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[665] ヒカリストーリー STORY20 2人ぼっちの戦い(第3部)
フリッカー - 2008年09月04日 (木) 17時34分

 今回のSTORYをもって、ヒカストファーストシーズンは最終回!
 物語もいよいよクライマックスへ! 最後まで皆さんを安心させませんよ!!

 第2部はこちら→http://bbs4.sekkaku.net/bbs/?id=watafa&mode=res&log=46

[666] SECTION07 突入! 最後の戦いへ!
フリッカー - 2008年09月04日 (木) 17時35分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 迷いの樹海から脱出しようとしたあたしとサトシだけど、サトシはチーム・ブラッドの卑怯な戦法で“はかいこうせん”の中に消えていった。あたしだけは助かったけど、サトシが死んじゃったって思って、悲しみに暮れるしかなかった。
 でも、サトシは生きていた。夢でサトシが波導で話しかけてきたし、何よりチーム・ブラッドが人質に取っていて、ポケモンを全部渡さなければ処刑するって脅迫した! あたしはサトシを助けに行くために、ズイタウンへ向かった。待っていたチーム・ブラッドに戦いを挑んだあたしだけど、全ては罠だった。何とか切り抜けられたけど、チーム・ブラッドは「山のふもとで決着を着ける」と言い残して去って行った。
 本当の戦いは、まだこれから。サトシ、今度こそ助けるからね……!


SECTION07 突入! 最後の戦いへ!


 次の日。あたしは、ポケモンセンターにいた。
 あの戦いの後あたしは、すぐに手当てを受けた。前の戦いで吸っちゃった『もうどく』の量は、幸いほんの少しだけだった。でも、『もうどく』はほんの少し体に入っただけでも体に大きなダメージを与える。ポケモンセンターに戻った時には、あたしは迷いの樹海の時と同じように、立っている事もつらい状況になって、気を失いかけた。とりあえず抜けたのはいいけど、『もうどく』が抜けても、失った体力はすぐには回復しない。一晩寝た後も、あたしの体はだるかった。それに、戦いで受けた体の痛みもまだ完全にとれていなかった。1週間くらいの間は休む必要があるって言われた。でも、ポケモンセンターでおとなしく休んでなんかいられなかった。あの山のふもとで、サトシが待っているんだから……!
 病室を抜け出して、だるい体にむち打って、あたしはカウンターでポケモン達を受け取ろうとしていた。
「お願いです!! どうして渡してくれないんですか!?」
「あなたは野生ポケモンとバトルして『どく』を吸っちゃったばかりじゃない!! それに、ポケモンそのものからの攻撃のダメージで負った体の傷も、完全に治ってないわ!! あなたは軽傷じゃないんだから、完全に治ってからでないと、ポケモンはお渡しできません!!」
 あたしは、ジョーイさんと言い争っていた。
 チーム・ブラッドは、「くれぐれも警察に突き出すような真似はするな。そうしても、こいつの命はない」と言っていた。だから、ジョーイさんには「野生ポケモンとバトルをして『どく』を吸っちゃって、ケガをしちゃった」と言ってある。
「あたしはもうダイジョウブです!! だから……」
「あなたはダイジョウブって言っても、体は悲鳴を上げてますよ!! そのままだと、ポケモンが倒れる前に、あなたが倒れるかもしれないんですよ!!」
「う……」
 あたしは、横の窓に映る自分の姿を見た。その顔は傷だらけ。そして、立っているのもはっきり言ってだるさのせいで辛い。普通だったらおとなしく休む気になったはず。でも、今はそんな事をしてられない理由がある。あたしは、歯を食いしばった。
「ダメなんです……このままゆっくり休んでなんか、いられないんです……!!」
「どうして!? 何がしたいのか知らないけど、その体じゃ、満足にやり遂げる事もできませんよ!!」
 その言葉が、あたしの心に突き刺さった。確かにこの体じゃ、サトシを助ける事ができないかもしれない。でも、あたしはこのままじゃ納得できなかった。助けたい。自分の体がボロボロになっても。羽織ったサトシのジャケットの襟元を、右手でグッと握った。
「やめろヒカリ!!」
「そんな体じゃ、いくらなんでも……!!」
 突然、タケシとユラがあたしの両腕を抑えて、カウンターから離そうとした。でも、あたしは踏み止まった。
「離してっ!! サトシが捕まってるのに、あたしだけ休んでるなんてできないよっ!!」
「落ち着いてください!! そんな事しても、自滅するだけです!!」
 どんなに言われても、あたしはだるい体にむち打って、その場を動こうとしなかった。誰が何と反対しようと、あたしはサトシを助けに行きたかった。どんなにボロボロになっても、トレーナーを信じて戦うポケモンのように……
「サトシだって、きっとそうするはずよ!!」
「……!?」
 その言葉を聞いて、タケシとユラが凍りついたように動きを止めた。別にサトシのマネがしたい訳じゃない。ただ、自分の事を考えないで、人やポケモンを助けようとするサトシの気持ちが、よてもよくわかったの。迷いの樹海でも、サトシは相手に隙をさらす事も承知で、あたしを助けてくれた。あたしも少しだけど、そのような事をした事が何度かある。実際、今もそうしようとしている。大切なものは、何が遭っても自分の手で守りたい。自分が傷付くのは嫌だけど、そんな大切なものをなくす事は、もっと嫌! だからこんな体でも、あたしはサトシを助けたい!
「ちょっと待ってください!? サトシが捕まっているって、どういう事なんですか!?」
 突然、ジョーイさんが話に割って入った。
「あ……」
 つい言っちゃった。あたし達は慌ててごまかす言葉を探したけど、黙り込んだままだった。
「さては、何か隠し事をしているのね?」
 ジョーイさんの視線があたしに向いた。もう、ここはごまかしても無駄みたい。あたしは、正直に話す事にした。
「……ごめんなさい。野生ポケモンと戦ってケガをしたっていうのは、ウソなんです」
「え?」
「悪い奴らに、あたしの友達が……サトシが、捕まっちゃったんです」
 その言葉を聞いたジョーイさんは、言葉を失った。言ってみてからあたしは、なぜかサトシを『友達』という事に一瞬、違和感を覚えたけど、今はその言葉しか思いつかなかったから、自分で気付かなかった事にする。
「あたしはそんなサトシを助けたくて、そいつらと戦ったんですけど、サトシはいなくて、『あの山のふもとで決着を着ける、そこに人質もあずかっている』って言って逃げて行ったんです」
 あたしは、窓に映る山に視線を移して説明した。
「それでケガをしたって事ね……なら、どうして警察に伝えなかったの!?」
「できないんです。『くれぐれも警察に突き出すような真似はするな。そうしても、こいつの命はない』って言われて……だから、あたしがサトシを助けたかったんです……サトシは今も捕まっているんです!! だからポケモン達を渡してください!! あたし、サトシを助けに行かなきゃならないんです!!」
「ダメよ!! それなら尚更、ポケモン達を渡す訳にはいきません!!」
 それでも、ジョーイさんは考えを変えなかった。
「そんな……どうしてですか!?」
「あなたは、悪者と戦う事が、どんな危険な事かわかっているの!? 下手をすれば、殺されるかもしれないんですよ!!」
 ジョーイさんはあたしを気遣っている。よく考えたら当然か、あたしがこんな状態で悪人と戦うなんて言ったら、誰でも止めるよね。でも……!
「それでもあたしは行きます!!」
「どうして!?」
「ジョーイさんは、自分の大切なものが、自分でしか助けられないって時に、怖いからって逃げるんですか!?」
 あたしは逆に、そんな質問を投げかけた。それを聞いたジョーイさんは固まった。
「あたしには、そんな事できません……サトシは、普段はちょっとおっちょこちょいだけど、優しくて、強くて、いざという時にはとても頼もしい、あたしの……」
 そこで、あたしの言葉がなぜか急に詰まった。さっき、『友達』と言った事に一瞬、違和感を覚えたのと同じ。そう、ただの旅の仲間とか、友達とか、そんなものじゃない……なんて言ったらいいかわからないけど、もっと、ずっと……
「大切な……人なんです!!」
 あたしは、今思いつく精一杯の言葉で言葉を続けた。それを聞いたみんなが、驚いて言葉を失った。
「自分が傷付くのは嫌ですけど、そんなサトシがいなくなるのは、もっと嫌なんです……!! だから、あたしはサトシを助けたいんです……!! どんな事が遭っても、どんなにあたしがボロボロになっても、あたしは……っ!!」
 体の奥から、強い思いが込み上げてくる。羽織ったサトシのジャケットの襟元を握る力が、自然と強くなった。
 その時、ジョーイさんの後ろで、何かが強く光った。驚いてジョーイさんが振り向くと、そこから預けていたポケモン達――ポッチャマ、ミミロル、パチリス、エテボース、ウリムー、そしてブイゼルが、カウンターを乗り越えてこっちになだれ込んできた。
「みんな……!?」
 みんなは、あたしの前で自信に満ちた表情を見せた。その真ん中にいるポッチャマは、いつも見るようにこれでもかと胸を張ってみせていた。まるで、「任せて」って言ってるみたいに……
「……ついて来て、くれるのね……!!」
「ポチャッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
「ウリッ!!」
「ブイッ!!」
 あたしが言うと、みんなははっきりとうなずいてくれた。こんなみんなが一緒なら、絶対、絶対にダイジョウブ! あたしは確信できた。
「ありがとう、みんな……あたし、みんなを信じる!!」
 そんなあたしの言葉を聞いたみんなは、笑顔を返してくれた。
「……わかったわ。そんなに言うなら、止める事はできないわね」
 そんな様子を見ていたジョーイさんの表情が緩んだ。
「ジョーイさん……!!」
「警察にも、言わないでおくわ。だけど、無理はしちゃダメよ」
「……はい!!」
 あたしは、はっきりと答えた。
「なら、俺も行くっきゃないな」
「その意志を聞いて、感動しました! 私もついて行きます!! 何ができるかわかりませんけど……」
「タケシ……ユラ……!!」
 タケシとユラも、あたしに笑顔を見せた。あたしは嬉しくなった。こうなったらもう、山のふもとに行って戦う以外、選ぶ道は何もない!
「みんな……行こう!!」
 あたしが言うと、みんなは強くうなずいた。

