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[730] ヒカリストーリーEvolution STORY22 約束の進化
フリッカー - 2008年10月17日 (金) 00時27分

 お待たせしました!
 少し遅れましたが、STORY22、ようやく公開です!
 今回はエテボースが主人公!

・ゲストキャラクター
セレア(薄紅さんの投稿) イメージCV:豊崎愛生
 ポケモンコーディネーターの少女で、現在リボンを2つ持っている。ヒカリ達に出会い、自分のエイパム、ユイユイの進化を手伝って欲しいと頼む。ウリムーにも負けず劣らずかなりの大食い。頑張り屋で、時々意地っ張り。一度決めた事は、最後まで成し遂げないと気が済まない。しかし、ユイユイはある過去が原因で暗い性格になってしまっていて、セレアに心を開いていない。

ハルナ イメージCV:釘宮理恵
 かつてトップコーディネーターとして活躍したヒカリの母アヤコに憧れ、ポケモンコーディネーターの道を歩み始めたルーキートレーナーの少女。コトブキシティ出身。ヒカリよりも数ヶ月年下。
 性格は無邪気なムードメーカーで、コンテストで目立つために前口上を作ったり、演技するわざを『ハルナスペシャルその○』と勝手に名付けたりする。また、根っからのポケモンコンテストマニアでもある。三日月がトレードマーク。
 地元コトブキシティのコンテストを見に行った時から、アヤコの子であるヒカリに尊敬の情を抱いており、彼女に対しては常に敬語で話す。自称『ヒカリさんの一番弟子』。
 ちなみに左利き。

[731] SECTION01 エイパムのユイユイ! 進化への道!
フリッカー - 2008年10月17日 (金) 00時28分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 エイパムのユイユイ! 進化への道!


 ついに開催された、ポケモンコンテスト・カンナギ大会。
 その出場者の中には、昔ポケモンコーディネーターをしていて、今はトップポケリストをしている『カンナギの鬼百合』ユリさんが20年ぶりに参加していた。昔、ママの連勝記録を止めた強敵、ユリさんがライバル。でも、だからってあたしは怯まない。全力でぶつかった。1次審査を突破して、ユリさんとファイナルでぶつかった。さすがはママの連勝を止めた人だけあって、最初は苦戦したけど、中盤から追い上げて、最後に逆転して見事優勝! 3つ目のリボンをゲットできたの!
 その次の日、歴史研究所にあったお宝『しらたま』がギンガ団に奪われて、大変な事になっちゃった。ギンガ団のいう『新世界』って、何の事なんだろう……? 何だか怖い……
 でも、今はそんな事を考えていても仕方がない。気持ちを切り替えて、あたし達はいつも通りに旅を続ける事にした。ヨスガシティでの、サトシのジム戦に向けて……

 * * *

 カンナギタウンからズイタウンに引き返す途中で、あたし達はいつものように休憩をとっていた。
 そんな時に必ずやるのが、トレーニング。強くなるためには、練習を怠っちゃダメだからね! そんな訳で、今日もサトシとの練習バトルの真っ最中。
「エテボース、“スピードスター”!!」
「エェェェイポッ!!」
 エテボースが、“スピードスター”を前に向けてばら撒いた。たくさんの星が天の川のようになって、正面にいる相手――ブイゼルを飲み込もうとする。
「ブイゼル、“みずでっぽう”!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブゥゥゥゥッ!!」
 負けじとブイゼルも応戦する。ブイゼルの力強い“みずでっぽう”が、“スピードスター”の天の川に正面からぶつかった。そして爆発。相殺されたと思ったけど、爆風の中から飛んできた“スピードスター”が、ブイゼルに命中! ブイゼルは少し怯んだけど、すぐに態勢を立て直す。
「今度は“きあいパンチ”よ!!」
「エェェェイ……ッ!!」
 エテボースは、尻尾の拳に力を込めて、ブイゼルに向かっていった。
「ブイゼル、“アクアジェット”だ!!」
「ブイイイイイイイッ!!」
 すぐにブイゼルも動いた。“アクアジェット”で、勢いよくジャンプした。それを追いかけるエテボース。そして、ブイゼルを間近に捕えて、エテボースが拳をお見舞いしようとした時、ブイゼルが一瞬、ニッと笑みを見せた。すると、ブイゼルは体に回転をかけた。その勢いで、エテボースの“きあいパンチ”を弾き飛ばした! あれは、今サトシが特訓中の戦法……!
 前にヨスガジムのジムリーダー、メリッサさんとバトルした時、サトシは“さいみんじゅつ”に大苦戦して、ギブアップ。ちゃんとしたジム戦に備えるために、対策を考えるのに苦労してたみたいだけど、前のポケモンコンテスト・カンナギ大会を見て、ひらめいたのがこの戦法。あたしの考えた『回転』を活かして、攻撃を弾いちゃおうというもの。あたしの『回転』をあそこまで進化させられるサトシは、やっぱり凄いと思う。
 拳を弾かれたエテボースは、尻尾を使って受け身を取って、しっかりと着地した。ブイゼルも、そんなエテボースの前に得意気に着地する。
「エテボース、最近絶好調じゃないか!」
「ブイゼルもその戦法、大分うまくなってるじゃない!」
 あたしとサトシがそう言うと、エテボースは嬉しそうな表情を見せて、ブイゼルは得意気に腕を組んだ。
 その時、別の場所で爆発が起きた。音の大きさからして、そう遠くはない場所。あたし達はすぐに、その音に気付いた。
「何だ? 別の場所でもポケモンバトルしてる人がいるのか?」
 審判をしていたタケシがつぶやいた。タケシの言う通り、爆発がこんな森で起きたという事は、どこかでポケモンバトルをやってるという事。この辺りには、バトルできそうな開けた場所が結構あるから、そんなに珍しい事でもない。
「行ってみようぜ!」
 サトシが真っ先に、音がした方向に飛び出した。「あっ、ちょっと待って!」と、あたしもタケシもすぐに後を追いかけた。

