[572] SECTION01 ヒカリ裏取引疑惑!? |
- フリッカー - 2008年06月11日 (水) 20時31分
あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。
SECTION01 ヒカリ裏取引疑惑!?
それは、ミクリカップ2日目の日だった。 1日目の1次審査突破で、自分に自信がついたあたしは、2次のコンテストパトルもみんなと心を1つにして順調に勝ち進んでいった。まさに波に乗ったって感じ。でも、まだ気が抜けない。優勝して、リボンをゲットするまでは……!
そんな思いの中で、あたしはしっかりと身だしなみを整えて、特設ステージへと向かった。開ける視界。真ん中に広がる大きなプール。周りを取り囲む観客達。周りから降り注ぐ観客の歓声のシャワーを、体いっぱいに浴びる。こんなに気持ちいいと思ったのは、久しぶりだった。 「かなたはヒカリさん!! こなたはエミリさん!!」 司会のアナウンスが響き渡った。プールを挟んだ向こう側には、今回の対戦相手がいる。青いドレスに胸元の赤いリボンが似合ってる、茶色のロングヘアーの女の子。エミリって名前みたい。 「最初に言っとく!! あんたみたいな『血統書つき』には、絶対に負けないわ!! 必ず勝って、リボンをあたしのものにする!!」 エミリはいきなりあたしに人差し指を突き出して、堂々と宣言した。いくらママがトップコーディネーターだからって、『血統書つき』って言葉にはちょっとムカついた。だけど、こんなステージの上で怒る訳にはいかないから、その感情は心の中に閉じ込めておく事にする。 「制限時間は5分!! それでは、バトルスタート!!」 司会のアナウンスと同時に、スクリーンのタイマーが動き始めた。 「エテボース、チャームアーップ!!」 ボールカプセルに入れたモンスターボールを勢いよく投げるあたし。開いたボールからたくさんのハートと一緒に、飛び出すエテボース。 「さあ、出番よモルフォン!!」 エミリもボールカプセルに入れたモンスターボールを投げる。キラキラと輝く紙吹雪の中から、飛び出してきたむしポケモン。 「あれがモルフォン……」 あたしは、ポケモン図鑑を取り出した。 「モルフォン、どくがポケモン。羽ばたいてりんぷんをまき散らす。りんぷんが体につくと、毒の成分が皮膚にしみこんでくる」 図鑑の音声が流れた。 「こんなステージなのにエテボース!? なら、こっちが有利ね!! 勝ちはもらった!!」 エミリは、自信満々に言う。モルフォンがいくら空が飛べるからって、有利だって決めつけないで……! そんな思いが込み上げてくる。 「エテボース、“ダブルアタック”!!」 「エポッ!!」 あたしの指示で、エテボースは飛び上がった。 「モルフォン、“ぎんいろのかぜ”!!」 それを待っていたかのように、エミリが指示した。モルフォンの羽ばたきで、銀色に輝く風がエテボースに襲いかかった! 直撃! それに吹き飛ばされたエテボースは、こっちまで逆戻り。尻尾で受け身をとったのが、何よりの救いだった。 「飛びかかろうとしたエテボースを、モルフォンが“ぎんいろのかぜ”で阻止!! エテボース、近づく事ができません!!」 司会の実況が響く。スクリーンに映るあたしのゲージが下がったのが見えた。 「どう!! 近づけるもんなら近づいてみなさ〜い!!」 挑発するように叫ぶエミリ。さらに激しさを増す“ぎんいろのかぜ”。エテボースは向かい風を受けてほとんど身動きが取れない。このまま時間を稼ぐつもりなの……? こうなったら、何とかして近づかないと……! 「だったら!! エテボース、プールに“きあいパンチ”!!」 「エイッ、ポオオオオッ!!」 とっさに思いついたのは、1次審査の最後で見せた演技。エテボースはその通りに、プールに思い切りパンチした。勢いよく上がる水柱。水柱はモルフォンに真っ直ぐ向かって行って、直撃! 不意を突かれたモルフォンの“ぎんいろのかぜ”が止んだ。 「ヒカリさんも負けていません!! プールの水を使って、モルフォンに反撃しました!!」 実況が響く。エミリのゲージが下がった。今がチャンス! 「エテボース、“スピードスター”!!」 「エイポオオオオッ!!」 すぐにエテボースは、“スピードスター”を発射! 飛んで行った“スピードスター”は、モルフォンの周りを回り始めた! 