[733] SECTION02 ユイユイの秘密! |
- フリッカー - 2008年10月23日 (木) 15時48分
セレアとユイユイの特訓が続く中で、そんなユイユイの様子を見つめる、3つの影があった事には、あたし達は気付いていなかった。 「ちょっとちょっと! あのエイパム、色違いじゃない!」 「あっ、ホントだ!」 「ジャリンコ共を追いかけてたら、あんなお宝に巡り合えるなんて、ニャー達なんて幸運なのニャ! あの色違いエイパムをボスにプレゼントすれば……!」 「幹部昇進! 役員就任! いい感じ〜っ!!」 「そうと決まったら、早速色違いエイパム捕獲作戦開始よ!!」 「おうっ!!」
SECTION02 ユイユイの秘密!
日がもう西に傾き始めている。特訓は一旦一休みにして、みんなでご飯を食べる事にした。 でも、セレアは意外な顔を見せた。タケシが作ったおいしいカレーを、ガツガツとフードファイターのように食べていく。 「う〜ん、このカレーおいしいね!」 「そうだろ?」 「タケシは料理がとっても上手なんだから!」 「やっぱりね〜、そうだと思った!」 そんなあたしとサトシ、セレアのやり取りの間に、もうセレアはカレーを食べ終わっちゃった。 「おかわりくださ〜い!!」 セレアは元気よく空になったお皿をタケシに突き出した。 「ああ、もちろんOKだ」 タケシは快くお皿を受け取って、またカレーを盛ってセレアに渡した。それを待ってましたとばかりに、食べ始めるセレア。2杯目だというのに、食べる速さは衰えない。それはまるで早食い大会を見ているようだった。あっという間に2杯目のカレーは、きれいにセレアのお腹の中に収まっちゃった。 「もう1杯!」 「はいはい」 「もう1杯!」 「ええっ……!?」 「もう1杯!」 「お、おいおい……」 1杯食べ終わる度に、どんどんおかわりするセレア。それには、さすがのタケシも驚くばかり。それでも、セレアの食べっぷりは衰えを見せない。あたし達も思わず食べる手を止めて、その食べっぷりに見入っちゃっていた。 「もう1杯!」 あっという間にお皿のカレーをきれいに食べ終えて、またお皿をタケシに差し出すセレア。 「おいおい、これでもう6杯目だぞ!? 平気なのか!?」 さすがのタケシも、セレアの食べっぷりに困っている様子。 「平気平気! ねえ、おかわりちょうだい!」 5杯も食べたというのに、セレアはまだ足りなさそうな顔でタケシに催促する。タケシはそれに負けて、またカレーをお皿に盛った。 「大変ですね、タケシも。だって食いしん坊が2人もいるんですからね」 あたしの隣で、ハルナがカレーをほおばりながらつぶやいた。ハルナの視線の先には、セレアに負けじとポケモンフーズをガツガツ食べるウリムーの姿があった。 「エポッ!」 エテボースが、気前よくユイユイの前にポケモンフーズを持っていった。ポケモンフーズの入った器を、尻尾の手でユイユイの前に置くエテボース。 「……」 それでも、ユイユイはポケモンフーズに手を伸ばそうとしなかった。やっぱり尻尾の手に取ったコンテストリボンを見つめて、物思いにふけているだけだった。
* * *
食事が終わって、日もすっかり落ちて、ユイユイとの特訓を再会したあたし達。 「よ〜しユイユイ! お腹いっぱいになった所で特訓再開よ!」 あれだけカレーをいっぱい食べたというのに、お腹を痛くした様子もなく力強く叫ぶセレア。 「……」 ユイユイは相変わらずやる気なさそうに落ち込んでいる。それでもセレアは叫んだ。 「行くよ!! “ダブルアタック”!!」 セレアが力強く指示を出した。でも、ユイユイは黙ったまま何もしようとしない。 「エポッ!」 そこに、エテボースがやってきた。エテボースはユイユイの目の前で、“ダブルアタック”のお手本を見せた。