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[542] ヒカリストーリー STORY15 ダークポケモンの逆襲
フリッカー - 2008年05月23日 (金) 19時49分

 今回のヒカストはSTORY01『絆のチカラ』の続編に当たるストーリーです。再起したヒカリの姿にも注目!
 STORY01はこちら↓
http://bbs4.sekkaku.net/bbs/?id=watafa&mode=res&log=8

・ゲストキャラクター
ラン イメージCV:桑島法子
 森の中の豪邸で家族と暮らしているお嬢様。体が弱いのであまり外に出られない。そのため、外の世界に出る『旅』に憧れていて、親の目を盗んでこっそりとポケモン達と一緒に外を散歩している。
 丁寧な言葉遣いをする。おっとりした性格で頭がいいが、人付き合いが苦手で、やや人見知り。ヒカリと仲良くなり、ヒカリや家族の前では、ちゃんとしゃべるが、他の人の前だと無口になる。
 コロンという名のエネコロロ、ローズという名のロズレイドというポケモンがいるが、いずれもペットであり、戦い慣れしていないためバトルは苦手。

サイラス イメージCV:森川智之
 STORY01より再登場。シンオウに渡ってきた悪の組織『シャドー』の幹部であり、かつてヒカリのポッチャマをダークポケモンにした張本人(STORY01参照)。手持ちポケモンのヨーギラスはダークポケモンである。

アール イメージCV:中尾隆聖
 シンオウに渡ってきた悪の組織『シャドー』のリーダー。『ポケモンは人間に支配される生き物』と考え、世界に住む全てのポケモンをダークポケモンにして全ての人間の支配下に置こうと企む。大型の飛行船を拠点としている。手持ちポケモンのカイリューは強力なダークポケモンである。

[543] SECTION01 新たなスタートと新たな出会い!
フリッカー - 2008年05月23日 (金) 19時51分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。


SECTION01 新たなスタートと新たな出会い!


 ポケモンコーディネーターなら誰もが憧れるコンテストマスター・ミクリ様と出会ったあたし達。ポッチャマの動きを見てもらったら、ミクリ様は「『ポッチャマらしさ』を考えてみたらどうかな?」と教えてくれた。そう、ノゾミも言ってた『大切な事』。それは、そのポケモン『らしさ』を引き立てる事だった。
 そんなミクリ様が開催するポケモンコンテスト『ミクリカップ』。それが、リッシ湖畔で開かれる事になった。あたしはそれを復活戦にしようと決意して、エントリー。それには、ノゾミや、前にサトシ達と旅をしていた『ホウエンの舞姫』ハルカもエントリーしていた。最初は不安で凄く緊張しちゃったけど、ミクリ様から教えてもらった事をしっかり活かして演技を見せたら、1次審査を突破できた! それで波に乗ったあたしは順調に2次審査も勝ち進んでいって、ファイナルの相手はハルカ。激しいコンテストバトルの末に、勝ったのはあたしだった。
 やっとゲットできた2つ目のリボン。みんなにはいろいろ迷惑かけちゃったけど、コンテストの事、あきらめないでよかった!

 * * *

 ミクリカップが終わってすぐの事。
 あたしは、テレビ電話の前に座っていた。画面の中にいるのは、あたしのママ。
「なんでかけてきたの? 旅の喜びや悩みならサトシ君達としなさいって言ったでしょ」
 ママは、少し怒り気味でそう言った。
「ごめん、そんな事はわかってる。でも、どうしてもママに話したい事があるの」
「……?」
 あたしの言葉に、ママは目を丸くした。あたしは少し間を置いてから話し始めた。
「あたしね、ポケモンを美しく魅せるなんて簡単だって思ってたの。でも、あの2回の失敗で、難しい事なんだなってわかったの。あたしにできるのかなって悩んじゃって、コンテストに出るの、やめようかなってまで考えちゃって……」
「ヒカリ……」
 あたしは、今まで思っていた事を、正直に話した。相手がママだから、隠してたってしょうがないからね。あたしは話を続ける。
「でもね、あたしわかったの。本当にポケモンを美しく魅せるには、そのポケモン『らしさ』が大切なんだって。そのポケモンの事を、ちゃんと知ってなきゃダメなんだって」
「……誰から教わったのか知らないけど、いい所に気付いたわね。そう言われたら、あのいい演技にも納得がいくわ」
 ママの顔に、笑みが浮かんだ。
「ポケモン1匹1匹には、違う『個性』があるわ。人と同じようにね。それを考えないで、ただきれいに魅せようとしたり、派手に魅せようとしたりしても、観客の心は掴めないわ。それをうまく引き出せれば、ポケモン、それにコーディネーター自身の『個性』も出て、本当にいい演技ができるのよ。それだから、ポケモンコンテストはおもしろいのよ」
「個性、か……」
 その言葉も意味も、今のあたしにははっきりと理解できた。
「ポケモンも人と同じ。そのポケモンの『個性』を知れば、初めて心を通わせられる。そして、そのポケモンと1つになれる。ポケモンコーディネーターだけの話じゃないわ。それは、サトシ君のようなポケモンバトルをする人にも言える事じゃないかしら?」
「言われてみれば……!」
「私が思う『ポケモントレーナー』って言うのは、ポケモンと心を通わせて、力を合わせて何かを成し遂げる人全ての事なのよ。だから言ったでしょ、『最初はポケモントレーナーから始めなさい』って」
「そうだったんだ……」
 それだからママは、旅に出る時にそう言ったんだ……
「いい、ヒカリ。本当の魅せ方がわかったのなら、ポケモン達と自分自身を信じて、進み続けるのよ。あなたの本当の戦いは、まだ始まったばかりなんだから」
「うん!! だからあたし、がんばる!! 絶対リボンを5つ集めて、グランドフェスティバルに出場するんだから!!」
 あたしははっきりとそう答えた。これが一番、ママに伝えたかった事だから。
「ヒカリならできるわ」
 ママも、笑みを浮かべてそう答えた。
「うん!! ダイジョウブ!!」
 あたしは、今まで自分の事にははっきりと言えなかったその言葉を、はっきりと言い放った。

 電話を切ったあたしは、後ろに振り向いた。そこには、横1列に並ぶあたしのポケモン達。
「みんな、3日間本当にありがとう。いろいろ迷惑かけちゃったけど、このコンテストであたし、まだやれるってわかった。みんなで力を合わせれば、リボンはゲットできるんだってわかった」
 あたしはゲットしたアクアリボンを右手にとって眺めながら、そう言った。そしてケースを取り出して、ふたを開けて中にアクアリボンをはめ込んだ。
「リボンはまだ2つ。あと、3つ集めなきゃいけない……」
 そう言って、あたしはケースのふたを閉めた。
「だからみんな、これからもいっしょにがんばろうよ! リボンを5つ集めて、グランドフェスティバルに行こうよ!」
 あたしはみんなの前でしゃがんで、みんなの前に右手を突き出して、そう言った。
「ポチャ!」
「ミミ!」
「チパ!」
「エポ!」
 みんなも、あたしの右手の上に手を重ねた。4つの眼差しから、みんなの決意を感じる。
「これからも、よろしくね!」
 そう言うと、みんなもはっきりとうなずいた。
 これから先、何が起こるのかは誰にもわからない。でも、みんなとなら、一緒に、大きく、飛び越えて行ける! どんな山も、どんな谷も、怖くなんてない! そんな気がしていた。

 ――あたし達は、もう迷わない!!――

 * * *

 リッシ湖畔を出発したあたし達は、ノモセシティに向けて出発した。次はサトシのジム戦。サトシにも、がんばってもらわなきゃ!
 いつものように、森の中でポケモン達と一緒に休憩をとっていたあたし達。あたしはポッチャマ達の前で、とっておきのものを披露した。
「ジャーン! ポフィンの新作を作ってみたの! みんな、食べてみて!」
「ポチャチャ〜ッ!」
「ミミロ〜ッ!」
「チパチパ〜ッ!」
「エポエポ〜ッ!」
 あたしが自信満々に4つのお皿に盛り付けたポフィンを見せると、ポッチャマ達は飛び上がって喜んだ。
「へえ、ポフィンの新作か」
 それを見たサトシが、感心して言った。
「うん。材料を変えてみたの」
 そう答えて、あたしはお皿を取った。
「じゃ、これがポッチャマ、これがミミロル、これがパチリス、これがエテボースの分ね」
 あたしは4つのお皿を、1皿ずつポッチャマ達に配る。早速ポッチャマ達はポフィンをほおばり始めた。
「あれ? みんな色が違うじゃないか」
 みんなに配られたポフィンは、皿ごとにそれぞれ色が違う。それにサトシは気付いたみたい。
「そう、そこなの! ポッチャマのはポッチャマ用って感じで、4匹に合わせて全部材料の組み合わせを変えて作ったの! ミクリ様に言われた事を活かしてね!」
 あたしはウインクしてそう答えた。
「そうだったのか!」
 その言葉を聞いて、サトシも納得したみたい。
「どう、みんな?」
 あたしは4匹の方に向き直って、聞いてみた。
「ポチャマ!」
「ミミ!」
「チッパ!」
「エポエポ!」
 4匹とも笑顔で答えてくれた。おいしかったみたい。あたしも嬉しくなった。
「変わったな、ヒカリも」
「ああ。よ〜し、俺も負けてられないぜ! 次のノモセジムでもバッジをゲットしてやるぜ!」
 そんなあたしを見ていたサトシとタケシは、そんな事を言っていた。

「ねえみんな、この辺り散歩してみない?」
 あたしは、ポフィンを食べて一息ついているポッチャマ達にそう提案してみた。
「ポッチャマ!」
 真っ先にポッチャマが来た。
「チパチパ!」
「エイポッ!」
 次にパチリス、エテボース。
「ミミ!」
 最後にミミロル。相変わらずピカチュウの側にいたミミロルは、ピカチュウに「じゃあね」って言うようにウインクを1つした後、あたしの所に来た。
「あんまり遠くに行くんじゃないぞ」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ! さ、みんな行こう!」
 タケシの言葉にあたしはそう答えて、みんなと一緒に出発した。

