[712] FINAL SECTION シナ、旅立ちの時! |
- フリッカー - 2008年10月02日 (木) 18時42分
洞窟の中を走っていくと、何かを掘る音はどんどん大きくなっていく。そしてとうとう、耳をつんざくほどまで音がうるさくなってきた時、あたし達の視界に何かが映った。 「あっ!!」 それを見たあたし達は、思わず足を止めた。 そこにいたのは、2階建ての建物くらいはありそうな、茶色の大きなロボットの背中だった。両手は大きなドリルになっていて、それを使って穴を掘っていたんだから! 「何なのあのロボット!?」 「あいつが、ドガース達を追い払った奴なのか!?」 「……うん! ドガース達の記憶にも、あんな形のロボットがいた!」 あたしとサトシの言葉を聞いたシナは、はっきりとうなずいた。理由はわからないけど、このロボットが勝手に洞窟を掘っていたから、ドガース達が逃げ出したんだ! 「まさかあのロボット、この場所を壊して何かする気なのか!?」 タケシが叫んだ。 「なら、あのロボットを止めないと!!」 「ああ!!」 あたしは、すぐにモンスターボールを手に取って、身構えた。サトシの肩にいたピカチュウもサッと飛び出した。
FINAL SECTION シナ、旅立ちの時!
「ミミロル、“れいとうビーム”!!」 あたしは手に取ったモンスターボールを思い切り投げた。中から飛び出してきたのは、ミミロル。 「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」 ミミロルは、“れいとうビーム”をロボットに向けて発射! 命中! ロボットの体はたちまち凍りついて、動きがゆっくりと止まって行った。 「行け、ピカチュウ!! “10まんボルト”だ!!」 「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」 そこに、ピカチュウの“10まんボルト”が炸裂! 命中! でも、手応えがない。電撃をくらっても、ロボットは壊れる事も爆発する事もなかった。 「何!?」 驚くサトシ。そんな時、ロボットの動きを封じ込めていた氷が、音を立てて割れ始めた。そして遂にはバリンとロボットは強引に氷を打ち破った! 「そんな!?」 あたしも驚いて声を上げた。そして、ロボットはこっちに振り向いた。大きな真ん中の1つ目が、ギョロリと光る。 『邪魔しないでよ、ジャリンコ共!!』 その時、いきなりスピーカーから声が響き渡った。聞き慣れた女の人の声。 「ま、まさかお前は……!!」 サトシが声を上げた。すると、ロボットの頭の部分のハッチがパカッと開いた。そして、あの聞き慣れたフレーズが聞こえてきた。 「『ま、まさかお前は……!!』の声を聞き!!」 「光の速さでやって来た!!」 「風よ!!」 「大地よ!!」 「大空よ!!」 「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」 「誰もが震える魅惑の響き!!」 「ムサシ!!」 「コジロウ!!」 「ニャースでニャース!!」 「時代の主役はあたし達!!」 「我ら無敵の!!」 「ロケット団!!」 「ソーナンス!!」 「マネネ!!」 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。 「ロケット団!!」 あたし達は声を揃えた。 「せっかくこの『穴掘りマシーン・秘密基地つくーる1号』で、これから秘密基地を作ろうとしてたのに!!」 コジロウが叫んだ。 「ここで勝手に穴を掘るのはやめろ!!」 「そうよ!! あんた達のせいで、ここにいたドガース達が迷惑してるのよ!!」 「ここにいたドガース? そんなの知らないわよ! 人のものはあたしのもの、あたしのものもあたしのものなんだからね!!」 「有用と判断したものは、どんなものでも奪い取る。それが我らロケット団なのだ!!」 