[239] FINAL SECTION 仲間達の思いと小さな希望! |
- フリッカー - 2008年01月25日 (金) 19時57分
「畜生・・・畜生っ・・・!!」 町のどこかの公園で、サトシは人知れず泣いていた。そんなサトシを、ピカチュウはただ見ている事しかできなかった。そんなサトシに、近づく影が。 「・・・?」 サトシがその気配に気が付いて振り向くと、そこにはあのエテボースが立っていた。 「エテボース?」 「エイポーッ!!」 エテボースはやっと見つけて嬉しそうに、すぐサトシの足に抱きついた。 「どうしたんだ・・・あっ! まさか、ヒカリが近くにいるのか!?」 サトシはすぐにその事に気付いた。エテボースは、はっきりとうなずいた。 「どこにいるんだ? 教えてくれ!」 サトシは泣く事も忘れてエテボースにそう聞くと、エテボースははっきりとうなずいて、サトシとピカチュウを案内した。
FINAL SECTION 仲間達の思いと小さな希望!
「えぇ!? おいっ!!」 マサシが怒り顔であたしに迫ってくる。その剣幕に、あたしは思わずしりもちを付いたまま後ずさりする。 「あ、ご、ごめんなさい・・・」 「あいにく、オレは昼間の事でご機嫌斜めでなあ・・・このまま黙って返さねえぜえっ!!」 あたしが謝るのも聞かないで、マサシはモンスターボールを取り出して、スイッチを押した。 「!!」 嫌な予感がしたあたしは、慌てて立ち上がって逃げようとした。でも、振り向くとそこには、いつの間にか白い糸の大きな網が張られていて、行く手を阻んでいた! これは、ポケモンのわざ“クモのす”!? 「逃げるなよ・・・!」 振り向くと、ニヤリと笑うマサシと、その側にいるアリアドスの姿が。どうしよう、これじゃ逃げたくても逃げられない・・・やるしかないみたい! 心を決めたあたしは、懐からモンスターボールを取り出そうとした。その時だった! 「“いとをはく”だあっ!!」 そんなマサシの声に合わせて、アリアドスがこっちに白い糸を発射! それは、あたしにも予想外の事だった。 「ああっ!?」 あたしの体は、たちまち糸でがんじがらめに縛り付けられて、身動きができなくなった! 逃げようにも、後ろには“クモのす”。何とかモンスターボールを手にとって開けようと手を伸ばそうとしても、手はちっとも動かない。これじゃ、どうする事もできないじゃない・・・! あたしの嫌な予感は、完全に的中しちゃったみたい・・・! 「な、何するつもりなの!?」 「サンドバッグになってもらうぜ、オレのポケモンのなぁ!!」 マサシはニヤリと笑ったまま、別のモンスターボールを取り出して、スイッチを押す。すると、ボールからヘルガーが出てくる。ヘルガーは、鋭い眼差しであたしをにらむ。あたしの背筋に、寒気が走った。 「や、やめて・・・!」 「女の子なんだから、いい悲鳴を聞かせろよぉ!! “ふくろだたき”ぃ!!」 あたしの声も聞かないで、マサシはそうヘルガーに指示した。すると、ヘルガーの声に合わせて、マサシの懐から勝手にオコリザルとカイロスが出てきた! そして、一斉にあたしに向かって突撃していく! 「嫌・・・いやあああああああっ!!」 足まですくんで、身動きできないあたしは、ただ悲鳴を上げる事しかなかった。
