【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中

小説板

ポケモン関係なら何でもありの小説投稿板です。
感想・助言などもお気軽にどうぞ。

名前
メールアドレス
タイトル
本文
URL
削除キー 項目の保存


こちらの関連記事へ返信する場合は上のフォームに書いてください。

[639] ヒカリストーリー STORY19 2人ぼっちの戦い(第2部)
フリッカー - 2008年08月15日 (金) 09時15分

 2人ぼっちの戦い、遂に第2部へ突入!
 息もつかせぬ展開を見逃すな!

 第1部はこちら→http://bbs4.sekkaku.net/bbs/?id=watafa&mode=res&log=45

[640] SECTION04 サトシ、樹海に死す!?
フリッカー - 2008年08月15日 (金) 09時16分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 カンナギタウンに向かうために、ズイタウンを経由しようとしてたあたし達。そこに、サトシのファンだっていう女の子ユラが現れて、サトシにバトルをお願いした。そこに現れたロケット団。いつものように追い払えると思ったら、そこに別のロケット団『チーム・ブラッド』のパラドシンが現れて、サトシのピカチュウとグライオンを奪った後、“はかいこうせん”の一撃であたしとサトシは吹っ飛ばされちゃったの!
 吹っ飛ばされた場所は、一度入ったら出られない森、『迷いの樹海』。そこでも、チーム・ブラッドのフィオナがあたし達に容赦なく攻撃してきた! どんどん奪われるサトシのポケモン。そして、あたしの心も追い詰められていった。でも、そんなあたしを、サトシが励ましてくれた。
 サトシって、やっぱり優しい。こんなサトシと一緒なら、絶対にダイジョウブ! ポケモン達を信じるように、あたしはサトシを信じた……


SECTION04 サトシ、樹海に死す!?


「う……」
 目を覚ますと、そこは蛍光灯がついた部屋の天井だった。そしてあたしは、ベッドの中にいた事に気付いた。
「ポチャ!」
「ブイ!」
「エポ!」
 ポッチャマとブイゼル、そしてエテボースが、嬉しそうに顔をのぞかせた。
「気がついたか!」
「よかったです……!」
 タケシに、ユラの顔もある。2人共ほっとした表情を浮かべている。
「あれ……ここは……?」
「ポケモンセンターですよ」
 体をゆっくりと起こしたあたしに、ユラが答えた。
 そっか、ここはポケモンセンター……あたし、どうしてここにいるんだろう……? ふと、横の机にサトシのジャケットが置いてあったのを見つけた。それが、あたしを意識が戻る前の記憶へと引き戻した。