「今よ!! “スピードスター”に乗って“かげぶんしん”!!」 エテボースは“スピードスター”を足場にして、飛び石のようにモルフォンに近づく! そして、そんなエテボースの姿が分裂し始める。周りを回る“スピードスター”の上を縦横無尽に飛び回るたくさんのエテボースの姿に、モルフォンは困惑している。 「エテボース、“スピードスター”と“かげぶんしん”を活かしてモルフォンを翻弄しています!! 素晴らしい身のこなしです!!」 響き渡る実況。エミリのゲージがまた下がった。 「ええい、調子に乗らないでっ!! モルフォン、回りながら“ソーラービーム”!!」 エミリは焦ってきたのか、少し投げやりに指示した。モルフォンの羽が光りだした。パワーを溜め始めたんだ。でも、“ソーラービーム”はすぐには撃てない! 「今よエテボース!!」 「エポッ!!」 “スピードスター”の上を飛び回っていたたくさんのエテボースが、一斉にジャンプした! そして、モルフォンの上で分裂したエテボースの姿が1つになった! 「おおっと!! エテボースの姿が、空中でダイナミックに結集しました!!」 実況が響き渡る。エミリのゲージがまた下がる。 「いけない!!」 「“ダブルアタック”!!」 エミリが気付いた時にはもう手遅れ。 「エイッ、ポオオオオッ!!」 エテボースは、2本の尻尾の拳をモルフォンの上に叩き込んだ! 直撃! たちまちモルフォンは“ソーラービーム”を発射できないまま、プールへと真っ逆さまに落ちた。そして、反動を活かしてあたしの所に尻尾できれいに着地するエテボース。 「ここでタイムアーップ!!」 試合終了のブザーが鳴り響いた。あたしとエミリはスクリーンに目を向けた。 「今回の試合を制したのは、ヒカリさんです!!」 結果は、かなりの差をつけてあたしの勝利。あたしの顔写真が、スクリーンに大きく映った。歓声が響き渡る。 「やったあっ!! よくやったわエテボース!!」 「エポエポッ!!」 あたしは、エテボースを思い切り抱きしめた。エテボースも、尻尾で輪を作って答えた。 「そ、そんな……」 その一方で、エミリは悔しそうに、膝をガクリと落とした。 「エテボースの身の軽さを活かした、見事なコンテストバトルでしたね」 「いやぁ……好きですねぇ……」 「最後は、まるでサーカスを見ている気分になりました」 審査員のコンテスタさん、スキゾーさん、ジョーイさんが順番にコメントした。 「“スピードスター”と“かげぶんしん”を使った、エテボースの見事な曲芸ショー!! なかなか楽しませてもらったよ!!」 最後に特別審査員のミクリ様が、席から立って両手を広げながら、堂々とコメントした。歓声がまた響き渡った。そんな中で、エミリはモルフォンを抱きながら、こっちに涙を溜めた鋭い視線を送っていた……
その時のあたしは想像もしていなかった。まさかこのコンテストバトルが、後で起きる事件の引き金になるなんて……
* * *
サトシのジム挑戦のために、ノモセシティに向かっているあたし達。途中でロケット団がメガヤンマをゲットしたり、サトシのヒコザルがシンジと対決して大変な事になりかけたり…… そんな事があったけど、ノモセシティはもう近く。そんな中で、あたし達はとある町に来ていた。
町の片隅にある、小さなお店。あたしは、そこにみんなを呼んでいた。 「ここが……ヒカリの行きたい所か?」 お店を見つめながらサトシが聞く。 「うん! いいでしょ、ここ?」 あたしは笑顔を振りまきながら、お店の看板に目を向けた。そこには、『食べ放題 ケーキバイキング』って書いてある。そう、これがここに来た理由。このお店は、ケーキ屋さん。看板に書いてあるように、ケーキバイキングでケーキを思う存分食べられる! これを見たあたしは胸が躍った。だって、あたし『スイーツ』が大好きなんだもん! だから、みんなを誘ってここに立ち寄ろうと思った訳。 「ポッチャマもいいよね?」 「ポチャマ!」 あたしの頭の上にいるポッチャマも、嬉しそうに手を挙げて笑顔で答えた。 「……そうだな。最近ケーキなんて全然食べてなかったもんな」 「ピッカ!」 サトシとピカチュウが笑みを浮かべた。 「でしょ? じゃ、決まりね!! 行こっ!!」 サトシも話がわかるじゃない! あたしは嬉しさのあまり、サトシを勝手にお店の中に引っ張っていった。「おお、おい! ちょっと! 何すんだよ!」なんてサトシは言ってたけど、気にもしなかった。そんなあたしとサトシの後を、タケシはやれやれと少し呆れた様子でついて行った。
