[561] 小説 《Dream Makers U》 第四章 (2) |
- あきはばら博士 - 2008年05月31日 (土) 21時54分
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「ただいまぁ〜」 返事は無い。 両親はつい先日に旅行へと行っている。 加えて明日からは冬休み。一人っ子の紀乃はしばらく一人暮らしを強いられているのだ。 まぁ、普段から親は夜遅くまで仕事で帰ってはこず、家事全般を任されていたため家事については困ることは無いのだが……。 「のびのび出来ると思ってたのに……なんか寂しいなぁ……」 やはり一人は心に響くものがある。そんな気を紛らわせようと、紀乃はパソコンの前に座った。 開くページは「ポケ書」の掲示板。荒らしもおらず、常連みんなが喋りやすいので何かあると必ず覗く。 いつも通り、お気に入り欄から「ポケ書」をクリックした。 いつもならエリカのトップ絵が迎えてくれるのだが、この時は違った。 英語だろうか……、文字列が並んだページが表示された。 紀乃はクリックし間違えたのだろうか、と思い、ブラウザバックを押そうとしたが、見覚えあるワードを見つけて手を止めた。 50行近い英文の中に「pokesho」という単語がいくつも使われている。 英語は得意でない紀乃はさらさらと読み流して最後の行へと目を通した。 最後の行にはただの一単語、「dreammaker.exe」の文字。 文中にpokeshoと書かれていることから、クリックの押し間違いではない。 きっと、新しく必要になるアプリなのだと思い、クリックしてしまった。その軽い勘違いが後に大事件を起こしてしまうとも知らずに……。
クリックして数秒……突然画面が大きく光りだした。 そのまぶしさに思わず目を瞑る。 とたん、全身が奇妙な感覚に囚われた。 イスに座ってたはずなのに、その感覚が無い…… 窓は閉じていたはずなのに、髪の毛がなびいている…… 極めつけは、その腰が浮く、恐ろしい感覚……
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恐怖を感じながらも、目を開ける。自分のカンが嘘でありますようにと願いながら……。 「っ……きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」 恐らく、上空1000m、はあるだろう、からの自由落下。 風が下から吹き抜ける。 落下の慣れない恐怖から思わず両手両足をバタつかせる。 すると両腕を引っ張られるような痛みが襲うのと同時に、落下の感覚が和らいだ。 不思議に思いながら、痛みにしびれる自らの腕を見た。……自分の腕がない?! そこに変わりに存在しているものは大きな、ホントに大きな翼だった。 「え……え、あ……わ、私、飛んでる?!」 今、自分に起きている事態に混乱を覚えながらも、同時に、滅多に味わえない飛空の感覚に感動する紀乃。 何故か翼の動かし方は感覚的によく分かる。初めての飛空とは思えないほどまでにスムーズに飛べている。 これなら、墜落することは避けられた、と楽観する紀乃。
少し落着いてきたので辺りを見下ろすと、森、草原、山……、紀乃が住んでいる横浜とは全く違った景観だった。 都会に見られるような建物は何一つ無い。変わりに小さな家々が点在する程度だった。 飛空に疲れ、また、最初の吃驚仰天劇でのども乾いたので、近くの清流へと降り立った。 始めて気付くが、足が人の足ではない……それは見紛うこともない、鳥の足だった。 しかし、今は驚いている暇は無い。のどの表と裏が引っ付きそうな感覚に我慢が出来ない。 紀乃は頭から突っ込んで水をがぶ飲みした。 「ぷっは〜……生き返る〜♪」 驚きと感動に興奮して熱くなった頭には、冷たい水が気持ち良い。 そこで初めて水に写った自分の顔を見た。 「!!??」 その姿は見た事がある……ゲームでは必ずパーティーに入れるほどお気に入りのポケモン、「ピジョット」だった。 この現実は俄かには信じられない。
しかし、自分の顔を右に向ければ、水面の向こうのピジョットも右を向く。 そして、両の腕を大きく広げれば、水面の向こうのピジョットも翼をを広げる。 さらに、信じられないと頭を振れば、水面の向こうのピジョットも頭を振る。 訳の分からない事続きで混乱している紀乃の眼に、不意に水面に反射した陽の光が目に入った。 まぶしさに再び目を瞑る。が、ここで違和感を覚える。 さっき清流に頭を突っ込んだときに水底に自分の影が出来ていた。 なんでその時に自分の影に違和感を覚えなかったのかは別として、前方に影が出来ているということは、太陽は自分の背から照っているはずだ。 なのに、今眼に入ってきたのは前方から射してきた光……。 眩しさに眼を細めながら顔を上げる。 太陽よりも大きな光円……しかも、見間違い出なければそのもう一つの太陽がどんどん小さくなってきている。 その光円が、太陽と同じ位の大きさになったとき、突然
ガチャン!
