[677] FINAL SECTION サトシの思い! ヒカリの思い! |
- フリッカー - 2008年09月13日 (土) 18時57分
ヒカリッ!! しっかりしろ!! ヒカリッ!!
そんな……やめてくれよ……まだ、コンテストのリボン2つしかゲットしていないじゃないか……っ!! グランドフェスティバルにだって、まだ行ってないじゃないか……っ!! せっかく復活優勝できたのに……ここで終わっちゃうなんて……ママみたいなトップコーディネーターになれないまま、終わっちゃうなんて……空しすぎるじゃないか……っ!! 自分で『まだ、こんな所でおしまいになんかしたくない』って言っといて……おしまいになるなんて……おかしすぎるじゃないか……っ!!
俺は……こんな形で……ヒカリとの旅を終わりにしたくないんだ……っ!! 俺だけ助かって、ヒカリがいなくなるなんて嫌なんだ……っ!! 俺は……まだヒカリと一緒に……旅がしたいんだ……っ!! だからヒカリッ!! 死なないでくれっ!! 目を開けてくれっ!!
俺は……ヒカリが……ヒカリが……ヒカリが………っ!!
FINAL SECTION サトシの思い! ヒカリの思い!
何かが、あたしの体中に流れ込んでくる。よくわからないけど、何だか太陽の光のような、暖かくて、優しい『何か』が波のように体中に降り注いでいるように感じる。すると、何だか少しずつ、少しずつだけど体に力が戻ってくる。これは、何……? その『何か』は、少しずつだけど強くなっているように感じる。この『何か』が、あたしに力をくれる……あたしは、それを受け入れる。その『何か』は少しずつあたしの体に流れ込んでいくと、あたしの体にどんどん力がみなぎってくる……
「ヒカリッ……ヒカリッ……ヒカリッ……」 目の前が明るくなると、誰かのあたしの名前を呼びながら、泣いている声が聞こえてくる。聞き慣れた声。あたしの頬に、何か冷たいものがポタリ、ポタリと落ちていくのを感じた。 目の前に、誰かの顔が映る。最初はぼやけていた顔に、ゆっくりとピントが合っていく。そこには、今まで見た事もないほどに涙をあたしの頬にこぼしながら泣いている、見慣れた顔だった。 「サ、トシ……?」 あたしが声を出すと、サトシは驚いた様子であたしの顔を見た。 「ヒカリ……!! よかった……よかった……っ!!」 すると、サトシは涙目のまま、あたしの上半身を持ち上げて、思い切りあたしを抱き締めた。あたしは、ようやくどんな場所にいたか理解した。あたしが今いるのは、森の中の川辺。そこに、あたしは横になっていた。そこには、安心した表情を見せたあたしのポケモン達、サトシのポケモン達の姿もあった。 「ヒカリがいなくなったら、どうしようかと思ったよ……」 泣きながらそう言うサトシは、あたしを抱く力をさらに強くした。 「サトシ……」 サトシが、あたしを助けてくれたんだ。サトシの言葉で表しようのない優しさに包まれて、あたしは安心感を持った。 「不思議……こうやってると、何だか元気になってくる気がする……」 何だか、あたしに力をくれた暖かい『何か』は、サトシの体から流れているような気がする……直接目には見えないけど、何だかそんな気がしてきた。そのまま、あたしもサトシの背中に手を回した。 「……あれ?」 その時、あたしの手がさっきまでより軽く感じた。動かしても、痛さを感じない。あたしはサトシの背中に回した腕を戻して、見てみた。その腕は、今まで何事もなかったかのように、傷は1つもなかった。 「どうした?」 「傷が……治ってる……!?」 「ええっ!?」 あたしの言葉に驚いたサトシは、あたしから体を少し離して、体の状態を確かめた。あたしも、足も見てみる。そこもやっぱり、今まで何事もなかったかのように、傷1つ付いてなかった。少し動かしてみても、違和感は何もない。 「ほ、ホントだ!?」 サトシも驚いている。思ってみれば、体もさっきまでと違って、全然痛さを感じない。あたしは試しに、体を立ち上がらせてみる。 「ああっ、大丈夫か?」 サトシがあたしを心配して、あたしの右手を取って立った。でも、あたしはサトシの支えがなくても、簡単に立つ事ができた。 「体が……痛くない……!?」 足踏みをしてみても、全然痛さを感じない。完全に治ってる。どうして……? 「どういう事なんだ……!? 岸に上げたばかりの時は、ボロボロだったのに……!?」 サトシも、首を傾げる。思い当たる節は、1つ。あたしに力をくれた『何か』。あれは一体……?
