[602] FINAL SECTION 師弟対決! ヒカリVSハルナ! |
- フリッカー - 2008年07月22日 (火) 19時12分
「さあ、いよいよ始まりました2次審査! まず第1ステージは、新生コーディネーター、ヒカリさんと、グランドフェスティバルへ王手をかけた、フラットさんの対決です!」 観客席から歓声が巻き起こった。ステージで向かい合うあたしとフラットさん。向かい側に立つフラットさんを見ているだけで、何だかプレッシャーみたいなものを感じる。 『ヒカリさん、フラットさんは強敵ですよ。もうリボンを4つ集めているんですからね!』 そんなハルナの言葉が頭に浮かぶ。フラットさんの実力は本物。あたしは1次審査を見て確信した。キャリアではフラットさんの方が明らかに何枚も上。そんな相手に、あたしはどれだけ戦えるかな? 一瞬、そんな事を考えた。 でも、すぐにその考えを切って捨てた。横を見ると、観客席であたしを応援してくれるサトシとタケシ、ミミロルにエテボース、そしてあたしのコンテストバトルを初めて見るウリムーがいる。そうよあたし、弱音なんて吐いちゃダメ! こんなんだったら、またあの時みたいにポッチャマに怒られちゃう。あたしは絶対ここで勝って、ファイナルに行って、優勝するんだから! 「ダイジョウブ!」 あたしは自分にそう言い聞かせて、気合を入れた。 「制限時間は5分! それでは、バトルスタート!!」 司会のアナウンスと同時に、スクリーンのタイマーが動き始めた。いよいよバトルの始まり!
FINAL SECTION 師弟対決! ヒカリVSハルナ!
「ポッチャマ、チャームアーップ!!」 あたしは、思い切りモンスターボールを投げ上げた。開いたモンスターボールの中から、たくさんの泡が飛び出す。 「ポッチャマーッ!!」 その中から、元気よく飛び出すポッチャマ。 「行ってきな! ムクバード!!」 フラットさんもステージにモンスターボールを投げた。モンスターボールの中からたくさんの白い羽が舞ったと思うと、それを突き破ってムクバードが飛び出した。 「“つばめがえし”!!」 先に仕掛けてきたのはフラットさんだった。ムクバードは、真っ直ぐこっちに向かってきた! 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 必中のわざを受けないためには、攻撃して止めるしかない! そう直感的に思って、あたしは指示を出した。 「ポッチャマアアアッ!!」 ポッチャマは真っ直ぐ向かってくるムクバード目掛けて“バブルこうせん”を発射! それでも、ムクバードは突撃を止めない。当たる! そう思った時だった。 「今だ! 『4ポイントロール』!!」 「!?」 聞き慣れない言葉を聞いて、あたしは驚いた。何それ!? 新しいわざ!? その答えは、すぐに出た。 ムクバードは、飛んできた“バブルこうせん”を右にカクッと直角に体を傾けてかわした。連続で“バブルこうせん”を発射するポッチャマ。でも、またカクッと直角に体を傾けて逆さまになってかわす。次もカクッと直角に体を傾けてかわす。その次も直角にカクッと体を傾けてかわして、体は元の姿勢に戻った。その間に、ポッチャマとの間合いを詰められた! ムクバードは迷わず突っ込む! 「ポチャアアアアッ!!」 直撃! 弾き飛ばされるポッチャマ。でも、ポッチャマは何とか踏みとどまって、体が倒れる事を防いだ。あたしのゲージが少し下がった。何なの、あの動き!? 「まだ安心するのは早いよ!!」 そんなフラットさんの声が聞こえた。見ると、“つばめがえし”を出した後のムクバードが、ポッチャマの上で勢いよく上昇している。 「『テイルスライド』!!」 「また!?」 また聞いた事のない言葉が出てきた。すると、ムクバードは上昇したままブレーキをかける。どんどんスピードが落ちていく。そのままムクバードの体が一瞬、空中で止まる。そのまま重力に負けてムクバードの体がお尻から落ち始める。そして、ムクバードの体が下を向いた! 「“ブレイブバード”!!」 そのままムクバードの体が炎に包まれた! ポッチャマに向けて勢いよく真上から落ちてくる! いけない! 「ポッチャマ、“がまん”よ!!」 