と鍵が閉まるような音がして、もう一つの太陽は一筋の光も残さずに消えた。 その音が聞こえたのは一瞬だったのにも関わらず、虚しさを残してまだ紀乃の耳に響いていた……。 その虚空感に不安を感じながらも、まずはとりあえず上空から偶然見えた茶色と黄色っぽい影……。 イーブイとヒトデマンらしき影を目指して紀乃は翼を羽ばたかせた。
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「いやー それでさ、遂に、とうとうヤフオクでOS無しの新しいノーパソをゲットしたんですよ。中古三万のノーパソが、様々な苦労を乗り越え、XPのインストールに成功! そして、その性能が! ヤバすぎる! メモリとかCPUとか最高でさ、うん。もう3Dアクションゲーでもしない限りコイツの限界感じられないね的な…………つーか、レニーさん? 聞いているのですか?」 「…………ねむい」 「Σ( ̄□ ̄;)」 サイサリスから旅立ったあきおは暗い空気に耐え切れず、取りあえず話で盛り上げないと考えて、必死に話していたのだが、マイペースすぎるレニーはまるで取り合わず、うとうととしていた。昨日の昼に散々寝ていたレニーは、サイサリスで夜通し起きていたツケがここに来ていたようだった。 あきおは小さくため息をついて、ふと進行方向に目を向けた。
「お初にお目にかかる」
と、その瞬間、一体のポケモンがあきお達に向けて話し掛けてきた。 ――種族はムクホーク。 すらりと長い長身に、鋭い目付き、滑らかな翼に、鍛錬を重ね引き締まった体をさらけ出している。 「俺の名は、ラヒト。手合わせ願いたい」 「(こいつ…… 強いな……)」 あきおは瞬時にラヒトと名乗るムクホークの気迫を感じた。武術を嗜む者としての勘だろう。 あきおはすぐに返事を返す。 「タイマン勝負……ですかな」 「いや、二対一でも構わないが。良ければお前達も名乗ってくれ」 「了解、俺の名前はあきお。で、こっちのイーブイはレニーだ」 「……って、なんでわい達の名前も名乗るんや」 「む、レニーさんは聞いてなかったんすね」 『バトル』というものが日常に含まれているこの世界では、道端で勝負を挑まれることもある、人間世界でいうスポーツのような感覚で、戦う前にお互いに名前を名乗り合うことが礼儀であるとか、いろいろな決まりも存在する。当然ながら力に物を言わせて従わせたり誘拐したりしてはいけないが、バトルという文化がある以上なかなかそういった**(確認後掲載)が無くならないのが実情らしい……。 「……まあ、ポケモン世界だけに『目が合ったらポケモンバトル! 売られた喧嘩は買え!』つーわけ」 あきおはそのような、この世界のバトルについてのこと……と言うよりPQRから教えてもらったことをほとんどそのまま、レニーに伝えた。 「ほお、燃えてきたなぁぁぁ!!」 レニーはさっきの低テンションから一転して、ヤル気モードに突入していた。単純な性格だった。 「では、始めようか、 行くぞ!」 ラヒトの号令に合わせて、あきおは手に持った木刀を握り直す。
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「九音。ここにいたのか?」 戦闘があった場所から少し離れた、木立の間。 聞き覚えのある声に振り返ると、1匹のラルトスがそこにいた。 両の腕を組み、こちらを見据えている。 いや、正確には――ラルトスの瞳は見えないが、顔をこちらに向けている為、『見据えている』のだと推測される。 「――聖」 ほとんど聞き取れないほど小さな声で、九音は彼の名を呟いた。こちらから彼に歩み寄りたかったのだが、全身の痛みが、それを許さなかった。 聖と呼ばれたラルトスは、九音の様子に気付いたのだろう。1歩だけ、彼女に近づく。 