 * * *

 音がした方向に行ってみると、やっぱりそこではポケモンバトルの真っ最中だった。
 対戦しているのは、2人の女の子。1人は、銀色のサイドポニーの髪型をした女の子。もう1人は、オレンジの髪に三日月の髪飾りが特徴的な、いんせきポケモン・ルナトーンを連れている見覚えのある女の子。
「ハルナ!」
 あたしは、その見覚えのある女の子がハルナだってすぐ気付いた。そう、コトブキシティ出身の、左利きの新人ポケモンコーディネーター。あたしのファンで、あたしに対してはいつも敬語を使って、周りから見たらバカだって思われてるんじゃないかなって思うくらい、あたしを慕ってくれる自称『ヒカリさんの一番弟子』。
「メイメイ、“かみつく”攻撃!!」
 女の子が繰り出しているポケモンは、かみつきポケモン・グラエナだった。グラエナはキバを剥いて、一気に飛び出した。その先にいたのは……
「アルテミス、“まもる”!!」
 長い耳と首の周りを覆う襟巻きのような毛が特徴の、茶色のかわいらしいポケモンだった。そのシルエットは、どこか見覚えのあるようにも見える。アルテミスと呼ばれたそのポケモンは、周りを覆うバリアーを張って、グラエナを逆に弾き飛ばした!
「今度はこっちの番よ!! “アイアンテール”!!」
 アルテミスはバリアーを消すと、反撃に出た。尻尾に力を込めて、一気にグラエナに振り下ろした! 頭に直撃! グラエナは、さすがに効いたみたいで、ふらりと崩れ落ちた。
「まだまだ!! メイメイ、“シャドーボール”!!」
 それでも女の子は怯まなかった。女の子の指示で、グラエナはまた立ち上がって、“シャドーボール”を発射! まっすぐ着地したばかりのアルテミスに飛んで行った!
「来た!!」
 でも、それを待っていたように、ハルナは笑みを浮かべた。アルテミスの目付きも変わった。
「アルテミス、“アイアンテール”!!」
 飛んできた“シャドーボール”に向けて、アルテミスは尻尾を振った。すると、尻尾は見事“シャドーボール”にジャストミート! 野球のように“シャドーボール”を打ち返した!
「これが、ハルナスペシャルその9、『超本塁打テールバットホームラン』!!」
 ハルナが叫んだ直後、“シャドーボール”は不意を突かれたグラエナに直撃! そして爆発! 効果は今ひとつだけど、相手の意表を突くには充分なわざだった。
「メイメイ!!」
「やったあっ!! アルテミス、決まったね!! これならヒカリさんが見たらきっと……あっ!!」
 ハルナが飛び上がってアルテミスやルーナと一緒に喜んでいたら、バトルに見とれていたあたし達と、視線が偶然合った。
「ヒカリさん!!」
 ハルナが目の色を変えて、すぐにあたしの前に駆け寄ってきた。
「相変わらず元気そうね」
「カンナギ大会、優勝おめでとうございます! あの『カンナギの鬼百合』と勝負できたなんて凄いです! 世代を超えた対決じゃなかったですか! ああ、サインもらいたかったなあ……」
「ありがとう、ハルナ」
 ハルナのそんな言葉を聞いてると、自然と笑顔が浮かぶ。
「凄かったじゃないか、今のバトル!」
「バトルの腕も磨きがかかったようだな」
「あんた達には話してないの!」
 サトシとタケシもすぐハルナに話しかけたけど、すぐにそっぽを向かれちゃった。サトシは「そんな言い方ないだろ……」と少しムッとした。そんなサトシの顔を見たあたしは、思わずクスッと笑っちゃった。
「見てくれましたか、今のバトル!」
「もちろん! そのポケモン、新しくゲットしたの?」
「はい! あの後ゲットしたイーブイです! 名前はアルテミスっていいます! ほらアルテミス、この人がハルナの尊敬するヒカリさんだよ! 挨拶して!」
 ハルナが足元を見ると、そこにいたアルテミスが、かわいく鳴いてあたしに挨拶した。
「これがイーブイね! かわいい〜!」
 あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「イーブイ、しんかポケモン。遺伝子が不規則なため、さまざまな理由によってすぐに姿形が変わってしまう」
 図鑑の音声が流れた。イーブイといえば、7種類のポケモンに進化できる凄いポケモン。前に見た事のあるグレイシアも、イーブイから進化したものだったよね。
「でしょ? ところでヒカリさん、あのハルナスペシャルその9、どうでした?」
 ハルナがまた目を輝かせてあたしに聞いた。
「うん、飛んできた攻撃を打ち返して力にするなんて、凄いと思うよ。もっと工夫したら、いい演技になるんじゃないかな」
「きゃはっ!! アルテミス、ヒカリさんに褒められたよ!!」
 ハルナはいつもの言葉を言って、アルテミスと顔を合わせて喜んだ。アドバイスを聞くというより、単に褒めて欲しかっただけみたい。それがハルナらしいと思うけどね。
「そうだヒカリさん、ハルナも初めて公式のコンテストで優勝したんですよ! ほら見てください、このリボン!」
 ハルナは思い出したように、すぐに懐から左手で1つのコンテストリボンを出して、これでもかとあたしに見せつけた。ハルナの手の中で輝くコンテストリボンは、間違いなく公式のものだった。
「よかったじゃない、ハルナ! でも、調子に乗っちゃダメよ。あたしだって、1回優勝できた事に浮かれちゃってたせいで、1次審査で落ちちゃったんだから」
「はい、わかってます! ヒカリさんに教えてもらった事は、いつも肝に銘じていますから! だってハルナ、『ヒカリさんの一番弟子』ですから!」
 ハルナは胸を張ってあたしの言葉に答えた。相変わらず『ヒカリさんの一番弟子』って言ってるんだ……あたしは思わず苦笑いしちゃったけど、別に嫌とは思わない。それもハルナらしいと思うから。
「ねえねえ、ちょっとちょっと!」
 その時、別の声が割り込んできた。見ると、さっきまでハルナとバトルしていた女の子が、こっちに話しかけたい素振りを見せている。
「ハルナ、この人は?」
「アタシはセレアって言うの!」
 女の子は元気よく自己紹介した。するとその女の子、セレアの目が、すぐに違う方向に向いた。
「わぁ! このエテボース、かわいいいなぁ!」
 セレアが目を付けたのは、あたしの傍らにいたエテボースだった。
「ウポウポッ!」
 かがんで興味深そうに見つめるセレアに、エテボースも嬉しそうな表情を見せた。
「いいなあ、エテボース……このエテボース、もしかしてあなたのポケモン?」
 セレアが、あたしに顔を向けた。
「ええ。あたし、ヒカリ」
「ポチャマ!」
 あたしは、あたしの頭の上にいるポッチャマと一緒に、自己紹介した。
「ヒカリ……って事は、この人がハルナの『師匠』さんなの?」
 セレアの顔がハルナに向いた。あたしはギクッとした。まさかハルナ、バトル前に自己紹介する時も、『ヒカリさんの一番弟子』って名乗ったの!?
「そうよ! ヒカリさんはあのトップコーディネーター、アヤコさんの子なんだから! 最近はミクリカップに優勝して、ヨスガコレクションにも優勝して、カンナギ大会でも優勝して……とにかく今は快進撃中な、凄いコーディネーターなんだから!」
「あ、あんまりおだてないでよ……」
 セレアに聞かれたハルナは、これでもかと次々とあたしの自慢をする。そんな熱の入ったマシンガントークぶりには、あたしも少し引いちゃった。
「あ、すみません……」
 そんなあたしの様子に気付いてくれたのか、ハルナはすぐにトークをやめて、あたしに謝った。すると、そんなやり取りを聞いていた他のみんなが一斉に笑った。
「俺、サトシ」
「ピカ、ピカチュ!」
「俺はタケシだ」
 サトシとピカチュウ、そしてタケシも自己紹介する。
「ねえヒカリ。このエテボース、やっぱりエイパムから進化させたの?」
 セレアが、真っ先に話題を切り出した。
「ええ」
「アタシも、ちょうどエイパムを進化させたいって思ってた所なの! 手伝ってくれる?」
 セレアが、そんな事を提案した。
「いいわ」
 あたしはそんなセレアの提案を、快く受け入れた。
「お前も協力するよな、エテボース?」
「エポッ!」
 サトシがエテボースに聞くと、エテボースも笑顔を見せて答えた。
「よし、それじゃ決まりね! じゃ、まずは挨拶から! 出ておいで、ユイユイ!!」
 セレアは早速1個のモンスターボールを取り出した。それは、普通のモンスターボールと違って、真っ白なモンスターボールだった。確か、モンスターボールを10個買うとおまけでついてくる、プレミアボールっていったっけ。そのプレミアボールを投げると、中からエイパムが出てきた。ただ、色が違う。普通は紫色のはずだけど、このエイパムはピンク色だった。
「ほらユイユイ、見てごらん! これがエテボースだよ! あなたも進化したら、こうなるんだから!」
「エポッ!」
 セレアがエテボースを紹介すると、エテボースもセレアのエイパム、ユイユイに挨拶した。
「……」
 でも、ユイユイはなぜか顔をうつむけたまま、見ようとも挨拶に答えようともしない。何だか見るからに元気がなさそう。そんな表情を見て、首を傾げるエテボース。
「どうしたんだ? 何だか元気なさそうじゃないか?」
 サトシがユイユイの顔を覗き込んだ。
「あ、いや……ほらユイユイ、ちゃんと挨拶ぐらいしなさいよ!」
 セレアがすぐにユイユイに叱りつける。すると、ユイユイはムッとした表情でセレアをにらんだ。そして、急に尻尾に力を入れ始めたと思うと、思い切りセレアの頬にビンタをかました! あれって“アイアンテール”!?
「ぶっ!!」
 いきなり強烈なビンタをかまされたセレアは、そのままバタリと倒れちゃった。
「ああっ、ダイジョウブ!?」
 あたしは慌ててセレアの体を起こした。横で「痛そう……」とハルナがつぶやいていた。
「へ、平気……なんかユイユイっていつもこうなのよ……えへへ……」
 セレアは苦笑いしながら、笑顔を作って平気そうに答えた。
「おいおい、そのエイパム、まさかセレアになついていないのか!?」
 タケシが目付きを変えて、すぐにセレアに聞いた。トップブリーダーを目指しているタケシが、この事に黙っているはずはない。
「いや……元々、人からもらったポケモンだし、何だか言う事聞かないのよね……えへへ……」
 セレアはまた苦笑いしながら答えた。
「そんな笑い事じゃないぞ!!」
「え……っ!?」
 そんなセレアを、タケシは一喝した。一瞬、驚いてビクッとするセレア。
「ポケモンとの信頼関係は、ポケモントレーナーの基本的な事じゃないか! それがうまくできないトレーナーは、いいトレーナーにはなれないぞ!!」
「……」
 タケシの強い主張に、セレアはポカンとしたまま、何も反論しなかった。
「とにかく、進化させたいのなら、まずはエイパムと心を通わせるのが先だ」
「そ、そっか……」
 セレアは、ポツリとつぶやいて、ユイユイを見た。ユイユイは相変わらずうつむいたままで、セレアとは目を合わせようともしていなかった。その目は、どこか悲しそうにも見えた。そんなユイユイの背中を、エテボースは黙って見つめていた。
「ヒカリさん、何だかあのエイパム、落ち込んでないですか?」
「そうよね……何だかちょっと暗い感じよね……」
 ハルナの言う通り。さっきからユイユイは、元気がないというよりは、明らかに落ち込んでいる。何か、辛い事があったような……そう思うと、胸が痛くなってくる。あたしだって、コンテストの1次審査2回連続で落ちた時には、これが絶望なのって思うくらい落ち込んだ。落ち込んだ人の気持ちは、あたしにもわかる。
 ふと、ユイユイの手に、今まで気付かなかった何かを持っているのを見つけた。手の中で光っているもの。それは、1つのコンテストリボン。それを見つめながら、ユイユイは何か物思いにふけているように見えた。
 ユイユイは、セレアに懐いていないのには何か理由がありそう。やっぱり、コンテストで何か失敗しちゃったのかな……? それとも……?

