[543] SECTION01 新たなスタートと新たな出会い! |
- フリッカー - 2008年05月23日 (金) 19時51分
あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。
SECTION01 新たなスタートと新たな出会い!
ポケモンコーディネーターなら誰もが憧れるコンテストマスター・ミクリ様と出会ったあたし達。ポッチャマの動きを見てもらったら、ミクリ様は「『ポッチャマらしさ』を考えてみたらどうかな?」と教えてくれた。そう、ノゾミも言ってた『大切な事』。それは、そのポケモン『らしさ』を引き立てる事だった。 そんなミクリ様が開催するポケモンコンテスト『ミクリカップ』。それが、リッシ湖畔で開かれる事になった。あたしはそれを復活戦にしようと決意して、エントリー。それには、ノゾミや、前にサトシ達と旅をしていた『ホウエンの舞姫』ハルカもエントリーしていた。最初は不安で凄く緊張しちゃったけど、ミクリ様から教えてもらった事をしっかり活かして演技を見せたら、1次審査を突破できた! それで波に乗ったあたしは順調に2次審査も勝ち進んでいって、ファイナルの相手はハルカ。激しいコンテストバトルの末に、勝ったのはあたしだった。 やっとゲットできた2つ目のリボン。みんなにはいろいろ迷惑かけちゃったけど、コンテストの事、あきらめないでよかった!
* * *
ミクリカップが終わってすぐの事。 あたしは、テレビ電話の前に座っていた。画面の中にいるのは、あたしのママ。 「なんでかけてきたの? 旅の喜びや悩みならサトシ君達としなさいって言ったでしょ」 ママは、少し怒り気味でそう言った。 「ごめん、そんな事はわかってる。でも、どうしてもママに話したい事があるの」 「……?」 あたしの言葉に、ママは目を丸くした。あたしは少し間を置いてから話し始めた。 「あたしね、ポケモンを美しく魅せるなんて簡単だって思ってたの。でも、あの2回の失敗で、難しい事なんだなってわかったの。あたしにできるのかなって悩んじゃって、コンテストに出るの、やめようかなってまで考えちゃって……」 「ヒカリ……」 あたしは、今まで思っていた事を、正直に話した。相手がママだから、隠してたってしょうがないからね。あたしは話を続ける。 「でもね、あたしわかったの。本当にポケモンを美しく魅せるには、そのポケモン『らしさ』が大切なんだって。そのポケモンの事を、ちゃんと知ってなきゃダメなんだって」 「……誰から教わったのか知らないけど、いい所に気付いたわね。そう言われたら、あのいい演技にも納得がいくわ」 ママの顔に、笑みが浮かんだ。 「ポケモン1匹1匹には、違う『個性』があるわ。人と同じようにね。それを考えないで、ただきれいに魅せようとしたり、派手に魅せようとしたりしても、観客の心は掴めないわ。それをうまく引き出せれば、ポケモン、それにコーディネーター自身の『個性』も出て、本当にいい演技ができるのよ。それだから、ポケモンコンテストはおもしろいのよ」 「個性、か……」 その言葉も意味も、今のあたしにははっきりと理解できた。 「ポケモンも人と同じ。そのポケモンの『個性』を知れば、初めて心を通わせられる。そして、そのポケモンと1つになれる。ポケモンコーディネーターだけの話じゃないわ。それは、サトシ君のようなポケモンバトルをする人にも言える事じゃないかしら?」 「言われてみれば……!」 「私が思う『ポケモントレーナー』って言うのは、ポケモンと心を通わせて、力を合わせて何かを成し遂げる人全ての事なのよ。だから言ったでしょ、『最初はポケモントレーナーから始めなさい』って」 「そうだったんだ……」 それだからママは、旅に出る時にそう言ったんだ…… 「いい、ヒカリ。