 * * *

 事の始まりは、サトシに勇気づけられた日の次の朝だった。
「出て来いヒコザル!」
 シャツ姿のサトシは、取り出したモンスターボールを開けて、ヒコザルを繰り出した。
「ヒコザル、この木のてっぺんまで登って、火をつけてくれ」
「ヒコッ」
 ヒコザルはサトシに言われた通り、あたし達の目の前に立つ高い木を、忍者のように器用に素早く登っていく。そしてとうとう、ヒコザルの姿は見えなくなった。それくらい木が高い。少しすると、ずっと遠くに見えるてっぺんに、小さな火がついたのが見えた。
「これなら、きっとタケシ達も気付くはずだ」
 サトシがつぶやいた。これは、タケシ達にあたし達の場所を教えるために、サトシが思いついたもの。樹海に立つ木のてっぺんに火をつけて、あたし達の位置を知らせようというもの。ムクバードがいない今、もうあたし達の場所を知らせる方法はないって思ってたけど、こんな方法もあったんだ、ってサトシのひらめきに少し驚いた。ひょっとして、夕べここで死にたくないって言って泣いちゃったあたしのために……?
「これでもうダイジョウブさ」
 サトシがあたしにほほ笑んだ。
「うん、でも……」
「でも、何だ?」
「あいつが、また来るんじゃないかな……?」
 でも、あたしは気になっている事があった。チーム・ブラッドのフィオナの事。
『仲間に助けを求めに行くつもりだったんでしょうけど、そうは問屋が卸さないのよねえ……あんた達には、ここで永久にさまよってもらわなきゃ困るんだからね……!』
 ムクバードを奪った時に言った、そんな言葉を思い出す。考えてみればわかる。その言葉通りなら、フィオナがこれに気付けば黙っているはずがない。そのためにムクバードを奪ったのなら、必ず今回も妨害しに現れる……!
「心配すんなって。俺達で力を合わせれば、絶対勝てるさ!」
「そうだよね……!」
 やっぱりこう言われると、サトシの存在がとても心強くなる。やっぱりあたしは1人じゃないんだ。あたし、サトシを信じる。あたしはまだ背中にはおっていたサトシのジャケットの暖かさを改めて感じた。
「みんなと一緒なら、絶対ダイジョウブ! そうだよね、ポッチャマ?」
「ポチャポ〜チャ!」
 頭の上にいるポッチャマにそう言うと、ポッチャマも元気よく答えた。
「それでなくちゃ!」
 サトシがそう答えた時、少し地面が揺れた。しかもそれは連続で、規則的なもの。それは、どんどん大きくなっていく。そして、ズシンズシンと何かが音を立てて近づいてくる。
「何だ!?」
 サトシが声を上げた。見るとそこには、山のようにって言葉がふさわしいくらい大きなロボットが、こっちに重い音を立てながら歩いてきていた! 体は紫色に輝いていて、ゴーグルのような目を付けた頭。太い腕と足、そしてお相撲さんのように太い体が、かなりマッシブなシルエットを作り出している。その胸には『R』の文字が。
「あのメカは……!?」
「まさか……!?」
 あたしの口からそんな言葉がこぼれた。その予感は的中した。
「ハハハハハ!! 今日こそあんた達の息の根を止めてやるわ!!」
 頭のハッチが開いて中から現れたのは、やっぱりフィオナだった。
「しつこいぞフィオナ!!」
「あたしはしつこく追いかけるわよ。あたしが作ったこの『波導探知機』を使えば、こんな樹海の中でもあんた達のいる場所は手に取るようにお見通しなんだから!」
 フィオナは自慢気に手に持った小さな機械を見せた。携帯ゲーム機みたいな外観に、大きなアンテナが付いている。『波導』っていうのは、どの生き物も持ってる力のようなものって聞いた事があるけど、それを探知できる機械を作ってたなんて……だから今まで迷いの樹海の中でも迷わずにあたし達を探せたんだ……!
「さあ、覚悟しなさい! ここが、あんた達の墓場になるのよ!!」
 フィオナがそう叫ぶと、頭の中に素早く潜り込んで、ハッチを閉めた。すると、ロボットがまた動き出した。右腕を引いたと思ったら、こっちにパンチしてきた!
「わあっ!!」
 慌てて逃げるあたし達。ロボットの拳が地面に強く食い込んだ。物凄い衝撃で、地面が揺れた。あんなものまともに受けちゃってたら……と思うとゾッとした。地面に食い込んだ拳を力任せに引き抜くロボット。
「ヒカリ、応戦するぞ!!」
「ええ!!」
 でも、あたしにはみんながついてる! 力を合わせて戦えば……! あたし達はロボットの前で身構えた。
「ヒコザル!!」
「ポッチャマ!!」
 木から下りてきたヒコザルと、あたしのポッチャマがロボットの前に飛び出した。
『さあ、どこからでもかかって来なさい!!』
 スピーカーからフィオナの余裕そうな声が聞こえる。
「ヒコザル、“かえんほうしゃ”!!」
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ヒィィッ、コオオオッ!!」
「ポッチャマアアアッ!!」
 あたし達の叫びが、2匹のわざとなって飛び出した! そのまま真っ直ぐ飛んで行って、命中! と思ったら、信じられない事が起こった。命中した“かえんほうしゃ”と“バブルこうせん”が、そのまま跳ね返されて2匹の所に戻ってきた!
「ヒコオオオオッ!!」
「ポチャアアアアッ!!」
 予想外の攻撃に、2匹はよけられるはずがない。そのまま直撃を受けちゃった!
「ヒコザル!?」
「ポッチャマ!?」
 あたし達は驚きを隠せなかった。2匹はそれでも怯まずに立ち上がった。
「もう一度よ!! “うずしお”!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 もう一度、今度は“うずしお”で攻撃! ポッチャマは両手を上げて、頭の上に大きな水の渦を作り出す。
「ポッチャマッ!!」
 そして、それをポッチャマは思い切り投げつけた! ロボットを飲み込もうとするほどの勢いだったけど、飲み込まれる前に受け止められて、逆にまた戻ってきた!
「ポチャアアアアッ!!」
 戻ってきた“うずしお”は、ポッチャマに命中! 弾き飛ばされるポッチャマ。
「ポッチャマ!?」
「どうなってるんだ……!?」
 あたし達は目の前で起きている事が信じられなかった。
『どう? このロボットの装甲には『クリスタルシステム・フィオナスペシャル』を使っているのよ!』
「『クリスタルシステム・フィオナスペシャル』!?」
『元々は電撃しか跳ね返せなかったけど、あたしが改造して特殊攻撃なら全部跳ね返せるようにしてあるのよ! つまり、あんた達が強力なポケモンを出せば出すほど、自分の首を絞めるって事よ!』
「そんな……!?」
 フィオナの余裕そうな説明を聞いて、あたしは言葉を失った。こっちの攻撃を全部跳ね返しちゃうなんて……どうしたらいいの!?
『さあ、こっちに特殊攻撃は通用しないわよ! どうする?』
 フィオナがあたし達を挑発する。でも、あたし達は何もできなかった。どうしたら、どうしたら、と考える事で精一杯だった。
『何もしないなら、こっちから行くわよっ!!』
 でも、あたし達の答えを待たないで、ロボットはまた2匹にパンチを繰り出した!
「危ない!! よけて!!」
 とっさに指示したお陰で、ヒコザルもポッチャマもパンチを間一髪かわす事ができた。地面にぶつかったパンチがまた、地面を大きく揺らす。
「くそっ、ヒコザル、“かえんぐるま”だ!!」
「ヒッコオオオオッ!!」
 たまらずサトシが攻撃の指示を出した。ヒコザルは体を炎で包んでロボットに向かっていく!
『無駄よっ!!』
 でも、ロボットの大きな左腕でぶたれて、あっさりと跳ね飛ばされた!
「ヒコオオオオッ!!」
 ヒコザルはそのまま後ろの木に思い切り叩きつけられた。そのまま力なく地面に落ちるヒコザル。
「ヒコザル!!」
 サトシが叫ぶ。その時、ヒコザルをぶった左腕が、サトシに素早く伸びた!
「ぐあっ!?」
「サトシ!!」
 サトシはそのまま、ロボットの大きな手に捕まっちゃった! あたしが叫ぶのを尻目に、そのまま持ち上げられるサトシ。
「くそっ!! 放せ!! 放せ!! 放せ〜っ!!」
 サトシは握られた手の中で必死にもがくけど、手はピクリとも動かない。
「ヒコッ!? ヒ〜ッ……!!」
 それに気付いたヒコザルは、すぐに口の中に炎を溜め始めた。でも、そんな事したら……!
「ダメよヒコザル!! そんな事しても、跳ね返されるだけよ!!」
「ヒコッ……!!」
 あたしはそれを慌てて止めた。ヒコザルもそれに気付いて、火を吹こうとするのを止めた。
「ポチャ……ッ!!」
 ポッチャマもそんなヒコザルを見て、何もできないまま、悔しそうに唇を噛んでいた。
『さあて、このまま握り潰してやろうかしら……? それとも地面に思い切り叩きつけてやろうかしら……?』
 フィオナは余裕からか、そんな事をつぶやいている。このままじゃ、サトシが危ない……!
「どうしよう……どうしたらいいの……?」
 でも、攻撃したら跳ね返される、黙っていれば向こうから攻撃してくる……完全に打つ手なしなの……? そんなはずないって信じたい。何か、何か方法はあるはず……
 そう思った時、ふと、サトシを捕まえている左腕の甲に、大きなヒビがあるのが見えた。そこから、火花がバチバチと出ている。あそこって、確かヒコザルが“かえんぐるま”で当たったけど跳ね返された所……はっ! あの時ヒコザルはただぶたれただけで、攻撃を跳ね返されていなかった……!
『さあ、こっちに『特殊攻撃』は通用しないわよ! どうする?』
 そんなフィオナの言葉を思い出す。よく考えたら、『特殊攻撃は通用しない』って言ってただけだった……もしかしたら、物理攻撃は……!
「エテボース!!」
 試してみる価値はある! そう判断したあたしは、すぐに物理攻撃が得意なエテボースを出した。エテボースは、サトシがロボットに捕まっている状況を確かめた。驚いた様子だったけど、怯む様子はなかった。
「サトシを助けて!! “きあいパンチ”!!」
「エポッ!!」
 エテボースはすぐに、ロボットに向かって飛び出した!
『そうはさせないわよっ!!』
 それに気付いたフィオナも、すかさず応戦する。大きな右手のパンチがエテボースに迫る!
「回って!!」
 あたしはとっさに指示を出した。それに答えて、エテボースは空中で『回転』! ロボットの大きな右腕が、エテボースの横を通り過ぎた。
『な!?』
「そのままやっちゃってっ!!」
「エイッ、ポオオオオオッ!!」
 驚くフィオナを尻目に、エテボースは尻尾の拳に力を込めて、サトシが捕まっている左腕にアッパーをお見舞いした! すると、パンチが当たった場所にヒビが入って、そのまま爆発! あたしの思った通りだった! サトシを握っていた左腕が、折れて地面に落ちた。折れた手の力が緩んで、サトシは自由になった。そんなサトシの前に、降り立つエテボース。
「サンキュ、エテボース。助かったぜ」
「エポッ!!」
 サトシにお礼を言われたエテボースは、嬉しそうに小躍りした。
「サトシ!! ダイジョウブ?」
 あたしもすぐに、サトシの側に行った。
「ああ、何とかな。それより、なんで腕を壊せたんだ?」
「あのロボット、特殊攻撃は跳ね返せるけど、物理攻撃は跳ね返せないみたい。そこが弱点だってわかったの!」
「そうか!! なら、反撃するっきゃないな!!」
 サトシが力強く立ち上がった。
「ええ!!」
 あたしもサトシの隣で、改めてロボットと向かい合った。弱点さえわかれば、もう怖くなんてない!
『く〜っ、弱点を見破ったからってぇっ!!』
 フィオナのキレた声が響く。ロボットはそれを表すように、右腕でパンチしてきた!
「ヒコザル、“かえんぐるま”だ!!」
「エテボース、“きあいパンチ”!!」
「ヒッコオオオオッ!!」
「エイッ、ポオオオオオッ!!」
 あたし達の指示に答えて、ヒコザルは“かえんぐるま”で、エテボースは“きあいパンチ”でロボットに向かっていく! 2匹は、ロボットのパンチをうまくかわして、ロボットに飛びかかった! ロボットの体に2匹の攻撃が直撃! ロボットの体に大きなヒビが入った。そして、2匹が離れると、受けた衝撃でロボットはゆっくりと背中から倒れた。ズシン、という重い音が響いた直後、攻撃が当たった場所が爆発!
「やったあっ!!」
「やったぜ!!」
 ロボットは黒い煙をあげたまま動かない。勝った! あたし達は思わず声を上げた。
「く……っ、あたしの造ったメカが、こんな簡単に……っ!!」
 そんなロボットの頭から、ハッチを開けてフィオナが転がり出てきた。
「だけど、まだよっ!! あたしには、まだポケモンがいる!!」
 フィオナは2個のモンスターボールを取り出して、一斉に開けた。中から、アーボックとクロバットが出てくる。
「フィオナ、もう許さないぞ!!」
「覚悟しなさい!!」
 あたし達も、そう叫んでフィオナの前で身構えた。ヒコザルもエテボースも、強気で前に出る。
「ヒコザル……!!」
「エテボース……!!」
 あたし達が指示を出そうとした、その時!
 突然どこからか、たくさんの針がミサイルのように飛んできて、あたし達に雨のように降り注いだ!
「きゃあっ!!」
 完全な不意討ち。いくつも起こる小さな爆発に巻き込まれて、倒れるあたし達。その後すぐに、どこからかマジックハンドが伸びてきて、ヒコザルを鷲掴みにした!
「ヒコオオオオッ!!」
「ヒコザル!!」
 サトシが叫ぶのも空しく、マジックハンドに連れ去られるヒコザル。その先にいたのは……
「フィオナ、手こずっているようだな」
 空中バイクに乗った、パラドシンだった! その横にはスピアーがいる。パラドシンはそのままマジックハンドでヒコザルを檻に強引に投げ入れた。
「お前は……!!」
「パラドシン……!!」
 あたし達は声を上げた。
「パラドシン」
「潮は満ちた。今から俺も合流する」
 パラドシンはフィオナにそう言って、フィオナの隣にサッと降り立った。そして、あたし達を強くにらんだ。一瞬、あたしの心が少し怯えた。パラドシンは、あの時あたし達のポケモンも敵わなかった相手。ここで勝てるかな、と思ったけど、すぐにその考えを切って捨てた。
『ヒカリは1人じゃない。俺だっているし、ポケモン達だっているじゃないか』
 そんなサトシの言葉を思い出す。そう、あたしは1人じゃない! みんなで力を合わせれば、絶対、絶対ダイジョウブ! あたしの心に、強い勇気が湧いてきた。
「パラドシン……俺はお前みたいな奴が許せない!! ブイゼル、君に決めたっ!!」
 サトシは残った最後のモンスターボールを投げて、ブイゼルを出した。
「ウインディ!!」
 すぐにパラドシンもモンスターボールを取り出して、スイッチを押した。出てきたのは、あたし達をここに吹き飛ばした張本人、ウインディ。ウインディはブイゼルを強くにらんだけど、ブイゼルは屈しなかった。すぐに強気でにらみ返す。
「ヒコザルを返せ!!」
「それに、他のサトシのポケモン達も……!!」
「まだ未練がましいのか……? 所詮トレーナーやコーディネーターは、自分が一番強いと見せる為にポケモンを使うだけだ。お前達のポケモンもそのためにあるんだろう?」
「何だと!! 俺のポケモンは一緒に強くなる仲間だ!!」
「そうよ!! あたしのポケモンだって、みんな大事なパートナーよ!! ポケモンを盗んで、悪い事しようとするあんた達が言える訳!?」
 パラドシンの言葉に、あたし達は強く反論した。
「ふん、ポケモンを奪う理由を聞くなんて、ナンセンスよ」
「何!?」
 フィオナが、意外な言葉を出した。
「ポケモンを勝手に捕まえて、僕(しもべ)として従えるあんた達だって同じよ。自然から見れば、ポケモントレーナーなんてみんなポケモンを奪って、勝手に利用するドロボウよ!」
「そうだ、だからお前達にロケット団の行動を否定する事はできない。ポケモンで何をしようと我々の自由だ。所詮友情など、飾りに過ぎぬ!」
「違うっ!! そんなの、あんた達の自分勝手よ!!」
 パラドシンとフィオナがどんなに自分を正しくする事を言っても、あたしには訳のわからないただの言い訳にしか聞こえなかった。それは、サトシも同じみたい。
「それでも否定すると言うのなら……我々はお前達を倒す!! ウインディ!!」
「アーボック!!」
 パラドシンとフィオナの指示で、ウインディとアーボックが飛び出した!
「やるぞ、ヒカリ!!」
「ええ!!」
「ブイゼル、“アクアジェット”!!」
「エテボース、“スピードスター”!!」
 あたし達も負けじと、2匹に指示を出した。
「ブイッ、ブウウウウウッ!!」
「エェェェイポッ!!」
 ブイゼルは“アクアジェット”で突撃、エテボースは“スピードスター”を発射!
「ウインディ、“フレアドライブ”!!」
「アーボック、“ヘドロばくだん”!!」
 パラドシンとフィオナも指示を出した。ウインディは体に炎をまとってブイゼルに突撃、アーボックは“ヘドロばくだん”を発射して応戦! ブイゼルとウインディが、正面からぶつかり合った。そのままどちらも譲らずに動かなくなったと思うと、爆発! ブイゼルとウインディは、反転して仕切り直しになる。エテボースの“スピードスター”とアーボックの“ヘドロばくだん”は、正面からぶつかり合って相殺した!
「ブッ……!」
 ブイゼルが、よろりと膝を付いた。受け止めたはよかったけど、ダメージは受けてたみたい。
「よくぞ耐えた。しかし!! “かえんほうしゃ”!!」
 パラドシンの指示で、ウインディは“かえんほうしゃ”でブイゼルを攻撃!
「負けてたまるか!! ブイゼル、かわして“みずのはどう”だ!!」
「ブイッ!!」
 ブイゼルは飛んできた炎をジャンプしてかわした。そして、両手で青いボールを作り出す。
「ブウウウウウッ!!」
 それを思い切りウインディに投げつけた! 命中! 効果は抜群! 白い煙が、ウインディを包んだ。
「どうだ!!」
「“しんそく”!!」
「何!?」
 自信満々に叫ぶサトシだったけど、それを裏切って、ウインディは煙の中からダメージを思わせない物凄いスピードで飛び出した!
「ブイイイイイッ!!」
 ウインディはブイゼルに突撃! たちまち跳ね飛ばされる。あっという間の出来事だった。
「エテボース、“きあいパンチ”!!」
「エイ……ッ!!」
 エテボースが煙を突き抜けて、アーボックに向けて尻尾の拳に力を込めた!
「アーボック、“へびにらみ”!!」
 フィオナの指示と同時に、アーボックのお腹の模様が不気味に光った。
「エポ……!?」
 すると、エテボースの体が凍りついたように止まっちゃった!
「エテボース!?」
「“まきつく”よ!!」
 動けなくなったエテボースを、アーボックが長い体で巻きついた! たちまち体を締め付けられるエテボース。
「エポオオオオッ!!」
「フフフ、『まひ』してあがく事もできないでしょう?」
 フィオナが余裕そうな笑みを浮かべた。そうだ、“へびにらみ”って確か、相手を『まひ』させるわざ……!
「エテボース!! ブイゼル、エテボースを助けるんだ!!」
「ブイッ!!」
 それに気付いたサトシは、すぐにブイゼルに指示を出した。ブイゼルは、すぐにエテボースの所に駆けつけようとしたけど、ウインディの“かえんほうしゃ”がブイゼルの行く手を遮った。
「お前の相手は俺だろう!!」
 パラドシンの言葉を現すように、ウインディが“しんそく”でブイゼルに飛び掛かった! 一瞬のうちに跳ね飛ばされるブイゼル。
「くっ!!」
 唇を噛むサトシ。それを見たパラドシンは、フィオナと目を合わせて、何か伝えたようにうなずいた。
「がんばってエテボース!!」
 エテボースに必死で呼びかけるのに夢中だったあたし。その時、あたしの横で何か気配がした。振り向くとそこには、こっちに飛んでくるクロバットが! 気が付いた時には、あたしはクロバットに跳ね飛ばされていた。
「きゃあっ!?」
 うつぶせに倒れたあたしの背中に取り付くクロバット。何する気なの!? とにかく、エテボースは動けないから、ポッチャマに……
「ポッチャマ……」
 そう言ってポッチャマのいる方を見たあたしは、予想外の光景に驚いた。だって、ポッチャマは目を回して、完全に『こんらん』状態だったんだから!
「さあ、覚悟してもらうわよ、ピンクの女!」
 フィオナがニヤリと笑った。それを見てわかった。これは、フィオナがわざとやったんだ! ポッチャマが『こんらん』したのも、“ちょうおんぱ”で先に『こんらん』させたのかも……
「ひ、卑怯じゃないの!! 不意討ちなんて……!!」
「言ったはずよ、あたし達にズルとか卑怯とか言っても無駄よって!! さあ、あんたの血をクロバットにたっぷり味わわせてもらうわ!!」
 フィオナの言葉を聞いて、あたしはゾッとした。血を味わわせてもらうって、まさか……!
「“きゅうけつ”!!」
 あたしの予想は的中した。クロバットはあたしの首筋に思い切り噛み付いた!
「うああああああっ!!」
 強い痛みが首筋から走る。それに合わせて、ジュルジュルと何かを吸い上げる音が聞こえてきた。血を吸われている……!
「や、やめて……っ!!」
 そんな事を思わず言うけど、クロバットはやめようとしない。そして、だんだんあたしの頭がフラフラしてきた。このままじゃ、あたしは……!
「ヒカリ!! ブイゼル、ヒカリを助けるんだ!!」
「ブイッ!!」
 それに気付いたサトシはすぐにブイゼルに指示を出した。
「ブウウウウウッ!!」
 ブイゼルはすぐにあたしの所に飛び出して、クロバットに“みずでっぽう”を発射! 命中! 驚いたクロバットは、すぐにあたしの首筋から口を離して逃げた。
「サトシ……!」
 あたしは自分を助けてくれたサトシがまた頼もしく見えた。こっちを見ているサトシが、こっちに笑みを浮かべていた。
「自ら隙を晒してまで、人を助けるというのか!! ウインディ、“はかいこうせん”!!」
 その時、そんなパラドシンの叫びが場を切り裂いた。ウインディが、口から“はかいこうせん”を発射! その先にいたのは……
「……っ!?」
 ブイゼルでもエテボースでもなくて、間違いなくサトシだった! 次の瞬間――