具体的にどうされたのか、よくわからない。ただ、ひたすら4匹のポケモンにぼこぼこにされた。それだけしか覚えていなかった。まさに“ふくろだたき”。 「ああっ!!」 あたしの身動きできない体が、力なく地面に倒れる。体中が痛い。反射的に体が逃げようともがくけど、無駄なあがきにしかならなかった。 「オコリザル、“いやなおと”ぉ!!」 マサシはまるで楽しい遊びをしている時のように、テンションが上がっている様子だった。オコリザルが、こっちにものすごくうるさい音を出した。 「ううっ!!」 耳を塞ぐ事ができないあたしに、その音は容赦なく襲い掛かる。耳を突き破りそうなその音を、あたしはただ耐えるしかなかった。 「そうだぁ・・・もっとやっちまいなあっ!! カイロス、“しめつける”ぅ!!」 そんなあたしを見て、マサシのテンションはさらに上がった様子だった。今度はカイロスがあたしの目の前に来る。カイロスのツノが、あたしの体を挟んだ。そのまま持ち上げられるあたしの体。ツノに力が入り始めた。あたしの体が、容赦なく文字通り締め付けられ始める。 「うああああああっ!!」 体に強い痛みが走る。これにも、あたしは耐えるしかなかった。でも、体は悲鳴を上げ続ける。これじゃ、完全に『拷問』。サトシでさえ、あんなに怖がるのもわかる。それに耐えられなくなったのか、あたしは思わず、こんな事を口に出していた。 「助、けて・・・!」 「『助けて』ぇ?」 その言葉を聞いても、マサシは表情を変えなかった。 「オレの周りには、今誰もいないんだぜ? そんな事言ったって、誰も助けには来ないぜ?」 「!!」 そうだ、今のあたしは1人なんだ・・・「助けて」って言っても、誰も助けに来てくれない・・・! あたしは絶望した。 「それに、そんな風に言われると、余計やりたくなっちゃうんだよな〜!!」 マサシがまたニヤリと笑った。そして、カイロスがツノを思い切り振って、あたしを思い切り投げ飛ばした。 「きゃあっ!!」 あたしの体が、思い切り地面に叩きつけられた。土ぼこりがもろに顔にかかった。顔を上げると、まだジリジリと迫ってくる4匹のポケモンの姿が映った。 「へへへ、スカッとするぜ!! こうやって抵抗できなくして、一方的にいじめ続けるなんて、これほど爽快な事はないよなあ・・・っ!!」 笑みを浮かべながら、マサシはそうつぶやいた。こんなひどい事が『爽快』だなんて・・・あたしは、そんなマサシに残酷さを覚えた。 「さあ、サンドバッグがぶっ壊れるまで付き合ってもらうぜえっ!! ヘルガー、“ほのおのキバ”ぁ!!」 サンドバッグがぶっ壊れるまでって・・・あたしをどこまで『拷問』させるつもりなの!? そんな事を思ってる間に、ヘルガーが熱で赤くなったキバを向いて、あたしに飛び掛ってくる! 「きゃああああああっ!!」 もしこれで噛まれたら、ただじゃ済まない。あたしはもう、目をつぶって悲鳴を上げるしかなかった。お願い、誰でもいいから、助けて・・・!
ドン、と鈍い音がした。すると、こっちに向かって来ていたヘルガーが突然、何かに弾き飛ばされた。 「・・・!?」 驚いて目を開けて見てみると、そこには、見慣れた大きな影が。 「エイポッ!!」 そう、あの時どこかに行っちゃったはずのエテボース! どうしてここに!? 「エテボース!?」 「やめろ!!」 すると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。この声、もしかして・・・? それは、すぐにわかった。あたしの体が、駆け寄って来た誰かに起こされる。そんなあたしの視界に映ったのは・・・ 「サトシ・・・!」 そう、紛れもなくサトシだった! サトシが、助けに来てくれた・・・あたしは嬉しくなった。 「何だあ、てめえ? またヒーロー気取って登場かあ?」 マサシが、いらだった表情でサトシに言った。すると、サトシの表情が変わった。 「う・・・ヒ、ヒカリを、ヒカリをいじめるのはやめろ!!」 そう言ったサトシの表情は、明らかに怯えていた。 「ヒカリって言うのか、そいつ・・・ああそうか、そいつはお前の『彼女』なんだな? だから助けに来たんだろ?」 「う・・・うるさい!! とにかく、ヒカリをいじめるのはやめろ!!」 「ピッカ!!」 