいきなりサッと飛び出した。
「グレイシアちゃん、“れいとうビーム”!!」
 ミライさんはいきなりモンスターボールを投げて、叫んだ。モンスターボールから飛び出したしんせつポケモン・グレイシアは、いきなりシンジに向けて“れいとうビーム”を発射! えっ、ミライさん何する気なの!?
「!!」
 飛んでくる“れいとうビーム”に気付いたシンジは、すぐにサッとジャンプした。結構軽い身のこなし。簡単に“れいとうビーム”をかわしてみせた。
「“ふぶき”!!」
 それでもミライさんは続けてグレイシアに指示を出す。休む間もなく“ふぶき”を放つグレイシア。
「くっ!! ドダイトス、“リーフストーム”!!」
 シンジも負けじと指示を出す。ドダイトスが背中に生えた木から、葉っぱの嵐を放って応戦! “ふぶき”と正面からぶつかって、そのまま軽く押し返していく。
「“ミラーコート”!!」
 でも、ミライさんはそれも見据えていた。“リーフストーム”が迫ってきた瞬間、グレイシアは“ミラーコート”で“リーフストーム”を倍返し! 倍返しされた“リーフストーム”を浴びて、さすがのドダイトスも苦しそうだったけど、耐えきってみせた。さすがドダイトス、凄い耐久力。
「初めましてだね、シンジ君!!」
 ミライさんは、そこで初めて挨拶した。
「誰だお前は!?」
「あたしはミライ。人呼んで『氷の魔女』。噂に聞いた通りの実力ね。今のはちょっと試してみたかっただけ、なんてね!」
「……」
「あたしのいとこがお世話になってるみたいね」
「いとこ……何の話だ?」
 いとこという言葉を聞いて、シンジは首を傾げる。
「とぼけちゃってもわかるわよ。さあ、その実力、もっと見せてくれない? グレイシアちゃん……!!」
 ミライさんはシンジに挑発するように言うと、またグレイシアに指示を出そうとした。ミライさん、完全にシンジとバトルする気でいるの? あたし達が来たのは、それが目的じゃない。あたしとサトシは、すぐにミライさんを止めに行った。
「待てよミライ!!」
「あたし達はバトルしに来たんじゃないんですよ!!」
「何よ〜、せっかくいい所だったのに……」
 ミライさんは残念そうな顔を見せたけど、そんな場合じゃない。本題に入らないと!
「……またお前達か。俺に何の用だ?」
 シンジの鋭い視線が、あたし達に向いた。
「シンジ!! お前がこの間逃がしたゲンガー、お前の事で怒ってたぞ!!」
「ゲンガー……ああ、あのゲンガーが。それがどうした?」
 一度ゲットしたポケモンの事なのに、まるで他人事のような顔を見せるシンジ。その表情を見て、あたしはムカついてきた。
「だからどうしたじゃないわよ!! あんたを探して暴れてるのよ!!」
「シンジ!! 今すぐゲンガーに謝れ!! お前のせいで、たくさんの人が襲われてるんだぞ!!」
「……なぜ俺が謝る必要がある?」
 でも、返された言葉はまたムカつくものだった。
「なんでって……お前が『使えない』って言ったせいで、ゲンガーは怒って暴れてるんだぞ!? 自分の強さに自信があったのに、それを『使えない』って決めつけたから……!!」
「……向こうが勝手に暴れてるだけだ。俺には関係ない」
 相変わらずドライな態度しか見せないシンジ。どれだけ自分勝手なのよ……!
「またそんな事言うの!? あんたのせいで、傷付いた人だっているのよ!! あんたは、それがわかって言ってるの!?」
 あたしの頭に浮かんだ事。それは、トバリシティのジムリーダー、スモモの事だった。
 新人のジムリーダーだったスモモは、あたし達がトバリシティに来る前に、シンジとジム戦をしたんだけど、シンジに完敗した。そこまでならまだいいんだけど、シンジは「今までで一番手応えがなかった」なんて平気で言って、スモモを傷付けたの。そのせいでスモモは自信をなくしちゃって、あたし達が来た頃には、ジムリーダーを辞めるって言って、騒ぎになっていた。ちょうどあたしもコンテストの事で自信をなくしていたけど、コンペキタウンでの出来事もあって、まだ完全に立ち直った訳じゃなかったけど、コンテストの事はあきらめたくないって思っていたから、放っておけなくなって、スモモを励ましてあげた。そしてあたしにとって初めてのジム戦をしたら、スモモは自信を取り戻して、無事にサトシとのジム戦ができたんだけど。
「……俺は事実を言っただけだ」
 それを聞いても、シンジはそう答えるだけだった。まるで、あたし達の話を聞くのがうざそうに思っているようにも見える。
「あんたねえ……っ!!」
 あたしは我慢できなくなって、前に出ようとした。でも、それは別の声に止められた。
「待って」
 シナだった。
「シンジは何も悪くないよ」
「シ、シナ!?」
 シナの言葉に、あたしとサトシは驚いた。なんでシナが、シンジの味方をするの!?
「確かに、あのゲンガーはシンジの事を恨んでいる。でも、シンジの言ってる事は間違ってない。波導で、そう感じる」
 波導。その言葉が、シナの言葉を説得力のあるものにしていた。シナは波導で相手の考えを読み取れる。だから、ウソなんて見抜けないはずがない。かといって、シナがウソをついているようにも見えない。
「……相変わらずぬるい奴らだな。じゃあな」
 それを見ていたシンジは、ドダイトスとリングマ、グライオンをモンスターボールに戻すと、そのままあたし達に背中を向けて立ち去って行った。
「おい、逃げるのか!?」
「やめなさい、サトシ」
 追いかけようとしたサトシの腕を、ミライさんが掴んだ。
「ミライ……!?」
「シナちゃんの言う通りよ。サトシ達が行ってる間にシナちゃんから話を聞いたけど、単純にシンジ君が悪い訳じゃなさそうよ」
「俺も同感だ」
「タケシまで……!?」
 ミライさんだけじゃなくて、タケシも同じ事を言う。あたしとサトシは、みんなでシンジが悪くないって言うから、変な感じになった。だったら、悪いのはゲンガーだって言うの!?
 あたしとサトシは、顔を見合わせるしかなかった。