 * * *

 ポケモンセンターを出た後、山のふもとを目指して、森の中を歩き続けるあたし達。
 だるくて、ところどころが痛む体で歩くのは、はっきり言って辛い。普通には歩けない。トボトボ歩いている感じになる。歩くスピードはタケシやユラよりも遅くなっている。でも全く歩けない訳じゃない。走れるかどうかはわからないけど、この程度なら前に歩いていける。
「ヒカリさん、大丈夫ですか?」
 ユラが振り向いて、あたしに声をかける。
「ダイジョウブ、気にしないで」
 あたしは笑みを見せて答えた。
「何かあったら、無理しなくてもいいんだぞ」
「ダイジョウブ。こんな事で弱音吐いてたら、サトシを助けになんか行けないよ」
 同じようにあたしを気にするタケシにも、あたしは笑みを見せた。このくらいの事は覚悟の上。こんな事で泣き言なんか言ってられない。側にいるポッチャマとブイゼルも、あたしを気遣ってくれている。
「そうか……うわっ!!」
 タケシが言いかけた時、突然タケシとユラの足元が、急に崩れ落ちて、2人は地面へと吸い込まれていった。
「タケシ!? ユラ!?」
「わーっはっはっは!!」
 あれって落とし穴!? まさか……! そう思った時、空から聞き慣れた高らかな笑い声が聞こえてきた。見上げるとそこには、ニャース型の気球が!
「あんた達は……!!」
 ゴンドラにいるのは、ロケット団のコジロウとニャース! 普通なら自己紹介が始まりそうな所だけど、2人はなぜか何か待っているように胸を張っていた。しばしの沈黙。
「……ってあれ!? ムサシはどうした!?」
「乗ってたんじゃニャかったのニャ!?」
「こんな大事な時に、なんでいないんだよっ!?」
 コジロウとニャースは、驚いて辺りをキョロキョロと見回した。確かに、気球にはムサシの姿がない。コジロウとニャースも気付いていなかったみたい? その姿には、あたしも呆れるしかなかった。
「……し、仕方がないニャ!! 『あんた達は……!!』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!! 天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える魅惑の響き!! コジロウ!!」
「ニャースでニャース!! 時代の主役はニャー達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「マネネ!!」
 結局、2人だけで自己紹介を進めるロケット団。
「そんな訳で、ここから先は、ニャー達が通さないのニャ!!」
 ニャースが、あたしを指差して高らかに叫んだ。
「邪魔しないで!! あたしは、サトシを助けに行くんだからっ!!」
「ポチャマッ!!」
「ブイブイッ!!」
 ポッチャマとブイゼルと一緒に、言い返すあたし。
「それを邪魔するのが、我らの役目なのだ!! 行け、マスキッパ!!」
 コジロウは早速、モンスターボールを投げてマスキッパを繰り出した。でも、マスキッパはやっぱり……
「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」
 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。
「フーちゃんっ!!」
 その時、場を切り裂くようにユラの叫び声が響いた。すると、落とし穴の中から、勢いよくフライゴンのフーちゃんが飛び出してきた! その背中には、タケシとユラが乗っていた。
「“ドラゴンクロー”!!」
 フーちゃんは、鋭いツメに力を込めて、ロケット団の気球をすれ違い様に切り裂いた!
「何ぃぃぃぃっ!? ってうわああああああっ!!」
 ロケット団が驚く間に、切り裂かれた気球から空気が抜けて、そのまま地面へ吸い込まれていく気球。とうとう気球は、音を立ててあたし達の目の前に落ちた。そんな気球を尻目に、フーちゃんがあたしの目の前に降り立った。
「ユラ!!」
「ヒカリさん、ここは私達に任せてください!!」
「ああ、ヒカリはサトシの所に行くんだ!!」
 フーちゃんから降りたユラとタケシは、あたしにそう言った。
「え!? でも……」
「ヒカリさんのためにも、サトシさんのためにも、私はやります!! だから、サトシさんを助けに行ってください!!」
「ここでやられたら、助けたいものも助けられなくなる。ここは俺達が食い止めるから、先に行くんだ!! 俺達を信じてくれ、ヒカリ!!」
「2人共……うん、ありがとう!!」
 あたしはタケシの言った通り、2人を信じる事にした。
「フーちゃん、ヒカリさんを乗せてあげて!!」
 ユラが言うと、フーちゃんがあたしの前に出て、首を下げた。
「ヒカリさん、フーちゃんに乗ってください。空を飛べるポケモンがいた方が、心強いでしょう?」
「ありがとう、ユラ」
 あたしはユラにそう答えた後、ポッチャマ、ブイゼルと一緒に、フーちゃんの背中に乗った。
「フーちゃん、山のふもとまで飛んで!!」
 あたしが言うと、フーちゃんは高らかに吠えて、羽を力強く羽ばたかせた。フーちゃんの体が宙に浮き始める。
「あっ、待て!! 俺達を無視するのか!!」
 気球から出たコジロウが、フーちゃんで飛ぼうとするあたしを見て叫んだ。
「あんた達の相手は私よ!! マーちゃん、“ヘドロばくだん”!!」
 ユラがすぐにモンスターボールを投げた。中から飛び出したマルノームのマーちゃんは、コジロウの側にいたマスキッパに向けて、“ヘドロばくだん”を発射! 命中! 効果は抜群!
「グレッグル、“どくばり”だ!!」
 続いてタケシもモンスターボールを投げる。飛び出したグレッグルも、続けて“どくばり”を浴びせる! “どくばり”の雨を前に、動きが取れないコジロウ。
「くそっ!!」
 唇を噛むコジロウ。タケシとユラが、ロケット団を足止めしてくれている。これなら、ダイジョウブ!
「行こう、フーちゃん!!」
 あたしはフーちゃんに呼びかけると、フーちゃんは山のふもとに向けて加速した。
 でも、その時だった。突然、目の前でキラリと何かが光ったと思うと、突然一筋の閃光がこっちに飛んできた!
「!!」
 あたしが驚いてる間に、フーちゃんは反射的にかわした。あたしのすぐ横を通り過ぎる、凄まじい閃光。これって、“はかいこうせん”!? すると、正面から轟音が聞こえてきた。見ると、こっちに何かが飛んでくる。
「今度は何なの!?」
 轟音を立てながら、こっちに飛んでくる赤い飛行メカ。Y字型のボディを持つそれは、ズイの遺跡の戦いの時、チーム・ブラッドが逃げる時に使った、あの飛行メカだった!
『アッハハハハハハ!! 飛んで逃げるつもりでも、そうは問屋が卸さないのよ!!』
 目の前で止まる飛行メカ。スピーカーからフィオナの声が聞こえてきた。
「チーム・ブラッド……!!」
 こんな時にも、出て来るなんて……! あたしは唇を噛んだ。
『あんたの相手はこの、ブラッド・フライヤーよっ!!』
 すると、そのブラッド・フライヤーっていうらしい飛行メカの、先頭の部分がパカッと横に開いた。するとそこから、大きな大砲が顔を覗かせた。大砲がうなり始める。まさか……!
「よけて!!」
 あたしはとっさに叫んだ。すると、大砲からあの光線が火を噴いた! あたしの言った通りにかわすフーちゃん。あの光線は、“はかいこうせん”じゃなくて、ブラッド・フライヤーのビームだったんだ! かなり破壊力がありそう。あれをまともに受けていたら……
『よくかわしたわね。ならこっちも、クルーズモードからバトルモードに!!』
 そんなフィオナの声が聞こえてきたと思うと、ブラッド・フライヤーのボディの、ちょうどY字型の両端にあたる部分が、音を立てながら展開した。すると、大きな3本の爪がついた手を持つ、2本の腕が現れた!
「手が付いてるの!?」
 あたしが驚いてる間に、両方の手の真ん中についた穴から、ビームを連射してきた!
「わあっ!!」
 思わず叫ぶあたし。でも、フーちゃんはうまくかわしてくれた。すぐにあたしも反撃する。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!! ブイゼル、“みずのはどう”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」
 ポッチャマとブイゼルが、ブラッド・フライヤーに向けて攻撃する。でも、ブラッド・フライヤーは加速して、2匹の攻撃を難なくかわした。
『ブラッド・フライヤーの機動性をなめないでっ!!』
 ブラッド・フライヤーは、あたしの横を通り過ぎたと思うと、腕をこっちに向けてまたビームを撃ってきた! すぐにかわすフーちゃん。そして、ブラッド・フライヤーを追いかけ始める。たちまち、空中戦が始まった。ポッチャマとブイゼルがブラッド・フライヤーに攻撃を続ける中、ブラッド・フライヤーも、自在に動く腕のビーム砲で応戦する。ブラッド・フライヤーはフーちゃんの何倍も大きい割には素早い。こっちの攻撃がなかなか当たらない。
「何とかして、動きを止めないと……!!」
 あたしがそんな事をつぶやいた時、フーちゃんが動いた。一旦止まったと思うと、ブラッド・フライヤーに向けて、羽で凄まじい砂の嵐を吹きつけた! 命中! 砂の嵐が直撃したブラッド・フライヤーはバランスを崩した。
「“すなじごく”ね!! ありがとう、フーちゃん!! 今がチャンスよ!! ポッチャマ、“うずしお”!! ブイゼル、“ソニックブーム”!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!! ポッチャマッ!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」
 フーちゃんの“すなじごく”でバランスを崩した隙に、ポッチャマとブイゼルが攻撃開始! 直撃! 手応えはあったけど、まだ決定打にはならない。
『ちいっ、調子に乗らないでっ!!』
 すると、ブラッド・フライヤーの片方の腕がこっちに向けられたと思うと、ビームを撃ってきた! 直撃!
「きゃああっ!!」
 フーちゃんがバランスを崩した。衝撃で体が落ちそうになるのを、必死につかまってしのいだ。でも、攻撃はまだ終わっていなかった。今度は腕をいきなりマジックハンドのように伸ばしてきた! そのスピードはかなり速い。完全に不意を突かれた。
「ああっ!!」
 そのままがしっと力強くつかまれるあたし達。そのまま腕は、地面に向かって真っ逆さまに伸びていく! このままじゃ、地面に落ちちゃう! でも、かなり強くつかまれていて、身動きが取れない! とうとうあたし達は思い切り地面に叩きつけられた。
「うああああっ!!」
 体中に伝わった凄まじい衝撃。そして体中を走る激痛。手負いの状態のあたしにとっては、あまりに強すぎて気が吹っ飛びそうになった。でも、まだこんな所で気絶する訳にはいかない……! 腕から抜け出そうともがこうとしたけど、さっきのダメージのせいで、体に力が入らない。ポッチャマとブイゼルも、抜け出そうとしてるけど、全然抜け出せる気配がない。
『アッハハハハハハ!! これでどうする事もできないでしょう?』
 フィオナの自信に満ちた声が聞こえる。このままじゃ、完全にフィオナの思うがまま。もうあたしも、どうする事もできなかった。
『黄色の男に会わせてあげられないのが残念ね』
 腕が持ち上がって、あたし達は一気に持ち上げられた。次さっきと同じように叩きつけられたら、もう……
「そんな……あたしは……あたしは……サトシを……っ!!」
『負け惜しみを言ってられるのも今の内よ!! さあ、さよならよ……』
「“げんしのちから”!!」
 その時、フィオナの声が別の声に打ち消された。そう思った時、どこからか白いボールが飛んできて、ブラッド・フライヤーの腕の伸びていた部分に直撃した! たちまち折れる腕。あたし達は腕から離れて自由になる。そのまま地面に落ちるあたし達。フーちゃんはうまくバランスを取って、地面に落ちる寸前にスピードを落として、地面にゆっくりと着地した。その横に、折れた腕がガシャンと音を立てて落ちた。
「……!?」
 誰が、あたしを助けたの? すると、あたしの視界に入ったのは、意外な人だった。その姿を見た誰もが、驚いていた。
「ロケット団の名に賭けて、あんた達の好きにはさせないわよ!!」
 そこにいたのは、メガヤンマを出しているロケット団のムサシだった! どうして、あたしを……?
「お、おいムサシ!? いなくなったと思ったら、何やってるんだ!? 気でも狂ったのか!?」
『いきなり何の真似よ!? あたしは味方でしょ!!』
「違うわ!!」
 コジロウとフィオナの言葉を、真っ向から否定するムサシ。
「あたし達は、ジャリボーイを追いかけて、ピカチュウをゲットする事が生き甲斐だったのよ!! それを助っ人だとか何だとか言って、簡単に横取りしたあんた達が許せないのよ!! あんた達は同じロケット団でありながら商売敵、つまり、あたしの敵よっ!!」
 ムサシは、ブラッド・フライヤーを指差して、堂々と言い放った。何だか理由はよくわかんないけど、ムサシはチーム・ブラッドに不満を持ってたみたい。理由はどうでもいいけど、味方になってくれるに越した事はない。そんなムサシの視線が、あたしに向いた。
「……勘違いしないでよジャリガール。あたしはジャリボーイを助けたい訳じゃないのよ。あいつらをやっつけたら、今度はあたしがジャリボーイのポケモンを全部いただくんだからね!!」
 ムサシはあたしにそう言った後、ブラッド・フライヤーに向き直った。
「さあフィオナ、覚悟してもらうわよ!! メガヤンマ!!」
 ムサシの言葉に答えるように、メガヤンマが力強くブラッド・フライヤーに向かっていく。
『仕方ないわね……!!』
 フィオナも応戦する。残ったもう片方の腕が、メガヤンマに向けて伸びていく!
「かわして“はがねのつばさ”!!」
 ムサシの指示を聞いたメガヤンマは、伸びてきた腕をうまくかわすと、“はがねのつばさ”で腕の伸びていた部分をすれ違いざまに切り裂いた!
『何っ!?』
「続けて“ソニックブーム”よ!!」
 今度はボディに向けて“ソニックブーム”を連続発射! 命中! そこは、さっきポッチャマとブイゼルが攻撃していた場所だった。そこに何発も“ソニックブーム”が命中していくと、火花が走って、遂に爆発した!
「や、やめるんだムサシ!!」
「せっかくの幹部昇進、役員就任の夢を壊す気なのニャ!?」
 そんなムサシを、コジロウとニャースが2人がかりで取り押さえる。メガヤンマも、マスキッパに抑えられる。
「何言ってんのよ!! 人に叶えてもらえる夢なんて、夢なんかじゃないじゃない!! 幹部昇進、役員就任の夢は、あたし達自身で成し遂げるべきなんじゃないの!!」
「……!!」
 でも、ムサシの言葉を聞いた2人は、逆にはっとして動きを止めた。
『よくもやってくれたわね……!!』
 その時、先頭の部分がパカッと横に開いて、中から顔を覗かせた大砲がうなり始める。そして、凄まじいビームがロケット団に向けて放たれた!
「危ない!!」
 あたしがとっさに叫んだけど、もう手遅れだった。ビームは容赦なくロケット団に命中して、大爆発!
「そうか……幹部昇進、役員就任の夢は……」
「ニャー達自身で、成し遂げるものだったのニャ……」
「やっと気付いたのね! こうなったら、次こそはあたし達の手でピカチュウをゲットするわよ!!」
「でも今は……」
「やな感じ〜っ!!」
 そのままロケット団は、空の彼方へと消えていった。
『とんだ邪魔が入ったわね……このままだと帰れなくなるから、一旦退くしかない様ね……』
 フィオナがそんな事を言うと、ブラッド・フライヤーは、反転して山のふもとへと飛び去って行った。
「ヒカリ!! 大丈夫か!!」
 そんなタケシの声が聞こえる。こっちに駆け寄ってくるタケシとユラ。あたしの体はボロボロだった。体中が痛い。フーちゃんの背中で体を起こす事ができない。はあはあと荒い息をしているのがわかる。きっと2人共、そんなあたしを心配している。でも……!
「フーちゃん、山のふもとに飛んで……!」
 それを聞いたフーちゃんは一瞬、驚いた。
「お願い、行って!!」
 もう1回、強くそう言うと、フーちゃんはまた、空に向かって飛び上がった。
 こんな状態になっても、あたしは戦うのを止めるつもりはなかった。サトシを助けるまで、あたしは、最後まで戦う!


