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[606] ヒカリストーリー STORY18 2人ぼっちの戦い(第1部)
フリッカー - 2008年07月29日 (火) 17時49分

 今回からヒカストも夏のスペシャルに突入!
 アニメ86話『ヨスガコレクション! ポケモンスタイリストへの道!』と87話『コダックの通せんぼ!』の間には、ゲーム通りのルートを通り、コダックのイベントがゲーム通りの場所で起きていたと仮定すると、以前は10話かけて通っていた所を1話で通っている事になり、『空白の期間』が存在する事になります。
 今回はその『空白の期間』に起こった事件を描きます!

・ゲストキャラクター
パラトシン イメージCV:大塚明夫
 ヤンヤンマが送られてきた事がきっかけで、ロケット団ボス、サカキの命令でムサシ達の様子を見に来たロケット団員『チーム・ブラッド』。トップクラスの実力を持った「本物のロケット団」であり、最強のロケット団員とも噂される。
 過去の経験からポケモントレーナーやコーディネーターを憎み、全てのポケモントレーナーやコーディネーターからポケモンを奪い取れば無力になると考え、全てのポケモントレーナーやコーディネーターからポケモンを奪い去ろうとしている。ムサシ達に同情し、サトシやヒカリからポケモンを奪い取ろうとする。
 性格は残酷で冷静。計画が上手く行かない時は短気になり、さらに残忍になる。ポケモンを奪うためなら手段を選ばず、時には人を殺すような非道な手段に手を染める事もためらわないため、同じ団員からも恐れられている。バトルの方でもかなり残忍であり、戦闘不能になったポケモンをも攻撃する。
 手持ちポケモンはウインディとスピアー。

フィオナ イメージCV:坂本真綾
 最強のロケット団員とも噂されるロケット団員『チーム・ブラッド』でのパラドシンの相方。
 パラドシンよりも若く、一見するとごく普通の少女だが、その実力は高く、パラドシンに劣らず残忍。メカの制作も得意。しかし負けず嫌いな性格で、感情に任せた行動が多く、パラドシンに止められる事が多い。パラドシンとは逆にムサシ達を見下しており、快く思っていない。
 ポケモンバトルでは、手持ちポケモンのアーボックとクロバットで、毒を使ってじわじわと相手を苦しめる戦法を好む。

ユラ イメージCV:かないみか
 カントー地方のバトルフロンティアで無敵の強さを誇っていたトレーナーの一番弟子。ポケモンコンテストの方にも結構参加していた。彼女はバトルフロンティアで活躍をしていたが、他の地方も見てみたいという事で、ホウエンからシンオウへと旅だった。サトシのファンであり、ヒカリを目標としている。
 ちょっと臆病で弱気な一面もあるが、根は勇敢な性格。ピンチの時には諦めモードになる時もあるが、すぐに立ち直る。
 手持ちポケモンはマーちゃんという名のマルノーム、フーちゃんという名のフライゴン。

[607] SECTION01 襲撃! チーム・ブラッド!
フリッカー - 2008年07月29日 (火) 17時50分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。


SECTION01 襲撃! チーム・ブラッド!


 ここはとある森の中。
 そこに、空を見上げるあの2人と1匹――ロケット団の姿があった。2人と1匹の見上げる先には、音を立てて降りてくる、宇宙船のような赤い空飛ぶメカが。地面に降り立ったメカから、2人組の男女が降りてきた。
「お前達だな、ヤンヤンマをサカキ様に届けたのは」
 男の人が言った。
「いかにもその通りです〜」
 ムサシがゴマをするように、笑みを浮かべて手もみしながら言った。
「我々に譲ってくださったヤンヤンマは、メガヤンマに進化して大事に大事にしております〜」
「ボスに『我々への御配慮ありがとうございます』と伝えておいてくださいニャ〜」
 コジロウとニャースも同じように笑みを浮かべて手もみしながら言った。それを見た男の人は少し間をおいて、「……まあ、伝えておこう」と答えた。
 そして、今度は男の人が質問した。
「それで、今はどんな活動をしている?」

「……そうか。この集団が連れているピカチュウを追ってここまで来たと?」
「はい〜。なかなか手強くて今はまだゲットできていませんが、必ずゲットして、シンオウ征服を見せますので〜」
 男の人の質問に、相変わらず手もみしながら答えるムサシ。男の人の手には、旅をするあたし達が写った1枚の写真が。全員は、焚き火を囲んだ状態で話をしていた。
「……そんなんでシンオウ征服だなんて、できっこないよ」
 すると、男の人の後ろで木に背中をもたれかけていた女の人が口を開いた。その言葉を聞いたムサシの表情が変わる。
「たった1匹の普通のポケモンくらいに手こずってて『シンオウ征服だ〜!』なんて、どんなバカが考えても不可能だってわかるよ」
 女の人はそう言った後、クククと笑った。
「な、何よアンタ!! いくらエリートだからって、調子に乗るんじゃないわよ!!」
「ま、まあムサシ、落ち着いて!!」
 怒り出して前に出ようとするムサシを、コジロウとニャースが抑え込む。
「だいたい、敵対する奴に情けなんかかけてどうするのさ? 敵に情けなんて無用なんだよ? そんなんでよくやっていけたわねぇ? 生ぬるい奴」
 さらに女の人はニヤリと笑って追い打ちをかける。
「何ですってえ〜っ!!」
「や、止めるんだムサシ!!」
「相手は『チーム・ブラッド』なのニャ!! ここはこらえるのニャ!!」
 怒りが爆発したムサシを、必死で抑え込むコジロウとニャース。
「……わかった。俺が手を貸してやろう」
 すると、男の人は冷静にそんな事を言った。「えっ!?」と驚いて声を上げる2人と1匹。
「ちょっとパラドシン!! こんな奴らなんかに協力してどうすんのよ!?」
「フィオナにはわからんさ。ポケモントレーナーとコーディネーター達に仕事を妨害される者の気持ちなんてな……」
 反論する女の人に、男の人は諭すようにそう言った。女の人は、それに納得がいかないのか、唇を噛んでいた。
「奴らに思い知らせる必要があるな……ロケット団の『本気さ』というものを……」
 男の人は、力任せに写真を握りつぶした。そして力任せに焚火に投げ捨てた。写真は、そのまま焚き火に焼かれていった。

 あたし達は、まだ知らない。今まで見た事もない最悪の敵が動き出そうとしていた事には……

 * * *

 ヨスガシティに到着したあたし達だけど、ジムはまだ空いていなかった。
 その代わり、あたしは『ヨスガコレクション』に挑戦する事になった。ポケモンにおしゃれをする『ポケモンスタイリスト』は、ポケモンコーディネーターの1つの形。それの1番を競う大会。最初は初めての事だから戸惑ったけど、基本はポケモンコンテストと一緒だって気付いて、おしゃれも演技もがんばった。そうしたら、見事優勝! 優勝者は雑誌のグラビアに載せてもらえるんだけど、あたしはやっぱりトップコーディネーターになりたいから、旅を続ける。この事は、とってもいい経験になったなあ。
 次のコンテストが開かれる場所は、カンナギタウン。そこに向かって、あたし達の旅は続く……

