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[552] 小説 《Dream Makers U》 第二章
あきはばら博士 - 2008年05月25日 (日) 18時57分

長くなるので、複数のスレッドを使って掲載します。

[553] 小説 《Dream Makers U》 第二章 (1)
あきはばら博士 - 2008年05月25日 (日) 18時59分


フッフッフ……良くぞ聞いて下さいました!   何を隠そう、私はここに恋人探しに来たのです!
          ――アルズ

   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 サンドとイーブイ。ここホウエン地方では、非常に珍しい二匹が共に歩いていた。
珍し過ぎる組合せ――つまりこの二匹は[ニ匹]でなく[ニ人]…こちらの世界にやって来た[元・人間]を意味する……。

 インターネット上に存在する、ポケモンの世界[DreamMaker]
 ただの都市伝説と言われたこの噂は……真実だった。
 一時期、この世界にも争いが起きた。
 だが、それは既に過去の話。今は平和だ。
 それを知った人々はパソコンを通じ、この世界にやって来た。そう、ポケモンとなって……。
 今まで[DreamMaker]は、簡単に行き来が出来た。来るには少々手順が必要だったが、帰る時は「帰りたい」と念じるだけだった。だが……
 突如聞こえた、扉が閉まる様な音。
 その音が「誰にでも出来る」を「誰にも出来ない」に変えた。ある日、突然と。
 帰れなくなった。
 帰る手段は、全くわからない。
 沢山いる[元・人間]の内のニ人、サンドのあきおと、イーブイのPQRは、元の世界に帰還する方法を探して行動を共にしていた……。

  *  *  *  *  *

『むこうの方にある、サイサリスとかいう店の店主は、そういった話に詳しいらしい』
 今の所、あきおとPQRが手に入れた情報はこれだけだった。改めて考えるまでもなく、酷く頼りない情報だ。
 『むこうの方』と言ういい加減な方角は、精確なのか?
 方角はともかく、距離はどの程度か?
 『サイサリス』とは、何の店なのだろうか?
 『そういった話』の、『そういった』の範囲は?
 『らしい』って時点で、全部間違ってる可能性は?
 ……そんな感じに、疑問は多々ある。いくら推測しようが、それは無意味だ。行くまではわからない。しかしあきおは、その無意味な行為を続けながら歩いていて、何度もぬかるみにはまった。その度にPQRが苦笑いをしつつ、あきおを引っ張り上げる。

 と、まただ。あきおはくぐもった音と共に、ぬかるみにはまる。
「一体何度はまったら気が済むんですか…」
 かれこれ十一回目。流石にPQRは溜息を付くが…
「なに、心配無用!」
「うわっ!?」
 あきおを中心とし、泥が派手に舞い上がる! そしてあきおは……ぬかるみから脱出していた。今の技は[高速スピン]だ!
「よっしゃ、成功!」
 新たな技を会得し、喜ぶあきおだが……
「あーきーおー さーん……」
 ……近くにいたPQRは、全身泥まみれ。
「いやその、不可抗力で……」
「言い訳しないで下さい!」
 旅は、あまり順調でなかった……色んな意味で。

  *  *  *  *  *

「いらっしゃい、そこのお二匹(ふたり)さん!まぁウチの商品見て行きなよ!」
 昼を少々過ぎた頃、二人は突然カクレオンからこんな声を掛けられた。しかしそこは、ウチと言っても……質素な大きい机に商品が並べてあるだけの、屋根すら無い店だった。恐らく、行商の類いなのだろう。
「店かぁ……イイ情報ねーかなぁ?」
「聞いてみますね」
 軽い相談の後、PQRは店主のカクレオンに話し掛けると……
「そうだの……心当たりが無いこともないが」
「え、本当ですか!? 良かったら教えてください!」
「慌てるな、まぁなんだ……何か買って行かんか?」
 ……なかなかどうして。商売の上手い店主である。

 幸い、あきおとPQRはそれなりのお金は持っていた。この前、倒したポッポ達からカツア……ではなく貰ったのだ。それに何か役に立つアイテムを買っておいても、これからの冒険で損にならない。そうと決まれば話は早い、二人は商品を物色し始めるのだった。
「毎度ありぃ♪ ところでさっきの話だが……」
 あきおとPQRが幾つかの商品を買うと、店主はニコニコ顔で話を始める。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「……もう、大丈夫かな?」
 ラクは再び前へと首をめぐらせる。
 深緑の影落ちる林を抜け燃え立つ黄金色の草原へ、下を流れる小さな小川も輝く金に染め上げられている。
 ――この世界の夕焼け、都会では見られない澄んだ空気の夕暮れだった。
 ゆっくりと、へこんだ鎧で動かしにくい翼を羽ばたつかせサラサラと音立てる金に降り立つ。
 鎧のおかげで散々やられた割にダメージは少なかったし、衝撃による息苦しさ“は”なくなった。
 問題は……――
「覚悟を決めろ、僕っ!」
 ハシっと頬をたたき、一息で空気を吸い込む。ひやりとした晩秋の風がラクの喉を通り――

 ベコッ!!

 …………。

 風に波打つ金色は美しい、後方にそびえる深緑の影を伸ばす様子も美しい、光色の小川は美しかったはずだ――普段なら。
 痛みに転げまわる鎧鳥、しかも葉っぱと泥だらけになったのが水を跳ね上げてにごらしていなかったのなら。
「っうゥ……痛かったぁ;」
 先ほどの戦闘で背中がへこんだ鎧を治す(直す?)ため、大きく息を吸い込んだのが……覚悟していたものの相当痛かったらしい。
 外れた肩を戻すような感じというのか、治す瞬間が非常に痛い作業である。
「あぁ……鋼タイプってこういうときに不便だよ」
 近くにいた道祖神らしき物にグチりながら静まってきた水をすくい、軽く泥を洗い流した。
 鎧がへこんだのはショックで受身も取れずまともに攻撃を受けた自分のせいだが、今のラクとしてはムシ! 兎に角無視! な心境である。
 冷たく澄んだ空気と水にしみる傷が何故か心地よかった。

  *  *  *  *  *

「さてと、夕日が沈まないうちに行かないと……多分、僕鳥目だし」
 しばらく休んだ後、ラクは立ち上がった。試しにバサバサッと二回翼を振るうと痛みも無く動かしづらさも無い。
 元からたいした事無かった傷はほぼ塞がってしまった。葉も泥もあらかた落としたのでサイサリスを訪問するのにも失礼は無いはず。
 全ての準備が整いいざ風脈をつかもうとした瞬間――。
「ヘっ……それは出来ねぇぜ」
「うぁっ……」

  ラク は イヤなヤツ に であった! ▼ 

 脳内にRPG風の文字がよぎった。
 フリーズしかけるのも無理は無い。
 なぜなら……そのギンギン光る目、逆立てた髪、説明するまでも無い。先ほどのポッポ軍団――の一匹だ。
よく見るとあちこち羽がほつれていたりする。
「(普通に引くっ、執念深すぎだよ……!)」
 空からつけられないよう森に入り、さらに追うのが面倒くさくなるよう[巻きびし]を巻きまくったそこを突破して目の前に現れた。
 これはかなり執念深い。

「つか、お前、実はちょっとアホだろ」
「へ?」
「……道筋全部に[巻きびし]巻いたら誰だって追ってこれるっつの」
「う゛……」
「それに執念深いとか思っているかもしんねぇがなぁ、下っ端は命令されたらどんなとこでも行かなきゃなんねぇんだよ」
 訂正。相手も執念深いけど自分自身も甘かった。
「――だいたいなぁ、お前みたいに下手……」
「は、はぁ…」
 とそのポッポはさらに延々と愚痴を並べ続ける。どうやらかなりストレスが溜まっているらしい。
 チャンスとばかりにソロソロとラクは後ずさるが……。
「オイッ! 止まれ」
 三歩も歩かないうちに気がつかれた。そのうえ――
「この期に及んでまだ逃げようとか思ってんのか? 暴風滑空団(ストームグライダー)をバカにしといてそれはないンじゃね」
 ポッポが今まで後ろ手に隠していた物を目の前に突き出した。モクモクと煙を上げるそれは――
「はっ……燃えている!?」
「アホかッ!? これは『煙玉』だ『煙玉』!!」
 お前にはまともな回答ができないのか! とさらに突っ込まれる。
 そして、うっかりこんな話をしている間にもポッポ軍団は――
「おっ、どうやら御到着のようだぜ…」

 悪夢の再来。
 ついさっき猛攻をかけてきたあの茶色が橙の上にポツンと。
 その点は見る見る大きくなっていく。

「ふっ[吹き飛ば……」
「二度目が効くかよっ[霧払い]!」
 慌てて十分にエネルギーを練れないまま放った未熟な[吹き飛ばし]があっけなく掻き消される。
「うっ……」
 逃げ切れないかもと思いつつもラクは体をひねり脱兎のごとく駆け出す。
「逃がすかっ!」
 怒鳴り声をすぐ後ろに聞きながら飛のエネルギーを練り、翼をはためかせ……追手の翼がラクの翼をかすめたその瞬間。
「…熱っ! 何だコレは!?」
 突然、熱い大気がラクの周りに現れ、凄いスピードで空に押し上げてくれた。下を見れば紅い光。
 だが、その光に見とれる暇も無く立ち直った追手が舞い上がる――その後ろにいち速く来た二羽を従えて。
 茶色の点はもう丸だ。沢山の点が隊列を組んで集まっていると分かるところまで来ている。

 ――まだ、三羽。すぐに、十数羽。

 とりあえず沢山に囲まれたらまず勝てない。そして、奴らも多分それを狙って足止めしてくる。
 頭の良さそうなポッポを行かせて時間稼ぎをしたところからもそれは明白である。
 とにかく全速力で逃げながら攻撃してけん制……命中に気を使ったり、さっきみたいに時間がかかるのはダメだ。
「(やっぱりコレ……芸が無いなぁ……(涙))」
 一瞬でそこまで考えて[高速移動]を使いながら声を上げる。
「[スピードスター]ァ!!」
 きっと大丈夫。どっちも低レベルで覚える基本中の基本。慣れてきた体が技をささやいてくれる。
 一度使ったことのある技ならなおさらそうだ。
 だからこそ、初めて使ったときと違う状況を考えずに目の前に発光体を出してしまった。

  『油断大敵』

「ってうわぁっ! 羽にはさまってる!?」
 強い衝撃、ラクは慌てて両翼を見た。沢山の星型がそれはもう見事に羽にはさまって後ろ――ポッポ軍団の方に引っ張っている。
 嗚呼、このままだと間違いなくぶつかって……自爆。 油断大敵火がぼーぼー――って、冗談じゃない!!
「わぁぁちょっとストッ……いや止まっちゃ駄目じゃん! 違っ…… えぇい目的地変更! 『サイサリス』っ!!」
 最後にヤケクソで叫んだ言葉が効いた。
 予想外の行動に身をすくめ目を点にしている三匹の手前でラクは止まり、サイサリスのある方向へまた強制転換。
 翼が引きちぎられそうなほどの痛みとともに三匹があっという間に遠くなる。
 空気と言う塊を次々とぶち破っていく。轟々と耳元で風が渦巻き、ヒュウヒュウと翼の合間で風が歌う。
 ののしる声もぼやっとしているが追いついているところを見ると音速は超えてないらしい。けれど――
「(引き離してる? 僕が――?)」
 ぶっちぎる速さ、怖いけれどジェットコースターに乗っているようでラクは少しイイ気になった。
 翼に引っ張られたままではちょっと痛いので抵抗が少ない形(無意識的だが[燕返し]の型だった)を取るとさらにスピードが上がる。

 ――景色が風になる。

 [スピードスター]を翼に引っ掛け[燕返し]の要領で飛ぶ。そのすごいスピードで相手にぶつかり、爆発してダメージを与える、鋼の翼を持つエアームドだからこそ出来るムチャなこのワザは後々『スカイドライブ』という名前で使われることになるのだが……
「(スゴイ! エアームドってこんなに速く飛べるんだ……)」
 ……新幹線並みかそれ以上の速さでめまぐるしく変わる景色に違和感を見つけたのはすぐだった。
 “斜めっている”。要するに何故かは知らないが落ちていっているわけで……。
「ストップストップ!! ……何で聞かなっキャーーー!?」

  ガシャ! パリパリパリーン! ドガーン!

 派手な音と小さな爆発が起こって暗転。次に気がついたら焦点の合わないまま空を見上げていた。
 慌てて背を起こすとシャラシャラと音がする。目の前の大窓が割れているのを見るとどうやらガラスの雨が降り注いだようだ。
 気を失うほどの衝撃に爆発にガラスの雨、そして一応無事な自分。鋼タイプに感謝しなくてはなるまい。

「大丈夫ですか? エアームドさん。」
 いきなり声をかけられたのに驚いて首を向けると背を向けた緑の人影……いや、ポケモンの影が居た。
 わけ分からないながらにも「えぇ、一応……」と返事するとその影は柔らかな笑みを浮かべる。
「良かった、その様子なら大丈夫ですね。」
 その台詞を言うや否や、温和な雰囲気が一変した。
 その影――ジュカインは無駄の無い動きでバッと刀のある腕を突き出し『種マシンガン』の種だろうか? 緑の小さな粒を沢山浮かばせる。
 その強い視線の先にはラクを追いかけて来たポッポ軍団、総勢十七羽。

「食い逃げ、万引き、嫌がらせさんはお引取り願いますよ!」

 その言葉にキレたのかポッポ軍団が雪崩を打って突っ込んでくる。
 一方のジュカインは浮かべた粒を『リーフブレード』の面で一払い。打たれた粒が銃弾のように下から軍団に降り注いだ。

  *  *  *  *  *

「すぐ手当てできなくてスミマセン。」
 十数秒後、ポッポ軍団は一人残らず気絶して地に伏していた。
 勿論ジュカインのほうは無傷だ。
 さっき見たときは気づかなかったが左に眼帯をしているそのヒトは、戸惑っているラクを見て慌てて言い添えた。
「自己紹介が遅れましたね。僕はサイサリスの店主、アッシマーMkU量産型です! あっ呼ぶときはアッシマーでいいですよ」

 その場所こそが、『ポロック・ポフィン・ポケまんまの店 サイサリス』だった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 バシュン!