NEXT:FINAL SECTION

[753] FINAL SECTION ゲンガーの真実! シンジの目!
フリッカー - 2008年11月20日 (木) 18時25分

 その夜。
 あたし達は野宿場所に戻って、シナと話をしていた。
「どういう事なんだよ? ゲンガーはシンジのせいで怒ってたって、シナも言ってたじゃないか!」
 サトシがシナを問いただす。
「……確かにそうだけど、ゲンガーにも悪い所があるの! シンジは、それに気付いてゲンガーに……」
「だからってあんな言い方ないじゃないか!! 悪い所があるなら、ゲットしてから直す事だってできるじゃないか!! それをどうしてしようとしないんだ!! だから、シンジは謝らなきゃダメなんだ!!」
「……」
 サトシの主張に、シナも少し引いた。言葉を探しているけど、なかなか出てこない。
「サトシ、いくら自分と考えが違うからって、そう決めつけるのはよくないんじゃない? 少しは相手の考え方も認めたらどうなの?」
「でも……!!」
 そんなサトシを、ミライさんがなだめる。それでもサトシは熱くなりっぱなし。まあ、こんなくらいで冷めたりしないのは当然だと思うけど。
(どうする、シナ?)
 シェイミの視線がシナに向いた。するとシナは、すぐに立ち上がった。
「私は、事件の本当の事が知りたい……そうすれば、事件の解決に役に立つ事ができるから……! 実際に聞いて確かめてくる! 来て、シェイミ!」
(わかった!)
 シナはそう言うと、いきなり森の中へと走り出した。シェイミもそれに続く。
「ああっ、ちょっと! シナ!」
 いくら本当の事が知りたいからって、こんな夜中でなくたって……! そう思ったあたしは、慌てて後を追いかけた。


FINAL SECTION ゲンガーの真実! シンジの目!