本当の魅せ方がわかったのなら、ポケモン達と自分自身を信じて、進み続けるのよ。あなたの本当の戦いは、まだ始まったばかりなんだから」 「うん!! だからあたし、がんばる!! 絶対リボンを5つ集めて、グランドフェスティバルに出場するんだから!!」 あたしははっきりとそう答えた。これが一番、ママに伝えたかった事だから。 「ヒカリならできるわ」 ママも、笑みを浮かべてそう答えた。 「うん!! ダイジョウブ!!」 あたしは、今まで自分の事にははっきりと言えなかったその言葉を、はっきりと言い放った。
電話を切ったあたしは、後ろに振り向いた。そこには、横1列に並ぶあたしのポケモン達。 「みんな、3日間本当にありがとう。いろいろ迷惑かけちゃったけど、このコンテストであたし、まだやれるってわかった。みんなで力を合わせれば、リボンはゲットできるんだってわかった」 あたしはゲットしたアクアリボンを右手にとって眺めながら、そう言った。そしてケースを取り出して、ふたを開けて中にアクアリボンをはめ込んだ。 「リボンはまだ2つ。あと、3つ集めなきゃいけない……」 そう言って、あたしはケースのふたを閉めた。 「だからみんな、これからもいっしょにがんばろうよ! リボンを5つ集めて、グランドフェスティバルに行こうよ!」 あたしはみんなの前でしゃがんで、みんなの前に右手を突き出して、そう言った。 「ポチャ!」 「ミミ!」 「チパ!」 「エポ!」 みんなも、あたしの右手の上に手を重ねた。4つの眼差しから、みんなの決意を感じる。 「これからも、よろしくね!」 そう言うと、みんなもはっきりとうなずいた。 これから先、何が起こるのかは誰にもわからない。でも、みんなとなら、一緒に、大きく、飛び越えて行ける! どんな山も、どんな谷も、怖くなんてない! そんな気がしていた。
――あたし達は、もう迷わない!!――
* * *
リッシ湖畔を出発したあたし達は、ノモセシティに向けて出発した。次はサトシのジム戦。サトシにも、がんばってもらわなきゃ! いつものように、森の中でポケモン達と一緒に休憩をとっていたあたし達。あたしはポッチャマ達の前で、とっておきのものを披露した。 「ジャーン! ポフィンの新作を作ってみたの! みんな、食べてみて!」 「ポチャチャ〜ッ!」 「ミミロ〜ッ!」 「チパチパ〜ッ!」 「エポエポ〜ッ!」 あたしが自信満々に4つのお皿に盛り付けたポフィンを見せると、ポッチャマ達は飛び上がって喜んだ。 「へえ、ポフィンの新作か」 それを見たサトシが、感心して言った。 「うん。材料を変えてみたの」 そう答えて、あたしはお皿を取った。 「じゃ、これがポッチャマ、これがミミロル、これがパチリス、これがエテボースの分ね」 あたしは4つのお皿を、1皿ずつポッチャマ達に配る。早速ポッチャマ達はポフィンをほおばり始めた。 「あれ? みんな色が違うじゃないか」 みんなに配られたポフィンは、皿ごとにそれぞれ色が違う。それにサトシは気付いたみたい。 「そう、そこなの! ポッチャマのはポッチャマ用って感じで、4匹に合わせて全部材料の組み合わせを変えて作ったの! ミクリ様に言われた事を活かしてね!」 あたしはウインクしてそう答えた。 「そうだったのか!」 その言葉を聞いて、サトシも納得したみたい。 「どう、みんな?」 あたしは4匹の方に向き直って、聞いてみた。 「ポチャマ!」 「ミミ!」 「チッパ!」 「エポエポ!」 4匹とも笑顔で答えてくれた。おいしかったみたい。あたしも嬉しくなった。 「変わったな、ヒカリも」 「ああ。よ〜し、俺も負けてられないぜ! 次のノモセジムでもバッジをゲットしてやるぜ!」 そんなあたしを見ていたサトシとタケシは、そんな事を言っていた。
