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[277] ヒカリストーリー STORY09 夢の続き(前編)
フリッカー - 2008年02月06日 (水) 11時05分

 ヒカストSTORY09、遅れはしましたがようやく始動です!
 今回は2部構成、『再起』をテーマに書きます! 後編は記念すべき10作目なので、これまでのヒカストの集大成になりそうです!

[278] SECTION01 ポケモンコンテストと忍び寄る影!
フリッカー - 2008年02月06日 (水) 11時07分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 初心者用ポケモンをもらいに行った時に打ち解けたポッチャマをパートナーにして、ひょんな事から仲間になった、カントーから来たトレーナー、サトシとタケシと一緒に旅を始めたの。大小いろんな事を経験しながら、あたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話。


SECTION01 ポケモンコンテストと忍び寄る影!


 あたしのコンテストの次は、サトシのジム戦。そんな訳で、あたし達は次のジムがあるトバリシティに向かっていた。
 途中、コンテストの事でどうしていいかわからなくなって、思わず泣いちゃった事もあったけど、幼馴染のユモミに会った時、ユモミはあたしを応援してくれた。
 これでダイジョウブ! って言いたい所だけど、あたしの不安は、完全に取れた訳じゃない・・・

 * * *

 ある日の夜。
 ランタンが点っているだけのテントの中で、あたしはポッチャマと2人、こんな事を話していた。
「聞いてよポッチャマ・・・」
「ポチャ?」
 ポッチャマは不思議そうに首を傾げた。
「あたし、コンテストにはまた挑戦したい。でも、ノゾミはあたしが『大切な事を忘れてる』って言ってた・・・それが何なのか、まだわからないの・・・」
 ユモミに励まされて以来、あたしは自分なりの演技をいろいろ考えて、やってみた。でも、実際に見ると、どれもあたしの満足するものじゃなかった。何かが足りない。その『何か』が何なのか、あたしには全然わからなかった。あたしは今まで、コンテストでのポケモンの魅せ方は知り尽くしていたつもりだった。でも、こんな現実を見て、自分の考えている事が全部間違っているような気がしていた。簡単にゲットできると思ってた2つ目のリボンが、まだ遠く感じる。
「ポチャ・・・」
 ポッチャマの表情が、不安なものに変わった。
「こんなんじゃ、コンテストに出てもダイジョバない・・・あたし、どうしたらいいのかな・・・?」
 あたしはポッチャマを優しく抱きしめながら、そう言った。こんな事を言っても、ポッチャマは何か答えてくれる訳じゃないけど、こんな事を他のみんなには恥ずかしくてとても言えなかった。
「ごめんね・・・あたしがまだ、こんなんで・・・」
 さすがにもう泣く事はなくなったけど、こんな自分が情けなく思えてしょうがなかった。あたしはこんな思いを、どこにぶつけたらいいんだろ・・・
 この時、これを聞いたポッチャマが何か決めたような目付きをしてたしていた事には気付かなかった・・・

 * * *

 次の日。
 あたし達はいつものように、朝ご飯の準備をしていた。あたしはそのついでに、ポケモン達のポフィンも作ろうとしていた。
 でも、それにもあたしは悩んでいた。もっとあたしのポケモン達を引き立たせるには、どんな材料を使って、どのように組み合わせればいいのかな・・・? 用意した鍋をにらんだまま、全然手が動かない。すると、あたしの後ろから足音が聞こえてきた。それはどんどん大きくなる。
「あなた・・・悩んでいるのね・・・」
 突然、後ろから聞き慣れない声が聞こえてきた。振り向くと、そこには黒いコートを着た、1人の大人の女の人が立っていた。あたしには全然心当たりのない人。
「現在に行き詰まり、これから自分はどうすればいいのか悩んでいるのでしょう・・・」
 その鋭い目線に、あたしは変なものを感じた。いきなり出て来て、あたしに何の用なの? あたしは「誰ですか?」と聞こうとした。
「ヒカリ、食事ができたぞ」
「あ、うん」
 その時、タケシの声が聞こえたから、あたしはタケシのいる方に向き直してそう答えた。そして、改めて女の人に聞こうとした。
「あの、あなたは・・・」
 でも、あたしが振り向くと、女の人の姿は影も形もなかった。ついさっきまでそこにいたのがウソのように。
「今の・・・誰!?」
 吹き抜ける風が不気味に思えた。あたしは何だか怖くなった。まさか、幽霊とかじゃないよね・・・!? あたしには、心当たりがあった。最近、あたしはいつも誰か別の人に追いかけられているような気がしてたの。それは、よくわからないけどロケット団とは違うような気がしていた。やっぱりそれが・・・!?
「どうしたんだヒカリ?」
「あ・・・ううん、何でもない」
 やっぱり、そんな訳ないか。気のせいだよね。ダイジョウブ。あたしは自分にそう言い聞かせて、みんなとの食事に向かった。

 * * *

 朝ご飯が終わって、あたし達はいつも通り出発。いつものように道を歩いて行くと、1つの町並みが見えてきた。
「町だ!」
 サトシが声を上げた。
「ここは、コンペキタウンか。ポケモンセンターもあるようだぞ」
 タケシが、ガイドブックを見ながらそう言った。久々に見る町並みに、あたしも心が躍った。どんなもの見て回ろうかな・・・!
「ポチャ!」
 すると、あたしの肩にいるポッチャマが声を上げた。
「どうしたのポッチャマ?」
 ポッチャマは、何かを指差している。そこには、大きな掲示板が立っていた。そこに、見慣れたものが映ったポスターが。
「これって・・・『ポケモンコンテストコンペキ大会』!?」
 それは、間違いなくポケモンコンテストのポスターだった。読んでみれば、開催される日は近い。この町でコンテストが開かれるなんて、初めて知った。
「ポケモンコンテストか・・・もうすぐ開催されるみたいだぞ、ヒカリ!」
 サトシが、あたしにそう聞いてきた。
「あっ、その・・・あたしは・・・」
 ドキッとしたあたしは、どう答えていいのかわからなくなって、返す言葉に迷った。
「サトシ、今ヒカリは充電中なのを忘れちゃダメだぞ」
「あ、そうだった・・・ごめんヒカリ」
 タケシがそうサトシにつっこんでくれたお陰で、あたしは言葉を返さないで済んだ。
「ポチャ、ポチャマ!」
 ポッチャマは、ポスターを指差しながらまだあたしに何か言ってる。何だか誘ってるみたい。
「え? もしかして、ポッチャマ出たいの?」
「ポチャッ!」
 あたしが聞くと、ポッチャマは真剣な眼差しでコクンとうなずいて、自信満々に答えた。
「ポッチャマ・・・」
 あたしは、ポッチャマが自分からこんなやる気満々になったのは初めて見た。ポッチャマも出たいのはわかるけど、今のあたしじゃ、まだ・・・そう思ってた時だった。
「わあ〜っ、本物のヒカリさんだあ!!」
 突然、そんな女の子の声が聞こえてきた。え!? 今、確かに「ヒカリさん」って言ってたよね・・・もしかして、あたしの事!? 驚いて声がした方向を見ると、そこには、オレンジの髪に三日月の髪飾りをつけて、三日月が描いてあるパーカー姿の女の子が。その側には、三日月形の岩の体を持つポケモンが。女の子は、嬉しそうな表情を浮かべて真っ直ぐこっちに走ってきた。そして、あたしのすぐ前で止まって、目を輝かせながらあたしの顔を見た。
「あ、あの〜、フタバタウンのヒカリさんですよね?」
「え、そ、そうだけど・・・」
「きゃ〜っ、やっぱり〜っ!? あ〜、もうどうしよ〜っ!! ほらルーナ、本物のヒカリさんだよ!!」
 女の子は人気アイドルにでも会ったかのように興奮しながら、側にいた三日月形のポケモンにそう言った。『ルーナ』っていうらしいその三日月形のポケモンも、あたしを見て笑みを浮かべた。こんな女の子を前にして、あたし達は唖然とするしかなかった。この女の子、一体何者なの? なんであたしの事知ってるの?
「ね、ねえ、名前なんて言うの?」
 あたしは苦笑いしながら女の子に聞いた。すると、女の子はまた輝かせた目をあたしに向けた。
「あ、コトブキシティのハルナっていいます!! こっちはパートナーのルーナです!!」
 女の子は興奮する心を抑えながら自己紹介した。
「俺はサトシ。こっちは相棒のピカチュウさ」
「ピカ、ピカチュウ!」
「俺はタケシだ」
 サトシやピカチュウ、タケシも自己紹介する。
「あんた達には聞いてないの!!」
 でも、ハルナっていうらしい女の子は、サトシ達にはやけに冷たい反応をした。それには、サトシ達も唖然とするしかなかった。それにしても、『ルーナ』ってポケモンは聞いた事がない。あたしはポケモン図鑑を取り出した。
「ルナトーン、いんせきポケモン。満月の夜になると活発に活動するため、月の満ち欠けと関係しているといわれている」
 図鑑の音声が流れた。ルナトーンってポケモンか・・・じゃあ『ルーナ』っていうのはニックネームなのね。
「ああ〜っ!! ポケモン図鑑だあ!! すご〜い、プロフィールに書いてあった通りだ!! いいなあ〜・・・」
 すると、ハルナはあたしが使ってるポケモン図鑑までも見て興奮し出した。ポケモン図鑑っていうのは誰でももらえる訳じゃないそうだから、うらやましがるのはわかるけど・・・リアクションが激しすぎる・・・
「ああ〜っ!! ポッチャマ!! やっぱりかわいい〜っ!!」
 すると、今度は肩の上のポッチャマを見て声を上げるハルナ。勝手にポッチャマを両手で抱えて持ち上げる。突然の事態に、ポッチャマもパニクってる。
「ね、ねえ・・・」
 興奮してばかりのハルナに、あたしは苦笑いをしてそう声をかけるしかなかった。
「あ・・・ご、ごめんなさいっ!!」
 それに気付いたハルナは、顔を赤らめながら慌ててポッチャマをあたしの肩に戻した。
「なあ、どうしてヒカリの事知ってるんだ?」
 サトシがハルナに聞いた。すると、ハルナはまた目を輝かせた。
「あの、ハルナ、コトブキのコンテストで見てからずっと憧れてたんです!!」
「ええっ!?」
 ハルナの思いもしなかった答えに、あたし達は驚きの声を上げた。あたしに憧れてた人がいたなんて、信じられなかった。
「プロフィールも全部言えますよ!! 年齢は10歳、元トップコーディネーター、アヤコの子として生まれ、ナナカマド博士からポッチャマとポケモン図鑑をもらって旅に出る。性格は明るく前向き、『ダイジョウブ!』が口癖・・・」
 ハルナが勝手にしゃべり始めた。ホントに全部知ってる・・・
「あっ、そうだ!! あの、よかったら握手してくれませんか?」
 ハルナは何か思い出したようにそう言って、左手をあたしの前に出した。
「え、ええ・・・」
 そんな事を言われてあたしは戸惑ったけど、断る訳にもいかなくて、ハルナにあわせて慣れない左手を差し出した。すると、ハルナの両手がすぐにあたしの左手に食いついた。
「きゃ〜っ!!」
 ハルナの興奮は絶頂に達していた。ハルナはあたしの左手をめちゃくちゃに振った。ものすごくテンションが上がってるのが嫌でもわかる。
「ああ、もう感激・・・ルーナ、ハルナもう、手洗えなくなっちゃったよ・・・」
 ようやく手を離したハルナは、両手の平を見ながらそんな事をつぶやいていた。やっぱり、リアクションが激しすぎる・・・
「じゃあ、ヒカリのファンって事か?」
「まあ、コンテストはテレビでもやっているから、こんな人がいても不自然じゃないが・・・」
 そんなあたしとハルナの様子を見たサトシとタケシが、小声でそんなやり取りをしていた。
「で、でもあたし、優勝1回しかしてないし・・・」
 あたしは苦笑いをしながら言葉を返す。
「そんな事ありません!! ヒカリさんは凄いですよ!! だって、あのアヤコさんの子なんですから!!」
「!?」
 その言葉に、あたしは少し動揺した。
「ハルナ、トップコーディネーターだったアヤコさんのファンでして、いつかアヤコさんのような凄いトップコーディネーターになりたいって思ってたんです!! それで、コトブキのコンテストを見に行った時に、ヒカリさんを初めて見たんです!! あの演技を見てハルナ、感動しました!! やっぱりアヤコさんの子なんだなって!! だからハルナも負けてられないって思って、ルーナと一緒に旅を始めました!! ヒカリさんがいなかったら、今のハルナはいません!!」
 そう熱く語るハルナの眼差しに、あたしは強い意志を感じた。『失敗』をまだ知らないその瞳。あたしも、旅に出たばかりの頃はこんな感じだったのかなあ・・・でも、あの頃はまだ、あんな風になっちゃうなんて想像もしてなかった・・・
「ヒカリさん、ここに来たのはやっぱりコンテストに出るからですよね!!」
「ええ!?」
 ハルナの突然の質問に、あたしは驚いた。
「いや、あたしはただ・・・」
「コンテスト会場はあっちですよ!! 案内してあげます!!」
 そう言って、ハルナは突然、あたしの腕を引っ張りだした。
「あ、ちょ、ちょっと!! あたし、まだ何も・・・!!」
 あたしがそう言うのも聞かないで、ハルナはあたしを引っ張り続ける。サトシ達も「ちょっと待てよ!」と叫んであたしとハルナの後を追いかけた。