その時。ふと、サトシが何かに気付いた。 「ヒカリ!! 危ない!!」 サトシはあたしをかばうように、突然あたしに覆いかぶさって倒れた。突然の事に驚いたけど、その直後、青い光弾がどこからか飛んできて、あたし達のすぐ近くで爆発した。何が起こったのか一瞬わからなかったけど、その答えはすぐに出た。 「そこにいたか……」 そんな声がした方向を見ると、そこには、こっちをにらむパラドシンとフィオナ、そしてウインディの姿が! 「チーム・ブラッド……!!」 「またあんた達なのね……!!」 サトシが体を起こしてつぶやいた。あたしも、体を起こして叫んだ。すると、パラドシンとフィオナが驚いた表情を見せた。 「何だと……!? あの攻撃を受けながら、まだ生きていたのか!?」 「それに、あんだけボロボロだったのに、傷も1つ付いてないなんて、どういう事なの!?」 パラドシンとフィオナは、あたしの状態に驚いている。フィオナは、手に持っていた機械に目をやった。それは、前にも使って見せていた、あの『波導探知機』だった。 「ちょっと待って……!? 黄色の男から、ピンクの女に波導が流れてる!? 黄色の男が蘇らせたって言うの!? 波導を送って……!?」 「え……!?」 波導を送った。その言葉を聞いて、あたしははっとした。あのあたしに力をくれた暖かい『何か』は、サトシの波導だったの!? 波導をあたしに送って、あたしに生きる力をくれたっていうの……? 「サトシ……もしかして、あたしを助けようとして、あなたの波導をあたしに……?」 「い、いや、俺は……波導を使おうなんて、何も考えてなかった……」 あたしが聞いても、サトシは戸惑った様子で、首を横に振った。ウソをついているようには見えない。 「ただ、ヒカリが死ぬのが嫌で、認められなかっただけで……そうか、ひょっとして、それが波導になったのかな……?」 サトシのつぶやきを聞いて、あたしは確信した。波導は、悲しい時に強まるって聞いた事がある。サトシのあたしが死んで欲しくないって気持ちで、サトシ自身の波導が強まって、あたしに生きる力をくれたんだ……! 「ありがとう、サトシ」 あたしは、自然とサトシにそう言っていた。あたしを思ってくれた気持ちが、とても嬉しかったから。 「えっ、いや、えっと……」 サトシは、返す言葉に迷っているのか、困った表情を見せて戸惑っていた。 「ええいっ!! こうなったら、今度こそあんた達の息の根を止めてやるわっ!!」 フィオナが怒った様子で、乱暴にモンスターボールを投げ上げた。中から飛び出すアーボックとクロバット。 「幸運が何度も続くと思うな……!!」 パラドシンも、モンスターボールを1個投げて、スピアーを繰り出した。ウインディ、アーボック、クロバットに加わって、こっちをにらみつける。あたし達のポケモンが一斉に身構えた。でも、チーム・ブラッドのポケモン達は、みんな荒い息をしていた。さっきまでの戦いで、消耗してるんだ! 「……うん!!」 立ち上がったあたし達は顔を合わせて、うなずいた。もう、やる事は1つだった。いちいち口で言わなくてもわかる。2人で力を合わせて、チーム・ブラッドを倒す! あたしは何気なく握っていたサトシの手を、さらに強く握った。サトシの手から、今でも波導が伝わってきている気がする。それが、あたしに勇気と力をくれる。何だか手を離しちゃったら、それが途切れちゃいそうな気がしたから。 「ピカチュウ!!」 「ポッチャマ!!」 「ピッカ!!」 「ポチャッ!!」 あたし達が叫ぶと、ピカチュウとポッチャマが、力強く前に出た。 「ポッチャマアアアアアアッ!!」 ボロボロだったポッチャマが空に向かって雄叫びを上げると、ポッチャマの体から青いオーラが、力強く燃え上がった。『げきりゅう』を発動したんだ! その燃え上がる青いオーラのように、あたしの体の中でも、強い力がみなぎってきた。固唾を飲んで見守る他のポケモン達。 