 * * *

 ヨスガシティからズイタウンへ繋がる道。カンナギタウンへ向かうためには、一旦ズイタウンを経由しなきゃならない。だから、あたし達はまたこの道を通る事になった。
 この道でも、いろんな事があったなあ。ミライさんと出会ったり、エイパムとブイゼルを交換したり。今思えばここは、あたしの『イバラの道』が始まった場所でもあったなあ。でも、今のあたしはもう、あの時のあたしじゃない! カンナギタウンのコンテストに向けて、しっかりがんばっていかないとね!
 そんな訳で、あたしは休憩を取ってる間、ポフィンの材料にするための、木の実集めをしていた。
「うん、これもよさそう」
 手に取ったオボンの身を見てあたしはつぶやいた。そして、手に持っているかごに入れた。ポッチャマも、手頃な木の実を見つけると“バブルこうせん”で落して、こっちに持ってきてくれる。かごは結構木の実でいっぱいになった。
「あれ? 何だろう、あの木の実?」
 そんな時、あたしは見慣れない木の実を見つけた。大きさが結構ある、茶色のドングリのような木の実。それが、高い木にいっぱいぶら下がっていた。手を伸ばして取りたい所だけど、高くて手が届かなさそう。
「取ってみよっか。ポッチャマ、お願い」
「ポチャ」
 ここはポッチャマに頼んで落としてもらおう。ポッチャマはうなずいて、大きな木の実に向かって“バブルこうせん”を発射。見事命中して、大きな木の実は次々と木の下に落ちた。早速拾おうと近づくあたし。でも手を伸ばしたその時、木の実が突然、動いたと思ったら、ギョロリと顔をこっちに向けた!
「うわあっ!! 木の実に顔がある!?」
 びっくりしたあたしは、ポッチャマと一緒に、腰を抜かしちゃった。顔がついた木の実(?)は怒った様子でこっちに攻撃してきた! 一斉にこっちに弾のようなものを連続発射してきた!
「きゃああっ!!」
 あたしとポッチャマは慌ててよける。今のは“タネマシンガン”!?
「何あれ!? ポケモンなの!?」
 そう思ったあたしは、すぐにポケモン図鑑を取り出した。
「タネボー、どんぐりポケモン。枝にぶら下がっていると木の実にそっくり。ついばもうとしたポケモンを驚かせて喜ぶ」
 図鑑の音声が流れた。やっぱりポケモンだった。あたしはようやく状況が理解できた。木の実だと思っていたのはポケモン。“バブルこうせん”を撃ったせいで怒らせちゃったみたい! そんな木の実、いやタネボー達は、またこっちに襲いかかってきた!
「ご、ごめんなさああああい!!」
 あたしはポッチャマと一緒にすぐに逃げ出した。それでもタネボー達は追いかけてきて、こっちに“タネマシンガン”で攻撃してくる! 何だか、謝っても許してくれなさそう……そう思っていたら、あたしの足に何かが引っ掛かった!
「あっ!!」
 そのままつまづいて転んじゃった! 木の実を入れたかごが投げ飛ばされて、せっかく集めた木の実がこぼれちゃった。足元を見ると、あたしの足に引っ掛かっていたのは結んである草。これって“くさむすび”!? そうしている間に、タネボー達が襲いかかってきた! 逃げる事も許してくれないなんて、相当キレてるみたい……!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 慌てて指示を出すあたし。それに答えて、ポッチャマは“バブルこうせん”でタネボーを迎え撃つ! でも、タネボー達はそれを生身で受け止めた。そう思ったら、タネボー達は受け止めた“バブルこうせん”を力に変えて跳ね返した!
「ポチャアアアアッ!!」
 跳ね返されたパワーに、弾き飛ばされるポッチャマ。タネボーが使ったのは、あたしにとっても見慣れたわざ、“がまん”だった!
「ああっ、ポッチャマ!!」
 あたしがポッチャマを心配するまでもなく、1匹のタネボーはポッチャマの体に帽子のでっぱりを突き立てた。すると、そのままポッチャマからパワーを吸い取り始めた!
「ポチャアアアアッ!!」
 悲鳴を上げるポッチャマ。あれって“ギガドレイン”!? だとしたら、ポッチャマには効果抜群……! そう思ってたら、残ったタネボーがあたしにも帽子の出っ張りを向けて飛びかかってきた! まさか、あたしにも“ギガドレイン”するつもりなの!? 逃げようとしたけど、体がすくんで動けない!
 すると、一筋の電撃が、あたしの前に飛んできた。あたしに飛びかかろうとしてたタネボー達に直撃! 効果はいまひとつだけど、タネボー達を弾き飛ばすのには充分だった。
「!?」
 何が起こったの、って思った時、そこに黄色い体のポケモンが飛び出してきた。間違いなくピカチュウ! ピカチュウが向かう先には、“ギガドレイン”を受けているポッチャマが。
「チュウウウウウッ、ピッカアッ!!」
 ピカチュウは“アイアンテール”でポッチャマに食いついたタネボーを弾き飛ばした! その一撃に懲りたのか、タネボー達は一目散に逃げ出して行った。戦いは一瞬で決着がついた。
「ヒカリーッ!」
 その時、聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはこっちに走ってくるサトシが。
「サトシ」
「大丈夫か?」
 サトシは、あたしに右手を差し出した。
「うん、何とかね」
 あたしはサトシの右手を取って、立ち上がった。ポッチャマも、ピカチュウにお礼を言っていた。
「どうしたんだ一体? 『木の実が何とか』って声が聞こえたから急いで来たんだけど……」
「木の実だって思って拾ったらそれがポケモンで、すっごくびっくりしちゃって、怒らせちゃったの」
「それが、さっきのタネボーだったって事か?」
 サトシの質問に、あたしは「うん」とうなずいた。
「ごめんねサトシ、こんな時に助けられちゃって……ホントはあたしがしっかりしなきゃいけないのに……」
「いいんだよ、気にすんなって。それより、そのかご……」
 謝るあたしにそう答えて、下を指差すサトシ。見るとそこには、木の実を入れていたかごが転がっていた。その周りには、今まで集めた木の実が、かごからこぼれて散らばっている。
「あっ、いけない!! 木の実が!!」
 あたしは慌てて、散らばった木の実を拾いにかかった。
「俺も手伝うよ」
 それを見たサトシも、一緒に拾うのを手伝ってくれた。あたしは「ごめん」って謝りながら、やっぱりサトシって、リーダー格って感じじゃないけど、いると心強いなあ、って感じずにはいられなかった。

 * * *

 木の実を拾って、2人で休憩場所に戻ってきた時、タケシがやってきた。
「おいサトシ」
「何だ?」
「お前に会いたいって言ってる人が来てるんだが……」
「えっ!?」
 タケシの言葉に、あたし達は驚いた。サトシに会いたいって人が来るなんて、初めての事だもんね。
「あ、あの……サトシさん……」
 そこに、1人の女の子が顔を出した。黒いサラサラのロングヘアーで、白い半そでの服に赤いミニスカート。首からはペンダントをぶら下げていて、両腕にはピンクのリストバンドが付いている。この子がサトシに会いたいって人?
「君、なのか? 俺に会いたいっていうのは」
「はい。あ……あの……私、ユラって言います」
 女の子は緊張しているのか、途切れ途切れにだけど自己紹介した。その後、ユラって女の子は、思い切ってこんな事を言った。
「私……サトシさんのファンなんです!」
「ええっ!?」
 ユラの思い切った言葉に、あたし達はそろって驚いちゃった。
「ほ、本当なのか!?」
 サトシが念のために聞いてみる。
「はい……ポケモンリーグで活躍は何度も見ています……! ずっと、憧れていました……! 私の先生は、バトルフロンティアで活躍してるんですけど、先生からもサトシさんの事を聞いています……!」
 ユラは少し恥ずかしがっている様子だったけど、その目は輝いていた。まるで、あたしに初めて会った時のハルナのように。
「そ、そうだったのかあ〜。ちょっと照れるなあ〜」
 それを聞いたサトシは、照れ笑いをして頭をかきながら答えた。
「サ、サトシさん! そ、その……私と勝負してください!」
「もちろんさ! ユラのようなファンの挑戦だったら、喜んで引き受けるさ!」
 ユラのお願いを聞いたサトシは、胸を張って得意気に答えた。
「よ〜し、早速やるぞピカチュウ!!」
「ピッカチュ!!」
 サトシは張り切ってる様子。でも何かサトシ、調子に乗っちゃってる……
「それに……あなたはヒカリさんですよね……?」
 すると、ユラの顔があたしに向いた。
「えっ? あたしの事も知ってるの?」
「私、ポケモンコンテストにも出ているんです……あの元トップコーディネーターのアヤコさんの子だって聞いて、ヒカリさんをコンテストの目標にしてるんです……あなたにも会えて光栄です……!」
 ユラは恥ずかしがる様子であたしに言った。
「あ、それはありがとう……」
 あたしもちょっぴり照れて、答えた。