サトシとあたしが言い返しても、ムサシもコジロウも聞く耳を持たない。ホント、ムカつく奴らね……! 「ニャース、何とかしてあいつを追い払えないの?」 「任せるニャ! この『穴掘りマシーン・秘密基地つくーる1号』には、秘密基地ができた後もポケモンゲット用のメカとして使えるように造ってあるのニャ!!」 ムサシの質問に、堂々と胸を張って答えるニャース。 「おおっ! さすがニャース!! リサイクルも考えてるんだな!!」 「秘密基地を作るためだけのメカじゃ、もったいニャいからニャ」 「そうと決まったら、早速行動開始よ!!」 そんなやり取りをすると、ロケット団はまたロボットの中に入って、ハッチを閉めた。ロボットがまた音を立てて動き始める。 「受けて立つぜ!! ピカチュウ、“アイアンテール”だ!!」 「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」 真っ先にサトシが動いた。ピカチュウは雄叫びを上げながら、ロボットに飛び込んで尻尾をお見舞いした! でも、その一撃は、あっさりロボットのボディにはねかえされちゃった! 「“アイアンテール”が効かない!?」 サトシは驚きの声を上げた。反転して戻ってくるピカチュウ。“アイアンテール”が当たった場所には、傷1つ付いていなかった。 「ウソッキー、“すてみタックル”だ!!」 タケシがモンスターボールを投げた。出てきたウソッキーは、全速力でロボットに向かって突撃していく! でも、思い切りぶつかって弾き飛ばされたのは、ウソッキーの方だった。 「ミミロル、“ピヨピヨパンチ”!!」 「ミミィィィィッ!!」 負けじとミミロルも“ピヨピヨパンチ”でロボットのボディを連続で殴りつける。でも、どんなに叩いてもガンガンと音が響くだけで、全然手応えがない。とうとうミミロルは、耳の拳を痛めちゃって、下がるはめになった。 『ニャハハハハ!! この「穴掘りマシーン・秘密基地つくーる1号」は頑丈に作られているのニャ!! そう簡単には壊す事はできないのニャ!!』 ニャースの高らかな笑い声がスピーカーで響く。 『さあ、次はこっちの番だ!!』 今度はコジロウの声が響いたと思うと、両手のドリルが音を立ててうなり始めた。そして、そのドリルを思い切り3匹に向かって振った! 「危ない!!」 サトシの一声で、3匹は慌てて逃げてドリルをよけた。地面に突き刺さったドリルは、地面に大きな穴を開けた。あんなものまともにくらってたら、穴が開くどころじゃない! あたしの背筋が凍りついた。 「ポッチャマ、“うずしお”よ!!」 「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」 何とかして動きを止めないと! あたしはポッチャマに指示を出した。ポッチャマは“うずしお”を作り出して、それをロボットに向けて力強く投げつけた! これならあんなロボットだって……! って思ったけど、ロボットはドリルを突き出して、“うずしお”を紙きれのように簡単に引き裂いちゃった! 「そんな……!?」 『無駄よ無駄よ!! そんなへなちょこな攻撃が通用すると思ってたのお!?』 『そうさ!! 我らのドリルは、天を衝くドリルなのだーっ!!』 ムサシとコジロウが高らかに叫んだ。「て、天を衝くドリルって……」ってあたしは思わずつぶやいちゃった。 『そんな訳で、そろそろポケモンをいただくのニャ!!』 ニャースの声が響いたと思うと、ロボットの胸の小さなハッチが開いて、そこから4本のマジックハンドが素早く伸びて、ポッチャマ達を簡単に捕まえた! 「ポッチャマ!! ミミロル!!」 「ピカチュウ!!」 「ウソッキー!!」 あたし達は、すぐに別のモンスターボールを出して助けようとした。 『さらに“でんじは”ビーム照射なのニャ!!』 すると、今度は両肩から弱い電撃がこっちに飛んできた! 「きゃああっ!!」 あたし達は、その電撃に捕まっちゃった! 体中を走る電撃。