 アルズの絶叫を無視するかのようにレニーが飛び出した。
「フフ、ノーマルタイプの君がゴーストタイプの私にどうする気なのかなー?」
「ったく、能無しのアホゲンガー!」
 突っ込みに加えてゲンガーに[シャドーボール]を撃った!
 レニーの攻撃はゲンガーに見事に命中した。
「っ……痛いじゃないの……もう許さない!」
 と言い出してアルズに[サイコキネシス]を繰り出した!
「う、う、うわぁぁぁぁ!!」
 毒タイプも併合しているフシギダネでは威力が倍増する。
「効果は抜群だぁぁ…… もうダメ、レニーさん、後は頼みました……。 バタリ」
 アルズは(非常にワザとらしかったが)たった1回の攻撃で倒れてしまった。
「お前何やっとんじゃボケェ!!」
 仲間を巻き込むゲンガーに怒り立つレニー。
「言ったでしょ? 『許さない』と」
「俺の存在も忘れているんじゃあないだろうな?」

 ボッ……

「ハッ!」
 気が付けばレニーの周りにはサマヨールの[鬼火]が発動していた。
「やれ!」
「そうはいかへん!」
 大きくジャンプしてサマヨールに向けて[シャドーボール]を撃った!
「ふん!」
 が、サマヨールの[シャドーパンチ]と相殺された。
「やれやれ、チョロチョロとすばしっこいものですね……」
 そのレニーは今、空中で[アイアンテール]の構えをしていた。
「おいおい、俺たちに届いてないぜ」
 それもそうだ。何故ならレニーの攻撃対象は……
「起きんか―――――い!!!!」
「痛――――――!!!!」
 レニーの一撃で刃の目を覚ました。
「あ、レニーさん……」
「のん気に寝とる暇ないやろ! お前も戦わんか!」
「ええぇっ!?」
「他所見なんてしてる暇なんてありませんよ」
 とっさにレニーが後ろを振り向いた時、レニーが吹き飛ばされてしまった。ゲンガーの『瓦割り』だ。
「フフ……さあ、大人しく捕まってもらうわよ」
「観念しな!」
「あ、あ……」
 倒れたアルズとレニーを見てもうダメだと諦めた刃。
「(い、一対二…… ああ、こんなことなら寝ていたままの方が良かったかも)」
 だが……
「……まだ、や」
 レニーは立ち上がった。
「こいつ、まだやる気なのか」
「でも構わない。次で決めてやるわ」
「ふ、ほな……やってみい、ホンマに決められんのかをなぁぁぁぁ!!!」

 ゴオオオオオ!!

「な……」
 レニーの身体からもの凄い威圧感を感じた。
「レニー……さん!?」
 刃はこの威圧感に身体が震えている。
「だ、だがお前の身体は傷だらけだ! 何分持つか試してやるぜ!!」
 サマヨールが飛び出した。が、レニーの[シャドーボール]が降り注ぐ。
「ぐは……ばかな、このガキの何処にこんな力が……!」
 『シャドーボール』の連打攻撃でサマヨールの体力はじわりじわりと削られていく……
「こ、この俺がこれでぶっ倒れると思うな!」
 サマヨールは『鬼火』を発した! 
「うっ!」
 攻撃のキャンセルができずに直に受け、レニーは火傷を負ってしまった。
「(レニーさんが……頑張ってるんだ……僕もやらなきゃ!) おりゃ―――!!」
「え!?」
「ぐおっ!」
 水を斬るようなスピードで刃が突進した。『アクアジェット』だ。
 ニューラに習った技が早くも……いや、この場合はいまさら、役に立つときが来たのだ。
「ば、ばかな……こんなガキごときに俺が」
 この威力に耐え切れずサマヨールは瀕死状態となった。
「お、覚えておきなさい!」
 ゲンガーは慌てて走り去った。
「どこの捨て台詞や……また来る時はもう忘れとるって……」
 さりげないツッコミをすると……レニーは体から力が抜けてしまった。
「あっ、レニーさん!?」
 刃が駆け寄ったが
「すー……すー……」
「寝るの早っ……」
 既に熟睡していた。

  *  *  *  *  *

「う……ん……」
 しばらくすると、アルズが目を覚ました。
「あ、アルズさん、怪我の具合は大丈夫ですか?」
「あれ……? さっきのゲンガー達は?  ああっ! なるほど、さっき放った私の快心の一撃がクロスカウンターで決まって悪い奴らをまとめて倒したのですねっ! しかし、私もまだまだ修行不足のようです。すれ違い様に受けた一発で意識を失ってしまうなんて」
「記憶を改竄しないでください」
「ウソです。 で、本当のところはどうなのですか?」
「寝ている間にレニーさんと僕で追い払っちゃいましたよ。 ……レニーさんはもう寝てるけど」
「寝ている間にレニーさんと僕でおそっちゃいましたよ、ですってぇぇ?!」
「違いますっ!!!」


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 町に墜落したセイラは、上半身がアスファルトにめり込み非常に情けない格好になっていた。

「うーん……ハッ、出たなバルタン星人! 食らえ! スペシウム光線ビビビビビ……ってここは?」
 気づけば…… セイラが居たのは真っ白な空間だった。
「何? ココ。亜空切断のパルキア様ですか? それともひきこもりのデオキッちゃんのお部屋ですか?」
 すると目の前に体が横に成長した上にお世辞にもキレイとは言えない女子高生が居た。
「ウェッ……不細工。」
 女子高生は黙ったままだ。すると別の顔の女子高生が1人2人と増えてきて、合計で15人くらいに増えた。
 ふと、自分の姿を見るとヒトデマンではない。人間の姿だ。
 しかし、人間の姿ではあるが、セイラ自身の姿では……ない。
 段々周りの風景もハッキリしてくる。……そこは人気のないビルの裏だった。すると最初の不細工女が口を開いた。
「アンタ生意気なのよ。何が「掃除は真面目にやりましょうよ。」だよ!この幽霊女!」

  ドゴッ!

 不細工女に蹴られた。ムカツク。
「ふざけんな!掃除は真面目にやるのが常識だろ!」
 と叫んでやりたいが口が動かない。
「ウザイからやっちまえ!」
 不細工女の一声を合図に他の女子高生共が一斉にセイラを暴行し始めた。
「痛いッ! 止めろよ!」
 言いたいが口が動かない。セイラはとうとう倒れてコンクリートに頭を打ち付けてしまった。
「今度何か言ったら酷いからね!」
 不細工女子高生が吐き捨てると他の女子高生を連れてどこかへ行った。
「何コレ……夢だよね……。 うちはポケモンなんだから……。でも変な……あれ? 意識が遠く……。」
 またも言葉に出来ない声。薄れゆく意識の中でセイラの口が勝手に動いた。

「Dream……Maker……。」

 その一言を最後にセイラの意識は失われた。

  *  *  *  *  *

「…………あり?」
 次にセイラが目を覚ましたところは真っ暗な空間。
「ココは? また不細工女子か?」
 手を動かそうとしたが……動かない。
「あれれ? おかしいぞー?」
 某少年探偵のノリで突っ込んでみる。足はなんとか動いた。
 すると「おおっ!動いた!」とか「生きてるわ!」とか聞こえた。
「助けてくださーい!!!」
 某恋愛映画のノリで叫ぶといきなり足から引っこ抜かれた。
「のわぁ!?」
 思わずそう叫ぶと目の前には天地のひっくり返ったポケ、ポケ、ポケ。一瞬夢の中の女子高生とデジャヴしたが、それは所詮夢の中での話。
 女子高生が増えるなんてあり得ないのだ。ブンブンと頭を振って夢のことを振り払う。
「ココは誰?うちはどこ?」
 おきまりのボケをかましつつ混乱して辺りを見回すと上からオバサンっぽい声がした。
「何寝ぼけてんだい! いきなり空から落ちてきて……一体何が遭ったんだい?」
 無理やり首を曲げると上には大きなガルーラおばちゃんが。セイラの片足を持ってセイラを見ていた。
「ポケダン? 道具? ゴローンの石? っていうか夢オチかよ。ま、良かったけど。」
 セイラの言葉を聞いたガルーラおばちゃんはため息を一つ着くとセイラを放して地に立たせた。

「…………。」

 冷静に周りを見渡すと多くのやじ馬ポケや新聞記者などが居た。
写真をとろうとしていたが、大々的に報道されたくないのでガンを飛ばして追い返してやった。
「まぁ、ここで話すのも何だ。アタシの家に来な!」
「はぁ……。」
 おばちゃんの勢いに押されてうなずいてしまったセイラ。おばちゃんがやじ馬を追い払いながら進んでくれたので、その間を通りぬけつつおばちゃんの家に向かうのであった。
「(ん〜 そう言えばあの女子高生ってミサ姉と同じぐらいだったような……)」
 歩きながらあのやけにリアルな夢のことを考えているセイラ。
(「セイラ……。」)
 か細いがハッキリ聞こえたミサの声。
「!?」
 驚いて辺りを見回すが、ミサの姿は何処にもない。
「どうしたんだい?行くよ。」
 おばちゃんに促され、
「(何だったんだろう……)」
 と思いつつもおばちゃんに着いていくセイラなのであった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 広場の中。そこには、何体かのポケモンがあちこちを歩き回っている。
「ねぇ、そのエルジアって人、本当にここにいるの?」
 若菜はメスフィに尋ねる。
「それは〜……」
「それは?」
 若菜はツバを飲んでその答えを待つ。
「わっかんないのだ♪」
「え〜っ!?」
 思いもよらない答えに、若菜は驚きを隠せなかった。
「だって、エルジアは外に出る時はどこに行くか全然わからないのだ。だから、あっちこっちを探してみるしかないのだ♪」
 相変わらずの明るい声で、メスフィはさくっと言ってのけた。
「……本当に、大丈夫?」
「大丈夫なのだ。しばらく歩いてたら、きっと見つかるのだ♪」
「なんだか……大丈夫じゃなさそうなんだけどなぁ……」
 ダイジョウブじゃないダイジョウブ。見つからないのでは? と、そんな少々の不安を抱えながら、若菜とメスフィは歩いて行く。

  *  *  *  *  *

 そんなこんなで、小一時間ほどがあっという間に過ぎた。
「なかなか見つからないのだ……」
 さすがのメスフィも多少肩を落としている。
「……ここにはいないんじゃないの?」
「そうかもなのだ……」
「じゃあ、別な所を探してみよう。ほら、あの森の中とか」
 若菜は頭の葉っぱで、西の方向にある大きな森を指した。
「ハクタイのもり……そういえば、エルジアの家はソノオタウンにあるのだ。確かにいるかもしれないのだ♪」
 再びメスフィの声が明るくなった。
「じゃあ、行ってみる?」
「うんうん、そうするのだ♪」
 メスフィは二つ返事で答え、多少駆け足気味に森の中へと入っていく。
「あ……ちょっと待ってよ!」
 若菜はその後を追っていった。

  *  *  *  *  *

 さらに小一時間ほどに過ぎる。
「やっぱり見つからないのだ……」
 再びがっくりと肩を落とすメスフィ。
「なにか……手掛かりとかないの?」
「だから……本当にどこにいるかわからないのだ……」
 嫌な予感が当たってしまった、と若菜。
 2人は大きなため息をついた。
「こんな所でいつまでもため息ついてたって仕方ないよ……せっかくだから、ちょっと一休みしよう。……ほら、あそこの建物とか。あの様子だと……誰も住んでないみたいだし」
 若菜は頭の葉っぱで、近くにあった建物を指す。
 そこには多少古くなり、屋根に穴が開いていたりしている、大きな建物があった。
「……それもそうなのだ。そうするのだ♪」
 2人はその建物の中へと入っていく。
 ここが、ある意味でシンオウ一の名所になっているとも知らず……。

  *  *  *  *  *

「おじゃまします……」
 若菜は小声でそう言いながら中へと入る。メスフィもその後に続いた。
「やっぱり誰もいないのだ」
 メスフィは辺りを見回し、そうつぶやいた。
「……ねぇ、メスフィちゃん」
「どうしたのだ?」
「なんだか寒気がするんだけど……気のせいかな?」
「……き、気のせいなのだ。うん、そうなのだ!」
 そんな会話を交わしながら、奥へと入ろうとする2人。
 その寒気は、実は気のせいではない。
「……い……」
 突然、若菜の耳にそんな声が入ってきた。よく聞こえないが、確かに聞こえたのだ。
「ねぇメスフィ、何か言った?」
 若菜はメスフィに尋ねてみる。
「ううん、何も言ってないのだ」
「えっ……じゃあ、さっきの声は何?」
 背筋に寒気が走るのが、若菜にもはっきりとわかった。

「……そこの君達?」

 2人の後ろから、いきなり太い声が聞こえた。
「……!!」
 2人はようやく理解できた。『どうやらやばい場所に入ってしまったらしい』と……。
 2人は恐る恐る後ろを振り向く。
「困るなぁ。勝手に人の家に上がってくるなんて……」
 彼女の目の前には、黒いガス状の物体が!

