[607] SECTION01 襲撃! チーム・ブラッド! |
- フリッカー - 2008年07月29日 (火) 17時50分
あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。
SECTION01 襲撃! チーム・ブラッド!
ここはとある森の中。 そこに、空を見上げるあの2人と1匹――ロケット団の姿があった。2人と1匹の見上げる先には、音を立てて降りてくる、宇宙船のような赤い空飛ぶメカが。地面に降り立ったメカから、2人組の男女が降りてきた。 「お前達だな、ヤンヤンマをサカキ様に届けたのは」 男の人が言った。 「いかにもその通りです〜」 ムサシがゴマをするように、笑みを浮かべて手もみしながら言った。 「我々に譲ってくださったヤンヤンマは、メガヤンマに進化して大事に大事にしております〜」 「ボスに『我々への御配慮ありがとうございます』と伝えておいてくださいニャ〜」 コジロウとニャースも同じように笑みを浮かべて手もみしながら言った。それを見た男の人は少し間をおいて、「……まあ、伝えておこう」と答えた。 そして、今度は男の人が質問した。 「それで、今はどんな活動をしている?」
「……そうか。この集団が連れているピカチュウを追ってここまで来たと?」 「はい〜。なかなか手強くて今はまだゲットできていませんが、必ずゲットして、シンオウ征服を見せますので〜」 男の人の質問に、相変わらず手もみしながら答えるムサシ。男の人の手には、旅をするあたし達が写った1枚の写真が。全員は、焚き火を囲んだ状態で話をしていた。 「……そんなんでシンオウ征服だなんて、できっこないよ」 すると、男の人の後ろで木に背中をもたれかけていた女の人が口を開いた。その言葉を聞いたムサシの表情が変わる。 「たった1匹の普通のポケモンくらいに手こずってて『シンオウ征服だ〜!』なんて、どんなバカが考えても不可能だってわかるよ」 女の人はそう言った後、クククと笑った。 「な、何よアンタ!! いくらエリートだからって、調子に乗るんじゃないわよ!!」 「ま、まあムサシ、落ち着いて!!」 怒り出して前に出ようとするムサシを、コジロウとニャースが抑え込む。 「だいたい、敵対する奴に情けなんかかけてどうするのさ? 敵に情けなんて無用なんだよ? そんなんでよくやっていけたわねぇ? 生ぬるい奴」 さらに女の人はニヤリと笑って追い打ちをかける。 「何ですってえ〜っ!!」 「や、止めるんだムサシ!!」 「相手は『チーム・ブラッド』なのニャ!! ここはこらえるのニャ!!」 怒りが爆発したムサシを、必死で抑え込むコジロウとニャース。 「……わかった。俺が手を貸してやろう」 すると、男の人は冷静にそんな事を言った。「えっ!?」と驚いて声を上げる2人と1匹。 「ちょっとパラドシン!! こんな奴らなんかに協力してどうすんのよ!?」 「フィオナにはわからんさ。ポケモントレーナーとコーディネーター達に仕事を妨害される者の気持ちなんてな……」 反論する女の人に、男の人は諭すようにそう言った。女の人は、それに納得がいかないのか、唇を噛んでいた。 「奴らに思い知らせる必要があるな……ロケット団の『本気さ』というものを……」 男の人は、力任せに写真を握りつぶした。そして力任せに焚火に投げ捨てた。写真は、そのまま焚き火に焼かれていった。
あたし達は、まだ知らない。今まで見た事もない最悪の敵が動き出そうとしていた事には……
* * *
ヨスガシティに到着したあたし達だけど、ジムはまだ空いていなかった。 その代わり、あたしは『ヨスガコレクション』に挑戦する事になった。ポケモンにおしゃれをする『ポケモンスタイリスト』は、ポケモンコーディネーターの1つの形。それの1番を競う大会。最初は初めての事だから戸惑ったけど、基本はポケモンコンテストと一緒だって気付いて、おしゃれも演技もがんばった。そうしたら、見事優勝! 優勝者は雑誌のグラビアに載せてもらえるんだけど、あたしはやっぱりトップコーディネーターになりたいから、旅を続ける。この事は、とってもいい経験になったなあ。 次のコンテストが開かれる場所は、カンナギタウン。そこに向かって、あたし達の旅は続く……
* * *