「ねえみんな、この辺り散歩してみない?」 あたしは、ポフィンを食べて一息ついているポッチャマ達にそう提案してみた。 「ポッチャマ!」 真っ先にポッチャマが来た。 「チパチパ!」 「エイポッ!」 次にパチリス、エテボース。 「ミミ!」 最後にミミロル。相変わらずピカチュウの側にいたミミロルは、ピカチュウに「じゃあね」って言うようにウインクを1つした後、あたしの所に来た。 「あんまり遠くに行くんじゃないぞ」 「ダイジョウブ、ダイジョウブ! さ、みんな行こう!」 タケシの言葉にあたしはそう答えて、みんなと一緒に出発した。
みんなで一緒に森の中を歩くなんて、最近やっていなかった。空気も何だかいつもと違うおいしさのような気がした。 「ポッチャポッチャポッチャ♪」 あたしの足元には、ポッチャマが楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いている。 「チパチパ〜♪」 「ミミーッ!」 パチリスは楽しいのか、あたしの周りをぐるぐる走り回ってはしゃいでいる。そんなパチリスを、ミミロルが追いかけている。上を見ると、木の枝を2本の尻尾で体操選手のように器用に渡っているエテボースが。みんな違うしぐさ。みんなの個性が、こんな所にも表れている。こんな事、今まで意識した事もなかった。あたしは、おもむろにリボンのケースを取り出して、開けてみた。ケースの中で輝くアクアリボン。このリボンは、みんなで力を合わせてゲットできた。あたしは、みんなの事がもっと知りたい。もっと、みんなの魅力を引き立ててあげたいから…… 「ポチャマ!」 すると、ポッチャマが声を上げた。見ると、そこには大きな池が。 「池だ!」 あたし達は、気が付くと真っ直ぐその池に向かっていた。岸に着くと、ポッチャマが真っ先に水の中に飛び込んだ。きれいな水辺が辺り一面に広がっている。 「きれいね……」 あたしは、そんな池の景色にしばらく見入っちゃっていた。その時、パシャって音がしたと思うと、あたしの顔に水がかかった。 「きゃっ!」 思わず手で遮るあたし。そして、ミミロルやパチリス、エテボースにも水がかかった。 「ポチャポチャ〜ッ!」 見ると、浅瀬にいるポッチャマがこっちを見て笑っている。ポッチャマが水をかけたみたい。 「やったわね〜っ、ポッチャマ!」 あたしは自然と笑いながら、ブーツと靴下を脱ぎ棄てて浅瀬に飛び込んでいた。 「このっ!」 あたしは、両手でポッチャマに水をかける。ポッチャマも負けじとこっちに水をかけてくる。 「ミミ〜ッ!」 「チッパ〜ッ!」 「エイポ〜ッ!」 みんなも、あたしに続いて浅瀬に入った。たちまちみんなで水のかけ合いが始まった。びしょ濡れになるのも忘れて、夢中で水をかけ合う。ポケモンと遊ぶのって、こんなに楽しいんだ……ミクリ様の言ってた通りね……その事を、あたしは確かめた。 「フフフ……アハハハハハハッ!!」 あたしは笑うのが止められなくなって、思わず手を止めて笑った。すると、みんなも一緒に笑い出した。 「……ミミ?」 すると、ミミロルが急に両耳を立てた。 「どうしたのミミロル?」 ミミロルは、何かに気付いたみたい。『危険を感じ取ると両耳を立てて警戒する』って言うけど……ミミロルが、森の方を見た。すると、そこから、何かが飛び出してきた! 「きゃあああっ!」 悲鳴を上げて飛び出したそれは、2匹のポケモンを連れた女の子だった。真っ白なドレスのようなワンピースに白い靴。そして、黒いストレートヘアーの髪が特徴の女の子。連れているポケモンは、ニャルマーとも違う、きれいな毛並みの猫ポケモンと、ロズレイド。すると、そんな女の子を追いかけて、たくさんのポチエナが飛び出してきた! 女の子は、明らかにポチエナに襲われてる! 