【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中

小説板

ポケモン関係なら何でもありの小説投稿板です。
感想・助言などもお気軽にどうぞ。

名前
メールアドレス
タイトル
本文
URL
削除キー 項目の保存


こちらの関連記事へ返信する場合は上のフォームに書いてください。

[589] ヒカリストーリー STORY17 憧れの人
フリッカー - 2008年07月09日 (水) 21時40分

 今回は、初めてポケモンコンテストを本格的に描きます!
 ちなみに、『平和なネタ』として書くため、悪役は登場しません。

・ゲストキャラクター
ハルナ イメージCV:釘宮理恵
 STORY09/10、12〜14より再登場。
 ヒカリの母アヤコに憧れ、ポケモンコーディネーターの道を歩み始めたルーキートレーナーの少女。コトブキシティ出身。
 無邪気なムードメーカーで、コンテストで目立つために前口上を作ったり、演技するわざを『ハルナスペシャルその○』と勝手に名付けたりする。アヤコの子であるヒカリの演技を目の当たりにした事で、彼女に尊敬の情を抱いており、彼女に対しては常に敬語で話す。ちなみに左利き。

フラット(佳奈美さんの投稿) イメージCV:寺田はるひ
 ヒカリと同じポケモンコーディネーターで、プライドが高い女性。20歳。今の手持ちリボンは4つ。
 初めて会った人間には愛想はよくなく、思った事が口に出せないが、相手の事がわかると思うように話すようになり、次第には心を開いていく。面倒見がいいお姉さんだが、バトルの事になったり、他人が落ち込む所を見ると厳しくなる。
 ポケモンコンテストでは、ロズレイドは美しさ、ムクバードはかっこよさを魅せる。

ミライ イメージCV:かかずゆみ
 STORY04/05、08より再登場。
 各地方を自由気ままに旅している、こおりポケモンの使い手であるポケモントレーナーの少女で、自称『氷の魔女』。
 サトシのいとこであり、タケシと同世代でありながら、家族が少なかったサトシからは「ミライ」と呼ばれ、実の姉のように慕われている。彼女自身にとってもサトシは実の弟のような存在であり、幼い頃からサトシの事をよく知っている。
 いつも明るさとユーモアを忘れず、才色兼備で思いやりのある誰にでも好かれるタイプの美少女だが、意外にも猫舌。カンが鋭い。口癖は「〜、なんてね」。

[590] SECTION01 ヒカリとハルナ! 師弟の形!
フリッカー - 2008年07月09日 (水) 21時41分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。


SECTION01 ヒカリとハルナ! 師弟の形!


 ノモセジムでのサトシのジム戦は、サトシの完全勝利。サトシは見事4つ目のバッジをゲット!
 そしてあたしはというと、旅の途中でとっても食いしん坊なウリムーと出会ったの。あたしの作るポフィンが気に入っちゃったらしくて、その食べっぷりを見たら、あたしも嬉しくなっちゃった。そんなウリムーとあたしは打ち解けて、最後にはウリムーをゲット! 新しい仲間がまた1匹増えた。
 サトシのグライガーも、グライオンに進化。そんなあたし達は、サトシの次のジム戦のために、ヨスガシティに向かっていた……

 * * *

 いつものように、あたし達は森の中の道を歩いていた。すると、目の前の視界が開けた。見るとそこには、大きな町並みが広がっている。
「見て! 町だわ!」
 あたしは思わず声を上げた。
「ふむふむ、ここはアカガネシティか」
 ガイドブックを見ながら、タケシがつぶやいた。
「よし、ちょうど食事の材料も揃えたかったし、今日はここで一休みするか」
「さんせ〜い!」
 タケシの言葉にあたしはサトシと声を揃えて言った。
「じゃ、行こっ、ポッチャマ!」
「ポチャマ!」
 足元にいるポッチャマにそう言って、あたしとポッチャマは真っ先に町へ向かって飛び出した。町に着くと、いつもワクワクする。タケシも材料を揃えたいって言ってたけど、あたしもやりたい事がいっぱいある。どんな所に行こうかな……? 考えるだけで楽しくなっちゃう。
「うわあ〜〜〜〜っ!!」
 その時、突然の誰かの空を裂くような叫び声が、あたしを現実に引き戻した。女の子の声。それも、聞き覚えのある声だった。あたしは思わず足を止めた。
「何だ、今の声!?」
 サトシ達も気付いて、足を止めた。
「あの声……まさか!! 行くわよポッチャマ!!」
 間違いない。あの声は……! そう確信したあたしは、ポッチャマと一緒に声のした方向に向かっていった。「あっ、ちょっと待てよ!」とサトシ達も続く。

 声のした方向に草をかき分けながら向かっていくと、森の開けた場所に出た。
「あっ!!」
 その光景を見て、あたしは思わず足を止めた。
 誰かが野生ポケモンに襲われてる! 群れを成して唸っているのは、ダークポケモン・デルビル。その反対側には、腰を抜かして尻もちをついている泣き顔の赤い髪の女の子と、デルビルを強く睨むいんせきポケモン・ルナトーン。その姿は、あたしの思った通りのものだった。
「ハルナ!!」
 そう、コンペキタウンで出会った、左利きの新人ポケモンコーディネーター。あたしのファンで、あたしに対してはいつも敬語を使って、周りから見たらバカだって思われてるんじゃないかなって思うくらい、あたしを慕ってくれる。コンテストの失敗で落ち込んでいたあたしを見ても、失望しないで励ましてくれた。コンテストの事も少し教えたせいか、『ヒカリさんの一番弟子』って勝手に名乗るようにもなっちゃった。
「ル、ルーナ!! “ねんりき”!!」
 慌てて指示を出すハルナの指示に答えて、ルナトーンのルーナはデルビルに向けて念じ始める。でも、あくタイプのデルビルは微動だにしない。
「そ、そんなぁ!! なんで効かないのよぉっ!!」
 ハルナは完全にパニック状態になってる。ルーナも動揺してる。エスパータイプのわざがあくタイプには全く効かないって事も忘れちゃってるんだ! そんなハルナ目掛けて、デルビルが一斉に火を吹いた! “かえんほうしゃ”だ!
「た、たた、助けてヒカリさああああんっ!!」
 とうとうハルナはそんな事を叫んだ。こんな時にもあたしの名前を叫ぶなんて、って考えてる場合じゃない。とにかく助けないと!
「ポッチャマ、ハルナを助けて!! “がまん”!!」
「ポチャマアアアアッ!!」
 気が付くと、あたしはポッチャマに指示を出していた。ポッチャマはハルナとデルビルの群れの間に割り込む。そして、デルビルの“かえんほうしゃ”を生身で受け止めた。
「ポオオオオ、チャアアアアアアッ!!」
 そして、ポッチャマはそれを力に変えて思い切り跳ね返した! 倍返しになったパワーが爆発して、デルビルをまとめて弾き飛ばした! 驚いたデルビルの群れはザッと下がった。
「え……!?」
 ハルナがポカンと目を丸くしていた。何が起きたのか全然わかってないみたい。
「ハルナ、もうダイジョウブ!」
 あたしはすぐにハルナの側に行って、笑顔を見せた。
「ヒカリ、さん……? わああああああっ!!」
 あたしの顔を見たハルナは、信じられないような顔をしたと思うと、すぐに声を上げてあたしの胸に飛び込んできた。
「来てくれた……本当に来てくれた……感激です……っ!!」
 ハルナはあたしの胸で泣きながらそう言った。本当はたまたまその場を通りかかっただけ、って言いたかったけど、ハルナの夢を壊しちゃいそうだから、言わない事にする。
「ダイジョウブ。あたしが来たからには、もうダイジョウブだから!」
 あたしはハルナの背中をポンポンと優しく2回叩いてハルナを落ち着かせてから、デルビルの群れに顔を向けた。デルビルの群れはポッチャマとにらみ合いになってる。
「あのポケモン、ルーナの攻撃が全然効かないんです! どうしたらいいんですか!」
「落ち着いて! あくタイプのデルビルには、エスパーわざは効かないのよ!」
 怯えた声を出すハルナに、あたしはそう言い聞かせる。それを聞いたハルナは、「あっ、そういえば……」と言葉を漏らした。やっと落ち着いてきたみたい。
「ハルナ、エクリプスを出して! エクリプスなら、デルビルに勝てるわ!」
「あ、はい!!」
 ハルナはすぐにあたしから離れて、左手でモンスターボールを取り出した。それを開けると、ふうせんポケモン・プリンのエクリプスが飛び出した。ポッチャマの横に並ぶエクリプス。
「“ころがる”や“みずのはどう”なら、デルビルには効果抜群よ!」
「そうですか……よ〜し!!」
 あたしの言葉を聞いたハルナは、目の涙を腕で拭いて、きりっとした目付きで、デルビルをにらむ。さっきまでの泣き顔は、ウソのように消えていた。
「行くわよハルナ!!」
「はいっ!!」
 あたしが呼びかけると、ハルナははっきりとした返事をした。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「エクリプス、“みずのはどう”!!」
 あたし達の指示で、ポッチャマとエクリプスは一斉にデルビルに向けて攻撃開始! ポッチャマの“バブルこうせん”がデルビル達をなぎ払って、エクリプスの“みずのはどう”がデルビル達を吹き飛ばす! 効果は抜群! “みずのはどう”の追加効果で、『こんらん』したデルビルも何匹かいた。
「ほら、ハルナだってやれるじゃない!!」
「ありがとうございます!! エクリプス、ヒカリさんに褒められたよ!! じゃ、続けて行くよエクリプス!!」
 ハルナはすっかり自信を取り戻している。それに答えるように、エクリプスが飛び出した。
「“ころがる”攻撃っ!!」
 エクリプスは体を丸めて、そのまま地面を猛スピードで転がり始めた! そのままデルビルの群れに飛び込んで、まるでボウリングのようにまとめてデルビルを弾き飛ばした! 効果は抜群! そのまま一度離脱するエクリプス。
「もういっちょ!!」
 ハルナの指示で、エクリプスは転がったまま反転する。そのまま、もう一度デルビルの群れに飛び込んだ! そして、またボウリングのピンのように跳ね飛ばされるデルビル達。効果は抜群! それに、“ころがる”は確か、連続で当てれば威力が上がっていくはず!
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
 あたしも負けてられない! あたしは思い切り指示を出した。
「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 ポッチャマは両手を上げて、頭の上に大きな水の渦を作り出す。渦ができる一瞬、ポッチャマの体が光って見える。
「ポッチャマッ!!」
 そして、それをポッチャマは思い切り投げつける! 水の渦は、たちまちデルビルをまとめて飲み込んだ! 効果は抜群! 水の渦が治まると、デルビル達は懲りたのか、一目散に森の奥へと逃げて行った。
「やったあっ!! 勝った勝った〜っ!!」
 ハルナはエクリプス、ルーナと一緒に飛び上がって喜んだ。あたしもほっとした。
「ありがとう、ポッチャマ」
「ポチャマ!」
 そう一言言うと、ポッチャマも笑顔で答えてくれた。
「本当にありがとうございました、ヒカリさん!」
 ハルナはあたしの前で丁寧にお辞儀した。ルーナとエクリプスも一緒にお辞儀した。
「そんな、がんばったのはハルナよ」
「キャハッ! みんな、ヒカリさんに褒められたよ!」
 ルーナ、エクリプスと顔を合わせて、満面の笑顔を浮かべるハルナ。
「相変わらず元気そうだな、ハルナ」
 そこに、サトシ達が出てきた。それを見たハルナは、「サトシに、タケシも!」と声を漏らした。
「そうだ、ヒカリさん! ミクリカップ見ましたよ! ミクリカップ優勝、おめでとうございます! ハルナ、信じてました!」
 ハルナは思い出したように、あたしの両手を取って、そんな事を言った。
「ありがとう、ハルナ。応援してくれたお陰よ」
 あたしは笑顔で答えた。これだけの笑顔、ハルナに見せた事があったかな、って思えるくらいの笑顔で。
「ポチャマ!」
 ポッチャマも胸を張ってハルナに答える。
「そんなぁ、ハルナはヒカリさんの実力を信じてただけですよ……」
 ハルナは、ちょっぴり照れて顔を赤らめた。「信じる」か……あの時は「信じるとか言われるような人じゃない」って言っちゃったけど、今は全然違って聞こえる。
「俺もミクリカップに出てたんだぜ!」
 そこに、サトシが割って入ってきた。
「うん、知ってるよ。ヒカリさんと交換したブイゼルででしょ。さすがはヒカリさんの育てたポケモンだったね」
 ハルナは得意気に答えた。
「そうだろ! 俺だって……」
 サトシが胸を張って鼻を高くして答えた。
「でも、やっぱりヒカリさんにはかなわないね。ヒカリさんの方が、ポケモンにきれいに魅せるのはずっとうまいわ。やっぱり『餅は餅屋』って事よ」
 でも、そんなハルナの付け足しを聞いたサトシは、拍子抜けしてズルッとこけそうになった。
「そ、そんな言い方ないだろ!」
「それって、負け惜しみ……?」
 反論するサトシに、向かい合ってニヤリと怪しく笑いながら答えるハルナ。そんな2人のやりとりを見たあたしは、何だかおかしくてクスッと笑っちゃった。
 そんな時、あたしの様子を遠くから見つめる1つの大人がいた事には、あたしは気付いていなかった。
「あの子は……」