ヨスガシティからズイタウンへ繋がる道。カンナギタウンへ向かうためには、一旦ズイタウンを経由しなきゃならない。だから、あたし達はまたこの道を通る事になった。 この道でも、いろんな事があったなあ。ミライさんと出会ったり、エイパムとブイゼルを交換したり。今思えばここは、あたしの『イバラの道』が始まった場所でもあったなあ。でも、今のあたしはもう、あの時のあたしじゃない! カンナギタウンのコンテストに向けて、しっかりがんばっていかないとね! そんな訳で、あたしは休憩を取ってる間、ポフィンの材料にするための、木の実集めをしていた。 「うん、これもよさそう」 手に取ったオボンの身を見てあたしはつぶやいた。そして、手に持っているかごに入れた。ポッチャマも、手頃な木の実を見つけると“バブルこうせん”で落して、こっちに持ってきてくれる。かごは結構木の実でいっぱいになった。 「あれ? 何だろう、あの木の実?」 そんな時、あたしは見慣れない木の実を見つけた。大きさが結構ある、茶色のドングリのような木の実。それが、高い木にいっぱいぶら下がっていた。手を伸ばして取りたい所だけど、高くて手が届かなさそう。 「取ってみよっか。ポッチャマ、お願い」 「ポチャ」 ここはポッチャマに頼んで落としてもらおう。ポッチャマはうなずいて、大きな木の実に向かって“バブルこうせん”を発射。見事命中して、大きな木の実は次々と木の下に落ちた。早速拾おうと近づくあたし。でも手を伸ばしたその時、木の実が突然、動いたと思ったら、ギョロリと顔をこっちに向けた! 「うわあっ!! 木の実に顔がある!?」 びっくりしたあたしは、ポッチャマと一緒に、腰を抜かしちゃった。顔がついた木の実(?)は怒った様子でこっちに攻撃してきた! 一斉にこっちに弾のようなものを連続発射してきた! 「きゃああっ!!」 あたしとポッチャマは慌ててよける。今のは“タネマシンガン”!? 「何あれ!? ポケモンなの!?」 そう思ったあたしは、すぐにポケモン図鑑を取り出した。 「タネボー、どんぐりポケモン。枝にぶら下がっていると木の実にそっくり。ついばもうとしたポケモンを驚かせて喜ぶ」 図鑑の音声が流れた。やっぱりポケモンだった。あたしはようやく状況が理解できた。木の実だと思っていたのはポケモン。“バブルこうせん”を撃ったせいで怒らせちゃったみたい! そんな木の実、いやタネボー達は、またこっちに襲いかかってきた! 「ご、ごめんなさああああい!!」 あたしはポッチャマと一緒にすぐに逃げ出した。それでもタネボー達は追いかけてきて、こっちに“タネマシンガン”で攻撃してくる! 何だか、謝っても許してくれなさそう……そう思っていたら、あたしの足に何かが引っ掛かった! 「あっ!!」 そのままつまづいて転んじゃった! 木の実を入れたかごが投げ飛ばされて、せっかく集めた木の実がこぼれちゃった。足元を見ると、あたしの足に引っ掛かっていたのは結んである草。これって“くさむすび”!? そうしている間に、タネボー達が襲いかかってきた! 逃げる事も許してくれないなんて、相当キレてるみたい……! 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 「ポッチャマアアアアッ!!」 慌てて指示を出すあたし。それに答えて、ポッチャマは“バブルこうせん”でタネボーを迎え撃つ! でも、タネボー達はそれを生身で受け止めた。そう思ったら、タネボー達は受け止めた“バブルこうせん”を力に変えて跳ね返した! 「ポチャアアアアッ!!」 跳ね返されたパワーに、弾き飛ばされるポッチャマ。タネボーが使ったのは、あたしにとっても見慣れたわざ、“がまん”だった! 「ああっ、ポッチャマ!!」 あたしがポッチャマを心配するまでもなく、1匹のタネボーはポッチャマの体に帽子のでっぱりを突き立てた。すると、そのままポッチャマからパワーを吸い取り始めた! 「ポチャアアアアッ!!」 悲鳴を上げるポッチャマ。あれって“ギガドレイン”!? だとしたら、ポッチャマには効果抜群……! そう思ってたら、残ったタネボーがあたしにも帽子の出っ張りを向けて飛びかかってきた! まさか、あたしにも“ギガドレイン”するつもりなの!? 逃げようとしたけど、体がすくんで動けない! すると、一筋の電撃が、あたしの前に飛んできた。あたしに飛びかかろうとしてたタネボー達に直撃! 