強気で前に出るピカチュウとは逆に、サトシは明らかに弱腰に見えた。 「ガキ大将のオレに向かって、いつからそんな口利くようになったんだあ? あぁ? こっちには、これだってあるんだぜ?」 すると、マサシはあの時奪っていったサトシのバッジケースを取り出して、堂々と前に突き出した。 「それは・・・俺のジムバッジ!!」 「このジムバッジと、そこにいる『彼女』、どっちか1つ選ぶとしたらどっちだあ? 2つに1つだぜ、両方取るなんてなしだぜぇ?」 「う・・・」 マサシのそんな挑発に、サトシは言葉に迷った。なんで迷うの? いつものサトシなら、堂々と「両方取ってやる!」って言うと思うんだけど・・・ 「どっちか選べば、選んだ方を返してやるよ。選ばなかった方は、オレがぶっ壊すだけだがなあ」 「そ、それだけは・・・やめてくれ!!」 「オイオイ、ヒーロー気取って出て来ておいて、そんな事言うのかあ? 『彼女』に嫌われても知らねえぞぉ?」 「・・・・・・」 マサシの挑発は続く。それにサトシは完全にどうしていいかわからなくなってる。いつものサトシらしくない。 「・・・わかった。ヒカリを・・・選ぶよ」 サトシは顔をうつむけて、唇を噛んでそう言った。 「おうおう、話がわかるじゃないか。オコリザル、“ひっかく”で糸を切ってやれ」 すると、マサシは勝ち誇ったようにそう言って、オコリザルにそう指示した。すぐに、オコリザルがあたしの側に来て、ツメであたしを縛っていた糸を切った後、素早くマサシの側に戻った。 「じゃ、このジムバッジにはもうサヨナラって訳だ」 「ま・・・待ってくれ!!」 マサシがまた、バッジケースを前に突き出した。それを見たサトシが、思わず声を出した。 「何だあ、『彼女』を選んでおいて、今更これも返せなんて言うのかあ? 男に二言はないんだよおっ!!」 「う・・・」 サトシの思いは、空しく弾き返された。そのまま、サトシは何も反論しなくなった。そんなサトシを見て、自由の身になったあたしの心の中に、『何か』が湧き上がってきた。 「サトシ・・・」 「もういいんだ・・・あいつとバトルしたって、勝つのは無理なんだよ・・・バッジなんて、またゲットすりゃいいんだからさ・・・」 サトシは、力なくあたしにそう言った。サトシが『無理』なんて言葉を発したのは、信じられなかった。がんばってゲットしたジムバッジが壊される事への悔しさが、顔にははっきりと書かれていた。あたしの心の中の『何か』が、どんどん強くなっていく。 「アリアドス、“ナイトヘッド”でこいつを壊しちまいなあ!!」 マサシはそう言って、サトシのバッジケースをアリアドスの前に突き出した。アリアドスの目が黒く光った、その時だった! 「エイポーッ!!」 エテボースが動いた。真っ直ぐアリアドスに向かって行って、2本の尻尾を思い切り振った! “ダブルアタック”だ! 直撃! 弾き飛ばされるアリアドス。エテボースは、鋭い眼差しでマサシをにらんだ。 「てめえ・・・一件落着って時なのに、やるかよっ!! カイロスッ!!」 マサシはそれに完全に怒った。その怒りを表すように、カイロスがエテボースの前に出た。2本のツノが開いて、エテボースに襲い掛かる! 「エイッポォォォォッ!!」 エテボースが応戦する。片方の尻尾の拳に力を込めて、カイロスの体に下から振った! 今度は“きあいパンチ”! 直撃! 返り討ちされたカイロスは、思わず後ずさりした。 「エテボース・・・」 そんなエテボースを見て、エテボースはバッジを取り返そうとしてる事が、すぐにわかった。あのバッジは、エテボースも力を合わせてゲットしたもの。そんなバッジを取り返そうと思うのは当然だよね・・・あたしの心の中でも、『何か』がメラメラと燃え上がるようにますます強くなっていった。