よけられない。そう思ったあたしはそう指示した。ポッチャマはこらえる体勢に入った。そこにムクバードが飛び込んだ! ガチンと、ムクバードを受け止めたポッチャマ。 「ポ……チャ……ッ!!」 でも、とても苦しそう。抑えているのが精一杯って感じ。そして、そのまま爆発! 「ポチャアアッ!!」 ポッチャマは、ムクバードもろとも弾き飛ばされた。今度は踏みとどまれない。あたしの前に倒れるポッチャマ。ムクバードも、弾かれて地面に落ちた。両方のゲージが下がる。でも、まだフラットさんの方が優勢……! 「フラットさんの『マニューバー』が2回連続で炸裂しました!! さあ、ヒカリさんはどうするのでしょうか!!」 司会の実況が響く。『マニューバー』……? ムクバードがやった、あの動きの事……? 「ムクバードの『マニューバー』に耐えるなんて、なかなかやるじゃないか。あんたの実力は噂通りだね。だけど、ここは勝たせてもらうよ!! ムクバード、“そらをとぶ”!!」 フラットさんはバトルを楽しんでいるように、笑みを浮かべていた。 そんなフラットさんの指示で、ムクバードは地面から飛び上がって、勢いよく上昇した。また何か『マニューバー』をするつもり!? とにかく、ここは冷静にならないと……! 「ポッチャマ、がんばって!! “バブルこうせん”!!」 「ポ、ポチャマアアアアッ!!」 ポッチャマは立ち上がって上昇するムクバードに“バブルこうせん”を撃つ。 「今だ! 『フラットスピン』!!」 「!?」 また『マニューバー』なの!? 驚くあたしを尻目に、ムクバードは上昇したまま回り始めた。それは、きれいにただ横にクルクル回っているんじゃなくて、バランスを崩したコマのように、ギュンギュンと強引に回っているように見える。なんて言うか、ちゃんと回っていない。まともな回り方じゃない。酔っ払ってるんじゃないかって思うくらいの複雑な動きを見せるムクバードに、“バブルこうせん”が当たらない。ムクバードの体がふらふらと安定しないまま落ち始める。でも、ムクバードは顔を下に向けて落ちる体勢になって、バランスを整える。来る! 「“でんこうせっか”!!」 ムクバードが加速した。真っ直ぐポッチャマに向かってくる! こうなったら……! 「ポッチャマ、回って!!」 「ポチャッ!!」 そう、『回転』! ポッチャマはムクバードをひきつけた後、飛び上がって1回転。ポッチャマのすぐ横を、ムクバードが通り過ぎた。その先にあるのは、ステージの床。 「しまった!!」 フラットさんが声を上げた時にはもう手遅れ。ムクバードはそのまま、ステージの床に墜落した。観客席から驚きの声が上がった。 「おおっと!! 攻撃を受け流され、『マニューバー』が崩された!! ヒカリさんの反撃開始か!!」 司会の実況が響いた。フラットさんのゲージが下がった。これで、差を縮められた! 今度はこっちの番! 「反撃よポッチャマ!! 回りながら“バブルこうせん”!!」 「ポッチャマアアアッ!!」 ポッチャマは体を回転させながら“バブルこうせん”を発射! 飛んで行った“バブルこうせん”は、空中に飛び上がったムクバードの周りをクルクル回り始めた。そう、これはブイゼルをゲットする時に使ったものと同じ戦法! ムクバードは、動きを封じられた状態。今がチャンス! 「ポッチャマ、パワーを貯めて“つつく”!!」 「ポチャアアアアッ!!」 ポッチャマはクチバシに力を込める。すると、ポッチャマの光るクチバシがスッと伸びた! そう、最初のコンテストでも使った、あの演技! 「行っけえええっ!!」 「ポチャマアアアアッ!!」 ポッチャマは、真っ直ぐムクバードに突撃していく! 直撃! 同時に、ムクバードを囲んでいた泡がパンと炸裂した。地面に叩き落されるムクバード。 「ここでタイムアッープ!!」 試合終了のブザーが鳴り響いた。あたしとフラットさんはスクリーンに目を向ける。 「今回の試合を制し、ファイナルへ進出するのは……ヒカリさんです!!」 ゲージは、ほんの少しの差であたしの方が多かった。あたしの顔写真が、スクリーンに大きく映った。ステージが拍手に包まれる。 「勝った……よくやったわポッチャマ!!」 「ポチャーッ!!」 あたしは飛び込んできたポッチャマをしっかりと受け止めた。 「フッ、久しぶりにすがすがしく負けちゃったね。時を忘れてしまったよ……」 一方のフラットさんは、ムクバードをモンスターボールに戻して、そんな事を笑みを浮かべながらつぶやいていた。