効果はいまひとつだけど、タネボー達を弾き飛ばすのには充分だった。 「!?」 何が起こったの、って思った時、そこに黄色い体のポケモンが飛び出してきた。間違いなくピカチュウ! ピカチュウが向かう先には、“ギガドレイン”を受けているポッチャマが。 「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」 ピカチュウは“アイアンテール”でポッチャマに食いついたタネボーを弾き飛ばした! その一撃に懲りたのか、タネボー達は一目散に逃げ出して行った。戦いは一瞬で決着がついた。 「ヒカリーッ!」 その時、聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはこっちに走ってくるサトシが。 「サトシ」 「大丈夫か?」 サトシは、あたしに右手を差し出した。 「うん、何とかね」 あたしはサトシの右手を取って、立ち上がった。ポッチャマも、ピカチュウにお礼を言っていた。 「どうしたんだ一体? 『木の実が何とか』って声が聞こえたから急いで来たんだけど……」 「木の実だって思って拾ったらそれがポケモンで、すっごくびっくりしちゃって、怒らせちゃったの」 「それが、さっきのタネボーだったって事か?」 サトシの質問に、あたしは「うん」とうなずいた。 「ごめんねサトシ、こんな時に助けられちゃって……ホントはあたしがしっかりしなきゃいけないのに……」 「いいんだよ、気にすんなって。それより、そのかご……」 謝るあたしにそう答えて、下を指差すサトシ。見るとそこには、木の実を入れていたかごが転がっていた。その周りには、今まで集めた木の実が、かごからこぼれて散らばっている。 「あっ、いけない!! 木の実が!!」 あたしは慌てて、散らばった木の実を拾いにかかった。 「俺も手伝うよ」 それを見たサトシも、一緒に拾うのを手伝ってくれた。あたしは「ごめん」って謝りながら、やっぱりサトシって、リーダー格って感じじゃないけど、いると心強いなあ、って感じずにはいられなかった。
* * *
木の実を拾って、2人で休憩場所に戻ってきた時、タケシがやってきた。 「おいサトシ」 「何だ?」 「お前に会いたいって言ってる人が来てるんだが……」 「えっ!?」 タケシの言葉に、あたし達は驚いた。サトシに会いたいって人が来るなんて、初めての事だもんね。 「あ、あの……サトシさん……」 そこに、1人の女の子が顔を出した。黒いサラサラのロングヘアーで、白い半そでの服に赤いミニスカート。首からはペンダントをぶら下げていて、両腕にはピンクのリストバンドが付いている。この子がサトシに会いたいって人? 「君、なのか? 俺に会いたいっていうのは」 「はい。あ……あの……私、ユラって言います」 女の子は緊張しているのか、途切れ途切れにだけど自己紹介した。その後、ユラって女の子は、思い切ってこんな事を言った。 「私……サトシさんのファンなんです!」 「ええっ!?」 ユラの思い切った言葉に、あたし達はそろって驚いちゃった。 「ほ、本当なのか!?」 サトシが念のために聞いてみる。 「はい……ポケモンリーグで活躍は何度も見ています……! ずっと、憧れていました……! 私の先生は、バトルフロンティアで活躍してるんですけど、先生からもサトシさんの事を聞いています……!」 ユラは少し恥ずかしがっている様子だったけど、その目は輝いていた。まるで、あたしに初めて会った時のハルナのように。 「そ、そうだったのかあ〜。ちょっと照れるなあ〜」 それを聞いたサトシは、照れ笑いをして頭をかきながら答えた。 「サ、サトシさん! そ、その……私と勝負してください!」 「もちろんさ! ユラのようなファンの挑戦だったら、喜んで引き受けるさ!」 ユラのお願いを聞いたサトシは、胸を張って得意気に答えた。 「よ〜し、早速やるぞピカチュウ!!」 「ピッカチュ!!」 サトシは張り切ってる様子。でも何かサトシ、調子に乗っちゃってる…… 「それに……あなたはヒカリさんですよね……?」 すると、ユラの顔があたしに向いた。 「えっ? あたしの事も知ってるの?」 「私、ポケモンコンテストにも出ているんです……あの元トップコーディネーターのアヤコさんの子だって聞いて、ヒカリさんをコンテストの目標にしてるんです……あなたにも会えて光栄です……!」 ユラは恥ずかしがる様子であたしに言った。 「あ、それはありがとう……」 あたしもちょっぴり照れて、答えた。