 みんなで一緒に森の中を歩くなんて、最近やっていなかった。空気も何だかいつもと違うおいしさのような気がした。
「ポッチャポッチャポッチャ♪」
 あたしの足元には、ポッチャマが楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いている。
「チパチパ〜♪」
「ミミーッ!」
 パチリスは楽しいのか、あたしの周りをぐるぐる走り回ってはしゃいでいる。そんなパチリスを、ミミロルが追いかけている。上を見ると、木の枝を2本の尻尾で体操選手のように器用に渡っているエテボースが。みんな違うしぐさ。みんなの個性が、こんな所にも表れている。こんな事、今まで意識した事もなかった。あたしは、おもむろにリボンのケースを取り出して、開けてみた。ケースの中で輝くアクアリボン。このリボンは、みんなで力を合わせてゲットできた。あたしは、みんなの事がもっと知りたい。もっと、みんなの魅力を引き立ててあげたいから……
「ポチャマ!」
 すると、ポッチャマが声を上げた。見ると、そこには大きな池が。
「池だ!」
 あたし達は、気が付くと真っ直ぐその池に向かっていた。岸に着くと、ポッチャマが真っ先に水の中に飛び込んだ。きれいな水辺が辺り一面に広がっている。
「きれいね……」
 あたしは、そんな池の景色にしばらく見入っちゃっていた。その時、パシャって音がしたと思うと、あたしの顔に水がかかった。
「きゃっ!」
 思わず手で遮るあたし。そして、ミミロルやパチリス、エテボースにも水がかかった。
「ポチャポチャ〜ッ!」
 見ると、浅瀬にいるポッチャマがこっちを見て笑っている。ポッチャマが水をかけたみたい。
「やったわね〜っ、ポッチャマ!」
 あたしは自然と笑いながら、ブーツと靴下を脱ぎ棄てて浅瀬に飛び込んでいた。
「このっ!」
 あたしは、両手でポッチャマに水をかける。ポッチャマも負けじとこっちに水をかけてくる。
「ミミ〜ッ!」
「チッパ〜ッ!」
「エイポ〜ッ!」
 みんなも、あたしに続いて浅瀬に入った。たちまちみんなで水のかけ合いが始まった。びしょ濡れになるのも忘れて、夢中で水をかけ合う。ポケモンと遊ぶのって、こんなに楽しいんだ……ミクリ様の言ってた通りね……その事を、あたしは確かめた。
「フフフ……アハハハハハハッ!!」
 あたしは笑うのが止められなくなって、思わず手を止めて笑った。すると、みんなも一緒に笑い出した。
「……ミミ?」
 すると、ミミロルが急に両耳を立てた。
「どうしたのミミロル?」
 ミミロルは、何かに気付いたみたい。『危険を感じ取ると両耳を立てて警戒する』って言うけど……ミミロルが、森の方を見た。すると、そこから、何かが飛び出してきた!
「きゃあああっ!」
 悲鳴を上げて飛び出したそれは、2匹のポケモンを連れた女の子だった。真っ白なドレスのようなワンピースに白い靴。そして、黒いストレートヘアーの髪が特徴の女の子。連れているポケモンは、ニャルマーとも違う、きれいな毛並みの猫ポケモンと、ロズレイド。すると、そんな女の子を追いかけて、たくさんのポチエナが飛び出してきた! 女の子は、明らかにポチエナに襲われてる!
「あの子、あのポケモンに襲われてるじゃない! 行こう、みんな!」
 あたしはすぐにそう呼びかけて、池から飛び出した。
「ああっ!」
 逃げている女の子は、足をつまずかせて転んじゃった。そこに、ポチエナの群れが女の子を取り囲む。女の子の連れているポケモンは、なぜか抵抗しようとしていない。
「ああっ……助けて……助けて……」
 女の子は顔を伏せて、体を震わせながらそう言うだけだった。そこに、ポチエナ達が一斉に飛び掛かった! 危ない!
「エテボース、“スピードスター”!!」
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 エテボースは、ポチエナの群れ目掛けて“スピードスター”を発射! 女の子の周りに降り注いだ“スピードスター”に驚いて、ポチエナ達は下がった。
「……?」
 女の子は驚いて、あたし達の方を見た。あたしはすぐに、女の子の側に行った。
「もうダイジョウブよ! ケガはない?」
「……」
 女の子の体を起こしてあげたあたしを見て、女の子は何も言わないで目を丸くしていた。そんな時、ポチエナの群れがこっちに襲い掛かってくる!
「ミミロル、“とびはねる”!!」
「ミミーッ!!」
 ミミロルが、ポチエナの群れ目掛けてジャンプ! ポチエナ達を飛び石のように次々と踏みつけていく!
「パチリス、“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィィッ!!」
 続けてパチリスの“ほうでん”! 命中! たくさんのポチエナ達をまとめてしびれさせた!
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポォォチャアアアアアッ!!」
 最後は、ポッチャマの“うずしお”! 投げ付けられた“うずしお”に、たくさんのポチエナが飲み込まれた! この攻撃に懲りたのか、ポチエナの群れは一目散に逃げ出して行った。
「いいわよ、みんな!」
 あたしがそう言うと、みんなはこっちを向いて答えてくれた。
「あ、あの……」
 その時、女の子があたしに呼びかけた。
「もしかして、ポケモン、トレーナー……ですか?」
 女の子は少し遠慮がちに聞いた。
「そうだけど?」
「さっきは……ありがとうございました……コロンとローズと一緒に散歩してたら……野生ポケモンに……」
「謝らなくてなくていいよ。あなたは何も悪い事してないんだから」
 遠慮がちに話す女の子に、あたしはそう笑顔で答えた。
「あの……友達に……なって、くれますか……」
 女の子は、やっぱり遠慮がちでそう聞いた。「友達になって」ってストレートに言われる事ってあまりないけど、やっぱり嬉しい。
「もちろんよ。あたし、ヒカリっていうの」
「ポチャマ!」
「あ、あの、ランです……よろしくお願いしますっ。こっちがコロンで、こっちがローズです」
 女の子はちょっと恥ずかしがるように自己紹介した。猫ポケモンとロズレイドが前に出て、挨拶した。
「この子がコロンね」
 あたしはコロンって名前のポケモンにポケモン図鑑を向けた。
「エネコロロ、おすましポケモン。エネコの進化系。美しい毛並みを持ち、女性トレーナーに大人気。決まったすみかを持たない」
 図鑑の音声が流れた。
「それって……ポケモン図鑑ですよね? いいなあ……」
 ランがポケモン図鑑を見て、ゆったりとした口調でうらやましそうに言った。ランの顔は少し明るくなっている。
「ねえ、さっきはどうしてコロンとローズでポチエナと戦わなかったの?」
 あたしは、そんな疑問をランにぶつけてみた。
「だって……コロンとローズはペットですから……」
「ペット?」
「それに……うっ……」
 そう言いかけた時、ランは突然、ふらりとよろけたと思ったら、その場にバタリと倒れちゃった。
「ラン!? どうしたのラン!? しっかりして!!」
 あたしは慌ててランに呼びかける。体を揺すってもランは返事をしない。一体ランに何があったの!?
「おーい、ランーッ! どこにいるんだーっ!」
 その時、遠くで男の人の声が聞こえてきた。誰かがランを呼んでる? 声のした方を見ると、そこには1人の大人の男の人が。
「あっ、ラン! 倒れているじゃないか!? 大変だ!」
 男の人は、すぐにこっちに気付いて、こっちに来た。この男の人、ランの知り合い?
「あなたは……?」
「お嬢ちゃん、すまない。うちの娘が迷惑をかけてしまって……」
 えっ、じゃあこの人はランのパパ……?
「すぐに家に連れて行かないと!」
 ランのパパはランをおぶって、どこかへ連れて行く。
「あっ、あたしも行きます!」
 あたしは慌てて脱いでいたブーツと靴下を取ってから、ポッチャマ達と一緒にランのパパの後を追いかけた。

 * * *

 たどり着いた場所は、1件の大きな家だった。どこから見てもお金持ちが住んでいそうな『豪邸』にしか見えない。部屋もたくさんあって、中もとても豪華。
 そんな部屋の1つに、あたし達はいた。広い部屋の中にある大きなベッドにはランが横になっている。そんなランを、コロンとローズが心配して見守っている。
「お嬢ちゃん、本当に迷惑をかけてしまったね……」
「うちの娘は、小さい頃から体が弱くて……」
 ランのパパと、その隣にいる女の人、つまり、ランのママが、あたしにお詫びするようにそう言った。
「そうだったんですか……」
 それなら、急に倒れちゃったのもわかる。でも、それならなんで外に……?
「お詫びと言っては難だが、お茶でも飲んでゆっくりしていってくれ。ランの事も心配だろうし」
 そう言って、ランのパパはティーカップを贅沢そうなテーブルの上に置いた。
「あ、ありがとうございます」
 あたしも、ポッチャマと一緒にテーブルにある贅沢そうな椅子に座った。そして、ランのパパとママは、部屋を出て行った。ランはまだ目を覚まさないだろうなと思ったあたしは、とりあえずティーカップのお茶を口に運んだ。おいしい。
「ヒカリ、さん……」
 その時、ランの声がした。見ると、ベッドの中からランが顔をこっちに向けている。
「ラン? もう起きてたの?」
 あたしはベッドの側に椅子を持って行って、ベッドの前に座った。
「ごめんなさい……また迷惑かけちゃって……」
「あ、ダイジョウブダイジョウブ! 気にしてないから!」
「……優しいんですね、ヒカリさん……」
 ランが笑みを浮かべた。そう言われると、ちょっと照れちゃう。とにかく、無事でよかった……
「ねえ、ヒカリさんは、どんな事してるんですか……?」
 ランは間を置いて、あたしに聞いた。
「ポケモンコーディネーターよ」
「ポケモンコーディネーターって……ポケモンコンテストでポケモンをきれいに見せる人ですよね……ポケモンをきれいに見せるって難しいんですよね……?」
「ええ。あたしも、最初は難しくなんてないって思ってた。でもね、ポケモン1匹1匹の事をちゃんと知ってなかったら、きれいに見せられないってわかったの。最近になってね。ポケモンコンテストって、思ってたより奥が深いのよ……」
「……」
 すると、ランが急に黙り込んだ。
「……ラン?」
「……うらやましいです、ヒカリさんみたいな人が……」
「え?」
「ポケモントレーナーって……いろんな所を旅して、いろんなポケモンに会って、ポケモンと一緒にいろんな事楽しむんですよね……でも……私はできない……」
 ランの顔が沈んだ。
「ラン……小さい頃から病気ばっかりかかっちゃって、外にあまり出られないんです……ランが出たいって言っても、パパやママがダメだって言って止めるんです……だから、友達もできない……外で遊ぶ事もできない……」
 ランは部屋の窓を見つめながら、そうつぶやいた。窓から、飛んでいるムックルの群れが見えた。
「旅がしたい……外の世界がどんなものなのか知りたい……ポケモンと一緒に、いろんな事やりたい……こっそり散歩するだけじゃ嫌……」
 ランはコロンとローズの頭をなでながら、そう言った。
「ラン……」
 そうだよね……ずっと家から出られないなんて、あたしも嫌。そう思ったあたしの心の中に、1つの思いが生まれた。ランを外に連れてってあげたい……
「……ねえ、ならあたしと一緒に泊まりにおいでよ! あたしね、一緒に旅をしてる友達がいるんだけど、会わせてあげる! ポケモンの事も、いろいろ教えてあげる!」
「え……!?」
 あたしの提案を聞いたランは、目を丸くした。
「でも、そうしたらパパとママが……」
「ダイジョウブ! あたしがついてるじゃない!」
「ポチャ!」
 ポッチャマも、胸をポンと叩いた。
「ヒカリさん……」
 ランは、嬉しそうな顔をした。コロンとローズも、ランを見て笑みを浮かべた。
「ほら、コロンとローズも行きたいって言ってるよ」
「……うん!」
 ランは、はっきりとうなずいた。