 ポケモンバトルに最適な開けた場所で、離れて向かい合うサトシとユラ。いつものように、審判はタケシがやる。
「ピカチュウ、相手は俺達のファンなんだ。バトルでもカッコいい所を見せてやらないとな!!」
「ピッカチュ!!」
 相変わらず張り切ってるサトシ。サトシの顔が、ユラに向く。
「ユラ、俺は相手がファンだからって手加減はしないぜ!!」
「はい!! お願いします!!」
「そうさ!! そう来なくっちゃな!!」
 ユラの返事を聞いて、まるで余裕ぶりを見せているかのように、胸を張って答えるサトシ。
「サトシ、やっぱり調子に乗ってる……ダイジョウブなのかな……?」
 バトルを観戦する事になったあたしは、思った事をそのまま口に出してみる。ファンがいて嬉しいのはわかるけど、そんな事してたら、高くした鼻折られちゃうかもしれないよ……
「ピカチュウ、君に決めたっ!!」
「ピッカ!!」
 サトシはいつも以上に力を入れて、いつもの言葉を叫んだ。それに答えて、ピカチュウが力強く前に出る。
「私も行きます!! マーちゃん!!」
 ユラもモンスターボールを取り出して、思い切り投げた。出てきたのは、紫色の見た感じプニプニした感じの体を持つ、愛嬌のある顔をした結構大きいポケモン。
「あのポケモンは……」
 あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「マルノーム、どくぶくろポケモン。何でも丸呑みしてしまう。毛穴から猛毒の体液を分泌して敵に浴びせかける」
 図鑑の説明が流れた。
「マルノームか……相手にとって不足はないぜ!! 先手はユラからでいいぜ!!」
 サトシはまた余裕そうに叫んだ。やっぱり調子に乗ってる……
「はい!! マーちゃん……」
 ユラがそれに答えて指示を出そうとした時だった。
 突然、空からマジックハンドが伸びてきて、ピカチュウを鷲掴みにした! そのまま持ち去られるピカチュウ。
「あっ!?」
 あたし達は、驚いてマジックハンドが伸びる先を見た。そこには見慣れたニャースの頭を象った気球が浮いていた!
「わーっはっはっは!!」
 いつもの高らかな笑い声が聞こえてきた。まさか……
「お前達は!!」
 タケシが叫んだ。
「『お前達は!!』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役はあたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。またピカチュウを狙って……!
「ロケット団!!」
 あたし達は声を揃えた。
「そんな訳で、今日こそピカチュウゲットなのニャ!!」
 気球の中で、ニャースが高らかに叫んだ。
「な、何なんですかあの人達は……」
 ユラが怯えた表情を見せた。
「ポケモンを盗んで悪い事をしようとしてる奴らさ!!」
 サトシが答えた。ここまでは普通だったけど……
「でも心配無用さ! あいつらにはいつも勝ってるんだ。ロケット団なんて俺の敵じゃないさ!」
 ユラの前なのか、サトシはいつもは言わない余裕の言葉をユラにかけた。
「サトシったら、こんな時にまで調子に乗っちゃって、ダイジョウブなの……?」
 あたしは見てて呆れちゃった。
「何ですってぇ!?」
「俺達ロケット団をなめると痛い目に遭うぞ!!」
 それを聞いたムサシとコジロウが怒った。そりゃ当然か。
「こうなったら!! 行くのよメガヤンマッ!!」
「マスキッパ、お前も行けっ!!」
 ムサシとコジロウは怒りに任せてモンスターボールを投げた。飛び出すメガヤンマとマスキッパ。でも、マスキッパはやっぱり……
「いて〜っ!! だから俺じゃないっての!!」
 コジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。
「グライオン、君に決めたっ!!」
 サトシもモンスターボールを投げる。出てきたのはグライオン。
「サトシ、いくらファンの前だからって調子に乗るなよ!!」
「わかってるさ! いつものようにやればいいんだよ!!」
 タケシの忠告も、サトシはちゃんと聞いていない。ダイジョウブ、なのかな……?
「グライオン、ピカチュウを助けるんだ!!」
「グライオンッ!!」
 グライオンはサトシの指示に答えて、尻尾を使って勢いよく空へ舞い上がった。そのままマジックハンドに捕まったピカチュウに向かっていく。
「させるもんですか!! メガヤンマ、“ソニックブーム”!!」
「マスキッパ、“タネマシンガン”!!」
 向こうも黙っていない。グライオンを止めようとメガヤンマとマスキッパが立ち塞がって、一斉に攻撃してくる!
「かわせ!!」
 でも、グライオンはサトシの指示で“ソニックブーム”と“タネマシンガン”を簡単にかわしてみせた。
「ポッチャマ、グライオンを援護して! “バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 あたしも黙っていられない! ポッチャマは、グライオンを攻撃するメガヤンマとマスキッパに向けて“バブルこうせん”を発射! 命中! 2匹は弾き飛ばされて、グライオンの道が開いた。
「今だグライオン!! “シザークロス”でピカチュウを助けるんだ!!」
「グラァァァァイオンッ!!」
 その隙に、グライオンはマジックハンドに近づいて、両手のハサミを振り下ろしてマジックハンドを切り裂いた! 自由の身になるピカチュウ。「ああっ!!」とロケット団の声を揃えた叫び声が聞こえた。
「ピカチュウ!!」
 サトシは、落ちてきたピカチュウをしっかりと受け止めた。
「凄い……私も……あの人みたいになりたい……!」
 それを見ていたユラは、そんな事をつぶやいていた。
「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ピィィィィカァァァァ……ッ!!」
 そして、ピカチュウの自慢の電撃。これで、いつものように勝負がつく、って一瞬思った。その時!
 突然どこからか、一筋の炎がピカチュウに向かって飛んできた!
「ピカアアアアアッ!!」
 完全な不意討ち。炎をもろに受けたピカチュウは、電撃を撃つ事ができなかった。
「ピカチュウ!?」
「何、今の!?」
 あたし達は一瞬、何が起きたのかわからなかった。ロケット団の手持ちには、ほのおタイプのポケモンはいなかったはず。じゃあ何!? そう思っていると、今度はさっきのとは別のマジックハンドが飛び出してきて、ダメージを受けたピカチュウを鷲掴みにした!
「ピカチュウ!!」
 サトシの声もむなしく、また持ち去られるピカチュウ。マジックハンドが縮んで行く先には、見た事のない男の人が空中バイクに乗って立っていた。見た感じの服装はロケット団と同じで、胸に大きく『R』の文字が書いているのも同じ。でも、服の色は白じゃなくて藍色。そして、黒いマントをつけている。そして、ピカチュウを捕らえたマジックハンドは、男の人の右腕についている。空中バイクの下には、大きな4つ足の凛々しいポケモンがこっちをにらんでいる。この人は一体……!?
「……このピカチュウはいただいていく!」
 男の人の右腕でもがくピカチュウをよそに、男の人はニヤリと笑いながら言った。
「誰だお前は!!」
 サトシが叫んだ。
「俺はロケット団『チーム・ブラッド』のパラトシン。全てのポケモントレーナー、コーディネーターを消す男だ……!」
 そう言う男の人の表情を見て、あたしは何かプレッシャーのようなものを感じた。全てのポケモントレーナー、コーディネーターを消す男……この人、ロケット団みたいだけど、何だか違う……!
「ピカチュウを返して!!」
「返せ……? そんな事を言って素直に返す輩がいると思うか?」
 あたしの言葉も聞かないで、パラドシンっていうらしいロケット団は、マジックハンドでつかんだピカチュウを、空中バイクの下にぶら下げていた大きな檻に投げ入れた。
「やれ、ウインディ!! “りゅうのはどう”!!」
 パラドシンの指示で、空中バイクの下にいたポケモンが動いた。そのポケモン、でんせつポケモン・ウインディは、こっちに向けて青い光弾を連射してきた!
「きゃあああああっ!!」
「ポチャアアッ!!」
「グラアアアッ!!」
 “りゅうのはどう”はグライオンやポッチャマだけじゃなくて、あたし達も巻き込んだ! あたしやサトシの体にも直撃! 爆発で弾き飛ばされるあたし達。
「ヒカリ、大丈夫か……?」
「う、うん……」
 転んだ痛さをこらえて立ち上がるあたし。でも、かなり痛い……それにしても、何なのあの攻撃!? 明らかに流れ弾じゃない。ポケモンだけを狙っているとは思えない。意図的にあたし達も狙っていたとしか見えない。
「マサラタウンのサトシ、3回のポケモンリーグで好成績を残したトレーナーだそうだな……そしてフタバタウンのヒカリ……元トップコーディネーターを親に持つコーディネーター……」
 いきなりそんな事を話し出すパラドシン。あたし達の事を知ってる!?
「どうして俺達の事を……!?」
「お前達のようなトレーナーやコーディネーターがいるから、我々の行動に支障が出る……全てのポケモントレーナー、コーディネーターは危険な存在だ……ポケモンだけでなく、お前達の命もいただいていく!!」
「!!」
 こっちを指差したパラドシンの言葉。それを聞いて、あたしの背筋が凍りついた。この人は、ポケモンを奪うだけじゃなくて、あたし達を殺そうとしている……! 全てのポケモントレーナー、コーディネーターを消す男。その意味がやっとわかった。
「そんな事されてたまるか!! グライオン!!」
「グライオンッ!!」
 サトシは強気に言い返した。それに答えて、グライオンも身構える。
「あたしだってっ!!」
「ポチャマッ!!」
 そういうのはあたしも同じ! ポッチャマも、グライオンと一緒に身構えた。
「刃向うか……ならば教えてやろう! ロケット団に刃向うという行為の愚かさを!! ウインディ!!」
 パラドシンの指示で、ウインディが飛び出した!
「グライオン、“はがねのつばさ”!!」
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「グラァァァァイオンッ!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 グライオンは“はがねのつばさ”でウインディに突っ込んで、ポッチャマはそれを“バブルこうせん”で援護!
「“しんそく”!!」
 でも、ウインディは信じられないほど速いスピードで2匹の攻撃を簡単にかわした!
「ポチャアアアアッ!!」
 ポッチャマの悲鳴が聞こえた。見ると、ウインディがもうポッチャマの横に回り込んでいて、すさまじい体当たりをお見舞いしていた!
「ポッチャマ!?」
「グラアアアアイッ!!」
 そう思ったら、今度はグライオンの悲鳴が。ウインディがもうグライオンに体当たりしている!? なんてスピードなの!?
「グライオン!!」
「そんな……速過ぎる……!!」
 あたしは、ウインディの底知れない強さを感じ取った。あのスピード、ピカチュウも歯が立たないんじゃないかな……?
「マーちゃん、2人を援護して!! “ヘドロばくだん”!!」
「グレッグル、“どくばり”だ!!」
 すると、ユラとタケシも動いた。ユラのマルノーム、マーちゃんとタケシが繰り出したグレッグルが、ウインディに攻撃を仕掛けた! でも、ウインディは“ヘドロばくだん”も“どくばり”も簡単にかわした。
「邪魔をするな!! スピアー、“ぎんいろのかぜ”!!」
 それに気付いたパラドシンは、すぐにモンスターボールをユラとタケシの方向に投げた。出てきたのは、どくばちポケモン・スピアー。スピアーは、羽を羽ばたかせて“ぎんいろのかぜ”をユラとタケシ達に吹き付けた!
「うわああああっ!!」
 吹き付ける“ぎんいろのかぜ”でユラとタケシ達は身動きが取れない。
「みんな!!」
 あたしがその状況に目を奪われた時、パラドシンのマジックハンドがグライオンに伸びた!
「グラアアアアイッ!!」
 グライオンはたちまちマジックハンドに捕まっちゃった! 持ち去られたグライオンは、そのままピカチュウの入った檻に投げ入れられた。
「グライオン!!」
 サトシが叫ぶ。
「ウインディ、“はかいこうせん”!!」
 すぐにパラドシンが指示した。すると、ウインディは口から強烈な“はかいこうせん”を発射! まっすぐこっちに向かってくる! グライオンに気を取られて、気付くのが遅れちゃった! 次の瞬間――

「きゃあああああああっ!!」
 あたしとサトシは強烈な爆発に飲み込まれた。吹っ飛ばされて体が空に飛んでいく。まるで、いつもやられるロケット団そのものになったように。そのまま、あたしの意識も体と同じように吹っ飛んでいった……


TO BE CONTINUED……

[620] SECTION02 脱出不能!? 迷いの樹海!
フリッカー - 2008年08月04日 (月) 16時47分

「ヒカリ! ヒカリ!」
「う……」
 誰かの声で、あたしは目を覚ました。まず視界に入ったのは、地面の土。うつぶせになっていた体をゆっくりと起こすと、サトシの顔が視界に入った。
「サトシ……」
「よかった……!」
「ポチャ!」
 ほっとした表情を浮かべるサトシ。ポッチャマもいる。
「あたし達……どうなっちゃったの? ここはどこ?」
「わかんない……俺達、何だか飛ばされちゃったみたいなんだ」
 あたしはあたりを見回してみる。
 そこは、森の中。でも、今まで通った事のある森とは似ても似つかない森だった。大きく伸びる木は空を完全に覆っていて、太陽が見えない。そんな木が、森の奥まで広がっている。だから、全体的に暗い。ただ、ほんの少しだけ明かりが差し込んでいて、少なくとも今はまだ昼間だという事がわかる。何だか不気味な雰囲気が漂う森。ひょっとして、ここって……
「ここって……もしかして『迷いの樹海』!?」
 あたしは、思わず声を上げた。そして、背中に寒気が走った。


SECTION02 脱出不能!? 迷いの樹海!