* * *
『さあ、続きまして第2ステージ、ヒカリさんの一番弟子、ハルナさんと、コンテスト初挑戦となる氷の魔女、ミライさんの対決です!』 次の対決は、ハルナとミライさん。ステージに出てきた2人を、あたしとフラットさんは控え室の画面で見つめていた。 「ハルナ、ダイジョウブ!」 あたしは画面に映るハルナに向かって、そう呼びかけた。 『それでは、バトルスタート!!』 スクリーンのタイマーが動き始めた。 『時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!! 三日月の力を借りて!! ポケモン、プリン、その名はエクリプス!! ここに見参っ!!』 ハルナが左手でモンスターボールを投げ上げた。クレセントの時と同じように、たくさんの流れ星が飛び出す。その中から、エクリプスが元気よく飛び出した。 『さあ、『氷の魔女』のショータイムよ!! 呼ばれて飛び出てグレイシアちゃんっ!!』 続けてミライさんもモンスターボールを投げ上げる。開いたモンスターボールの中から飛び出す、たくさんの雪の結晶。その中からグレイシアは現れた。このコンテストでは、ミライさんはグレイシアしかエントリーしてないみたい。 『グレイシアちゃん、“こごえるかぜ”!!』 先に仕掛けたのはミライさんだった。グレイシアは、エクリプスに向けて“れいとうビーム”を撃つ! 『エクリプス、飛んで!!』 でも、エクリプスはジャンプしてかわした。ふうせんポケモンの名の通り、そのままフワフワと空中に浮くエクリプス。 『なら、今度は“れいとうビーム”!!』 グレイシアはまだ攻撃を続ける。“れいとうビーム”をエクリプスに向けて発射! 『エクリプス!!』 でも、エクリプスはそれをクルリと1回転してかわしてみせた。 「あの動きは……!」 フラットさんが驚いた様子で声を上げた。 「ハルナが勝手に真似しちゃったんです。でも、今日のコンテストのためにちゃんと教えてあげたんですよ」 あたしはフラットさんに説明してあげた。 グレイシアは負けじと“れいとうビーム”を撃ちまくる。でも、エクリプスはフワフワと浮いたまま、『回転』を連続してかわし続ける。ミライさんのゲージが下がった。いくらよけられるからと言って、ただ闇雲に攻めてるだけじゃ、コンテストバトルには勝てない。 『グレイシアの必死の攻撃も、風船のように飛ぶプリンによけられてばかりだ!! さあ、どうする氷の魔女!!』 司会の実況が響いた。 「なるほど……それにプリンの『ふうせんポケモン』らしさをプラスした、という事か」 フラットさんは納得した表情を見せた。 『エクリプス、“ころがる”よ!!』 ハルナの指示で、エクリプスは浮かんだまま体を回し始めた。パワーを貯めているみたい。 『もらったわ!! グレイシアちゃん、“れいとうビーム”!!』 そこをミライさんは見逃さなかった。グレイシアはすかさず“れいとうビーム”をエクリプスに向けて撃った! 命中! エクリプスの体が、氷に包まれる。そのまま重くなった体が床に落ち始める。 「何をやっているんだ! あんな隙をさらすから……!」 フラットさんが画面に向かって叫んだ。 「ダイジョウブです!」 でも、あたしは普通にそう答えられた。なぜかって? それはね…… 『うまく行ったわ!!』 『!?』 ハルナがこれを待っていたかのように、笑みを浮かべた。それに驚くミライさん。ステージの床に落ちた氷付けのエクリプスは、そのまま勢いよく転がり始めた! 観客が驚きの声を上がった。 『嘘!? 凍っているのに!?』 ミライさんが動揺した。 『そうよ!! これが、ハルナスペシャルその7、『冷凍魔球カウンターアイスボール』よっ!!』 ハルナの叫び声に答えて、氷のボールになったエクリプスは、グレイシアに真っ直ぐ転がっていく! 直撃! 跳ね飛ばされるグレイシア。 そう、これはハルナがあたしの考えた『氷の“アクアジェット”』をヒントに編み出したもの。