[440] SECTION01 強くなりたい! ヒカリの決意! |
- フリッカー - 2008年04月07日 (月) 00時03分
あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。
SECTION01 強くなりたい! ヒカリの決意!
トバリシティを出発したあたし達。あたしは、サトシに「コンテストの事、どうするんだ?」って聞かれたけど、あたしは「新しいコンビネーションを練習してから・・・」って慌てて答えた。なんであんな風に答えちゃったんだろう・・・ 結局、行き先はノモセシティに決定。コンテストの事は先送りになったまま、旅は続く・・・
* * *
ポケモンコンテストのステージを上に、あたしは立っていた。客席から響く歓声をあたしは浴びていた。 そう。あたしはまた、1人のコーディネーターとして、ここに帰ってきたの! 前のコンテストの失敗なんて、頭の中にはない。今のあたしは、不思議と負ける気がしなかった。 「ポッチャマ、チャームアーップ!!」 あたしは、思い切りボールカプセルに入れたモンスターボールを上に投げた。ステージに、元気よくポッチャマが出て来た。あたしの気持ちが高ぶった。 「行くよポッチャマ!! “バブルこうせん”!!」 「ポッチャマーッ!!」 あたしの指示に答えて、ポッチャマは高くジャンプして、体を軸に回転しながら上に向かって“バブルこうせん”を発射。“バブルこうせん”はきれいな渦を描きながら上に飛んで行く。そして、“バブルこうせん”は渦の頂点でぶつかり合って、水しぶきとなってポッチャマの周りに降り注いだ。その水しぶきを浴びながら、ポッチャマはきれいに着地して、ポーズを決めた。 「やったあ!!」 決まった! あたしはそう確信した。これなら絶対・・・ 「何だその演技は!! なんてヘタクソな演技なんだ!!」 「え・・・!?」 そんな時に、水を差すように入ってきたその言葉に、あたしは驚いた。客席の方を見てみても、顔が暗くて誰が言っているのかは全然わからない。その声は、誰か1人の声じゃないような気もした。 「そんな演技が、コンテストで通用すると思ってるのか!! それでも『トップコーディネーターの子』か!!」 「!!」 その言葉が、あたしの心に深々と突き刺さった。ここまで来たのに、演技が観客の心に響かなかったって言うの!? 「3度目もこんなんだなんて、あんたには失望したよ!! この『親の恥』め!!」 そんなあたしに追い討ちをかけるように、そんな言葉が、またあたしの心に突き刺さった。すると、客席の観客達が一斉に笑い始めた。あたしをバカにしている笑い声である事に、気づくのに時間はかからなかった。 「どうし、て・・・!?」 嫌でも耳に入ってくる笑い声のせいで、あたしは完全に体の力が抜けて、その場に膝を付いた。 「こんなの・・・こんなの違う!!」 あたしはうずくまって、頭を抱えてそう言うしかなかった。それでも、あたしをバカにする笑い声は止まらない。観客の視線が痛く感じる。立ち直ってがんばってきたのに、その努力がこんな形で裏切られるなんて・・・ 「ママ・・・助けてよ・・・あたしは・・・あたし・・・は・・・」 あたしは頭を抱えたまま、完全に泣き出していた。そんな声も、周りの笑い声に掻き消されるだけだった・・・
* * *
