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[363] ヒカリストーリー STORY11 プログラムの命
フリッカー - 2008年03月12日 (水) 08時15分

 ヒカスト新作、予定より遅れはしましたがようやく完成です! 今回は忌まわしき事故でアニメには登場できないであろうポリゴンが登場します!

 今回からは、オリジナルキャラクターの概要も載せます!

ゲイル イメージCV:渡辺明乃
 若くして世界で初めて人工的に作られたポケモン、ポリゴンのプログラムの研究・製作を行っている、SE(システムエンジニア)の女性。
 性格はSEとは思えないほど明るく陽気で、自画自賛する所もあるが、根は真面目で、ポリゴンシリーズの研究に情熱を燃やしている。「堅苦しいものは好きじゃない」という理由で敬語を使わず、ヒカリ達にも溜め口で話すように言っている。しかしその才能は高く、彼女の研究するポリゴン『ポリゴン三兄弟』のプログラムはほとんど彼女が手がけている。ポケモントレーナーではないため、ポケモンそのものの事に関しては疎い。口癖は「グッジョブだね!!」。

[364] SECTION01 ポリゴン三兄弟!
フリッカー - 2008年03月12日 (水) 08時19分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。


SECTION01 ポリゴン三兄弟!


 トバリシティに着いたあたしは、ジムリーダーのスモモと出会った。ジムリーダーとしての自信をなくしていたスモモを見て、あたしは放っておけなくなった。そして、あたしはスモモを励ましてあげようと、ジム戦をする事にした。負けちゃったけど、スモモは元気を取り戻してくれて、サトシとのジム戦を引き受けてくれた。あたしは2人のいいバトルが観たいと思って、2人のジム戦を精一杯応援した。そして、サトシは見事3つ目のバッジをゲットした。
 そんな事があったトバリシティを、あたし達は出発した。向かう先は、次のジムがある町、ノモセシティ・・・

 * * *

 いつものように、あたし達はみんなで道を歩いていた。あたしはポッチャマを抱きながら。
 そんないつもと変わらない時間を過ごしていた時、あたし達の左側の草むらで、がさがさと音がした。
「何だ?」
「ポケモンかな?」
 あたし達は、思わず足を止めて、草むらの方を見てみた。この時、みんなの左側にいたあたしは、一番草むらの近くにいた。
「クエエエエエエエッ!!」
 その時、何か『赤いもの』が突然、草むらの中から声を上げながらあたしの目の前に猛スピードで飛び出して来た!
「っ!!」
 その『赤いもの』は、あたしの顔面に思い切りぶつかった! 一瞬、星が見えた。反動で倒れるあたし。
「ヒカリ!!」
「ポチャ!!」
 みんなのそんな声が聞こえた。
「いたた・・・何なのいきなり・・・」
 そうつぶやきながら、あたしは体を起こしてぶつかった『赤いもの』に目をやった。そこには、地面に落ちて目を回していた『赤いもの』があった。赤と青のツートン模様、丸っこい体の鳥のような体のポケモンだった。その形は、何だか自然のものとは思えないものだった。
「ポ、ポケモン!?」
 今まで見た事がない外観のポケモンに、あたし達は目を丸くした。赤いポケモンは、ようやく目を覚まして、顔を横に少し振った。その時、また別の影が草むらから出て来た。それもたくさん。見ると、それはスピアーの群れだった!
「スピアーの群れだ!」
 タケシが声を上げた。なんでこんな所に? そんな事を考えてる間に、スピアーの群れに気付いた赤いポケモンは、慌ててその場を浮遊して逃げ出した。スピアーの群れはあたし達には目もくれないで、一斉に赤いポケモンを追いかける。そして、一斉に“ミサイルばり”を赤いポケモンに向けて発射した! 赤いポケモンは“ミサイルばり”の雨を必死でよけながら逃げる。
「あのポケモン、スピアーに襲われてるじゃない!」
 あたしは、ようやく状況がわかった。この赤いポケモン、理由はわからないけどスピアーに襲われて、ここまで逃げて来たんだ! ポケモントレーナーとして、あたしはそんな赤いポケモンを放っておけなかった。
「助けなきゃ!!」
「ああ!!」
 サトシも、同じ考えだったみたい。あたしとサトシは、すぐに赤いポケモンの後を追いかけた。そんな時、スピアーの群れが撃っていた“ミサイルばり”に、とうとう赤いポケモンが当たって、地面に落ちた! そこにさらに追い討ちをかけようと、スピアーの群れが一斉に赤いポケモンに踊りかかった! 危ない!
「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマーッ!!」
 あたしの指示で、ポッチャマはスピアーの群れ目掛けて“バブルこうせん”を発射! 当たりはしなかったけど、それに気付いたスピアーの群れの動きが、一斉に止まった。ポッチャマが、赤いポケモンの側に駆け寄る。そんなポッチャマの姿に、赤いポケモンは目を丸くしていた。スピアーの群れが、赤いポケモンとポッチャマを取り囲んだ!
「気をつけろヒカリ!!」
「ダイジョウブ!!」
 そう言ったサトシに、あたしはそう答えた。
「ポッチャマ、もう1回!!」
「ポッチャマアアアアアアッ!!」
 ポッチャマは勢いよくジャンプして、体を軸に縦回転しながら“バブルこうせん”を発射! そう、いつか練習したあのパフォーマンス! “バブルこうせん”は、周りを囲むスピアー達を一気になぎ払った!
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
「ピィィィィィィカ、チュウウウウウウウッ!!」
 さらにピカチュウが思い切り自慢の電撃をお見舞いした! 直撃! ポッチャマとピカチュウの攻撃で懲りたのか、スピアーの群れは一目散に逃げ出して行った。
「やったぜ!!」
 サトシがガッツポーズを取った。あたしはすぐに、赤いポケモンに目をやった。
「ダイジョウブ?」
 あたしは赤いポケモンの側に駆け寄った。しゃがんで見てみると、たいしたケガはないみたい。あたしはほっとした。すると、赤いポケモンは不思議そうな目であたしの顔に近づいて、あたしの顔をまじまじと見つめた。
「?」
 その行動に、あたしは一瞬、何をしようとしてるのかわからなかった。赤いポケモンは、同じようにサトシやタケシの顔も見て回る。そして最後にポッチャマとピカチュウ。
「ポチャ?」
「ピカ?」
 ポッチャマとピカチュウも首を傾げる。
「なあ、タケシ。これって・・・ポリゴンじゃないか?」
「ああ、確かに似ているな・・・でも、体はこんなにツルツルじゃなかったぞ?」
 サトシとタケシが思い出したようにそう話していた。『ポリゴン』? このポケモンの名前?
「『ポリゴン』って?」
「世界で初めて人工的に作られたポケモンさ」
 あたしの質問に、タケシがそう答えた。人工的に作られたって言われても、あたしはピンと来なかった。
「ドライ〜? どこ行ったの〜?」
 その時、どこからか女の人の声がした。その声に、赤いポケモンが反応した。見ると、そこに1人の女の人が現れた。見た所はどこにでもいそうな、ごく普通の女の人。
「あっ! ここにいたんだ。もう、すぐどこか行っちゃうんだから」
 女の人は赤いポケモンを見つけて、ほっと笑みを浮かべた。赤いポケモンも、女の人の側に寄って行った。この女の人、赤いポケモンのトレーナーかな?
「ごめんね、君達。ドライが迷惑かけちゃったかな?」
 女の人はあたし達にそう言って微笑んだ。
「いいえっ!!」
 すると、真っ先にタケシが目の色を変えて前に出て、女の人の両手を取った。女の人は目を丸くした。やれやれ、またいつものアレが始まった・・・
「そんな事はありません!! 自分達はこのポケモンが野生ポケモンに襲われていたのを助けただけです!!」
 何だか、タケシが赤いポケモンを助けたような事言っちゃってる・・・ホントはあたしなのに・・・
「自分は、タケシと言います!! あなたのお名前は・・・」
「ゲイル、だけど・・・」
 女の人は苦笑いしながら答えた。
「なんと、お美しい名前でしょう!! ゲイルさん、是非自分と・・・ぐっ!?」
 すると、いつものようにタケシの背筋に強烈な一撃が走った。
「シ・・・ビ・・・レ・・・ビ・・・レ・・・」
 グレッグルの“どくづき”。タケシの顔はたちまち青ざめて、その場にバタリと倒れた。そんなタケシを、グレッグルがズルズルと引っ張ってその場から離れていった。唖然とする女の人。一瞬、場が気まずい空気に包まれた。
「・・・今の人、何者?」
「い、いえ、タケシはきれいな女の人には目がないんです・・・」
 女の人の質問に、サトシが苦笑いしながら答えた。
「オホン! 君達、もしかしてポケモントレーナーなの?」
 女の人は咳払いをして、改めてそう言った。
「はい。俺、サトシです」
「ピカ、ピカチュウ!」
「あたし、ヒカリです」
「ポチャマ!」
 あたし達はそれぞれ自己紹介した。
「そんな、敬語なんて使わなくていいよ。あたし、堅苦しいのは好きじゃないだからね」
「え、でも・・・」
「いいのいいの。あたしがそう言ってるんだから」
 あたしは女の人の言葉に戸惑ったけど、女の人はそう言ってウインクした。
「う、うん」
 そう言うなら、とあたしは心をほぐしてうなずいた。
「あたしはゲイル。こっちはドライ」
「クエッ!」
 女の人が自己紹介すると、赤いポケモンも笑みを浮かべて答えた。
「じゃあゲイルは、このドライのトレーナーなの?」
「いいや、あたしはポケモントレーナーじゃないよ。あたしは『SE』なの」
「『SE』?」
 聞き慣れない言葉に、あたしは首を傾げた。
「『システムエンジニア』の略だよ」
 すると、後ろからタケシが何事もなかったかのようにぬっと出て来てそう説明した。
「復活早っ!!」
 あたしは思わず、そう言っちゃった。
「あたしはね、コンピューターのプログラムとかソフトウェアとかを作ってるの。それを活かして、世界初の人工ポケモン、ポリゴンのプログラムの研究をしてるって訳! グッジョブだね!!」
 ゲイルは胸を張ってそう言った。そんな自慢気なゲイルを見て、あたしは少し呆れた。それはサトシも同じようだった。
「じゃあドライって、やっぱりポリゴンなの?」
 サトシが、すぐにそんな疑問をゲイルさん・・・もとい、ゲイルにぶつけた。
「ポリゴン・・・正確に言うとウソになるね」
 ゲイルの表情が変わった。
「ウソ?」
「これはポリゴン2。ポリゴンをアップグレードしたバージョン。まあ、『進化』って言った方が、ポケモントレーナーにはわかりやすいかな?」
「ポリゴン2?」
 初めて聞く名前に、あたし達は首を傾げた。
「ポケモン図鑑にも、そのデータは載ってるはずだよ。見てごらん」
 ゲイルに言われた通り、あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「ポリゴン2、バーチャルポケモン。ポリゴンの進化系。惑星開発用のプログラムがインストールされている。真空の宇宙でも活動できる」
 図鑑の音声が流れた。やっぱり、データは入ってた。
「ドライはね、AIを積んだから好奇心旺盛で、外に出たらいつも何かしらトラブっちゃうの。さっきの話聞いたら、君達にも迷惑かけちゃったみたいだね。旅するポケモントレーナーなんて、めったに会わないからね」
 そうか、だからあの時ドライはあたし達を不思議そうに見てたんだ。
「こんな感情豊かなポケモンになったのも、あたしの努力のお陰! さすがあたし!! グッジョブだね!!」
 ゲイルはまた胸を張ってそう言った。
「アハハ・・・」
 自慢気なゲイルの姿を見て、呆れたあたしは苦笑いしてごまかした。こんな陽気な人が、ポケモンの研究をしているの・・・? 馴染みやすいのはいいけど、研究者がこんなんでいいのかな・・・?
「ええ、グッジョブです!! 今度はぜひとも、2人で愛のプログラムを・・・!!」
 タケシがまた、目の色を変えてゲイルの手を取って、そうアピールした。でも、そうしてるとまた・・・
「ぐっ!? シ・・・ビ・・・レ・・・ビ・・・レ・・・」
 グレッグルの“どくづき”が来た。またタケシの顔が青ざめて、タケシはバタリと倒れた。そんなタケシを、グレッグルはまたズルズルと引っ張ってその場から離れていった。また場が気まずい空気に包まれた。
「・・・ねえ。まさかあのグレッグル、嫉妬してるの?」
「え?」
「オホン! そんな事はどうでもいいんだ。ところで、あたしの研究室に来てみない? 最先端の凄いものを見せてあげるから!」
 ゲイルはあたし達にそんな提案をした。
「本当?」
 サトシが目の色を変えた。
「見てみたい!」
 最先端の凄いものって言われると、あたしもそれが何なのか見てみたくなった。
「じゃ、ついておいで」
 ゲイルはそう言って、あたし達を案内した。