「何をしているんだ。――敵は?」 彼の言葉に含まれる『感情』というものは、大体において感じられないか、感じられたとしても非常に希薄だ。『ラルトス』という種族の都合上、顔が隠れて見えないということが、それに拍車をかけていた。 隠された彼の瞳は、いつもどんな色をしていて、どんなものを見ていて、どんな表情を映しているのだろう。 聖と話すたび、九音は頭の片隅で、そんなことを考える。 ――勿論、口に出して問うたりはしない。それが不必要な疑問であることは、分かっているのだから。 「……体力が回復したら、すぐにまた追いかける」 「つまり――倒し損ねたのか」 そう言われると、返事の仕様がない。九音は言い訳するでもなく、激昂するでもなく、ただ落ち着いた表情で聖を見ていた。 先程の戦いで見せたような気迫も、勢いも――およそ「強さ」に関連するようなものは、全て鳴りを潜めている。 「……聖は、どうしてここに?」 ふと思いついた疑問を、口に出す。これは、尋ねてもいいことだ。九音にとって、必要な問い。 ――返答如何(いかん)によっては、釘を刺しておかねばならないから。 彼女達は、九音の獲物だと。 そんな彼女の考えを見透かしたように、聖は軽く嘆息する。 「安心しろ。お前の獲物を横取りしようとは思っていない」 私は、別の奴らを倒しに来たのだ。 そう付け足して、聖は九音から目を逸らした。 「恐らく、そう遠くには行っていないはずだ。――私自身の為に、ゼロ様の為に、始末しに行かねばな」 「――そう」 九音もまた、聖から目を逸らす。もう用はないことを、暗に示すようにして。 聖は九音に背を向ける前に、手を上に伸ばした。手の先から、鋭い光が一瞬だけ発せられる。 九音が瞬きをする前で、木の上から『オボンのみ』が4個、5個と落ちてきた。 ――――『サイコキネシス』。エスパータイプである聖の得意技だ。 彼女が何か言う前に、聖は『テレポート』で姿を消していた。
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「連刀――」 「ぬ」 「――真長!」 「うぉぅぁぁぁぁ……!」 ラヒトの三連撃を受けて、あきおは崩れ落ちる。 格が違う……! とあきおは思った。勝負する前はまぁ二人掛かりならなんとかなるだろうと楽観していたが、これはヤバイ。 幸いにも昨日の不良ポッポとの勝負みたいな喧嘩ではなく、これは練習試合に近い物だと思うのでここで負けを認めれば戦いは終わるのだが、問題は…… 「まだまだまだまだぁぁぁぁ!!!!」 死ぬ気のオーラを発しているレニーが、負けを絶対に認めないことだった。 アドレナリンを体中に巡らせる戦い方は、有効な手ではあるが、この場合はどう考えても愚策。このままではどうなっても、レニーは本当に死ぬまで戦いを止めようとしないだろう。 「くぉんのぉぉ!! よくもやりおったなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 レニーは、ラヒトに向けて[アイアンテール]で突っ込んでいった。 「うおおおおおおおっっっ!!!」 「フッ」 対してラヒトは軽く咳払いをして[はがねのつばさ]を交差に構える。 「双刀・元重――」
「――鋏!」 「レニーさんっっ!!!」
レニーとラヒトがぶつかり合う、その瞬間。 突然辺りが明るくなり、光と共に地面が盛り上がり、二人を弾き飛ばした、この技は――[ひみつのちから]。 「Stop to persecute!(いじめは良くないよ)一方的な勝負じゃないの」 その声がした方向を見ると、一匹のチェリムがいた。 「お前……、名をなんと言う?」 すぐに立ち上がったラヒトはそのチェリムに問いかける。ちなみに一方のレニーは目を回してダウンしていた。 「名前? チサノって言うんだ、よろしくねっ!」