 * * *

 ハルナに引っ張られて、たどり着いた場所は見慣れた形の建物の前。ポケモンコンテストの会場だった。その周りにはポケモンを連れたたくさんの人がいる。多分、このコンテストに出るコーディネーター達。
「ほら、ここですよ!!」
 ハルナが会場を指差した。
「ね、ねえ、あたしまだ、コンテストに・・・」
「参加の申込をしてないんですか? 今ならまだ間に合いますよ!! 行きましょうよ!!」
 あたしの話を聞かないで、ハルナは勝手にあたしを会場に連れて行こうとする。完全にあたしがコンテストに出るものだと思い込んでるみたい・・・どうすればこの子を止められるの・・・? あたしが呆れかけたその時だった。
「君君、勘違いしちゃダメだよ」
 突然、後ろから聞き慣れた声がした。その声に、ハルナが反応した。
「誰よ!! この人を誰だと思って・・・」
 ハルナはそう言いながら振り向いた。すると、そこにいた人の姿にハルナもあたしも驚いた。
「その人は、コンテストに出るつもりはないんだ。今は『充電』の最中なんだ。無理に催促しないでくれないかい」
 そこにいたのは、間違いなくノゾミだった!
「ノゾミ!」
「えっ!? もしかして、今リボンを2つ持ってるあのキッサキシティのノゾミさん!?」
 ハルナは目を丸くした。ハルナもノゾミを知ってたみたい。
「ご、ごめんなさい!! ヒカリさんもごめんなさい!! てっきりコンテストに出るなんて思い込んじゃって・・・」
 ハルナは慌ててあたしの腕を放して、ノゾミに頭を下げて謝った。そしてすぐにあたしにも頭を下げて謝った。
「ヒカリ、この子は?」
「ハルナっていうの。何だかあたしのファンみたいで・・・」
 あたしは苦笑いしながらノゾミの質問に答えた。
「へえ、ファンがいたんだ。よかったじゃない」
 それを聞いたノゾミは、笑みを浮かべた。
「そうは言うけど、こっちもこっちで大変なのよ・・・そういえば、ノゾミはこのコンテストに出るの?」
「いや、ここにひょっとしたらヒカリが来るんじゃないかな、と思って来たんだ」
 え? あたしが来るんじゃないかなと思って?
「どう? 今回のコンテスト、あたしと一緒に『観戦』してみないかい?」
「『観戦』?」
 ノゾミの意外な言葉に、あたしは首を傾げた。
「実際に『出場』するだけじゃなくて、観客として『観戦』する事も大事だと思うんだ。『岡目八目』って言葉もあるし、第3者の視点からいろんな人の演技を見れば、自分でステージに立つだけじゃ気付かなかった事に気付く事もできるしね。今のヒカリには、いい勉強になると思うんだ」
「ノゾミ・・・」
 あたしは、ノゾミの考える事は凄いと思った。実際、前のコンテストの時も、ノゾミが来て教えてくれなかったら、どこが悪かったのか気付く事ができなかった。それも第3者の視点から見たからこそできた事。そう考えると、ノゾミの考えには納得がいく。ノゾミが休みを取るのには、こういう事もあるのかな。
「ヒカリさん!!」
 その思っていた時、ハルナがまた声をかけた。
「事情はわかりました。ハルナ、このコンテストに出るつもりなんですけど・・・」
「へえ、そうだったのね」
 あたしは何気なくそう返事をした。でも、本当に驚いたのはここからだった。
「お願いです!! ハルナにコンテストの演技についてコーチしてくださいっ!!」
 ハルナはあたしの両手を取って、そうはっきりと言った。
「ええっ!?」
 あたしは、思わず声を上げた。
「そ、そんな事、急に言われても・・・」
 あたしは戸惑った。今のあたしに、コンテストの事について何か教えてあげられる自信はなかった。
「いいんじゃない? 人に教える事も勉強になるって言うしね」
 すると、ノゾミが相槌を打った。
「ノ、ノゾミまで・・・」
「俺もいいと思うぜ!」
「俺も同感だ」
 サトシとタケシまで相槌を打った。
「みんな・・・」
「ポチャ!!」
 すると、今度はポッチャマがあたしの肩から飛び降りた。そして、あたし達から少し離れて、広い場所に出る。
「ポッチャマ?」
「ポチャマ!!」
 ポッチャマはこっちに振り向いて、笑みを浮かべながら注意を促すように右手を上げた。その姿は、何かする前に「行きまーす!」とても言っているようにも見える。ポッチャマ、何をする気なの?
「ポッチャマーッ!!」
 すると、ポッチャマは高くジャンプして、体を軸に回転しながら上に向かって“バブルこうせん”を発射。“バブルこうせん”はきれいな渦を描きながら上に飛んで行く。そして、“バブルこうせん”は渦の頂点でぶつかり合って、水しぶきとなってポッチャマの周りに降り注いだ。その水しぶきを浴びながら、ポッチャマはきれいに着地して、ポーズを決めた。
「わあ〜っ、すご〜い!! さすがヒカリさんのポケモンだあっ!!」
 それを見たハルナは歓声を上げた。
「凄いなポッチャマ、自分からコンテストの演技を見せるなんて・・・」
 サトシも感心していた。
「ポッチャマ・・・」
 あたしは、まさかポッチャマがアドリブでコンテストの演技を見せるなんて、思ってもいなかった。それも、なかなかいい感じに。そんなポッチャマは、あたしの方を見ていた。あたしの反応を気にしてるみたい。
「あ・・・よ、よかったわよポッチャマ!!」
 それに気付いたあたしは、慌ててポッチャマにそう言ってあげた。ポッチャマも笑顔で答えてくれた。そんなあたしの反応に、ノゾミが目付きを少し変えたのには気付かなかったけど・・・
「ほら、みんなもいいって言ってるし、ポッチャマもやる気充分じゃないですか!! いいですよね、ヒカリさん?」
 ハルナが目を輝かせながらあたしを見つめる。その目線を前に、あたしは完全に断れなくなった。
「・・・いいわ。あたし、ハルナに何を教えてあげられるかわからないけど・・・」
「やったあっ!!」
 それを聞いたハルナは、跳び上がってルーナと一緒に喜んだ。
「よ〜し、俺も負けてられないぜ! 俺も協力するよ!」
「あんたにはお願いしてないの!! あたしはヒカリさんにお願いしてるんだから!!」
 そう言うサトシに対して、ハルナはまた態度を変えて、サトシに言い返した。
「いや、そういう意味じゃなくてさ・・・」
 その言葉には、サトシも引くしかなかった。
「じゃ、行きましょうよ!!」
「ああっ!! ちょ、ちょっと!!」
 ハルナは、またあたしの腕を引っ張り始めた。あたしはそんなハルナに引っ張られるしかなかった。そんなあたし達を見て、みんなは笑っていた。
「ところでサトシ」
「何だ?」
 ノゾミがサトシに聞いた。
「ヒカリの今の様子、どうなの?」
 そんなノゾミの質問に、サトシは目を丸くした。

