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[559] 小説 《Dream Makers U》 第四章
あきはばら博士 - 2008年05月30日 (金) 22時00分

スレッド、4つ目です。

[560] 小説 《Dream Makers U》 第四章 (1)
あきはばら博士 - 2008年05月30日 (金) 22時04分

  あなたがこの世界とあっちの世界を繋いでくれたお陰で、私はつらいこともあったけど、楽しかったです。楽しかったです、だから罪悪なんて背負わないで下さい。
  ……だから、諦めないで下さい、背負わないで下さい、生きてください。……こんな、どうしようもない奴のことばじゃ説得力なんてないですけど
          ――ひこ

   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ふぅん―― じゃあ、ラクさんはアッシマーさんからこの世界に来ているかもしれないお姉さんの情報は手に入ったの?」
「いや、大した情報は得られなくて」
「それは……、残念だね」
「でも、この人かも知れないって言う人の名前は聞いたよ」
「へぇ〜! どんな名前なの?」
「確か……『こたかひかり』、だったかな?」
「ふぅん、呼びにくい名前だね」
「そう?」
 サイサリスを出発した若菜たち4人は、迷い込んだ仲間を探すために道を歩いていた。
 若菜とラクが和気藹々と会話をしている中に、黒琉は入り込む勇気がなかなか出ず、その会話を後ろから聞いていることしかできなかった。
 自分の隣にはブースターのレツナがいるが、相変わらずボーとして眠そうで話しかけられる雰囲気ではない。
 黒琉はこれまでのこと、何故帰れなくなってしまったのかを改めて考え始めた。


 あのジュカイン――アッシマーさんは、
 姉さんと共に、五年前に偶然迷い込んで、仲間達と共に戦ったそうだ。
 ……あ゛、しまった、その時にラクさんみたいに姉さんの行方を聞いておくべきだったかも……!
 …………いいや、過ぎたことは忘れよう、はぁ……。

『あの世界にとどまって、平和な世界の再建に協力していこうって、そう思ったの』
『他の人をポケモンの世界に招待しても大丈夫だって、私達がそう判断したからね』
 姉さんはこう言っていた。

 アッシマーさんも僕たち大勢の前で同じようなことを言っていた。
 ――ポケモンの世界に残り『ドリームメーカー』を再建することになった者と、現実世界に帰った者とが、
 ――ポケモン世界を現実世界とつなぎ、皆が自由に行き来できるようにする為に尽力した。
 ――そして最近二つの世界をつなぐルートを確立させることに成功した――。

 つまり、今回、帰れなくなったのは『姉さん達が作った世界を繋ぐルート』がなんらかの理由で壊れたのだろう
 だからアッシマーさんは
『昔の仲間を探して元の世界に帰る方法を探す』
 と

 ……あれ?
 この場合、探すではなく、直すじゃないのか?
 つまり、ルート自体は正常に生きているのに、それ以外の原因で帰れなくなっているということなのかな?
 単なる事故であれば良いのだけど……。


 と、
 そこまで、黒琉が考えたところで、その思考は停止した。

「こぉん………」

 その声と同時に、いつの間にか。
 目の前に一匹のロコンの姿があったからだ。
  『気配を消していた』
 漫画でしか見たことのない表現だが、それが実際に自分の目で確認できるとは黒琉も考えたこともなかった。
 突然の出現に唖然とする4人に向けて、彼女は小さく挨拶をした。
「九音……です、 こんにちは。」
「あっ、こんにちは 私は若菜と言います」
 若菜が反射的に挨拶を返すと。九音は妖しく小さく笑って
「……元、人間の方々ですね?」
 と、言った。
「「「!」」」
 レツナを除く三人が一斉にその言葉に反応した。
「も、もしや! 九音さんも帰れなくなった……?!」
 ラクが慌てた口調で質問をぶつけると、九音は小さく首を振って否定して。
「違います……」
 そして、一言だけ付け加えた。

「……始めましょう」

 その言葉と同時に、肌を焼き尽くすように暑い空気の塊が、若菜達を襲った。
 九音の――[熱風]だ。
「うああぁぁぁぁっっっ!!」
 1割の確立で相手を火傷状態にする炎タイプ特殊系の全体技:[熱風]
 特に、草タイプの若菜と、鋼タイプのラクには効果が抜群だった。
「なっ! 何よ、 いきなり攻撃してきてっ!!」
 有無も言わさず、突然攻撃を仕掛けてきた九音に腹を立てていた若菜は、すかさず[はっぱカッター]を連続で放った。
 九音は大きく息を吸い込んで[火炎放射]をする。
 はっぱカッターは炎に巻き込まれて焼け尽き、炎は若菜に向かって迫ってきた。
「(しまった……! 避けられない……!)」
 気がついた時には遅かった、つい腹を立てて軽率な行動に出てしまった。タイプ相性的に[原始の力]を使えば良かったと後悔をした。
 はっぱカッターを撃つ際に、足を固めていたせいで回避動作をすることができない。
[光の壁]でガードしようとおもったが、草タイプの本能なのか恐怖の方が先に立つ。

 ――その瞬間、若菜の目の前に一匹の影が躍り出て[火炎放射]を庇った。
 ――炎はその影に吸い込まれていくように消えていった。

「えっと…………  君は勝負を挑んできたんだよね?  じゃあ、あたしが相手をするから! どこからでも掛かってらっしゃい! あと、あたしの名前はレツナ! 名乗れる名前はそれだけさっ!」
 さっきまでの雰囲気とは違う、元気で活発な声で、レツナは九音に言った。
「レ、レツナさん……! 大丈夫ですか?」
「あたしは、やりたいことしかやらない。あたしがやりたいからやる、それだけ。 大丈夫、ここはあたしに任せて」
 ラクが心配して叫んだ言葉に、レツナは元気良く答えた。
 ラクには、この返事はとても有り難かった。
 タイプ相性が悪い自分と若菜はもちろん、技がまだ充実していない黒琉も、九音との勝負は圧倒的に不利な展開となるだろう。
 だが、特性が『貰い火』のレツナの場合は違う。炎技をすべて無効化できる。
 [火炎放射]も。
 [熱風]も。
 タイプ一致技をすべて封じることができる。

「後悔…… しないでねっ!!」
 すかさず、九音は[たいあたり]をした。
「更改もしないよ!!」
 レツナは突っ込んできた九音のあごをカウンター気味に突き上げて仰向けにさせ、腹部に両前足を叩き下ろした。
「っっっ……!!」
 そして、九音を掴んで思いっきり投げ飛ばした。
 九音は空中で回転して綺麗に着地し、今度は[電光石火]を仕掛けた。
「せぇ……の!」
 レツナは[アイアンテール]で飛んできたボールをバットで打つかのように――九音を打ち返した。
 九音は放物線を描いて、また綺麗に着地をしたが、頭部に[アイアンテール]を受けたせいなのか、ややふらついていた。
「へぇ〜! 君、強いんだぁ!!」
 レツナはわくわくした声で無邪気に言った。
 その様子を、ただ見ていることしかできない黒琉とラクが呟いた。
「何と言うか……」
「うん……  レツナさんって強かったんだ」


 レツナがこの世界にやってきた理由は家や学校が嫌になったからだった。
 この世界の少年少女に良くある現実逃避のようなものである。
 だから最初はプチ家出のつもりで、一日くらいで元の人間世界に戻ろうと考えていた。
 しかし、この世界はあまりにも人間の世界に比べて居心地が良過ぎた。
 結果として、一日の予定が三日、一週間……と先延ばしにしてしまって、とうとう3ヶ月が経ってしまった。
 ここまで経ってしまっては、戻る気が起きない。ついこの前、突然頭の中で扉の閉まる音が聞こえたことも空耳だと考えて流してしまっていた。

 ドリメ歴3ヶ月。

 この数字だけを見るならば、イーブイのPQRと同じ期間と感じてしまうが、彼とは全く意味合いが違っている。
 PQRの場合は3ヶ月間、小まめに元の世界に戻っていたが、レツナの場合は一度も戻らなかった。
 3ヶ月間、常に、寝る時も起きる時も、この世界で生活を続けていたのだ。
 だから、今はもう既に――

  人間の体の動かし方を忘れてしまいそうになるくらい、ブースターの体に慣れてしまっている。

「これでも、喰らえ!」
 レツナは息を吸って九音に[火炎放射]をした。
 タイプ一致技、更には貰い火でダメージが増えている。タイプ相性では半減と言えどもこれは大きなダメージになることは間違いない。が……
「効かない」
 九音のこの言葉通りに、その炎はその体に溶けるように吸い込まれていった。
「あの、ロコンの特性も『もらい火』……」
 ラクが申し訳なさそうに指摘した。
「え? ロコンって『自然回復』じゃなかったっけ……?」
「違いますよ」
 ラクはレツナに突っ込みをいれた。


 九音はこの状況を打開するためにはどうしたら良いものか悩んだ。
 [熱風]の全体攻撃で3人を始末してから戦うことも考えたが、[熱風]の僅かな溜めの最中にあのブースターに間合いに入られてしまう恐れがあるので使うことはできない。まずはあのブースターを始末することにしよう。
 と、九音は臨戦態勢に入り、
「貴女に……とっておきの技を見せてあげましょう」
 と言った。
「へぇ〜! とっておきの技か〜! 見せて見せてっ!」
 レツナはいたって無邪気だった。

 その返事に応えるかのように
「B――」
 九音は[炎の渦]を、自分に巻きつけた、
「R――」
[炎の渦]は一度勢いが増した後、徐々に体に溶けていき、
「――C!」
 一気に九音は駆け出した。
 炎を纏った突進であるが[フレアドライブ]や[火炎車]とは違う、あくまでも[電光石火]の型である。
 ただし、速さがとてつもない。
 貰い火の炎を自身の速さ・攻撃にシフトする。

  ――技をより高度に昇華させた、通称:必殺技と呼ばれるものである。

 レツナはそれに反応がついていけずに、受けるしかできなかった。
 ぶつかった直前に九音はレツナの体を掴んで、彼女の背中を地面に擦り付けながら暫く滑ってから静止した。
「レツナさんっ!」
 ラクがそう叫んだその時、九音から妖しい閃光が発せられ、ラクはその光を見たとたんに頭に痛みが走った。
 その光が収まって少し経ったその時、レツナが急にこちらに振り向いて。

[火炎放射]をしてきた。

「え? え? あ、ああああああっっ!!」
 炎はその延長線上にいた黒琉に命中した。
 こちらに向けられたレツナの瞳を見てラクは確信した。  ――目が据わっている。――
 間違い無い、さっきの閃光は[妖しい光]だ。そんな光をあんな至近距離から受けてしまっている、つまり。
「気をつけて! レツナさんは、『操られている』かも!」

 狐といえば人を化かす妖術遣いである。
 ロコンがそういう精神操作系の技を使ったとしても、不自然ではない。
 もっとも、この場合は[妖しい光]ではなく[催眠術]と言ったほうが近いかもしれない。


 九音とレツナは横に並び、手に手を取り合って
 互いに[炎の渦]を発動させる。
 互いに[炎の渦]を巻きつけ合う。
 互いの[炎の渦]で互いに『貰い火』する。
 互いの[炎の渦]は更に火力が増し続ける。

  熱く、熱く、熱く……
  極限まで高まったその熱はすべてのパラメータに影響されていく。
  熱は強さにシフトされる。
  最高に高まった温度は最高の上限まですべてのパラメータを上げる。


 3人は炎の渦に包まれた九音とレツナに近づくことができなかったが、それでも向かい討てるようにと。
 若菜は[光合成]を、黒琉も[若菜から[スケッチ]した[光合成]]を使い、ラクはアッシマーと拾った木の実を少し食べて、それぞれ体力の回復をしていた。

  *  *  *  *  *

 そして、突然――……。
 九音とレツナが共に、炎を纏いながら[電光石火]で突進してきた。
 貰い火がシフトされたその速さは尋常じゃなかった。
 3人はほとんどギリギリに近い形でその突進を避けたが。
 避けた瞬間に次の攻撃が来た。
 後ろに振り向く暇も無く、黒琉は背中に九音の攻撃を受けた。
 若菜はすぐに[リフレクター]を張って、レツナからの攻撃を防ごうとした。
 しかし、レツナにそんなものは通じなかった。 特殊攻撃で攻撃してきたのではない。
 ただ、力ずくに、強大な物理攻撃で、[リフレクター]ごと突き破った。

 空を飛んでかわしていたラクは、二人が倒れる瞬間にあっけに取られていた。
「(間違いない……次は僕の番だ……)」
 確かに、空にいれば物理攻撃は届かない、しかし[火炎放射]などの特殊技で確実に撃ち落されてしまう。
「(どうする?……! どうするっ!)」
 ラクは瞬時に思考して、次にとる行動を決めた。
「(……あぁあ! もう、 覚悟を決めろっ!  僕っ!!)」
 ラクは自分がサイサリスに向かうときに偶然できたあの技――[スピードスター]を使って自分の羽に絡めて、[燕返し]の態勢でレツナに向かって突撃する。

  必殺技《スカイドライブ》!