あたしは、はっと目を開けた。テントの天井が映る。体を起こすと、あたしは寝袋の中にいるのを確かめた。 「また、あんな夢・・・」 夢でよかったあ・・・でも、またあの夢だった・・・あたしは、たまにこの悪夢にうなされる。トバリシティを出発した後も・・・あたしの傍らを見ると、気持ちよさそうに寝息を立てているポッチャマがいた。そんなポッチャマを見ていると、あたしはこれからの事が不安になってきた。 「ダイジョウブ・・・かな、あたし・・・」 あたしは、ママからもらったお守りのリボンを手に取って、見た。 ズイタウンのコンテストの事で、あたしは完全にパニック状態になって、どうしていいかわからなくなった。でも、旅を続けていく中でいろんな事を経験して、少しずつ落ち着いていった。ユモミに励まされた事、ハルナやメイルとの出会い、スモモとのジム戦・・・そして、あんな失敗の事なんて忘れちゃって、がんばらなきゃって決めた。ポッチャマ達もついて来てくれる。ミミロルのおしゃれとか、いろいろな事をやってみた。でも、あの時の失敗が、何かある度に思い出す。さっきも、夢という形で・・・こういうのを、『古傷が痛む』って言うのかな・・・? 何だか、怖い・・・またあの時みたいな失敗しちゃいそうで、怖い・・・ 「だ、ダイジョウブダイジョウブ! あの時の事なんて、気にしなくていいんだから! ね! うんうん、忘れちゃえばいいのよ!」 あたしはそう自分に言い聞かせて、また寝袋に横になって、目を閉じた。でも・・・
またしても、あの2回のコンテストの失敗がフラッシュバックした。
「ダメよっ!!」 あたしは思わず声を上げて、頭を抱えて体を横に向けた。 「ダメよ・・・あの事は忘れて、がんばるって決めたんだから・・・! 忘れなきゃ、あの事は・・・!」 そう自分に言い聞かせるあたし。あたしは、コンテストに出たい・・・! あの時の歓声を、もう1回浴びたい・・・! 思いっ切り楽しんで、リボンをゲットしたい・・・! あの時のように・・・でも、また横槍を入れるようにあの時の嫌な出来事がフラッシュバックした。失敗から来る怖さがよみがえる。 「ダメえっ! 忘れなきゃ・・・忘れなきゃ・・・っ!」 うつぶせになって、顔を伏せてそう言い聞かせた。でも、恐さが頭から離れない。 「忘れて・・・っ!」 どんなにそう自分に言い聞かせても、怖さは鎖につながれたように頭から離れなかった。人の頭って、どうしてこんなに不便なの、って一瞬思った。 「ポチャ・・・?」 そんな声が耳に入って、あたしは現実に引き戻された。見ると、横でポッチャマが眠そうな目でこっちを見ていた。起こしちゃったみたい。 「あ・・・ごめんポッチャマ! 何でもないよ! ダイジョウブダイジョウブ!」 慌ててあたしはそう言って、ポッチャマに背を向けた。
それでも、あたしの怖さは消えなかった。どうしたら、こんな怖さとさよならできるの・・・? 前は、そんな事ちっとも怖くなかったのに・・・? 「強く・・・ならなきゃ・・・」 あたしの口からそんな言葉がこぼれた。もっと、強くなりたい・・・こんな怖さを・・・あの時の失敗を何ともないって思えるくらい・・・!
* * *
次の日。 みんなで休憩を取っていた時に、あたしは4匹のポケモン達を出して、サトシにこう頼んだ。 「ねえサトシ」 「何だ?」 「あたし達のトレーニングに、付き合ってくれない?」 「え?」 サトシは目を丸くした。あんまりこんな事頼んだ事なかったもんね。 「あたしも、強くならなきゃって思ってるの。コンテストに出る時にためにも・・・!」 「・・・わかった! こっちもジム戦の練習にもなるしな!」 「ピカチュ!」 理由を話すと、サトシとピカチュウは快く受け入れてくれた。 「ありがと」 あたしも、笑顔で答えた。
