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[692] ヒカリストーリーEvolution STORY21 哀しみの波導少女
フリッカー - 2008年09月19日 (金) 18時16分

 ヒカスト遂に新装開店!
 心機一転、これから新たな気持ちで書いていこうと思います。そんな訳で、皆さんよろしくお願いします!

・ゲストキャラクター
シナ イメージCV:斎藤千和
 森羅万象が持つ気のようなもの『波導』を見る事ができる能力を持つ少女。具体的には、物体の存在を遠くからでも感じ取ったり、相手の考えや行動を読み取ったりする事ができる。昔でいう『波導使い』であり、その能力はわずかしか波導を捕らえられないサトシとは比べ物にならない。しかし、その能力故に周りからは『魔女』と呼ばれて気味悪がられており、その影響で心に傷を負い、人間不信に陥っている。
 普段は物静かで、感情をあまり表に出さない。自分に正直な性格であるため、自分の力を隠す事もできず、全ては自分の持つ力が元凶だと考え、自分に自信が持てずに将来の事を悩み、旅にさえ出ておらず、『ただ1人の友達』と呼ぶシェイミにしか心を開かない。しかし、ヒカリ達との出会いで少しずつ変わっていく。グラシデアの花が好き。

シェイミ イメージCV:山崎バニラ
 かんしゃポケモン。グラシデアの花と深い関わりを持つ、珍しいポケモン。シナのパートナー。
 人間不信に陥っているシナの『ただ1人の友達』。テレパシーで会話する事ができる。一人称は「ボク」。シナの事をいつも気遣っていて、いじめっ子からシナを守り、引っ込み思案なシナに積極的になるように促すなど、しっかりした一面を見せる。プレシャスボールという限定版のモンスターボールに入っているが、普段は外に出ている事が多い。シナとは『花の楽園』という場所で出会ったらしい。

[693] SECTION01 シェイミと波導の少女シナ!
フリッカー - 2008年09月19日 (金) 18時18分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 シェイミと波導の少女シナ!


 ナナカマド博士が主催した、ポケモンサマースクール。それに、あたし達は揃って参加した。
 初対面のポケモンでバトルしたり、湖のポケモンを観察したり、肝試しみたいな事したり……ホントいろんな事をやった。どれも全部、あたし達の楽しい思い出になった。
 そして、あたし達は次のコンテストが開かれる町、カンナギタウンに向けて旅を続けていた……

 * * *

「わぁ〜っ!!」
「ピカ〜ッ!!」
「ポチャ〜ッ!!」
 その光景を見て、あたし達は思わず声を上げた。
 あたし達の目の前に広がっているのは、立ち寄った小さな町の片隅にある、きれいな花が広く咲き誇る花畑。その透き通ったピンク色の花びらは、もう「きれい」しか言葉が浮かばないくらいきれいだった。風に乗って漂ってくる花の香りも、とても心地いい。見ているだけで心が癒される。何だか、柵がなかったら中に飛び込んで寝ちゃいたい気分。
「この花って、グラシデアの花だよな?」
「ああ、そうだな」
「グラシデアの花か……」
 グラシデアの花。その名前を聞いて思い出した事は1つ。テンイ村で出会った、かんしゃポケモン・シェイミの事。
 テレパシーで話す事ができるシェイミは、ちょっぴり生意気でわがままな性格だったけど、あたし達はすぐに打ち解けた。『花運び』って習性の手伝いのために、少しの間一緒に行動する事になった。途中で反転世界のポケモン・ギラティナやそれを狙う悪者が絡んできて、一時は大変な事になっちゃったけど、シェイミは無事に『花運び』のために旅立つ事ができた。短い間だったけど、あの出来事は心に強く残った。そんなシェイミと深い関わりがあるグラシデアの花で、シェイミにそっくりなブーケを作って、感謝の気持ちを伝えたい人にプレゼントする、って習慣もあった。あたし達もそれに習って、ブーケを用意して思い思いの感謝したい人に送った。誰に送ったのかって? それは……ナイショ!
「シェイミ、元気にしてるかな?」
「あいつなら元気にしてるさ! 今もどこかで言ってるさ、『ミーに感謝するでしゅ!』ってな!」
 あたしのつぶやきに、サトシがそう答えてクスッと1人笑いした。
 そんな時、あたし達の後ろを誰かの人影がゆっくりと横切った。そして、あたし達より少し離れた先でしゃがんで、あたし達と同じように花畑を眺め始めた。
 それは、物静かな雰囲気の女の子だった。縛ってポニーテールにした長い緑色の髪には、グラシデアの花が一輪刺さっていた。でも、服装は何も飾りがついてない、青紫色一色の半袖、ひざ丈くらいの長さのスカートの地味でシンプルなワンピースだった。その両手には、あたし達が送ったものと同じ、シェイミにそっくりなグラシデアの花のブーケを抱えていた。
「きれい……」
 女の子は、そうポツリとつぶやいていた。この子、この町の人かな? なら、ちょっと花畑の事を聞いてみよっと。あたしは、女の子に声をかけた。
「ねえ、ちょっと」
「は……っ!!」
 すると、女の子はなぜかギクッとした表情を見せてこっちを向いた。さっきまでは横顔しか見てなかったから気付かなかったけど、女の子の瞳は左右違う色だった。右目が赤で、左目が水色。『オッドアイ』っていうものかな。
「この町にも、シェイミって来るの?」
「え……さ、さあ……」
 あたしの質問に、女の子はあたしから目をそらしながら、ぎこちない口調で答えた。
「この花畑も、やっぱりシェイミが『花運び』で作ったものなのか?」
「……っ、それは……わかんない……」
 サトシがあたしに続けて声をかけると、また女の子はギクッとした表情を見せて、目をそらしてぎこちなく答えた。この女の子、何だか様子がおかしい。まるで、あたし達を怖がっているような……
「どうしたの? 何かあったの?」
「ご、ごめんなさい……私、用事を思い出して……」
 すると、女の子はいきなり立ち上がって、逃げるようにその場を去ろうとした。
「またそこにいたんだ……」
 すると、女の子が行こうとした所から、別の女の子の声がした。女の子の前には、3人の別の女の子が。3人共何だか、変な目付きで女の子をにらんでいた。
「……!!」
 すると、女の子は怯えた表情を見せて、その場から一歩一歩下がっていく。でも、あたし達の姿を確かめると、すぐに止まっちゃった。3人組の女の子は、じりじりと女の子に迫ってくる。何だか嫌な感じ……
「言ったでしょ、あんたみたいな『魔女』にグラシデアなんて似合わないよ。邪魔くさいだけだから、とっとと消えちゃいな!」
 3人組の真ん中の女の子がいきなり、片手で女の子を強く突き飛ばした。
「うっ!!」
 そのままあたし達の前に突き飛ばされて、倒れる女の子。この女の子達、この子をいじめてる! あたしはすぐに、女の子の体を起こしてあげた。
「ちょっと! いきなりこの子に何するのよ!」
「そうだ! 何だか知らないけど、人をいじめるのはやめろ!」
 あたしは黙っていられなくなってそう言い返した。サトシもそれは同じだったみたい。
「あんた達、この辺じゃ見かけない顔ね。言っておくけど、そいつと関わりにならない方がいいよ?」
「どういう事なの!」
 真ん中の女の子の言った言葉が、あたし達には理解できなかった。
「そいつは『魔女』なんだよ。側にいれば、あんた達の心を読まれちゃうよ」
「それに、どこにどう隠れていてもすぐに透視して、見破っちゃうんだよ」
 残りの2人の女の子が言葉を続けた。
「魔女……?」
 3人組が言うその言葉の意味も、あたしにはさっぱりわからなかった。心を読まれる? 透視? なんでそんな事が……?
「そんなあいつと付き合ったら、魂を吸い取られちゃうかもよ〜?」
 そう言って、3人組は揃ってバカにするように笑いだした。でもその時、信じられない事が起きた。3人組がいきなり、フワリと宙に浮かびだした!
「わわっ!? な、何よ!?」
 3人組が慌てて手足をジタバタさせても、体は浮いたまま。そしてとうとう、誰かに突き飛ばされるように思いきり吹っ飛ばされた!
「な、何だ!?」
「今のは……“サイコキネシス”か……!?」
 サトシとタケシが叫んだ。するとあたしは、女の子が抱えていたブーケが一瞬、カサッと音を立てたような気がした。えっ、と思ってブーケを見てみると、ブーケは女の子の腕の中でモゾモゾと動いていた。花の数も減っている。
「ブーケが……」
 動いてる、と言おうとした時、ブーケはいきなり、女の子の腕の中からバッと飛び出した!
「ブーケが動いた!?」
 あたしは思わず声を上げた。ブーケは、あたし達の目の前で着地した。
「な、何なのあのブーケ!?」
「いや、ブーケじゃない。あれは……」
 よく見ると、ブーケの下から白い小さな体と顔が見えた。あれは……ポケモン!?
「間違いない、シェイミだ!!」
 タケシが、そのポケモンの名前を叫んだ。
「シェイミ!?」
 あたしは驚いた。ブーケだと思っていたのはシェイミだったの!? あたしは念のため、ポケモン図鑑を向けてみた。
「シェイミ、かんしゃポケモン。花畑の中で暮らしているが、体を丸めると花のように見えるため誰も気付かない」
 図鑑の音声が流れた。やっぱり間違いなくシェイミだった。
(お前達、シナをいじめるのはやめるんだ!!)
 シェイミの声……じゃない、口を使わないテレパシーが強く響いた。あたし達が会ったシェイミと違って、声は似た感じだけれど、しっかりした印象のある声だった。
「ぐ……またあんたなのね……っ!!」
 3人組の女の子が、シェイミを見て立ち上がった。
「シェイミ……ダメ……!」
(何言ってんの! シナがいじめられてるって時に、黙ってなんていられるもんか!)
 怯えた様子でシェイミに言う、シナっていうらしい女の子に対して、振り向いたシェイミは逆に強気で言い返した。そして、改めて3人組に顔を戻した。
(とっとと消えるのはお前達の方だ!! じゃなかったらボクが相手になってやる!!)
 シェイミはテレパシーでそう叫ぶと、シェイミは3人組に向けて、口から“タネマシンガン”を発射した! 3人組のすぐ目の前に当たって、爆発! 威嚇して追い払おうとしてるんだ。
「やってくれるじゃないの……!! 行くのよサンドパンッ!!」
 真ん中の女の子が怒ってモンスターボールを投げた。出てきたのは、背中にたくさんのトゲが生えた、ねずみポケモン、サンドパンだった。
「“すなあらし”!!」
 サンドパンは体をスピンさせてたちまち砂嵐を起こした。こっちにも砂嵐が飛んできて、反射的に腕を顔にかざした。シェイミも砂嵐に飲み込まれちゃったけど、周りにバリアーを張って防いでいた。“しんぴのまもり”だ!
「ま、まずいぞ!! サンドパンのとくせいは『すながくれ』だ!! どこからくるかわからないぞ!!」
 タケシが声を上げた。実際見てみても、サンドパンの姿はどこにも見当たらない。これだと攻撃を当てる事もできない。
「今よ!! “ジャイロボール”!!」
 真ん中の女の子が指示を出した。でも、サンドパンは見えない。どこから来るのか、完全にわからない。シェイミも、辺りをおろおろと見回している。このままじゃ……!
「シェイミ、斜め左前!!」
 すると突然、シナが叫んだ。あたしは驚いた。斜め左前? なんでそんな事が!? 当てずっぽうに言ったにしても『斜め左前』なんてかなり細かいじゃない!?
「ミィィィィィィッ!!」
 そう考えている間に、シェイミはシナの言葉通り、斜め左前に“タネマシンガン”を発射! “タネマシンガン”が砂嵐の中に消えていく。すると、爆発が起きた。その爆風で、砂嵐が吹き飛ばされて、視界が晴れた。するとそこには、地面に倒れていたサンドパンの姿があった!
「“タネマシンガン”が当たった!?」
 サトシが声を上げた。ゆっくりとぎこちなく立ち上がるサンドパン。“タネマシンガン”は間違いなく当たった。それも、サンドパンの体の状態から見て、カス当たりじゃなくて、ちゃんと当たってたみたい……!? これって単なる偶然……なのかな?
「……ちっ!! なら、“あなをほる”よ!!」
 指示を聞いたサンドパンは、すぐに穴を掘って地面に潜っていった。またどこから来るかわからない攻撃。地面に潜られちゃ、シェイミもどうする事もできない。サンドパンは入ったままなかなか出てこない。じりじりと時間が過ぎていく。沈黙が続く。風が吹く音だけが、辺りに響く。
「……シェイミ、右からすぐ飛び出してくる!!」
 するとシナがまた、突然叫んだ。今度は右?
「ミィィィィィィッ!!」
 シェイミはすぐに体を右に向けて、“タネマシンガン”を発射! でも、そこには誰もいない……と思ったら、“タネマシンガン”が飛んでいく先にサンドパンが地面から飛び出した! サンドパンは飛んできた“タネマシンガン”に驚いたけど、もう手遅れだった。直撃! 効果は抜群! たちまち弾き飛ばされるサンドパン。
「また当たった……!? どうして出てくる場所がわかったの!?」
「……っ!!」
 あたしが驚いてシナに声をかけると、シナははっとした表情を見せて、すぐに顔を反らした。まるで、何かやらかしちゃった人がするように。この子は、いったい何者なの!? まさか、超能力でも使って予知したっていうの? なら、あの『魔女』って言われる事も……
「ミィィィィィィッ!!」
 そんな時、シェイミの2つの花が強く光り始めた。そして、すぐにシェイミを中心に大きな緑の衝撃波が広がった。その衝撃波はあたし達の目の前にまで飛んできて、こっちに強い爆風が飛んできた。反射的に顔を腕で遮る。あれは、シェイミの“シードフレア”……!
 衝撃波が消えると、シェイミの先にはぐったりと倒れたサンドパンの姿があった。もう戦闘不能になっている。
「やったぜ!!」
 サトシが声を上げた。
「……ちっ、また透視して有利な指示をしたわね……!」
 サンドパンをモンスターボールに戻しながら、真ん中の女の子はシナに鋭い視線を向けた。それを見たシナの体が凍りついた。
「その透視のお陰で勝ったって事を忘れないでよ!!」
 負け惜しみを言うようにそう言うと、3人組の女の子はこっちに背中を向けて、その場を引き上げていった。
「負け惜しみなんて、みっともないわよ!!」
 あたしはそんな3人組の背中に向けて叫んでやった。
「それにしても、嫌な奴らだったな……でも、追い払えたなんて凄いじゃないか!」
 サトシが、シナに顔を向けた。でも、シナは顔を伏せたまま、その場で固まっていた。まるで何かを悔やんでいるみたいに。
「……どうした?」
 サトシが聞くと、シナは無言でスッと立ち上がった。そして、懐からモンスターボールを取り出した。ただのモンスターボールじゃない。真っ赤で、横の部分には黒いへこんだ部分がある。全体的につやつやしていて、何だか高級な感じがする。
 そんな赤いモンスターボールをシェイミに向けると、シェイミは赤いモンスターボールの中に吸い込まれていった。シナは、あのシェイミのトレーナーだったんだ。そう考えていると、シナはあたしの前に何も言わないまま来た。
「……何?」
「シェイミ……もらってください!!」
 シナはそう言っていきなりあたしの両手に赤いモンスターボールを置くと、いきなりその場から走り去って行っちゃった。
「あっ、ちょっと待って!! もらってってどういう事!?」
 いきなりの事であたしはシナを呼び止めようとしたけど、シナはあたしの横を素早く通り過ぎた。そして、サトシの肩に少しぶつけちゃっても構わずに、そのまま近くにあった森の中に飛び込んで、姿が見えなくなっちゃった。肩をぶつけられたサトシは、なぜかポカンとした表情を見せて固まっていた。
「行っちゃった……」
 いきなり事情もわからないまま、シェイミをもらってって言われても困っちゃう。あたしが途方に暮れた時、サトシとタケシが赤いモンスターボールを覗き込んだ。
「これって、プレシャスボールじゃないか」
「何だ、プレシャスボールって? 見た事ないな?」
「確か、限定版のモンスターボールだったはずだ」
 いきなり、赤いモンスターボールの話を始める2人。
(そんな話してる場合じゃないよ!!)
 すると、いきなりシェイミのテレパシーが響いた。すると、プレシャスボールがモゾモゾと揺れたと思うと、勝手に開いた。中から、シェイミが出てくる。
(すぐにシナを追いかけないと!!)
 シェイミは慌てた様子であたし達に言った。
「何? どうしてなの?」
(シナが……死んじゃうかもしれないからだよ!!)
「ええっ!?」
 シナが死んじゃうって言葉を聞いて、あたし達は驚いた。
「だったら、すぐに追いかけないと!!」
「ええ!!」
 死んじゃうって聞いたら、黙ってなんかいられない。あたし達はシェイミと一緒に、森の中へ駆け込んでいった。