 あたしは、ランのパパにこの事を話した。
「そんな!? さっき倒れたばかりなのにまた……!?」
 ランのパパは目を丸くした。
「ランならもうダイジョウブです! それに、あたしも付き添いますから!」
 あたしは、はっきりと主張した。
「だが……外は今のランには……」
「パパ……ヒカリさんはいい人なの……何かあったら、ランを助けてくれる……だから、行かせて!」
 そこに、ランがはっきりと自分の意志を主張した。
「……わかった。ランがそう言うなら、信じよう。ちゃんと無事に戻ってくるんだぞ」
「……うん!」
 ランは笑みを浮かべて、はっきりとうなずいた。

 * * *

 あたしはランと手をつないで、森の中を歩いて行く。あたしは何だか、ランのお姉さんになったような気分になった。ランは、目を輝かせて森の中の景色をあちこち見回していた。コロンとローズも、ポッチャマと意気投合して一緒に散歩を楽しんでいる。
「ヒカリさんって、いつもこんな景色を見ながら旅をしてるんですよね……それも、見る景色は毎日違うんですよね……」
 ランが、ゆったりした口調であたしに言った。
「うん。旅っていろいろ大変な事もあるけど、いろんな所を見て回るって事、やっぱり楽しいのよね!」
「やっぱり、ランも旅に出たい……」
「ダイジョウブ! 病気が治ったら、ランだって旅に出られるよ!」
「……そうですよね……!」
 ランの顔に笑みが浮かんだ。最初に会った時よりも、表情がナチュラルになってきているのがわかる。
「……あ!」
 何気なく木を見ていたあたしは、青い実がなっている木を見つけた。オレンの実だ!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”であのオレンの実とって!」
「ポチャ!」
 ポッチャマは、オレンの実の根元を狙って“バブルこうせん”を発射! 命中! 2個のオレンの実が落ちてくる。あたしはそれを両手でキャッチした。
「ラン、これ食べてみて!」
「この木の実、食べられるんですか……?」
 そうつぶやきながら、ランはオレンの実を口に運んだ。
「……おいしい!」
「でしょ?」
 そう答えたあたしも、オレンの実を口に運んだ。
「おいし〜い!」
 あたしも思わず、声を上げた。ポッチャマは、コロンとローズにもオレンの実を取ってあげて、差し出した。それを口に運んだコロンとローズも、おいしそうに笑みを浮かべた。ポッチャマも自分の分を取って、口に頬張って笑みを浮かべた。
「……そうだ! 向こうに着いたら、あたしとポケモンバトルしようよ!」
「え……でも、ラン、ポケモンバトルなんて……」
 あたしの提案を聞いて、ちょっと戸惑うラン。
「ダイジョウブダイジョウブ! あたしが教えてあげるから! ポケモンと力を合わせて勝負するのって、楽しいよ! ね!」
「ポチャマ!」
 ポッチャマに顔を向けると、ポッチャマも笑顔で答えた。
「……うん! コロン、ローズ、やってみようよ!」
 ランがコロンとローズに言うと、コロンとローズもはっきりとうなずいた。

 * * *

 その頃、サトシ達は……
「ヒカリの奴、遅いなあ……どこ行ってるんだ……?」
「散歩にしては、いくらなんでも遅すぎるよなあ……?」
 2人は、そんな事をつぶやいていた。
「……まさか、道に迷って『ダイジョバない〜!』とか言ってるんじゃ……!」
「ハハハ……まあ、じきに戻って来るさ」
 サトシの言葉を聞いて、タケシは苦笑いしながら答えた。
「……グラ?」
 その時、グライガーが何かに気付いて、勝手にどこかへ飛んで行った。
「あ、グライガー!? どこ行くんだよ!? おい!?」
「ピカピカー!?」
 サトシとピカチュウは、すぐにグライガーの後を追いかけた。
「おい、どうしたんだサトシ!?」
 タケシも続けてサトシの後を追いかけた。

 * * *

「あとどのくらいで着きますか?」
「もうそろそろよ。遅くなっちゃったから、みんな心配してるだろうなあ……」
 手をつないで森の中を歩いて行くあたしとラン。その時、コロンが何かに気付いて、足を止めた。
「どうしたのコロン?」
 ランが聞くと、コロンは突然、あたし達が向かってる方向とは違う方向に走って行った。
「あっ、ちょっとコロン!? どこ行くの!?」
 あたし達はすぐに、コロンの後を追いかけた。コロンの後を追いかけていくと、森の中の開けた場所に出た。そこには、見た事もない光景が。
「あ、あれ、何!?」
 声を上げるラン。そこには、コロンだけじゃなくて、いろんなポケモン達が、真ん中に山積みされた黄色にものに群がっていた。あれって、食べ物? そこに、見慣れたポケモンが森から飛んで来た。1匹のグライガー。あれって……
「あっ、あれって、サトシのグライガー!?」
「おーい、待てよグライガーッ!」
 なんでこんな所にいるの? そう考えてると、グライガーを追いかけるサトシ達の姿が森から出てきた。
「サトシ!?」
「あっ、ヒカリ!? なんでここにいたんだ!?」
「随分と遅いなと思ってたら、こんな所にいたのか」
 2人が、あたしの所に来た。
「ごめんごめん。いろいろあっちゃって……」
「……で、その子は?」
 サトシが、ランを見て言った。2人の視線を見たランは、一瞬ドキッとしていた。
「あ、あの……ラン、です……」
 ランは、最初あたしと会った時のように、ちょっと遠慮がちに自己紹介した。
「ラン、この2人があたしが言ってた一緒に旅してるあたしの友達、サトシとタケシよ」
「俺、サトシ」
「ピカ、ピカチュウ!」
「俺がタケシだ」
 サトシ達の自己紹介を聞いた後、ランは何も言わないで軽くお辞儀した。
「ひょっとして、遅くなったのは……」
「うん、ランと会って……」
 あたしがそう言いかけた、その時! 森の中から突然、腕みたいなものが何本か飛び出して、黄色いものに群がっているポケモン達をわしづかみにした!
「!?」
 あたし達は、突然の出来事に驚いた。腕が伸びている先には、1台の大きな黒い装甲車が! その中に、わしづかみにしたポケモン達を投げ入れる。
「フフフ、『ポケまんま』を使って、これだけのポケモンが集まるとは……まさによりどりみどりだ」
 その時、森の中から人影が姿を現した。1人だけじゃない。全員が黒ずくめの服装。その先頭にいるのは、見覚えのある姿だった……
「おや、どうやら人間もつられて来たようだな……」
 側にヨーギラスを連れた、黒ずくめの男……間違いない……!
「あんたは……サイラス!!」
「ポチャ……ッ!!」
 そう、前にあたしのポッチャマをダークポケモンにした、あいつ……!


TO BE CONTINUED……

[564] SECTION02 その名はシャドー! ダークポケモン再び!
フリッカー - 2008年06月01日 (日) 13時50分

「あんたは……サイラス!!」
「ポチャ……ッ!!」
 そう、前にあたしのポッチャマをダークポケモンにした、あいつ……サイラスが、目の前にいる! あの時、ロケット団がやられた時にいつの間にかいなくなったと思ったら、こんな所で……!
「お前は、あの時の……!!」
 サトシも、サイラスの正体に気付いて声を上げた。
「む、お前は……いつぞやの小娘か!?」
 サイラスも、あたしの顔に気付いて、少し驚きながらそう言った。
「……見知らぬ人間なら軽く追い払ってやろうと思っていたが、お前達のようなトレーナーは危険因子だ。各員、奴らを始末しろ!!」
 サイラスの指示で、黒ずくめの団員が一斉に飛び出した! 一斉にモンスターボールを投げられた! 出てきたポケモンは、ゴルバットやデルビルがたくさん!
「我ら『シャドー』のシンオウでの初陣を、ここで邪魔させる訳にはいかん……!」
「『シャドー』……?」
 サイラスがつぶやいた言葉に、あたしは耳を疑った。
「そうだ……我らは『シャドー』!! 遠くオーレの地からここにやって来た!! このシンオウのポケモン全てを、『ダークポケモン』として我らの支配下に置くのだ!!」
 サイラスは、高らかにそう叫んだ。


SECTION02 その名はシャドー! ダークポケモン再び!