森の開けた場所が、トレーニングの場所。あたしとサトシは、間を空けて位置に付く。タケシも、そんなあたし達を興味深そうに見ていた。 「みんな、最初はよける練習よ! まずはポッチャマから!」 「ポチャ!」 ポッチャマが、やる気満々な様子で前に出た。 「サトシ、ポッチャマに遠慮なく攻撃して!」 「ああ、わかった! 行くぞピカチュウ!」 「ピッカ!」 ピカチュウもやる気満々。ポッチャマにはちょっと危険だけど、この方が実戦的でいいとあたしは考えたの。 「“10まんボルト”!!」 サトシの指示で、ピカチュウは自慢の電撃を思い切りポッチャマに向けて発射した! 「よけてポッチャマ!!」 「ポチャッ!!」 ポッチャマは、ピカチュウの電撃をうまくかわしてみせた。でも、これはまだ序の口。 「サトシ、もっとお願い!」 「わかった! じゃ、遠慮なく行くぜ!! ピカチュウ、もう一度“10まんボルト”!!」 ピカチュウはまたポッチャマに電撃を発射! それをよけるポッチャマ。ピカチュウはあたしの言った通りに、どんどん電撃を発射する! それを1つ、2つと軽やかによけ続けるポッチャマ。 「ポチャアアッ!!」 でも、とうとうついて行けなくなって、電撃がもろにヒット! 効果は抜群! その場に倒れるポッチャマ。他の3匹も息を呑んだ。 「ダメよポッチャマ! 慌てないで、相手の攻撃をよく見て! ちゃんとよけなきゃバランスを崩しちゃって、減点になっちゃうんだから!」 あたしは、ちょっと厳しくそう言った。そんな言葉に、サトシもタケシも目を丸くしていた。 「大丈夫なのか?」 「ダイジョウブダイジョウブ! もっとやって!」 「ポチャッ・・・!!」 心配するサトシに、あたしは強くそう答えた。ポッチャマも負けじと立ち上がった。そして、ピカチュウはまた、電撃を発射し続けた。 「ちゃんときれいに着地しなきゃダメッ!」 「もっと動きをきれいにして!」 「そこはこんな感じでこう!」 ポッチャマに出す言葉は、自然と厳しくなっていた。どうしても、あたしの納得できる動きが見たかったからかもしれない。気が付くと、ポッチャマもピカチュウもヘトヘトになっていた。 「2人共、そこまで!」 そんな2匹の間に、タケシが入った。 「2人共、熱が入り過ぎだ。少し休憩を取った方がいい」 「あ・・・」 いけない、すっかり夢中になっちゃって・・・! それはサトシも同じみたいだった。 「ポッチャマ、お疲れ。ゆっくり休んで」 「ポチャ」 あたしがポッチャマを抱き上げると、ポッチャマは荒い息をしながら答えた。 「ヒカリ」 すると、タケシがあたしに声をかけた。 「何?」 「一体どうしたんだ? 何だか、いつもと感じが違うトレーニングだったが・・・」 そんな疑問をあたしはぶつけられた。 「だって、今のあたしじゃ、コンテストに出るにはまだ足りないって思ったもん」 そんなあたしの言葉に、タケシの顔が少し曇った。 「だから、もっと強くならなきゃって思って」 「そうだったのか・・・」 そんなあたしの言葉を聞いて、タケシはほっとした様子だった。 「だが、無理なトレーニングはよくないぞ。ポケモンの体力にあったトレーニングをして、休みはしっかり取らせた方がいい」 「ゴメン・・・わかってたんだけど、つい夢中になっちゃって・・・」 あたしは苦笑いしながらタケシにそう答えた。反省反省。その時!