 * * *

 あたし達は、ハルナと一緒にアカガネシティに入って、公園で一休みを取る事になった。
 みんなでポケモン達を出して、一緒に遊ばせる事にしたの。もちろん、その中にはゲットしたばかりのウリムーもいる。
「へえ、ウリムーをゲットしたんですか」
 ウリムーの前でしゃがむハルナは、感心していた。
「そうなのよ。つい最近ね」
 答えるあたしの足元で、ウリムーも「ウリ」と一言ハルナに挨拶する。
「クレセントは元気にしてる?」
 今度はあたしが聞いた。
「もちろんです! ヒカリさんからもらったポケモンですから、大事に大事にしています!」
 ハルナの足元から、どくばりポケモン・ニドラン♂のクレセントが元気そうな顔を見せた。クレセントは、前にあたしがハルナに『プレゼント』として、譲ってあげたポケモン。大事にしてくれててよかった。
「見ろよ! 俺のグライガーだってグライオンに進化したんだぜ!」
 奥から、サトシの得意気な声が聞こえる。サトシの横には、グライガーから進化したばかりのグライオンがいる。
「……あっ、そう」
 グライオンを見たハルナは、興味なさそうに冷たく答えただけで、すぐウリムーに顔をむき直した。そして、顔色を変えて何事もなかったかのように「ウリムー、なかなかかわいいじゃな〜い!」とウリムーをなで始めた。
「やっぱりヒカリのポケモンにしか興味ないのかよ……」
 サトシはがくりと肩を落とした。横にいるピカチュウは、苦笑いしていた。サトシ、ハルナに尊敬されるあたしがうらやましくて、自慢して尊敬されたいのかな? 何だか子供みたい。
「そうだ! ポフィンの時間にしようよ!」
 ハルナが思い出したように声を上げると、ハルナのポケモン達は飛び上がって喜んだ。ハルナは早速、ポフィンの用意をする。
 そんなハルナを見ていたあたしは、あの時の事を思い出した……

 * * *

 それは、コンペキタウンにいた時の事。
 あたしは公園でベンチに座って、隣にいるノゾミとこんな話をしていた。
「ねえノゾミ……あたしって、ハルナのちゃんとした鏡になれてるのかな……?」
 自信がなかったその時のあたしは、突然『あたしのファン』が現れた事が不思議だった。いくらハルナが尊敬してくれてるとは言っても、それと思い知らされたあたしの実力が噛み合わなくて、尊敬されてる実感が全然なかった。コンテストの事も教えたけど、ちゃんと教えてあげられたかどうか不安。ハルナは、こんなあたしのどこが気に入ったのかな、なんて事を考えていた。
 すると、ノゾミはこう答えた。
「何言ってるんだ。ファンがいるって事はいい事じゃないか。力をもらえる人がいるんだからさ」
「えっ?」
「ファンの応援があったら、それに答えようとがんばろうって気にならないのかい?」
「……!」
 その質問を聞いて、あたしははっとした。少し間を置いて、ノゾミは話を続けた。
「応援してくれる人がいるって事は、それだけで心強いじゃないか。だからヒカリ、ハルナの事は大事にしな」
「そうね……」
 それを聞いて、あたしはちょっぴりだけど勇気が出てきた。

『そんなに落ち込まないでくださいよ! ハルナ、ヒカリさんはあんなものじゃないって信じてますから!』
『ヒカリさんの悩みは、ハルナの悩みです! 世界中のみんながヒカリさんをバカにするようになっても、ずっとヒカリさんを信じます!』
『ハルナ、いつでも応援しますよ! ハルナ、信じてますから! 次は必ず勝てるって!』
 そんなハルナの言葉が頭に浮かぶ。
 ハルナのあたしを信じる心は、間違いなくあたしの力に変わった。それがあったから、コンテストの事をあきらめないで続ける事ができたんだと思う。

 * * *

「ああ〜っ!! ちょっとちょっと〜っ!!」
 そんなハルナの叫び声が、物思いにふけっていたあたしを現実に引き戻した。
 見ると、ウリムーがハルナのポケモン達が食べようとしていたポフィンをガツガツと食べてる! いけない!
「こらウリムー! ダメでしょ!」
 すぐにあたしはウリムーをポフィンから引き離した。いけないいけない、ウリムーは大食いだから、目を離したら……
「ポチャ……」
 すると、足元でポッチャマがさみしそうな表情を浮かべた。そうか、ポフィンが食べたいんだ。
「ダイジョウブ。ちょうどみんなにもあげようって思ってた所よ。みんなちょっと待ってて」
 そう言って、あたしはすぐにポフィンを用意してあげた。作るのを忘れてた訳じゃないよ。ポケモン達を遊ばせる時にはいつもポフィンは欠かさないからね。いつものように器に盛り付けて、ポッチャマ達に持っていく。
「はい、どうぞ」
「ポチャチャ〜ッ!」
「ミミロ〜ッ!」
「チパチパ〜ッ!」
「エポエポ〜ッ!」
 器を置くと、みんなは嬉しそうに声を上げて、早速ポフィンを食べ始めた。そして最後に……
「これ、ウリムーの分ね」
 他のみんなの分とは違う、大きな器に盛り付けた山盛りいっぱいのポフィン、というか小さな箱まるごといっぱいって言った方がいいのかもしれない。とにかく、それだけ多いポフィンが入った大きな器を、ウリムーの前に置いた。それを見たハルナは、驚きの表情を見せた。
「ウリウリ〜ッ!!」
 ウリムーは早速、山盛りのポフィンをフードファイターのような食べっぷりでガツガツと食べ始めた。そんなウリムーを見て、ハルナは目を丸くしていた。
「こ、これ全部食べられるんですか……!?」
「そうなの。ウリムー、とっても食いしん坊なのよ」
「す、すご〜い……さすがヒカリさんのポケモンだあ……」
 ハルナはそんないつもの言葉を、いつもと違って唖然とした口調でしゃべった。ハルナはしばらく、ウリムーの食べっぷりに見とれていた。
 これだけポフィンを作るのは、そりゃもちろん大変。でも、こうやってあたしの作ったポフィンをガツガツ食べるウリムーの食べっぷりと言ったら……見てると何だか嬉しくなっちゃう。そこが、ウリムーの気に入った所なんだけどね。
「あの、そういえばヒカリさん」
 ハルナが思い出したようにあたしに聞いた。
「何?」
「実はハルナ、もうすぐここで開かれるお祭りコンテストに出るんです」
「へぇ、お祭りコンテストが開かれるんだ」
 お祭りコンテストっていうのは、非公式のポケモンコンテストの1つ。もちろん優勝リボンはグランドフェスティバル出場へのカウントには入らない。アマチュアでやってるコーディネーター以外にも、公式のコンテストの練習として出ているコーディネーター(実際、あたしもそんないきさつで非公式のコンテストに出た事があった)や、将来的に公式のポケモンコンテストにでたいって思っているコーディネーターもよく出てるんだとか。
「どうして出ようって思ったの?」
「ハルナ、コンテストの練習のために出ようって思ってるんですけど、わからないんです」
 急に、ハルナの表情が曇った。
「わからないって、何が?」
「エクリプスとクレセントで出るつもりなんですけど、どんな演技をさせようか、全然思いつかないんです。ルーナの演技は簡単に思いつくのに、エクリプスとクレセントのだけは、どうしても……」
 うつむきながら話すハルナ。その足元で、エクリプスとクレセントが肩を落としていた。
 ハルナの悩みの理由が、あたしにはすぐにわかった。ハルナは、まだエクリプスとクレセントの事をよく知らないんだ。
「ヒカリさんだったら、エクリプスとクレセントをどうやって魅せます?」
 ハルナが聞いてきた。教えてあげなきゃ、あたしがミクリ様から教わった事を。そうすればハルナも……
 あたしは初めて、自分から『師匠』(ハルナが『弟子』って言うなら……)らしい事をハルナにしてあげようと思った。今まであたしはハルナに助けられっぱなしだった。だから、今度はあたしがしっかりしないと!
「ハルナ、モンスターボールとボールカプセルを出して」
「はい! 何かいい方法があるんですか?」
 ハルナは期待するような目付きで、ためらいもなく3つのモンスターボールとボールカプセルをあたしに差し出した。それを受け取るあたし。
「これは全部、あたしが預かっておくわ」
「え?」
 ハルナは、声を裏返した。
「いい、ハルナ。これからあたしがいいって言うまで、エクリプスとクレセントをモンスターボールに入れちゃダメ。それまで、コンテストの練習もしちゃダメよ」
「ええっ!? それってどういう事ですか!?」
 ハルナは、突然のあたしの言葉に驚きを隠せなかった。サトシとタケシも驚いていた。そして、エクリプスとクレセントには、こう言った。
「エクリプスとクレセントは、コンテストの事忘れて、遊んでていいからね!」
 それを聞いたエクリプスとクレセントは、嬉しそうな声を上げて、早速公園のどこかへと走り出した。
「あっ!! ちょっと待って2匹共〜っ!!」
 ハルナが慌てて後を追いかける。たちまち1人と2匹の追いかけっこが始まった。そうそう、そうすればいいの。あたしは心の中で、そうつぶやいていた。
「どういうつもりなんだ、ヒカリ? どういう風にやればいいか、教えてやればいいじゃないか」
 サトシが、心配そうにあたしに聞いてきた。
「ダイジョウブダイジョウブ。これも『作戦』だから」
「そこのお嬢ちゃん」
 あたしが普通に答えた時、別の声が割って入った。大人びた女の人の声。声のした方向を見ると、腰まで伸びた金髪に、きれいな顔立ちの女の人が立っていた。外見はとてもきれい。でも、その表情は少しひきつっている。あたしには、全然見覚えのない人。
「何ですか……?」
 あたしは恐る恐る聞いてみる。
「フタバタウンのヒカリって言ったね。あんた、いくら弟子がいるからって言って、調子に乗るんじゃないわよ」
「えっ!?」
 いきなり言われた鋭い言葉。鋭い視線が突き刺さる。あたしは、この女の人に嫌われてる?
「何なんですか! ヒカリは調子に乗ってなんか……!」
 サトシが言い返す。
「いくら1つリボンを取ったからって、復活した気になるんじゃないわよ。本当に復活したと思っているなら、1つでも多くのリボンを取る事が、大事なんじゃないの?」
 サトシの言葉を無視して、女の人は鋭い言葉を返す。あたしは何か言い返そうとしたけど、できなかった。その言葉に、間違いはないって気がしたから。しばしの沈黙。でも、すぐにタケシが目の色を変えて割って入ってきた。
「いいえっ!! ヒカリが調子に乗っているという事は決してありません!! むしろあなたに惚れた自分の方が調子に乗りたいです〜っ!!」
 またいつものあれが始まった……訳わからない言葉を聞いて、女の人は目を丸くしていた。でも、そうしていると……
「ぐっ!? シ……ビ……レ……ビ……レ……」
 グレッグルの“どくづき”。タケシの顔はたちまち青ざめて、その場にバタリと倒れた。そんなタケシを、グレッグルがズルズルと引っ張ってその場から離れていった。気まずい空気が、辺りに漂う。
 それは、甲高い鳴き声で引き裂かれた。鳴き声がした方向を見ると、そこには2匹のムクバードがいた。片方は、見慣れたサトシのムクバード。でも、もう片方は色が違う見慣れないムクバードだった。体の色は、サトシのと違って明るめ。そんな明るい色のムクバードは、花を加えて何かサトシのムクバードに必死で訴えている。サトシのムクバードの方は、何だか唖然としてたけど。
「行くよ、ムクバード」
 女の人の呼びかけで、明るい色のムクバードははっとして女の人を見た。そして、花をサトシのムクバードの前に置いてウインクすると、女の人の所に戻って行った。そのまま去っていく女の人。唖然としたままのサトシのムクバード。
「誰、今の人……?」
「さあ……?」
 あたしとサトシは、そんな言葉を漏らすしかなかった。