「シャドー、だと……!」
 サトシがつぶやいた。
「ヒカリさん……何なんですか、あいつらは……」
 ランが怯えた様子であたしに聞いた。
「よくわかんないけど、ポケモンの心を奪って『ダークポケモン』っていう戦闘マシンにしている悪い奴よ……!」
「ええっ……!?」
 ランがさらに怯えだしたのがわかった。そう説明してみて、ポッチャマがダークポケモンにされた、あの時の出来事がフラッシュバックした。
『人間がポケモンを従える理由……それは、ポケモンがこの世界で最も攻撃的な生き物だからだ。それを人間が従えたのは自然の成り行き……要するに人間にとってポケモンは己の欲求を満たすための『使い魔』にすぎないのだよ。そんな生き物に、『心』など必要ない』
 そんなサイラスの言葉を思い出した。あたしの中で、あいつら――サイラス、もとい、シャドーっていう組織みたいだけど――に強い怒りを覚えた。前にポッチャマをダークポケモンにされちゃったから、っていうのもある。でも、それよりも大きな理由は……
『ポケモンも人と同じ。そのポケモンの『個性』を知れば、初めて心を通わせられる。そして、そのポケモンと1つになれる』
『私が思う『ポケモントレーナー』って言うのは、ポケモンと心を通わせて、力を合わせて何かを成し遂げる人全ての事なのよ』
 そんなママのあの言葉だった。あたしはあの時、ママの言葉を聞いてそれは本当なんだと確信した。ミクリ様だって、ノゾミだって、そのポケモン『らしさ』を魅せる事が大事なんだって事を教えてくれたから。それがわかったから、あたしは2次審査でもポッチャマ達と1つになれたんだって思ってる。あいつらは、そんな事を無視して、ダークポケモンっていうモノを作り出している……ポケモンと心を通わせようとしないで、心を奪うなんて、ポケモンを機械だとでも思ってるの……そんなの、ポケモンをこき使ってるだけ……!
「……っ!!」
 あたしの手に、自然と力が入った。
「お前達の好きにさせるか!! 相手になってやる!!」
「ピッカ!!」
 サトシとピカチュウが、真っ先に前に出た。
「そのやる気は認めよう……やれ!」
 そんなサトシを見たサイラスは、そう言って右手を突き出した。
「行け、ゴルバット!! “ダークラッシュ”!!」
 団員の指示で、ゴルバット達が一斉にこっちに飛んで来た! ゴルバットは、口から不気味な紫色の光線を一斉にこっちに発射! こっちに飛んで来る!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 サトシが動くよりも先に、あたしは指示を出していた。
「ポッチャマアアアッ!!」
 ポッチャマはミクリカップで披露した時と同じように、体を回転させながら“バブルこうせん”を発射! 散らばって飛んでいく“バブルこうせん”。こっちに飛んで来る“ダークアタック”全部に当たって、次々と爆発!
「ヒカリ……!?」
 サトシが、早い行動に驚いてあたしを見た。あたしはすぐに、他の3つのモンスターボールを取り出した。
「みんな!!」
 モンスターボールを投げる手にも自然と力が入った。勢いよく投げられたモンスターボールから、ミミロル、パチリス、エテボースが飛び出した!
「ヒカリ、さん……?」
 そんなあたしの様子に気付いたランは、あたしに呼びかけた。
「ラン、下がって……!」
 あたしは、ランの方を向かないまま、そう言って、団員達の前に出た。ランは言われた通り、あたしの後ろに下がった。
「あんた達の好きにはさせない……!! あの時みたいな事は、絶対にさせない!!」
 あたしは、そう思い切り言い放った。
「行くわよみんな!!」
「ポチャッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
 みんなも、強い眼差しで身構えた。そして、ゴルバットやデルビルが一斉に飛びかかってきた!
「エテボース、“スピードスター”!!」
「エイポオオオオッ!!」
 ポケモンへの指示にも、自然と力が入る。エテボースが、ゴルバットとデルビルの群れ目掛けて“スピードスター”を発射! 流れるように飛ぶ“スピードスター”は、ゴルバットとデルビルの群れに容赦なく襲い掛かる!
「パチリス、“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィィッ!!」
 続けてパチリスの“ほうでん”! “スピードスター”で逃げ場を失ったゴルバットとデルビルの群れに、次々と命中!
「ミミロル、“れいとうビーム”!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ミミロルが“れいとうビーム”を、ポッチャマが“バブルこうせん”を発射! “れいとうビーム”はゴルバットに、“バブルこうせん”はデルビルに命中! どっちも効果は抜群!
「ヒカリさんが……怒ってる……」
 そんなあたしの様子を見ていたランは、そうつぶやいた。
「くそっ!! ゴルバット、“ダークアタック”!!」
 向こうも反撃してくる。ゴルバット達が、一斉にこっちに飛んで来た!
「させるか!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
 すかさずピカチュウが応戦! 自慢の電撃でゴルバット達を返り討ちにした! 効果は抜群!
「グレッグル、お前も行けっ!!」
 続けてタケシも、グレッグルを出した。
「デルビル、“ダークブレイク”!!」
 デルビルが、ツメを紫に光らせて、こっちに飛び掛かってくる!
「“かわらわり”だ!!」
 タケシの指示で、グレッグルはこっちに来るデルビルに次々と“かわらわり”で弾き飛ばしていく! 効果は抜群!
 あたしは、サイラスの方に目を向けた。サイラスは、アームでおびき寄せたポケモン達を強引に捕まえていく黒い装甲車を見つめていた。
「みんな!!」
 ゴルバットやデルビルは、サトシ達がやってくれる。そう判断したあたしは、みんなに一声かけてから、サイラスの所へ向かった。
「サイラスーーーーッ!!」
 そう叫びながら、あたし達はサイラスの所に走っていく!
「む!?」
 サイラスがこっちに気付いた。ヨーギラスが身構えた。
「あんた達、またポケモンを奪ってダークポケモンにするつもりなの!!」
「ポチャポチャッ!!」
 サイラスの前に出たあたしとポッチャマは強く言い放った。
「そうだ。ヨーギラス!!」
 サイラスの指示で、ヨーギラスが飛び出した!
「ポッチャマ!!」
「ポチャッ!!」
 ポッチャマが、ヨーギラスを迎え撃つ!
「“ダークエンド”!!」
 ヨーギラスは、体を不気味な光で包んで、こっちに突撃してきた!
「ポッチャマ、回って!!」
 すかさずあたしは指示を出した。ポッチャマはヨーギラスの突撃をギリギリまで引き付ける。そして、『回転』でヨーギラスの突撃をかわした!
「何!?」
 その動きに驚くサイラス。攻撃が空振りしたヨーギラスは、そのまま地面にずっこけた。チャンス!
「“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアッ!!」
 その隙を狙って、ポッチャマが“バブルこうせん”を発射! 直撃! 効果は抜群!
「ならば……!! “ダークストーム”!!」
 反撃するヨーギラス。黒くて凄まじい嵐のような風が飛んで来る!
「回りながら“がまん”!!」
 これはよけられそうにない。そう思ったあたしは、そう指示した。ポッチャマは攻撃をこらえる体制になった。そこに“ダークストーム”が飛んで来た! ポッチャマを容赦なく飲み込む“ダークストーム”。でも、そのエネルギーがポッチャマの体にまとわりついた! そう、ミクリカップの時使った、あのわざ!
「な!?」
「ポッチャマアアアアアッ!!」
 そのままポッチャマは、まとわりついたエネルギーをヨーギラスに倍返し! 弾き飛ばされるヨーギラス。
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポォォチャアアアアアッ!!」
 ポッチャマは、大きな水の渦を作り始める! 体が水色に光って見える。
「そうはさせん!! ヨーギラス、もう一度だ!!」
 でも、その隙をついてヨーギラスがもう一度“ダークストーム”を発射! でも、そうはいかない!
「受け止めて!!」
「!?」
 あたしの指示に、サイラスは驚いた。
「ポチャッ!!」
 ポッチャマは、作り出した水の渦を、前に向けた! それが盾になって、“ダークストーム”を受け止めた! そう、これもミクリカップの時使ったわざ! 名前を付けるとしたら、『“うずしお”の盾』って感じかな?
「そのまま行っちゃって!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマはそのまま、水の渦を投げつける! 直撃! 効果は抜群!
「くっ、腕を上げたな……ダークポケモンとここまで渡り合うとは……」
 サイラスが唇を噛んだ。
「……だが、こちらにはそれをひっくり返す方法がある」
「え!?」
 サイラスの言葉の意味が、あたしにはわからなかった。何か切り札があるって事!?
「ヨーギラス、“ダークウェザー”!!」
 サイラスが、初めて聞く『ダークわざ』を指示した。
「“ダークウェザー”!?」
 あたしは思わず声を上げた。何が起こるっていうの!? 答えはすぐに出た。ヨーギラスは、空に向かって紫の光を放つ。すると、空が急に不気味な雲に覆われ始めた。黒いかみなり雲とも違う、自然のものとは思えないものだった。
「な、何だ!?」
 ゴルバット達と戦っていたサトシ達も、空の異変に気付いて空を見上げた。すると、空から不気味なオーラがあられのように降ってきた!
「痛っ!! 何なのこれ!?」
 それが体に当たると、バチッと痛みが走った。それは、ポッチャマや他のポケモン達も同じみたい。でも、ダークポケモン達は平気な顔をしている。
「ヨーギラス、“ダークストーム”!!」
 ヨーギラスの攻撃が始まった。ヨーギラスが、“ダークストーム”のパワーを蓄え始める。でもそれは、さっきまでよりも強い! そして、“ダークストーム”を発射! 明らかにパワーが上がっている!? さっきよりも凄まじくなった嵐が、ポッチャマに襲い掛かった!
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! 効果は抜群みたい! 弾き飛ばされるポッチャマ。そして、“ダークストーム”はこっちにも飛んで来た!
「きゃあああっ!!」
「ミミィィィィッ!!」
「チパアアアアッ!!」
「エポオオオオッ!!」
 あたしはもちろん、後ろで待機していたミミロル達も巻き込まれた! 弾き飛ばされるあたし達。
「“ダークラッシュ”!!」
 団員達のゴルバットやデルビルも攻撃を始めた。ゴルバットやデルビルが放つ“ダークラッシュ”も、パワーが上がっている!?
「ピカアアアアッ!!」
 そんな“ダークラッシュ”の猛攻に、ピカチュウとグレッグルも苦しんでいた。
「な、なんてパワーなの……!? どうなってるの……!?」
 起き上がるあたしには、なんでパワーが上がったのかがわからなかった。
「フフフ、“ダークウェザー”はダークポケモン以外のポケモンにダメージを与えるオーラを降り注ぐ。そしてそれは、ダークポケモンにはパワーを与えるのだ……」
 サイラスの口元が笑った。そんな……このわざでダークポケモン達がパワーアップしたって事!? それに、こっちがダメージを受けるんじゃ、明らかにこっちが不利じゃない……!
「どうした? お前達の『絆のチカラ』は、その程度のものだったのか?」
 挑発するように言うサイラス。
「……まだよ……!! あたしは、あんた達の言い分なんか認めない!!」
 それでもあたしは、そう強く言い返した。
「ならば、我々を止めてみるんだな」
 サイラスが言うと、装甲車のアームが動きだした! アームが伸びていく先には、ランのコロンとローズが!
「ああっ!! コロン!! ローズ!!」
 すぐに、ランが動いた。ランは気付くのが遅れたコロンとローズを助けようとしたけど、逆に2匹と一緒にアームにつかまっちゃった!
「きゃあああああっ!!」
 ランの悲鳴が響いた。
「ラン!?」
 あたしは、その声を聞いて思わず振り向いた。ランはコロンとローズと一緒に、装甲車の中へと投げ入れられたのが見えた。
「おや、どうやら人が紛れ込んだみたいだな……」
 サイラスもそれに気付いたけど、なぜかそれほど動揺していない。
「何をするのよサイラス!! ランを返して!!」
 あたしは、サイラスに思わずそう言った。
「返さん、と言ったらどうする……?」
 サイラスは逆に、そうあたしに挑発するように言った。あたしは、その言葉で完全にキレた。
「……っ!! みんな!! あの装甲車を壊して!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
「チィィィィパ、リィィィィィッ!!」
「エイポオオオオッ!!」
 ポッチャマは“バブルこうせん”、ミミロルは“れいとうビーム”、パチリスは“ほうでん”、エテボースは“スピードスター”を装甲車に発射! でも、装甲車のボディには傷一つ付かなかった。
「そんな!?」
「無駄だ。この装甲はポケモンの攻撃に耐えられるようになっている。ヨーギラス!!」
 サイラスの一声で、ヨーギラスはもう一度こっちに“ダークストーム”を発射!
「きゃああああああっ!!」
 容赦なく、あたし達を飲み込む“ダークストーム”! そして爆発! そのままヨーギラスは“ダークストーム”をサトシ達にも向けた!
「うわああああああっ!!」
 サトシ達をも飲み込む“ダークストーム”。そしてまた爆発!
「フフフ……」
 それを見たサイラスは、勝ち誇ったように爆発で起きた煙を見つめていた。
「サイラス様、おびき出したポケモンの捕獲が完了しましたが、巻き込んだ少女はどうします?」
 1人の団員が、サイラスに言った。
「そのまま連行しろ。処分はそれから考える。撤収だ!」
「ハッ!」
 そう言うと、団員達は素早く装甲車に乗り始めた。サイラスとヨーギラスも、装甲車に乗った。
「……ラン……!!」
 煙が晴れた時、そんな様子があたしにも見えた。このままじゃ、ランがさらわれちゃう! すぐに立ち上がって、あたしは装甲車に向かった。ポッチャマ達もついて来る。そして、エンジンがかかった装甲車の裏側にもぐって、装甲車に張り付いた。ポッチャマ達も裏側に張り付く。そのまま、装甲車が動き出した。背中のすぐ下で地面が動く。このままどこへ向かうつもりなんだろう……ラン、待ってて! 必ず助けてあげるから!