 レツナもそれに応えるように、[電光石火]で迎え撃つ。
 その結果は……

  ラクが地面に倒れた。

 九音は地面に倒れた3人の姿を見回して、
 ここで止めを刺しておこうか、それともゼロに奉納するか、迷ったところで、
 ふと、レツナのことを忘れていたことに気がついて、彼女の方を向いた瞬間に、

  吹っ飛ばされた。

 もちろん、倒れている3人の中には吹っ飛ばした者などいなかった。
 九音を吹っ飛ばしたのは……他でもない、レツナだった。
 ラクはレツナは完全に操られている訳ではなく『3人を攻撃しろ』という強い暗示が掛けられていると考えていた。
 ならば、強い衝撃を頭に加えれば正気に戻るかもしれないと、決死の《スカイドライブ》に賭けたのだ。
 その賭けはみごとに的中した。 自らが倒れてしまうことと引き換えに、レツナを正気に戻すことに成功していた。
 レツナはぐるりとあたりを見回して、この場で一体何が起こったのかを瞬時に頭の中で把握して、九音に叫ぶ。
「なんてことを……!  ……ぜったいにゆるさない!!!」
 すぐに[電光石火]で、九音に向かって突進する。
 九音も同じく[電光石火]で迎え撃つ。
 ――敵はたった一匹だけだ、
 勝てるはずだと思っていた。

 ――その直後、九音はレツナに轢かれた。
 ――ラムパルドにでも轢かれたように錯覚した。

 激しい全身の痛みの中で、九音は思い出す。
 ブースターはカイリキーを同じ攻撃種族値を持つポケモンであり、そんなポケモンの攻撃が最大まで上がれば恐ろしい攻撃力となることを。
 そしてなによりも……。さっき使っていた必殺技は5年前の戦いにおいてあのブースターが作り上げた、ブースターのための必殺技であることを……。

 九音は撤退を決めて、疼痛を我慢して立ち上がり、一目散にその場から逃げ出した。
 レツナはそれを追わずに。すぐに、3人の無事を確かめる。
 いくら仕方無かったとは言え、傷つけてしまったのは自分であることは間違いない。
 ずっと前に出会った、あの名前が読みにくく変態っぽいイーブイに続いて、元人間に出会うのはこれで二回目だった。あの時は、付き纏われたことから人の世の柵(しがらみ)を感じてしまい、逃げ出すように別れてしまったが、こうして再び出会ったこの縁は、今度は大切にしたい――。

 とにかく、仲間達が起きたら、謝ろうと決意していた。


  *  *  *  *  *


 ところで――。

 今回九音が使っていた必殺技は5年前の戦いでメスフィの父親が編み出した必殺技《B・R・C(ブースター・ローリング・クラッシュ)》である。
 但し、この必殺技はかなり有名なので、九音が知っていても何の疑問は無い。ただ、問題はレツナと使った合体必殺技――。

  《B・L・R・C》……。
 2人の[貰い火]の息が合う時、2人の熱い愛が共に分かち合い互いに力を分け与え、使用後は能力値が最大まで上がる必殺技。
 心理的な面は全く抜けて、完成度は本家には及ばないにしても、原理だけを考えるならば、間違いなくこの強化型必殺技を汲んでいる。

 この必殺技も確かにメスフィの父親が編み出したが、この必殺技を知っているのは使った本人であるメスフィの父親と母親、そしてその必殺技を受けた本人しかいないはずであり。
 メスフィの母親は相手方が亡くなってしまって以来、大切な思い出と共にずっと封印しているし、受けた本人は5年前に死んでいるはずである。
 つまり、この必殺技は絶対に誰も知らないはずであるが。


 もし、仮に
 これを知ることができたとすれば、それは…………5年前にその必殺技を受けた本人から聞いたという可能性がある。
 5年前にその必殺技を受けた張本人。その男の名は……ゼロ。
 その真実にたどり着くまで、この時点で十分なヒントが散りばめられていたのだったが、今の若菜達には気づくことができなかった。
 知らないことであるにしても、例えばアッシマーに相談をしてみるなどと気づける可能性は、あった。
 ここで仮に気づくことが出来たならば、おそらくこの後の若菜達のチームに降り掛かる“残酷な結末”はおそらく無かったのだろうけれど、それは後悔しても仕方が無い。
 これはもう、一つの運命として受け入れるしかないのだろう。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ジェノサイドクルセイダーズの根城である施設にある私室のベランダにて、トゲチックのツバサが連絡役らしきペラップの報告を聞いて小さく笑って要約する。
「……へぇ、それってつまり失敗したってわけ?」
「はい。レベル差から考えて当然の結果で、依頼前後の事もあっさり話していました。その事でレオードもあなたが関わっている事に気づいたようです」
「それでいいんだよ。僕のディナーは彼なんだから」

 元々あんな弱い二人組に期待はしていない。ただ、自分にとっては己から唯一逃げ出す事が出来たレオードに大きな不幸の前触れを気づかせる事が出来たのならばそれでいいのだ。
 今の自分の優先目的は己の望んだ不幸から逃げ出したレオードに史上最高の不幸を与える事。
 もちろん元人間達の不幸を与えて、絶望の悲鳴を聞くのも大好きだ。
 だからこそ両立させて芸術的な史上最高の不幸を与えてやりたいのだ。
 そう考えると楽しくて楽しくて笑みが止まらなくてしょうがない!

 突然クスクスと笑い出したツバサに対し、ペラップは若干引きそうになりながらも尋ねる。
「……と、ところでツバサさん、あなたはどうするのですか?」
「出るに決まってるじゃないか。他の連中にレオード、そして彼の相棒を傷つけられるのはイヤだからね。もしもやっちゃったなら、そいつに不幸を与えるだけさ。 ふふ、ふふふふふ……」
 殺意が篭った笑い声を聞き、自分の体にとても冷たい悪寒が走ったのをペラップは感じた。
 ここに集った者達の多く(特に部隊を率いる幹部クラス)に見られる共通点は自分と自分の気に入ったモノ以外に対して、本当に容赦が無いというところ。一歩間違えたら、己自身だって殺される可能性が高い。
 絶対に誰も敵に回したくないな、とペラップが考えていると不意にツバサが話しかけてきた。
「僕はもうちょっとのんびりしたいから、一人にさせてくれないかな?」
「へ?」
「ほら、僕だって人の子だよ? 何かを考えたいなーって思うことはあるよ。善は急げっていうけど、気持ちの整理はしないとね」
「あ、はい……」
 要するにこのトゲチック、考え事をしたいから出て行けと言いたいらしい。
 ペラップはその命令を理解すると、さっさと飛び去ってその場から離れていく。
 それを見送ったツバサは右手を口に当てて、再びクスリ……またクスリと小さく笑い出す。
「ふふふ、ついにかぁ。ついに、ついに、世界にとって最大の不幸の日が来たかぁ……」
 笑いをこらえ切れないツバサが思い出すのは、先ほど行われたジェノサイドクルセイダーズの首領であるボスの演説。

『闘いだ! 戦争だッ! 殺し合いだッッ! それによる混乱ッ! 我々は長き刻を待ち続け、ついにこの瞬間を迎えたのだッッッ!!!』
 そう、僕達の長く待ち望んでいた、殺戮の時が来たのだ。
 行う意味や理由は異なるけれども、殺戮を望む部分は一致した僕等にとって待ち望み続けたその瞬間。

『戦ってッ! 戦って! 闘ってェエエエエッ! そして……殺せッ! 殺せッ! 殺せェエエエッ!』
 その通りだ!
 他の奴等がどんな理由で殺すかは知らない!
 だが僕は、相手の苦しむ絶望とも言える不幸な姿を見たいからこそ殺す!!
 だからこそ、殺して殺して殺してまくろうじゃないかッッッ!!!!

『この世は弱肉強食、一握りの強者だけが、弱者を支配し、頂点に立つべきなのだッ! そう、支配だッ! 負けた者の気持ち等察する事無く、弱者に対する欲望のままに行動するッ!』
 そうだ、そうだ、そうだ!!
 僕等は強者、僕等は支配者、僕等は欲望の主!!
 だからこそ、弱者で欲を満たす!
 弱者に不幸を届け、絶望へと突き落とす!!!!

『弱者が苦痛によがり、トドメを刺す時を想像したまえ、それは絶頂すら覚える最高の瞬間なのだッッッ!』
 そう、それこそこの“不幸宅急便”が最も望む最高の瞬間!!
 複数もの苦痛、複数もの悲劇、複数もの……不幸ッ!!!
 それらを与え、悲鳴をあげ、トドメを刺される弱者の声こそ史上最高の快楽、いや、絶頂たるもの!!

『諸君、今一度問う、諸君等の求める物は何かァアアアアァアッ!?』
 僕が望むのは……殺戮による不幸の叫びッッ!! そして史上最高の快楽だッッッ!!!!

 ツバサは己の回想で演説するゼロに答える、否、己の欲望を言葉にして実在させる。
 彼が望むのは殺戮、虐殺、弱者の悲鳴、……全てを含め「不幸」と呼べる悪夢を生み出し、その快楽を見る事。
 彼が優先するのは人を絶望の不幸に陥れる事。その為ならば手段を選ばない。
 漸く全てが不幸になる時が来た。そう、ジェノサイドクルセイダーズが望む“世界の混乱”という不幸の時が!
 ツバサは興奮が冷めないまま、言葉を叫ぶ。
「僕が宅配してあげた不幸を受け取らなかった彼に、タップリと慰謝料を払ってもらわないとねぇ!」
 脳裏に浮かび上がるのは、かつて一度だけ己が届けてやった不幸から逃げ出したニャース……レオードの姿。
 彼が人間の相棒を連れているのは報告で知っている。だからこそ、彼は嫌でも巻き込まれる運命になるだろう。
 そう、このジェノサイドクルセイダーズの企みに。
 巻き込まれてしまった彼を、誰よりも深い深い絶望の不幸に叩き落してやろう。
 猫旅堂のレオード、そして彼の連れている相棒――yunaを!!
 ツバサはここにはいない二人に向かって、何よりも重く歪んだ思いを口にした。

「真っ先に絶望の不幸を与えてあげるよ……!」

 ツバサは興奮と楽しみから来る笑みを深めながら、準備を行う為に部屋から出ていった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「先輩、邪魔しないでくださいよ!」
「痛ぇなー!」
 ガルルが所属する部活、パソコン部。
 パソコン部には最近、異変があった。3日前からこの部の副部長がめっきり来なくなってしまった。部活どころか学校の方にもこなかった。
 家のパソコンに残る、「Drルイージ」という謎の文字だけ……。
 彼は学校でいじめられていたこともあって、普通の登校拒否かと思えば、どうやら家にも帰っていないよう、家出したのではないかと、学校でも少しだけ問題になっていたが、Drルイージを嫌っている者が多いために、問題にしていたのは彼の友達である数名だけだった。
 そんな中、ネットではガルルと名乗っている少年も、このことを気にとめながらこの2日間を過ごしていた。
 部活の途中、ガルルはとある噂のことを思い出していた。噂とはネットを通じてポケモンの世界に行けるというものであった。
 噂によればそのポケモンの世界はかなり快適らしく、現実に帰ることさえ忘れてしまうほどらしい
 ガルルはそんな世界に是非とも行ってみたいと思っていた。しかし、彼はパソコンを持っていないため、学校でしかパソコンをいじれずにいた。今日はやっと学校でネットができる日で、この真相を調べようとしていた。

「このサイトだな……」
 彼が覗いているのは『ポケ書』というサイト。コミュニティに行った途端、1つの警告が出た。
 『dreammakers.exeを起動しますか?』
「なんだこれ……? 読めね……」
「これはね、ドリームメーカーって読むんだよ、流星君」
「知らねーよ!」
「先輩、英語の成績いくつですか?」
「うるせーよ! **テメー!」
 いつものキレたやり取り。いつもはここに副部長もツッコミに入るのだが……。
「……んで、Dreammakersってなんて意味?」
「流星君、中間の英語何点だったの?」
「うるせぇー! テメーらあっち行ってろ!」
 DreamMakersの意味も理解したところで、もう一度パソコンの前に立つ。そして今度は『はい』を押す。
 その瞬間、パソコン室が光に包まれ、ガルルが使っていたパソコンの前に人はいなかった。画面に残る、『ガルル』という名だけを残し……。
「あれ、先輩どこ行った?」
「どこかに隠れてんじゃないの?」
「何が目的なんでしょうかね?」
「放っておけばそのうち出てくるよ。普段通り部活を再開して」
「にしてもあの光はなんだったんでしょうかね?」
「パソコンの故障じゃないの?」
「先生呼んだ方がいいんじゃないですか?」
「それもそうだね。顧問呼んできて」

  *  *  *  *  *

 その目の前にあったのは見渡す限りの緑の大地。その周辺に何かの建物が建っている。
「ここが……ポケモンの世界なのか?」
 ガルルは今自分がなっている姿を見てみた。
「ポリゴン……Z?」
 彼はポリゴンZになっていた。
「へぇー、あの噂は本当だったんだなぁ。この噂か本当か試したところで戻ろうかな。」
 と、戻ろうと念じた瞬間、「がちゃん」という音がした。
「? 戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ!」
 反応なし。戻れと何回念じてもダメ、口で言ってもダメ、訳のわからない行動をとってもダメ。完全にこの世界に閉じこめられてしまったようだ。
「えぇー、この先どうすりゃいいんだよ!」
 ガルルは途方に暮れながら、とぼとぼとそこを歩き出していた。

  *  *  *  *  *

「そういや流星はどうしたんだ?」
「さあ、探しても見つからないんですよ」
「放っておきましょうよ、もう途中で帰ったってことで」
「いやー、そういう訳にはいかねーだろうが。んで、パソコン調べたけど正常だったぞ。光はどういうきっかけで出たんだ?」
「……この『ガルル』って何でしょうかね?」
「流星君のすることはよくわからないから、これに関しては関係ないと思うよ」

  *  *  *  *  *

「ひぇーっくしゅ! ポケモンでも風邪って引くのかぁー?」


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 メガネ姿の1人の青年が、テレビの前で、あるテレビ番組を見ていた。
 それは何を隠そう、アニメ『ポケットモンスターダイヤモンド&パール』であった。
 大学生が今更なぜそんなものに掻き立てられたのかには、理由がある。

 彼は、一度はポケモンから『卒業』した身だった。だが、1人の人物が、彼をポケモンの世界に舞い戻らせたのだ。
 このアニメの主要登場人物である、1人の少女。
 明るく、どんな時も前向きで、『ダイジョウブ』が口癖なこの少女を、彼は一目で気に入り、ファンになってしまったのだ。以後、彼は今まで見たどのアニメの人物よりも強い愛着を見せ、弟と妹からは「『萌え』だ」と言われる始末。本人にはその自覚はあまりないのだが……。

「(うらやましいな……彼女みたいに冒険して、いろんな人と知り合って、成長したいものだ)」
 彼は、そんな事を考えていた。
 彼は、人付き合いは決していいとは言えなかった。ある過去が原因で外では常に心を閉ざし、『1人ぼっち』といってもいい存在だった。孤独である身の寂しさに気付いた彼は、いつしか自分を変えてくれるような『出会い』を求めるようになった。だが、待っていてもそんな『出会い』は起きない。結局何もできないまま、現在に至る。
 番組が終わると、彼はそんな現実から逃げるように、パソコンの前に向かった。
 彼にとって、パソコンの中の世界が自分の『人付き合い』の全てだった。そこには上座も下座もない。立場は皆同じ。出身も、性別も、年齢も関係ない。誰もが隔たり1つなく、平等に、気楽に交流し合う事ができる場所。そんな世界を、彼は気に入っていた。彼はここで、『フリッカー』という名で活動している。彼が愛着を持つ、あの少女にあやかって付けた名前だ。
 そんな彼は、『ポケ書』というサイトに来ていた。彼がいつも行く、有名なポケモン同人サイトだ。
 普段ならここの掲示板に投稿するなどして楽しむのだが、今回はいつもとは違った。『ある事』が気になっていたのだ。
「ここからどこへ行けって言うんだ、あいつらは?」
 フリッカーは画面の『DreamMaker』という文字を見てつぶやいた。フリッカーは、弟と妹から「ここから面白い所に行けるから、招待するよ」と言われ、ここに至った。2人は、最近よく予告なく姿を消す事が多いが、何か関係があるのだろうか? 怪しい雰囲気が立ち込める。
 とりあえず、『DreamMaker』をクリックしてみるフリッカー。すると、『dreammakers.exeを起動しますか?』というダイアログが表示された。
「何だこりゃ?」
 思わずそうつぶやくフリッカー。でも、ウイルスではなさそうだ。そう思ったフリッカーは、興味本位でクリックしてみた。
 すると、画面がまばゆい光を発し始めた……。