 * * *

 ゲイルについて行って、たどり着いた場所は、どこにでもありそうなごく普通の家だった。
「さあ、着いた。ここだよ」
 ゲイルは足を止めて、家を見てそう言った。
「え? ここ?」
 あたしは思わずそう聞いちゃった。研究室って言うからには、もっと大きい立派な建物なんじゃないの?
「そうだよ。さ、入って入って!」
 ゲイルはそれを全然気にしないで、あたし達を案内する。ドアを開けて中に入ると、そこにはやっぱりごく普通の玄関。人気はなさそう。そんな玄関を通り過ぎるあたし達。廊下を見ても、どこにでもありそうなただの家にしか見えない。
「ホントにここなの?」
 あたしは念のため、もう一度ゲイルに聞いてみた。
「さっきからなんでそんなに疑ってるの? 当たり前じゃない!」
 ゲイルは普通にそう答えた。やっぱり、ここが研究室である事に間違いはないみたい。秘密の地下室があって、そこに大きな施設とかあったりするのかな?
「さあ、見てごらん」
 ゲイルは、部屋のドアを開けた。その光景が、あたしの疑問を晴らした。
「わあ〜っ!」
 その広い部屋には、いくつかの大きな機械が置いてあった。外が普通の家みたいに見えるとは思えないほど。
「ここで研究しているの?」
「そうだよ。ここがあたしの研究室。凄いでしょ!!」
 サトシの言葉に、ゲイルがまた胸を張って答えた。すると、部屋の奥から何かが出て来た。見ると、それは2匹のポケモンだった。1匹は、ドライと同じポリゴン2。色は少し薄い。もう1匹は、ポリゴン2に似てるけれど大きくてカクカクした体の、見るからに人が作ったようなポケモンだった。
「あれ、あれって・・・」
 そんな事をあたしは思わずそんな声を出した。ここにもポケモンがいたんだ、と思って。
「あっ! ポリゴンじゃないか!」
 サトシが真っ先に声を上げた。そしてカクカクしたポケモンの側に行った。
「ご名答! これが君の言ってたポリゴンだよ」
 ゲイルはすぐに答えた。
「これがポリゴンね!」
 あたしも、側に行って見てみた。そして、ポケモン図鑑を取り出した。
「ポリゴン、バーチャルポケモン。世界で初めて人工的に作り出されたポケモン。電子空間を移動できる」
 図鑑の音声が流れた。
「ドライの兄弟達よ」
「兄弟?」
 ゲイルの言葉を聞いて、あたしは驚いた。するとドライは、すぐに2匹の元へ向かって行った。そして、2匹の真ん中に入って嬉しそうに何かやり取りしてる。
「そう。この子達が、あたしが研究している『ポリゴン三兄弟』、ツバイ、ドライ、フィーアよ」
 ゲイルはポリゴンから順に指差しながら、3匹を紹介した。
「ポチャ!」
 ポッチャマがポリゴン、ツバイの前に出て、右手を上げて声をかけた。でも、ツバイはポッチャマをじっと見つめたまま動かない。
「・・・ポチャ?」
 その反応に、ポッチャマは目を疑った。目の前で手を振ってみても、ツバイはまばたき1つしない。
「アハハ、ごめん。ツバイはプログラムが初期型なんだ。言われた事しか実行できないから、挨拶くらいじゃ何も反応しないよ」
 それを見たゲイルは、苦笑いを浮かべながらそう説明した。それでも、ポッチャマにはピンと来なかったみたいで、ポッチャマは首を傾げていた。
「そうなんだ・・・」
 ポケモンとは言うけど、何だかロボットみたい。あたしはそう思った。こんなポケモンもいるんだ・・・
「う〜ん、そうだ! 君達、ポケモントレーナーなら持ってるポケモン達とポリゴン三兄弟をご対面させてみない? 三兄弟は『本物の』ポケモンとあまり会った事がないからね。いい刺激になると思うんだ」
 ゲイルがふと、そんな事を提案した。
「いいな、それ!!」
 サトシがすぐに嬉しそうな声を上げた。
「よし!! そうと決まったらみんな、出て来い!!」
 サトシは早速、持ってるモンスターボールを全部その場に投げ上げた。5個のモンスターボールから、ナエトル、ムクバード、ヒコザル、ブイゼルが元気よく飛び出した。そして・・・
「っ!!」
 最後の1匹が、サトシの頭にふらふらと落ちてきた。そう、それはサトシの手持ちの中で一番新しいグライガー。たちまちサトシは、グライガーの下敷きになった。グライガーのドジっぷりは相変わらずみたい。
「よ〜し、あたしも!! みんな、出ておいで!!」
 あたしも3個のモンスターボールを取り出して、その場に投げ上げた。ミミロル、パチリス、エテボースが元気よく飛び出した。
「ウソッキー、グレッグル、ピンプク!!」
 タケシも持ってる3個のモンスターボールを投げ上げる。飛び出してきたのはウソッキー、グレッグル、ピンプク。モンスターボールから出て来たみんなを見て、ドライとフィーアは目を丸くした。
「さ、みんな、庭に出て! 広い場所の方がいいでしょ」
 ゲイルがそう言って、部屋の人が出入りできる大きな窓を開けると、みんなは喜んで庭へと出て行った。
「ほら、3匹とも行った行った!」
 ポリゴン三兄弟もゲイルに言われて嬉しそうに庭に出て行った。ツバイは相変わらず無表情のままだったけど。ドライとフィーアはみんなと楽しそうにやり取りした後、すぐにみんなと遊び始めた。相変わらず動きを見せないツバイは、ゆっくりと側に来たグレッグルと正面からにらめっこ(?)状態。何もない庭だけど、みんなはとても楽しそうだった。そんなみんなを、あたし達も庭に出て眺めていた。そうしているだけで、心が和やかになる。
「結構なじんでるじゃない、ポリゴン三兄弟」
 ゲイルはそんなみんなの様子を見て感心していた。
「ポケモン同士だから、みんな仲良くなれるさ」
「そういうものなのね。さすがポケモントレーナー、ポケモンの事はよくわかるんだね」
「いやいや、それほどでも・・・」
 サトシの言葉にもゲイルは感心していた。サトシはちょっと照れた表情を見せた。
「ポリゴン2には、さっきも言ったようにAIが搭載されているから、学習能力もあるの。つまり、新しいしぐさや感情を1人で覚えられるって訳。今ああやって触れ合ってる間にも、ドライとフィーアはいろんな事を学んでるはず」
「今やってる事が、ドライ達の成長にも繋がっている、って事か」
「そういう事。それもあたしの努力の賜物(たまもの)! さすがあたし!! グッジョブだね!!」
 タケシの言葉を聞いて、ゲイルさんがまた胸を張って、自慢気に言った。それを見たあたしは、また呆れた。
「でも、どうして人工的にポケモンを作ったの?」
 あたしはちょっと気になる事があったから、苦笑いを抑えながらそう聞いた。
「ポリゴンを作った理由? それは単純明快。人の役に立てるため。ポリゴンは息をしていないから、活躍する場所を選ばない。だから、使い道はたくさん。そして最終的には、宇宙開発に対応できるようにするのが目標なの!」
「へぇ、凄〜い!」
 そんな言葉を聞いて、あたしは心が躍った。宇宙開発なんて言葉を聞いて、ロマンを感じちゃった。
「宇宙でポケモンが活躍する日も近いって訳か!」
 それはサトシも同じみたい。
「そういう事! そんな未来のために、あたしはプログラム開発に日々努力してるって訳!! う〜ん、グッジョブだね!!」
「アハハ・・・」
 ゲイルはまた胸を張った。そんなゲイルを見たあたしは、また呆れて苦笑いした。
「クエッ!」
 すると、あたしのすぐ側で声がした。見ると、目の前にはドライがいた。
「ドライ?」
 一瞬、どうしたのかと思った。すると、ドライはその場で足踏みするように、体を揺らした。まるで、誘ってるみたい。
「もしかして、『一緒に遊ぼう』って言ってるんじゃないか?」
「え? あたしに?」
 サトシの言葉を聞いて、あたしはちょっと驚いた。その隙に、ドライはあたしの帽子を素早く取った!
「あっ、ちょっと!」
「クエーッ!!」
 あたしがそう言うとすぐに、ドライは笑みを浮かべながら逃げ出した!
「待って〜っ!! 帽子を返して〜っ!!」
 あたしはすぐにドライを捕まえようと追いかけた。でも、なかなかすばしっこい。パチリスほどじゃないけど、チョコマカと動き回ってなかなか捕まえられない。あたしの周りをグルグルと回ったりして、目が回りそう。そして、ドライの動きが止まった。にらみ合うあたしとドライ。今がチャンス!
「この〜っ!!」
 あたしはドライに飛び付いて捕まえようとした。でも、ドライはそれをかわした。
「!?」
 あたしは思い切り、頭から転んじゃった。一瞬、星が見えた。顔を起こすと、そんなあたしをドライは「ケケケケケケッ!!」と笑っていた。すると、みんなの笑い声も聞こえてきた。気がついたら、あたしとドライの追いかけっこはみんなが見ていた。
「ドライ、ヒカリが気に入っちゃったみたいだな」
 タケシが、そんな事を言った。あたしは、立ち上がってドライと目を合わせた。すると、あたしも何だかおかしくなってきた。
「フフフ・・・アハハハハハハッ!!」
 あたしも笑うのが止められなくなって、ドライと一緒に笑った。
「あんなしぐさ、プログラムにはなかった・・・あそこまでドライのAIが成長してたなんて・・・!」
 ゲイルは、そんなドライの動きに目を丸くしていた。その時!