 * * *

 その頃、装甲車の運転席に、サイラスはいた。
「どうだサイラス、作戦はうまくいったか?」
 運転席にあるテレビ画面に映る男の人が、そう言った。
「もちろんですとも、アール様。少し邪魔は入りましたが、ポケモンは多く捕獲しました」
 画面の男の人に対して、敬語で話すサイラス。
「そうか。それを聞いて安心したよサイラス」
「すぐにマザーシップに帰還します」
「収穫したポケモンを楽しみにさせてもらうぞ」
 そんなやり取りが終わって、テレビが切れた。
 走り続ける装甲車の先には、大きな飛行船があった。黒い色をしていて、いかにも怪しそうなものだった……

 * * *

 横から差し込んでくる光が、急に暗くなった。そう思ったら、車が止まった。横を見ると、銀色の壁が見えた。どこかの建物にでも入ったみたい。あたしは降りて、見つからないように装甲車の床下からそっと外を見てみた。そこには、車から降りたサイラスの姿が見えた。その前に、1人の男の人が現れた。白くて長い髪が特徴で、やっぱり黒ずくめの服装をしている。
「アール様、ただ今戻りました」
「よく戻った、サイラス」
 サイラスはそう言ってお辞儀を1つすると、白い髪の男の人は、偉そうに答えた。『様』って事は、あのアールって人はボス? すると、上で大きな音がした。見ると、クレーンみたいなもので、装甲車からポケモン達が入った檻を引き上げている。中にはたくさんのポケモンが入っている。
「ほう……なかなかいいものが揃ってそうだな」
「すぐにダークポケモンへの改造手術に取り掛かります」
「……ん?」
 すると、アールは檻の中に何かを見つけて、表情を変えた。見ると、そこにはランが! 中で倒れているラン。気を失ってるみたい。あたしは声を出しそうになったけど、がまんした。
「あの少女は何だ?」
「いえ、捕獲する際に巻き込んでしまったものです。捕虜として連行します」
「そうか。よし、すぐに搬送させろ」
「ハッ!」
 アールにサイラスが答えた後、アールはその場を後にしていった。檻はクレーンでエレベーターみたいなものに乗せられて、上の階へと運ばれて行った。
「どうする、みんな……どうやってランを助ける……?」
 あたしは、ポッチャマ達にそう聞いた。ここは、見るからにシャドーのアジト。ランがどこにいるのかもわからない。そんな所で探すなんて、下手したらあたしも捕まっちゃう。サトシ達もここにはいない……そう考えていたその時、後ろでゴゴゴと大きな音がした。
「あっ!!」
 見ると、さっき入ってきたドアが音を当てて閉まっていた! 閉じ込められちゃった! あたしは思わず大声を上げちゃった。
「……っ!? 何者だ!!」
 サイラスが、あたしの声に反応した!
「ヤバッ!!」
 バレちゃった! あたしの心が焦った。
「ヨーギラス、“ダークストーム”!!」
 そうこうしている内に、ヨーギラスが、こっちに向けて“ダークストーム”を発射! 慌ててあたし達は装甲車の下に体を引っ込めた。“ダークストーム”が、装甲車に当たった! 危ない危ない……
「隠れている奴、出て来い!!」
 サイラスの声が聞こえる。もうここは隠れててもムダみたい……あたしは覚悟を決めた。あたし達は顔を合わせて、互いにうなずいた。そして、装甲車の下から勢いよく飛び出した!
「む、お前は!!」
 サイラスが、あたしの顔を見て目を丸くした。
「パチリス、思いっきり“ほうでん”しちゃって!!」
「チィィィィパ、リィィィィィッ!!」
 あたしの指示で、パチリスはジャンプして思い切り“ほうでん”! 周りにいた団員達を、まとめてしびれさせた! サイラスは、すぐに下がってかわした。じめんタイプのヨーギラスには電撃は効かないから、ヨーギラスは平気で立っていた。これでとりあえず、袋叩きにされる事はない。
「チッ、よりによってここまで来るとは……! ヨーギラス!!」
 唇を噛むサイラス。ヨーギラスが、前に飛び出した!
「“ダークエンド”!!」
 ヨーギラスは、こっちに正面から突撃してくる!
「エテボースッ!!」
「エポッ!!」
 あたしの指示で、エテボースが前に出た。この状況なら、エテボースならやれるって直感で思ったから。
「“きあいパンチ”で受け止めて!!」
「エイッ、ポオオオッ!!」
 エテボースは“きあいパンチ”でヨーギラスに正面からぶつかった! ヨーギラスが弾き飛ばされた。効果は抜群!
「チッ!! ならば“ダークストーム”!!」
 ヨーギラスが“ダークストーム”で反撃する!
「エポオオオオッ!!」
 直撃! 効果は抜群みたい! 弾き飛ばされるエテボース。エテボースに迫ってくる壁。このままじゃ、ぶつかる! でも、まだよ!
「壁に向けて“ダブルアタック”よ!!」
「ッ!!」
 エテボースは吹っ飛ばされながらも、2本の尻尾を思い切り後ろに振って、壁にぶつけた! その反動で、エテボースは“ダークストーム”の勢いを利用して壁ジャンプ! ヨーギラスに向かっていく!
「な!?」
「エテボースは、尻尾の方が器用なのよ!!」
 自然とそう言っていたあたし。2本の尻尾で木の実の殻もむけるっていうくらい尻尾が器用になったエテボース。その『特徴』は、しっかり活かさせてもらわないと!
「“きあいパンチ”!!」
「エイッ、ポオオオッ!!」
 勢いを乗せた“きあいパンチ”を、ヨーギラスに叩き込んだ! 直撃! 効果は抜群! 弾き飛ばされたヨーギラスは、完全にノックアウト。
「バ、バカな……!?」
 動揺するサイラスを尻目に、エテボースは尻尾を使ってきれいに着地した。
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポォォチャアアアアアッ!!」
 ポッチャマが、大きな水の渦を作り出した!
「ポチャッ!!」
 それを思い切り投げつけるポッチャマ!
「ぐわああああっ!!」
 水の渦はサイラスとヨーギラスを飲み込んで、そのまま押し流した! 壁に思い切り叩きつけられるサイラス。
「く……また、負けてしまうとは……なぜだ……あの、小娘ごときに……」
 そうつぶやいて、サイラスは気を失った。その時、急にうるさくサイレンが鳴り響いた。サイラスが、近くにあったボタンに手をかけていたのが見えた。非常ボタンだったみたい。『よそ者』のあたしがいる事が、アジト中に知らされちゃった。迷ってる暇はなかった。
「みんな、ランを助けに行くわよ!!」
「ポチャッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
 力ずくでも、ランを助けなきゃ! あたし達は、アジトの中へと駆け出していった。でも、あたしはまだ気付かなかった。このアジトが、空飛ぶ飛行船だった事には……