 * * *

 次の日。
 あたし達は、ハルナと一緒に同じポケモンセンターに泊まった。あたしはハルナと同じ部屋で夜を過ごしたけど、そんな中で、あたしの心で1つの思いが膨らんできていた。ハルナと、ポケモンコンテストで勝負してみたいって。
「ヒカリもお祭りコンテストに出るのか?」
 朝のロビーで、あたしはこの事をサトシとタケシに話した。
「うん。何だか、ハルナとコンテストで勝負してみたくなっちゃったの。それに、ウリムーにコンテストがどういうものか、見せてあげたいし」
 足元でガツガツとご飯を食べているウリムーに目をやる。ゲットしたばかりのウリムーは、コンテストの事を知らない。だから、ウリムーにコンテストを見せてあげられるいい機会になるって思ったの。
「ヒカリさ〜んっ!」
 そこに、ハルナがあたしの所に走ってきた。エクリプスとクレセントを連れて。
「どうしたのハルナ?」
「ヒカリさん、何だか不思議です。エクリプスとクレセントと遊んでたら、何だか演技のアイデアが思いついちゃいました」
 突然の報告に、あたしはちょっと驚いた。こんなに早く来るなんて、思ってもいなかったから。でも、あたしの教えたい事がしっかり伝わったんだ! あたしは嬉しくなった。
「じゃ、モンスターボールとボールカプセルは返すわ。コンテストの練習もしていいよ」
「えっ!?」
 あたしは、預かっていたモンスターボールとボールカプセルをハルナに差し出した。そして、あたしはハルナに初めて『師匠』らしくこう話した。
「いい、ハルナ。ポケモンをきれいに魅せるには、そのポケモン『らしさ』が大事なの」
「らしさ……ですか?」
「うん。ただきれいに魅せようとしたり、派手に魅せようとしたりしてもダメ。『らしさ』をうまく引き出せれば、ポケモンとコーディネーター自身の『個性』も出て、本当にいい演技ができるって、あたしも教えられたの。だからハルナ、ポケモンをきれいに魅せたいなら、まずはそのポケモンの事を知らなきゃダメなのよ」
 あたしはミクリ様から教わった事を、ママの言葉も合わせて、しっかりと伝えた。
「そうか……だからヒカリはああやってハルナとポケモン達を遊ばせて、ハルナにその事を学ばせようとしたんだな!」
 タケシが感心して言った。
「わかりました! 肝に銘じておきます! じゃ、やろう! エクリプス、クレセント!」
 ハルナははっきりと答えた後、モンスターボールとボールカプセルを取って、エクリプスとクレセントを連れて、ロビーを駈け出して行った。早速練習するのね。
「そんな教え方もあるんだね」
 すると、あたしの後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。そこには、色違いムクバードを連れたあの時の女の人が! あたしはギクッとした。
「あなたは……!」
 あたしはまた、何か言われるんじゃないかと思った。でも、女の人が出した言葉は、あたしが思ってたのとは全然違うものだった。
「あの時はすまなかったね、お嬢ちゃん。あんな厳しい事言っちゃって。あたしの悪い癖なんだ」
「えっ……?」
 もしかしてこの人、あたしに謝ってる?
「でも、さっきのやり取りを見て確信したよ、あんたは噂通りのコーディネーターだってね」
「そ、そんな……」
 噂通りって言われると、こっちも照れちゃう。とにかく、嫌ってる訳じゃないってわかって、あたしはほっとした。
「あたしはフラット。あんたと同じ、ポケモンコーディネーターさ」
 その自己紹介に、あたしは驚いた。自分と同じポケモンコーディネーターだったなんて……でも、それならあの時言った事も不自然じゃない。
「俺、サトシです」
「ピカ、ピカチュ!」
 サトシとピカチュウも自己紹介する。すると今度は、またタケシが目の色を変えてフラットさんの前に現れた。
「自分はタケシと申します。どうかあなたの演技で、自分の心を魅了してください……!!」
 相変わらずタケシはアタックをかける。でも、そうしてるとまた……
「ぐっ!? シ……ビ……レ……ビ……レ……」
 グレッグルの“どくづき”。タケシの顔はまた青ざめて、その場にバタリと倒れた。そんなタケシを、グレッグルがまたズルズルと引っ張ってその場から離れていった。
「な、何なんだい、今のは……?」
「ま、まあ、気にしないでください……」
 フラットさんがこぼした言葉にフォローを入れるあたし。しばしの沈黙。気まずい空気が漂う。
 それを引き裂いたのは、またムクバードの声だった。見ると、サトシのムクバードが、フラットさんの色違いムクバードに追いかけ回されている。何をやっているのかは知らないけど、フラットさんのムクバードの目付きは、まるでピカチュウが好きなあたしのミミロルみたいに見えた。
「あれ、何やってんだ、あの2匹?」
 サトシが首を傾げた。
「あらあら、ムクバードは、あんたのムクバードに一目惚れしたみたいだね」
 フラットさんの顔に少し笑みが浮かんだ。そうか、フラットさんのムクバードも、あたしのミミロルみたいに……
「ところで、あんたも今度のお祭りコンテストに出るらしいね」
 フラットさんが話題を切り出した。その表情は、最初の時よりも緩んでいる。
「あ、はい! そうですけど……」
「実は、あたしもそれに出るんだ。あんたとは、競い合うライバルって事になるね」
 そんな事を言うフラットさんだけど、その表情はどこか嬉しそうだった。
「この目で実力を拝借させてもらうよ、ヒカリ」
 フラットさんは初めてあたしを名前で呼んだ。右手を差し出すフラットさん。
「はい、よろしくお願いします!」
 あたしも右手を出して、力強く握手した。
「よし、じゃあ早速練習しないと!」
 ハルナの話じゃ、コンテスト開催まではまだ時間がある。その間に、万全の準備をしておかないとね! ポケモン達もご飯が終わったみたいだし、早速あたしは練習の準備のために、ロビーを飛び出した。


TO BE CONTINUED……

[595] SECTION02 全員集合! お祭りポケモンコンテスト!
フリッカー - 2008年07月17日 (木) 17時42分

 遂に、お祭りポケモンコンテストの当日がやってきた。
「よし、ダイジョウブ!」
 控室でいつものドレスに着替えて、髪を後ろで縛って身だしなみを整えたあたしは、鏡に映る自分にそう言い聞かせて気を引き締めた。
「ヒカリさん」
 そこに、ハルナがやってきた。ハルナも、コンペキタウンのコンテストの時に来ていたものと同じ、三日月が描いてある緑色のドレスに着替え終わっている。
「ハルナ、緊張とかしてない?」
「ダイジョウブです! 今までヒカリさんと一緒に練習してきたんですから、それを信じて進むだけです!」
 そうはっきりと答えるハルナの顔は、緊張している様子はなかった。こういうのはハルナらしいな、って思った。
「あら、こんな所で会うなんておっどろき、なんてね!」
 すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くとそこには、来てくれたサトシとタケシの真ん中にいる、水色の髪に青い服の、見ただけで美人だとわかる、見覚えのある女の人が。その足元には、しんせつポケモン・グレイシアが。
「ミ、ミライさん!?」
 あたしは驚いた。その女の人は、間違いなくサトシのいとこ、ミライさんだったんだから!
「戦う理由は見つかったようね、ヒカリちゃん」
 ミライさんは、あたしの前でほほ笑んだ。


SECTION02 全員集合! お祭りポケモンコンテスト!