 どこからともなく、大きなネットが落ちてきて、ツバイとフィーアに覆いかぶさった!
「!?」
 あたし達は現実に引き戻された。ツバイとフィーアが閉じ込められたネットは、空に持ち上げられる。ネットをぶら下げているロープをたどってみると、ニャースの頭を象った、見慣れた気球が。
「ツバイ!? フィーア!?」
「わーっはっはっは!!」
 ゲイルの驚きの声をあげるとすぐ、聞き慣れた高らかな笑い声が聞こえて来た。
「あんた達、何者なの!!」
「『あんた達、何者なの!!』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役はあたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 いつものように自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。
「ロケット団!!」
 あたし達はいつものように声をそろえて叫んだ。
「ロケット団って何者?」
「ポケモンを盗んで、悪い事をしようとしてる奴らなんだ!!」
「ええっ!?」
 サトシの説明に、ゲイルは驚いた。
「そんな訳で、このポリゴンとポリゴン2はいただいていくのニャ!!」
 ニャースが自信満々に叫んだ。
「ちょっとコジロウ、もう1匹ポリゴン2がいるじゃない!」
 ムサシがドライに気づいて、ドライを指差した。
「あっ、ホントだ! なら、あいつもゲットするしかないぜ!」
 コジロウはそう言って、何やらバズーカみたいなのを取り出して、構えた。
「コジロウ、目標を狙い撃つ!!」
 そんな訳のわからない事を言って、コジロウは引き金を引いた。すると、バズーカからネットが発射されて、ドライに向けて飛んで行く! ドライは驚いてあたしの帽子を落とした。
「危ない!!」
 今ドライを助けられるのは、側にいるあたししかいない! あたしはとっさにドライの前に出た。
「ああっ!?」
 すると、ネットは容赦なくあたしに覆いかぶさった。そして、あたしはネットごと空に持ち上げられた。
「ヒカリ!!」
「クエーッ!!」
 みんなのそんな声が聞こえた。
「ちょっとコジロウ! ジャリガール捕まえてどうすんのよ!」
「向こうが動いたんだよ! こうなったらもう1回だ!!」
 言い合いをしながら、コジロウはもう一度バズーカを構えた。
「二度目はないぜ!!」
 そう言って、またドライを狙ってネットを発射した!
「ドライ、逃げて!!」
 あたしは思わず、そう叫んでいた。
「させるか!! ピカチュウ・・・」
 サトシは、それを止めようとピカチュウに指示を出そうとしていた。でも、先に動いたのはドライだった。ドライは、飛んで来るネットを目にも止まらない動きでかわした!
「な!?」
 これにはコジロウも目を丸くした。
「あれは、“こうそくいどう”だ!!」
 タケシが叫んだ。
「グッジョブよ、ドライ!! 今度はみんなを助けてあげて!!」
 ゲイルが叫ぶと、ドライはうなずいてまっすぐこっちに向かって行った!
「“シグナルビーム”!!」
 ゲイルの指示で、ドライはこっちの方に向けて七色に輝く光線を発射! ネットをぶら下げているロープに当たって、ロープを切り裂いた!
「!?」
 突然の事態に、ロケット団も驚く。でも・・・ロープを切られたネットは当然、あたし達ごと地面に吸い込まれていく。
「きゃああああああっ!!」
 このままじゃ、地面にぶつかる! あたしは、悲鳴を上げるしかなかった。
「ポッチャマーッ!!」
 すると、落ちていく先に“バブルこうせん”が飛んで来た。それがクッションになって、あたし達はふわりと着地できた。ポッチャマがやってくれたみたい。あたしはほっとした。あたしはネットをほどいて、すぐにネットから出た。ツバイとフィーアも、ネットをほどいて出て来た。
「ヒカリ、大丈夫か?」
「うん、ダイジョウブ」
 サトシ、タケシと合流したあたしは、そう答えた。そして、ドライが落としたあたしの帽子をかぶる。
「ツバイ、フィーア、大丈夫だった?」
 ツバイとフィーアがゲイルの側に駆け寄った。ケガもないツバイとフィーアを見て、ゲイルはほっとした。
「く〜っ!! こうなったら力ずくでもゲットしてやるんだから!! 行くのよ、ハブネーク!!」
 カッとなったムサシは、すぐにモンスターボールを投げて、ハブネークを繰り出した。
「行け、マスキッパ!!」
 コジロウもマスキッパを繰り出す。でも、マスキッパはいつものようにコジロウに喰らい付いた。
「いて〜っ!! 違う違う!! あっちだって!!」
 相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。
「ピカチュウ・・・」
「サトシ、ここはあたしにやらせて」
 ピカチュウに指示を出そうとしたサトシを、ゲイルが止めた。
「えっ?」
「あの悪党どもにポリゴン三兄弟の力を見せてやるから!」
 ゲイルの言葉に答えるように、ポリゴン三兄弟は横1列に並んで身構えた。
「やってやろうじゃないの!! ハブネーク、“ポイズンテール”!!」
「マスキッパ、“タネマシンガン”!!」
 真っ先にロケット団が攻撃を仕掛けてきた! ハブネークが“ポイズンテール”で踊りかかって、マスキッパが“タネマシンガン”を発射!
「ドライ、フィーア、“テクスチャー2”!!」
 ゲイルが指示すると、ドライとフィーアが前に出た。すると、ドライとフィーアの色が変わり始めた! ドライは土色に、フィーアは真っ赤になった!
「色が変わった!?」
 それを見て、あたしは驚いた。色が変わるポケモンなんて、初めて見た。ハブネークが、尻尾をドライに振り下ろした! 直撃! でも、ドライは平気で立っている。そして、“タネマシンガン”をもろに受けたフィーアも、涼しい顔をしている。あまり効いてない?
「ぜ、全然効いてないぞ!?」
 コジロウは驚きを隠せない。
「“テクスチャー2”は、受けるわざの効果が今ひとつになるように自分のタイプを変えるわざ。今、ドライはじめんタイプ、フィーアはほのおタイプ。あんた達の攻撃が効かないのは当たり前!!」
 ゲイルは自慢気に言い放った。
「タイプを変えられるなんて・・・」
 あたしはタネ明かしにまた驚いた。タイプを変えられるポケモンがいるなんて、初めて知った。
「今度はこっちから!! ツバイ、“テクスチャー”!!」
 『2』があるならただの“テクスチャー”もあると思ったけど、やっぱりあった。今度はツバイが前に出た。すると、ツバイの体も色が変わり始めた! 変わった色は赤紫。
「続けて“サイケこうせん”!!」
 そして、ツバイは目から“サイケこうせん”を発射! それは、いつも見るよりもパワーがありそうに見えた。ハブネークに命中! 効果は抜群! たちまち気球に弾き飛ばされるハブネーク。
「ハブネーク!! な、なんてパワーなの!?」
 そんなハブネークを見て、動揺するムサシ。
「当然だよ、“テクスチャー”は、自分が持ってるどれかわざのタイプに自分のタイプを変えるわざなんだから! ツバイはエスパータイプになったから、“サイケこうせん”のパワーが上がったって事!! グッジョブだよ、ツバイ!!」
 ゲイルはまた胸を張って言い放った。そんな言葉を聞いても、ツバイは反応1つしない。
「こうなったらマスキッパ!! 茶色のポリゴン2に“タネマシンガン”だ!!」
 ロケット団が反撃に出る。マスキッパが、ドライに向けて“タネマシンガン”を発射! ドライはそれをもろに受けちゃった! 効果は抜群!
「ああっ!!」
 あたしは思わず、そんな声を上げちゃった。タイプを変えた裏を突かれた。ドライはかなりダメージを受けてる!
「心配ご無用! ドライ、“じこさいせい”!!」
 すると、ドライの体が光り始めた。すると、ドライはたちまち体力を回復して、元気を取り戻した。
「そんな・・・回復までするのかよ・・・!?」
 コジロウは完全に動揺してる。
「お返しよ!! ドライ、“シグナルビーム”!!」
 ドライが“シグナルビーム”で反撃! 命中! 効果は抜群! マスキッパも、気球に弾き飛ばされた。
「これでトドメよ!! ツバイ、ドライ、フィーア、“トライアタック”!!」
 ゲイルの指示で、ポリゴン三兄弟は横1列に並んだ。そして、それぞれ三角の板を作り出して、気球に向けて発射した! 3枚の三角の板は、気球に直撃! 大爆発が起きた!
「く〜っ!! 前は1匹ゲットするのにはうまく行ったのに〜っ!!」
「でも、今回は3匹だったからなあ・・・」
「3人寄ればナントカの知恵、だニャ・・・」
「やな感じぃぃぃぃぃっ!!」
 いつものように、そう叫び声を上げながら、ロケット団は空の彼方へ消えていった。そんなロケット団を見送ったポリゴン三兄弟の色が元に戻った。
「やったぜ!!」
 サトシがガッツポーズを取った。
「凄かったじゃない、みんな!!」
 あたしも、ポリゴン三兄弟の強さに感心しちゃった。すると、ドライがあたしの方を見て答えてくれた。
「・・・思えば、『ポケモンバトル』ってものをしたのは、今が初めてだったなあ・・・さすがポリゴン三兄弟!! そしてあたし!! グッジョブだね!!」
 ゲイルはまた胸を張って、自慢気に言った。すると、ドライとフィーアも飛び上がって喜んだ。ツバイは相変わらず無表情だったけど。
「アハハ・・・」
 あたしはそんなゲイルにまた呆れて、苦笑いした。
「そうだ! これからもっと凄いものを見たくない?」
 ふと、ゲイルはそんな事を提案した。
「もっと凄いもの?」
 あたしは首を傾げた。
「ちょうどこれからやろうとしてた所だったから、一休みしたら見せてあげる! いいよね、フィーア?」
 ゲイルがフィーアに聞くと、フィーアははっきりとうなずいた。あたしは、『もっと凄いもの』が何なのか、全然予想がつかなかった。それって、フィーアと関係あるのかな?