 * * *

 森の中を、急いで走っていくあたし達。そんなあたし達の横を、シェイミも急ぎ足で走っていく。
(この先に、切り立った崖があるんだ。シナはきっと、そこに行ってる!)
 シェイミは走りながら、あたし達にそう言った。
「なあ、シェイミ」
 そんな時、サトシが走りながらシェイミに聞いた。
(ん?)
「シナって……どうして『魔女』って言われてたんだ?」
(シナには、人には見えないものが見えるんだ)
「見えないものが見える?」
 あたしは首を傾げた。
(確か、『波導』とか言ったっけ……)
「えっ!? 波導が!?」
 あたし達は、揃って声を上げた。シナは、波導が見えるって事なの!? それってもしかして、『波導使い』……!?
「そうか……それだからバトルの時、砂嵐の中で相手を見つけられた訳だ。それに、ルカリオは波導を読み取って、相手の考えている事を読み取る事もできる。もしシナにも同じ力があるのだとしたら、『心を読まれる』って言われるのも無理はないな」
 タケシがつぶやいた。
「そうか……だからいじめられてたのか……」
「でも、どうして? 波導が見えるって、凄い事じゃない。それなのに、なんで……?」
 でも、あたしにはいじめられている理由がわからなかった。波導使いというものに、悪いイメージなんてない。昔は尊敬されていたっていわれてるし……
「確かに、波導使いは周りから尊敬されていた。でも他の人にはない力を持っているんだから、恐れられたっておかしくない。憧れを裏返せば、恐れになるって事だな……」
「そんな……」
 あたしはタケシの言った事が残酷に思えた。他の人にはないモノを持っているなら、周りから尊敬されるのは当たり前だと思っていた。でも、それだから周りに嫌われている人がいる。よく考えたら、自分にはないモノを持っているのがうらやましくなったら、その人を憎く思う人だっているよね……そういうモノを力ずくで盗もうとする、ドロボウのように……でもそんな考え、間違ってるよ……!
(それだから、シナは周りからいじめられてたんだ。そしてとうとう、学校にも行かなくなって、人とも付き合わなくなって、完全に引きこもっちゃったんだ。そしていつも、ボクと話したり、遊んだりしてばかりなんだ……)
 シェイミが話を続けた。
「完全に人間不信になってしまったのか……」
 タケシがつぶやいた。その言葉にうなずくシェイミ。あたしも、胸が痛くなってきた。
(それでも、いじめは終わらなかったんだ。ボクが止めに入っても、あいつらは何度もシナをいじめてくるんだ。そして挙句の果てには、自殺しようとまでしたんだ。ボクが今まで何度も止めたけどね)
「ええっ!?」
 自殺しようとまでした。その残酷な言葉が、あたしの心に鋭く突き刺さった。
(きっと今も、間違いなく自殺しようとしてる……)
「なら、絶対に止めないと!!」
 サトシが、さっきよりも強い声で言った。
「俺、シナに肩がぶつかった時、見えたんだ。シナの記憶が。リオルに会った時と同じようにさ」
「えっ!?」
 あたしは一瞬驚いたけど、サトシだって、多少の波導使いとしての素質がある。肩がぶつかった時に波導が流れて、記憶を偶然見ちゃったのかもしれない。
「シナは、周りから仲間外れにされていた……周りから『気持ち悪い』って言われていた……背中を蹴飛ばされていた……とても、辛そうだった……いつも1人ぼっちで、寂しそうだった……だから、俺はシナを放っておけない!!」
 サトシがグッと拳に力を入れた。そういえば、サトシは昔いじめられていた事があったって、ミライさんから聞いた。いじめられている人の気持ちは、よくわかるんだね。あたしは、ひどいいじめにあった事はなかったけど、それでもそんな辛い事で傷付いた人を放っておけない気持ちは、サトシと同じだった。どんな理由があっても、人もポケモンも差別しちゃ絶対ダメ!
「そうよ!! 絶対にシナを止めなきゃ!! 周りにはいい人もいっぱいいるって、教えてあげなきゃ!!」
(ありがとう、みんな。恩に切るよ)
 シェイミが、笑みを浮かべた。