  *  *  *  *  *

 気がつくと、フリッカーの視線に移ったのは、きれいな青い空。
「何だ?」
 周りには見知らぬ緑の野原が広がっていた。その風景は、どこか見覚えのあるものだった。まるで、マンガの中の世界のような……。
 フリッカーはとりあえず体を起こす。すると、尻の辺りに妙な感触が。何か太く、大きなものが付いている? 見ると、尻は濃い青の『尻尾』へと変貌していた!
「!?」
 驚くフリッカー。だが、それだけではなかった。たまたま視界に入った腕も、濃い青の細いものになり、手は鋭い爪に、肘には羽のようなものまで付いている。まさかと思って顔を見下ろすと、足もやはり濃い青のトカゲのようなものに変わっていた!
「お、おい!! 一体どうなってるんだ!?」
 動揺したフリッカーは、近くに池があったので、そこで顔を見てみる事にした。水明に映った彼の顔――それは、濃い青のトカゲのような顔。この顔には見覚えがある。彼が好きなポケモンの1つ、ほらあなポケモンガバイトだ!
「ええ〜っ!? 僕ポケモンになっちまってる!? ど、どういう事なんだ!? これじゃ『ポケモン不思議のダンジョン』の再現じゃないか!!」
 自分の身に起こったことが信じられず、驚き叫ぶフリッカー。
「ええい、僕は人間だ!! ガバイトなんかじゃない!! これは夢だ!!」
 狂ったように叫ぶフリッカー。
 そんな時、のっしのっしと何かが歩いてくる。振り向くと、そこにはやはり彼の好きなポケモンの1つである、よろいポケモンバンギラスがこっちに歩いてくるではないか!
「うわっ、なんかやばいのが来ちゃった! どうしよう……そうか、今僕はポケモンだから、バトルして追い払うのも手だな。たかがバンギラス1匹、ガバイトで押し出してやる!! ガバイトは伊達じゃない!!」
 と、どこかで聞いたようなセリフをもじった言葉を発しながら、構えを取る。バンギラスが強力なポケモンである事は、もちろん知っている。自分がどんなわざを使えるのかはわからないが、とにかくやるしかない。フリッカーはそう思った。
「行くぞ、バンギラス!!」
「ま、ま、ま、待った!!」
 バンギラスに突撃しようとしたフリッカーであったが、バンギラスの顔に似合わぬ高い声に止められた。どうやら、このバンギラスはメスのようだ。あと、どこかで何度も会ったような、初めて会ったと思えない妙な違和感があった。
「もしかして、フリッカー兄ちゃん?」
「え!? 『兄ちゃん』!?」
 バンギラスが発した思わぬ言葉に、フリッカーは驚いた。
 このバンギラスこそ、五年前の戦いを経験した一人、フリッカーとアッシマーの妹、現在『ポロック・ポフィン・ポケまんまの店 サイサリス』の手伝いをしている、ルカ☆の姿だった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 僕……こと、はやとは、もう何度目かわからなくなる程の溜息をついて、夜空を見上げる。曇っていた。そんな空はあまり眺める気になれず、直ぐ視線を戻し……パソコンの画面をぼおっと眺めた。
 僕は今、暇な盛りの大学生だ。(二浪した以外は)何の変哲もない普通の大学生。だが、今から僕は平凡から非凡、いやそれ以上の何か……そう、今から異世界へ行くのだ。
「僕は……何を迷ってるんだろうな」
 今朝、アイツの家に行ってみると、アイツは居なかった。その代わりに布団の上にはアイツの携帯が。
 アイツは携帯を肩身放さず持ち歩くタイプなのにおかしいなと思い、携帯の画面を開いて、一つの噂話が頭によぎった。
「dreammaker.exeを起動しますか?」
 先程から、パソコンの画面中央にそう表示されている。僕の操作するカーソルが、「はい」と「いいえ」の間を迷った様に行き来する。実際は「迷った様に」ではなく「迷っている」のだが。クリックするには……どうも勇気が出ない。何てダメなヤツだ、僕は。
 もし噂がデマだったとしたら、アイツはそこには行っていない、そのうちに帰ってくるを待つとしよう。
 仮に、噂が本当だとしても……アイツを見付けられる保障は無いし、自分の命の保障すら無い。
 噂って何かって? それは……ポケモンの世界「DreamMaker」の存在の事さ。その世界はネット上の何処かにある、摩訶不思議空間。その世界に行けば、人はポケモンになれる……そんな話だ。
 こんな空想物語じみた話、普段の僕なら絶対に信じない事だろう。だが僕は信じていた……何かに突き動かされているような気もしていた。もしアイツがそこにいるならば、僕もそこに行って見たい! 何時までも迷っている訳には行かない。僕は腹を決めた。
「くっ……行け!」
 僕は意を決して「はい」をクリックした。
「……ん?」
 だが、何も起こらない。やはりデマだったのだろうか。そうだ、そうに違いない。こんな話を信じた僕が……、
「わ……わわっ!?」
 その時、突然パソコンの画面が光りだす! 僕は面食らって、かなりの阿保面をしてしまった。
 僕の視界はそのまま光で一杯になり……意識が薄くなっていく………
 上手くいった。噂は本当だったんだ!
「(……待ってろよ……!)」
 薄れ行く意識の中、僕は必ずアイツを会う事を誓った…………。

  *  *  *  *  *

「ぅ……ぅうん」
 今まで夢心地であやふやだった五感が、少しずつ正常になってくる。僕は、ゆっくりと目を開く。ここは……海辺だ。
「遂に……来れたんだ」
 僕は自分の足……そう、四つの足で歩き、海を覗き込んだ。そこには……やたらキリッとした表情をしたナエトルが映っている。僕がニヤリと笑うと、ソイツも同様にニヤリと笑った。
「さて……行くか!」
 僕は大地を蹴って駆け出した。行く当ては無いが「まず行動。行動をしなければ何も解決しはしない」のアイツの持論に(悔しいが)従う事にする。
 空には燦然と輝く太陽。その照り付ける陽射しは人間だった僕には厳しかっただろうが、ナエトルの僕には心地良い。
「待ってろよ、あきお!」
 僕はアイツの名前叫ぶと、一気に速度を上げた。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 何処とも知れない、薄暗い部屋。
 その部屋はむせ返るほどの甘ったるい蜜の香りに溢れ、感覚をいくつか麻痺させかねないほどだった。

「ぁ、うっ……   ぅ……」
「ほほほ… 好い顔で苦しんでくれる。そうでなければ、張り合いが無いというものじゃ……」

 そこはアナスタシアの私的な、拷問部屋。
 先の戦闘で捕縛されたクラヴィスはそこに囚われ、アナスタシアに一方的になぶられていた。
 ……クラヴィスは拘束され、動けない。
 ドロドロの蜜で塗り固められ、まるで壁に埋め込まれたかのように……頭と身体の一部だけが出ている状態だ。
 部屋に充満する甘い香りの原因は、主にコレだ。
 もちろん、クラヴィスをそんな風に塗り固めたのはアナスタシア(の部下のミツハニー達)だ。
「……わらわとて鬼ではない。 そなた次第では、今後の扱いを考えてやってもよいと言っているのじゃぞ?」
 言いながらアナスタシアは、辛うじて自由なクラヴィスの頭を掴んで顔を自分に向けさせる。
「っ…… 私……」
「“ドリームメイカーズ”の現在の詳細な構成、所在、戦力、士気……それをそなたの口から聞きたいだけじゃ。 話せば楽になると言うのに……」
「そ、んな……  だから、私は知らな」
「戯け(たわけ)者がっ!!!」
「ぁぐ!   ぅっ……!」
 アナスタシアが身動きの出来ないクラヴィスの顔に[れんぞくぎり]で斬りつける。
 もちろん、かわす事も防ぐ事もクラヴィスには出来るはずもない。
「わらわがそなたの口から聞きたいのは質問の答えと、苦しみ喘ぐ声だけじゃ。 それ以外は無用、と言ったじゃろう?」
 アナスタシアが含むように微笑む。 明らかに、傷つけて愉しんでいる表情だ。
「ぅぅ……っ   なん、で……私が……」
「……何故、じゃと?」
 クラヴィスの呟きに、アナスタシアの表情が一瞬凍りつく。
「わらわの身体に!! 醜い刃傷を付けた事!! よもや忘れておるまいな!!」
「……!!  ……っ!!」
 再び何度も斬りつけるアナスタシア。
 今度のクラヴィスの叫びは、声にならなかった。

  *  *  *  *  *

“……あの女王蜂、またなにやら拾ってきたみてえじゃねぇか”
“ええ。 いつもの事ですし、それに、彼女の趣味だもの”
“ハッ。 いたぶって血飛沫見て喘ぎ聞いて…… 大層な趣味だな、全く”
“え? 血? 血が出るの?それ飲める?”
“あー、止めとけ止めとけ。 あの女王蜂、邪魔すると後が面倒なんだよ”
“ふふ…… 残念だったわね”
“……にしても、あの小娘も気の毒なモンだな”
“あら? 柄にもなく人の心配かしら?”
“らしくなーい。 あ"ひゃぁははぁ”
“うるせぇ! 違うっての! 俺様が言ってんのはだな、あの小娘……何も知らねぇんだろ?”
“そうね。  有益な情報は何一つ持ってないだろう事は……予測が付いてるわ”
“けど、あの女王蜂はわかってても吐くまで'続けるんだろうな。 ……ったく、悪趣味なこった”

  *  *  *  *  *

「……少々、むきに成り過ぎたようじゃな」
 再び意識を手放してしまったクラヴィスを前に、アナスタシアが溜息混じりに呟く。
「誰ぞ。 誰ぞ居るか」
「はっ、こちらに」
 アナスタシアが言うと、すぐさまミツハニー(♀)が何処からか一匹寄って来る。
「わらわは疲れた故、アレはそなたらに任せる。 ……好きにしてよいぞ」
「承知いたしました、アナスタシア様」

 無数の羽音が背後に群がるのを聞きつつ、アナスタシアはその“拷問部屋”を後にした。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ああ、温かい。
 夢とも現(うつつ)ともつかぬ、ぼんやりとした意識の中で、若菜はそう感じていた。
 こんな温かさ、しばらく忘れていたようにも思える。
 ずっと、驚きと忙しいこと続きだったから……。
 閉じてしまった扉。帰れない恐怖と、冒険への期待。ようやく出会えた仲間。友達。そしてバトル――。
「(……バトル?)」
 そういえば、自分は戦っていた。そう、あいつと――。

「レツナさんっ!?」
 叫んで、若菜は飛び起きた。
 途端に、体中に痛みが走り、へたりこんでしまう。効果抜群の炎技を受けたダメージが、まだ残っているのだ。
 若菜は辺りを見回した。自分は気を失っていたのだ。あの後、どうなった? 黒琉は、ラクは、そしてレツナは――。
「若菜、大丈夫?」
 目の前に、レツナがいた。その瞳は、しっかりと若菜を捕らえている。
 ――強力な『あやしいひかり』による催眠状態が、解けていた。
「も、もう大丈夫なの!?」
 大声を出すと傷に響いて痛いのだが、構ってなどいられない。
 若菜の様子に、レツナはくすっと笑った。
 どうやら、先程温かいと感じたのは、レツナが側にいたからであるらしい。ブースターは、最高900℃の熱をその身体に帯びることが出来るという、とにかく身体に熱を溜め込みやすい種族だ。その為に、熱を外に放出することで、上がりすぎた体温を下げる機能が身体に備わっている。つまり、常に熱の篭(こも)った空気を外界に向けて発しているようなものなのだ。側にいて温かいと感じるのは、当然のことだろう。
 逆に言えば、自分のそんな体質を知っていて、レツナは若菜の側にいてくれた――。
 段々思考が落ち着いてくると、もう少し辺りを見回す余裕が出てきた。
 レツナを挟んで若菜と反対側に、ラクと黒琉がいる。2人はまだ眠っているようだ。若菜達が少しでも早く回復するように、こうして一箇所に集めて、温めていてくれたのだ。
「(最初はとっつきにくい人だと思ったけど……)」
「ありがと、レツナさん」
 そう言うと、レツナは何故だか目を伏せた。
「……?」
「…………ごめんなさい」
 レツナの謝罪の理由が分からずに若菜は首を傾げるが、ああ、とすぐに思い至った。
 きっと、あのことを言っているのだ。若菜達を、攻撃してしまったこと。
 けれどあれは不可抗力なのだ、レツナは何も悪くない。悪いのは、レツナに『あやしいひかり』をかけ、仲間同士で攻撃するよう仕向けたあいつ――。
 思い出しているうちに、怒りがこみ上げてきた。
 あいつが全ての元凶なのだ。ただ襲ってくるならまだしも、レツナを操って若菜達を攻撃させた。そのせいでレツナはいわれのない罪悪感を背負う羽目になり、ラクと黒琉はまだ目を覚まさない。
 とにかく今は、レツナを励まさなければならない。それは解っているのだけれど、そう思う気持ちよりも、レツナを利用されたことへの怒りの方が格段に勝っていた。
「冗っ談じゃないっ!」
 突然叫んだ若菜に、レツナはびっくりする。
 体中痛くて堪らなかったが、それでも叫ばずにはいられなかった。
「何でレツナさんが謝るの!? 悪いのはあの九音とかいうロコンでしょ!? 私の仲間を利用して、私の仲間を傷つけて! 私だって今も痛くてたまんないわよっ! 最悪よあいつ、今度会ったら絶っ対に許さないんだから!!」
 レツナは目を点にして、ものすごい剣幕の若菜の言葉を聞いていた。
 言い終わって一息ついてから、若菜は再び崩れ落ちる。
「い、痛い……」
「大丈夫? 『こうごうせい』とかで回復しといた方が――」
「うん、そうする……」
 少し歩いて日当たりのいいところに出てから、若菜は『こうごうせい』を発動する。
 身体に付いた傷が、少しずつだが着実に癒えていく様子が、レツナからもよく見えた。
 ある程度回復してから、若菜はレツナを振り返る。
「うん、だいぶマシになった。――どうしよう、回復系の木の実とか探しに行ったほうがいいかな?」
 先程『こうごうせい』を『スケッチ』した黒琉はともかく、ラクは自分の傷を自分で癒す術(すべ)を持たない。今のうちに木の実を探してきて、目が覚め次第与えてやるのがいいだろう。
 レツナは頷いて、頷いた姿勢のまま顔を下に向けて動きを止めた。
 小さく、呟く。
「……ありがと、若菜……」
 俯いていてよく見えないけれど、その顔は何だか嬉しそうに笑っていた。若菜には、そう思えた。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