お店に入って、早速ケーキバイキングを楽しむあたし。静かなお店の中に、食べてと言わんばかりに台の上にずらりと並んでいる、きれいに切り分けられたケーキ。一目見ただけで食欲が促される。種類がいっぱいあって、どれもおいしそう……どれを食べようか悩んじゃう……あぁ〜、もうどうしよう……一通り並んでいるケーキを見てきた後、とりあえず適当に3つのケーキを選んで皿に取って、席に持って行った。そして、すぐに1つ目のショートケーキをスプーンで口に運んだ。甘いクリームの味が、口いっぱいに広がった。 「ん〜、おいし〜い♪」 思わず、そう言いたくなるほどのおいしさ。「ほっぺたがこぼれ落ちそう」って言葉が本当にピッタリ。自然とスプーンの進む速度が加速した。そしてあっという間に、ショートケーキがなくなっちゃった。すぐに2個目のチョコケーキにスプーンが進む。口に頬張ると、口いっぱいに広がる、クリームとは違う甘いチョコの味。もうたまんない……! 「おいおい、もっと味わって食べたらどうなんだ……?」 そんなあたしの様子を見たタケシが、心配してそう言った。 「ダイジョウブ、ダイジョウブ♪」 あたしはそう答えて、また食べ続ける。すぐにチョコケーキもなくなっちゃった。すぐに3つ目のチーズケーキに進む。口にとろけるマイルドなチーズケーキ独特の味。やっぱりチーズケーキもいい……! 気が付くともう、お皿の上のケーキはなくなっちゃっていた。それでも足りないあたしは、またケーキを取りに行った。ケーキを皿に取って戻ると、すぐにまたスプーンで口に運んで行く。 「ポチャ……」 隣でケーキをゆっくりと食べていたポッチャマが、目を丸くしてケーキを食べ続けるあたしを見ていた。 「後で虫歯になっても知らないぞ……」 「まあ、いいじゃん。たまにはこういうのも」 呆れた様子でつぶやいたタケシに、サトシがショートケーキをほおばりながら言った。あたしに負けず劣らず早い食べっぷり。サトシもケーキバイキングを楽しんでるみたい。
ああ、久しぶりのスイーツ……一体どれくらいケーキ食べたんだろう……数えてないから全然わかんない……そんな事はどうだっていっか……これだけいっぱい食べられたんだもん……ああ、幸せ……生きててよかった…… 「あぁ、おいしかった……♪」 席に背中をもたれ掛けて、満腹のお腹に手を乗せて、あたしはそうつぶやいた。 「一体どれだけ食べたんだ……?」 タケシが呆れた様子で、テーブルの上に積み上げられたお皿を見ていった。何枚あるか目で数えようとしたけど、食べ放題だから数える必要はないか、と思ってすぐやめた。 「ポッチャマ……あたし、凄く幸せ……♪」 「ポ、ポチャ……」 夢見心地な状態のあたしは、隣にいるポッチャマにそう言った。すると、ポッチャマは苦笑いをして答えた。 「俺も幸せだあ……♪」 サトシも、あたしと同じような姿勢でそんな事をつぶやいた。「お前もか……」と呆れてつぶやくタケシの声。 そんな時、お店に誰か入ってきた。4人くらい? 家族連れで来たのかな、って思ってあたしは全然気にしなかった。 「あっ!! いた!!」 そんな女の子の声がしたけど、あたしは全然気にしなかった。すると、あたしのすぐ側に誰かが駆け寄ってきて、あたしのすぐ側で止まった。 「……誰?」 視線を感じたあたしは、側に来た人に目を向けた。茶色のロングヘアーが特徴の女の子。この顔、どこかで見たような…… 「あんたね!! ミクリカップでミクリ様に勝たせてくれって頼んだヤツ!!」 その女の子は、お店の中だって事を無視してるかのように、あたしに向かって叫んだ。店にいた人全員の視線がこっちを向いた。 「え……ええっ!? ちょ、ちょっと待って!? 何の話よ!?」 突然女の子が叫んだ訳のわからない言葉。あたしは、むりやり夢見心地の状態から引きずりおろされた。 「な、何だ!?」 「さあ……知らん」 サトシとタケシも、女の子の言葉に驚いた。 「とぼけた事言わないで!! ミクリ様にミクリカップで優勝させてくれって頼んだのはわかってるのよ!!」 訳のわからない事を怒鳴り散らし続ける女の子。 「い、いきなり何の話よ!? そもそも、あなたは誰!?」 あたしは慌ててそう言い返す。 「あたしはエミリよ。忘れたとは言わせないわ。ミクリカップであんたと戦ったじゃない!!」 