その練習には、もちろんあたしも付き合って、いろいろ教えてあげた。その時は、『氷の“アクアジェット”』をものにしたブイゼルにも協力してもらった。 『おおっと!! 凍りついたままエクリプスが転がった!! これは凄いわざです!!』 司会の実況が響いた。観客席から歓声が巻き起こる。 『もういっちょ!!』 ハルナの一言で、エクリプスは反転してもう一度グレイシアに向かっていく! 直撃! 跳ね飛ばされたグレイシアの前で、エクリプスは氷のボールを割って飛び出した。 『ここでタイムアッープ!!』 試合終了のブザーが鳴り響いた。 『さあ、今回の試合を制したのは……ハルナさんです!!』 結果は結構差をつけてハルナの勝利。ハルナの顔写真が、スクリーンに大きく映った。ステージが拍手に包まれる。 『やったあっ!! エクリプス、ヒカリさんと一緒に練習した甲斐があったね!!』 ハルナはエクリプスと両手を繋いで小躍りしていた。 「“ころがる”にあんな魅せ方があったとはね……」 フラットさんは感心した様子だった。 『さあ、これは面白くなりそうです!! ファイナルは何と、ヒカリさん対ハルナさんという、師弟対決になりました!!』 その言葉を聞いた、ハルナの動きが止まった。スクリーンには、あたしの顔写真の横に並ぶ、ハルナの顔写真が映っている。「え……!? ヒカリさん、と……!?」とハルナがつぶやいていたのには、あたしは気付かなかった。
* * *
控室に、ハルナとミライさんが戻ってきた。ファイナルまでの間には休憩時間がある。いくらなんでもセミファイナルのすぐ後にファイナルはきついからね。その時間を利用して、サトシ達も来てくれていた。 「2人共、お疲れ」 フラットさんが声をかけた。 「ミライ、惜しかったな、初出場で2次審査まで行けたのに」 「う〜ん……やっぱしあたしはコンテストバトルってルールにまだ慣れてないみたいね……キャリアの差が出ちゃったなあ……」 サトシの言葉に、ミライさんは苦笑いをしながら、そう答えた。 「ミライは、1次審査に気を入れすぎたんだよ。だから一方的に負けたんだよ」 「ですね。でも、いい経験にはなったわ。機会があれば、また挑戦してみよっかなあ、なんてね」 フラットさんの厳しい言葉に、ミライさんはいつもの軽いノリで答えた。 「ヒカリ、次はいよいよファイナルだな! しかも相手はハルナじゃないか!」 「ええ! ここまで来たからには、もう優勝するしかないわ!」 「ポチャマ!」 サトシの言葉に、あたしとポッチャマは力強く答えた。 「ハルナ、次のファイナルは思い……」 あたしはハルナに声をかけようとした。でも、ハルナはなぜか、負けた時のようにしょんぼりと肩を落として、こっちに背中を向けていた。 「……ハルナ?」 これからファイナルだって言うのに、様子がおかしい。あたしはハルナの肩を叩いた。 「ヒカリさん……」 ハルナが背中を向けたまま、ボソッと言った。さっきまでの元気が嘘かのように消えている。 「ハルナ……ファイナル棄権しますっ!!」 そして突然、音量を上げてそんな事を叫んだ。 「ええっ!?」 その言葉にみんなが驚いて、全員の視線がハルナの背中に向いた。優勝が目の前だっていうのに、ファイナル棄権だなんて、どういう事!? ポケモンの体調が悪くなったのかな、と一瞬考えたけど、ハルナを心配そうに見ているルーナやエクリプスには、特に体調が悪そうな様子はない。 「ど、どうしたのハルナ!? なんでそんな事……!?」 「だって……ヒカリさんを負かして優勝するなんて……ハルナにはできません……っ!!」 あたしの質問に、何かをこらえているように答えるハルナ。ハルナ、もしかしてあたしと勝負がしたくないの……? 「何言ってるんだよ!! ここまで来たっていうのに、一体どういうつもりなんだい!!」 それを聞いたフラットさんが、たまらず怒鳴った。 「そうだよ!! それに、ヒカリと勝負できるなんて、ハルナにとって光栄な事なんじゃないのか!?」 サトシも叫ぶ。そんな2人の言葉を聞いても、ハルナは何も答えなかった。 「リボンは……ヒカリさんが受け取ってください。その方が……ハルナも嬉しいです……っ!!」 