TO BE CONTINUED・・・

[384] SECTION02 アップグレード! その名はポリゴンZ!
フリッカー - 2008年03月20日 (木) 00時51分

 あたし達は研究室に戻った。ゲイルがパソコンの前に座る。その側には、いかにも研究所とかにありそうな、『普通じゃない』大きくて立派な機械がドカンと置いてある。どんな事をする機械なんだろ? そんな事を考えてる間に、ゲイルはパソコンのスイッチを入れていた。
「よし! これで準備OK! フィーア!」
 ゲイルがそう言うと、フィーアがゲイルの側に来た。そして、ゲイルはパソコンの側の大きな機械にある小さな戸を開けた。それは、ちょうどフィーアが入れるほどの大きさがあって、そこだけ見ればまるで電子レンジみたいだった。フィーアがその中に入る。ドライが、そんなフィーアを見て心配そうな表情を浮かべた。そんなドライに、フィーアは笑顔で答えた。そして、ゲイルが戸を閉めた。
「心配ないよ、ドライ。あたしの腕を信じて!」
 ゲイルが、そんなドライにウインクしながらそう言った。そんな様子を見て、あたしはゲイルがこれから何をしようとしているのか、なおさら気になってきた。
「これから何をするの?」
 思い切ってあたしは聞いてみた。
「フフ・・・何だと思う?」
 ゲイルはじらすように笑みを浮かべながら逆に聞く。
「そんな事言われたって・・・教えてよ!」
「答えは、これ!」
 ゲイルが、何かを取り出してあたしに見せた。それは、1枚の紫色のCDだった。
「CD?」
 これで一体何をするって言うの? これじゃまるでなぞなぞ。あたしは全然わからなかった。
「これを使って、フィーアをバージョンアップさせるの!」
「バージョンアップ!?」
 ゲイルの言葉に、あたし達は驚いた。


SECTION02 アップグレード! その名はポリゴンZ!


「そんなに驚く事じゃないよ。ポリゴンをポリゴン2にするのにも、この『アップグレード』を使って、バージョンアップさせたんだからね!」
 ゲイルは、別のCDを取り出して、あたし達に見せながら説明した。
「なるほど・・・道具を使ってポリゴンを『進化』させるって事か」
 タケシがつぶやいた。確かに、道具を使って進化するポケモンは普通にいる。そう言われると、あたしも納得できた。
「そして今やろうとしてるこれが、ポリゴン2をさらにアップグレードさせるパッチ。これで、ポリゴン2は新しい能力と姿を手にするの」
 ゲイルは『アップグレード』っていうCDをしまって、自慢気に説明を続ける。
「そうしたら、どんなポケモンになるの?」
 サトシが、興味深そうに聞いた。
「簡単に言えば『ポリゴンの完成形』。その名も『ポリゴンZ』!! 凄いでしょ!!」
 ゲイルは高らかに言い放った。
「『ポリゴンZ』かあ・・・」
 サトシは感心してるみたいだけど、あたしは気になる事があった。なんで『Z』なんだろう? ポリゴン2の進化って言うからには『ポリゴン3』だと思ってたのに。
「ねえ、どうして『Z』なの? 『2』の次だから『3』なんじゃないの?」
 そんな疑問を、あたしは直接ゲイルにぶつけてみた。
「ちっちっ、『3』じゃありきたりでおもしろくないでしょ」
 それに、ゲイルは人差し指を振りながらあっさりと答えた。そんな事言われても、どうして『Z』・・・?
「さ、それじゃ始めるとするか!」
 ゲイルはどうして『Z』なのか理由を言わないまま、CDをパソコンにセットした。パソコンの画面が動き出した。ゲイルは慣れた手つきで、パソコンのキーをカタカタと流れるように打ち始める。まいっか。これ以上聞いてもしょうがなさそうから、あたしはそう自分を納得させた。
「ただ、ちょっと気になるのは、これが『製作者不明』な所なんだよね・・・」
 ゲイルが突然、そんな事をつぶやいた。
「製作者不明?」
「そういう意味では『あやしいパッチ』なんだけど、あたしも全く関わってないって訳じゃないから、まあ問題はないよ」
 耳を疑うタケシに、ゲイルは笑みで答えた。『あやしいパッチ』って言われると、何だか不安になってくる・・・
「ホントにダイジョウブなの?」
「心配ないよ、あたしの腕を信じて! こう見えても、周りからは『天才』って言われてるんだから!」
 念のためにそう言ったあたしに、ゲイルはウインクして答えた。そんな余裕そうな表情が、余計あたしを不安にさせた。
「それじゃ、スタート!」
 ゲイルがキーを1回強く打った。すると、画面にアップグレードの状態を示す棒が映った。フィーアが入った大きな機械もウィィィィンと音を立てて動き出した。画面の黒い棒は、ゆっくりと伸びていく。あたしの胸は、期待と不安でドキドキしていた。フィーアは一体、どんなポケモンに進化するんだろ・・・ちゃんとうまく行くのかな・・・それは、みんなも同じはず。ドライも、フィーアの入った機械の戸を見守っていた。ツバイは・・・相変わらず無表情のまま。そうこうしている内に、画面の黒い棒が伸びきった。そして、画面が切り替わった。
「よし、これで終わり!」
 ゲイルは、パソコンの前から立った。
「さあ、フィーアがどんな風に変わったのか、特とご覧あれ!!」
 ゲイルはまるでマジックでもしてるようにそう言って、フィーアが入ってる機械の戸に手をかける。あたしは何だか、もらったプレゼントを開ける時のように胸がドキドキしてきた。
「ワン、ツー、スリー!!」
 ゲイルは勝手に指を立てながらカウントダウンして、一気に戸を開けた。すると、中から白い煙がドライアイスの入った箱を開けた時のように出て来た。これじゃ、ホントにマジックみたい・・・そして煙が晴れると、新しい姿のフィーアが姿を見せた。
「!!」
 その変わりように、あたし達は驚いた。ポリゴン2らしさは残ってる。でも、体の大きさはポリゴンと同じくらい。頭の上にはアンテナにも見える短いツノが生えてる。目も感じが違う。尻尾だった部分が1本足になっていて、全体のシルエットはポリゴン2の体を起こしたような感じ。『似て非なる』って言葉がふさわしいのかも。
「これが、ポリゴンZ・・・」
 あたしの口から、そんな言葉がこぼれた。ドライも、フィーアの変わりように目を丸くしていた。そんなドライに、フィーアは特に変わった様子もなくドライに笑みを浮かべた。
「遂に完成したよ、ポリゴンZ! さすがあたし!! グッジョブだね!!」
 ゲイルはまた、お決まりの言葉を言って胸を張った。
「さて、早速テストしてみたいだけど・・・サトシにヒカリ、せっかくだからちょっと協力してくれない?」
 ゲイルが、あたし達に顔を向けた。
「え? 俺に?」
「何をするの?」
 あたし達は、揃ってゲイルに聞いた。
「『バトルディスク』を使って、フィーアとポケモンバトルして欲しいんだ」
「ポケモンバトル!!」
 その言葉に、サトシが反応した。でも、バトルして欲しいのはわかったけど、『バトルディスク』って・・・?
「でも、『バトルディスク』って・・・?」
 そんな疑問が口からこぼれた。
「それは、これ」
 そう言ってゲイルが取り出したのは、1枚のCD。またCD? これがポケモンバトルとどう関係しているの?
「この中には、ポケモンバトルのシチュエーションのデータが入ってるの。それを、あの機械で電子空間として実体化させるの」
 そう言って、ゲイルがあたし達の後ろを指差した。振り向くと、そこにはまた大きな機械。下は丸い普通の台みたいになってる。その上には、何だかポケモンの転送装置を大きくしたような機械が、天井からぶら下がっていた。その間に、人が立てるくらいの高さはある。何だか、天井しかない電話ボックスみたい。
「そして、やる人はあの機械で電子空間に入って、シチュエーション通りのポケモンバトルをやるって訳。わかりやすくいえば、ポケモンバトルをバーチャルでやるって事」
「へえ〜、そんな事ができるんだ! 何か凄〜い!」
「ポチャ〜!」
 ゲイルの説明を聞いて、あたしもポッチャマも感心しちゃった。ポケモンバトルがバーチャルでできるなんて、知らなかったもんね。
「バーチャルでポケモンバトルか・・・おもしろそうだぜ! なあ、ピカチュウ!」
「ピッカ!」
 サトシもピカチュウも嬉しそうな表情をした。
「じゃ、決まりだね。それじゃあ、そこに立ってくれる?」
 ゲイルが転送装置を指差した。あたしとサトシは言われた通りに、そこに立った。もちろん、ピカチュウやポッチャマも一緒。
「後、これを持って行って」
 そう言って、ゲイルがサトシに差し出したのは、どこから見てもただの無線機。でも、画面がついてる。
「これ、何なの?」
「電子空間に入った時に必要な通信機。これで、電子空間にいる時でもあたしと連絡取れるから」
 そうか、これでゲイルとも連絡が取れるようになるって訳ね。
「じゃ、準備するからね」
 そう言って、ゲイルはパソコンの前に戻った。でも、パソコンの前に座ろうとした時。
「ゲイルさん、2人きりになったら是非とも、2人で愛のプログラムを作りましょう・・・!!」
 タケシがまた、ゲイルの手を取ってアピールした。それに目を丸くするゲイル。でも、そうしてると・・・
「ぐっ!? シ・・・ビ・・・レ・・・ビ・・・レ・・・」
 やっぱりグレッグルの“どくづき”が来た。タケシの顔はたちまち青ざめて、その場にバタリと倒れた。そんなタケシを、グレッグルがやっぱりズルズルと引っ張ってその場から離れていった。唖然とするゲイル。一瞬、場が気まずい空気に包まれた。
「オホン! 改めて、準備するからね」
 ゲイルは咳払いをして、パソコンの前に座った。すると、機械がウィィィィンと音を立てて動き出した。ゲイルが、CDをパソコンに入れたのが見えた。
「よし! それじゃ、スタート!!」
 ゲイルがそう叫んだのが聞こえた時、機械の上の転送装置部分が音を立てながら光りだした。そして、上からまぶしい光が降り注いだ。あたし達は、まぶしさで思わず手をかざして、目をつぶった。