[561] 小説 《Dream Makers U》 第四章 (2)
あきはばら博士 - 2008年05月31日 (土) 21時54分

   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ただいまぁ〜」
 返事は無い。
 両親はつい先日に旅行へと行っている。
 加えて明日からは冬休み。一人っ子の紀乃はしばらく一人暮らしを強いられているのだ。
 まぁ、普段から親は夜遅くまで仕事で帰ってはこず、家事全般を任されていたため家事については困ることは無いのだが……。
「のびのび出来ると思ってたのに……なんか寂しいなぁ……」
 やはり一人は心に響くものがある。そんな気を紛らわせようと、紀乃はパソコンの前に座った。
 開くページは「ポケ書」の掲示板。荒らしもおらず、常連みんなが喋りやすいので何かあると必ず覗く。
 いつも通り、お気に入り欄から「ポケ書」をクリックした。
 いつもならエリカのトップ絵が迎えてくれるのだが、この時は違った。
 英語だろうか……、文字列が並んだページが表示された。
 紀乃はクリックし間違えたのだろうか、と思い、ブラウザバックを押そうとしたが、見覚えあるワードを見つけて手を止めた。
 50行近い英文の中に「pokesho」という単語がいくつも使われている。
 英語は得意でない紀乃はさらさらと読み流して最後の行へと目を通した。
 最後の行にはただの一単語、「dreammaker.exe」の文字。
 文中にpokeshoと書かれていることから、クリックの押し間違いではない。
 きっと、新しく必要になるアプリなのだと思い、クリックしてしまった。その軽い勘違いが後に大事件を起こしてしまうとも知らずに……。

 クリックして数秒……突然画面が大きく光りだした。
 そのまぶしさに思わず目を瞑る。
 とたん、全身が奇妙な感覚に囚われた。
 イスに座ってたはずなのに、その感覚が無い……
窓は閉じていたはずなのに、髪の毛がなびいている……
 極めつけは、その腰が浮く、恐ろしい感覚……

  *  *  *  *  *

 恐怖を感じながらも、目を開ける。自分のカンが嘘でありますようにと願いながら……。
「っ……きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」
 恐らく、上空1000m、はあるだろう、からの自由落下。
 風が下から吹き抜ける。
 落下の慣れない恐怖から思わず両手両足をバタつかせる。
 すると両腕を引っ張られるような痛みが襲うのと同時に、落下の感覚が和らいだ。
 不思議に思いながら、痛みにしびれる自らの腕を見た。……自分の腕がない?!
 そこに変わりに存在しているものは大きな、ホントに大きな翼だった。
「え……え、あ……わ、私、飛んでる?!」
 今、自分に起きている事態に混乱を覚えながらも、同時に、滅多に味わえない飛空の感覚に感動する紀乃。
 何故か翼の動かし方は感覚的によく分かる。初めての飛空とは思えないほどまでにスムーズに飛べている。
 これなら、墜落することは避けられた、と楽観する紀乃。

 少し落着いてきたので辺りを見下ろすと、森、草原、山……、紀乃が住んでいる横浜とは全く違った景観だった。
 都会に見られるような建物は何一つ無い。変わりに小さな家々が点在する程度だった。
 飛空に疲れ、また、最初の吃驚仰天劇でのども乾いたので、近くの清流へと降り立った。
 始めて気付くが、足が人の足ではない……それは見紛うこともない、鳥の足だった。
 しかし、今は驚いている暇は無い。のどの表と裏が引っ付きそうな感覚に我慢が出来ない。
 紀乃は頭から突っ込んで水をがぶ飲みした。
「ぷっは〜……生き返る〜♪」
 驚きと感動に興奮して熱くなった頭には、冷たい水が気持ち良い。
 そこで初めて水に写った自分の顔を見た。
「!!??」
 その姿は見た事がある……ゲームでは必ずパーティーに入れるほどお気に入りのポケモン、「ピジョット」だった。
 この現実は俄かには信じられない。

 しかし、自分の顔を右に向ければ、水面の向こうのピジョットも右を向く。
 そして、両の腕を大きく広げれば、水面の向こうのピジョットも翼をを広げる。
 さらに、信じられないと頭を振れば、水面の向こうのピジョットも頭を振る。
 訳の分からない事続きで混乱している紀乃の眼に、不意に水面に反射した陽の光が目に入った。
 まぶしさに再び目を瞑る。が、ここで違和感を覚える。
 さっき清流に頭を突っ込んだときに水底に自分の影が出来ていた。
 なんでその時に自分の影に違和感を覚えなかったのかは別として、前方に影が出来ているということは、太陽は自分の背から照っているはずだ。
 なのに、今眼に入ってきたのは前方から射してきた光……。
 眩しさに眼を細めながら顔を上げる。
 太陽よりも大きな光円……しかも、見間違い出なければそのもう一つの太陽がどんどん小さくなってきている。
 その光円が、太陽と同じ位の大きさになったとき、突然

  ガチャン!

 と鍵が閉まるような音がして、もう一つの太陽は一筋の光も残さずに消えた。
 その音が聞こえたのは一瞬だったのにも関わらず、虚しさを残してまだ紀乃の耳に響いていた……。
 その虚空感に不安を感じながらも、まずはとりあえず上空から偶然見えた茶色と黄色っぽい影……。 イーブイとヒトデマンらしき影を目指して紀乃は翼を羽ばたかせた。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「いやー それでさ、遂に、とうとうヤフオクでOS無しの新しいノーパソをゲットしたんですよ。中古三万のノーパソが、様々な苦労を乗り越え、XPのインストールに成功! そして、その性能が! ヤバすぎる! メモリとかCPUとか最高でさ、うん。もう3Dアクションゲーでもしない限りコイツの限界感じられないね的な…………つーか、レニーさん? 聞いているのですか?」
「…………ねむい」
「Σ( ̄□ ̄;)」
 サイサリスから旅立ったあきおは暗い空気に耐え切れず、取りあえず話で盛り上げないと考えて、必死に話していたのだが、マイペースすぎるレニーはまるで取り合わず、うとうととしていた。昨日の昼に散々寝ていたレニーは、サイサリスで夜通し起きていたツケがここに来ていたようだった。
 あきおは小さくため息をついて、ふと進行方向に目を向けた。

「お初にお目にかかる」

 と、その瞬間、一体のポケモンがあきお達に向けて話し掛けてきた。
 ――種族はムクホーク。
 すらりと長い長身に、鋭い目付き、滑らかな翼に、鍛錬を重ね引き締まった体をさらけ出している。
「俺の名は、ラヒト。手合わせ願いたい」
「(こいつ…… 強いな……)」
 あきおは瞬時にラヒトと名乗るムクホークの気迫を感じた。武術を嗜む者としての勘だろう。
 あきおはすぐに返事を返す。
「タイマン勝負……ですかな」
「いや、二対一でも構わないが。良ければお前達も名乗ってくれ」
「了解、俺の名前はあきお。で、こっちのイーブイはレニーだ」
「……って、なんでわい達の名前も名乗るんや」
「む、レニーさんは聞いてなかったんすね」
 『バトル』というものが日常に含まれているこの世界では、道端で勝負を挑まれることもある、人間世界でいうスポーツのような感覚で、戦う前にお互いに名前を名乗り合うことが礼儀であるとか、いろいろな決まりも存在する。当然ながら力に物を言わせて従わせたり誘拐したりしてはいけないが、バトルという文化がある以上なかなかそういった**(確認後掲載)が無くならないのが実情らしい……。
「……まあ、ポケモン世界だけに『目が合ったらポケモンバトル! 売られた喧嘩は買え!』つーわけ」
 あきおはそのような、この世界のバトルについてのこと……と言うよりPQRから教えてもらったことをほとんどそのまま、レニーに伝えた。
「ほお、燃えてきたなぁぁぁ!!」
 レニーはさっきの低テンションから一転して、ヤル気モードに突入していた。単純な性格だった。
「では、始めようか、 行くぞ!」
 ラヒトの号令に合わせて、あきおは手に持った木刀を握り直す。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「九音。ここにいたのか?」
 戦闘があった場所から少し離れた、木立の間。
 聞き覚えのある声に振り返ると、1匹のラルトスがそこにいた。
 両の腕を組み、こちらを見据えている。
 いや、正確には――ラルトスの瞳は見えないが、顔をこちらに向けている為、『見据えている』のだと推測される。
「――聖」
 ほとんど聞き取れないほど小さな声で、九音は彼の名を呟いた。こちらから彼に歩み寄りたかったのだが、全身の痛みが、それを許さなかった。
 聖と呼ばれたラルトスは、九音の様子に気付いたのだろう。1歩だけ、彼女に近づく。
「何をしているんだ。――敵は?」
 彼の言葉に含まれる『感情』というものは、大体において感じられないか、感じられたとしても非常に希薄だ。『ラルトス』という種族の都合上、顔が隠れて見えないということが、それに拍車をかけていた。
 隠された彼の瞳は、いつもどんな色をしていて、どんなものを見ていて、どんな表情を映しているのだろう。
 聖と話すたび、九音は頭の片隅で、そんなことを考える。
 ――勿論、口に出して問うたりはしない。それが不必要な疑問であることは、分かっているのだから。
「……体力が回復したら、すぐにまた追いかける」
「つまり――倒し損ねたのか」
 そう言われると、返事の仕様がない。九音は言い訳するでもなく、激昂するでもなく、ただ落ち着いた表情で聖を見ていた。
 先程の戦いで見せたような気迫も、勢いも――およそ「強さ」に関連するようなものは、全て鳴りを潜めている。
「……聖は、どうしてここに?」
 ふと思いついた疑問を、口に出す。これは、尋ねてもいいことだ。九音にとって、必要な問い。
 ――返答如何(いかん)によっては、釘を刺しておかねばならないから。
 彼女達は、九音の獲物だと。
 そんな彼女の考えを見透かしたように、聖は軽く嘆息する。
「安心しろ。お前の獲物を横取りしようとは思っていない」
 私は、別の奴らを倒しに来たのだ。
 そう付け足して、聖は九音から目を逸らした。
「恐らく、そう遠くには行っていないはずだ。――私自身の為に、ゼロ様の為に、始末しに行かねばな」
「――そう」
 九音もまた、聖から目を逸らす。もう用はないことを、暗に示すようにして。
 聖は九音に背を向ける前に、手を上に伸ばした。手の先から、鋭い光が一瞬だけ発せられる。
 九音が瞬きをする前で、木の上から『オボンのみ』が4個、5個と落ちてきた。
 ――――『サイコキネシス』。エスパータイプである聖の得意技だ。
 彼女が何か言う前に、聖は『テレポート』で姿を消していた。





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「連刀――」
「ぬ」
「――真長!」
「うぉぅぁぁぁぁ……!」
 ラヒトの三連撃を受けて、あきおは崩れ落ちる。
 格が違う……!
 とあきおは思った。勝負する前はまぁ二人掛かりならなんとかなるだろうと楽観していたが、これはヤバイ。
 幸いにも昨日の不良ポッポとの勝負みたいな喧嘩ではなく、これは練習試合に近い物だと思うのでここで負けを認めれば戦いは終わるのだが、問題は……
「まだまだまだまだぁぁぁぁ!!!!」
 死ぬ気のオーラを発しているレニーが、負けを絶対に認めないことだった。
 アドレナリンを体中に巡らせる戦い方は、有効な手ではあるが、この場合はどう考えても愚策。このままではどうなっても、レニーは本当に死ぬまで戦いを止めようとしないだろう。
「くぉんのぉぉ!! よくもやりおったなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 レニーは、ラヒトに向けて[アイアンテール]で突っ込んでいった。
「うおおおおおおおっっっ!!!」
「フッ」
 対してラヒトは軽く咳払いをして[はがねのつばさ]を交差に構える。
「双刀・元重――」

「――鋏!」
「レニーさんっっ!!!」

 レニーとラヒトがぶつかり合う、その瞬間。
 突然辺りが明るくなり、光と共に地面が盛り上がり、二人を弾き飛ばした、この技は――[ひみつのちから]。
「Stop to persecute!(いじめは良くないよ)一方的な勝負じゃないの」
 その声がした方向を見ると、一匹のチェリムがいた。
「お前……、名をなんと言う?」
 すぐに立ち上がったラヒトはそのチェリムに問いかける。ちなみに一方のレニーは目を回してダウンしていた。
「名前? チサノって言うんだ、よろしくねっ!」





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「シャワーズさん」
「……!? 誰?」
 メイルは突然後ろから話し掛けてきた声に驚いた。振り返ってみればすらりと気品高く直立したサーナイトが、声と姿から、♀であることが推測できる。
「はじめましてこんにちは、私(わたくし)の名前はフィーレンと申します。 どうぞ、よろしくお願いしますわ」
 彼女は澄み切った声で歌うようにメイルに挨拶をする。
「よ、よろしくおねがいします」
 戸惑いながらも、された挨拶を返す。
「突然ですが、貴女の名前は?」
「え? メイルですが……」
「ありがとうございます。 では、早速ですがメイルさん、私とお手合わせ願えますか?」
 ニコッと笑って、フィーレンはそう言った。

