[640] SECTION04 サトシ、樹海に死す!? |
- フリッカー - 2008年08月15日 (金) 09時16分
あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。 カンナギタウンに向かうために、ズイタウンを経由しようとしてたあたし達。そこに、サトシのファンだっていう女の子ユラが現れて、サトシにバトルをお願いした。そこに現れたロケット団。いつものように追い払えると思ったら、そこに別のロケット団『チーム・ブラッド』のパラドシンが現れて、サトシのピカチュウとグライオンを奪った後、“はかいこうせん”の一撃であたしとサトシは吹っ飛ばされちゃったの! 吹っ飛ばされた場所は、一度入ったら出られない森、『迷いの樹海』。そこでも、チーム・ブラッドのフィオナがあたし達に容赦なく攻撃してきた! どんどん奪われるサトシのポケモン。そして、あたしの心も追い詰められていった。でも、そんなあたしを、サトシが励ましてくれた。 サトシって、やっぱり優しい。こんなサトシと一緒なら、絶対にダイジョウブ! ポケモン達を信じるように、あたしはサトシを信じた……
SECTION04 サトシ、樹海に死す!?
「う……」 目を覚ますと、そこは蛍光灯がついた部屋の天井だった。そしてあたしは、ベッドの中にいた事に気付いた。 「ポチャ!」 「ブイ!」 「エポ!」 ポッチャマとブイゼル、そしてエテボースが、嬉しそうに顔をのぞかせた。 「気がついたか!」 「よかったです……!」 タケシに、ユラの顔もある。2人共ほっとした表情を浮かべている。 「あれ……ここは……?」 「ポケモンセンターですよ」 体をゆっくりと起こしたあたしに、ユラが答えた。 そっか、ここはポケモンセンター……あたし、どうしてここにいるんだろう……? ふと、横の机にサトシのジャケットが置いてあったのを見つけた。それが、あたしを意識が戻る前の記憶へと引き戻した。
* * *
事の始まりは、サトシに勇気づけられた日の次の朝だった。 「出て来いヒコザル!」 シャツ姿のサトシは、取り出したモンスターボールを開けて、ヒコザルを繰り出した。 「ヒコザル、この木のてっぺんまで登って、火をつけてくれ」 「ヒコッ」 ヒコザルはサトシに言われた通り、あたし達の目の前に立つ高い木を、忍者のように器用に素早く登っていく。そしてとうとう、ヒコザルの姿は見えなくなった。それくらい木が高い。少しすると、ずっと遠くに見えるてっぺんに、小さな火がついたのが見えた。 「これなら、きっとタケシ達も気付くはずだ」 サトシがつぶやいた。これは、タケシ達にあたし達の場所を教えるために、サトシが思いついたもの。樹海に立つ木のてっぺんに火をつけて、あたし達の位置を知らせようというもの。ムクバードがいない今、もうあたし達の場所を知らせる方法はないって思ってたけど、こんな方法もあったんだ、ってサトシのひらめきに少し驚いた。ひょっとして、夕べここで死にたくないって言って泣いちゃったあたしのために……? 「これでもうダイジョウブさ」 サトシがあたしにほほ笑んだ。 「うん、でも……」 「でも、何だ?」 「あいつが、また来るんじゃないかな……?」 でも、あたしは気になっている事があった。チーム・ブラッドのフィオナの事。 『仲間に助けを求めに行くつもりだったんでしょうけど、そうは問屋が卸さないのよねえ……あんた達には、ここで永久にさまよってもらわなきゃ困るんだからね……!』 ムクバードを奪った時に言った、そんな言葉を思い出す。考えてみればわかる。その言葉通りなら、フィオナがこれに気付けば黙っているはずがない。そのためにムクバードを奪ったのなら、必ず今回も妨害しに現れる……! 「心配すんなって。俺達で力を合わせれば、絶対勝てるさ!」 「そうだよね……!」 