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[571] ヒカリストーリー STORY16 勝利の価値
フリッカー - 2008年06月11日 (水) 20時30分

 予定よりも結構早く書けました!
 今回は、登場が不可能と思われていたあの人物が登場!

・ゲストキャラクター
エミリ イメージCV:こやまきみこ
 ポケモンコーディネーターの少女。わがままで自分の思い通りにならないと気が済まない自己中心的な性格。
 ミクリカップ2日目においてヒカリと戦い、敗れている。その後、ヒカリの裏取引疑惑の目撃者としてヒカリの前に現れるが……
 手持ちポケモンはモルフォン、ロコン。

マツヤマ イメージCV:小西克幸
 ポケモンコンテスト実行委員会から派遣された調査員の男。
 冷静な性格で、調査団のリーダを務めている。ヒカリを疑っている訳ではなく、あくまで真実を確かめるという目的で調査を行う。

[572] SECTION01 ヒカリ裏取引疑惑!?
フリッカー - 2008年06月11日 (水) 20時31分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。


SECTION01 ヒカリ裏取引疑惑!?


 それは、ミクリカップ2日目の日だった。
 1日目の1次審査突破で、自分に自信がついたあたしは、2次のコンテストパトルもみんなと心を1つにして順調に勝ち進んでいった。まさに波に乗ったって感じ。でも、まだ気が抜けない。優勝して、リボンをゲットするまでは……!

 そんな思いの中で、あたしはしっかりと身だしなみを整えて、特設ステージへと向かった。開ける視界。真ん中に広がる大きなプール。周りを取り囲む観客達。周りから降り注ぐ観客の歓声のシャワーを、体いっぱいに浴びる。こんなに気持ちいいと思ったのは、久しぶりだった。
「かなたはヒカリさん!! こなたはエミリさん!!」
 司会のアナウンスが響き渡った。プールを挟んだ向こう側には、今回の対戦相手がいる。青いドレスに胸元の赤いリボンが似合ってる、茶色のロングヘアーの女の子。エミリって名前みたい。
「最初に言っとく!! あんたみたいな『血統書つき』には、絶対に負けないわ!! 必ず勝って、リボンをあたしのものにする!!」
 エミリはいきなりあたしに人差し指を突き出して、堂々と宣言した。いくらママがトップコーディネーターだからって、『血統書つき』って言葉にはちょっとムカついた。だけど、こんなステージの上で怒る訳にはいかないから、その感情は心の中に閉じ込めておく事にする。
「制限時間は5分!! それでは、バトルスタート!!」
 司会のアナウンスと同時に、スクリーンのタイマーが動き始めた。
「エテボース、チャームアーップ!!」
 ボールカプセルに入れたモンスターボールを勢いよく投げるあたし。開いたボールからたくさんのハートと一緒に、飛び出すエテボース。
「さあ、出番よモルフォン!!」
 エミリもボールカプセルに入れたモンスターボールを投げる。キラキラと輝く紙吹雪の中から、飛び出してきたむしポケモン。
「あれがモルフォン……」
 あたしは、ポケモン図鑑を取り出した。
「モルフォン、どくがポケモン。羽ばたいてりんぷんをまき散らす。りんぷんが体につくと、毒の成分が皮膚にしみこんでくる」
 図鑑の音声が流れた。
「こんなステージなのにエテボース!? なら、こっちが有利ね!! 勝ちはもらった!!」
 エミリは、自信満々に言う。モルフォンがいくら空が飛べるからって、有利だって決めつけないで……! そんな思いが込み上げてくる。
「エテボース、“ダブルアタック”!!」
「エポッ!!」
 あたしの指示で、エテボースは飛び上がった。
「モルフォン、“ぎんいろのかぜ”!!」
 それを待っていたかのように、エミリが指示した。モルフォンの羽ばたきで、銀色に輝く風がエテボースに襲いかかった! 直撃! それに吹き飛ばされたエテボースは、こっちまで逆戻り。尻尾で受け身をとったのが、何よりの救いだった。
「飛びかかろうとしたエテボースを、モルフォンが“ぎんいろのかぜ”で阻止!! エテボース、近づく事ができません!!」
 司会の実況が響く。スクリーンに映るあたしのゲージが下がったのが見えた。
「どう!! 近づけるもんなら近づいてみなさ〜い!!」
 挑発するように叫ぶエミリ。さらに激しさを増す“ぎんいろのかぜ”。エテボースは向かい風を受けてほとんど身動きが取れない。このまま時間を稼ぐつもりなの……? こうなったら、何とかして近づかないと……!
「だったら!! エテボース、プールに“きあいパンチ”!!」
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 とっさに思いついたのは、1次審査の最後で見せた演技。エテボースはその通りに、プールに思い切りパンチした。勢いよく上がる水柱。水柱はモルフォンに真っ直ぐ向かって行って、直撃! 不意を突かれたモルフォンの“ぎんいろのかぜ”が止んだ。
「ヒカリさんも負けていません!! プールの水を使って、モルフォンに反撃しました!!」
 実況が響く。エミリのゲージが下がった。今がチャンス!
「エテボース、“スピードスター”!!」
「エイポオオオオッ!!」
 すぐにエテボースは、“スピードスター”を発射! 飛んで行った“スピードスター”は、モルフォンの周りを回り始めた!
「今よ!! “スピードスター”に乗って“かげぶんしん”!!」
 エテボースは“スピードスター”を足場にして、飛び石のようにモルフォンに近づく! そして、そんなエテボースの姿が分裂し始める。周りを回る“スピードスター”の上を縦横無尽に飛び回るたくさんのエテボースの姿に、モルフォンは困惑している。
「エテボース、“スピードスター”と“かげぶんしん”を活かしてモルフォンを翻弄しています!! 素晴らしい身のこなしです!!」
 響き渡る実況。エミリのゲージがまた下がった。
「ええい、調子に乗らないでっ!! モルフォン、回りながら“ソーラービーム”!!」
 エミリは焦ってきたのか、少し投げやりに指示した。モルフォンの羽が光りだした。パワーを溜め始めたんだ。でも、“ソーラービーム”はすぐには撃てない!
「今よエテボース!!」
「エポッ!!」
 “スピードスター”の上を飛び回っていたたくさんのエテボースが、一斉にジャンプした! そして、モルフォンの上で分裂したエテボースの姿が1つになった!
「おおっと!! エテボースの姿が、空中でダイナミックに結集しました!!」
 実況が響き渡る。エミリのゲージがまた下がる。
「いけない!!」
「“ダブルアタック”!!」
 エミリが気付いた時にはもう手遅れ。
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 エテボースは、2本の尻尾の拳をモルフォンの上に叩き込んだ! 直撃! たちまちモルフォンは“ソーラービーム”を発射できないまま、プールへと真っ逆さまに落ちた。そして、反動を活かしてあたしの所に尻尾できれいに着地するエテボース。
「ここでタイムアーップ!!」
 試合終了のブザーが鳴り響いた。あたしとエミリはスクリーンに目を向けた。
「今回の試合を制したのは、ヒカリさんです!!」
 結果は、かなりの差をつけてあたしの勝利。あたしの顔写真が、スクリーンに大きく映った。歓声が響き渡る。
「やったあっ!! よくやったわエテボース!!」
「エポエポッ!!」
 あたしは、エテボースを思い切り抱きしめた。エテボースも、尻尾で輪を作って答えた。
「そ、そんな……」
 その一方で、エミリは悔しそうに、膝をガクリと落とした。
「エテボースの身の軽さを活かした、見事なコンテストバトルでしたね」
「いやぁ……好きですねぇ……」
「最後は、まるでサーカスを見ている気分になりました」
 審査員のコンテスタさん、スキゾーさん、ジョーイさんが順番にコメントした。
「“スピードスター”と“かげぶんしん”を使った、エテボースの見事な曲芸ショー!! なかなか楽しませてもらったよ!!」
 最後に特別審査員のミクリ様が、席から立って両手を広げながら、堂々とコメントした。歓声がまた響き渡った。そんな中で、エミリはモルフォンを抱きながら、こっちに涙を溜めた鋭い視線を送っていた……

 その時のあたしは想像もしていなかった。まさかこのコンテストバトルが、後で起きる事件の引き金になるなんて……

 * * *

 サトシのジム挑戦のために、ノモセシティに向かっているあたし達。途中でロケット団がメガヤンマをゲットしたり、サトシのヒコザルがシンジと対決して大変な事になりかけたり……
 そんな事があったけど、ノモセシティはもう近く。そんな中で、あたし達はとある町に来ていた。

 町の片隅にある、小さなお店。あたしは、そこにみんなを呼んでいた。
「ここが……ヒカリの行きたい所か?」
 お店を見つめながらサトシが聞く。
「うん! いいでしょ、ここ?」
 あたしは笑顔を振りまきながら、お店の看板に目を向けた。そこには、『食べ放題 ケーキバイキング』って書いてある。そう、これがここに来た理由。このお店は、ケーキ屋さん。看板に書いてあるように、ケーキバイキングでケーキを思う存分食べられる! これを見たあたしは胸が躍った。だって、あたし『スイーツ』が大好きなんだもん! だから、みんなを誘ってここに立ち寄ろうと思った訳。
「ポッチャマもいいよね?」
「ポチャマ!」
 あたしの頭の上にいるポッチャマも、嬉しそうに手を挙げて笑顔で答えた。
「……そうだな。最近ケーキなんて全然食べてなかったもんな」
「ピッカ!」
 サトシとピカチュウが笑みを浮かべた。
「でしょ? じゃ、決まりね!! 行こっ!!」
 サトシも話がわかるじゃない! あたしは嬉しさのあまり、サトシを勝手にお店の中に引っ張っていった。「おお、おい! ちょっと! 何すんだよ!」なんてサトシは言ってたけど、気にもしなかった。そんなあたしとサトシの後を、タケシはやれやれと少し呆れた様子でついて行った。