ポケモンバトルに最適な開けた場所で、離れて向かい合うサトシとユラ。いつものように、審判はタケシがやる。 「ピカチュウ、相手は俺達のファンなんだ。バトルでもカッコいい所を見せてやらないとな!!」 「ピッカチュ!!」 相変わらず張り切ってるサトシ。サトシの顔が、ユラに向く。 「ユラ、俺は相手がファンだからって手加減はしないぜ!!」 「はい!! お願いします!!」 「そうさ!! そう来なくっちゃな!!」 ユラの返事を聞いて、まるで余裕ぶりを見せているかのように、胸を張って答えるサトシ。 「サトシ、やっぱり調子に乗ってる……ダイジョウブなのかな……?」 バトルを観戦する事になったあたしは、思った事をそのまま口に出してみる。ファンがいて嬉しいのはわかるけど、そんな事してたら、高くした鼻折られちゃうかもしれないよ…… 「ピカチュウ、君に決めたっ!!」 「ピッカ!!」 サトシはいつも以上に力を入れて、いつもの言葉を叫んだ。それに答えて、ピカチュウが力強く前に出る。 「私も行きます!! マーちゃん!!」 ユラもモンスターボールを取り出して、思い切り投げた。出てきたのは、紫色の見た感じプニプニした感じの体を持つ、愛嬌のある顔をした結構大きいポケモン。 「あのポケモンは……」 あたしはポケモン図鑑を取り出した。 「マルノーム、どくぶくろポケモン。何でも丸呑みしてしまう。毛穴から猛毒の体液を分泌して敵に浴びせかける」 図鑑の説明が流れた。 「マルノームか……相手にとって不足はないぜ!! 先手はユラからでいいぜ!!」 サトシはまた余裕そうに叫んだ。やっぱり調子に乗ってる…… 「はい!! マーちゃん……」 ユラがそれに答えて指示を出そうとした時だった。 突然、空からマジックハンドが伸びてきて、ピカチュウを鷲掴みにした! そのまま持ち去られるピカチュウ。 「あっ!?」 あたし達は、驚いてマジックハンドが伸びる先を見た。そこには見慣れたニャースの頭を象った気球が浮いていた! 「わーっはっはっは!!」 いつもの高らかな笑い声が聞こえてきた。まさか…… 「お前達は!!」 タケシが叫んだ。 「『お前達は!!』の声を聞き!!」 「光の速さでやって来た!!」 「風よ!!」 「大地よ!!」 「大空よ!!」 「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」 「誰もが震える魅惑の響き!!」 「ムサシ!!」 「コジロウ!!」 「ニャースでニャース!!」 「時代の主役はあたし達!!」 「我ら無敵の!!」 「ロケット団!!」 「ソーナンス!!」 「マネネ!!」 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。またピカチュウを狙って……! 「ロケット団!!」 あたし達は声を揃えた。 「そんな訳で、今日こそピカチュウゲットなのニャ!!」 気球の中で、ニャースが高らかに叫んだ。 「な、何なんですかあの人達は……」 ユラが怯えた表情を見せた。 「ポケモンを盗んで悪い事をしようとしてる奴らさ!!」 サトシが答えた。ここまでは普通だったけど…… 「でも心配無用さ! あいつらにはいつも勝ってるんだ。ロケット団なんて俺の敵じゃないさ!」 ユラの前なのか、サトシはいつもは言わない余裕の言葉をユラにかけた。 「サトシったら、こんな時にまで調子に乗っちゃって、ダイジョウブなの……?」 あたしは見てて呆れちゃった。 「何ですってぇ!?」 「俺達ロケット団をなめると痛い目に遭うぞ!!」 それを聞いたムサシとコジロウが怒った。そりゃ当然か。 「こうなったら!! 行くのよメガヤンマッ!!」 「マスキッパ、お前も行けっ!!」 ムサシとコジロウは怒りに任せてモンスターボールを投げた。飛び出すメガヤンマとマスキッパ。でも、マスキッパはやっぱり…… 「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。 「グライオン、君に決めたっ!!」 サトシもモンスターボールを投げる。出てきたのはグライオン。 「サトシ、いくらファンの前だからって調子に乗るなよ!!」 「わかってるさ! いつものようにやればいいんだよ!!」 