ハルナはあたしにそう言って、すぐ身を翻して控室を駈け出して行った。一瞬見えたハルナの目からは、涙がこぼれていた。 「あっ!! ちょっと待ってハルナッ!!」 あたしもすぐに、ハルナの後を追いかけた。ポッチャマやルーナ、エクリプスも続く。 「あの子……これでいいと思っている訳!?」 「俺も行く!!」 フラットさんとサトシが、すぐにあたしの後を追いかけようとした。でも、その2人はすぐに手を掴まれて止められた。 「……ここは、『師匠』のヒカリちゃんが直接話をつけた方がいいと思うわ」 ミライさんだった。 「多分俺達が行っても、話を聞いてくれないだろう……」 タケシも言う。2人の言葉に、サトシとフラットさんは反論する事ができなかった。
廊下を走っていくハルナ。それを追いかけていくあたし。 「待ってハルナ!!」 何とか手が届くくらいに追いついたあたしは、ハルナの手を捕まえた。そのままハルナを止める。ハルナが涙目の顔をこっちに向けた。 「聞かせて。どうしてあたしと勝負するのが嫌なの?」 あたしは改めて、そう質問した。 「だって……優勝はしたいですけど……ハルナがもしヒカリさんに勝っちゃったら……ヒカリさんが憧れの人じゃなくなりそうな気がして……ヒカリさんには、ずっとハルナの憧れの人でいて欲しいんです……」 顔をそむけて答えるハルナ。やっぱりあたしの思った通りだった。 「それに、ヒカリさんが自分の『弟子』なんかに負けちゃったら、かなり悔しがるんじゃないですか……?」 ハルナは、あたしの事も気遣っている。ヨスガ、ズイと2回連続で1次審査に落ちたあたしを見てきたのなら、当然なのかもしれない。ハルナらしいとは思うけど…… 「ありがとう。その気持ちは嬉しいよ」 あたしは優しくハルナに話しかけた。 「でも、どうして棄権なんてするの? あたし、ハルナとのファイナルが楽しみだったのに」 「え?」 ハルナが驚いて、顔をこっちに向けた。 「あたし、ハルナと思いっきり勝負したいの。勝っても負けてもいいから、全力でハルナとぶつかりたいの」 「全力で、ハルナと……?」 「そう。前に会った、ノゾミっているでしょ? ノゾミは、あたしにコンテストのいろんな事を教えてくれるの。時々一緒に練習したりもする、あたしにとってお姉さんみたいな人だけど、ステージの上じゃライバル同士。あたしはノゾミとコンテストで戦えて、とてもよかったって思ってるの。だって、『素敵なライバル』に出会えたんだから。あたし、ハルナの事もそんな『素敵なライバル』だって思ってるのよ」 「素敵な……ライバル……」 ハルナの表情が、落ち着いてきているのがわかる。 「だからあたし、ハルナが相手だからって遠慮なんてしたくない。いいえ、ハルナだからこそ、全力を出したいの。だからハルナ、ファイナルで勝負しようよ!」 あたしはハルナに右手を差し出した。 「ヒカリさん……」 ハルナの表情に、いつもの明るさが戻っていく。側にいたルーナやエクリプス、そしてポッチャマもハルナに笑みを浮かべた。 「ごめんなさい。ハルナ、やっぱりファイナルやります! ヒカリさんと全力で勝負します!!」 ハルナは顔の涙を左腕で拭いた後、はっきりと答えて、あたしの右手を両手で力強く握った。 「そうよ。それでこそあたしの『一番弟子』ね!」 あたしもいつの間にかハルナに影響されたのか、そんな事を言っていた。 あたしも、ハルナにとって、あたしにとってのノゾミのような人になれたらいいな。そんな事をふと思った。
* * *
ついにファイナル本番。あたしはステージで、遠くにいるハルナと向かい合っていた。ハルナもすっかり元気を取り戻して、気合充分の様子。観客席からの歓声を体いっぱいに浴びる。観客席にいるサトシ達の応援も、いつも以上に力が入っているように見える。 「さあ、アカガネシティ・お祭りポケモンコンテストもいよいよ大詰め! ファイナルの対決は、ヒカリさん対ハルナさん! 師弟対決という、面白い構図になりました!」 司会のアナウンスが響く。やっぱり『師弟対決』っていうのは言い過ぎだと思って、ちょっと恥ずかしくなった。『先輩・後輩対決』なら、まだ納得がいくけど……でも、そんな事を考えていてもハルナが言っちゃったものだから、仕方がない。