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[734] 《Dream Makers SS X 〜最速決戦〜》
あきはばら博士 - 2008年10月26日 (日) 02時54分

登場人物紹介

・クルーザ(フローゼル)……髪を逆立てた不良風の青年のイメージ。暴走馬鹿。
・ラヒト(ムクホーク)………長身の浪人剣士のイメージ。冷静沈着。

※キング(テッカニン)………事実最速。要するに二人にとってイヤミな存在。


ラヒトの必殺技一覧
一、貫刀・兼光 ([ブレイブバード]×[すてみタックル]→[とんぼがえり]+[はねやすめ])
二、双刀・元重 (両方の翼で[鋼の翼]×[翼で打つ])
三、連刀・真長 ([電光石火]→[乱れ突き]×[追い討ち]の連続攻撃)
四、覇刀・正宗 ([ふきとばし]→壁に押し付けて[インファイト])
五、毒刀・朱転 (自分に[どくどく]→[がむしゃら]×[からげんき)
六、廻刀・村正 ([みやぶる]→[ツバメ返し]×[がむしゃら]?)
七、烙刀・吉行 (相手を掴んで[空を飛ぶ]→地面に叩きつける)



ラヒトVSクルーザの対決を書きたかったのです。

とりあえず、ラヒトの必殺技をいろいろと考えたら7つ思いつきました。

なので、クルーザにはその7つを全部受けてもらおうと思いました。

まことにクルーザには迷惑なことですがそんなノリで、書き上げたSSなので。

あまり面白くない構成だろうと思います、ご了承を。


[735] 〜最速決戦〜 一幕
あきはばら博士 - 2008年10月26日 (日) 02時55分


 ここは、ゼロ一味の練習試合場。

 その試合場の中央部に、二匹のポケモンが向かい合って睨み合っていた。
 その片方のポケモンはフローゼルのクルーザ。
 もう片方のポケモンはムクホークのラヒトだった。
 互いに最速を争うライバルとして熱い火花と共に鎬を削りあう両者が、
 こうして戦うことになるきっかけは、少々時間を遡って語らなければならない。


 戦いを始めるにあたって、やや人数が多いので二組に分けることになり。
 先日、ゼロ一味で出撃班と待機班の発表がされた。
 しかし、その発表された内容が問題だった。
 ラヒトが出撃班で、クルーザが待機班だったのだ。
 当然、クルーザは大激怒。
「なんで、あいつが先陣を切る班で、俺様が待機することになるんだよっ!」
 と怒鳴り込みに行ったところ、
「そんなこと、実力に決まっている。 お前は俺より遅いだろう? クルーザ?」
 とラヒトがあしらい。
「勝手に決め付けるな! 俺様の方が100倍速い!」
 とクルーザが言い返し。
「ふぅん、そうか? なら試して見るか?」
 とラヒトが尋ね。
「のぞむところだ、それがお前の最期だ。 ぶっ飛ばしてやる!」
 とクルーザが…………。

 ……そんなこんなで、
 クルーザVSラヒトの試合カードが決まったのだった。



 ピンからキリまでバトルシーン!

 最速の速さで急展開!

 必殺技のオンパレード!

 勝っても負けても決定事項!

 クルーザは待機に決定済み!

 七転八倒、七刀罵倒!

 七転び八起きの決定戦!

 ドリメのSS 第5弾!

 いざ尋常に、開始!






《Dream Makers SS 〜最速決戦〜》






 試合当日。

 会場となったゼロ一味が保有する試合場にはクルーザとラヒト、そしてたくさんのギャラリーが集まっていた。
 やはり待機を命じられている身の上みんな暇だったようである。さらに、試合の結果予想の賭博も行われていて8:2でラヒトが有利である、どうやら観客のほとんどはクルーザに冷たかったようだ。
 当然だがキングの姿は無い。
 二人とも本当に仲が良いのか、口を揃えてキングがいない時に勝負をしたいと言ったのだった。
 会場に、別に日差しが強くないのに何故か花が開いているチェリムのチサノの声が響く。
「はいは〜い! 審判を務めます。チサノで〜す! さぁ、二人とも。Are you ready?」
 やけにハイテンションに喋るチサノを
「始めるなら早く始めろ」
「……同感だな」
 クルーザとラヒトが急かした。
「まあまあ 落ちついて、ルールを簡単に確認します。一本勝負、時間は無制限、お互いに道具の使用は不可、禁じ手は公式ルールに則ります、ステイルメントは有りです。
 ……OK? では……それでは両者、位置について……」
 両者は向かい合う。
「…………」
「…………」

「はじめ〜〜〜!!」
 試合開始の合図と同時に、クルーザがロケットスタートを切った。

 先手必勝。

 先に動いたほうが勝ちだと言わんばかりに飛び掛る。
 一見バカ丸出しにも見えるが、先制攻撃は確かに有効な攻撃である。勝負とは大抵は先に相手に傷を負わせた方が勝つという。
「喰らいやがれ!  必殺![電光石火]!!」
 果たして[電光石火]が必殺に成り得るかは分からないが(気分の問題だろう)、対し、ラヒトはそこから一歩も動かない。
「……フン ただ、動きが速いだけが最速という訳ではない」
 その[電光石火]をラヒトはかわした。
 相手の実力を考えれば素直に当たるわけがない。それを知っていたクルーザは走り出す前から避けることを読んでいた、

 一発目は外れる、ならば二発目にかける。

 すかさず切り返して、もう一度[電光石火]で突っ込む、その際に左腕で相手を殴りつける直前に、フェイクとして右腕を出す。
 しかし、両方とも防がれた。
 そこまではクルーザの想定内のことだった、ラヒトのことだからこの程度のフェイントでは意味が無いと分かっていたからこそ、次の攻撃に移行した。
 両腕がラヒトの体に着いている状況から、後体を慣性に従わすように背中を丸め、真打ちの右蹴りを相手の腹に叩き込む。