「ピカアアッ!!」 突然、ピカチュウの悲鳴が聞こえた。見ると、ピカチュウが空から伸びるネットに捕まっていた! 「ピカチュウ!?」 驚いてネットをたどってみると、見慣れたニャースの顔の気球が。 「わーっはっはっは!!」 聞き慣れた高笑いが聞こえてきた。 「何だかんだの声を聞き!!」 「光の速さでやって来た!!」 「風よ!!」 「大地よ!!」 「大空よ!!」 「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」 「誰もが震える魅惑の響き!!」 「ムサシ!!」 「コジロウ!!」 「ニャースでニャース!!」 「時代の主役はあたし達!!」 「我ら無敵の!!」 「ロケット団!!」 「ソーナンス!!」 「マネネ!!」 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。 「ロケット団!!」 あたし達はいつものように声をそろえて叫んだ。 「そんな訳で、今日こそピカチュウをいただいていくのニャ!」 ニャースの高らかな声が響く。ムサシとコジロウはピカチュウが入ったネットをゴンドラに引き上げた。 「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」 「ピ〜カ・・・チャア・・・」 ピカチュウは電撃で抵抗しようとするけど、さっきまでのトレーニングの疲れのせいか、電撃が出せないままぐったりした。 「無駄無駄ぁ!! ピカチュウがトレーニングで疲れている事は承知の上なのだ!!」 「ま、いつもの電撃対策はバッチリだから、電撃ができても無駄だけどね〜!!」 コジロウとムサシが自慢気に叫んだ。 「ポチャ・・・ッ!!」 ポッチャマがピカチュウを助けようとあたしの腕から飛び降りた。でも、疲れのせいですぐに膝を付いた。 「こうなったら!! ミミロル!! パチリス!! エテボース!!」 ポッチャマじゃ無理そう。あたしは、残った3匹に呼びかけた。 「そうはさせないのニャ!!」 すると、ニャースがバズーカみたいなものを一丁取り出して、こっちに発射した! ネットが発射されて、あたし達に覆いかぶさった! 「ああっ!!」 「さらにほいニャ!!」 ニャースがリモコンの別のスイッチを押した。すると、ネットから突然、電気が流れてあたし達の体を走った! 「きゃあああっ!!」 電気そのものはあまり強くない。でも体がしびれて、体を起こしている事が辛くなってきた。 「どう? このために用意した『“でんじは”ネット』のお味は? 『まひ』してどうする事もできないでしょ?」 ムサシの自慢気な声が聞こえる。 「今回は人から頼まれてやっているんだ!! 失敗なんてできないからな!!」 コジロウの声も聞こえる。誰かに頼まれて・・・? 何の事・・・? 「そんな訳で!!」 「帰るっ!!」 3人の声が合わさった。そして、気球が上昇し始めた! このままじゃ、逃げられちゃう! 「ピ・・・ピカチュウ!!」 サトシが苦し紛れの声を上げた。 「こ・・・このままじゃ・・・っ!!」 何とかしないと・・・でも、体がしびれて・・・そんな時だった。 何かの影が、あたし達の上を素早く通り過ぎた。その影は、ロケット団の気球に真っ直ぐ飛んで行った。そして、ゴンドラのすぐ前で、赤い目をギョロリと向けた! 「!?」 ロケット団が驚いた隙に、陰は黒いボールをゴンドラに発射! 「うわあああああああっ!!」 気球が爆発して、ロケット団の悲鳴が響いた。気球のゴンドラが地面に音を立てて落ちた。 「な、何、あれ・・・!?」 驚くあたし達の前に、影がゆっくりと降り立った。三日月の形をした岩の体、赤い目・・・見覚えのあるポケモンだった。 「ルナ、トーン・・・?」 そう。間違いなくいんせきポケモン、ルナトーンだった。ルナトーンの目が光ると、あたし達を覆っていた『“でんじは”ネット』が宙に浮いて取れた。やっと電撃から自由になれた。 「あのルナトーン、なんで俺達を助けたんだ?」 サトシがそんな疑問を口にした。ルナトーンといえば・・・その答えは、すぐに出た。 「ヒカリさああああんっ!!」 後ろから、聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。振り向くとそこには、こっちに向かって来るあのハルナの姿が! という事は、あのルナトーンはハルナのルーナ! 