やっぱりこう言われると、サトシの存在がとても心強くなる。やっぱりあたしは1人じゃないんだ。あたし、サトシを信じる。あたしはまだ背中にはおっていたサトシのジャケットの暖かさを改めて感じた。 「みんなと一緒なら、絶対ダイジョウブ! そうだよね、ポッチャマ?」 「ポチャポ〜チャ!」 頭の上にいるポッチャマにそう言うと、ポッチャマも元気よく答えた。 「それでなくちゃ!」 サトシがそう答えた時、少し地面が揺れた。しかもそれは連続で、規則的なもの。それは、どんどん大きくなっていく。そして、ズシンズシンと何かが音を立てて近づいてくる。 「何だ!?」 サトシが声を上げた。見るとそこには、山のようにって言葉がふさわしいくらい大きなロボットが、こっちに重い音を立てながら歩いてきていた! 体は紫色に輝いていて、ゴーグルのような目を付けた頭。太い腕と足、そしてお相撲さんのように太い体が、かなりマッシブなシルエットを作り出している。その胸には『R』の文字が。 「あのメカは……!?」 「まさか……!?」 あたしの口からそんな言葉がこぼれた。その予感は的中した。 「ハハハハハ!! 今日こそあんた達の息の根を止めてやるわ!!」 頭のハッチが開いて中から現れたのは、やっぱりフィオナだった。 「しつこいぞフィオナ!!」 「あたしはしつこく追いかけるわよ。あたしが作ったこの『波導探知機』を使えば、こんな樹海の中でもあんた達のいる場所は手に取るようにお見通しなんだから!」 フィオナは自慢気に手に持った小さな機械を見せた。携帯ゲーム機みたいな外観に、大きなアンテナが付いている。『波導』っていうのは、どの生き物も持ってる力のようなものって聞いた事があるけど、それを探知できる機械を作ってたなんて……だから今まで迷いの樹海の中でも迷わずにあたし達を探せたんだ……! 「さあ、覚悟しなさい! ここが、あんた達の墓場になるのよ!!」 フィオナがそう叫ぶと、頭の中に素早く潜り込んで、ハッチを閉めた。すると、ロボットがまた動き出した。右腕を引いたと思ったら、こっちにパンチしてきた! 「わあっ!!」 慌てて逃げるあたし達。ロボットの拳が地面に強く食い込んだ。物凄い衝撃で、地面が揺れた。あんなものまともに受けちゃってたら……と思うとゾッとした。地面に食い込んだ拳を力任せに引き抜くロボット。 「ヒカリ、応戦するぞ!!」 「ええ!!」 でも、あたしにはみんながついてる! 力を合わせて戦えば……! あたし達はロボットの前で身構えた。 「ヒコザル!!」 「ポッチャマ!!」 木から下りてきたヒコザルと、あたしのポッチャマがロボットの前に飛び出した。 『さあ、どこからでもかかって来なさい!!』 スピーカーからフィオナの余裕そうな声が聞こえる。 「ヒコザル、“かえんほうしゃ”!!」 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 「ヒィィッ、コオオオッ!!」 「ポッチャマアアアッ!!」 あたし達の叫びが、2匹のわざとなって飛び出した! そのまま真っ直ぐ飛んで行って、命中! と思ったら、信じられない事が起こった。命中した“かえんほうしゃ”と“バブルこうせん”が、そのまま跳ね返されて2匹の所に戻ってきた! 「ヒコオオオオッ!!」 「ポチャアアアアッ!!」 予想外の攻撃に、2匹はよけられるはずがない。そのまま直撃を受けちゃった! 「ヒコザル!?」 「ポッチャマ!?」 あたし達は驚きを隠せなかった。2匹はそれでも怯まずに立ち上がった。 「もう一度よ!! “うずしお”!!」 「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」 もう一度、今度は“うずしお”で攻撃! ポッチャマは両手を上げて、頭の上に大きな水の渦を作り出す。 「ポッチャマッ!!」 