 * * *

 何だか、周りからワーワーと大会の時みたいな歓声が聞こえてきた。
「?」
 気になって目を開けると、目の前の景色はがらりと変わっていた。
 あたし達は、ポケモンバトルのコートに立ってる。それだけじゃない。周りを見ると、そこはスタジアム。たくさんの観客が、ここを見て歓声を上げていた。空からは、まぶしい日差しが降り注ぐ。
「な、何だあ!? ここ!?」
「ピィカ!?」
 サトシとピカチュウも、風景の変わりように目を丸くしていた。
「ここって・・・スタジアム!?」
「ポチャ!?」
 それはあたしとポッチャマも同じだったけどね。ふと向かい側を見ると、そこには人が立っていた。どこにでもいそうな、ごく普通の男の人。あの人ってもしかして・・・ポケモントレーナー!?
「見て! トレーナーまでいる!?」
 すると、サトシが持っていた無線機がプルルルルと鳴った。それに気づいたサトシは、無線機のボタンを押した。
「どう? バトルディスクのフィールドのデータは?」
 画面にゲイルの顔が映った。
「これって・・・全部データなの?」
 サトシが画面に向かって聞いた。
「そうだよ。ディスクに入っているデータがこのフィールドを電子空間に形作ってるんだからね!」
 ゲイルの自慢気な顔が画面に映る。
「じゃあ、やっぱりここって・・・」
「そ、もう電子空間の中だよ。ちなみに、今目の前にいるポケモントレーナーも、『バーチャルトレーナー』って言って、データで作られたものなの」
 それを聞いたあたしは、改めて向かい側のポケモントレーナー・・・もとい、バーチャルトレーナーに目を向けた。どう見ても普通の人。データでできているなんて、ぱっと見ただけじゃ思えない。すると、そんなバーチャルトレーナーが動いた。
「行け!! ドライ!! フィーア!!」
 バーチャルトレーナーは2個のモンスターボールを投げた。モンスターボールの中から出て来たのは、紛れもなくドライとフィーア。ドライも一緒に参加するんだね。
「ほら、ドライとフィーアの登場だよ。2人も始めたら?」
「よし!! じゃあ行くぞヒカリ!!」
「ええ!!」
 あたし達も、構えを取った。気を引き締める。
「本当は、2人の手持ちのポケモンもデータで変える事ができるんだけど、今回は自分達の手持ちでやっていいよ! 悔いの内容にガンバ!」
 ゲイルがそう言うと、無線が切れた。
「じゃ、行くぜ!! 行け、ピカチュウ!!」
「ポッチャマ、お願い!!」
「ピッカ!!」
「ポチャマ!!」
 ピカチュウとポッチャマがコートに飛び出した。2匹ともやる気満々。客席から歓声が上がった。ここの所、ホントにリアル。
「ドライ、フィーア、“トライアタック”!!」
 バトルの火蓋が切って落とされた。ドライとフィーアは、一斉に“トライアタック”を発射!
「かわして!!」
 あたしとサトシの声が合わさった。ピカチュウとポッチャマは、それをジャンプしてかわした!
「ポッチャマ、ドライに“バブルこうせん”!!」
「ポッチャマーッ!!」
 今度はこっちの番! ポッチャマが思い切り“バブルこうせん”を発射!
「ポッチャマに続くんだピカチュウ、“アイアンテール”!!」
「ピッカアッ!!」
 それに続いてピカチュウも尻尾に力を込めて突っ込んでいった!
「ドライ、“こうそくいどう”!!」
 でも、向こうもそう簡単に当たってくれない。ドライは“こうそくいどう”で“バブルこうせん”をかわした!
「ピカ!?」
 目標を見失ったピカチュウは動揺した。そして、そのまま地面にしりもちをついちゃった。
「今だ!! フィーア、“トライアタック”!!」
 その隙を、バーチャルトレーナーは見逃さなかった。フィーアが、ピカチュウに狙いを定めて“トライアタック”を発射! 直撃!
「ピカアアアアッ!!」
「ピカチュウ!!」
 悲鳴を上げるピカチュウと、思わず声を上げるサトシ。あたしも、それに気を取られちゃった。その隙に、“こうそくいどう”したドライがポッチャマの目の前に顔を出した!
「!!」
「ドライ、“シグナルビーム”!!」
 あたしが気づいた時にはもう手遅れ。ドライは、ゼロ距離で“シグナルビーム”を発射! ポッチャマはよけられる訳ない。
「ああっ、ポッチャマ!!」
「ポオ・・・チャアア・・・」
 とたんに、ポッチャマは目を回して千鳥足になっちゃった。『こんらん』しちゃった!
「今だフィーア、“はかいこうせん”!!」
 ポッチャマが『こんらん』した所を狙って、フィーアがエネルギーを蓄え始めた! いけない! このままじゃ・・・!
「ポッチャマ!! しっかりして!!」
 あたしの呼びかけにもポッチャマは答えないまま、自分で頭を地面に何度もぶつけていた。『こんらん』した影響で、自分を攻撃しちゃってる! そうしている間にも、フィーアはエネルギーを蓄えて、ついに凄まじい光線を発射した! どうしていいかわからなくなって、あたしの心はもう、パニック状態になりそうだった。
「ピカチュウ、ポッチャマを助けるんだ!!」
 とっさにサトシがリリーフしてくれた。立ち上がっていたピカチュウは、素早くポッチャマを抱えて横に飛び出した! スライディング状態になった2匹のすぐ後ろを、“はかいこうせん”がかすめた! 凄まじい衝撃が、2匹の後ろを通り過ぎていく。そして“はかいこうせん”は、そのままこっちにも飛んで来る!
「おわっ!!」
「きゃあっ!!」
 予想外の事に、あたし達は慌てて横に動いた。しりもちをついたあたしの横を、凄まじい衝撃が通り過ぎていった。危ない危ない・・・ほっとして見ると、“はかいこうせん”が通り過ぎていった跡は、まるで道の端にある用水路のように地面が大きくえぐられていた。そこからは少し煙まで上がってる。
「な、なんてパワーなの・・・!?」
 あたしの口から、そんな言葉がこぼれた。驚きのあまり、「ちょっと、危ないじゃないの!」なんて言う事も忘れちゃった。
「へへ・・・おもしろくなってきだぜ!! やるじゃないか、フィーアも!!」
 サトシも驚いてたみたいだけど、それで逆に闘志が上がったみたい。
「ヒカリ、フィーアは“はかいこうせん”の反動で動けないはずだ。攻めるから援護してくれ!!」
「あ、うん!!」
 サトシの言葉に、あたしはちょっと慌てて答えた。見ると、ポッチャマはスライディングした衝撃で目を覚ましていた。
「ポッチャマ、フィーアに“つつく”!!」
「ポチャマーッ!!」
 あたしの指示に答えて、ポッチャマはクチバシに力を込めて、フィーアに突撃して行った!
「させるか!! ドライ、“テクスチャー2”で受け止めろ!!」
 でも、バーチャルトレーナーも黙っていなかった。動けないフィーアの前にドライが立ちはだかった! そして、体の色を黄色に変えて、ポッチャマと正面からぶつかった! 効果は今ひとつみたい! 色からして・・・変わったタイプはでんきタイプ?
「今だピカチュウ、“ボルテッカー”!!」
「ピカピカピカピカアアアアアッ!!」
 その隙にピカチュウは、無防備になったフィーアに向かって、必殺の“ボルテッカー”で突撃して行った!
「クエエエエエエッ!!」
 クリーンヒット! フィーアの体に強い電気が流れた! そのまま弾き飛ばされて、地面に倒れるフィーア。ドライもそれに気づいて、ポッチャマから離れた。
「やったぜ!!」
 サトシがガッツポーズを取った。
「クリーンヒットよ!!」
 ピカチュウの“ボルテッカー”に耐えられたポケモンはあまりいない。これで、決定打になったはず! フィーアが、ゆっくりとぎこちない動きで起き上がる。でも、このまま倒れるのは時間の問題・・・と思った時だった。
 フィーアの体が突然、ブルブルと震え始めた。目つきも何だかおかしい。
「・・・フィーア?」
 あたしには、フィーアがどうしたのかわからなかった。寒さを感じたにしても、激しすぎる。第一、今のあたしは寒いなんて全然思わない。すると、フィーアの体に火花が走った。ピカチュウの“ボルテッカー”で受けたものとは違う。そして、信じられない事が起きた。フィーアの体が見る見るうちに大きくなっていく!
「な、何だ!?」
「どうなってるの!?」
 膨らむ風船のようにどんどん大きくなっていくフィーアを前に、あたし達はあっけに取られるしかなかった。最後には、2階建ての家くらいの高さにまでフィーアの体は大きくなった!
「グエエエエエエエッ!!」
 今までとは打って変わって、怪獣のような低くて怖い声で吠えるフィーア。その目付きは、『鬼の形相』って言葉がふさわしいくらいに鋭くなっていた。そして、すぐに電撃を体から撒き散らした! “ほうでん”だ!
「きゃああああっ!!」
 フィーアの電撃は、まるで“かみなり”のようにあたし達の周りに降り注いだ! あたしは思わず、頭を抱えてその場に伏せた。周りでいくつもの爆発が起きたのがわかった。
「何なのよこれ〜っ!!」
 これじゃもう“ほうでん”ってレベルじゃない。あたしはもうパニック状態だった。すると、今度は“トライアタック”を発射! さっき見たのとは、大きさも全然違う!
「ピカアアアアッ!!」
「ポチャアアアアッ!!」
「クエエエエエッ!!」
 逃げ惑うピカチュウとポッチャマ、そしてドライ。地面にぶつかった“トライアタック”は、地面にぶつかってすさまじい爆発を起こした! その爆風で3匹は弾き飛ばされた。その爆風は、こっちにも吹いてくる。
「ピカチュウ!!」
「ポッチャマ!! ドライ!!」
 そんな事を叫んだ時、フィーアはすぐにあたし達に狙いを定めて“トライアタック”を発射した!
「きゃあああっ!!」
「逃げろ!!」
 あたしとサトシはすぐに逃げ出した。すぐ後ろで“トライアタック”が爆発した。爆風が強くあたしの背中を突き飛ばした。そのせいで、あたしもサトシも転んじゃった。
「ヒカリ!! 大丈夫か!!」
「う、うん、何とかダイジョウブ・・・」
 あたしはサトシにそう答えて体を起こした。そんな時、ポッチャマ達があたしとサトシの側に来た。
「みんな、大丈夫か?」
 ポッチャマ達はうなずいた。
「ドライ、ダイジョウブ?」
 あたしは、合流したポッチャマと一緒にドライの側に行った。ドライも無事だった。でも、ドライはフィーアの事が気になるみたいで、すぐにフィーアの方に顔を向けた。フィーアが、鋭い表情をドライに向けた。
「クエーッ!!」
「あっ、ダメよ!!」
 ドライはフィーアに呼びかけながらフィーアに向けて飛び出した。あたしは止めようとしたけど、無駄だった。でも、フィーアは容赦なくドライに向けて“トライアタック”を発射した!
「クエエエエッ!!」
 爆発をもろに受けたドライは、悲鳴を上げて簡単に弾き飛ばされた。
「ドライ!!」
 あたしはすぐに、ドライを受け止めようと飛び出した。こっちに吹き飛ばされるドライに向けて、あたしは両手を思い切り伸ばした。ドライは、うまくあたしの伸ばした両手に飛び込んだ。ナイスキャッチ。
「ダイジョウブ、ドライ?」
 あたしが呼びかけても、ドライはフィーアから目を離さなかった。フィーアは、あたり構わず“トライアタック”を発射していた。スタジアムが、爆発に包まれる。まるで、怪獣映画の中に入っちゃったような状況。
「もしもし!! ゲイル、聞こえるか!! もしもし!!」
 そんな時、サトシは無線機に必死で叫んでいた。
「聞こえるよ、サトシ!」
「大変なんだ!! フィーアの様子がおかしいんだ!!」
「それはこっちでも把握してる! みんな無事?」
「ヒカリも、ピカチュウ達も無事だよ!」
 サトシとゲイルが、無線で話してる。あたしも、横から無線機の画面を覗き込んだ。
「ゲイル、一体どうなってるの? どうしてフィーアがああなっちゃったの?」
 あたしは、真っ先にそんな疑問を画面の奥のゲイルにぶつけた。
「よくはわからないけど、どうやら『バグ』のようなのよ!」
 ゲイルは、真剣な表情で答えた。
「『バグ』?」
「要は、プログラムの欠陥の事! そのせいで、フィーアの体に異常が起きて暴走しちゃってるのよ! あの『あやしいパッチ』に、きっとバグがあったんだ・・・!」
 ゲイルが唇を噛んだ。
『ただ、ちょっと気になるのは、これが『製作者不明』な所なんだよね・・・そういう意味では『あやしいパッチ』なんだけど・・・』
 あの時のそんなゲイルの言葉が頭に浮かんだ。ホントにダイジョウブなの、って思ったけど、まさかホントにダイジョバない事になっちゃうなんて・・・
「どうして今までそれに気づかなかったの?」
「そんな事言われても困るよ! ソフトウェアにバグが絶対ないなんて言えないのよ! 『バグは出ない事しかわからない』って言葉もあるんだから!」
 ゲイルの答えに、あたしは言い訳みたいなものを感じた。
「とにかく、どうすればフィーアは元に戻るんだ?」
「バグを解決するしかないわ! ここは専門家に任せて、まずは電子空間から出て! ドライなら手助けしてくれるはずよ! ポリゴンには電子空間を移動できる能力があるから!」
「うん!!」
 理由はともかく、ここはゲイルさんの言う通りにするしかない。あたしは、ドライに顔を向けた。
「ドライ、ここから俺達を出してくれないか?」
 サトシが、ドライに声をかけた。
「クエッ!!」
 でも、ドライは首を横に振って、真っ直ぐフィーアに向かって行った。
「あっ、ちょっとドライ!!」
 サトシの呼びかけにも、ドライは耳を傾けない。
「ドライ、ダメよ!! フィーアの事なら、ゲイルがやってくれるから!!」
「ポチャーッ!!」
 あたしは、ドライを止めようとポッチャマと一緒に飛び出した。フィーアが心配なのはわかるけどこのままじゃ・・・! フィーアがまた、ドライに顔を向けた。
「クエーッ!! クエーッ!!」
 ドライはフィーアに必死で呼びかける。でも、フィーアはそれを聞かないで、思い切り“ほうでん”した! 電撃がドライに迫る! 危ない!
「ドライッ!!」
 あたしはドライを助けようと飛び込んだ。ドライを抱きかかえて、そのまま倒れた。電撃が、あたしの後ろを通り過ぎて行った。そして爆発! 伏せていたお陰で、吹っ飛ばされる事はなかった。
「ポッチャマアアアッ!!」
「ピィィィィィィカ、チュウウウウウウウッ!!」
 ポッチャマが“バブルこうせん”、ピカチュウが“10まんボルト”でフィーアに応戦! でも、全然効いてない。大き過ぎるフィーアには豆鉄砲にしかならなかった。
「ヒカリ!! ドライ!!」
 サトシがこっちに駆け寄ってきた。あたしが立ち上がると、ドライはあたしの腕の中でもがき始めた。
「早く逃げないとダメだ!! フィーアはゲイルが助けてくれるから、俺達をここから出してくれ!!」
 サトシは、もがくドライに呼びかける。でも、ドライはもがくのをやめない。
「ドライ・・・」
 そんなに、フィーアの事が心配なんだ・・・フィーアは『兄弟』だもんね、必死で呼びかけたくなるのもわかる。でも、このままじゃ・・・
 その時、フィーアがあたし達を狙って、エネルギーを蓄え始めた! これって、まさか・・・
「“はかいこうせん”だ!! 逃げろ!!」
 サトシが声を上げた。あたしはドライを抱き抱えたまま、一目散に逃げ出した。そして、フィーアは溜めたエネルギーを一気に発射した! 今まで見た事がないほどの光線になって、あたし達の側に命中して、大爆発! すると、地面が地割れのように割れて、一気に崩れ始めた!
「きゃああああっ!!」
「ポチャアアッ!!」
 あたしの足元も崩れて、あたしとポッチャマはまっ逆さまに落ちた!
「ヒカリッ!!」
 サトシがすぐに、あたしの右手をつかんだ。あたしの体が宙ぶらりんになった。左腕にはドライを抱いたまま、足にはポッチャマが必死でしがみついていた。下を少しだけ見ると、底が見えない真っ暗闇だった。あたしの背筋が凍りつく。
「サトシッ!! 離さないでっ!! 落ちちゃうっ!!」
「今、引き上げてやるからな・・・っ!!」
 サトシは、力任せにあたしを引っ張り上げようとした。でもその時、サトシの足元まで崩れだした! そのせいで、あたしの手をつかんでいたサトシも落ちちゃった! 当然、あたしもまた落ち始めた!
「きゃああああああっ!!」
 あたしはもう、悲鳴を上げるしかなかった。あたし達はそのまま、底の見えない暗闇へと吸い込まれていった・・・