「あの子、あのポケモンに襲われてるじゃない! 行こう、みんな!」 あたしはすぐにそう呼びかけて、池から飛び出した。 「ああっ!」 逃げている女の子は、足をつまずかせて転んじゃった。そこに、ポチエナの群れが女の子を取り囲む。女の子の連れているポケモンは、なぜか抵抗しようとしていない。 「ああっ……助けて……助けて……」 女の子は顔を伏せて、体を震わせながらそう言うだけだった。そこに、ポチエナ達が一斉に飛び掛かった! 危ない! 「エテボース、“スピードスター”!!」 「エイッ、ポオオオオッ!!」 エテボースは、ポチエナの群れ目掛けて“スピードスター”を発射! 女の子の周りに降り注いだ“スピードスター”に驚いて、ポチエナ達は下がった。 「……?」 女の子は驚いて、あたし達の方を見た。あたしはすぐに、女の子の側に行った。 「もうダイジョウブよ! ケガはない?」 「……」 女の子の体を起こしてあげたあたしを見て、女の子は何も言わないで目を丸くしていた。そんな時、ポチエナの群れがこっちに襲い掛かってくる! 「ミミロル、“とびはねる”!!」 「ミミーッ!!」 ミミロルが、ポチエナの群れ目掛けてジャンプ! ポチエナ達を飛び石のように次々と踏みつけていく! 「パチリス、“ほうでん”!!」 「チィィィィパ、リィィィィィッ!!」 続けてパチリスの“ほうでん”! 命中! たくさんのポチエナ達をまとめてしびれさせた! 「ポッチャマ、“うずしお”!!」 「ポォォチャアアアアアッ!!」 最後は、ポッチャマの“うずしお”! 投げ付けられた“うずしお”に、たくさんのポチエナが飲み込まれた! この攻撃に懲りたのか、ポチエナの群れは一目散に逃げ出して行った。 「いいわよ、みんな!」 あたしがそう言うと、みんなはこっちを向いて答えてくれた。 「あ、あの……」 その時、女の子があたしに呼びかけた。 「もしかして、ポケモン、トレーナー……ですか?」 女の子は少し遠慮がちに聞いた。 「そうだけど?」 「さっきは……ありがとうございました……コロンとローズと一緒に散歩してたら……野生ポケモンに……」 「謝らなくてなくていいよ。あなたは何も悪い事してないんだから」 遠慮がちに話す女の子に、あたしはそう笑顔で答えた。 「あの……友達に……なって、くれますか……」 女の子は、やっぱり遠慮がちでそう聞いた。「友達になって」ってストレートに言われる事ってあまりないけど、やっぱり嬉しい。 「もちろんよ。あたし、ヒカリっていうの」 「ポチャマ!」 「あ、あの、ランです……よろしくお願いしますっ。こっちがコロンで、こっちがローズです」 女の子はちょっと恥ずかしがるように自己紹介した。猫ポケモンとロズレイドが前に出て、挨拶した。 「この子がコロンね」 あたしはコロンって名前のポケモンにポケモン図鑑を向けた。 「エネコロロ、おすましポケモン。エネコの進化系。美しい毛並みを持ち、女性トレーナーに大人気。決まったすみかを持たない」 図鑑の音声が流れた。 「それって……ポケモン図鑑ですよね? いいなあ……」 ランがポケモン図鑑を見て、ゆったりとした口調でうらやましそうに言った。ランの顔は少し明るくなっている。 「ねえ、さっきはどうしてコロンとローズでポチエナと戦わなかったの?」 あたしは、そんな疑問をランにぶつけてみた。 「だって……コロンとローズはペットですから……」 「ペット?」 「それに……うっ……」 そう言いかけた時、ランは突然、ふらりとよろけたと思ったら、その場にバタリと倒れちゃった。 「ラン!? どうしたのラン!? しっかりして!!」 あたしは慌ててランに呼びかける。体を揺すってもランは返事をしない。一体ランに何があったの!? 「おーい、ランーッ! どこにいるんだーっ!」 