 お店に入って、早速ケーキバイキングを楽しむあたし。静かなお店の中に、食べてと言わんばかりに台の上にずらりと並んでいる、きれいに切り分けられたケーキ。一目見ただけで食欲が促される。種類がいっぱいあって、どれもおいしそう……どれを食べようか悩んじゃう……あぁ〜、もうどうしよう……一通り並んでいるケーキを見てきた後、とりあえず適当に3つのケーキを選んで皿に取って、席に持って行った。そして、すぐに1つ目のショートケーキをスプーンで口に運んだ。甘いクリームの味が、口いっぱいに広がった。
「ん〜、おいし〜い♪」
 思わず、そう言いたくなるほどのおいしさ。「ほっぺたがこぼれ落ちそう」って言葉が本当にピッタリ。自然とスプーンの進む速度が加速した。そしてあっという間に、ショートケーキがなくなっちゃった。すぐに2個目のチョコケーキにスプーンが進む。口に頬張ると、口いっぱいに広がる、クリームとは違う甘いチョコの味。もうたまんない……!
「おいおい、もっと味わって食べたらどうなんだ……?」
 そんなあたしの様子を見たタケシが、心配してそう言った。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ♪」
 あたしはそう答えて、また食べ続ける。すぐにチョコケーキもなくなっちゃった。すぐに3つ目のチーズケーキに進む。口にとろけるマイルドなチーズケーキ独特の味。やっぱりチーズケーキもいい……! 気が付くともう、お皿の上のケーキはなくなっちゃっていた。それでも足りないあたしは、またケーキを取りに行った。ケーキを皿に取って戻ると、すぐにまたスプーンで口に運んで行く。
「ポチャ……」
 隣でケーキをゆっくりと食べていたポッチャマが、目を丸くしてケーキを食べ続けるあたしを見ていた。
「後で虫歯になっても知らないぞ……」
「まあ、いいじゃん。たまにはこういうのも」
 呆れた様子でつぶやいたタケシに、サトシがショートケーキをほおばりながら言った。あたしに負けず劣らず早い食べっぷり。サトシもケーキバイキングを楽しんでるみたい。

 ああ、久しぶりのスイーツ……一体どれくらいケーキ食べたんだろう……数えてないから全然わかんない……そんな事はどうだっていっか……これだけいっぱい食べられたんだもん……ああ、幸せ……生きててよかった……
「あぁ、おいしかった……♪」
 席に背中をもたれ掛けて、満腹のお腹に手を乗せて、あたしはそうつぶやいた。
「一体どれだけ食べたんだ……?」
 タケシが呆れた様子で、テーブルの上に積み上げられたお皿を見ていった。何枚あるか目で数えようとしたけど、食べ放題だから数える必要はないか、と思ってすぐやめた。
「ポッチャマ……あたし、凄く幸せ……♪」
「ポ、ポチャ……」
 夢見心地な状態のあたしは、隣にいるポッチャマにそう言った。すると、ポッチャマは苦笑いをして答えた。
「俺も幸せだあ……♪」
 サトシも、あたしと同じような姿勢でそんな事をつぶやいた。「お前もか……」と呆れてつぶやくタケシの声。
 そんな時、お店に誰か入ってきた。4人くらい? 家族連れで来たのかな、って思ってあたしは全然気にしなかった。
「あっ!! いた!!」
 そんな女の子の声がしたけど、あたしは全然気にしなかった。すると、あたしのすぐ側に誰かが駆け寄ってきて、あたしのすぐ側で止まった。
「……誰?」
 視線を感じたあたしは、側に来た人に目を向けた。茶色のロングヘアーが特徴の女の子。この顔、どこかで見たような……
「あんたね!! ミクリカップでミクリ様に勝たせてくれって頼んだヤツ!!」
 その女の子は、お店の中だって事を無視してるかのように、あたしに向かって叫んだ。店にいた人全員の視線がこっちを向いた。
「え……ええっ!? ちょ、ちょっと待って!? 何の話よ!?」
 突然女の子が叫んだ訳のわからない言葉。あたしは、むりやり夢見心地の状態から引きずりおろされた。
「な、何だ!?」
「さあ……知らん」
 サトシとタケシも、女の子の言葉に驚いた。
「とぼけた事言わないで!! ミクリ様にミクリカップで優勝させてくれって頼んだのはわかってるのよ!!」
 訳のわからない事を怒鳴り散らし続ける女の子。
「い、いきなり何の話よ!? そもそも、あなたは誰!?」
 あたしは慌ててそう言い返す。
「あたしはエミリよ。忘れたとは言わせないわ。ミクリカップであんたと戦ったじゃない!!」
 女の子は、口調を変えないまま自己紹介する。そういえば、ミクリカップの2日目でぶつかった相手に『エミリ』って名前の女の子がいたような……
「そこまでにするんだ、協力者エミリ。口喧嘩なら、店の外でしてくれないか」
 すると、そんなエミリを後ろから誰かが止めた。エミリはすぐに振り返る。そこには、パリッとしたスーツ姿の背の高い男の人が。その横には、どこかで見たような赤くてかなり長いロングヘアーの女の人と、青いショートヘアーの男の人が、サングラスとスーツ姿で立っていた。
「どうも、失礼しました。あなたがフタバタウンのヒカリさんですね?」
 男の人はエミリに代わってあたしの前に出て、あたしに聞いた。
「そうですけど……?」
「私はポケモンコンテスト実行委員会の調査員、マツヤマという者です」
 男の人は丁寧に自己紹介した。
「ポケモンコンテスト実行委員会……」
 その言葉が、あたしの頭に引っかかった。ポケモンコンテストを開催している組織の人が、あたしに何の用なの?
「マツヤマさん、そんな奴なんかにそんな態度取らなくたって……!!」
 マツヤマって男の人の後ろにいるエミリが、また怒鳴った。エミリは前に出ようとしたけど、マツヤマさんの左手に遮られた。
「とにかく、本題に入りましょう。フタバタウンのヒカリさん、あなたはミクリカップ開催直前に、開催者ミクリとの裏取引を行った疑いがあります」
「う、裏取引!?」
 マツヤマさんの言葉に、あたし達は耳を疑った。
「あたしの話、聞いてなかったの!! ミクリ様にミクリカップで優勝させてくれって頼んだんでしょ!!」
 エミリがマツヤマさんの後ろでまた怒鳴る。それを聞いて、あたしはエミリの言っていた言葉の意味がやっとわかった。何だかわからないけど、あたしがミクリカップでズルしたって思われてるみたい!
「そ、そんな……!! あたし、そんな事してません!!」
 あたしは慌てて反論した。
「ヒカリはズルなんてしてません!!」
「そうですよ!! 何を根拠に……!!」
 サトシとタケシも反論する。
「とにかく、詳しい話は本部で聞きましょう。真相が解明するまで、アクアリボンを預かります」
 マツヤマはあたし達をなだめて、右手をあたしの前に差し出した。どうしようか悩んだけど、ここは従うしかないみたい。あたしは仕方なくアクアリボンを取り出して、マツヤマさんの右手の平に置いた。
「あの……もし、本当だってわかったら、どうなるんですか……?」
 あたしは、恐る恐るマツヤマさんに聞いた。
「実行委員会の規定に基づき、優勝は取り消し、アクアリボンは没収……そして、あなたから4年間のポケモンコンテスト出場権を剥奪します」
「そ、そんな……!!」
 マツヤマさんの言葉は残酷なものだった。復活した証の優勝が取り消されて、ポケモンコンテストに4年も出られなくなっちゃったら……! 背筋が凍りついた。
「悪者に情けは無用って事よ。それくらいの罰は受けてもらわないと」
 マツヤマさんの後ろでエミリが嫌味に笑った。すると、マツヤマさんの視線がエミリに向いた。それに気付いたエミリは、顔をそらして何食わない顔を作った。
「心配しないでください。私は、決してあなたを疑っている訳ではありません。私は、真実を確かめたいだけなのです。そのためにも、どうか話を聞かせてください」
 視線を戻したマツヤマさんは、そうあたしに言った。
「……わかりました」
 マツヤマさんのまじめな表情を見て、気持ちが落ち着いたあたしは、本当の事を話そうって決めた。そうすれば、無実だってわかってもらえる。
「では、本部で話を聞かせてくれますね?」
「はい」
 あたしは、はっきりと答えた。エミリは、まだあたしに鋭い視線を送っていた。そして、その口元がニヤリと笑った。

 * * *

 ここはシンオウ地方のどこかにある、都会の町。
 たくさんの人でにぎわう歩行者天国の中に、1人の女の子がいた。耳を隠すように横が伸びている茶色の髪。赤いノースリーブにミニスカートのワンピースに、短パンのようにきめている黒いスパッツ。頭には緑色のバンダナ。右手に持ったソフトクリームを舐めながら、ご機嫌よさそうに歩いている。
「う〜ん、シンオウって、いい所かも!」
 笑みを浮かべてつぶやく女の子。
『こんにちは、ニュースの時間です』
 その女の子が交差点を通った時、ビルの壁にある大きな画面のテレビでニュースが流れた。
『先日開催されたポケモンコンテストミクリカップの優勝者、フタバタウンのヒカリさんに、不正疑惑がもたれています』
「……?」
 女の子はその言葉に呼び止められたように、足を止めた。そして、ビルの壁のテレビに目を向けた。
『先日、ヒカリさんがミクリカップ開催の直前、開催者でありミクリカップでの特別審査員でもあるコンテストマスター、ミクリさんと裏取引を行っていたという情報が、ポケモンコンテスト実行委員会に寄せられました』
「えっ!?」
 ニュースキャスターの言葉に、耳を疑う女の子。
『ヒカリさんとミクリさんが、ミクリカップ開催前に会っていたという目撃情報は多く、実行委員会では、今日にでもヒカリさん本人に事情聴取を行う予定です……』
「……大変かも!!」
 女の子は、慌ててソフトクリームを投げ出して、急ぎ足でその場を後にした。