そして、それをポッチャマは思い切り投げつけた! ロボットを飲み込もうとするほどの勢いだったけど、飲み込まれる前に受け止められて、逆にまた戻ってきた! 「ポチャアアアアッ!!」 戻ってきた“うずしお”は、ポッチャマに命中! 弾き飛ばされるポッチャマ。 「ポッチャマ!?」 「どうなってるんだ……!?」 あたし達は目の前で起きている事が信じられなかった。 『どう? このロボットの装甲には『クリスタルシステム・フィオナスペシャル』を使っているのよ!』 「『クリスタルシステム・フィオナスペシャル』!?」 『元々は電撃しか跳ね返せなかったけど、あたしが改造して特殊攻撃なら全部跳ね返せるようにしてあるのよ! つまり、あんた達が強力なポケモンを出せば出すほど、自分の首を絞めるって事よ!』 「そんな……!?」 フィオナの余裕そうな説明を聞いて、あたしは言葉を失った。こっちの攻撃を全部跳ね返しちゃうなんて……どうしたらいいの!? 『さあ、こっちに特殊攻撃は通用しないわよ! どうする?』 フィオナがあたし達を挑発する。でも、あたし達は何もできなかった。どうしたら、どうしたら、と考える事で精一杯だった。 『何もしないなら、こっちから行くわよっ!!』 でも、あたし達の答えを待たないで、ロボットはまた2匹にパンチを繰り出した! 「危ない!! よけて!!」 とっさに指示したお陰で、ヒコザルもポッチャマもパンチを間一髪かわす事ができた。地面にぶつかったパンチがまた、地面を大きく揺らす。 「くそっ、ヒコザル、“かえんぐるま”だ!!」 「ヒッコオオオオッ!!」 たまらずサトシが攻撃の指示を出した。ヒコザルは体を炎で包んでロボットに向かっていく! 『無駄よっ!!』 でも、ロボットの大きな左腕でぶたれて、あっさりと跳ね飛ばされた! 「ヒコオオオオッ!!」 ヒコザルはそのまま後ろの木に思い切り叩きつけられた。そのまま力なく地面に落ちるヒコザル。 「ヒコザル!!」 サトシが叫ぶ。その時、ヒコザルをぶった左腕が、サトシに素早く伸びた! 「ぐあっ!?」 「サトシ!!」 サトシはそのまま、ロボットの大きな手に捕まっちゃった! あたしが叫ぶのを尻目に、そのまま持ち上げられるサトシ。 「くそっ!! 放せ!! 放せ!! 放せ〜っ!!」 サトシは握られた手の中で必死にもがくけど、手はピクリとも動かない。 「ヒコッ!? ヒ〜ッ……!!」 それに気付いたヒコザルは、すぐに口の中に炎を溜め始めた。でも、そんな事したら……! 「ダメよヒコザル!! そんな事しても、跳ね返されるだけよ!!」 「ヒコッ……!!」 あたしはそれを慌てて止めた。ヒコザルもそれに気付いて、火を吹こうとするのを止めた。 「ポチャ……ッ!!」 ポッチャマもそんなヒコザルを見て、何もできないまま、悔しそうに唇を噛んでいた。 『さあて、このまま握り潰してやろうかしら……? それとも地面に思い切り叩きつけてやろうかしら……?』 フィオナは余裕からか、そんな事をつぶやいている。このままじゃ、サトシが危ない……! 「どうしよう……どうしたらいいの……?」 でも、攻撃したら跳ね返される、黙っていれば向こうから攻撃してくる……完全に打つ手なしなの……? そんなはずないって信じたい。何か、何か方法はあるはず…… そう思った時、ふと、サトシを捕まえている左腕の甲に、大きなヒビがあるのが見えた。そこから、火花がバチバチと出ている。あそこって、確かヒコザルが“かえんぐるま”で当たったけど跳ね返された所……はっ! あの時ヒコザルはただぶたれただけで、攻撃を跳ね返されていなかった……! 『さあ、こっちに『特殊攻撃』は通用しないわよ! どうする?』 そんなフィオナの言葉を思い出す。よく考えたら、『特殊攻撃は通用しない』って言ってただけだった……もしかしたら、物理攻撃は……! 「エテボース!!」 試してみる価値はある! そう判断したあたしは、すぐに物理攻撃が得意なエテボースを出した。