 閃光が、サトシの体を容赦なく飲み込んだ。そして爆発! その爆風を受けて、あたしの体も吹き飛ばされた。木に、背中を思い切りぶつけた。そして、あたしは信じられない光景を目の当たりにした。
「そ……そんな……!?」
 あたしは目の前の光景が信じられなかった。さっきまでサトシが立っていた場所は、炎に包まれている。そこにサトシの影はない。この状態だったら、サトシは間違いなく……
「まずは……」
「1人ね」
 パラドシンとフィオナが、勝ち誇ったようにニヤリと笑った。そんな……サトシが……サトシが……死んじゃった……!? あたしの目から、涙がこぼれた。
「サトシィィィィィィィィッ!!」
 あたしは、悲しくなって声が枯れるくらいに叫んだ。でも、サトシは答えてくれない……
 だけど、悲しんでいる暇はなかった。すぐにパラドシンとフィオナのポケモン達が、あたしに向けて飛び掛かってきた!
「さあ、すぐに後を追わせてあげるよっ!!」
 フィオナがそう叫んだのと同時に、アーボックが素早くあたしの体に巻きついた!
「うあ……っ!!」
 血を吸われて頭がフラフラなあたしに、それに抵抗する力はもうなかった。ポッチャマやブイゼル、エテボースが助けに行こうとしたけど、それもそれぞれスピアー、クロバット、ウインディに捕まって動きを封じられた!
「パラドシン、こいつはあたしにやらせて!」
「好きにしろ」
 そんなやり取りをするパラドシンとフィオナ。ああ、このままあたしもサトシみたいに死んじゃうの……? もう誰も、あたしを助けてくれない……あたしは完全に絶望した。
「さあ、これでさよならよ!! アーボック、“どくどくのキバ”!!」
 アーボックが、あたしにキバを向く。あたしは、覚悟して思わず目をつぶった。
 でもその時、空から光線が飛んできて、あたしの目の前で爆発! それに驚いて、アーボックがあたしを締め付けていた体を緩めた。力なく倒れるあたしの体。
「!?」
 光線が飛んできた先を見上げると、そこにはこっちに降りてくるせいれいポケモン・フライゴンの姿が。その背中には、見覚えのある影。タケシにユラ、そしてユラのポケモン、マルノームのマーちゃん……
「タケシ……ユラ……!?」
 その姿を確かめた時、あたしの意識が突然遠くなってきた。そして、そのまま目の前がどんどん真っ暗になっていった……

 * * *

「サトシが……サトシが……死んじゃった……!」
 そんな事を思い出したあたしは、急に悲しくなってきた。おもむろにジャケットを取った手が、わなわなと震えていた。
「な、何だって!?」
「サトシさんが……死んだ!?」
「ポチャ!?」
「ブイ!?」
「エポ!?」
 そこにいたみんなが、その言葉に驚きを隠せなかった。
「じょ……冗談ですよね、ヒカリさん……!?」
 ユラが、念を入れるようにあたしに聞く。でも、あたしはそれに答えられなかった。ジャケットをわなわなと握る手に、涙がこぼれ落ちた。
「――――――――!!」
 あたしはジャケットに顔を伏せて、周りも気にしないで思い切り泣き叫んだ。その声は、空しく病室にこだまするだけだった……


TO BE CONTINUED……

[651] SECTION05 決意の出発! ズイタウンへ!
フリッカー - 2008年08月21日 (木) 18時25分

 サトシは……死んだ。
 受け入れたくない現実が、あたしに強くのしかかった。
 あたしはまだ信じられない。普段は特にリーダー格って感じじゃないけど、優しくて、強くて、いざという時にはとても頼もしかったサトシが、まさかあんな簡単にやられちゃうなんて……どうしてあたしだけ助かっちゃったんだろう……
 サトシとの旅の思い出が、次々と頭の中に蘇る。
 ピカチュウを助けた事がきっかけで出会った事、あたしの考えた戦法をジム戦で使ってくれた事、そんなジム戦を精一杯応援してあげた事、初めてのタッグバトルで最初はケンカしちゃった事、エイパムとブイゼルを交換した事……そして何よりも、どんな時もあたしの側にいて、あたしを応援してくれていたサトシの姿……そんな思い出をくれたサトシはもう、戻って来ない……
 あたしはもう、ただサトシのジャケットにすがりついて、ベッドの中で泣き崩れるしかなかった。サトシのジャケットが、涙で湿っているのを感じた。
 あたしを心配して、傍らで何もできないでいるポッチャマ。
 あたしと同じように、ベッドの側で泣き崩れているエテボース。
 病室の壁に拳を叩きつけて、悔し涙をこぼすブイゼル。
 椅子に座ったまま、ただうつむいたままでいるタケシ。
 窓から空を遠い目で見つめるユラ。
 みんな、あたしと同じ思いをしているに違いない。
 大切なものは無くしてみてから気付く。そんな言葉を聞いた事がある。あたしもサトシがいなくなって、今まで全然考えた事もなかった事に初めて気付いた。
 サトシが、ただの旅の仲間とか、友達とか、そんなものじゃない、なんて言ったらいいかわからないけど、もっと、ずっと、大切な存在だった事に……
 そんな事を考えると、余計死んじゃった事が悲しくなってくる。目から流れる涙の量が、ずっと増えたのがわかった。


 ――サトシ……どうして、どうして死んじゃったの……? あたし、もっといっぱい、あなたと旅がしたかったのに――


SECTION05 決意の出発! ズイタウンへ!