 ミライさんはこおりタイプポケモンの使い手で、『氷の魔女』って名乗ってる。ヨスガシティを出た辺りで知り合ったのが最初。あたし達と違って目標っていうのは特になくて、ただ自由気ままに旅をする事自体を楽しんでるみたい。だから、一緒に旅をしていたあたしの顔馴染・カズマと別れても旅を続けてるって話。明るくて面白い人だけど、頭もよくて、カンも鋭い。最初に会った時には、サトシが仲間を大事にする理由をあたしに教えてくれた。あたしがズイタウンのコンテストの失敗を引きずって、サトシ達と勝手に別れた事があったけど、その時も「それよりも、みんなについて行って、いい刺激をもらう方が今のヒカリちゃんにはいいと思うけどなあ?」って言って、あたしを引き戻してくれた事もあったっけ。
「ヒカリさん、この人は?」
 ハルナが、あたしに聞いた。
「ハルナちゃんって言ったね。あたしはミライ。人呼んで『氷の魔女』。よろしくね」
 ミライさんが、自分から自己紹介した。
「あっ、『ヒカリさんの一番弟子』のハルナよ。よろしく!」
「ちょ、ちょっとハルナ……」
 ハルナも、慌てて自己紹介する。相変わらずその言葉には驚いたけど。
「フフフッ。『一番弟子』だなんて、よかったじゃないヒカリちゃんも」
 ミライさんがクスッと笑った。サトシやタケシも笑っていた。あたしはちょっと恥ずかしくなったけど。
「ミクリカップ見てたわよ。復活優勝おめでとう、なんてね!」
 あたしの前に出たミライさんは、そう言ってあたしにウインクしてみせた。
「あ、ありがとうございます」
「ほら、ここにもドーンと載ってるわよ。見事に汚名返上じゃな〜い!」
 ミライさんは1枚の新聞をあたしに見せながら、からかうようににやけながら肘であたしをつついた。それは、前にあたしも偶然見た『週刊ポケモンジャーナル』だった。そこには、あたしの写真と一緒に、『どん底からの完全復活! フタバタウンのヒカリ、ミクリカップで見事優勝!』と大きく書いてある。
「そんなぁ、あたしなんてまだまだです……」
 ちょっぴり照れたあたしは、そう言葉を返した。
「やっぱりヒカリちゃん、変わったわね。何だか、顔付きから変わって見えるわ。一時はどうなるかと思ったけど、これであたしも一安心、なんてね!」
 ミライさんは手を引っ込めて、感心してつぶやいた。そういえば、ミライさんはどうしてここに……? 応援しに来てくれたのかな?
「あの、ミライさんもコンテストを見に来たんですか?」
 素直に聞いてみる。
「はずれ〜」
 ミライさんはいつもの軽いノリで、両腕で×印を作って答えた。えっ、じゃあ……?
「ミクリカップでヒカリの活躍を見てから、ポケモンコンテストがどういうものか体験したくなって、エントリーしちゃったんだってさ」
 サトシが答えた。
「ええっ!?」
 あたしは驚いた。ミライさんがコンテストに……!?
「自分でいろいろコンテストの事勉強して、練習もしてみたわ。どこまで通用するかわからないけど、初心者なので相手になったらどうかお手柔らかに、なんてね!」
 ミライさんがほほ笑んだ。
「ミライならやれると思うぜ!」
「ありがと、サトシ。サトシにできて、あたしにできないはずがない、なんてね!」
 ミライさんがサトシとそんなやり取りをした時、フラットさんが現れた。
「あらあら、お友達かい?」
「フラットさん」
 フラットさんは、飾りのないクリーム色のドレスを着ていて、長い髪を軽くまとめていた。
「あたしの知り合いのミライさんです。コンテストに挑戦するのは初めてなんです」
 あたしはミライさんをフラットさんに紹介する。
「初めましてフラットさん。あたしはミライ、人呼んで『氷の魔女』です」
 年上の人の前なのか、ミライさんはいつもの明るさを残しつつも丁寧に自己紹介した。すると、フラットさんの顔がひきつった。
「あんた、そうやって鼻を高くしてると、いずれ痛い目に逢うよ。ポケモンコンテストっていうのは、そんな甘いものじゃないんだからね」
 あたしと会った時と同じように、愛想のない言葉をかけるフラットさん。あちゃー、と思って何かフォローしてあげようと思ったけど、言葉が思いつかない。
「別に威張るつもりはありませんよ。あたしはこおりポケモンが大好きなだけです。雪とか氷とかって、とてもきれいじゃないですか。そういう所が好きなんです。それを、コンテストでも活かせたらなあって思ってるんです。うまくできるかどうかはわかりませんけどね」
 それでも、ミライさんは怒る事もなく、落ち着いた様子でフラットさんに話す。それを聞いたフラットさんの表情が緩んだ。
「それに、コンテストが甘いものじゃないって事は、ヒカリちゃんが身をもって教えてくれましたから」
 ミライさんの顔があたしに向いた。あたしはちょっと驚いたけど。
「そうか……すまなかったね」
 フラットさんの表情が戻った。
「こう見えても、ミライはジムリーダー候補に抜擢された事があるんですよ!」
 サトシがそんな事を言った。
「そうだったのかい。それは楽しみだね」
「そんな訳で、今回はよろしくお願いしますね」
 ミライさんは、右手をフラットさんに差し出す。フラットさんも右手をのばして、2人はしっかりと握手を交わした。
「何だかこのコンテスト、にぎやかになりそうですね」
「そうね。ハルナ、悔いのないようにがんばりましょ!」
「はいっ!!」
 ハルナは、あたしの言葉にはっきりと返事をした。

 * * *

 いよいよコンテスト本番。会場はたくさんの観客でごった返していた。ステージの奥には、いつもとは違う司会と審査員が並んでいる。
「さあ、いよいよ始まりました、アカガネシティ・お祭りポケモンコンテスト! それでは、まずはルール説明から始めましょう。まずは、ポケモンのわざを使ったアピールを行う1次審査を行います! そして、その中から厳正なる審査で選ばれた4人が、2次審査に進出! コンテストバトルによるトーナメントを行います!」
 司会の高らかなアナウンスが、会場に響き渡る。
「そして、見事このコンテストの優勝に輝いた方には、このアカガネリボンが授与されます!」
 司会の人は左手でリボンを高く掲げる。そのリボンは、銅色の飾りがついた、緑色のリボンだった。
「それでは、アカガネシティ・お祭りポケモンコンテスト、張り切って行ってみましょう!!」
 司会の言葉に合わせて、会場が大きな歓声に包まれた。

 そんな中で、あたしはすぐにステージに出られるように待機していた。そう、今回の一番手はあたしなの!
 モンスターボールにボールカプセルをセットして、さっと髪を整える。そして精神を集中する。
 この日が来るまでに、あたしはハルナと一緒に練習した。初めて会った時とは違って、あたしは積極的にハルナをコーチしてあげた。ハルナが教えて欲しいって言ったあたしが持ついくつかの演技も、ハルナに教えてあげた。
 もちろん、あたし自身も手を抜いてた訳じゃない。このコンテストは、今度開かれるカンナギタウンのポケモンコンテストの予行演習にもなる。今までのコンテストの経験を胸に、しっかりと練習を続けた。
『いくら1つリボンを取ったからって、復活した気になるんじゃないわよ。本当に復活したと思っているなら、1つでも多くのリボンを取る事が、大事なんじゃないの?』
 あたしはそんな事をフラットさんに言われたばかり。実際、ランクの高いヨスガ大会の時も、初めてリボンをゲットしたから「ダイジョウブ!」っていい気になってたせいで、1次審査を突破できなかったって今は思ってる。油断大敵っていうのはまさにこの事。
 その時と同じように油断してたら、せっかくハルナと勝負したいって思ってたのが、できなくなっちゃう。それに、がんばればまだやれるってわかったんだから、それを無駄にはしたくない! もっと自分を伸ばしたい! だから、非公式のコンテストだからって、手抜きなんてしたくない! このコンテストには、いつものように全力で挑むつもり! トップコーディネーターを目指すためにも、あの時励ましてくれたみんなのためにも!
「それでは、エントリーナンバー1番は、前回のミクリカップで見事優勝を収めた期待のコーディネーター、ヒカリさんです!」
 視界のアナウンスが響いた。よし、行こう! あたしはすぐに、駆け足でステージに飛び出した。ステージが歓声に包まれる。少しだけ目を観客席に向けると、あたしを応援してくれるサトシとタケシ、チアガール服を着たミミロルとエテボース、そしてポケモンコンテストというものを初めて見るウリムーがいる。
「ウリムー、見てて! これが、ポケモンコンテストよ!!」
 そう言って、あたしは身構えた。
「パチリス、チャームアーップ!!」
 あたしは、思いきりモンスターボールを投げ上げた。空中で空いたモンスターボールから、たくさんのハートマークが飛び出した。
「チッパーッ!!」
 その中から、パチリスが元気よく飛び出した。観客席から歓声が起こった。
「パチリス、今のステージの主役はあなたよ! 思いっきりやって!」
「チパ!!」
 あたしの言葉を聞いて、パチリスがうなずく。パチリスも慣れたものね。デビューの時は緊張して一時はどうなるかって時もあったけど、今はそんな事は全然ない。
「行くわよ、“てんしのキッス”!!」
「チッパ〜!」
 パチリスは投げキッスをして、大きなハートマークを高く打ち上げる。
「パワーを抑えて“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
 そこに、パチリスが電撃を撃ち込む。適度な強さで放たれた電撃を受けて、ハートはパンと炸裂した。「パワーを抑えて」って言ったのは、バランス調整のため。普通に強く撃ったら、炸裂が派手になり過ぎちゃうし、かといって弱過ぎたら、しょぼいものになっちゃう。ここのバランス調整は、一番練習の時苦労した所。
 炸裂したハートマークは、派手過ぎず、しょぼ過ぎず、シャボン玉のようにふわふわとステージ中に散らばった。辺りが和やかな空気に包まれる。そんなステージの上で、パチリスはかわいらしくダンスを始めた。
「す、素晴らしい……何とかわいらしいパチリスの姿なのでしょう!」
 司会のそんなアナウンスと一緒に、観客席から歓声が巻き起こる。
 今回の1次審査のテーマは、パチリスのかわいらしさをアピールする事。それが、うまく伝わったとあたしは確信した。何だか、ゲットした時に夢見てた、パチリスとの楽しいコンテストが、今ここで現実になったような気がした。
 ハートマークが割れたシャボン玉のように光の粒になって消える。ステージ中にきれいに降り注ぐ光の粒。その中で、パチリスはあたしの肩に飛び乗る。そして、あたしと一緒にポーズ。会場が拍手に包まれた。決まった!