エテボースは、サトシがロボットに捕まっている状況を確かめた。驚いた様子だったけど、怯む様子はなかった。 「サトシを助けて!! “きあいパンチ”!!」 「エポッ!!」 エテボースはすぐに、ロボットに向かって飛び出した! 『そうはさせないわよっ!!』 それに気付いたフィオナも、すかさず応戦する。大きな右手のパンチがエテボースに迫る! 「回って!!」 あたしはとっさに指示を出した。それに答えて、エテボースは空中で『回転』! ロボットの大きな右腕が、エテボースの横を通り過ぎた。 『な!?』 「そのままやっちゃってっ!!」 「エイッ、ポオオオオオッ!!」 驚くフィオナを尻目に、エテボースは尻尾の拳に力を込めて、サトシが捕まっている左腕にアッパーをお見舞いした! すると、パンチが当たった場所にヒビが入って、そのまま爆発! あたしの思った通りだった! サトシを握っていた左腕が、折れて地面に落ちた。折れた手の力が緩んで、サトシは自由になった。そんなサトシの前に、降り立つエテボース。 「サンキュ、エテボース。助かったぜ」 「エポッ!!」 サトシにお礼を言われたエテボースは、嬉しそうに小躍りした。 「サトシ!! ダイジョウブ?」 あたしもすぐに、サトシの側に行った。 「ああ、何とかな。それより、なんで腕を壊せたんだ?」 「あのロボット、特殊攻撃は跳ね返せるけど、物理攻撃は跳ね返せないみたい。そこが弱点だってわかったの!」 「そうか!! なら、反撃するっきゃないな!!」 サトシが力強く立ち上がった。 「ええ!!」 あたしもサトシの隣で、改めてロボットと向かい合った。弱点さえわかれば、もう怖くなんてない! 『く〜っ、弱点を見破ったからってぇっ!!』 フィオナのキレた声が響く。ロボットはそれを表すように、右腕でパンチしてきた! 「ヒコザル、“かえんぐるま”だ!!」 「エテボース、“きあいパンチ”!!」 「ヒッコオオオオッ!!」 「エイッ、ポオオオオオッ!!」 あたし達の指示に答えて、ヒコザルは“かえんぐるま”で、エテボースは“きあいパンチ”でロボットに向かっていく! 2匹は、ロボットのパンチをうまくかわして、ロボットに飛びかかった! ロボットの体に2匹の攻撃が直撃! ロボットの体に大きなヒビが入った。そして、2匹が離れると、受けた衝撃でロボットはゆっくりと背中から倒れた。ズシン、という重い音が響いた直後、攻撃が当たった場所が爆発! 「やったあっ!!」 「やったぜ!!」 ロボットは黒い煙をあげたまま動かない。勝った! あたし達は思わず声を上げた。 「く……っ、あたしの造ったメカが、こんな簡単に……っ!!」 そんなロボットの頭から、ハッチを開けてフィオナが転がり出てきた。 「だけど、まだよっ!! あたしには、まだポケモンがいる!!」 フィオナは2個のモンスターボールを取り出して、一斉に開けた。中から、アーボックとクロバットが出てくる。 「フィオナ、もう許さないぞ!!」 「覚悟しなさい!!」 あたし達も、そう叫んでフィオナの前で身構えた。ヒコザルもエテボースも、強気で前に出る。 「ヒコザル……!!」 「エテボース……!!」 あたし達が指示を出そうとした、その時! 突然どこからか、たくさんの針がミサイルのように飛んできて、あたし達に雨のように降り注いだ! 「きゃあっ!!」 完全な不意討ち。いくつも起こる小さな爆発に巻き込まれて、倒れるあたし達。その後すぐに、どこからかマジックハンドが伸びてきて、ヒコザルを鷲掴みにした! 「ヒコオオオオッ!!」 「ヒコザル!!」 サトシが叫ぶのも空しく、マジックハンドに連れ去られるヒコザル。その先にいたのは…… 「フィオナ、手こずっているようだな」 空中バイクに乗った、パラドシンだった! その横にはスピアーがいる。パラドシンはそのままマジックハンドでヒコザルを檻に強引に投げ入れた。 