 二重のフェイント。
 ――いや、ある意味では、三重のフェイント。

 いかなる者もこれには反応速度が付いていけないという技。
 流石のラヒトもこれには避けられないと自負していた、が。
 ラヒトは[はがねのつばさ]で右蹴りを正面から打ち返した。
「な、なぁぁぁぁ!!!」
 完全に成功すると思って攻撃していたクルーザは、予定外の出来事に戸惑って情けない声を出しながら、吹っ飛ばされた。
 鋼技だったために、それほどダメージは受けてはいないが、何があったか分からず唖然としていた。
 ラヒトは動かない。出方を待っている。

「くそっ、なめやがって!!」
 些細な疑問は綺麗さっぱり忘れるのはクルーザの十八番だ、
 すぐに次の攻撃に移行する。
 激しい水流を発射して敵に突撃する技
 [アクアジェット]だった。


「俺様の速さにかなうと思うなよ!!」


 結論から言えば、今回は確かにラヒトの羽を捉えていた。
 が、ラヒト自身にはダメージを与えることが出来ていなかった。
 アクアジェットで駆け抜けた後のクルーザは羽根まみれになっていた。
 ラヒトは避け様に[フェザーダンス]をぶつけていた。

「ち、畜生……」
「フン、いいザマだな、クルーザ。その羽布団でゆっくりと昼寝するがいい、永遠のな」
「ああ、今夜はお前の羽根を毟り取った布団で寝るとするか、な!!」
 攻撃が全く当たらずムキになっていたクルーザは、今度こそと[スピードスター]を発射して、それに併走する形で[電光石火]を使用する。
 確実に相手に当たるように技と技を併せて使った。
「少しは無い頭を使ったようだが、結果とすれば愚かだ」
 何事も無かったかのように[フェザーダンス]を使用する。

 暖簾に腕押し。
 ぬかに釘。
 豆腐にかすがい。
 柳に風。
 ふわふわと漂う羽根は、スピードスターの威力を吸収して消滅させてしまい、スピードスターを失ったクルーザの攻撃はまたもやラヒトに回避されて、二度目の[フェザーダンス]を受けてしまった。

「くそっ、またかよ!」
 地団太を踏むクルーザにラヒトは軽く笑いながら、挑発のつもりなのか自分の片翼をパサパサと振る。
「また引っかかるとはなんとも低知能だな。さて、二回、これで攻撃力が3割になったぞ。さあクルーザ、どうするかい?」
「攻撃力三分の一? 何言っているんだ? そんな事決まっているじゃねぇか! 攻撃力が三分の一なら、二倍速く動いて二倍の量の攻撃を叩き込んでやればいい事だ! これで2×2=4で4倍だ!!」
「……悪いがクルーザ、計算を間違っているぞ」
「うるせぇぇ!!」


 クルーザは叫んだ後、飛び掛りたい気持ちを抑えて、黙ってこれまでのことを考えることにした。
「(ともあれ少しは考えないとな……。このままじゃ、あいつの思うままだ。 俺様は絶対に当たるように攻撃をしていたはずだ、しかし何故あいつがそれを避けられるんだ? あの避け方はまるで[みきり]そのものだ。 しかしラヒトは[みきり]を使うことが出来ないはずだが……では、それに似た技は…………はっ!なるほどな)」
 何かを感じ取ったクルーザは、そこで勝ち誇った顔をして、相手に強く指をさして言い放つ。
「わかったぜ……ラヒト」
「ん?」
「ははは、お前は[みやぶる]を[みきり]の代わりに使って技を避けていたな? そして、それを可能にするためには非常に集中力がいるから動いていては使うことが出来ない。
 つまり『止まっている状態』じゃねえと避けることができないんだな。
 フン! 呆れるぜ! ちっとも動かない奴が最速だなんて、かたはら痛くてたまらねぇな!」
「珍しく御名答だ、確かに俺は[みやぶる]を使って見切っていたし、非常に集中力がいるという部分は。 だが、お前はそんな俺にダメージを与えられると言うのか? 俺の『絶対回避』を甘く見ないで欲しい」
「できるぜ、タネが分かれば、お前にダメージを与えることくらい簡単だ」
 そう言って、クルーザは[波乗り]を発動させた。

 フロア全体の大波。

 それならば、一歩も動かない状態から技を回避するのは物理的に不可能だ。
 仕方無しに軽く羽ばたき空に飛び上がって[波乗り]を回避した。
 しかし、その瞬間、波の水面からクルーザが突然飛び出してきた。
「!」
 ラヒトはそれを避けられず空中でその攻撃を受けて、波の引いた床に墜落した。
 クルーザは自らの起こした[波乗り]の波に潜り、水中から空中のラヒトに向けて[アクアジェット]を使用したのだった……文字通りに飛び鳥を落とす勢いで。
 クルーザはすっかり得意げな笑いを浮かべる
「ふん、ザマァ見やがれ! ラヒト」
 勝ち誇った声に、ラヒトはすくりと起き上がって返事をする。
「なかなか、やるじゃないか。クルーザ」
 クルーザはそれに中指を立てて返事をした。
「では―― お遊びはここまでだ、俺の方からも行かせてもらう」


 そういって、ラヒトは体勢を低く構えて、しかと見る。
「貫刀――」
 短距離走の走者のようにスタートダッシュの構えを取る。
「――兼光」
 超低空飛行による突進――。
 [捨て身タックル]と[ブレイブバード]を掛け合わせた突撃が、一直線に向かう。それはまるで一本の槍のようだった。
 クルーザは横への回避が間に合わず、なんとか後ろに跳ぶ形で衝撃を緩和しようとしたが、その防御も相手の突撃の前には形無しだったのか、そのまま後ろに突き飛ばされて行った。
 ラヒトは突き飛ばした直前に、空中で宙返りして元の場所に舞い戻り、すぐに地面で下りて体力を回復させた。
 攻撃の反動を受けて傷付いてしまった体に[カウンター]等の反撃を受けないための[とんぼ返り]と、反動のダメージを回復する[羽休め]だった。
「ぐ、ぐふぉぁ……」
 貫く刀と書いて、貫刀。
 「ノーマル」と「飛行」で二重の技タイプ一致の120ダメージ。