もう、いてもたってもいられない・・・! あたしは、ゆっくりと立ち上がった。 「みんな!!」 あたしはそう思い切り叫んで、懐から3つのモンスターボールを全部出して、思い切り投げ上げた。ポッチャマ、ミミロル、パチリスが一斉に出てくる。エテボースは、カイロス以外のマサシのポケモンに囲まれてる! 「ポッチャマ、“つつく”!! ミミロル、“ピヨピヨパンチ”!! パチリス、“スパーク”!!」 「ポチャマーッ!!」 「ミミーッ!!」 「チッパーッ!!」 あたしの指示で、3匹は一斉に飛び出して行った。ポッチャマがオコリザルに向けてクチバシを、ミミロルがアリアドスに向けて耳の拳を、パチリスが電気を纏った体をヘルガーに、思い切りぶつけた! 突然の攻撃を受けて、弾き飛ばされるオコリザル、アリアドス、ヘルガー。 「な、何だあ、てめえ?」 マサシの鋭い目線がこっちに向いた。それでも、不思議とあたしは怯まなかった。 「サトシのバッジを、返して!!」 あたしは、マサシにはっきりと顔を向けて、力強くそう言い放った。あたしのポケモン達が身構える。 「あぁ? 貴様・・・オレを誰だと思ってる!? オレはマサラタウンのマサシ、ポケモンバトルでも負け知らずな『ガキ大将』だ!! そんなオレに歯向かおうってんのかあ?」 マサシがいらだった表情を見せる。さっきと同じ剣幕がかかる。でも、あたしの中で燃え上がる『何か』が、それを押し返していた。 「オレが嫌だと言ったら、どうする?」 マサシがあたしを挑発してくる。 「・・・バトルしてでも、取り返すわ!!」 あたしは、そう力強く叫んだ。 「やめろヒカリ!! あいつはめちゃくちゃ強いんだ!! バトルしたって、お前に勝ち目はないぞ!!」 それを聞いたサトシが、慌ててそう聞いた。 「・・・サトシ、どうしちゃったの? いつものサトシだったら、絶対取り返そうとするじゃない・・・なのに、今日はなんでそんなに弱気なの? いつものサトシは、どこ行っちゃったの?」 あたしは、思ってた事をそのまま口に出した。そんなあたしの言葉に、はっとするサトシ。 「でも、あいつは・・・」 「やってみなきゃ、わからないよ・・・! サトシはいつも、そんな事言ってたじゃない! サトシがやらないなら、あたしが代わりにやる!!」 今のあたしは、正直言ってダイジョバない。でも、せめてサトシはいつものサトシでいて欲しい。そんな思いが、あたしの心の中にあった。 「てめえ・・・調子こくんじゃねえっ!! お前ら、やっちまいなあっ!!」 マサシは完全にキレた。マサシの4匹のポケモンが、一斉に飛び出した。 「みんな、お願い!!」 あたしのポケモン達も、迎え撃つ。たちまち、4匹対4匹の、凄まじいバトルが始まった。 「ヒカリ・・・」 サトシは横で、ただそうつぶやきながら、バトルの行方を見守っていた。
ヘルガーが、“ほのおのキバ”でパチリスに飛び掛ってくる! でも、パチリスは自慢の足で素早く逃げる。ヘルガーのキバが空を切った。その隙に、パチリスは回り込んで“スパーク”でヘルガーに飛び込んだ! でも、ヘルガーはそれをかわした。地面にぶつかって、転ぶパチリス。そこに、ヘルガーの“かえんほうしゃ”! パチリスが気付いた時にはもう手遅れ。炎は容赦なくパチリスを飲み込んだ。そのまま押し返されるパチリス。
アリアドスが、“ナイトヘッド”をミミロルに発射! 命中! でも、ノーマルタイプのミミロルには全く効かない。その隙を突いて、ミミロルは“とびはねる”で力強くジャンプ、アリアドスの上を取った! でも、今度はアリアドスの“いとをはく”! 糸で足を絡め取られたミミロルは、そのまま糸で逆にアリアドスに振り回された! そのまま地面に叩きつけられるミミロル。アリアドスは糸を切って、すかさず口からミサイルのようなものを発射して追い討ちをかける! “ミサイルばり”だ! 直撃! 次々と襲い掛かる“ミサイルばり”に、ミミロルは弾き飛ばされた。