 * * *

 会場の前にある広場の、ポケモンバトル用のコートについたあたし達。あたしとノゾミは、側にあるベンチに座った。
「まずは、あたしの演技を見てくださいね!!」
 ハルナとルーナは真っ先に位置に付いた。
「よし、俺が相手になってやるぜ! コンテストバトルの練習にもなるだろ?」
 サトシも続けてハルナの向かい側に付いた。
「いいわ」
「よ〜し!! ナエトル、君に決めた!!」
 ハルナの了解を確認すると、サトシはすぐにモンスターボールをコートに投げた。出て来たのは、今“エナジーボール”を特訓中のナエトル。
「ルーナ、ヒカリさんの前だからしっかりやらないとね!!」
 ハルナはそう言いながら、ルーナを一旦モンスターボールに戻した。何をするかと思えば、もう1つ青い透明なボールを取り出して、モンスターボールにかぶせる。そうか、ボールカプセルをつけるつもりだったんだ。そして、ハルナは深呼吸をした。
「時の流れは移り行けども、変わらぬその身の美しさ!! 月光の力を借りて!! ポケモン、ルナトーン、その名はルーナ!! ここに見参っ!!」
 突然、そんな事をポーズを決めながら言い出したハルナは、勢いよくモンスターボールをコートに投げた。モンスターボールが開くと、たくさんの星が飛び出して、それと一緒にルーナが登場した。
「まずはこっちから行くぜ!! ナエトル、“エナジーボール”!!」
 サトシが真っ先に指示を出した。ナエトルは、緑色のボールを作り出す。そしてそれを、ルーナに向けて発射した! でも、弾道が安定しない。結局、“エナジーボール”はルーナの目の前まで来た所で、地面に落ちちゃった。
「何だあの“エナジーボール”? 全然安定してないじゃないか」
 ノゾミが目を丸くした。
「サトシのナエトル、今“エナジーボール”の特訓中なの。まだ完成してないけどね」
 あたしはすぐに説明してあげた。
「きゃははははは! 何それ? 今ので攻撃したつもりなのお?」
 それを見たハルナは、思わず笑い声を上げた。
「い、今特訓中なんだよ!」
 サトシは少しいらだってそう言い返した。
「じゃあ、あたしがお手本を見せてあげるわ。行くよ、ルーナ!!」
 ハルナの指示で、ルーナが身構えた。
「ヒカリさん、見ていてくださいね!! ハルナスペシャルその1、『変幻自在スーパーシャドーボール』!!」
「え!?」
 ハルナがまたポーズを決めながら言った事に、あたし達は耳を疑った。
「まずは“シャドーボール”!!」
 ハルナの指示で、ルーナは黒いボールを作り出して、それを打ち出した! 真っ直ぐナエトルに向けて飛んで行く。ナエトルが身構える。
「そして“ねんりき”!!」
 すると、ルーナは目を青く光らせて念じ始めた。すると、ナエトルに真っ直ぐ向かっていた“シャドーボール”が、急に直角に曲がってナエトルの横に抜けた!
「!?」
 これには、あたし達も驚いた。“シャドーボール”はその後もカクカクと曲がって複雑に飛び回りながら、ナエトルを翻弄する。そしてとうとう、ナエトルは“シャドーボール”の直撃を受けた!
「“シャドーボール”を“ねんりき”で操って、軌道をコントロールしているのか・・・」
「そうなんです!! これを完成させるのに結構苦労したんですよ!!」
 ノゾミのつぶやきにハルナは元気よく答えた。
「どうです、ヒカリさん?」
 ハルナの視線が、あたしに向いた。
「え、あ、なかなかインパクトはあると思ったよ! でも、それで何がアピールしたいのかは、ちょっとわからなかったわ」
 あたしは、とりあえず思った事をそのままハルナに言った。
「え、そうなんですか・・・?」
「目立たせるのは『わざ』じゃなくて、『ポケモン』自身よ。コンテストの基本でしょ」
 続けて、あたしはノゾミに言われた事を思い出しながら、そうコメントした。
「そうですか・・・アドバイスありがとうございました!! じゃ、次行ってみようっ!!」
 ハルナはそう言って、コートに向き直った。まだ見てもらいたいものがあるみたい。
「ヒカリ、そんな感じだよ。ちゃんとダメだと思った所はダメだと言って、改善するべき所はちゃんと的確に言うんだ」
 ノゾミは、あたしの耳元でそう言った。
「うん」
 それを聞いて、あたしは少し自信が湧いた。
「ルーナ、ヒカリさんに言われた通りにやってみるよ!! ハルナスペシャルその2、『分裂魔球シャドーイリュージョン』!!」
「またかよ・・・」
 ハルナの得意気な叫びに、サトシはまた唖然とした。あたし達も同じだったけどね。今度は何をするんだろ?
「“シャドーボール”!!」
 すると、ルーナはさっきと同じように“シャドーボール”を発射した。ここまでは同じみたいだけど・・・
「“ねんりき”!!」
 そして、またさっきと同じように“シャドーボール”に向けて念じ始めた。すると、“シャドーボール”が突然割れて、いくつもの“シャドーボール”に分裂した!
「自分の周りでグルグル回してみて!!」
 ハルナの指示で、分裂した“シャドーボール”をルーナは自分の近くに引き寄せる。そして、分裂した“シャドーボール”はルーナの周りをきれいな円を描いて回り始めた。
「そうそう、そんな感じよ!」
 あたしはすぐに、そう言ってあげた。
「よ〜し、一気に決めるよ、ルーナ!! 行っけえ!!」
 それを聞いて気分が乗ったハルナは、右手を思い切り突き出した。すると、分裂した“シャドーボール”が一斉にナエトルに向けて飛んで行く!
「かわすんだナエトル!!」
 ナエトルは飛んで来た1個目の“シャドーボール”を自慢のスピードでかわした。でもそこに、2個目の“シャドーボール”がナエトルの横から飛んで来た! これはよける事ができなかった。そのせいで動きが止まった所を、次々といろんな方向から“シャドーボール”が襲い掛かった!
「す、凄い・・・」
 その攻撃を見て、あたしは思わずそんな事をつぶやいた。
「あんな攻撃されたら、相手も結構動き制限されるだろうね・・・なかなかうまく考えてるじゃない」
 ノゾミも感心してそうつぶやいた。
「やったあ!! ルーナ、ヒカリさんに褒められたよ!! もう最高〜っ!!」
 ハルナは跳び上がってルーナと一緒に喜んだ。テンションも上がってきているのわかる。そんなハルナの姿を見て、あたしも負けてられないと思った。
「ポッチャマ、あたし達も負けてられないね!」
「ポチャ!」
 あたしが膝元で抱いてるポッチャマにそう言うと、ポッチャマが笑顔で答えた。
 その時だった。突然、あたしの後ろから何かが伸びてきて、あたしの口を素早く覆った。
「む!?」
 途端に、あたしはものすごく眠くなってきた。そして、何が起こったのか考える間もなく、あたしの意識は遠くなっていった・・・


TO BE CONTINUED・・・

[283] SECTION02 天才発明家メイルの魔の手!
フリッカー - 2008年02月09日 (土) 20時10分

「う、う〜ん・・・」
 まどろみから目を覚ましたあたし。そこは、さっきまでいたはずの広場じゃなくて、見覚えのない部屋の中だった。ぱっと見た限りでは、どこにでもありそうなごく普通の部屋。
「あれ、ここは・・・?」
 あたし、なんでこんな所にいるの? あたしは椅子に座っている。あたしは椅子から立った。
「ポチャ・・・」
 すると、すぐ側で聞きなれた声が聞こえた。見ると、椅子の側に眠そうな目をしたポッチャマの姿を見つけた。
「ポッチャマ! あなたまでここに?」
「ポチャ・・・ポチャ!?」
 ポッチャマは、すぐに周りの景色が違う事に気付いて、慌てて辺りを見回した。
「ポッチャマ、ここ、どこなんだろ・・・?」
 あたしは落ち着いて、何が起こったのか思い出してみた。あたし、ハルナの演技の練習を見てる途中で・・・突然口を覆われて、そしたら・・・あっ!!
「まさかあたし達、誘拐されちゃったの!?」
 あたしの思っていた事が、自然と口に出た。
「その通りですよ」
 すると、部屋の奥から聞いた事のある声が聞こえてきた。そして、あたしの前に1人の女の人がゆっくりとした足取りで出て来た。黒いコートを着た女の人・・・
「あなたは・・・!?」
 そう、その姿は、朝にあたしが見た女の人と同じだった!


SECTION02 天才発明家メイルの魔の手!