 ラヒトの一刀目の必殺技、《貫刀・兼光》。

「くっ、や、やるじゃねぇか……」
 クルーザはよろよろと起き上がり、視線を投げる。
「やっぱり、勝負はこうじゃねぇとな」
「そうか、もっと痛めつけて欲しいのか」
「へ?」
 クルーザに向けて強風が吹きつけて、足が宙に浮いた。
「なっ……おわぁぁぁぁ!!」
 [ふきとばし]を受けたクルーザは後ろの壁にぶつかった。
 と言っても、壁にぶつかっただけなので大したダメージではないのですぐさま反撃に回ろうと考えたその時。

 ――たっ 、 と

 音がした瞬間にはラヒトはクルーザのすぐ正面に立っていた。
 ただ、その距離が問題だった。
 ……目先、十数cm
「て、てめえ……」
「どうだ? 意外と何もできないだろう? この距離では」
 確かに、この距離ではあまりに近すぎて何も行動を起こせない。距離を取ろうとも壁に阻まれて、後ろを封じられてしまっている。
 攻撃をするにも防御するにも踏み込みも溜めも使えないので方法がかなり限られてしまう。
 生物の本能上、他の個体がある範囲まで自分に接近すると警戒態勢に突入するというが、ここまで接近されては警戒も何も、完全に畏怖して体が動かなくなってしまう。
「覇刀――」
 何もできないクルーザに、ラヒトはそのまま[インファイト]による超接近打撃を叩き込む。
「――正宗」
 殴りたい相手の背中を固い壁に押し付けてそのまま相手の胸部を殴りつける、有名すぎて半ば化石化しているような喧嘩術だが、格闘技としてこれほど有効な方法はない。
 殴られた相手はその衝撃をすべて自分の体で吸収せざるをえないので、失神するほどのダメージを被る。
 さらに、問題はその殴る箇所である。
 胸部への攻撃でアバラ骨が折れて心臓や肺臓に突き刺さらなくても、心臓での強い衝撃は心室細動を起こして心停止させることがある。

 防御不可能。回避不可能。
 一撃必殺。 一撃即死。

「ぁがぁっ、おぐぁがあぁ――――!!」
 攻撃を終えてラヒトが後ろに退くと同時に、ノーガードの状態でインファイトを受けたクルーザは自分の内臓が破裂したかのような悲鳴を上げた後、そのまま地面に崩れ落ちた。
「フ、 たわいもないな、これで終わりか? クルーザ?」
 種族値125による、零距離からの、格闘系準最強技を叩き込む。

 ラヒトの四刀目の必殺技、《覇刀・正宗》だった。





[736] 〜最速決戦〜 二幕
あきはばら博士 - 2008年10月26日 (日) 03時01分




 返事が無い、まるで屍のようだった。
 地面に横たえてぴくりとも動かないクルーザを横目に見ながら、
 ラヒトは背を向けて歩きだした。
 それを見て、ラヒトの勝利を確信したギャラリー達は、油に火をつけたかのように、一斉に口々に話し始めた。

「賭けはボクの勝利でしたね、まぁ……儲けは少ないですけど」
「クルーザはやはりクルーザだったな」
「チクショー! 大穴狙いでクルーザに賭けていたと言うのに! もっと頑張れよ!」
「クルーザの兄ちゃん。よわっ! 僕だったらあの攻撃を受けても平気なのに」
「サイコ、それは貴方だからでしょう?……それに、何故皆様気付かないのでしょうか? クルーザはまだ負けていませんわ、絶対に」





「待て!」

 その時、「絶対に」という言葉に答えるかのようにして、立ち去るラヒトを引き止める声がした。
「?」
「ラヒト、勝負はまだ終わっちゃねぇ! 俺様まだ負けてねぇぜ! 俺様はしぶてぇぜ!!」
 クルーザは立ち上がり、精一杯の勇みを込めて握りこぶしの右手を高く振り上げた。
 とは、言っても先ほどのダメージはかなり大きかったようで、足元がふらついていた。

「……全く、プラナリアみたいな奴だな」
「なんだと、てめぇっ!!」
 クルーザの怒鳴り声をラヒトはあしらう。
「褒め言葉だ、単細胞から多細胞生物へ格上げということだ」
「ハッ! お前のその態度が気に入らないんだよっ!」
 二人の言い争いがエスカレートすることを避けるべく、チサノは慌てて止めに入る。
「あ〜! 二人とも、落ち着いて〜! 仕切り直して再開するよ!」
 両者はその言葉を受けて口喧嘩を中断して、それぞれ位置についた。
「え〜、では! 両者、仕切り直して」
 チサノの号令に、両者は再び構えた。


「再度、はじめ〜!」

 再開の合図と同時に、クルーザがまたロケットスタートを切った。
 前回同様に、[でんこうせっか]で。
 それを見たラヒトは呆れた顔で[みやぶる]で回避の態勢に入る。
「フンッ……全く、学習能力がぬぉぁっ!」
 正しくは『学習能力が無いな』だった。だが、セリフは途中で途切れた。つまり

 [でんこうせっか]はラヒトに命中した。

 走り抜けて後ろに振り向いたクルーザはほくそ笑む。
「学習能力が無い? それはお前のことだろう? タネさえ分かっちまえばこっちのものだ、[みやぶる]を使っているならば、その眼に見えない攻撃は、どうあがこうとも避けることが出来ないってことだろう?」