その時、遠くで男の人の声が聞こえてきた。誰かがランを呼んでる? 声のした方を見ると、そこには1人の大人の男の人が。 「あっ、ラン! 倒れているじゃないか!? 大変だ!」 男の人は、すぐにこっちに気付いて、こっちに来た。この男の人、ランの知り合い? 「あなたは……?」 「お嬢ちゃん、すまない。うちの娘が迷惑をかけてしまって……」 えっ、じゃあこの人はランのパパ……? 「すぐに家に連れて行かないと!」 ランのパパはランをおぶって、どこかへ連れて行く。 「あっ、あたしも行きます!」 あたしは慌てて脱いでいたブーツと靴下を取ってから、ポッチャマ達と一緒にランのパパの後を追いかけた。
* * *
たどり着いた場所は、1件の大きな家だった。どこから見てもお金持ちが住んでいそうな『豪邸』にしか見えない。部屋もたくさんあって、中もとても豪華。 そんな部屋の1つに、あたし達はいた。広い部屋の中にある大きなベッドにはランが横になっている。そんなランを、コロンとローズが心配して見守っている。 「お嬢ちゃん、本当に迷惑をかけてしまったね……」 「うちの娘は、小さい頃から体が弱くて……」 ランのパパと、その隣にいる女の人、つまり、ランのママが、あたしにお詫びするようにそう言った。 「そうだったんですか……」 それなら、急に倒れちゃったのもわかる。でも、それならなんで外に……? 「お詫びと言っては難だが、お茶でも飲んでゆっくりしていってくれ。ランの事も心配だろうし」 そう言って、ランのパパはティーカップを贅沢そうなテーブルの上に置いた。 「あ、ありがとうございます」 あたしも、ポッチャマと一緒にテーブルにある贅沢そうな椅子に座った。そして、ランのパパとママは、部屋を出て行った。ランはまだ目を覚まさないだろうなと思ったあたしは、とりあえずティーカップのお茶を口に運んだ。おいしい。 「ヒカリ、さん……」 その時、ランの声がした。見ると、ベッドの中からランが顔をこっちに向けている。 「ラン? もう起きてたの?」 あたしはベッドの側に椅子を持って行って、ベッドの前に座った。 「ごめんなさい……また迷惑かけちゃって……」 「あ、ダイジョウブダイジョウブ! 気にしてないから!」 「……優しいんですね、ヒカリさん……」 ランが笑みを浮かべた。そう言われると、ちょっと照れちゃう。とにかく、無事でよかった…… 「ねえ、ヒカリさんは、どんな事してるんですか……?」 ランは間を置いて、あたしに聞いた。 「ポケモンコーディネーターよ」 「ポケモンコーディネーターって……ポケモンコンテストでポケモンをきれいに見せる人ですよね……ポケモンをきれいに見せるって難しいんですよね……?」 「ええ。あたしも、最初は難しくなんてないって思ってた。でもね、ポケモン1匹1匹の事をちゃんと知ってなかったら、きれいに見せられないってわかったの。最近になってね。ポケモンコンテストって、思ってたより奥が深いのよ……」 「……」 すると、ランが急に黙り込んだ。 「……ラン?」 「……うらやましいです、ヒカリさんみたいな人が……」 「え?」 「ポケモントレーナーって……いろんな所を旅して、いろんなポケモンに会って、ポケモンと一緒にいろんな事楽しむんですよね……でも……私はできない……」 ランの顔が沈んだ。 「ラン……小さい頃から病気ばっかりかかっちゃって、外にあまり出られないんです……ランが出たいって言っても、パパやママがダメだって言って止めるんです……だから、友達もできない……外で遊ぶ事もできない……」 ランは部屋の窓を見つめながら、そうつぶやいた。窓から、飛んでいるムックルの群れが見えた。 