「わあああああああああああああああああああッ!!」
 さすがの若菜も、いきなり目の前に現れた謎の物体を見て驚かないはずがなかった。
 若菜は怪我の痛みも忘れ、一目散に建物を抜け出した。
「あ、お姉ちゃん、ちょっと待ってなのだあああああああッ!!」
 その後に続いて、メスフィも一目散にかけていった。

「……悪気はなかったんだがな」
 疾風のごとく逃げていった2人を見ていたのは、この建物を住処としているポケモン、ゴースの姿だった。
 そう、2人が一休みしようと入った建物、それは、シンオウ一のミステリースポット『もりのようかん』だったのだ。

  *  *  *  *  *

「はぁはぁ……」
 若菜とメスフィは、森のはずれで息を切らしていた。
 無理に走ったせいか、若菜は怪我がさっきより痛くなっているような気がした。
「ごめん……ちょっと休ませて……」
「言われなくたって休みたいのだ……」
 若菜の言葉に、メスフィが答える。
 だが、この2人に休む暇などなかったのだった……。

「あぁ? 人の住処に勝手に乗り込んどいてぬかしてんじゃねぇぞゴルァ!」
 突然、後ろから怒号が聞こえた。
「え……えぇ?」
 すっとんきょうな声をあげ、若菜は後ろを振り向いた。
 そこにいたのは、頭から湯気が上がりそうなほどに怒りを爆発させたアゲハントの姿が……、
「あ……アゲハントって、確か――」
 若菜は不意に思い出した。
「――見かけに似合わず気性は荒い……んだよね?」
「た、確かそうだったのだ……」
 少々震えた声で2人は会話する。だが、それがいけなかった。
「ゴチャゴチャうるせえんだよおっ!!」
 気が短いのか痺れを切らしたアゲハントは、2人に[ぎんいろのかぜ]で猛攻撃をかけた!
「わあああああっ!!」
 2人はまた森の中を逃げる羽目になった。

  *  *  *  *  *

 2人は逃げに逃げ、遂には森の中を抜け出してしまった。
 しかし、アゲハントは執拗に2人を追いかけてくる。疲れきった2人との間は、次第に詰まっていった。
「もうダメなのだ、逃げられないのだ〜っ!!」
 悲鳴を上げるメスフィ。
「観念しな! もう逃げられ……」
 アゲハントがそう言った、その瞬間だった。

「ぐはっ!!」
 アゲハントの間の抜けた声が聞こえた。
「え……?」
 一瞬何が起きたのかわからず、後ろを振り向く若菜。
 そこには、『ゴローンのいし』の直撃を受けて倒れたアゲハントの姿が。
「大丈夫? メスフィ、そしてそこのチコリータさん?」
 何処かから声が聞こえる。
「だ、誰だ、てめぇは……」
「知りたいのなら教えてあげる。私はエルジア。弱いものイジメは黙って見てられない性分なの」
 アゲハントの視線の先には、視線を真っ直ぐにこちらに向け、雄々しく立つヒトカゲの姿があった。
「てっ……てめええええっ!」
 逆上して怒りが頂上を越え、大気圏をも突破せん勢いで上昇していたアゲハントは、よく考えもせずにエルジアに踊りかかった。
 そう、こちらが不利だという事を全く考えずに……。

「たあああああああっ!」
 アゲハントの目の前から、エルジアの姿が消えた。
 エルジアの姿は、彼の上空、それもかなり高い場所にあった。
「なにっ!?」
 動揺したアゲハントは、飛び上がって彼女を追おうとする。しかし、エルジアはそれを見てすぐさま攻撃態勢に入っていた。
「はああああっ!!」
 彼女の体が炎に包まれる。とその時、彼女の手から、巨大な火柱が上がった。いや、火柱というよりは、炎の剣といった方がふさわしいかも知れない。
 『きのえだ』を持った状態でフレアドライブを発動させ、炎をきのえだに集中させて炎の剣を作り出し、その状態からのドラゴンダイブで、上から剣を敵に叩きつける。
 ドラゴンダイブを掛け合わせて威力の上がったフレアドライブを、体が直接ぶつからないため反動を受けずに放つ事ができるが、木の枝はすぐに燃え尽きてしまうので、連発する事はできない、エルジアが開発した必殺技である。
 そして、エルジアは叫んだ。
「いけぇっ!! 奥義、『火焔破砕剣』!!」

「なにっ!!」
「チェストオオオオオオオオオッ!!」
 炎の剣を携え、まっさかさまに急降下するエルジアを、アゲハントはよける事ができなかった。
 炎の剣はアゲハントを飲み込み、そのままエルジアもろともに地面に叩きつけられた。


「ふぅ…… ちょっとやりすぎちゃったかな?」
 のんきに言うエルジア。その足元には、全身がススにおおわれたままに気絶している、哀れなアゲハントの姿があった。
「エルジア〜ッ!」
 と、そこにメスフィの声が響く。
「ありがとうなのだ……それに、丁度エルジアを探していたところなのだ♪」
「え……私を?」
「あの……すみません……」
 申し訳なさそうな顔をしながら、2人の会話に若菜が割って入った。
「あなたが……エルジアさんですか?」
 いまさら野暮な質問かもしれないが、念を押して問うてみる若菜。
「……そうだけど?」
 いきなりの質問に、エルジアは怪訝そうな顔をして答える。
「いきなりでごめんなのだ! でも……お願いがあるのだ」
「お願い?」
「この若菜って言うお姉ちゃんを、エルジアの家に連れてってほしいのだ♪」
「え、どうして?」
「お姉ちゃん、なんだか困ったことがあったみたいなのだ……。でも私はちょっと用事があるから、もう連れていられないのだ……。 だから、エルジアにお願いしようと思って、探してたのだ♪」
「……そう……」
 エルジアは腕を組んで、考え込むしぐさをした。だが、1秒もしないうちに彼女は組んでいた腕をほどく。
「わかった! お父さん達にもちゃんと話を付けてみる!」
 困った人を助けずにはいられない。それが彼女の性分なのである。
「ありがとうなのだ! 助かったのだ……」
エルジアの言葉に、メスフィはホッと胸を撫で下ろした。

  *  *  *  *  *

 一同は205番道路を抜け、ソノオタウンの入り口にまで差し掛かっていた。
「じゃあ、私はこの辺で帰るのだ♪」
「うん、じゃあ、またね!」
 メスフィは満点の笑顔で、元来た道を戻っていく。エルジアもまた笑顔で、彼女の姿を見送った。
 そして、エルジアは若菜のほうを向き直る。
「私の家はここに在るの。これから案内するね」
 エルジアはそう言うと、若菜の前を歩き始める。若菜もまた、遅れないように続いて歩き出した。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 一通りの話を終え、ニ人はカクレオンの店を後にした。

「有益な情報……は無しか」
 あきおは溜息を付きつつ、先ほど購入した迷彩柄のバンダナを被る。ちなみにこのバンダナ、[気合いのハチマキ]と同じ効果がある……らしい。他に、木刀も購入していた。
「うーん…けど全くの無益って事もないと思いますけど」
 PQRが買ったのは首に巻いた、黄色いスカーフ。こちらも[シルクのスカーフ]と同じ効果があるとか。これにより、PQRの必殺[とっておき]の威力は…130×1.5×1.1=214.5となる(ハズ)。
 因みに、今回彼等が手に入れた情報は……
「行商仲間で元人間っぽいのがいた気がするかもしれない」
 ……まただ。また出た「かもしれない」というフレーズが、何とも頼りない。しかも今回は「っぽい」ときた、明らかに胡散臭い。
「しかし種族がわからないですね」
「まぁ、確かにな……」
 その元人間かもしれないポケモンの、種族まではカクレオンも知らないらしい。あくまで行商仲間から聞いただけの話らしいから仕方ないが……。
「行商繋がりで……カクレオンとかですかね?」
「さぁな。ま、運良くそいつに会えるかも不明だし」
 手掛かりは、無いに等しい。
「ま、そうですね……」
 二人はそこで会話を止め、歩調を早めた。次の町――ヨスガシティに着くのは何時になるのだろうかわからないが、直ぐに着く距離ではないだろう。

 昼過ぎになって太陽がそろそろ下がり始めた頃、PQRとあきおは空腹を覚えた。
「とりあえず、この辺りで昼飯とするか」
「そうですね……」
 二人は適当な場所に腰を降し、取り敢えず昼飯、とばかりに木の実を幾つか取り出した。

  *  *  *  *  *

「ふぅ……ご馳走様」
「ごちそーさん」
 昼飯を終えたあきおとPQRは、さっそく歩き出そうとするが。
「……ちょっと寒いな」
さすがにあんなにぬかるみに嵌っていれば、体もすっかり濡れてしまうわけであきおは寒さを覚えていた。動けば体も温まるが、一旦何かで体を温めてから進みたいと思った。
「焚火でもしますか?」
 辺りを見回すが、ここは湿地帯だけあって乾いた木切れを手に入れるのは難しそうだ。
「じゃあ……火、火か。 PQRさんは[火炎放射]は使えますかな?」
「イーブイは炎技を覚えません。あ、[にほんばれ]なら覚えますね。でもここでそれを使ってもすぐに暖まりませんよ」
「ふむ、じゃあさ、サンドはどうだろうか? 俺が使えればいいんだよな」
「や、……サンドが火を噴いている絵をあきおさんは想像できるのですか?」
「む………………ダメだな。そんなサンド俺が許さん」
「です」
「せめてライターがあったら……な」
「けど無いですよ……」
 無い物ねだりをしても仕方ない。あきおとPQRは、さっきカクレオンからライターを買わなかった事を心底後悔する様に溜息を付き、重い腰を上げ、乾いた木切れを探そうとするが…
 草むらを掻き分け、二人の前にポケモンが姿を現した。
「ライターを御所望? なら買っていかないかしらん」
 現れたポケモン……ニャルマーはそう言った。言動から察するに、♀ではないだろうか。目立った特徴は赤いモノクル(片眼鏡)と、背中のリュックだ。
「えぇと、もしかして行商の方ですか?」
「えぇ、そうよ」
 PQRの問いに答えると、ニャルマーは営業スマイルを崩さぬまま背負っていたリュックを降ろした。
「わたしはシーラ、よろしくね☆」
 言いつつリュックを開こうとする。
 何たる幸運。これで寒さがしのげると思いきや……。

「待ちなさい!」
「この泥棒猫、逃がさない!」
 怒声と共に……殺気を纏った水流と小銭が飛び来、ニャルマーのシーラを襲う!


「チェッ、あと一歩だったのにぃ……」
 攻撃は、当たらなかった。シーラは尻尾をバネにした素早い跳躍で、その攻撃をかわしたからである。今の技は恐らく[水鉄砲]と[猫に小判]だろう。
 草むらの、先ほど攻撃が来た方から姿を現したのは……黒の眼鏡を掛けた色違いのシャワーズと、青い眼鏡を掛けた普通のニャースだった!
「観念しなさい、シーラ!」
「先日うちから盗った商品と、慰謝料、耳を揃えて払ってもらうぞ!」
 突如乱入して来た二匹のポケモン。このいきなり過ぎる事態に対応仕切れず、PQRとあきおは混乱していたが……
「そこのサンドさんとイーブイさん、そのニャルマーに騙されてはいけません! そいつは盗っ人なんです!」
「マジかよ?! 中々予想外な展開だなオィ」
「そ、そんな……」
「気付くの遅いわ!」
 ニャースのツッコミはともかく、シャワーズの説明であきおとPQRは状況を理解した。その説明が正しいとすれば、つまりシーラの職業は……泥棒! 先程の台詞から察するに、ニャースもシーラの被害者なのだろう。
「様々な手段で相手の隙を作り[催眠術]で眠らせ、荷物を奪う……それがアンタのやり口だったね、シーラ!」
 一呼吸でそう言うと、ニャースはビシッ!とシーラを指差した。
「ホホホ……だからなに? もしかしてぇ、わたしを成敗しようとでも言うのかしらん?」
 四対一。圧倒的不利なハズの状況にも関わらず、シーラは余裕の態度だ。その余裕が意味するのは……揺るぎない自信か。
「そこのサンドとイーブイ!あのムカツク雌猫をブッ倒すの手伝ってくれるよな?」
「勿論だ、こっちもアイツを見逃す予定は無い」
「僕だって同じです!」
 闘志満々な二人の返事に、ニャースは満足気に頷き、
「自己紹介がまだだったね。うちはyuna(ゆな)。宜しく」
「私はメイルっていいます、宜しく!」
 二匹の……否、二人の自己紹介を聞き、あきおとPQRは驚きを隠し切れない。
「あ、オレ、あきお……」
「えと、PQRです」
 二人の自己紹介に、やはりメイルとyunaの眼鏡っ娘コンビは驚いた。どうやら彼女達も、あきお達が元人間ではないかという疑問を持ったのだろう。だが今は、その疑問を解決している場合ではない。まずは敵……シーラを倒さなければならないからだ。