 ラヒトは起き上がって尋ねた。
「見えない攻撃……。 ふぅん……  [ソニックブーム]か? [かまいたち]には、事前動作が必要だ。 [でんこうせっか]が俺に当たる前に音の衝撃波をぶつけて、回避させないようにひるませたのか」
「珍しく御名答だな。確かに俺様は[ソニックブーム]を使っていたぜ」
 クルーザは嫌味を込めて返事を返した。
「確かに、音は見えない。 使用者の動きからその軌道を予測することはできるが、受け流すことは物体で無い以上は不可能だ」
「さあ、どうするんだ? ラヒト?」
「とりあえず」
 ラヒトは攻撃態勢に入る。
「楽しめそうだ、とは言っておこうか」
 後手から攻撃を流す攻め方を攻略されてしまった今、いつまでも防御に回っているのは危険だからだ。
 しかし、これでクルーザの動きはだいたい把握できた、前に戦ったときよりも強くはなっているようだったが恐れるに足らず、あとはそれを踏まえて攻めに入るだけ。
 ここから一気にたたみかける。

 ラヒトは低く構えて、[でんこうせっか]でクルーザに向かって突撃する。
 そこから[翼で打つ]に移行していく。
 対してクルーザは、
 [翼で打つ]を[守る]で防ぎきった。

 しかし……。


 突撃の衝撃で地面から足が離れたクルーザに向けて、
 ラヒトは更なる追撃を加えようとそのまま加速していた。
 気づいたときにはもう遅かった、すでに[守る]の構えはほとんど解除している。
「連刀――」
 クルーザは咄嗟に体の筋を締めて、追撃を受けた。

 だが……、さらに。
 これが終わりではなかった、二回の連撃を受けきった安心感からか、これで終わりであると体が油断していた。咄嗟の防御もできない完全なる無防備の状態の体に、追々撃の……
 三発目は急所に、綺麗にヒットした。
「――真長」

 [乱れ突き]と[追い討ち]を複合させた連続攻撃。
 ボクシングのワンツーの例に挙がるように、二連続攻撃は一回目はフェイントであって一種の捨て攻撃になる。
 そして一回目の攻撃部位に守りが集中している時に、ノーガードの部位に二回目の攻撃が叩き込まれる。
 つまり、本当の攻撃とは一撃目にはなく、……二撃目にある!
 そして……それが、仮に三連続攻撃だった場合はどうだろうか?
 いかなる達人でも防ぎきれるのは2回目まで、3回目ともなれば完全に防御が不可能である。
 攻撃を必ず、急所に入れることができるのだ。

 それがラヒトの三刀目の必殺技、《連刀・真長》



「ぐぎぎぎ…………くぁっ!  ふんっ!」
 クルーザは痛みを根性で押さえつけて、また立ち上がった。
「ったく、 あんま痛くないし、大したことねぇな、技の基本ダメージが低すぎたんじゃねぇのか?」
 そして、空元気で勇んだ。
「こんな技で俺様を倒せるだなんて本気で思っているのか? 俺様を倒すなら戦車でも…… ん? ラヒトはどこだ?」
 相手の姿を見失ってしまったのできょろきょろと辺りを見回して、離れた場所で構えているラヒトを発見して……。
「貫刀――」
「ってぇぇ!! ちょっと待てぇぇ!!」

 ……さっきまでのセリフを台無しにした。
 ……みっともなかった、情けなかった。
 ……馬鹿だった。

 再び、ライフル銃の弾丸の様なあの突貫が叩き込まれる。
「――兼光」
 相手を貫かんとばかりに襲い掛かるに対し、クルーザはその[捨て身タックル×ブレイブバード]を、[守る]と[こらえる]を併せて使うことで防ぎきった。
 この戦いにおいて『避ける』という選択肢ほど無謀な事はない、避けることを可能にする速度の差が互いの間には無いからだ。
 クルーザは攻撃を防ぎきったところで、カウンターとして[しっぺ返し]を叩き込んだ。


 ……いや、正確には違う。そもそも、ラヒトの《貫刀》には反動で傷付いた体への攻撃を防ぐために、[とんぼ返り]も使用していたはずだ。
 だから[しっぺ返し]が当たることは有り得ないのだ。
 それでも、クルーザの攻撃は当たったのは何故か?
 それは[追い討ち]を同時に使用していたからだった。
 入れ替わる、逃げる、退く相手に攻撃するための技ならば、[とんぼ返り]にも命中する。
 絶対に当たらないはずの状態からの攻撃の命中、これはラヒトにとって予想外であり、そうとうのダメージを受けただろう。

 …………と、ここまでは、クルーザの思惑通りだった。

「――廻刀――村正!!」
「なぁぁぁっ!!!」
 結果としては
 ラヒトの方が一段上手だった。



 もちろん

 ラヒトはあの状態から攻撃させるとは思わなかっただろう。
 しかし、自分の必殺技の破り方は作った自分が一番良く分かっている。
 破られる可能性を幾つか知っていた分だけ、攻撃を返される心構えが出来ていた。

 あとは、咄嗟の判断力だ。

「ジルベール様が作った《飛翔侍村正》は最強の返し技だ、いかなる攻撃も跳ね返す」
ラヒトは自分の誇りを込めて言い放つ。


 補足だが、ジルベールとはラヒトが大尊敬するオオスバメの名前であって、《飛翔侍村正》はジルベールが作り出した必殺技である。
 そして、アカリンの《朱転殺》はその技から作り出されたのである。
 《飛翔侍村正》とは[カウンター]をそのまま特化したような必殺技で、ラヒトが《飛翔侍村正》を完全に再現するのは種族的に不可能だが、「ワザ」で出来ない部分は「テクニック」で補って、40%くらいは再現できているのだろう。
 40%でも、クルーザの攻撃を打ち返すには充分だったようだ。

 ラヒトの六刀目の必殺技、《廻刀・村正》。
 それは、カウンター攻撃をも跳ね返す、最強の返し技(の40%分)!