「お疲れ、パチリス」
「チパ!」
 あたしは、肩にいるパチリスにごほうびのポフィンをあげながら、控室に戻った。
「お疲れ様です、ヒカリさん!」
「ポチャマ!」
 そこに、真っ先にハルナとポッチャマが駆け足でやってきた。
「ホント、凄かったです! パチリスがとてもかわいくて……さすがヒカリさんですっ!」
「ポチャポチャマ!」
 ハルナは興奮した様子でそうあたしに言った。ポッチャマもご満悦の様子。
「トップバッターを飾るのに、ふさわしい演技を魅せたと思うわ。まあ、後からやるこっちは緊張しちゃいそうな気もするけどね」
 後から来たミライさんも、そうコメントした。
「ありがとう、みんな。悔いのない演技ができたって、あたしも思ってるの。ね、パチリス?」
「チパ!」
 あたしは、ポフィンを口に頬張るパチリスと笑顔を交わした。
「……そういえば、フラットさんは?」
 あたしは、控室にフラットさんの姿がない事に気付いた。
「もうステージにいるわよ」
 ミライさんはそう答えて、ステージを映す画面に目を向けた。
『さあ! 続きましてはまたまた凄腕の登場です! エントリーナンバー2番、グランドフェスティバルにリーチをかけている、フラットさんです!』
 司会のアナウンスに合わせて、フラットさんがステージに姿を現した。グランドフェスティバルにリーチ……?
「ヒカリさん、フラットさんは強敵ですよ。もうリボンを4つ集めているんですからね!」
「えっ、そうなの!?」
 あたしは、ハルナの言葉に驚いた。ハルナは、コンテストに出場したポケモンコーディネーターの顔やそのプロフィールは、全部記憶している。実際、あたしと初めて会った時もプロフィールを当てられた。
『行ってきな! ロズレイド!!』
 フラットさんは、モンスターボールをステージに投げた。モンスターボールが開くと、たくさんの花びらが飛び出す。その中から、何か光るものが姿を現した。一瞬、何が出てきたのかわからなかったけど、その光るものはふわりと着地した時、ゆっくりと光を消して姿を現した。ブーケポケモン・ロズレイド。
「す、凄い……登場する時からあんな演出……」
 あたしは、思わず言葉を漏らした。
「あれは“こうごうせい”ね。モンスターボールに出す前から発動して、登場を演出するなんて、実力は本物みたいね」
 ミライさんがそんな事をつぶやいた。
『“はなびらのまい”!!』
 フラットさんの指示で、ロズレイドはピンク色の花びらを撒きながら、華麗に踊り始めた。ステージに舞う花びら。それとロズレイドの踊りは見事なまでにマッチしていた。まるで、映画のワンシーンを見ているような感じになった。あたし達は見とれて言葉を失っていた。
『次は“マジカルリーフ”!!』
 続けて、ロズレイドは両手を真上に上げて、キラキラと光る葉っぱを上に向けて発射する。
『フィナーレは“リーフストーム”!!』
 そして、ロズレイドは発射した“マジカルリーフ”に向けて“リーフストーム”を発射! “マジカルリーフ”は“リーフストーム”に刻まれて、飲み込まれていく。渦がキラキラと光ったと思うと、渦がゆっくりと消えていく。“リーフストーム”の葉っぱは、刻まれた“マジカルリーフ”と絶妙って言葉が相応しいくらいのコントラストで、ステージに降り注いだ。
『な、何という美しさ……一体何と言って表現すればいいのでしょうか……とにかく美しい……』
 司会の人もその美しさに目を奪われていた。観客の歓声も聞こえない。みんな、美しさに見とれて言葉が出ないんだ!
 ロズレイドはフラットさんの前で、一緒に丁寧なお辞儀をした。そこで、初めて拍手が起こった。
「……さ、そろそろ行かないと」
 画面の中のフラットさんを見届けてポツリとそうつぶやいた後、ミライさんは控室を出て行った。

『それでは、続きましてエントリーナンバー3番、今回コンテスト初挑戦となるミライさんです!』
 司会のアナウンスに合わせて、ミライさんがステージに登場した。でも、その表情にいつもの明るさは見られなかった。
「ミライ、緊張しちゃってるみたいですよ?」
「そうみたいね……」
 ハルナとそんなやり取りをする。ミライさんも緊張する事があるんだ。そりゃそうか、これが初めてなんだし、何よりフラットさんのあんな演技を見た後なんだもんね。
「ミライさん、しっかり!」
 思わず画面に向かって叫ぶあたし。一瞬、固まっちゃったのかと思ったら、ミライさんは深く深呼吸をした。
『後は行くのみ、なんてね!』
 そうつぶやいたミライさんの表情に、いつもの明るさが戻った。
『さあ、『氷の魔女』のショータイムよ!! 呼ばれて飛び出てグレイシアちゃんっ!!』
 いつもの軽いノリでモンスターボールを投げ上げるミライさん。開いたモンスターボールの中から、たくさんの雪の結晶が飛び出した。その中から現れたグレイシアは、ステージにサッと着地する。
『まずは下準備よ! “れいとうビーム”!!』
 ミライさんの指示で、まずグレイシアは“れいとうビーム”をステージの床に向けて発射した。床が凍りついて、いくつかの氷の山ができあがる。たちまちステージは氷に覆われた。
『“ふぶき”!!』
 グレイシアは“ふぶき”を真上に向けて発射した。風に乗ってステージの上に舞い上がっていく雪。雪は当然、重力に負けて落ち始める。それが、まるで本当に雪が降り始めたように見えた。氷のステージにしんしんと降り始める雪。グレイシアは真ん中に立っているだけだけど、それで充分だった。あたしはまるで、1枚の絵を見ているような感じになった。とても初めての演技にようには見えない。
『おぉーっ、これは見事です! こおりポケモンらしさを活かした、素晴らしいアピールです!』
 響く司会のアナウンス。観客席から歓声が上がった。
「やるじゃないか。『氷の魔女』は伊達じゃないって事ね」
 控室に戻ってきたフラットさんが、画面を見てつぶやいた。雪が止むと、グレイシアはミライさんの前に戻って、一緒にお辞儀した。会場が拍手に包まれた。やっぱりミライさんはただ者じゃない。あたしはそう思った。
「そういえば、次はハルナの番じゃないのかい?」
 そんなフラットさんの言葉を聞いたハルナが、ギクッとした様子を見せた。
「あ、そ、そういえばそうだった! ヤバい、支度しないとっ!」
 ハルナは、慌てて鏡の前で身だしなみを整え始めた。最初は緊張なんて全然してないように見えたハルナも、あたし、フラットさん、ミライさんの演技を続けて見て、緊張しちゃったみたい。ミクリカップでもあたしは直前になってあんな風になっちゃってたっけ……
「ハルナ」
 あたしは、ハルナに優しく声をかけた。ハルナは手を止めて、こっちを向く。
「今まで一緒に練習してきたじゃない? それを信じるってさっき言ってたでしょ」
「ヒカリさん……」
「ハルナならできるよ! ダイジョウブ、ダイジョウブ!」
 いつもの言葉をハルナに投げかける。
「ポチャポ〜チャ!」
 ポッチャマも一緒にハルナに呼びかける。すると、ハルナの表情が落ち着いてきたのがわかった。
「はいっ!! ハルナ、がんばりますっ!!」
 ハルナは元気よく答えて、すぐに控室を出て行った。

『それでは、続きましてエントリーナンバー4番、あのヒカリさんの一番弟子だという、ハルナさんです!』
「ええっ!?」
 その言葉を聞いたあたしはすんごく驚いて、恥ずかしくなった。ハルナ、こんな所でも『一番弟子』って名乗るなんて……そんなあたしの後ろで、フラットさんと戻ってきたミライさんが、クスッと笑っていた。
 そして、ハルナがステージに登場した。あたしの励ましを聞いたせいか、すっかりはりきっちゃってる。
『時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!! 三日月の力を借りて!! ポケモン、ニドラン、その名はクレセント!! ここに見参っ!!』
 いつもの前口上を言って、ハルナはモンスターボールを投げ上げる。モンスターボールから飛び出す、たくさんの流れ星。その中から、クレセントが元気よく飛び出した。
『行くよクレセント!! ハルナスペシャルその6、『氷結粉砕アイスニードルブレイク』!!』
 始まった、いつもの『ハルナスペシャル』。
「何だい、『ハルナスペシャル』って?」
「ハルナはアピールするわざを、いつもそう呼んでるんです」
 フラットさんの疑問に、あたしはすぐ答えた。「へぇ、面白いじゃない」とミライさんは感心していた。
『“どくばり”!!』
 まず、クレセントは真上に向けて、背中から“どくばり”を発射した。
『次は“どくばり”に向けて“れいとうビーム”!!』
 すかざず、クレセントは上を向いて“れいとうビーム”を“どくばり”に向けて撃つ。“れいとうビーム”は、“どくばり”をたちまち凍らせて、氷の針になる。氷の針は、そのまま真っ逆さまに落ち始めた。
『最後は“つのでつく”!!』
 ハルナの指示で、クレセントは落ちてくる柱に向かってジャンプした。クレセントは頭の角に力を込めて、落ちてくる氷の針を次々と突いていく。氷の針が、砕けて氷の粒となって、ステージに舞った。その真ん中で、ポーズを決めてきれいに着地するクレセント。
『これは素晴らしい! ニドランに氷がここまでマッチするとは、私も思ってもいませんでした!』
 司会のアナウンスが響く。ステージから歓声が巻き起こる。
「へぇ、ニドランに氷ねぇ……いい組み合わせじゃない」
 ミライさんが感心して言った。
「あの演技、あたしもいろいろ教えてあげながら練習したんですよ」
「そうか。つまりは師弟の努力の結晶という訳か」
 あたしの言葉を聞いて、フラットさんがほほ笑んだ。それにあたしはちょっと照れちゃったけど。
『決まったぁーっ!!』
 クレセントと一緒にポーズをとるハルナは、拍手を浴びながらそんな事を叫んでいた。

 出場したコーディネーター達のいろいろな演技が終わった中で、1次審査は無事終了。2次審査への判定を待つ事になった。
 ようやく息抜きできるようになって、あたし達はほっと一息ついていた。そこに、観客席で見ていたサトシ達が控室にやってきた。
「お疲れ、みんな」
「4人共すごい演技だったじゃないか」
 サトシとタケシが感心して言う。
「ありがとう、2人共」
 あたしが答えた。
「まあ、あたしはちょっと緊張しちゃったけど、何とか練習通りにできてよかったわ」
「気を抜くのはまだ早いよ。2次審査があるんだからね」
 そう答えるミライさんに、フラットさんは顔を緩めないでそう言う。
「まあ、あたしは体験しに来ただけですから、うまく進出できたらお慰みって感じです。落ちたら落ちたで仕方ありませんよ」
 それにも、ミライさんがいつもの調子で答えた。
「そんな事ないよミライ! ミライの演技、初めてとは思えなかったぜ! きっと1次審査突破できるさ!」
「そうだといいだけどね」
 サトシのそんな言葉に、ミライさんは笑みを浮かべた。
 そこに、応援してくれていたエテボースとミミロルと一緒に、ウリムーも顔を出す。
「ウリムー、あたしの演技、見てくれた?」
「ウリ!」
 そうウリムーに聞くと、ウリムーははっきりとうなずいた。
「ウリムーもヒカリの演技にご満悦だったぞ」
 そんなタケシの言葉を聞いたあたしは、嬉しくなった。
「よかったですねヒカリさん! 新しいポケモンにいい所を見せてあげられて」
 ハルナが笑みを浮かべた。
「まだよハルナ。あたし、2次審査のコンテストバトルもウリムーに見せてあげたいの。だから、1次審査は突破するつもりよ!」
 不思議と、今のあたしは1次審査を突破できない気がしなかった。今までのコンテストの経験を、しっかり活かして練習して、それをうまくステージの上でやり遂げられたからかな? あの時のような、突破できるかどうかの不安も少しあるけど、それよりもそっちの思いの方が強かった。ダイジョウブ。「そういう時に限ってダイジョウブじゃない時がほとんど」ってよく言われるけど、今は自信を持ってそう思える。
「その意気だぞ、ヒカリ」
 タケシがそう言った時、司会のアナウンスが画面から聞こえた。
『皆さん、お待たせしました! 1次審査の結果発表です!』
 全員の視線が画面に向けられた。自信があるとはいっても、いざ発表となると少しドキドキする。みんなの顔にも緊張が走っている。
『厳正な審査の結果、2次審査に出場するのは……!』
 視界のアナウンスが流れて、すぐ画面に4人の顔写真が映し出された。


 あたし、フラットさん、ミライさん……そしてハルナ!