「初めまして。私は『天才発明家』メイルという者です」
 女の人は紫のポニーテールを右手でなびかせながら、丁寧な口調でそう自己紹介した。側には、銀色の円盤の体にU字型の磁石が3つ付いた、赤い1つ目を持ったポケモンの姿が。
「あなたがあたしを誘拐したのね!!」
「ポチャ!!」
 あたしとポッチャマは身構えた。円盤型のポケモンも、それに応じようと前に出た。
「よしなさい、ジバコイル」
 すると、メイルっていうらしい女の人はジバコイルっていうらしい円盤型のポケモンの前に左手を出した。すると、その言葉通り、ジバコイルは後ろに下がった。
「まあ、落ち着いてください。今の私はあなたとここで争うつもりなど、毛頭ありません。少し話がしたいだけですよ、フタバタウンのヒカリ」
 メイルは落ち着いた様子で、あたしにそう言った。そして、最後にあたしの名前を言った事に、あたしは驚いた。
「ど、どうしてあたしの事を知ってるの!?」
「知っているも何も、あなたの姿はポケモンコンテストで何度も見ていますよ。それで、ちょっと興味がある事がありまして、しばらくあなたの後を追いかけていたのですよ」
「じゃあ、誰かに追いかけられるような気がしてたのは・・・!」
「気のせいではなかった、という事ですよ。フフフ・・・」
 メイルは笑みを浮かべた。それに、あたしは何か冷たいものを感じた。
「あたしをこれからどうするつもりなの!! 身代金でも取るつもりなの!!」
「言ったでしょう、少し話がしたいと。まずは私の話を聞いてください」
「・・・?」
 あたしはメイルが何をしたいのか、全然わからなくなった。
「あなた、悩んでいるのでしょう? これからの自分に」
「え?」
 メイルの思いもしない質問に、あたしは耳を疑った。
「あなたは、ポケモンコンテストで1つのリボンを手にした。ですがそれっきり、1次審査すら突破できなくなってしまった・・・かのトップコーディネーター、アヤコの子でありながら・・・」
 突然メイルは、あたしのコンテストでの経歴を語りだした。
「何が言いたいの・・・!」
 あたしはバカにしているのかと思って、ちょっとムカついた。
「まあまあ、落ち着いてください。言いたいのは、その気持ちは私にもわかるという事ですよ」
「え・・・?」
 メイルの意外な発言に、あたしは驚いた。
「私もかつて、あなたと同じくらいの頃は夢を追いかけていました。『立派な発明家になって、人の役に立ちたい』と願って、努力を続けていましたよ。ですが、その努力は空しくも打ち砕かれました。誰も皆、私の作った物に目を向けてくれなかったのです。私は皆に認められようと試行錯誤を重ねましたが、結果は同じでした・・・現実を知り、私はどうして自分は認められないのかと、悩み続けたものです・・・」
 淡々と語るメイルさんの言葉には、あたしも同情できた。あたしと同じように、どんなにがんばっても、いい答えが帰って来ない・・・そんな事を、この人も経験してたんだ。
「いつしか私は、自分を認めない世界が憎くなりました・・・!」
「・・・!!」
 でも、それに続いた言葉を聞いて、あたしの背筋に寒気が走った。メイルの目付きが鋭くなったのにも気付いた。
「そして思いました。誰も私を認めてくれないというのなら、別の方法で自分を認めさせるまでだと・・・! そして私は、自分の発明を使い、悪の道に手を染めました・・・!」
「!!」
 自分から「悪の道に手を染めた」と言った事に、あたしはもっと驚いた。まさか、この人は本当に悪い事を・・・!
「あなたも同じでしょう。トップコーディネーターの子でありながら、周りはあなたの事を認めなかった・・・あなたが負けたのは、決してあなたのせいではないのです。周りがあなたの力を認めていないからですよ」
「あたしの力を、認めてない・・・?」
 あたしはメイルが言った事をもう一度、口に出してみる。
「そうです。現実とはそういう不平等なものなのです。どうです、私と手を組みませんか? 共に自らを認めなかった世界をアッと言わせてみませんか?」
 メイルはそう言って、右手をあたしの前に差し出した。ちょっと待って、自分から「悪の道に手を染めた」と言った人と手を組むって事は・・・あたしと一緒に悪い事をしようって事・・・!!
「・・・嫌!!」
 あたしはすぐに、メイルから下がった。
「そんなの違う!! 夢が叶わなかったからって悪い事をするなんて・・・あたしは嫌!!」
「ポチャポチャ!!」
 あたしは、思った事をはっきりと言い放った。ポッチャマも思いは同じみたい。
「何・・・!」
 今まで冷静だったメイルの表情が、急にひきつった。
「そんな事するくらいなら・・・!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 あたしは、思い切りそう指示を出した。
「ポッチャマーッ!!」
 ポッチャマは“バブルこうせん”をメイルに向けて発射した! でも、信じられない事が起こった。“バブルこうせん”は、メイルの体を素通りしちゃった!
「!?」
 あたしとポッチャマは、目を疑った。
「交渉決裂という訳ですか・・・私を怒らせましたね・・・! フタバタウンのヒカリ・・・!!」
 メイルは完全に怒った表情をしていた。
「それならそれでいいでしょう・・・こちらも相応の対処をするまでです! フタバタウンのヒカリ、覚えておきなさい! 私は近い内に必ず、あなたを倒しに行きます! それも、ただ打ち負かすのではなく、あなたを絶望の淵に叩き落して・・・!」
 そう言うと、メイルとジバコイルの姿が歪み始めた。
「せいぜい私の提案に乗らなかった事を後悔する事ですね・・・!」
 そう言い残して、メイルとジバコイルの姿はスウッと消えていった。
「消えた!?」
「ポチャ!?」
 あたしは、メイルが立っていた場所の側を見回した。すると、メイルが立っていた所に、ドーナツ型の変な機械が置いてあったのを見つけた。まさか、さっきまでのメイルはこの機械で映してた立体映像・・・!?
「ヒカリ!!」
「ヒカリさん!!」
 すると突然、バタンとドアが開く音がしたと思うと、部屋にノゾミとハルナが入ってきた。サトシとタケシもいる。
「みんな!」
「大丈夫ですか!? ケガはありませんか!?」
 ハルナが真っ先に、あたしに駆け寄ってきた。
「うん、何とかね・・・」
「それにしてもヒカリ、何があったんだ?」
 サトシが、あたしに聞いてきた。あたしは事情を説明した。
「それが、あたしを誘拐したのはメイルって女の人で、あたしと一緒に悪い事しないかって言ってきて・・・」
「メイルだって!?」
 あたしの説明を聞いて、ノゾミが声を上げた。
「ノゾミ、知ってるの?」
「知ってるも何も、自分の作った発明でたくさんの悪事を働いてるって噂の悪い発明家だよ!! 絶対に直接手を出さないで、無差別に悪事を繰り返す・・・そんな手口で、今まで捕まった事もないって話だよ!!」
「ええっ!?」
 あたしはノゾミの言った言葉に驚いた。あたしは、そんな人に誘拐されちゃったって事!?
「あ、あたし、『近い内に必ず、あなたを倒しに行きます!』って言われちゃったんだけど・・・!!」
 あたしは、ようやく事の重大さに気付いた。背筋に寒気が走った。
「そんな奴なら、追い払えばいいだけじゃないか!!」
「そんな単純な問題じゃない!! そんなメイルを敵に回したら、何をされるかわからない・・・!!」
 単純に答えたサトシに、ノゾミは真剣な表情でサトシに言い返した。
「とにかく、警察を呼んだ方がいい!!」
 ノゾミはすぐに、部屋を駆け出していった。慌てて、タケシも後を追いかけた。
「ヒカリさん・・・」
 ハルナが心配してあたしを見た。
「そんな・・・」
 あたしはそれしか言葉が出なかった。あたし、これからどうなっちゃうの!? そんなあたしの姿を、窓越しに見つめる影があった事には、気付かなかった・・・
「私を認めなかった者がどうなるか、教えてあげますからね・・・フタバタウンのヒカリ・・・!」

* * *

 次の日。
 ポケモンセンターで過ごした夕べは、メイルがいつ、何をしてくるのかが怖くて、全然眠れなかった。
 眠い目をこすりながら、ベッドから起きたあたしは、いつものように髪をとくために、カバンからヘアブラシを出そうとした。すると、なぜかカバンが開いている事に気付いた。寝る前にはちゃんと閉めたはずだけど・・・? そんな事はいっか、と思ったあたしは、何気なくヘアブラシを取り出そうとカバンの中をのぞいた。すると、あたしはとんでもない事に気が付いた。
「・・・あれ!? ない!?」
 ない。カバンの中の物を全部出して見るけど、やっぱり見つからない。
「朝からどうしたんだ?」
 そこに、タケシが部屋に入ってきた。
「大変なのよ!! コンテストパスがカバンからなくなってるのよ!!」
 そう、なくなっていたのはコンテスト出場に必要なコンテストパスだったの!!
「本当にないのか? その辺に落ちてないか、よく探してみたのか?」
 物をなくす事は普段の生活でも珍しい事じゃない。タケシは落ち着いた様子であたしにそう言った。
「よく探したって、最近カバンから出した覚えなんてないよ!! もしかして、盗まれちゃったのかも・・・!!」
 あたしは最近、コンテストパスをカバンから出した記憶なんてない。そもそも、手で触った記憶もない。カバンから出さないでなくなったって事は、他の誰かが盗んだとしか考えられなかった。
「まあまあ・・・そんな時に悪いんだが、サトシを見かけなかったか?」
 タケシの表情が変わった。
「え? あたしは見てないけど、どうかしたの?」
「いないんだ! さっきから探してるんだが・・・」
「ええっ!?」
 こんな時にサトシまで!? あたしは耳を疑った。
「本当に、いないの?」
 あたしは念のため、そう聞いてみた。
「ああ。ロビーにも外にもいないんだ。サトシがこんな時間に勝手にどこかへ行くとは思えないし・・・」
 タケシの表情は深刻だった。これってもしかして、『失踪』ってヤツ!?
「まさか、これって・・・」
 コンテストパスをなくした事に重なって起きた、サトシの失踪。あたしの頭の中に、あの言葉がよみがえってきた。
『私は近い内に必ず、あなたを倒しに行きます! それも、ただ打ち負かすのではなく、あなたを絶望の淵に叩き落して・・・!』
 まさか、これをやったのは・・・メイル? 極端な考えかもしれないけど、何だかそんな気がした。