 * * *

 その頃、飛行船の操縦室。そこにも、サイレンがうるさく響き渡った。
「何の騒ぎだ!?」
「貨物室で、侵入者がいた模様です!!」
 真ん中の席に座っていたアールが聞くと、1人の団員が答えた。
「すぐに探して、捕らえさせろ!!」
「ハッ!!」
 アールが指示すると、何人かの団員が操縦室を飛び出した。
「アール様、離陸はどうしますか?」
「気にする事はない。予定通り離陸しろ。侵入者1人など、捕らえるのは容易い。飛んで火に入る夏の虫という奴だ」
「……ハッ!!」
 操縦桿を握っていた団員は、操縦桿を動かした。すると、飛行船は音を立てながら、空へと浮かび上がり始めた。

 * * *

 サイレンが鳴り響く廊下を、走っていくあたし達。途中で何だかアジト全体が浮かび上がったような気がしたけど、そんな事はどうでもよかった。ランがいる場所は、はっきり言ってわからない。わかる事は上に行った、という事だけ。とにかく上に行けば、見つかるかもしれない。そのためには、ランがいそうな部屋を探さなきゃならないんだけど……廊下はまるで迷路みたいに伸びている。それよりも……
「待てーっ!!」
 後ろから団員が追いかけて来る! こっちに、ダークポケモンの“ダークラッシュ”が飛んで来る!
「ミミロル!!」
「ミミッ!!」
 あたしの指示で、ミミロルが後ろに飛び出した!
「“れいとうビーム”!!」
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
 ミミロルは、“れいとうビーム”を発射する! “れいとうビーム”は床に当たって、床が凍りついた。そこに来た団員達は、たちまち足を滑らせて転んだ。追いかけようと立ち上がろうとしても、滑って思うように立ち上がれない。
「エテボース、“スピードスター”!!」
 これで、時間は稼げる。あたし達は近くにあった階段を上って、上の階に行った。
「いたぞ!! あそこだ!!」
 廊下に出ると、そんな声が聞こえてきた。ここにもいるの!? どこへ行っても、団員に追いかけられてばかり。これじゃ、逃げてもきりがない。どこかでやり過ごさないと……!
「みんな、こっちよ!!」
 あたしは廊下を曲がった所にあった、適当な部屋の入り口を見つけて、そこに素早く入って、ドアを閉めた。団員達の足音が通り過ぎて行った。見つからなくてよかった……ふう、とあたしは一息ついて、部屋の中を見た。するとそこには、ベルトコンベアーとかの工場にあるような、いろいろな機械がずらりと並んで、ゴゴゴと音を立てながら動いていた。何だかうるさいと思ったら……でも、ここって何をする場所なんだろう……
「何をするんですか……! 離して下さい……!」
 すると、そんな聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は、間違いなくラン!
「おい、この女はどうする?」
「捕虜にするって言ってただろ。牢屋へ連れて行くんだ」
 そんな団員の声も聞こえる。機械の陰から覗いてみると、そこにはランを捕まえてどこかに連れて行こうとする2人の団員が!
「ランッ!!」
 あたしはすぐに、そこへ飛び出した!
「!!」
「エテボース、“ダブルアタック”!!」
 団員が気付いたのと同時に、あたしは指示を出していた。
「エイッ、ポオッ!!」
 エテボースは、2本の尻尾で思い切り2人の団員を殴った!
「ぐっ……!!」
 2人の団員は、すぐに倒れこんだ。
「ヒカリさんっ!!」
 ランも、すぐにこっちに気付いて、笑みを浮かべた。そして、あたしに抱きついてきた。
「もうダイジョウブよ、ラン!」
 あたしはランの体を優しく受け止めて、そう言った。


NEXT:FINAL SECTION

[569] FINAL SECTION VSアール! ヒカリの怒り!
フリッカー - 2008年06月05日 (木) 18時33分

 マザーシップの操縦室。
「どうした! 侵入者はまだ捕まらないのか!」
「はい、未だ捕えられていません!」
 アールの質問に、団員の1人が深刻そうな表情を浮かべて答えた。
「アール様……申し訳ありません……」
 近くにいた、団員に肩を担がれていたサイラスが、さっきのバトルでのダメージもあってか、苦しそうな表情でアールに謝る。
「だが……我がマザーシップの中で追っ手を振り切って逃げ回るとは……なかなかおもしろい侵入者じゃないか……」
 それを聞いたアールは怒る様子もなく、何やら考えを巡らせた。ふと、アールは席の側にあるスイッチを押した。画面が出て、そこに廊下を逃げ回るあたしの姿が映った。
「ほう……この顔は確か、トップコーディネーターの娘の……」
 画面を見たアールは、何か思いついたように笑みを浮かべた。すると、急に席を立った。
「アール様……?」
「サイラスはここにいろ」
 アールはサイラスにそう言い残して、操縦室を後にした。


FINAL SECTION VSアール! ヒカリの怒り!