  *  *  *  *  *

「さぁ何処からでもかかってきなさいな……オコチャマ達」
「言われなくともな!」
 あきおは言うや否や、弾丸の如く飛び出す!
「先手必勝! 一撃必殺ぅ!」
 あきおは木刀(先程購入した)を構え……。
「でやぁぁあ!」
 避ける暇は与えない、あきおの[居合斬り]はまともにシーラを捉らえ……なかった。
「なっ……!?」
 手応えが、無い。あきおが切り裂いたのは[影分身]の影だ、つまり相手は、目の前にいない!
「あきおさん、後ろ!」
 あきおはPQRの声を聞き、反射的に身体を捻る。すると……そのすぐ横を[水の波動]が通り過ぎた。
「間一ぱ……っ!?」
 なんとかシーラの攻撃を回避したあきおだが……足を滑らせ、転んでしまう!
「ぐっ……」
 鈍い音がし……あきおは気絶した。運悪く、転んだ拍子に岩で頭を打った様である。
「あぁ、なに自滅してんだあのサンドは!この……(以下、余りにもアレなため省略)……バカ!」
「yunaさん、落ち着いて〜!」
 まだ何か言いたそうにするyunaを、メイルは何とか止める。そしてシーラは……
「あらあら。自滅なんてツマラナイ」
 と決め台詞を言ってみる。だがyunaのせいで台詞を言う若干タイミングがズレ、場の空気は微妙だ。
 もはや戦闘不能なあきおは無視。咳払いをして気を取り直し、シーラはクルリとyuna達の方に向かい……
「さあさ、かかって来なさいな、三匹同時でも良いわよ…?」
 と、妖艶な笑みを浮かべ、挑発する。
「なら……僕とyunaさんが仕掛けますから、メイルさんは援護頼みます!」
「わかった! ……ん、ちょい待て、なに仕切ってるんだよ!」
「yunaさん、突っ込んでいる場合じゃないですよ!」
 PQRは冷静に指示を出し、yunaとメイルは(素直に、とは形容出来ないが)それに従う。数の差を生かしたこの作戦なら……勝てる!PQRはそう確信していた。
「てや!」
「くらえ!」
 PQRは[体当たり]、yunaは[乱れ引っ掻き]でシーラを襲うが…
「遅いわ……フフフ」
 シーラは舞う様に、華麗なステップで二人の攻撃をかわしてみせる。当たりそうで当たらない…攻撃する側にとって、かなりもどかしい手応えだ。
「は、早い」
 遠距離支援をするはずのメイルも、シーラのスピードに惑わされていた。必死に[水鉄砲]を乱射するが、掠る気配すらない。
「おバカさんネ、そんな作戦わたしに通用すると……?」
 必死に攻撃を続けるPQRとyuna。だがシーラは、それをあっさりかわし続ける。暖簾に腕押し、という言葉がピッタリだ。
 必死と言えば聞こえは良いが、焦りからか……yunaとPQRの攻撃は、単調な物になっていた。そんな彼等の動きを読むのは、意外にたやすい。
「うわっ!?」
「あいたっ!」
 シーラに避けられた拍子に、PQRとyunaはお互いの技がお互いにヒット!幸い、当たりは浅いが……
「あっ!?ごめんなさい!」
「冷たっ!?」
 しかもメイルの[水鉄砲]も、見事に二人へ。どうやらシーラも、ただ単に避けている訳ではないらしい。
 そして生じた、PQRとyunaの……大きな隙!
「ウフフ、おバカさん……」
 シーラの尾が、まばゆい光を放ち、二人を襲う。[アイアンテール]だ!
「がばっ!?」
「危っ!」
 ギリギリで回避出来たyunaはともかく、PQRにはクリーンヒット。その小柄な身体は、錐揉み回転しながら宙を舞い……轟音と共に、頭から墜落した。
「PQRさん!?」
「ぐ…ぅ……」
 立ち上る砂煙が晴れると、何とか立っているPQRの姿があった。だが……その足は、遠目から見てもわかる程に震えていた。
「あら、根性はあるみたいだけど……それ以上でも,それ以下でもないわネ」
 シーラの台詞が終わる頃には……PQRは糸が切れた操り人形の様に、その場に崩れた。
「これであとは、二匹ね」
 シーラは楽しそうに呟く。そう、彼女はこの一方的な戦いを楽しんでいた……。
 恐らく、[アイアンテール]はPQRの『急所』に命中したのだろう。それも偶然ではない、シーラは先にPQRを狙っていた。そしてこれも推測だが……彼女のモノクルは急所への命中率を上げる[ピントレンズ]ではないだろうか。
だが理屈はどうにせよ……シーラは、強い。
「くっ……うちを舐めるな!」
 負ける訳にはいかない。yunaは渾身の[猫に小判]で反撃を試みるが……。
「残念ネェ、パワー不足よ」
 シーラは尻尾、[アイアンテール]ですらなく[尻尾を振る]で迎撃して見せた。
「嘘だろ……ちくしょう!」
 yunaは愕然とした。レベルが……違い過ぎる、勝てない。だが、今更気付いてももう手遅れだ。
「さてと……もう、終わりかしらん?」
 月明かりによって出来ていたシーラの影。それが突然に異形へと変わり、yunaを切り裂きに掛かる!
「当たるか!」
 yunaは割と余裕で[シャドークロー]をかわしてみせる。だが…yunaの影が同様に姿を変え、yuna自身に襲い掛かる!
「ちょっと待ったギャァァア!?」
 yunaは何とか意識を保ったが、ダメージで身体が動かない。仰向けに倒れた彼女の視界には、ただ空があった。そして、徐々に意識が遠退いて行く…
「気を抜いちゃだめぢゃない……ウフフ」
 攻撃の直撃、及びyunaの戦闘不能を確認したシーラは溜息をつく。そして……
「最後は……貴女よ? せっかくならもう少し楽しませてくれるかしらん」
 ゆっくりと、メイルの方を向く。
「ふ、ふ……ふざけんなぁぁぁぁぁあ!」
 プレッシャーからか、メイルの理性はぶっ飛ぶ――早い話は、キレた! もはや躊躇は無い、必殺の[滝上り]を繰り出すが……。
「さようなら……ま、暇潰しくらいにはなったヮ」
 シーラは易々とメイルの渾身の一撃を回避、同時に電撃を放つ!
「がぁっ!?」
 [十万ボルト]の直撃を受けたメイルは、数度身体を痙攣させると、その場に倒れ伏した。
「貴方達の根性だけは認めてあげるワ。さて……じゃあ荷物、頂きましょうか♪」
 メイルを倒したシーラは、手近にいたyunaに手を伸ばす、だが!
「まだ…… オレを忘れてもらっちゃ困るぜ!」
「っ!?」
 シーラが振り向くと、あきおが立っていた。そう、彼は気絶こそしていたが、大したダメージは受けていないのである!
「でやぁぁぁぁあ!」
「しまっ……」
 最後にして最大、逆転のチャンス。一刀入魂、あきおは一気にシーラの懐に飛び込んだ。回避は――間に合わない!
 あきおの[居合斬り]が、今度こそシーラを捉らえた……様に見えた。
「ふぅ、やってくれるぢゃない。けど……」
 だが木刀は、シーラの僅かに手前で停まっていた。先に、シーラの[アイアンテール]が、カウンターになる形であきおの腹部に減り込んでいたから……
「残念。だけど良い攻撃だったヮ」
「がっ……は」
 パーティ最後の一人……あきおは倒れた。

 先程まであった陽の明かりは失われ……暗雲が、急激な広がりを見せていた。雨が振り出すのも時間の問題だろう。


  *  *  *  *  *

 シーラの完全勝利。yuna達は戦闘不能な上、気を失っていた。
「さて、もう抵抗は無いわよネ……」
 シーラは今度こそ、とばかりにyunaの荷物に手を伸ばすが……
「止めてくれませんか? そういうことは」
 シーラを制止する様に――凜とした声が、辺りに響いた。
「誰よ……こんなタイミングで現れる無粋なヤツは?」
 振り向くシーラの視線の先に……ライチュウが一匹。
「無粋なのは貴女ではないですかね……シーラさん?」
 ライチュウは何気ない足取りでシーラへ近付く。一見すると、お互い何の構えも無く見えるが……それは違う。張り詰めた空気が、そこに隠された臨戦態勢を物語っていた。
「煩いわネ……誰よアンタ?」
「さぁ……当ててみてください」
 ライチュウはざっと、黄色いコートを翻す。そのコートは雨に濡れているにも関わらず、軽々と翻った。
「? そのコート……」
 シーラは、その容姿にでピンと来た。五年前の戦いを生き延び、この世界を救った英雄の元人間の一人――秋葉。
 雨が……降り始めた。
「引いてもらえませんか? でなければ、私は貴女を倒しますが……」
 また一歩、さらに一歩とライチュウ……秋葉はシーラへ近付く。それに同調するかの様に、雨は強さを増して行く。
「倒す……? ハッ、やれるものならやってみなさいよ!」
 シーラは秋葉に勝てる、そう判断した。五年前の戦いでは戦うことを拒否し続けていた相手だ、強いという証拠など無い。
「死になさいよ!」
 シーラは[切り裂く]で秋葉に仕掛けるが、秋葉は[高速移動]で距離を取る。
「逃げる気!?」
「いえ…… 倒す気ですが」
 微笑を浮かべた秋葉の頬袋から、電流がほとばしる。これは……[雷]!
「そんな技……はっ!?」
 シーラは気付いた。今の天気は、雨。[雷]の命中率は……。
「らいらいら〜い!」
 掛け声と共に、極大の電撃が叩き落とされ……、
「ギャァァァァァァア!!!」
 [雷]の光が、シーラを包み込む!
 今思えば、この降り頻る雨も秋葉の[あまごい]だったのだろう。
 シーラはブスブスと黒煙を上げ……倒れた。
 秋葉は倒したニャルマーには目もくれず、yuna達の方に近付くが…
「さて、と……ん?」
 振り返ると、黒焦げになったシーラが……立っていた!
「わたしは……わたしはまだっ! 負けてないわ!」
「……懲りない方ですね……。あっ」
そこで秋葉は何かを思い出した。
「聞くのを忘れていました。貴女はジェノサイドクルセイダーズを知っていますか?」
「はぁっ?」
「なるほど」
聞いたことも無い単語に首を傾げるシーラの言葉に、秋葉は一人で納得した。
それが癇に障ったのか、シーラは殺意を露わにし、秋葉に迫る!
 秋葉はシーラに向かってダッシュをかける。これは[電光石火]でシーラと真っ正面からぶつかる気なのだろうか?いや……
「死んじまえやぁぁぁぁぁ!」
「正直不本意ではありますが、仕方無いですね……」
 ちょっと申し訳なさそうな顔を浮かべた秋葉は、凄まじい勢いで増速する。溢れ出す膨大な電気エネルギーが、自身の体にまとわり……まばゆいばかりの輝きを放つ。これは[電光石火]ではない、ありえない。この技は……!
 秋葉とシーラの身体が衝突し……吹っ飛んだのは、シーラ!
「がぁぁぁぁぁあ!?」
 シーラの身体は数十メートルほど宙を行き……轟音と共に、木に激突した。もはやシーラに動きは、無い。
「やっぱり、私的には多用したい技じゃないですね……」
 秋葉が今使った技――[ボルテッカー]は、攻撃の反動で、自らもダメージを受けてしまう。だがシーラは弱っていたし、レベル差があったので、ダメージは微々たるものだった。
「さて……では行きますか」
 秋葉は傷薬をいくつかyuna達の所へ置くと、シーラを背負って……その場を去った。シーラは多分、警察にでも突き出すのだろう。
 秋葉がいなくなると、暗雲は消え。……陽が、再び顔を出した。

  *  *  *  *  *


「……ぅ…………」
 メイルは眩しさで目を覚まし、手で顔を覆いながらゆっくりと目を開いた。眩しさの原因は、西の山から顔を覗かせる、夕日か。もう夕方になっていた。
 メイルは意識がはっきりするや否や、慌てて荷物を確認するが、荒らされた形跡は無く、無事だった。
「何でかな……痛っ……!」
 疑問はともかく、まだ身体は痛む。一晩寝たとは言え、HPは回復しきってないようだ。するとどうだろうか、都合良く目の前に傷薬があるのだ。
「傷薬が……? どうしてだろう……」
 更に重なる疑問。だがメイルは、取り敢えずその傷薬に手を伸ばす。
 身体に傷薬を吹き掛けながら辺りを見回すと……メイル以外の三人は、まだ寝ている様だった。皆もメイル同様、荷物は荒らされてない様に見えた。
「確かなのは、私達は生き延びられた……それだけですね」
 疑問は重なり続けるが、取り敢えずメイルはそう呟く。
 三人が起きたら、あきおとPQRに元人間なのか話を聞いて。それから共にヨスガシティを目指そう。メイルはそう決めた。
「不安だらけだけど……何とかなるよ、きっと!」
 メイルが見上げた空には、雲一つ無い。