 暗い森の中で、シナの後ろ姿を追いかけるあたし達。そんなあたしの後ろからは、サトシもついて来る。
 でも途中で、シナを見失っちゃった。こんな真っ暗な森の中を、シナより少し遅れて走ってたんだから、無理もないか。
「あ〜あ、もうどこ行っちゃったのよシナったら……」
「でもシナは、シンジを探しに行ったんだろ? シナは波導でシンジの場所を突き止めてるはずだ」
「じゃあ、シナを見つけたら、シンジも見つかるって事?」
 あたしが聞くと、サトシはうなずいた。
「……ピカ!!」
 すると、サトシの足元を走っていたピカチュウが、急に耳を立てて足を止めた。
「どうしたピカチュウ?」
 サトシが聞くと、ピカチュウはしきりに何かを訴えている。
「……シナを見つけたのね!」
 あたしが聞くと、ピカチュウははっきりとうなずいた。
「よし、場所を教えてくれ!」
 サトシが言うと、ピカチュウはサッと森の茂みの中に飛び込んだ。あたし達も、そんなピカチュウの後を追いかけていった。

 * * *

「……あのゲンガーの事は、どんなポケモンだと思っているの?」
 ピカチュウが足を止めた。近くにいたみたい。あたし達も足を止めると、そんなシナの話し声が聞こえてきた。
「そんな事聞いてどうする?」
 すると、今度はシンジの声が。やっぱりサトシの言った通り、シナと話しているのはシンジ。見ると、シナに対して背中を向けている。
「シンジは、あのゲンガーは自分のポケモンにするにはふさわしくないと思った。それだけの力がなかったから。そうなんでしょ? そんな波導を感じたの」
 シナの説明を聞いて、シンジはしばらく黙っていたけど、シナに横目を見せて、口を開いた。
「……だから何だって言うんだ? あいつみたいに、俺に謝れとでも言うのか?」
「そ、そんな事は言わないよ。ただ、本当の事が知りたかっただけ。私は、ポケモントレーナーやってる訳じゃないから、サトシ達が言ってるように、あのやり方が間違ってるのかどうかはわからないけど、シンジは悪くないって思ってる。だって、強がってたゲンガーに、本当の事を教えたんだから」
 本当の事……? それって、どういう事なんだろ……? シンジもその言葉に少し驚いたのか、少しだけ表情を変えた。
「ゲンガーはそれを……はっ!!」
 シナがそう言いかけた時、急に何かに気付いた様子を見せたシナ。まさか、あたし達に気付いたの!? ドキッとしたけど、シナはあたし達が見ている左じゃなくて、後ろを振り向いた。シンジも、そんなシナの様子に気付いた。
(どうしたのシナ?)
「ゲンガーが……!!」
 シナがシェイミにそう答えた時、暗い森の中で赤い目がギョロリと光ったと思うと、そこからゲンガーが急に飛び出してきた!
「きゃっ!!」
 シナに向けていきなり“シャドークロー”を振りかざすゲンガー。慌てて逃げるシナ。間一髪。“シャドークロー”がシナのいた地面に突き刺さる。
(やめろーっ!!)
 シェイミが真っ先に飛び出して、ゲンガーに向けて“タネマシンガン”を発射! でも、ゲンガーはそれをサッとかわして、シェイミに向けてヘドロの塊を口から吐いた! “ヘドロばくだん”だ! シェイミはシナの指示を受けなかったせいか、よけられない!
「ミィィィッ!!」
 直撃! 効果は抜群!
「シェイミ!!」
 シナが叫ぶと、またゲンガーの狙いがシナに向いた。そして発射していた“ヘドロばくだん”をシナに向けた! シェイミに気を取られて波導を感じ取れなかったのか、シナは気付くのが遅れた! 間に合わない!
 その時、黄色い影がシナの前に立ちはだかって、飛んで来た“ヘドロばくだん”を正面から受け止めた。“ヘドロばくだん”は、黄色い影の目の前に張られたバリアーに完全に防がれた。見るとそれは、“まもる”を使っているシンジのエレブーだった。
「……!?」
「お前は邪魔だ。下がれ!!」