 * * *

 とりあえず、コンテストパスを探すのは後回し。朝ご飯を素早く取って、あたしとタケシはサトシを探すために出発した。
 町を通る人に、サトシを見かけなかったかいろいろ聞いて回ったけど、手がかりらしい手がかりは見つからなかった。
「弱ったなあ・・・」
「ホント、サトシどこ行っちゃったのよ・・・」
 あたしとタケシはそうつぶやくしかなかった。そんな時、コンテスト会場が見えてきた。
「そうだ! ノゾミやハルナにも聞いてみようよ」
「・・・そうだな」
 あたし達の意見は一致。すぐに、コンテスト会場に行こうとした時だった。
「・・・あれ?」
 ふと、正面から見慣れたポケモンがこっちに走ってくるのが見えた。
「ピ〜カ〜チュ〜ッ!!」
 その黄色い体は、紛れもなくピカチュウだった。
「あれって・・・サトシのピカチュウ!?」
「間違いない!」
 そう確信したあたし達は、すぐにピカチュウの側に駆け寄った。
「ピカチュウ、どうしたの? サトシはどこなの?」
「ピカピ、ピカピカチュ!!」
 すると、ピカチュウは慌てた様子でコンテスト会場の方を指差した。
「あそこにいるのね。タケシ!」
「ああ、行こう!」
 あたし達はすぐに、ピカチュウと一緒にコンテスト会場の方に向かった。

 コンテスト会場の前に着くと、広場が何だか騒がしい。何があったのかと思って見てみると、離れて向かい合うサトシとノゾミ、ハルナの姿が。サトシが、ノゾミとハルナとバトルをしてる? でも、何だか雰囲気が違う。
「ブイゼル、“ソニックブーム”・・・!!」
 サトシが、場に出ているブイゼルに指示を出した。でも、その口調は何だかぎこちない。まるでロボットがしゃべっているようだった。すると、ブイゼルは尻尾を振って“ソニックブーム”を撃つ! でも、それは場に出ていたノゾミのニャルマーじゃなくて、ノゾミとハルナの目の前に飛んで行って、爆発した!
「!?」
 あたし達には信じられない光景だった。サトシが、ノゾミ達を直接攻撃してる!?
「くっ、いい加減にするんだ!! 正気に戻れ!!」
「・・・・・・」
 ノゾミがサトシに叫ぶ。でも、サトシは不気味に黙ったままだった。
「全然聞こえてないみたい・・・」
 ハルナは怯えた表情をしていた。やっぱり何かおかしい!
「ノゾミ!! ハルナ!!」
 あたし達はすぐに、2人の側に向かった。
「ヒカリ!!」
「ヒカリさん!!」
 ノゾミとハルナがこっちを向いた。すると、ハルナはすぐに、あたしの背中に隠れた。
「ヒカリさん、助けてください!! 何だかあいつの様子がおかしいんです!!」
「様子がおかしい?」
「ああ、あたし達の前にやってきたと思ったら、急にあたし達を直接狙ってきたんだ!」
「ええっ!?」
 2人の説明に、あたしは驚いた。そしてすぐに、サトシの方に向き直った。
「サトシ!! ブイゼル!! なんでこんな事してるの!?」
「お前・・・誰・・・?」
 あたしが聞いてみたら、サトシは予想しない答えをぎこちない口調で返した。
「ええっ!?」
「ブイゼル、“みずでっぽう”・・・!!」
 あたしが驚いてる間に、サトシがそう指示を出した。すると、ブイゼルは何のためらいもなく、こっちに向けて“みずでっぽう”を発射した!
「ううっ!?」
 あたしは、それをもろに受けた。腕で目を遮ったけど、水流の強さで押し倒されそうになる。
「サトシ!? ブイゼル!? あたしはヒカリよ!? なんでこんな事・・・!?」
「ヒカリ・・・ヒカ、リ・・・? “アクアジェット”だ・・・!!」
 そんな事を言っただけで、サトシは続けて指示を出した。ブイゼルは、“アクアジェット”でこっちに向かって来る!
「!?」
 予想外の行動を前にして、あたしは動けなかった。
「ニャルマー!! “アイアンテール”!!」
 とっさにノゾミのニャルマーが前に出た。そして、ブイゼルの突撃を尻尾で正面から受け止めた! しばらく押し合いが続いたけど、ニャルマーはブイセルのパワーに負けて、あたしの目の前に弾き飛ばされた!
「くっ、相変わらずのパワーだ・・・!」
 ノゾミが唇を噛んだ。
「サトシは一体、どうなってるんだ!?」
「こっちにもわからない・・・ただ、あのサトシは普通じゃない! まるで、感情のないロボットみたいになっているんだ・・・!」
 タケシの質問に、ノゾミはそう答えた。
「その通りですよ」
 声の主はすぐに表れた。サトシの後ろから誰かが歩いてきた。その姿は、間違いなくメイルだった! 側にはジバコイルの他にも、サーナイトがいる。
「メイル!!」
 あたしは声を上げた。こんな所にどうしてメイルが・・・!?
「フタバタウンのヒカリ。予告通り、あなたを倒しに現れました。しかし、倒す事になるのは私ではなく、あなたの仲間であるこの少年ですがね・・・フフフ・・・!」
 メイルは不敵な笑みを浮かべながら、余裕そうにポニーテールを右手でなびかせた。
「どういう事なの!?」
「あえて言わせてもらいましょう。今、この少年を私の発明『操りリング』で洗脳し、私の思うままに操っています」
「何だって・・・!!」
 タケシが声を上げた。
「せっかくだから教えてあげましょう。『操りリング』は人の首にはめるだけで、本人だけでなく、その人が持つモンスターボールを介して、手持ちポケモンも洗脳し支配下に置くのです。もっとも、最初からモンスターボールに入っていなかったそのピカチュウだけは影響を受けなかったようですが、誤差の範囲内です」
 メイルがピカチュウに目を向けた。ピカチュウは、メイルに対して怒りの表情をあらわにしていた。あたしはサトシの首を見てみた。するとやっぱり、見慣れない銀色の首輪がサトシの首に付いていた。あれで、サトシは操られているのね・・・あたしはそんな事をしたメイルに怒りを覚えた。
「それに、私は今、これも預かっているのですよ」
 そう言って、メイルは懐から何かカードみたいなものを取り出した。それは、あたしには見慣れたものだった。
「あっ!? あたしのコンテストパス!?」
 なくなってたコンテストパス、やっぱりメイルが盗んだって言うの!?
「この少年を洗脳した時に、これを盗ませました。これがなければ、ポケモンコンテストには出られないそうですね・・・フフフ・・・」
 メイルがまた笑った。あたしのメイルに対する怒りが、風船のようにどんどん大きくなっていく。
「サトシを元に戻して!! コンテストパスも返して!!」
「おやおや、そんな一言だけで洗脳を解いたり、返したりしてしまったら、私が出て来た意味がないではないですか。残念ですが、その言葉を聞き入れる事はできません。そう望むのならば、自らの力で取り戻してみせなさい・・・!」
 メイルはそう言って、右手をゆっくりと突き出した。
「ブイゼル、“ソニックブーム”・・・!!」
 すると、サトシがぎこちない口調でまた指示を出した。すると、ブイゼルがこっちに“ソニックブーム”を発射した! あたしは、慌ててよける。足元で、爆発が起きた。あたしはぞっとした。
「ピカピ!!」
 すると、ピカチュウがサトシの前に飛び出した。サトシとブイゼルの視界にもピカチュウが入った。
「お前・・・何だ・・・?」
「ピカ!?」
 サトシの冷たい答えに、ピカチュウは動揺した。
「ブイゼル、“アクアジェット”・・・!!」
 サトシが指示を出すと、ブイゼルは真っ直ぐピカチュウに向かって“アクアジェット”で突撃した! 直撃!
「ピカァァァッ!!」
 ピカチュウは何の抵抗もなくあたしの後ろ側に弾き飛ばされた。余裕そうに着地するブイゼルを前に、ピカチュウは反撃しようとしない。やっぱり相手が自分の仲間だから、うかつに反撃できないんだ・・・!
「おっと」
 そんなピカチュウに気付いたメイルは、右手をスッと上げた。
「わあっ!!」
 すると、あたしの後ろで悲鳴が上がった。見ると、タケシやノゾミ、ハルナ、ピカチュウがいつの間にか上にいたジバコイルの発射する電撃に囲まれて、身動きが取れなくなっていた!
「みんな!!」
「邪魔をさせる訳には行きません。あなた1人の力だけではやれないとは言わせませんよ、フタバタウンのヒカリ・・・!」
 メイルの冷たい視線がこっちに向いた。そんな、あたし1人だけで・・・
「ブイゼル、“みずでっぽう”・・・!!」
 サトシのぎこちない指示がまた聞こえた。すると、ブイゼルがこっちに向けて“みずでっぽう”を撃ってきた!
「うっ!! やめて!! サトシ!! ブイゼル!!」
 あたしは“みずでっぽう”を両腕で何とか防ぎながら、サトシとブイゼルに呼びかける。
「おやおや、何をしているのです? 相手はポケモンを出しているのですから、そちらもポケモンを出したらどうですか?」
 メイルがあたしを挑発するように言った。
「ヒカリ!! ここはポケモンバトルをするしかないぞ!!」
 タケシの声が聞こえた。
「やっぱり・・・やるしかないの・・・?」
 あたしは迷った。相手は『操られている』サトシとそのポケモン達。下手に傷つけたくはないけど・・・でも、何とかしてサトシを助けないと・・・! 迷ってる暇はなかった。あたしは懐からモンスターボールを取り出した。その手は少し震えているのがわかった。
「エテボース!!」
 あたしは、モンスターボールを手前に投げた。出て来たのは、エテボース。サトシと交換したエテボースなら、サトシを助けるのに役に立つかもしれないと思ったから。そんなエテボースも、サトシの様子がおかしい事に気が付いた。
「エテボース、聞いて! サトシは今、悪者に操られているの! 気をつけて!」
「エイポ!?」
 あたしの言葉を聞いて、驚くエテボース。そんなエテボースを見ても、サトシとブイゼルは顔色1つ変えなかった。にらみ合いが続く。というか、最初にどうしようか、なかなか思いつかない。それよりも、本当にバトルしなきゃだめなのかという思いが、嫌でも湧き出てくる。
「さあ、大事な仲間と戦えるかしら?」
 そんな様子を見たメイルが、笑みを浮かべた。