 * * *

 あたし達がマツヤマさんの案内で向かったのは、ポケモンコンテスト実行員会支部っていうビルだった。
 その中の部屋の1つに、あたしはいた。立っているあたしの前半分を取り囲むように並ぶ机に座っている調査員の人達。正面にはマツヤマさん。その横には、エミリがこっちに鋭い目線を向けている。あたしの後ろには、サトシとタケシ。これじゃ、まるで裁判。
「ミクリはどうした?」
「いいえ、未だ連絡がつけない状態です。彼も多忙なようで……」
「そうか。となると、連絡がつくまではヒカリさん本人から聞くしかないという事か……」
 マツヤマさんが、他の調査員とそんなやり取りをしていた。どうやら、ミクリ様もここに呼び出そうとしてたみたい。考えてみたら当然か。ミクリ様がここに来てくれたら、これほど心強い事はないけど、それは期待できそうにない。ポッチャマを抱く腕に、少し力が入った。
「ヒカリ、ダイジョウブさ。ちゃんとここで自分は無実なんだって事を言えば」
「わかってる」
 後ろからのサトシの言葉に、そう答えるあたし。落ち着かなきゃ、ここであたしが無実だって事をちゃんと話さないと……! そう自分に言い聞かせた。
「……では、話を聞かせてもらいましょう、フタバタウンのヒカリさん」
 マツヤマさんを始めとした全員の視線が、あたしに向けられた。
「まずは、ミクリカップ開催直前に、ミクリと会った事について。ミクリカップ開催の数日前、テレビコトブキの取材班を始め、ミクリを追っていた多くのマスコミ報道陣が、あなたがミクリと湖の畔で会話をしていた光景を目撃しています。これが、それを裏付ける写真です」
 マツヤマさんが、1枚の写真を取り出して、あたしに見せた。そこには、あの時ミクリ様と会った時のあたしとミクリ様が、はっきりと映っていた。
「あたしの友達も見たんだからね!! あんたとミクリ様が、何か怪しげに話していた所を!! だからこうやってここに……!!」
 エミリが乱暴に席から立って、怒鳴り声をあげた。
「協力者エミリ、静粛に」
 そんなエミリに冷静に注意するマツヤマさん。それを聞いたエミリは、不満そうに席に座った。
「ミクリと会った、という事に意義はありますか?」
「いいえ。確かに、ミクリ様と会った事は本当です」
 あたしが答えると、調査員達が一斉に騒ぎ始めた。「静粛に」と冷静にそれを静めるマツヤマさん。
「でも、ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いただけで、勝たせてくれなんて言ってません!!」
 あたしは、はっきりとマツヤマさんに向けて言った。
「その『ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いた』ってのが怪しいわ!!」
 エミリがまた乱暴に立って、怒鳴り声を上げた。
「静粛に、協力者エミリ。『ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いた』というのは、具体的にどういう事だったのですか?」
 マツヤマさんがエミリを静めて、あたしに聞いた。
「はい。それは……」
「その前に、こちらを着けてもらえないでしょうか?」
 あたしが答えようとすると、赤い髪の女の調査員が変に裏返った声で、あたしの所に大きな機械を持ってきた。メーターみたいなのが付いてて、機械から延びるコードの先にはバンドみたいなものが。
「何だ、その機械は?」
「『ウソ発見器』でございます。もしジャ、いいえ、彼女がウソをついたとしても、この機械が心の動揺を捉え、ウソだという事を証明します」
 マツヤマさんの質問に、女の調査員は裏返った声で答えた。
「そんなものは必要ない。我々は警察ではないのだぞ」
「真相を確かめたいのでしょう?」
 マツヤマさんの反論を聞き流して、女の調査員は勝手にあたしの左手首にバンドを着けて、メーターを持っていって元の席に戻った。よく考えたら、どうって事ないか。あたしがウソをついてないって事が証明できるんだから。でも、エミリはなぜか、口元に笑みを浮かべていた。
「……話に戻りましょう。ではヒカリさん、説明してください」
 マツヤマさんがあたしに顔を向けた。あたしは落ち着いて説明を始めた。
「あの時、あたしは近くにミクリ様がいるって事を知って、絶対会いたいって思って、探したんです。そして、湖の所にいるミクリ様を見つけたんです。それで、あたしはミクリ様に……」
「おおっ!! メーターが大きく揺れ動いている!! これは、心が動揺している証拠!!」
 あたしの説明が、ウソ発見器を見ていた青い髪の男の調査員の叫び声に遮られた。
「あなたはウソをついている!!」
 男の調査員は、あたしを指差して堂々と言い放った。
「ええっ!?」
 あたし達は驚いた。落ち着いて本当の事を話したはずなのに、何でウソになっちゃうの!? 調査員達が騒ぎ始めた。
「ち、違います!! あたしの言った事は本当です!!」
「口ではごまかせても、ウソ発見器にはごまかせませんよ……」
 男の調査員が疑い深い視線を向けて、こっちにメーターを向けた。すると、メーターは狂ったように左右に揺れていた!
「そんな……!?」
 あたしは絶望した。本当の事をちゃんと話したのに、どうして……!? あたしの心がメーターの針のように激しく揺れ動いた。何だかおかしいよ……こんな事ありえないよ……! 悪い夢でも見ているの……!?
「ヒカリの言っている事は本当だ!! 俺が証人になる!!」
 サトシが席から立って言い返した。
「ウソ発見器がなくたって結果は見え見えよ。本来、審査員というのはね、参加者と一切関係のない人がやるのよ。そんな審査員と関わりがあったって事自体おかしいじゃない!! 絶対何か裏があるわ!!」
 エミリが逆に言い返す。
「そんな事……!!」
「あんた、ひょっとしてそいつに口封じされてるんじゃないの? 本当の事は言うなって脅されてるとか?」
 エミリが、疑い深い視線をあたしに向ける。
「ヒカリはそんな事言ってない!!」
「『血統書つき』のくせに2回も1次審査突破できなかったからって、そんな手で勝とうとするなんて、最低の人間よね……よっぽど勝利に飢えていたのね……」
 サトシの言葉を無視して、エミリが嫌味に笑いながらあたしに言った。
「違う……違うっ!!」
 あたしの心がどんどん追い詰められていく。もう何を言って言い返そうかさえ思いつかなくなってくる。
「さあ、いい加減に吐いたらどうなのよ!! 口が裂けても言えないって言うなら、試しに裂いてみましょうか!!」
 エミリの鋭い視線が突き刺さる。こうなるともう、どんな事を言っても無駄になるような気がしてきた。復活した証のアクアリボンが、頭の中でどんどん遠ざかっていく。
「あたしは……そんな事してないっ!!」
 あたしは、それしか言葉が出なかった。正直泣きそうになった。どうすれば……どうすればいいの……? 悪い夢なら早く覚めて……!

 その時、バタンと乱暴に部屋のドアが開く音が聞こえた。いや、破られたって言った方がいいかもしれない。
「ヒカリは無実かも!!」
 その声は、聞き覚えのある声だった。その一声で、全員が驚いてドアを見た。
 床に倒れているドアの上には、見覚えのある女の子とポケモンが立っていた。耳を隠すように横が伸びている茶色の髪。赤いノースリーブにミニスカートのワンピースに、短パンのようにきめている黒いスパッツ。頭には緑色のバンダナ。そして、赤い体の鳥人のような、勇ましい姿のポケモン……
「ええっ……!?」
 あたしは、その姿を見て目を疑った。だって、あの人はミクリカップの後、シンオウを出発していたはずの……
「ハルカ!?」
 ハルカと、そのバシャーモだったんだから!!


TO BE CONTINUED……

[574] SECTION02 再戦! ヒカリVSハルカ!
フリッカー - 2008年06月19日 (木) 20時01分

「ハルカ!?」
 倒れたドアの側で堂々と立つハルカとそのバシャーモの姿に、一瞬場の空気が沈黙した。
 ハルカは、あたしがサトシ達と会う前にサトシ達と旅をしていた女の子。ホウエンとカントーのポケモンコンテストで活躍して、グランドフェスティバルにまで行った事のある、人呼んで『ホウエンの舞姫』。
 今はジョウトでポケモンコンテストに挑んでいるみたいだけど、ミクリカップ出場のためにリッシ湖畔にやってきて、あたしと出会った。ミクリカップでの演技を見て、その実力は本物だとあたしは確信した。そんなハルカと、あたしはファイナルでぶつかった。あれはもう、どっちが勝ってもおかしくないようなバトルだったなあ……
 そしてハルカは、ミクリカップが終わった後、ジョウトでのポケモンコンテスト挑戦に戻るためにジョウトに戻っていったはずだけど……そんなハルカが、なんでここにいるの!? 瞬間移動でもしたって言うの!? 今まで続いたサプライズの連続で、あたしの頭が混乱しそうになった。
「げっ……!」
「あいつは……!」
 赤い髪と青い髪の調査員が、一瞬動揺したように見えた。驚くあたし達をよそに、ハルカは真剣な眼差しであたしの横に歩いて来た。
「ジョウトに戻ったんじゃなかったのか!?」
 当然、サトシとタケシも驚いた。あたしも、そんな事をハルカに聞いてみようとしていた。それ以外にも、「どうしてここにいる事がわかったの?」とか、「そもそもどうしてあたし達がこんな状況になっている事を知ってるの?」とか……でも、それはすぐに払いのけられた。
「その話は後にして!!」
 今はそんな事を話している場合じゃないと言うように、ハルカはそれだけ答えてマツヤマさん達に顔を向き直す。
「ちょ、ちょっとあんた!! いきなり押しかけて来て何するつもりなのよ!! ここは関係者以外立ち入り禁止なのよ!!」
 エミリが怒鳴った。その表情は、どこか動揺しているようにも見える。いわゆる『逆ギレ』ってヤツに近い。
「私は関係者よ!! ヒカリと、ミクリカップのファイナルでぶつかったんだから!!」
 そんなエミリの言葉にも、ハルカは屈しなかった。そして息継ぎを1つして、堂々と言い放った。
「ヒカリは不正なんてしてないわ!! 私が証人になるかも!!」


SECTION02 再戦! ヒカリVSハルカ!