「お前は……!!」 「パラドシン……!!」 あたし達は声を上げた。 「パラドシン」 「潮は満ちた。今から俺も合流する」 パラドシンはフィオナにそう言って、フィオナの隣にサッと降り立った。そして、あたし達を強くにらんだ。一瞬、あたしの心が少し怯えた。パラドシンは、あの時あたし達のポケモンも敵わなかった相手。ここで勝てるかな、と思ったけど、すぐにその考えを切って捨てた。 『ヒカリは1人じゃない。俺だっているし、ポケモン達だっているじゃないか』 そんなサトシの言葉を思い出す。そう、あたしは1人じゃない! みんなで力を合わせれば、絶対、絶対ダイジョウブ! あたしの心に、強い勇気が湧いてきた。 「パラドシン……俺はお前みたいな奴が許せない!! ブイゼル、君に決めたっ!!」 サトシは残った最後のモンスターボールを投げて、ブイゼルを出した。 「ウインディ!!」 すぐにパラドシンもモンスターボールを取り出して、スイッチを押した。出てきたのは、あたし達をここに吹き飛ばした張本人、ウインディ。ウインディはブイゼルを強くにらんだけど、ブイゼルは屈しなかった。すぐに強気でにらみ返す。 「ヒコザルを返せ!!」 「それに、他のサトシのポケモン達も……!!」 「まだ未練がましいのか……? 所詮トレーナーやコーディネーターは、自分が一番強いと見せる為にポケモンを使うだけだ。お前達のポケモンもそのためにあるんだろう?」 「何だと!! 俺のポケモンは一緒に強くなる仲間だ!!」 「そうよ!! あたしのポケモンだって、みんな大事なパートナーよ!! ポケモンを盗んで、悪い事しようとするあんた達が言える訳!?」 パラドシンの言葉に、あたし達は強く反論した。 「ふん、ポケモンを奪う理由を聞くなんて、ナンセンスよ」 「何!?」 フィオナが、意外な言葉を出した。 「ポケモンを勝手に捕まえて、僕(しもべ)として従えるあんた達だって同じよ。自然から見れば、ポケモントレーナーなんてみんなポケモンを奪って、勝手に利用するドロボウよ!」 「そうだ、だからお前達にロケット団の行動を否定する事はできない。ポケモンで何をしようと我々の自由だ。所詮友情など、飾りに過ぎぬ!」 「違うっ!! そんなの、あんた達の自分勝手よ!!」 パラドシンとフィオナがどんなに自分を正しくする事を言っても、あたしには訳のわからないただの言い訳にしか聞こえなかった。それは、サトシも同じみたい。 「それでも否定すると言うのなら……我々はお前達を倒す!! ウインディ!!」 「アーボック!!」 パラドシンとフィオナの指示で、ウインディとアーボックが飛び出した! 「やるぞ、ヒカリ!!」 「ええ!!」 「ブイゼル、“アクアジェット”!!」 「エテボース、“スピードスター”!!」 あたし達も負けじと、2匹に指示を出した。 「ブイッ、ブウウウウウッ!!」 「エェェェイポッ!!」 ブイゼルは“アクアジェット”で突撃、エテボースは“スピードスター”を発射! 「ウインディ、“フレアドライブ”!!」 「アーボック、“ヘドロばくだん”!!」 パラドシンとフィオナも指示を出した。ウインディは体に炎をまとってブイゼルに突撃、アーボックは“ヘドロばくだん”を発射して応戦! ブイゼルとウインディが、正面からぶつかり合った。そのままどちらも譲らずに動かなくなったと思うと、爆発! ブイゼルとウインディは、反転して仕切り直しになる。エテボースの“スピードスター”とアーボックの“ヘドロばくだん”は、正面からぶつかり合って相殺した! 「ブッ……!」 ブイゼルが、よろりと膝を付いた。受け止めたはよかったけど、ダメージは受けてたみたい。 「よくぞ耐えた。しかし!! “かえんほうしゃ”!!」 パラドシンの指示で、ウインディは“かえんほうしゃ”でブイゼルを攻撃! 「負けてたまるか!! ブイゼル、かわして“みずのはどう”だ!!」 