TO BE CONTINUED……

[671] SECTION08 傷だらけの決戦! サトシのために!
フリッカー - 2008年09月10日 (水) 17時54分

「はあ、はあ、はあ……」
 あたしは荒い息をしながら、山のふもとへ飛ぶフーちゃんの長い首にもたれかかっていた。いや、倒れてるって言った方がいいのかもしれない。さっきの戦いのせいで、体は出発した時よりも痛い。もう自力で歩けるかどうかは、かなり疑問。立てるのがやっとって感じかもしれない。
「ポチャ、ポチャポチャ……?」
 そんなあたしの肩にポッチャマが乗って、あたしの顔を覗きこんだ。あたしの事を心配しているみたい。
「ポッチャマ……」
 あたしがポッチャマに顔を向けた時、ブイゼルの顔も視界に入った。
「ブイ……」
 ブイゼルも、あたしを心配しているようだった。
「ダイジョウブ……ここまで来て、今更引き返す訳には、いかないもの……!」
 それは、ポッチャマとブイゼルに対してじゃなくて、あたし自身にも言い聞かせた言葉だった。こんなにボロボロになっても、あたしは不思議と帰ろうとする気が起きていなかった。サトシを助けるために、体がこんなになってでも、最後まで戦う覚悟だった。
「ダメ、かな……?」
 でも、そうしたらみんなが心配してダメって言うかもしれない。あたしは、念のためそう聞いてみた。
「……ポチャマ!!」
「ブイブイ!!」
 でも、ポッチャマとブイゼルは、明るく答えてくれた。あたしについて来てくれる。その表情に、間違いはなかった。
「ありがとう、みんな……」
 あたしはほっとした。
 山のふもとまではまだ時間がかかる。その間、あたしは束の間の休みを取った。この体中の痛みが全部取れる訳じゃないけど、戦いになったら、休む暇なんてないから……


SECTION08 傷だらけの決戦! サトシのために!


 山のふもとに近付いてきた。
 ぼんやりと下を見下ろしても、特に何か変わったものは見当たらない……と思ったら、森の開けた所に、大きな赤い何かがあったのを見つけた。
「あれって、ブラッド・フライヤー!?」
 そう、それは間違いなく、さっきあたしが戦ったメカ、ブラッド・フライヤーだった。その周りに、人影は見当たらない。間違いない、あそこの近くに、アジトが……!
「フーちゃん、下りて!」
 あたしはすぐにフーちゃんに言った。それに答えて、フーちゃんはゆっくりとブラッド・フライヤーの近くに降り立った。
 フーちゃんの体によりかかりながら、あたしは痛む体をゆっくりと地面に下ろそうとした。でも、足を地面につけた途端、体が重くなった。そのまま体が崩れ落ちる。両手で地面をついて、何とか倒れるのを止めた。
「はあ、はあ、はあ……」
 荒い息を止められないまま、あたしは辺りを見回した。この近くに、アジトがあるはず。それに、空から見た時は誰もいなかったけど、ひょっとしたらどこかに隠れているかもしれない。チーム・ブラッドの事だから、今もどこかであたしを狙っているのかも……ポッチャマとブイゼルも、ボロボロのあたしを守るように、辺りをしきりに見回していた。
 すると、あたしの視界に、ぽっかりと空いた大きな洞窟が目に入った。その先の見えない暗い穴は、隠れ家にするのにはもってこい。まさか、あそこがアジト……?
「みんな……行くわよ……」
 あたしは痛む体を何とか立たせて、洞窟に向かって歩き出した。そして、フーちゃんはまた、空へと飛び立っていった。