「やったあっ!! ヒカリさん、2人で1次審査突破ですよ!!」
 ハルナは飛び上がって大喜び。
「うん!! 一緒に練習した甲斐があったわね!!」
 あたしも一緒に笑顔を浮かべて答える。
「やったじゃないかミライ!」
「……こうなったら、やるっきゃないわね。勝利の他には選ぶ道は何もない、なんてね!」
 隣で喜ぶサトシを見て、ミライさんも笑みを浮かべてそうつぶやいた。フラットさんはというと、表情を変えないで黙ったまま、画面を見つめていた。
『そして、2次審査のトーナメントの組み合わせは、こうなりました!』
 すぐに、トーナメント表が画面に映し出された。あたし対フラットさん、ハルナ対ミライさん。ハルナとはファイナルまで当たらない形になった。
「……どうやら、あんたとぶつかる事になったようだね、ヒカリ」
 フラットさんが顔をあたしに向けた。
「ヒカリの実力、約束通りこの目で拝借させてもらうよ」
 あたしと戦う事になったのを喜んでいるように、笑みを浮かべるフラットさん。
「はい!! あたしだって負けません!! 絶対に優勝してみせるんですから!!」
 あたしも負けじと、はっきりとフラットさんに宣言した。
「それはこっちのセリフ、なんてね!!」
 そこに、ミライさんが割って入る。
「ハルナも忘れないでください!!」
 ハルナも割って入ってきた。
 何だかこのコンテスト、面白くなってきそう! あたしも全力で戦わないと! あたしの胸に熱いものが込み上げてきた。
「さあポッチャマ、次はあなたの出番よ!!」
「ポチャマッ!!」
 ポッチャマは「任せて!!」って言うように胸を張って、胸をポンと右手で叩いた。


NEXT:FINAL SECTION

[602] FINAL SECTION 師弟対決! ヒカリVSハルナ!
フリッカー - 2008年07月22日 (火) 19時12分

「さあ、いよいよ始まりました2次審査! まず第1ステージは、新生コーディネーター、ヒカリさんと、グランドフェスティバルへ王手をかけた、フラットさんの対決です!」
 観客席から歓声が巻き起こった。ステージで向かい合うあたしとフラットさん。向かい側に立つフラットさんを見ているだけで、何だかプレッシャーみたいなものを感じる。
『ヒカリさん、フラットさんは強敵ですよ。もうリボンを4つ集めているんですからね!』
 そんなハルナの言葉が頭に浮かぶ。フラットさんの実力は本物。あたしは1次審査を見て確信した。キャリアではフラットさんの方が明らかに何枚も上。そんな相手に、あたしはどれだけ戦えるかな? 一瞬、そんな事を考えた。
 でも、すぐにその考えを切って捨てた。横を見ると、観客席であたしを応援してくれるサトシとタケシ、ミミロルにエテボース、そしてあたしのコンテストバトルを初めて見るウリムーがいる。そうよあたし、弱音なんて吐いちゃダメ! こんなんだったら、またあの時みたいにポッチャマに怒られちゃう。あたしは絶対ここで勝って、ファイナルに行って、優勝するんだから!
「ダイジョウブ!」
 あたしは自分にそう言い聞かせて、気合を入れた。
「制限時間は5分! それでは、バトルスタート!!」
 司会のアナウンスと同時に、スクリーンのタイマーが動き始めた。いよいよバトルの始まり!


FINAL SECTION 師弟対決! ヒカリVSハルナ!


「ポッチャマ、チャームアーップ!!」
 あたしは、思い切りモンスターボールを投げ上げた。開いたモンスターボールの中から、たくさんの泡が飛び出す。
「ポッチャマーッ!!」
 その中から、元気よく飛び出すポッチャマ。
「行ってきな! ムクバード!!」
 フラットさんもステージにモンスターボールを投げた。モンスターボールの中からたくさんの白い羽が舞ったと思うと、それを突き破ってムクバードが飛び出した。
「“つばめがえし”!!」
 先に仕掛けてきたのはフラットさんだった。ムクバードは、真っ直ぐこっちに向かってきた!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 必中のわざを受けないためには、攻撃して止めるしかない! そう直感的に思って、あたしは指示を出した。
「ポッチャマアアアッ!!」
 ポッチャマは真っ直ぐ向かってくるムクバード目掛けて“バブルこうせん”を発射! それでも、ムクバードは突撃を止めない。当たる! そう思った時だった。
「今だ! 『4ポイントロール』!!」
「!?」
 聞き慣れない言葉を聞いて、あたしは驚いた。何それ!? 新しいわざ!? その答えは、すぐに出た。
 ムクバードは、飛んできた“バブルこうせん”を右にカクッと直角に体を傾けてかわした。連続で“バブルこうせん”を発射するポッチャマ。でも、またカクッと直角に体を傾けて逆さまになってかわす。次もカクッと直角に体を傾けてかわす。その次も直角にカクッと体を傾けてかわして、体は元の姿勢に戻った。その間に、ポッチャマとの間合いを詰められた! ムクバードは迷わず突っ込む!
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! 弾き飛ばされるポッチャマ。でも、ポッチャマは何とか踏みとどまって、体が倒れる事を防いだ。あたしのゲージが少し下がった。何なの、あの動き!?
「まだ安心するのは早いよ!!」
 そんなフラットさんの声が聞こえた。見ると、“つばめがえし”を出した後のムクバードが、ポッチャマの上で勢いよく上昇している。
「『テイルスライド』!!」
「また!?」
 また聞いた事のない言葉が出てきた。すると、ムクバードは上昇したままブレーキをかける。どんどんスピードが落ちていく。そのままムクバードの体が一瞬、空中で止まる。そのまま重力に負けてムクバードの体がお尻から落ち始める。そして、ムクバードの体が下を向いた!
「“ブレイブバード”!!」
 そのままムクバードの体が炎に包まれた! ポッチャマに向けて勢いよく真上から落ちてくる! いけない!
「ポッチャマ、“がまん”よ!!」
 よけられない。そう思ったあたしはそう指示した。ポッチャマはこらえる体勢に入った。そこにムクバードが飛び込んだ! ガチンと、ムクバードを受け止めたポッチャマ。
「ポ……チャ……ッ!!」
 でも、とても苦しそう。抑えているのが精一杯って感じ。そして、そのまま爆発!
「ポチャアアッ!!」
 ポッチャマは、ムクバードもろとも弾き飛ばされた。今度は踏みとどまれない。あたしの前に倒れるポッチャマ。ムクバードも、弾かれて地面に落ちた。両方のゲージが下がる。でも、まだフラットさんの方が優勢……!
「フラットさんの『マニューバー』が2回連続で炸裂しました!! さあ、ヒカリさんはどうするのでしょうか!!」
 司会の実況が響く。『マニューバー』……? ムクバードがやった、あの動きの事……?
「ムクバードの『マニューバー』に耐えるなんて、なかなかやるじゃないか。あんたの実力は噂通りだね。だけど、ここは勝たせてもらうよ!! ムクバード、“そらをとぶ”!!」
 フラットさんはバトルを楽しんでいるように、笑みを浮かべていた。
 そんなフラットさんの指示で、ムクバードは地面から飛び上がって、勢いよく上昇した。また何か『マニューバー』をするつもり!? とにかく、ここは冷静にならないと……!
「ポッチャマ、がんばって!! “バブルこうせん”!!」
「ポ、ポチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマは立ち上がって上昇するムクバードに“バブルこうせん”を撃つ。
「今だ! 『フラットスピン』!!」
「!?」
 また『マニューバー』なの!? 驚くあたしを尻目に、ムクバードは上昇したまま回り始めた。それは、きれいにただ横にクルクル回っているんじゃなくて、バランスを崩したコマのように、ギュンギュンと強引に回っているように見える。なんて言うか、ちゃんと回っていない。まともな回り方じゃない。酔っ払ってるんじゃないかって思うくらいの複雑な動きを見せるムクバードに、“バブルこうせん”が当たらない。ムクバードの体がふらふらと安定しないまま落ち始める。でも、ムクバードは顔を下に向けて落ちる体勢になって、バランスを整える。来る!
「“でんこうせっか”!!」
 ムクバードが加速した。真っ直ぐポッチャマに向かってくる! こうなったら……!
「ポッチャマ、回って!!」
「ポチャッ!!」
 そう、『回転』! ポッチャマはムクバードをひきつけた後、飛び上がって1回転。ポッチャマのすぐ横を、ムクバードが通り過ぎた。その先にあるのは、ステージの床。
「しまった!!」
 フラットさんが声を上げた時にはもう手遅れ。ムクバードはそのまま、ステージの床に墜落した。観客席から驚きの声が上がった。
「おおっと!! 攻撃を受け流され、『マニューバー』が崩された!! ヒカリさんの反撃開始か!!」
 司会の実況が響いた。フラットさんのゲージが下がった。これで、差を縮められた! 今度はこっちの番!
「反撃よポッチャマ!! 回りながら“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアッ!!」
 ポッチャマは体を回転させながら“バブルこうせん”を発射! 飛んで行った“バブルこうせん”は、空中に飛び上がったムクバードの周りをクルクル回り始めた。そう、これはブイゼルをゲットする時に使ったものと同じ戦法! ムクバードは、動きを封じられた状態。今がチャンス!
「ポッチャマ、パワーを貯めて“つつく”!!」
「ポチャアアアアッ!!」
 ポッチャマはクチバシに力を込める。すると、ポッチャマの光るクチバシがスッと伸びた! そう、最初のコンテストでも使った、あの演技!
「行っけえええっ!!」
「ポチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマは、真っ直ぐムクバードに突撃していく! 直撃! 同時に、ムクバードを囲んでいた泡がパンと炸裂した。地面に叩き落されるムクバード。
「ここでタイムアッープ!!」
 試合終了のブザーが鳴り響いた。あたしとフラットさんはスクリーンに目を向ける。
「今回の試合を制し、ファイナルへ進出するのは……ヒカリさんです!!」
 ゲージは、ほんの少しの差であたしの方が多かった。あたしの顔写真が、スクリーンに大きく映った。ステージが拍手に包まれる。
「勝った……よくやったわポッチャマ!!」
「ポチャーッ!!」
 あたしは飛び込んできたポッチャマをしっかりと受け止めた。
「フッ、久しぶりにすがすがしく負けちゃったね。時を忘れてしまったよ……」
 一方のフラットさんは、ムクバードをモンスターボールに戻して、そんな事を笑みを浮かべながらつぶやいていた。