 * * *

 早速、特訓が始まった。
「いいかセレア。まずポケモンと心を通わせるには、ポケモンが喜ぶ事をしてあげるんだ」
「喜ぶ事って、具体的には?」
「たとえば、マッサージとかだな」
 タケシはセレアと向かい合って、丁寧に教え始めていた。
『ポケモンという生き物は、人間と「共生関係」にあります。自分が認めた人間を「リーダー」として認め、人間にいい生活環境を与えてもらう代わりに、いざという時には戦う力のない人間の力となってくれます。ただし、力不足と判断した場合には見切りをつけてしまう事もあります。だから、我々人間はポケモン達と心を通わせ、しっかりリードしていく必要があるのです』
 こんな事を、ポケモンサマースクールであたし達は教わっていた。初めて触れあうポケモンと心を通わせる実習もした。人とポケモンは共生関係、いわゆる切っても切れない関係。それだけ、人とポケモンとの関係は大事なんだって事。これを意識するのは、簡単そうで難しい。セレアは今その大切さを、タケシから教わろうとしていた。
「百聞は一見にしかずだ。実際にやってみよう。ハルナ」
「うん」
 タケシの隣には、アルテミスを連れたハルナがいる。ちょうど新しいポケモンをゲットしてるんだし、一緒に教わったらどうってあたしが提案したの。
 ハルナは早速、ブラシを取り出してアルテミスの前に座った。
「いい、アルテミス。これからブラッシングするから、体の力抜いてね」
 ハルナが言うと、アルテミスはハルナの前でそっと座った。そして、ハルナはブラシで丁寧にアルテミスの体をブラッシングしていく。力を入れすぎず、抜きすぎずに。アルテミスも、安心した表情を見せている。
「なかなかうまいじゃないか」
「伊達にヒカリさんから教わってないからね!」
 サトシが感心して言うと、ハルナは胸を張って答えた。こういう事はあたしの得意分野だから、あたしもしっかりとハルナに教えてあげられたからね。
「よし、じゃあセレアもやってみようか」
「うん!」
 次はセレアの番。早速セレアもブラシを持ってユイユイに顔を向ける。
「ほらユイユイ、ブラッシングしてあげるから、来てよ!」
 セレアがユイユイに呼びかける。でも、ユイユイは答えようともしないで振り向いたまま。うつむいたまま、やっぱり何か物思いにふけている。
「ちょっとユイユイ! せっかく人がブラッシングしてあげるって言ってるのに、無視しないでよ!」
 セレアはムッとして、怒鳴り声をあげた。すると、またユイユイがムッとした表情を見せて、尻尾を一振りすると、“スピードスター”が勢いよく放たれた!
「わあっ!!」
 たちまちセレアの顔が“スピードスター”の天の川に飲み込まれた。そして背中から倒れちゃったセレア。
「お、おい!! 大丈夫か!?」
 タケシが慌ててセレアの体を起こした。でも、セレアはすぐに体を起こした。
「もうっ!! 何するのよっ!! アタシはユイユイが喜ぶ事をしてあげたいだけだったのに〜っ!!」
 そんな怒鳴り散らすセレアに「まあまあ、落ち着いて」とタケシが止めに入る。
「焦ってばかりいたら、ポケモンにしろ人にしろ、心を通わせる事はできないぞ」
「そっかあ……」
 セレアははあ、とため息を1つついた。
「そうよ、もっと優しくしないと、ユイユイに嫌われちゃうよ」
 あたしはそう言って、ハルナに「ちょっと貸して」とブラシを借りて、ユイユイの側に行った。ユイユイが、あたしに気付いて顔を上げた。
「ほ〜らユイユイ、恐がらなくていいからね〜、ダイジョウブダイジョウブ!」
 あたしは優しくそう言いながら、ユイユイの側にしゃがんで、ユイユイにブラシをかけ始めた。ユイユイは嫌がる様子も見せないで、おとなしくしてくれていた。
「すご〜い!! さすがヒカリさんっ!!」
 ハルナが歓声を上げた。それを見ていたセレアは、しばらく言葉を出さなかった。
「……よし、アタシもやる!!」
 セレアは自信が湧いてきたように急に立ち上がって、ブラシを手にとって素早くユイユイの側に駆け寄った。
「ダ、ダイジョウブなの?」
「ユイユイ、今ブラッシングしてあげるからね! そのままおとなしくしてて!」
 ダイジョバないように思ったあたしを尻目に、ブラッシングをしようとユイユイに手を伸ばすセレア。
「……!!」
 でも、やっぱりユイユイは黙っていなかった。またセレアを嫌うように、“アイアンテール”で思い切りビンタした!
「ぶっ!!」
 また強烈なビンタをかまされたセレアは、ブラシを落としてそのままバタリと倒れちゃった。やっぱりダイジョバなかった……
「う〜ん、これは一筋直じゃいかなさそうだな……」
 タケシが不安そうな表情を浮かべた。
「だ〜め!」
 でも、セレアはまるで何事もなかったかのようにすぐに立ち上がった。
「一度決めた事は、最後までやるの! そうじゃなきゃ絶対イヤ!!」
 セレアは力強く宣言した。でも見ていると、逆に何だか余計ダイジョバない気がしてきたのは、あたしだけ……?

 * * *

 気を取り直して、特訓の続きは次の段階へ。
「ポケモンに信頼されるトレーナーになるには、ポケモンに指示した事がうまくできたら、きちんと褒めてあげる必要があるんだ」
 タケシがセレアに丁寧に説明していた。その傍らでは、ハルナがアルテミスと一緒に新しい見せ技の特訓をあたしの前でしていた。
「よ〜し、じゃあ行くよアルテミス! 上に向かって“シャドーボール”!!」
 ハルナが指示すると、アルテミスは指示通りに“シャドーボール”を空へと打ち上げた。そのまま上に飛んで行った“シャドーボール”は、次第に重力に負けて速度を落としていって、とうとう地面に吸い込まれ始めた。
「いい、タイミングを見極めて“アイアンテール”よ!!」
 ハルナの指示を聞いたアルテミスは、尻尾に力を込めて身構える。そんなアルテミスの上から、“シャドーボール”が落ちてくる。アルテミスとの距離がどんどん詰まっていく。そして――


「今よ!!」
 ハルナの指示で、アルテミスは尻尾を思い切り振った。でも、その尻尾は空しく空を切った。
 そしてその直後、爆発が起きて、アルテミスが爆風に飲み込まれた。“シャドーボール”が地面に落ちて、爆発したの。ゴーストタイプのわざの“シャドーボール”はノーマルタイプには効かないから、万が一アルテミスに直撃してもケガをする事はない。でも爆発に巻き込まれるとなるとそうもいかなくなる。
「あ〜あ、また失敗しちゃった、『超本塁打テールバットホームラン・バージョン2.0』……」
 ハルナはため息をついた。爆風が消えると、そこには何とか爆発をしのいだアルテミスの姿があった。強く体を身震いして、体についた砂ぼこりを振り払う。
「アルテミス、平気?」
 ハルナが聞くと、アルテミスはコクンとうなずいた。
「よし、じゃあもう1回っ!!」
 ハルナの指示で、アルテミスは練習を再開した。
 でも、なかなかうまくいかない。落ちてくる“シャドーボール”に“アイアンテール”を当てるのは至難の業。何度も何度も空振りしては爆風に飲み込まれるアルテミス。
「がんばって、アルテミス!!」
「ポチャポチャーッ!!」
「エポポーッ!!」
 あたしとポッチャマとエテボース、そしてルーナも応援する。それが届いたのか、アルテミスの目付きが変わった。もう何回目だかわからない、落ちてくる“シャドーボール”を強く見据えるアルテミス。尻尾に力が入る。そして――


 尻尾を振ると、“アイアンテール”が当たった!
 近くにあった木に当たって、爆発する“シャドーボール”。飛び方はまだ完全とはいえない変な飛び方だったけど、それでも初めて“シャドーボール”を打つ事ができた!
「やったねアルテミス!! 打てたじゃない〜!!」
 ハルナがアルテミスを抱き上げて、歓声を上げた。抱き上げられたアルテミスも、嬉しそうな表情を見せた。
「ヒカリさん、できましたよ!!」
「その調子よ! もっと練習したら、うまく打てるようになるわ!」
「きゃはっ!! アルテミス、ヒカリさんに褒められたよ!! よ〜し、もっと練習よ!!」
 あたしの言葉を聞いてさらに喜んだハルナは、さらに力を入れて練習を再開した。
「……とまあ、あんな感じで褒めてあげるんだ」
「なるほど……よし!!」
 そんなハルナの姿を、セレアに見せて説明するタケシの言葉を聞いたセレアは、すぐに行動を始めた。
「よ〜しユイユイ、アタシ達もやるよ! ユイユイ、“ダブルアタック”!!」
 力強く右手を突き出して指示をしたセレア。でも、ユイユイは全然聞いていない。やっぱり手に持ったコンテストリボンを見つめながら、落ち込んでるばかり。
「ちょっとユイユイ! せっかくがんばろうって時に落ち込んでないでよ!」
 セレアがそんな事を言っても、ユイユイはセレアに背中を向けたまま、やっぱり返事をしなかった。
「う〜ん、これはかなり重症のようだな……」
 さすがのタケシも、これには困った表情を見せた。
「ヒカリさん、セレア、ダイジョウブなんでしょうか?」
「ダイジョバないよ、明らかに……」
 あたしとハルナもそんなセレアの様子を見て、少し呆れてそんな事をつぶやくしかなかった。
「エポ……」
 一方でエテボースは、ユイユイの姿を見て、何かを感じ取っていたようだった。


TO BE CONTINUED……

[733] SECTION02 ユイユイの秘密!
フリッカー - 2008年10月23日 (木) 15時48分

 セレアとユイユイの特訓が続く中で、そんなユイユイの様子を見つめる、3つの影があった事には、あたし達は気付いていなかった。
「ちょっとちょっと! あのエイパム、色違いじゃない!」
「あっ、ホントだ!」
「ジャリンコ共を追いかけてたら、あんなお宝に巡り合えるなんて、ニャー達なんて幸運なのニャ! あの色違いエイパムをボスにプレゼントすれば……!」
「幹部昇進! 役員就任! いい感じ〜っ!!」
「そうと決まったら、早速色違いエイパム捕獲作戦開始よ!!」
「おうっ!!」


SECTION02 ユイユイの秘密!


 日がもう西に傾き始めている。特訓は一旦一休みにして、みんなでご飯を食べる事にした。
 でも、セレアは意外な顔を見せた。タケシが作ったおいしいカレーを、ガツガツとフードファイターのように食べていく。
「う〜ん、このカレーおいしいね!」
「そうだろ?」
「タケシは料理がとっても上手なんだから!」
「やっぱりね〜、そうだと思った!」
 そんなあたしとサトシ、セレアのやり取りの間に、もうセレアはカレーを食べ終わっちゃった。
「おかわりくださ〜い!!」
 セレアは元気よく空になったお皿をタケシに突き出した。
「ああ、もちろんOKだ」
 タケシは快くお皿を受け取って、またカレーを盛ってセレアに渡した。それを待ってましたとばかりに、食べ始めるセレア。2杯目だというのに、食べる速さは衰えない。それはまるで早食い大会を見ているようだった。あっという間に2杯目のカレーは、きれいにセレアのお腹の中に収まっちゃった。
「もう1杯!」
「はいはい」
「もう1杯!」
「ええっ……!?」
「もう1杯!」
「お、おいおい……」
 1杯食べ終わる度に、どんどんおかわりするセレア。それには、さすがのタケシも驚くばかり。それでも、セレアの食べっぷりは衰えを見せない。あたし達も思わず食べる手を止めて、その食べっぷりに見入っちゃっていた。
「もう1杯!」
 あっという間にお皿のカレーをきれいに食べ終えて、またお皿をタケシに差し出すセレア。
「おいおい、これでもう6杯目だぞ!? 平気なのか!?」
 さすがのタケシも、セレアの食べっぷりに困っている様子。
「平気平気! ねえ、おかわりちょうだい!」
 5杯も食べたというのに、セレアはまだ足りなさそうな顔でタケシに催促する。タケシはそれに負けて、またカレーをお皿に盛った。
「大変ですね、タケシも。だって食いしん坊が2人もいるんですからね」
 あたしの隣で、ハルナがカレーをほおばりながらつぶやいた。ハルナの視線の先には、セレアに負けじとポケモンフーズをガツガツ食べるウリムーの姿があった。
「エポッ!」
 エテボースが、気前よくユイユイの前にポケモンフーズを持っていった。ポケモンフーズの入った器を、尻尾の手でユイユイの前に置くエテボース。
「……」
 それでも、ユイユイはポケモンフーズに手を伸ばそうとしなかった。やっぱり尻尾の手に取ったコンテストリボンを見つめて、物思いにふけているだけだった。