  *  *  *  *  *

 それと、ほぼ同じ時刻。

 目の前には、無邪気に微笑む悪魔の姿。
「な、……なんだよ、いきなり……」
 ニヤリ、と悪魔が……ゴーストが笑ったのが分かる。

 クラウドはさきほど起こった突然の出来事を把握しきれず、まだ混乱していた。
 輝とメイルと、あと自分の三人でサイサリスを出発してしばらくしたところで、突然めまいが襲って世界が反転。
 気がついたら、さっきまでそばにいた二人の姿は影も形もなく、代わりにすぐ前にいたのは軍隊で使うような殺傷ナイフを持つゴースト。
 そのゴーストはひっくりかえったような笑い声と共に襲い掛かってきたのだ。
 さきほど、なんとか相手のナイフを[はたきおとす]ことに成功したのだが……。
 瞬間、彼はガス状になっている自分の手の中からナイフを取り出し、グルンとそれを一回転させて握り直した。
 如何やら、無駄だった様だな。
「……これは、もう実力行使で、相手を倒すしかないない……ってことか……」
 突然バトルを仕掛けられることがあることは、輝の話から聞いてはいるが、今その覚悟があるといえば微妙だ。しかし、やるしかない。クラウドは木の実名人から貰った『リュガの実』を確認した。
「僕を倒せるの?」
 彼――ゴーストのサイコは言う。
「やってみなければ分からない」
 行くぞと一声かけた瞬間、彼は心底楽しそうな笑顔を浮かべた。
 彼は戦いを、いや、”殺し合い”を楽しんでいるのだ。
 幼そうな顔つきに似合わない性格、クラウドはぞっとした。
「君の鮮血浴びさせてよ!!」
 ビュッと風を切って、クラウドに向かいナイフが振り下ろされた。
 太刀筋が甘い、型も何も無い所を見ると、如何やらナイフが得意な訳ではなさそうだったが、そんなことクラウドには分からない。
「…………!」
 とにかく、そのナイフを避けると、ザクッと音を立て、ナイフは地面に突き刺さる。
「あっ」
 しまったという風に、サイコは後ろを振りかえった、クラウドはその瞬間に既に後ろに回り込んで[だましうち]を叩き込んだ。
 ここは一気に勝負を決めたい、すぐに次の技を繰り出す準備を整える。
 [だめおし]、効果は抜群のタイプ相性なので、相手に与えるダメージも相当な物だろう。
 クラウドは渾身の力で技をサイコに叩き込んだ。
「ぐっ ぁっ!!」
 ドシャァアアッと音を立てて、彼は地面に叩きつけられた。
「…………痛い……」
 それはそうだ。
 ガスがゴーストの形を少しずつ保てなくなっているらしく、紫色の煙のようなものが彼の体からは立ち上っていた。
「(と、とにかく、早くこの場から離れないと……!)」
「痛い……」
「? ……様子が……」
 様子がおかしい……?
「痛い……痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!  あ”あ”ぁははああぁひゃああ”はっっ!!!! お兄さんの事許さないよ、絶対に飲ませて貰うから!!!」
「(飲ませる? 何を?  まさか…………血を?)」
 クラウドの顔の血の気がひいた。
「…………狂ってる……!」
「あはははひゃぁあ”あ”あ”あ”はははっっ!!!」
 先程よりも無茶苦茶なナイフの太刀筋は、クラウドの読みを狂わせる。
 相手はまるでさきほどまでに受けた技の数々のダメージなど無いかのような元気の有り様だった、形勢逆転されたのかもしれない。
 サイコのナイフは致命傷にならないまでも、体を少しずつ傷付け、赤い線を残して行く。
「うっ くっ……!」
 クラウドはとにかく、相手の攻撃を受けないようにと[影分身]を作り出す。
 相手の攻撃が空振りしたことを確認して、こちらの体勢を立て直す。バッと距離を取って、更に[影分身]を積み、相手を見据える。
 その時、脇腹に何かが刺さった感触が走った。
「あっ……! そ、こ、かぁ〜〜……!」
 相手に必ず当たる技……[シャドーパンチ] + ナイフinハンド
 クラウドの体から赤い血液がドロドロと流れ出る。
「鮮血飲ませてね!!!!」





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アルズは刃に向けて言う。
「それにしても、こうして初代二人で並んで歩いていると、何か欠けているような、残念な気持ちになりますよね」
「ああ、確かに、ゼニガメとフシギダネと来れば、ヒトカゲが居ないとどこかバランスが悪く感じてしまいますよね」
「そういえば、サイサリスのアッシマーさんの娘さんがヒトカゲでしたよね。確か、エルジアさんって言いましたっけ?」
「そう、エルジアさん。親子で種族が違うなぁと思ったら里親で養子だそうですよ」
「へぇ〜 養子ですか……  刃さんはエルジアさんとお話しされたのですか?」
「いえ、これはラクというエアームドさんから聞いた話なので……。 僕はエルジアさんとお話しはしていません、なんと言うか…… なんかすごく話辛い雰囲気を持っているのですよね、孤高の人って感じで」
「ふむ、実は、蜥蜴星座の聖闘士みたいなすごい人かもしれませんよ」
「いや! 海辺で長髪をなびかせながら朝日をバックに2ページの見開きいっぱい使ってオールヌードで『神よ、私は美しい』発言を少年誌上でやらかした《男》といっしょにさせないでください! 失礼ですよ、というか貴女はいつの人間ですか!?」
「すげぇ、まさか分かるとは思わなかった……。 でも、カスミだと言えば大丈夫ですよね?」
「英語版なら同じ名前だからといっても、全然大丈夫じゃないですよ!」
「まあともかく、個人的にアレは『おいろけ・男同士の術』以来の名シーンだと思いますね」
「時系列が逆ですよ」
「『あらしのよるに』は最高のBL作品だと思いませんか?」
「話の脈絡がよく分かりません。確かに男同士で、抱き合ったり、たべてしまいたいとか、駆け落ちするとか、暗く狭い穴で一夜を明かすとか、そういうシーンはありますが、あの作品をそんな目で見ないでください。あれは童話なのです」
「それにしても、刃さんは詳しいですよね、やっぱりそっち方面の趣味がおありでしょうか?」
「ありません」
「あれ? じゃあ、こうしてプッチプチのギャルが目の前に居ると言うのに、何故刃さんは興味を示さないのですか?」
「ギャルという単語を久しぶりに聞きました。 というか…………プッチプチって、その擬態語は一体……」
「可愛いでしょう? プッチー♪ みたいなっ!」
「金銀のプテラのニックネームですか」
「そこの二人っ!!」
「っ?!」
「うわ!」
二人が非常に仲の良い会話をしているところで、一匹にクチートの青年の声によって話は中断された。
「な、なんですかっ! 突然出てきて、びっくりしましたよ」
アルズの言葉に、彼は小声で呟く。
「…… ずっといたんだけど……  気付いてくれなくて……」
とにかく、と彼は咳払いをして、
「う、うちはジェノサイdく……!」
「(Σ 舌噛んだっ!)」
「(Σ 舌噛んだっ?)」
セリフの途中で舌を噛んだ。
「落ち着いてください、ゆっくり喋って下さい」
刃はその彼のことを心配して、なだめた。
「すまない ……うちは、ジェノサイドクルセイダーズのラヒトの舎弟……、名をマツと言う……」
「マツさん、ですね」
「……貴方達は、人間世界からやってきたのだな?」
「はい、確かに僕達は人間世界からやってきましたが」
「ジェノサイドクルセイダーズ……のリーダーの命により。 貴方達を始末……する」
「なるほど、僕達は始末されると。       って、えぇ?」





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「がはっ! はぁはぁ……」
 メイルは地面に仰向けの状態で、肩で息をしていた。受けたダメージと疲労で、立ち上がる体力も使い果たしていた。
「さてと」
 フィーレンは言う。
「では、メイルさん、失礼ながら。とどめを刺させてもらいますわ」
 メイルには言い返す力も残っていない。
 怒りで暴走状態になっていたところをフィーレンにあしらわれしまい自滅してしまったことが、メイルの敗因だった。
 その証拠にフィーレンはほとんど息が上がってなく、完全に主導権はフィーレンの物になっていた。
「フィレ姉さ〜〜ん!!!」
 遠くからやんちゃそうな男の子の声が聞こえくる。
 眼をわずかに開けると、全身が紅く染まったゴーストがいた。
「あら、サイコ……そっちは終わったの?」
「うん!」
「(終わった? 何が?)」
「で、これは…… 僕が飲んでいいの?」
「ええ、結構よ、好きにしていいわよ」
「(飲む? って?)」
 そう言い残して、フィーレンはそこから去る。
「(ああ…… 死ぬっていうことは……)」
「やったぁ! いただきま〜〜〜す!!」
 メイルは最後の意識でこう思った。

 ――こんなに嫌なことなんだね。


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 そこからちょっと歩いた場所に、一人のラルトスがいた。
「こんにちは、聖さん」
 メイルとの戦いを終えたフィーレンはそのラルトス、聖に挨拶をした。
「……終わったのか?」
「ええ、終わりましたわ。 ……ただ、そんなこと報告するまでもないことだと思いますわね」
 聖がいるこの場所は、先ほどのメイルとクラウドの戦いの両方が良く見えるところだった。実際に自分の目で確認しないと納得できないタチらしい。
「一応だ」
 聖は短く返事をする。
「貴方の依頼では、あのラルトスさんがいるチームを分断させて、シャワーズさんとブラッキーさんを始末するという依頼でしたわね」
「ああ」
「ただ、その次のことには勝手ながら反対いたしますわ…… さすがに相手は女の子ですし、やりすぎと思います」
「そこは貴女方には頼んでいない、それは俺がやるから、貴女方には関係ない話だ」
 そう言って、聖はフィーレンに何かを手渡す。
「いえ、重ねて言いますが報酬は結構ですわ。 サイコには良いストレス解消になっただろうし、私としても暇つぶしになりましたし、それだけで十分」
「いいから、貰って置け。 ここで受け取ってもらえないと俺の主義に反する」
 聖のその眼を見て、フィーレンは「では」と言い、それを受け取る。


 フィーレンとサイコが帰ったことを確認した後、眠らせてある輝を見つめる。
  頼ろうとしていた者達が、眼が覚めたら凄惨な亡骸になっていたとすれば、彼女はどうなるのだろうか?
 と、考えながら。





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[562] 小説 《Dream Makers U》 第四章 (3)
あきはばら博士 - 2008年05月31日 (土) 22時31分

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「……お母さん? お母さん!? ……お母さんっっ!!!」
 メスフィは急いでアカリンの体を揺さぶる。しかし、返事はない。
 《モエる朱色》と呼ばれるアカリンと言えども、メスフィをかばいながら戦闘をすることには流石に無理があった。
 しかも、メスフィ持ち前の正義感から母親の助太刀をしようと戦おうとしていたのだから、なおさらである。
 アカリンの体には多数の切り傷が刻まれていた。
「起きてなのだ! お母さんっ!!」
「さてと…… 俺達は、あのブースターを持ち帰ればいいんっすね」
 頭に『気合いのハチマキ』を巻いたガラの悪いピカチュウが、冷めた眼をしたアブソルに話しかけた言葉にメスフィは反応した。
「お前達! お母さんをどうするつもりなのだっ!」
「……いや、あのイーブイも一緒だ」
 アブソルのキリトが、ピカチュウのリュウセイに言う。
「そうだったか?」
「お母さんを苛めるのは、私がゆるさないのだ!」
 メスフィはリュウセイに向けて[たいあたり]をする。
 リュウセイはそれに[かみなりパンチ]で対応をした。
 メスフィはそこで再び《朱転殺》を発動させる。これが成功さえすれば、倒すことができる……。
 しかし、
「だから、それは効かないって言ってんだろうがっ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
 何度目かの《朱転殺》はまたも失敗し、メスフィはリュウセイの[かみなりパンチ]の直撃を受けることになった。
「(な、なんで…… なんでなのだ、いつもは成功していたのに……おかしいのだ……)」
 メスフィは生まれながらにしてその技を習得しており、体で覚えて頭で理解していないから戸惑っているのだが。

 《朱転殺》の基本は居合いにある。
 摩擦係数μを持ち出すまでもなく、運動する物体よりも静止する物体の方が地面との摩擦力が高くなる、踏み出すその瞬間が最も地面に力を加えることが出来る点である。
 つまり、敵の攻撃を集中して見極め、ぎりぎりまで引き付けてから、自分の最大以上の力で押し返す。
 静止状態からの攻撃。速さでなく攻撃に重さを加える。
 メスフィはそんな《堪えての見切り》や《のろいからの居合い》の重要さを分かっていなかった、それが分かっていれば《朱転殺》が成功するかどうかは、相手の攻撃のタイミングに掛かっていることも容易にわかっただろう。

 つまり、リュウセイは両手で[かみなりパンチ]を作り、左右で殴るタイミングをずらすことで、《朱転殺》を防いでいたのだ。
 もちろん、何度も何度も使っていれば分かるはずだが、メスフィの練習嫌いがここにして災いしてしまった。
「……させないのだ」
「フン」
「きゃぁぁぁぁぁ……!!」
 アカリンの前に立ちふさがり、キリトの[きりさく]を[こらえる]メスフィ
「お……か、あさん……は渡さな、いの……だ……」
 もはや、体力の限界で、意識が朦朧としながらも必死に立ちふさがる。
「あんま、やりたくないんスけど…… とどめをさして眠らせてるべきっすよね……」
「気を失わせるだけにしろ」
「りょーかい」
 リュウセイがメスフィに最後の攻撃を仕掛けようとした、 次の瞬間!
 黄色い何者かが窓を突き破って、リュウセイに向かって突撃をしてきた。リュウセイは慌ててギリギリで回避したが、すぐさまその何者かにローリングソバットを受けて壁に叩きつけられた。
 キリトはすかさず[電光石火]を使ってきた何者かを角で受け止めたが、その何者かは体を反転させて[にどげり]繰り出し、キリトも同じように壁に叩きつけられた。
「助けに来たわ、メスフィ!」
 メスフィはその黄色い何者かをよく知っていた、こんなとんでもない人は知り合いの中に一人しかいない。彼女はブイズの《戦姫》とも称されるサンダースの……
「……リーディ、さん!」
 メスフィはその名前を呼んだ。
 そしてすぐに、メスフィの意識は闇に包まれた。