 その一言で、調査員達が騒ぎ出した。
「おい……これって、何だかまずくないか……?」
 青い髪の調査員が、そんな事をボソッとつぶやいたような気がした。
「ドアぶっこわしておいて、何バカな事……!!」
「協力者エミリ、静粛に」
 そんなエミリの言葉を一言で止めるマツヤマさん。そして、マツヤマさんは周りの調査員にも冷静に「皆さんも静粛に」と一言呼びかけた。その一言で、周りが始まった時と同じように静まり返った。
「ハルカ……?」
 ハルカは、あたしを助けようとしてる……ここに来た理由はとにかく、ここで味方になってくれるのなら、とても心強い。
「心配しないで。ヒカリの無実は、必ず証明してみせるから!」
 ハルカは周りに聞こえないように、笑みを浮かべてあたしにそっとささやいた。
 ハルカって優しい。あたしは思った。ミクリカップの時も、緊張して髪型がセットできないあたしを手伝ってくれたし、出番が近づく度に緊張感が高まっていたあたしを励ましてくれた。
「……あなたは確か、ミクリカップにもエントリーしていた、トウカシティのハルカですね」
「はい」
 マツヤマさんの質問に、ハルカはうなずいた。
「証人になると言ったからには、何かヒカリさんの無実を証明するものを持っているのですか?」
 いきなり鋭い質問を浴びせるマツヤマさん。それでも、ハルカは迷わずに答えた。
「ヒカリのポケモン達の演技です」
 その言葉に、調査員達は驚いた。あたしも驚いたけど。
「あの時のヒカリの演技も、コンテストバトルも、どんな人が見ても納得のいく演技だったと思います。私も実際に見て、戦ってみて、ヒカリの実力は本当のものだと確信しました!」
 そんな真剣なハルカの言葉を聞いたあたしは、こんな時に不謹慎だとは思うけど、ちょっぴり照れちゃった。
「とても『裏取引』なんかしてステージを勝ち進んでいるなんて、誰も思わないはずです!」
「それはあんたの勝手な判断でしょ!! そんなの、証拠にはならないわ!!」
 エミリが口を挟んだ。
「それに、こっちはこのウソ発見器であいつの言ってる事がウソだって調べたのよ!!」
 エミリは、隣にいる青い髪の調査員から、あのウソ発見器を手にとって、それをハルカに見せた。
「えっ……!?」
 それを見て、ハルカは一瞬、動揺した。それを見たあたしの心の中に、ダイジョバない空気が漂い始める。
「本当なの、ヒカリ……?」
 ハルカがこっちに顔を向けた。信じられないものを見たようなその瞳。あたしがハルカに疑われている……
「違うのよ、あたしは確かに本当の事を言ったのよ。それなのに……」
「ほら見なさいよ!! 機械がそいつの話してる事がウソだって示してるのよ!!」
 あたしが正直に言ったにも関わらず、狂ったように揺れるメーター。それを、ハルカははっきりと見ていた。やっぱりハルカでも、ウソ発見器の結果を覆す事はできないの……? でも、ハルカの言葉は『いい意味で』予想を裏切ってくれた。
「……そのウソ発見器、壊れてるんじゃないの? 何だか怪しいわ!」
「ギクッ……な、何をおっしゃるのですか!! この機械は正真正銘のウソ発見器です!! 常に万全の状態で使用しているんですぞ!!」
 青い髪の調査員は慌てて言い返した。マツヤマさんの鋭い視線が、青い髪の調査員に向いていた。
「ハルカ……!」
 ハルカは、あたしを信じてくれた! ほっとしたのと同時に、嬉しくなった。ハルカが、笑みであたしに答えた。
「じゃあこっちから聞くけど、そのウソ発見器以外で、ヒカリがミクリ様と裏取引したって証拠はあるの?」
 ハルカが顔を戻して、鋭い質問をエミリに投げかけた。
「証拠ならあるわよ!! マツヤマさん、あの写真……」
「……この写真はあくまで『ミクリがヒカリさんと会っている』事を証明するだけで、どんな話をしていたのかは証明できない」
 エミリがマツヤマさんに顔を向けると、マツヤマさんは最初に見せたあの写真を手にとって、冷静に答えた。よく考えたら、写真は風景を写すだけで、声を残す事ができないのは当たり前だよね。
「つまり、こちらもヒカリさんが裏取引を行ったという確実な証拠は掴めていないのです」
 マツヤマさんが、あたし達に顔を戻して言った。
「でも、だからってあいつの演技が証拠だなんて曖昧すぎるじゃない!! あたしは認めないわよ、それを証拠だなんて!!」
 それでもエミリは反論を続ける。
「残念ですが、それも事実です」
 マツヤマさんも冷静に答えた。やっぱり、演技じゃ無実を認められないの……その時、ハルカは強気にこう言い返した。
「そんなにヒカリが信用できないなら、ここでファイナルをやり直せばいいかも!!」
「えっ!?」
 予想外の提案に、そこにいた誰もが耳を疑った。
「要するに、『再試合』をするという事ですか?」
 マツヤマさんの質問に、ハルカはうなずいた。
「ここにはミクリ様もいないし、公平に審査できるでしょ!! もしヒカリが本当にズルしてたなら、勝つ事もいい試合をする事もできないはずでしょ!!」
 ハルカは、エミリに強気で言う。
「そうか!! それはいいアイデアだぜ!!」
 サトシが声を上げた。
「う……」
 エミリは、なぜか言葉が詰まっている。何か悪い事でもあったように。
「ヒカリもいいでしょ?」
 ハルカの顔が、あたしに向いた。確かに、あたしとハルカがバトルをして、あたしがズルをしたほど弱くないって事を見せれば、無実を証明できるかもしれない。でも、もしかしたら……そんな不安が頭を過って、返す言葉がなかなか出ない。
「大丈夫よ。あの時と同じように全力で戦って、自分の実力でリボンをゲットしたって事を証明するのよ。そうすれば、みんなにも伝わるわ」
「ポチャッ!!」
 優しく励ましてくれるハルカと、あたしの腕の中で胸をポンと叩くポッチャマ。そんな2人に、あたしは勇気付けられた。せっかくゲットしたリボンを、ここで失いたくなんてない!
「そうね!!」
 不安が取れたあたしは、はっきりと答えた。
「いいでしょう」
 すると、マツヤマさんがあっさり『再試合』をのんだ。
「マツヤマさん!?」
「この階の下に、ポケモンバトル用のフィールドがあります。そこで行いましょう」
 驚くエミリをよそに、マツヤマさんは淡々と説明した。なぜかエミリの顔に焦りが見えた。
「ありがとうございます!!」
 あたしとハルカは、揃ってペコリとお辞儀をした。