 * * *

 痛む体を引きずりながら、あたしは洞窟の中を進んでいく。右手で洞窟の壁をついて体を支えながら、ゆっくりと1歩1歩進んでいく。時々痛みに耐えられなくなって膝をついて立ち往生しちゃうけど、息継ぎをしてすぐに立ち上がって、また歩き始める。その道は、ずっと長く思えた。でも、あたしは歩き続けた。意地でも歩き続けた。こんな所で倒れる訳にはいかない。サトシを、助けるまでは……!
「……マサラタウンのサトシ、お前を助けようとしたフタバタウンのヒカリは、うまく我々の誘いに乗ってくれたよ」
「こっちも少しやられちゃったけど、あのダメージなら、ピンクの女は退却してすぐには来れないでしょうからね」
 洞窟の先に開けた場所が見えてきたと思うと、そんな声が聞こえてきた。あの声は、チーム・ブラッド……! あたしは壁に身を隠しながら、そっと開けた場所を覗き込んだ。そこにはやっぱり、チーム・ブラッドのパラドシンとフィオナがいた。そしてその奥には、十字架に張り付けられたサトシがいた! その横には、折りに入れられたサトシのポケモン達も。
「……そんな事で、ヒカリはあきらめる奴なんかじゃない……! 何があっても、絶対俺を助けに来るはずだ……!」
 傷だらけのサトシは、途切れ途切れながらも強気に言い返した。前みたいにホログラムなんかじゃない。間違いなく本物のサトシ。
「……!!」
 思わず声を上げそうになったのを、あたしは抑え込んだ。そして、そのまま少し様子を見てみた。
「……確かにそうかもしれないな。しかし、残念だがお前はフタバタウンのヒカリと再び会う事はできない……!」
「何……!?」
「なぜならお前は、今ここで死ぬ事になるからだ……!」
 パラドシンはニヤリと笑いながら、懐から1個のモンスターボールを取り出した。そしてスイッチを押すと、中からスピアーが飛び出した。
「フタバタウンのヒカリが来て、お前が死んだ事を知れば、間違いなく絶望する。そうして精神をかく乱させれば、もうこちらの思うがままだ……!」
「な……っ!?」
 状況を理解したサトシは、言葉を失った。パラドシンがサッと腕を上げると、スピアーがサトシに腕の針を向けて近づいていく。サトシは必死でもがこうとするけど、鎖で十字架にはりつけられた体じゃ、どうする事もできなかった。ポケモン達もサトシを助けようと、檻の中で暴れ始めるけど、頑丈な檻の前には、やっぱり何もできなかった。あたしは、我慢ができなくなった。
「そうだ……最後に勝つのは我々、チーム・ブラッドだ!!」
 パラドシンが勝利宣言をしたのと同時に、あたしは飛び出していた。
「そんな事……させないっ!!」
「!?」
 あたしの声に驚いて、パラドシンとフィオナが振り向いた。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 あたしは、自然と指示を出していた。ポッチャマが放った“バブルこうせん”は、スピアーに向けて飛んで行った! 命中! スピアーはサトシの側から弾き飛ばされた。
「くっ、あれだけやっても退却しなかったなんて、聞いてないわよ!!」
 フィオナが唇を噛んだ。
「ヒ、ヒカリ……!!」
 あたしの姿を見たサトシとそのポケモン達は、喜びの表情を見せた。
「約束通り、ここに来たわよ、チーム・ブラッド……!!」
 よろよろとしながらも、あたしは自力で立って強く言い放った。
「今ここまで来るとは予想外だった……そのしぶとさはほめてやろう。しかし、その体でどこまで持つかな?」
「そうね、その体じゃまともに戦う事はできないでしょう? そんなんでチーム・ブラッドと戦おうとするなんて、バッカじゃないの?」
 そんなパラドシンとフィオナの言葉にも、あたしは屈しなかった。あたしはモンスターボールを全部取り出して、ミミロル、パチリス、エテボース、ウリムーを出した。そこに、ポッチャマとブイゼルも加わる。
「あたしは戦う……!! 今度こそ、あたしはサトシを助ける……!!」
「ポチャッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
「ウリッ!!」
「ブイッ!!」
 あたしの思いに答えて、みんなは一斉に身構えた。
「そうか……それならば、望み通り相手になってやろう」
 それを見たパラドシンは、もう1つのモンスターボールを開け、ウインディを繰り出した。
「だけど、手負いの状態だからって、手加減はしないわよ?」
 フィオナも2個のモンスターボールを両手にとって開けて、アーボックとクロバットを繰り出した。4匹が、一斉にこっちをにらんだ。でも、それにあたし達は屈しなかった。サトシとそのポケモン達が、手を伸ばせばすぐ届く場所に、あたし達はいる。だから、ここで負ける訳にはいかない! 絶対に、サトシ達を助けてみせる! あたしの体の中に、強い力がみなぎってきた。両手に、自然と力が入る。
「いちいち言われなくても……!! みんな、お願い!!」
 あたしの言葉で、みんなは一斉に飛び出した!
「ウインディ、“かえんほうしゃ”!!」
「アーボック、“ヘドロばくだん”!!」
 ウインディとアーボックがすぐに応戦する。飛んできた“かえんほうしゃ”と“ヘドロばくだん”を、みんなはすぐにかわした。その“かえんほうしゃ”と“ヘドロばくだん”が、あたしのすぐ横を通り過ぎた。でもあたしはそれに怯まなかった。完全に前だけを見ていた。
「ミミィィィィッ!!」
「エポオオオオッ!!」
「ブイィィィィッ!!」
 ミミロル、エテボース、ブイゼルの3匹が、雄叫びを上げながら突撃していく。ミミロルの好きなピカチュウが、エテボースの好きなサトシが、ブイゼルと一緒に強くなろうとしていたサトシが目の前にいる。3匹共いつも以上に気合が入っている。あたしは、そんな3匹にあたしの思いも届くように、指示を出した。
「ミミロル、“ピヨピヨパンチ”!! エテボース、“ダブルアタック”!! ブイゼル、“アクアジェット”!!」
「ミミィィィィッ!!」
 ミミロルはクロバットに向けて、“ピヨピヨパンチ”をお見舞いした! 直撃! 弾き飛ばされて、目を回しながら洞窟の壁にぶつかるクロバット。
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 エテボースはアーボックに向けて、得意の“ダブルアタック”をアーボックに叩きつけた! 直撃! 弾き飛ばされて倒れるアーボック。
「ブイイイイイイイッ!!」
 そして、ブイゼルは自慢の“アクアジェット”でスピアーに突撃した! 直撃! 跳ね飛ばされるスピアー。
「ちっ、何なのよこの気迫!?」
 フィオナが唇を噛んだ。
「まだまだっ!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!! パチリス、“ほうでん”!! ウリムー、“こおりのつぶて”!!」
 あたしは、みなぎる力を全部指示にして叫んだ。敵は強敵。とにかく攻撃して、ダメージを与えないと!
「ポッチャマアアアアッ!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
「ウゥゥゥゥリィィィィッ!!」
 ポッチャマは“バブルこうせん”で、パチリスは“ほうでん”で、ウリムーは“こおりのつぶて”でウインディに集中攻撃! 攻撃は次々と命中! ウインディが爆発に包まれた。
「やった……?」
 あたしは、思わずそうつぶやいた。
「……闇雲に攻撃しただけでは勝てないぞ」
「っ!?」
 その言葉を聞いて、あたしの心が焦った。煙の中から現れたウインディは、平気な顔をして立っていた。
「そんな……!? あれだけのダメージでも!?」
「では、次はこちらの番だ!! ウインディ、“ねっぷう”!!」
 パラドシンが指示すると、ウインディは口からすさまじい白い煙を吐いた! その煙は瞬く間に広がって、みんなに襲いかかる!
 煙に飲み込まれたみんなが悲鳴を上げる。そして、その煙はあたしまでも飲み込んだ!
「ああああああああっ!!」
 その煙は、見た目以上に熱かった。体中が煙に包まれて、鉄板で焼かれるような熱さが体中に走った。もうサウナってレベルじゃない。防ぎようのない熱さに、どんどんあたしの体力が奪われていく。あたしの背中が洞窟の壁についた。
「ヒカリッ!!」
 サトシの悲鳴にも似た声が聞こえた。
「フフフ……“ねっぷう”は複数の敵を同時に攻撃できるわざだ……ポケモン達と共に、思う存分苦しむがいい!!」
 パラドシンの言葉に合わせるように、ウインディはまだ“ねっぷう”を吐き続ける。その熱を前にポッチャマが、ミミロルが、パチリスが、エテボースが、ウリムーが、ブイゼルが次々と倒れていく。
「ああ……あ………」
 悲鳴を上げる体力もなくなって、とうとうあたしの体は地面に崩れ落ちた。そこで、ようやく“ねっぷう”が止んだ。でも、あたしの体中がまだヒリヒリする。本当に“ねっぷう”が止まったのか疑いたくなるくらいに。
「今よ!! アーボック、“ヘドロばくだん”!! クロバット、“エアスラッシュ”!!」
 すかさずフィオナの2匹のポケモンが、倒れたみんなに容赦なく攻撃した!
「ポチャアアッ!!」
「ミミィィッ!!」
「チパアアッ!!」
「エポォォッ!!」
「ウリィィィッ!!」
「ブイイイッ!!」
 熱で体力を消耗したみんなに、よけられる訳がない。何の抵抗もなく攻撃を受けて跳ね飛ばされるみんな。
「み……みんな……!!」
 あたしは力の限り立ち上がろうとしたけど、体に力が入らない。体を動かせる体力がない。もう腕を必死に伸ばす事が精一杯だった。
「かつてお前のように、我々に歯向かったトレーナーとコーディネーターがいた……」
 そんなあたしに、パラドシンが勝ち誇ったようにゆっくりと近づいてくる。
「私は以前シンオウに来た時に、そいつらに任務を妨害された。そして任務は失敗し、私は多くの仲間を失った……」
「あ……あんたみたいな奴なら、妨害されて当たり前よ……!!」
 あたしがそう言い返すと、パラドシンは急に怒った様子であたしが伸ばしていた手を思いきり踏みつけた。
「あうっ!!」
「だから私はお前達のようなトレーナーやコーディネーターが憎いのだ……!! そして思った、全てのトレーナーやコーディネーターからポケモンを奪い取れば無力になる、とな……!!」
 そしてパラドシンは、今度はあたしの背中を思いきり踏みつけた。それも1回だけじゃない、力任せに、何度も何度も。
「ああ……っ!! うあ……っ!! はう……っ!!」
 あたしに抵抗する力はなかった。ほとんど殴られたり蹴られたりした事のないあたしにとって、それは耐えられないものだった。何回踏みつけられたか、もうわからない。気が済んだのかパラドシンが踏みつけを止めた頃には、もうあたしの体はぐったりしていた。
「ううっ……」
「だからお前にはただでは死なせん!! たっぷりと苦しんで、ロケット団に歯向かう事がどれほど愚かな事か、世間に思い知らせるためにな……!!」
 そして、最後にまた思いきり強く踏みつけられた。
「ぐは……っ!!」
 背中から体中に衝撃が広がった。そして、あたしの体は完全に力を失った。そして、あたしの意識も、どんどん遠くなっていく。
「そん……な……あた、しは……あたし……は……」
 あたしはサトシを助けられない。それが悔しい。そのまま、あたしはもう……あたしの目の前が真っ暗になろうとした、その時だった。
「ヒカリッ!! 立ってくれっ!! もうお前しかいないんだっ!!」
 そんなサトシの言葉が耳に入って、あたしの遠くなろうとしていた意識が引き留められた。
 あたしの頭の中に、サトシの姿が次々とフラッシュバックした。ポケモンバトルに熱くなってるサトシ、ポケモン達と触れ合って笑顔を見せているサトシ、ポケモン達と一緒に夢中で特訓しているサトシ、ジムバッジを高く掲げて喜ぶサトシ、普段はちょっとおっちょこちょいだけど、優しくて、強くて、いざという時にはとても頼もしくて……そして何よりも、どんな時もあたしの側にいて、あたしを応援してくれていたサトシ……
『ダイジョウブ、ダイジョウブ』
 あたしが落ち込んでいると、いつもサトシはあたしがよく言う言葉でそう励ましてくれたっけ。自信をなくしていた頃は、そんなサトシの前向きさがうらやましかった事もあった。
 あたしが今戦っている理由。それは、そんなサトシを助ける事。ただの旅の仲間とか、友達とか、そんなものじゃない、もっと、ずっと、大切な存在のサトシを……そんなサトシは、あたしが助けてくれるのを信じて、ずっと待っている。そう、あたしはサトシに信じられている。だから、そんなサトシのためにも……