「ヒカリ……ヒカリ……」
 誰かの声が聞こえてくる。
「だ……誰……?」
 あたしは顔を上げた。気が付くとあたしの周りは、いつの間にか真っ暗闇になっていた。寝ていた場所も、ベッドの中じゃない。真っ暗闇の真ん中で、1人うつ伏せになっていた。
 そんな暗闇の奥に、誰かが立っているのが見える。こっちに歩いてくるその見慣れたその姿は、間違いなく……
「サ……サトシ!?」
 なんで、サトシがこんな所に……!? 幻じゃないよね……!? 目をこすって改めて見てみても、やっぱりサトシはそこにいた。
「もしかして、幽霊……!?」
「バカ言うなよ……俺はちゃんと生きてるさ」
 でも、目の前のサトシは、微笑んでそう答えた。
「え……!?」
「だけど、今は動けないんだ。ヒカリ、お前の力を貸してくれないか?」
 サトシは、あたしの両肩に手を置いて、表情を変えてそう言った。手に暖かさを感じる。生きているのは、本当……?
「な、何の事……?」
「助けて欲しいんだ」
「助けて、欲しい……?」
 あたしは一瞬、サトシが何を言っているのかわからなかった。そう言った時、サトシの手が離れた。そして姿が突然、透け始めた。そのまま、どんどん遠ざかっていく。歩いているんじゃない。ベルトコンベアーの上に乗っているように、流されている感じ。
「頼む……ヒカリの力が、必要なんだ……」
 そう言っている間にも、サトシの姿はどんどん消えていって、離れていく。心なしか、声も弱くなっているように思える。あたしはやっと状況が少しわかった。サトシに何が遭ったのかはわからない。でも、サトシは助けて欲しくてあたしの力を必要としてる……! ひょっとして、サトシの体が透けているのも……!
「待って!!」
 あたしは、反射的に追いかけて、サトシの体をつかもうとした。でもあたしの両手は、サトシの体をすり抜けた。まるで、サトシの体が立体映像のように。サトシがどんどん、あたしから離れて行く。あたしの心が焦った。
「よくわかんないけど、必ず助けに行くから!! だから、行かないで!! あたし……あたし……!!」
 あたしが追いかけながらそう叫ぶのも空しく、サトシの姿は暗闇の遠くに溶け込んでいった。そして、目の前がパッと眩しく光った。

 * * *

 目を開けると、あたしはベッドの中にいた。涙で湿ったサトシのジャケットに、顔を伏せていた。顔を起こして周りを見ても、そこはポケモンセンターの病室の中だった。
「急に静かになったと思ったら、寝ていたのか」
 病室に入ってくるタケシの姿が映った。あたし、泣いている間に寝ちゃってたみたい。
「た、大変よ!! サトシが、あたしに助けて欲しいって言って、それで……!!」
 あたしはすぐに体を起こして、慌ててさっきの事をみんなに話そうとした。エテボースやブイゼル、ポッチャマはその言葉に敏感に反応した。
「夢に、サトシが出てきたのか?」
「ゆ、夢……?」
 タケシの言葉を聞いて、あたしははっとした。あれは夢だったんだ……でもなんで夢に、サトシが出てきて、あんな事……? でも夢にしては、やけにはっきりした感じだった気がする。何だか、本当にサトシと話したような気が今でもする。
「あれ、夢だったのかな……?」
 今度は口に出してみる。
「その気持ちはわかるさ。俺だって、できるならサトシに夢みたいに戻ってきて欲しいさ……」
 タケシが顔をうつむけた。タケシは、あたしよりもサトシとの付き合いが長い。死んじゃったのが信じられないのは同じなんだ。
 そっか……本当に話したように思っても、夢は夢。本当にサトシが戻ってくるはずがない。そもそも、夢で人と話すなんて、超能力でもなきゃできる訳……はっ!
「タケシ、波導を使ってテレパシーってできるの?」
「へ!?」
 あたしの質問に、タケシは驚いて声を裏返した。
「な、なんでいきなり、そんな事聞くんだ!?」
「いいから教えて!」
「いや……前に俺達は、テレパシーが使えるルカリオと会った事があるから、できるんじゃないか?」
「やっぱり……!」
 あたしには、思い当たる節があった。トバリシティでスモモのルカリオと会った時、ルカリオが「ありがとう」って言ってるように感じた事があった。スモモも、ルカリオの言ってる事がわかってたみたいだったし。そしてそれよりも、サトシは前に、リオルと波導を使って心を通わせた事があった。リオルやルカリオのように波導を操れる人の事を、『波導使い』って言う。もし、サトシに少しでも『波導使い』の力があるのだとしたら……
「どういう事だ?」
「ひょっとしたら、サトシが波導を使って、あたしに……」
 その確証が、自然と口に出た。
「そ、そんなバカな!? 確かにサトシは昔いた波導使いと同じ波導を持ってるって言われた事はあるが、そんな事ができるとは限らないぞ? 第一、サトシは夢に出てきたんだろ? そんな確証のないものを根拠には……」
 タケシが驚いて反論する。
「あたし、信じる」
 でも、すぐにそれを止めた。
「確かにそうかもしれない。でもあたし、本当にサトシと話したような気がするの。夢にしては、やけに何だかはっきりしていたし……それにあの時言ったんだもん、『俺はちゃんと生きてる』って。サトシは本当に生きてる。何だかそんな気がするの……」
 思っていた事がそのまま口に出た。もしサトシの言ってる事が本当だったとしたら……? エテボースが、あたしの言った事を確かめたいかのように、顔をのぞかせていた。
「ヒカリさん!! タケシさん!! 大変です!!」
 その時、突然ドアを乱暴に開けて、ユラが入ってきた。
「どうしたんだ?」
「あいつらから……チーム・ブラッドから脅迫状が!!」
「ええっ!?」
 ユラの言葉を聞いて、あたし達は声を揃えて驚いた。

 ユラが『脅迫状』と言った1通の封筒の中には、何の変哲もない1枚のディスクが入っていた。
「これって……DVD?」
「まさか、これを見ろって事じゃ……?」
 個室に来ていたあたし達は、すぐにそのディスクをDVDプレイヤーに入れて、再生ボタンを押した。すると、テレビの画面に1人の男の人が映った。間違いなくパラドシンだった。
『フタバタウンのヒカリ、我々の攻撃からよくぞ生き残った。その幸運さはほめてやろう』
 いきなりあたしの名前を言われて、あたしは一瞬ドキッとした。
『しかし、所詮はそこまでだ。お前がこれから我々の言う事を聞かなければ、こいつの身がどうなるか……』
 そう言って、パラドシンは後ろを向いた。画面が動く。すると、そこに映ったものを見て、あたし達は驚いた。
『う……うぅ……』
 今まで死んだと思っていたサトシが、十字架に鎖ではりつけにされて、弱い声を上げている。しかも、その体は傷だらけだった。そこに、いつもの強気なサトシはいなかった。
「サトシッ!!」
「エポッ!!」
 あたしとエテボースは、思わず声を上げた。
『こいつを助けて欲しいのなら、3日以内にズイタウンへ向かい、お前のポケモン全てを我々に引き渡すのだ。さもなくば、こいつを処刑する』
「そ、そんな……!?」
 ユラが、怯えた表情を見せた。
『そして、くれぐれも警察に突き出すような真似はするな。そうしても、こいつの命はない。最も、このディスクは再生後自動的に破壊される仕組みになっているから、証拠品として出そうとしても、無駄だがな……』
 パラドシンがそう言った直後、突然プレイヤーからバチッと火花が出た。途端に画面が消えて、白い砂嵐になった。
「そ、そんな……サトシさんが……」
「人質にされていたなんて……」
 怯えた表情を見せるユラと、唇を噛むタケシ。
 サトシはあたしの思った通り、生きていた。これでやっと、あたしは夢でサトシが言おうとしていた事がわかった。サトシはチーム・ブラッドに捕まって、人質にされたから、あたしに助けを求めてきたんだ……!
『頼む……ヒカリの力が、必要なんだ……』
 夢の中でサトシが言っていた言葉が頭に浮かぶ。
 あたしの中で、どんどん強い思いが湧き上がってきた。自然と、両手にグッと力が入った。
「……エテボース」
「エポ?」
 あたしは、後ろにいたエテボースに、顔を向けないまま声をかけた。
「あなただったら、どうする?」
 そんな質問を、エテボースにしてみた。
「……エポッ!!」
 エテボースは強気に、尻尾の拳をグッと握って答えた。まるで、「戦う」って言ってるみたいに。
「……ブイゼルはどう思ってるの?」
「ブイ?」
 ブイゼルにも聞いてみた。
「……ブイ!! ブイブイッ!!」
 ブイゼルもエテボースと同じようにグッと両手を握って強気に答えた。エテボースと考えてる事は同じみたい。そして、あたしはもう1個モンスターボールを取り出して、ミミロルを出した。ピカチュウが奪われた事を知ってから、ずっと悲しそうにしてたミミロル。
「ミミロル……あなたも、奪われたピカチュウを助けたいよね?」
「……ミミッ!!」
 あたしがそう聞くと、ミミロルもはっきりとうなずいて、強気の表情を見せた。
「……やっぱりね。あたしも同じよ」
 そんな3匹の答えを聞いて、あたしはほっとした。
「どうするんですか? まさか、ポケモン達を……?」
 ユラがそんな事を聞いた。
「そんな訳ないでしょ」
 あたしは、隣にいるユラに、体を向き直した。
「あたしは、ポケモン達を引き渡したりなんかしない! あたしは、チーム・ブラッドと戦う!! そして、必ずサトシを助ける!!」
 あたしは、はっきりとみんなに告げた。
「ヒカリさん……」
「だが……相手は分が悪すぎるぞ。ヒカリとサトシを探している間に調べたんだが、チーム・ブラッドは、ただのロケット団じゃない。ポケモンを奪うためなら手段を選ばず、時には人を殺すような非道な手段に手を染める事もためらわないそうだ。シンオウにも一度現れた事があって、多くの被害をこうむったようだぞ」
 タケシが説明した。それでも、あたしは怯まなかった。それ以上に強い勇気が、あたしの中で燃えていたから。
「それに、向こうから場所を指定するなんて、罠の可能性もあるぞ」
「……それでも行く!! 強いからって、罠かもしれないからって、あたしは逃げない!!」
 あたしは、タケシの言葉を弾き返した。そして、残った2個のモンスターボールを開けて、パチリスとウリムーを出した。
「サトシは、迷いの樹海で何度もあたしを助けてくれた……だから、今度はあたしがサトシを助ける!! チーム・ブラッドは強い相手だし、あたしもどうなるかわからない……でも、それでも、あたしはチーム・ブラッドに捕まったサトシを助けたいの!! だからみんな、あたしに力を貸して!!」
 あたしは、集まった6匹のポケモン達に、自分の思いを全部ぶつけた。ポケモン達だけじゃない。タケシとユラにも、この言葉を聞いて欲しかった。
「ポチャマッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
「ウリッ!!」
「ブイブイッ!!」
 6匹は、あたしに力強く答えてくれた。
「……これは、止めても無駄みたいだな。サトシもきっと、この立場なら同じ事を考えるだろうしな」
 タケシも、笑みを浮かべた。
「……私も行きます!! 何ができるかわかりませんけど、ヒカリさんと一緒に戦います!!」
 ユラも、はっきりとあたしに言った。
「タケシ……ユラ……!」
 あたしは嬉しくなった。こんなみんながいると、やっぱり心強い。
「そうと決まれば、こうしちゃいられない。すぐに出発しないと!」
「私、フライゴンを持っています。ここから飛べば、ズイタウンはすぐです」
「ありがとう、みんな!」
 早速、あたし達はズイタウンへ出発するために動き出した。