 * * *

 ポケモンバトルのフィールドに、ライトの光が降り注いだ。
 その広さの割には、周りはミクリカップの時と違って人影はずっと少なくて、しんと静まり返っている。場所はステージじゃないし、ドレスも着ていないし、コンテストの再試合をするには何だか寂しい気もするけど、そんな事は言ってられない。フィールドで向かい合うあたしとハルカ。
「では、これより、ポケモンコンテストミクリカップ・ファイナルの再試合を行う。ルールは、通常のコンテストと同一とする」
 用意された横長のテーブルに座ったマツヤマさんが、テーブルの上にアクアリボンを置いて宣言した。テーブルの上には、コンテストで使うのよりずっと小さいポケモンコンテスト用のゲージと時間を映す機械が置いてある。
「どうすんのよ! 何かいい手はないの!」
「そんな事言われたって、こっちも予想外の事だから何も準備してないのよ!」
 エミリと赤い髪の調査員が、小声でそんな事をしゃべっていたような気がした。
 そんな時、マツヤマさんは別の調査員に、何やら話していたけど、それは何なのかは聞こえなかった。そしてその調査員は、なぜかその場を後にしていった。
「2人共がんばれよ〜!!」
「ピカピカ〜!!」
 サトシとピカチュウの応援する声が聞こえてくる。
「だが、ここでもしヒカリが負けてしまったら、どうなるんだ?」
 タケシがつぶやいたそんな疑問に、ハルカが反応した。
「大事なのは勝ち負けじゃなくて中身よ! ヒカリ、普通のコンテストだと思って、思い切りやりましょう!!」
「ええ!!」
 あたしも、はっきりと答えた。そして、目を閉じて精神を集中させて、頭の中にポケモンコンテストの光景を浮かび上がらせた。そう、これはコンテスト。あたしが実力でリボンをゲットしたんだって事を魅せるための……! あたしはカッと目を見開いた。さっきと違って、不思議とうまくいくように思えてきた。ミクリカップの1次審査の時と同じように。
「それじゃあ……」
 ハルカがモンスターボールを取り出そうとした時、突然ハルカのウエストバッグから光が飛び出した。一瞬、何が出て来たのかと驚いた。その光は、1匹の小さなピンク色のポケモンに姿を変えた。ミクリカップでも出ていたハルカのポケモン、エネコだった。
「エネコ!? 勝手に出てきちゃ……」
 ハルカはそこまで言って、口を止めた。そして、何かひらめいたように目を見開いた。
「そうだわ! ヒカリ、あの時と違うポケモンでやりましょうよ!」
 ハルカが提案した。えっ、って一瞬驚いたけど、よく考えたらあの時と違うポケモンを使えば、自分の実力で勝ったって事をもっと印象付けられるかもしれない!
「わかったわ! ポッチャマ、ここで応援してくれる?」
「ポチャ」
 あたしがポッチャマに言うと、ポッチャマはあたしの後ろに下がった。そして、別のモンスターボールとボールカプセルを用意した。ハルカも、エネコを一旦モンスターボールに戻して、ボールカプセルをセットする。
「準備はよろしいですね。では、バトルスタート!!」
 マツヤマさんがそう言って、機械のスイッチを押した。すると、機械のタイマーが動き始めた。
「パチリス、チャームアーップ!!」
 あたしはポケモンコンテストと同じように叫んで、ボールカプセルをセットしたモンスターボールを投げ上げた。たくさんの星屑の中からかわいらしく飛び出したのは、パチリス!
「こっちも改めて!! エネコ、ステージ、オンッ!!」
 ハルカも改めてモンスターボールをフィールドに投げる。たくさんの青い泡と一緒に飛び出すエネコ。2匹がフィールドの上に揃った。
「パチリス、コンテストの時と同じようにやるわよ!!」
「チパッ!!」
 パチリスがうなずいた。そして、すぐにコンテストバトルの火蓋が切って落とされた。
「エネコ、“しねんのずつき”!!」
 先に仕掛けたのはハルカだった。エネコの頭がきれいに青く光って、パチリスに向かっていく! そう来るなら、あれを使って……!
「来たわね!! パチリス、“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィィッ!!」
 パチリスは、周りに向けて電撃の火花を放つ! 火花の中に飛び込んじゃったエネコはそれに弾かれて、“しねんのずつき”を当てる事ができなかった。でも、それで終わりじゃない。パチリスの電気袋から放つ火花が、線香花火のようにパチパチと光っている。そう、これがミクリカップでも使ったパチリスの魅せるわざ、『“ほうでん”の線香花火』。そのまんまだけどね。これで相手を近づけさせなくするだけじゃなくて、でんきポケモンらしさをアピールできるわざになる!
「“ほうでん”にああいう使い方があったとは……」
 マツヤマさんが感心して言った。ハルカのゲージが下がったのが見えた。近づこうにも近づけない状態で、立ち往生するエネコ。
「ポチャポチャ〜ッ!」
 あたしの後ろでポッチャマが歓声を上げた。
「それならこっちは!! エネコ、“ねこのて”!!」
「!!」
 ハルカの指示したわざを聞いて、あたしは一瞬、驚いた。
「出た!! エネコの“ねこのて”!!」
 観戦しているサトシが声を上げた。“ねこのて”は味方のポケモンが使えるわざをランダムに1つ出す、ハルカのエネコの得意技。何が出てくるのかは出てみないとわからない。ミクリカップでも見たけど、出たわざが思わぬコンビネーションを生む事があって、それをうまく活かすのがハルカの凄い所だと思う。
 エネコが、掲げた右手を光らせる。何が出てくるの……? 緊張が走る。
「何が飛び出すかは、見てのお楽しみ!!」
 ハルカがそんな事を言うと、エネコはわざと一旦右手を止める。演出してるのはわかるんだけど、相手にするこっちは逆にハラハラする。わざを出すなら早く出しちゃってよ……! 心の中で、あたしはそう叫んでいた。
 そして、エネコが右手を振りおろした。すると、目の前にキラキラと光る壁ができあがった。それにパチリスの火花が当たると、火花が跳ね返されて、パチリスに襲いかかった!
「チパアアアアッ!!」
 パチリスはよけられる訳ない。火花の直撃のせいで、『“ほうでん”の線香花火』は終わっちゃった。
「今のは、“ミラーコート”……!?」
 あたしは驚いた。ハルカの手持ちポケモンの中で、“ミラーコート”が使えるポケモンといえば、ミクリカップのファイナルでポッチャマとぶつかったグレイシア。グレイシアの覚えているわざを使ったって訳ね……!
「もう1回“ねこのて”よ!!」
 また“ねこのて”!? あたしが驚いてる間に、エネコはもう1度“ねこのて”の構えを取った。今度は何が出てくるの……? エネコが右手を振り下ろした。すると、エネコの体が美しく光を放った。そして、エネコはたちまち力を取り戻した。
「今度は“あさのひざし”か!!」
 タケシが声を上げた。ハルカの手持ちポケモンの中で、“あさのひざし”が使えるポケモンといえば、セミファイナルでノゾミを破ったアゲハント……! これで、わざを破られただけじゃなくて、体力も回復されちゃった。あたしのゲージがさっきのハルカのと同じくらいに下がった。勝負は振り出しに戻った。
「ほう、運を天に任せてのコンビネーション……これにどうやって対処する……?」
 マツヤマさんが視線をあたしに向けてつぶやいた。“ねこのて”は何が出るのかわからない。裏を返せば、ハルカのエネコは変幻自在の戦法を持っている事になる。とにかく落ち着かなきゃ、こういう時に慌てちゃったら、パチリスにちゃんとした指示が出せなくなる……! そう自分に言い聞かせた。
「エネコ、“しねんのずつき”!!」
 エネコが、また“しねんのずつき”でパチリスに向かっていく!
「パチリス、回って!!」
 こういう時には『回転』! パチリスはエネコを引きつけて、『回転』をしてエネコの突撃をかわした! 攻撃をよけられたエネコは、バランスを崩して倒れた。ハルカのゲージが下がる。
「今よパチリス!! “スパーク”!!」
「チパアアアアッ!!」
 その隙は逃さない! パチリスは電気を纏って動けないエネコに向かっていく! 当てられる! あたしは確信した。でも……
「エネコ、“まねっこ”よ!!」
 ハルカは、とっさにその指示を出した。すると、エネコは“ねこのて”とは逆に左手を光らせた。すると、エネコはいきなり体から火花を出した!
「チパッ!!」
 それにびっくりしたパチリスは、それに弾かれちゃった! あたしのゲージが下がった。エネコの体は電気に包まれていて、火花が線香花火のようにパチパチと光っている。これって……!?
「ヒカリの『“ほうでん”の線香花火』、真似させてもらったわ!! あ、“スパーク”を“まねっこ”したから『“スパーク”の線香花火』かも」
 ハルカは最後に言葉を付け足した。“まねっこ”は、前に出たわざをそっくりそのまま真似するわざ。これを使って、エネコはパチリスの『“ほうでん”の線香花火』を“スパーク”で真似したって事なのね……! “ねこのて”だけでも厄介なのに、こんなわざもあるんじゃ、どんな戦法を使ってくるのか全然読めない。まさに変幻自在。ランダムに出てくるから、望んだわざが出てくるとは限らないっていうのはあるけど、ハルカはミクリカップの時も、どんなわざが出てきてもうまく対処してたから、ほとんど弱点にならない気がする。
「凄いな……どちらも一歩も引かない、いい勝負だ」
 観戦していたタケシがつぶやいた。
 その時、マツヤマさんの所に、バトルが始まる前にどこかに行っていたあの調査員が戻ってきて、マツヤマさんに何か話しかけていた。
「攻撃は最大の防御!! エネコ、“ねこのて”!!」
 ハルカが強気に指示を出した。また“ねこのて”!?
「パチリス、回りながら“スパーク”!!」
 あたしもすぐに指示した。変なわざを出される前に先に攻撃して止めるしかない、って思ったから。
「チパアアアアッ!!」
 “ねこのて”の構えを取るエネコに、パチリスが“スパーク”で突撃! そのまま体にスピンをかける。これは、ブイゼルで練習していて、サトシもジム戦で使っていたものをそのまま真似したもの。ダイナミックにエネコに突っ込むパチリス。これなら止められる! と思った時、エネコの尻尾が光って、エネコはそれを振ってパチリスを迎え撃った! “アイアンテール”!? グレイシアが覚えていた……!? そう気付いた直後に、“スパーク”と“アイアンテール”が正面からぶつかった! そして爆発! 2匹共爆風に弾き飛ばされて、あたしとハルカの前に倒れた。
「パチリス!!」
「エネコ!!」
 あたしとハルカの声が合わさった。
「そこまで!!」
 その時、マツヤマさんの一声が響き渡った。時間終了のブザーは鳴っていない。ゲージはどうなったのか見てみると、機械そのものの画面が真っ暗になっている。スイッチを切った? どういう事? そう思っていると、マツヤマさんの視線がこっちに向いた。
「ヒカリさん、なかなかのコンテストバトルでした。今のコンテストバトルを見て、あなたの実力がリボンを取るにふさわしいものだと確かめる事ができました」
「マツヤマさん……!」
 あたしの実力を認めてくれた……あたしの無実を認めてくれたんだ……! あたしは嬉しくなった。
「やったなヒカリ!! これで無実だって認められたんだ!!」
 サトシが声を上げた。
「うっ……!」
 その横で、エミリはなぜか唇を噛んでいた。
「そして、先ほどミクリとようやく連絡が取れました」
 マツヤマさんは、小さなメモ用紙を手にとって、そう言った。ミクリ様から連絡? もしかして……!
「この件に関して質問した時、彼はこう答えました。『私は確かに、フタバタウンのヒカリと会った。しかし、彼女は自分を勝たせてくれという類の言葉は一言も言っていない。あくまで私は、1人の審査員として公平に彼女を評価した。裏取引は根拠のないガセに過ぎない』と」
 マツヤマさんは、メモ用紙に書いてある事を読み上げた。それを聞いたあたしは、ハルカと笑顔を合わせた。ミクリ様が、やっとあたしを弁護してくれた……これなら絶対ダイジョウブ!
「で、でも、もしミクリ様が……!!」
「それと、もう1つ。先程の『ウソ発見器』についてですが……」
 言いかけたエミリの言葉を遮ったマツヤマさんの言葉を聞いて、エミリと赤い髪、青い髪の調査員が動揺した。
「調べた結果、ウソ発見器としての機能を全く有していない『ニセモノ』だとわかりました」
 マツヤマさんは、あの時の『ウソ発見器』を手に持って、そう言った。
「ええっ!?」
 あたし達は驚いた、じゃあ、あたし達は今まで騙されていたって事……!?
「これは一体どういう事ですか、協力者エミリ? 『ウソ発見器』を用意するように言ったのは、あなただそうですね……?」
 マツヤマさんが、疑い深い視線をエミリに向けた。全員の視線も、エミリに向いた。エミリは、どういう訳か手をわなわなと握って、顔を伏せていた。場に嫌な空気が漂い始めた。
「仕方がないわね……!」
 エミリはうつむいたままポツリとそうつぶやいて、両手を後ろに回した。すると、エミリの背中で何かが光った。そして、エミリの背中から勢いよく飛び出してきたのは……!
「モルフォン、“ちょうおんぱ”よっ!!」
 いきなりエミリが叫んだ。すると、出てきたポケモン、モルフォンはいきなりあたし達に向けて“ちょうおんぱ”を発射した!
「わあああああっ!!」
 言葉に表せないほどの甲高い音が響き渡る。耳をふさいでも、物凄い音で耳が破れそうになった。その時、あたしは見た。マツヤマさんの前に置いてあるアクアリボンを、エミリがさっと取ったのを!
「な……!! アクアリボンが……!!」
 音がやっと治まった時、マツヤマさんのそんな声が聞こえてきた。
「何をするのエミリ!?」
 あたしも叫んだ。でも、エミリはこっちにギロッと鋭い表情を向けた。『怒ってる』というものを越えた、『殺意』を感じる表情。
「何よ、デマを使ってあんたを陥れてやろうって思ったのに……どいつもこいつも『血統書つき』の味方ばかりして……!!」
「!?」
 その言葉に、あたし達は驚いた。エミリは、本当にあたしを騙していたって事!?
「まさかお前、本当にヒカリを騙していたのか!!」
 サトシが叫んだ。
「バレてしまっては仕方がないのニャ!!」
 すると、そんな聞き慣れた声と同時に、どこからか2本足で立つニャースが現れた。そして、赤い髪と青い髪の調査員が、いきなりスーツをバッと脱ぎ捨てた。そして、その姿は見慣れたものになった! 胸の赤い『R』の文字が目立つ、白い服……!
「あっ、あなた達は!!」
 ハルカが声を上げた。
「『あっ、あなた達は!!』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役はあたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。
「ロケット団!!」
 あたし達は声を揃えた。
「なんでお前達がここにいるんだ!!」
「あたしの『頼れる助っ人』よ」
 ロケット団に向けたサトシの質問に、エミリがニヤリと笑って答えた。それにみんなが驚いた。頼れる助っ人って……どういう訳か知らないけど、エミリはロケット団と協力してあたしを騙していたのね……!
「ロケット団と何するつもりなの!!」
「何よ、うるさいわね……!! モルフォン、あいつに“どくのこな”よっ!!」
 あたしが言うと、エミリは逆ギレしてモルフォンに指示を出した! モルフォンは羽を羽ばたかせて、キラキラと光る粉をこっちにばらまいた。それは、こっちに飛んでくる!
「っ!?」
 突然の攻撃で、あたしは動く事ができなかった。そのまま粉があたしの体に降り注ぐ。反射的に口を塞いでいたけど、その時、体が急に気持ち悪さに襲われた。
「う……体、が……」
 しまった、毒に……! そう考えてる間に、体がどんどん気持ち悪さに蝕まれていく。体がどんどん重くなって、足の力が抜けて、膝をつくあたし。そのまま、あたしの体はバタリと床に崩れ落ちた。
「ヒカリ!!」
 サトシとハルカが、あたしの所に駆け寄ってきた。
「そのままモルフォンの毒で、死んじゃえばいいよ……!」
 エミリが不気味な笑みを浮かべた。その表情に、あたしは残酷さを覚えた。エミリは、あたしを殺してまで、リボンを……
 ロケット団とエミリは窓を開けてそこから飛び降りた。すぐに、ニャースの形を模ったロケット団の気球に乗ったロケット団とエミリの姿が映った。
「ま、待って……リボン、を……かえ、し……て………」
 アクアリボンが、奪われる……! あたしは残った力を振り絞って、顔を起こして気球に向けて右手を伸ばした。でも、それも空しく、意識がどんどん遠くなっていく。とうとう、あたしの体の力が完全に抜けた。空しく床に落ちる右手と顔。
「アッハハハハハハハハハハ!! アハハハハハハハハハハハハ!!」
 エミリの無邪気で不気味な笑い声を最後に聞いて、あたしは気を失っちゃった……