「ハルナ・・・!」 「大丈夫ですか? ケガはありませんか?」 ハルナは真っ先にあたしを心配した。 「ありがとう、ダイジョウブ・・・うっ!」 あたしは立とうとしたけど、体のしびれがまだ残っていたから、立てなかった。そんなあたしを見て、ハルナは顔色を変えた。 「な、何なのよ、いきなり・・・!?」 ロケット団がゴンドラの残骸の中から出て来た。 「あんた達・・・ヒカリさんをこんなにした・・・!!」 ハルナは顔を伏せたまま、ロケット団の前に出た。見ると、手をわなわなと握っていた。 「だ、誰よあんた!! いきなり邪魔なんかして!!」 ムサシが強気で言い返した。 「『ヒカリさんの一番弟子』、ハルナよ!!」 ハルナは、顔を上げて堂々と自己紹介した。 「い、『一番弟子』!?」 勝手に『弟子』って言われた事に、あたしはすっごく驚いた。 「あんた達、ヒカリさんを誰だって思ってるの!! あのトップコーディネーターのアヤコさんの子で、すっごいコーディネーターなんだから!!」 「いや、それはわかるんだけど・・・」 ハルナの説明に、ムサシは唖然としてそうつぶやいた。 「そんなヒカリさんをいじめる悪い人は、ハルナが許さないっ!! ルーナッ!!」 ハルナの強い叫びで、ルーナがハルナの前に出た。 「何よ!! 弟子だか何だか知らないけど、邪魔するなら容赦しないわよ!! ハブネークッ!!」 怒ったムサシがハブネークを繰り出した。 「マスキッパ、お前も行けっ!!」 続けてコジロウもマスキッパを繰り出した。でも、いつものようにマスキッパはコジロウの頭に食らい付いた。 「いて〜っ!! 違う、違うって!!」 そして、いつものようにもがき苦しむ(?)コジロウ。 「2匹で来るのね・・・なら・・・!!」 そうつぶやくと、ハルナはもう1つモンスターボールを左手で取り出した。 「え?」 あたしは目を疑った。ハルナには、手持ちはルーナしかいなかったはずだけど・・・? 「時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!!」 ハルナは左手を突き出しながら、いつもの前口上をしゃべり始めた。 「月食の力を借りて!! ポケモン、プリン、その名はエクリプス!! ここに見参っ!!」 聞き慣れない名前を叫んだハルナは、左手でモンスターボールをルーナの横に投げた。出て来たのは、ピンク色の丸い体に大きな目が特徴のかわいらしいポケモンだった。ハルナ、いつの間に・・・? 「あれは、プリンじゃないか!!」 タケシが声を上げた。 「ルーナ、“シャドーボール”!! エクリプス、“みずのはどう”!!」 ルーナとエクリプスは横に並んで、ルーナが黒いボール、エクリプスが青いボールを発射! でも、ハブネークとマスキッパはそれをかわした。2匹の足元が爆発する。 「やってやろうじゃないの!! ハブネーク、“かみつく”攻撃っ!!」 「マスキッパ、“タネマシンガン”だ!!」 ムサシとコジロウの指示で、ハブネークがエクリプスに踊りかかった! そして、マスキッパがルーナに“タネマシンガン”を発射! 2匹はそんな攻撃をもろに受けちゃった! エクリプスは噛み付かれたままジタバタするだけ。ルーナには効果は抜群! 「ああっ!!」 ハルナが思わず声を上げた。 「何よ、大した事ないじゃないの!! ハブネーク、今度は・・・」 ムサシが次の指示を出そうとした時、ハブネークが突然、エクリプスを離した。 「・・・?」 ムサシは目を疑った。ハブネークはそのまま動かなくなっていた。見ると、エクリプスを見て顔を赤くしてのぼせちゃってる? 「やったあ!! エクリプスの『メロメロボディ』が決まったあ!!」 ハルナに笑顔が戻った。 「『メロメロボディ』?」 「直接触れた異性の相手を『メロメロ』状態にさせるとくせいだ」 サトシの疑問にタケシが答えた。でも、サトシは相変わらず首を傾げたまま。 「ちょっとハブネーク!! 何してるのよ!!」 ムサシが呼びかけても、ハブネークは顔色を変えない。 「よ〜し、次はこっちの番!! ルーナ、“ねんりき”!! エクリプス、“はたく”攻撃!!」 ハルナが反撃に出る。ルーナがマスキッパに向けて念じ始めると、マスキッパが宙に浮き始めた! そして、エクリプスは短い手に力を込めて思い切りハブネークをはたいた! そのまま弾き飛ばされる2匹。 「ちょっとコジロウ、何とかしなさいよ!!」 