2本の尻尾が、勢いよく気に叩きつけられた。でもそれを見ても、ユイユイは全然やろうとする意欲を見せない。 「何やってるのユイユイ!! 進化したくないの!? そうじゃなかったら、ニーナだって喜ばないよ!!」 「ニーナ……?」 ニーナ。セレアが発した初めて聞く名前に、あたしは耳を疑った。 「……!!」 でも、その言葉を聞いたユイユイは、またムッとした表情を見せた。そして、また“アイアンテール”でセレアの顔を思い切りビンタした! 「ぶ!!」 ほっぺたをまたしても思い切りビンタされて、しりもちをついたセレア。 「ああっ! ダイジョウブ!?」 あたしは慌てて、セレアの側に駆け寄った。するとセレアは自力で起き上がって、いきなり怒鳴りだした。 「もうっ!! なんで言う事聞いてくれないのよっ!! そんなにやる気がないなら、もうアタシ知らない!! どっか行っちゃえばいいじゃないのっ!!」 今まで溜まったうっぷんをぶつけるように、ユイユイに叫んだセレア。すると、ユイユイも怒った表情をセレアに見せた後、そのまま森の中に走って行っちゃった。 「あっ! ユイユイが!」 「エポッ!」 「……いいのよ、あんな奴なんか……しばらくほっとけばいいのよ……」 すぐにサトシとエテボースが追いかけようとしたけど、セレアの言葉がそれを止めた。セレアの言葉そのものは怒っているように聞こえるけど、顔はなぜか伏せていて、手をわなわなと握っていて、どこか悔しそうにも見える。 「……っ!!」 するとセレアはすぐに立ち上がって、ユイユイとは逆の方向に走り去って行った。あたしの横を通り過ぎた時、一瞬セレアの目から涙がこぼれていたように見えた。 「あっ、ちょっとセレア!」 「エポッ!」 あたしとエテボースが呼び止めるのも聞かないで、セレアの姿も森の中に消えていった。 「追いかけようぜ!」 「ええ!」 「ハルナも行きます!」 あたし達は、すぐにセレアの後を追いかけて、森の中に向かっていった。
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「セレアーッ! どこにいるのーっ?」 「いたら返事してくれーっ!」 暗い森の中を歩きながら、大きな声で呼びかけ続けるあたし達だけど、セレアの声は全然聞こえてこない。もう、どこに行っちゃったんだろ…… 「ハルナ、そっちはどうなの?」 「う〜ん、まだルーナも見つけられてないみたいです」 ハルナは、隣でクルクル回っているルーナに目を向けた。ルーナは別に遊んでいる訳じゃない。サイコパワーを使って、セレアの場所を探そうとしているの。 「それにしても、ニーナって誰なんだろう……」 歩いている中で浮かんだそんな疑問が口から出た。 「誰なんだ、ニーナって?」 サトシがそれに気付いて、あたしに聞いてきた。サトシの声を聞いて、あたしはこの疑問が自然と口に出ちゃっていた事に気付いた。 「セレアが特訓の時言ってたのよ、『そうじゃなかったら、ニーナだって喜ばないよ』って……だから気になって……」 「そっか……確かに気になるよな……ユイユイと何か関係してる人なのかな?」 あたしの答えを聞いて、サトシも首を傾げた。 「ひょっとしたら、ユイユイがセレアに懐いてない事に関係しているのかも……」 「ヒカリさん! ルーナが何か見つけたみたいですよ!」 その時、ハルナの声であたしは現実に引き戻された。見ると、ルーナがしきりに何かあたし達に呼びかけている。 「見つかったのか、ルーナ?」 サトシが聞くと、ルーナははっきりとうなずいた。 「じゃ、案内して!」 あたしが言うと、ルーナは音もなく飛んであたし達を森の中へと案内した。