「何だ、『迷いの樹海』って……?」
 サトシが聞いた。
「一度入ったら、二度と出る事ができないって森よ……!!」
「ええっ!?」
 サトシは驚きの声を上げた。
「確か、コンパスも役に立たなくて、電波も遮られて……どこへ行けばいいのかわからないまま、ここでたくさんの人が遭難してるって聞いた事があるの……」
 あたしは、体の震えが止まらなくなった。こんな所に入っちゃって、怖くならないっていう方がおかしいかもしれない。二度と出られない森に入っちゃったあたし達に待っているもの。それは嫌でも『遭難』の2文字しか思い浮かばない。
「じょ、冗談じゃないぜ!! 二度と出られない森なんかに入って遭難してたまるか!!」
 サトシはあたしの言った事が信じられないようにそう叫んで、突然森の中を駈け出した。
「あっ!! ちょっと待ってよっ!!」
「ポチャッ!!」
 こんな時に、1人で置いて行かれるのはもっと嫌。あたしは慌ててサトシの後を追いかけた。ポッチャマも後に続く。
 サトシがここから出ようとしているのはわかる。でも、どんなに走っても、通り過ぎるのは入り組んだ地形の森ばかり。どこをどう進んでいるのかも、走っていると何だかわからなくなってくる。まるで、迷路の中を進んでいるようだった。しばらく走っていると息が切れてきた。ここまで走っても、周りは似たような地形の森ばかり。サトシもさすがに疲れたのか、息を切らせてその場に座り込んだ。
「くそっ……!! 一体どうなってるんだよ……っ!!」
 荒い息をしながら、唇を噛むサトシ。
「やっぱりあたし達……もうここから出られないの……!?」
 嫌でもそう考えちゃう。遭難が怖くて、心が押しつぶされそうになる。こんな時はいくらなんでも「ダイジョウブ!」も「ダイジョバない……」も言う気分になれない。ポッチャマが不安そうな表情を浮かべた。
「こうなったら、ムクバードで助けを呼ぶしかないな……」
 サトシはそうつぶやいて、1個のモンスターボールを開けた。出てきたのはムクバード。その姿を見て、あたしの怖さが消えた。
「そっか! ムクバードでタケシ達に助けを呼べばいいのね!」
 これなら、少し待つ必要はあるけど、ここから出られる! あたしの心の中に、光が宿った。
「ムクバード、俺達の場所をタケシ達に知らせてくれ」
「ムクバッ!!」
 ムクバードはうなずいて、空高く飛び上がった。そして、その姿は森の木より上の空へと消えていった。
「ああ、よかった……」
 あたしはほっとした。少し待てば、ムクバードがタケシ達を連れてきてくれる。ここにいなきゃいけないのも少しだけ。
「な、これならダイジョウブさ」
 サトシがあたしに笑みを浮かべた。
「うん!」
 やっぱりサトシって、何だか頼もしい……あたしはそう思わずにはいられなかった。

 * * *

 迷いの樹海の上を飛んで行くムクバード。でもその時、ムクバードに向かって何かが伸びてきた!
「ムク!? ムクゥゥゥゥッ!!」
 ムクバードが気付いた時にはもう手遅れ。ムクバードは突然伸びてきたマジックハンドに無抵抗のまま捕えられた。マジックハンドが縮んでいくと、そこにはパラドシンが使っていたものと同じ、空中バイクがあった。
「なんであいつらなんかに協力しなきゃならないのよ……! まあいっか。このうっぷんをあいつらにぶつけてやるわ……!」