 * * *

『さあ、続きまして第2ステージ、ヒカリさんの一番弟子、ハルナさんと、コンテスト初挑戦となる氷の魔女、ミライさんの対決です!』
 次の対決は、ハルナとミライさん。ステージに出てきた2人を、あたしとフラットさんは控え室の画面で見つめていた。
「ハルナ、ダイジョウブ!」
 あたしは画面に映るハルナに向かって、そう呼びかけた。
『それでは、バトルスタート!!』
 スクリーンのタイマーが動き始めた。
『時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!! 三日月の力を借りて!! ポケモン、プリン、その名はエクリプス!! ここに見参っ!!』
 ハルナが左手でモンスターボールを投げ上げた。クレセントの時と同じように、たくさんの流れ星が飛び出す。その中から、エクリプスが元気よく飛び出した。
『さあ、『氷の魔女』のショータイムよ!! 呼ばれて飛び出てグレイシアちゃんっ!!』
 続けてミライさんもモンスターボールを投げ上げる。開いたモンスターボールの中から飛び出す、たくさんの雪の結晶。その中からグレイシアは現れた。このコンテストでは、ミライさんはグレイシアしかエントリーしてないみたい。
『グレイシアちゃん、“こごえるかぜ”!!』
 先に仕掛けたのはミライさんだった。グレイシアは、エクリプスに向けて“れいとうビーム”を撃つ!
『エクリプス、飛んで!!』
 でも、エクリプスはジャンプしてかわした。ふうせんポケモンの名の通り、そのままフワフワと空中に浮くエクリプス。
『なら、今度は“れいとうビーム”!!』
 グレイシアはまだ攻撃を続ける。“れいとうビーム”をエクリプスに向けて発射!
『エクリプス!!』
 でも、エクリプスはそれをクルリと1回転してかわしてみせた。
「あの動きは……!」
 フラットさんが驚いた様子で声を上げた。
「ハルナが勝手に真似しちゃったんです。でも、今日のコンテストのためにちゃんと教えてあげたんですよ」
 あたしはフラットさんに説明してあげた。
 グレイシアは負けじと“れいとうビーム”を撃ちまくる。でも、エクリプスはフワフワと浮いたまま、『回転』を連続してかわし続ける。ミライさんのゲージが下がった。いくらよけられるからと言って、ただ闇雲に攻めてるだけじゃ、コンテストバトルには勝てない。
『グレイシアの必死の攻撃も、風船のように飛ぶプリンによけられてばかりだ!! さあ、どうする氷の魔女!!』
 司会の実況が響いた。
「なるほど……それにプリンの『ふうせんポケモン』らしさをプラスした、という事か」
 フラットさんは納得した表情を見せた。
『エクリプス、“ころがる”よ!!』
 ハルナの指示で、エクリプスは浮かんだまま体を回し始めた。パワーを貯めているみたい。
『もらったわ!! グレイシアちゃん、“れいとうビーム”!!』
 そこをミライさんは見逃さなかった。グレイシアはすかさず“れいとうビーム”をエクリプスに向けて撃った! 命中! エクリプスの体が、氷に包まれる。そのまま重くなった体が床に落ち始める。
「何をやっているんだ! あんな隙をさらすから……!」
 フラットさんが画面に向かって叫んだ。
「ダイジョウブです!」
 でも、あたしは普通にそう答えられた。なぜかって? それはね……
『うまく行ったわ!!』
『!?』
 ハルナがこれを待っていたかのように、笑みを浮かべた。それに驚くミライさん。ステージの床に落ちた氷付けのエクリプスは、そのまま勢いよく転がり始めた! 観客が驚きの声を上がった。
『嘘!? 凍っているのに!?』
 ミライさんが動揺した。
『そうよ!! これが、ハルナスペシャルその7、『冷凍魔球カウンターアイスボール』よっ!!』
 ハルナの叫び声に答えて、氷のボールになったエクリプスは、グレイシアに真っ直ぐ転がっていく! 直撃! 跳ね飛ばされるグレイシア。
 そう、これはハルナがあたしの考えた『氷の“アクアジェット”』をヒントに編み出したもの。その練習には、もちろんあたしも付き合って、いろいろ教えてあげた。その時は、『氷の“アクアジェット”』をものにしたブイゼルにも協力してもらった。
『おおっと!! 凍りついたままエクリプスが転がった!! これは凄いわざです!!』
 司会の実況が響いた。観客席から歓声が巻き起こる。
『もういっちょ!!』
 ハルナの一言で、エクリプスは反転してもう一度グレイシアに向かっていく! 直撃! 跳ね飛ばされたグレイシアの前で、エクリプスは氷のボールを割って飛び出した。
『ここでタイムアッープ!!』
 試合終了のブザーが鳴り響いた。
『さあ、今回の試合を制したのは……ハルナさんです!!』
 結果は結構差をつけてハルナの勝利。ハルナの顔写真が、スクリーンに大きく映った。ステージが拍手に包まれる。
『やったあっ!! エクリプス、ヒカリさんと一緒に練習した甲斐があったね!!』
 ハルナはエクリプスと両手を繋いで小躍りしていた。
「“ころがる”にあんな魅せ方があったとはね……」
 フラットさんは感心した様子だった。
『さあ、これは面白くなりそうです!! ファイナルは何と、ヒカリさん対ハルナさんという、師弟対決になりました!!』
 その言葉を聞いた、ハルナの動きが止まった。スクリーンには、あたしの顔写真の横に並ぶ、ハルナの顔写真が映っている。「え……!? ヒカリさん、と……!?」とハルナがつぶやいていたのには、あたしは気付かなかった。

 * * *

 控室に、ハルナとミライさんが戻ってきた。ファイナルまでの間には休憩時間がある。いくらなんでもセミファイナルのすぐ後にファイナルはきついからね。その時間を利用して、サトシ達も来てくれていた。
「2人共、お疲れ」
 フラットさんが声をかけた。
「ミライ、惜しかったな、初出場で2次審査まで行けたのに」
「う〜ん……やっぱしあたしはコンテストバトルってルールにまだ慣れてないみたいね……キャリアの差が出ちゃったなあ……」
 サトシの言葉に、ミライさんは苦笑いをしながら、そう答えた。
「ミライは、1次審査に気を入れすぎたんだよ。だから一方的に負けたんだよ」
「ですね。でも、いい経験にはなったわ。機会があれば、また挑戦してみよっかなあ、なんてね」
 フラットさんの厳しい言葉に、ミライさんはいつもの軽いノリで答えた。
「ヒカリ、次はいよいよファイナルだな! しかも相手はハルナじゃないか!」
「ええ! ここまで来たからには、もう優勝するしかないわ!」
「ポチャマ!」
 サトシの言葉に、あたしとポッチャマは力強く答えた。
「ハルナ、次のファイナルは思い……」
 あたしはハルナに声をかけようとした。でも、ハルナはなぜか、負けた時のようにしょんぼりと肩を落として、こっちに背中を向けていた。
「……ハルナ?」
 これからファイナルだって言うのに、様子がおかしい。あたしはハルナの肩を叩いた。
「ヒカリさん……」
 ハルナが背中を向けたまま、ボソッと言った。さっきまでの元気が嘘かのように消えている。
「ハルナ……ファイナル棄権しますっ!!」
 そして突然、音量を上げてそんな事を叫んだ。
「ええっ!?」
 その言葉にみんなが驚いて、全員の視線がハルナの背中に向いた。優勝が目の前だっていうのに、ファイナル棄権だなんて、どういう事!? ポケモンの体調が悪くなったのかな、と一瞬考えたけど、ハルナを心配そうに見ているルーナやエクリプスには、特に体調が悪そうな様子はない。
「ど、どうしたのハルナ!? なんでそんな事……!?」
「だって……ヒカリさんを負かして優勝するなんて……ハルナにはできません……っ!!」
 あたしの質問に、何かをこらえているように答えるハルナ。ハルナ、もしかしてあたしと勝負がしたくないの……?
「何言ってるんだよ!! ここまで来たっていうのに、一体どういうつもりなんだい!!」
 それを聞いたフラットさんが、たまらず怒鳴った。
「そうだよ!! それに、ヒカリと勝負できるなんて、ハルナにとって光栄な事なんじゃないのか!?」
 サトシも叫ぶ。そんな2人の言葉を聞いても、ハルナは何も答えなかった。
「リボンは……ヒカリさんが受け取ってください。その方が……ハルナも嬉しいです……っ!!」
 ハルナはあたしにそう言って、すぐ身を翻して控室を駈け出して行った。一瞬見えたハルナの目からは、涙がこぼれていた。
「あっ!! ちょっと待ってハルナッ!!」
 あたしもすぐに、ハルナの後を追いかけた。ポッチャマやルーナ、エクリプスも続く。
「あの子……これでいいと思っている訳!?」
「俺も行く!!」
 フラットさんとサトシが、すぐにあたしの後を追いかけようとした。でも、その2人はすぐに手を掴まれて止められた。
「……ここは、『師匠』のヒカリちゃんが直接話をつけた方がいいと思うわ」
 ミライさんだった。
「多分俺達が行っても、話を聞いてくれないだろう……」
 タケシも言う。2人の言葉に、サトシとフラットさんは反論する事ができなかった。

 廊下を走っていくハルナ。それを追いかけていくあたし。
「待ってハルナ!!」
 何とか手が届くくらいに追いついたあたしは、ハルナの手を捕まえた。そのままハルナを止める。ハルナが涙目の顔をこっちに向けた。
「聞かせて。どうしてあたしと勝負するのが嫌なの?」
 あたしは改めて、そう質問した。
「だって……優勝はしたいですけど……ハルナがもしヒカリさんに勝っちゃったら……ヒカリさんが憧れの人じゃなくなりそうな気がして……ヒカリさんには、ずっとハルナの憧れの人でいて欲しいんです……」
 顔をそむけて答えるハルナ。やっぱりあたしの思った通りだった。
「それに、ヒカリさんが自分の『弟子』なんかに負けちゃったら、かなり悔しがるんじゃないですか……?」
 ハルナは、あたしの事も気遣っている。ヨスガ、ズイと2回連続で1次審査に落ちたあたしを見てきたのなら、当然なのかもしれない。ハルナらしいとは思うけど……
「ありがとう。その気持ちは嬉しいよ」
 あたしは優しくハルナに話しかけた。
「でも、どうして棄権なんてするの? あたし、ハルナとのファイナルが楽しみだったのに」
「え?」
 ハルナが驚いて、顔をこっちに向けた。
「あたし、ハルナと思いっきり勝負したいの。勝っても負けてもいいから、全力でハルナとぶつかりたいの」
「全力で、ハルナと……?」
「そう。前に会った、ノゾミっているでしょ? ノゾミは、あたしにコンテストのいろんな事を教えてくれるの。時々一緒に練習したりもする、あたしにとってお姉さんみたいな人だけど、ステージの上じゃライバル同士。あたしはノゾミとコンテストで戦えて、とてもよかったって思ってるの。だって、『素敵なライバル』に出会えたんだから。あたし、ハルナの事もそんな『素敵なライバル』だって思ってるのよ」
「素敵な……ライバル……」
 ハルナの表情が、落ち着いてきているのがわかる。
「だからあたし、ハルナが相手だからって遠慮なんてしたくない。いいえ、ハルナだからこそ、全力を出したいの。だからハルナ、ファイナルで勝負しようよ!」
 あたしはハルナに右手を差し出した。
「ヒカリさん……」
 ハルナの表情に、いつもの明るさが戻っていく。側にいたルーナやエクリプス、そしてポッチャマもハルナに笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。ハルナ、やっぱりファイナルやります! ヒカリさんと全力で勝負します!!」
 ハルナは顔の涙を左腕で拭いた後、はっきりと答えて、あたしの右手を両手で力強く握った。
「そうよ。それでこそあたしの『一番弟子』ね!」
 あたしもいつの間にかハルナに影響されたのか、そんな事を言っていた。
 あたしも、ハルナにとって、あたしにとってのノゾミのような人になれたらいいな。そんな事をふと思った。