あたしはその考えを頭の中にしまいこんで、コンテストに集中した。 「制限時間は5分! それでは、バトルスタート!!」 会のアナウンスと同時に、スクリーンのタイマーが動き始めた。 「ポッチャマ、チャームアーップ!!」 「ポッチャマーッ!!」 あたしは、思い切りモンスターボールを投げ上げた。開いたモンスターボールの中から飛び出す、たくさんの泡から、ポッチャマが元気よく飛び出した。 「時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!! 三日月の力を借りて!! ポケモン、プリン、その名はエクリプス!! ここに見参っ!!」 ハルナの声も、いつも以上に気合充分な様子だった。力強く左手でモンスターボールを投げ上げる。たくさんの流れ星の中から、元気よく飛び出すエクリプス。 「ヒカリさん、全力で行かせてもらいます!! エクリプス、“みずのはどう”!!」 その言葉を表わすように、エクリプスは思い切りジャンプした後、“みずのはどう”を発射! 「ポッチャマ、“つつく”よ!!」 「ポチャーッ!!」 飛んでくる“みずのはどう”に向けて、ポッチャマは突撃する。そして、力を込めたクチバシで、“みずのはどう”を正面から受け止めて、そのまま砕いた! ポッチャマの周りを、水の粒が降り注ぐ。 「ポッチャマ、プリンの“みずのはどう”を“つつく”で相殺!! 師匠としての貫録を見せつけました!!」 司会の実況が響く。相変わらず言い過ぎだとは思うけど、今はそんな事はどうでもいい。ハルナのゲージが少し下がった。それでもハルナは、ひるむ様子はなかった。 「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」 「ポッチャマアアアッ!!」 今度はこっちの番! ポッチャマが“バブルこうせん”を発射! 「エクリプス!!」 でも、フワフワと浮いていたエクリプスは、そのままクルリと『回転』して、“バブルこうせん”をかわした。あたしのゲージが少し下がった。 「やっぱり使ってきたわね、『回転』……!!」 「ハルナだって負けませんよ!!」 自信満々に叫ぶハルナ。あたしは何だか嬉しくなった。 「なら、今度は“つつく”よ!!」 「ポチャアアアアッ!!」 ポッチャマはエクリプスに向かって大きくジャンプして、クチバシに力を込めた! そのままエクリプスに突撃するポッチャマ。でも、エクリプスはまたしても『回転』を使ってかわした! ポッチャマのクチバシが空を切る。あたしのゲージが、また少し下がった。 「プリン、またまた風船のように飛び、攻撃をかわしました!! 弟子も負けてはいません!!」 司会の実況が響いた。 「ポチャアアアア〜ッ!!」 そのまま悲鳴を上げながら床に吸い込まれていくポッチャマ。 「落ち着いてポッチャマ!! 床に“バブルこうせん”!!」 とっさにあたしはそう指示を出した。 「ポ、チャマアアアッ!!」 指示に答えて、ポッチャマは床に向けて“バブルこうせん”を発射! 床に落ちた“バブルこうせん”の泡は、クッションになってポッチャマの体を受け止めた。そのままポッチャマは、クルリと空中で反転してピシッと着地した。うまくいった! 今度はハルナのゲージが下がった。 「ポッチャマ、“うずしお”!!」 「ポオオオオチャアアアアアアッ!!」 ポッチャマは両手を上げて、頭の上に大きな水の渦を作り出した。 「ポッチャマッ!!」 そして、それをポッチャマは思い切り投げつける! さすがのエクリプスも、今度はよけられない。たちまち水の渦に飲み込まれるエクリプス。エクリプスのゲージが下がった。 「エクリプス!!」 「ポッチャマも飛び込んで!!」 「ポチャッ!!」 ポッチャマも、“うずしお”の中に飛び込んだ。流れに乗ってグルグルと回りながら、エクリプスへと近づいていく。この中なら、ポッチャマは有利! 「負けないでエクリプス!! “ころがる”よっ!!」 でも、エクリプスは体をボールのように回転させて、“うずしお”から飛び出した! そのまま流れの上を転がり始めるエクリプス。そのままポッチャマに近づいていく! 「ポッチャマ、“つつく”で迎え撃つのよ!!」 