 * * *

 ムクバードが帰ってくるのを、近くで座れそうな木の根元に座って待つあたし達。早くここから出たいあたしは、ポッチャマを抱いてムクバードの帰りをまだかまだかと待っていた。ポケッチの時計を見ると、ムクバードが飛んで行ってから30分くらい経ってる。もう30分か……30分も結構長く感じる。
「早く帰ってこないかなあ……」
「ダイジョウブさ。ちょっと時間が掛かってるだけさ」
 隣にいるサトシは、安心した様子でそう言った。言われてみればそうか。あたし達は、タケシ達がいる所からずっと遠くに飛ばされちゃったのかもしれないし。あわてないで待つ事にしよっと。
「……ポチャ?」
 すると、ポッチャマが突然、何かに気付いたように声を上げた。
「どうしたのポッチャマ?」
 ポッチャマはあたしの腕の中から出た後、辺りをキョロキョロと見回す。何かいるのかな、と思ってあたしも辺りを見回してみる。でも、辺りに動く影は何もない。
「誰もいないじゃない」
「ポチャ……」
 ポッチャマもその事を確かめて、ポカンと立ち尽くしていた。
「心配すんなって。もうすぐ俺達はここから出られるんだからさ……」
 サトシがポッチャマにそう言った、その時!
 突然、サトシの後ろから何か大きな影が飛び出してきた!
「うわああああっ!!」
 背中からサトシに容赦なく襲ってくる影。そのままサトシの体に飛びかかった! その正体は、見慣れたハブネークとは違う、お腹の模様が目立つ紫色のへびポケモンだった。へびポケモンは、素早くサトシの体にがんじがらめに巻きついた!
「サトシ!!」
 そう叫んだあたしだったけど、突然後ろから何かにぶつかった!
「きゃあっ!!」
 今度は何なの、って思う暇もなく、すぐに左の二の腕に強い痛みが走った!
「ああっ!!」
 左腕を見ると、4枚の羽根をもった紫色のポケモンが、あたしの二の腕に強く噛み付いていた!
「ポチャマアアアアッ!!」
 とっさにポッチャマが“バブルこうせん”を発射! 4枚羽のポケモンに命中! 何とかあたしの腕から離れた。そしてそのまま“バブルこうせん”をへびポケモンに向けた! 命中! 驚いたへびポケモンは、サトシから離れた。
「ヒカリ!!」
「ダイジョウブ……」
 サトシの言葉に答えるあたし。でも、噛まれた所が痛い……噛まれた所を右手で抑える。2匹のポケモンが、あたし達の前に集まって、こっちをにらむ。
「アーボックに、クロバットか……!」
 サトシがつぶやいた。あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「アーボック、コブラポケモン。お腹の模様で敵を威嚇。模様に怯えて動けなくなった隙に体で締め付ける」
 図鑑の音声が流れた。次は4枚羽のポケモン。
「クロバット、こうもりポケモン。ゴルバットの進化系。4枚の羽でより静かに、より速く飛べるようになった。夜になると活動を始める」
 続けて図鑑の音声が流れた。このポケモン、野性ポケモンかな、って一瞬思ったけど、すぐにその考えは間違いだってわかった。
「アッハハハハハハ! 今のは挨拶代わりよ!」
 すると、上から女の子の高らかな声が聞こえてきた。見上げると、そこにはパラドシンが乗っていたものと同じ空中バイクに乗った、赤いポニーテールの、顔だけは普通の女の子が。服装もパラドシンと同じ、藍色で胸に『R』の文字が入った服。まさか、パラドシンの仲間……!?
「お前は……!!」
「初めまして、とでも言っておこうかしら。あたしはロケット団『チーム・ブラッド』のフィオナよ」
 アーボックとクロバットの前に降り立って、自己紹介する女の子。やっぱり……!
「ところで、このムクバードはあんた達のかしら?」
 すると、フィオナは右手を上げた。何が動くものがあると思ったら、それはフィオナの右手に着いているマジックハンドに捕まってもがいてる、サトシのムクバードが!
「あっ、ムクバード!!」
 サトシが声を上げた。あたしは声も出なかった。助けを呼びに行っていたムクバードが捕まっちゃうなんて……!
「仲間に助けを求めに行くつもりだったんでしょうけど、そうは問屋が卸さないのよねえ……」
 フィオナはそう言って、マジックハンドを伸ばして下にぶら下げていた檻にムクバードを強引に投げ入れた。
「あんた達には、ここで永久にさまよってもらわなきゃ困るんだからね……!」
 フィオナの表情が変わった。普通の女の子にはない、残忍さが浮かんだ表情。それを見たあたしの背中が凍りついた。やっぱりこのフィオナも、パラドシンと同じものを感じる……!
「さあ、ここでさまよったまま地獄へ落ちなさい!! アーボック!! クロバット!!」
 フィオナが叫ぶと、アーボックとクロバットが飛び出した!
「こんな所で地獄に落ちてたまるか!! ナエトル、君に決めた!!」
 サトシもすかさずモンスターボールを投げる。出てきたのはナエトル。
「ミミロル、あなたも行って!!」
 こんな所で死ぬなんて、あたしも嫌! あたしもすぐにモンスターボールを投げた。中からミミロルが飛び出す。
「ナエトル、“たいあたり”!!」
「ミミロル、“ピヨピヨパンチ”!!」
「エェェェェルッ!!」
「ミミィィィィッ!!」
 ナエトルとミミロルは、アーボックとクロバットに向かっていく!
「アーボック、“ヘドロばくだん”!! クロバット、“クロスポイズン”!!」
 フィオナの指示で、アーボックはヘドロのかたまりを発射! ナエトルは当たらずに済んだけど、驚いて急停止。そして、クロバットは下の羽に力を込めて十字にミミロルを切り裂いた!
「ミミィィィィッ!!」
 返り討ちにされるミミロル。でも、ミミロルは何とか踏み止まった。
「アーボック、“へびにらみ”!!」
 アーボックが、動きが止まったナエトルをにらむと、お腹の模様が一瞬、不気味に光った。
「エル……ッ!!」
 すると、ナエトルはビクッとした様子で怯えた表情を浮かべて、ピタリと動きを止めた。
「どうしたナエトル!?」
 サトシが叫んでも、ナエトルは表情を変えないまま微動だにしない。
「“まきつく”!!」
 その隙に、アーボックがナエトルに躍りかかって、細長い体でナエトルをがんじがらめに締め付けた!
「ミミロル、ナエトルを助けて!! “とびはねる”!!」
「ミミッ!!」
 ナエトルが危ない! すぐにミミロルはあたしの指示で助けに向かおうとした。でも、ジャンプしたミミロルの前に、クロバットが立ちはだかった!
「“ちょうおんぱ”!!」
 クロバットが放った“ちょうおんぱ”で、ミミロルは体勢を崩しちゃった! そのまま地面に落ちるミミロル。
「あんたの相手はクロバットよ!!」
 フィオナの声が聞こえた。
「負けないでミミロル……うっ……」
 あたしが負けじと指示を出そうとした時、突然目の前の風景が歪んで、頭がフラッとした。な、何……立ちくらみ……?
「“クロスポイズン”!!」
「ミミィィィィッ!!」
 フィオナのそんな声が聞こえたと思ったら、今度はミミロルの悲鳴が聞こえた。見ると、クロバットの“クロスポイズン”がミミロルにクリーンヒット! さすがに2回目は踏み止まれない。あたしの前に弾き飛ばされるミミロル。
「あっ、ミミロル……うっ……」
 すぐに指示を出そうとしたけど、また立ちくらみが起こった。何か変……さっきよりも、何だか気持ち悪くなってきた……
「アーボック、“どくどくのキバ”!!」
「エルゥゥゥゥッ!!」
 フィオナの指示とナエトルの悲鳴。見ると、アーボックに巻き付かれたナエトルが、アーボックに噛み付かれていた! その牙は、紫に光っている。ナエトルには効果抜群……!
「ナエトル、“こうごうせい”だ!!」
「エル……ッ!!」
 サトシが指示を出すと、ナエトルは“こうごうせい”で体力を回復しようとする。でも、ナエトルはそれが終わっても力を失ったままゼエゼエと荒い息をしていた。回復してない!?
「フフフ、ここはそびえ立つ木で太陽光は遮られるわ。“こうごうせい”の恩恵は受けられないわよ!!」
「くっ……!!」
 唇を噛むサトシ。このままじゃ、ナエトルが……!
「ミミ、ロル……」
 あたしは、気持ち悪さをこらえて指示を出そうとしたけど、体が急にだるくなってきた。立っているのも何だかつらくなってきた……
「う……ううっ………」
 我慢できなくなったあたしは、地面に膝をついて、倒れそうになった。そんな重い体を、右手で何とか支える。
「どうしたヒカリ!?」
「ポチャ!?」
 そんなあたしに気付いて、サトシとポッチャマが駆け寄ってきた。
「何だか……気分が悪くて……」
 何だか話す事も辛くなってきた。この一言を言うだけでもかなり力を使ってる気がする……
「フフフ、『もうどく』が効いてきたようね」
「『もうどく』……!?」
 フィオナの言葉を聞いたあたしは驚いた。毒なんて、いつ体に入ったのか全然心当たりがない。別に変なものは食べてないし……
「気付かなかった? クロバットのあんたへの最初の一撃……あれが“どくどくのキバ”だった事に……」
「!!」
 あたしははっとした。確か、“どくどくのキバ”は、相手に『もうどく』を与える事があるわざ……クロバットは、それであたしに噛み付いて……!
「『もうどく』はすぐには効かないわ。後でじっくり、じっくり、効いてくるのよ……」
 フィオナが不敵な笑みを浮かべた。じゃあ、今それがあたしに効いてきて……!
「なんて事をするんだ!!」
「あらあら、ポケモンを奪うのにトレーナーを先に殺(や)るのは合理的じゃない? あたし達にズルとか卑怯とか言っても無駄よ」
 サトシの叫びも、簡単にフィオナは退けた。なんて人なの、フィオナは、チーム・ブラッドは……!
「わかったらさっさと地獄へ落ちなさい!! クロバット!!」
 フィオナが叫ぶと、クロバットがあたしに向けて飛び出した! このままじゃ、あたしは……!
「ミミ、ロル……!」
 あたしは力を振り絞って叫んだ。
「“れい、とう、ビーム”……!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
 ミミロルはあたしの指示に答えて、“れいとうビーム”を発射! クロバットがあたしの目の前まで来た所で命中! 効果は抜群! 氷漬けになったクロバットは、あたしの目の前でズシンと音を立てて落ちた。
「な!?」
 フィオナが動揺した声を上げた。
「やったぜ!!」
 サトシが声を上げる。
「く〜っ、よくもクロバットを……っ!!」
 フィオナは逆にキレた様子だった。そして、何か言おうとしたけど、突然ピピピと音が鳴った。フィオナは、懐から無線機を取り出した。あの無線機が鳴ってたみたい。
「パラドシン? 何よこんな時に……」
 無線機の前で愚痴るフィオナ。「だけど……!!」とかいろんな事をフィオナは言ってたけど、最後には「わかったよ……!!」と不満な声で言って無線機を切った。
「あんた達、今日の所はここまでにしといてやるけど、次はこうは行かないからね!!」
 フィオナは負け惜しみを言うように叫ぶと、アーボックと氷漬けのクロバットを戻して、空中バイクでどこかへと飛び去って行った。
「ムクバード!!」
 空中バイクの背中を見送るサトシは唇を噛んだ。でも、追いかけられないと判断したのか、追いかける事はしなかった。その一方であたしは、体を支える事も辛くなって、とうとうあたしの体は地面に倒れた。サトシがすぐにナエトルをモンスターボールに戻して、顔をあたしに向けた。
「ヒカリ、しっかりしろ! 大丈夫か!」
「ポチャ!!」
「ミミ!!」
 サトシはあたしに呼びかける。ポッチャマとミミロルもあたしを心配する。
「ダイ、ジョバない……」
 あたしはそう答えるのが精一杯だった。早く、『もうどく』を何とかしなきゃ……あたし達は今、旅の道具を何も持っていない。不意討ちで吹っ飛ばされたせいで、荷物は全部向こうに置いたままだから。持っているものと言えば、ポケッチとモンスターボールだけ。
 やる事は1つしかなかった。あたしは、震える手でモンスターボールを1個取り出した。スイッチを押して開けると、中からウリムーが出てきた。
「ウリ!?」
 ウリムーは、すぐにあたしの様子がおかしい事に気付いた。
「ウリムー……木の実を、探して……『どく』を、消せる木の実……早く……」
 前に、ウリムーはロケット団を探そうとして、木の実を見つけてばかりだった事があった。それが、今なら役に立つかもしれない。そう考えたあたしの判断。また全然違うものを見つけちゃうかもしれないけど、迷ってる時間はなかった。
「……ウリ!!」
 ウリムーははっきりとうなずいて、すぐにその場を飛び出した。
「ヒカリ、歩けそうか?」
「な、何とか……」
「なら、一緒にウリムーについて行こう!」
 サトシはあたしの右肩を担いで、立ち上がった。そして、ゆっくりとウリムーの後について行く。ウリムーも、あたしの事を気にして、ところどころで止まってこっちを確かめる。サトシに支えられながら、重い体をゆっくり、ゆっくりと歩かせる。ほんの少し歩くだけでも、ずっと長い道を歩いたように感じる。まるで、体におもりが付いてるみたいだった。しかも、その重さはどんどん増していく。歩く事も、だんだん辛くなってきた……
「もう……ダメ………」
 あたしの体がサトシの肩からずり落ちた。そのまま、地面に力なくうつぶせに倒れるあたしの体。もう体が動かない。完全に石になったみたいだった。
「ヒカリ!! しっかりしろ!! こんな所で倒れちゃダメだ!!」
 サトシがすぐに駆け寄ってきて、あたしの体をゆすって必死に呼びかける。
「ポチャマ!!」
「ミミ!!」
「ウリ!!」
 ポッチャマとミミロル、ウリムーも。
「あたし……このまま……死んじゃうのかな……?」
 そんな言葉が、あたしの口からこぼれた。
「やめろよ!! 変な事言うなよ!!」
 サトシの声が、いつも以上に真剣に聞こえる。
「ピカチュウや、グライオンや、ムクバードまでいなくなったのに……ヒカリまでいなくなってどうするんだよ!!」
「……!!」
 その真剣なサトシの言葉に、あたしは今まで感じた事のない、優しくて、暖かいものを感じた。顔をゆっくりと上げると、サトシの顔が見えた。心なしか、その目は涙でうるんでいるようにも見えた。サトシは、またあたしの体を持ち上げる。今度はあたしの体を背中におぶった。
「ウリムーが、木の実を見つけてくれるんだ!! それまで、がんばるんだ!!」
 そう言って、サトシはまたウリムーについて行って、ゆっくりと歩き出した。その間も、「がんばれ!! 死んじゃだめだ!!」と必死に何度も呼びかけていた。
 何だか、サトシの優しさが、暖かくて、嬉しくて……そんなサトシに励まされると、あたしって、何言ってたんだろうって思えてきた。遠くなりそうになる意識を、必死で抑え込まずにはいられなくなった。

 少しすると、ウリムーは大きな木のうろの前で止まった。そこで、サトシに何度も呼びかけるウリムー。
「見つけたのか?」
 サトシは、うろをゆっくりと覗き込む。そこには、たくさんの木の実が入っていた。その中に、『どく』を消せる木の実――モモンの実があった。
「あった!!」
 サトシはすぐに、モモンの実を手に取った。そして、その木の根元に、あたしの体をそっと寝かせた。
「ヒカリ、モモンの実だ! 食べられるか?」
 サトシが、モモンの実をあたしの口元に突き出して言う。あたしは口で何か答える事はできなかったけど、それを食べようとした。サトシが口元に近づけたモモンの実を、あたしは力を振り絞って噛んだ。口に含んだら、何度か噛んで、力を振り絞って飲み込む。甘い味が、口の中で広がる。少しだけど、体の重さが取れた。そして、あたしは残ったモモンの実も口に含んで、しっかりと飲み込んだ。甘いものがのどを通り過ぎていくと、また少しだけど、力がみなぎってきた。
「よかった……後はゆっくり休むんだ」
 サトシが笑みを浮かべたのがわかった。あたしは小さな声でだけど「うん」とうなずいた。
 これでもう、ダイジョウブ。そう思ったあたしは、そのまま抑え込んでいた意識を放して、やっと気を失えた……