 驚くシナに、シンジがそう言って前に出た。そう言われたシナは、きょとんとした表情を見せながら、言われた通りに後ろに下がった。口は相変わらず悪いけど、シナを助けた……? するとゲンガーの視線がシンジに向いた。ずっと探し続けていた因縁の相手を見つけたゲンガーの表情が鋭くなる。そして、ゲンガーはすぐに“シャドークロー”を振りかざして、シンジに飛び掛かっていく!
「エレブー、“かみなり”だ!!」
 シンジが指示を出すと、エレブーは近づいてくるゲンガーに向けて強い電撃を発射! ゲンガーはそれをサッとかわす。ちょっと待って! ここでバトルしても、何も解決にはならない! あたし達はすぐにその場から飛び出した。
「やめろシンジ!!」
 サトシが叫ぶ。その声に驚いて、ゲンガーとエレブーは動きを止めた。シンジとシナの視線も、あたし達に向いた。
「今すぐゲンガーに謝るんだ! ゲンガーとバトルしたって、何も解決にならないじゃないか!」
「そうよ! 原因を作ったのはあんただって、まだわかってないの?」
「……」
 あたし達がそんな事を言っても、シンジは黙り続けていた。そんなあたし達の間に、シナが割って入る。
「違う! 違うの! シンジはゲンガーに……!」
(来た!!)
 シナが言いかけた時、シェイミのテレパシーが聞こえた。すると、ゲンガーがいきなりあたし達に向けて“シャドーボール”を撃ってきた!
「きゃあっ!!」
 目の前で爆発が起きた。爆風が、あたし達の体を飲み込む。そして爆風が消えると、“シャドークロー”を振りかざしてゲンガーが襲い掛かってくるのが見えた!
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 とっさにピカチュウが“アイアンテール”で応戦! “シャドークロー”を正面から受け止めて、弾き返した。さらに攻撃を続けようとするピカチュウ。
「待て、ピカチュウ! ゲンガーを攻撃しちゃダメだ!」
「ピカ!?」
 そんなピカチュウを、サトシが止めた。そしてサトシは、改めてシンジに顔を向けた。サトシの判断は正しい。ここでシンジがゲンガーに謝れば、必ずこの騒動は解決する。無駄なバトルをしないで済む。
「シンジ、ゲンガーに謝るんだ! 今謝れば、ゲンガーだって許してくれる!」
「……俺は謝るつもりなんてない。悪いのは奴の方だ」
 それでもシンジは冷たい目線をゲンガーに向ける。そんなひどい事を言われたゲンガーは、当然怒って顔を歪めた。
「弱い方が悪いって言うの!? そんな言い方ないでしょ!! ゲンガーは自分の強さに自信があったって、シナも言ってたじゃない!!」
 あたしはカッとなってそう言った後、シナに顔を向けた。
「た、確かにそうだけど、それは……危ない!!」
 シナがそう言いかけた時、いきなり声を上げた。見ると、またゲンガーが動き出していた。あたしとサトシの方に向けて、“ヘドロばくだん”を撃ってくる!
「わああっ!!」
 慌ててよけるあたしとサトシ。さっきまでいた場所に、ヘドロがバケツをひっくり返したように広がる。
「待て、ゲンガー!! シンジが謝るからおとなしくしていてくれ!!」
 サトシがそう言って説得しようとするけど、ゲンガーは聞く耳を持たない。ゲンガーは赤い目でサトシをにらみつけた。
「ぐっ……!?」
 すると、サトシが急に胸を押さえて苦しみ始めた。そのまま崩れ落ちるサトシの体。
「サトシッ!?」
 あたしは慌ててサトシの体を起こしてあげた。これって、前にあたしにもかけられた“のろい”!?
「完全にサトシ達を自分の邪魔をしに来たって思ってる!!」
 シナが叫んだ。そんな、それじゃ説得しても無駄って事!? それもこれも、シンジが謝ろうとしないせいで……!
「シンジ!! ゲンガーに謝りなさいよ!! シンジが謝らないから、サトシが……!!」
 あたしがそんな事言っても、シンジは全然聞いてくれない。そんな事している間に、ゲンガーが“シャドークロー”を振りかざしてこっちに躍りかかる!
「くっ……ピカチュウ、“アイアンテール”!!」