 あたしは、近くで檻に閉じ込められていたコロンとローズを助けてあげた。
「コロン! ローズ!」
 ランは、胸に飛び込んできたコロンとローズをしっかりと抱きしめた。でも、捕まったのは、ランやコロン、ローズだけじゃない。他にも捕まった大勢の野生ポケモン達がいる。このポケモン達も、放っておいたらダークポケモンにされちゃうかもしれない。野生ポケモン達が入った檻を見て、あたしは黙っていられなくなった。あたしはすぐに、檻に閉じ込められたポケモン達を出してあげた。
「みんな! ここにいる奴らは、みんなを改造して利用しようとしてる、悪い奴らなの! だから、あたし達と一緒にここから逃げよう! みんなで力を合わせれば、ダイジョウブ!」
 あたしは、出してあげた野生ポケモン達にそう言った。すると、野生ポケモン達は、最初は戸惑った様子を見せたけど、ポッチャマ達が話すと、すぐに受け入れてくれた。1人だけで逃げ回るのは大変だったけど、この野生ポケモン達が味方になれば、これほど心強いものはない。これならダイジョウブ!
「あっ!! ヒカリさん!! 大変です!!」
 すると、突然ランの声が聞こえた。
「どうしたの?」
 あたしはランの声がした方を見た。ランは、ここから少し離れた小さな窓の所に立っていた。
「外、見てください!!」
「何があるの?」
 あたしは、ランの言いたい事が全然わからなかった。百聞は一見にしかず。あたしは窓から外を覗いてみた。すると、そこには信じられない光景が映っていた。
「嘘!?」
 そこに映っていたのは、あたしが想像していたものじゃなかった。映っているのは下に広がる雲の海と、青い空。しかも、雲は横に早く流れている。
「飛んでる!?」
 そうとしか考えられなかった。
「そうなんです……どうやって逃げるんですか……? これじゃ、逃げたくても逃げられない……」
 ランが不安な表情を浮かべた。アジトが空の上になったら、何をしても逃げられる訳がない。あたしは人を乗せて飛べるほどのひこうポケモンは持っていないし、第一、野生ポケモン達はどうやって……?
「そんな……」
 あたしの口から、そんな言葉がこぼれた。その時!
「いたぞ!! 工場の中だ!!」
 バタンというドアが乱暴に開いた音が聞こえてすぐに響いたそんな声が、あたしを現実に引き戻した。見ると、入口からまたたくさんの団員がこっちになだれ込んで来るのが見えた! 見つかっちゃった!
「何っ!? せっかく捕獲したポケモンまで逃がすとは……! ええい、全員捕まえろ!!」
 野生ポケモン達を見て驚いた団員が叫ぶと、団員達のゴルバットやデルビルが一斉に飛び出してきた!
「ああっ!!」
 それを見たランが、怯えた表情を見せた。
「ダイジョウブ! ここは任せて!!」
 あたしは、ランにそう言い聞かせて、ポッチャマ達とゴルバット達の前に出た。
「パチリス、“ほうでん”!!」
「チィィィィパ、リィィィィィッ!!」
 パチリスが、向かってくるゴルバット達に向けて“ほうでん”! 命中! 効果は抜群! 何匹かのゴルバットがまとめて地面に落ちた。
「ポッチャマ、“うずしお”!!」
「ポォォチャアアアアアッ!!」
 続けて、ポッチャマが“うずしお”をデルビル達に向けて投げる! デルビル達をまとめて飲み込んだ! 効果は抜群!
「あっ、ヒカリさん!!」
 すると、ランがあたしを呼んだ。ランが指差した所を見ると、手の空いてる団員達が、野生ポケモン達に向けて黒いモンスターボールを投げている!
「あっ!! あれは……!!」
 間違いなく、前にポッチャマをダークポケモンにさせたモンスターボール、ダークネスボールだった。飛んで来るダークネスボールから逃げ惑う野生ポケモン達。中にはダークネスボールに入れられたのも何匹かいる。このままじゃ……!
「やらせちゃダメ!! ミミロル、エテボース!! あいつらを止めて!!」
「ミミッ!!」
「エポッ!!」
 ミミロルとエテボースが飛び出した。ミミロルは“れいとうビーム”を発射してダークネスボールを凍らせる。そして、エテボースは“スピードスター”でダークネスボールを壊していく!
「ほう……なかなかのポケモンさばきじゃないか」
 その一声で、ここにいた誰もが動きを止めた。見ると、そこにはあの時の白い髪の男の人、アールが! 驚く団員達の間を通って、堂々とあたしの前に出るアール。
「初めましてだね、フタバタウンのヒカリ。私はアール、シャドーのリーダーだ」
 アールは何か企んでいそうに口元に笑みを浮かべながら自己紹介した。それも、あたしの名前を言って。
「どうしてあたしの事を知ってるの!?」
「かのトップコーディネーターの娘だそうじゃないか。コンテストマスター・ミクリ曰く『最高のコーディネーター』……是非とも私と手合わせ願いたい」
 いきなりこんな事言うなんて……何だか怪しい……何を企んでいるの、アールは?
「アール様!!」
「お前達はここで見ていろ」
「し、しかし、捕獲したポケモンは……」
「所詮ダークネスボールでは、応急的にしかダークポケモンを作れん。まともなダークポケモンを作るには、工場で改造を行う必要があるのは知っているだろう? 何も焦る必要はない」
「……ハッ!!」
 ザッと団員達が下がった。手を出すなって事みたい。
「ヒカリさん……」
 ランの不安な声が聞こえる。
「ダイジョウブ」
 あたしはランにそう言って、一歩前に出た。
「わかったわ。その代わり、あたしが勝ったら、ここからあたし達をポケモン達と一緒に出させて!!」
 あたしは、相手がボスだという事を利用して、そんな条件を突きつけてみた。うまく受け入れてくれるかどうかはわからないけど。
「……いいだろう」
 アールは、意外にあっさりとそれを受け入れた。やっぱり口元が笑ってる。
「では、私はこのポケモンで勝負させてもらおう!! カイリュー!!」
 アールは、堂々と1個のモンスターボールを目の前に投げた。出てきたポケモンは、黄色い体をもつ、大きなドラゴンポケモン。
「あれがカイリュー……」
 あたしは、ポケモン図鑑を取り出した。
「カイリュー、ドラゴンポケモン。大きな体格で空を飛び、地球を約16時間で一周してしまう。知能も人間に匹敵するらしい」
 図鑑の音声が流れた。
「ポチャッ!!」
 ポッチャマが身構える。
「まずはこちらからだ! “ダークストーム”!!」
 アールの指示で、カイリューが“ダークストーム”を発射! サイラスのヨーギラスとは比較にならない激しさ。まさに突風。
「きゃああああっ!!」
 それはポッチャマだけじゃなくて、側にいたあたし達までも巻き込んで吹っ飛ばした! そのせいで、ポケモン図鑑を落としちゃった。
「みんな……!!」
 あたしはポッチャマ達やランに目をやった。
「ポ……チャマ!!」
 ポッチャマはすぐに立ち上がった。
「平気、です……」
 ランも平気だったみたい。よかった……あたしは改めて、カイリューに顔を戻した。
「何なの、あのパワー……」
 倒れたあたしは、思わずそうつぶやいた。
「これは挨拶代わりだ。さあ、次は君が攻撃する番だよ。4匹全員でかかってきても結構だ」
 アールは、何だかあたしを挑発するようにそう言った。あたしのポケモン全員と戦おうとするなんて、どれだけ余裕なの……? あたしはカイリューの底知れない力を感じ取った。
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
 その言葉を聞いたミミロル、パチリス、エテボースも前に出た。こうなったら、お望み通りに!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマアアアアッ!!」
 ポッチャマは息を吸い込んで、“バブルこうせん”を発射! 命中! 顔に当たってよろけるカイリュー。
「“ダークラッシュ”!!」
 カイリューが、口から“ダークラッシュ”を発射して反撃!
「エテボース、“スピードスター”!!」
「エイポオオオオッ!!」
 すぐにエテボースが“スピードスター”を発射! 飛んでいく“スピードスター”は、1つに集まって大きな星を作り出した。そこに、“ダークラッシュ”が当たって爆発! “スピードスター”は砕け散ったけど、“ダークラッシュ”を相殺する事には成功!
「パチリス、“スパーク”!!」
「チパアアアアッ!!」
 そこに、パチリスが“スパーク”で突撃する! 爆発の煙を突き破って飛び出したパチリスの体は、カイリューのお腹に直撃!
「“ダークブレイク”!!」
 すぐにカイリューは、腕を不気味に光らせて振りかざした! 狙っているのは、ミミロル!
「ミミロル、“とびはねる”から“れいとうビーム”!!」
「ミミッ!!」
 ミミロルは、思い切りジャンプしてカイリューの腕をかわした! カイリューの上を取る!
「ミィィィ、ミイイイイイッ!!」
 そして、“れいとうビーム”を発射! 命中! 効果は抜群! カイリューの体が少し凍りついた。まだ倒せない。
「ほう……なかなかやるじゃないか……」
 アールが突然、そんな事をつぶやいた。
「やはり私は欲しい……!」
「!?」
 その後のアールの言葉に、あたしは耳を疑った。
「フタバタウンのヒカリ、今からシャドーに入らないかね?」
「!!」
 突然の勧誘に、あたしは驚いた。
「私は知っているぞ、2度ポケモンコンテストで1次落ちした事を。前のミクリカップでは優勝できたが、それだけで満足かね? 我々と共に来れば、もっと強力なポケモンが手に入れられるぞ?」
 アールは、こっちの目の前に近づいてきて、あたしの手を取ろうとした。でも、あたしはそれには乗らなかった。
「冗談じゃないわ!! 嫌よ!!」
 あたしは、その手を思い切り振りほどいて、後ろに下がった。
「ポケモンの心を奪って、機械みたいに使ってるあんた達の仲間になるなんて、あたしは嫌よ!!」
 あたしは、はっきりと言い放った。
「そうかな……? それはお前だって同じさ」
「!?」
 言い返したアールの言葉に、あたしは驚いた。
「ポケモンを『道具』にして、『おもちゃ』にして、ポケモンバトルやポケモンコンテストというゲームを楽しむ。それがポケモントレーナーというものさ」
 アールはポッチャマ達を見つめながら堂々とそう言い放った。
「そんなポケモンには、余計な『感情』は必要ない。『道具』としての機能だけ与えて人が支配すればいいんだ。それで何も不便は起こらない……」
 アールは、また視線をあたしに戻した。
「違う……そんなの……違うっ!!」
 それでも、あたしはそう言い返した。
「ポチャポチャッ!!」
 ポッチャマも、あたしと同じみたい。
「あんた、何もわかってないじゃない!! ポケモントレーナーは、ポケモンを操るだけでいいって訳じゃないのよ!!」
「……」
 あたしの主張を、黙って聞くアール。あたしは主張を続ける。
「本当のポケモントレーナーっていうのは、ポケモンと力を合わせて、ポケモンと1つになって、いろんな事を成し遂げる人なんだって、わかったの!! ポケモンの『個性』を知れば、初めて心を通わせられる。そして、そのポケモンと1つになれるって事も!! そんな事も知ろうとしないで、ポケモンの心を奪い取ってダークポケモンにするなんて……あんたはポケモントレーナーなんかじゃない!! あんたなんか……ポケモントレーナー失格よ!!」
 あたしは、言いたい事を全部アールに思い切りぶつけた。
「ヒカリさん……」
 ランやコロン、ローズもそんなあたしの言葉に
「フフフフフ……ハハハハハハハハッ!!」
 すると、アールは突然笑い出した。
「何がおかしいのよ!!」
「ハハハ……私が、『ポケモントレーナー失格』だと……フフフ、そう言われたのは初めてだ……それも、お前みたいな娘に……フフフ……!」
 アールは笑いながらそうつぶやいた。完全にバカにしてる。
「……ならばもう、手加減する必要はないな……本気で行かせてもらおう!!」
 アールは笑うのを止めて、カッと顔を上げると、元の位置に戻った。
「ポケモンと1つになれるのがポケモントレーナーなら、それを見せてみろ!! カイリュー、“ダークパニック”!!」
 アールが指示すると、カイリューは口から“ダークラッシュ”とは違う黒い光線を発射! その範囲は広くて、ポッチャマ達をたちまち飲み込んだ!
「ポ……ポチャアアアア……」
「ミミィィィィ……」
「チパ……チパァァァァ……」
「エポ……エポォォォォ……」
 その光線を受けたみんなの様子が、急におかしくなった。みんな目を回して、酔っぱらいのように千鳥足になった。
「みんな!? どうしたの!?」
 あたしは、みんなに何が起こったのか全然わからなかった。
「ハハハ!! “ダークパニック”は相手ポケモン全てを『こんらん』させるダークわざなのだよ!!」
 アールが自慢気に叫んだ。
「そんな……!! みんな、しっかりして!!」
 あたしが呼びかけても、ポッチャマ達は『こんらん』したまま。とうとう床に顔を自分から叩きつけたり、お互いに殴り合いをしたりするようになっちゃった!
「さあ、これでポケモン達と1つになれるかな? “ダークラッシュ”!!」
 そこに、カイリューが“ダークラッシュ”を連続発射!
「ポチャアアアアッ!!」
「ミミィィィィッ!!」
「チパアアアアッ!!」
「エポォォォォッ!!」
 直撃! 効果は抜群みたい! そのまま倒れる4匹だけど、まだ『こんらん』したまま。
「“ダークブレイク”!!」
 続けてカイリューは“ダークブレイク”で4匹に殴りかかった! よけられる訳ない! 次々と殴り飛ばされていく4匹。効果は抜群みたい! それでも『こんらん』は解けない。『こんらん』したポケモンなんて、的以外の何物でもない。このままじゃ……!
「みんな!! しっかりして!! 目を覚まして!!」
 あたしは、必死に4匹に呼びかけた。でも、4匹は答えてくれない。
「どうやら君の理論は間違っていたようだな……! “ダークストーム”!!」
 アールは勝利を確信したのか、ニヤリと笑った。そして、カイリューが“ダークストーム”を発射!
「きゃあああああっ!!」
 それに、あたしまで巻き込まれた! すさまじい嵐に弾き飛ばされたあたしの体は、壁に思い切りぶつかった。
「う……ぐ……」
 そのまま、力なく崩れ落ちるあたしの体。体中が、痛い……! 目の前に見える倒れた4匹と、勝ち誇ったように立つカイリュー。どうしたら……どうしたらいいの……!?