 * * *

 目が覚めると、森は暗くなっていた。夜になったみたい。
 体を起こしてみる。まだ違和感はあるけど、体の重さは大分取れたみたい。あたしの体に何かがかかっていたのに気付いた。見るとそれは、サトシが来ていたジャケットだった。横から来る明かりと、パチパチと何かが燃える音に気付いて見ると、焚き火が付いていて、そこにみんながいた。
「……ポチャマ!」
 すると、あたしが起きたのに気付いて、ポッチャマが真っ先にこっちに来た。
「ヒカリ、目が覚めたのか」
「ミミ!」
「ウリ!」
 ジャケットを脱いだシャツ姿のサトシやミミロル、ウリムーも来た。
「体はどうなんだ?」
「うん、何だかもうダイジョウブみたい」
 あたしはそう言って立ち上がろうとした。でも、立つとすぐに立ちくらみが起きて、体がふらついた。
「おいおい、まだダイジョバないじゃないか」
 サトシはすぐにふらつくあたしの体を支えて、あたしを座らせた。
「無理すんなって。まだ休んだ方がいいぞ」
 サトシの意外な言葉に、あたしはちょっと驚いた。いつもポケモンバトルとかで無理ばっかりしてるように見えるサトシが、「無理すんな」なんて言うなんて。
「ポチャ」
「ウリ」
 すると、ポッチャマとウリムーが前に出て、1個ずつ木の実をあたしに差し出した。
「あっそうだ、みんなで木の実を採ってきたんだ。ヒカリも食べなよ」
 サトシがすぐに説明した。
「……ありがとう」
 あたしはポッチャマとウリムーから木の実を受け取った。やっぱり元気になるには、まず食べないとね。
 木の実を口に運ぼうとした時、森の風景が視界に入って、あたしは手を止めた。どこまでも広がる暗い森。いや、暗黒の森って言った方がいいかもしれない。その奥は完全に真っ暗で何も見えない。いつ何か出てきてもおかしくない雰囲気。あたしは怖くなった。何だかまた、あの向こうからあいつらが……チーム・ブラッドが襲ってきそうな気がして。
「どうした?」
 あたしを気にかけるサトシの声。
「……また、あいつらが襲ってきたりしないよね……」
 あたしの不安が、そのまま言葉に出た。
「ダイジョウブさ。ヒカリは俺が守るよ」
「守る……?」
 その言葉が、あたしの胸の中に強く響いた。
「何かあったら、俺が何とかするから、ヒカリはゆっくり休んでていいんだ」
 サトシはそう言って、あたしの膝にあったサトシのジャケットを取って、あたしの背中にそっとかけた。
「サトシ、これ……」
「そのままじゃ寒いだろ? 俺は平気だから気にすんなって」
 あたしはジャケットを返そうって思ったけど、サトシの言葉を聞いて、それができなくなった。サトシは、あたしに気遣っている。
「さ、俺も食べて力つけないとな〜っ!」
 サトシはそんな事をつぶやいて、また焚火の前に戻って行った。何だか、あたしを元気付けようとして、わざとそう言っているようにも見えた。
 背中にかかったサトシのジャケットで、あたしは体をギュッと覆った。何だか、どんな毛布よりもずっと暖かいような気がした。そして、一緒にサトシの優しさが感じ取れたような気がした。
「サトシって、優しい……」
「ん? なんか言ったか?」
 サトシの声を聞いて、あたしはドキッとした。思っていた事が、自然と口に出ちゃってたみたい。
「あっ、何でもない」
 あたしはそう答えて、紛らわそうとして木の実を1回かじった。
 木の実を口の中で噛みながらあたしは思った。そういえばあたしも、サトシに何度か助けられた事があった。コンテストの時も、いつも応援してくれる。あたしが何か落ち込んでいた時も、「ダイジョウブ」って励ましてくれる。だからあたしも、サトシの事を精いっぱい応援してあげたい気持ちになる。ポケモンや人を無茶してまで助けられるのも、きっとあの優しさがあるからなんだ。そんな人だったら、ポケモン達がついて来るのもわかる気がする。
「もし、あたしがポケモンだったら……」
 今度は聞こえないように、あたしはそっとつぶやいた。

 * * *

「パラドシン、なんであいつらを逃がさせたの? あのままだったら、あいつらなんか簡単に殺(や)れたのに」
 森の中のどこかで、空中バイクの上のフィオナは無線で話していた。
『今はまだその時じゃない。もう少し、牽制しながら奴らを泳がせておくんだ』
「どういう事?」
『俺が何のために、迷いの樹海に奴らを飛ばしたと思ってるんだ?』
「逃げられないようにするためなんじゃないの?」
『奴らには、しばらくこのまま樹海をさまよい続けてもらうのさ。力尽きるまでな……』
「……そうか! そうやって持久戦に持ち込むのね!」
『そういう事だ。そうすれば、嫌でも簡単に奴らを潰せる。それがプランAだ』
「わかったわパラドシン。作戦を続行するわ」
 フィオナは無線を切った。


TO BE CONTINUED……

[624] SECTION03 そして、逃げられない戦いは続く……!
フリッカー - 2008年08月08日 (金) 18時46分

 あれからもう、どれくらい経っただろう。もう何日経ったのか全然覚えてない。
 どこまでも広がる入り組んだ樹海の中を、当てもなく歩いて行くあたし達。コンパスも役に立たないし、太陽も見えないし、まさに暗中模索。
 そんな中であたしはというと、ポケッチの画面を見つめながら歩いていた。白い画面には、何も映っていない。全然反応がない。
「やっぱり何もない、か……」
 ため息を1つついて、つぶやくあたし。
「何してるんだ?」
「『ダウジングマシン』を使ってるんだけど……」
「『ダウジングマシン』?」
「ポケッチのアプリよ。何か道具が埋まってたら反応するんだけど……全然反応がなくて……」
 ダウジングマシン。それは、ポケッチのアプリの1つ。地面に埋まっている道具とかがあったら見つけてくれるもの。何か役に立つもの落ちてないかなあって思って使ってたんだけど、さっきから使っても、何も見つからない。ここで何か使えそうなものが見つかるのは、期待しない方がいいかもしれない。
「ん? 何だあれ?」
 サトシが、何かに気付いて足を止めた。サトシが見る方に視線を合わせると、そこには赤いテントのようなものが見える。まさか、人がいる?
「あれって……テントだよね?」
「ひょっとして、俺達以外にも人がいるのか? 行ってみよう」
「うん」
 あたしは、その場所に行ってみる事にした。


SECTION03 そして、逃げられない戦いは続く……!