 * * *

 食事が終わって、日もすっかり落ちて、ユイユイとの特訓を再会したあたし達。
「よ〜しユイユイ! お腹いっぱいになった所で特訓再開よ!」
 あれだけカレーをいっぱい食べたというのに、お腹を痛くした様子もなく力強く叫ぶセレア。
「……」
 ユイユイは相変わらずやる気なさそうに落ち込んでいる。それでもセレアは叫んだ。
「行くよ!! “ダブルアタック”!!」
 セレアが力強く指示を出した。でも、ユイユイは黙ったまま何もしようとしない。
「エポッ!」
 そこに、エテボースがやってきた。エテボースはユイユイの目の前で、“ダブルアタック”のお手本を見せた。2本の尻尾が、勢いよく気に叩きつけられた。でもそれを見ても、ユイユイは全然やろうとする意欲を見せない。
「何やってるのユイユイ!! 進化したくないの!? そうじゃなかったら、ニーナだって喜ばないよ!!」
「ニーナ……?」
 ニーナ。セレアが発した初めて聞く名前に、あたしは耳を疑った。
「……!!」
 でも、その言葉を聞いたユイユイは、またムッとした表情を見せた。そして、また“アイアンテール”でセレアの顔を思い切りビンタした!
「ぶ!!」
 ほっぺたをまたしても思い切りビンタされて、しりもちをついたセレア。
「ああっ! ダイジョウブ!?」
 あたしは慌てて、セレアの側に駆け寄った。するとセレアは自力で起き上がって、いきなり怒鳴りだした。
「もうっ!! なんで言う事聞いてくれないのよっ!! そんなにやる気がないなら、もうアタシ知らない!! どっか行っちゃえばいいじゃないのっ!!」
 今まで溜まったうっぷんをぶつけるように、ユイユイに叫んだセレア。すると、ユイユイも怒った表情をセレアに見せた後、そのまま森の中に走って行っちゃった。
「あっ! ユイユイが!」
「エポッ!」
「……いいのよ、あんな奴なんか……しばらくほっとけばいいのよ……」
 すぐにサトシとエテボースが追いかけようとしたけど、セレアの言葉がそれを止めた。セレアの言葉そのものは怒っているように聞こえるけど、顔はなぜか伏せていて、手をわなわなと握っていて、どこか悔しそうにも見える。
「……っ!!」
 するとセレアはすぐに立ち上がって、ユイユイとは逆の方向に走り去って行った。あたしの横を通り過ぎた時、一瞬セレアの目から涙がこぼれていたように見えた。
「あっ、ちょっとセレア!」
「エポッ!」
 あたしとエテボースが呼び止めるのも聞かないで、セレアの姿も森の中に消えていった。
「追いかけようぜ!」
「ええ!」
「ハルナも行きます!」
 あたし達は、すぐにセレアの後を追いかけて、森の中に向かっていった。

 * * *

「セレアーッ! どこにいるのーっ?」
「いたら返事してくれーっ!」
 暗い森の中を歩きながら、大きな声で呼びかけ続けるあたし達だけど、セレアの声は全然聞こえてこない。もう、どこに行っちゃったんだろ……
「ハルナ、そっちはどうなの?」
「う〜ん、まだルーナも見つけられてないみたいです」
 ハルナは、隣でクルクル回っているルーナに目を向けた。ルーナは別に遊んでいる訳じゃない。サイコパワーを使って、セレアの場所を探そうとしているの。
「それにしても、ニーナって誰なんだろう……」
 歩いている中で浮かんだそんな疑問が口から出た。
「誰なんだ、ニーナって?」
 サトシがそれに気付いて、あたしに聞いてきた。サトシの声を聞いて、あたしはこの疑問が自然と口に出ちゃっていた事に気付いた。
「セレアが特訓の時言ってたのよ、『そうじゃなかったら、ニーナだって喜ばないよ』って……だから気になって……」
「そっか……確かに気になるよな……ユイユイと何か関係してる人なのかな?」
 あたしの答えを聞いて、サトシも首を傾げた。
「ひょっとしたら、ユイユイがセレアに懐いてない事に関係しているのかも……」
「ヒカリさん! ルーナが何か見つけたみたいですよ!」
 その時、ハルナの声であたしは現実に引き戻された。見ると、ルーナがしきりに何かあたし達に呼びかけている。
「見つかったのか、ルーナ?」
 サトシが聞くと、ルーナははっきりとうなずいた。
「じゃ、案内して!」
 あたしが言うと、ルーナは音もなく飛んであたし達を森の中へと案内した。

 * * *

 森の中をどれくらい歩いたのかな。しばらくすると、サトシの肩にいたピカチュウが、ピクッと耳を動かした。
「どうした、ピカチュウ?」
 サトシが聞くと、ピカチュウはサッとサトシの肩から飛び降りて、あたし達に何やら呼びかけた後、茂みの中に飛び込んだ。
「何か見つけたみたいだ。行こうぜ」
「ええ」
 あたし達はすぐに、ピカチュウの後を追いかけた。
 森の開けた場所に出ると、そこにはピカチュウがいた。それと同時に、何か女の子がすすり泣く声が一緒に聞こえてきた。ピカチュウが目を向けている先を見ると、そこには大きな木の根元にうずくまっているセレアの姿があった。
「ううっ……ううっ……アタシのバカ……このままじゃ……こんなアタシじゃ、ニーナとの約束が守れないよ……」
 セレアは泣きながら、そんな事をつぶやいていた。あのユイユイに言った言葉、本気じゃなかったんだ。それにしても、またニーナって名前が出た。
「セレア……?」
 あたしは声をかけていいのかなと少し戸惑ったけど、やっぱりこのまま放っておく訳にもいかなくて、恐る恐る声をかけた。
「は……っ!!」
 すると、セレアが驚いてこっちに顔を向けた。その目には、涙がいっぱい溜っていた。
「こんな所で何してるのさ。俺達探したんだぜ」
 サトシが言うと、セレアはまた顔を戻して、うずくまっちゃった。
「アタシって、ひどいよね……ユイユイにあんなひどい事言っちゃって……完全にポケモントレーナー失格だよね……これじゃ、天国のニーナに顔を見せられないよ……」
 セレアの口からまたニーナって名前が出た。しかも今度は『天国の』って言葉も一緒に。ますます謎は深まっていくばかり。
「ねえ……ニーナって、誰の事なの?」
 あたしは試しにセレアに聞いてみた。セレアがあんな状態で、答えてくれるかどうかはわからないけど、それでもあたしはニーナって名前の正体が気になって仕方がなかった。
「……」
 セレアは黙っていた。聞いちゃいけない事聞いちゃったかな、って一瞬思ったけど、セレアはすぐに口を開いた。
「……今まで言ってなかったけど、ユイユイの前の『親』なの」
「前の、『親』!?」
 あたし達は声を揃えた。という事は、ユイユイの前のトレーナーって事!? ユイユイは人からもらったポケモンってセレアは言ってたけど、
 セレアは話を続けた。
「ニーナはね、アタシの友達で、アタシのライバルだったの。一緒に旅に出たんだけど、コンテストじゃいつもニーナの方が強かったの。ニーナのエイパムはニーナにとても懐いてて、コンビネーションも抜群だったの。アタシはそんなニーナがうらやましくて、いっつも『次は絶対に勝つんだ!!』って思って練習してたの……でもね……」
 セレアの言葉がそこで止まった。
「でも……どうしたの?」
 セレアは少しの間黙っていたけど、重たそうに口を開いた。
「……ニーナは急に、重い病気にかかっちゃって、コンテストに出られなくなっちゃったの……それを聞いて、急いでアタシがお見舞いに行ったら、ニーナは急にこう言ったの。
『私の夢、エイパムと一緒にセレアに託してもいい?』って。
 なんで急にそんな事、って思ったら、ニーナは自分からこう言ったのよ。
『私はもう、余命があまりないんだって……だからもう、二度と……コンテストに出られないまま、夢を叶えられないまま死んじゃうのよ……だから、私の夢を、トップコーディネーターになるって夢を、セレアに叶えて欲しいの……』って。
 アタシはショックだったわ……ニーナが、あとほんの少ししか生きられないなんて、ニーナのパパやママからは聞いてなかったんだもん……エイパムも、当然ショックだったわ。でも、ニーナは嫌でも死ななきゃいけないってわかってるはずなのに、そうとは思えないくらい落ち着いた様子でエイパムに言ったの。
『エイパム……もう私はあなたとお別れしなきゃいけない……でも、セレアと一緒なら、コンテストでもうまくやれるはずだから……だからお願い……私の代わりに、セレアをグランドフェスティバルに連れてってあげて……私もう、コンテストには出られないから……』
 真剣なニーナの表情を見て、アタシは尚更ニーナを助けてあげたくなったの。ニーナとエイパムのコンビネーションを、アタシは何度も見てきたから……ニーナの夢を終わらせたくなかった……一生懸命看病してあげたけど、結局、ニーナは死んじゃったの、エイパムを残して……エイパムは動かなくなったニーナの体にすがりついて、涙が枯れるまで泣いてたわ……そんなエイパムを見て、アタシはニーナの言われた通りにしなきゃ、って思ったの。『親』がいなくなったエイパムを引き取って、『ユイユイ』って名前をつけて、ニーナの分も強くなろうって思って、ユイユイを進化させようって思ったんだけど……」
「セレア……」
 途切れ途切れに話すセレアの目から、また涙がこぼれていた。
「だけど……ユイユイは死んだニーナの事ばっかり考えて、アタシの言う事聞いてくれない……ユイユイは、アタシなんかよりも、ニーナといる方がいいのかもしれない……こんなアタシじゃ、ニーナとの約束なんて果たせないよ……」
 両手をわなわなと握るセレア。その拳に、涙がこぼれ落ちていた。セレアがユイユイを進化させようとしたのは、そんな理由があったんだ……ユイユイが暗い性格だったのにも納得がいく。ユイユイはきっと、懐いていたニーナの事が忘れられなくて、落ち込んでばかりいたんだ……でも、それを知ったら、あたしはいてもたってもいられなくなった。気がつくとあたしは、一歩前に出て、自然とそれを口に出していた。
「だからって、あきらめるの? 逃げるの?」
「……え!?」
 セレアの涙目の顔が、あたしに向いた。
「そんな事したら、ニーナだって喜ばないじゃない! いくらうまくいかないからって、あきらめちゃダメよ!」
「……でも、ユイユイは……」
「あたし、前にセレアみたいに、もうダメだって思った時があったの。でも、その時教えられたの。『ポケモンの事をよく知る事が大事』なんだって」
「ポケモンの事を、よく知る……?」
 セレアが、あたしの言葉を繰り返した。ハルナが、「あっ、それって、ハルナにも教えてくれた事……!」とつぶやいた。
「それがわかったから。あたしは復活優勝ができた。それに、前のポケモンサマースクールでもポケモンと心を通わせる事が大事なんだって教わって、やっぱり『ポケモンの事をよく知る事が大事』なんだって確信したの」
「俺もセレアのような経験あったぜ」
 あたしがそこまで話した時、サトシがあたしの隣に来て、話に加わった。あたしは少し驚いた。
「サトシ?」
「俺も、前にゲットしたヒトカゲが進化してリザードになった時、今のユイユイ見たいに全然言う事聞かなくなっちゃってさ、リザードンに進化しても全然治らなくて、もう困っちゃってさ。でも俺は、最後までリザードンを見捨てなんかしなかったさ。そうしたら、ちゃんと言う事聞くようになって、今じゃいざという時に頼りになる、心強い味方さ」
 サトシにそんな事があった事を知って、あたしは少し驚いた。
「どんなポケモンだって、仲良くなりたいって気持ちがあれば、絶対仲良くなれるさ。そうすれば、ポケモンと一緒に強くなれるさ。ヒカリの言う通りだよ。な?」
 サトシの視線が、あたしに向いた。あたしはすぐに「うん」とうなずいて、話を続けた。
「だからセレア、もっとユイユイの事をわかってあげなきゃ。そうすればきっと、ユイユイはセレアの気持ち、わかってくれるはずよ」
「ヒカリ……」
 それだけつぶやくセレアは、何かを感じ取っていたようだった。しばしの沈黙。
「……アタシ、謝らなきゃ……!」
 セレアが目に溜まった涙を拭いて、ゆっくりと立ち上がりながらつぶやいた。その声は、さっきまでと違う、力強いものだった。
「そうよ、一度決めた事は、最後までやらなきゃ! そうじゃなきゃ、絶対イヤ!!」
 セレアはグッと手を握り締めて、力強く叫んだ。あたしは嬉しくなって、サトシと顔を合わせた。
「すご〜い! セレアを立ち直らせるなんて、さすがヒカリさんっ!!」
 ハルナも、歓声を上げた。
「そうと決まったら、ユイユイを探そうぜ!」
「うん!」
 サトシの言葉に、セレアははっきりとうなずいた。