「そんな……このままじゃ、ヒカリさんが負けちゃう……!」
 ランは体を震わせながら、倒れたあたしを見ていた。どうする事もできないまま、一歩下がったその時、ランは何か硬いものを踏んだ。
「……?」
 それは、さっきあたしが落としたポケモン図鑑だった。ランは、それを拾った。
「これって、ヒカリさんが持ってた……」
 そうつぶやきながら、ランはポケモン図鑑を開ける。すると、ポケモン図鑑が動き出した。
「……これって……!?」
 ランは、画面を見て目を丸くした。その時、コロンとローズがランの前に出た。ランと目が合う2匹。2匹は、何かを伝えるように、ゆっくりとうなずいた。
「コロン……ローズ……よし、みんなを信じるわ!!」
 それを見たランは、気を引き締めた。

「さあカイリュー、とどめを刺せ!! “ダークストーム”!!」
 アールの指示で、カイリューは息を吸い込み始めた。ああ、あたしはもう、負けちゃうんだ……! あきらめかけた、その時!
 突然、カイリューを緑色の嵐が襲った! “リーフストーム”!? そのせいで、カイリューは“ダークストーム”を発射できなかった。
「何だ!?」
「え!?」
 予想もしない援軍に、あたしとアールは驚いて攻撃が飛んで来た方向を見た。そこには、ランのローズ!? まさか、今のはローズが……!?
「ラン!?」
「コロン、みんなを助けて!! “いやしのすず”!!」
 後ろにいたランが指示すると、コロンはきれいな鳴き声をあげた。すると、『こんらん』していたポッチャマ達が、たちまち正気に戻った。ラン、ポケモンバトルをした事がないって言ってたのに、どうしてわざが指示できるの!?
「ごめんなさい、この機械ちょっと借りました。これがあったら、ランもヒカリさんを助けられます!」
 ランの手にあるのは、落としたあたしのポケモン図鑑。ポケモン図鑑には、ポケモンの使えるわざやその効果を調べられる機能がある。それを使って、ランは指示を出したんだ!
「チッ、邪魔をしやがって!! “ダークラッシュ”!!」
 カイリューが、コロンとローズに牙を剥いた! “ダークラッシュ”を2匹に向けて発射!
「よけて!!」
 ランは、初めてとは思えないほどの反応で指示を出した。コロンとローズは紙一重でかわした。
「コロン、“しねんのずつき”!! ローズ、“エナジーボール”!!」
 今度は反撃に出るラン。まずローズが“エナジーボール”を発射! 命中! それでカイリューがよろけた隙に、コロンが頭に力をこめて頭突きした! 直撃! その裁きは、初めてとは思えないほど。
「ラン、やるじゃない……」
 あたしも、感心しちゃった。
「いいえ、ヒカリさんのポケモンバトルを見て、真似してみただけです」
 笑みを返すラン。真似してみただけっていっても、初めてでこれだけやれるなんて……ランって以外に頭がいいのね。
「なら、こっちも負けてられないわね! 行くわよみんな!!」
「ポチャッ!!」
「ミミッ!!」
「チパッ!!」
「エポッ!!」
 負けじとあたしも立ち上がって、ポッチャマ達に呼び掛けると、正気を取り戻した4匹は、すぐ答えてくれた。
「あいつに見せてやりましょうよ……本当のポケモントレーナーってものを!!」
 あたしが叫ぶと、みんなは身構えた。
「くっ!! “ダークパニック”!!」
 アールがもう一度“ダークパニック”を指示した! カイリューの口から発射される光線。これじゃ、またみんなが『こんらん』しちゃう!
「コロン、“しんぴのまもり”!!」
 でも、その心配はすぐに消えた。コロンが“しんぴのまもり”でみんなを包んでくれたおかげで、“ダークパニック”を防ぐ事ができた。これでもう、こっちが『こんらん』する事はない!
「ローズ、“しびれごな”!!」
 すぐに、ローズが黄色い粉をカイリューにばら撒く。それを吸ったカイリューは、たちまち『まひ』した! いくらダークポケモンでも、攻撃できなきゃこっちのもの!
「くっ!! カイリュー!! “ダークストーム”を撃て!!」
 動揺するアール。カイリューは答えようとするけど、『まひ』しているせいで動けない。
「ヒカリさん、今です!!」
 ランが声を上げた。
「ええ!! みんな、一斉攻撃よ!!」
 あたしが叫ぶと、4匹が一斉に飛び出した! みんなと心を1つにするあたし。
「これが!!」
「エイッ、ポオオオオッ!!」
 お腹の底から叫んだあたしの言葉に合わせて、まずは、エテボースの“きあいパンチ”! 直撃!
「あたし達の!!」
「チパアアアアッ!!」
 続けて、パチリスの“スパーク”! クリーンヒット!
「みんなの!!」
「ミミィィィィッ!!」
 そして、ミミロルの“ピヨピヨパンチ”! 直撃!
「『絆のチカラ』よっ!!」
「ポチャマアアアアッ!!」
 最後はポッチャマの“うずしお”! 命中! 水の渦に飲み込まれるカイリュー。その時、カイリューがようやく発射した“ダークストーム”。それが、部屋の天井を貫いた! そして爆発! 辺りにサイレンが鳴り響いた。爆発はどんどんマザーシップの中に広がっていって、やがてマザーシップは地面に吸い込まれ始めた。煙を吹きながらマザーシップは、森の中に重い音を立てて不時着した。

 * * *

 あたし達は、何とか助かった。落ちた時にどんな風な状態でどんな風に逃げて助かったのか、全然覚えてないけど。
 墜落した飛行船にいたシャドーの団員は全員御用になった。野生ポケモン達も、みんな森に返された。後でわかった事だけど、『シャドー』というのは、元々シンオウから遠いオーレって地方の悪の組織で、シンオウに拠点を作ろうと企んでやってきたみたい。オーレには野生ポケモンが少ないらしくて、ダークポケモンの材料集めのためにも、野生ポケモンの多い場所が欲しかったっていうのが理由みたい。
 ともあれ、あたし達は無事にサトシ達と合流できた。これにて一件落着って訳。

 その夜、あたしはテントでランと一緒に寝る事になった。暗いテントの中でランタンを挟んで、あたしとランは話していた。
「ラン、ごめんね。あたしが連れてってあげるって言ったから、あんな怖い目に逢わせちゃって……」
 あたしは、とりあえずランに謝った。本当は旅が楽しいって事を教えてあげたかったのに、あんな悪の組織との戦いに巻き込んじゃったからね。お化け屋敷に入るよりも怖い目に逢わせちゃったかな、って思った。
「いいえ、気にしないでください。確かに怖かったですけど、何だか楽しかったです」
「え!?」
 ランはゆったりと笑って答えた。意外な反応に、あたしは驚いたけど。
「今思ったら、ああゆうスリルあるのも『冒険』なんだなあって思って……」
「あ……まあ、そうよね」
 あたしは笑って答えた。ランの考えには納得できた。あたし達も、いろんな危ない目に何度も合ってきたからね。ロケット団もその1つ。それもまた、思い出の1つになってる。
「ああ、このまま離れたくない……明日になったら、こんな楽しい日も終わっちゃう……こんな楽しい日が、ずっと続いてほしい……」
「ダイジョウブ! それなら、早く病気を治そうって思えばいいのよ! そうすれば、ランだって自分で旅に出られるから!」
「……そうですよね!」
「そうよ! あたしも応援するから!」
 そんなあたし達の楽しい会話は、いつまでも続いた……

 * * *

 次の日。
 ランが、豪邸に帰る時が来た。入口の前で、あたし達はランのパパとママと話をしていた。
「いやあ、本当にすまなかったねえ、お嬢ちゃん。うちの娘がいろいろと……」
「そんな事ないよパパ! ラン、とっても楽しかったから!」
 あたし達に申し訳なさそうに謝るランのパパに、笑顔で口を挟むラン。その表情は、初めて会った時よりも輝いていた。
「ラン、早く病気を治したい! そして、コロンとローズと一緒に旅に出るの!」
 ランは自慢するようにランのパパとママに言った。
「そうね、なら、これからがんばらないとね!」
 ランのママが笑みを浮かべた。そんな会話を聞いていると、あたし達も笑っちゃう。
「ヒカリさん、本当にありがとうございました!」
 ランが、あたしに顔を向けてペコリとお辞儀をした。
「そんな……お礼なんていいよ……」
 あたしは照れて、返す言葉が思い浮かばなかった。
「ラン、これから療養のためにハクタイシティに行く事になったの。ランの初めての旅です!」
「ハクタイシティか!」
「あそこならハクタイの森があって、自然がいっぱいで空気がおいしい所だからな」
 ランの言葉を聞いたサトシとタケシが、感心して言った。
「病気が治ったら、ラン、ポケモントレーナーになります! その時は、ヒカリさんと勝負させてください!」
 輝かせた目で、ランはあたしに言った。
「いいわよ! その時は、手加減はしないからね!」
「ポチャマ!」
 あたしとポッチャマも、笑顔で答えた。
「うん! じゃ、約束ですよ!」
 ランはそう言って、右手の小指を差し出した。
「ええ!」
 あたしも右手の小指を出して、ランの小指に引っかけて指切りをした。
「これからも友達でいてください、ヒカリ!」
 ランが笑った。ランがあたしの事を『さん』付けで呼ばなくなったのは、これが初めてだった。

 * * *

 そして、あたし達が出発する時間になった。
「さようなら〜! 約束忘れないでくださいね〜! コンテストも、応援してますから〜!」
 ランが、手を思い切り振って見送った。コロンとローズも一緒に見送る。
「ありがと〜! ランもちゃんと病気治してね〜!」
「元気でな〜!」
 あたし達も、手を振って答えた。ラン達の姿がどんどん遠くなっていった。

 * * *

 あたしと出会ったおかげで、ランは新しいスタートを切った。
 それは、あたしも同じ。集めなきゃいけないリボンはあと3つ。ママが言ってた通り、本当の戦いはこれから。あたしもポッチャマ達と一緒に、新しいスタートを切らないと! グランドフェスティバルに出るために! トップコーディネーターになるために!

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……


STORY15:THE END

[570] 次回予告
フリッカー - 2008年06月05日 (木) 18時34分

 あたしは突然、とんでもない疑いをかけられちゃった!

「あんたね!! ミクリカップでミクリ様に勝たせてくれって頼んだヤツ!!」
「ええっ!? 何の話よ!?」

「あなたはミクリカップ開催直前に、開催者ミクリとの密会を行った疑いがあります。真相が解明するまで、アクアリボンを預かります」
「もし、本当だってわかったら、どうなるんですか……?」
「実行委員会の規定に基き、優勝は取り消し、アクアリボンは没収、そしてあなたから4年間のポケモンコンテスト出場権を剥奪します」

 濡れ衣を着せられたあたしは、必死で無実を証明しようとするけど……

「確かに、ミクリ様と会った事は本当です。でも、ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いただけで、勝たせてくれなんて言ってません!!」
「その『ただどうすればもっときれいに魅せられるかって聞いた』ってのが怪しいわ!!」
「ヒカリはそんな事言ってない!!」
「本来、審査員というのは参加者と一切関係のない人がやるのよ。そんな審査員と関わりがあったって事自体おかしいじゃない!! 絶対何か裏があるわ!!」

 そんな所に現れたのは……

 NEXT STORY:勝利の価値

「ヒカリは無実かも!!」

 COMING SOON……



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