「それがどうしたって言うのよっ!! アーボック、“ヘドロばくだん”!! クロバット、“エアスラッシュ”!!」 そんなポッチャマを見たフィオナは、完全にキレていた。アーボックとクロバットが、ポッチャマに向けて攻撃した! 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 「ポッチャマアアアアッ!!」 ポッチャマはあたしの指示に答えて、パワーの上がった“バブルこうせん”を発射! “ヘドロばくだん”と“エアスラッシュ”に正面からぶつかって、爆発した! 「今だピカチュウ! “10まんボルト”!!」 「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」 そこに、ピカチュウが今まで捕まっていたうっぷんを晴らすように、自慢の電撃を発射! さっきの爆発の煙を突き破って飛んでいく電撃。直撃! 2匹まとめてしびれさせた! 何とか立ち上がるアーボックとクロバット。手応えはあった! 「今だスピアー!! 奴らに“ミサイルばり”だ!!」 その時、パラドシンのスピアーが飛び出した。そして、あたし達に向けて“ミサイルばり”を撃ってきた! こっちが気付いた時には、もう手遅れだった。 「きゃあああっ!!」 いくつも起こる爆発に巻き込まれて、あたし達は弾き飛ばされて、背中から倒れた。 「ポチャ!?」 「ピカ!?」 ポッチャマとピカチュウが、あたし達が攻撃された事に気付いて、こっちに振り向いた。 「そこ、いただきっ!! クロバット、“どくどくのキバ”!!」 振り向いた隙を付いて、クロバットがポッチャマとピカチュウにキバを剥いた! 「まだよ……こんな所で……っ!!」 「負けてたまるかよっ!!」 それでもあたし達は、つないだ手を離していなかった。あたし達はまた、力強く立ち上がった。つないだ手を握る力が、互いに強くなった。 「ポッチャマ、スピアーに“つつく”攻撃!!」 「ピカチュウ、クロバットに“10まんボルト”だ!!」 あたし達は、自然と違う指示を出していた。その指示を聞いたポッチャマとピカチュウは一旦分かれた。 「ポチャマアアアアッ!!」 ポッチャマがこっちに戻ってきて、スピアーに向けてクチバシを突き立てた! 直撃! 効果は抜群! 「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」 そして、ピカチュウは近づいてきたクロバットに電撃をお見舞いした! 直撃! これも効果は抜群! 効果抜群な攻撃を受けたスピアーとクロバットは、完全にノックアウトされた。 「く〜っ、よくもあたしのクロバットをっ!! アーボック、“どくどくのキバ”!!」 「この代償は高くつくぞ……!! ウインディ、“フレアドライブ”!!」 残ったアーボックとウインディは、場に残ったピカチュウに挟み撃ちをかけようと、左右からピカチュウに躍りかかった! いけない! ポッチャマが離れた隙に……! これじゃフォローしようとしても間に合わない! 「サトシ!!」 「ダイジョウブさ!!」 でも、サトシは強気の表情のままだった。サトシの手を握る強さが強くなったのがわかった。あたしは、そんなサトシの言葉を信じた。 「ピカチュウ、“でんこうせっか”でかわすんだ!!」 「ピカッ!!」 今まさに2匹の挟み撃ちが決まろうとした時、ピカチュウは“でんこうせっか”を使って素早くその場から逃げた! 「!?」 目の前からピカチュウが消えた事に驚いて、慌ててブレーキをかけようとした2匹だけど、もう手遅れだった。ウインディの“フレアドライブ”が、アーボックに炸裂! あまりにも体格差がありすぎたせいで、アーボックはたちまち吹っ飛ばされて、そのままノックアウト。あたしが信じた通り、ピカチュウはダイジョウブだった。 「そんな、ハメられた!?」 「バカな……僅かな時間で、我々のポケモンが3匹も……!?」 パラドシンとフィオナは動揺していた。 