女の子は、口調を変えないまま自己紹介する。そういえば、ミクリカップの2日目でぶつかった相手に『エミリ』って名前の女の子がいたような…… 「そこまでにするんだ、協力者エミリ。口喧嘩なら、店の外でしてくれないか」 すると、そんなエミリを後ろから誰かが止めた。エミリはすぐに振り返る。そこには、パリッとしたスーツ姿の背の高い男の人が。その横には、どこかで見たような赤くてかなり長いロングヘアーの女の人と、青いショートヘアーの男の人が、サングラスとスーツ姿で立っていた。 「どうも、失礼しました。あなたがフタバタウンのヒカリさんですね?」 男の人はエミリに代わってあたしの前に出て、あたしに聞いた。 「そうですけど……?」 「私はポケモンコンテスト実行委員会の調査員、マツヤマという者です」 男の人は丁寧に自己紹介した。 「ポケモンコンテスト実行委員会……」 その言葉が、あたしの頭に引っかかった。ポケモンコンテストを開催している組織の人が、あたしに何の用なの? 「マツヤマさん、そんな奴なんかにそんな態度取らなくたって……!!」 マツヤマって男の人の後ろにいるエミリが、また怒鳴った。エミリは前に出ようとしたけど、マツヤマさんの左手に遮られた。 「とにかく、本題に入りましょう。フタバタウンのヒカリさん、あなたはミクリカップ開催直前に、開催者ミクリとの裏取引を行った疑いがあります」 「う、裏取引!?」 マツヤマさんの言葉に、あたし達は耳を疑った。 「あたしの話、聞いてなかったの!! ミクリ様にミクリカップで優勝させてくれって頼んだんでしょ!!」 エミリがマツヤマさんの後ろでまた怒鳴る。それを聞いて、あたしはエミリの言っていた言葉の意味がやっとわかった。何だかわからないけど、あたしがミクリカップでズルしたって思われてるみたい! 「そ、そんな……!! あたし、そんな事してません!!」 あたしは慌てて反論した。 「ヒカリはズルなんてしてません!!」 「そうですよ!! 何を根拠に……!!」 サトシとタケシも反論する。 「とにかく、詳しい話は本部で聞きましょう。真相が解明するまで、アクアリボンを預かります」 マツヤマはあたし達をなだめて、右手をあたしの前に差し出した。どうしようか悩んだけど、ここは従うしかないみたい。あたしは仕方なくアクアリボンを取り出して、マツヤマさんの右手の平に置いた。 「あの……もし、本当だってわかったら、どうなるんですか……?」 あたしは、恐る恐るマツヤマさんに聞いた。 「実行委員会の規定に基づき、優勝は取り消し、アクアリボンは没収……そして、あなたから4年間のポケモンコンテスト出場権を剥奪します」 「そ、そんな……!!」 マツヤマさんの言葉は残酷なものだった。復活した証の優勝が取り消されて、ポケモンコンテストに4年も出られなくなっちゃったら……! 背筋が凍りついた。 「悪者に情けは無用って事よ。それくらいの罰は受けてもらわないと」 マツヤマさんの後ろでエミリが嫌味に笑った。すると、マツヤマさんの視線がエミリに向いた。それに気付いたエミリは、顔をそらして何食わない顔を作った。 「心配しないでください。私は、決してあなたを疑っている訳ではありません。私は、真実を確かめたいだけなのです。そのためにも、どうか話を聞かせてください」 視線を戻したマツヤマさんは、そうあたしに言った。 「……わかりました」 マツヤマさんのまじめな表情を見て、気持ちが落ち着いたあたしは、本当の事を話そうって決めた。そうすれば、無実だってわかってもらえる。 「では、本部で話を聞かせてくれますね?」 「はい」 あたしは、はっきりと答えた。エミリは、まだあたしに鋭い視線を送っていた。そして、その口元がニヤリと笑った。
* * *