 ……明日もきっと、イイ天気だ。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ゲンガーとサマヨールを90%近くレニーの力によって追い払った三人であったが、その張本人はぐっすりと眠ってしまい動けないでいた。したがって、今起きているのは刃とアルズである。
「どうしましょうか?」
 刃が尋ねる。
「1・起きるのを待つ、2・叩き起こす、3・置いていく、4・引きずっていく。どれがいいですか?」
 しばらく静寂に包まれる二人
「……1番と2番はともかく3番4番は冗談ですよね?」
「冗談じゃないですよ」
「…………」
「私たちの取れる選択肢がこれ以外にありますか?」
「確かにほかには考え付かないですけど、人道的並びに道徳的観点からするとちょっと……」
「……ですかね、やっぱり」
 はぁとため息をついた後、刃は辺りをぐるりと見回す。
「どうされたのですか?」
「いえ、もしもここがポケモンの世界……ダンジョンではなく、本編の世界だとすれば、アレがこの世界にはあるはずです」
 首をかしげるアルズに、刃は続ける。
「ポケモンセンターですよ」
 よく見れば、レニーの体にはたくさんの傷が残っている、多分かなり体に負担を掛けて戦っていたのだろう。そうなると寝ていたりきのみを食べるだけでは、体の回復はできない、つまり本格的な体力の回復が必要になってくる。
 それに刃としても、せっかくポケモンになったのだから、一度くらいあの回復を受けてみたいと思っていた。
「ほほう、ポケセンですか〜! 刃さんはカシコイですね〜!」
「はい、 とりあえず、町の中に戻らないといけませんね」
「じゃあ、善は急げってことで、さっそく行きましょう!」
 うきうきとしながらさっそく歩き出そうとするアルズに
「あ…… あの…… アルズさん、そっちではなく、町はあっちですが……」
「はぅ! スミマセンスミマセン!」
 刃が突っ込みをいれるのだった。
「あと、どうやって寝ているレニーさんを運ぶかを考えないといけませんね」
「それは、刃さんにお願いいたします。私は橋よりも重いものを持たない主義なので」
「すごく怪力なんですね」
「力仕事は男の仕事です。刃さん、任せました!」
「はぁ…… 分かりました」
 そう答えたものの、刃はこの前のグラエナの上での件で、ゼニガメが何か背負うのは無理だと知っていたので……。

  ずるずる
  ずるずるずる

 結果。レニーを引きずることになってしまうのだった。4番が正解。
「なんか罪悪感がひしひしとするのですが…… それにしても、なぜレニーさんは起きないんでしょうか」
「細かいところを気にしたら負けですよ。とっても疲れているから、ということにしましょう」
 フシギダネとゼニガメに引きずられるイーブイが往く。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

[554] 小説 《Dream Makers U》 第二章 (2)
あきはばら博士 - 2008年05月25日 (日) 19時02分

   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「やっぱり!あなた達も元人間なんですね!」
 喜びと驚きの入り混じった声をあげたのは、紫色の体。色違いシャワーズのメイルだ。
 ノモセの西方に広がる湿地帯。
 紆余曲折あって、yunaとメイルの二人と出会ったPQRとあきお。
 先程は慌しい状況の中での自己紹介だったため、今この場で改めてそれぞれの自己紹介と、互いにどんな状況にあるかの情報交換をしていた。

  *  *  *  *  *

「……つまり、お二方も元人間を探していたワケですか」
 自分に割り当てられた分の傷薬を消費しつつ、PQRが言う。
「うちらと同じで、君らも原因はわからないのね」
 yunaが言葉を返す。だが落胆した様子はなく、予想通り。といった感じだ。
「それで、その『サイサリス』ってお店を目指していたんですね?」
 メイルが引き継ぎ、確認するように問いかける。
「そういう事だな。『溺れる者はファラオも掴む』って奴だ」
「そりゃ『藁を』でしょうが!」
 自信満々に言うあきおにyunaが素早くツッコミを入れる。
「そうですよ。第一ミイラに湿気は厳禁ですから、人の溺れるような所には居ません」
「……それもツッコミになってない」
 ボケた発言をするPQRにも、yunaが呆れた声で返す。

「それにしても……これはどういう事なんでしょう?」
 使い終わり、空になった傷薬を拾い上げてPQRが呟く。
 この傷薬は、メイルが言うには「目が覚めたら置いてあった」らしい。誰が置いていったのかはわからないが、これ幸いとばかりに使わせてもらったという訳だ。
「さっきのシーラが置いていった……ワケじゃ無いよな?」
「それは無いね。うちらも君らも、荷物は無事みたいだし」
 yunaがあきおの物言いをばっさりと斬って捨てる。
 ……もし荷物が荒らされているなら、ささやかなお詫び、といった意味合いで傷薬を置いていったとも考えられる。
 だが、荷物は何とも無い。4人にはさっぱり事情が飲み込めなかった。
「……んー、考えても仕方が無いですかね。きっと皆が倒れた所で、正義の味方が颯爽と現れて退治してくれたんですよ」
「んなアホな。今時そんな変わった人居ないって」
 ご都合主義も良いところだ、とばかりにPQRとyunaが笑いあう。

  *  *  *  *  *

「……ところでPQRさん」
「どうしました、メイルさん?」
 怪訝な様子のメイルに、妙に爽やかな声で返すPQR。
「何故さっきから私の方ばかり見ているんですか?」
 ……そう。さっきからPQRはずぅっとメイルの方を見ているのだ。
 yunaと話す時は流石にyunaの方を見ているが、そうでなければ視線は常にメイルに向けられている。
 ちなみに、あきおの方はほぼ見ていない。
「それはさっきからうちも気になってた」
「あ、俺も」
 ……PQR以外の3人共通の疑問のようだ。
 メイルとあきおとyunaの視線を受けながら、いやに上機嫌な様子でPQRが口を開く。

「何故って、メイルさんがあまりに素敵だからですよ」

「……え?」
「「……はぁ?」」
 何を言われたかわからない様子のメイル。揃って素っ頓狂な声をあげてしまうあきおとyuna。
 それはそうだ。会ったばかりの相手にいきなり何を言い出すのかと思えば、彼は『素敵だ』などとその口で言ったのだ。
「……頭の変な所でも打ったのか?」
「かもね。さっき、君、頭から落ちたしな」
 哀れむような様子で言いたい放題のあきおとyuna。
 メイルはと言うと……反応に困っているようだ。

「そのキュートな耳ヒレ、真っ白な襟巻き、可愛らしい瞳。何より前足と尾ヒレという、シャワーズだからこそ許される組み合わせ! その尾ヒレの滑らかかつちょっとざらっとしたその鱗独特の質感! それだけでも十二分に価値があるというのに、そうそうお目にかかれない色違いなんですよ!? それが今オイラの、いや俺の前に居るんです!! これを素敵と言わずして何と表現すれば良いんですか!!」

 そう。PQRはイーブイ系が何よりも大好きなのだ。マニアといってもいい。
「ちょっと触って良いですか?ほお擦りして良いですか?や、むしろさせてください。お願いしますよぅ〜」
「え?ちょっと……ひゃ!?」
 いつの間にか甘えるような目つきでメイルを上目遣いに見上げ、その前足を握り締め、かと思えばメイルの尾ひれに取り付いてほお擦りを始める。
 ……凄まじい豹変振りである。
「放せ! このっ!」
「気色悪いから止めろやこの変態セクハライーブイ!!」
「天誅ッ!!」
「へぶしっ!!」
 間も無くメイルとyunaとあきおからの集中攻撃に遭い、PQRは沈黙した。

  *  *  *  *  *

「ともかく目的が一緒なら、お二方も一緒に行きませんか?」
 ひとまず落ち着いた様子のPQRが、yunaとメイルにそう促す(今はPQRとメイルの間にあきおとyunaが入り、可能な限り距離を開けている)。
「うちは構わないよ。他に手掛かりになりそうなモノも無いし、元よりそのつもりだったしね」
 メイルも同じ意見のようで、首を縦に振る。……PQRからはちょっと距離を置きたい様子だが。
「よし、決定! 二人ともヨロシクな!」
「方角的にヨスガに寄った方が良いでしょう。……ひょっとしたら『サイサリス』はその途中にあるかも知れませんが」
 PQRの意見は他の3人も同じ事を考えていたようで、満場一致で決定となったのだった。

 4人となった彼らの道程は、まだまだ先は見えないのだった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「アッハッハ! なんだ、道に迷っただけだったのかい」
 ガルーラおばちゃんはセイラの手当てを終えると、陽気に笑い飛ばした。
「あんまり笑わないで下さいよ。恥ずかしい……」
 セイラは顔を赤く、正確にはコアを赤くして先ほどの自分のはしゃぎぶりを振り返っていた。
 「バルタン星人」に「スペシウム光線」……確かに客観的に見るとこれはかなり……。まあ、もっともこのネタがこの世界でも通用するのかは不明だが……。

「で、これからどこへ行くんだい? この辺りは女の子が1人で歩くには危険だよ」
「え……?」
「知かなかったのかい? さっきこの辺りで、オニドリルが3匹がかりでチコリータの女の子を襲う事件があったんだよ」
 セイラが迷い込むほんの数分前、この辺りではオニドリル達によるチコリータの婦女暴行事件があったのだ。
 そう、ここは先程までチコリータの若菜がいた場所……ハクタイシティのすぐ手前だ。
「できればうちに泊めてあげたいんだけどねぇ…… でも、おばちゃんも仕事があるし……」
 ガルーラおばちゃんが申し訳なさそうにお店の品々を見る。
 おそらく、これからいろんなお客がアイテムの引き出し・預け入れをおこなうところなのだろう……。
「だ、大丈夫ですよ! 私なら変態にあってもビビビーってやっつけるから! シュワッチ! シュワッチ!」
「シュワッチってあんた……」
 ガルーラおばちゃんがあっけにとられてコアを点滅させるセイラを眺めていると……。
「〜♪ 〜なのだ〜♪」
 ハクタイシティとは逆の方向から女の子の声が聞こえてくる
「おや、あの子は……メスフィちゃんじゃないか」
「ガルーラおばちゃん、こんにちはなのだ♪」
「またいつものだね?」
「うん! お野菜と果物をお願いします、のだ!」
 メスフィが告げるとガルーラおばちゃんは手早く倉庫の中から食材と思われる野菜や果物を取り出す。
「おねえちゃん、こんにちは、なのだ♪」
 メスフィは横にいるセイラに気が付いたのか、にこにこ笑いながら挨拶をかけた
「あ……こんにちは!」
「おねえちゃんどこからきたのだ?」
「この子はね……」
 ガルーラおばちゃんがメスフィにこれまで起こった事のあらかたを話し始めた。

  *  *  *  *  *

「……というわけ。そこで泊まる場所がなくて困っているんだけどね……」
「私のことなら平気ですって! シュワ! シュワ!」
「シュワ! シュワ! なのだ♪」
 ヒトデマンのセイラのポーズが気に入ったのか、メスフィが横で真似てみる。
「真似しないでよぉ! メスフィちゃん!」
「だってお姉ちゃん、おもしろいのだ〜!」
 周囲に笑いがこだまする。
「うん、わかったのだ! それじゃ、お母さんに頼んでみるから私のおうちへ行こーなのだ!」
「え? ……いいの?」
 メスフィはセイラの五角形の星の右にあたる手を口でくわえると、そのまま自分の
 家へ案内しようとした。
「いいのだ! ちょうどこれからご飯のしたくなのだ♪」
 セイラはメスフィの誘いに乗ることにした。ポケモンの家に泊めてもらえるなんて人間からして見れば滅多な機会ではない。それに、なんだかイーブイのメスフィからはこうもフレンドリーな雰囲気があったことも手伝って、少し好奇心に駆られたセイラは快く同行してみることにしたのだ。
「メスフィちゃん、ありがとうねー!」
 ガルーラおばちゃんはハクタイシティへ向かって行くセイラとメスフィの姿を見送って手をふっていた。

  *  *  *  *  *

「ただいま〜! なのだ〜♪」
「おじゃましま〜す」
 セイラはメスフィに連れられて小さな家にやってきた。
 円状のホールのような造形で、中は可愛い花や切りかぶのテーブルに寝床のようなワラが敷き詰められたスペースもある。例えてみるならポケダンのイーブイの基地そっくりな家だ。
「おかあさーん! おかあさーん! おともだちつれてきたのだー!」
「うーん、誰もいないみたいだね」
 どうやら家の中は留守のようだ……。
「……あれ?」
 でも、その代わり書きおきらしきメモが置いてあった
『メスフィちゃんへ お仕事で遅くなります。スープを温めてあるから自由にたべてね☆』
 その前にはおいしそうなスープが鍋いっぱいに温められている。
「お母さんはお仕事中みたいなのだ……」
 メスフィはしばらく家の中を見回して、ガルーラおばちゃんからもらった野菜や果物を1つ1つ壁の辺りにおろす。
「このスープは……」
 セイラは鍋の中のスープを眺めていた。
「これはね、お母さんお手製の『アカリンスープ』って言って」
「うんうん……」

「ものすごーく、まずいスープなのだ」
「……え?」

 セイラの顔が一瞬とまる。
「ほんとうに、今まで食べた中で信じられないぐらいまずいのだ」
「信じられないぐらいって……ベトベタフードぐらい?」
 ……しーんと静まり返ったあとで
「どう? なんだか食べたくなってきたでしょ? なのだ」
「う……うん」
 メスフィはお皿に一杯のスープを注ぐと「はい」とセイラに手渡した。
「これがアカリンスープ・・・ぱくっ」
 セイラはアカリンスープをスプーンに一杯だけ口にしてみる(口と言ってもヒトデマンなのでコアに吸収するような感じだが)。
「もぐもぐもぐ……」
「ど、どう……なのだ?」
「…………」
「…………」
「cvフォエwcvイウd。オgp、、6p!!!」
 セイラが言葉にならない程コアを点滅させ悶絶している!
「(な……なんなのスープ!? なんだか甘すぎるというか……糖分の塊みたいな……うええっ!!)」
「…………」
 それを見ていたメスフィも、
「ぱくっ!」
 セイラの持っていたお皿のアカリンスープを口にした。
「37ビrgtケgホ9チエ8ホt@イッ!!」
 メスフィも言葉にならない声をあげ、とんでもない顔になりながら転がりまわった!
「……ぱくっ!」
「ぱくっ!」
「ルtgtォrfトフギvグlgrfヂオ!!」
「rfkw。チォtfギgfェオ9エ39エrヅ!!」
 セイラとメスフィは再びスープを口にしては凄い顔をする
 不味いのに思わず口にしたくなるアカリンスープ……いったいどんな味なんだ?
「こ、これ以上食べるとお母さんの分がなくなっちゃうからやめておこう? なのだ」
「うん、私もこんなまずい、というか甘過ぎるスープ初めて食べた……」
「でもお母さんの大好物なのだ」
「こんな激甘スープがおいしいだなんて……」
 とりあえず、今日のご飯は無難なところで[セカイイチ]で済ませよう、と2匹は大きなリンゴを取り出し腹ごしらえを済ませた。
「…………」
「ぱくっ!」
「やめようね」
「うん……なのだ」
「(甘ささえなければ、おいしいスープなんだと思うんだけどね……)」
「そういえば、お姉ちゃん、どこから来たのだ?」
「ああ……メスフィちゃんになら話してもいいかな」