 近づいてみると、ツンとした臭いが、鼻を刺激した。テントはかなり汚れていて、ボロボロだった。もうかなり長く使われていないように見える。側には大きなバッグが捨てられていて、それもボロボロだった。辺りに散らかっている缶詰をポッチャマが拾ってみるけど、それも全部錆びついている。人影はどこにも見当たらない。何だか気味が悪い。
「誰かがここでキャンプしてたんだな……」
 サトシがつぶやく。
「ねえサトシ、何だか気味悪いよ……早くここから……」
 そう言いかけた時、あたしの足が何か硬いものを踏んだ。今まで感じた事のない感触。何気なく足元を見ると、何か白くて細長いものがある。木の枝じゃない。何だろうと思って、その先をたどって行った先を見た瞬間、あたしの体が凍りついた。
 サトシの言った通り、そこには人がいた。でも、その人は普通の人じゃなかった。その人はボロボロの服を着ていて、嫌な臭いを出していて、体は完全に骨だけになって倒れていた。お化け屋敷とかで見るものじゃない、本物の……!
「きゃあああああああっ!!」
 あたしは思わず悲鳴を上げた。そして、すぐにその場から離れた。腰が抜けて、尻もちをつく。
「どうしたヒカリ!?」
「ポチャ!?」
 サトシとポッチャマが振り向いた。すぐ1人と1匹にも、見るも無残な姿になった人の死体が目に入って、完全に絶句した。
「嫌っ!! 嫌っ!! いやああああああっ!!」
 言葉で表しようのない怖さに襲われたあたしは、悲鳴を止める事ができないまま、すぐに立ち上がって、その場から一目散に逃げだした。
「あっ、待てよヒカリ!!」
「ポチャマ!!」
 サトシとポッチャマもすぐに後を追いかけた。
 どこをどう行くのかなんて、全然頭にない。あたしはもう怖くて怖くて、逃げる事しか頭になくて、ただひたすら無我夢中で走り続けた。頭の中は完全にパニック状態。
「待てよ!! 落ち着くんだヒカリ!!」
 そんなサトシの声も、全然耳に入らない。構わずに走り続けていると、あたしの右手が掴まれた。そして、体を無理やり引き止められる。
「落ち着くんだヒカリ!! もう大丈夫だ!!」
 あたしに呼びかけるサトシの顔を見て、あたしの心は何とか落ち着いてきた。息が切れて、思わず膝を地面に着く。でも、体の震えが止まらない。あの見るも無残な姿の死体が、頭に強く焼き付いて離れない。目から涙もこぼれていた。それに、さらに追い打ちをかけるような事態が起きた。
 樹海の奥から、こっちを強くにらむ目がギョロリと光った。しかもそれは1つじゃない。あたし達の周りを囲んでいる!
「何だ!?」
「……!!」
 また何か出てくる……! あたしはまた、言いようのない怖さに襲われた。背筋に強い寒気が走った。そして、あたし達を取り囲んでいた影が姿を現した。ギョロリとした目を持っていて、体がボールのように丸い、紫色のガスに包まれたポケモンだった。
「ゴース!? 野生ポケモンか!?」
 サトシがすぐに身構える。でも、あたしは戦う気なんて全然起きなかった。こっちをにらむたくさんのゴースの姿を見て、あたしの体が震えた。あの死体の見るも無残な姿が、頭の中に蘇る。
「い、嫌……来ないで……あたし、まだ死にたくないよ……!」
 怖くなったあたしは思わず何歩か後ずさりした。
「お、おいヒカリ!! 落ち着くんだ!! 相手はただの……」
 そう言いかけた時、ゴース達が一斉にこっちに“ナイトヘッド”を撃ってきた! あたし達の目の前に当たって、次々と爆発!
「わあっ!!」
「いやあっ!! やめてえっ!! 死にたくないっ!! 死にたくなんてないっ!! 助けて……っ!!」
 また頭はパニック状態。あたしは思わず頭を抱え込んで、その場にしゃがみこんだ。その場から反射的に逃げたくもなったけど、足がすくんで動けない。
「くそっ、俺が何とかしなきゃ!! ナエトル、君に決めたっ!!」
 あたしの様子を見たサトシは、すぐにモンスターボールを投げた。中からナエトルが飛び出した。
「ポチャ……!」
 ポッチャマが傍らで、あたしの指示を待っていた。でも、あたしもあの死体のようになるかもしれないと思うと、怖くて怖くて、戦う気が全然起きない。完全に、サトシに頼るしかない状態だった。
「ナエトル、“はっぱカッター”!!」
「エェェェェル、トォォォォッ!!」
 ナエトルはゴースの群れに向けて“はっぱカッター”をばら撒いた! 何匹かのゴースを巻き込んだけど、効果は今ひとつ。ゴースは一斉に“ナイトヘッド”で反撃する!
「かわすんだナエトル!!」
 ナエトルは自慢の足で“ナイトヘッド”の弾幕をかわす。
「“エナジーボール”だ!!」
「エェェェェル、トォォォォッ!!」
 ナエトルも“エナジーボール”で応戦! 命中! 1匹のゴースが弾き飛ばされたけど、やっぱり効果は今ひとつ。すぐに他のゴースが集まってきて、ナエトルに反撃を浴びせる!
「くそ……っ!!」
 たくさんのゴースを相手にして、ナエトルは不利な状況。それを感じてか、サトシは唇を噛んだ。それを見守るあたしも、不安に駆られた。その時、ゴース達は青い火の玉を作って、一斉にナエトルに飛ばしてきた!
「まずい、“おにび”だ!! かわせ!!」
 サトシの指示通り、ナエトルは“おにび”をかわしていく。1つ、2つ、3つ……でも4つ目はよけられなかった!
「エルゥゥゥゥッ!!」
 よろけた隙に、他の“おにび”が次々と命中していく! ナエトルの体は『やけど』しちゃった!
「ナエトル!!」
 サトシが叫んだその時、どこからかマジックハンドが伸びてきて、ナエトルを鷲掴みにした! 完全な不意討ちだった。
「エルゥゥゥゥッ!!」
「!?」
 悲鳴を上げて、持ち上げられるナエトル。あたし達は、一斉に顔を上げた。そこには、空中バイクの上に立つ、フィオナの姿が!
「アッハハハハハハ! どう、ゴースの群れにいたぶられる気分は?」
 マジックハンドで捕まえたナエトルを、空中バイクでぶら下げた檻の中に強引に投げ入れるフィオナ。
「フィオナ!! ナエトルを返せ!!」
「返して欲しいんだったら、力ずくで取り返す事ね。でもできるかしら? あたしはこの樹海のゴースを味方にしたからねえ?」
 挑発するようにニヤリと笑うフィオナ。まさか、このゴース達は全部……!?
「なら、受けて立つぜ!! ヒコザル……」
「やっちゃいなさい!!」
 サトシが別のモンスターボールを取り出そうとした時、フィオナが先に叫んだ。すると、ゴース達は一斉に電撃をサトシに向けて発射した!
「ぐわああああああっ!!」
 たくさんの電撃を体に受けて、悲鳴を上げるサトシ。
「サ、サトシ……!!」
 このままじゃ、サトシが……! そして、その次にああなるのは、間違いなくあたし……! あたしは震えが止まらなくなった。
「あらあら、どうしちゃったのかしら、ピンクの女? 何があったのか知らないけど、このまま黄色の男を放っておいていいのかしら? まあ、こっちにしちゃそれほど都合のいい事はないんだけどね……」
 フィオナがあたしに顔を向けて、挑発するように言った。でも、あたしの心の中に積もっていくのは怖さばかり。
「ああああ、ああ……」
 電撃を浴び続けたサトシの体が、力なく近くの木にもたれかかった。このまま倒れるのは、もう時間の問題……!
「へへっ、これならここで黄色の男を倒せるわ!」
 フィオナは勝利を確信したように、笑みを浮かべた。
「もう嫌……お願い、夢なら覚めて……こんな所で死にたくないよ……!!」
「ポチャッ!! ポチャッ!!」
 また頭がパニック状態になる。頭を抱えて震えるあたしに、ポッチャマは呼びかけながらあたしの体を強くゆすっていたけど、そんなの気にも留めなかった。
「ポチャ……ポッチャマアアアアッ!!」
 すると、そんなポッチャマの叫び声が聞こえたと思うと、突然あたしの顔面に冷たいものが当たった。ポッチャマの“バブルこうせん”だった。
 あたしははっと目を覚ました。今までの怖さが冷たさでスウッと消えて、不思議と何事もなかったかのように平常心が戻った。あの時――ミクリカップ直前の時と同じ。改めて周りを見てみる。
「ああ……」
 電撃を受け続けて、木にもたれかかっていたサトシの背中が、ズルズルと力なく落ちていく。あたしは改めて、状況を理解した。あたしがパニクッていたせいで、1人で戦っていたサトシ。こんな風になっちゃったのも、あたしのせいなのかもしれない。でも、そんな事を考えてる時間はない。早く助けないと! 気がつくとあたしは、立ち上がって声を上げていた。
「ポッチャマ、サトシを助けて!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 それに答えて、ポッチャマは“バブルこうせん”をばら撒いた! ゴース達にまとめて命中! 驚いたゴース達は、電撃を止めてスッと下がった。
「な!? ピンクの女!?」
 フィオナが動揺した。
「あんたの好きにはさせないわ、フィオナ!!」
 あたしはサトシの前に立って、力強くフィオナに叫んだ。
「く〜っ、せっかくあと少しの所だったのに!! やっちゃいなさい!!」
 フィオナが怒った様子で指示すると、ゴース達は一斉に電撃をポッチャマに向けて撃ってきた!
「ポチャアアアアッ!?」
 電撃の雨の中を慌てて逃げ回るポッチャマ。電撃が当たっちゃったら、効果は抜群。こんなに数が多かったら、いくらなんでも対応できない。どうしよう……
 そう思った時、ふと視界に入ったフィオナの空中バイクに、変なパラボラアンテナが付いている事に気付いた。最初に出てきた時は、あんなもの付いてなかったはず。あたしは、アンテナが怪しく見えた。前にロケット団は、ダイノーズにコントロール装置を付けて操ろうとした事があった。まさか、フィオナもあれを使って、ゴース達を操っている……?
「エテボース!!」
 もしそうだとしたら、やる事は1つだった。あたしは、モンスターボールを取り出して、エテボースを出した。
「あのアンテナを壊して!!」
「エポッ!!」
 エテボースはうなずいて、フィオナの空中バイクに向かって行った。
「何っ、アンテナを!? やらせないで!!」
 それを聞いたフィオナは、焦った表情を見せた。やっぱり何かある……!
 ゴース達は、エテボースに“ナイトヘッド”の集中砲火を浴びせる。でも、ノーマルタイプのエテボースには効果がない。だからあたしはエテボース選んだの! “ナイトヘッド”をものともしないで空中バイクに近づいていくエテボース。近くにあった木に素早く登って、空中バイクを正面に捉える。
「しまった!! クロバット……」
 フィオナはとっさにモンスターボールを取り出したけど、もう手遅れだった。
「“きあいパンチ”!!」
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 エテボースは空中バイクに躍りかかって、アンテナに尻尾の拳をお見舞いした! 直撃! アンテナはたちまち粉々になった。その衝撃で、空中バイクはバランスを崩した。
「くっ、ピンクの女め……っ!!」
 何とか体勢を立て直したフィオナは、状況を不利だと見たのか、そのまま樹海の奥へと逃げて行った。
 ゴース達は、みんなはっと目を覚まして辺りをキョロキョロと見回した後、すぐに樹海の奥へと音もなく去って行った。あたしの予想は合ってた。
「サトシ!!」
 あたしはすぐに、サトシの所に行った。
「ヒカリ……目を覚ましたんだな……」
「ごめん、あたしがパニクッたせいで、こんな目に……」
「ヒカリのせいじゃないさ……言ったじゃないか、『何かあったら、俺が何とかする』って……それに、電撃なんて、ピカチュウで慣れてるしさ……」
 サトシはあたしを責める事はしなかった。サトシはあたしの手を取った後、ゆっくりと自力で立ち上がった。
「悪いのはあいつらさ……! 卑怯な手を使ってポケモンを奪うあいつらだよ……! 今度会ったら、絶対に許さない……! みんなも、必ず助け出してやる……!」
 サトシは、フィオナが飛んで行った先を見つめながら、わなわなと右手を握っていた。

 * * *

 夜。また不気味な暗闇が、樹海を包んだ。
 適当な場所にまた焚き火をつけて、野宿の場所にする。野宿といっても、テントも寝袋も食器も、必要なものは何も持っていない。だから、かなり不便な野宿。今日は、地面に開いた洞窟を見つけたから、そこで野宿する事にした。
 焚き火をみんなで囲って、集めた木の実を食べる。でも、あたしのポケモンは全員いるのに対して、サトシのポケモンはヒコザルとブイゼルだけ。ヒコザルもブイゼルも、そしてサトシも、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。そして、ピカチュウがいない事を知ったミミロルも、悲しそうな表情だった。
「くっ……!」
 サトシが唇を噛んでいる。やっぱり悔しいんだ、ピカチュウ、グライオン、ムクバード、そしてナエトルと、自分のポケモン達が奪われちゃったんだから……一瞬、サトシが泣いているのかと思ったけど、サトシの頬は濡れていなかった。
「ポチャーッ!! ポチャポチャポチャッ!!」
 その時、ポッチャマが騒ぎ出した。何だろうと思って見ると、ウリムーがポッチャマの分の木の実を横取りしようとしていた。
「ダメよウリムー!! これはみんなで集めた大事な食べものなんだから!! 1人だけで食べようとしないで!!」
「ウリ……」
 すぐにあたしはウリムーをポッチャマから離す。でも、そんなウリムーはしょぼんとした顔を浮かべた。大食いのウリムーが、これだけの量だと満足でできないのはわかるけど、大事な食べものの木の実は、みんなで均等に分けなきゃいけない。ここは我慢してもらうしかない。こんな事は、ここに飛ばされてから何度かあった。
「ウリムー、俺の分をやるよ」
 すると、それを見ていたサトシがそう言って、持っていた木の実の半分くらいをウリムーに差し出した。
「ええっ、こんなにいいの!?」
「平気さ、これくらいなら」
 驚くあたしに、サトシは笑顔で返した。
「ウリウリ〜ッ!!」
 ウリムーは嬉しそうに、サトシが分けてくれた分をガツガツと食べ始めた。とりあえず、これでウリムーも落ち着くかもしれない。あたしはほっとした。
「あ〜あ、でもやっぱり、木の実ばっかりだと飽きちゃうなあ……」
 あたしも、まだ残っている自分の分の木の実を口に頬張った。朝も昼も夜も、食べるのは木の実ばっかり。普段食べていたタケシの手料理が、恋しくなってくる。でも、ここにいる限りは、この状態は続く。この状態はいつまで続くんだろう……もしかして、このまま……
「っ!!」
 そこまでで考えるのを止めた。あたしはそれを振り払おうと、頭を思い切り横に振った。
「どうした?」
「あ、ううん、何でもない」
 サトシの声を聞いて、あたしはドキッとした。あたしは慌てて答えて、木の実を口に運んだ。