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森の中をどれくらい歩いたのかな。しばらくすると、サトシの肩にいたピカチュウが、ピクッと耳を動かした。 「どうした、ピカチュウ?」 サトシが聞くと、ピカチュウはサッとサトシの肩から飛び降りて、あたし達に何やら呼びかけた後、茂みの中に飛び込んだ。 「何か見つけたみたいだ。行こうぜ」 「ええ」 あたし達はすぐに、ピカチュウの後を追いかけた。 森の開けた場所に出ると、そこにはピカチュウがいた。それと同時に、何か女の子がすすり泣く声が一緒に聞こえてきた。ピカチュウが目を向けている先を見ると、そこには大きな木の根元にうずくまっているセレアの姿があった。 「ううっ……ううっ……アタシのバカ……このままじゃ……こんなアタシじゃ、ニーナとの約束が守れないよ……」 セレアは泣きながら、そんな事をつぶやいていた。あのユイユイに言った言葉、本気じゃなかったんだ。それにしても、またニーナって名前が出た。 「セレア……?」 あたしは声をかけていいのかなと少し戸惑ったけど、やっぱりこのまま放っておく訳にもいかなくて、恐る恐る声をかけた。 「は……っ!!」 すると、セレアが驚いてこっちに顔を向けた。その目には、涙がいっぱい溜っていた。 「こんな所で何してるのさ。俺達探したんだぜ」 サトシが言うと、セレアはまた顔を戻して、うずくまっちゃった。 「アタシって、ひどいよね……ユイユイにあんなひどい事言っちゃって……完全にポケモントレーナー失格だよね……これじゃ、天国のニーナに顔を見せられないよ……」 セレアの口からまたニーナって名前が出た。しかも今度は『天国の』って言葉も一緒に。ますます謎は深まっていくばかり。 「ねえ……ニーナって、誰の事なの?」 あたしは試しにセレアに聞いてみた。セレアがあんな状態で、答えてくれるかどうかはわからないけど、それでもあたしはニーナって名前の正体が気になって仕方がなかった。 「……」 セレアは黙っていた。聞いちゃいけない事聞いちゃったかな、って一瞬思ったけど、セレアはすぐに口を開いた。 「……今まで言ってなかったけど、ユイユイの前の『親』なの」 「前の、『親』!?」 あたし達は声を揃えた。という事は、ユイユイの前のトレーナーって事!? ユイユイは人からもらったポケモンってセレアは言ってたけど、 セレアは話を続けた。 「ニーナはね、アタシの友達で、アタシのライバルだったの。一緒に旅に出たんだけど、コンテストじゃいつもニーナの方が強かったの。ニーナのエイパムはニーナにとても懐いてて、コンビネーションも抜群だったの。アタシはそんなニーナがうらやましくて、いっつも『次は絶対に勝つんだ!!』って思って練習してたの……でもね……」 セレアの言葉がそこで止まった。 「でも……どうしたの?」 セレアは少しの間黙っていたけど、重たそうに口を開いた。 「……ニーナは急に、重い病気にかかっちゃって、コンテストに出られなくなっちゃったの……それを聞いて、急いでアタシがお見舞いに行ったら、ニーナは急にこう言ったの。 『私の夢、エイパムと一緒にセレアに託してもいい?』って。 なんで急にそんな事、って思ったら、ニーナは自分からこう言ったのよ。 『私はもう、余命があまりないんだって……だからもう、二度と……コンテストに出られないまま、夢を叶えられないまま死んじゃうのよ……だから、私の夢を、トップコーディネーターになるって夢を、セレアに叶えて欲しいの……』って。 アタシはショックだったわ……ニーナが、あとほんの少ししか生きられないなんて、ニーナのパパやママからは聞いてなかったんだもん……エイパムも、当然ショックだったわ。でも、ニーナは嫌でも死ななきゃいけないってわかってるはずなのに、そうとは思えないくらい落ち着いた様子でエイパムに言ったの。 