NEXT:FINAL SECTION

[575] FINAL SECTION 奪われたアクアリボン! 勝利の価値!
フリッカー - 2008年07月01日 (火) 22時18分

「う……」
 あたしはゆっくりと目を開けた。ぼやけた視界にピントが合うと、バトルフィールドの天井と、顔を覗かせるサトシとハルカの顔が映った。
「ヒカリ!」
「よかったわ!」
 サトシとハルカが笑みを浮かべた。体を起こすと、横にポッチャマとパチリスもいて、一緒に笑みを浮かべた。体を動かしても、毒の気持ち悪さは何もない。周りはさっきの事件がなかったかのように静まり返っている。
「みんな……あたし……確か、モルフォンの毒にやられて……」
 毒で頭がぼやけていたせいか、あたしはあの時に何が起こったのかがまだ整理できていなかった。あの時の状況を1から辿ってみる。
「心配しないで。毒はエネコの“いやしのすず”で取ってあげたから」
 ハルカが側にいるエネコに顔を向けた。そっか、“いやしのすず”は状態異常を治してくれるわざ。こうやって起きられたのも、エネコのお陰だったんだ。ハッ! そういえば、エミリとロケット団は!? アクアリボンは!?
「エミリはどうしたの!? アクアリボンはどうなったの!?」
「……ヒカリさんが倒れた後、そのままアクアリボンを奪って逃走しました」
 その質問に、あたしの所に来たマツヤマさんが答えた。
「えっ!?」
 そんな……エミリは本当にアクアリボンを奪ったの!?
「ごめんな、ヒカリ……でも、ムクバードとアゲハントが探しに行ってる」
「心配しないで。必ずアクアリボンは取り返してあげるから!」
 そんなサトシとハルカの言葉が耳に入る。
 それよりもあたしは、エミリがどうしてアクアリボンを奪ったのか、そもそもどうしてエミリは「あたしがズルをした」なんてウソをついて陥れようとしたのか、いわゆる『動機』が気になって仕方がなかった。
 あの時の事をもう一度思い出してみる。あの時エミリは、あたしに負けた。そしてそのまま、あたしは優勝した。
 もし、それをエミリが悔しがっていたとしたら……?
 もし、それをエミリが受け入れられなかったとしたら……?


FINAL SECTION 奪われたアクアリボン! 勝利の価値!


「もしかして、エミリはあたしが優勝した事を恨んで、あんな事を……?」
 今度は口に出して言ってみた。
 負けた時の悔しい気持ちは、あたしもわかる。負けた事が受け入れられない気持ちもわかる。でも、だからってあんな事をしたって、何も……!
「確かにそうかもしれないな」
 そこに、相槌を打ったタケシが、腕を組みながら現れた。
「最初の取り調べの時にも、エミリは鋭い表情ばかりをヒカリに向けていた。発言そのものも、真実を探るというよりは、何だか恐喝しているような感じだった。何だかおかしいと思ったが……」
 タケシの言葉には納得がいく。あたしの事を恨んでいたのなら、そんな行動全部に説明がつく。
 あたしの心の中で、1つの思いが風船のように膨らんでいく。
 伝えなきゃ。エミリの考えは間違っている事を。いくら勝てなかったからってリボンを盗んでも、本当に勝った事にはならない。本当に勝ちたいなら、最後まであきらめないでがんばればいいって事を。それを言えば、エミリもわかってくれるかもしれない。
 その時、窓からサトシのムクバードが入ってきた。少し遅れて、ハルカのアゲハントも入ってくる。サトシが言った通り、2匹はエミリを探しに行ってたんだ。
「どうだったムクバード?」
 サトシがムクバードに聞くと、ムクバードは首を横に振った。
「アゲハントは?」
 でも、ハルカがアゲハントに聞くと、アゲハントは首を縦に振った。という事は、2匹は別れて探してたんだね。
「見つけたのね! すぐに行かないと! これから出るから玄関で待ってて!」
 ハルカが言うと、アゲハントは窓から外へ飛んで行った。
「みんな、行きましょ!」
「ああ!」
 ハルカの言葉にサトシがうなずく。
「あたしも行く!」
 すぐに、あたしも立ち上がって、声を出した。2人は足を止めて、驚いた様子でこっちを向いた。
「ヒカリ、体は大丈夫なのか?」
「ダイジョウブ。それにあたし、エミリと話してみたいの」
 心配するサトシに、あたしははっきりと自分のやりたい事を伝えた。
「ヒカリ……」
 ハルカがつぶやいた。そして、すぐにその眼差しが変わった。
「わかったわ! じゃ、行きましょ!」
 ハルカはうなずいた。