 * * *

 あたし達がセレアを探したのと同じように、あたし達はユイユイを探した。
 今回はルーナだけじゃない。セレアが自分のグラエナ、メイメイを出して、“かぎわける”を使ってユイユイの匂いを探している。地面の匂いをしきりにかぎながら、ルーナのサイコパワーの援護もあって、次第におろおろしていた歩き方が、次第に真っ直ぐになっていく。そんなメイメイを先頭にしてどんどん森の中を進んでいくと、メイメイが大きな木の根元で足を止めて、顔を上げた。そこには、木の上でたそがれている色違いのエイパムが。ユイユイだ!
「ユイユイ!」
 あたしは声をかけようとしたけど、それよりも先にセレアが声をかけた。ユイユイの顔がこっちを向いた。
「えっと……さっきは、ごめんね。あれ、本気で言った訳じゃないのよ……」
 セレアは途切れ途切れながらもユイユイに向かって謝る。でも、ユイユイはまだ怒ってるのか、すぐにそっぽを向いちゃって、セレアを避けるように隣の木に起用に飛び移った。
「あ……まだ怒ってるの……? もう怒らなくていいから。アタシ、ただ……」
 セレアは追いかけて謝り続ける。そしてエテボースが木に登ってユイユイの隣に行くと、まるで仲立ちをするようにユイユイに何か訴えている。ユイユイは少しエテボースの話を聞いてたみたいだった。そんなユイユイとエテボースのやり取りを見守っていると、ユイユイが急に何かに気付いたような素振りを見せたと思うと、突然森の奥に飛んで行っちゃった。エテボースも慌てて追いかける。
「あっ、ちょっとユイユイ! どこ行くの?」
「すぐに追いかけなきゃ!」
 何かに引かれていくように森の奥に姿を消したユイユイを、あたしはセレアに呼びかけて、すぐにユイユイの後を一緒に追いかけた。いきなりユイユイ、どうしちゃったの? ユイユイは別に、エテボースの話が嫌になったような様子はなかった。何だか、他のものに気を取られたような……そんな感じだった。

 * * *

「なあヒカリ、なんかいい匂いがしないか?」
 しばらく追いかけていると、サトシがいきなり、関係なさそうな言葉を口にした
「え? いい匂い?」
 あたしは一瞬サトシが何を言ってるのかわからなかったけど、試しに嗅いでみると、確かにいい匂いがする。何だか甘そうな匂いだった。でも、今はそんな匂いを楽しんでる場合じゃない。
「あ、ホント……って関係ない事言わないでよ! 甘い匂いとユイユイに何の関係も……」
「違う違う、前にもあっただろ? エイパムが森の木に塗ってあった『甘いミツ』につられた事」
 サトシったら何を言ってるの、って一瞬思ったけど、サトシの言葉を聞いてはっとした。確かに、ハクタイの森でエテボースに進化する前だったエイパムが、森の木に塗られた『甘いミツ』につられた事があった。
「なんか、それに似てる気がしないか?」
「言われてみれば……!」
 確かにエイパムが甘い匂いにつられるっていうシチュエーション……あの時と全く同じ。じゃあ、ユイユイも『甘いミツ』につられてるって事?
 その答えは、すぐに出た。目の前の視界が晴れると、真ん中に1個のバケツが置いてあった。その中に入っていたのは、まぎれもなく『甘いミツ』だった。
「あれって……」
「『甘いミツ』!」
「でも、なんでバケツに入ってるの?」
「誰かの忘れ物、ですかね?」
 セレアの言う通り。木に塗ってあるんじゃなくて、バケツに入れてこんな所に置くなんて、なんかおかしい。そんな事を考えている間に、ユイユイが『甘いミツ』が入ったバケツの前に飛び降りた。そして、実際に見て嬉しそうな顔を見せながら、止めようとするエテボースを尻目に、バケツに顔を覗き込もうとした、その時!
 突然、ユイユイの上から網が降ってきた! それにすぐに気付いたエテボースは慌ててよけたけど、ユイユイは『甘いミツ』に気を取られていたせいで気付くのが遅れて、網はそのままユイユイに覆いかぶさった!
「ユイユイ!?」
 突然の事態に、あたし達は驚いた。そのまま網に入れられた状態で持ち上げられるユイユイ。
「わ〜っはっはっは!!」
 そんな時、空から聞き慣れた高らかな笑い声が聞こえてきた。ユイユイの入った網をぶら下げているのは、見慣れたニャースの顔を象った気球!
「だ、誰なのアンタ達!!」
 セレアが叫ぶと、あの聞き慣れたフレーズが聞こえてきた。
「『だ、誰なのアンタ達!!』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役はあたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。
「ロケット団!!」
 あたし達は声を揃えた。
「あんた達、いつかのヒカリさんをいじめてた奴……!!」
 ハルナも声を上げた。
「ロケット団って何なの?」
「ポケモンを盗もうとする、悪い奴らよ!」
 驚いて目を丸くするセレアに、あたしが説明した。
「そんな訳で、この色違いエイパムはいただいていくのニャーッ!!」
 ニャースが高らかに叫んだ。
「ロケット団!! ユイユイを返せ!!」
「そうよ! ユイユイはニーナから引き取った、大事なポケモンなのよ!!」
「そんな事関係ないですよ〜だ!!」
 あたしとサトシが叫んでも、ムサシがアカンベーで返すだけ。
「そんな訳で!!」
「帰るっ!!」
 ロケット団が全員で声を揃えると、気球が加速した。
「あっ、ユイユイ!!」
 セレアが遠ざかろうとしている気球に手を伸ばした。このままじゃ、逃げられちゃう!
「そんな事させるか!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ピィィィィカ……!!」
 サトシがすぐに指示を出した。ピカチュウはすぐに自慢の電撃を発射しようとしたけど……
「おおっと!! この網はあえて電気を流すようにしてあるんだぜ? そのまま攻撃したら、このエイパムもしびれちまうぞ〜?」
 コジロウが挑発するように待ったをかけた。それを聞いたピカチュウは、すぐに攻撃しようとするのをやめた。「くっ……!!」と唇を噛むサトシ。
「それならエテボース、網に向けて“スピードスター”よ!!」
「エェェェイポッ!!」
 負けじとあたしも指示を出した。エテボースは網に向けて力強く“スピードスター”を発射!
「そうはさせないわよ!! メガヤンマ、“ソニックブーム”連続発射よっ!!」
 でも、向こうも黙っていない。ムサシが素早くモンスターボールを投げた。出てきたメガヤンマは、文字通り“ソニックブーム”を連続発射して、“スピードスター”を相殺させた!
「こっちだって負けてられるか!! ムクバード、君に決めたっ!!」
 サトシが別のモンスターボールを投げた。中からムクバードが出てきて、空へと飛び出した。
「マスキッパ、応戦だ!!」
 コジロウもモンスターボールを投げた。でも、出てきたマスキッパはやっぱり……
「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」
 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。
「ムクバード、“つばめがえし”で網を切るんだ!!」
「させるか!! マスキッパ、“タネマシンガン”で弾幕を張るんだ!!」
 ムクバードが網に向かって一直線に突っ込む。でも、それを阻むようにマスキッパの“タネマシンガン” が飛んでくる。それをよけて網に近づこうとするムクバードだけど、マスキッパも“タネマシンガン”をムクバードが飛んでいく先に動かす。よけようとする度に、マスキッパも弾幕を動かす、完全にムクバードは網に近づけなくなっていた。そんな事をしている間にも、気球はどんどん遠ざかっていく。
「くそっ、このままじゃ近づけない!! ヒカリ、援護してくれるか?」
「ええ! エテボース、マスキッパに“スピードスター”よ!!」
「エェェェイ……!!」
 エテボースがマスキッパに狙いを定めて“スピードスター”を発射しようとした。でも、そんなエテボースの横から、メガヤンマが迫ってきていた!
「あんたの相手はあたしなのよっ!! メガヤンマ、“はがねのつばさ”!!」
 メガヤンマは4枚の羽に力を込めて、エテボースに向けて突撃した! 気付くのが遅れたエテボースは、それをよける事ができなかった。
「エポォォォッ!!」
 直撃を受けて、弾き飛ばされるエテボース。地面に落ちそうになったのを、何とか尻尾で体勢を立て直した。
「メガヤンマ、“ぎんいろのかぜ”!!」
 さらに今度は“ぎんいろのかぜ”を浴びせてくる。風に飲み込まれたエテボースは身動きが取れない。これじゃ、ムクバードを援護できない……!
「ヒカリさん、援護します!! あんな奴なんか、気球ごと落としてやるっ!! ルーナ、“シャドーボール”!!」
 ハルナの指示で、ルーナが気球に向けて“シャドーボール”を発射! 真っ直ぐ気球に向かって飛んでいく。
「ソーナンス、ここは任せたわよ!!」
 ムサシは近くにいたソーナンスを正面に出す。そこに、“シャドーボール”が飛んできた! でもソーナンスはそれを、“ミラーコート”で倍返し! “シャドーボール”はそのまま、ルーナに戻ってくる! 直撃!
「ああっ、ルーナ!!」
 ハルナが声を上げた。弾き飛ばされて地面に落ちるルーナ。効果が今ひとつだったのが、せめてもの救いだった。
「仕上げはハブネーク、“くろいきり”よっ!!」
 今度はハブネークを繰り出したムサシ。ハブネークは気球のゴンドラから黒い煙を吐いた。ただでさえ夜で暗いのに、さらに黒い煙が場を包み込んて周りが見えなくなった。息苦しくなって思わずせき込むあたし達。
「くっ、ムクバード、“くろいきり”を吹き飛ばしてくれ!!」
 サトシの指示で、ムクバードは羽をはばたかせて“くろいきり”を吹き飛ばした。やっと視界が晴れる。でもそこに、ロケット団の姿はなかった。
「くそっ、逃げられたか……!!」
 唇を噛むサトシ。
「そんな……ユイユイが……」
 バトルに夢中で何をしていたのか気にしていなかったセレアは、涙目でただ茫然と立ち尽くているだけだった。突然の出来事に何が起きたのかわからなくて、何もできなかったのかもしれない。
「ダイジョウブ。ユイユイは必ず、あたし達が助けてあげるから!」
 あたしはそんなセレアに、そう言って励ましてあげた。そしてすぐにサトシと一緒に動き出した。
 待っててユイユイ、必ず、助けてあげるからね……!!