『エイパム……もう私はあなたとお別れしなきゃいけない……でも、セレアと一緒なら、コンテストでもうまくやれるはずだから……だからお願い……私の代わりに、セレアをグランドフェスティバルに連れてってあげて……私もう、コンテストには出られないから……』 真剣なニーナの表情を見て、アタシは尚更ニーナを助けてあげたくなったの。ニーナとエイパムのコンビネーションを、アタシは何度も見てきたから……ニーナの夢を終わらせたくなかった……一生懸命看病してあげたけど、結局、ニーナは死んじゃったの、エイパムを残して……エイパムは動かなくなったニーナの体にすがりついて、涙が枯れるまで泣いてたわ……そんなエイパムを見て、アタシはニーナの言われた通りにしなきゃ、って思ったの。『親』がいなくなったエイパムを引き取って、『ユイユイ』って名前をつけて、ニーナの分も強くなろうって思って、ユイユイを進化させようって思ったんだけど……」 「セレア……」 途切れ途切れに話すセレアの目から、また涙がこぼれていた。 「だけど……ユイユイは死んだニーナの事ばっかり考えて、アタシの言う事聞いてくれない……ユイユイは、アタシなんかよりも、ニーナといる方がいいのかもしれない……こんなアタシじゃ、ニーナとの約束なんて果たせないよ……」 両手をわなわなと握るセレア。その拳に、涙がこぼれ落ちていた。セレアがユイユイを進化させようとしたのは、そんな理由があったんだ……ユイユイが暗い性格だったのにも納得がいく。ユイユイはきっと、懐いていたニーナの事が忘れられなくて、落ち込んでばかりいたんだ……でも、それを知ったら、あたしはいてもたってもいられなくなった。気がつくとあたしは、一歩前に出て、自然とそれを口に出していた。 「だからって、あきらめるの? 逃げるの?」 「……え!?」 セレアの涙目の顔が、あたしに向いた。 「そんな事したら、ニーナだって喜ばないじゃない! いくらうまくいかないからって、あきらめちゃダメよ!」 「……でも、ユイユイは……」 「あたし、前にセレアみたいに、もうダメだって思った時があったの。でも、その時教えられたの。『ポケモンの事をよく知る事が大事』なんだって」 「ポケモンの事を、よく知る……?」 セレアが、あたしの言葉を繰り返した。ハルナが、「あっ、それって、ハルナにも教えてくれた事……!」とつぶやいた。 「それがわかったから。あたしは復活優勝ができた。それに、前のポケモンサマースクールでもポケモンと心を通わせる事が大事なんだって教わって、やっぱり『ポケモンの事をよく知る事が大事』なんだって確信したの」 「俺もセレアのような経験あったぜ」 あたしがそこまで話した時、サトシがあたしの隣に来て、話に加わった。あたしは少し驚いた。 「サトシ?」 「俺も、前にゲットしたヒトカゲが進化してリザードになった時、今のユイユイ見たいに全然言う事聞かなくなっちゃってさ、リザードンに進化しても全然治らなくて、もう困っちゃってさ。でも俺は、最後までリザードンを見捨てなんかしなかったさ。そうしたら、ちゃんと言う事聞くようになって、今じゃいざという時に頼りになる、心強い味方さ」 サトシにそんな事があった事を知って、あたしは少し驚いた。 「どんなポケモンだって、仲良くなりたいって気持ちがあれば、絶対仲良くなれるさ。そうすれば、ポケモンと一緒に強くなれるさ。ヒカリの言う通りだよ。な?」 サトシの視線が、あたしに向いた。あたしはすぐに「うん」とうなずいて、話を続けた。 「だからセレア、もっとユイユイの事をわかってあげなきゃ。そうすればきっと、ユイユイはセレアの気持ち、わかってくれるはずよ」 「ヒカリ……」 それだけつぶやくセレアは、何かを感じ取っていたようだった。しばしの沈黙。 「……アタシ、謝らなきゃ……!」 