 ラヒトは気を失って倒れている相手の姿を一瞥して、空に飛び上がる。
「もう、この辺で良いだろう。 そろそろ、お前に引導を渡してやる。」
 そして空から、地上に這い蹲って動かないクルーザに向けて名残惜しい表情を浮かべたあと、急降下の体勢に入る。
 このまま、川鳥が魚を取る時のように、相手を空に掻っ攫うのみ。
 それは、相手を掴んで[空を飛び]、空中で相手を固めながら、急降下で地上に相手を叩き付ける。

 ラヒトの七刀目の必殺技……。


「烙t――」
「[滝登り]ぃっ!! 喰らえぇ!!」


 必殺技は失敗した。





[737] 〜最速決戦〜 三幕
あきはばら博士 - 2008年10月26日 (日) 03時06分





 ラヒトは、完全に油断をしていた。
 まさか、気絶をしたふりをしたクルーザが突然起き上がって、相手が絶対に立ち入ることの出来ない「高さ」の世界に、[滝登り]で空に昇って侵入してくるとは、さすがに予想外だった。
「覚えておけ! 空中は、お前だけの世界なんかじゃねぇんだよ!」
 クルーザはラヒトを空中で掴んだまま、口を大きく開いて、[氷のキバ]でラヒトの体を力一杯噛み付く、
 そして、そのまま[噛み砕く]。
 ラヒトの音の無い叫び声が空に響いた。
 ラヒトは、そのまま相手を締め上げて空中で固めて、予定通り地面に叩き付けようとしたが、
 この状況下では翼よりも腕と足を持っている方が圧倒的に有利だった。

 二人はもつれ合いながら地面へと落下していき、
 最初に地面にぶつかったのはラヒトの頭部だった。

 ラヒトをクッションにして着地したクルーザはすぐさま、距離を取って相手が起き上がるのを待った。
「くっ………… なんのつもりだ、クルーザ」
「いや、 なんだかこの勝負で、ちっとも俺様のかっこいい所が無かったからな、最後はとっておきの隠しだまでフィニッシュして、かっこいい俺様に相応しいかっこいい勝ち方をしたいからな」


 そう言って。
 クルーザは[あまごい]を使用した。
 試合場に雨雲が発生して、あっというまに、辺り一面を雨で隠す。
 クルーザは降り付ける雨を全身に浴びながら、得意げに笑いながら言い放つ!

「これで! 俺様の! 速さは! 二倍だっ!!」

 その瞬間、
 雷鳴が鳴り響きクルーザの顔が一瞬、その光に照らされる。
 まるで、奇跡の復活を遂げた最強の悪役のようだった。

 ちなみに[雷]はギャラリーの誰かが演出として使ったものだろう。
「特性:すいすい か……。  なるほど、では、俺も隠しだまで対抗しよう」
 相手のすいすい発動で、このままの状態では勝てないことを直感的に感じたのか、ラヒトも自らの隠しだまの使用を決める。
 ラヒトは体から毒を絞り出して、[どくどく]を生成し。


 ……それをそのまま自分から被った。


「って、おい! 気が狂ったか? ラヒト!」
「狂ってなど無い、これが《飛翔侍村正》の正しい使い方だ」


 村正。
 それは、妖刀の銘である。
 自分自身の残りHPを極限まで下げた後、
 自分自身に毒を与えることで特性の「こんじょう」を発動させて攻撃力を無理矢理上げて、[がむしゃら]と[カウンター]の複合で技を発動させるという禁断の技。
 (ちなみにジルベールは技のあとに[リフレッシュ]を使って、毒を消していた)
 自分自身を極限まで追い詰めて、起死回生の乾坤一擲の攻撃を与える。
 毒を以って全てを制す。
 毒を喰らわば皿まで。
 だからこそ。
 村正。


「 《毒刀・村正》 これは俺がある所で仕入れた、一部の人しか知らない秘密だ。御披露目も今回が初めてになるな。だからクルーザ、この型の技を喰らうのは光栄に思えよ」
「はん! つまり、俺様がその《毒刀・村正》を破る、記念すべき最初の一人目になるってことだな!」
 両者、共に向かい合って睨み合う。
 雨が降り続く。
 だっ!  と
 走り出したのはクルーザだった。
 二倍の速度の[でんこうせっか]がまっすぐ向かう。
「毒刀――」
 ラヒトはそれに応じて、必殺技を発動させる。
「――朱転」
 その《毒刀・村ま》


 …………?

 あれ?
 《朱転殺》?




「ぐぁっ!!」
「がはぁ!!」
 ぶつかった両者はその衝撃に、互いに弾き飛ばされた。
 この結果に一番驚いていたのはラヒトだった。何故、クルーザは
 この五刀目の必殺技《毒刀・朱転》を破ることが出来たのか? と。

 《飛翔侍村正》と《朱転殺》。
この二つの必殺技は同じタイプの技であって、同時に全く正反対の技だと言われている。
 二つに必殺技の違いについてきちんと語るとすれば、長くて難しい話になってしまうので、省略するが。
 簡単に説明すれば、この二つを一つの技に置き換えれば分かり易い。

 《飛翔侍村正》は[カウンター]で、
 その時に受けたダメージを相手に返す。
 《朱転殺》は[じたばた]で、
 それまでに受けてきたダメージを相手に与える。
 つまり、この二つの技への正しい対処法とは
 《飛翔侍村正》には弱いダメージを与える。
 《朱転殺》には強いダメージを与える。ことである
 弱い攻撃に《飛翔侍村正》を使うと、威力が足りずに空振りに終わることになり。
 《朱転殺》はダメージをすべてその身に受けることになるので、強すぎる攻撃を受けて押し切られてしまうと失敗をすることになる。