  *  *  *  *  *

「ええー!? 人間の世界から? ……なのだ!」
「えへへ……驚いたでしょ?」
 セイラがコアを照れるように点滅させながら話した。
「ううん! メスフィもさっき人間だったチコリータのお姉ちゃんといっしょだったのだ!」
「えぇっ! それって本当?」
「うん! ちょうどソノオタウンにいるのだ♪」
 元人間のチコリータ、セイラからみてもこれは興味がある!
「よかったらそこに案内してくれないかな!」
「ええ〜? めんどくさいのだ〜・・・」
 それは面倒くさいだろう、特に面倒くさがり屋のメスフィにとっては、さっき行った道を再び逆戻りすることになるのだから。
「そんなこといわないで、ね?お願い!」
「うーん……遊べるのだ??」
「うん、いいよ! 沢山遊んであげるから! へアッ! へアッ!」
 ヒトデマンのセイラがコアをピコンピコン点滅させて語りかける。
「わーい! それならいいよ! ……なのだ! メスフィについてきてなのだ♪」
 メスフィはにっこり笑ってすっくと立ち上がると、後ろを向き尻尾を指のように振りでセイラに合図した。
「そのエルジアっていうヒトカゲのいるお店には他に誰がいるのかな?」
「いってみないとわかんないのだ♪」

 セイラとメスフィは一路再び、ポケまんまのお店「サイサリス」に向かって再び出発した。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「……ってそれは突っ込みどころとちゃうがなー!」
 突然。謎の台詞を吐いて、レニーが目を覚ます。
 時計を見た、そろそろ夕方といったところだった。
「れ、レニーさん……!? スミマセン、何事ですか?」
 隣のベットで眠っていた刃も、レニーの声に目を覚ました様だ。
 アルズも起きて、目をぱちくりさせている。
「(……んん? ベッド?)」
 レニーは首を傾げた。
 ゲンガーやらと戦ってからの記憶が無いが、その後、一体どうなったのだろう。
 ここは一体何処だ?
 訳の分からない顔をしているレニーを見て、刃が説明する。
「ここはポケモンセンターですよ。あのバトルの後、眠ってしまったレニーさんを運んできたんです」
 引き摺って。
 とは、言わなかった。……と言うより言えなかった。
「さぁ、次はレニーさんが説明する番ですよ」
 と、アルズ。
「はぁ? な、何をや……?」
「決まってるじゃないですか、さっきの寝言についてですよ。大絶叫だったから、さぞや凄い夢を見たんですよね?」
 アルズの目がキラキラと輝いていた。
 どうやら、レニーの夢がどんなものか期待しているようだ。
 だが当のレニーは、なんとも言えない微妙な顔で、首を傾げてみせた。
「それが……何や、よう分からんねん」
「『よく分からない』? そんなに変な夢だったんですか」
「刃さん、変な夢=面白い夢ですよ」
「何やその訳分からん解釈は」
 ピシャリと、レニーがアルズに突っ込みを入れる。
 刃にはもう、自分達が漫才トリオにしか見えなかった。
「まずな、ゲンガーとサマヨールと戦ってる最中に、坂から転げ落ちて行くんや……」
 夢の内容を要約するとこうである。
 あの戦闘中に、坂を転げ落ちて……恐らくこれは、引き摺られている最中のことだ。
 坂の下には何故か温泉が、傷もみるみる治っていったらしい。傷が治っていったと言うことは、治療している時のことだろう。
 その後御湯がゆっくり流れだし、船の様に揺られながらどこかの岸辺についた、と、これがラッキーに運ばれ、ベッドに寝かされた時。
 ほーぅ、と、納得したような声をアルズが漏らす。
「……そう言う訳や。はぁー、眠……。 さ、はよ寝よ寝よ」
「そうですねー。……って、それでさっきの台詞にどう繋がるねーん!」
「アルズさん、(関西弁が)うつってる! うつってる!」
 一同、釈然としないものを感じながらも、とりあえず全員起きたということで、情報局に向かうことにする。
 三人は身支度もそこそこに……元々特に何も持っていない身だが、ポケモンセンターを後にした。
 時刻はもう夕刻、だが疲れも取れて足取りは軽やか。
 目的地である情報局に、間も無く辿りつく。情報局は、今度はちゃんと見つかった。
「もしかしたら、ここには無いかと思ってしまいましたよ……」
「せやなぁ……」
 刃とレニーは安堵した。
 二人は、この世界で必要最低限なことを聞き終わり、ロビーに戻ってきていた。
 しかし、アルズが居ない、別行動らしい。
 何でも、「聞きたい事が他にあるから」と言って、何時の間にか居なくなっていた。
 まさか置いて行く訳にも行かないので、二人はこうして、ロビーのソファーに座って一息ついている訳だ。
「すみまっせーん!」
 来た。
 変わらないハイテンションでアルズが戻って来た、五月蝿い。
「って五月蝿いわい! 周りの迷惑考えんかい!」
 ご尤もである。
 スミマセン、と苦笑いで何度もアルズが謝った。
 思わず、見ていた刃も苦笑いを零す。
「じゃあ、さっき聞いた事を、アルズさんにも教えますね」
「うっ……お、お願いします」
 覚えている限りで、刃とレニーはアルズに話す。
 街のこと、街の外のこと、食べ物はどうするか、そしてお金のこと。
「で、お金は人間世界から来たばかりだと伝えたら少し貰えました」
「ふぉぉおうっ! なんかもうしわけないですね、良いなぁ……!」
 アルズはいちいち感動しながら、大きいリアクションで返した。
 あまりのテンションの高さに、レニーは少し呆れている。
 情報局員から聞いた話を伝え終え、最後に刃は問う。
「ところで、アルズさんは何を聞いてきたんですか?」
 その言葉に、ピタリと動きを止める。
 アルズは考える様に顔を俯かせて、やがて少し困った笑顔で言った。
「何でも有りません、ちょっと私事です」
 と。
「(何だったのかな…?)」
 内心、刃にはあの表情が引っ掛っていた。
 以前泣き出しそうになった時もそうだが、彼女がテンションを下げた時は、大抵何か嫌なことがあったのだ。
 だが、心当たりがある訳でも無し。
 最終的に彼は、この件に関して考えるのを止めた。
「さーて、次ぎの行き先は212番道路ですね!」
 それに、現在彼女は元気そのものだった。
 が、今の発言に気になる所があったので、また漫才になるのだろうなぁと思いながら、彼は敢えて突っ込む。
「え? 212番道路って……やけにピンポイントで指定しましたね、街じゃないんですか?」
 彼女は、輝く瞳で即答した。
「だって泥に嵌って見たいじゃないですか!」
「なんちゅー理由や!」
 何か色々駄目な理由により、進路決定。
 三人の珍道中は、最終的にどうなることやら。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ハクタイシティから少し進むと、大きな池に一直線の吊り橋が架かっているところがあった。
「この橋を渡るとハクタイの森! そして、そこを抜けるとソノオタウンなのだ♪」
 意気揚々と吊り橋を渡るセイラとメスフィ。すると、不意に突風が吹いた。

  ビュオオオオオオオオーーーー!! ギィ! ギィ!

 突風で吊り橋が揺れ、4足歩行のメスフィは驚いたように目をつぶるが、無理やり2足歩行をしていてしかも足先がとんがっているセイラは2,3歩よろけ……。
「のわぁっ!?」

  ドポン!!

「セイラお姉ちゃん!!!」
 水音を聞いたメスフィが叫ぶ。
「うち、水泳は25mがばた足でやっとなんだよう……。しかも回っているし……。あ、水ポケだから息は続くのか、苦しくない……」
 最初は水の抵抗がセイラを回していたが、段々セイラを中心に渦潮ができ初め、水の抵抗ではなく、セイラ自身が回っていた。
「大きな渦潮なのだ……。」
 吊り橋の上で池を心配そうに見るメスフィ。その直後、渦潮の中心から何かが飛び出してきた。
「とーーーーーめーーーーーーてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 ぐるぐる、と高速回転しながら叫ぶセイラが飛び出してきた。
「すごい! [高速スピン]なのだ!」
「メスフィちゃん! 感心してないで助けてぇぇぇぇぇぇ!!」
 しかし、高速回転しているセイラにメスフィが闇雲に突っ込めば、その小さい体は池の中に弾き飛ばされるだろう。
「痛いのは嫌だけど……お姉ちゃんを助けるためなら! なのだ!」
 メスフィは助走をつけ思い切りセイラに突進した!

  バチン!

 凄い音がしてセイラは対岸へ、メスフィは吊り橋の上に弾き飛ばされた。
「セイラお姉ちゃん!」
 メスフィが駆け寄ると、セイラは逆さまに木に衝突してたんこぶを作っていたが、平和そうに眠っていた。
「良かったのだ……。」
 安心するメスフィ。
「ちょっと疲れたし、セイラお姉ちゃんが起きるまで休んでるのだ♪」
 メスフィはセイラを木からはがすと、木陰で休み始めるのであった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ふん、形勢逆転だと!?」
 オニドリルは叫び、空高く舞い上がった。
 そして、急激に地上へと向きを変えると、まるで弾丸の如くクラヴィス達に突っ込んでゆく。
「悪いが、三匹の中じゃ俺が一番強ぇんだよ! [つばめがえし]!!」
 [つばめがえし]は翻弄させて確実に相手に当たる技。避けることは、まず不可能だ。
 しかも、オニドリルのスピードは尋常ではない。
 考えている暇は、なかった。クラヴィスは、漆黒の刃を振りかざした。
 その瞬間、彼女の周囲に暴風が巻き起こる。まるで竜巻のように吹く、風の渦だ。
「ぎゃぁ!!」
 オニドリルは、その風に阻まれ、はじき返されてしまった。
 風を操って、その中から真空の刃を繰り出す技……[かまいたち]だ。
「いっけぇぇ!!」
 クラヴィスの声と共に、竜巻の中から白く光る刃が何本も飛び出し、オニドリルに襲い掛かる!
「くそ、簡単に食らってたまるかよ!」
 オニドリルは何とか体勢を立て直し、空に向かって放たれた[かまいたち]を降下することでかわした。
 かわしたその目の前に――黒琉がいることに、気付かぬまま。
「!!?」
 オニドリルは、クラヴィスの誘導にまんまと引っかかったのだ。
 彼は慌てて向きを変えるが、オニドリルが黒琉の射程内から逃げ切るよりも、黒琉が技を繰り出すほうが早かった。
「これで終わりだっ! [トライアタック]!!」
「ぎゃぁぁぁああ!」
 尻尾の先から放たれた三色の光線が、オニドリルを空へ撥ね上げ、そのまま墜落させた。
 コピーしたばかりの[トライアタック]を、彼はなんとかモノに出来たようだ。
「ふぅ……た、助かった……?」
「どうやら、そのようね……」
 オニドリルが3匹とも動かなくなったのを見て、周囲で見ていたポケモン達がぞろぞろと集まり始めた。
「さて、クラヴィスさん。これからどうします?」
 傾きかけた日を見ながら、黒琉が問う。
 少し考えた後、クラヴィスは取り敢えず今夜泊まるところを探すことを提案、黒琉もそれに同意した。
 戻れなくなってしまったものは仕方ない。こうなったら、この世界をとことんまで回りつくし、戻る方法を探してやろう。
 口には出さずとも、その点では2人の意見は一致していた。

 到着した警察のガーディ達にオニドリルを引き渡し、ついでにポケモンセンターの位置を尋ねてから、2人はポケモンセンターに向かい、今日の疲れを取ることにした。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「とっておきー ふくーつーのー こーこーろもーって−!」
「もーってーなのだ♪」
 ハクタイの森にセイラとメスフィの元気すぎるくらいな歌声が響いた。
 無事生還したセイラはメスフィに歌を教え、こうやって一緒に歌っていたのだ。
 その声の大きさに驚き、ケムッソやミミロルは隠れ、ヤミカラスは飛び立つ、ムウマは姿を消す始末だった。
「?」
 セイラは急に見られているような視線を感じ、右を向いた。