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「はっ!」
 メスフィはベットから起き上がった。
「あ、メスフィ、気がついた?」
 メスフィが横を振り返ると、心配そうな顔をしたリーディがいた。
「リーディさん……。 私は、大丈夫なのだ……。  っ! お、お母さんは!?」
「ああ、アカリンなら……大丈夫よ。 メスフィよりは怪我は深いけど、一日休めば回復すると思うわ」
「良かったのだ…………」
 メスフィは本当に嬉しいそうに安堵をもらす。
「ところで、あのピカチュウさんとアブソルさんは……どうなったのだ?」
「ああ彼らは――」
 リーディはそこで言葉を切る。
「――私が追い払ったわ」
 リーディとしては、そこで彼らを逃がさずに捕まえていろいろと吐かせたかった。しかし、倒れているアカリンとメスフィがいる以上、追い払うことが精一杯だった。
 正直、彼女は迂闊だったと反省している。
 こうして現れた敵――ジェノサイドクルセイダーズのトップが、あのゼロだと分かっていた以上。真っ先に守るべきだったのは、アカリンとメスフィであることにもっと早く気づくべきだった。
 5年前の戦いにおいて彼の野望を阻止した、彼がもっとも憎悪を持っているだろう二人。
 アカリンはその本人であり、メスフィはその二人の間に出来た子供なのだ。こうして表舞台に立ち上がった彼がまず復讐の標的にするのは彼女達であることは容易に想像がつく。
 多分、彼は何度でもアカリンとメスフィを狙い続けることだろう、そして命を奪うだけでも済まされないだろう。彼はただ殺すだけでは満足はしない、おそらくは……
 リーディがふとメスフィの顔を見ると、大粒の涙がメスフィの眼を濡らしていた。
「メ、メスフィ?!」
 慌てて、メスフィに問い尋ねる。
「メスフィ!? どうしたの?」
「リーディさん…………」
「大丈夫!? 傷が痛むの!?」
 メスフィは静かに首を横に振る。
「ううん、痛くないのだ……。ただ」
「ただ?」
「ただ…… すごく、嫌な気分なのだ」
「………………」
 メスフィはさらに大粒の涙を零しながら、言う。
「嫌なのだ、何でか知らないけど、嫌なのだ……。  何で、うまくいかないのだ……! いつもはできるのに……! …………私のせいで、私のせいでお母さんは……」
 ――悔しがっているのね。
 とリーディは分かった。
「ねぇ……メスフィ?」
「……ぅぅ…………」
「強く、なりたい?」
「…………なりたいのだ……」
「そう。 じゃあ、怪我が治ったら、走り込みするわよ」
「……やるのだ。  ……でも、お母さんは?」
「アカリンなら、ユーリに見て貰うよう頼んでおく、大丈夫よ」
 シャワーズのユーリ――ブイズの一員、つまりアカリンとリーディの同僚。アカリンとリーディの名前に隠れがちだが、一応彼女達と同じくらいの強さを持っている。
 本当は他の二人にも要請したいとリーディは思っていたが、忙しいらしく来られないらしい。
 いつものメスフィならば、こうしたリーディのトレーニングには必ず嫌がるはずだが、今回は固い決意を込めてやると言った。
「(やっぱり、血に争えないのかしらね……)」
 リーディとしても、メスフィを狙う刺客がいつ現れても大丈夫なように、早いところ強くさせたいと考えていた。
 メスフィはこの後、リーディと共に道無き道を走り込むことになるのだが、弱音を吐くようなことはしなかった。
 それは正しく、道無き道。ハクタイから唯一舗装された道の無い方向、ハクタイシティを真北に向けて突き進むと、そこはダイヤモンドダストが舞い降る雪道となっている。





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 時間と場所が多少変わることになるのだが、
 若菜達が帰れなくなった日から数日前、
 太陽の町、ナギサシティの一角に位置する家にて。
 そこで、ギャロップの光と、ブラッキーのルレンと、ライチュウの秋葉が話していた。
 ギャロップの小鷹光。 エアームドのラクの姉であり、ラクが探し求めているその本人であるが、この時はまだラクはこっちの世界には来ていなかったわけであり、そして迷い込んでいるわけでもなかった。
 光とラクの姉弟が再会するのはここから数日先のことになるのだが……それは後の話として。
「――――そんなことがあって、僕はブイズに入隊することになったんだけど。話は実はこれで終わらないんだ」
 ルレンはそこで少し笑って話を続ける。
「どうやらドリーフさんは、僕のことを♀だと思って採用したそうで」
「うわ……」
 光は苦笑いを浮かべた。
「そこで急遽、ブイズの入隊登録をすべて書き直したんだよな……」
「そうだったんですか」
「まあ、線も細かったし、僕としては特に何も思わなかったのだけど、お姉さんはすぐに変えてもらうよう殴り込みにいって…………うん、あの時は凄かったな」
「優しいお姉さんですね」
 秋葉の言葉にルレンは顔を赤くして少し照れた。
「……すみませんが、そろそろ本題に入りませんか?」
 光の言葉にルレンと秋葉が頷く
「うん」
「いいですよ」
「……では、 ゼロの居場所ですが、どこか心当たりは無いでしょうか?」
「それは分かっている、シンオウ地方のあの場所に決まっている」
「え?」
 予想外のルレンの強い断定による回答に光は一瞬戸惑った。
「かなり高い場所にあって、絶対に見つからずきちんとした安全が確保できる場所で、広い敷地がある場所はあの場所しか考えられない」
「高い場所……ですか?」
「ああ、僕はブイズとは別で危ない世界に通じたこともあったから、ゼロの性格は分かっている。彼はとにかく高い場所が好きなんだ。
 高い場所から下界を見下ろして、『ハハハ 見ろ、ゴミのような人だ』 と嘲笑うタイプだ」
「いかにも彼らしい台詞だ……」
 光はその言葉に苦笑いを浮かべる。
「ですね……」
 秋葉も頷いて小さく笑った。
「しかし……そこまで分かっていながら、何故行動を起こさないんですか?」
 光の質問に秋葉が答える。
「ただ、単にゼロとその仲間達を倒すだけであるならば、話は簡単なのです。それならばこちらも総力戦を仕掛けて野望を止めればいいのです。ただ、今回の場合はそうはいかないのです。今回、ゼロの一味《ジェノサイドクルセイダーズ》がやろうとしていることは、5年前の混乱の再演、もう一度世界を混沌の渦に巻き込んで、築き上げた平和を壊す。
 もしも、ここで《ドリームメイカー》が大きく出てしまうと、ゼロの復活は自然と人々の知ることとなって混乱に陥ってしまい、彼らの思うつぼです、それだけは避けたいものです。だから、なるべく住民達に戦いが起きていることが気づかれないように情報を操作しつつ、隠密に対処していかなければなりません」
「………………」
「もっとも、混乱が起きる暇さえ与えない間にゼロの一味を倒すことができれば良いのですが、そんな風に行くわけがありませんね。そんなわけで、どうしても後手後手に回ってしまうわけですが、こちらも仕掛けてくることを予測していろいろな対策を打ってありますので、安心して下さい。まあ、組織の体裁上、動くことができないだけで、私も個人的に動こうと思っていますが」
 秋葉の言葉に続いて、ルレンが問う。
「ゼロを追うことは本当に危険だけど。……それでも、光さんはゼロを追うのか?」
「ああ」
 光は強く言い切った。

「5年前の戦いで精神世界にワームホールを作り出し、精神世界を介して【破壊者:ビースト】を連れ込んで、この世界を滅茶苦茶にした張本人。
 あの戦いの真の黒幕であるゼロを、私は放っておくことは出来ない」


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 そこから、時間軸は若菜達が帰れなくなった日から一日前、つまり扉の閉まる前日、そこに場面は移る。

 ブレイドは一人、洞窟の内部を歩いていた。
 洞窟といっても、ここはテンガン山、しかも頂上に近い場所。
 充分な防寒対策をしていたと言っても、このロズレイドの身にはこたえる寒さだった。
 しかし、寒さなんて些細なことだった。
 この後に会う相手を思えば……。
 しばらく歩いていくと、洞窟の出口にたどりつく。
 この先はテンガン山の頂上、『やりのはしら』と呼ばれる聖地だ。
 この場所は微妙に時空が歪んでいるので、特定の道から入らない限りたどり着くことが出来ない。
 ブレイドの目に暫くぶりの強い光が差し込んで、やりのはしらの中央に座る一匹のドラゴンポケモンの姿が見えた。
「お前か」
 彼は言う。
「ええ、お久しぶりです」
 ブレイドは答える。
「何かあったのか?」
「準備が整いました。すぐにでも行動を起こせます」
「フッ、そうか。 まあ、そう堅くなるな、お前は俺の同志なのだから敬語など使う必要もない」
 その言葉にブレイドは小さく笑みを浮かべる。
 ――貴方は一度たりともボク達のことを同志とも味方とも思ったことは無いと言うのに
 と。
「ボクは目上の人には、敬語と決めていますから」
「なるほどな。 お前らしい」
 彼は軽く笑う。
「俺はお前を特に信頼しているぞ。なんたって人間世界からの付き合いだからな」
 さらに続ける。
「俺は他の奴を見捨てることがあろうとも、お前は最後まで信頼しているぞ。だからお前も黙って付いて来い、とびっきりの特等席に座らせてやる」
 その言葉にもブレイドはまた小さく笑みを浮かべる。
 ――よくもそんな真っ赤な嘘を、人間世界の貴方を知っているからこそ、一刻も早くボクに死んで欲しいと望んでいるというのに、
 ――それにあっちの世界での付き合いなんて微々たるもので、貴方のことを本当によく知ったのはこの世界に来てからと言うのに、
 と。
 しかしそれでも、それを知った上で、完全に理解した上で、ブレイドは彼に付いていこうと思っていた。
 ――こんな人生も面白い、こんな楽しいことは他に無い。
 ――例え、この瞬間に彼の爪が自分の胸元に刺さってもそれもまた余興だ。
 ――余興と言うより酔狂か?
 ブレイドはまた小さく笑った。
「……準備は完了したか。では、始めようか」
 そう言って、彼ははゆっくりと立ち上がる。
 その姿は時間の龍ではない、
 その姿は空間の龍でもない、
 それは、天空の龍……。

「宴の開始だ」
 レックウザのゼロだった。





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 PQRは、クルーザの[でんこうせっか]をギリギリでかわして、すかさず尻尾を振った。
「くそっ また、[しっぽをふる]かよ!」
「はぁ…… はぁ……  というか、まともに戦ったところで勝てそうも無いからですよ……」
 PQRは息を切らしていた、無慈悲に立て続けに繰り出される打撃の数々。
 そして、何より圧倒的な ――速さ。
「ふん、だからと言ってこんな姑息な手の連続で勝つとはずいぶんと恥ずかしいヤツだなっ!」
「!」
 クルーザが[いちゃもん]をつけた。
「気にいらねぇな! お前はついているものついているんだろ? 男だったらな、そんなチマチマしたことやってないで、ガンガン攻撃しろっ! この馬鹿イーブイ!」
「ば……か、イーブイ……」
 クルーザはさらに[ちょうはつ]を使った。
「フン……まあ、 そんな補助技チマチマ積んだところで、きっと俺様に瞬殺されておしまいだろうがな、 なんたって俺様は! 最!速! のクルーザ様! だ。 俺様に勝てるヤツなど、この世にいねぇ!!」
 最後にクルーザは[いばる]も使用した。
 PQRは全身から力がみなぎってくる感覚がした。そして、自分の頭の中が混乱してきて、自分が一体誰と戦っているのかさえも分からなくなってきていた。PQRは[でんこうせっか]をしたが、クルーザはそれを受け止める。
「そう、それでこそだ。 やっぱり…… 漢の戦いってもんは、こうでなきゃ、なぁ!!」
 クルーザはギュッと拳を握って、
「オラッ! オラッ!」
 PQRの頬を打つ、ワザでは無いので攻撃打点は少ないが、それでもダメージであることには変わらない。
「オラオラオラオラオラ!!!」
 クルーザの怒涛のオラオララッシュがPQRを襲う。
 PQRは自らの攻撃本能に引きづられるように、自らの意思と関係なく動く身体に任せてしまい、再び[でんこうせっか]を繰り出そうとするが、全くうまくいかない。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!」





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「君は平和とはどんなものかと思いますかぁ〜?」
 フワライドの、トトはそう尋ねてきた。
「例えばですねぇ、サエルくんの場合は『支配』と答えると思いますねぇ。強いものがすべてを支配することで弱い者同士の争いが無くなり世界に平和が訪れる、これは別に奇抜な考え方でもなくぅ、哲学者のホッブズの思想から来ているものですねぇ」
 彼はおっとりとした口調で、語尾を延ばしながら語る。
「ん〜 サイコくんの場合は『日常』と答えるかなぁ。ただし彼は戦争も『日常』と答えるでしょうねぇ、右手と左手は確かに違いますがぁ、どっちも手であることに変わりないからぁ、彼にとってその二つは一緒だと言うでしょうねぇ」
 ドーブルの、黒琉は何も言わずにその話を聞いていた。
「昔、ある反戦主義者の話を聞いたことがありましてぇ、聞いたあとに『貴方は戦争についてよく知っているのですねぇ、僕に戦争の良さを教えてください』と尋ねました。するとその人は『私は戦争の愚かさしか語れない』と答えましたぁ」
「………………」
「平和ではなく戦争をするということは、そこで戦争をしなければいけない必要性とすることで得られる何かが、戦争の愚かさとか平和の大切さを上回っているはずなのですよねぇ〜。
何かを決める時には一辺倒じゃなくてぇ、そのことの良さ悪さをきちんと吟味した上で、決めたいものですねぇ」
「………………」
「僕は争い事が嫌いで、自分では平和主義者だと思っているのですよぉ。だからこそ平和について考えたくてぇ、このジェノサイド・クルセイダーズに席を置いているわけですぅ」
「………………」
「ただ、僕は伊達ではあるにしてもジェノサイド・クルセイダーズの一員としてぇ、そしてフワライドとしての役目も果たさなければなりません〜」
「フワライドの、役目……?」
「はい、『魂をあの世に運ぶ』役目ですねぇ〜。今までもたくさんの魂を送ってきましたよぉ」
 黒琉はその瞬間、トトの眼の色が変わったかのように思えた。 怖い、怖い、怖い、と本能が言っている。
「重ねて言いますが僕は争いが嫌いですぅ。なので、僕の問いに答えられたら僕は貴方を見なかったことにしますぅ、つまり見逃すので次に行って下さいねぇ」
 あ、その時には襲って来た僕を倒して進んできたということにしておいて下さいねぇ〜 と彼は付け加えた。
「ではぁ、聞きます。君は平和とはどんなものかと思いますかぁ〜?」
「平和とは……」
「是非、教えてください〜」
「僕は……」
 黒琉は思う、この問いにはただ答えるだけではダメだろう、
「僕は…………」
 自分なりにちゃんとした回答を出さなければ、彼は僕を……
「……僕には …………わかりません」