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「シャワーズさん」 「……!? 誰?」 メイルは突然後ろから話し掛けてきた声に驚いた。振り返ってみればすらりと気品高く直立したサーナイトが、声と姿から、♀であることが推測できる。 「はじめましてこんにちは、私(わたくし)の名前はフィーレンと申します。 どうぞ、よろしくお願いしますわ」 彼女は澄み切った声で歌うようにメイルに挨拶をする。 「よ、よろしくおねがいします」 戸惑いながらも、された挨拶を返す。 「突然ですが、貴女の名前は?」 「え? メイルですが……」 「ありがとうございます。 では、早速ですがメイルさん、私とお手合わせ願えますか?」 ニコッと笑って、フィーレンはそう言った。
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それと、ほぼ同じ時刻。
目の前には、無邪気に微笑む悪魔の姿。 「な、……なんだよ、いきなり……」 ニヤリ、と悪魔が……ゴーストが笑ったのが分かる。
クラウドはさきほど起こった突然の出来事を把握しきれず、まだ混乱していた。 輝とメイルと、あと自分の三人でサイサリスを出発してしばらくしたところで、突然めまいが襲って世界が反転。 気がついたら、さっきまでそばにいた二人の姿は影も形もなく、代わりにすぐ前にいたのは軍隊で使うような殺傷ナイフを持つゴースト。 そのゴーストはひっくりかえったような笑い声と共に襲い掛かってきたのだ。 さきほど、なんとか相手のナイフを[はたきおとす]ことに成功したのだが……。 瞬間、彼はガス状になっている自分の手の中からナイフを取り出し、グルンとそれを一回転させて握り直した。 如何やら、無駄だった様だな。 「……これは、もう実力行使で、相手を倒すしかないない……ってことか……」 突然バトルを仕掛けられることがあることは、輝の話から聞いてはいるが、今その覚悟があるといえば微妙だ。しかし、やるしかない。クラウドは木の実名人から貰った『リュガの実』を確認した。 「僕を倒せるの?」 彼――ゴーストのサイコは言う。 「やってみなければ分からない」 行くぞと一声かけた瞬間、彼は心底楽しそうな笑顔を浮かべた。 彼は戦いを、いや、”殺し合い”を楽しんでいるのだ。 幼そうな顔つきに似合わない性格、クラウドはぞっとした。 「君の鮮血浴びさせてよ!!」 ビュッと風を切って、クラウドに向かいナイフが振り下ろされた。 太刀筋が甘い、型も何も無い所を見ると、如何やらナイフが得意な訳ではなさそうだったが、そんなことクラウドには分からない。 「…………!」 とにかく、そのナイフを避けると、ザクッと音を立て、ナイフは地面に突き刺さる。 「あっ」 しまったという風に、サイコは後ろを振りかえった、クラウドはその瞬間に既に後ろに回り込んで[だましうち]を叩き込んだ。 ここは一気に勝負を決めたい、すぐに次の技を繰り出す準備を整える。 [だめおし]、効果は抜群のタイプ相性なので、相手に与えるダメージも相当な物だろう。 クラウドは渾身の力で技をサイコに叩き込んだ。 「ぐっ ぁっ!!」 ドシャァアアッと音を立てて、彼は地面に叩きつけられた。 「…………痛い……」 それはそうだ。 ガスがゴーストの形を少しずつ保てなくなっているらしく、紫色の煙のようなものが彼の体からは立ち上っていた。 「(と、とにかく、早くこの場から離れないと……!)」 「痛い……」 「? ……様子が……」 様子がおかしい……? 「痛い……痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!! あ”あ”ぁははああぁひゃああ”はっっ!!!! お兄さんの事許さないよ、絶対に飲ませて貰うから!!!」 