電気そのものはあまりつよくないけど、体がしびれて、動けない……! これって、“でんじは”……!? 「みんな……!!」 ただ1人、後ろで見守っていたシナが、声を上げた。 『何だかいい感じじゃな〜い!! ニャース、ここは1発、カッコよく決めちゃってよ!!』 『ほいニャ!!』 そんなやり取りが聞こえたと思うと、ロボットのドリルの回転速度が上がった。あまりの速さに、赤い火花まで出ている。まさか、あれであたし達を……!? そう思うと、背筋が凍りついた。 「く、くそっ、このままじゃ……!」 サトシが唇を噛んだ。もう完全に絶体絶命。このまま、あたし達は、あのドリルに……! 『必殺!! ギガァ〜〜〜〜ッ!! ドリルゥ〜〜〜〜ッ!!』 ニャースが訳のわからない事を叫んで、ロボットがあたし達にドリルを向けた、その時! 「シェイミ、ロボットのお腹に“タネマシンガン”!!」 「ミィィィィィィッ!!」 突然、そんな声が聞こえたと思うと、あたし達の間を、後ろから“タネマシンガン”が飛んできた。そしてその“タネマシンガン”はロボットのお腹に命中! 今までのように弾かれると思ったら、お腹に次々と穴が開いて、遂には爆発! そのせいで、ロボットがよろけて、ドリルの回転が止まった。そして、あたし達を捕まえていた“でんじは”も消えた。マジックハンドの力も緩んで、ポッチャマ達も自由になった。 「い、今のは……」 振り向いてみるとそこには、今までバトルに夢中ですっかり存在を忘れていた、シナとシェイミの姿が! そのシナの目付きから、今まで見たシナとは違う、何か強いものを出しているように見えた。 「シナ……」 「どうしてロボットにダメージを!?」 「あのロボットの弱点はお腹なの!! あの部分だけ、もろい部分なのが見えたの!!」 シナはあたし達の側にきて、力強くそう言った。まるでさっきまでのシナはどこか行っちゃったような、そんな感じの強い声だった。改めて見てみると、煙を出しているロボットのお腹は、蛇腹のようになっていた。その部分は、見るからにやわらかそうだった。 『お、おい見ろ!! ありゃ、シェイミじゃないか!!』 スピーカーで、コジロウが声を上げた。シェイミを見つけたみたい。 『さっきはよくもやってくれたわね!! ニャース、あのシェイミをゲットしちゃってよ!!』 『ほいニャ!!』 そんなやり取りが聞こえたと思うと、マジックハンドがシェイミに向かって素早く伸びていった! 「危ない、シェイミ!!」 「シェイミ、わざと捕まって!!」 (うん!!) あたしの思いとは裏腹に、シナはそんな指示を出した。シェイミは指示通り、伸びてきたマジックハンドに一切抵抗しないで捕まった。そしてそのまま、マジックハンドはロボットの中へと吸い込まれて行っちゃった! 「ああっ、シェイミが!!」 「いいの、これで」 焦るあたしに、シナは落ち着いた様子であたしに言った。え、これでダイジョウブなの? 何か作戦でもあるの? 『何よ、あっさり捕まっちゃったじゃない!!』 『これをボスにプレゼントすれば……!!』 『幹部昇進!! 役員就任!! いい感じ〜っ!!』 スピーカー越しにロケット団が喜びの声を上げた時、突然ドン、と大きな音がして、ロボットが一瞬、膨らんだように見えた。まるで、中で何かが爆発したように。すると、ロボットは体のあちこちから黒い煙と火花を出して、そのままゆっくりと背中からガシャンと倒れた。 「えっ!?」 何が起こったのか、あたし達にはわからなかった。すると、マジックハンドが隠れていたハッチが開いて、中からシェイミが顔を出して、「フィー」と一息ついた。その花はさっきまでと違って元のピンク色に戻っていた。 「シェイミ!?」 「中身の方がもろいのが見えたから、わざと捕まえさせて、“シードフレア”をさせたの」 「……そうか!! そういう事だったのね!!」 「シナ、やるじゃないか!! さすが波導使いだぜ!!」 シナの説明に、納得してあたしとサトシは思わず声を上げちゃった。