「旅がしたい……外の世界がどんなものなのか知りたい……ポケモンと一緒に、いろんな事やりたい……こっそり散歩するだけじゃ嫌……」 ランはコロンとローズの頭をなでながら、そう言った。 「ラン……」 そうだよね……ずっと家から出られないなんて、あたしも嫌。そう思ったあたしの心の中に、1つの思いが生まれた。ランを外に連れてってあげたい…… 「……ねえ、ならあたしと一緒に泊まりにおいでよ! あたしね、一緒に旅をしてる友達がいるんだけど、会わせてあげる! ポケモンの事も、いろいろ教えてあげる!」 「え……!?」 あたしの提案を聞いたランは、目を丸くした。 「でも、そうしたらパパとママが……」 「ダイジョウブ! あたしがついてるじゃない!」 「ポチャ!」 ポッチャマも、胸をポンと叩いた。 「ヒカリさん……」 ランは、嬉しそうな顔をした。コロンとローズも、ランを見て笑みを浮かべた。 「ほら、コロンとローズも行きたいって言ってるよ」 「……うん!」 ランは、はっきりとうなずいた。
あたしは、ランのパパにこの事を話した。 「そんな!? さっき倒れたばかりなのにまた……!?」 ランのパパは目を丸くした。 「ランならもうダイジョウブです! それに、あたしも付き添いますから!」 あたしは、はっきりと主張した。 「だが……外は今のランには……」 「パパ……ヒカリさんはいい人なの……何かあったら、ランを助けてくれる……だから、行かせて!」 そこに、ランがはっきりと自分の意志を主張した。 「……わかった。ランがそう言うなら、信じよう。ちゃんと無事に戻ってくるんだぞ」 「……うん!」 ランは笑みを浮かべて、はっきりとうなずいた。
* * *
あたしはランと手をつないで、森の中を歩いて行く。あたしは何だか、ランのお姉さんになったような気分になった。ランは、目を輝かせて森の中の景色をあちこち見回していた。コロンとローズも、ポッチャマと意気投合して一緒に散歩を楽しんでいる。 「ヒカリさんって、いつもこんな景色を見ながら旅をしてるんですよね……それも、見る景色は毎日違うんですよね……」 ランが、ゆったりした口調であたしに言った。 「うん。旅っていろいろ大変な事もあるけど、いろんな所を見て回るって事、やっぱり楽しいのよね!」 「やっぱり、ランも旅に出たい……」 「ダイジョウブ! 病気が治ったら、ランだって旅に出られるよ!」 「……そうですよね……!」 ランの顔に笑みが浮かんだ。最初に会った時よりも、表情がナチュラルになってきているのがわかる。 「……あ!」 何気なく木を見ていたあたしは、青い実がなっている木を見つけた。オレンの実だ! 「ポッチャマ、“バブルこうせん”であのオレンの実とって!」 「ポチャ!」 ポッチャマは、オレンの実の根元を狙って“バブルこうせん”を発射! 命中! 2個のオレンの実が落ちてくる。あたしはそれを両手でキャッチした。 「ラン、これ食べてみて!」 「この木の実、食べられるんですか……?」 そうつぶやきながら、ランはオレンの実を口に運んだ。 「……おいしい!」 「でしょ?」 そう答えたあたしも、オレンの実を口に運んだ。 「おいし〜い!」 あたしも思わず、声を上げた。ポッチャマは、コロンとローズにもオレンの実を取ってあげて、差し出した。それを口に運んだコロンとローズも、おいしそうに笑みを浮かべた。ポッチャマも自分の分を取って、口に頬張って笑みを浮かべた。 「……そうだ! 向こうに着いたら、あたしとポケモンバトルしようよ!」 「え……でも、ラン、ポケモンバトルなんて……」 あたしの提案を聞いて、ちょっと戸惑うラン。 「ダイジョウブダイジョウブ! あたしが教えてあげるから! ポケモンと力を合わせて勝負するのって、楽しいよ! ね!」 「ポチャマ!」 ポッチャマに顔を向けると、ポッチャマも笑顔で答えた。 「……うん! コロン、ローズ、やってみようよ!」 ランがコロンとローズに言うと、コロンとローズもはっきりとうなずいた。