「(飲ませる? 何を? まさか…………血を?)」 クラウドの顔の血の気がひいた。 「…………狂ってる……!」 「あはははひゃぁあ”あ”あ”あ”はははっっ!!!」 先程よりも無茶苦茶なナイフの太刀筋は、クラウドの読みを狂わせる。 相手はまるでさきほどまでに受けた技の数々のダメージなど無いかのような元気の有り様だった、形勢逆転されたのかもしれない。 サイコのナイフは致命傷にならないまでも、体を少しずつ傷付け、赤い線を残して行く。 「うっ くっ……!」 クラウドはとにかく、相手の攻撃を受けないようにと[影分身]を作り出す。 相手の攻撃が空振りしたことを確認して、こちらの体勢を立て直す。バッと距離を取って、更に[影分身]を積み、相手を見据える。 その時、脇腹に何かが刺さった感触が走った。 「あっ……! そ、こ、かぁ〜〜……!」 相手に必ず当たる技……[シャドーパンチ] + ナイフinハンド クラウドの体から赤い血液がドロドロと流れ出る。 「鮮血飲ませてね!!!!」
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アルズは刃に向けて言う。 「それにしても、こうして初代二人で並んで歩いていると、何か欠けているような、残念な気持ちになりますよね」 「ああ、確かに、ゼニガメとフシギダネと来れば、ヒトカゲが居ないとどこかバランスが悪く感じてしまいますよね」 「そういえば、サイサリスのアッシマーさんの娘さんがヒトカゲでしたよね。確か、エルジアさんって言いましたっけ?」 「そう、エルジアさん。親子で種族が違うなぁと思ったら里親で養子だそうですよ」 「へぇ〜 養子ですか…… 刃さんはエルジアさんとお話しされたのですか?」 「いえ、これはラクというエアームドさんから聞いた話なので……。 僕はエルジアさんとお話しはしていません、なんと言うか…… なんかすごく話辛い雰囲気を持っているのですよね、孤高の人って感じで」 「ふむ、実は、蜥蜴星座の聖闘士みたいなすごい人かもしれませんよ」 「いや! 海辺で長髪をなびかせながら朝日をバックに2ページの見開きいっぱい使ってオールヌードで『神よ、私は美しい』発言を少年誌上でやらかした《男》といっしょにさせないでください! 失礼ですよ、というか貴女はいつの人間ですか!?」 「すげぇ、まさか分かるとは思わなかった……。 でも、カスミだと言えば大丈夫ですよね?」 「英語版なら同じ名前だからといっても、全然大丈夫じゃないですよ!」 「まあともかく、個人的にアレは『おいろけ・男同士の術』以来の名シーンだと思いますね」 「時系列が逆ですよ」 「『あらしのよるに』は最高のBL作品だと思いませんか?」 「話の脈絡がよく分かりません。確かに男同士で、抱き合ったり、たべてしまいたいとか、駆け落ちするとか、暗く狭い穴で一夜を明かすとか、そういうシーンはありますが、あの作品をそんな目で見ないでください。あれは童話なのです」 「それにしても、刃さんは詳しいですよね、やっぱりそっち方面の趣味がおありでしょうか?」 「ありません」 「あれ? じゃあ、こうしてプッチプチのギャルが目の前に居ると言うのに、何故刃さんは興味を示さないのですか?」 「ギャルという単語を久しぶりに聞きました。 というか…………プッチプチって、その擬態語は一体……」 「可愛いでしょう? プッチー♪ みたいなっ!」 「金銀のプテラのニックネームですか」 「そこの二人っ!!」 「っ?!」 「うわ!」 二人が非常に仲の良い会話をしているところで、一匹にクチートの青年の声によって話は中断された。 「な、なんですかっ! 突然出てきて、びっくりしましたよ」 アルズの言葉に、彼は小声で呟く。 