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 それでもサトシは、苦しそうだったけどピカチュウに指示を出した。ピカチュウはそれに答えて“アイアンテール”でゲンガーを迎え撃つ! また“シャドークロー”を正面から受け止めて、弾き返したピカチュウ。
「サトシ、ダイジョウブなの?」
「あ、ああ、平気さ、このくらい……ぐっ!!」
 サトシはあたしに何ともないって感じの笑みを見せたけど、すぐにその表情が歪んだ。やっぱり苦しいんだ……このままじゃ、サトシが……!
「シンジ、早くゲンガーに謝りなさいよ!! サトシがどうなってもいいの!?」
 あたしが叫んでも、シンジは黙ってゲンガーを見ているだけだった。まるっきり無視!?
「ねえ、聞いてるの!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 あたしのそんな叫び声は、“10まんボルト”を放ったピカチュウの叫び声にかき消された。ピカチュウの放った電撃が、ゲンガーをかすめる。当たらなかったんじゃない。わざと狙いを外している。サトシの指示通り、ピカチュウはゲンガーを直接攻撃しようとしていないんだ! でも、相手のゲンガーは明らかに本気。これじゃ、『手加減』しているのと何ら変わりない。完全にこっちが不利。ゲンガーは“シャドークロー”を、容赦なく振りかざしてくる。ピカチュウもステップを使って必死でよけるけど、とうとう“シャドークロー”がピカチュウに当たっちゃった!
「ピカアアッ!!」
 弾き飛ばされるピカチュウ。そこにゲンガーはさらに追い打ちをかけるように、“シャドーボール”を左手で作り出した!
「じゅ、“10まんボルト”で受け止めろ!!」
 サトシは“のろい”に苦しみながらも大きな声で指示を出した。その指示を聞いたピカチュウは、すかさず電撃を放った!
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 ピカチュウが電撃を発射したのと同時に、ゲンガーが“シャドーボール”を投げた! 電撃は“シャドーボール”に当たって、そのまま爆発! お互いに爆風に巻き込まれて、吹き飛ぶピカチュウとゲンガー。でもゲンガーは『ふゆう』を活かして反転すると、すぐに“ヘドロばくだん”を発射! 吹っ飛ばされて態勢を崩していたピカチュウは、それをかわす事ができなかった。
「ピカアアッ!!」
 容赦なくヘドロの雨にさらされるピカチュウ。すぐに体にまとわりついたヘドロを振り払うピカチュウ。でもそこに、ゲンガーがまた“シャドークロー”で切りかかろうとする!
「か、かわすんだ!!」
「ピ……ピカッ……!!」
 ピカチュウはサトシの指示を聞いてかわそうとしたけど、急に苦しそうな表情を浮かべて、かがみこんだ。そこに、ゲンガーの“シャドークロー”が直撃!
「……『どく』を浴びてる!?」
 弾き飛ばされても、ピカチュウが表情を歪めたままでいるのを見て、あたしは確信した。“ヘドロばくだん”の追加効果で、『どく』を浴びちゃったんだ! これじゃ、なおさら不利。動きを止めたピカチュウに、“シャドークロー”を振り下ろそうとするゲンガー。このままじゃ、ピカチュウがやられちゃう!
「ポッチャマ!! ピカチュウを助けて!!」
「ポチャマッ!!」
 あたしはいてもたってもいられなくなって、ポッチャマに指示を出した。すかさずポッチャマがピカチュウとゲンガーの間に割って入ろうとした。でもゲンガーはポッチャマに気付いて、ピカチュウに振ろうとした“シャドークロー”を、ポッチャマに振った!
「ポチャアアッ!!」
 直撃! 弾き飛ばされるポッチャマ。ゲンガーの視線が、ポッチャマに向く。するとポッチャマも負けじと立ち上がって、ゲンガーに主張し始めた。ゲンガーを宣徳しようとしてるみたい。でもゲンガーはそれを全然聞こうとしないで、ポッチャマに“シャドークロー”を振った! ポッチャマは慌ててよける。続けてゲンガーは“ヘドロばくだん”を発射!
「ポッチャマ、“がまん”!!」
 あたしの指示で、ポッチャマは攻撃を我慢する態勢になる。生身で“ヘドロばくだん”を受け止めて、じっと耐える。でもゲンガーは効かないと判断したのか、わざを“シャドークロー”に変更してポッチャマを切り裂く!