 タケシが預かっていたあたしのバッグを取って、ポケモンセンターから出る前に、忘れていた物があったから、あたしは一旦病室に戻った。
 あたしが入っていたベッドの上にある、サトシのジャケット。これを取りに来たの。
 そんなサトシのジャケットを、あたしはそっと手に取った。あたしの涙でできた湿り気はもうない。
『ヒカリがポケモン達を信じるなら、俺の事も信じてくれ』
 あの時言った、そんなサトシの言葉が頭に浮かんだ。
 あの言葉通り、あたしはサトシを信じた。だから、こんな形になっちゃったけど、迷いの樹海から出られた。だからサトシ、今度はあたしを信じて……必ず、助けてあげるから……!
 あたしは、手に取ったジャケットをサッと広げた後、自分の背中に羽織った。この気持ちを、忘れないようにするために。助けたら、サトシに返してあげるために……! かすかに残る暖かさが、あたしの決心を改めて固めさせた。
「行こう、ポッチャマ、ブイゼル!!」
「ポチャ!!」
「ブイ!!」
 側にいたポッチャマとブイゼルにそう言って、あたしは病室を後にした。

 ポケモンセンターの外に出る。そこに、タケシとユラの姿があった。
「フーちゃん!!」
 ユラはそう叫んで、モンスターボールを投げた。出てきたのはユラがさっき言ってた通り、せいれいポケモン・フライゴンだった。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃって」
 あたしはすぐに2人と合流した。そんなあたしを見た2人は、目を丸くした。
「ヒ、ヒカリ、どうしたんだ? サトシのジャケットなんか着て?」
「さ、早く行かないと。こうしてる間にも、サトシが助けを待ってる」
「ポチャマ!」
「ブイ!」
 そんなタケシの質問に答えるよりも、あたしは早く出発したかった。すぐにポッチャマ、ブイゼルと一緒にフライゴン・フーちゃんの側に行った。
「……そうですね! 行こう、フーちゃん!」
 そう答えて、ユラもフーちゃんにそう呼びかけて、先にフーちゃんの背中に飛び乗った。そして次にあたしとポッチャマ、ブイゼル。最後にタケシ。
 フーちゃんが空に向かって吠えた。そして、緑色の羽を羽ばたかせて、空へと舞い上がった。目指す場所はズイタウン。どこまでも広がる森を見降ろして、フーちゃんは空を進んでいく。
 ふと思った。今のあたしって、何だかトレーナーのためにがんばろうとするポケモンそのもの。あたしはそんなサトシのポケモンの1人として、「俺を信じてくれ」って言ったサトシのために、何があっても全力で戦う! サトシを助けるために!
「待ってて、サトシ……今、助けに行くからね……!!」
 そんな言葉が、自然と口から出た。

 * * *

 2日経って、あたし達はズイタウンに着いた。
 2回目の1次審査脱落で、自信をなくしちゃったきっかけにもなった、あのポケモンコンテスト・ズイ大会が開かれたコンテスト会場の横を通り過ぎる。あそこは、いい事がなかった『忌まわしき場所』なのかもしれないけど、ここでの出来事がなかったら、あたしは今のあたしになれなかったかもしれない。そんな意味で、ここでの経験もいい経験だったって思ってる。
 そうだ、思い出に浸ってる場合じゃない。あたしはサトシを助けに、ここに来たんだ。
「サトシ……やっと来たわよ、あなたが捕まっている場所に……!」
 あたしは、背中に羽織ったサトシのジャケットの襟元を、右手でグッと握った。
「でも、これからどうするんだ? 向こうはズイタウンって言っただけで、具体的な場所はどこなのかを言ってなかったじゃないか」
 そんなタケシの言葉を聞いて、あたしはギクッとした。言われてみればその通り。あたし達はズイタウンに来いって言われただけで、具体的にズイタウンのどこなのかは言われていない。
「ダ、ダイジョウブダイジョウブ……! きっと向こうだって、ズイタウンに来いって言ったからには、何か行動するんじゃない……?」 
 あたしは慌てて苦笑いしながら答えた。
「本当にダイジョウブなんですか……?」
 不安そうなユラの言葉が、またあたしの心に突き刺さった。はっきり言って、あたし達がズイタウンについたとしても、チーム・ブラッドが動く保障はない。何だかダイジョバないかも……
「その答えを、我らが教えてやろう!!」
 その時、そんなあたしに助け舟を出すように、聞き慣れた声が空から聞こえてきた。
「誰……あっ!!」
 誰かと思って空を見上げてみると、そこには見慣れたニャースの形を象った気球が!
「『これからどうするんだ?』の声を聞き……っ!」
「答えるべくしてやって来た!!」
「風よ……っ!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば……っ!」
「誰もが震える魅惑の響き!!」
「ムサシ……ッ!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「道をいざなうあたし達……っ!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。ムサシだけ、何だか不満そうに、嫌々ながらにやってるみたいな感じだったけど。なんでこんな時に……!
「ロケット団!! こんな時に何なのよ!!」
「よくここに来たな、ジャリガール!! パラドシン様に言われた通り、ここに来たお前に、ポケモンを引き渡す場所を教えに来たのだ!!」
 堂々と胸を張って答えるコジロウ。まあ、胸を張ってるのはいつもの事だけど、その隣でムサシだけは、さっきからなぜか不満そうなイジイジした表情をしていた。
「パラドシン、様……?」
 タケシが、そんな疑問を口にした。それは、あたしも同じだった。パラドシンの事を、どうして『様』付けで……?
「パラドシン様らチーム・ブラッドは、ニャー達に助太刀してくれたロケット団なのニャ!!」
 ニャースが答えた。そっか、あの時はいきなり乱入したんじゃなくて、ロケット団に助太刀するために……
「冗談じゃないわよ!! あんな生意気な奴が助太刀だなんてさ!!」
 その時突然、その言葉に不満があったかのように、ムサシがいきなり怒鳴り声を上げた。
「そもそもあんた達、あんな奴にこき使われて不満だって思わないの!? あんな奴に手柄を持っていかれたらどうすんのよ!!」
「ム、ムサシ、落ち着け!!」
「今はそんな事してる場合じゃないニャ!!」
 怒鳴り散らすムサシを2人がかりで抑え込むコジロウとニャース。
「な、何しに来たんですか、あの人達……?」
 呆れてつぶやくユラ。それは、あたし達も同じだった。
「と、とにかくジャリガール!! 今夜10時までにズイの遺跡の前まで来るんだ!! ただし、1人でだ!! 仲間は連れて来るなとパラドシン様は言っていた!!」
「今夜10時……ズイの遺跡の前……!!」
 あたしは、コジロウが叫んだその言葉を繰り返した。そこに、サトシがいる……あたしは改めて、戦う決意を固めた。
「とにかく、このままでいいって思ってる訳ぇ!?」
「だから落ち着けって!!」
「そ、そんな訳で帰るニャ!!」
 言い争いを続けるムサシとコジロウを見て、ニャースは慌てて気球を加速させた。ああだこうだうるさい声を怒鳴り散らしながら、気球はどこかへと飛んで行った。その姿に、あたし達は呆れて声も出なかった。