 補足しておくが、アカリンの《朱転殺》は自分に[どくどく]を使わないので。
 本当の技はそれぞれ《毒刀・村正》と《廻刀・朱転》と呼ぶ方が正しい。ラヒトはそれを自分の技とするために意図的に逆にしているのだ、注意して欲しい。本家の技をそのまま使うことを遠慮しているのだろう。
 ラヒトは《村正》の話をすることで、相手が弱い攻撃をするように誘導させて、正反対の《朱転》で返り討ちにする目論見だった。
 カウンターを使うことが分かっている相手には、特殊攻撃や補助効果積みを使うのが常識である、物理攻撃を仕掛けるなどありえない。

 ……では、あの時 クルーザはどんな攻撃をしていたかと言うと、強い攻撃だった。
 全速力で走って、全力でぶつかった。
 それは、《村正》ではなく《朱転》を使うことを見越して、強い攻撃を仕掛けたのか?
 いや、違う。 まあ、要するに。


 クルーザは馬鹿だったのだ。


 《飛翔侍村正》と《朱転殺》の二つの必殺技の違いや、その対処の仕方に違いがあるなど、全く知らなかった。
 それどころか、その二つの技がどういう技の組み合わせで成り立っているのかを理解しているかも怪しかった。
 ただ、相手が構えていたから、

『全速力で走って、全力でぶつかった』

 それだけだ。
 ラヒトは、いくらクルーザでもそのくらいの知恵は回ると見越していたが、予想は外れた。
 口では馬鹿とは言っているものの、クルーザは考えることよりも先に口と足が出るだけで、本当は馬鹿ではないと評価をしていたが、
 この件で間違いなくその評価は下がっただろう。
 馬鹿決定。


 このように書いていると、ラヒトの技は失敗したように見えるが、《毒刀・朱転》は完全に失敗したわけではなかった。
 半分失敗して、半分成功した。
 技が暴発してしまった、と言った方が良いかも知れない。
 結果として互いに同じくらいのダメージを分かち合うことになった。







 雨が降り続く。
 両者は必死に起き上がって、再び睨み合う。
 互いに体力も限界で、これが最後のぶつかりあいになることは覚悟していた。
「…………」
「…………」
 今回は、どちらも何も言わずに黙っていた。
 言葉などいらない。

 ズダッ!!  と

 先に走り出したのは、やはりクルーザだった。
 全速力の[アクアジェット]!!
 理屈など無い[アクアジェット]!!
 [アクアジェェェッットッ]!!!


 ラヒトもすぐに飛び出す。
 互いに体力も限界だ。
 この一撃さえ確実に当てれば、勝つことができる。
 確実に、倒す。
 そして、衝突する寸前に、両翼を左右に広げて同じ形に構える。

「双刀――」

 相手の姿をしっかりと見極め。
 両翼から同時に挟み込むように技を叩き込む。
 それぞれ片翼で技を繰り出すよりも、威力は当然落ちることになるが。
 命中率は格段に上がり、急所に確実に当てることができる。
 [クロスチョップ]や[クロスポイズン]と同じ原理だ。

 交差させる軌道で相手に叩き込む、
 左右両方の手刀で相手を捻じ伏せる。

 それがラヒトの二刀目の必殺技、《双刀――》




 両者は激突した。







 それが、
 今回のクルーザVSラヒトの勝負、
 最速決戦の
 決着の瞬間だった。









[738] 〜最速決戦〜 終幕
あきはばら博士 - 2008年10月26日 (日) 03時08分








 試合から数時間後、

 クルーザとラヒトは救護室で横になっていた。
 ベッドが隣同士であることを二人とも強く嫌がったが、
 ベッドの数が限られているとか、二人で語り合う話題もあるはずだ、と取り合ってもらえなかった。
 仕方無しに隣同士のベッドに横になっていたが、互いに何も話さず、相手の顔も見ようとはしなかった。
 そして、二人は意識が回復してから聞いた、あの試合の最後の激突の様子を思い出す。



 あの瞬間……

 両者はそのまま弾け飛んで、ほぼ同時に倒れた。
 問題になるのはどっちが先に倒れたのか? ということだったが、肝心の審判のチサノが
「Sorry! ツボミが完全に閉じていて、見えなかった! ごめん!」
 と、判別不可だと言ったそうだ。
 さすがに大雨状態だと、日頃花が開いているチサノでも閉じてしまうようだった。
 そして、ギャラリー達も遠目の上に雨で視界が悪く、どっちが先に倒れたかは判別できなかった。それ以前にあの速さに皆は目が付いていけてなかった。
 しかし、試合の内容を鑑みてみると、圧倒的にラヒトの優勢だったので

 ダブルノックアウトの判定でラヒトの勝利だった。

 つまり、クルーザの待機は完全に、確定した。






 クルーザはベッドに力一杯、腕を叩き付けて、大声で泣きたかった。
 自分が出撃班になれなかったことではない、
 正直言ってしまうと、そんなことは彼にとって些細なことであった。
 泣きたかったことはラヒトに負けてしまったことだ、
 クルーザにとって大事なことは、出撃・待機の問題なんかではなく。

 ラヒトに勝てるか、勝てないか、
 ラヒトより速いか、速くないか、

 だったのだが、もう決まってしまった。
覆すことも出来ない。
 判定負けと言っても、どんなに贔屓目に見てもラヒトの勝ちであることくらい、クルーザには分かりきっている。
 もう、どう足掻こうと無理だとは分かっているからこそ。そのまま男泣きをして気を晴らしてしまいたかった。
 が、一番涙を見せたくない相手が隣にいるというのにそうするわけには行かなかった。
 そして、どちらかの傷が回復するまでは決して独りになることができない。