 ――ここで倒れる訳には、いかない!――


「……っ!!」
 自然と、両手に力が入った。そして、体にも力が入った。あたしのボロボロの体が、ゆっくりと自然に立ち上がる。
「まだよ……っ!!」
「!!」
 その言葉に、パラドシンとフィオナが驚いた。そして、倒れていたみんなも、一斉にあたしに顔を向けた。
「あたしは……まだ、戦える……っ!! ダイジョウブ……ッ!!」
 息が切れながらも、あたしはパラドシンに向かって、思い切り叫んだ。
「くっ、だが所詮は最後のあがきに過ぎぬ……!!」
 パラドシンが怒った様子で右手を一気に引いた。殴ろうとしたのかもしれない。
「ポッチャマアアアアッ!!」
 でもその時、ポッチャマが雄叫びを上げながらパラドシンに向かって飛び込んだ。
「ぐっ!!」
 ポッチャマの“つつく”が炸裂! 不意を突かれたパラドシンは弾かれて後ずさりした。
「ポッチャマ……!!」
 ポッチャマは、あたしに顔を向けて微笑んだ。体は傷だらけでも、その姿はとても頼もしく見えた。そして、次はエテボースが体に力を入れて立ち上がった。それに続いて他のみんなも、あたしの思いに答えるように体に力を入れて立ち上がった! みんなが、あたしの方に顔を向けた。
「みんな……うん!!」
 あたしはうなずいて、パラドシンに顔を向けた。
「あたしはまだ、サトシと一緒に、いっぱい旅がしたい!! まだ、こんな所でおしまいになんかしたくない!! だから、あたしは負けられない!! 絶対に……絶対にサトシを助けるんだからっ!!」
 体の奥から、強い思いが込み上げてくる。右手でサトシのジャケットの襟元を、グッと強く握って、あたしは力強く叫んだ。
「ポチャッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
「ウリッ!!」
「ブイッ!!」
 みんなもあたしの思いに答えて、力強く身構えた。
「ヒカリ……!!」
 それを見たサトシは、笑みを浮かべた。
「往生際の悪い奴ね!! なら、あたしの毒で息の根を止めてやるよっ!! アーボック!! クロバット!!」
 フィオナが怒って、アーボックとクロバットに指示を出した。アーボックとクロバットが飛び出した。
「エポッ!!」
 すると、エテボースが真っ先に飛び出した。自分の好きなサトシを助けたい。それを体で表すかのように。そんなエテボースの気持ちがわかったあたしは、エテボースと心が1つになった気がした。
「エテボース、“きあいパンチ”!!」
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 エテボースがあたしの思いを力に変えて、尻尾の拳でアーボックに思い切りパンチした! 直撃! そこにクロバットがフォローに入ろうとした。
「後ろ!!」
「エポッ!!」
 でも、それに気付いたあたしはとっさにそう叫んだ。それに答えてエテボースは、もう片方の尻尾でクロバットに“きあいパンチ”! クロバットを返り討ちにした!
「くっ、何なのよあいつ!! さっきから急に……っ!!」
 フィオナはいらだっていた。
「ちっ、ウインディ、スピアー!!」
 パラドシンがフィオナをフォローしようと、ウインディとスピアーを向かわせた。
「ブイゼル!! ミミロル!!」
「ブイッ!!」
「ミミッ!!」
 こっちも負けてられない。あたしの指示で、ブイゼルとミミロルが飛び出した。
「ブイゼル、“アクアジェット”!! ミミロル、“とびはねる”!!」
「ブイイイイイッ!!」
「ミッ、ミィィィィィィッ!!」
 ブイゼルが“アクアジェット”でウインディに、ミミロルが“とびはねる”でスピアーに向かっていく!
「バカの1つ覚えが通用すると思うな!! ウインディ、“フレアドライブ”!! スピアー、“どくづき”!!」
 そんな2匹を、ウインディは“フレアドライブ”で、スピアーは“どくづき”で応戦しようとする。それでも2匹は、怯む事なく突撃していく。どんどん距離が詰まっていく。そして……!
「今よ!!」
 とっさにあたしはそう叫んでいた。それに答えてブイゼルとミミロルは、ウインディとスピアーがぎりぎりまで近付いた所で2匹は1回転! そのままウインディとスピアーの攻撃を受け流した! 『回転』が決まった!
「緊急回避だと!?」
 それを見たパラドシンは驚いた。攻撃を受け流されたウインディとスピアーは、そのまま洞窟の壁に激突した。
「ブゥゥゥゥゥッ!!」
「ミミィィィィィィッ!!」
 そこに、ブイゼルとミミロルがすかさず向かっていく! 直撃! 効果は抜群!
「調子に乗らないでよ、ピンクの女っ!!」
 そこに、フィオナのアーボックとクロバットが援護に向かってきた。
「ポッチャマ!! ウリムー!!」
「ポチャッ!!」
「ウリッ!!」
 それに気付いたあたしは、すぐにポッチャマとウリムーを呼んだ。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!! ウリムー、“こおりのつぶて”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
「ウゥゥゥゥリィィィィッ!!」
 向かってくるアーボックとクロバットに向けて、“バブルこうせん”と“こおりのつぶて”を発射! 命中! たちまち返り討ちにされるアーボックとクロバット。
「今よパチリス、“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
 全員にダメージを与えられるチャンス! あたしは叫んだ。そして、パチリスの“ほうでん”が炸裂! ウインディ、スピアー、アーボック、クロバットをまとめてしびれさせた!
「エポッ!!」
 そこに、エテボースがあたしの所に来た。そして、サトシがはりつけられている十字架を指差した。「今なら助けられる」って言ってるように。
「うん……!!」
 チーム・ブラッドのポケモンは他のみんなに任せて、あたしはエテボースと一緒にサトシの所に向かった。痛む体を引きずりながら、ゆっくりと。もう体の痛みなんて、どうでもよかった。もうサトシを助けたい。それしか頭になかった。

 十字架が立っている場所の後ろは崖になっていた。その奥から水の流れる音が聞こえる。結構深そうに見えたけど、今はそんな事はどうでもよかった。そんな場所に立つ十字架の前に、あたしはエテボースと一緒に遂にたどり着いた。
「エテボース……十字架を壊して!!」
「エポッ!!」
 エテボースは“スピードスター”を発射。飛んで行った星は、十字架の鎖に正確に命中した。自由になったサトシの体が、ゆっくりと地面に落ちた。あたしはそれをしっかり受け止めた。衝撃で体が倒れそうになったけど、何とか膝をつく程度に抑えられた。そして、すぐに今まで羽織っていたサトシのジャケットをサトシの背中にかぶせてあげた。
「サトシ……もうダイジョウブ……もうダイジョウブだから……!!」
 あたしは我慢できなくなって、そのままサトシを強く抱き締めた。今出せる精一杯の力で。サトシの暖かい体温を感じた。やっとあたしは、サトシを助けられたんだ……!
「エポオオオオオオッ!!」
 エテボースも、サトシの背中にすがりついて泣き始めた。
「ヒカリ……お前……こんな、ボロボロになるまで……」
 サトシは、ボロボロになったあたしの姿に驚いていた。
「あの時からずっと……サトシの事しか考えてなかった……どうしても、サトシを助けたくて……助けたくて……あたしの、大切な人だってわかったから……!!」
 気が付くと、あたしも嬉しくて嬉しくて、目から涙がこぼれていた。
「ヒカリ……」
 サトシがそうつぶやくと、サトシの両手があたしの背中に伸びた。
「ごめんよ……こんな目に遭わせちゃって……」
 ボロボロのあたしの体を、そっと抱き締めるサトシ。
「ダイジョウブ……そんな事、ないよ……」
「でも、信じてたぜ……」
「……え?」
「ヒカリが、必ず助けてくれるってさ……」
「サトシ……!!」
 改めてそう言われると、あたしは嬉しくなった。サトシを抱く腕に、自然と力が入った。
「ありがとう……あたし……あたし……っ!!」
 あたしは思い切り泣いた。もうこれ以上、何を言ったらいいのか思いつかなかった。ただ、とても嬉しかった。サトシが、無事でいてくれた事が……

 * * *

 その横では、ポッチャマがサトシのポケモン達が閉じ込められた檻の鍵を壊して、檻を開けていた。
 そんな景色も、もうあたしの目には入っていなかった。ただ、サトシが無事でいてくれた事が、今まで感じた事もないくらいに嬉しかった。いつしか、ここがどんな場所かも忘れて、あたしはサトシを抱き締めて、サトシの暖かい体温を感じながらひたすら泣いていた。このひと時がまるで、夢を見ているみたいに思えた……

 * * *

「感動の再会もそこまでだ!!」
 そんなパラドシンの一言が、あたしを現実に引き戻した。振り向くと、そこにはミミロル、パチリス、ウリムー、ブイゼルを退けて立つ、ウインディとその横に立つパラドシンの姿が!
「そのまま仲よく消えてもらおう!! ウインディ、“りゅうのはどう”!!」
 ウインディはこっちに向けて、口から“りゅうのはどう”を発射した!