 * * *

 そして夜。
 今の時間は9時半。いよいよ戦いの時が迫ってきた。あたしは戦いに備えて、ロビーで精神を集中していた。ポケモン達も思い思いに戦いに向けた準備運動をしていた。でも、ウリムーだけはポフィンをガツガツと食べているんだけどね。ウリムーが力をつけるためだったら、それでよかった。
「ヒカリさん」
 そんな時、ユラがあたしに声をかけた。
「ユラ」
「あの……怖くないんですか……?」
「え?」
 意外な質問に、あたしは少し驚いた。
「だって、相手はサトシさんだってかなわなかった相手なんでしょ……そんな相手に、ヒカリさんは勝ち目があるんですか……?」
「ユラ……」
 ユラはあたしを気遣っている。あたしはそんなユラに、自分の思いを話した。
「勝ち目があるとかないとか、そんな問題じゃない。あたしは、勝たなきゃいけないのよ!」
「勝たなきゃ、いけない……?」
「サトシは、あたしの力を必要としてる。だから、あたしはそれに答える。何があっても、あたしがどうなっても、あたしは戦う。サトシを助けるために! 罠だったとしても、あたしは逃げない! サトシだって、仲間を助けるなら必ずそうするはずよ!」
 あたしは背中に羽織ったサトシのジャケットの襟元を、右手でグッと握った。
「……」
 そんなあたしの言葉を聞いていたユラは、目を見開いたまま少し黙っていた。
「ヒカリさんって、強いんですね」
 そして、ユラはそんな言葉をつぶやいた。
「なら、がんばってください。そして、必ずサトシさんと一緒に帰ってきてください!」
「ありがとう、ユラ」
 あたしはそんなユラに、笑顔でお礼を言った。そして、ポケモン達の方に体を向き直した。ウリムーも、ちょうど食べ終わった頃だった。
「じゃ、みんな行こう!! サトシを助けに!!」
「ポチャッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
「ウリッ!!」
「ブイッ!!」
 ポケモン達は、力強く答えてくれた。みんな準備OKみたい。
「くれくれも、油断しないようにな」
「ダイジョウブ!!」
「ポチャポ〜チャ!!」
 タケシの言葉に、あたしとポッチャマははっきりとそう答えた。そして、ポッチャマとブイゼル以外の4匹のポケモンをモンスターボールに入れて、あたしはポケモンセンターの自動ドアを急ぎ足で出た。ポッチャマとブイゼルも後に続く。
「ヒカリさん……ネバーギブアップです!!」
 自動ドアが閉まる直前に後ろから聞こえた、ユラのそんな言葉が、あたしの背中を押した。夜の静まり返った町の中を、あたしは走った。
「待ってて、サトシ……もうすぐ、助けに行けるから……!!」
 そんな言葉が、自然と口から出た。

「パラドシン、ピンクの女が網にかかったわ」
『よし、計画通りだ……すぐに戻れ。予定通り、プランBを実行に移す』
「わかったわ。プランAはしくじったから、Bはしっかり成功させないとね……!」
 ポケモンセンターから出るあたしの姿を、誰かがどこかからか見つめていた事にはあたしは気付かなかった……

 * * *

 空は曇っていて、月が見えない。いつもより暗く感じる夜だった。
 そんな夜のズイの遺跡に、あたしは着いた。大きなピラミッドのような石の建物の前に、じかんポケモン・ディアルガと、くうかんポケモン・パルキアの像が立っている。暗闇のせいで、少し不気味に見えた。ここは、前にエイパムがエテボースに進化した場所。でも、今は思い出に浸っている場合じゃない。あたしは今、サトシを助けに、ここに来たんだから!
 あたしは辺りを見回した。すると、すぐに少し離れた所に影を見つけた。
「よく来たな、フタバタウンのヒカリ」
 そこにいたのは、チーム・ブラッドのパラドシンとフィオナ、そして、その後ろで十字架に張り付けられたサトシ!
「チーム・ブラッド……!!」
 あたしの口から、自然とそんな言葉が出た。
「さあ、お前のポケモン全てを引き渡してもらおうか」
 パラドシンが言った。あたしは、モンスターボール4個を取り出して、全部を投げ上げた。ミミロル、パチリス、エテボース、ウリムーが出てくる。その中に、ポッチャマとブイゼルも加わる。それを見たパラドシンとフィオナが少し笑った。本当にポケモンを渡すと思って、油断している。今がチャンス!
「みんな!! 先制攻撃よ!!」
「何っ!?」
 あたしは思い切って叫んだ。その言葉に、パラドシンとフィオナは驚いた。
「ポッチャマアアアアッ!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
「エェェェイポッ!!」
「ウゥゥゥゥリィィィィッ!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブゥゥゥゥッ!!」
 あたしの思いが、“バブルこうせん”、“れいとうビーム”、“ほうでん”、“スピードスター”、“こおりのつぶて”、“みずでっぽう”になって、チーム・ブラッドに飛んで行った!


TO BE CONTINUED……

[660] SECTION06 激戦! ズイの遺跡!
フリッカー - 2008年08月28日 (木) 17時03分

「みんな!! 先制攻撃よ!!」
「何っ!?」
 あたしは思い切って叫んだ。その言葉に、パラドシンとフィオナは驚いた。
「ポッチャマアアアアッ!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
「エェェェイポッ!!」
「ウゥゥゥゥリィィィィッ!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブゥゥゥゥッ!!」
 あたしの思いが、“バブルこうせん”、“れいとうビーム”、“ほうでん”、“スピードスター”、“こおりのつぶて”、“みずでっぽう”になって、チーム・ブラッドに飛んで行った! パラドシンとフィオナの反応は早くて、すぐに6匹の攻撃をよけた。2人の目の前で、大きな爆発が起きた。
「くっ、何の真似だ!?」
「ポケモンを引き渡す約束でしょ!?」
 向こうにとっては不意討ち。さすがに驚いたみたい。2人はあたしに主張する。でも、あたしはそれをすぐに払い除けた。
「ポケモンなんか、引き渡すもんですか……! あたしは、サトシを助けるために、あんた達と戦う!!」
 あたしは、2人に向けて強く言い放った。それに合わせるように、ポケモン達が一斉に身構えた。


SECTION06 激戦! ズイの遺跡!