「…… ずっといたんだけど…… 気付いてくれなくて……」 とにかく、と彼は咳払いをして、 「う、うちはジェノサイdく……!」 「(Σ 舌噛んだっ!)」 「(Σ 舌噛んだっ?)」 セリフの途中で舌を噛んだ。 「落ち着いてください、ゆっくり喋って下さい」 刃はその彼のことを心配して、なだめた。 「すまない ……うちは、ジェノサイドクルセイダーズのラヒトの舎弟……、名をマツと言う……」 「マツさん、ですね」 「……貴方達は、人間世界からやってきたのだな?」 「はい、確かに僕達は人間世界からやってきましたが」 「ジェノサイドクルセイダーズ……のリーダーの命により。 貴方達を始末……する」 「なるほど、僕達は始末されると。 って、えぇ?」
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「がはっ! はぁはぁ……」 メイルは地面に仰向けの状態で、肩で息をしていた。受けたダメージと疲労で、立ち上がる体力も使い果たしていた。 「さてと」 フィーレンは言う。 「では、メイルさん、失礼ながら。とどめを刺させてもらいますわ」 メイルには言い返す力も残っていない。 怒りで暴走状態になっていたところをフィーレンにあしらわれしまい自滅してしまったことが、メイルの敗因だった。 その証拠にフィーレンはほとんど息が上がってなく、完全に主導権はフィーレンの物になっていた。 「フィレ姉さ〜〜ん!!!」 遠くからやんちゃそうな男の子の声が聞こえくる。 眼をわずかに開けると、全身が紅く染まったゴーストがいた。 「あら、サイコ……そっちは終わったの?」 「うん!」 「(終わった? 何が?)」 「で、これは…… 僕が飲んでいいの?」 「ええ、結構よ、好きにしていいわよ」 「(飲む? って?)」 そう言い残して、フィーレンはそこから去る。 「(ああ…… 死ぬっていうことは……)」 「やったぁ! いただきま〜〜〜す!!」 メイルは最後の意識でこう思った。
――こんなに嫌なことなんだね。
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そこからちょっと歩いた場所に、一人のラルトスがいた。 「こんにちは、聖さん」 メイルとの戦いを終えたフィーレンはそのラルトス、聖に挨拶をした。 「……終わったのか?」 「ええ、終わりましたわ。 ……ただ、そんなこと報告するまでもないことだと思いますわね」 聖がいるこの場所は、先ほどのメイルとクラウドの戦いの両方が良く見えるところだった。実際に自分の目で確認しないと納得できないタチらしい。 「一応だ」 聖は短く返事をする。 「貴方の依頼では、あのラルトスさんがいるチームを分断させて、シャワーズさんとブラッキーさんを始末するという依頼でしたわね」 「ああ」 「ただ、その次のことには勝手ながら反対いたしますわ…… さすがに相手は女の子ですし、やりすぎと思います」 「そこは貴女方には頼んでいない、それは俺がやるから、貴女方には関係ない話だ」 そう言って、聖はフィーレンに何かを手渡す。 「いえ、重ねて言いますが報酬は結構ですわ。 サイコには良いストレス解消になっただろうし、私としても暇つぶしになりましたし、それだけで十分」 「いいから、貰って置け。 ここで受け取ってもらえないと俺の主義に反する」 聖のその眼を見て、フィーレンは「では」と言い、それを受け取る。
フィーレンとサイコが帰ったことを確認した後、眠らせてある輝を見つめる。 頼ろうとしていた者達が、眼が覚めたら凄惨な亡骸になっていたとすれば、彼女はどうなるのだろうか? と、考えながら。
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