 それもまた、虚しく、悲しかった。






 そんな中……。

 ラヒトが突然、語り始めた。
「…………本当はな、クルーザは出撃班が似合っていると思っていたんだ」
「へ?」
 突然の意外な発言にクルーザは動揺を隠せなかった。
「お前は誰よりも『斬り込み隊』に向いている性格だから、出撃班でこそ活躍ができるはずだ」
「…………?」
「俺とお前の班と交換して、俺が待機班に回るのも良いのではないのかと考えていたんだ」
「……交換……か……」
「だが、こうして勝負してしまった以上、いまさら交換するわけにもいかない。すまんな、クルーザ」
 やけに親切すぎる態度に、クルーザは奇妙を超えて恐怖まで感じてきた。
「…………ラヒト。お前、さっきから様子がおかしいぞ? ……普段なら俺様を馬鹿にしてくるというのに、急に親切になって……。あの時頭を打ちつけたのがいけなかったのか?」
「戦いが終われば一旦和解するのが礼儀だ、気味が悪いならいつも通りの俺に戻ろう」
「ほう、和解ね」
「そんなことも分からないとは、やはり馬鹿だな、クルーザ」
「いきなり戻しやがった!」




 二人仲良く(?)話している、そんな時……。
「フッ、 仲良くやっているじゃないか! 愉快愉快、ワッハッハ……」
「「なっ!」」
 救護室の扉を開けて、二人が目の敵にする相手。

 この戦いで行われた速さを、
 はるかに上回る速さを有する。

 事実、最速。
 テッカニンのキングは入ってきた。


「なっ、お前! いつの間に帰ってきやがったんだっ!」
 二人はよりによって一番来て欲しくない客の登場に、力ずくでも追い出してしまいたかったが、戦いの傷は決して浅くなく、動くことができないので。せめて言葉で攻撃するしかなかった。
「最後のぶつかり合い、見ていたぞ! いやぁ、見事な勝負だった! これでちゃんと我が部下達の決着も付いたというわけだな!」
「っ!! あの戦いを見ていただと……!!」
「いや、勝負が行われていることを聞いて、キキョウシティから急いで駆けつけたんだが、私が実際にこの眼で見たのは最後のぶつかり合いだけだ。
 ただ、その前に行われていた試合の内容も、聞いてみればそれもまた興味深いもののようだったな!
 クルーザ! あそこでバトンを使ってくるとは流石と言ったところか、ワッハッハ……」
「ふん、それはそれは……ジョウトからはるばるご苦労なこった」
 キングの言葉に、クルーザが苛立ちを感じていたが、ラヒトはさっきの発言に疑問を感じた。
「……? バトンだと?」
「ん? ラヒトは気づいてなかったのか? じゃあ、お前に聞きたいのだが……。
 何故クルーザはあれだけの猛攻を受けながら、立ち上がってくることが出来たんだ?

 普通はおかしいと思わないか?

 一撃必殺の技をあそこまで叩き込まれては、根性とか気力とかそういう問題じゃ、どうにもならないダメージの量だったんだぞ?」
「…………なっ、……つまり、クルーザは[バトンタッチ]で攻撃力低下のパラメーターをそっくり俺に移動させた……と言うわけか」
「そういうことだ、ラヒト」
 クルーザは得意げにラヒトに嗤いつける。
「い、いつだ! そんな、そんな素振りなど見せてなかったはずだ……!」
「それはな……」
「それはお前が、一回目の《貫刀・兼光》を仕掛けた時だ」
 クルーザがそのまま嬉しそうに語ろうとした時に、キングが横槍を入れて話してしまったので。クルーザは横目で睨み、舌打ちを一つした。

「あの時クルーザは《貫刀・兼光》に対して技を使ってなかったそうだ、その気になれば防御技や回避技を使ってなんとかできたはずなのに、
 使わなかった。
 それはな、[バトンタッチ]の技を発動させていた所為で、他の技を使うことが出来なくなっていたからだ。そして、衝突した瞬間にクルーザのバトンがお前に当たり、バトンが渡って、攻撃力低下の効果が受け継がれたわけだな。
 うむ、ラヒト、お前は冷静であろうとして、結局熱くなって冷静でいられない面があるから、そこを覚えておくといいぞ! ワッハッハッハ!」
「そ……そうだったのか……」
 その真実に驚きを隠せないラヒトに、クルーザは笑いと皮肉を込めて言う。


「ラヒト、 お前、俺様のことをバカだと思っていただろう?」
「ああ」
「真顔でうなずくなぁ!!」
「じゃあ、なんと答えればいいのだ?」
「クルーザ様は天才だ! だ、言ってみろ!」
「すまん、俺は嘘を言えない男だから、そんなありきたりの嘘ではなく、違う言葉にしてくれ」
「ふざけんじゃねぇぇえ!!」
「ハハハハ、よろしい! じゃあ天才のクルーザ様よ、結果としてラヒトの攻撃は何分の一になっていたのか答えてみろ」
「ふんっ、 そんなの決まっているだろう? [フェザーダンス]二回分をバトンタッチだから、攻撃四段階下がりで、三分の一だろう?」
「やっぱり馬鹿だ……」
「その様だな……」
 呆れ顔のラヒトとキングは「やれやれ」とため息を付いた。
「なっ、なんだ! お前ら、俺様が間違っているとでも」
 戸惑うクルーザに、ラヒトは一つヒントを与える。
「クルーザ……。俺の特性を言ってみろ」
「特性? お前の特性はいか……、し! しまったぁぁ!!」
「そう、正しくは五段階下がりだ」
 ムクホーク(ラヒト)の特性は威嚇、相手の攻撃を一段階下げる。
 ちなみに能力の五段階低下は……29%。

「つまり、お前は攻撃が3割以下になった俺と互角だったと言うわけか」
 ギクっ! と、クルーザは震えた。

「つまり、俺が最初から攻撃に入っていれば《覇刀》の時点でお前はノックアウトされていたわけか」
 ギクっ! ギクっ! と、クルーザはまた震えた。

「つまり、お前が三人でかかっても俺には勝てないってことか」
「いや、それは無い」
 ここはきちんと否定した、それは攻撃力の問題じゃない。

「ハッハッハッハ! そうだな! 確かに、最後の激突も先に倒れたのはクルーザだったしなぁ!」
「そうなのか?!」
 ラヒトは驚いて、キングに尋ねる。
「ああ、あの時クルーザは、ラヒトをより遠くに飛ばそうとやや上方向の力を込めてラヒトに突進をした。その思惑通り、ラヒトの体を斜め方向に飛ばすことに成功したが、当然衝突には反作用がかかることになる。
 突進の反作用で、クルーザの体には下方向の力が働いて、すぐに地面に叩き付けられて気絶した。そして、少し遅れてラヒトが壁にぶつかって気を失った、そういうわけだ」
「なっ!…………そんな……。 ありえるものかっ! 出任せだ!」
 クルーザはキングの言葉を信じられず必死に否定した。
「私はあの時見た通りのことを言ったまでだ、私は速さに関しての話は嘘など付かない」