「ポチャアアアアッ!!」 あたしはそれに、正面から挑んだ。ポッチャマはクチバシに力を込める。ポッチャマの光るクチバシがスッと伸びた! そのまま流れの上を転がっていくエクリプスに、正面からとんどん近づいて行く……! ザバアアン、と“うずしお”が弾けた。ステージに散らばった水しぶきの中から、ポッチャマとエクリプスが悲鳴を上げて弾き飛ばされてきた。相打ち!? 「ここでタイムアッープ!!」 その時、試合終了のブザーが鳴った。始まってから終わるまでが、長いようで短く思えた。あたしとハルナはスクリーンに目を向ける。 「さて、結果は……」 ゲージを見た司会が一瞬、アナウンスを止めた。その結果に、あたしもハルナも驚いた。 「な、何と!! 全くの同点です!! 勝敗は、判定に持ち込まれました!!」 ゲージは、両方とも同じ数だけ減っている。目の錯覚じゃない。完全な引き分け。 ポケモンコンテストでは、コンテストバトルで引き分けになったら、審査員の判定で勝敗が決まる。だから、コンテストバトルにはボクシングのような『判定勝ち』がある。どっちが勝つのかは全然予想できない。あたし? それともハルナ? 話し合う審査員の姿を、黙って見守るしかなかった。そして、審査員長が立ち上がって、こんな事を言った。 「えー、皆さん。今回、ヒカリさんはハルナさんの『師匠』として、決して見劣りのしないコンテストバトルを披露してくれました。そしてハルナさんも、そんなヒカリさんの『弟子』として、決して見劣りのしないコンテストバトルを披露してくれたと思います」 え? それってどういう事? 「よって、お2人のこれからの『師匠』として、『弟子』としての発展を願って、2人を『ダブル優勝』にしたいと思います!」 「ダ、『ダブル優勝』!?」 あたしとハルナは声を揃えちゃった。会場が拍手に包まれた。てっきりどっちかしか優勝できないと思い込んでいたあたしは、その結果にものすんごく驚いた。それは、ハルナも同じみたいだった。でも、嬉しかった。ハルナと一緒の優勝。こういうのもいいね! 「2人で優勝になっちゃったね」 「はい。やっぱりヒカリさんは強いです。ハルナなんか、遠く及びません」 あたしは、ハルナに体を向ける。ハルナもあたしに体を向けた。 「そういうハルナも凄いじゃない。強くなったね」 「あ、ありがとうございます!!」 あたしとハルナは、固い握手をした。会場がまた、拍手に包まれた。
そして始まった表彰式。あたしとハルナは横に並んで、リボンを受け取る事になった。 「今回、見事ダブル優勝となったお2人に、アカガネリボンが授与されます!」 司会のアナウンスと同時に、審査員長があたし達にトレーに乗ったリボンを差し出した。そのリボンは、真ん中から半分に切られていた。 「申し訳ない。あいにくリボンは1つしか用意していなくてね、こういう風にする事しかできなかった」 審査員長が謝るようにあたし達に言った。 「いいんです。半分になっても、リボンはリボンですから」 あたしはそう言って、半分になったリボンの片方を受け取った。 「謹んで、受け取ります!」 ハルナもそう言って、残ったもう半分のリボンを受け取った。手の中で輝く半分だけのリボン。でも、あたしは満足だった。これであたしは、カンナギタウンのコンテストのために、改めてがんばろうって決められたから! 「ヒカリさん。ハルナ、修練を積んで、次コンテストで会ったら今度は完全優勝してみせます!」 「こっちも負けないからね!」 あたしとハルナは、笑みを浮かべながらそんなやり取りをした後、観客席の方を向いて、半分だけのリボンを高く掲げて、一緒に叫んだ。 「ダブル優勝で、ダイジョウブ!!」
* * *
こうして、お祭りポケモンコンテストは幕を閉じた。 でも、あたしのコンテストへの挑戦は、まだ終わらない。そう、ママみたいなトップコーディネーターになるまではね!
こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……
STORY17:THE END
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