セレアが目に溜まった涙を拭いて、ゆっくりと立ち上がりながらつぶやいた。その声は、さっきまでと違う、力強いものだった。 「そうよ、一度決めた事は、最後までやらなきゃ! そうじゃなきゃ、絶対イヤ!!」 セレアはグッと手を握り締めて、力強く叫んだ。あたしは嬉しくなって、サトシと顔を合わせた。 「すご〜い! セレアを立ち直らせるなんて、さすがヒカリさんっ!!」 ハルナも、歓声を上げた。 「そうと決まったら、ユイユイを探そうぜ!」 「うん!」 サトシの言葉に、セレアははっきりとうなずいた。
* * *
あたし達がセレアを探したのと同じように、あたし達はユイユイを探した。 今回はルーナだけじゃない。セレアが自分のグラエナ、メイメイを出して、“かぎわける”を使ってユイユイの匂いを探している。地面の匂いをしきりにかぎながら、ルーナのサイコパワーの援護もあって、次第におろおろしていた歩き方が、次第に真っ直ぐになっていく。そんなメイメイを先頭にしてどんどん森の中を進んでいくと、メイメイが大きな木の根元で足を止めて、顔を上げた。そこには、木の上でたそがれている色違いのエイパムが。ユイユイだ! 「ユイユイ!」 あたしは声をかけようとしたけど、それよりも先にセレアが声をかけた。ユイユイの顔がこっちを向いた。 「えっと……さっきは、ごめんね。あれ、本気で言った訳じゃないのよ……」 セレアは途切れ途切れながらもユイユイに向かって謝る。でも、ユイユイはまだ怒ってるのか、すぐにそっぽを向いちゃって、セレアを避けるように隣の木に起用に飛び移った。 「あ……まだ怒ってるの……? もう怒らなくていいから。アタシ、ただ……」 セレアは追いかけて謝り続ける。そしてエテボースが木に登ってユイユイの隣に行くと、まるで仲立ちをするようにユイユイに何か訴えている。ユイユイは少しエテボースの話を聞いてたみたいだった。そんなユイユイとエテボースのやり取りを見守っていると、ユイユイが急に何かに気付いたような素振りを見せたと思うと、突然森の奥に飛んで行っちゃった。エテボースも慌てて追いかける。 「あっ、ちょっとユイユイ! どこ行くの?」 「すぐに追いかけなきゃ!」 何かに引かれていくように森の奥に姿を消したユイユイを、あたしはセレアに呼びかけて、すぐにユイユイの後を一緒に追いかけた。いきなりユイユイ、どうしちゃったの? ユイユイは別に、エテボースの話が嫌になったような様子はなかった。何だか、他のものに気を取られたような……そんな感じだった。
* * *
「なあヒカリ、なんかいい匂いがしないか?」 しばらく追いかけていると、サトシがいきなり、関係なさそうな言葉を口にした 「え? いい匂い?」 あたしは一瞬サトシが何を言ってるのかわからなかったけど、試しに嗅いでみると、確かにいい匂いがする。何だか甘そうな匂いだった。でも、今はそんな匂いを楽しんでる場合じゃない。 「あ、ホント……って関係ない事言わないでよ! 甘い匂いとユイユイに何の関係も……」 「違う違う、前にもあっただろ? エイパムが森の木に塗ってあった『甘いミツ』につられた事」 サトシったら何を言ってるの、って一瞬思ったけど、サトシの言葉を聞いてはっとした。確かに、ハクタイの森でエテボースに進化する前だったエイパムが、森の木に塗られた『甘いミツ』につられた事があった。 「なんか、それに似てる気がしないか?」 「言われてみれば……!」 確かにエイパムが甘い匂いにつられるっていうシチュエーション……あの時と全く同じ。じゃあ、ユイユイも『甘いミツ』につられてるって事? その答えは、すぐに出た。目の前の視界が晴れると、真ん中に1個のバケツが置いてあった。その中に入っていたのは、まぎれもなく『甘いミツ』だった。 