「ブイッ!!」 ブイゼルは飛んできた炎をジャンプしてかわした。そして、両手で青いボールを作り出す。 「ブウウウウウッ!!」 それを思い切りウインディに投げつけた! 命中! 効果は抜群! 白い煙が、ウインディを包んだ。 「どうだ!!」 「“しんそく”!!」 「何!?」 自信満々に叫ぶサトシだったけど、それを裏切って、ウインディは煙の中からダメージを思わせない物凄いスピードで飛び出した! 「ブイイイイイッ!!」 ウインディはブイゼルに突撃! たちまち跳ね飛ばされる。あっという間の出来事だった。 「エテボース、“きあいパンチ”!!」 「エイ……ッ!!」 エテボースが煙を突き抜けて、アーボックに向けて尻尾の拳に力を込めた! 「アーボック、“へびにらみ”!!」 フィオナの指示と同時に、アーボックのお腹の模様が不気味に光った。 「エポ……!?」 すると、エテボースの体が凍りついたように止まっちゃった! 「エテボース!?」 「“まきつく”よ!!」 動けなくなったエテボースを、アーボックが長い体で巻きついた! たちまち体を締め付けられるエテボース。 「エポオオオオッ!!」 「フフフ、『まひ』してあがく事もできないでしょう?」 フィオナが余裕そうな笑みを浮かべた。そうだ、“へびにらみ”って確か、相手を『まひ』させるわざ……! 「エテボース!! ブイゼル、エテボースを助けるんだ!!」 「ブイッ!!」 それに気付いたサトシは、すぐにブイゼルに指示を出した。ブイゼルは、すぐにエテボースの所に駆けつけようとしたけど、ウインディの“かえんほうしゃ”がブイゼルの行く手を遮った。 「お前の相手は俺だろう!!」 パラドシンの言葉を現すように、ウインディが“しんそく”でブイゼルに飛び掛かった! 一瞬のうちに跳ね飛ばされるブイゼル。 「くっ!!」 唇を噛むサトシ。それを見たパラドシンは、フィオナと目を合わせて、何か伝えたようにうなずいた。 「がんばってエテボース!!」 エテボースに必死で呼びかけるのに夢中だったあたし。その時、あたしの横で何か気配がした。振り向くとそこには、こっちに飛んでくるクロバットが! 気が付いた時には、あたしはクロバットに跳ね飛ばされていた。 「きゃあっ!?」 うつぶせに倒れたあたしの背中に取り付くクロバット。何する気なの!? とにかく、エテボースは動けないから、ポッチャマに…… 「ポッチャマ……」 そう言ってポッチャマのいる方を見たあたしは、予想外の光景に驚いた。だって、ポッチャマは目を回して、完全に『こんらん』状態だったんだから! 「さあ、覚悟してもらうわよ、ピンクの女!」 フィオナがニヤリと笑った。それを見てわかった。これは、フィオナがわざとやったんだ! ポッチャマが『こんらん』したのも、“ちょうおんぱ”で先に『こんらん』させたのかも…… 「ひ、卑怯じゃないの!! 不意討ちなんて……!!」 「言ったはずよ、あたし達にズルとか卑怯とか言っても無駄よって!! さあ、あんたの血をクロバットにたっぷり味わわせてもらうわ!!」 フィオナの言葉を聞いて、あたしはゾッとした。血を味わわせてもらうって、まさか……! 「“きゅうけつ”!!」 あたしの予想は的中した。クロバットはあたしの首筋に思い切り噛み付いた! 「うああああああっ!!」 強い痛みが首筋から走る。それに合わせて、ジュルジュルと何かを吸い上げる音が聞こえてきた。血を吸われている……! 「や、やめて……っ!!」 そんな事を思わず言うけど、クロバットはやめようとしない。そして、だんだんあたしの頭がフラフラしてきた。このままじゃ、あたしは……! 「ヒカリ!! ブイゼル、ヒカリを助けるんだ!!」 「ブイッ!!」 それに気付いたサトシはすぐにブイゼルに指示を出した。 「ブウウウウウッ!!」 ブイゼルはすぐにあたしの所に飛び出して、クロバットに“みずでっぽう”を発射! 