  ざぁぁぁぁぁ……

 風がセイラとメスフィの間をすりぬける。目の前にあったのは巨大な洋館だった。ハクタイの森の名所、もりのようかん。
「? どうしたのだ? ……ああ!」
 あ然として洋館を見つめているセイラの見た方を見ると、メスフィはやや怯えながら言った。
「アレはこわーいおうちなのだ、……さっきもおばけが出てきたのだ」
「……そう。」
 メスフィの話が耳に入らない。セイラはある一点、洋館の屋根を見つめていた。
「……人?」
 ミステリー作品にあるような輪郭だけの人間が座っているように見えた、それも髪は長く、女子高生ぐらい。まるでセイラの姉のような……。
「セイラお姉ちゃん!」
 メスフィに呼ばれ、セイラは我に返った。
「ハイ! 何でしょう! って……なにやってんだウチは。」
 思わず敬語になるセイラ。自分ツッコミまでして、ようやく現実に目が向いた。
「どうしたのだ? さっきから屋根を ……もしかして、またお化けがでたのだ……?」
「違うんだ。あそこに誰か……あれ? 人が居ない!」
 セイラはもう一度屋根を見たが、さっきの人影はどこにも居ない。メスフィにその事を話すが、
「この世界に人間が居るはず無いのだ! それに、お姉ちゃんが見ている屋根を見たけど、誰も居なかったのだ。きっとなにかと見間違えたのだ♪」
「そう……だよね。見間違い……だよね。」
 セイラは未練そうに屋根を見るが、どうしても居ないと分かると歩き出した。
「よし、気を取り直して今度は『バトルフロンティア』だ!」
「オッケーなのだ♪」
「光るーだーいちに立ちー 永久のーバートル誓うー!」
「誓うーなのだ♪」
 再び元気よく歌い、歩き出す2人。ハクタイの森はまたもや大騒ぎになった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ほら、着いたよっ! ここが私の家!」
 エルジアのその声に若菜が見ると、目の前に小さな店があった。
 ゲームでの描写通り、ここソノオタウンは花で埋め尽くされていた。その花畑の中に佇む、可愛らしい感じの店。入り口の上部にかけられた薄桃色の看板に躍る緑色の文字を、若菜は声に出して読んでいた。
「『ポロック・ポフィン・ポケまんまの店 サイサリス』……?」
「そう! お父さん、お母さん、ただいまー!!」
 エルジアは元気良く自分の帰宅を知らせ、店の中に入った。若菜も続いて、「お邪魔します」と言いながら店内へ。
 四方の壁に並んだ棚には、所狭しとポロックやポフィンが陳列されている。中には木の実そのものや、若菜がゲームの中では見たこともない食べ物もあった。恐らくこれが『ポケまんま』だろうか。
 店の突き当りにはカウンターがあり、その更に向こうはのれんで仕切られていた。外観は2階建てだったので、のれんの奥と2階が住居だと思われる。
 若菜がそんなことを考えていると、エルジアの声を聞きつけて、カウンターでしゃがみこんでなにやら作業をしていたポケモンが顔を上げた。
「お帰りなさい、エルジア。あら、お友達も一緒?」
 そのポケモンが伝説のポケモン――ラティアスであるのを見て、若菜の思考は停止した。
 更に、そのラティアスが、どこかで見たようなゴスロリの衣装を着ていることに2度驚いてしまう。
「え……えぇぇぇぇ!!?」
 二重の驚きが、素直に声に出た。
 エルジアは、不思議そうに首を傾げる。だが、ラティアスの方は若菜が驚く理由に見当がついたのだろう。苦笑いをして、カウンターから出てきた。
「若菜? どしたの?」
「え、いや……確かにここはポケモンの世界だし、パソコンの中にあるし、ここにいたっておかしくないけど……。もしかして……サナスペの、ラティアス?」
 そう言う若菜にラティアスは笑ってみせ、質問には答えず逆に訊き返してくる。
「ところで……そういうふうに驚くってことは、やっぱりチコリータさんも人間なの?」
「あ、はい、私は若菜といいます」
「メスフィから預かってきて、私も詳しいことは聞いてないんだけど……なんだか若菜さん、元の世界に帰れなくなってしまって、迷っちゃってるみたいなの。だから、お父さんに相談して力を借りようと思うんだけど……」
 エルジアはそう言って、店の奥を覗こうとした。
「木の実を採りに行ってるから、もうすぐ帰ると思うわ……ほら!」
 ラティアスが言い終わるか終わらないかといううちに、店の扉が再び開き、1体のポケモン――ジュカインが入ってきた。

「なんだ、帰ってたのかいエルジア」
「あ、お父さん!」
 温厚そうに細められているが、その奥にどことなく鋭さを感じさせる瞳は、片方を眼帯で覆われている。見慣れないジュカインの容姿に若菜は一瞬尻込みするが、エルジアやラティアスの嬉しそうな様子を見て、そしてジュカインの人の良さそうな笑みを見て、首を横に振った。
 どうやら、エルジア達に絶大の信頼を寄せられているようである。悪い人なはずがない。
 このジュカインがエルジアのお父さん、ラティアスがお母さんであるらしかった。両親どちらもと娘の種族が違うのが少し気になったが、家庭事情のタブーに触るかもしれないと、若菜は敢えてそこに言及しなかった。
「え〜と……ただいま、でいいんでしょうか……」
 そのジュカインに続いて入ってきたのは、エアームドだった。その背中に、木の実が満載のカゴを背負っている。
「あれ、お父さん、その人は?」
 てっきりそのエアームドもエルジアの親戚関係かと思ったら、彼女が疑問の声を発したので、若菜はエアームドに視線を移す。先程の声の感じでは、男性なのか女性なのか、判断に迷うところがあった。
「あぁ、彼はラク君といってね。この店の情報を手に入れて、わざわざ来てくれたんだ。話を聞いたら、元々はポケモンじゃなかったって言うから……」
 ジュカインの言葉を途中で遮り、若菜は声を上げる。
「え、じゃ、じゃあ、ラクも人間!?」
「も、ってことは……チコリータさんも!?」
 そのことを知った若菜が現時点で尋ねるべきことは、ただ一つだった。
「ねぇっ、やっぱり、ラクも帰れないの?」
「あ、うん、そうなんだ……どうやっても帰れなくて困ってて――って、じゃあチコリータさんも? 僕だけじゃなくて!?」
「あの……お父さん、これ一体どういうことなの?」
 この場の混乱を収拾し状況を把握するために、ジュカインは言った。
「取り敢えず……この状況を、整理させてもらっていいかな? ――そうそうチコリータさん、自己紹介がまだだったね。僕はアッシマーMkU量産型、長いからアッシマーと呼んでくれて構わないよ」
「あ、はい! 私は若菜といいますっ」
 反射的に自己紹介を返す若菜に「若菜ちゃんだね」と頷いて、アッシマーは皆に向き直った。

  *  *  *  *  *

 サイサリスを訪れたラクは、アッシマーに自分が元人間であること、現実世界に帰れなくなってしまったことを説明した。アッシマーは、自分にも原因ははっきりと分からないと言い、しばらくサイサリスで様子を見ることを了承してもらった。するとラクは、サイサリスがそこそこ繁盛しており忙しい店なのを知って、ここに滞在する以上は何か手伝わせて欲しいと言い、アッシマーはそれならばと木の実収集を手伝ってもらっていた。
 ――これが、アッシマーとラクが一緒に登場した理由である。

 さて、若菜が自分も帰れなくなったことを告げると、アッシマーは少し黙ってから、考え考え口を開いた。
「そうか、そんなことが……。僕らのやり方に、まだまだ不十分な点があったのかもしれないな」
 最後の方はほとんど独り言だったが、若菜はどうにか聞き取ることが出来た。
 そして、内心で首を傾げる。僕らのやり方、とは……?
「若菜ちゃん、ラク君」
「はい?」
「実は、僕も元人間なんだ」
「……え?」
 アッシマーに突然そんなことを言われ、若菜は上手く反応できなかった。
 どう考えても、結婚して子供までいるという、この世界が知られる前から住んでいそうなアッシマーが、どうして元人間だなんて言い出すのだろう?
「少し長くなるけど、聞いてもらえるかな?」
「あ、はい!」
 もしかしたら、元の世界に帰る手掛かりを聞けるかもしれない。
 それに、このアッシマーというジュカインの生い立ちには、二人とも純粋に興味があった。
「そう、5年前だね。僕らは、とある事件が原因でパソコンに吸い込まれ、ポケモンになってこの世界に来てしまったんだ――」


 『ポケ書』の住人だったアッシマーらは、訳の分からぬまま、『ドリームメーカー』と名乗る謎の集団による理不尽な攻撃に遭った。
 『ドリームメーカー』により危機に晒されていたポケモンの世界を守るために、そして元の世界に帰るために、彼らは冒険し、敵と戦ったという。

「色々なことが、あったな……」

 そう言って一瞬だけ遠い目をしたアッシマーは、すぐに現実に戻ってきて話を続けた。
 結局最後は、『ドリームメーカー』を裏で支配していた者を倒し、ポケモン世界の平和を取り戻すことが出来た。そしてその時に、ポケモンの世界に残るか、元の世界に帰るかのどちらかを、皆は選ぶことになったらしい。
 アッシマーのようにポケモンの世界に残り、『ドリームメーカー』を再建することになった者と、現実世界に帰った者と。
 お互いが、ポケモン世界を現実世界とつなぎ、皆が自由に行き来できるようにする為に尽力したそうだ。
 そして最近、ようやく二つの世界をつなぐルートを確立させることに成功した――。


「そうだったんですか……」
 自分が気楽に出掛けていた、この世界。『ポケ書』の噂通り、ポケモンになれる世界。
 その真相を知り、若菜もラクも少なからず驚いていた。
「でも、元の世界に戻れなくなった理由は、今この段階では僕にも見当が付かないんだ。ごめん」
「あ、いいんです、そんな……」
 ラクはそう言ったが、落胆の色は隠しきれていなかった。若菜も同様である。
 この広大なポケモンの世界で、どうやったら元の世界への手掛かりを見つけることが出来るのだろう――?。
 だが、意外なことにアッシマーは続けたのだ。
「でも、それを効率よく探す方法なら、あるかもしれない」……と。
「本当ですか!?」
 アッシマーは頷いた。
「最初はラク君一人が帰れなくなったのかと思ったから、時間が経てば直るかもしれないし、原因もそんなに大きなものじゃないだろう、と高を括っていたんだけどね……僕が正体を教えて、深く関わらなくても大丈夫だ、と。ごめん、この目算は多分に甘かったみたいだ」

 帰れなくなった元人間が、もう一人現れた。これはもしかして、他にもポケモンの世界から出られなくなってしまった人が、沢山いるかもしれないということではないか。

 そう、アッシマーは言うのだ。
 彼の言葉に納得すると共に、若菜もラクもアッシマーの言いたいことが理解できた。
 その元人間達で、手分けして元の世界に帰る手掛かりを探し出そう、というのだ。
 しかし、どうやって彼らを集めるというのだろうか?
 彼女が首を傾げていると、アッシマーはラティアスを見た。ラティアスは彼が言いたいことを察したのだろう、すぐにのれんの奥に消えると、何かを手に持って戻ってきた。
 ラティアスはそれを若菜とエルジアに見せる。店の照明を受けきらきらと輝く、朝露のような色のペンダント。
「お母さん、これ……! すごく大切なものだって言ってたじゃない!」
 思わず声を上げたエルジアに、ラティアスは「仕方ないわ」と笑った。
「緊急事態だものね」
「ラティアスさん、これは……もしかして」
 言いかける若菜に、ラティアスは頷いた。
「これは、『こころのしずく』。私の力を何倍にも強めてくれる、私の宝物よ」
 しかし、何故これを持ち出してきたのだろう……?
 疑問に思う若菜に、ラティアスは言った。
「これから私が、『こころのしずく』の力で強力な[テレポート]をかけ、元人間達を全員ここに呼び寄せるわ」
 それから、ただし、と付け加えた。
「あまり遠くにいる人には、届かないかもしれないけど……とりあえず、集まるだけ集めてみる」
「そうして集まった皆で、手分けして探そう。元の世界に戻る方法を」
「うん、そうだね! そうすればきっと早いよ、私も手伝うしね!」
 そう言ってくれるアッシマー一家に、若菜もラクもただただ頭を下げて感謝するほかなかった。
「じゃあ――」
 ラティアスが目を閉じると、彼女の全身を薄い光が包み込んだ。それに呼応するように、『こころのしずく』が光りだす。
 その光はやがて若菜達の周りに飛散して、それぞれの場所で色々なポケモンの姿を形作った。


  *  *  *  *  *


   そして……――。

 光が形作るポケモン達の数を、若菜は目で数えた。
 一、ニ、三……十……十二……っていくらなんでも多すぎやしないか?
 さすがにこの数は予想していなかったのだろう、ラクも目を見開いている。
 そして、光が弾けた瞬間――店内は、上を下への大騒ぎになった。

「ガンガンすすめかーぜきってー、ガンガンすすめさいごまーでー!」
「さいごまーでーなのだー♪」
 一際大きな声を上げているのは、ヒトデマンとイーブイ。このイーブイの方は、口調から考えてまず間違いなくメスフィだと若菜は踏んだ。
 どうやら二人は歌っているようである。しかし、ところどころ音程は外れるし、メスフィなど歌詞の最後にいちいち「なのだ」を挟むので、曲調がすでに変わってしまっている。そして、何よりこのとんでもない大声だ。もし、他に誰もいないところで聞いたら耳をふさぎたくなるところだろう。
 だが、この喧騒の前では普通の声に聞こえてしまうから不思議だ。