TO BE CONTINUED・・・

[287]
鳩駆除 - 2008年02月10日 (日) 21時29分

フリッカーさん、始めまして。
鳩駆除です←(どういう名前だよ!
ヒカリストーリーは「絆のチカラ」から読ませて頂いてます。
もう・・・ほんと凄いですね・・・フリッカーさんがアニメの脚本書かれたほうがいいのでは?と思いますよ。
ヒカストはタイトルがカッコいいです!「誓いの交換」とかタイトル見ただけで鳥肌立ちました。
今回の話も最高に面白いです!ヒカリがクロロホルム(?)で眠らされた時は「おっ?」と思いました。アニメでもこんな展開が欲しいですね・・・
失礼。何だか話がヤバイ方向に行きかけました。
初めてなのに長々と失礼しました・・・
更新マジで楽しみにしてます。

[296] SECTION03 夢が砕ける時・・・
フリッカー - 2008年02月14日 (木) 11時14分

「ブイゼル、“みずでっぽう”・・・!!」
 先に指示を出したのは操られたサトシだった。その指示で、操られたブイゼルはエテボースに向けて“みずでっぽう”を発射!
「よけて!!」
 あたしは反射的にその指示が出ていた。エテボースは、自慢の身の軽さで“みずでっぽう”をかわす。
「“アクアジェット”・・・!!」
 また操られたサトシの指示が出る。操られたブイゼルは“アクアジェット”でエテボースに突撃してくる!
「よけて!!」
 そんな指示をまた出すあたし。エテボースはブイゼルの正面からの突撃をかわした。エテボースのすぐ側を、ブイゼルが通り過ぎた。間一髪。水しぶきがエテボースにかかったのがわかった。
「サトシ!! わからないの!! エテボースは交換する前から、サトシの事が好きだったじゃない!!」
「エイポ〜ッ!!」
 あたしとエテボースは必死に呼びかける。
「交換・・・? 好き・・・? そんなの、知る、か・・・」
「!?」
 そんな操られたサトシの冷たい言葉に、あたしもエテボースも動揺した。そんな時、操られたブイゼルが“アクアジェット”を緩めないままエテボースの背中から襲い掛かった!
「エイポォォォォッ!!」
 完全な不意討ち。倒れたエテボースの前に、操られたブイゼルが潔く着地する。
「どうしたんだ・・・? これじゃ、バトルにならない、ぜ・・・?」
 操られたサトシがぎこちなく、そして挑発するようにあたしに言った。


SECTION03 夢が砕ける時・・・


「な、何言ってるのよサトシ!! バトルしてる場合なんかじゃないよ!! 目を覚まして!!」
「本気で・・・かかってこい、よ・・・! そうじゃなきゃ、つまらない、だろ・・・!」
「!?」
 どんなに呼びかけても、操られたサトシは見向きもしてくれない。あたしの動揺が、また大きくなった。
「“ソニックブーム”・・・!!」
 操られたサトシの攻撃がまた始まる。操られたブイゼルが、立ち上がろうとしていたエテボースに“ソニックブーム”を発射!
「!!」
 それに気付いたエテボースは、尻尾でこらえる体勢をとった。襲い掛かる“ソニックブーム”に、耐えるエテボース。操られたブイゼルはそれでも容赦なく“ソニックブーム”を発射し続ける! 次々と襲い掛かってくる衝撃波。エテボースも、苦しい表情を浮かべ始める。
「エイポーッ!!」
 エテボースが声を上げた。まるで、サトシに対して呼びかけているかのように。
「“アクアジェット”・・・!!」
「!?」
 それでもサトシは表情1つ変えないで指示を出した。それにエテボースは動揺して、尻尾の力を抜いちゃった。そこに、操られたブイゼルが“アクアジェット”で飛び込んだ! 直撃だった。その瞬間が一瞬、スローモーションのように見えた。
「エテボースッ!!」
 あたしの呼びかけも空しく、エテボースはあたしの目の前に弾き飛ばされた。そして、そのまま立ち上がらなかった。完全に戦闘不能。
「そんな・・・」
 あたしは何もできないままエテボースがやられてしまった事に、また動揺した。
「どうしたんだ、よ・・・! こんなもんじゃない、だろ、ポケモンバトルは・・・!」
 操られたサトシがまた、挑発するようにあたしに言った。
「ち、違うでしょサトシ!! あたしは、こんな形でバトルなんかしたくないの!! お願い、目を覚ましてよ!!」
 あたしはそれでも必死で呼びかけた。『本当の』サトシに、声が届く事を信じて・・・すると、操られたサトシは操られたブイゼルを無言でモンスターボールに戻した。あたしは一瞬、元に戻ってくれたのかと思った。
「俺は・・・本気、だ・・・!!」
「!?」
 でも、その一言で、あたしの期待は打ち砕かれた。操られたサトシは、別のモンスターボールを取り出した。
「ヒコザル、君に決めた・・・!!」
 ぎこちない声で手にしたモンスターボールを手前に投げる。出て来たのはヒコザル。やっぱり様子が違う。
「俺の2番手は・・・こいつだ・・・! お前も早く出せ、よ・・・!」
「そんな・・・!」
 操られたサトシがあたしにそう促す。あたしは迷った。でも、迷っている暇はなかった。あたしは、震える手でエテボースをモンスターボールに戻して、別のモンスターボールを取り出した。
「パチリス!!」
 あたしは思い切りモンスターボールを投げた。開いたモンスターボールの中から、パチリスが出て来る。
「パチリス、サトシとヒコザルは悪者に操られてるの! 何とかして説得しないと!」
 あたしの言葉を聞いたパチリスは、目を丸くしてサトシとヒコザルに目を向けた。
「ヒコザル、“かえんほうしゃ”・・・!!」
 操られたサトシがぎこちなく指示を出す。操られたヒコザルは、容赦なくパチリスに向けて火を噴いた! それを慌ててよけるパチリス。
「逃げるな・・・! “かえんほうしゃ”・・・!」
 それでも操られたサトシはまた指示を出す。ヒコザルはまた火を噴く!
「よけてパチリス!!」
 あたしはそれしか指示が出せなかった。パチリスは自慢の足で、“かえんほうしゃ”から逃げ続ける。
「サトシ!! もうやめて!!」
「バカにしているの、か・・・!? ちゃんとバトルしろ、よ・・・!」
 あたしは必死で呼びかける。でも、サトシは冷たい言葉を返すだけ。
「フフフ・・・何をしているのですか・・・? ただ呼びかけるだけでは、『操りリング』の洗脳を解く事はできないというのに・・・」
 そんなバトルの様子を見ていたメイルがポツリとそうつぶやいたのには、あたしは気付かなかった。
「・・・っ!! パチリス、“ほうでん”っ!!」
 やっぱり攻撃するしかないみたい・・・! あたしは唇を噛んで、パチリスに指示を出した。パチリスは、思い切り電撃をヒコザルに向けて発射! 命中!
「ヒコォォォォォッ!!」
 電撃を受けて、悲鳴を上げるヒコザル。それを聞いて、あたしの心が揺れ動いた。
「パチリス、やめて!!」
 気が付くと、あたしはそう叫んでいた。攻撃するっていっても、あんまり大きなダメージは与えたくなかった。パチリスは指示通り、“ほうでん”を止めた。
「今だ・・・!! ヒコザル、“かえんぐるま”・・・!!」
 でもそれが、隙を作る事になった。その隙を、操られたサトシは見逃さなかった。ヒコザルは、体に炎を纏ってでんぐり返しをして、大きな炎の玉になった! そしてそのまま、“ほうでん”をやめたパチリスに突撃する!
「チパアアアアッ!!」
 直撃だった。パチリスはあたしの前に弾き飛ばされた。見ると、体には『やけど』の跡が。
「パチリス!!」
「“かえんほうしゃ”だ・・・!!」
 操られたサトシは、さらに追い討ちをかける。ヒコザルの炎が、容赦なくパチリスを飲み込んだ!
「チパアアアアッ!!」
 悲鳴を上げるパチリス。ダメだ、このままじゃ・・・何とかダメージを与えないで、動きを止める事ができたら・・・そうだ!
「パチリス、“てんしのキッス”よ!!」
 このわざがある事を忘れてた。パチリスの投げキッスで飛んで行ったハートマークは、ヒコザルに見事命中! ヒコザルは『こんらん』して、動きを止めた。この間にサトシに話して・・・
「サトシ!! 思い出して!! あたしは今まで、サトシと一緒に旅をしてきたじゃない!!」
「チパチパ!!」
 あたしとパチリスは、サトシに呼びかける。
「一緒に、旅・・・何の、話だ・・・?」
「ちゃんと思い出してサトシ!! 思い出せばわかるはずよ!!」
「お前・・・何なん、だ・・・? さっきから・・・訳のわからない事ばっかり、言いやがって・・・」
「!?」
 またしてもサトシの冷たい返事。
「わ、訳のわからない事じゃないよ!! だって、一緒に旅をしてたのは本当の事でしょ!!」
「お前・・・俺の、何・・・?」
「・・・!?」
 操られたサトシは、とうとうそんな事まで言い出した。本物のサトシが言ってる訳じゃないのはわかっているけど、そんな言葉を聞くと、どうしても動揺しちゃう。どうしたらいいの・・・!? そんな時、ヒコザルが正気を取り戻した。
「いいかげんに、しろ・・・! ヒコザル、“かえんほうしゃ”・・・!!」
 それを見計らってサトシが指示を出した。ヒコザルが、容赦なくパチリスに向けて火を噴いた!
「チパアアアアッ!!」
 炎に飲み込まれるパチリス。火だるまになったパチリスは、あたしの前の前で倒れたまま、動かなくなった。完全に戦闘不能。
「パチリス・・・!」
 また何もできないまま、パチリスはやられちゃった。あたしの心はもうパニック状態。あたしは震える手でモンスターボールを持って、パチリスを戻した。