NEXT:FINAL SECTION

[394] FINAL SECTION フィーア暴走! 電子空間の戦い!
フリッカー - 2008年03月29日 (土) 12時48分

「う〜ん・・・」
 あたし、いつの間にか気を失ってたみたい。体がゆすられた事に気づいて、あたしはゆっくりと目を開けた。
「・・・ポチャ!」
「ポッチャマ・・・」
 ピントが合うと、安心した表情を浮かべたポッチャマが映った。あたしは体を起こす。すると、そこには見た事のない風景が映った。周りは真っ暗。でも、床がぼうっと緑色に光っていて、そのお陰で目は見える。そんな床をよく見ると、『0』と『1』の字そのものが集まってできていて、電光掲示板のようにその字は流れていた。周りに建っているものは何もない。『0』と『1』の床だけがどこまでも伸びていて、ぼやけた地平線にまで届いている。ここって一体・・・?
「あっ! サトシ! ピカチュウ!」
 あたしの視界に倒れているサトシとピカチュウが入った。あたしはすぐに2人の所にポッチャマと一緒に行った。
「2人共、しっかりして!」
 あたしはそう呼びかけながら、2人の体をゆすった。
「う、う〜ん・・・」
「ピィ、カ・・・」
 サトシとピカチュウが目を覚ました。よかった・・・
「ヒカリ・・・ああっ!? な、何だ!? ここ!?」
「ピィカ!?」
 体を起こしたサトシとピカチュウは、どこまでも広がるシンプルな景色を見て目を丸くした。
「わかんない・・・あたしも気がついたらここにいて・・・」
 あたしはそうとしか説明できなかった。


FINAL SECTION フィーア暴走! 電子空間の戦い!


「サトシ!! ヒカリ!! 応答して!! サトシーッ!! ヒカリーッ!!」
 その時、そん小さな声が聞こえてきた。声がした方を見ると、少し離れた所にサトシが持っていた無線機が転がっていた。あたしはすぐにそばに行って、無線機を拾った。
「ゲイル! あたしよ、ヒカリよ! サトシもいる!」
 画面にはちゃんとゲイルが映っている。あたしは、無線機に向かってそう言った。
「よかった、無事だったのね!」
「心配したぞ!」
 画面の隅に、タケシの顔も映った。
「ゲイル、ここはどこなの? あたし達、どこに行っちゃったの?」
 あたしは、真っ先にその質問をぶつけた。
「電子空間に変わりはないよ。ただ、さっきの騒動でバトルディスクの電子空間が壊れちゃって、『外側の』電子空間に落ちちゃったみたいなんだ!」
 ゲイルの説明を聞いても、あたしにはちんぷんかんぷんだった。
「どういう事なんだ? わかりやすく説明してくれないか?」
「バトルディスクの電子空間は、あくまでいろいろなシチュエーションを、データを元にして再現しただけ。そのデータがなかったら、何も作られない。サトシとヒカリは今、そんな状態の所にいるの。何も絵が描いてない紙の上、って言えばいいかな。わかる?」
 う〜ん・・・わかるような、わかんないような・・・
「とにかく、大事なのは予想外の所に落ちちゃったって事! 早くそこから出て!」
「そうだな。ドライは・・・」
 サトシがそう言って、辺りを見回した。
「・・・あれ!? ドライがいないぞ!?」
「ええっ!?」
 あたしと無線機の声が合わさった。そういえば、あの時抱いていたはずのドライの感触がない事に、あたしは初めて気が付いた。慌てて、辺りを見回してみる。でも、ドライの姿は影も形もない。
「ホントだ! いない!」
「そんな! それじゃ、ここには戻って来れないって事じゃないか!」
 タケシの声に焦りが見える。
「だったら、こっちからツバイを送るから、そこで待ってて!」
 画面の端から、ツバイが顔を出した。
「・・・頼れる仲間は、目が・・・って奴か・・・」
 言われた通りにしか動かないツバイを見て不安になったのか、タケシはそんな事をつぶやいた。
「待ってられるか! 俺、ドライを探してくる!」
「ちょっと! これから助けに行くって時に勝手に動いたら・・・!」
 でも、サトシはゲイルが止めるのも聞かないで、すぐにその場を飛び出した。それを見たあたしも、じっとしていられなくなった。あたしだって、ドライが心配だもん!
「あたしも、放っておけない! ゲイル、ドライを探させて! 見つけたら連絡するから!」
「・・・わかったよ。無理はしないでね」
 その思いは伝わったみたい。ゲイルがそう言うと、画面が切れた。
「行こう、ポッチャマ!」
「ポチャ!」
 あたしとポッチャマはすぐに、サトシの後を追いかけた。

 どこまでも広がる『0』と『1』の床を、あたし達は進んでいく。目印になるものは何もない。探してるこっちも、どっちにどう進んでいるのかわからなくなりそうだった。
「ドライーッ! どこにいるのーっ!」
「いたら返事してくれーっ!」
「ピーカーチューッ!」
「ポチャーッ!」
 あたし達の声が、暗闇にこだまする。でも、ドライからの返事は返って来ない。
「こんな単純な所なら、見つけやすいと思ったんだけどなあ・・・」
 サトシがそんな事をつぶやいた。
「ホント、どうなってるの、ここ・・・」
 どこまでも広がる『0』と『1』の床の先にある暗闇に、あたしはちょっぴり怖いものを感じた。その時だった。ドドーンと、遠くで何かが爆発する音が聞こえた。
「何だ!?」
「もしかして・・・フィーア!?」
 あたしは今までフィーアの事をすっかり忘れてた。まだ暴れてるっていうの? すると、また爆発音が響いた。遠くでピカッ、ピカッと閃光が瞬いた。
「ドライもあそこにいるんじゃないか!?」
「行ってみよう!」
 あたし達はすぐに光った所に向かって走り出した。