「ポチャアアッ!!」
 その一撃は、ポッチャマも我慢できないものだった。倍返しできないまま、弾き飛ばされるポッチャマ。
「……シンジ、どうするの? いくら何でも、このままじゃ……」
 シナが、シンジにそう呼び掛けていた。それでもシンジは、黙ってゲンガーを見つめていた。
「“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマは“バブルこうせん”で応戦! でも、直接当てる訳にはいかない。ポッチャマもそれを理解している。でも相手は本気だから、ピカチュウの時と同じように、『手加減』しているのと変わりはない。ゲンガーはポッチャマを本気で狙って“シャドーボール”を撃つ! 慌ててかわすポッチャマ。このままじゃ、ピカチュウと同じになっちゃう……!
「うぐっ……!」
 サトシは、相変わらず苦しそうな表情を見せている。でも、何だかそろそろやばそう……
「シンジ!! 黙ってないでゲンガーに謝ったらどうなの!!」
 あたしは顔をシンジに向けて言った。でも、シンジは相変わらず黙ったまま。全然謝る気がないの?
「シンジ……!!」
 シナもシンジに呼びかける。でもシンジは黙り続けている。
「ポチャアアッ!!」
 ゲンガーの“シャドークロー”が、ポッチャマを切り裂いた! そのまま弾き飛ばされるポッチャマ。そしてゲンガーは、追い打ちをかけようと、倒れたポッチャマに躍りかかる!
「……待て」
 その時、ようやくシンジが口を開いた。それを聞いたゲンガーが、動きを止めた。
「お前、自分が強いと思ってるんだな?」
 そんな事を言いながら、シンジはゲンガーの前に出る。シンジ、やっと謝る気になったのね……!
「……なら、その考えが甘い事を教えてやる! エレブー!!」
 でも、あたしの思いは簡単に打ち砕かれた。シンジの指示で、エレブーが前に出る。完全に戦うつもり!?
「ま、待て、シンジ……うぐっ……!!」
 サトシが止めようとするけど、“のろい”の苦しさに阻まれる。
 そんなあたし達の不安をよそに、ゲンガーが望む所だと言わんばかりに、エレブーに“シャドークロー”を振りかざして飛びかかっていく!
「エレブー、“かみなりパンチ”!!」
 シンジは迷う事なく指示を出す。エレブーの拳に電気が流れて、その拳をゲンガーに向けて振った! それは、リーチの差で“シャドークロー”が当たる前にゲンガーのお腹に直撃した! そのままあっけなく弾き飛ばされるゲンガー。地面に倒れたゲンガーは立ち上がろうとするけど、かなりダメージを受けてるみたいで、立ち上がれない。
「“のろい”で体力を減らした事が仇になったな。仮に体力があったとしても、お前の体力はなさすぎる」
 挑発するように言うシンジ。そういえば、“のろい”は相手に呪いをかける代わりに自分の体力を大きく減らすわざだったっけ。それに、最後のシンジの言葉にも一理ある。実際、あたし達がゲンガーと戦った時も、攻撃が当たった時にはほとんど1発でゲンガーは致命傷になっていた。
 それでもゲンガーは負けじと、自分の体にむち打って立とうとする。
「まだ認めないのか? それなら教えてやる。お前は自分で思っているほど、強いポケモンなんかじゃない」
 するとシンジは、ゲンガーを指差して、はっきりとそう言い放った。
「つ、強いポケモンじゃない!?」
 あたし達は、その言葉に驚いた。
「強いと思っている割には、わざは使えないものばかり、それにほとんど1発で致命傷になるその体力のなさ。お前はただ、うぬぼれているだけだ」
 そんなシンジの話を聞いて、カッとなったのか、ゲンガーは歯を食いしばって立ち上がって、力を振り絞って“シャドークロー”で切りかかろうとした!
「“かみなり”だ!!」
 でも、エレブーは“かみなり”ですかさず応戦。強力な電撃が、ゲンガーに直撃! またゲンガーはあっけなく弾き飛ばされた。倒れたゲンガーの体からは煙が出ていて、“かみなり”の威力がどれほどすさまじかったのかを物語っている。