タケシの忠告も、サトシはちゃんと聞いていない。ダイジョウブ、なのかな……? 「グライオン、ピカチュウを助けるんだ!!」 「グライオンッ!!」 グライオンはサトシの指示に答えて、尻尾を使って勢いよく空へ舞い上がった。そのままマジックハンドに捕まったピカチュウに向かっていく。 「させるもんですか!! メガヤンマ、“ソニックブーム”!!」 「マスキッパ、“タネマシンガン”!!」 向こうも黙っていない。グライオンを止めようとメガヤンマとマスキッパが立ち塞がって、一斉に攻撃してくる! 「かわせ!!」 でも、グライオンはサトシの指示で“ソニックブーム”と“タネマシンガン”を簡単にかわしてみせた。 「ポッチャマ、グライオンを援護して! “バブルこうせん”!!」 「ポッチャマアアアアッ!!」 あたしも黙っていられない! ポッチャマは、グライオンを攻撃するメガヤンマとマスキッパに向けて“バブルこうせん”を発射! 命中! 2匹は弾き飛ばされて、グライオンの道が開いた。 「今だグライオン!! “シザークロス”でピカチュウを助けるんだ!!」 「グラァァァァイオンッ!!」 その隙に、グライオンはマジックハンドに近づいて、両手のハサミを振り下ろしてマジックハンドを切り裂いた! 自由の身になるピカチュウ。「ああっ!!」とロケット団の声を揃えた叫び声が聞こえた。 「ピカチュウ!!」 サトシは、落ちてきたピカチュウをしっかりと受け止めた。 「凄い……私も……あの人みたいになりたい……!」 それを見ていたユラは、そんな事をつぶやいていた。 「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」 「ピィィィィカァァァァ……ッ!!」 そして、ピカチュウの自慢の電撃。これで、いつものように勝負がつく、って一瞬思った。その時! 突然どこからか、一筋の炎がピカチュウに向かって飛んできた! 「ピカアアアアアッ!!」 完全な不意討ち。炎をもろに受けたピカチュウは、電撃を撃つ事ができなかった。 「ピカチュウ!?」 「何、今の!?」 あたし達は一瞬、何が起きたのかわからなかった。ロケット団の手持ちには、ほのおタイプのポケモンはいなかったはず。じゃあ何!? そう思っていると、今度はさっきのとは別のマジックハンドが飛び出してきて、ダメージを受けたピカチュウを鷲掴みにした! 「ピカチュウ!!」 サトシの声もむなしく、また持ち去られるピカチュウ。マジックハンドが縮んで行く先には、見た事のない男の人が空中バイクに乗って立っていた。見た感じの服装はロケット団と同じで、胸に大きく『R』の文字が書いているのも同じ。でも、服の色は白じゃなくて藍色。そして、黒いマントをつけている。そして、ピカチュウを捕らえたマジックハンドは、男の人の右腕についている。空中バイクの下には、大きな4つ足の凛々しいポケモンがこっちをにらんでいる。この人は一体……!? 「……このピカチュウはいただいていく!」 男の人の右腕でもがくピカチュウをよそに、男の人はニヤリと笑いながら言った。 「誰だお前は!!」 サトシが叫んだ。 「俺はロケット団『チーム・ブラッド』のパラトシン。全てのポケモントレーナー、コーディネーターを消す男だ……!」 そう言う男の人の表情を見て、あたしは何かプレッシャーのようなものを感じた。全てのポケモントレーナー、コーディネーターを消す男……この人、ロケット団みたいだけど、何だか違う……! 「ピカチュウを返して!!」 「返せ……? そんな事を言って素直に返す輩がいると思うか?」 あたしの言葉も聞かないで、パラドシンっていうらしいロケット団は、マジックハンドでつかんだピカチュウを、空中バイクの下にぶら下げていた大きな檻に投げ入れた。 「やれ、ウインディ!! “りゅうのはどう”!!」 パラドシンの指示で、空中バイクの下にいたポケモンが動いた。そのポケモン、でんせつポケモン・ウインディは、こっちに向けて青い光弾を連射してきた! 「きゃあああああっ!!」 「ポチャアアッ!!」 「グラアアアッ!!」 “りゅうのはどう”はグライオンやポッチャマだけじゃなくて、あたし達も巻き込んだ! あたしやサトシの体にも直撃! 爆発で弾き飛ばされるあたし達。 「ヒカリ、大丈夫か……?」 「う、うん……」 転んだ痛さをこらえて立ち上がるあたし。