 * * *

 森を抜けて、視界が開けた。
 そこは、シェイミの案内通り、切り立った崖の上だった。その先、1歩出れば落ちちゃう場所に、人影が立っていた。青紫色のスカートが、風でなびいている。シナだ!
「シナ!!」
 あたしは、すぐにシナを読んだ。シナは、こっちを向いた。
(シナ!! ダメだよっ!! 早まっちゃダメだよっ!!)
 シェイミも必死でテレパシーで呼びかける。
「ごめん、シェイミ……私、もう耐えられない……」
 シナはそう言って、またこっちに背を向けた。まさか、飛び降りる気!? あたしの心が焦った。
「待ってシナ!! 考え直して!!」
「シェイミ、その人達と一緒なら、きっと、私といるより幸せになれるよ……優しい人達だから……」
 そう言って、シナは1歩足を踏み出した。飛び降りちゃう! と思ったその時、シナの足元が急に崩れだした!
「きゃああああっ!!」
 崩れるなんて、シナも予想もしていなかったに違いない。悲鳴を上げながら、シナは崖の下へスッと消えた。
「シナ!!」
 あたし達の声が揃った。そして、すぐにあたし達は動き出していた。
「グライオン、シナを助けるんだ!!」
 サトシがモンスターボールを投げて、グライオンを出した。
「ポッチャマもお願い!!」
「ポチャ!!」
 ポッチャマも飛び出す。グライオンの背中に乗って、一緒に崖の下へと飛び込んだ。
 すぐにあたし達は崖っぷちまで行って、崖の下を覗き込んだ。シナを追いかけて急降下したグライオンが、シナの体をつかんだのが見えた。でも、地面はもうすぐそこまで迫っていた。グライオンはすぐに引き起こそうとするけど、間に合わない! このままじゃ、グライオンも一緒に落ちちゃう!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 とっさにあたしは指示を出した。ポッチャマは地面に向けて“バブルこうせん”を撃った。地面に広がった“バブルこうせん”は泡のクッションになって、シナをつかんだグライオンを受け止めた。ポヨンと1回飛んだ後、シナをつかんだグライオンがドサッと着地した。ちょっと乱暴だったけど、崖から真っ逆さまに落ちるよりはずっとマシ。
「よかった……」
 あたし達はほっとした。
(この先から、下に降りられる道があるよ!)
「わかった!」
 あたし達はシェイミの案内で、崖の下へと向かった。

 * * *

「シナ!! シナ!!」
 崖から落ちたシナは、気を失っていた。あたし達はシナを仰向けにして、体をゆすりながら呼びかけた。
「う……う〜ん……あれ、私は……」
 シナが、ゆっくりと目を開けて、体を起こした。
「よかった……!!」
 あたしがほっと一安心した時、シェイミがシナの胸に飛び込んだ。
(バカッ!! バカッ!! シナのバカッ!! あんなに死んじゃダメって言ったのに、また自殺しようとするなんて……!!)
 前足でドンドンとシナの胸を叩くシェイミの目からは、涙がこぼれていた。
「シェイミ……?」
(この人達は、シナを助けようとして、力を貸してくれたんだよ? そんな優しい人がいるのを知らないまま、死んじゃうつもりだったの!? シナが死んじゃったら、悲しむ人だっているんだよ!! シナのパパとママも、それにボクも……)
「……!!」
 シェイミが泣きながら言ったその言葉に、シナははっとした顔をした。
「でも……私は普通の人じゃない……波導なんて『変なもの』が見えちゃうし……」
 シナがまた、顔をうつむけた。
「ダイジョウブ。あたし達、シナをいじめたりなんかしないから」
「え……っ!?」
 あたしがシナの前で笑みを見せると、シナが驚いた顔を見せた。
「変だって……思わないの……!?」
「凄いじゃないか。波導が見えるなんて、立派な波導使いじゃないか! あの時のバトルだって、なかなか凄いと思ったぜ。1回バトルしたくなってきたくらいさ」
 サトシも、シナに笑みを見せた。
「凄い……」
 シナは、サトシが言った事を口に出してみた。
「あたし、ヒカリ」
「ポチャマ!」
「俺、サトシ」
「ピカ、ピカチュ!」
「俺はタケシだ」
 あたし達は、順番に自己紹介した。
「あっ……えっと……その……」
 どうしたらいいのかわからないのか、戸惑う様子を見せるシナ。
(ほらほら、もっとアプローチしてみなよ。そうしないと、いつまでも変われないよ)
 シェイミがシナに言った。
「えっ、でも……」
(自分から何もしないんじゃ、変わらなくて当たり前じゃない?)
「そ、そっか……」
 シェイミとそんなやり取りをした後、シナは立ち上がった。
「は、初めまして! わ、私、シナ! と、友達になって、くれる?」
 少し恥ずかしがりながら、噛みながらも、シナは改めてあたし達に自己紹介した。
「もちろん!」
「当然だろ?」
 あたし達も、立ち上がって答えた。
「みんな……!」
 シナが、初めてあたし達に笑顔を見せた。嬉しいんだ、友達になれた事が。
(シナ、ここはみんなを家に連れて行ってあげたら?)
「えっ!?」
 シェイミの提案に、シナはまた驚いて、戸惑う表情を見せた。
(せっかく仲良くなれたんだから、それくらいしたらどう?)
「あ、そ、そうだよね……」
 そんなシェイミとシナのやり取りを聞いて、あたし達はクスッと笑っちゃった。
「シェイミの方が、結構しっかりしてるのね」
「何だかシェイミ、シナのお兄さんみたいだな」
 あたしとサトシは言った。それを聞いたシナは顔を真っ赤にした。
「と、とにかく……案内するよ。ついて来て」
 その雰囲気を打ち消すように、シナがあたし達に言った。
「ええ」
 あたし達も、シナの後について行った。
 シナってどんな事してるのかな? 何の事話そうかな? そんな事を考えながら。


TO BE CONTINUED……

[704] SECTION02 迷いドガース大襲来!?
フリッカー - 2008年09月27日 (土) 18時46分

 ここは、町の中にあるシナの家。
 そこで、あたし達はテーブルを囲って座っていた。今日は、シナを助けてくれたお礼に、晩ご飯をごちそうしてもらう事になったの!
「みんな、シナを助けてくれて本当にありがとう。こんなものしか用意できなかったけど、遠慮なく食べてね」
 優しそうな印象のシナのママが、テーブルの上に料理を並べていく。揚げたてのコロッケ、あつあつの野菜スープ、温かそうなご飯。どれもきれいに盛り付けられていて、とてもおいしそうだった。見ているだけで食欲が湧いてくる。
「わあっ、コロッケだ!!」
 サトシが皿に盛り付けられたコロッケを見て、嬉しそうな表情を見せた。
「そういえばサトシは、コロッケが好きなんだもんな」
 タケシが言った。
「じゃ、食べようよ」
「それじゃ、いただきまーす!!」
 あたし達は声を揃えてそう言って、早速ご飯を食べ始めた。まずは揚げたてのコロッケから口にほおばる。う〜ん、おいしい〜っ! どんどんご飯が進んじゃう。「こんなものしか」ってシナのママは言ってたけど、あたし達にはこれで充分満足できるものだった。サトシもおいしそうにがつがつと食べている。そんなあたし達を、シナは1人見つめながら、モジモジしていた様子だった。
「……どうしたの?」
 視線を感じたあたしは、食べる手を止めてシナに声をかけた。
「あっ、いや……えっと……何でもない」
 シナは何か言いたそうに戸惑った表情を見せた後、ごまかすように慌ててご飯を口に運んだ。
(何か喋りたかったんでしょ? もっと積極的にならなきゃダメじゃない)
 傍らでポケモンフーズを食べるシェイミは、シナにテレパシーでそう言った。でもシナは、「別に……今はいい」とだけ言って、ご飯を口に運び続けた。


SECTION02 迷いドガース大襲来!?