ここはシンオウ地方のどこかにある、都会の町。 たくさんの人でにぎわう歩行者天国の中に、1人の女の子がいた。耳を隠すように横が伸びている茶色の髪。赤いノースリーブにミニスカートのワンピースに、短パンのようにきめている黒いスパッツ。頭には緑色のバンダナ。右手に持ったソフトクリームを舐めながら、ご機嫌よさそうに歩いている。 「う〜ん、シンオウって、いい所かも!」 笑みを浮かべてつぶやく女の子。 『こんにちは、ニュースの時間です』 その女の子が交差点を通った時、ビルの壁にある大きな画面のテレビでニュースが流れた。 『先日開催されたポケモンコンテストミクリカップの優勝者、フタバタウンのヒカリさんに、不正疑惑がもたれています』 「……?」 女の子はその言葉に呼び止められたように、足を止めた。そして、ビルの壁のテレビに目を向けた。 『先日、ヒカリさんがミクリカップ開催の直前、開催者でありミクリカップでの特別審査員でもあるコンテストマスター、ミクリさんと裏取引を行っていたという情報が、ポケモンコンテスト実行委員会に寄せられました』 「えっ!?」 ニュースキャスターの言葉に、耳を疑う女の子。 『ヒカリさんとミクリさんが、ミクリカップ開催前に会っていたという目撃情報は多く、実行委員会では、今日にでもヒカリさん本人に事情聴取を行う予定です……』 「……大変かも!!」 女の子は、慌ててソフトクリームを投げ出して、急ぎ足でその場を後にした。
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あたし達がマツヤマさんの案内で向かったのは、ポケモンコンテスト実行員会支部っていうビルだった。 その中の部屋の1つに、あたしはいた。立っているあたしの前半分を取り囲むように並ぶ机に座っている調査員の人達。正面にはマツヤマさん。その横には、エミリがこっちに鋭い目線を向けている。あたしの後ろには、サトシとタケシ。これじゃ、まるで裁判。 「ミクリはどうした?」 「いいえ、未だ連絡がつけない状態です。彼も多忙なようで……」 「そうか。となると、連絡がつくまではヒカリさん本人から聞くしかないという事か……」 マツヤマさんが、他の調査員とそんなやり取りをしていた。どうやら、ミクリ様もここに呼び出そうとしてたみたい。考えてみたら当然か。ミクリ様がここに来てくれたら、これほど心強い事はないけど、それは期待できそうにない。ポッチャマを抱く腕に、少し力が入った。 「ヒカリ、ダイジョウブさ。ちゃんとここで自分は無実なんだって事を言えば」 「わかってる」 後ろからのサトシの言葉に、そう答えるあたし。落ち着かなきゃ、ここであたしが無実だって事をちゃんと話さないと……! そう自分に言い聞かせた。 「……では、話を聞かせてもらいましょう、フタバタウンのヒカリさん」 マツヤマさんを始めとした全員の視線が、あたしに向けられた。 「まずは、ミクリカップ開催直前に、ミクリと会った事について。ミクリカップ開催の数日前、テレビコトブキの取材班を始め、ミクリを追っていた多くのマスコミ報道陣が、あなたがミクリと湖の畔で会話をしていた光景を目撃しています。これが、それを裏付ける写真です」 マツヤマさんが、1枚の写真を取り出して、あたしに見せた。そこには、あの時ミクリ様と会った時のあたしとミクリ様が、はっきりと映っていた。 「あたしの友達も見たんだからね!! あんたとミクリ様が、何か怪しげに話していた所を!! だからこうやってここに……!!」 エミリが乱暴に席から立って、怒鳴り声をあげた。 「協力者エミリ、静粛に」 そんなエミリに冷静に注意するマツヤマさん。それを聞いたエミリは、不満そうに席に座った。 「ミクリと会った、という事に意義はありますか?」 「いいえ。確かに、ミクリ様と会った事は本当です」 あたしが答えると、調査員達が一斉に騒ぎ始めた。「静粛に」と冷静にそれを静めるマツヤマさん。 「でも、ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いただけで、勝たせてくれなんて言ってません!!」 あたしは、はっきりとマツヤマさんに向けて言った。 「その『ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いた』ってのが怪しいわ!!」 エミリがまた乱暴に立って、怒鳴り声を上げた。 「静粛に、協力者エミリ。『ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いた』というのは、具体的にどういう事だったのですか?」 マツヤマさんがエミリを静めて、あたしに聞いた。 「はい。それは……」 「その前に、こちらを着けてもらえないでしょうか?」 あたしが答えようとすると、赤い髪の女の調査員が変に裏返った声で、あたしの所に大きな機械を持ってきた。メーターみたいなのが付いてて、機械から延びるコードの先にはバンドみたいなものが。 「何だ、その機械は?」 