「やったぜ!!」 「あとは、ウインディだけ……!!」 これで、フィオナのポケモンはいなくなった。残るは強敵、ウインディ……! 「ぬうぅ……まだだ! まだ終わらせぬ訳にはっ!! ウインディ、“ねっぷう”で奴らをまとめて焼き払え!!」 パラドシンは今まで以上に怒った声で、指示を出した。ウインディは“ねっぷう”をこっちに撃ってきた! 「ピカアアアアッ!!」 「ポチャアアアアッ!!」 「ああああああああっ!!」 また鉄板で焼かれるような熱さが、あたし達を容赦なく飲み込んだ。 「みんな……川に飛び込むんだ!!」 サトシが苦し紛れに叫んだその言葉を聞いて、あたしは反射的に川の中に飛び込んだ、サトシや、ピカチュウ、ポッチャマも続けて飛び込んだ。川の水に潜って、何とか熱さをしのぐ。あたし達が顔を出した頃には、もう“ねっぷう”は止まっていた。 「ヒカリ、大丈夫か?」 「う、うん」 サトシはあたし達の様子を確かめた。ポッチャマと、ピカチュウも無事。 「川に飛び込んでかわしたか……ならば、二度と川から出られないようにしてやる!!」 「2人もろともねっ!!」 すると、パラドシンはフィオナと一緒に右手のマジックハンドをいきなりこっちに伸ばしてきた! 「ぐあっ!!」 「ああっ!!」 あたしとサトシの首が、マジックハンドに捕まった。そのまま強く首を絞め付けられる。く、苦しい……っ! 「今だウインディ、“はかいこうせん”で奴らを消してしまえっ!!」 それだけじゃない。パラドシンの怒った指示で、ウインディはあの“はかいこうせん”の発射態勢になった。このままじゃ、動けない。確実にあの時の二の舞になる……! 「く、くそ……っ!!」 唇を噛むサトシ。 「ダイジョウブ……ッ!」 それでもあたしはあきらめなかった。あたしはサトシに聞こえるように、はっきりとそう言って、つないでいた手に力を入れた。指示を出した。 「ポッチャマ、“うずしお”!!」 「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」 たちまちポッチャマの周りで、水が渦巻き始める。いつもよりも強まった水の渦は、ポッチャマが浮かび上がるのと同時に、ポッチャマに持ち上げられた。 「ポッチャマッ!!」 それを、ウインディに向けて投げつける! パワーアップした水の渦は、発射態勢のまま動けないウインディを飲み込んだ! 効果は抜群! そのせいで、ウインディは“はかいこうせん”を撃てなかった。 「何!?」 パラドシンは動揺した。ウインディは、そのまま地面に倒れこんだ。まだ戦闘不能じゃないけど、かなりダメージが溜まってきている。 「ピカチュウ、“アイアンテール”でこいつを壊してくれ!!」 「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」 とっさに指示を出すサトシ。ピカチュウは、力を込めた尻尾であたしとサトシの首を絞めつけていたマジックハンドをへし折った。首からマジックハンドが外れてやっと自由になる。 「行くぞヒカリ!!」 「ええ!!」 ウインディは弱っている。今がチャンス! つないでいた手に、また互いに強くなった。 「ポッチャマ、“うずしお”を出して飛び乗って!!」 「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」 ポッチャマはもう一度、“うずしお”を作り出して、まずウインディに投げつけると、その上に飛び乗った! そう、ミクリカップでもやった、あの戦法! 「ピカチュウ、“ボルテッカー”だ!!」 「ピカピカピカピカアッ!!」 そしてピカチュウも、必殺の“ボルテッカー”でウインディに向かっていく! 「行けええええええっ!!」 あたし達の思いが伝わるように、あたし達は思い切り叫んだ。 「ポチャアアアアアアッ!!」 「ピカアアアアアアッ!!」 