 夜もすっかりふけた。
 ここに泊めてもらえる事になったあたし達は、空いている部屋を使って寝る事になった。あたしがいるのは、シナの部屋。
 寝る支度を済ませてポッチャマと一緒に部屋に入ると、そこに机に座っているシナがいた。机には、花瓶に刺さった一輪のグラシデアの花があった。そのグラシデアの花を、初めて会った時と同じように、シナはうっとりと見つめていた。
「好きなの? グラシデアの花」
 あたしはそんなシナに声をかけた。シナは我に返ったように、はっとこっちに振り向いて、「う、うん……」と少し戸惑いながらうなずいた。あたしはシナといろいろ話がしたい。だから、とりあえずベッドに座って、話題を切り出した。
「ねえ、シナって、旅には出てないの?」
「え……?」
 シナは少し驚いた表情をした。シナはシェイミってポケモンがいるのに、家にいる理由が気になったから、あたしはこう聞いたの。
「旅に出るなんて……考えた事ない……」
 シナは少しだけ顔をうつむけて答えた。あたしは続けてこう聞いた。
「じゃあ、何かやりたい事とか、ないの?」
「やりたい、事……」
 シナはそうつぶやいただけで、そのまま何も答えなかった。
「あたしは、トップコーディネーターになりたいの。だから、みんなでポケモンコンテストを制覇するために旅をしてるの。そういうの、ないの?」
「……」
 シナは黙り続けていた。
「……シナ?」
(シナは、何かしたいって考えた事ないんだよ)
 あたしがシナの顔を覗き込んだ時、ベッドの布団の中から顔を出したシェイミのテレパシーが聞こえた。
「えっ、そうなの!?」
「ポチャ!?」
(いっつもいっつも引きこもってばかりでネガティブだから、そんな事言ったのはボクも聞いた事ないんだ)
「そ、そうなの……?」
 あたしは、改めてシナに顔を向けた。その時、シナがやっと口を開いた。
「私……何がしたいのか、わからない……」
「わからない?」
「波導なんて『変なもの』が見えちゃう私に、何ができるのかな……? できるものなら、普通の人になりたい……それなら、いじめられないし……」
「シナ……」
 シナ、いじめられてたせいなのか、きっと自分に自信がないんだ。まるで、コンテストの失敗で自信をなくしちゃった、前のあたし自身を見ているようだった。シナに、今までどんな事があったのかは、具体的にはあたしは知らない。でも、何をしたらいいのかわからない気持ちは、あたしにもよくわかる。
「もっと自信を持ちなよ、シナ」
 その時、突然別の声が耳に入ってきた。見るとそこには、部屋のドアの前に立っているサトシの姿が。
「サ、サトシ!?」
「ごめん、ちょっと話聞いちゃったから……」
 驚いたあたしに、そう言って頭をかいて謝った後、サトシはシナの側に行った。
「波導が見えるって事、凄いと思うぜ。俺なんて、ほんの少ししか波導なんてわからない。昔いた波導使いと同じ波導を持ってるなんて言われちゃってさ……」
「サトシ……他のみんなと違うものが見えてたけど……サトシも波導が……!?」
 シナは目を丸くしていた。シナはサトシに波導使いの素質がある事に気付いてたんだ。
「けど、シナなんかと比べたら全然違うさ。だからシナの方が、波導使いって言われるのにふさわしいと思うぜ。俺なんて、全然波導使いなんかじゃないよ。だから、波導使いだからこそ、できる事があるんじゃないかな?」
「できる、事……」
 シナがサトシの言葉を繰り返す。
(少なくとも、今のシナに言える事は、前向きになれって事だね)
 シェイミが続けて言った。
(何度も何度も言ってるけど、本当に変わりたいって思ってるなら、何か行動しないとダメだよ。怖がって逃げてたら、何も変わらないよ)
「そうよシナ!! シナならできるよ!! 絶対ダイジョウブ!!」
「ポッチャマ!!」
 あたしも、シナに続けて言った。ポッチャマも、同じ気持ちを伝えるように、あたしに続けた。
「シナにはシェイミだってついてるじゃないか。一緒にがんばれば、必ず何かできるって!! そうすれば、いじめてる奴を見返す事だってできるさ!!」
「ピカチュ!!」
 サトシとピカチュウも、続けて言う。
「みんな……」
 シナは、目を丸くしていた。そしてそのまま、しばらく黙り続けていた。いや、言葉が出なかったのかもしれない。
「優しいんだね、みんな……嬉しい……こんなの、初めて……!」
 シナの目には、少し嬉し涙が溜まっていた。こぼれそうになったその涙を、右手で軽く拭くシナ。
「私……考えてみる……私に、何ができるのか……」
 その言葉を聞いたあたしは嬉しくなった。その笑顔は、シナがあたしに初めて見せた笑顔だったから。
(もちろんボクだって、シナが望むならいつでも力になってあげるよ)
「シェイミ……!」
 シナはそう言ったシェイミにも嬉しそうな表情を見せた。あたしとサトシはほっとして、互いに顔を合わせた。
 その後は、今までと打って変わって話が弾んだ。シナが、少しずつだけど変わろうとしていたのが、あたしにもわかった。
 ダイジョウブ。シナはきっと変われるよ。

 * * *

 次の日。
 何の予告もなく、大変な事が起きた。町の雰囲気が、昨日と打って変ってがらりと変わっていたんだから!
「な、何なの、これ……」
 辺りが、うっすらと黒い霧のような煙に包まれている。外に出たあたし達は、その光景を見て愕然とした。一体何が起こったの?
「何だか、少し息苦しいな……ゲホゲホ……」
 サトシがそうつぶやいて咳き込んで、すぐに口を手で塞いだ。あたしも、さっきから息苦しさを感じて、口を手で塞いでいた。口を開けると、サトシのように咳き込んじゃいそうだから。
「まさかこれは、スモッグじゃないのか?」
「スモッグ!?」
 タケシの言葉に、あたしは驚いた。スモッグといえば、要は毒ガス。環境問題で起きるもの、ぐらいしかあたしの知ってる事はない。
「だが、都会ならともかく、なんでこんな田舎町でスモッグが出るんだ?」
(ボクに任せて!!)
 タケシがそんな疑問をつぶやいた時、あたし達の足元にシェイミが出てきた。そして、シェイミの花が光り出したと思うと、周りのスモッグが、みるみる内に花に吸い込まれていく。周りのスモッグは取れたけど、シェイミの花は真っ黒になった。
「サンキュ、シェイミ。助かったぜ」
 あたし達は、何とか口から手を放す事ができた。そんなあたし達を代表して、サトシがお礼を言った。
「何か……感じる……」
 そこにやって来たシナが、そんな事をポツリとつぶやいた。
「感じるって、何を?」
「何だか、いつもは町にいない何かが……この町に……」
 あたしの言葉に、シナはそう答えた。
「どこにいるんだ? 教えてくれ、シナ!」
 サトシがシナに叫んだ。シナは少し戸惑う様子を見せたけど、すぐにコクンとうなずいた。
「こっち」
 シナが指差した方向に向けて、あたし達はすぐに向かった。シナとシェイミも、その後に続いた。