NEXT:FINAL SECTION

[740] FINAL SECTION セレアとユイユイの絆!
フリッカー - 2008年10月30日 (木) 18時49分

 月がきらめく夜の空を、ムクバードとルーナが飛んでいく。
 夜中じゃムクバードの目だけじゃ探すのは大変かもしれないけど、ルーナのサイコパワーが援護してくれる。協力しながら、森を空の上からロケット団を探す2匹。その後を、追いかけるあたし達。ロケット団はまだ見つかっていない。それでも、2匹は探し続ける。
「全然見つからないじゃない……ああ、ユイユイ……こんな時に悪者に奪われちゃうんなんて……このままじゃ……」
 セレアが悔しがるようにつぶやいた。
「弱音を吐いちゃダメだセレア!! ロケット団は、俺達が必ず見つけ出す!!」
「そして、必ずユイユイを取り返すから!! ですよね、ヒカリさん?」
「ええ!! だから、まだあきらめちゃダメよ!!」
 そんなセレアに、サトシ、ハルナ、そしてあたしと順番にセレアに力強く言った。それを聞いたセレアは、すぐに「そうだよね……!」とうなずいた。
 その時、ムクバードとルーナが動いたのが見えた。その後を追いかけていくと、そこには今まさに逃げようとしているロケット団の気球が見えた!
「ロケット団の気球だわ!!」
「よし!! ムクバード、気球に向かって“ブレイブバード”だ!!」
「ルーナ、“シャドーボール”で援護して!!」
 すぐにサトシとハルナが指示を出した。ムクバードは“ブレイブバード”で加速して真っ直ぐ気球に突っ込む! そんなムクバードに続いて、ルーナも“シャドーボール”を発射! 命中! “ブレイブバード”と“シャドーボール”が気球を貫いた!
「うわああああああっ!!」
 そんなロケット団の悲鳴が聞こえたと思うと、穴の開いた気球はそのまま森の中へと吸い込まれていった。


FINAL SECTION セレアとユイユイの絆!


 ドドーンと、地響きが響いた。あたし達はすぐに、その場所に向かっていく。その場所に着くと、見るも無残な姿になって地面に落ちていたロケット団の気球があった。
「いたたたた……まさか追い付いてくるなんて……」
「とりあえずエイパムは無事だ……よかった……」
 そんな事をつぶやきながら、ロケット団が壊れた気球のゴンドラから顔を出した。コジロウの側には、ユイユイが閉じ込められている大きくて透明なカプセルがあった。
「ロケット団、ユイユイを返せ!!」
「もう逃げられないわよ!!」
 あたしはサトシと一緒に、そんなロケット団の前に出て叫んだ。
「くっ……せっかく色違いエイパムをゲットしたって言うのに、ここで取り返されてたまるもんですかっ!! 行くのよメガヤンマ!!」
 カッとなったムサシはすぐに立ち上がって指示すると、メガヤンマが前に出てきた。
「マスキッパ、お前もだっ!!」
 コジロウの指示でゴンドラからマスキッパも場に出た。モンスターボールからもう出ていたせいか、コジロウに噛みつく事はしなかった。
「ニャース、あたし達が時間稼ぎするから、あんたは今の内にエイパム持って逃げるのよ!!」
「わかったニャ!!」
 ムサシがそんな事をニャースに言うと、ニャースはすぐにユイユイが入ったカプセルを抱えた。カプセルの下には台車が付いていて、ニャースはカプセルを押してその場からソーナンスと一緒に逃げようとする。
「あっ、逃げる!!」
「ギクッ!!」
 セレアがすぐにそれに気付いた。ニャースは慌てて走るスピードを上げようとする。でもカプセルが重いのか、なかなか前に進まない。ソーナンスやハブネークと一緒に押しても、全然スピードは変わらない。
「追いかけるわよ!!」
「そうわさせないわ!! メガヤンマ、“ソニックブーム”!!」
「マスキッパ、“タネマシンガン”!!」
 あたしはセレアと一緒にすぐに追いかけようとしたけど、それを阻むように、メガヤンマとマスキッパにこっちに攻撃してきた! あたし達が気付いた時には、2匹の攻撃はもう目の前にまで来ていた!
「ブイゼル、“みずでっぽう”だ!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブゥゥゥゥッ!!」
 その時、サトシが投げたモンスターボールから、ブイゼルが飛び出して、力強い“みずでっぽう”を発射! それは“ソニックブーム”と“タネマシンガン”にぶつかって、あたし達の目の前で相殺した! 爆発! そんな爆発の下に、ブイゼルがタッと降り立った。
「時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!! 月光の力を借りて!! ポケモン、イーブイ、その名はアルテミス!! ここに見参っ!!」
 続けて、そんなハルナの前口上が聞こえてきたと思うと、ハルナが左手で投げたモンスターボールからアルテミスが飛び出して、あたし達の前に降り立った。
「“シャドーボール”!!」
 ハルナの指示で、アルテミスは“シャドーボール”を発射! それに驚いたメガヤンマとマスキッパは、すぐにかわした。
「サトシ! ハルナ!」
「ヒカリ、ここは俺に任せろ! セレアと一緒にユイユイを取り返してくれ!」
「ハルナも相手しますから、その間に!」
「ありがとう、2人共! 行こう、セレア!」
「ええ!」
 サトシとハルナが、あたし達を援護してくれる。あたしはこの場を2人に任せて、すぐにセレアと一緒にニャースの後を追いかけた。
「ユイユイ……今、助けに行くよ!!」
 セレアは、両手をグッと握ってそうつぶやいた。

「そうはさせないわよ!! メガヤンマ、“ぎんいろのかぜ”!!」
「アルテミス、“まもる”よ!!」
 メガヤンマがあたし達に狙いをつけて“ぎんいろのかぜ”を発射! でも、そんな“ぎんいろのかぜ”の前に、アルテミスが立ちはだかった。大きなバリアーを張って、“ぎんいろのかぜ”をシャットアウト!
「ヒカリさんはやらせない!! あんたの相手はハルナよ!!」
「ちっ、やってくれるわね!! ならメガヤンマ、あの生意気なイーブイからやっておしまい!!」
 メガヤンマが反転してアルテミスに躍りかかる!
「“アイアンテール”!!」
 ハルナの指示で、アルテミスは“アイアンテール”でメガヤンマに飛びかかる! でも、メガヤンマは簡単にアルテミスの尻尾の一振りをかわしてみせた。
「速い!?」
「“はがねのつばさ”!!」
 アルテミスが尻尾を空振りさせた隙を突いて、メガヤンマは翼に力を込めて、アルテミスにその翼をぶつけた! 直撃! たちまち弾き飛ばされるアルテミス。
「ああっ、アルテミス!!」
「何よ、あれだけ言っておいて大した事ないじゃないの!! メガヤンマ、“ソニックブーム”!!」
 ムサシが余裕の表情を見せると、メガヤンマはさらにアルテミスに向けて“ソニックブーム”を発射しようとする!
「ブイゼル、“アクアジェット”!!」
「ブイイイイイイイッ!!」
 そこに、ブイゼルが“アクアジェット”で飛び込んできた! 直撃! 今度はメガヤンマが弾き飛ばされた。
「助かったあ……ありがとう、ブイゼル。さすが元ヒカリさんのポケモンだね!」
 ハルナの言葉に、得意気に答えるブイゼル。それを見たサトシは、「いや、俺が指示したんだけどな……」と少し呆れていた。
「マスキッパ、“タネマシンガン”!!」
 そこに、マスキッパの“タネマシンガン”が飛んできた! ブイゼルはすぐに気付いて、サッとかわしてみせた。アルテミスの横に着地するブイゼル。そしてにらみ合いになる4匹。