「わかってるって!! マスキッパ、“かみつく”だっ!!」 「そうはさせないわ!! エクリプス、“うたう”よ!!」 ハブネークをフォローしようとしたマスキッパだけど、すぐにエクリプスが目を閉じて文字通り歌い始めた。心地いい歌声だった。それを聞いたマスキッパは、たちまちまぶたが重くなってその場で倒れて寝ちゃった。 「こ、この歌は・・・」 「何だか、急に・・・」 それを聞いたロケット団も全員その場に倒れて寝ちゃった。 「やったあっ!!」 ハルナがガッツポーズをした。そんな時、あたしの体をポンと誰かが叩いた。見ると、そこにはパチリスが。 「チパ・・・ッ!!」 パチリスは『まひ』しているけど、青い火花をほっぺたの電気袋からだして、やる気満々だった。「ここは僕がやるよ!!」って言ってるみたいに。 「パチリス・・・うん、わかった!!」 あたしがうなずくと、パチリスは『まひ』をものともしないで飛び出した。『まひ』していても、全く動けない訳じゃないからね。でんきタイプだから、あの程度の電撃には耐えられたのかもしれない。 「パチリス、“ほうでん”!!」 「チィィィパ、リイイイイイッ!!」 パチリスが、ピカチュウにも負けない電撃を発射! 直撃! そして大爆発! 「・・・あれ・・・何だ・・・俺達・・・飛んでるぞ・・・?」 「・・・何だか・・・夢を見てるみたいね・・・」 「・・・って、ホントに飛んでるのニャーッ!!」 「ええ〜っ!! やな感じ〜っ!!」 いつものように、ロケット団は空の彼方へ消えていった。 「すご〜い!! さすがヒカリさんのポケモンだあっ!!」 ハルナがパチリスを見て歓声を上げた。そう言われたパチリスも、ちょっぴり照れていた。
* * *
タケシから『まひなおし』をもらったあたし達は、ようやく『まひ』から自由になれた。奪われそうになったピカチュウも、無事に戻ってきた。 「ごめんねハルナ、こっちが助けられるなんて・・・」 「いいんです! 困った時はお互い様ですから! ヒカリさんのためなら、ハルナは火の中、水の中、草の中、森の中、どこへでもついて行きますよ!」 謝ったあたしに、ハルナは笑顔で答えた。 「ねえハルナ、もう敬語なんて使わなくていいよ・・・?」 「そんな事できません! ヒカリさんは、ハルナの尊敬する人ですから!」 相変わらずの敬語に堅さを感じたあたしがそう言っても、ハルナは敬語をやめない。やっぱダメか・・・ま、いっか。 「おいおい、俺がピカチュウを奪われそうになったのに・・・」 それを見ていたサトシは、肩を落としてちょっと残念そうだった。 「まあ、いいじゃないか。終わりよければ全てよし、だ」 そんなサトシを、タケシがフォローした。 「ところでハルナ、そのポケモン・・・」 あたしは、エクリプスを見てハルナに聞いた。 「あっ、そうだ! ハルナ、あの後新しいポケモンをゲットしたんです! ほらエクリプス、この人がハルナの尊敬するヒカリさんだよ! 挨拶して!」 ハルナがエクリプスにそう言うと、エクリプスはあたしの前に出て、クルクルとコマのように回った後、片足で立ってかわいくポーズを決めた。 「かわいいポケモンね!」 改めて見てそう思ったあたしは、ポケモン図鑑を取り出した。確か、プリンって言ってたよね・・・ 「プリン、ふうせんポケモン。つぶらな瞳が揺れる時、誰もが眠くなってしまう子守唄を歌い始める」 図鑑の音声が流れた。 「新しいポケモン、か・・・」 あたしは何だかハルナがちょっとだけうらやましくなってきた。そういえば、あたしはあれから新しいポケモンをゲットしていない。やっぱり新しいポケモンをゲットする事も、強くなる事に繋がるよね・・・ 「どうしたんですか?」 そんなハルナの言葉が、あたしを現実に引き戻した。 「あ、ごめん。何でもないよ。ところでハルナ、あたし今トレーニング中なんだけど、付き合ってくれる?」 せっかくだから、ハルナにもトレーニングに協力してもらおう。そう思ったあたしは、ハルナにそう聞いた。 「もちろんです! ヒカリさんのためなら、喜んで協力します!」 ハルナはルーナやエクリプスと一緒に目を輝かせてそう答えた。 「・・・あ、ありがとうハルナ。ねえサトシ」 リアクションにちょっと驚いたけど、次にあたしは、サトシに聞いた。 「何だ?」 「ブイゼル出してくれない?」 トレーニングといったら、ブイゼルが黙っていないはず。トバリジム戦のウォーミングアップの時も協力してくれたしね!