 * * *

 向かった先から、スモッグがどんどん流れ込んでくる。それを、シェイミが吸い取って、道を作ってくれた。
 そして、たどり着いた先は、シナと最初に出会った、あのグラシデアの花畑だった。シェイミがスモッグを吸い取ると、そこには昨日見た時とは似ても似つかない、変わり果てた花畑の風景が映った。
「そんな……」
 シナが、悲しそうな表情を見せた。それもそのはず、グラシデアの花畑は、スモッグのせいで、見るも無残に枯れ果てていたんだから。昨日まであんなにきれいだったのが、まるでウソだったみたいに。
「グラシデアの花畑が……」
「誰が……誰がこんな事……!!」
 あたし達は言葉を失った。そしてサトシは、両手をわなわなと握った。あたしの心の中にも、グラシデアの花畑をこんなにまで荒らした人が許せないという思いが湧き上がってきていた。
「おい、見ろ!」
 その時、タケシが何か叫んで、指差した。何だろうと思って見ると、そこには、たくさんの紫色のボールが、空に浮いていた。よく見ると、ちゃんと顔がある。そんな何かが、誰かとポケモンバトルをしている。
「あれって、ポケモン……!?」
「ドガースの群れだ!」
 あたしの疑問に、サトシがすぐに答えを出した。あたしはすぐに、ポケモン図鑑を取り出した。
「ドガース、どくガスポケモン。空気よりも軽いガスを体に溜めて浮いている。ガスは臭い上に爆発する」
 図鑑の音声が流れた。
「“ブレイククロー”!!」
 ドガースとバトルをしているポケモン、それはサンドパンだった。サンドパンは飛び上がってツメの一撃を思いまいしようとしたけど、スッと動いたドガースに簡単に交わされた。そして、群れで一斉に目から“サイケこうせん”を撃ってきた! 慌ててかわすサンドパン。
「ちっ、これじゃ多勢に無勢だわ……!」
 唇を噛んでいたサンドパンのトレーナーは、昨日シナをいじめていた、あの3人組のリーダーだった。他の2人もいる。
「あっ、お前達は……」
 サトシが声を上げた。その姿を見たシナも、少し怯えた表情を見せた。
「あんた達、昨日の……! それに『魔女』まで……!」
 そんな言葉を聞いたシナは、後ろに後ずさりした。一瞬、気まずい空気が漂った。
「……でも今は一時休戦よ! こいつらがいきなりここにやってきて、ガスをばらまくから追い払ってやろうって思ってるんだけど……」
「あのドガースが……!?」
 あたしは、改めてドガースの群れを見た。やっぱり、犯人はあのドガースだったって事なの!?
「そうか、あのドガースの群れが出す“スモッグ”が、風で町まで流されてきたって訳か……!」
 タケシがつぶやく。すると、真っ先にサトシが飛び出した。
「お前ら、ここのみんなが迷惑してるんだぞ!! すぐにここから出て行け!!」
 サトシがドガースの群れに向けて叫んだ。ピカチュウも、説得しようとドガースに話しかけている。でも、ドガースの群れは沈黙したまま、動く気配を見せない。それを見たシナが、何か気付いたような気配を見せた事には、あたし達は気付かなかった。
「おい、聞いてるのか!!」
 サトシはもう一度叫ぶ。でも、やっぱりドガースは反応を見せない。それどころか、1匹がサトシに向けていきなりヘドロを吐いた! “ヘドロこうげき”だ!
「うわわっ!!」
 サトシは慌てて後ずさりして、何とか“ヘドロこうげき”をかわした。
「サトシ!!」
 あたしは慌ててサトシの側に駆け寄った。
「くそっ、話を聞くつもりないのかよ……!」
 サトシはそう言って、また立ち上がった。
「ポチャマ!!」
 すると、ポッチャマがあたし達の前に堂々と出てきた。
「ポッチャマ?」
「ポチャッ!!」
 ポッチャマはあたしの前でポンと胸を叩いてみせると、ドガースの群れに体を向けた。今度はポッチャマが説得するつもり? でも、前も通せんぼしてたコダックを説得しようとして失敗してたし、ダイジョウブなのかな?
 そんな事を思ってる間に、ポッチャマがドガースの群れに話しかけ始めた。でも、すぐにまた、ポッチャマに向けて“サイケこうせん”が発射された!
「ポチャアアアアッ!!」
 もろに直撃だった。そのまま弾き飛ばされるポッチャマ。
「ああっ、ポッチャマ!!」
 あたしはすぐに、倒れたポッチャマを抱きかかえた。やっぱりダイジョバなかった……
「こうなったら、力ずくでも追い払ってやる!! 行けっ、ピカチュウ!!」
「ピッカ!!」
 ピカチュウが前に飛び出した。サトシの言う通り、もうこうなったら、戦って追い払うしかないみたい。
「ポッチャマ、あなたも行って!!」
「ポチャッ!!」
 あたしの指示で、ポッチャマも前に出た。
「ウソッキー、お前も行けっ!!」
 タケシもモンスターボールを投げて、ウソッキーを出した。3匹のポケモンがドガースの群れをにらむ。その時、「あっ……」とシナが小さな声を上げた事には、あたし達は気付かなかった。
「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 ピカチュウが先制攻撃を仕掛けた。飛んでくる電撃を前に、ドガースの群れはすぐにバラバラになった。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 そこに、ポッチャマが回転をかけながら“バブルこうせん”を発射! 何匹かのドガースにまとめて命中した! でも、それでもドガース達は怯まない。こっちに向けて、黒いガスを一斉に吐いた!
「うっ!!」
 辺りが黒いガスに包まれる。あたし達は反射的に口を塞いだ。でも、ポッチャマやピカチュウは吸っちゃったみたいで、ゲホゲホと咳き込んでいた。これが、“スモッグ”……! そうこうしている間に、ドガース達が一斉に反撃してきた! 一斉に飛んでくる“サイケこうせん”の弾幕。
「ポチャアアアアッ!!」
「ピカアアアアッ!!」
 弾幕をよけきれないで、“サイケこうせん”をもろに受けちゃったポッチャマ、ピカチュウ、ウソッキー。それでも、何とか持ちこたえてくれた。
「ウソッキー、“ものまね”だ!!」
 とっさにタケシが指示を出した。ウソッキーは“サイケこうせん”をコピーして、角からドガースの群れ目掛けて発射! 命中! 次々とドガース達をなぎ払っていく。エスパーわざの“サイケこうせん”は、どくタイプのドガースには効果抜群。これを“ものまね”すれば、有利に戦えるって訳ね!
「ピカチュウ、“アイアンテールだ”!!」
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 ピカチュウが群れの中に飛び込んで、縦横無尽に飛び交いながら尻尾で次々とドガース達を弾き飛ばしていく。でも、そこに別のドガース達が次々と飛んできて、反撃してくる!
(どうするのシナ? 加勢するなら、ボクも行くけど?)
 シェイミが、何か言いたげのシナにそんな事を話していたけど、シナは何も答えないままバトルを見ていた事には、あたし達は気付いていなかった。
 いくら攻撃してもキリがない。まだ攻撃を続けるドガースの群れ。次々と飛んでくる“ヘドロこうげき”の嵐を前に、ポッチャマもピカチュウもウソッキーも、逃げ回るばかり。
「くそっ、数が多すぎるぜ……!!」
 サトシが唇を噛んだ。これじゃ、いくらなんでも多勢に無勢。まともにやりあったら勝ち目がない。どうしたら……そうだ!
「なら、パチリス!!」
 あたしはすぐにモンスターボールを取り出して、素早く投げた。出てきたのはパチリス。
「……そうか! パチリスの“ほうでん”なら!」
 そう言ったサトシに、あたしはうなずいた。“ほうでん”は“じしん”や“なみのり”の同じように、周りの敵を一気に攻撃できるわざ。これを使えば、相手がどんなにいたって!
「パチリス、一気に追い払うわよ!!」
「チュパッ!!」
 パチリスはやる気充分。強い眼差しでドガースの群れをにらんだ。
「“ほうでん”!!」
「チュゥゥゥパ、リィィィィィッ!!」
 パチリスは思い切り電撃をドガースの群れ目掛けて発射! 散らばっていった電撃が、ドガースの群れに次々と命中! 一斉にしびれて、地面にドサドサと落ちていくドガース達。
「やったあ!!」
「いや、まだだ!!」
 あたしが声を上げた途端、タケシが叫んだ、すると、ドガースは“ほうでん”を受けて『まひ』しなながらも、まだフワリと浮き始めた。だけど、見るからに結構疲れている。これなら、きっと倒せる!
「でも、大分疲れてるみたいよ。これならいけるわ!!」
「よし! ピカチュウ、一気に行くぞ!!」
「ピッカ!!」
 サトシの声に合わせて、ピカチュウが身構えた。
「行くわよポッチャマ!!」
「ポチャッ!!」
「ウソッキー、行くぞ!!」
 ポッチャマとウソッキーも、ピカチュウの横に並んで身構える。そして、あたし達は攻撃の指示を出した。
「ポッチャマ……!!」
「ピカチュウ……!!」
「ウソッキー……!!」
「待って!!」
 すると、いきなりシナが前に飛び出してきて、ドガースも群れの前に立って、かばうようにあたし達の前で両手を広げた。
「シ、シナ!?」
 そんな行動にあたし達もドガースの群れも驚いた。
「このドガース達……悪さしようとしてここに来たん訳じゃないの!!」
「ええっ!?」
 シナの主張に、あたし達はまた驚いた。シナ、ドガース達をかばおうとしてる?
「……へんっ! また心を読んだのね? そんな事して、悪さするドガース達に味方するつもりなの?」
「……っ!!」
 3人組の女の子のリーダーは、またシナにいじめの目線を向ける。それに突き刺されたシナは、一瞬動揺して怯えた表情を見せた。そうか、シナは波導でドガース達の記憶を読み取ったんだ……
「お前は黙っていろ!!」
 サトシがすぐに3人組のリーダーにそう言い返した。
「シナ、どういう事なの? あたし達に教えて!」
「……」
 シナはうつむいたまま、しばらく黙っていたけど、シェイミの視線に気付いて口を開いた。
「このドガース達……すみかを追い払われたのよ!!」
「すみかを追い払われた!?」
 シナの言葉に、あたし達は驚いた。
「このドガース達は、元々違う場所に住んでいたみたいなの……でも誰かが、そこを荒らして、ドガース達を追い払っちゃったみたいなの……」
 シナはドガースの群れに振り向いてそう言った。
「それで、やむなくここに逃げてきた、って事なのか?」
 タケシが聞くと、シナはコクンとうなずいた。
「だから何だっていうのよ!」
「そんな事言ったって、ここにいていい理由にはならないじゃない!」
「ガスが**事は変わりないからね!」
 3人組が次々とシナに言葉を浴びせる。シナはまた怯えた表情を見せたけど、さっきと違って踏み止まって、話を続けた。
「だから……その原因を調べて、すみかに返してあげたいの!!」
 シナの主張を聞いて、3人組は驚いて言葉を失った。
「ヒカリもサトシもタケシも、このドガース達と戦うのはやめて!!」
 その視線は、あたし達にも向いた。その眼差しには今までとは違う、何か強い意志と力を感じた。
「あ、ああ……」
「ピカ……」
 サトシは拳を作っていた両手の力を抜いた。ピカチュウも、そっと後ろに下がった。
「そうだったのね……」
「ポチャ……」
 あたしも納得して、ポッチャマとウソッキーも、ピカチュウと一緒にそっと下がった。
(……やっとその気になったみたいだね)
 しばらく目を丸くしていたシェイミは、そんな事をつぶやいていた。
「でも、あんた1人で何ができるっていうのよ?」
 3人組のリーダーが、シナにまたきつい言葉を浴びせた、それにギクッとした表情を見せるシナ。
(シナは1人なんかじゃない!)
 その時、シナの足元でシェイミがテレパシーで叫んだ。
「シェイミ……!?」
 シナが目を丸くした。
(言ったでしょ、シナが望むならいつでも力になってあげる、ってさ)
 シェイミの言葉に、シナは「シェイミ……」としか言葉が出なかった。
「そうよ、あたし達だって、協力してあげるよ!」
「原因がわかったなら、それを突き止めるしかないよな!」
「ピカ!」
「ポチャマ!」
 あたしとサトシも、シナの前に出てそう言った。
「みんな……!」
 みんなの表情を見たシナは、嬉しそうな表情を見せた。
「とにかく、事態は一刻を争うぞ。すぐにドガース達のすみかに行かなきゃならないぞ」
 タケシが言った。それに、あたし達ははっきりとうなずいた。そして、サトシが真っ先にドガースの群れの前に向かった。
「みんな、ごめんな、お前達の事情を知らないで、追い払おうとなんかしちゃって。俺達は、お前達のすみかに行って何があったのか調べたいんだ。誰か、そこまで案内してくれないか?」
 サトシがピカチュウと一緒にそう呼びかけると、ドガース達は何やら話し合うようなしぐさを見せると、1匹のドガースがサトシの前に出てきた。
「お前が、案内してくれるのか?」
 サトシが聞くと、そのドガースはコクンとうなずいた。
「ありがとな。じゃあ、早速案内してくれるか?」
 サトシが言うと、ドガースはすぐにスッと動き出した。
「行こうぜみんな!」
「ええ!」
 あたし達は、すぐにドガース達の後を追いかけて行った。
「他のみんなは、ここで少し待っててくれ!」
 タケシは一旦振り向いて残ったドガースの群れにそう言うと、すぐあたし達の後を追いかけた。
 そんなあたし達の後ろ姿を、3人組はポカンと見つめていただけだった。

 * * *

 ドガースに導かれて、花畑を出て森の中を進んでいくあたし達。もう結構森の中を進んでいる。もうかなり森の置くまで歩いた気がする。
「ねえ、まだ着かないの?」
 あたしは思わず、そう愚痴った。すると、ドガースがこっちを向いた。
(もうそろそろみたいだよ)
 シェイミが代わりにあたしに答えた。
 すると、目の前の視界が開けた。そこには、ぽっかりと開いた大きな洞窟があった。その前で、ドガースが何か主張している。
「どうやらここみたいだな」
 タケシがつぶやいた。
「は……っ!!」
 その時、シナが何かに気付いたような素振りを見せた。
「どうしたの?」
「何か……この中にいる……!」
「何か……?」
「それも、自然のものじゃない……悪意を持った誰かが……!」
 シナは暗い洞窟の奥を見つめながら、はっきりとそう言った。シナは、波導でこの中にいる何かを感じ取ったんだ……! この中に、ドガース達を追い払った何かがいる……!
「でも……」
 シナが急に、怯えた表情を見せた。悪意を感じ取って、怖くなったのかもしれない。
「ダイジョウブ。あたし達がいるから」
 あたしはシナに優しく声をかけた。
「ヒカリ……」
「それに、シナにはシェイミだっているじゃない」
「あ……」
 シナははっとして、足元にいるシェイミに目を向けた。
(『たった1人の友達』って言ってたボクを忘れてたって言うの?)
 シェイミは、顔を上げてシナに笑みを浮かべた。その笑みを見たシナの表情が緩んだ。
「そうだった、ね……」
 シナの顔に、笑みが戻った。そんなシナの表情を見て、あたしも安心した。
「よし、じゃあ行こうぜ!」
「ええ」
 あたし達のやる事は1つだった。あたしは気を引き締めた。
「お前はここで待っててくれ」
 サトシが、案内してくれたドガースにそう言った後、あたし達は1歩1歩、ゆっくりと洞窟の中に進んで行った。
 そんなあたし達を、ドガースはただ心配そうに見送るいだけだった。