それを聞いたシナは照れて少しだけ顔を赤くした。 「くっ……やってくれるじゃないの……シェイミ……ッ!!」 すると、ロボットのハッチの中から、黒こげになったロケット団がヌッと姿を現した。 「こうなったら、力ずくでもゲットしてやるわよ!! 行くのよ、ハブネークッ!!」 怒ったムサシは、すぐにモンスターボールを投げて、ハブネークを出した。 「マスキッパ、お前もだっ!!」 コジロウも続けてモンスターボールを投げた。でも、出てきたマスキッパはいつものように…… 「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。 「ハブネーク、“ポイズンテール”!!」 「シェイミ、“ポイズンテール”が来る!!」 ムサシの指示と、シナの指示はほとんど同時だった。シナの所に戻ろうとしていたシェイミは、自分の後ろからハブネークが迫っている事に気付いた。でも、気付くのが遅かった。 「ミィィィィィィッ!!」 ハブネークの尻尾の一撃が、シェイミに直撃! 効果は抜群! たちまち弾き飛ばされるシェイミ。 「マスキッパ、“タネマシンガン”だ!!」 続けてマスキッパも攻撃してくる。倒れていたシェイミは、“タネマシンガン”の雨をよける事ができなかった。“タネマシンガン”の雨に打たれて、耐えるしかないシェイミ。 「ああっ、シェイミが!!」 このままじゃ、シェイミが危ない! あたしがすぐにポッチャマを呼んで、助けようとした。でも、それよりも早く、シナが駆け出した。 「お、おいシナ!!」 サトシが呼び止めても、シナは止まらなかった。シナ、何をする気!? まさか、体を張って……!? 「何よ、大した事ないじゃない! ハブネーク、もう一度“ポイズンテール”!!」 ムサシの指示で、ハブネークは“タネマシンガン”が止んだ所を見計らって、もう一度尻尾を振りかざしてシェイミに躍りかかる! 「シェイミ!!」 すると、シェイミの側まで走ってきたシナは、髪に刺していたグラシデアの花を抜いて、それをシェイミに向けて投げた。動けないシェイミの側に、音もなく落ちるグラシデアの花。すると、シェイミの体が急に光り始めた。あれって……? それをよそに、ハブネークは動かないシェイミに尻尾を容赦なく振りおろした! でも、その尻尾の一撃は、空しく空を切った。そこに、シナが投げたグラシデアの花だけ残して、シェイミの姿は消えていた。 「え!? な、何!?」 「消えた!?」 ムサシとコジロウは動揺して、辺りを見回した。ハブネークも、辺りをおろおろと見回す。すると、何かの影がハブネークの上を素早く通り過ぎた。その影は、明らかにジャンプとかじゃなくて、完全に空を飛んでいた。 「な、何!? 今の!?」 「マ、マスキッパ、“タネマシンガン”で撃ち落とすんだ!!」 慌てて指示を出したコジロウ。マスキッパは影に向かって“タネマシンガン”を撃つけど、影の動きの素早さについて行けない。 「は、速い!?」 「“でんこうせっか”!!」 その時、シナが力強く指示を出した。影は、スピードを上げてマスキッパに体当たり! 直撃! たちまちマスキッパはコジロウの前に弾き飛ばされた。 「あ、あれは……!!」 タケシがつぶやいた。ようやくあたし達の前で宙に浮いたまま、動きを止めた影。それは、大きく姿を変えたシェイミだった。大きさはそれほど変わってないけど、足はさっきよりも長く延びて、大きくなって突き出した頭からは白い羽が生えている。そして、はっきりと形が見えるようになった首には、風にたなびくスカーフのように形を変えた赤い花がついている。顔も大きくなって、その表情もさっきまでのかわいらしい表情から、凛々しい表情へと変わっていた。その姿に、さっきまでのシェイミの面影はほとんど残っていない。まるで、全く別のポケモンになったかのように。 「な、何あれ!? 進化したの!?」 その姿を見たムサシは、驚きの声を上げた。 「スカイ、フォルム……!!」 