 * * *

 建物から出て、アゲハントの案内で向かって行った先は、街の中にある公園だった。広さは結構あって、たくさんの木が生えている。アゲハントはその中に入っていく。あたし達も後を追う。公園の緑の中を走っていくと、あいつらの姿が見えた! みんなで輪を描いて座って、何か話しているように見える。
「見つけたぞロケット……」
 先頭に立つサトシが言いかけた時、突然サトシの足元が音を立てて崩れた! 地面に吸い込まれるサトシ。その隣にいたタケシやハルカも一緒に落ちた。あたしも落ちそうになったけど、ギリギリの所で落ちずに済んだ。
「わ〜っはっはっは!!」
 ロケット団の高らかな笑い声が聞こえてきた。
「残念でした〜! あんた達が来るのを待って落とし穴を作っておいたのよ!」
 エミリがアカンベーをして笑いながら言った。こっちが来るのを先読みしてたって事……!?
「そんな訳で、ピカチュウは頂いていくのニャ!!」
 ニャースが取り出したリモコンのスイッチを押すと、茂みの奥からマジックハンドが飛び出してきて、落とし穴に落ちたピカチュウをすばやく奪い取った!
「ピカチュウ!!」
 サトシの叫びも空しく、ピカチュウは茂みへと吸い込まれた。すぐにロケット団とエミリも身を翻して茂みへ飛び込んだ。すると、急に空が暗くなったと思ったら、公園の空の上にロケット団の気球が浮かんでいた! ピカチュウは、いつもロケット団が使う透明なカプセルの中に閉じ込められていた。
「これで交換条件は成立だな!」
「あたしはアクアリボンを奪って、あんた達はそのピカチュウをゲットする。お互いの目的は果たせた訳だし、逃げるわよ!」
「言われなくたって!」
 コジロウとエミリがそんなやり取りをしていた。すると、気球が加速し始めた。このままじゃ、逃げられる!
「逃がすなムクバード!!」
「アゲハント!!」
 サトシとハルカの指示で、ムクバードとアゲハントが気球に向けて飛び出した。
「ポッチャマ!!」
 あたしも指示すると、ポッチャマが気球に向かって飛び出した。
「モルフォン、あいつらに“ぎんいろのかぜ”よ!!」
 でも、エミリはそれに気付いていた。モルフォンが気球の前に立ちはだかって、強烈な“ぎんいろのかぜ”をお見舞いした! ムクバードとアゲハントは強い風に押し流されて、ポッチャマも強い風を受けて真っ直ぐ前を向けない状態に!
「そんな事にあたしが気付かないとでも思ったわけぇ?」
 エミリがバカにするように笑った。それを見たロケット団も「今日は何だかいい感じ〜っ!!」と叫び声を上げていた。
「それなら……!! バシャーモ!!」
 そんなハルカの声が落とし穴から聞こえてきたと思うと、少し間を置いて、落とし穴から何かがビュンと飛び出した! それは、ハルカを抱えて飛ぶバシャーモ! バシャーモはたちまち気球の高さまで飛び上がった! そういえば、バシャーモは30階建てのビルを飛び越えられる、って話を聞いた事がある。
「“オーバーヒート”!!」
 ロケット団とエミリが驚いてる間に、バシャーモが放った強烈な炎。それが、気球を貫いた! 空気が抜けた気球は、たちまち落ち始める。
「わああああああっ!!」
 ロケット団とエミリの悲鳴が響く。そして気球は、地面に音を立てて落ちた。一方のバシャーモはハルカを抱えたままカッコよく着地。
「す、凄い……」
 その華麗な動きに、あたしは見とれちゃった。やっぱり『ホウエンの舞姫』っていうのはウソじゃない。
「このぉ〜っ、あのジャリガールめ……」
 そんな事をつぶやきながら、ロケット団が落ちた気球の中から出てきた。
「もう許さないわよ、ロケット団!!」
 そこに、ハルカがザッと前に踏み出した。それを見たロケット団は一瞬ビクッとした様子を見せたけど、すぐに立ち上がった。
「こうなったらポケモンバトルよ!! 行くのよハブネークッ!!」
「マスキッパ、お前もだっ!!」
 2人はすぐにモンスターボールを投げて、ハブネークとマスキッパを出した。でも、マスキッパは……
「いて〜っ!! 違う違う、あっちだって!!」
 いつものようにコジロウの頭に食らいついた。もがき苦しむ(?)コジロウ。
「バシャーモ、サトシ達をお願い」
 ハルカはバシャーモにそう一言言うと、バシャーモはうなずいて、落とし穴にいるサトシ達の所へ戻った。落とし穴から助けてあげるんだね。あのジャンプ力なら、サトシ達を助けるのも簡単なはず。そして、ハルカは別のモンスターボールを取り出した。
「いくわよフシギバナ!!」
 ハルカがそのモンスターボールを投げると、中からミクリカップにも出ていた、あのフシギバナが出てきた。ハルカの手持ちポケモンの中で、あたしが驚いたポケモンの1匹。サトシ達の話だと、ゲットした時はフシギダネだったらしいの。メスで、頭にはかわいらしいハートマークが付いているのが特徴らしいんだけど、今は葉っぱがかぶさっていて見えない。ただ、背中で大きく咲く花の真ん中に出っ張りがあって、少なくともメスだという事は本当だとわかる。
「ハブネーク、“ボイズンテール”!!」
「マスキッパ、“かみつく”だっ!!」
 2人の指示で、ハブネークとマスキッパが一斉にフシギバナに躍りかかる!
「“つるのムチ”!!」
 それでも慌てる事なくハルカは指示する。フシギバナは背中から2本のツルを伸ばす。それはたちまちハブネークとマスキッパの体をからめとった。そしてそのまま2匹の勢いを利用してツルを振って、ぐるりと回した後ハブネークとマスキッパを正面からぶつけさせた! ツルを緩めると、2匹はたちまち崩れ落ちる。
「続けて“はなびらのまい”!!」
 さらにピンク色のきれいな花びらを桜吹雪のように発射するフシギバナ。直撃! 大きな桜吹雪は、2匹をたちまち弾き飛ばした!
 そんなバトルに見とれていると、ポッチャマが突然「ポチャ!!」と声を上げた。何があったの、って思ってポッチャマを見ると、ポッチャマがどこかを指差している。その先には、こっそりその場から逃げようとしているエミリの姿が!
「いけない!! ミミロル!!」
 あたしはすぐにミミロルを出した。そして、すぐにエミリを追いかける。
「エミリを止めて!! “れいとうビーム”!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
 あたしの指示で、ミミロルは“れいとうビーム”を発射! 白い光線は、エミリのすぐ前に飛んで行って、氷の壁を作った! 氷の壁を前にして、思わず足を止めるエミリ。
「逃げないでエミリ!! アクアリボンを返して!!」
「何よ!! 誰が返してやるもんですか!! モルフォン!!」
 振り向いたエミリは、あたしが呼びかけにも強く言い返した。モルフォンが、あたし達の前に躍り出た!
「“ぎんいろのかぜ”!!」
 エミリが叫ぶと、あたし達はモルフォンの放った強い風に吹きつけられた! 嵐の日のような風で、前を見ているのが辛い。
「ポッチャマアアアアッ!!」
 風が止んだ所を見計らって、ポッチャマが“バブルこうせん”を発射して応戦! 命中! よろけて体勢を崩すモルフォン。
「ポッチャマ、やめて!」
「ポチャ!?」
 でも、バトルをするのは、今のあたしが望んでる事じゃない。あたしはすぐにポッチャマを止めた。ポッチャマは驚いて動きを止める。
「どうしたのよ? かかってきなさいよ!!」
 それには当然エミリも気付いた。こっちを挑発するエミリ。あたしは少し間を置いて、話し始めた。
「……エミリ、どうしてこんな事しようとしたの?」
 なるべくエミリを刺激しないように、落ち着いて、ゆっくりと優しく話した。
「突然何よ? 怖じ気づいたのかしら?」
 それでもエミリは、表情を変えない。
「だったらこっちから行かせてもらうわ!! “ソーラービーム”!!」
 笑みを浮かべたエミリは逆に、こっちに攻撃を仕掛けてきた! モルフォンの羽が光り始める。
「待って! あたしの話を聞いて!!」
「あんたみたいな『血統書つき』にはわからないわよっ!! ミクリカップに復活賭けても、それを打ち砕かれた人の気持ちなんかっ!!」
「!!」
 それを聞いて、あたしは驚いた。エミリは、あたしと同じようないきさつでミクリカップに出場してたんだ。ミクリカップは、コンテストマスター・ミクリ様が開催するコンテスト。コンテストの中でもみんなが憧れるコンテストだし、ハルカやあたしのように、それに復活賭けようとする人がいっぱいいても変じゃない。やっぱりエミリは、それができなかった事が悔しくて、受け入れられなくて……
「アクアリボンはあたしのものよ!! あたしが取るべきリボンだったんだからっ!!」
 そんなエミリの叫びが、閃光となって飛び出した! 閃光はあたし達の目の前で爆発! 爆風に弾き飛ばされてあたしは背中から転んだ。
「お、落ち着いてエミリ……!!」
「うるさいわね!! だったら力づくで取り返してみなさいよ!!」
 エミリはあたしの言葉を全然聞いてくれない。完全に興奮しちゃってる。こうなったら、何とかして落ち着かせないと……!
「ポッチャマ、エミリの顔に“バブルこうせん”よ!」
 とっさに思いついたのは、ミクリカップ本番直前で緊張したあたしを落ち着かせてくれた、ポッチャマの“バブルこうせん”。実際、その後も見た事のないポケモンの影を見て慌てふためくサトシを落ち着かせる事もできている。
「ポチャ! ポッチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマはすぐに答えてくれた。ポッチャマが撃った“バブルこうせん”は、エミリの顔にまっすぐ飛んでいく!
「っ!!」
 エミリの顔に見事命中! エミリは尻もちをついた。あたしはもう一度話し始めた。
「その気持ち、あたしもわかるよ」
「!?」
 もう一度落ち着いて、ゆっくりと優しく話した。あたしが切り出した言葉に、エミリは驚いた。エミリは聞いてくれてる。あたしは話を続けた。
「あたしだって、ヨスガと、ズイのコンテストで、2回共1次審査を突破できなかったの。それが悔しくて、自信なくしちゃって、どうしたらいいのかわからなくなっちゃって……」
「……」
 エミリは黙ったまま話を聞いている。あたしは話を続ける。
「あたしはみんなにこの事を言いたかった。助けてほしかった。でもできなかったの。こんな弱い自分を見られたくなかったし、それに、がんばってるみんなの迷惑になっちゃうって思って……だから、あたしは演技したの。いつもの自分になりきって、みんなに迷惑かけないようにしたの。でも、とても辛かった。一緒に旅してる仲間なのに、本当の事が言えないのが辛くて、いつも夜中に1人で悩んで、泣いてたっけ……」
 そんなあたしの話を、落とし穴から出てきたサトシとタケシが聞き入っていた。
「でも、みんなは何も言わなくても助けてくれた。それに、旅でいろんな人に出会って、あたしはまだやれるってわかったの。だからあたしはがんばった。ミクリカップでゲットしたリボンは、それがあったからゲットできたんだって思ってる。努力は無駄にはならないんだってわかったの。あの時は辛かったけど、今はあんな事があってよかったって思ってる」
 話はここで一区切りする。
「な……何よ! あたしに同情するつもりなの! そんな事したって……」
 エミリは強がりを言う。でも、その表情は少し変わっているのがわかる。どこがどうとは言えないけど……
「エミリ、いくら優勝できなかったからってリボンを盗んだって、何も解決にはならないよ。そんな事しても、後できっと後悔しちゃうんじゃないかな……」
「な……何よ!! 後悔なんかしてないわ!!」
 エミリの口調が動揺している。
「リボンが欲しかったのは、勝ちたかったからなんじゃないの? そんな事しても、本当に勝った事にはならないじゃない!!」
 あたしは思い切り主張した。その言葉に、エミリが固まった。