命中! 驚いたクロバットは、すぐにあたしの首筋から口を離して逃げた。 「サトシ……!」 あたしは自分を助けてくれたサトシがまた頼もしく見えた。こっちを見ているサトシが、こっちに笑みを浮かべていた。 「自ら隙を晒してまで、人を助けるというのか!! ウインディ、“はかいこうせん”!!」 その時、そんなパラドシンの叫びが場を切り裂いた。ウインディが、口から“はかいこうせん”を発射! その先にいたのは…… 「……っ!?」 ブイゼルでもエテボースでもなくて、間違いなくサトシだった! 次の瞬間――
閃光が、サトシの体を容赦なく飲み込んだ。そして爆発! その爆風を受けて、あたしの体も吹き飛ばされた。木に、背中を思い切りぶつけた。そして、あたしは信じられない光景を目の当たりにした。 「そ……そんな……!?」 あたしは目の前の光景が信じられなかった。さっきまでサトシが立っていた場所は、炎に包まれている。そこにサトシの影はない。この状態だったら、サトシは間違いなく…… 「まずは……」 「1人ね」 パラドシンとフィオナが、勝ち誇ったようにニヤリと笑った。そんな……サトシが……サトシが……死んじゃった……!? あたしの目から、涙がこぼれた。 「サトシィィィィィィィィッ!!」 あたしは、悲しくなって声が枯れるくらいに叫んだ。でも、サトシは答えてくれない…… だけど、悲しんでいる暇はなかった。すぐにパラドシンとフィオナのポケモン達が、あたしに向けて飛び掛かってきた! 「さあ、すぐに後を追わせてあげるよっ!!」 フィオナがそう叫んだのと同時に、アーボックが素早くあたしの体に巻きついた! 「うあ……っ!!」 血を吸われて頭がフラフラなあたしに、それに抵抗する力はもうなかった。ポッチャマやブイゼル、エテボースが助けに行こうとしたけど、それもそれぞれスピアー、クロバット、ウインディに捕まって動きを封じられた! 「パラドシン、こいつはあたしにやらせて!」 「好きにしろ」 そんなやり取りをするパラドシンとフィオナ。ああ、このままあたしもサトシみたいに死んじゃうの……? もう誰も、あたしを助けてくれない……あたしは完全に絶望した。 「さあ、これでさよならよ!! アーボック、“どくどくのキバ”!!」 アーボックが、あたしにキバを向く。あたしは、覚悟して思わず目をつぶった。 でもその時、空から光線が飛んできて、あたしの目の前で爆発! それに驚いて、アーボックがあたしを締め付けていた体を緩めた。力なく倒れるあたしの体。 「!?」 光線が飛んできた先を見上げると、そこにはこっちに降りてくるせいれいポケモン・フライゴンの姿が。その背中には、見覚えのある影。タケシにユラ、そしてユラのポケモン、マルノームのマーちゃん…… 「タケシ……ユラ……!?」 その姿を確かめた時、あたしの意識が突然遠くなってきた。そして、そのまま目の前がどんどん真っ暗になっていった……
* * *
「サトシが……サトシが……死んじゃった……!」 そんな事を思い出したあたしは、急に悲しくなってきた。おもむろにジャケットを取った手が、わなわなと震えていた。 「な、何だって!?」 「サトシさんが……死んだ!?」 「ポチャ!?」 「ブイ!?」 「エポ!?」 そこにいたみんなが、その言葉に驚きを隠せなかった。 「じょ……冗談ですよね、ヒカリさん……!?」 ユラが、念を入れるようにあたしに聞く。でも、あたしはそれに答えられなかった。ジャケットをわなわなと握る手に、涙がこぼれ落ちた。 「――――――――!!」 あたしはジャケットに顔を伏せて、周りも気にしないで思い切り泣き叫んだ。その声は、空しく病室にこだまするだけだった……
TO BE CONTINUED……
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