あたしはつぶやいた。 スカイフォルム。それは、グラシデアの花粉が体に付く事で変わる、シェイミのもう1つの姿。今までの姿、ランドフォルムからこのスカイフォルムになると、ひこうタイプがついて、空も飛べるようになるの。シェイミは、このスカイフォルムになって空を飛んで、種を運ぶ事で、遠くの土地にもグラシデアの花を咲かせられるんだって。これが『花運び』。あの時も、たくさんのシェイミがスカイフォルムになって空を飛んでいく姿は、本当にきれいだった。まさに『氷空(そら)の花束』。でも夜になったり、氷に触れちゃったりすると、ランドフォルムに戻っちゃうみたい。 (ありがとう、シナ。あのままだったら、あの攻撃をよけられなかったよ) シェイミは、シナに顔を向けてテレパシーでそう言った。 「私、戦うって決めたから。ここにいるみんなのために……追い出されたドガース達を助けるために……!」 シナは落ちたグラシデアの花を拾って、また髪に刺すと、強い眼差しで、シェイミを見つめながら答えた。 「シナ……!!」 あたしは嬉しくなった。あそこまで強気なシナを見たのは、初めてだったから。今のシナは、昨日までのシナじゃない。生まれ変わったシナなんだ! 「だからシェイミ、私に力を貸して!!」 (もちろんだよ!!) シナの強い思いを感じ取ったシェイミも、強く答えて、正面に向き直った。 「何よ!! どんな手品か知らないけど!! ハブネーク、“ポイズンテール”!!」 ムサシが怒ってハブネークを向かわせた。シェイミに向かって飛びかかってくるハブネーク。 「右から振ってくる!!」 (よけてみせるよっ!!) ハブネークが尻尾を振る前に、シナは指示を出していた。それに答えて、シェイミは上昇した。シナが言った通り、ハブネークは尻尾をシェイミから見て右から振った。それを難なくかわしてみせたシェイミ。 「今度はマスキッパが来る!!」 (あいよっ!!) 「マスキッパ、“かみつく”だ!!」 シナが指示したのとほぼ同時に、ちょうどマスキッパがコジロウの指示でシェイミに狙いを定めて、飛びかかってきた。不意打ちをかけようとしたのかもしれないけど、シェイミはシナの指示のお陰ですぐに気付いた。 「“サイコキネシス”!!」 「ミィィィィィィッ!!」 シェイミがマスキッパを正面に捕えて念じると、飛びかかろうとしたマスキッパの動きが簡単に止められた! 慌てて手をジタバタさせるマスキッパ。 「ハブネークが来る!!」 (任せて!!) 「ハブネーク、“かみつく”攻撃!!」 シナが指示したのと同時に、ハブネークがキバを剥いてシェイミに飛びかかってきた! 「ミィィィィィィッ!!」 シェイミは“サイコキネシス”で捕まえたマスキッパを、飛びかかってくるハブネークに思いきり投げ飛ばした! 不意を突かれたハブネークは、飛んできたマスキッパと衝突! たちまち折り重なって地面に落ちた。 「シナ、凄い……!!」 あたしはそんなシナとシェイミの息の合ったバトルを見て、思わずそうつぶやいちゃった。 「おい、何だか俺達の動きが読まれてる気がしないか……?」 「そんなの気のせいよ!! 相手が超能力者だとでも言うの!? こうなったらハブネーク、“くろいきり”よ!!」 コジロウの言葉を聞き流して、ムサシは指示を出す。ハブネークは口から黒い煙を吐いた。煙は、シナとシェイミを飲み込んで、視界を奪っていった。 「うっ……」 シナもシェイミも、急に視界が奪われて、戸惑っている。“くろいきり”は、ロケット団が逃げる時によく使うわざ。まさかこのまま逃げるつもりなの!? 「くそっ、見えねえ……!!」 「シナ、気をつけて!!」 あたし達が叫んだ。ロケット団が動いたような気配は見せない。やっぱり、逃げたのかな……? いや、それとも、どこからか不意打ちしてくるのかも…… じりじりと過ぎていく時間。何か動いたような気配は全然ない。シナとシェイミも動きを見せない。シナは、何かを感じ取っているかのようにも見える。 