「あれって……」 「『甘いミツ』!」 「でも、なんでバケツに入ってるの?」 「誰かの忘れ物、ですかね?」 セレアの言う通り。木に塗ってあるんじゃなくて、バケツに入れてこんな所に置くなんて、なんかおかしい。そんな事を考えている間に、ユイユイが『甘いミツ』が入ったバケツの前に飛び降りた。そして、実際に見て嬉しそうな顔を見せながら、止めようとするエテボースを尻目に、バケツに顔を覗き込もうとした、その時! 突然、ユイユイの上から網が降ってきた! それにすぐに気付いたエテボースは慌ててよけたけど、ユイユイは『甘いミツ』に気を取られていたせいで気付くのが遅れて、網はそのままユイユイに覆いかぶさった! 「ユイユイ!?」 突然の事態に、あたし達は驚いた。そのまま網に入れられた状態で持ち上げられるユイユイ。 「わ〜っはっはっは!!」 そんな時、空から聞き慣れた高らかな笑い声が聞こえてきた。ユイユイの入った網をぶら下げているのは、見慣れたニャースの顔を象った気球! 「だ、誰なのアンタ達!!」 セレアが叫ぶと、あの聞き慣れたフレーズが聞こえてきた。 「『だ、誰なのアンタ達!!』の声を聞き!!」 「光の速さでやって来た!!」 「風よ!!」 「大地よ!!」 「大空よ!!」 「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」 「誰もが震える魅惑の響き!!」 「ムサシ!!」 「コジロウ!!」 「ニャースでニャース!!」 「時代の主役はあたし達!!」 「我ら無敵の!!」 「ロケット団!!」 「ソーナンス!!」 「マネネ!!」 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。 「ロケット団!!」 あたし達は声を揃えた。 「あんた達、いつかのヒカリさんをいじめてた奴……!!」 ハルナも声を上げた。 「ロケット団って何なの?」 「ポケモンを盗もうとする、悪い奴らよ!」 驚いて目を丸くするセレアに、あたしが説明した。 「そんな訳で、この色違いエイパムはいただいていくのニャーッ!!」 ニャースが高らかに叫んだ。 「ロケット団!! ユイユイを返せ!!」 「そうよ! ユイユイはニーナから引き取った、大事なポケモンなのよ!!」 「そんな事関係ないですよ〜だ!!」 あたしとサトシが叫んでも、ムサシがアカンベーで返すだけ。 「そんな訳で!!」 「帰るっ!!」 ロケット団が全員で声を揃えると、気球が加速した。 「あっ、ユイユイ!!」 セレアが遠ざかろうとしている気球に手を伸ばした。このままじゃ、逃げられちゃう! 「そんな事させるか!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」 「ピィィィィカ……!!」 サトシがすぐに指示を出した。ピカチュウはすぐに自慢の電撃を発射しようとしたけど…… 「おおっと!! この網はあえて電気を流すようにしてあるんだぜ? そのまま攻撃したら、このエイパムもしびれちまうぞ〜?」 コジロウが挑発するように待ったをかけた。それを聞いたピカチュウは、すぐに攻撃しようとするのをやめた。「くっ……!!」と唇を噛むサトシ。 「それならエテボース、網に向けて“スピードスター”よ!!」 「エェェェイポッ!!」 負けじとあたしも指示を出した。エテボースは網に向けて力強く“スピードスター”を発射! 「そうはさせないわよ!! メガヤンマ、“ソニックブーム”連続発射よっ!!」 でも、向こうも黙っていない。ムサシが素早くモンスターボールを投げた。出てきたメガヤンマは、文字通り“ソニックブーム”を連続発射して、“スピードスター”を相殺させた! 「こっちだって負けてられるか!! ムクバード、君に決めたっ!!」 