それに答えるように、ポッチャマとピカチュウも加速していく! そしてそのまま、2匹はウインディに飛び込んだ! 大爆発! それを見据えながら、クルリと反転して着地するポッチャマとピカチュウ。煙が晴れると、そこには完全に力尽きたウインディが、力なく倒れていた。勝った! 「やったぜ!!」 「勝ったわ!!」 あたし達は、思わず声を上げた。 「バ、バカな……俺はトレーナーとコーディネーターに、またしても負けたというのか……!?」 パラドシンは、わなわなと両手を握っていた。 「パラドシン!! 次の手はもうないの!?」 「……残念だが、もう時間切れだ。我々はあくまで、本来様子を見にここに来たにすぎない。それ故、我々の継戦時間は限られている。それに、これ以上留守にしていると、サカキ様に迷惑をかける事になる」 「で、でも……!!」 「反論は聞かん!!」 パラドシンはフィオナとそんなやり取りをして、ウインディとスピアーを素早く戻して、その場から素早く森の中に消えていった。フィオナも悔しそうにこっちに振り向いたと思うと、アーボックとクロバットを戻して、パラドシンの後について行った。 「サカキ様に報告する必要があるな。『奴らは既に独立している。放っておいても問題ない』とな」 最後にそんな言葉を聞いてしばらくすると、森の中から傷だらけのブラッド・フライヤーが現れて、そのまま空の彼方へと飛び去って行った。
「もう来ないみたいね……」 あたし達が川から岸に上がると、ポケモン達が勝利を喜んで一斉に集まってきた。 「う、く……」 すると、サトシがいきなり膝を付いて、ふらりと倒れそうになった。 「あっ、サトシ!?」 あたしは慌てて、倒れそうになったサトシの体を受け止めた。サトシの体は傷だらけだった。“はかいこうせん”を受けた時のダメージが、まだ残ってたんだ。 「ご、ごめんな……俺、ちょっと無理しすぎちゃったな……」 サトシはそんな事をつぶやいた。そんな事、いつものくせに。そう思ったあたしは、思わずクスッと笑っちゃった。 「ダイジョウブ。あたしがいるから。サトシだって『一緒なら、お互いに助け合っていけるだろ』って言ってたじゃない」 あたしは、サトシに笑顔を見せてそう言った。 「ヒカリ……」 サトシがつぶやいた後、あたしとサトシは互いに笑顔を交わして、一緒にハイタッチした。パチンと、心地いい音が響き渡った。 遠くからフライゴンの鳴き声がした。見ると、こっちに飛んでくるのは、あのフーちゃん。その背中には、タケシとユラを乗せていた。
* * *
戦いは終わった。 その夜、あたしはズイタウンのポケモンセンターに戻っていた。たまたま部屋が2人用のしか空いてなかったから、ポケッチのコイントスで組み合わせを決めた。結果、あたしはサトシと一緒になった。 もう寝る時に着るジャージに着替えていたあたしは、そんな部屋のベランダで、物思いに吹けながら、夜の町並みをぼんやりと眺めていた。風がそよそよと吹いている夜だった。 「何してるんだ、ヒカリ?」 そんな所に、サトシが声をかけてきた。寝る時のシャツに短パン姿だった。 「ちょっと今までの旅を思い出してたの」 「今までの旅、か?」 そう聞きながら、サトシはあたしの横に来る。街並みを見ながら、あたしは話を続けた。 「ここって、あたしが自信なくしちゃった場所だったよね……もしあたしが1人で旅してたら、あたしは今のあたしになれてたかな?」 「え?」 「……ごめん、そんな事聞いてもわからないよね。あたしね、わかったの。サトシと一緒に旅ができて、よかったなあって」 「えっ……!?」 サトシは、少し驚いた表情を見せた。 「やっぱりサトシに会えて、ホントによかった。サトシと会ってなかったら、こんな旅できなかったかもしれない。一緒に旅ができたから、いろんな事乗り越えられたって思うの」 旅に出たばかりの頃は、サトシはポケモンゲットのやり方とか、いろいろ教えてくれた。コンテストの練習の時も、いつも力になってくれた。