「……!!」 その時、シナが何かに気付いた様子を見せた。 「シェイミ、上昇してすぐ“エアスラッシュ”!!」 (わかった!!) シナが、急に指示を出した。シェイミが素早く上昇したのと同時、“くろいきり”が晴れた。その時、シェイミの横から挟み撃ちにしようとしてるハブネークとマスキッパが見えた! でも、シェイミが上昇したせいで、ハブネークとマスキッパは正面から激突。そのまま倒れちゃった。 「ミィィィィィィッ!!」 そこに、シェイミが小さな羽根を力強く振って、空気の刃を真下に発射! 直撃! たちまち弾き飛ばされたハブネークとマスキッパは、ムサシとコジロウの所に吹っ飛ばされて、ムサシとコジロウもろとも折り重なって倒れた。 「今よ!! “シードフレア”!!」 「ミィィィィィィ……ッ!!」 すると、シェイミの首の花が光り始めた。そしてシェイミは、ロケット団目掛けて真っ直ぐ突撃していった! 「え、ちょ、ちょっとこれって……」 「まさか……」 「ミィィィィィィッ!!」 嫌な予感を感じたロケット団の目の前で、シェイミは“シードフレア”を炸裂させた! まばゆいばかりの緑色の閃光が、あたし達の視界を飲み込んだ。こっちにも強い爆風が飛んできて、あたし達は反射的に顔を腕で遮った。閃光が治まると、そこにロケット団の姿はなかった。 「よう……お前ら……満足か……? こんな、やられ方で……」 「へ?」 「俺は……嫌だね……」 「それはこっちだって同じよっ!!」 「やな感じ〜っ!!」 ロケット団は洞窟を突き破って吹っ飛ばされて、そのまま空の彼方へと消えていった。
* * *
ロケット団との戦いが終わってしばらくした後。 あたし達は花畑に戻って、嬉しそうに元のすみかだった洞窟へと帰っていくドガース達の群れを見送っていた。 「元気でな〜っ!!」 「みんなで仲良くするのよ〜っ!!」 手を振ってドガース達を見送るあたし達。ドガース達が見えなくなったのを確かめて、あたし達は降っていた手を下ろした。 「とりあえずは、これで一件落着だね。あんた達凄いよ、この事件を解決してみせるなんてさ」 花畑に残っていた3人組のリーダーが、あたし達に言った。 「いいや、俺達は何もしてない、がんばったのは波導で事件のカギを見つけてくれたシナさ」 サトシがそう言って、シナに顔を向けた。 「あっ……」 そう言われたシナは、少し戸惑った表情を見せた。3人組の視線も、シナに向いた。一瞬、あたしはまたシナに何か悪口を言うのかと思ったけど、それは『いい意味で』裏切ってくれた。 「そうだったのね……やるじゃない、さすがは『魔女』だね」 「それだったら、あんたきっと超能力捜査官になれるよ!」 「見直しちゃったよ、あんた町の英雄だよ!」 3人組が笑みを見せて、そんな優しい言葉をシナにかけた。 「えっ……!?」 「今まであたし達、あんたをいじめてたけど、これからはあたし達があんたをいじめる奴を懲らしめてやるよ。ね、みんな?」 「ええ!!」 リーダーの言葉に、他の2人はすぐにうなずいた。 「みんな……!!」 シナは嬉しそうな表情を見せた。その瞳から、嬉し涙が少しだけ光っていた。 「よかったな、シナ」 「いじめっ子達と仲直りできたじゃない」 あたしとサトシも、そう声をかけた。 「うん……みんなのお陰……ありがとう……私、死なないでよかった……!!」 シナは目に溜まった嬉し涙を拭いて、はっきりした声で答えた。 「雰囲気を壊すようですまないが……」 そんな時、タケシが気まずそうな様子で、あたし達に声をかけた。 「事件は解決したとしても、このグラシデアの花畑は、すぐに元通りという訳にはいかないだろうな。元通りになるには、相当の時間が必要だろう……」 そう言って、タケシは花畑に視線を向けた。改めて見てみると、見るも無残な姿のままの花畑が、あたし達を現実に引き戻した。ドガースがいなくなった後も、まだ少しガスは漂ってるし、花も枯れ果てたまま。