 とっさに、あたしは前に飛び出していた。そして、迫り来る“りゅうのはどう”の前で、あたしは両手を広げた。


 体に、強い痛みが走った。声を上げたかどうかは、わからない。
 体が後ろに弾き飛ばされる。そして、体がゆっくりと後ろに倒れ始めて、後ろにそびえ立つ崖の下へと体は頭から真っ逆さまに吸い込まれていった。


 あたしの目の前が真っ暗になった。あたしの意識が、どんどん遠くなっていく。
 ああ……もうここで、あたしはおしまいなんだ……でも、あたしは満足だった。サトシを、助ける事ができたから……サトシなら……きっと……


 あたしの体が、何かに抱きしめられたのを感じた。
 そして、ドボンと何かに落ちたのと同時に、あたしの意識は吹っ飛んでいった……


NEXT:FINAL SECTION

[677] FINAL SECTION サトシの思い! ヒカリの思い!
フリッカー - 2008年09月13日 (土) 18時57分

 ヒカリッ!! しっかりしろ!! ヒカリッ!!

 そんな……やめてくれよ……まだ、コンテストのリボン2つしかゲットしていないじゃないか……っ!! グランドフェスティバルにだって、まだ行ってないじゃないか……っ!!
 せっかく復活優勝できたのに……ここで終わっちゃうなんて……ママみたいなトップコーディネーターになれないまま、終わっちゃうなんて……空しすぎるじゃないか……っ!!
 自分で『まだ、こんな所でおしまいになんかしたくない』って言っといて……おしまいになるなんて……おかしすぎるじゃないか……っ!!

 俺は……こんな形で……ヒカリとの旅を終わりにしたくないんだ……っ!! 俺だけ助かって、ヒカリがいなくなるなんて嫌なんだ……っ!! 俺は……まだヒカリと一緒に……旅がしたいんだ……っ!!
 だからヒカリッ!! 死なないでくれっ!! 目を開けてくれっ!!

 俺は……ヒカリが……ヒカリが……ヒカリが………っ!!


FINAL SECTION サトシの思い! ヒカリの思い!


 何かが、あたしの体中に流れ込んでくる。よくわからないけど、何だか太陽の光のような、暖かくて、優しい『何か』が波のように体中に降り注いでいるように感じる。すると、何だか少しずつ、少しずつだけど体に力が戻ってくる。これは、何……? その『何か』は、少しずつだけど強くなっているように感じる。この『何か』が、あたしに力をくれる……あたしは、それを受け入れる。その『何か』は少しずつあたしの体に流れ込んでいくと、あたしの体にどんどん力がみなぎってくる……

「ヒカリッ……ヒカリッ……ヒカリッ……」
 目の前が明るくなると、誰かのあたしの名前を呼びながら、泣いている声が聞こえてくる。聞き慣れた声。あたしの頬に、何か冷たいものがポタリ、ポタリと落ちていくのを感じた。
 目の前に、誰かの顔が映る。最初はぼやけていた顔に、ゆっくりとピントが合っていく。そこには、今まで見た事もないほどに涙をあたしの頬にこぼしながら泣いている、見慣れた顔だった。
「サ、トシ……?」
 あたしが声を出すと、サトシは驚いた様子であたしの顔を見た。
「ヒカリ……!! よかった……よかった……っ!!」
 すると、サトシは涙目のまま、あたしの上半身を持ち上げて、思い切りあたしを抱き締めた。あたしは、ようやくどんな場所にいたか理解した。あたしが今いるのは、森の中の川辺。そこに、あたしは横になっていた。そこには、安心した表情を見せたあたしのポケモン達、サトシのポケモン達の姿もあった。
「ヒカリがいなくなったら、どうしようかと思ったよ……」
 泣きながらそう言うサトシは、あたしを抱く力をさらに強くした。
「サトシ……」
 サトシが、あたしを助けてくれたんだ。サトシの言葉で表しようのない優しさに包まれて、あたしは安心感を持った。
「不思議……こうやってると、何だか元気になってくる気がする……」
 何だか、あたしに力をくれた暖かい『何か』は、サトシの体から流れているような気がする……直接目には見えないけど、何だかそんな気がしてきた。そのまま、あたしもサトシの背中に手を回した。
「……あれ?」
 その時、あたしの手がさっきまでより軽く感じた。動かしても、痛さを感じない。あたしはサトシの背中に回した腕を戻して、見てみた。その腕は、今まで何事もなかったかのように、傷は1つもなかった。
「どうした?」
「傷が……治ってる……!?」
「ええっ!?」
 あたしの言葉に驚いたサトシは、あたしから体を少し離して、体の状態を確かめた。あたしも、足も見てみる。そこもやっぱり、今まで何事もなかったかのように、傷1つ付いてなかった。少し動かしてみても、違和感は何もない。
「ほ、ホントだ!?」
 サトシも驚いている。思ってみれば、体もさっきまでと違って、全然痛さを感じない。あたしは試しに、体を立ち上がらせてみる。
「ああっ、大丈夫か?」
 サトシがあたしを心配して、あたしの右手を取って立った。でも、あたしはサトシの支えがなくても、簡単に立つ事ができた。
「体が……痛くない……!?」
 足踏みをしてみても、全然痛さを感じない。完全に治ってる。どうして……?
「どういう事なんだ……!? 岸に上げたばかりの時は、ボロボロだったのに……!?」
 サトシも、首を傾げる。思い当たる節は、1つ。あたしに力をくれた『何か』。あれは一体……?