「ダメだ、完全に一方的になってる・・・!」
「バトルしながら説得しても、このままじゃ時間の問題だ・・・どうすれば・・・!」
 ジバコイルの電撃に阻まれて動けないノゾミとタケシが、唇を噛んだ。
「ヒカリさん・・・!」
「ピカピ・・・」
 ハルナとピカチュウも、そんな2人と一緒に見守るしかなかった。
「このままじゃヒカリさんが・・・ルーナ、あいつを追い払うよ!!」
 でも、とうとう我慢できなくなったハルナが、ルーナにそう指示した。

「ミミロル・・・ッ!!」
 あたしは唇を噛んで、ミミロルを出した。すると、操られたサトシもヒコザルを戻した。そんな操られたサトシの表情を見て、ミミロルは違和感を覚えたようだった。
「ムクバード、君に決めた・・・!!」
 操られたサトシが繰り出したのはムクバード。やっぱり操られてるみたい。
「ミミロル・・・サトシは、ポケモン達と一緒に悪者に操られてるの・・・何とかして止めないと・・・」
 そんな不安の混じったあたしの声を聞いて、ミミロルは驚いた。ホント、どうしたらいいの・・・? “れいとうビーム”で凍らせて・・・いや、そんな事してもパチリスの時みたいに話を聞いてくれないかもしれないし、それよりもムクバードには効果抜群になっちゃう・・・他に、何かいい方法は・・・
「ムクバード、“つばさでうつ”・・・!!」
 あれこれ考えてる間に、操られたサトシが先手を取った。操られたムクバードは、羽に力を込めて、ミミロルに真っ直ぐ向かっていった!
「ミミ!! ミミ〜ッ!!」
 ミミロルの説得も聞いても、ムクバードはスピードを緩めない! 直撃!
「ミミィィィィッ!!」
 弾き飛ばされるミミロル。
「ミミロルッ!!」
 このままじゃ、エテボースやパチリスと同じになっちゃう・・・何か、何かないの!? その時だった。ドン、と後ろで何かが爆発する音が聞こえた。
「何!?」
 見ると、タケシ達を押さえ込んでいたジバコイルがメイルの所に下がったのが見えた。
「ジバコイル!?」
「待て〜っ!!」
 突然の事態に驚くメイル。そして、すぐにそれを追いかけるハルナとルーナの姿が。ハルナが力ずくでジバコイルを追い払ったみたい。
「ヒカリさんをいじめる悪い人は、ハルナが許さない!! 覚悟しなさい、メイル!!」
 ハルナはメイルの前に立って、怒った表情で思い切り叫んだ。
「ルーナ、“スピードスター”!!」
 ハルナの指示で、ルーナは“スピードスター”をメイルの側にいたサーナイトに発射! 発射された無数の星が、サーナイトを襲う! ひるんで、後ずさりするサーナイト。
「くっ、よりによって・・・!! ジバコイル、“10まんボルト”!!」
 負けじとメイルも応戦する。ジバコイルが、電撃をルーナに向けて発射!
「ニャルマー、“でんげきは”!!」
 それをフォローしたのはノゾミのニャルマーだった。ニャルマーも電撃を発射して、ジバコイルの電撃にぶつける! 2つの電撃は相殺されて、大きな爆発が起きた!
「ち・・・っ!!」
 メイルは後ずさりして唇を噛んだ。そして、懐からゴーグルみたいなものを取り出して、それをつけた。
「ノゾミさん!!」
「相手は2体だ、ここはチームで行こう!!」
「うん!!」
 ノゾミの言葉にハルナは相槌を打って、メイルへと向き直った。
「ヒカリ、来るぞ!!」
 そんな時、そうタケシに呼びかけられた。見ると、ミミロルに操られたムクバードがまた“つばさでうつ”で襲い掛かろうとしていた! いけない! みんなの動きに気を取られてた!
「“とびはねる”でよけて!!」
 あたしは慌ててそう指示した。間に合った。ミミロルは自慢のジャンプで間一髪、ムクバードの羽をよけた。
「ごめん、タケシ」
「そんな事はいい、今はサトシの事が先だ!」
 あたしの側に来たタケシが言った。
「うん。でも、どうしたらいいの? サトシ、あたしの話を全然聞いてくれないよ・・・」
「とにかく今は落ち着くんだ! ここで慌てたら負けだ!」
「う、うん・・・」
 あたしはタケシに言われた通り、まずは落ち着く事にした。落ち着いて、落ち着くのよあたし・・・! そう自分に言い聞かせた。

 そんな事をしている間にも、メイルとハルナ、ノゾミの激しいバトルが続いていた。
「ジバコイル、“10まんボルト”!!」
 ジバコイルが、電撃をニャルマーに向けて発射する!
「ルーナ、前に出て“めいそう”!!」
 すると、ルーナがニャルマーの前に出た。そして目をつぶると、体がオーラのようなものに包まれた。そこに“10まんボルト”が襲い掛かった! でも、ルーナはそれに耐えている。
「ナイスだよ、ハルナ!」
「どういたしまして! 次はこっちの番よ!!」
 ノゾミの呼びかけにハルナが答えた時、ルーナが目を開けた。
「ハルナスペシャルその1、『変幻自在スーパーシャドーボール』!! サーナイトに“シャドーボール”よ!!」
 ルーナが、指示通りサーナイトに向けて“シャドーボール”を発射! でも、それはサーナイトとは全然違う方向に飛んで行った。
「おやおや、何のつもりですか? 何がスペシャルなのか知りませんが・・・」
 何も知らないメイルは余裕の表情を浮かべる。
「“ねんりき”!!」
 ルーナが念じ始める。すると、サーナイトの横を通り過ぎていった“シャドーボール”が戻って来て、サーナイトに背中から襲い掛かった! サーナイトにとって、完全な不意討ち。効果は抜群!
「や、やってくれましたね・・・フェイントをかけるとは・・・!」
 メイルが唇を噛んだ。
「一気にたたみかける!! ニャルマー、サーナイトに“シャドークロー”!!」
 続けてノゾミが攻撃に入る。ニャルマーが黒い爪を伸ばしてサーナイトに突き立てる!
「そうはさせません!! ジバコイル!!」
 でも、すぐにジバコイルがニャルマーの前に飛び出した。そして、生身で“シャドークロー”を受けた! 効果は今ひとつ。
「“マグネットボム”!!」
 その後すぐに、ジバコイルは白い光線をニャルマーに向けて発射した! 命中! 弾き飛ばされるニャルマー。
「くっ!!」
「よくもやったわね!! ルーナ、サーナイトに“ねんりき”よ!!」
「“サイコキネシス”で応戦するのです!!」
 ルーナとサーナイトが互いをにらんで同時に念じ始めた。しばらく念じ合いが続いたけど、最後は威力で勝る“サイコキネシス”が勝った。弾き飛ばされるルーナ。
「ああっ!!」
「残念ですが、まだレベルが低いようですね・・・サーナイト、“シャドーボール”!!」
 そこをメイルは見逃さない。ルーナが地面に落ちた所を見計らって、両手で“シャドーボール”を発射! 直撃! 効果は抜群!
「ルーナ!!」
「先に仕掛けたのは、あなたですからね・・・フフフ・・・」
 返り討ちにあったルーナを見て、メイルは笑みを浮かべた。