 寝る前に、危ないから焚き火を消す。辺りが暗闇に包まれた。あたしとしては、場所が場所だから明かりが欲しかったけど無理は言えない。ゴツゴツした地面に直接横になる。寝心地は悪いけど文句は言えない。
 とっとと寝ちゃおうって思ったけど、寝心地が悪いせいか、なかなか眠れない。目がどうしても開いちゃう。そして、目に映る周りを包む不気味な暗闇が、あたしを不安にさせた。穴から見える奥の見えない樹海、そして、やっぱり先が見えない洞窟の奥。洞窟に入ってくる風の音が、不気味に感じた。何だか怖くなってくる。そしてそんな時に限って、嫌な事を思い出す。フィオナに『もうどく』を打たれて瀕死状態にまで追い込まれた事、そして、あの時見つけちゃった死体……
「嫌……嫌……っ!」
 体の震えが止まらなくなった。普通だったら毛布の中に体を潜り込ませたい気分だけど、そんな毛布もここにはない。体を横にして両膝を抱えて、体を丸めてごまかそうとしたけど、それでもちっとも安心できない。
 あたし達は、ここであいつらにやられちゃうの……?
 それとも、ここから出られないまま遭難しちゃうの……?
「嫌……死にたくない……こんな所で……遭難したくない……!」
 嫌でもそう考えちゃう。目に涙が溜まってきた。体を丸めたまま、あたしはもがくしかなかった。
「ヒカリ……?」
 すると、サトシの声が聞こえた。体を起こして見ると、そこにはこっちを見て立っているサトシの姿が。眠れなかったせいか、目が暗闇に慣れちゃって、サトシのあたしを気遣う顔がはっきりと見えた。
「あ、ダイジョウブダイジョウブ! ちょっと眠れないだけ……」
 あたしはわざと笑顔を作って答えて、また横になろうとした。その時、サトシが予想もしなかった言葉を口にした。
「ウソつくなよ」
「……え?」
「あの時と同じじゃないか。ズイタウンを出たばかりの時と……」
 あたしは一瞬、サトシが何言ってるのかわからなかった。
「あの時ヒカリ、コンテスト2回連続で失敗して、凄く悔しかったんだろ? でも、俺達には空元気出してごまかしてたじゃないか」
 あたしは驚いた。サトシの言う通り。あの時、あたしはみんなに迷惑をかけたくなくて、言おうにも弱い自分を見られたくなくて、必死でごまかしていた。みんなには、それはバレてないってずっと思ってたけど、まさか気付かれてたなんて……それも、一番気付いてなさそうに見えたサトシに……
「ど、どうして気付いたの……!?」
 動揺を隠しながら、素直に聞いてみる。
「ほら、『カフェ山小屋』に来た時、1人で泣いてたじゃないか。それ見て俺、何となくわかったんだ。失敗した事が相当悔しかったんだな、って。でも俺……なんっつーかその、あんな人見たの初めてだったし、なんて言って励ましたらいいかわからなくて……逆に余計落ち込んじゃうんじゃないかって思って……結局あんな事しか言えなかったんだ。ごめん」
 サトシは不器用にだけど答えた。あの時「目にゴミでも入ったのか?」って言ったのにはそんな理由があったんだ……
 サトシは話を続ける。
「それに、ズイタウンを出た時から、ヒカリが何だか、いつものヒカリじゃないような気がしてたんだ。トバリシティに着くまで、ずっと笑ったのを見なかったし……なんて言うか、何か足りないような、魂が抜けたって言えばいいのかな……とにかく、そんな顔しか見なかったからさ。コンテストの練習も、するとか言ってあまりしなかったし、いつもの元気なヒカリはどこ行ったんだって……」
 サトシの不器用な説明に、あたしは驚きを隠せなかった。そして、自分の思っていた事が、少しでも他人にわかってしまっていた事が恥ずかしくなった。
「だからさ」
 サトシは一旦言葉を区切って、あたしの前に座る。
「何でも1人で悩むなよ。それがヒカリのよくない所だよ。無理して空元気出さなくてもいいんだよ。俺だって、ヒカリの味方さ。何か話してくれればいいじゃないか」
 あたしは戸惑った。確かに言いたい気持ちもあるけど、やっぱり弱い自分を見られる事には抵抗があった。何も言えないまま、サトシから目をそらす。
「人の力を借りる事って、弱さじゃないって俺は思うな。そうじゃなかったら、ポケモン達の力を借りてる俺達も、弱いって事になっちゃうじゃないか」
 その言葉を聞いて、あたしの心が揺れ動いた。自分の弱さを知られるのは嫌だけど、こんな事を言うサトシにだったら、きっとダイジョウブな気がした。
『旅の思い出は仲間達と共有しなさい』
 そんなママの言葉が頭に浮かぶ。あたしは、自分の本音を話す決心がついた。
「サトシ……本当にあたし達、ここから出られるって思う?」
「え?」
 突然の質問に、サトシは少しだけ驚いた。
「あたし……怖いの……何だか、本当にここで死んじゃいそうな気がして……」
 あの時の怖さが蘇る。目に涙が溜まってくる。でも、あたしはこらえられなかった。いや、こらえようとしなかったのかもしれない。そのまま、頬を涙が通ったのが自分でもわかった。
「そんなの……嫌……あたし……まだ死にたくない……どうしたら……どうしたらいいの……っ!!」
 無性に、何かにすがりつきたい気分になった。でも、それができそうなものは周りには何もない。そして、無意識にあたしが飛び込んだのは、なぜかサトシの胸だった。
「っ!?」
 サトシが驚いて声を上げた。そんな事も無視して、あたしは我を忘れて思い切り泣いた。サトシはどうしていいのかわからないのか、しばらくその場で固まっていた。
「ヒカリ……」
 サトシがそっとあたしの両肩に手を置いた。その暖かい感触で、あたしははっと我に返った。初めて、サトシの胸の中で泣いていた事に気付いた。思えば、他人の前で思い切り泣いたのは、初めての事だった。途端に恥ずかしくなった。そんなあたしの顔を、サトシはそっと離した。
「ご、ごめん……迷惑、だったかな……?」
「そ、そんな事ないさ。そうだよな……あんなもの、見ちゃったんだもんな……俺だってゾッとしたよ」
 そう優しく言うサトシを見て、あたしの胸がなぜかドキドキと高鳴った。
「死にたくないのは俺だって同じさ。だから、みんなでがんばってるんじゃないか」
「みんな……?」
「そうだよ。ヒカリは1人じゃない。俺だっているし、ポケモン達だっているじゃないか。1人で無理しなくてもいいんだよ。みんなが一緒なら、お互いに助け合っていけるだろ?」
「サトシ……」
 そんな言葉を聞くと、あたしの心の中にさっきまでずっとくすぶっていた勇気が湧いてきた。
「だからヒカリ、あきらめちゃダメさ。みんなで力を合わせれば、必ずここから出られるさ。ヒカリがポケモン達を信じるなら、俺の事も信じてくれ」
「……うん!」
 こんなサトシと一緒なら、きっと、いや、絶対ダイジョウブ。そう確信したあたしは、はっきりとうなずいた。そして、目の涙を拭いた。
「ありがとう。あたし、何だかもう寝られそう」
「ああ。あっ、そうだ」
 すると、サトシは何か思い出したように、奥に脱いで置いていたジャケットを取った。
「ほら、体は冷やさないようにしないとな」
 ジャケットをあたしの背中にそっとかけるサトシ。
「ありがとう」
 自分を気遣ってくれて、あたしは何だか嬉しくなった。サトシはまた、元の場所に戻って、横になった。あたしは背中にかかったサトシのジャケットで、体をギュッと覆って横になった。やっぱり、どんな毛布よりもずっと暖かい。不思議と、暗闇の中でも怖いと思わなかった。あたしはそっと、1個のモンスターボールを取り出した。それは、エテボースが入っているモンスターボール。
「エテボース……あなたがサトシについていった気持ち、あたしもわかる気がする……」
 あたしはモンスターボールを見ながら、そっと小声でつぶやいた。やっぱりサトシと旅ができてよかった。あの時ピカチュウと出会えてよかった。サトシと一緒なら、絶対、絶対ダイジョウブ。そう思いながら、あたしは目を閉じた。
 必ずここから出られる。そう信じて。

 * * *

 そこは、迷いの樹海とは別の場所だった。そこで、コジロウとパラドシンが話していた。
「パラドシン様、なぜ我々の味方をしてくれたんですか?」
「単純明快だ。お前達のような想いを、俺も味わった事があるからだ」
「同じ、想い……?」
「そうだ。かつて俺は、ボスの命令で一度シンオウに赴いた事があった。しかしそれはことごとく失敗した。ポケモントレーナーや、コーディネーターの妨害に遭ったからだ。それで、多くの仲間も失った。だから俺はポケモントレーナーやコーディネーターが嫌いでな、お前達の邪魔をする奴らが許せんのさ」
「そ、そんな事があったんですか……」
「俺は、全てのポケモントレーナーやコーディネーターからポケモンを奪い取りたくて仕方がないのだ……そうすれば、奴らも無力になるからな……あいつらにも、そうなってもらう……!!」


STORY18:THE END
THE STORY IS CONTINUED ON STORY19……

[625] 次回予告
フリッカー - 2008年08月08日 (金) 18時47分

 樹海での戦いはまだ終わらない……!

「さあ、覚悟しなさい! ここが、あんた達の墓場になるのよ!」
「何だ、あのメカは!?」

 そして、遂にパラドシンまでも……!

「パラドシン!! 俺はお前みたいな奴が許せない!!」
「所詮トレーナーやコーディネーターは、自分が一番強いと見せる為にポケモンを使うだけだ! だから俺はお前達を倒す!!」

 その攻撃の前に、とうとうサトシが……

「自ら隙を晒してまで、人を助けるというのか!!」
「……っ!?」

 NEXT STORY:2人ぼっちの戦い(第2部)

「サトシィィィィィィィィッ!!」

 COMING SOON……



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