 * * *

 暗い洞窟の中を進んでいくあたし達。意識してたてようとしなくても、コツコツとあたし達の足音が洞窟中に響く。ズバットとか飛んでいてもおかしくないような場所なのに、ポケモンの影は1つも見当たらない。何だか不気味。
 そんな洞窟をそのまま進んでいくと、進んでいく先から、何だかガガガガと何かの音が聞こえてきた。工事現場で聞こえるような、何かを掘るような音だった。
「何、この音……?」
「近い……もう近くまで来てる……」
 シナは、その先にいる『何か』が近い事を波導で捕らえていたみたい。まさかその『何か』が、この音を……?
「行こうぜ、みんな!!」
 サトシが、真っ先に駆け出した。あたし達もすぐに、サトシの後を追いかけた。

 洞窟の中を走っていくと、音はどんどん大きくなっていく。そしてとうとう、耳をつんざくほどまで音がうるさくなってきた時、あたし達の視界に何かが映った。
「あっ!!」
 それを見たあたし達は、思わず足を止めた。
 そこにいたのは、2階建ての建物くらいはありそうな、茶色の大きなロボットの背中だった。両手は大きなドリルになっていて、それを使って穴を掘っていたんだから!
 あのロボット、一体何なの!? あれが、ドガースを追い払った張本人なの!?


NEXT:FINAL SECTION

[712] FINAL SECTION シナ、旅立ちの時!
フリッカー - 2008年10月02日 (木) 18時42分

 洞窟の中を走っていくと、何かを掘る音はどんどん大きくなっていく。そしてとうとう、耳をつんざくほどまで音がうるさくなってきた時、あたし達の視界に何かが映った。
「あっ!!」
 それを見たあたし達は、思わず足を止めた。
 そこにいたのは、2階建ての建物くらいはありそうな、茶色の大きなロボットの背中だった。両手は大きなドリルになっていて、それを使って穴を掘っていたんだから!
「何なのあのロボット!?」
「あいつが、ドガース達を追い払った奴なのか!?」
「……うん! ドガース達の記憶にも、あんな形のロボットがいた!」
 あたしとサトシの言葉を聞いたシナは、はっきりとうなずいた。理由はわからないけど、このロボットが勝手に洞窟を掘っていたから、ドガース達が逃げ出したんだ!
「まさかあのロボット、この場所を壊して何かする気なのか!?」
 タケシが叫んだ。
「なら、あのロボットを止めないと!!」
「ああ!!」
 あたしは、すぐにモンスターボールを手に取って、身構えた。サトシの肩にいたピカチュウもサッと飛び出した。


FINAL SECTION シナ、旅立ちの時!