「ムクバード、“でんこうせっか”・・・!!」
 操られたムクバードが、ミミロルに向かって突撃する! ミミロルは腕を組んでそれをこらえた。反動でかなり後ろに下がった。ただ1つの飛び道具“れいとうビーム”は使いたくない状況で、ミミロルは苦戦していた。
 そんな状況の中で、あたしは落ち着いてサトシをどうしたら元に戻せるのか考えてみた。今までやったように説得するだけじゃ、元に戻ってくれる気配はない。何か別の方法は・・・そんな時、サトシの首に付いた銀色の首輪が目に付いた。それで、あたしはひらめいた。
「そうだ! あの首輪を何とかして外せば・・・!」
 あの『操りリング』とかいってた首輪を外す事ができれば、サトシは元に戻るはず! こんな事に、どうして気が付かなかったんだろ・・・
「確かにそれが一番いい方法だが・・・どうやって外す?」
「・・・!!」
 タケシの質問に、あたしははっとした。そうだ、具体的にどうするって言われても、ぱっといい方法が思いつかない。あたしの心が焦る。
「ムクバード、“つばめがえし”・・・!!」
 そんな時、操られたサトシがまた指示を出した。操られたムクバードが反転して、またミミロルに向かって突撃していく!
「あっ!! ミミロル、“ピヨピヨパンチ”で受け止めて!!」
 あたしは慌ててそう指示した。“つばめがえし”はよける事ができない。それなら、攻撃で受け止めるしかないと思った。ミミロルは耳の拳に力込めて、操られたムクバードに正面から飛び掛った!
「ダメだ、ヒカリ!!」
「えっ!?」
 タケシが突然、そんな事を叫んだ。でも、もう手遅れだった。ミミロルは耳の拳で正面から操られたムクバードの攻撃を受け止めた・・・はずが、操られたムクバードはミミロルにぶつかる直前で姿を消した! ミミロルが動揺してる間に、操られたムクバードはいつの間にかミミロルの上に回り込んで、真上からミミロルに体当たりした! 完全な不意討ち。
「ああっ!!」
「ミミィィィィッ!!」
 ミミロルは悲鳴を上げながら、地面に吸い込まれていった。ミミロルの体が、地面に思い切り叩きつけられた。砂ぼこりが舞い上がる。それを、操られたムクバードは勝ち誇ったように真上から見下ろしていた。
「ミミロルッ!!」
 あたしが叫んでも、ミミロルは立ち上がってくれなかった。完全に戦闘不能。ミミロルも結局何もできないまま、やられちゃった・・・もう残ってるのはポッチャマだけ・・・! あたしは動揺を隠せないまま、震える手でミミロルをモンスターボールに戻した。
「・・・ポッチャマ、お願いっ!!」
 もう祈るしかなかった。あたしは思い切りモンスターボールを投げた。ポッチャマがモンスターボールから出て来る。
「ポッチャマ、サトシとポケモン達が、変な首輪を付けられて悪者に操られてるの・・・どうしたらいい?」
「ポチャ!?」
 あたしの言葉を聞いて、ポッチャマが目を丸くしてサトシを見た。
「なら・・・俺は、こいつ、だ・・・!」
 すると、操られたサトシもムクバードを戻した。そして、別のモンスターボールを取り出した。まさか・・・!
「ナエトル、君に決めた・・・!!」
 やっぱり繰り出したのはナエトルだった。他のポケモン達と一緒で、やっぱり様子は変だった。相性はこっちが不利・・・
「早くあの首輪を何とかしないと・・・!!」
 あたしの心が焦る。壊そうにも、付いているのは首。下手に傷つけちゃったら、サトシもただじゃ済まない・・・でも、それしか方法が・・・!
「ポッチャマ!! サトシの首輪を壊して!!」
「ポチャ!?」
 あたしの指示に、ポッチャマもタケシも驚いた。
「そんな事したら、サトシの首も傷つくかもしれないぞ!? そうなったら・・・!!」
「でも、それしか方法がないわ!! お願い、ポッチャマッ!!」
「・・・ポチャッ!!」
 あたしの言葉を聞いたポッチャマは、はっきりとうなずいた。今はポッチャマを信じるしかない・・・!
「“バブルこうせん”っ!!」
「ポォォォッ・・・!!」
 あたしの声に答えて、ポッチャマは“バブルこうせん”を発射するために息を吸い込んだ。
「させる、か・・・!! ナエトル、“たいあたり”・・・!!」
 でも、操られたサトシも黙っていない。操られたナエトルは、自慢のスピードでポッチャマに突撃していった! 直撃!
「ポチャアアアッ!!」
 弾き飛ばされるポッチャマ。その反動で、“バブルこうせん”を発射しちゃった! 狙いは反れて、操られたサトシの体に当たっちゃった!
「ぐっ・・・!!」
 突然の攻撃を受けて、操られたサトシは反動で倒れた。
「ああっ!!」
 あたしは思わず声を上げた。操られたサトシは起き上がる。何とか無事みたい。
「お前・・・何の真似、だ・・・!! ナエトル、“はっぱカッター”・・・!!」
 操られたサトシは完全に怒った。操られたナエトルが、その怒りを表すように、“はっぱカッター”を倒れたポッチャマに発射! 直撃! 効果は抜群!
「ポチャアアアッ!!」
 ポッチャマがあたしの前に弾き飛ばされる。でも、ポッチャマは立ち上がった。まだ行けるみたい。
「ナエトル、“エナジーボール”・・・!!」
 すると、操られたサトシはまだ完成してない“エナジーボール”を指示した。操られたナエトルは、緑色のボールを作り始めた。ナエトルは“エナジーボール”をまだコントロールできない。今がチャンス!
「ポッチャマ、今度は“つつく”で首輪を狙って!! ナエトルは気にしないで!!」
 あたしの指示通り、ポッチャマはクチバシに力を込めて、ナエトルを無視してサトシに向かって行く! そして、ナエトルとの距離が詰まった時、ナエトルが“エナジーボール”を発射! ポッチャマはナエトルの横を通り過ぎようと、ナエトルの横に抜けようとしていた。でも、“エナジーボール”は運悪くポッチャマのいる方向に曲がっちゃった!
「ポチャアアアアッ!!」
 直撃! 効果は抜群! また弾き飛ばされるポッチャマ。
「ポッチャマ!! ダイジョウブ!?」
 ポッチャマに呼びかけると、ポッチャマは辛うじて立ち上がった。でも、ダメージが大きい。このままじゃ、ミミロル達と同じようになっちゃうのは時間の問題・・・!
「私を失望させないでください・・・」
 すると、メイルが操られたサトシの隣に出て来た。今までメイルがいた場所を見ると、ルーナとニャルマーはもうメイルの目の前で倒れていた。ノゾミとハルナも、サーナイトの“サイコキネシス”で押さえ込まれていた!
「ノゾミ!! ハルナ!!」
「ご、ごめんなさい、ヒカリさん・・・」
 ハルナが苦し紛れにこっちに答えた。
「私にあんな事を言ったからには、それなりの実力はあるものと思っていましたが・・・操られた仲間さえ助ける事ができないなんて、期待外れですね・・・」
 メイルはポニーテールを右手でなびかせながら言った。
「そ、そんな事・・・!!」
「それほどの実力しかないのならば、コンテストで失敗したのも当然です。所詮は親の七光だけでコンテストに出ているようなものですか・・・残念です」
「・・・!!」
 その言葉に、あたしは動揺した。何か言い返す事もできなくなった。だって、失敗したのは事実なんだから・・・
「その程度の実力なら、これを持つ資格もありませんね・・・」
 すると、メイルは盗んだあたしのコンテストパスを取り出して、あたしに見せた。
「コンテストパス!!」
 いきなり取り出して、何をするつもりなの!?
「私はコンテストの事はあまり知りませんが、これだけは言えます。今のあなたに、コンテストに出る幕はありません。出た所で、周りを失望させるだけです・・・」
「・・・・・・!!」
 あたしの動揺はどんどん大きくなる。メイルはそう言いながら、懐からハサミを取り出した。
「ですから、これとはもうお別れです」
 メイルはそう言って、ハサミの刃をコンテストパスに付けた! まさか・・・コンテストパスを切るつもり!?
「ああっ!! やめて!!」
「それが、あなたの運命なのですよ・・・!」
 メイルは鋭い目付きであたしに言った。
「!!」
 その言葉が、あたしの胸に深々と突き刺さった。あたしの心の中が真っ白になった。そして・・・!




 ハサミの音が響いた。




 コンテストパスが、真っ二つになってメイルの足元に落ちた。その瞬間が、スローモーションのように見えた。
「ああっ・・・!!」
 それを見たあたしはもう、それしか声が出なかった。メイルは、真っ二つになったコンテストパスを拾った。
「絶望の淵に叩き落された事でしょう、フタバタウンのヒカリ・・・ですが、これはほんのプロローグに過ぎません。私はそう遠くない内に、このコンペキタウンのコンテスト会場に火を放ちます。その時に、この使い物にならなくなったコンテストパスも焼いてしまうつもりです・・・」
「!!!」
 その言葉を聞いて、あたしはますます動揺した。
「自らの限界に気付きなさい。それでも、『ダイジョウブ』という楽観論を言えますか・・・フタバタウンのヒカリ? フフフフフ・・・!」
 メイルがそう笑った時、メイルの姿が消え始めた。そして、一緒に操られたサトシとナエトルの姿も消え始めた。
「待ちなさいっ!!」
 サーナイトの力が緩んだのか、ハルナは真っ先にメイルに向かって行った。でも、メイル達はハルナの目の前で完全に姿を消した。
「サーナイトの“テレポート”か・・・これじゃ、後を追いかける事ができない・・・!」
 タケシが唇を噛んだ。
「そんな・・・あたしのコンテストパスが・・・!!」
 あたしの足の力が抜けて、パタンと膝が地面に付いた。
「これじゃ・・・もう・・・コンテストに出られない・・・・!!」
 あたしは完全に絶望して、顔をうつむけた。コンテストパスは、作れるのは1回きり。無くしたら作り直してもらう事はできない。1から始めるしかないけど、せっかくゲットした1つ目のリボンが無駄になっちゃう事が、あたしは嫌だった。
「ポチャ・・・ポチャ・・・ッ!!」
 ポッチャマがあたしの様子に気付いた。そして、悔しそうに顔を歪めた。
「うっ・・・うっ・・・」
 気が付けば、あたしの頬を涙が流れていた。
「あたしは、もう・・・ママみたいに、なれない・・・!!」
 握る両手が震えているのがわかった。こんな事で・・・こんな事であたしの夢が終わっちゃうなんて・・・!
「ああああああああああああああああっ!!」
 あたしはもう、そうやって空に向かって泣き叫ぶ事しかできなかった。その空は、どんよりと曇っていた・・・


STORY09:THE END
THE STORY IS CONTINUED ON STORY10・・・

[297] 次回予告
フリッカー - 2008年02月14日 (木) 11時16分

 メイルにコンテストパスを台無しにされたあたし・・・

「ごめんね、みんな・・・もう、コンテストには出られない・・・全部、あたしが悪いの・・・!!」

「完璧な人間なんて、どこにもいないさ。どんな人だって失敗はするし、届かない思いだってある・・・でも、ヒカリのママさんも、そんな経験をして名を残す人になれたと俺は思うんだ・・・」

 そんな事をしている間にも、メイルは動き出す・・・!

「広大な川の流れを生身でせき止めようとする者は、やがて自らの愚かさに気付くのです。その流れを変える事などできません。人はそれを、『運命』というのですよ・・・」

 あたしの夢は、変わっちゃうの・・・?

「さあ、絶望しなさい・・・あなたの力に・・・!!」

 NEXT STORY:夢の続き(後編)

「ポチャ、ポ〜チャ・・・!!」

 COMING SOON・・・

[298]
佳奈美 - 2008年02月14日 (木) 17時42分

お久しぶりです、佳奈美です。
いつ見てもヒカリストーリーはいいストーリーですね。
後編楽しみにしています。
関係ないかもしれませんが、ここのサイトに私の書いた小説もありますので、是非呼んでください。



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