「ちっ……!!」
 パラドシンは2個のモンスターボールを取り出して、スイッチを押した。モンスターボールが開いて、ウインディとスピアーが出てきた。
「どういう事よ!? 戦意喪失してると思ったのに……!?」
「どうやら逆効果だったようだ……何があったか知らんが、繊維を削ぐ所か、逆に奮い立たせてしまったようだ……」
「くっ、ピンクの女……っ!!」
 フィオナは怒った様子で、2個のモンスターボールを投げ上げた。中からアーボックとクロバットが飛び出した。
「チーム・ブラッドをなめないでっ!! 行けえっ!! アーボックッ!! クロバットッ!!」
「フィオナ!!」
 パラドシンが止めるのも聞かないで、フィオナは叫んだ。完全にキレている。それに答えて、アーボックとクロバットが飛び出した。来る!
「“ヘドロばくだん”!! “エアスラッシュ”!!」
 フィオナの怒りを表すように、アーボックはヘドロのかたまりを、クロバットは空気の刃を発射した!
「エテボース、“スピードスター”!!」
「エェェェイポッ!!」
 とっさにあたしは指示を出した。エテボースは“スピードスター”を発射。放たれたたくさんの星は、目の前で集まって1つの大きな星ができあがる。そこに、“ヘドロばくだん”と“エアスラッシュ”が命中! 爆発と同時に、星が砕け散った。
「今よ!! パチリス、“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
 そこに、パチリスが“ほうでん”! 煙を引き裂いて飛んでいく電撃。命中! アーボックとクロバットをまとめてしびれさせた! 怯んで後ずさりするアーボックとクロバット。
「ミミロル、“とびはねる”!! ウリムー、“とっしん”!!」
「ミッ、ミィィィィィィッ!!」
「ウリィィィィッ!!」
 隙ができた今がチャンス! ミミロルとウリムーが、2匹に目掛けて突撃した! 直撃! 跳ね飛ばされるアーボックとクロバット。
「ちっ、ウインディ、“かえんほうしゃ”!! スピアー、“ミサイルばり”!!」
 すぐにパラドシンがフィオナに加勢する。ウインディの炎と、スピアーのミサイルが、こっちに飛んできた!
「みんな、危ない!!」
 あたしのとっさの指示で、ポケモン達は攻撃に気付いてすぐにサッとばらけた。地面に命中して、爆発する炎とミサイル。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!! ブイゼル、“ソニックブーム”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」
 すぐにポッチャマとブイゼルが応戦する! ポッチャマの“バブルこうせん”と、ブイゼルの“ソニックブーム”がウインディとスピアーに襲い掛かった! 命中! でも、ウインディとスピアーは怯まない。すぐに反撃に出た!
「ウインディ、“りゅうのはどう”!! スピアー、“ぎんいろのかぜ”!!」
 ウインディの“りゅうのはどう”と、スピアーの“ぎんいろのかぜ”が、ポケモン達に襲い掛かる! みんなはすぐに気付いて、よけようとした。“りゅうのはどう”は直撃しないで済んだけど、爆発や“ぎんいろのかぜ”はよけられなかった。体制を崩すみんな。そして、また別の“りゅうのはどう”が飛んできて……!
「きゃあっ!!」
 あたしのすぐ側に当たって爆発した! 爆風であたしの体が弾き飛ばされた。
「ポチャッ!?」
 ポッチャマがすぐにあたしに気付いた。そして、他のみんなも。
「ダイジョウブ……気にしないで……!」
 こんな時に弱音なんて吐いてられない。あたしはそう言って、倒れたあたしの体を立たせた。まだダイジョウブ。
「パラドシン!! あいつはあたしが……っ!!」
「落ち着けフィオナ!! 取り乱しては勝てるものも勝てないぞ!!」
「く……っ!!」
 フィオナを落ち着かせようとするパラドシンと、それでも唇を噛んだままのフィオナ。そしてその先にいる、十字架にはりつけにされたサトシが映った。こんな事しててもらちが明かない。何とかして、ここを突破して、サトシを助けないと……!
「ポッチャマ、ウインディに“うずしお”!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!! ポッチャマッ!!」
 あたしの指示に答えて、ポッチャマは“うずしお”を作り出した。そして、それをウインディに向けて力強く投げつけた! パラドシンのウインディはあたしとサトシを“はかいこうせん”の一撃で吹き飛ばした強敵。まずはそんなウインディから先にやろうって、あたしは考えていた。
 “うずしお”は見事ウインディを飲み込んだ! 効果は抜群! ウインディは身動きが取れない。今がチャンス!
「ちっ、スピアー!!」
「やらせないわ!! アーボック!! クロバット!!」
 当然、パラドシンとフィオナは黙っていない。スピアー、アーボック、クロバットはすぐに動き出した。
「パチリス、“ほうでん”よ!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
 あたしもすぐに、パチリスに指示を出した。パチリスの“ほうでん”は、3匹に命中! うまく3匹を足止めした。
「今よブイゼル、“みずのはどう”!!」
「ブゥゥゥゥイッ、ブイッ!!」
 動けないウインディに、ブイゼルは“みずのはどう”を発射! ウインディを閉じ込めた水の渦に向かっていく水のボールは、そのまま水の渦を突き破ってウインディに直撃! 効果は抜群! 水の渦が弾けて、水しぶきがウインディの周りに飛んだ。ウインディは微動だにしていない。
「やった……?」
 あたしは、思わずそうつぶやいた。でも、ウインディはすぐに顔を上げて、あたし達を強くにらみつけた!
「フフフ、戦法はなかなかだが、パワーが足りなかったようだな!」
 パラドシンが笑った。
「そんな……!?」
 あたしは驚くしかなかった。効果抜群なわざを2回受けても、平気でいられるなんて……なんて強さなの……!?
「ウインディ、“はかいこうせん”!!」
 そのパラドシンの指示を聞いて、あたしの全身の毛が逆立った。あの攻撃が来る! ウインディは口にエネルギーを蓄えると、それを凄まじい光線にして放った!
「みんな、よけて!!」
 あたしはすぐに叫んだ。それに答えて、みんなは飛んでくる“はかいこうせん”をすぐにかわした。こっちにも飛んできそうだったから、あたしも慌ててその場から離れる。あたしのすぐ横を、“はかいこうせん”が通り過ぎて行った。そのまま、遠くに見える森へと伸びていく“はかいこうせん”。森の中へ消えた“はかいこうせん”は、森の中で大きな爆発を起こした。それに驚いた鳥ポケモン達が、森から舞い上がった。あれをまともに受けていたら……
「まだ終わりじゃないよ!! アーボック、“ヘドロばくだん”!!」
 でも、よけた所にフィオナのアーボックの攻撃が来る。こっちにたくさん飛んでくる“ヘドロばくだん”。それは、ポケモン達だけじゃなくて、あたしの所にも飛んでくる!
「きゃあああっ!!」
 ポケモン達と一緒に、あたしも慌ててよける。その勢いあまって転んじゃったけど、その時には“ヘドロばくだん”は止んでいたから、幸い当たる事はなかった。
「クロバット、“どくどくのキバ”!!」
 でも、今度はクロバットがあたしの所に飛んできた! あたしに不意討ちをかけるのにも使った“どくどくのキバ”。転んだ所に飛んできたから、よけられない!
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 でもそこに、エテボースが割って入った。飛んでくるクロバットに向けて“ダブルアタック”! 直撃! クロバットは弾き飛ばされた。
「ダメだわ、このままじゃ……!」
 いつまで経ってもサトシを助けられない。こうなったら倒すんじゃなくて、強引に道を開けるしか方法はない。あたしは立ち上がって、指示を出した。
「みんな、ここを強行突破するわよ!! エテボース、“スピードスター”!! パチリスも“ほうでん”!!」
「エェェェイポッ!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
 エテボースは“スピードスター”をばら撒いて、パチリスが“ほうでん”でそれを援護する。
「くうっ!!」
 パラドシンとフィオナ、そのポケモン達に降り注ぐ星と電撃に驚いて、後ずさりする。パラドシンとフィオナはちょうど2つに分かれた形になって、サトシの所に道が開いた!
「今よ!!」
 あたしはみんなを連れて一気に走りだした。パラドシンとフィオナの間を抜けて、あとはサトシの所に一直線。
「ここを突破する気!?」
「そうはさせん!! スピアー、“どくづき”!!」
「アーボック、“まきつく”よ!!」
 でも、そう簡単には行かない。スピアーとアーボックが、あたしの目の前に立ちはだかった!
「ミミィィィィッ!!」
「ウゥゥゥゥリィィィィッ!!」
 でも、ミミロルとウリムーが援護してくれた。ミミロルは“ピヨピヨパンチ”で、ウリムーは“こおりのつぶて”で応戦! 命中! 弾き飛ばされるスピアーとアーボック。
「ありがと、ミミロル、ウリムー!!」
 あたしはそう言って、みんなの援護を受けながら、サトシの所にまっすぐ走って行った。
「サトシーッ!!」
 叫びながら、サトシがはりつけにされた十字架の前に来た。サトシは何も答えない。それだけ弱っているのかもしれない。
「今、助けるからね!! ブイゼル、“ソニックブーム”で鎖を壊して!!」
 あたしはそう言って、傍らにいたブイゼルに指示を出した。
「ブイッ!!」
 ブイゼルは指示通りに、“ソニックブーム”を発射した。でも、放たれた“ソニックブーム”は、サトシと十字架をそのまま素通りしちゃった!
「え……!?」
「ブイ!?」
 あたしは目を疑った。ブイゼルはもう1回“ソニックブーム”を撃つ。でも、それも素通りするばかり。何発撃っても、結果は同じだった。
「どうなってるの……!?」
 あたしは十字架に手を伸ばしてみた。するとあたしの手は、やっぱり何の抵抗もなく十字架を素通りした。手を握ってみても、何もつかめない。まさか、これって……
「まんまと引っ掛かったな!!」
 そんな声が聞こえたと思うと、突然後ろから“りゅうのはどう”が飛んできた!
「ポチャアアッ!!」
「ミミィィッ!!」
「チパアアッ!!」
「エポォォッ!!」
「ウリィィィッ!!」
「ブイイイッ!!」
 いくつもの爆発。そして、みんなの悲鳴が聞こえた。
「みんな!?」
 見ると、みんなは“りゅうのはどう”をもろに受けて、その場に倒れていた! そして、そんなあたしの前に、今度は“エアスラッシュ”が!
「きゃああっ!!」
 気付くのが遅れた。体に直撃だった。強い痛みが走る。そのまま後ろに弾き飛ばされて、倒れるあたし。
「ピンクの女、あんた結構単純なんだね、こんな網にコロッと引っ掛かるなんてさ」
 勝ち誇るように立つフィオナが、笑みを浮かべた。
「ど、どういう事……!?」
「冥土の土産に教えてあげるけど、あたし達は最初から人質を返すつもりなんてなかったのよ。あれはあんたをおびき寄せるためのホログラムなのよ」
 フィオナがそう言って、取り出したリモコンのスイッチを押すと、十字架にはりつけにされたサトシの姿は、十字架ごとスウッと消えた。あれって、立体映像だったの!?
「全てはお前のポケモンを全て奪うためだ……!」
 自信満々に言うパラドシン。タケシが言ってたように、罠だったって事……!?
「騙したのね……!!」
 あたしの心の中には、悔しさよりも怒りがこみ上がってきた。サトシを利用して罠にかけたのなら、なおさら許せなくなってきた……!
「コロッと騙されるあんたが悪いのよ!!」
「ポケモンは頂くが、お前には死んでもらう!!」
 そんな2人の言葉に合わせて、アーボック、クロバット、ウインディ、スピアーが飛び出した! まっすぐあたしに向かっている!
「ポチャ……ッ!! ポッチャマアアアアッ!!」
 そこに、ポッチャマが飛び出した。許せないのはポッチャマも同じみたい。怒りを込めて、“バブルこうせん”を発射した! でも、4匹は“バブルこうせん”を簡単にかわした。
「邪魔をするか!! ウインディ、“かえんほうしゃ”!!」
 すぐにウインディが“かえんほうしゃ”で反撃!
「ポチャアアアアッ!!」
 炎は、容赦なくポッチャマを飲み込んだ! 効果は今ひとつのはずだけど、その一撃はかなりのものだった。地面に落ちたポッチャマの体は、『やけど』だらけだった。
「ポッチャマッ!!」
 思わず叫ぶあたし。ポッチャマは立ち上がろうとするけど、ダメージが大きいのか、立ち上がれない。みずタイプのポケモンにも、あれだけのダメージを与えられるなんて……!
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
「ウリッ!!」
「ブイッ!!」
 すぐに、他のみんなも応戦しようと続けて飛び出した。
「スピアー、“ミサイルばり”!!」
 でも、すぐにスピアーが応戦した。スピアーは両手から、針のミサイルを一斉にばら撒いた!
「ミミィィッ!!」
「チパアアッ!!」
「エポォォッ!!」
「ウリィィィッ!!」
「ブイイイッ!!」
 飛んでくるミサイルの弾幕を、みんなはよけられなかった。爆発に次々と弾き飛ばされるみんな。
「みんなっ!!」
 思わず声を上げた。みんなかなりダメージを受けている。立ち上がる事もできない状態。
「アーボック、“どくどく”!!」
 すると、アーボックが口から黒い煙を吐いた。それは、あたしの所に飛んできた! 煙が、あたしの周りを包み込む。反射的に口を手で押さえたけど、息が苦しくて咳が止まらなくなった。いけない、少し吸っちゃったかも……これじゃ、また『もうどく』に……!
「フフフ、これでもう、勝ったも同然ね」
 フィオナが勝利を確信したように笑みを浮かべた。その時、曇った空から、急に雨が降ってきた。まるで、この泥沼の状態を示すかのように。
「じょ、冗談じゃ……ないわ……!! あたしは……絶対に……サトシを……助けるんだから……っ!!」
 息が苦しい状態の中で、あたしは精一杯叫んだ。
「そんなごたくは、もうたくさんよ!! さあ、今度こそさよならよ!! ピンクの女っ!!」
 煙が晴れた時、クロバットがこっちに飛んできたのが見えた。ああ、このままあたしは、殺されるの……? そんなの、嫌……! あたしは、絶対に、サトシを……!