 * * *

「“エナジーボール”!!」
 フシギバナが放った“エナジーボール”。それが、ハブネークとマスキッパにとどめを刺した。ハブネークとマスキッパは、2匹揃ってロケット団の目の前で倒れた。
「く〜っ!! こうなったらサカキ様がくれたメガヤンマでっ!!」
 それでもムサシは怯まない。別のモンスターボールから、最近ゲットしたばかりのメガヤンマを繰り出した。
「バシャーモ!!」
 ハルカの一声で、フシギバナと入れ替わってバシャーモが飛び出した!
「“げんしのちから”よ!!」
 メガヤンマは、体のエネルギーを一点に集めて作った光るボールを、バシャーモに向けて発射した!
「“ほのおのうず”!!」
 バシャーモも、渦を巻いて飛ぶ炎を放って、応戦する! “げんしにちから”と“ほのおのうず”がぶつかって、爆発!
「今よ!! “スカイアッパー”!!」
 すると、バシャーモは爆発の煙を突き破って、メガヤンマに強烈なアッパーカットをお見舞いした! 効果はいまひとつだけど、攻撃はまだ終わらない。
「ええい、こうなったら“ソニックブーム”よ!!」
「バシャーモ、ジャンプ!!」
 メガヤンマが“ソニックブーム”を撃つ。でも、バシャーモはそれを自慢のジャンプで簡単にかわした。すぐにメガヤンマの上を取る。
「さあ、行くわよ!! バシャーモの必殺技!!」
 ハルカが叫ぶと、バシャーモはうなずいた。
「『ブレイズスピンキック』!!」
 ハルカがそんな事を叫ぶと、バシャーモの右足が炎に包まれた。バシャーモの体が落ち始める。すると、バシャーモは突き出した右足を軸にして、そのままコマのように勢いよく回り始めた! 足だけじゃなくて、全身が炎の渦に包まれて、まるで炎のドリル。
「行けええええええっ!!」
 ハルカの叫び声に答えるように、バシャーモも雄叫びを上げながらメガヤンマに向かっていく! 直撃! 効果は抜群! 火だるまになったメガヤンマは、ロケット団の所に落ちて行った。当然、ロケット団にも火は燃え移る。そして、そのまま連鎖反応で気球にまで火が回った! 大爆発!
「やな感じ〜っ!!」
 そのままロケット団は、空の彼方へと消えていった。それを見届けて、颯爽と着地するバシャーモ。
 ピカチュウが入ったカプセルが、爆風で飛んでくる。それを、サトシはしっかりと受け止めた。

 * * *

「う……」
 とうとうエミリが反論しなくなった。エミリは何か言葉を探している様子。でも、結局は何も出て来なかった。手の力が抜けて、握っていたアクアリボンが地面に落ちたのが見えた。それと同時に、エミリは力が抜けたようにペタンと膝を落として、体を屈めた。それに気付いたモルフォンが、エミリの側に行って、顔を覗き込んだ。
「う……ううっ……うううっ……」
 気が付くと、エミリの目からポタリポタリと涙がこぼれていた。あたしは、泣き出したエミリの側にそっと歩み寄った。
「あたし……勝ちたいよ……どうしたら……どうしたらいいの……うううっ……」
 泣きながらつぶやくエミリ。あたしは、エミリの側でしゃがんだ。
「エミリは1人じゃないよ。応援してくれてる人だっているはずよ。どんな事があっても、あきらめないでがんばればいいのよ」
 あたしは、優しくそう言った。
「あきらめ、ない……?」
 エミリが泣き顔を上げた。
「そう。そうすれば、きっと勝てるよ。エミリだって」
 そう言った後、あたしは落ちたアクアリボンを拾った。
「このアクアリボンだって、そうやってあたしがポケモン達と一緒にがんばった証なんだから」
 手に取ったアクアリボンを見ながら立って、あたしはそう付け足した。
 エミリはまた泣き出した。そんなエミリの側に、サトシ達が集まってきた。
「ヒカリの奴、変わったな」
「ああ」
 そんなサトシとタケシのつぶやく声が聞こえた。

 * * *

 こうして、事件は無事に解決。
 後で知った事だけど、エミリはあたしがミクリ様と会った事を偶然通りかかったロケット団から(でも、ロケット団がどうしてそんな事知ってたんだろう……?)聞いて、それで協力してあたしを騙す事をひらめいたみたい。
 エミリはすぐに警察の取り調べを受ける事になっちゃったけど、エミリは「本当に悪い事をしてしまいました。反省して、一からやり直します」って反省していたって話。きっとエミリはウソを言ってない。どんな罰を受けるのかはわからないけど、エミリはそれを受け入れて、またポケモンコンテストのステージに戻ってくるはず。あたしはそう信じる。
「今回は、本当にご迷惑をおかけしました、ヒカリさん」
 出発前、建物の前でマツヤマさんがあたしにお辞儀をした。あたしは「いえ、いいんです、解決したんですから」と言葉を返した。
「そしてハルカさんも、今回の事件ではいろいろと協力してもらって、ありがとうございました」
 そして今度はハルカに顔を向けてお辞儀をするマツヤマさん。ハルカは「どういたしまして」と丁寧に答えた。
「ヒカリさん、これからのコンテストでの活躍、我々実行委員会も楽しみにさせてもらいます」
「は、はい!」
 実行委員会から、なんて言われるとちょっと照れちゃうけど、あたしははっきりと返事をした。横で、「よ〜し、おれもジム戦、がんばらないとな!!」とサトシも闘志を燃やしていた。
「では、自分達はそろそろ出発したいと思います」
「わかりました。皆さん、お気をつけて」
 タケシの一言に、マツヤマさんはそう答えて、ここを後にしていくあたし達を見送った。

 その後、ハルカの提案で、公園でおやつを食べる事になった。
 街で買ったアイスクリームを、ベンチに座って食べた。あたし達は2段なのに、ハルカはよくばって3段重ね。それを隣に座るゴンベと一緒においしそうに食べている。やっぱりハルカって、食べる事が好きなんだね……
 それはともかく、あたしは改めて『あの事』について話してみようと思った。
「ねえ、ハルカ」
「何?」
「どうしてあたしが疑われてるって事を知ったの? それに、ミクリカップの後、ジョウトに戻るって言ってたのに……」
「え? ああ、それはね……」
 質問すると、ハルカは慌てて言葉を探している様子を見せた。
「実は……あの後すぐジョウトに戻ったんじゃなかったの」
「ええ?」
 その言葉を聞いて、あたし達は揃って驚いた。
「シンオウ地方がどんな場所なのかもっと見てきたくなっちゃって、ちょっと『寄り道』しちゃってたの」
 ハルカは苦笑いしながら答えた。
「いろいろおいしいもの食べ歩きしてたら、たまたまニュースでヒカリが疑われてるって事を聞いて、すぐに場所を探して、飛んできたって訳」
「なあんだ、そんな事だったのか」
「いかにも、ハルカらしい理由だな」
 サトシとタケシの答えを聞いて、ハルカはエヘヘと笑った。
「そうだハルカ」
 サトシが立ち上がって、話を切り出した。
「よかったら、俺と1回バトルしないか? あの時はミクリカップもあったし、できなかっただろ?」
「あ、いいわねそれ!」
 それを聞いたハルカもすぐに立ち上がって、サトシの提案を飲んだ。
「あたしも見たい! サトシとハルカのバトル!」
 そういえば、あたしはサトシとハルカのバトルを見た事がなかった。別れる直前のお祭りコンテストで、引き分けになったって事を聞いただけ。
「満場一致のようだな。じゃ、審判は俺がやるよ」
 いつものように、タケシが名乗りを上げる。
「サンキュ、タケシ。ハルカ、全力でバトルしようぜ!」
「ええ!」
 サトシとハルカは、顔を合わせてそんなやり取りを交わした。

 そして、公園の広場で、バトルの火蓋が切って落とされた。
「ピカチュウ、頼むぜ!!」
「ピッカ!!」
 サトシの一言で、ピカチュウが前に飛び出した。
「頼んだわよ、バシャーモ!!」
 ハルカも手前にモンスターボールを投げる。バシャーモが出てきて、力強い鳴き声を上げた。
「2人共がんばってー!」
「ポチャポチャー!」
 ベンチで座って観戦するあたしとポッチャマは、精一杯の声援を2人に送った。
「いくぜピカチュウ!! “アイアンテール”!!」
 先に仕掛けたのはサトシ。ピカチュウはジャンプしてバシャーモの上を取って、尻尾を思い切り振り上げた!
「ならこっちは!! “スカイアッパー”!!」
 ハルカも応戦。バシャーモは力強いジャンプをして、拳を突き上げて迎え撃つ! ガチン、と音がして、尻尾と拳がぶつかり合った! パワーはほとんど互角。2匹はそのまま押し返す事はなく、離れて仕切り直しになった。
「バシャーモ、“ブレイズキック”!!」
 もう一度、バシャーモが間合いを詰める。足から炎が出て、それをピカチュウに向けて突き出す!
「かわすんだ!!」
 でも、ピカチュウはそれを引き付けた後に、横へスピンしてキックをかわした! 『回転』だ! 燃える足が空を切る。
「あれは、ヒカリも使ってた……!?」
「そうさ!! ピカチュウ、“でんこうせっか”!!」
 驚くハルカを尻目に、後ろに回り込んだピカチュウは隙ができたバシャーモに目掛けて突撃した! 直撃! ピカチュウはすぐに離脱する。思わぬ攻撃を受けたバシャーモだけど、“でんこうせっか”はダメージが低いから、まだ試合は動かない。バシャーモは立ち上がり、またピカチュウへと向かっていった。
 炎が燃えて、電撃が閃く。激しくて、優雅で、美しくも見えた。そんな永遠に続きそうな2匹のバトルを、あたしは手に汗握りながら観戦していた。

 * * *

 やっぱり、どんな事でもがんばる事は大事。それを積み上げて勝ってこそ、本当の『勝利の喜び』ってものが味わえるんだと思う。それがわかるまで、あたしもいろんな人に迷惑かけちゃったけどね。
 エミリにも、それはきっと伝わったはず。もちろん、あたしもトップコーディネーターを目指すために、がんばり続ける。ポッチャマ達と一緒に!

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY16:THE END

[576] 次回予告
フリッカー - 2008年07月01日 (火) 22時19分

 アカガネシティという町にやってきたあたし達は、そこでハルナと再会した。

「ミクリカップ優勝、おめでとうございます! ハルナ、信じてました!」
「ありがとう、ハルナ」

 話を聞くと、ここでコンテストが開催されるんだって。

「ハルナ、思いつかないんです。エクリプスとクレセントにどんな演技をさせようか……」
「いい、ハルナ。ポケモンをきれいに魅せるには、そのポケモン『らしさ』が大事なの」

 そして、新しいライバル現る……?

「あんた、いくら弟子がいるからって言って、調子に乗るんじゃないわよ。1つリボンを取ったからって、復活した気になるんじゃないわよ。本当に復活したと思っているなら、1つでも多くのリボンを取る事が、大事なんじゃないの?」

 あたしも出場するこのコンテスト、一体どうなるの?

 NEXT STORY:憧れの人

「ハルナ、行くわよ!!」
「はい!!」

 COMING SOON……



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