 * * *

 ついにファイナル本番。あたしはステージで、遠くにいるハルナと向かい合っていた。ハルナもすっかり元気を取り戻して、気合充分の様子。観客席からの歓声を体いっぱいに浴びる。観客席にいるサトシ達の応援も、いつも以上に力が入っているように見える。
「さあ、アカガネシティ・お祭りポケモンコンテストもいよいよ大詰め! ファイナルの対決は、ヒカリさん対ハルナさん! 師弟対決という、面白い構図になりました!」
 司会のアナウンスが響く。やっぱり『師弟対決』っていうのは言い過ぎだと思って、ちょっと恥ずかしくなった。『先輩・後輩対決』なら、まだ納得がいくけど……でも、そんな事を考えていてもハルナが言っちゃったものだから、仕方がない。あたしはその考えを頭の中にしまいこんで、コンテストに集中した。
「制限時間は5分! それでは、バトルスタート!!」
 会のアナウンスと同時に、スクリーンのタイマーが動き始めた。
「ポッチャマ、チャームアーップ!!」
「ポッチャマーッ!!」
 あたしは、思い切りモンスターボールを投げ上げた。開いたモンスターボールの中から飛び出す、たくさんの泡から、ポッチャマが元気よく飛び出した。
「時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!! 三日月の力を借りて!! ポケモン、プリン、その名はエクリプス!! ここに見参っ!!」
 ハルナの声も、いつも以上に気合充分な様子だった。力強く左手でモンスターボールを投げ上げる。たくさんの流れ星の中から、元気よく飛び出すエクリプス。
「ヒカリさん、全力で行かせてもらいます!! エクリプス、“みずのはどう”!!」
 その言葉を表わすように、エクリプスは思い切りジャンプした後、“みずのはどう”を発射!
「ポッチャマ、“つつく”よ!!」
「ポチャーッ!!」
 飛んでくる“みずのはどう”に向けて、ポッチャマは突撃する。そして、力を込めたクチバシで、“みずのはどう”を正面から受け止めて、そのまま砕いた! ポッチャマの周りを、水の粒が降り注ぐ。
「ポッチャマ、プリンの“みずのはどう”を“つつく”で相殺!! 師匠としての貫録を見せつけました!!」
 司会の実況が響く。相変わらず言い過ぎだとは思うけど、今はそんな事はどうでもいい。ハルナのゲージが少し下がった。それでもハルナは、ひるむ様子はなかった。
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアッ!!」
 今度はこっちの番! ポッチャマが“バブルこうせん”を発射!
「エクリプス!!」
 でも、フワフワと浮いていたエクリプスは、そのままクルリと『回転』して、“バブルこうせん”をかわした。あたしのゲージが少し下がった。
「やっぱり使ってきたわね、『回転』……!!」
「ハルナだって負けませんよ!!」
 自信満々に叫ぶハルナ。あたしは何だか嬉しくなった。
「なら、今度は“つつく”よ!!」
「ポチャアアアアッ!!」
 ポッチャマはエクリプスに向かって大きくジャンプして、クチバシに力を込めた! そのままエクリプスに突撃するポッチャマ。でも、エクリプスはまたしても『回転』を使ってかわした! ポッチャマのクチバシが空を切る。あたしのゲージが、また少し下がった。
「プリン、またまた風船のように飛び、攻撃をかわしました!! 弟子も負けてはいません!!」
 司会の実況が響いた。
「ポチャアアアア〜ッ!!」
 そのまま悲鳴を上げながら床に吸い込まれていくポッチャマ。
「落ち着いてポッチャマ!! 床に“バブルこうせん”!!」
 とっさにあたしはそう指示を出した。
「ポ、チャマアアアッ!!」
 指示に答えて、ポッチャマは床に向けて“バブルこうせん”を発射! 床に落ちた“バブルこうせん”の泡は、クッションになってポッチャマの体を受け止めた。そのままポッチャマは、クルリと空中で反転してピシッと着地した。うまくいった! 今度はハルナのゲージが下がった。
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」
 ポッチャマは両手を上げて、頭の上に大きな水の渦を作り出した。
「ポッチャマッ!!」
 そして、それをポッチャマは思い切り投げつける! さすがのエクリプスも、今度はよけられない。たちまち水の渦に飲み込まれるエクリプス。エクリプスのゲージが下がった。
「エクリプス!!」
「ポッチャマも飛び込んで!!」
「ポチャッ!!」
 ポッチャマも、“うずしお”の中に飛び込んだ。流れに乗ってグルグルと回りながら、エクリプスへと近づいていく。この中なら、ポッチャマは有利!
「負けないでエクリプス!! “ころがる”よっ!!」
 でも、エクリプスは体をボールのように回転させて、“うずしお”から飛び出した! そのまま流れの上を転がり始めるエクリプス。そのままポッチャマに近づいていく!
「ポッチャマ、“つつく”で迎え撃つのよ!!」
「ポチャアアアアッ!!」
 あたしはそれに、正面から挑んだ。ポッチャマはクチバシに力を込める。ポッチャマの光るクチバシがスッと伸びた! そのまま流れの上を転がっていくエクリプスに、正面からとんどん近づいて行く……!
 ザバアアン、と“うずしお”が弾けた。ステージに散らばった水しぶきの中から、ポッチャマとエクリプスが悲鳴を上げて弾き飛ばされてきた。相打ち!?
「ここでタイムアッープ!!」
 その時、試合終了のブザーが鳴った。始まってから終わるまでが、長いようで短く思えた。あたしとハルナはスクリーンに目を向ける。
「さて、結果は……」
 ゲージを見た司会が一瞬、アナウンスを止めた。その結果に、あたしもハルナも驚いた。
「な、何と!! 全くの同点です!! 勝敗は、判定に持ち込まれました!!」
 ゲージは、両方とも同じ数だけ減っている。目の錯覚じゃない。完全な引き分け。
 ポケモンコンテストでは、コンテストバトルで引き分けになったら、審査員の判定で勝敗が決まる。だから、コンテストバトルにはボクシングのような『判定勝ち』がある。どっちが勝つのかは全然予想できない。あたし? それともハルナ? 話し合う審査員の姿を、黙って見守るしかなかった。そして、審査員長が立ち上がって、こんな事を言った。
「えー、皆さん。今回、ヒカリさんはハルナさんの『師匠』として、決して見劣りのしないコンテストバトルを披露してくれました。そしてハルナさんも、そんなヒカリさんの『弟子』として、決して見劣りのしないコンテストバトルを披露してくれたと思います」
 え? それってどういう事?
「よって、お2人のこれからの『師匠』として、『弟子』としての発展を願って、2人を『ダブル優勝』にしたいと思います!」
「ダ、『ダブル優勝』!?」
 あたしとハルナは声を揃えちゃった。会場が拍手に包まれた。てっきりどっちかしか優勝できないと思い込んでいたあたしは、その結果にものすんごく驚いた。それは、ハルナも同じみたいだった。でも、嬉しかった。ハルナと一緒の優勝。こういうのもいいね!
「2人で優勝になっちゃったね」
「はい。やっぱりヒカリさんは強いです。ハルナなんか、遠く及びません」
 あたしは、ハルナに体を向ける。ハルナもあたしに体を向けた。
「そういうハルナも凄いじゃない。強くなったね」
「あ、ありがとうございます!!」
 あたしとハルナは、固い握手をした。会場がまた、拍手に包まれた。

 そして始まった表彰式。あたしとハルナは横に並んで、リボンを受け取る事になった。
「今回、見事ダブル優勝となったお2人に、アカガネリボンが授与されます!」
 司会のアナウンスと同時に、審査員長があたし達にトレーに乗ったリボンを差し出した。そのリボンは、真ん中から半分に切られていた。
「申し訳ない。あいにくリボンは1つしか用意していなくてね、こういう風にする事しかできなかった」
 審査員長が謝るようにあたし達に言った。
「いいんです。半分になっても、リボンはリボンですから」
 あたしはそう言って、半分になったリボンの片方を受け取った。
「謹んで、受け取ります!」
 ハルナもそう言って、残ったもう半分のリボンを受け取った。手の中で輝く半分だけのリボン。でも、あたしは満足だった。これであたしは、カンナギタウンのコンテストのために、改めてがんばろうって決められたから!
「ヒカリさん。ハルナ、修練を積んで、次コンテストで会ったら今度は完全優勝してみせます!」
「こっちも負けないからね!」
 あたしとハルナは、笑みを浮かべながらそんなやり取りをした後、観客席の方を向いて、半分だけのリボンを高く掲げて、一緒に叫んだ。
「ダブル優勝で、ダイジョウブ!!」

 * * *

 こうして、お祭りポケモンコンテストは幕を閉じた。
 でも、あたしのコンテストへの挑戦は、まだ終わらない。そう、ママみたいなトップコーディネーターになるまではね!

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY17:THE END

[603] 次回予告
フリッカー - 2008年07月22日 (火) 19時13分

 あたし達がいつものようにロケット団の相手をしてたら、何だか別のロケット団が現れた!

「このピカチュウはいただいていく!」
「何者だ!!」
「俺はチーム・ブラッドのパラトシン。全てのポケモントレーナー、コーディネーターを消す男だ……!」

 こいつ、何だかいつものロケット団と違う! その猛攻撃を前に、あたし達は……!

「やれ、スピアー!! ウインディ!! 奴らにポケモンの恐ろしさを見せてやれ!!」
「うわああああああっ!!」

 そして、サトシと2人でたどり着いた場所は、とんでもない場所……!

「ここって……『迷いの樹海』!?」
「何だ、『迷いの樹海』って……?」
「一度入ったら、出る事はできないって森よ……!!」

 あたし達、このままどうなっちゃうの!?

「さあ、そのまま迷い続けろ。力尽きるまで……!」

 NEXT STORY:2人ぼっちの戦い(第1部)

「そんな……こんな所で遭難なんてしたくないよ……!」

 COMING SOON……



Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板