少し休みを取った後、早速トレーニング開始。内容は、コンテストを想定したブイゼルとの練習試合。 「ブイゼル、準備はいい?」 「ブイ!!」 ブイゼルはいつでも来いと言ってるように、身構える。 「ブイゼル、しっかりコーチしてやれよー!」 サトシが横からブイゼルに呼びかける。ブイゼルから直接教えてもらえる事があるかな、って思ったから、サトシは見ているだけ。 「ルーナ、エクリプス、ヒカリさんのポケモンの動き、しっかり見ておこうね!」 審判役をするハルナは、側に居るルーナとエクリプスに、そう言っていた。 「じゃ、さっきはポッチャマだったから、ミミロル!」 「ミミッ!!」 あたしが呼びかけると、ミミロルが前に出た。 「よし、じゃあ開始っ!!」 ハルナが両手を挙げた。 「ブゥゥゥィ、ブゥゥゥゥッ!!」 真っ先にブイゼルが攻撃! 繰り出したのは、最近覚えたばかりの“みずのはどう”だった! 「行くよミミロル!! “れいとうビーム”で氷の壁を作って!!」 「ミィィィィミ、ロォォォォッ!!」 あたしの指示で、ミミロルは“みずのはどう”の先に向けて“れいとうビーム”を発射! たちまち氷の壁ができあがって、そこに“みずのはどう”が当たって壊れた! 白い煙の中に、氷の破片がキラキラと光りながら舞った。これなら向こうの減点・・・そう思った時だった! 「ブイイイイイイッ!!」 白い煙を突き破って、ブイゼルが“アクアジェット”で突っ込んできた! 不意を突かれたミミロルには、よける事ができなかった。あたしの目の前に倒れるミミロル。 「ミミロル!!」 あたしは思わず声を上げた。 「ブイ! ブイブイ、ブイブイッ!」 すると、ブイゼルがミミロルに何か言い始めた。すると、ミミロルはコクンとうなずいた。ブイゼル、ちゃんと悪いところを教えてくれてるみたい。ミミロルはまた立ち上がる。そして、練習試合は続く。わざとわざのぶつかり合い。何かある度に、ブイゼルはちゃんとミミロルに教えてくれる。そんな試合を、ハルナは息を呑んで見守っていた。 「ブイゼル、ちゃんとコーチしてるじゃないか」 そんな様子に、サトシも感心していた。その時だった。 ドドーンと、何かが爆発するような音が聞こえて、地面が地震のように揺れた。 「な、何!?」 突然の出来事に、みんな驚いた。鳥ポケモン達が、一斉に森から飛び立ったのが見えた。しばらくすると、揺れが治まった。するとすぐに、あたしの横でバキッという音がして、近くの木が突然倒れた。見ると、そこにはズシンズシンと音を立てながらこっちに迫ってくる茶色い体でツノの生えた大きなポケモンが出て来た! 「ドサイドンだ!」 タケシが声を上げた。そんなドサイドンは、暴れながら真っ直ぐこっちに向かって思い切り右腕を振り下ろした! 「きゃああっ!!」 あたしはすぐに逃げ出した。間一髪。ドサイドンの右腕は、地面に思い切り食い込んでいた。そんな右腕を、ドサイドンは思い切り引き抜いた。 「なんて威力の“アームハンマー”だ・・・!」 タケシが感心する間もなく、ドサイドンは容赦なくミミロルとブイゼルに向けて力を込めて尻尾を振った! “アイアンテール”だ! 慌ててよけるミミロルとブイゼル。 「あのドサイドン、完全に我を忘れているぞ!!」 タケシが叫んだ。 