「はあ、はあ、なんて重いのニャ……作る素材を間違えたかニャ……」
 重いカプセルを、息を切らせながらぎこちなく押していくニャースに、あたし達は簡単に追いついた。
「エポーッ!!」
 エテボースが持ち前の身の軽さで素早くニャース達の前に回り込んで、とおせんぼうをした。
「げっ!! エテボース!!」
「エテボース、あのカプセルを壊して!! “きあいパンチ”!!」
「エェェェイ……ッ!!」
 驚くニャースを尻目に、エテボースは尻尾の拳に力を込めて、カプセルに一直線!
「ソーナンスッ!!」
 その時、エテボースの前にソーナンスが立ちはだかった。エテボースの拳を生身で受け止めたと思うと、“カウンター”で倍返し!
「エポォォッ!!」
 効果は抜群! たちまち弾き飛ばされるエテボース。それでも立ち上がって、もう1回殴りかかるエテボース。それでもまた“カウンター”で倍返しするソーナンス。無視しようにも、ソーナンスには『かげふみ』があるから、ソーナンスから離れられない。これじゃ、ソーナンスがいる限り、ユイユイを助けられない!
「アタシだって!! メイメイ、アイアイ、ユイユイを助けるよ!!」
 すると、セレアも負けじとモンスターボールを2個投げた。出てきたのはグラエナのメイメイと、ラッキーの進化系、ハピナスだった。
「メイメイ、“はかいこうせん”!! アイアイ、“タマゴばくだん”!!」
 ソーナンスがエテボースの相手をしてる間に、メイメイは“はかいこうせん”、アイアイは“タマゴばくだん”でカプセルに攻撃! 命中! そして爆発! でも、ユイユイの入ったカプセルは、傷1つついていなかった。
「そんな!? 壊れない!?」
「ニャハハハ!! このカプセルは重い分頑丈な素材で作ってあるのニャ!! そう簡単に壊す事はできないニャ!!」
 ニャースが高笑いして、堂々とセレアに言った。
「そんな……だからって、あきらめないわよ!! メイメイ、アイアイ、もう1回!!」
 でも、セレアは怯まなかった。もう一度力強く指示すると、メイメイとアイアイはもう1回カプセルに攻撃! “はかいこうせん”と“タマゴばくだん”がまたカプセルに当たって爆発! でも、まだ壊れない。
「無駄ニャ無駄ニャ!! ハブネーク、追い払うのニャ!!」
 ニャースが言うと、ハブネークが2匹に躍りかかって、“ポイズンテール”をお見舞いした! 直撃! 2匹まとめて弾き飛ばされるメイメイとアイアイ。
「まだまだ!! アイアイ、“タマゴうみ”!!」
 それでもセレアは強気だった。アイアイがお腹から取り出したタマゴのパワーで、メイメイとアイアイは力を取り戻した。
「もう1回アタックよ!!」
 セレアの指示は、さらに強くなっていく。それに答えるように、2匹の攻撃も強くなっていく。それでもカプセルは壊れない。ハブネークが何度も妨害してくるけど、それでも立ち上がってカプセルを攻撃し続ける。
「アタシだってっ!!」
「あっ、セレア!!」
 遂にはセレア自身がカプセルに向かっていった。あたしが止めるのも聞かないで、メイメイとアイアイの攻撃に合わせて、カプセルに力の限りタックルするセレア。何度弾かれても、また立ちあがってタックルを続けるセレア。
「ユイユイ……!! 絶対、助けてあげるからね……!! そして、一緒にコンテストに出て、トップコーディネーターになるんだから……!! ニーナの分も……!!」
 そう言いながらタックルを続けるセレア。
「……」
 そんなセレアの姿を見て、ユイユイは何かを感じ取っていたようだった。
「セレア……よし、あたしだって!!」
 あたしはそんなセレアの思いを受け取って、改めてソーナンスと戦うエテボースに目を向けた。サンドバッグみたいに何度も殴っても“カウンター”で反撃されるソーナンスに、エテボースも大分消耗している。このままじゃ、エテボースの方が先にダウンしちゃう。何かいい方法は……ちょっと待って。あたしはポケモン図鑑を取り出した。何か弱点がわかるかもしれないから。
「ソーナンス、がまんポケモン。ひたすら我慢するポケモンだが、尻尾を攻撃される事だけは我慢できない」
 図鑑の音声が流れた。そっか、ソーナンスの弱点は尻尾なんだ! これならダイジョウブ!
「エテボース、ソーナンスの尻尾に“きあいパンチ”!!」
 あたしはすぐにそう指示を出した。
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 エテボースは力を振り絞って立ち上がって、飛び上がった後、尻尾の拳をソーナンスの尻尾に向けて振った! 命中!
「ソォォォォォナンスゥゥゥゥゥッ!!」
 すると、ソーナンスが今まで聞いた事もないほどの悲鳴を上げた。そして戦意喪失したのか、そのまま一目散に逃げて行った。
「あっ、ソーナンス!! どこ行くニャ!!」
 ニャースが呼びかけても、ソーナンスが帰って来る事はなかった。作戦大成功! すぐにセレアに合流しないと! ソーナンスの『かげふみ』から解放されて、エテボースがあたしの所に戻ってくると、あたしはすぐに指示を出した。
「エテボース、ユイユイを助けるのを手伝って!!」
「エポッ!!」
 エテボースはすぐにうなずいて、カプセルの所へと飛んで行った。そして、メイメイやアイアイ、セレアの攻撃に合わせて、カプセルに“ダブルアタック”で攻撃! まだまだカプセルは壊れないけど、3匹と1人はアタックをやめない。
「絶対に助ける……絶対に助けるからね、ユイユイ……!!」
 何度も転んでボロボロになったセレアは、そう言ってタックルを続ける。
 そんなセレアの思いが伝わったように、カプセルにヒビが入り始めた。攻撃する度に、タックルする度にどんどん大きくなっていくヒビ。
「ニャニャ!? ヒビが入ってるのニャ!? おいハブネーク!! 何とかしてあいつらを止めるのニャ!!」
 ニャースがカプセルにヒビが入っているのに気付いて、慌ててハブネークに呼びかけた。すぐにハブネークはセレアに飛びかかった!
「きゃあっ!!」
 たちまちハブネークに突き飛ばされるセレア。そのまま倒れたセレアに、ハブネークがキバを剥いた! 危ない! エテボースやメイメイ、アイアイが助けに行こうとしたけど、間に合わない!

 その時、カプセルが急に割れた。エテボースや、メイメイ、アイアイが壊したんじゃない!?
「エパアアアアアッ!!」
 セレアとハブネークの間に割って入ってきたのは、カプセルに閉じ込められていたはずのユイユイだった! ユイユイはハブネークに、“アイアンテール”のビンタをお見舞いした! 直撃! 弾き飛ばされるハブネーク。そんなハブネークの前で、サッと尻尾で着地してみせるユイユイ。
「ユイユイ……アタシを、助けてくれたの……!? ありがとうっ!!」
 それを見たセレアは嬉しくなって、ユイユイを思い切り抱きしめた。
「エパ……!?」
「ごめんね、あんなひどい事言っちゃって……でもアタシ、ユイユイとコンテストがやりたいの! 死んだニーナの分も、強くなりたいから……!」
 セレアがユイユイを抱き締めながら、気持ちをはっきりと伝えていた。
「エイパムが逃げたのニャ!! ハブネーク、何とかして取り返すのニャ!!」
 そんな時、ニャースの叫び声を聞いて、セレアとユイユイははっとした。そして、ハブネークが牙を剥いてセレアにまた襲いかかる! その時、ユイユイがセレアの腕の中から飛び出した!
「エイッ、パアアアアアッ!!」
 そして、尻尾でハブネークにパンチをお見舞いした! 直撃! しかも連続で2発! ってちょっと待って、あれって……
「今のは、“ダブルアタック”!?」
 間違いない、あたしがエイパムで特訓してたものと同じモーション。間違いなく“ダブルアタック”!
 コンテストバトルを意識してるのか、クルリと反転して、セレアの前できれいに着地して見せたユイユイ。その時、ユイユイの体が突然光り始めた!
「!?」
 その光に気付いて、サトシとハルナ、ロケット団もバトルを止めて、その光に見入っていた。
「これって、進化!?」
 セレアがつぶやく間に、ユイユイの姿がどんどん変わっていく。そして光が治まった時、ユイユイの姿は完全にエテボースになっていた! 体の色はエイパムの時と同じピンク色だけど、正真正銘のエテボース!
「……エポ!?」
 ユイユイ自身も、進化した事に気付いて驚いてる。
「進化した……エテボースに進化できたっ!!」
 それを見たセレアは、嬉しそうに声を上げた。
「ま、ますいぞ……色違いエイパムが色違いエテボースになっちまったぞ……!!」
「弱気になっちゃダメよ!! エテボースに進化しても、色違いに変わりないじゃないの!! こうなったら、力ずくでも色違いエテボースをゲットしてやるんだから!!」
 弱腰になるコジロウに対して、まだ強気な態度を見せるムサシ。それを見たセレアとユイユイが、顔を合わせた。
「うん!! 今までのお礼に、あいつらをやっつけなきゃね!!」
 セレアがうなずくと、ユイユイもうなずいて、顔を戻した。
「行くのよ、ユイユイ!!」
 セレアが力強く叫ぶと、ユイユイはそれに答えるように前に飛び出した。
「ユイユイ、セレアの言う事を聞いてる……!!」
「よかったな、セレア」
「じゃ、ユイユイが戻ってきて、進化した所で、一緒にあいつらをやっつけましょうよ、ヒカリさん!!」
 あたしの所に、サトシとハルナが合流した。
「ええ!!」
 あたしがうなずくと、エテボース、ブイゼル、アルテミスも一緒に身構えた。それにユイユイも加わって、戦う準備はOK!
「まずはハルナから! アルテミス、ハルナスペシャルその9、『超本塁打テールバットホームラン・バージョン2.0』やるよ!!」
「えっ!?」
 ハルナのそんな指示に、あたしは驚いた。それって、まだ完成してないじゃない!? そんなあたしの心配をよそに、アルテミスは練習でやった通り、“シャドーボール”を空に向けて発射! そのまま上に飛んで行った“シャドーボール”は、次第に重力に負けて速度を落としていって、やがて地面に吸い込まれ始めた。そしてアルテミスは、“アイアンテール”の態勢をとる。
「いっけえええええっ!!」
 ハルナの声に答えるように、アルテミスは尻尾を振った。ジャストミート! 尻尾で打たれた“シャドーボール”は、真っ直ぐメガヤンマ目掛けて飛んでいく! 直撃!
「決まった!?」
「やったあっ!! ヒカリさん、バージョン2.0が決まりましたよ〜っ!!」
 驚くあたしを尻目に、飛び上がって喜ぶハルナ。アルテミスもわざを決められて余裕そう。でもその時、アルテミスの体が突然光り始めた!
「!?」
 また進化!? さっきユイユイの進化を見たばかりなのに、また違うポケモンが進化するの!? そんなあたし達をよそに、アルテミスの姿が変わっていく。どんどん大きくなっていくアルテミスの体。光が治まると、アルテミスの体は真っ黒になって、首のタテガミがなくなって全体的にスラリとした体形になっていた。そして、体の所々には黄色い輪があって、ぼうっと光っている。
「アルテミスが、ブラッキーに進化した!!」
 サトシが声を上げた。ブラッキーといえば、シゲルも持ってたあの……あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「ブラッキー、げっこうポケモン、イーブイの進化系。月の波動を体に浴びると、輪っか模様がほのかに輝き、不思議な力に目覚める」
 図鑑の音声が流れた。
「すご〜い!! 月の光でイーブイから進化しちゃうなんて!!」
 図鑑の音声を聞いたハルナは、飛び上がって声を上げた。
「おいおい!! 2匹も進化するなんてずるいぞ!!」
「あんた達がずるい事してたからバチが当たったんだよ〜!!」
 いちゃもんをつけるコジロウに、アカンベーをして返すハルナ。
「カーッ!! こうなったら、ハブネーク、メガヤンマ、やっておしまい!!」
「マスキッパ、お前も行け!!」
 やけになったロケット団の指示で、ハブネーク、メガヤンマ、マスキッパが一斉に飛び出した。
「ほらソーナンス、あんたも行くのよ!!」
 ムサシはいつの間にかロケット団の側に戻ってきていたソーナンスに気付いて、バンと乱暴に背中を押してソーナンスを前に出させる。ソーナンスはさっきエテボースにやられて痛めた尻尾を気にしながらも、仕方なさそうな様子で前に出た。
「ハブネーク、“ポイズンテール”!! メガヤンマ、“はがねのつばさ”!!」
 ハブネークとメガヤンマが、エテボースとユイユイに一斉に攻撃を仕掛けてきた!
「ユイユイ、“こうそくいどう”!!」
「エテボース、“かげぶんしん”!!」
 セレアが力強く指示すると、ユイユイは目にも止まらぬ速さで動いて、エテボースは分身を使って、2匹の攻撃をかわした! 攻撃をかわされて驚く2匹の背中に、そのまま回り込むユイユイとエテボース。
「ユイユイ!!」
「エテボース!!」
「“ダブルアタック”!!」
 わざの指示が、セレアと揃った。
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 エテボースとユイユイは一緒に、2本の尻尾を思い切り振った! 直撃! 一斉にムサシの目の前に弾き飛ばされるハブネークとメガヤンマ。
「やるじゃない、セレア!!」
「うん! 何だかアタシ、ユイユイと1つになれてる気がする!!」
 セレアは自信を持って、あたしの言葉に答えた。