サトシが別のモンスターボールを投げた。中からムクバードが出てきて、空へと飛び出した。 「マスキッパ、応戦だ!!」 コジロウもモンスターボールを投げた。でも、出てきたマスキッパはやっぱり…… 「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。 「ムクバード、“つばめがえし”で網を切るんだ!!」 「させるか!! マスキッパ、“タネマシンガン”で弾幕を張るんだ!!」 ムクバードが網に向かって一直線に突っ込む。でも、それを阻むようにマスキッパの“タネマシンガン” が飛んでくる。それをよけて網に近づこうとするムクバードだけど、マスキッパも“タネマシンガン”をムクバードが飛んでいく先に動かす。よけようとする度に、マスキッパも弾幕を動かす、完全にムクバードは網に近づけなくなっていた。そんな事をしている間にも、気球はどんどん遠ざかっていく。 「くそっ、このままじゃ近づけない!! ヒカリ、援護してくれるか?」 「ええ! エテボース、マスキッパに“スピードスター”よ!!」 「エェェェイ……!!」 エテボースがマスキッパに狙いを定めて“スピードスター”を発射しようとした。でも、そんなエテボースの横から、メガヤンマが迫ってきていた! 「あんたの相手はあたしなのよっ!! メガヤンマ、“はがねのつばさ”!!」 メガヤンマは4枚の羽に力を込めて、エテボースに向けて突撃した! 気付くのが遅れたエテボースは、それをよける事ができなかった。 「エポォォォッ!!」 直撃を受けて、弾き飛ばされるエテボース。地面に落ちそうになったのを、何とか尻尾で体勢を立て直した。 「メガヤンマ、“ぎんいろのかぜ”!!」 さらに今度は“ぎんいろのかぜ”を浴びせてくる。風に飲み込まれたエテボースは身動きが取れない。これじゃ、ムクバードを援護できない……! 「ヒカリさん、援護します!! あんな奴なんか、気球ごと落としてやるっ!! ルーナ、“シャドーボール”!!」 ハルナの指示で、ルーナが気球に向けて“シャドーボール”を発射! 真っ直ぐ気球に向かって飛んでいく。 「ソーナンス、ここは任せたわよ!!」 ムサシは近くにいたソーナンスを正面に出す。そこに、“シャドーボール”が飛んできた! でもソーナンスはそれを、“ミラーコート”で倍返し! “シャドーボール”はそのまま、ルーナに戻ってくる! 直撃! 「ああっ、ルーナ!!」 ハルナが声を上げた。弾き飛ばされて地面に落ちるルーナ。効果が今ひとつだったのが、せめてもの救いだった。 「仕上げはハブネーク、“くろいきり”よっ!!」 今度はハブネークを繰り出したムサシ。ハブネークは気球のゴンドラから黒い煙を吐いた。ただでさえ夜で暗いのに、さらに黒い煙が場を包み込んて周りが見えなくなった。息苦しくなって思わずせき込むあたし達。 「くっ、ムクバード、“くろいきり”を吹き飛ばしてくれ!!」 サトシの指示で、ムクバードは羽をはばたかせて“くろいきり”を吹き飛ばした。やっと視界が晴れる。でもそこに、ロケット団の姿はなかった。 「くそっ、逃げられたか……!!」 唇を噛むサトシ。 「そんな……ユイユイが……」 バトルに夢中で何をしていたのか気にしていなかったセレアは、涙目でただ茫然と立ち尽くているだけだった。突然の出来事に何が起きたのかわからなくて、何もできなかったのかもしれない。 「ダイジョウブ。ユイユイは必ず、あたし達が助けてあげるから!」 あたしはそんなセレアに、そう言って励ましてあげた。そしてすぐにサトシと一緒に動き出した。 待っててユイユイ、必ず、助けてあげるからね……!!
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