* * *
その頃、サトシ達は…… 「ヒカリの奴、遅いなあ……どこ行ってるんだ……?」 「散歩にしては、いくらなんでも遅すぎるよなあ……?」 2人は、そんな事をつぶやいていた。 「……まさか、道に迷って『ダイジョバない〜!』とか言ってるんじゃ……!」 「ハハハ……まあ、じきに戻って来るさ」 サトシの言葉を聞いて、タケシは苦笑いしながら答えた。 「……グラ?」 その時、グライガーが何かに気付いて、勝手にどこかへ飛んで行った。 「あ、グライガー!? どこ行くんだよ!? おい!?」 「ピカピカー!?」 サトシとピカチュウは、すぐにグライガーの後を追いかけた。 「おい、どうしたんだサトシ!?」 タケシも続けてサトシの後を追いかけた。
* * *
「あとどのくらいで着きますか?」 「もうそろそろよ。遅くなっちゃったから、みんな心配してるだろうなあ……」 手をつないで森の中を歩いて行くあたしとラン。その時、コロンが何かに気付いて、足を止めた。 「どうしたのコロン?」 ランが聞くと、コロンは突然、あたし達が向かってる方向とは違う方向に走って行った。 「あっ、ちょっとコロン!? どこ行くの!?」 あたし達はすぐに、コロンの後を追いかけた。コロンの後を追いかけていくと、森の中の開けた場所に出た。そこには、見た事もない光景が。 「あ、あれ、何!?」 声を上げるラン。そこには、コロンだけじゃなくて、いろんなポケモン達が、真ん中に山積みされた黄色にものに群がっていた。あれって、食べ物? そこに、見慣れたポケモンが森から飛んで来た。1匹のグライガー。あれって…… 「あっ、あれって、サトシのグライガー!?」 「おーい、待てよグライガーッ!」 なんでこんな所にいるの? そう考えてると、グライガーを追いかけるサトシ達の姿が森から出てきた。 「サトシ!?」 「あっ、ヒカリ!? なんでここにいたんだ!?」 「随分と遅いなと思ってたら、こんな所にいたのか」 2人が、あたしの所に来た。 「ごめんごめん。いろいろあっちゃって……」 「……で、その子は?」 サトシが、ランを見て言った。2人の視線を見たランは、一瞬ドキッとしていた。 「あ、あの……ラン、です……」 ランは、最初あたしと会った時のように、ちょっと遠慮がちに自己紹介した。 「ラン、この2人があたしが言ってた一緒に旅してるあたしの友達、サトシとタケシよ」 「俺、サトシ」 「ピカ、ピカチュウ!」 「俺がタケシだ」 サトシ達の自己紹介を聞いた後、ランは何も言わないで軽くお辞儀した。 「ひょっとして、遅くなったのは……」 「うん、ランと会って……」 あたしがそう言いかけた、その時! 森の中から突然、腕みたいなものが何本か飛び出して、黄色いものに群がっているポケモン達をわしづかみにした! 「!?」 あたし達は、突然の出来事に驚いた。腕が伸びている先には、1台の大きな黒い装甲車が! その中に、わしづかみにしたポケモン達を投げ入れる。 「フフフ、『ポケまんま』を使って、これだけのポケモンが集まるとは……まさによりどりみどりだ」 その時、森の中から人影が姿を現した。1人だけじゃない。全員が黒ずくめの服装。その先頭にいるのは、見覚えのある姿だった…… 「おや、どうやら人間もつられて来たようだな……」 側にヨーギラスを連れた、黒ずくめの男……間違いない……! 「あんたは……サイラス!!」 「ポチャ……ッ!!」 そう、前にあたしのポッチャマをダークポケモンにした、あいつ……!
TO BE CONTINUED……
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