「アルテミス、“シャドーボール”!!」
 ハルナが指示すると、アルテミスの黄色い輪が光り始めた。そして、“シャドーボール”を発射……と思ったら、撃ったのは黒いボールじゃなくて黒い衝撃波になった!
「えっ!? あれって“あくのはどう”!?」
 ハルナもアルテミス自身も、撃った攻撃が変わってる事に驚いていた。“あくのはどう”は、そのままソーナンス目掛けて飛んでいく! でもソーナンスは、やっぱり“ミラーコート”を使って倍返し! そのまま戻ってくる“あくのはどう”。
「あっ!!」
 ハルナは反射的に目を閉じていた。そのまま、“あくのはどう”がアルテミスに直撃……でも、当たった割にはバシッと音がしただけ。
「……?」
 ハルナが目を開けてみると、そこには傷1つ付いてなくて、平気で立っているアルテミスの姿が! その姿を見たソーナンスは動揺していた。
「そっか! ブラッキーはあくタイプなんだ! ヒカリさんも言ってたっけ、エスパータイプのわざはあくタイプには効かないんだって! これならあいつなんて怖くない!! アルテミス、もういっちょ“あくのはどう”!!」
 1人で納得したハルナの指示で、アルテミスはもう一度“あくのはどう”を発射! どうする事もできないまま、あたふたしているソーナンスに直撃! 効果は抜群! たちまちソーナンスは弾き飛ばされた。

「マスキッパ、“タネマシンガン”!!」
 マスキッパが、ブイゼルに向けて“タネマシンガン”を発射!
「ブイゼル、“アクアジェット”!!」
「ブイイイイイイイッ!!」
 そこに、ブイゼルは“アクアジェット”で突っ込む! そして、体をスピンさせて回転をかけた! そのまま“タネマシンガン”の弾幕の中に飛び込むと、その勢いで“タネマシンガン”を跳ね返しながら進んでいく! そのままマスキッパに体当たり! 効果は今ひとつだけど、マスキッパを跳ね飛ばすのには充分だった。
「ウソだろ!?」
「今だブイゼル、“ソニックブーム”!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」
 そして最後は、“ソニックブーム”! 直撃! マスキッパはたちまちコジロウの目の前に弾き飛ばされた。

「よし、みんな行くぞ!!」
「ええ!!」
 サトシの一声に、あたし達は声をそろえて答えた。
「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「アルテミス、“あくのはどう”!!」
「ユイユイ!!」
「エテボース!!」
「“スピードスター”!!」
 わざの指示が、またセレアと揃った。
 そして、ピカチュウの“10まんボルト”、アルテミスの“あくのはどう”、エテボースとユイユイの“スピードスター”がロケット団に炸裂! ロケット団はたちまち4匹の攻撃に飲み込まれて、大爆発!
「く〜っ!! せっかく珍しい色違いポケモンゲットできるチャンスだったのに〜っ!!」
「でも、その後2匹のポケモンに進化させるし……」
「不幸と幸せ、紙一重なのニャ……」
「やな感じ〜っ!!」
 ロケット団はいつものように吹っ飛ばされて、そのまま空の彼方へと消えていった。
「やったあっ!! ありがとう、ユイユイ!!」
 セレアは真っ先に、ユイユイを思い切り抱き締めていた。ユイユイも何だか嬉しそう。まるでさっきまで言う事を聞いてなかったのがウソみたい。セレアとユイユイは、完全に仲良くなったんだ。
「よかったな、セレア」
「ユイユイ、すっかりセレアに懐いちゃってるわね」
「これにて一件落着ですね!」
「ええ、みんなのお陰よ!! ありがとう!!」
 セレアがあたし達にお礼を言って、月の出ている夜空を見上げた。
「ニーナ、天国から見てる……? ユイユイが、進化したよ……!」
 夜空を見上げながらセレアがそんな事をつぶやいていると、森の中から誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
「お〜い!!」
 それは、探すのに夢中ですっかり忘れていたタケシだった。

 * * *

 次の日。
 3つに分かれた道の前で、あたし達がセレア、ハルナと別れる時が来た。
「みんな、ホントにありがとう。お陰でユイユイは進化できたし、アタシの言う事聞いてくれるようになったもん!」
「エポッ!!」
 セレアがあたし達にお礼を言うと、ユイユイも一緒にお礼を言っているように見えた。そこに、エテボースがユイユイの前に来て、2本の尻尾の手でユイユイの尻尾の手と握手をした。そして、繋いだ尻尾で輪を作って笑顔を見せている。
「あれ、エテボースとユイユイ、何やってるんですか?」
「2匹のエテボースが尻尾の手で輪を作るのは、友情の印なんだよ」
 ハルナの疑問に、タケシが答えた。
「ところでヒカリ、あなたもコーディネーターなんでしょ? リボンいくつ持ってるの?」
 セレアが話題を切り出した。
「あたしは最近、3つ目のリボンをゲットしたばかりなの」
「そうなんだ。アタシはまだ2つだけど、絶対に追いついてみせるんだから! 天国のニーナの分もね!!」
 セレアはユイユイと顔を合わせて、互いに笑みを見せた。
「もしコンテストで会ったら、その時は手加減しないからね!!」
「ええ、それはあたしだって同じ!!」
「ハルナも忘れないでください!! ハルナだって、ヒカリさんに負けないくらい強くなってみせるんですから!!」
 そんなやり取りをしているあたしとセレア、ハルナを見ていた、サトシも1人燃え上がっていた。
「よ〜し、俺だって負けてられないぜ!! 次のジム戦で、絶対バッジをゲットしてやるぜ!!」

 * * *

 こうしてあたし達は、3つの道をそれぞれ違う方向に進んでいった。
 そう、あたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY22:THE END

[741] 次回予告
フリッカー - 2008年10月30日 (木) 18時50分

 ポケモン達の魂が眠る場所、ロストタワーに、そいつはいた。

「……使えないな」
「おいシンジ! またそんな事するのか!?」
「誰が何と言おうと、俺の勝手だ」

 そんなシンジが逃がしたゲンガーが、ロストタワーの周りで大暴れ!

「何だ、あのゲンガーは!?」
「あれって……シンジが逃がしてたゲンガーじゃない!!」
「ひょっとして、シンジに逃がされた事に怒って……?」

 すぐにあたし達はシンジに聞くけど……

「シンジ! ゲンガーに謝れ! お前のせいで、たくさんの人が襲われてるんだぞ!」
「……向こうが勝手に暴れてるだけだ。俺には関係ない」
「またそんな事言うの!? あなたのせいで、傷付いた人だっているのよ!」

「その人は何も悪くないよ」
「シ、シナ!?」

 一体悪いのはシンジなの!? それともゲンガーなの!?

 NEXT STORY:シンジの目

「本当に使えない奴だな」

 COMING SOON……



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