 クルーザの顔色は蒼白だった。

「いやぁ! 本当に良い勝負だった! 流石は私の部下どもだな、褒めてやるぞ。 ハッハッハッハッハ!!」




 つまり、この勝負。

 クルーザの完全敗北だった。



      試合結果。
× クルーザ VS ラヒト ○
      判定勝ち
 審判:チサノ











 クルーザは傷が治ったあと、3日間行方不明になった。

 どうやら、海まで泳ぎに行ったらしい。

 泣き叫びながら猛スピードで海を泳ぎ続けていたようだった。

 それにツッチーが付き合わされたとか、付き合わされてないとか……。




[752] 〜最速決戦〜 幕後
あきはばら博士 - 2008年11月16日 (日) 00時31分







 さて、クルーザとラヒトの話はこれでひとまずピリオドが打たれたわけだが、
 今回は


 ラヒトとクルーザ。
 その二人の主人公がいない話。
 後日談。
 タネあかしの話。
 そして、

 もう一つの決着の話



 クルーザとラヒトとの面会を終えたキングが救護室の扉を開くと、救護室の扉を出た場所でフィーレンが待っていた。
「いたのか」
 キングは部屋の扉を閉めてから言った。
「ええ、盗み聞きする真似をしてしまいすみませんでしたわ。」
「いや、私は構わないが」
 そこで、フィーレンはクスッと小さく微笑んで。
「すみませんが、ご一緒に外を散歩いたしません?」
「いいだろう」





 草が茂り、花が咲く、庭を二人で散歩しながら。
 もうこの辺で話の本題を切り出しても良いだろうと判断したフィーレンはキングに尋ねた。
「結局、あの戦いの本当の勝者は誰ですの?」
「ん? 言ったはずだ、ラヒトだと」
 キングは当たり前のように抑揚も無く答えた。
「いえ、本当の勝者ですわ」
 フィーレンは言う。
「だって、おかしいでしょう? ダブルノックアウトのほとんど判定よる決着だと言うのに、貴方が『ちゃんと決着が付いた』と言うなんて。
 そして、さっきの話では、『どちらが勝ったのか』を一言もおっしゃってなかったですわ」
「…………」
「貴方は“ジェノクルス”の班分けが分け直しになって迷惑をかけないように、そして二人の仲をさらに悪くしないように、何か隠していることがあるでしょう? 私が教えた[バトンタッチ]の件と引き換えに、特別に教えてくださらないかしら」
 キングはやや困った顔と苦笑いを浮かべる。
「……フィレ嬢は、どっちの勝利だと考えているのだ?」

「クルーザの勝利」
 フィーレンは強く言い切った。

「その所為で、ちょっとスッてしまいましたが、もう関係ありませんわ」
 そして微笑みながらジョークを挟む。
 その言葉に少し笑ったキングは、観念したようにフィーレンに向かって語りはじめた。
「よろしい、では簡潔に言おう。結論から言えば、最後のあの激突でクルーザの[アクアジェット]は成功して、ラヒトの《双刀》は失敗した。
 もしもラヒトの技が成功していれば、クルーザだけが気絶するはずだからな、技の完成度はラヒトの方が格段に上だ。だから、あんなふうにダブルノックアウトになるためにはラヒトの技が失敗する必要がある。
 そして、ラヒトの技が失敗した理由は、クルーザの[アクアジェット]があまりにも速過ぎて意識が追いついて行かなかったからだ。 ……さて、クイズを一つ出そう。
 フィレ嬢、あの時のクルーザの速さは何倍速だったと思う? 
 ちなみに……まぁ、予想は付いていると思うが、あの時点でクルーザは[高速移動]を3回使いきっていた」

 フィーレンは少し上を向いて考えてから回答する。
「ええと…… 素早さ6段で、4倍。すいすいで、2倍。 つまり、8倍速でしょうか?」
 キングはまたニヤッと笑って首を横に振る。
「いや、[アクアジェット]は水の勢いを速さに変えることのできる技だ。つまり、水の勢いが強くなればそれだけ加速する。技のタイプ一致で1,5倍、大雨の天候で1,5倍、そしてクルーザの渾身の一撃として1,1倍を加えておこうか。さて、これでいくつになる?」
「4×2×1,5×1,5×1,1=  ……19,8。  19,8倍速です」
「そう! つまり20倍速だ。 こんな速度の私でも出せないだろう。そしてラヒトはその速度にも目が追いついていかなかった。まあ、クルーザもその自分の速さについていけなかったから自分の技の反動で気絶してしまったがな……。
 そして、絶対に忘れてはいけないのはこの勝負はあくまでも、普通の勝負なんかでなく

 どちらが速いかを決める勝負

 ってことだ。もしも、これが普通の勝負ならば、ラヒトの勝利だったのだが。
 これは速さ勝負、相手を翻弄させる速さを持っていた方の勝利、つまりフィレ嬢の言う通り――」
 そこで、キングは言葉を区切って、嬉しそうな笑みを浮かべて言う。

「――あの試合の本当の勝者は、

 間違いなく、クルーザだ。

 『最速』の私が太鼓判を押しておくぞ」




     試合結果(再審)。
○ クルーザ VS ラヒト ×
 決まり手:[20倍速アクアジェット]
 審判:キング



  試合終了。




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