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 人間世界でも、ハイテクな屋外練習場の中には、あらゆる環境に合わせて練習をするために、天井に人工降雨機が備わっており、雨を降らすことができる場所があると言うが、ここの世界でも同じような設備が比較的低コストで用意することができる。
 そんな、機械的にフィールド効果を作り出せる一室の部屋があった。
 現在の設定。 日本晴れの『ひざしがつよい』状態 と トリックルームの『空間が捩れた』状態。
 二つ同時の常時発動のスタジアム効果。
「抹殺! あるのみであるっ!!」
「なんだかなぁ…… I’m boring!(つまらないよ)」
 相手はブロウとチサノの二人、 迎え撃つアルズと刃は防戦一方だった。
 いや、そもそも防戦にすらなっていなかった。ただただ一方的に攻撃を受けるばかりだった。
「ブロウ〜! いっくよぉ〜♪」
「分かった、行くぞ!」
 チサノの[手助け]を受けた、ブロウの[ジャイロボール]が刃を襲う。
 チサノの特性:フラワーギフト『晴れているなら味方全員の攻撃と特防が上がる』
 チサノは後ろでサポート、ブロウは前で攻撃。
 ブロウは[てっぺき]を使用することで、上がらない『防御』をカバーして、特攻以外のすべてが上がったパラメータを盾に、絶え間なく攻撃を振り下ろしていく。
「Mimic! - Earthquake! ([ものまね]で[地震]!)」
 チナノも後ろでサポートにまわるだけでなく、積極的に攻撃を仕掛けてくる。ちなみに、ブロウの特性は『ふゆう』。
 一応、すべてにおいて刃達が劣っているというわけでもない。
 胸を張って言えることではないが、刃もアルズも足の遅さ、素早さの低さには自信があった。それゆえにこの捩れた空間内ならばブロウとチサノを超える素早さを発揮できているのだが、自分の速度に自分の思考がついていけてなかった、少し走っただけでも進み過ぎてしまう。
 そんなわけで、『トリックルーム』によって手に入れた速度を、相手の攻撃を避けることだけに使うことで精一杯な状態だった。
「そらぁっ!」
「ぎゃぁぁぁ――――!!」
 アルズがブロウの[かいりき]を受けて、地に伏せた。
「アルズさんっっ!」
 刃は急いで彼女のもとに駆け寄ると、アルズは息切れ切れになり、目が焦点を合わせていない。
 起き上がらせようとも、重力に委ねて崩れ落ちるばかりだった。
「(――ああ、そうだった)」
 刃は自分を恥じた。
「(戦いは、ダメって言っていたよな……)」
 彼女は、戦いは嫌いではなかったのだ、戦いができないのだ、嫌いとか気持ちの問題以前に性質的に不可能、それゆえに戦いから逃げ続け、自分に頼り続けていたのだ。
 だと言うのに、刃は彼女に共に戦うことを強要し続けていた。
 彼女は刃が助けて欲しいと言えばいつでも助けの手を差し伸べる優しい性格だ、例え彼女は戦いがダメであっても助けて欲しいと言われれば、共に戦いに参加してしまう。
 刃は、そんな彼女の優しさに甘え続けていた。その結果がこれだった、アルズは無理に体を酷使しすぎていた。
 少しでも、彼女のことを分かっていれば、こんなことには成らなかったというのに。護ってやれれば、彼女はこんなことにならなかったのに……。
 ――何故、僕はこの世界に来たのだろう?
 ――何故、僕は『霧崎 刃』という名前なんだ?

 そう、考えた時に、刃の心はすぅぅと澄みきった。
「アルズさん」
「……ぇ? な、何で、すか? 刃さん……?」
 アルズは切れ切れになった声で応える。
「少し、痛いかもしれませんが、我慢して下さい」
「へ……?」
 刃はありったけの息を吸いこんで、渾身の力の[みずでっぽう]をアルズに向けて噴射する。
 現在ブロウの[とおせんぼ]を受けていて、逃げることが出来なくなっている状態であるが、それでも『入れ替え効果を持つ技』を使えば、戦闘から離脱することができる。[みずでっぽう]の水流で擬似的な[ふきとばし]を再現して、アルズを部屋の外まで押し流す。
「ひぎゃああぁぁぁぁ――――…………」
 アルズの体は[とおせんぼによる障壁]を突き破り、声は部屋の外へと消えていった。
「(アルズさん…… 約束が守れなくて…… すみません)」
 そして刃は、彼女との間に交わされた会話を思い返す――――。


 ――「何を言っているのですか、私たちは乳繰り合った仲じゃないですか?」
 ――「その漢字の並びを見る限り、危ない意味の単語だと想像できますが……」
 ――「? そんなことないですよ? もともとは『ちぇちぇくる』という音を漢字に当てただけですから」
 ――「へぇ〜 そうだったのですか。すみませんでした、誤解してしまって……  じゃあ、その言葉の意味は何ですか?」
 ――「男女が密会して戯れることです」
 ――「やっぱりそういう意味じゃないですかっ!!!」
 ――「ふふふ、残念でしたね。 『乳繰り合う』の意味が刃さんの大好きな行為を指す言葉じゃなくて」
 ――「いや! と言うか、僕はそんな趣味を持ち合わせていませんって!」
 ――「ええええっ!! そんな! なんか裏切られた気分です」
 ――「貴女は僕の何に期待しているんですかっ!?」
 ――「エロ」
 ――「言うなぁ〜!」
 ――「え…… わ、私はただ、刃さんの質問に答えただけなのに………… イジイジ」
 ――「だいだい、エロスエロスって連発しないで下さい!」
 ――「失礼な、エロスってどういう意味か分かっているのですか?」
 ――「う、くそ! 卑怯なことを、真面目に説明したら絶対にあなたに叩かれるネタにさせるというのに……!」
 ――「何言っているんですか? 地球の資源を調べる衛星のことですが……」(※EROS(Earth Resources Observation Satellite)――地球資源観測衛星)
 ――「って…………なんですか?」
 ――「ふっ、そんなことも知らないのですか。だから、貴方は18禁のコーナーに18歳になったら入ろうと思っていましたが、いざその年齢になってみるとなかなか入る勇気が出ずに入り口でウロウロしているまま月日が過ぎてしまい、未だに入ったことが無いんですよ」
 ――「僕はまだ18歳になっていない、と言うか人の未来を勝手に決め付けないでください!」
 ――「じゃあ、絶対にそうならないという自信があるのですか?」
 ――「…………否定できない……」
 ――「いや、そこは嘘でもいいですから否定しましょうよ。刃さん」


 あれ?
 なんだかなぁ……。
 ろくな会話が無いなぁ……。
 アルズさんにはほとほと困らせられた、エロい話ばかりふっかけてくるし、突っ込みを入れるのが大変だった。
 でも、
 貴女に会えたから僕はこの世界に来て寂しい思いなどしなかった。
 貴女と話していると、本当に楽しかった。

 ありがとう。
 さようなら。





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 ――― どうしてしてこんなに痛いの?

 あ”あ”あ”ああぁぁぁ!! 血が、血が流れて行っちゃう……。
 負けちゃったから痛いの? だからこんなに傷だらけなの?
 僕、死ぬの?
 嫌だ 嫌だ 嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!!!
 如何して!? 如何してなの!?
 死にたく無いから、死にたく無いからみんなみんなみんな殺したのに!
 悪い事したからなの!? だったら謝るよ!!!!
 ゴメンナサイ!! ゴメンナサイ!!! ゴメンナサイ!!!!!!
 嫌だよ…… 死にたく…… ない…… よ……
 ゴメンナサイ……ゴメン……ナサイ……。
 ………………僕は如何して死にたくないんだっけ……?
 如何してだっけ?
 何か、 何か引きとめるものはあったけ。
 如何して生きたかったんだっけ。
 死んだら泣いてくれる家族とか
 大事にしたいものとか
 守りたい人とか
 やりのこした事とか
 それから それから
 …………待って 僕にはそんなものあったかな?
 家族もいない、フィレ姉さんも死んじゃった、クルーザの兄ちゃんは?
 どう……だったかな…………。
 ああ、そうか ――――

 ――― 何にも無いから、僕は死ぬんだ。


 サイコ  ――フルネーム『サイコ=ジェノサイド』 ここに眠る。
 これがこの戦いにおいて、最も多くの元人間達を殺した者の最期であった。





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「うぐぉ、ぐあはぁぁ――……!!!」
 クルーザは派手に転がって壁に叩きつけられた。
「て、てめぇ――!!  ……あぐぅ!」
 立ち上がろうとして、足を地面に突いた時、クルーザの足に激痛が走った。
 足の骨が折れていた。しかも両足。
 しばらくは全く使いものにならない。
「足をやったのか……? クルーザ?」
 ラヒトが話し掛ける。
「はぁ? んなわけねぇよ! 単なる……単なる、ぎっくり腰だ!」
「ウソをつくのが下手以前の問題だな。 ならば、仕方無いか、俺一人で終わらせるしかないようだ」
 ラヒトはゆっくりと立ち上がり、相手方を見つめる。
 相手方で立っているのはラク一人のみ。
 鋼タイプの防御力は伊達ではないようだった。
 クルーザは真っ青になった、ラヒトの怪我はクルーザのものよりも明らかに酷い。これは貫刀の[ブレイブバード]にしても、覇刀の[インファイト]にしても、自分の犠牲を払う技が多いことも理由の一つなのだが、
 ラヒトの体は、普通ならば立っていられないはずの体だと言うのに、ここで更に戦うとなれば……
 間違いなく、その命を落とすことになるだろう。
「お前………… 死ぬ気かよ」
「? そうだが?」
 ラヒトはさも当然のことのように、さらりと言った。
「そんなこと、さらりと言うもんじゃねぇ 分かっているのか? その体で戦えば再起不能じゃすまされないんだぞ」
「百も承知」
「待てよ、お前が居なくなったら、俺様は誰と争えばいいんだよ、誰と速さを競えばいいんだよ、まだ俺様との決着はついていないだろうが、ふざけんじゃねぇよ、最後の最後でかっこつけるんじゃねぇよ!」
 クルーザは叫ぶ。
「ラヒト! お前、ここで勝ち逃げする気かよ!」
「…………」
 ラヒトは、何も答えなかった。
「お前が戦うと言うならば、俺様も一緒に戦ってやる」
「やめろ」
 ラヒトが制止した。
「ここで動いたら治るはずの怪我も一生治らなくなる、それにその足で走れるわけがない」
「知るかっ!!」
 とにかく、とラヒトは言う。
「お前は長生きするべき男だ」
 死ぬのは俺だけで十分なんだよ、更に続ける。
「つまらねぇこと言ってんじゃねぇよっ!!」
 クルーザは立ち上がろうとしたが、体を突き抜ける激痛が走り、へたり込んでしまう。
「クルーザ、お前に一つ頼みがある」
「あぁ?」
「こうして生き残って、俺の名前を語り継いでほしい。――この世で一番の速さを持つ最高にかっこよく美しいラヒトと言う名前の最速の翼を持つ男がいたことを」
「**(確認後掲載)!」
「分かった。その願い、承った」
「……い、いやっ! 冗談だ! いくんじゃねぇ!」
 ラヒトは小さく笑みを浮かべる。
「死ぬ前に、お前に言って置きたかった……。俺はずっと思っていたのさ、真の最速は――」
「やめろぉぉぉ――!!!」
 ラヒトの言葉は、クルーザの叫び声によって打ち消されてしまった。
「――であることをな。さよならだ」
 ラヒトはラクと向かい合う。
「ラヒト……さん……」
 ラクにも分かっていた、既にラヒトは体の限界が過ぎているということを。
「何うろたえているのだ! もう一度、お前の翼を、刀を、俺に示してみろ!」
 ラクは戦うしかないと決意した。それが彼のためであると信じることにした。

   ラク VS ラヒト  最終激突!

「貫刀・兼光――」
「スカイ・ドライブ――」
 繰り出すのはラヒトの一刀目の必殺技、貫刀・双刀・連刀・覇刀・毒刀・廻刀・烙刀の七つの中で唯一単純な突撃力という《速さ》に特化した必殺技。それにさらに加えることの[はがねのつばさ]。
 対するはラクの《スカイドライブ》、初めての頃から考えると随分と強化されて、今では[ブレイブバード]も盛り込まれている。
「――斬!!」
「――スクリュー!!」
   両者激突。
 そのぶつかる瞬間にラヒトは片翼を返して、ラクの攻撃をあしらおうとしたが、ラクは[ドリルくちばし]によって自らの体に回転を掛けていた。
 払う動作を―― 弾き飛ばした――!!
 ガラ空きとなったラヒトの胴体をラクが貫き、根こそぎになって、床を汚した。

「うあああぁぁぁぁぁぁっっっっ――――――…………!!!!」

 クルーザの叫びがこだました。





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 聖が人間不信に陥った理由に関してはここでは語らない、語らずともこうして人と人との間に生きていればその理由も容易に浮かぶものであるし、当然様々な事情が絡んで不信に陥っているわけであるので語り尽くすことはできないだろう。
 聖は輝が嫌いだった。
 聖は他力本願に何事も人任せにすることが嫌っていた、自分の力で遣り遂げなければ成功を掴むことができないと考えていた。
 もちろん、聖も時には人に頼ることだってあるが、その際には無償なんてありえない。必ず、何かと等価交換することでしか頼らない。
 人に頼ったところで誰も救ってくれないし、人に頼られても何も見返りを貰えない。
 だからこそ、聖は輝のことが嫌いだった。
 輝は知らなかったが、聖は輝のことを前から知っていた。そしてその生き方に憤りを覚えていた。
 人に頼り続ける生き方、自分がしたくても出来なかった生き方、同族だったことも助長したのだろう、聖は輝の生き方を否定したかった。
 だからこそ、彼女の周りにいた者を間接的ではあるが全員殺し、一対一で勝負を仕掛け、彼女を否定した。
 しかし…… 彼女は変わらなかった。
 それどころか自分自身が、その間違いに気づいてしまった。
 『気持ちポケモン』『感情ポケモン』ゆえのことなのか、面と向き合って剣を交える度に、彼女の人を信じる大切さ、人に頼る幸せが頭に嫌でも流れ込んでくる。
 聖は喚き悩み苦しんだ。
 そして、互いに最終進化形態での最後の勝負にて、その考えは固まった。
 ――自分が間違っていた。と
 ここまで来るのにたくさんのものを失い、三人の命を殺めてしまった。
 許されることではない、許してほしいわけでもない、言い残したことはあるが、遣り残したことはない。
 だから。
 だから。
 だからこそ。
 聖は、後悔していない。
 たとえこれが、どんな結果に、
 終わってしまおうとも……。