「おい誰や、このコース選んだんは! 泥に嵌ったまま出られんようになってしもたやないか!!」
「……さぁ、誰だろうねぇ……」
「おい目ぇ逸らしなやそこのフシギダネ」
「――ちょ、ちょっとレニーさんアルズさん、ここどこですか!?」
 そう騒いでいるのは、泥だらけのイーブイ、フシギダネ、ゼニガメ。ゼニガメの発言で、レニーとアルズと呼ばれたイーブイとフシギダネは辺りを見回し、同時に「わぁっ!!?」と驚きの声を漏らす。どうみても漫才しているようにしか見えない。

「あの、yunaさん……いい加減その警戒の眼差しを解いてくれませんか?」
「いーや信用できん。目ぇ離したらメイルさんに何すっか分かんないしな!」
「あ、でもyunaさん、私はそこまで警戒しなくても大丈夫かと思――」
「そうだな。代わりに俺が見張っておく」
「あきおさんまで〜!! ――ってあれ? ここどこ!?」
 紫色の色違いシャワーズに、「警戒を解いてくれ」と言った舌の根が乾かぬうちに近寄ろうとするイーブイ、そして彼を警戒心剥き出しにして見ているニャースとサンド。サンドは何故か木刀を持っている。

 その隣には、ブースターが1匹。今まで寝ていたのだろう、伸びをしてから辺りを見回し、表情の読めない顔を小さく傾げる。

「こ、これは思った以上……」
 ラクはその場に固まってしまっている。
「あれ、メスフィちゃんまで……。『ハーフ』だから、反応しちゃったのかな?」
 アッシマーがそう呟いたのを耳聡く聞きつけ、若菜は彼を振り返った。その言葉の意味を問おうとして……しかし、出来なかった。
 理由は簡単。上からポケモンが降ってきたので、質問をするどころではなくなってしまったからだ。

「痛た……。あら、ここは……?」
「何だここ、お店? ――って、うわぁ!!」
 若菜を下敷きにしていたことに気付いたドーブル――黒琉が、慌てて彼女の上から飛び降りようとする。危うくバランスを崩して、もう一度若菜を下敷きにするところだったので、すぐ隣に落ちたクラヴィスが黒琉のシッポを掴んで引き上げた。

「もう、何なのよぉ……」
 体を起こそうとする若菜に、白い小さな手がそっと差し伸べられた。
「大丈夫か、若菜?」
 随分と久しぶりに聞いた気がする、懐かしい声。顔を上げると、ラルトスがそこにいた。緑色の輪を持った、色違いブラッキーがその隣に。
「輝……」
 ラルトスの名前を呟く。ややつっけんどんな印象を受けるラルトス――輝の顔が、少し綻(ほころ)んだ。
「どうやら、無事だったみたいだな。良かった」
「輝こそ、バトル苦手なくせに私なしでよく無事だったわね」
 言ってから、若菜も笑顔になる。輝の手を器用に頭の葉で掴み、ゆっくりと立ち上がった。

  *  *  *  *  *

「そうか、ここにいる全員が、やっぱり帰れなくなってしまったのか……」
 アッシマーの言葉に、皆は神妙な顔をお互い見合わせた。
 唯一、元の世界に帰れなくなったことを知らなかったセイラは相当驚いていたが、それにしては何だか楽しげだったような気が若菜にはする。
 ――まぁそれはともかくとして、メスフィとエルジアを除く計14人の元人間達に向かって、アッシマーは言った。
「僕は僕で、昔の仲間に連絡して元の世界に帰る方法を探ることにする。その間、君達もその方法を探すのを、手伝って欲しい。何チームかに別れて探すと効率がいいと思うよ」
 その言葉に、皆は頷いた。
 そして、どうチームを分けるかで大騒ぎになる――寸前で、ラティアスが何かを持ってきた。
 どうやら、トランプのようである。くじ引きさせる気満々だ。
「やっぱり、多少は揉めるだろうから、と思って……」
「ラティアス、ありがとう。じゃあ公平にくじで決めよう」

  *  *  *  *  *

 と、いうことで。そのチーム分けの結果……。

「初めまして、私は若菜」
「僕はラク。好きなように呼んでいいよ!」
 チコリータの若菜にエアームドのラク。この二人と同じチームになったのが、ドーブルの黒琉とブースターのレツナだ。
「あ、はい、こちらこそ宜しくお願いします!」
 軽くお辞儀してそう言う黒琉に倣って、レツナも会釈する。が、自分が逃げてきたはずの現実世界の柵(しがらみ)にまだ囚われているような錯覚に襲われ、どうにも解せない部分はあったようだが。
 ただ、若菜達がレツナの内面を知ろうはずもない。ただ、少し無愛想な人だな、と思っただけだった。

「結局一緒になったな、クラウド」
「そうみたいですね」
 ラルトスの輝とブラッキーのクラウドは、シャワーズのメイルと行動を共にすることになった。
「えぇと、メイルといったか? 俺は輝、あっちはクラウドだ。宜しくな」
「あ、はい! ――クラウドさんは色違いなんですねっ!」
 そういうメイルこそ、紫色をしており色の違い方がクラウドよりも目立つ。
 珍しい色違いが二人もいることに、思わず縁起を期待してしまう輝だった。

「セイラさんにクラヴィスさんですね、宜しくお願いします!」
 イーブイのPQRはそう言って二人に挨拶した。
「宜しく」
「ぺーくるさんっていうんだね、宜しくー!!」
 アブソルの銀月クラヴィスと、ヒトデマンのセイラ。
 PQRは、二人のテンションのギャップを何とかして欲しい……と思わずにはいられなかった。
 あと、もしもできるなら輝とチームを入れ替わりたかった。
「(嗚呼……イーブイ三昧な日々がぁ……)」
 とは言っても、落ち込んだところで何も変わらない。ここはとにかくガンバルしかない、と思ったところで。
「ところでPQRさんは歌とか好きですか?」
「……え」
 唐突な質問に戸惑っているPQRの返事を聞かず、セイラは続ける。
「一緒に『バトルフロンティア』歌いましょーよ! ほらっ、クラヴィスさんも!」
「え、ちょ、私は――」
「いいからっ!」
 何となく三人の力関係が見えてきたぞ?

「いや〜、ほんとに縁あるな、私ら」
「どうやらそのようですね……」
 フシギダネのアルズとゼニガメの霧崎刃は、二人で探索を開始することになった。
 知り合いと同じチームになれたことを喜べばいいのか、これからも彼女に突っ込み続けなければならないことを嘆けばいいのか……微妙な心境の刃である。
「取り敢えず、よろしく頼みます!」
 が、アルズのこの言葉には――素直に頷くことにした。

「えーと、初めましてレニーさん。オレはあきおだ」
「ああ。宜しゅう頼むわ」
 端から見るとつっけんどんな挨拶を終えて、あきおとレニーはしばらく無言になった。
 お互い何を話せばいいかも、どういったタイミングで話せばいいかも分からないのだ。
 先が思いやられる組み合わせである……。

「うちはyuna、宜しくエルジア」
「うん、こっちこそ!」
 爪を引っ込めた小さな手で、yunaは更に小さいエルジアの手を握って軽く握手。
「エルジアは純粋なポケモンだろ? 何で手伝ってくれるんだ?」
 ふとした疑問を正直に口にすると、エルジアは笑って答えた。
「ここまで関わっちゃったし、今更後には引き返せないもんね。それに、私冒険とか大好きなの!」
 素直な答えだ。yunaも、小さく微笑んだ。
 あとは、エルジアがあまりに突っ込みを要するキャラではないのを期待するばかりだが……きっと大丈夫だ、と自分に言い聞かせてみたりする。

「あれ、メスフィちゃんはくじ引かなくていいの?」
 ラティアスの問いに、メスフィは頷く。
「これだけ沢山お友達がいたら、若菜達は心配ないと思うのだ♪ それに……お母さんを一人残して行きたくは、ないのだ……」
 メスフィは知っているのだ。
 父親を亡くして、母親が実は今でも寂しがっていることを。
 それなのにメスフィまでもが旅に出てしまったら、母親はもっと寂しがってしまうだろう。
「そう」
 ラティアスは笑って、新しい仲間にめぐり合った、若菜や輝達を見た。

 アッシマーはぐるりと見回して、チーム内での挨拶が終わったことを確認したところで
「じゃあ、今日はもう遅いことだし、捜索に出かけるのは明日にして、今日はうちに泊まっていくといいよ」
 と言った。
 いろいろな場所から「いいのですか?!」「申し訳ないです」などの声がしていた。
「私の家に…… こんな大人数が泊まれるスペースなんてあったかな?」
「大丈夫よ、なんとかするから」
 エルジアの不安な言葉に、ラティアスは笑って言った。
 それから『ポロック・ポフィン・ポケまんまの店 サイサリス』では大宴会と言っていいほどの夕食会が催された。
 この世界に来てからは緊張の連続で、ゆっくりとくつろぐことが出来なかった反動なのか、皆飲めや歌えやの大騒ぎになっていた。
 そして、騒ぎ疲れた後は修学旅行の寝室よろしくに折り重なるようにして、ぐっすりと眠りについた。
 みんな、ポケモンの世界にやってきた喜びを思いっきり味わっていた。


 アッシマーとラティアスとメスフィを除いて、総勢16名。
 この人数が明日、サイサリスを旅立つことになるのだが、その先で起きてしまう戦いに、巻き込まれてしまうことは、この時点で彼らは誰一人として知らなかった。
 そして、一体誰が命を落とし、何人が生き残って帰ることができるか、
 誰も知らない。




   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

[555] なかがき
あきはばら博士 - 2008年05月28日 (水) 00時31分


 後書き。
 ではなく、中書き。


 何事にも始まりはあるもので、どんなことにもきっかけというものがあります。
 現在ポケボードで小説専用掲示板があるほど小説作りが盛んな、そのきっかけを辿って見ると、あきおさんが雑談板(ポケ書最初の交流系掲示板)で小説作りの打ち合わせをしていたところから、雑談掲示板の中で個人小説ブームが巻き起こり、それに影響を受けた私がリレー小説のスレッド(ドリメ)を立てたところから、KSとRSの二つのブームが巻き起こったと記憶しています。
 ちなみに、当時の掲示板はスレッドが省略されない形で、長い文章を打ち込むとスクロールバーが小さくなるので、板に直接書き込んでいくリレー小説への風当たりはかなり辛かったです(今のラティアス板のキャラ募集と感想スレが主流でした)、なので頃合を見計らってからのスタートになりました。
 さて、私がリレー小説《Dream makers》を始めたきっかけと言うものは、あるサイトに連載されていた個人小説からでした。
 その小説のあらすじを説明すると、

 主人公はポケモンの種族値を空で言えるほどのポケモン好きな中学生の男の子、ある日学校から帰ってきていつも行っているポケモンサイトに行くと、突然パソコンが光り、気がつけば見たことの無い世界とナックラーになった自分の姿。
 とまどいながらも、すぐそこにあった看板を読んでみるとこんな文字が
 『元の世界に戻りたければ、私を見つけてください by管理人』
 主人公と、同じようにこの世界に来てしまった人々は、数々の妨害を受けながらも協力して管理人を呼び出すアイテムを集め、セレビィの姿をしたサイトの管理人に会うことに成功する。
 ここまでが第一章ですが、さらにこの話は第二章に続き、
 管理人曰く、ここの世界はサイトのコンテンツの一つとして作成中だが、未完成なので公開はしていない、つまり勝手にこの世界に人々を連れ込んでいる人物がいるはずだから、その人物を捕まえてほしい。私はこの世界のメンテナンスで忙しいからよろしく頼む。
 とのことで、主人公達は連れ込んだ黒幕を捕まえるために再度冒険に出かけることになった。

 ……という話だったと記憶しています。
 あいにく、この小説は掲載されていた掲示板が消滅してしまったために未完のまま終わってしまいましたが、
 私はこの小説に感動を覚え、「これを、ポケショを舞台にして書いてみたい!」という思いからリレー小説《Dream makers》を立ち上げました。
 それゆえに、ところどころでその小説に似せようとして、参加者が自由に話を作ることのできる小説と謳いながら、スレ主の我侭で進めていまして、人がせっかく書いた展開を否定したり、無責任なことを書いたり、わざわざ重箱の隅をつつくように細かい設定ばかりを気にしたり、本当に迷惑をかけてしまいました。反省しています。
 本当にあの時は未熟でした、スレ主という役が一体どんな役であるのかまるで分かってなかったですし、本編の展開も参加者に失礼なことばかり書いていました。ごめんなさい、本当にすみません!

 ドリメの話がチャットの中で盛り上がり、続編を作りたいという意見が出てきて、《Dream makersU》の作成が決まり。そして、こうしてドリメUのスレッドが流れた今、私はドリメのために何ができたのだろうと、ふと考えました。
 作った話を編集して皆に見せていたわけでもない、きちんとした話の展開に導けたとは言えない、人任せにばかりしてきちんとスレッドが管理できていたとは言えない、
 出したキャラと言えば、無責任にも放置して影を薄くしてしまった主人公と、発言と行動があまりにも痛すぎる自分キャラと、厄介な存在として世界から抹消された奴しかいない。
 ならば、Uのスレ主を降ろされた身ですが、それでも不肖ながらもその続編を纏めることが、私にできることなのかなぁ……と思いました。
 どんな話も終わらなければ、それは話ではなく文章の塊。
 終わりあれば全部良し。
 保存した文章に手直ししているだけで、一から書き直しているわけでもないので、場面場面で描写がバラバラになっており、
 半ば強引過ぎる運びになっている気がして不安ですが、
 読者に満足してもらえる終わらせ方になっていたならば…… 嬉しい限りです。



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