「『ウソ発見器』でございます。もしジャ、いいえ、彼女がウソをついたとしても、この機械が心の動揺を捉え、ウソだという事を証明します」 マツヤマさんの質問に、女の調査員は裏返った声で答えた。 「そんなものは必要ない。我々は警察ではないのだぞ」 「真相を確かめたいのでしょう?」 マツヤマさんの反論を聞き流して、女の調査員は勝手にあたしの左手首にバンドを着けて、メーターを持っていって元の席に戻った。よく考えたら、どうって事ないか。あたしがウソをついてないって事が証明できるんだから。でも、エミリはなぜか、口元に笑みを浮かべていた。 「……話に戻りましょう。ではヒカリさん、説明してください」 マツヤマさんがあたしに顔を向けた。あたしは落ち着いて説明を始めた。 「あの時、あたしは近くにミクリ様がいるって事を知って、絶対会いたいって思って、探したんです。そして、湖の所にいるミクリ様を見つけたんです。それで、あたしはミクリ様に……」 「おおっ!! メーターが大きく揺れ動いている!! これは、心が動揺している証拠!!」 あたしの説明が、ウソ発見器を見ていた青い髪の男の調査員の叫び声に遮られた。 「あなたはウソをついている!!」 男の調査員は、あたしを指差して堂々と言い放った。 「ええっ!?」 あたし達は驚いた。落ち着いて本当の事を話したはずなのに、何でウソになっちゃうの!? 調査員達が騒ぎ始めた。 「ち、違います!! あたしの言った事は本当です!!」 「口ではごまかせても、ウソ発見器にはごまかせませんよ……」 男の調査員が疑い深い視線を向けて、こっちにメーターを向けた。すると、メーターは狂ったように左右に揺れていた! 「そんな……!?」 あたしは絶望した。本当の事をちゃんと話したのに、どうして……!? あたしの心がメーターの針のように激しく揺れ動いた。何だかおかしいよ……こんな事ありえないよ……! 悪い夢でも見ているの……!? 「ヒカリの言っている事は本当だ!! 俺が証人になる!!」 サトシが席から立って言い返した。 「ウソ発見器がなくたって結果は見え見えよ。本来、審査員というのはね、参加者と一切関係のない人がやるのよ。そんな審査員と関わりがあったって事自体おかしいじゃない!! 絶対何か裏があるわ!!」 エミリが逆に言い返す。 「そんな事……!!」 「あんた、ひょっとしてそいつに口封じされてるんじゃないの? 本当の事は言うなって脅されてるとか?」 エミリが、疑い深い視線をあたしに向ける。 「ヒカリはそんな事言ってない!!」 「『血統書つき』のくせに2回も1次審査突破できなかったからって、そんな手で勝とうとするなんて、最低の人間よね……よっぽど勝利に飢えていたのね……」 サトシの言葉を無視して、エミリが嫌味に笑いながらあたしに言った。 「違う……違うっ!!」 あたしの心がどんどん追い詰められていく。もう何を言って言い返そうかさえ思いつかなくなってくる。 「さあ、いい加減に吐いたらどうなのよ!! 口が裂けても言えないって言うなら、試しに裂いてみましょうか!!」 エミリの鋭い視線が突き刺さる。こうなるともう、どんな事を言っても無駄になるような気がしてきた。復活した証のアクアリボンが、頭の中でどんどん遠ざかっていく。 「あたしは……そんな事してないっ!!」 あたしは、それしか言葉が出なかった。正直泣きそうになった。どうすれば……どうすればいいの……? 悪い夢なら早く覚めて……!
その時、バタンと乱暴に部屋のドアが開く音が聞こえた。いや、破られたって言った方がいいかもしれない。 「ヒカリは無実かも!!」 その声は、聞き覚えのある声だった。その一声で、全員が驚いてドアを見た。 床に倒れているドアの上には、見覚えのある女の子とポケモンが立っていた。耳を隠すように横が伸びている茶色の髪。赤いノースリーブにミニスカートのワンピースに、短パンのようにきめている黒いスパッツ。頭には緑色のバンダナ。そして、赤い体の鳥人のような、勇ましい姿のポケモン…… 「ええっ……!?」 あたしは、その姿を見て目を疑った。だって、あの人はミクリカップの後、シンオウを出発していたはずの…… 「ハルカ!?」 ハルカと、そのバシャーモだったんだから!!
TO BE CONTINUED……
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