一緒に力を合わせて、戦った事もあった。そして、あたしが自信をなくしちゃった時も、あたしを気遣ってくれていた……あたしはそんなサトシにお礼が言いたかった。 「サトシ、ホントにありがとう」 あたしはサトシに顔を向けて、はっきりお礼を言った。 「えっ!? いや、それは俺だって同じだよ……」 サトシは照れながら、そんな言葉を返した。今度はあたしが驚く番だった。 「えっ!?」 「俺も今まで、いろんな人と一緒に旅をしてきたけど、あれだけピンチになって、それから助けてくれたのは、ヒカリが初めてだったよ。俺もやっぱり、ヒカリと旅ができてよかったって思ってる」 「サトシ……」 あたしは、一緒だったその気持ちが嬉しかった。そして、何だか胸が熱くなってきた。胸に湧き上がってくる、何だかもどかしいけど、心地よくも感じる気持ち。あたしはふと、こんな変な事を聞いちゃった。 「ね、ねえサトシ」 「何だ?」 「これからも……一緒に旅をしていいよね?」 「な、何言ってるんだよ!? 当たり前じゃないか!」 「あ……そ、そうだよね! 変な事聞いちゃってごめん……」 言ってみてから、こんな変な事を聞いちゃったあたしが恥ずかしくなった。あたしは思わず顔を赤くして、顔をそらしちゃった。なんであんな事聞いちゃったんだろ……? でも、そう答えてくれた事が、嬉しかった。 「コンテストももうすぐだろ? 3つ目のリボンがかかってるんだから、練習がんばれよ。俺、応援するからさ」 「ありがとう。あたしも、サトシのジム戦応援するから、サトシもがんばって」 「ああ! 次はいつになるかわかんないけど、ヨスガジムが開いた時のために、しっかり特訓しないとな!!」 サトシは張り切った様子でそう答えた。それを見たあたしは、思わずクスッと笑っちゃった。 旅は道連れ世は情け、っていうのはこの事なんだ。あたしは、サトシと一緒に旅ができた事がよかったと思ったのはこれが初めてだった。そして、あたしの胸の中には、何だか今まで感じた事もない思いが湧き上がっていた。
――もし、あたしがポケモンだったら、絶対サトシについて行きたい。そして、あたしを信じるサトシのために、精一杯自分の力を振り絞って戦いたい――
* * *
次の日。 ロケット団に襲われたせいで、できなかったサトシとユラのポケモンバトルが、改めて町の公園でやる事になった。 「サトシーッ!! がんばってねーっ!! 調子に乗っちゃダメよーっ!!」 あたしは公園のバトルフィールドの片隅から、サトシにはっきり聞こえるように手を振りながら叫んだ。 「ああ、わかってるさ!!」 サトシも手を挙げて、こっちにはっきりと言葉を返してくれた。あたしは、それだけで何だか嬉しかった。 「なあ、ヒカリ?」 その横で審判をするタケシが、あたしに聞いた。 「何?」 「……ジム戦でもないのに、なんでそんな格好してるんだ?」 あたしは今、いつもの服装じゃない。赤いチアガールの服を着て、両手にポンポンを持ってサトシを応援する気満々だった。この格好はジム戦の時しかした事なかったから、タケシに聞かれるのも当然かもしれない。 「いいでしょ? サトシを応援したいだけなんだから。ね、ポッチャマ!」 「ポチャマ!」 足元にいるポッチャマも、あたしと同じ格好をして、両手にポンポンを持って準備OK! 早速あたしは応援を始める。 「フレーッ!! フレーッ!! サートーシッ!! 絶対絶対ダイジョウブッ!!」 あたしはお腹の底から思い切り声を出して、両手を思い切り振りながら精一杯エールを送る。ポッチャマもあたしのマネをして両手を振る。 「よ〜し、応援されてるんだから、力の出し惜しみなんてできないな!!」 サトシがそんな事をつぶやいたのを聞いて、あたしはまた嬉しくなった。それを見ていたユラは、ちょっとだけ唖然とした表情を見せていたけど。 「それでは、試合開始っ!!」 タケシが、勢いよく両手を上げた。試合開始の合図。 