 走って行くと、暗闇の向こうから大きな体が浮かび上がった。
「フィーア・・・!」
 それは、まだ怪獣のような鳴き声を上げて暴れまわっているフィーアの姿。辺り構わず闇雲に“ほうでん”している!
「見ろ! ドライだ!」
 そんなフィーアの側に、ドライがいた!
「クエーッ!! クエーッ!!」
 ドライはまだ、あの時のようにフィーアに必死で呼びかけてる。でも、フィーアは容赦しない。ドライに向けて“トライアタック”を発射!
「クエーッ!!」
 ドライはよけようとしたけど、爆発が大きすぎてよけられなかった! 弾き飛ばされるドライ。
「ドライ!!」
 あたしはすぐに、そんなドライの側に駆け寄った。ドライを抱き抱えるあたし。
「ドライ、ダイジョウブ?」
 あたしの呼びかけに反応して、ドライはあたしの顔を見た。よかった、傷だらけだけど無事だった。すると、ドライは、不安な表情で暴れ続けるフィーアに顔を向けた。
「フィーア!! もうやめろ!! ドライだって心配してるんだぞ!!」
 サトシが、フィーアの前に出て叫んだ。すると、フィーアはサトシに気づいて、鋭い視線をこっちに向けた。そして、すぐに“はかいこうせん”をこっちに向けて発射!
「!!」
 あたし達は、すぐに横に逃げた! 凄まじい“はかいこうせん”があたし達の横を通り過ぎた! そして爆発!
「きゃああっ!!」
 あたしは、爆風に思い切り突き飛ばされた。ドライを抱いたまま、地面に叩きつけられるあたし。
「くそっ!! ピカチュウ、“かみなり”だ!!」
 サトシが応戦する。ピカチュウが、思い切り電撃をフィーアに向けて発射するけど、やっぱりフィーアには豆鉄砲。フィーアは顔色1つ変えない。その間に、あたしは吹っ飛んだ衝撃で落としちゃった無線機に手を伸ばした。その時、フィーアが“ほうでん”で反撃! “ほうでん”ってレベルじゃない電撃が、あたしの周りにも落ちる! あたしは、反射的に顔を伏せた。爆発音が辺りに響き渡る。あたしは怖くて、顔を上げる事ができなかった。サトシやポッチャマがどうなっているのかもわからなかった。
「ポッチャマッ!!」
 爆発が止んだのを見計らって、あたしはポッチャマを呼んだ。
「ポチャッ!!」
 ポッチャマは答えてくれた。無事だったみたい。ポッチャマは、フィーアに向けて“バブルこうせん”を発射して応戦! やっぱり豆鉄砲にしかならないけど、その隙にあたしは伏せたまま無線機に手を伸ばす事ができた。
「ゲイル!! ドライを見つけたわ!! だから早くフィーアを何とかして!!」
 あたしは必死で無線機に叫んだ。
「こっちだってやってるんだ!」
 画面の中でゲイルは、必死でキーボードをいじっていた。でも、すぐにバンと思い切りキーボードを叩いた。
「ダメだ・・・強制終了にも反応しない・・・っ! ああっ、あたしのポリゴンがあ・・・っ!!」
 ゲイルは顔を伏せたまま、唇を噛んでいた。そんな・・・それじゃ打つ手なしって事!? その声には、ドライも驚いていた。
「どうするのゲイル!! 何か方法はないの!!」
「・・・フィーアのデータを全部削除するしかない」
 ゲイルが、ポツリと答えた。あたしは一瞬、何を言っているのかわからなかった。
「ポリゴンの体はプログラムでできているから、それを全部消去すれば、止められる」
「ええっ・・・!?」
 体を作ってるデータを消すって・・・殺すって事!? あたしの背筋が凍りついた。それは、ドライも同じだった。
「ゲイルさん、それは・・・」
「気にする事はないよ。フィーアは『欠陥品』になっちゃったけど、このデータを活かして、また新しいポリゴンを造ればいいんだからね。手塩にかけて造った物を壊すのは嫌だけど、『失敗は成功の元』って言うし」
 画面の向こうにいるタケシに淡々と語るゲイルに、あたしは残酷さを覚えた。自分のポケモンを『欠陥品』だからって簡単に殺そうとするなんて・・・! シンジよりもひどいじゃない・・・!
「これからワクチンプログラムを起動するわ。そこにいたら巻き込まれるかもしれないから、早くドライと一緒に避難して!」
「あっ、ちょっと!!」
 あたしは止めようとしたけど、無線機は切れちゃった。
「ヒカリ!!」
 そんな時、サトシが側に来た。
「大変よサトシ!! ゲイルが・・・ワクチンプログラムでフィーアを殺して止めようとしてるの!!」
「何だって!?」
 あたしが言った言葉に、サトシも驚いた。
「どうして・・・なんでそんな事・・・!」
 サトシは、わなわなと手を握った。
「グエエエエエッ!!」
 そんな時、フィーアの低い鳴き声が聞こえてきた。見ると、フィーアがこっちを狙ってる! すぐに、フィーアは“トライアタック”を発射!
「わあああっ!!」
 あたし達は逃げるしかない。でも、爆発が大きすぎるせいですぐに爆風で突き飛ばされた。地面に倒れるあたし達。
「くそっ・・・何とかフィーアを助ける方法はないのか? いや、あるはずだ!」
 サトシがそんな事をつぶやいた。それは、あたしも同じだった。ドライだって、そんな事は嫌なはず。あたしは、抱いているドライに目を向けた。ドライは、不安な表情を浮かべていた。
「ドライ・・・フィーアが殺されるなんて・・・嫌だよね・・・?」
「クエ・・・」
 あたしが聞くと、ドライはゆっくりとうなずいた。
「でも・・・どうやってフィーアを助ければいいの・・・」
 ドライのためにも、ツバイのためにも、フィーアを助けたい。でも、いざ助けるとなると、その方法が思いつかない。どうしたらいいの・・・?
 その時、遠くで何かが光ったと思うと、何かが飛んで来た。それは、たくさんの赤いビームだった! 赤いビームは、まっすぐフィーアに向けて飛んで行った! ビームは容赦なくフィーアを襲った! ピカチュウやポッチャマの攻撃と違って、結構効いてるみたい!
「!?」
 ビームが飛んで来た方向を見てみると、そこには、群れを成してズシンズシンと音を立てて歩く影が。それは、人型のロボットだった。色は青、2つの目がギラリを光っていて、手には銃を持っている。背は人と同じくらい。何だかロケット団のメカみたい。
「何、あのロボット!?」
「まさか、あれがワクチンプログラムなのか!?」
 あたし達が驚いてる間にも、ロボットの軍団は音を立てて歩きながら銃からビームをフィーアに向けて一斉に発射!
「グエエエッ!!」
 フィーアが上げた声は悲鳴に聞こえた。ロボット軍団の一斉射撃に、さすがのフィーアも怯んで後ずさりする。それでも、ロボット軍団は攻撃の手を緩めないで、ビームを発射し続ける。フィーアには反撃する隙がない。フィーアの体が、いくつもの小さな爆発に包まれる。
「ああっ・・・!!」
「クエーッ!!」
 ドライがフィーアに向かって声を上げた。あたし達も、思わず声を上げた。
「おーい、サトシーッ!! ヒカリーッ!!」
 すると、今度は上から声が聞こえてきた。見ると、上にはツバイにぶら下がってるタケシの姿が。
「タケシ!!」
 ツバイの力を借りて、ゆっくりと地面に降りたタケシの側に、あたし達は駆け寄った。
「あのロボットは、やっぱりワクチンプログラムなのか?」
 サトシが、フィーアの攻撃を続けるロボット軍団を見ながら聞いた。
「ああ、ゲイルさんは起動させてしまったんだ。ゲイルさんは本気で、フィーアを消去するつもりなんだろう・・・」
 タケシの表情は歪んでいた。
「どうするの? このままじゃ、フィーアが・・・!!」
 あたしの心が焦った。フィーアを見ると、ロボット軍団の絶え間ない攻撃で弱り始めているのがわかった。すると、あたしのすぐ側でまぶしく何かが光った。見ると、ドライが“じこさいせい”してる!
「ドライ?」
「クエッ!!」
 体が治ったドライは、あたしの腕から抜け出してまっすぐロボット軍団に向かって行った!
「クエエエエッ!!」
 そして、ロボット軍団の前に立ちはだかって、“シグナルビーム”をなぎ払うように発射! 命中! 突然の事態に後ずさりするロボット軍団。すぐにロボットも銃で反撃する。それでもドライは怯まない。ビームをかわして、また“シグナルビーム”で攻撃するドライ。ドライ・・・フィーアを助けたくて・・・! そう思うと、あたしも黙っていられなくなった。
「・・・みんな!!」
 あたしは、思い切って3個のモンスターボールを投げ上げた。中からミミロル、パチリス、エテボースが飛び出した。それに、ポッチャマも加わる。
「ドライを援護して!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!! ミミロル、“れいとうビーム”!! パチリス、“ほうでん”!! エテボース、“スピードスター”!!」
「ポッチャマアアアアアッ!!」
「ミィィィィミ、ロォォォォッ!!」
「チィィィィパ、リィィィィッ!!」
「エイポォォォォッ!!」
 ポッチャマ達は、一斉に飛び道具を発射! ドライの横を通り抜けた後にロボット軍団の中に飛び込んでいって、一斉に爆発! ドライが、驚いてこっちを見た。
「ダイジョウブ!! フィーアは、必ず助けてあげるから!!」
 あたしは、はっきりとドライに言った。ロボット軍団の顔が一斉にこっちを向いた。そして、銃をこっちに向けてビームを撃ってきた! 飛んで来るビームの嵐に戸惑うポッチャマ達。ビームはこっちにも飛んで来た!
「きゃああっ!!」
 思わず頭を抱えてその場に伏せるあたし。せっかくドライにああ言ったのに、これじゃカッコ悪すぎ・・・そう思っていたら、前にいた何体かのロボットが、突然別の攻撃で倒れた。ポッチャマ達じゃない?
「えっ!?」
 驚いて見ると、ポッチャマ達の側に立つ6つの影。ピカチュウ、ナエトル、ヒコザル、ブイゼル、ムクバード、そしてグライガー。サトシのポケモン達だ!
「俺達もいるぜ!!」
 あたしの横に来たサトシが、力強く言った。そんなピカチュウ達にも、ロボット軍団は反撃しようとする!
「ピカチュウ、“10まんボルト”!! ナエトル、“エナジーボール”!! ヒコザル、“かえんほうしゃ”!!」
「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」
「エェェェェル、トォォォォッ!!」
「ヒィィィィッ、コオオオオオオッ!!」
 ピカチュウ、ナエトル、ヒコザルがすかさず攻撃! 命中! そして爆発!
「ブイゼル、“アクアジェット”!! ムクバード、“ブレイブバード”!! グライガー、“シザークロス”!!」
「ブゥゥゥゥイッ!!」
「ムックバアアアアアッ!!」
「グラアアアイッ!!」
 そこに、ブイゼル、ムクバード、グライガーの3匹が自慢の攻撃で飛び込んだ! たちまち何台かのロボットが一度に倒れた。すると、今度は別の影がロボット軍団に飛び込んだ! よく見るとそれは、ウソッキー、ピンプクにグレッグル!
「ウソッキィィィィッ!!」
「グレッグウッ!!」
 ウソッキーが“すてみタックル”で、グレッグルが“かわらわり”でロボットに飛び込む! 直撃! その一撃で倒れるロボット。
「プクゥゥゥゥッ!!」
 ピンプクも続いて、“はたく”の一撃! それを受けたロボットは、野球のホームランのようにたちまち遠くへ吹っ飛ばされた。さすがはピンプク。
「俺も忘れちゃ困るな!」
 今度はタケシが横に来て、笑みを浮かべた。
「ツバイ、力を貸してくれ! 兄弟を助けたいだろ?」
 タケシが、側にいたツバイに呼びかけた。そこに、ドライがやってきて、ツバイに何やら話しかけた。するとツバイはうなずいて、ロボット軍団の前に飛び出した!
「クエエエエッ!!」
 そのままツバイはロボットに向けて突撃した! 直撃! その一撃でロボットを弾き飛ばした! “たいあたり”だ! そんな時、無線機が鳴った。
「ちょっと!! 何やってんの!? せっかく問題を解決しようって時に・・・!!」
 画面でゲイルが怒鳴った。
「そんなの・・・解決にならないよ!!」
 でも、あたしは逆にそう言い返した。
「へ!?」
「フィーアを殺しちゃダメ!! 体がプログラムでも、生きてるポケモンなんでしょ!! 殺しちゃったら、フィーアは戻って来ないじゃない!! ドライだって、フィーアと一緒にいたいのよ!! そんな事、なんでわからないの!! 何か、フィーアを助ける方法はないの!?」
 あたしは、そんな思いを画面の向こうにいるゲイルにぶつけた。
「・・・・・・」
 画面の向こうにいるゲイルは、あっけに取られたのか、黙り続けていた。
「来るぞ!!」
 サトシの一声で、あたしは画面から引き戻された。見ると、まだロボット軍団が来る!
「行くぞ、みんな!! フィーアを守るんだ!!」
「うん!!」
 サトシの一声で、みんなは一斉に向かって来るロボット軍団に顔を向けた。そして、ポケモン達は一斉にロボット軍団に向けて飛び出した! 激しく繰り広げられるバトル。でも、ロボットはどんなに倒してもきりがない。何度も何度も湧いてくる。でも、あたし達は一歩も退かなかった。フィーアを助けたいから・・・!