「ミミロル、“れいとうビーム”!!」
 あたしは手に取ったモンスターボールを思い切り投げた。中から飛び出してきたのは、ミミロル。
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
 ミミロルは、“れいとうビーム”をロボットに向けて発射! 命中! ロボットの体はたちまち凍りついて、動きがゆっくりと止まって行った。
「行け、ピカチュウ!! “10まんボルト”だ!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 そこに、ピカチュウの“10まんボルト”が炸裂! 命中! でも、手応えがない。電撃をくらっても、ロボットは壊れる事も爆発する事もなかった。
「何!?」
 驚くサトシ。そんな時、ロボットの動きを封じ込めていた氷が、音を立てて割れ始めた。そして遂にはバリンとロボットは強引に氷を打ち破った!
「そんな!?」
 あたしも驚いて声を上げた。そして、ロボットはこっちに振り向いた。大きな真ん中の1つ目が、ギョロリと光る。
『邪魔しないでよ、ジャリンコ共!!』
 その時、いきなりスピーカーから声が響き渡った。聞き慣れた女の人の声。
「ま、まさかお前は……!!」
 サトシが声を上げた。すると、ロボットの頭の部分のハッチがパカッと開いた。そして、あの聞き慣れたフレーズが聞こえてきた。
「『ま、まさかお前は……!!』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役はあたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。
「ロケット団!!」
 あたし達は声を揃えた。
「せっかくこの『穴掘りマシーン・秘密基地つくーる1号』で、これから秘密基地を作ろうとしてたのに!!」
 コジロウが叫んだ。
「ここで勝手に穴を掘るのはやめろ!!」
「そうよ!! あんた達のせいで、ここにいたドガース達が迷惑してるのよ!!」
「ここにいたドガース? そんなの知らないわよ! 人のものはあたしのもの、あたしのものもあたしのものなんだからね!!」
「有用と判断したものは、どんなものでも奪い取る。それが我らロケット団なのだ!!」
 サトシとあたしが言い返しても、ムサシもコジロウも聞く耳を持たない。ホント、ムカつく奴らね……!
「ニャース、何とかしてあいつを追い払えないの?」
「任せるニャ! この『穴掘りマシーン・秘密基地つくーる1号』には、秘密基地ができた後もポケモンゲット用のメカとして使えるように造ってあるのニャ!!」
 ムサシの質問に、堂々と胸を張って答えるニャース。
「おおっ! さすがニャース!! リサイクルも考えてるんだな!!」
「秘密基地を作るためだけのメカじゃ、もったいニャいからニャ」
「そうと決まったら、早速行動開始よ!!」
 そんなやり取りをすると、ロケット団はまたロボットの中に入って、ハッチを閉めた。ロボットがまた音を立てて動き始める。
「受けて立つぜ!! ピカチュウ、“アイアンテール”だ!!」
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 真っ先にサトシが動いた。ピカチュウは雄叫びを上げながら、ロボットに飛び込んで尻尾をお見舞いした! でも、その一撃は、あっさりロボットのボディにはねかえされちゃった!
「“アイアンテール”が効かない!?」
 サトシは驚きの声を上げた。反転して戻ってくるピカチュウ。“アイアンテール”が当たった場所には、傷1つ付いていなかった。
「ウソッキー、“すてみタックル”だ!!」
 タケシがモンスターボールを投げた。出てきたウソッキーは、全速力でロボットに向かって突撃していく! でも、思い切りぶつかって弾き飛ばされたのは、ウソッキーの方だった。
「ミミロル、“ピヨピヨパンチ”!!」
「ミミィィィィッ!!」
 負けじとミミロルも“ピヨピヨパンチ”でロボットのボディを連続で殴りつける。でも、どんなに叩いてもガンガンと音が響くだけで、全然手応えがない。とうとうミミロルは、耳の拳を痛めちゃって、下がるはめになった。
『ニャハハハハ!! この「穴掘りマシーン・秘密基地つくーる1号」は頑丈に作られているのニャ!! そう簡単には壊す事はできないのニャ!!』
 ニャースの高らかな笑い声がスピーカーで響く。
『さあ、次はこっちの番だ!!』
 今度はコジロウの声が響いたと思うと、両手のドリルが音を立ててうなり始めた。そして、そのドリルを思い切り3匹に向かって振った!
「危ない!!」
 サトシの一声で、3匹は慌てて逃げてドリルをよけた。地面に突き刺さったドリルは、地面に大きな穴を開けた。あんなものまともにくらってたら、穴が開くどころじゃない! あたしの背筋が凍りついた。
「ポッチャマ、“うずしお”よ!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 何とかして動きを止めないと! あたしはポッチャマに指示を出した。ポッチャマは“うずしお”を作り出して、それをロボットに向けて力強く投げつけた! これならあんなロボットだって……! って思ったけど、ロボットはドリルを突き出して、“うずしお”を紙きれのように簡単に引き裂いちゃった!
「そんな……!?」
『無駄よ無駄よ!! そんなへなちょこな攻撃が通用すると思ってたのお!?』
『そうさ!! 我らのドリルは、天を衝くドリルなのだーっ!!』
 ムサシとコジロウが高らかに叫んだ。「て、天を衝くドリルって……」ってあたしは思わずつぶやいちゃった。
『そんな訳で、そろそろポケモンをいただくのニャ!!』
 ニャースの声が響いたと思うと、ロボットの胸の小さなハッチが開いて、そこから4本のマジックハンドが素早く伸びて、ポッチャマ達を簡単に捕まえた!
「ポッチャマ!! ミミロル!!」
「ピカチュウ!!」
「ウソッキー!!」
 あたし達は、すぐに別のモンスターボールを出して助けようとした。
『さらに“でんじは”ビーム照射なのニャ!!』
 すると、今度は両肩から弱い電撃がこっちに飛んできた!
「きゃああっ!!」
 あたし達は、その電撃に捕まっちゃった! 体中を走る電撃。電気そのものはあまりつよくないけど、体がしびれて、動けない……! これって、“でんじは”……!?
「みんな……!!」
 ただ1人、後ろで見守っていたシナが、声を上げた。
『何だかいい感じじゃな〜い!! ニャース、ここは1発、カッコよく決めちゃってよ!!』
『ほいニャ!!』
 そんなやり取りが聞こえたと思うと、ロボットのドリルの回転速度が上がった。あまりの速さに、赤い火花まで出ている。まさか、あれであたし達を……!? そう思うと、背筋が凍りついた。
「く、くそっ、このままじゃ……!」
 サトシが唇を噛んだ。もう完全に絶体絶命。このまま、あたし達は、あのドリルに……!
『必殺!! ギガァ〜〜〜〜ッ!! ドリルゥ〜〜〜〜ッ!!』
 ニャースが訳のわからない事を叫んで、ロボットがあたし達にドリルを向けた、その時!
「シェイミ、ロボットのお腹に“タネマシンガン”!!」
「ミィィィィィィッ!!」
 突然、そんな声が聞こえたと思うと、あたし達の間を、後ろから“タネマシンガン”が飛んできた。そしてその“タネマシンガン”はロボットのお腹に命中! 今までのように弾かれると思ったら、お腹に次々と穴が開いて、遂には爆発! そのせいで、ロボットがよろけて、ドリルの回転が止まった。そして、あたし達を捕まえていた“でんじは”も消えた。マジックハンドの力も緩んで、ポッチャマ達も自由になった。
「い、今のは……」
 振り向いてみるとそこには、今までバトルに夢中ですっかり存在を忘れていた、シナとシェイミの姿が! そのシナの目付きから、今まで見たシナとは違う、何か強いものを出しているように見えた。
「シナ……」
「どうしてロボットにダメージを!?」
「あのロボットの弱点はお腹なの!! あの部分だけ、もろい部分なのが見えたの!!」
 シナはあたし達の側にきて、力強くそう言った。まるでさっきまでのシナはどこか行っちゃったような、そんな感じの強い声だった。改めて見てみると、煙を出しているロボットのお腹は、蛇腹のようになっていた。その部分は、見るからにやわらかそうだった。
『お、おい見ろ!! ありゃ、シェイミじゃないか!!』
 スピーカーで、コジロウが声を上げた。シェイミを見つけたみたい。
『さっきはよくもやってくれたわね!! ニャース、あのシェイミをゲットしちゃってよ!!』
『ほいニャ!!』
 そんなやり取りが聞こえたと思うと、マジックハンドがシェイミに向かって素早く伸びていった!
「危ない、シェイミ!!」
「シェイミ、わざと捕まって!!」
(うん!!)
 あたしの思いとは裏腹に、シナはそんな指示を出した。シェイミは指示通り、伸びてきたマジックハンドに一切抵抗しないで捕まった。そしてそのまま、マジックハンドはロボットの中へと吸い込まれて行っちゃった!
「ああっ、シェイミが!!」
「いいの、これで」
 焦るあたしに、シナは落ち着いた様子であたしに言った。え、これでダイジョウブなの? 何か作戦でもあるの?
『何よ、あっさり捕まっちゃったじゃない!!』
『これをボスにプレゼントすれば……!!』
『幹部昇進!! 役員就任!! いい感じ〜っ!!』
 スピーカー越しにロケット団が喜びの声を上げた時、突然ドン、と大きな音がして、ロボットが一瞬、膨らんだように見えた。まるで、中で何かが爆発したように。すると、ロボットは体のあちこちから黒い煙と火花を出して、そのままゆっくりと背中からガシャンと倒れた。
「えっ!?」
 何が起こったのか、あたし達にはわからなかった。すると、マジックハンドが隠れていたハッチが開いて、中からシェイミが顔を出して、「フィー」と一息ついた。その花はさっきまでと違って元のピンク色に戻っていた。
「シェイミ!?」
「中身の方がもろいのが見えたから、わざと捕まえさせて、“シードフレア”をさせたの」
「……そうか!! そういう事だったのね!!」
「シナ、やるじゃないか!! さすが波導使いだぜ!!」
 シナの説明に、納得してあたしとサトシは思わず声を上げちゃった。それを聞いたシナは照れて少しだけ顔を赤くした。
「くっ……やってくれるじゃないの……シェイミ……ッ!!」
 すると、ロボットのハッチの中から、黒こげになったロケット団がヌッと姿を現した。
「こうなったら、力ずくでもゲットしてやるわよ!! 行くのよ、ハブネークッ!!」
 怒ったムサシは、すぐにモンスターボールを投げて、ハブネークを出した。
「マスキッパ、お前もだっ!!」
 コジロウも続けてモンスターボールを投げた。でも、出てきたマスキッパはいつものように……
「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」
 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。
「ハブネーク、“ポイズンテール”!!」
「シェイミ、“ポイズンテール”が来る!!」
 ムサシの指示と、シナの指示はほとんど同時だった。シナの所に戻ろうとしていたシェイミは、自分の後ろからハブネークが迫っている事に気付いた。でも、気付くのが遅かった。
「ミィィィィィィッ!!」
 ハブネークの尻尾の一撃が、シェイミに直撃! 効果は抜群! たちまち弾き飛ばされるシェイミ。
「マスキッパ、“タネマシンガン”だ!!」
 続けてマスキッパも攻撃してくる。倒れていたシェイミは、“タネマシンガン”の雨をよける事ができなかった。“タネマシンガン”の雨に打たれて、耐えるしかないシェイミ。
「ああっ、シェイミが!!」
 このままじゃ、シェイミが危ない! あたしがすぐにポッチャマを呼んで、助けようとした。でも、それよりも早く、シナが駆け出した。
「お、おいシナ!!」
 サトシが呼び止めても、シナは止まらなかった。シナ、何をする気!? まさか、体を張って……!?
「何よ、大した事ないじゃない! ハブネーク、もう一度“ポイズンテール”!!」
 ムサシの指示で、ハブネークは“タネマシンガン”が止んだ所を見計らって、もう一度尻尾を振りかざしてシェイミに躍りかかる!
「シェイミ!!」
 すると、シェイミの側まで走ってきたシナは、髪に刺していたグラシデアの花を抜いて、それをシェイミに向けて投げた。動けないシェイミの側に、音もなく落ちるグラシデアの花。すると、シェイミの体が急に光り始めた。あれって……?
 それをよそに、ハブネークは動かないシェイミに尻尾を容赦なく振りおろした! でも、その尻尾の一撃は、空しく空を切った。そこに、シナが投げたグラシデアの花だけ残して、シェイミの姿は消えていた。
「え!? な、何!?」
「消えた!?」
 ムサシとコジロウは動揺して、辺りを見回した。ハブネークも、辺りをおろおろと見回す。すると、何かの影がハブネークの上を素早く通り過ぎた。その影は、明らかにジャンプとかじゃなくて、完全に空を飛んでいた。
「な、何!? 今の!?」
「マ、マスキッパ、“タネマシンガン”で撃ち落とすんだ!!」
 慌てて指示を出したコジロウ。マスキッパは影に向かって“タネマシンガン”を撃つけど、影の動きの素早さについて行けない。
「は、速い!?」
「“でんこうせっか”!!」
 その時、シナが力強く指示を出した。影は、スピードを上げてマスキッパに体当たり! 直撃! たちまちマスキッパはコジロウの前に弾き飛ばされた。
「あ、あれは……!!」
 タケシがつぶやいた。ようやくあたし達の前で宙に浮いたまま、動きを止めた影。それは、大きく姿を変えたシェイミだった。大きさはそれほど変わってないけど、足はさっきよりも長く延びて、大きくなって突き出した頭からは白い羽が生えている。そして、はっきりと形が見えるようになった首には、風にたなびくスカーフのように形を変えた赤い花がついている。顔も大きくなって、その表情もさっきまでのかわいらしい表情から、凛々しい表情へと変わっていた。その姿に、さっきまでのシェイミの面影はほとんど残っていない。まるで、全く別のポケモンになったかのように。
「な、何あれ!? 進化したの!?」
 その姿を見たムサシは、驚きの声を上げた。
「スカイ、フォルム……!!」
 あたしはつぶやいた。
 スカイフォルム。それは、グラシデアの花粉が体に付く事で変わる、シェイミのもう1つの姿。今までの姿、ランドフォルムからこのスカイフォルムになると、ひこうタイプがついて、空も飛べるようになるの。シェイミは、このスカイフォルムになって空を飛んで、種を運ぶ事で、遠くの土地にもグラシデアの花を咲かせられるんだって。これが『花運び』。あの時も、たくさんのシェイミがスカイフォルムになって空を飛んでいく姿は、本当にきれいだった。まさに『氷空(そら)の花束』。でも夜になったり、氷に触れちゃったりすると、ランドフォルムに戻っちゃうみたい。
(ありがとう、シナ。あのままだったら、あの攻撃をよけられなかったよ)
 シェイミは、シナに顔を向けてテレパシーでそう言った。
「私、戦うって決めたから。ここにいるみんなのために……追い出されたドガース達を助けるために……!」
 シナは落ちたグラシデアの花を拾って、また髪に刺すと、強い眼差しで、シェイミを見つめながら答えた。
「シナ……!!」
 あたしは嬉しくなった。あそこまで強気なシナを見たのは、初めてだったから。今のシナは、昨日までのシナじゃない。生まれ変わったシナなんだ!
「だからシェイミ、私に力を貸して!!」
(もちろんだよ!!)
 シナの強い思いを感じ取ったシェイミも、強く答えて、正面に向き直った。
「何よ!! どんな手品か知らないけど!! ハブネーク、“ポイズンテール”!!」
 ムサシが怒ってハブネークを向かわせた。シェイミに向かって飛びかかってくるハブネーク。
「右から振ってくる!!」
(よけてみせるよっ!!)
 ハブネークが尻尾を振る前に、シナは指示を出していた。それに答えて、シェイミは上昇した。シナが言った通り、ハブネークは尻尾をシェイミから見て右から振った。それを難なくかわしてみせたシェイミ。
「今度はマスキッパが来る!!」
(あいよっ!!)
「マスキッパ、“かみつく”だ!!」
 シナが指示したのとほぼ同時に、ちょうどマスキッパがコジロウの指示でシェイミに狙いを定めて、飛びかかってきた。不意打ちをかけようとしたのかもしれないけど、シェイミはシナの指示のお陰ですぐに気付いた。
「“サイコキネシス”!!」
「ミィィィィィィッ!!」
 シェイミがマスキッパを正面に捕えて念じると、飛びかかろうとしたマスキッパの動きが簡単に止められた! 慌てて手をジタバタさせるマスキッパ。
「ハブネークが来る!!」
(任せて!!)
「ハブネーク、“かみつく”攻撃!!」
 シナが指示したのと同時に、ハブネークがキバを剥いてシェイミに飛びかかってきた!
「ミィィィィィィッ!!」
 シェイミは“サイコキネシス”で捕まえたマスキッパを、飛びかかってくるハブネークに思いきり投げ飛ばした! 不意を突かれたハブネークは、飛んできたマスキッパと衝突! たちまち折り重なって地面に落ちた。
「シナ、凄い……!!」
 あたしはそんなシナとシェイミの息の合ったバトルを見て、思わずそうつぶやいちゃった。
「おい、何だか俺達の動きが読まれてる気がしないか……?」
「そんなの気のせいよ!! 相手が超能力者だとでも言うの!? こうなったらハブネーク、“くろいきり”よ!!」
 コジロウの言葉を聞き流して、ムサシは指示を出す。ハブネークは口から黒い煙を吐いた。煙は、シナとシェイミを飲み込んで、視界を奪っていった。
「うっ……」
 シナもシェイミも、急に視界が奪われて、戸惑っている。“くろいきり”は、ロケット団が逃げる時によく使うわざ。まさかこのまま逃げるつもりなの!?
「くそっ、見えねえ……!!」
「シナ、気をつけて!!」
 あたし達が叫んだ。ロケット団が動いたような気配は見せない。やっぱり、逃げたのかな……? いや、それとも、どこからか不意打ちしてくるのかも……
 じりじりと過ぎていく時間。何か動いたような気配は全然ない。シナとシェイミも動きを見せない。シナは、何かを感じ取っているかのようにも見える。
「……!!」
 その時、シナが何かに気付いた様子を見せた。
「シェイミ、上昇してすぐ“エアスラッシュ”!!」
(わかった!!)
 シナが、急に指示を出した。シェイミが素早く上昇したのと同時、“くろいきり”が晴れた。その時、シェイミの横から挟み撃ちにしようとしてるハブネークとマスキッパが見えた!
 でも、シェイミが上昇したせいで、ハブネークとマスキッパは正面から激突。そのまま倒れちゃった。
「ミィィィィィィッ!!」
 そこに、シェイミが小さな羽根を力強く振って、空気の刃を真下に発射! 直撃! たちまち弾き飛ばされたハブネークとマスキッパは、ムサシとコジロウの所に吹っ飛ばされて、ムサシとコジロウもろとも折り重なって倒れた。
「今よ!! “シードフレア”!!」
「ミィィィィィィ……ッ!!」
 すると、シェイミの首の花が光り始めた。そしてシェイミは、ロケット団目掛けて真っ直ぐ突撃していった!
「え、ちょ、ちょっとこれって……」
「まさか……」
「ミィィィィィィッ!!」
 嫌な予感を感じたロケット団の目の前で、シェイミは“シードフレア”を炸裂させた! まばゆいばかりの緑色の閃光が、あたし達の視界を飲み込んだ。こっちにも強い爆風が飛んできて、あたし達は反射的に顔を腕で遮った。閃光が治まると、そこにロケット団の姿はなかった。
「よう……お前ら……満足か……? こんな、やられ方で……」
「へ?」
「俺は……嫌だね……」
「それはこっちだって同じよっ!!」
「やな感じ〜っ!!」
 ロケット団は洞窟を突き破って吹っ飛ばされて、そのまま空の彼方へと消えていった。