「お久しぶりだね」
 若菜と輝の前に現れたのは、ロズレイドのブレイドだった。
 元人間。人間時のゼロを知る人物。
 キングでもなく、アナスタシアでもない、他でもない彼女がこの場まで生き残り、この場に登場して来たことには何かを感じるものがあった。
「テンガン山頂上『やりのはしら』まであと少し。……さて、ボクとの戦いを始める前に、ボクとしてはこんな美しくないものを見せるのは正直嫌だけど、これは見せなければならないな」
「え?」
「?」
 若菜と輝がキョトンとしている間に、ブレイドは奥から何かを持ってきた。

「キミの“友達”だ」
 それは――聖だった。

     但し、上半分だけ。

 上半身と下半身を分ける腹が真っ二つに、刃物のような物で切断されたのではなく、明らかに力任せに引き千切られたような跡が残っていた。
 ゼロの技――《ドラゴン大切断》 力任せに相手を真っ二つにする残虐技……!
「先ほど、彼がゼロ様に襲い掛かった……結果だ」
 その死に顔は……。泣いているのでもなく笑っているわけでもない、あえて言うなら、安らかな顔をしていた。
「あと、ゼロ様から伝言がある」
 ブレイドは淡々と続ける。
「つまら」
 その瞬間、ブレイドは壁に叩きつけられた。
 [サイコキネシス]をそのまま発動させながら輝は若菜に話し掛ける。
「若菜……すまない、ここは俺に任せてくれ」
「え……? で、でも……」
 青ざめた顔の若菜はしどろもどろになりながら返事を返す。
「俺は……大丈夫。 何故だか知らないが、気持ちは落ち着いている。 だから、先に行ってくれ、終わったら追いかけるから」
 若菜はしばらく輝の顔を見つめた後、
 その言葉に無言でうなずいて、テンガン山のさらに上へと駆け上がる。

 聖が死ぬ前に言い残したかったこと。
 ――それは輝に向けての「ごめんなさい」という謝罪の言葉だった。





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 物語はそこで終わっていた。

 本の冒頭部から数十ページのみが無傷で残っている部分で。

 残りの大半は破れてバラバラになったページを集めて挟んであるが、そうして残ったページの半分も焦げた跡があり、とても読める状態ではなかった。

「……………………」
 本を読み終えた、一匹の幼いイーブイは不満そうな顔を浮かべて、破れたページをもう一度読み返すが、そこから無くなってしまったページが現れることはなかった。
「…………メスフィさん?」
「ん?」
 横でその様子を見ていたグレイシア――のメスフィが返事をする。
「なんで、やぶれているの?」
「さぁ……?  ……RXさんが『気に入らん』とか言って、破っちゃったのかな?」
「お父さんが?」
「だろうね、その本はRXさんの物なのだから」
「…………いったい、なにがあったんだろう?」
 イーブイは、まじまじと本を見つめる。
「そういえば、メスフィさんはこのたたかいをじっさいに見ているんだよね? どんなことがおきたのか、わかる?」
「ううん、私はこの戦いには参加していないの、最初から最後まで戦いとは関係の無いところにいて、関係の無いことをしていただけなのだから」
 メスフィは遠い目をして言う。
「いや、参加はしなかったのだけど、ただ一方的に巻き込まれてしまったと言うのが正解なのかな」
「まきこまれた?」
「あの時、うちに現れたリュウセイとの戦いに敗れた私は、リーディさんの特訓を受けて進化を果たし、リュウセイとの再戦でリベンジを果たした。これが、私が経験したあの戦いのすべてなの、初めから最後まで蚊帳の外にいたはずなのに、その蚊帳の外まで戦いがあり巻き込まれただけ、私はあの戦いについて語れるほど、見聞き出来ていないの。……クルーザさんだったら、あの戦いで何が起きたか知っているから教えてくれるのでは?」
「いや…… クルーザおじさんには、まえにきいたことがあったんだけど……。 まっ青な顔して、はなしたくないって言っていたから……」
 メスフィは苦笑いをこぼした。
 話したくない理由はきっと……あの戦いで親しい人々が皆亡くなってしまったからだろう。
 今でもクルーザはたまに彼らへの憎み口を叩いているが、本当は大好きだったのだろう。
 今でこそ結婚して元気すぎる姿を見せているが、あの戦いが終えた後のクルーザは、抜け殻のように彷徨っていたらしい、そこでRXと出会い元気付けられなければ、今のクルーザはいなかっただろう。
「でも、メスフィさん?」
「ん?」
「メスフィさんが、そのたたかいにさんかしていないと言っても、たたかいのけつまつは知っているのでは?」
「…………」
「わかなさんと、ひかるさんたちは、ゼロにかったの?」






   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇






 マサゴタウン南。
 219番道路の浜辺、通称:マサゴの浜。
 メガニウムの――若菜。
 若菜は、一人の友人のことを思い出す。
 テンガン山、やりのはしら。 あのとき、その場所で、若菜は強大かつ残虐なる敵と戦った。
 恐ろしいまでも純粋なる暴力、圧倒的な威圧感。強いとか、弱いとか、そういうものではなく、立ち向かうことを恐怖させる。恐怖の化身といっても過言でもないほどの相手だった。
 正直、若菜だけではその威圧感に立ち向かうことすらできなかったと思う。
 しかし、横に彼女がいたからこそ、若菜は立ち向かえた。
 横で彼女が頑張っていたからこそ、若菜は戦えた。
 横で彼女が共に戦ってくれたから、若菜は挑めた。

 だが…………。
 それでも、その相手に敵わなかった。
 相手のその攻撃力に自分自身の回復が間に合わないこと、攻撃をし続けないと勝つことができないことは知っていた。だから、若菜は刺し違えて道連れにするつもりで、渾身の一撃を捨て身で叩き込もうとしていた。自分の命など安いものだ、引き換えに倒すことが出来れば元の平和が戻ってくると。
 しかし、相手はその攻撃をかわし、カウンターの攻撃が若菜の体を根子削ぎに抉り散らした。
 すべて、読まれていたのだろう。相手は5年前の失敗を繰り返すことはしなかった。
 消えかかる意識の中に走馬灯が駆け巡り、若菜は自分の死を感じていた。

 その瞬間に――――  彼女は若菜に命を捧げた。
 [いやしのねがい]――。 自らの命と引き換えに、特定の相手を全快させる。

 若菜は自分の身にいったい何が起きたのか、その時は分からなかった。それでも、油断しきった相手の隙を逃すことはしなかった。
 結果として…… その時に負わせた致命傷が、勝敗を決めることになった。
 さきほどまで行われていた、一方的な戦闘は、五分五分の戦局となって。
 その死闘の結果、相手が死に、若菜が勝利を収めた。
「輝…………」
 若菜は、友人の名を――助けてくれた彼女の名前を呼ぶ。
「……私はこの世界で、戦いが嫌いな輝のために、バトルを引き受けて、輝のことを護っていたけど……」
 若菜はそこで涙を落とす。
「……最後は、私が輝に護ってもらったなんて…………」
 視線を前に向けると遥か遠くに水平線がかすかに見える、その時すぐ近くから声が聞こえてきた。
「若菜っ」
 若菜がその声に振り向くと、9本の白い尾を揺らす一匹のキュウコンの姿。
「九音……」
「砂浜で、何を考えていたの……?」
 九音が尋ねた。


 さざなみが白く光り、日の光りが波をきらきらと輝かせて、
 そこに流れる音はキャモメの鳴く声と打ち寄せる波の音に支配されていた。
「あれから……どのくらい経つかな……」
九音は言う。
「そうだね……  つい最近の出来事かと思えば、遠い昔の出来事のようにも感じる。なんだか、不思議な感じ」
「まあ、仕方無いよね……  ゼロとの戦いがあったことを知っている人は、ほとんどいないのだもの……」
 あの戦いで、味方と敵がそれぞれ半分ずつ命を落とした。
 もちろん、生き残ったものはいるが、それらは人間世界からやってきたものがほとんどで、なかなか会うことはできない。やはり、こういう経験をしてしまうと、この世界に来ることが自然と遠ざかってしまうのだろう。若菜のそんな一人だった。
 ゼロの目的。それは、世界に混乱を与えること。
 世の中に「混乱」を求め、再び世界を混沌の渦に巻き込み、意味も無く無差別に殺戮を繰り返す……。
 そうなってしまえば、ビーストとの戦いの時の二の舞となって、世界は滅びたも同然の状態になってしまう。
 それは《ドリームメイカー》の努力によって、その野望は水際で止めることに成功した。情報を操作して、ゼロはあのビーストとの戦いの時に既に死んだことに、あの戦いなど無かったことに、させた。
 なので、ゼロの戦いがあったことを知っているのは、実際に戦った者達と、《ドリームメイカー》の上層部しか知らない。
 それゆえに、大事な人が無くなったと言うのに、そのことを戦いがあったことを知らない人に口外できないこと、なにより自分の中の記憶がそれによってだんだん薄れていくことが、若菜にとって何よりも悲しかった。


「ゼロは。 本当に、死んだのだよね……?」
 若菜の問いに、九音が答える。
「うん、 若菜は…… そのことを確認していたのでしょう……?」
 若菜はうなずく、が。
「でも、 前回の戦いでも、ゼロは死んだはずだったのに、実は生きていたのでしょう? もしかしたら……と考えると……」
「大丈夫……。 トトにも確認をとっておいた……。彼は嘘をつかないから」
 フワライドの――トト。
 平和主義者。
 普通ならば、ジェノサイドクルセイダーズにいるはずの無い彼。
 思えば、彼の存在こそがこの戦いにおいて一番の想定外だったのかもしれない。
 《ドリームメイカー》は人間世界とこの世界のトンネルを整備して、実際に自由に出入りできるようにしたとき、この世界にやってきた人――つまり利用者に何か起きたとき、きちんとしたケアができるように備えをしていた。
 例えば、この世界で命の危機に瀕したとき、強制的に帰還が働いて、命を落とす前に人間世界へと戻すなど。
 今回は通路が閉鎖されて、人間世界に戻ることが出来ない状態だったのだが、ポケモンの体は死んでしまっても魂は残っているので、再び開通した時に、死んでしまっていても遺体が原型を保っていればそれを人間の体に再構成させて人間世界に戻ることが出来るようにしてあった(もちろん、ポケモンでの体は死んでいる以上、パソコンを開いても二度とポケモン世界に行くことはできないのだが)。
 《ドリームメイカー》が元人間達だけに戦いを任せてしまったのは、そういった甘えがあったからかもしれない、そしてそれが《ドリームメイカー》にとって最大のミスだった。
 ゼロはこの世界で死んでも人間世界に戻ることができるという前例を、他でもない自身の実体験で知っていた、そして、そこから再びポケモン世界に戻ってこれたことも実体験から知っている、故にそれに対して既に手をうっていた。
 ここで登場するのはトト。『迷える魂を冥界に連れて行く力を持つ者』
 トトの力によって、この戦いで亡くなった元人間は、一人たりとも人間世界に戻ることはできなかった。
「トト……? あのフワライドの……?」
「うん、『僕は約束をちゃんと守るタイプでしてぇ きちんと、ゼロの魂は運びましたよぉ 心配ないですぅ』……とのこと」
 このゼロとの間に交わされた約束とは、『この戦いで亡くなった元人間達の魂を全員あの世に運べ』というもの。
 元人間、というものはゼロも例外ではなかったようだった。

 余談だが、この戦いで無くなった者の人間の遺体は、すべて元の世界に戻したらしい。たくさんの行方不明者が出たことから人間世界で徹底的な捜査が始まり、これが大事件に発展することは非常に好ましくない。
 だが、遺体さえ見つかってしまえば、多少不可解な死に方であってもそこから調査が進むことは少ない、せいぜい町の怪奇都市伝説の一つに加わるくらいであろう。


「ところで、九音は……なんで《ジェノサイドクルセイダーズ》に入ったの?」
 若菜はふと浮かんだ疑問を九音にぶつけてみた。
「………………なんでだろう?」
「え?  なんで?」
「……今、考えてみると、何でなのか分からない…… あの時は、ゼロのカリスマ性に惹かれてついて行こうとしていたのだろうけど……」
「惹かれて……」
「……いや、でも…… 今、分かったような気がする。 私はきっと、強くなりたかったのだろうと思う……」
 九音はそこで空を見上げる。
「私は、無力な自分から脱出したかった…… だからこそ、あの必殺技を身に付ければ、弱い自分では無くなると思って訓練をした、そしてさらに高みを手に入れたかった……。私はアカリンさんみたいに、健気で強い女性になりたかったんだね…………」
「その、強い女性になれたと思う?」
 九音は、静かに首を振った。
「ううん…… でも、成長したことは確か……かな。  ……ところで、若菜に質問があるのだけど」
「ん?」
「若菜は……  この世界に来て、良かったと思う?」
「……それは――――」




 吹き付ける潮風が、頬を伝い、そのまま青く澄み切った空へを舞い上がる。
 汀目は退いては進み退いては進みを繰り返し、白い波が遥か彼方まで延びて行くその景色。
 流れる音楽は海鳥の声と漣の鳴り、そして友と他愛無く交わされる語り合い。

 夢の作り手達が紡いだ話は終わる。
 夢を叶えた者、叶えられなかった者。
 夢を語った者、夢を追いかけてた者。
 夢に挫けた者、夢を生きなかった者。
 そして――
 夢を壊そうとした者、夢を護った者。
 かつての夢の作り手達が、世界に残した夢の軌跡。
 そして、その上に、重ねられた歴史は、犠牲は、結末は、夢は、
 物語は、こうして静かに幕を下ろす。




           《了》

[565] おおお
ひこ - 2008年06月04日 (水) 19時12分

放置しまくって管理人と呼べるのかさえ怪しくなってきた私が通りますよ ←

本当にざっとですが読んできました。またゆっくり読み直そうと思ってますが。
前に言ったような気もしますが、秋葉さんの書かれる文章が好きです。
なんていうか奥深いというか思慮深いというか、色々考えさせられました。
読後感もいいですほんと。

今のポケ書のリレ小ブームは、ドリメが作ったものなんですよね。
秋葉さんは立派にスレ主として皆を引っ張っておられたと思いますよ!
今更ですが、本当にお疲れ様でした。
ていうかそれに自分が関わっていたと思うと、なんとも言えないこっ恥ずかしさに襲われますね。

さすがにドリメもUで終わりでしょうかね・・ちょっと寂しいです。
いつかまた、ドリメのような素敵なリレ小に参加したいものです。


最後になりましたが、この小説板に投稿して下さりありがとうございました!



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