 その時、目の前で何かが光ったのが見えた。
「ポッチャマアアアアッ!!」
 そんなポッチャマの叫び声と同時に、“バブルこうせん”がクロバットに飛んできた! それも、今まで見た事もないくらい多くて、泡の嵐のようだった。直撃! 弾き飛ばされるクロバット。
「っ!?」
「何だ!?」
 フィオナとパラドシンは、驚いて“バブルこうせん”が飛んできた方を見た。そこには、力強く立つポッチャマがいた。体は傷だらけだけど、体に纏う青いオーラが、怒りの炎のように燃え上がっている。
「あれは……!?」
「『げきりゅう』か!! しかも雨の影響でパワーも上がっているぞ……!!」
 2人が叫んだ。
「ポッチャマ……!!」
 ポッチャマが、『げきりゅう』を発動させたんだ! あたしは嬉しくなった。
「ええい、こんな時にっ!! アーボック……!!」
「ブイイイイイイイッ!!」
 フィオナが怒ってアーボックに指示を出そうとした時、今度はブイゼルの叫び声が聞こえたと思うと、青い弾がアーボックに凄まじいスピードで突撃した! 直撃! フィオナの目の前に弾き飛ばされるアーボック。
「今度は何!?」
 フィオナが見ると、そこには、ポッチャマの横に降り立った、強気な表情を見せるブイゼルの姿が。今のはブイゼルの“アクアジェット”……!
「『すいすい』か……!!」
 パラドシンが唇を噛んだ。そして、ブイゼルだけじゃない。残ったミミロル、パチリス、エテボース、ウリムーも、また力強く立ち上がった。あたしの思いに答えてくれるように。
「ブイゼル……みんな……!!」
 あたしの体に、強い力が生まれた。その力で、あたしはゆっくりと立ち上がった。羽織っているサトシのジャケットの襟元を、右手でグッと握った。雨で体はずぶ濡れだけど、そんな事気にしてられない。あたしは負ける訳にはいかない! 絶対に、サトシを助けるって決めたんだから! サトシだってきっと、助けに来るのを待ってる! だから、あたしは……!
「まだ……あたし達は負けない!! サトシは助ける!! 絶対に、何があっても!!」
 あたしは、息を思い切り吸い込んで、指示を出した。
「エテボース、“きあいパンチ”でブイゼルを吹っ飛ばして!!」
「何!? ブイゼルにだと……!?」
 あたしの指示に、パラドシンは驚いた。エテボースとブイゼルも最初は少し驚いてたけど、思い出してくれたのか、すぐにうなずいた。
「エイエイエイエイエイ……!!」
 ブイゼルがエテボースの前に出てスタンバイ。そして、エテボースはその後ろで尻尾を振り回して拳に勢いをつけ始める。
「ポオオオオオッ!!」
 エテボースは思い切りブイゼルに“きあいパンチ”でブイゼルを思いっ切り殴って吹っ飛ばした! バットで打たれた野球ボールのように、勢いよく飛んで行くブイゼル。
「ブイゼル、“アクアジェット”!!」
「ブイイイイイッ!!」
 そして、ブイゼルは体に水を纏った! そのまま向かって行く先は、ウインディ。
「ちっ!! ウインディ、“かえんほうしゃ”!!」
 パラドシンもすぐに応戦する。ウインディは向かってくるブイゼルに“かえんほうしゃ”を放つ。でも、さっきまでの威力がウソみたいに、ブイゼルは速度を落とす事なく炎を突き破っていく! そのまま直撃! 効果は抜群! 雨の影響で上がった威力と、吹っ飛ばされた勢いも加わって、ウインディを思い切り弾き飛ばした! ウインディは、パラドシンの後ろまで弾き飛ばされた。そう、この戦法はエイパムとブイゼルを交換したばかりの時に、オーブタウンで使ったものと同じもの。
「くっ、雨でほのおわざのパワーが落ちている……!!」
 パラドシンが唇を噛んだ。雨が降っている状態だと、ほのおタイプのわざの威力は下がる。逆に、みずタイプのわざの威力は上がる。今なら、こっちが断然有利!
「ええい、調子に乗らないでよ、ピンクの女っ!! クロバット!!」
 フィオナが怒って、クロバットに指示を出した。『すいすい』でスピードが上がったお陰で、すぐにこっちに戻ってきたブイゼル。そこに、クロバットが向かっていく!
「ブイゼル、もう1回!!」
「ブイイイイイッ!!」
 ブイゼルは“アクアジェット”を保ったまま、クロバットに向かっていく。でも、それだけじゃ終わらない。
「ミミロル、ブイゼルに“れいとうビーム”!! ウリムーも合わせて“こおりのつぶて”!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
「ウゥゥゥゥリィィィィッ!!」
 そこに、ミミロルが“れいとうビーム”を、ウリムーが“こおりのつぶて”をブイゼルに向けて発射! 命中! ブイゼルを纏っていた水が、たちまち凍りつく。
「アハハハ、何バカやってんのよ……ええっ!?」
 最初はバカにしていたフィオナも、ブイゼルが凍ったままでも突撃していく姿を見ると驚きを隠せなかった。
「行って!! 『氷の“アクアジェット”』!!」
 そう、『氷の“アクアジェット”』! “アクアジェット”を凍らせて突撃させる、あたしが考えて、サトシが完成させたこの戦法を、まさか自分がまた使う事になるなんて思ってもいなかったけどね。
「ブゥゥゥゥゥッ!!」
 そのままブイゼルはクロバットに突撃! 直撃! たちまち弾き飛ばされるクロバット。ブイゼルは纏った氷を砕いて、サッと着地した。決まった!
「な、何なのよあれ!?」
 フィオナはあっけにとられていた。でも、あたしの攻撃は、まだ終わりじゃない!
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポオオオオチャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 ポッチャマは水の渦を作り始める。それは、『げきりゅう』のパワーで、雨のパワーで、そして、あたしの思いも合わせるように、どんどん、どんどん大きくなっていく。水の渦は、建物1つ飲み込めるんじゃないかって思うくらいにまで大きくなった。
「ポッチャマアアアアアアアッ!!」
 そして、ポッチャマはそれを力強く投げつけた! 巨大な水の渦が、チーム・ブラッドに飛んでいく!
「ぬおっ!!」
 巨大な“うずしお”は、4匹のポケモンはおろか、パラドシンとフィオナまでも飲み込んだ!
「パチリス、“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
 そこに、パチリスが“ほうでん”! 水で電気が流れやすくなっているから、効果も倍になる! 水の渦を通って直撃! そして爆発! 水しぶきが弾け飛んだ。
「ば、バカな……この俺が……っ!!」
「よくも、よくもやってくれたわね……!!」
 倒れたパラドシンとフィオナが立ち上がりながらそう言った。でも、4匹のポケモンは結構疲れてる。これなら勝てるかも!
 その時、あたしの後ろから一筋の光線が通り過ぎた。光線は、パラドシンとフィオナの目の前に当たって爆発!
「な!?」
「今度は何!?」
 驚きを隠せない2人。その時、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ヒカリさーんっ!!」
「ヒカリーッ!!」
 そこには、マルノームのマーちゃんを連れたユラとタケシが! 2人共レインコートを着ている。
「ユラ!? タケシ!?」
「私達も加勢します!! ヒカリさんが1人で戦ってる時に、黙って待ってなんかいられません!!」
「最初から向こうとの約束は守らないつもりだったんだろう?」
 予想もしなかった援軍に、あたしは驚いた。でも、味方が多い事に越した事はない。2人の言葉を聞いて、あたしは嬉しくなった。
「ちっ!! アーボック、“ヘドロばくだん”!!」
 すぐに、アーボックが飛び出して、“ヘドロばくだん”を撃ってきた!
「マーちゃん、“たくわえる”!!」
 その時、ユラの指示でマーちゃんが前に出た。“ヘドロばくだん”の雨の中で、パワーを吸い込み始めるマーちゃん。“ヘドロばくだん”はどくタイプのマルノームには効果は今ひとつ。それに、“たくわえる”には防御力が上がる効果もある。
「“はきだす”!!」
 そして、“ヘドロばくだん”が止んだ所を見計らって、蓄えたパワーを光線にして発射! 命中! アーボックはたちまち返り討ちにされた。
「ええい、こうなったら……!!」
「そこまでだフィオナ。ここは分が悪い。撤収するぞ。作戦をプランCに切り替える」
「え!?」
 まだ戦おうとするフィオナを、パラドシンが止めた。
「でも……!!」
「反論は聞かん!!」
「……わかったよ!!」
 フィオナは唇を噛みながら、アーボックとクロバットを戻した。パラドシンもウインディとスピアーを戻した。
「今日の所はここまでにしてやる、フタバタウンのヒカリ。だが、次はこうはいかん! あの山のふもとにある我々のアジトで、全ての決着を着けよう。そこに、人質もあずかっている」
 パラドシンは遠くに見える山を指差して、そう言った。あの山のふもとにあるアジトに、サトシがいる……!?
「随分あっさり教えるなんて、罠なんじゃないのか?」
「フッ、ごまかす必要はない。アジト以外に人質を隠せる場所はどこにもない。助けたければ、乗り込んでくる事だな」
「覚えてなさいよ、ピンクの女!! アジトでギッタギタにしてやるんだからね!!」
 2人はそう言って、一緒に森の中へと姿を消した。すると、森の中から赤い宇宙船のような赤い空飛ぶメカが、音を立てて雨の空を飛び上がっていった。飛んでいく先は、アジトがあると言った、山の方向だった。
「アジトで、全ての決着を着ける……う……ううっ……」
 すると、急にめまいが起きた。いけない、『もうどく』が効いてきたみたい……! あたしの体がふらついた。そして、何だか気持ち悪くなってきた。
「おいヒカリ!? どうしたんだ!?」
 タケシがすぐに、倒れそうになったあたしの体を受け止めた。ポケモン達も驚いて集まってくる。
「ご、ごめん……バトルの時、『もうどく』を少し吸っちゃったみたい……」
「ええっ!? なら、すぐに戻らなきゃダメですよ!!」
「ああ、すぐに治療してもらわないと!!」
「ご、ごめん、みんな……」
 タケシはあたしの肩を担いで、元来た道を戻っていく。ポケモン達も後について行く。
 あたしは、振り向いてアジトがある山を見つめた。あいつらのアジトに、サトシは捕まっている……なら、今度こそ助け出さないと……! あたしは逃げる気なんてなかった。羽織っているサトシのジャケットの襟元を、また右手でグッと握った。
「サトシ……必ず、行くからね……!!」
 あたしはサトシに対してだけじゃなくて、自分にも誓って、そうつぶやいた。


STORY19:THE END
THE STORY IS CONTINUED ON STORY20……

[661] 次回予告
フリッカー - 2008年08月28日 (木) 17時04分

 サトシを助けるために、あたし達は最後の戦いへ!

「みんな、行くわよ!!」

 道を阻む敵を乗り越えて……

「ここから先は、ニャー達が通さないのニャ!!」
「ヒカリさんのためにも、サトシさんのためにも、私がやります!!」

 遂に始まる、チーム・ブラッドとの最終決戦!

「待っていたぞ、フタバタウンのヒカリ!」
「ヒ、ヒカリ……」
「今度こそ、あたしはサトシを助ける!!」

 NEXT STORY:2人ぼっちの戦い(第3部)

「命を懸けて、かかって来い!!」

 COMING SOON……



Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板