 その時。ふと、サトシが何かに気付いた。
「ヒカリ!! 危ない!!」
 サトシはあたしをかばうように、突然あたしに覆いかぶさって倒れた。突然の事に驚いたけど、その直後、青い光弾がどこからか飛んできて、あたし達のすぐ近くで爆発した。何が起こったのか一瞬わからなかったけど、その答えはすぐに出た。
「そこにいたか……」
 そんな声がした方向を見ると、そこには、こっちをにらむパラドシンとフィオナ、そしてウインディの姿が!
「チーム・ブラッド……!!」
「またあんた達なのね……!!」
 サトシが体を起こしてつぶやいた。あたしも、体を起こして叫んだ。すると、パラドシンとフィオナが驚いた表情を見せた。
「何だと……!? あの攻撃を受けながら、まだ生きていたのか!?」
「それに、あんだけボロボロだったのに、傷も1つ付いてないなんて、どういう事なの!?」
 パラドシンとフィオナは、あたしの状態に驚いている。フィオナは、手に持っていた機械に目をやった。それは、前にも使って見せていた、あの『波導探知機』だった。
「ちょっと待って……!? 黄色の男から、ピンクの女に波導が流れてる!? 黄色の男が蘇らせたって言うの!? 波導を送って……!?」
「え……!?」
 波導を送った。その言葉を聞いて、あたしははっとした。あのあたしに力をくれた暖かい『何か』は、サトシの波導だったの!? 波導をあたしに送って、あたしに生きる力をくれたっていうの……?
「サトシ……もしかして、あたしを助けようとして、あなたの波導をあたしに……?」
「い、いや、俺は……波導を使おうなんて、何も考えてなかった……」
 あたしが聞いても、サトシは戸惑った様子で、首を横に振った。ウソをついているようには見えない。
「ただ、ヒカリが死ぬのが嫌で、認められなかっただけで……そうか、ひょっとして、それが波導になったのかな……?」
 サトシのつぶやきを聞いて、あたしは確信した。波導は、悲しい時に強まるって聞いた事がある。サトシのあたしが死んで欲しくないって気持ちで、サトシ自身の波導が強まって、あたしに生きる力をくれたんだ……!
「ありがとう、サトシ」
 あたしは、自然とサトシにそう言っていた。あたしを思ってくれた気持ちが、とても嬉しかったから。
「えっ、いや、えっと……」
 サトシは、返す言葉に迷っているのか、困った表情を見せて戸惑っていた。
「ええいっ!! こうなったら、今度こそあんた達の息の根を止めてやるわっ!!」
 フィオナが怒った様子で、乱暴にモンスターボールを投げ上げた。中から飛び出すアーボックとクロバット。
「幸運が何度も続くと思うな……!!」
 パラドシンも、モンスターボールを1個投げて、スピアーを繰り出した。ウインディ、アーボック、クロバットに加わって、こっちをにらみつける。あたし達のポケモンが一斉に身構えた。でも、チーム・ブラッドのポケモン達は、みんな荒い息をしていた。さっきまでの戦いで、消耗してるんだ!
「……うん!!」
 立ち上がったあたし達は顔を合わせて、うなずいた。もう、やる事は1つだった。いちいち口で言わなくてもわかる。2人で力を合わせて、チーム・ブラッドを倒す!
 あたしは何気なく握っていたサトシの手を、さらに強く握った。サトシの手から、今でも波導が伝わってきている気がする。それが、あたしに勇気と力をくれる。何だか手を離しちゃったら、それが途切れちゃいそうな気がしたから。
「ピカチュウ!!」
「ポッチャマ!!」
「ピッカ!!」
「ポチャッ!!」
 あたし達が叫ぶと、ピカチュウとポッチャマが、力強く前に出た。
「ポッチャマアアアアアアッ!!」
 ボロボロだったポッチャマが空に向かって雄叫びを上げると、ポッチャマの体から青いオーラが、力強く燃え上がった。『げきりゅう』を発動したんだ! その燃え上がる青いオーラのように、あたしの体の中でも、強い力がみなぎってきた。固唾を飲んで見守る他のポケモン達。
「それがどうしたって言うのよっ!! アーボック、“ヘドロばくだん”!! クロバット、“エアスラッシュ”!!」
 そんなポッチャマを見たフィオナは、完全にキレていた。アーボックとクロバットが、ポッチャマに向けて攻撃した!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマはあたしの指示に答えて、パワーの上がった“バブルこうせん”を発射! “ヘドロばくだん”と“エアスラッシュ”に正面からぶつかって、爆発した!
「今だピカチュウ! “10まんボルト”!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 そこに、ピカチュウが今まで捕まっていたうっぷんを晴らすように、自慢の電撃を発射! さっきの爆発の煙を突き破って飛んでいく電撃。直撃! 2匹まとめてしびれさせた! 何とか立ち上がるアーボックとクロバット。手応えはあった!
「今だスピアー!! 奴らに“ミサイルばり”だ!!」
 その時、パラドシンのスピアーが飛び出した。そして、あたし達に向けて“ミサイルばり”を撃ってきた! こっちが気付いた時には、もう手遅れだった。
「きゃあああっ!!」
 いくつも起こる爆発に巻き込まれて、あたし達は弾き飛ばされて、背中から倒れた。
「ポチャ!?」
「ピカ!?」
 ポッチャマとピカチュウが、あたし達が攻撃された事に気付いて、こっちに振り向いた。
「そこ、いただきっ!! クロバット、“どくどくのキバ”!!」
 振り向いた隙を付いて、クロバットがポッチャマとピカチュウにキバを剥いた!
「まだよ……こんな所で……っ!!」
「負けてたまるかよっ!!」
 それでもあたし達は、つないだ手を離していなかった。あたし達はまた、力強く立ち上がった。つないだ手を握る力が、互いに強くなった。
「ポッチャマ、スピアーに“つつく”攻撃!!」
「ピカチュウ、クロバットに“10まんボルト”だ!!」
 あたし達は、自然と違う指示を出していた。その指示を聞いたポッチャマとピカチュウは一旦分かれた。
「ポチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマがこっちに戻ってきて、スピアーに向けてクチバシを突き立てた! 直撃! 効果は抜群!
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 そして、ピカチュウは近づいてきたクロバットに電撃をお見舞いした! 直撃! これも効果は抜群! 効果抜群な攻撃を受けたスピアーとクロバットは、完全にノックアウトされた。
「く〜っ、よくもあたしのクロバットをっ!! アーボック、“どくどくのキバ”!!」
「この代償は高くつくぞ……!! ウインディ、“フレアドライブ”!!」
 残ったアーボックとウインディは、場に残ったピカチュウに挟み撃ちをかけようと、左右からピカチュウに躍りかかった! いけない! ポッチャマが離れた隙に……! これじゃフォローしようとしても間に合わない!
「サトシ!!」
「ダイジョウブさ!!」
 でも、サトシは強気の表情のままだった。サトシの手を握る強さが強くなったのがわかった。あたしは、そんなサトシの言葉を信じた。
「ピカチュウ、“でんこうせっか”でかわすんだ!!」
「ピカッ!!」
 今まさに2匹の挟み撃ちが決まろうとした時、ピカチュウは“でんこうせっか”を使って素早くその場から逃げた!
「!?」
 目の前からピカチュウが消えた事に驚いて、慌ててブレーキをかけようとした2匹だけど、もう手遅れだった。ウインディの“フレアドライブ”が、アーボックに炸裂! あまりにも体格差がありすぎたせいで、アーボックはたちまち吹っ飛ばされて、そのままノックアウト。あたしが信じた通り、ピカチュウはダイジョウブだった。
「そんな、ハメられた!?」
「バカな……僅かな時間で、我々のポケモンが3匹も……!?」
 パラドシンとフィオナは動揺していた。
「やったぜ!!」
「あとは、ウインディだけ……!!」
 これで、フィオナのポケモンはいなくなった。残るは強敵、ウインディ……!
「ぬうぅ……まだだ! まだ終わらせぬ訳にはっ!! ウインディ、“ねっぷう”で奴らをまとめて焼き払え!!」
 パラドシンは今まで以上に怒った声で、指示を出した。ウインディは“ねっぷう”をこっちに撃ってきた!
「ピカアアアアッ!!」
「ポチャアアアアッ!!」
「ああああああああっ!!」
 また鉄板で焼かれるような熱さが、あたし達を容赦なく飲み込んだ。
「みんな……川に飛び込むんだ!!」
 サトシが苦し紛れに叫んだその言葉を聞いて、あたしは反射的に川の中に飛び込んだ、サトシや、ピカチュウ、ポッチャマも続けて飛び込んだ。川の水に潜って、何とか熱さをしのぐ。あたし達が顔を出した頃には、もう“ねっぷう”は止まっていた。
「ヒカリ、大丈夫か?」
「う、うん」
 サトシはあたし達の様子を確かめた。ポッチャマと、ピカチュウも無事。
「川に飛び込んでかわしたか……ならば、二度と川から出られないようにしてやる!!」
「2人もろともねっ!!」
 すると、パラドシンはフィオナと一緒に右手のマジックハンドをいきなりこっちに伸ばしてきた!
「ぐあっ!!」
「ああっ!!」
 あたしとサトシの首が、マジックハンドに捕まった。そのまま強く首を絞め付けられる。く、苦しい……っ!
「今だウインディ、“はかいこうせん”で奴らを消してしまえっ!!」
 それだけじゃない。パラドシンの怒った指示で、ウインディはあの“はかいこうせん”の発射態勢になった。このままじゃ、動けない。確実にあの時の二の舞になる……!
「く、くそ……っ!!」
 唇を噛むサトシ。
「ダイジョウブ……ッ!」
 それでもあたしはあきらめなかった。あたしはサトシに聞こえるように、はっきりとそう言って、つないでいた手に力を入れた。指示を出した。
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 たちまちポッチャマの周りで、水が渦巻き始める。いつもよりも強まった水の渦は、ポッチャマが浮かび上がるのと同時に、ポッチャマに持ち上げられた。
「ポッチャマッ!!」
 それを、ウインディに向けて投げつける! パワーアップした水の渦は、発射態勢のまま動けないウインディを飲み込んだ! 効果は抜群! そのせいで、ウインディは“はかいこうせん”を撃てなかった。
「何!?」
 パラドシンは動揺した。ウインディは、そのまま地面に倒れこんだ。まだ戦闘不能じゃないけど、かなりダメージが溜まってきている。
「ピカチュウ、“アイアンテール”でこいつを壊してくれ!!」
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 とっさに指示を出すサトシ。ピカチュウは、力を込めた尻尾であたしとサトシの首を絞めつけていたマジックハンドをへし折った。首からマジックハンドが外れてやっと自由になる。
「行くぞヒカリ!!」
「ええ!!」
 ウインディは弱っている。今がチャンス! つないでいた手に、また互いに強くなった。
「ポッチャマ、“うずしお”を出して飛び乗って!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 ポッチャマはもう一度、“うずしお”を作り出して、まずウインディに投げつけると、その上に飛び乗った! そう、ミクリカップでもやった、あの戦法!
「ピカチュウ、“ボルテッカー”だ!!」
「ピカピカピカピカアッ!!」
 そしてピカチュウも、必殺の“ボルテッカー”でウインディに向かっていく!
「行けええええええっ!!」
 あたし達の思いが伝わるように、あたし達は思い切り叫んだ。
「ポチャアアアアアアッ!!」
「ピカアアアアアアッ!!」
 それに答えるように、ポッチャマとピカチュウも加速していく! そしてそのまま、2匹はウインディに飛び込んだ! 大爆発! それを見据えながら、クルリと反転して着地するポッチャマとピカチュウ。煙が晴れると、そこには完全に力尽きたウインディが、力なく倒れていた。勝った!
「やったぜ!!」
「勝ったわ!!」
 あたし達は、思わず声を上げた。
「バ、バカな……俺はトレーナーとコーディネーターに、またしても負けたというのか……!?」
 パラドシンは、わなわなと両手を握っていた。
「パラドシン!! 次の手はもうないの!?」
「……残念だが、もう時間切れだ。我々はあくまで、本来様子を見にここに来たにすぎない。それ故、我々の継戦時間は限られている。それに、これ以上留守にしていると、サカキ様に迷惑をかける事になる」
「で、でも……!!」
「反論は聞かん!!」
 パラドシンはフィオナとそんなやり取りをして、ウインディとスピアーを素早く戻して、その場から素早く森の中に消えていった。フィオナも悔しそうにこっちに振り向いたと思うと、アーボックとクロバットを戻して、パラドシンの後について行った。
「サカキ様に報告する必要があるな。『奴らは既に独立している。放っておいても問題ない』とな」
 最後にそんな言葉を聞いてしばらくすると、森の中から傷だらけのブラッド・フライヤーが現れて、そのまま空の彼方へと飛び去って行った。

「もう来ないみたいね……」
 あたし達が川から岸に上がると、ポケモン達が勝利を喜んで一斉に集まってきた。
「う、く……」
 すると、サトシがいきなり膝を付いて、ふらりと倒れそうになった。
「あっ、サトシ!?」
 あたしは慌てて、倒れそうになったサトシの体を受け止めた。サトシの体は傷だらけだった。“はかいこうせん”を受けた時のダメージが、まだ残ってたんだ。
「ご、ごめんな……俺、ちょっと無理しすぎちゃったな……」
 サトシはそんな事をつぶやいた。そんな事、いつものくせに。そう思ったあたしは、思わずクスッと笑っちゃった。
「ダイジョウブ。あたしがいるから。サトシだって『一緒なら、お互いに助け合っていけるだろ』って言ってたじゃない」
 あたしは、サトシに笑顔を見せてそう言った。
「ヒカリ……」
 サトシがつぶやいた後、あたしとサトシは互いに笑顔を交わして、一緒にハイタッチした。パチンと、心地いい音が響き渡った。
 遠くからフライゴンの鳴き声がした。見ると、こっちに飛んでくるのは、あのフーちゃん。その背中には、タケシとユラを乗せていた。