「とにかく、逃げるぞ!!」 サトシの言葉で、あたし達はとりあえず逃げる事にした。それでも、ドサイドンは吠えながら追いかけてくる! 「何なのあのドサイドン・・・ああっ!!」 ハルナが振り返りながらそう言った時、ハルナはつまずいて転んじゃった! そんなハルナに、ドサイドンが迫る! 「ハルナッ!!」 すぐにあたしはハルナを助けようと引き返した。「ヒカリッ!!」ってサトシの声が聞こえたけど、そんな事は気にも留めなかった。 「ミミロル、“れいとうビーム”!!」 「ミィィィィミ、ロォォォォッ!!」 ミミロルが、ドサイドンに向かって“れいとうビーム”を発射! 命中! 効果は抜群! たちまちドサイドンの体が凍りついた・・・と思ったら、ドサイドンは体を覆った氷を簡単に破った! 全然ダメージを受けてる様子はない。 「そんな・・・!? 効果は抜群のはずなのに!?」 「ブゥゥゥゥッ!!」 あたしが驚く間にも、ブイゼルが“みずでっぽう”で攻撃! 命中! 効果は抜群のはずだけど、効いてない。 「こうなったらピカチュウ、“アイアンテール”だ!!」 「ピッカアッ!!」 すぐにサトシが駆けつけた。ピカチュウが、尻尾に力を込めてドサイドンに振った! 直撃! でも、やっぱり効いてない。 「ポッチャマアアアアッ!!」 ポッチャマも“バブルこうせん”で応戦! でも、やっぱり効いてない。 「そんな・・・どうして!?」 あたしは動揺した。 「あのドサイドンのとくせいは、『ハードロック』なんだ! 効果は抜群な攻撃が弱められてしまうんだ!」 「そんな・・・!!」 あたしが驚いてる間に、ポケモン達の悲鳴が聞こえた。見ると、ポッチャマ達がまとめてドサイドンに弾き飛ばされていた! 「みんな!!」 あたしが叫んだ時、ドサイドンの手があたしに向かって伸びた! 「きゃあっ!!」 「ヒカリ!!」 「ヒカリさん!!」 気づいた時にはもう手遅れ。ドサイドンの手があたしをつかんだ! 捕まれたあたしに向けて、ドサイドンが吠えた。 「いやあっ!! 離してっ!!」 必死でもがいても、ドサイドンは離さない。ルーナとエクリプスが離させようと必死で攻撃するけど、全然効果がない。逆に、尻尾の一振りで返り討ちにされた! 「ルーナ!! エクリプス!!」 ハルナの声が聞こえる。ドサイドンはそのまま、あたしに向けてツノを向けた! ツノがドリルのように回り始める。ああ、このままあたしはこのツノに・・・! あたしが覚悟を決めた、その時!
黒いボールと青いボールが、ドサイドンに飛んで来た。命中! そして爆発! その衝撃でドサイドンはあたしを離して、背中から倒れた。 「ありがとう、ハルナ」 「いいえ・・・今のハルナじゃありません!」 あたしはハルナが助けてくれたと思ったけど、違った。すると、あたし達の目の前に、2体のポケモンが降り立った。1匹は、かんじょうポケモン、キルリア。もう1匹は、はどうポケモン、ルカリオだった。 「キルリアに、ルカリオ・・・?」 「大丈夫ですか?」 そんな時、サトシ達の後ろに1つの人影が姿を現した。黒いシンプルドレスを着た、女の子・・・?
TO BE CONTINUED・・・
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