「弱いポケモンも使えない奴だが、本当に使えないのは、自分の能力を把握していない奴だ」
「!!」
 ゲンガーに言い放ったその言葉に、あたし達は衝撃を受けた。そしてシンジの横目が、サトシの方を向いた。
 サトシは少し前に、シンジとバトルした。その時、ナエトルがハヤシガメに進化した。でも、持ち前のスピードを増えた体重のせいで失っちゃった事が仇になって、結局負けちゃった。サトシもハヤシガメもスピードを失った事がショックだったみたいで、ハヤシガメは夜中こっそり抜け出してスピードを取り戻そうとしていた。でも、それは間違っていた事には気付かなかった。シンジのドダイトスが勝手にやってきて、スピードよりもその体格と体重を活かした防御力を活かして戦う方が大事なんだってハヤシガメに教えてくれるまでは。
 そんな事があったばかりだから、シンジの言葉には、凄く説得力があった。
「自分の能力を、把握していない……」
 サトシがシンジの言葉を繰り返す。
「そうだよ、私が言いたかったのは、ゲンガーは自分が強いって『思い込んでた』って事。それでもゲンガーは、シンジに実力を認められなくても自分の本当の実力を受け入れないまま逆ギレして、暴れてたって事なのよ。シンジは、ゲンガーの本当の実力に気付いてあげさせたのよ」
 シナがあたし達に説明した。そっか、シンジはゲンガーの能力を調べた時にそれを見抜いて、ゲンガーを「使えないな」って言ったんだ。だからシナはシンジをかばってたんだ。とは言っても、あんな変な言い方のせいで、ゲンガーがキレたって事もあると思うんだけど。
「……そんな奴を、俺は手持ちに入れるつもりはない。そんなに強さを認めて欲しいなら、まずは自分の本当の実力を自覚するんだな」
 シンジはエレブーをモンスターボールに戻して、ゲンガーに背中を向けた。そして、そのままシナの横を通り過ぎようとした時、シンジは足を止めた。
「……確か、シナとか言ったな。感謝する」
「!!」
 シンジはシナにそう一言言って、その場を後にしていった。シンジが目上の人以外の人に、お礼を言ったのは初めて見た。言われたシナは、ドキッとしたのか少しだけ頬を赤くして、きょとんと立ち尽くしていた。
 その一方で、シンジの背中を追いかけようとして、震える手を伸ばすゲンガー。でもとうとうゲンガーは力尽きて、そのままバタリと倒れた。同時に、サトシの息が荒くなった。やっと“のろい”が解けて、痛みから解放されたサトシは、必死で息を吸おうとしている。
「サトシ、ダイジョウブ?」
「あ、ああ、何とか……」
 あたしが聞くと、サトシはそう言って自力で立ち上がってみせた。
 そして、シナは倒れたゲンガーの側にそっと歩いて行った。そして、その赤と水色の瞳で倒れたゲンガーをしばらく見つめたと思うと、懐から何かを取り出した。それは、モンスターボール。でも、ただのモンスターボールじゃない。全体がピンク色で、水色のボタンの周りを、4つに分けられた太い線の黄色い丸のような模様が囲んでいる。シナはそんなピンク色のモンスターボールをゲンガーの体に当てると、ピンク色のモンスターボールが開いて、ゲンガーを吸い込んだ。ピンク色のモンスターボールが閉じて、スイッチの赤いランプを点滅させながら、シナの手の中でモゾモゾと動き始めるけど、すぐにスイッチの赤いランプが消えて、動かなくなった。
「これでもう大丈夫だからね」
 シナはゲンガーを入れたピンク色のモンスターボールに向かって、優しくそう言った。
「……シナ?」
 シンジに見捨てられたゲンガーを、ゲットした……? 一体どうして……? ゲンガーが悪いって言ってたのに……?
「ゲンガーを助けてあげたの。このヒールボールに入れれば、ポケモンセンターに行かなくても、元気になってくれるから」
「でも、どうして助けたんだ?」
「ゲンガーは、まだ変わる事ができるから」
 シナはそう答えて、ピンク色のモンスターボール――もとい、ヒールボールを優しい眼差しで見つめていた。