 * * *

 戦いは終わった。
 その夜、あたしはズイタウンのポケモンセンターに戻っていた。たまたま部屋が2人用のしか空いてなかったから、ポケッチのコイントスで組み合わせを決めた。結果、あたしはサトシと一緒になった。
 もう寝る時に着るジャージに着替えていたあたしは、そんな部屋のベランダで、物思いに吹けながら、夜の町並みをぼんやりと眺めていた。風がそよそよと吹いている夜だった。
「何してるんだ、ヒカリ?」
 そんな所に、サトシが声をかけてきた。寝る時のシャツに短パン姿だった。
「ちょっと今までの旅を思い出してたの」
「今までの旅、か?」
 そう聞きながら、サトシはあたしの横に来る。街並みを見ながら、あたしは話を続けた。
「ここって、あたしが自信なくしちゃった場所だったよね……もしあたしが1人で旅してたら、あたしは今のあたしになれてたかな?」
「え?」
「……ごめん、そんな事聞いてもわからないよね。あたしね、わかったの。サトシと一緒に旅ができて、よかったなあって」
「えっ……!?」
 サトシは、少し驚いた表情を見せた。
「やっぱりサトシに会えて、ホントによかった。サトシと会ってなかったら、こんな旅できなかったかもしれない。一緒に旅ができたから、いろんな事乗り越えられたって思うの」
 旅に出たばかりの頃は、サトシはポケモンゲットのやり方とか、いろいろ教えてくれた。コンテストの練習の時も、いつも力になってくれた。一緒に力を合わせて、戦った事もあった。そして、あたしが自信をなくしちゃった時も、あたしを気遣ってくれていた……あたしはそんなサトシにお礼が言いたかった。
「サトシ、ホントにありがとう」
 あたしはサトシに顔を向けて、はっきりお礼を言った。
「えっ!? いや、それは俺だって同じだよ……」
 サトシは照れながら、そんな言葉を返した。今度はあたしが驚く番だった。
「えっ!?」
「俺も今まで、いろんな人と一緒に旅をしてきたけど、あれだけピンチになって、それから助けてくれたのは、ヒカリが初めてだったよ。俺もやっぱり、ヒカリと旅ができてよかったって思ってる」
「サトシ……」
 あたしは、一緒だったその気持ちが嬉しかった。そして、何だか胸が熱くなってきた。胸に湧き上がってくる、何だかもどかしいけど、心地よくも感じる気持ち。あたしはふと、こんな変な事を聞いちゃった。
「ね、ねえサトシ」
「何だ?」
「これからも……一緒に旅をしていいよね?」
「な、何言ってるんだよ!? 当たり前じゃないか!」
「あ……そ、そうだよね! 変な事聞いちゃってごめん……」
 言ってみてから、こんな変な事を聞いちゃったあたしが恥ずかしくなった。あたしは思わず顔を赤くして、顔をそらしちゃった。なんであんな事聞いちゃったんだろ……? でも、そう答えてくれた事が、嬉しかった。
「コンテストももうすぐだろ? 3つ目のリボンがかかってるんだから、練習がんばれよ。俺、応援するからさ」
「ありがとう。あたしも、サトシのジム戦応援するから、サトシもがんばって」
「ああ! 次はいつになるかわかんないけど、ヨスガジムが開いた時のために、しっかり特訓しないとな!!」
 サトシは張り切った様子でそう答えた。それを見たあたしは、思わずクスッと笑っちゃった。
 旅は道連れ世は情け、っていうのはこの事なんだ。あたしは、サトシと一緒に旅ができた事がよかったと思ったのはこれが初めてだった。そして、あたしの胸の中には、何だか今まで感じた事もない思いが湧き上がっていた。

 ――もし、あたしがポケモンだったら、絶対サトシについて行きたい。そして、あたしを信じるサトシのために、精一杯自分の力を振り絞って戦いたい――

 * * *

 次の日。
 ロケット団に襲われたせいで、できなかったサトシとユラのポケモンバトルが、改めて町の公園でやる事になった。
「サトシーッ!! がんばってねーっ!! 調子に乗っちゃダメよーっ!!」
 あたしは公園のバトルフィールドの片隅から、サトシにはっきり聞こえるように手を振りながら叫んだ。
「ああ、わかってるさ!!」
 サトシも手を挙げて、こっちにはっきりと言葉を返してくれた。あたしは、それだけで何だか嬉しかった。
「なあ、ヒカリ?」
 その横で審判をするタケシが、あたしに聞いた。
「何?」
「……ジム戦でもないのに、なんでそんな格好してるんだ?」
 あたしは今、いつもの服装じゃない。赤いチアガールの服を着て、両手にポンポンを持ってサトシを応援する気満々だった。この格好はジム戦の時しかした事なかったから、タケシに聞かれるのも当然かもしれない。
「いいでしょ? サトシを応援したいだけなんだから。ね、ポッチャマ!」
「ポチャマ!」
 足元にいるポッチャマも、あたしと同じ格好をして、両手にポンポンを持って準備OK! 早速あたしは応援を始める。
「フレーッ!! フレーッ!! サートーシッ!! 絶対絶対ダイジョウブッ!!」
 あたしはお腹の底から思い切り声を出して、両手を思い切り振りながら精一杯エールを送る。ポッチャマもあたしのマネをして両手を振る。
「よ〜し、応援されてるんだから、力の出し惜しみなんてできないな!!」
 サトシがそんな事をつぶやいたのを聞いて、あたしはまた嬉しくなった。それを見ていたユラは、ちょっとだけ唖然とした表情を見せていたけど。
「それでは、試合開始っ!!」
 タケシが、勢いよく両手を上げた。試合開始の合図。
「よ〜し!! ブイゼル、君に決めたっ!!」
 サトシはあたしの応援が伝わったように、力強くモンスターボールを投げた。中から飛び出したのはブイゼルだった。
「では、私も行きます!! マーちゃん!!」
 ユラもモンスターボールを取り出して、サトシに負けじと思い切り投げた。マルノームのマーちゃんが出てきた。
「まずはこっちから行くぜ!! ブイゼル、“ソニックブーム”!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」
 先に攻撃を仕掛けるサトシ。ブイゼルが、マーちゃんにむけて“ソニックブーム”を発射!
「マーちゃん、“たくわえる”!!」
 “ソニックブーム”が飛び込んでくる中で、パワーを吸い込み始めるマーちゃん。上がった防御力で、飛んでくる“ソニックブーム”をしのいだ。
「次は“みずのはどう”だ!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」
 サトシは攻撃を緩めない。さらにブイゼルは、“みずのはどう”をマーちゃんにお見舞いする!
「もう1回“たくわえる”!!」
 でも、ユラはまた“たくわえる”を指示した。マーちゃんはもう1回パワーを吸いこんで、飛んできた“みずのはどう”を受け止める。反動で少し後ろに飛ばされたけど、何とかしのいだ。
「どうしたんだ? もっと攻めてきてもいいんだぜ?」
「まだこれからです!! マーちゃん、“のみこむ”!!」
 サトシが少しだけ挑発すると、ユラはやっと別なわざを指示した。マーちゃんはゆっくりと何かを飲み込む動きをしたと思うと、マーちゃんはたちまちパワーを取り戻した!
「何!?」
「これから仕掛けます!! マーちゃん、“ヘドロばくだん”!!」
 驚くサトシを尻目に、ユラの指示でマーちゃんは“ヘドロばくだん”を放って反撃開始!
「ブイイイッ!!」
 直撃! 弾き飛ばされたブイゼルだけど、何とか体勢を立て直した。見た感じ、結構威力ありそう。
「なかなかやるな、ユラも」
「いいえ、サトシさんのブイゼルも強いです」
 そんなやり取りをするサトシとユラ。
「フレーッ!! フレーッ!! サートーシッ!! ファイトッ!! ファイトッ!! ブイゼールーッ!!」
 ブイゼルが少し反撃された途端、あたしも負けてられない、応援しなきゃって思った。あたしの応援にも、自然と力が入った。それに答えるように、サトシはまた指示を出した。
「でも、こっちだって負けないぜ!! ブイゼル、“アクアジェット”!!」
「ブイイイイイイイッ!!」
 あたしの応援に答えるように、ブイゼルが得意技の“アクアジェット”でマーちゃんに向かっていく!
「“ヘドロばくだん”!!」
 マーちゃんも黙っていない。“ヘドロばくだん”を撃って応戦してくる。でも、ブイゼルはそれをうまくよけて、たちまちマーちゃんとの間合いを詰めていく! 直撃! これには踏み止まれないで、弾き飛ばされるマーちゃん。途端に、あたしの心が躍った。あたしの応援が伝わった事が、とても嬉しかったから。それも、何だかジム戦を応援した時よりずっと嬉しい気がした。
 一瞬、サトシがあたしを見て微笑んだ。あたしはまた嬉しくなって、もっと応援に力を入れた。あたしのこの力が、全部サトシに伝わるように。

 * * *

 あたしはこれからも、サトシと一緒に旅をしていく。また、ケンカする事もあるかもしれない。それでも、一緒に旅ができるのが楽しい。これからも一緒に、いろんな事を旅の中で経験していきたい。
 できるものなら、こんな旅がずっと続いて欲しい。サトシと一緒の旅が、ずっと、ずうっと……

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY20:THE END

[678] 特報!!
フリッカー - 2008年09月13日 (土) 18時58分

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


 新作ゲーム発売に合わせて、来週から、ヒカリストーリーは新装開店!! 新しい仲間や、新しいポケモン達が続々登場!!
 あたし達の進化は、止まらない!!


『ポケットモンスターダイヤモンド&パール&プラチナ外伝 ヒカリストーリーEvolution』


 STORY21:哀しみの波導少女
 STORY22:約束の進化
 STORY23:シンジの目

 みんなもポケモンゲットで、ダイジョウブ!!



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