 すると、ロボット軍団の動きが急に止まって、ピクリとも動かなくなった。
「攻撃が、止まった・・・!?」
 あたし達は目を疑った。
「・・・ごめんね、みんな。あたしが間違っていたよ」
 すると、無線機からゲイルの声が聞こえてきた。
「ゲイル・・・」
 ゲイルが、ワクチンソフトを止めたんだ。わかってくれたんだ・・・!
「こっちからお願いする事も難だけど、フィーアをモンスターボールで捕まえてくれない?」
「え?」
「そうしたら、こっちに持ってきて。あたしが、プログラムそのものを治すから! ゲットするって言った方がわかりやすいかな?」
 そっか、フィーアをモンスターボールに入れれば持って帰る事ができる!
「そっか! その手があったか!」
 サトシが、納得して声を上げた。
「・・・うん!!」
 あたしは、はっきりとうなずいた。フィーアは、ロボット軍団の攻撃で弱って、おとなしくなってる。これなら、いける! あたしは、モンスターボールを取り出した。そして、フィーアの側に行った。
「お願い!! モンスターボールッ!!」
 あたしは、思い切りモンスターボールをフィーアに向けて投げた。フィーアに当たったモンスターボールは、開いてフィーアを吸い込んだ。閉じたモンスターボールは、その場に落ちる。スイッチの赤いランプが点滅しながら、モゾモゾと揺れ始める。ちゃんと入って・・・ポケモンゲットの時にいつも感じるそんな思いが、頭を過ぎる。そしてしばらくすると、ランプが消えて揺れが止まった。あたしは、フィーアの入ったモンスターボールを拾った。側に、ドライとツバイが来て、モンスターボールを見つめた。
「ドライ、これでもう、フィーアはダイジョウブ!」
「クエッ!!」
 そう言ったあたしに、ドライは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「さ、帰ろうぜ! ゲイルが待ってる!」
「うん!」
 そう言ったサトシに、あたしははっきりとそう答えた。

 * * *

 戻ってから、ゲイルはフィーアのプログラムを治すのに必死になった。どこがどう悪かったのか探すのが大変みたいで、ゲイルは徹夜までして、治し終わるまで一晩かかった。あたし達も心配で泊まる事になって、あたしはちゃんと治るように夜中も祈っていた。
 そして次の日。あたし達の前に、元に戻ったフィーアの姿が披露された。
「よかったな、フィーア」
 サトシの言葉に、フィーアは笑みを浮かべて答えた。
「全部治すのに徹夜しちゃったよ・・・みんなはマネしちゃだめだよ、いい仕事の敵だからね・・・さすがあたし、グッジョブだね・・・」
 ゲイルは疲れた様子でため息を付いてそう言った。そして、しっかりと顔を整えてフィーアの側にしゃがんだ。
「ごめんね、フィーア。おかしくなったからって、殺そうとしちゃって。あたし、みんなをロボットみたいなものだと思ってたよ。でも、みんなはあたしが作ったかけがえのない『命』なんだって、気づいたよ。こんなあたしだけど、許してくれるかな?」
「クエッ!!」
 フィーアは、笑みを浮かべて答えた。側にドライも来て、笑みを浮かべた。ツバイは相変わらず無表情だったけど。
「フィーアが戻れたのも、みんなのお陰だよ。さすがポケモントレーナー、ポケモンの事はよくわかるんだね」
「そんな・・・」
 あたしは、ちょっと照れた。
「あたしも、ポケモンの事もっと勉強しなきゃ。ポリゴン三兄弟をもっとポケモンらしくするために!」
「ええ!! その次は自分と一緒に、是非とも愛のプログラムを作りましょう・・・!!」
 決意表明をしたゲイルに、またタケシが目の色を変えてゲイルの手を取って、そうアピールした。唖然とするゲイル。でも、そうしてると・・・
「ぐっ!? シ・・・ビ・・・レ・・・ビ・・・レ・・・」
 やっぱりグレッグルの“どくづき”が来た。タケシの顔が青ざめて、タケシはバタリと倒れた。そんなタケシを、グレッグルはズルズルと引っ張ってその場から離れていった。場が気まずい空気に包まれた。
「オホン! やっぱり目標を持つのはいい事だよ。君達も、自分の目標に向かってがんばるんだよ! 『ボーイズ、ビーアンビシャス』ってね!」
「ああ! よ〜し、がんばろうなピカチュウ!」
「ピッカ!」
 そう言ってウインクしたゲイルに、サトシは力強く答えた。
「目標、か・・・」
 あたしは、そんな事をポツリとつぶやいた。

 * * *

 あたし達が、ゲイルの研究室を出発する時が来た。
「ほら、ポケモン図鑑だよ。『お土産』のデータ、ばっちり入ってるからね!」
 玄関の前であたしとサトシは、ポケモン図鑑を受け取った。どういう事かって言うと、ゲイルは『お土産』として、あたしとサトシのポケモン図鑑にデータを追加してくれたの。そのために、ポケモン図鑑をちょっと預けてたって訳。早速あたしは、新しく入ったデータを見てみた。
「ポリゴンZ、バーチャルポケモン。ポリゴン2の進化系。より優れたポケモンにするためプログラムを追加したが、なぜかおかしな行動を始めた」
 図鑑の音声が流れた。入っていたのは、ポリゴンZのデータだった。何だか、この間の出来事を簡単にまとめたような感じ。
「う〜ん、我ながらいい出来ね! さすがあたし! グッジョブだね!!」
 それを聞いたゲイルは、胸を張ってそう言った。
「アハハ・・・」
 あたしはまたちょっと呆れて、苦笑いした。
「ほら、みんなもお見送りしないと!」
 ゲイルが言うと、ポリゴン三兄弟が前に出てきた。
「ポリゴン三兄弟は、これからどうするの?」
 サトシが聞いた。
「これからいろいろなプログラムを作ってテストして、もっと完成度を上げるつもりよ。だから、ポリゴン三兄弟にも精一杯がんばってもらうわ」
「そうなんだ。がんばってね、ドライ」
「クエッ!」
 あたしはドライにそう言うと、ドライは笑顔で答えた。
「楽しみだな〜、ポリゴンがこれからどうなるのか」
「もう少し待てば、表舞台で活躍できる時が来るかもしれないよ! そうなるように、あたしもがんばるから!」
 サトシの言葉に、ゲイルはそう答えてウインクした。

 そして、あたし達はゲイルの研究室を出発した。
「みんな、気をつけてね〜!」
 ゲイルがポリゴン三兄弟と一緒に、手を振りながら見送る。
「さようなら〜!」
「ゲイルさんもお元気で〜!」
 手を振るあたし達。タケシは、相変わらず泣きながらだけど。
「ドライも元気でね〜!」
「クエ〜ッ!」
 あたしがドライにそう言うと、ドライも元気よく答えてくれた。

 * * *

 人工のポケモン、ポリゴン。ツバイ、ドライ、フィーアと触れ合ったこの出来事は、あたしの心に残るものになった。
 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く・・・・・・


STORY11:THE END

[395] 次回予告
フリッカー - 2008年03月29日 (土) 12時50分

 前に進む事を決めたあたしだけど、いざ進むとなると辛い事だらけ。

「ダメよ! あの事は忘れて、がんばるって決めたんだから・・・! 忘れなきゃ、あの事は・・・!」

 あたしは、もっと強くなりたいって思うようになった・・・

「ヒカリさん、見せたいものがあるんです! ハルナ、新しいポケモンをゲットしたんです!」
「新しいポケモン、か・・・」

 そんな時に現れる不思議なトレーナー、アユリ。

「初めまして、アユリと申します」
「どうしてアユリのポケモンはあんなに強いの?」
「え、それは・・・」

 そしてもう1つ、何かが迫ってくる・・・

「君はポケモンコンテストで失敗したそうだね。強くなりたいそうだね。なら、簡単に強くなる方法を教えてあげようか・・・?」
「デザイン、ポケモン・・・?」

 デザインポケモンって、一体・・・?

 NEXT STORY:強さの代償(前編)

「それを受け取ってはダメです!」

 COMING SOON・・・

[396] 凄く良いですね
佳奈美 - 2008年03月29日 (土) 18時42分

佳奈美です。
プログラムの命、見ました。
いつ見てもヒカリストーリーは良い話ですね。
特にヒカリの思いやりが最高ですよ。
次のヒカリストーリーも期待しています。
頑張ってください。

追伸
私の書いた小説、ついに完成しましたので暇な時にゆっくりと見て下さい。



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