でも、かなり痛い……それにしても、何なのあの攻撃!? 明らかに流れ弾じゃない。ポケモンだけを狙っているとは思えない。意図的にあたし達も狙っていたとしか見えない。 「マサラタウンのサトシ、3回のポケモンリーグで好成績を残したトレーナーだそうだな……そしてフタバタウンのヒカリ……元トップコーディネーターを親に持つコーディネーター……」 いきなりそんな事を話し出すパラドシン。あたし達の事を知ってる!? 「どうして俺達の事を……!?」 「お前達のようなトレーナーやコーディネーターがいるから、我々の行動に支障が出る……全てのポケモントレーナー、コーディネーターは危険な存在だ……ポケモンだけでなく、お前達の命もいただいていく!!」 「!!」 こっちを指差したパラドシンの言葉。それを聞いて、あたしの背筋が凍りついた。この人は、ポケモンを奪うだけじゃなくて、あたし達を殺そうとしている……! 全てのポケモントレーナー、コーディネーターを消す男。その意味がやっとわかった。 「そんな事されてたまるか!! グライオン!!」 「グライオンッ!!」 サトシは強気に言い返した。それに答えて、グライオンも身構える。 「あたしだってっ!!」 「ポチャマッ!!」 そういうのはあたしも同じ! ポッチャマも、グライオンと一緒に身構えた。 「刃向うか……ならば教えてやろう! ロケット団に刃向うという行為の愚かさを!! ウインディ!!」 パラドシンの指示で、ウインディが飛び出した! 「グライオン、“はがねのつばさ”!!」 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 「グラァァァァイオンッ!!」 「ポッチャマアアアアッ!!」 グライオンは“はがねのつばさ”でウインディに突っ込んで、ポッチャマはそれを“バブルこうせん”で援護! 「“しんそく”!!」 でも、ウインディは信じられないほど速いスピードで2匹の攻撃を簡単にかわした! 「ポチャアアアアッ!!」 ポッチャマの悲鳴が聞こえた。見ると、ウインディがもうポッチャマの横に回り込んでいて、すさまじい体当たりをお見舞いしていた! 「ポッチャマ!?」 「グラアアアアイッ!!」 そう思ったら、今度はグライオンの悲鳴が。ウインディがもうグライオンに体当たりしている!? なんてスピードなの!? 「グライオン!!」 「そんな……速過ぎる……!!」 あたしは、ウインディの底知れない強さを感じ取った。あのスピード、ピカチュウも歯が立たないんじゃないかな……? 「マーちゃん、2人を援護して!! “ヘドロばくだん”!!」 「グレッグル、“どくばり”だ!!」 すると、ユラとタケシも動いた。ユラのマルノーム、マーちゃんとタケシが繰り出したグレッグルが、ウインディに攻撃を仕掛けた! でも、ウインディは“ヘドロばくだん”も“どくばり”も簡単にかわした。 「邪魔をするな!! スピアー、“ぎんいろのかぜ”!!」 それに気付いたパラドシンは、すぐにモンスターボールをユラとタケシの方向に投げた。出てきたのは、どくばちポケモン・スピアー。スピアーは、羽を羽ばたかせて“ぎんいろのかぜ”をユラとタケシ達に吹き付けた! 「うわああああっ!!」 吹き付ける“ぎんいろのかぜ”でユラとタケシ達は身動きが取れない。 「みんな!!」 あたしがその状況に目を奪われた時、パラドシンのマジックハンドがグライオンに伸びた! 「グラアアアアイッ!!」 グライオンはたちまちマジックハンドに捕まっちゃった! 持ち去られたグライオンは、そのままピカチュウの入った檻に投げ入れられた。 「グライオン!!」 サトシが叫ぶ。 「ウインディ、“はかいこうせん”!!」 すぐにパラドシンが指示した。すると、ウインディは口から強烈な“はかいこうせん”を発射! まっすぐこっちに向かってくる! グライオンに気を取られて、気付くのが遅れちゃった! 次の瞬間――
「きゃあああああああっ!!」 あたしとサトシは強烈な爆発に飲み込まれた。吹っ飛ばされて体が空に飛んでいく。まるで、いつもやられるロケット団そのものになったように。そのまま、あたしの意識も体と同じように吹っ飛んでいった……
TO BE CONTINUED……
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