 * * *

 次の日。
 あたしとサトシは、タケシとミライさんに、夕べあった事を話した。
「やっぱりシナの言った通りだったんだな」
「だから言ったでしょ、いくら考え方が違うからって、悪いって決めつけるのはよくないって」
 タケシとミライさんにそう言われたサトシは、「ああ、ごめん」と一言謝った。あたしも、自分の事ばかり考えてるように見えるシンジでも、たまにはあんないい事言う時もあるんだな、って思っていた。実際シナも、「シンジは悪い人なんかじゃないよ」とどういう訳か頬を少しだけ赤くして言っていたし。でも、やっぱりあの振る舞いは気に入らない。
「強いポケモンしか連れて行かないとか、ポケモンにスパルタ教育させるとか言うけど、それがシンジ君流の育て方なのよ。それが正しいと思うなら、とことんやれって事よ」
 ミライさんは感心するようにそうつぶやいた。そんな時、シナがやってきた。手に持っているのは、ゲンガーが入っているヒールボール。
「出ておいで」
 シナはそう言って、ヒールボールのスイッチを押す。ヒールボールが開いて、中からゲンガーが姿を現す。でもゲンガーはあの時と違って、しょぼんとした表情で、肩を落としていた。「自分で思っているほど、強いポケモンじゃない」って言われて、ショックだったのがあたしにもわかった。ブイゼルだってゲットしたばかりの頃に、四天王のゴヨウさんとバトルした時に負けちゃって、あんな風に落ち込んでいた時があったから。
「……大丈夫だよ」
 シナは、笑みを見せてゲンガーにそう言った。ゲンガーの落ち込んでる心を波導で読み取ったのかもしれない。ゲンガーが、そんなシナの表情を見て目を丸くした。
「自分が強くないってわかっても、あなたはまだ変わる事ができるよ。私だって、最初は波導の事でいじめられてばかりだったの。それが嫌で、何度も死のうって思ったけど、あの人達が私にもできる事があるって教えてくれたの」
 シナの顔があたし達に向いた。そして、シナは顔を戻して話を続ける。
「だから私は、波導を使って、人の役に立ちたいって思ったの。だから、強くないって言われたあなたにも、できる事が必ずあるはずだよ。元気出して」
 シナは、ゲンガーの頭を優しくなでて、笑みを浮かべた。シナの話を黙って聞くゲンガーは、何か感じ取っていたようだった。ゲンガーの赤い目が、少しだけうるんでいるのが見える。
「じゃ、ロストタワーに帰ろう」
 シナがそう言って、ゲンガーを連れてその場を動きだした。向かう先はロストタワー。あたし達も、自然とシナの後をついて行った。

 * * *

 そびえたつロストタワーの前で、シナはゲンガーと向かい合う。ゲンガーがロストタワーに帰る時が来た。
「じゃあね、ゲンガー。また暴れたりしたらダメだよ」
 シナはそう言って、ゲンガーから離れる。ゲンガーはロストタワーに入ろうとして、シナに背中を向けた。でも、なぜかそのまま動かない。そして、そっとシナの方に振り向いた。そんな表情を見たシナは、何かに気付いた様子を見せた。そして、その表情に笑みが浮かんだ。
「いいよ。私と一緒に行きたいんでしょ?」
 シナはゲンガーに笑みを見せて、ヒールボールを取り出した。するとゲンガーは、嬉しそうにシナの所に戻っていく。シナがヒールボールを開けると、ゲンガーはその中へと吸い込まれていった。
「フフ、初めてポケモンをゲットしちゃった!」
 シナはヒールボールを見つめながら、嬉しそうにつぶやいた。
「よかったわね、シナ!」
「うん!」
 あたしに対しても、笑顔を見せるシナ。それは、今まで見たシナの表情で、一番嬉しそうな表情だった。
(シナ……)
 シェイミもそんなシナの姿を見て、感心したようにつぶやいた。
「これにて一件落着、なんてね!」
 そんな状況を見たミライさんが、そんな事をつぶやいた。

 * * *

 ゲンガーは心を入れ替えて、シナと一緒に旅をする事を決めた。それも、シンジのお陰、なのかな……?
 でも、やっぱりあたしはシンジのあの態度は嫌い。サトシには、あんな奴に絶対負けて欲しくない。今は勝てなくても、いつかは……!

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY23:THE END

[754] 次回予告
フリッカー - 2008年11月20日 (木) 18時26分

 あたし達が出会った、とある探偵トレーナー。

「私は世間からは探偵トレーナーと言われております、モトヤと申します」
「探偵トレーナー……?」
「サトシさん、ヒカリさん、お2人に聞きたい事があるのです。『アラモス事件』について……」

 そんな時、突然やってきたのはギンガ団!

「何者だ!?」
「俺はギンガ団影のヒットマン、ホイヘンス。お前達2人の命をいただきに来た! 狙い撃て、オクタン!!」

 そいつの強さに、あたし達はかなわない!

「無駄な戦いはしたくはない。おとなしく投降しろ。命だけは助けてやる」
「くっ……!?」

 あたし達、どうなっちゃうの? そもそもなんであたし達を……!?

 NEXT STORY:ギンガ団の罠

「この腐りきった世界を変革し得るのは、ギンガ団以外に他にないのです」

 COMING SOON……

[887] シンジとヒカリ再開
まり - 2022年03月04日 (金) 23時23分

私フタバタウンのヒカリ‥ある日見慣れた知り合いの人を発見‥それはエレキブルを連れたトレーナーだった‥



Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板