 * * *

 ロケット団との戦いが終わってしばらくした後。
 あたし達は花畑に戻って、嬉しそうに元のすみかだった洞窟へと帰っていくドガース達の群れを見送っていた。
「元気でな〜っ!!」
「みんなで仲良くするのよ〜っ!!」
 手を振ってドガース達を見送るあたし達。ドガース達が見えなくなったのを確かめて、あたし達は降っていた手を下ろした。
「とりあえずは、これで一件落着だね。あんた達凄いよ、この事件を解決してみせるなんてさ」
 花畑に残っていた3人組のリーダーが、あたし達に言った。
「いいや、俺達は何もしてない、がんばったのは波導で事件のカギを見つけてくれたシナさ」
 サトシがそう言って、シナに顔を向けた。
「あっ……」
 そう言われたシナは、少し戸惑った表情を見せた。3人組の視線も、シナに向いた。一瞬、あたしはまたシナに何か悪口を言うのかと思ったけど、それは『いい意味で』裏切ってくれた。
「そうだったのね……やるじゃない、さすがは『魔女』だね」
「それだったら、あんたきっと超能力捜査官になれるよ!」
「見直しちゃったよ、あんた町の英雄だよ!」
 3人組が笑みを見せて、そんな優しい言葉をシナにかけた。
「えっ……!?」
「今まであたし達、あんたをいじめてたけど、これからはあたし達があんたをいじめる奴を懲らしめてやるよ。ね、みんな?」
「ええ!!」
 リーダーの言葉に、他の2人はすぐにうなずいた。
「みんな……!!」
 シナは嬉しそうな表情を見せた。その瞳から、嬉し涙が少しだけ光っていた。
「よかったな、シナ」
「いじめっ子達と仲直りできたじゃない」
 あたしとサトシも、そう声をかけた。
「うん……みんなのお陰……ありがとう……私、死なないでよかった……!!」
 シナは目に溜まった嬉し涙を拭いて、はっきりした声で答えた。
「雰囲気を壊すようですまないが……」
 そんな時、タケシが気まずそうな様子で、あたし達に声をかけた。
「事件は解決したとしても、このグラシデアの花畑は、すぐに元通りという訳にはいかないだろうな。元通りになるには、相当の時間が必要だろう……」
 そう言って、タケシは花畑に視線を向けた。改めて見てみると、見るも無残な姿のままの花畑が、あたし達を現実に引き戻した。ドガースがいなくなった後も、まだ少しガスは漂ってるし、花も枯れ果てたまま。そうだよね、ドガースがいなくなっても、この花畑がすぐに元通りにはならない。元に戻すには、きっと何年もかかるだろうなあ……あたしは何だか、寂しい気分になった。
「そうだね……この花畑、この町のシンボルみたいなものだったのに……」
 3人組のリーダーが、しょんぼりとした表情を見せた。でも、シナとシェイミは、顔を合わせて笑顔を見せた。
「シェイミ」
(うん、任せて!!)
 すると、シェイミが急に枯れ果てた花畑の中に飛び込んだ。花畑の真ん中辺りまで来て、シェイミは足を止める。
「ミィィィィィィ……ッ!!」
 何をするの、と思ってたら、シェイミの花が光りだして、周りに残ったガスを次々と吸い取っていく。周りのガスを全部吸い取って、真っ黒になる花。
「ミィィィィィィッ!!」
 そしてそれを、“シードフレア”にして思いきり炸裂させた。バトルの時とは違う、暖かくて、優しい印象の光が、パアアアアっと花畑を包んだ。
 すると、花畑の花が、みるみる内に力を取り戻していく。茎はゆっくりと空に向けて立ち上がって、ついにはピンク色のきれいな花が、またきれいに咲き始めた。さっきまで荒れ果てていたのがウソのように、花畑はたちまち最初に見た姿を取り戻していた。
「す、凄ぇ……」
「そういえば、シェイミは大気の毒素を分解して、荒れた大地を一瞬にして花畑に変える力を持つ、って聞いた事があったな……」
「これが、シェイミの力……」
 その幻想的な風景に、あたし達はそんな事しか言葉が出なかった。
 風でグラシデアの花がなびいて、ピンク色の花びらが宙を舞った。そして、また心地よい匂いが辺りに漂い始めていた。

 * * *

 次の日。
 出発しようとしていたあたし達の前に現れたシナは、なぜか手提げカバンを両手で持っていた。
「シナ、どうしたの、そのカバン?」
「私、旅に出るの。目標を見つけたから」
 あたしの質問に、明るい表情を見せて答えるシナ。
「目標って何なんだ?」
「私の波導が見える力を、人に役に立てる事なの!」
 サトシの質問に、今まで見せた事がなかった、満面の笑みを見せて答えた。その表情に、出会った時のシナの姿は、完全になかった。
「いい目標じゃないか!」
「なら、あとはがんばるだけだな!」
「シナなら絶対できるよ!」
 そんなシナの夢を聞いたあたし達の表情にも、自然と笑みが浮かんだ。
「ありがとう、みんな。あと、これ」
 シナは一旦カバンを下ろして、カバンから何かを取り出した。それは、グラシデアの花。3輪ある。それを、シナは両手であたし達に差し出した。
「私から、みんなにお礼の気持ち。ブーケはちょっと用意できなかったけど……」
 そっか、グラシデアの花は感謝の気持ちを伝えたい人にプレゼントするんだったっけ。あたし達は、少し嬉しくなった。
「ありがとう」
 あたしはそう言って、グラシデアの花を1輪受け取った。
「いや、どういたしまして、って言った方がいいのかな?」
「そうかもな。どういたしまして」
 そう言いながら、サトシとタケシも、グラシデアの花を1輪ずつ、受け取った。
「じゃ、私、行くね。行こうシェイミ!!」
(うん!!)
 シナはあたし達に背中を向けると、頭に刺したグラシデアの花を、そっとシェイミに近付けた。すると、シェイミの体が光って、スカイフォルムになって力強く空に飛び上った。それを追いかけて、シナも元気よく駈け出して行った。
「元気でね〜っ!!」
「体に気をつけてな〜っ!!」
「また会ったら、俺とバトルしような〜っ!!」
 あたし達も、手を振って見送った。それに、シナもシェイミも走りながら左手を振って答えてくれた。

 * * *

 よ〜し、あたしもシナに負けてられない! カンナギのコンテストにむけて、がんばらなくっちゃ!

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY21:THE END

[713] 次回予告
フリッカー - 2008年10月02日 (木) 18時43分

 あたしが出会った、ポケモンコーディネーターの女の子、セレア。

「あっ、ヒカリさん!!」
「ハルナ、この人は?」
「アタシはセレアって言うの! わぁ、このエテボース、かわいいなぁ!」

 セレアは自分のエイパム、ユイユイを進化させて欲しいって言うけど……

「ユイユイ、しっかりやらなきゃダメでしょ!」
「……」
「何だかちょっと暗い感じね……」

 ユイユイはどうしてあんなに暗いんだろう……?

「だ〜め! 一度決めた事は、最後までやるの! そうじゃなきゃ絶対イヤ!! ニーナのためにも……!!」
「ちょっと、ニーナって誰なの!?」

 NEXT STORY:約束の進化

「そんな事があったんだ、ユイユイに……」

 COMING SOON……



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