そうだよね、ドガースがいなくなっても、この花畑がすぐに元通りにはならない。元に戻すには、きっと何年もかかるだろうなあ……あたしは何だか、寂しい気分になった。 「そうだね……この花畑、この町のシンボルみたいなものだったのに……」 3人組のリーダーが、しょんぼりとした表情を見せた。でも、シナとシェイミは、顔を合わせて笑顔を見せた。 「シェイミ」 (うん、任せて!!) すると、シェイミが急に枯れ果てた花畑の中に飛び込んだ。花畑の真ん中辺りまで来て、シェイミは足を止める。 「ミィィィィィィ……ッ!!」 何をするの、と思ってたら、シェイミの花が光りだして、周りに残ったガスを次々と吸い取っていく。周りのガスを全部吸い取って、真っ黒になる花。 「ミィィィィィィッ!!」 そしてそれを、“シードフレア”にして思いきり炸裂させた。バトルの時とは違う、暖かくて、優しい印象の光が、パアアアアっと花畑を包んだ。 すると、花畑の花が、みるみる内に力を取り戻していく。茎はゆっくりと空に向けて立ち上がって、ついにはピンク色のきれいな花が、またきれいに咲き始めた。さっきまで荒れ果てていたのがウソのように、花畑はたちまち最初に見た姿を取り戻していた。 「す、凄ぇ……」 「そういえば、シェイミは大気の毒素を分解して、荒れた大地を一瞬にして花畑に変える力を持つ、って聞いた事があったな……」 「これが、シェイミの力……」 その幻想的な風景に、あたし達はそんな事しか言葉が出なかった。 風でグラシデアの花がなびいて、ピンク色の花びらが宙を舞った。そして、また心地よい匂いが辺りに漂い始めていた。
* * *
次の日。 出発しようとしていたあたし達の前に現れたシナは、なぜか手提げカバンを両手で持っていた。 「シナ、どうしたの、そのカバン?」 「私、旅に出るの。目標を見つけたから」 あたしの質問に、明るい表情を見せて答えるシナ。 「目標って何なんだ?」 「私の波導が見える力を、人に役に立てる事なの!」 サトシの質問に、今まで見せた事がなかった、満面の笑みを見せて答えた。その表情に、出会った時のシナの姿は、完全になかった。 「いい目標じゃないか!」 「なら、あとはがんばるだけだな!」 「シナなら絶対できるよ!」 そんなシナの夢を聞いたあたし達の表情にも、自然と笑みが浮かんだ。 「ありがとう、みんな。あと、これ」 シナは一旦カバンを下ろして、カバンから何かを取り出した。それは、グラシデアの花。3輪ある。それを、シナは両手であたし達に差し出した。 「私から、みんなにお礼の気持ち。ブーケはちょっと用意できなかったけど……」 そっか、グラシデアの花は感謝の気持ちを伝えたい人にプレゼントするんだったっけ。あたし達は、少し嬉しくなった。 「ありがとう」 あたしはそう言って、グラシデアの花を1輪受け取った。 「いや、どういたしまして、って言った方がいいのかな?」 「そうかもな。どういたしまして」 そう言いながら、サトシとタケシも、グラシデアの花を1輪ずつ、受け取った。 「じゃ、私、行くね。行こうシェイミ!!」 (うん!!) シナはあたし達に背中を向けると、頭に刺したグラシデアの花を、そっとシェイミに近付けた。すると、シェイミの体が光って、スカイフォルムになって力強く空に飛び上った。それを追いかけて、シナも元気よく駈け出して行った。 「元気でね〜っ!!」 「体に気をつけてな〜っ!!」 「また会ったら、俺とバトルしような〜っ!!」 あたし達も、手を振って見送った。それに、シナもシェイミも走りながら左手を振って答えてくれた。
* * *
よ〜し、あたしもシナに負けてられない! カンナギのコンテストにむけて、がんばらなくっちゃ!
こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……
STORY21:THE END
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