「よ〜し!! ブイゼル、君に決めたっ!!」 サトシはあたしの応援が伝わったように、力強くモンスターボールを投げた。中から飛び出したのはブイゼルだった。 「では、私も行きます!! マーちゃん!!」 ユラもモンスターボールを取り出して、サトシに負けじと思い切り投げた。マルノームのマーちゃんが出てきた。 「まずはこっちから行くぜ!! ブイゼル、“ソニックブーム”!!」 「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」 先に攻撃を仕掛けるサトシ。ブイゼルが、マーちゃんにむけて“ソニックブーム”を発射! 「マーちゃん、“たくわえる”!!」 “ソニックブーム”が飛び込んでくる中で、パワーを吸い込み始めるマーちゃん。上がった防御力で、飛んでくる“ソニックブーム”をしのいだ。 「次は“みずのはどう”だ!!」 「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」 サトシは攻撃を緩めない。さらにブイゼルは、“みずのはどう”をマーちゃんにお見舞いする! 「もう1回“たくわえる”!!」 でも、ユラはまた“たくわえる”を指示した。マーちゃんはもう1回パワーを吸いこんで、飛んできた“みずのはどう”を受け止める。反動で少し後ろに飛ばされたけど、何とかしのいだ。 「どうしたんだ? もっと攻めてきてもいいんだぜ?」 「まだこれからです!! マーちゃん、“のみこむ”!!」 サトシが少しだけ挑発すると、ユラはやっと別なわざを指示した。マーちゃんはゆっくりと何かを飲み込む動きをしたと思うと、マーちゃんはたちまちパワーを取り戻した! 「何!?」 「これから仕掛けます!! マーちゃん、“ヘドロばくだん”!!」 驚くサトシを尻目に、ユラの指示でマーちゃんは“ヘドロばくだん”を放って反撃開始! 「ブイイイッ!!」 直撃! 弾き飛ばされたブイゼルだけど、何とか体勢を立て直した。見た感じ、結構威力ありそう。 「なかなかやるな、ユラも」 「いいえ、サトシさんのブイゼルも強いです」 そんなやり取りをするサトシとユラ。 「フレーッ!! フレーッ!! サートーシッ!! ファイトッ!! ファイトッ!! ブイゼールーッ!!」 ブイゼルが少し反撃された途端、あたしも負けてられない、応援しなきゃって思った。あたしの応援にも、自然と力が入った。それに答えるように、サトシはまた指示を出した。 「でも、こっちだって負けないぜ!! ブイゼル、“アクアジェット”!!」 「ブイイイイイイイッ!!」 あたしの応援に答えるように、ブイゼルが得意技の“アクアジェット”でマーちゃんに向かっていく! 「“ヘドロばくだん”!!」 マーちゃんも黙っていない。“ヘドロばくだん”を撃って応戦してくる。でも、ブイゼルはそれをうまくよけて、たちまちマーちゃんとの間合いを詰めていく! 直撃! これには踏み止まれないで、弾き飛ばされるマーちゃん。途端に、あたしの心が躍った。あたしの応援が伝わった事が、とても嬉しかったから。それも、何だかジム戦を応援した時よりずっと嬉しい気がした。 一瞬、サトシがあたしを見て微笑んだ。あたしはまた嬉しくなって、もっと応援に力を入れた。あたしのこの力が、全部サトシに伝わるように。
* * *
あたしはこれからも、サトシと一緒に旅をしていく。また、ケンカする事もあるかもしれない。それでも、一緒に旅ができるのが楽しい。これからも一緒に、いろんな事を旅の中で経験していきたい。 できるものなら、こんな旅がずっと続いて欲しい。サトシと一緒の旅が、ずっと、ずうっと……
こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……
STORY20:THE END
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