軽い身のこなしでカイロスのツノをかわしていくエテボースだけど、とうとうツノに捕まった! そのまま、エテボースを“しめつけ”始めるカイロス。でも、エテボースも黙っていない。2本の尻尾を振って、カイロスの顔に“ダブルアタック”! 顔面に直撃! さすがにこれには参ったのか、ツノでエテボースを挟んだまま、でんぐり返しをした! “じごくぐるま”だ! その勢いで、カイロスはエテボースを思い切り投げ飛ばした! 地面に思い切り叩きつけられるエテボース。効果は抜群! 大ダメージを受けたみたいだけど、それでもエテボースは怯まないで立ち上がった。
ポッチャマは、“バブルこうせん”で近づいてくるオコリザルを迎え撃つ! 命中! それでも、オコリザルは怯まない。その怒り顔をさらに強くして、オコリザルは強引にポッチャマに飛び込んだ! そして、ポッチャマに“しっぺがえし”の拳を振った! 直撃! ポッチャマは一撃で弾き飛ばされた。それでも、オコリザルは攻撃の手を緩めない。“ダメおし”でポッチャマに追い討ちをかける! それに気付いたポッチャマは、何とか立ち上がってすぐによけた! 間一髪。オコリザルの拳はポッチャマのすぐ横をかすめた。ポッチャマは一旦間合いを取って、仕切り直す。
「へへへ、どんどんやっちまいなあっ!!」 こっちの方が、明らかに劣勢。それを見たマサシは、余裕の笑みを浮かべた。 「・・・っ!!」 やっぱりサトシの言う通り、強い・・・! あたしは唇を噛んだ。このままじゃ、押し返されちゃう! どうしたら・・・! 「オコリザル、“インファイト”ォ!! ヘルガー、“オーバーヒート”ォ!! アリアドス、“ミサイルばり”ぃ!! カイロス、“かわらわり”ぃ!!」 マサシの指示で、オコリザル、ヘルガー、アリアドス、カイロスの4匹は一斉に攻撃した! 「ポチャアアアッ!!」 「ミミィィィッ!!」 「チパアアアッ!!」 「エイポオオオッ」 直撃を受けたあたしのポケモン達は、一斉にあたしの前に弾き飛ばされた。みんなかなりのダメージを受けてる。 「みんな!!」 「アリアドス、あいつに“ナイトヘッド”だあっ!!」 アリアドスが、目から黒い光線を発射! その先にいるのは・・・あたし!? 「きゃあああっ!!」 直撃だった。体中に痛みが走る。あたしの体は左肩から倒れた。 「へっ、女のくせに生意気な事するからだ! あぁ!?」 マサシの余裕の声が聞こえてくる。あたしは、立ち上がる気力がなくなった。あたしじゃ、ダメなの・・・? そうあきらめかけた時だった。 「やめろ・・・」 誰かが、ボソッとつぶやくのが聞こえた。見ると、そこにはわなわなと両手を握るサトシがいた。 「あぁ?」 「やめろ・・・!」 マサシがサトシに顔を向けた。確かに、サトシはその言葉を出していた。さっきよりも強く。 「やめろおおおおおおっ!!」 すると、サトシはわなわなと握っていた拳を力強く握って、力強い叫び声を上げながらマサシに一直線に向かって行った! 「!?」 突然の事にマサシも動けなかった。そのまま、サトシは右の拳を思い切りマサシの頬にぶつけた! 「ぐうっ!!」 直撃! 反動で後ずさりするマサシ。 「て、てめえ・・・オレを殴ったな・・・!!」 そう言って、マサシはサトシの顔を見た。そして、その表情の違いに驚いた。それは、あたしも同じだった。 「サトシ・・・?」 「マサシ・・・俺はもう、あの時の俺じゃない・・・!!」 そのマサシをしっかりと視界に捕らえる横顔は、疑いなくいつもの強気なサトシそのものだった。 「何だとぉ? お前ら!!」 怒ったマサシがそう言うと、オコリザル達が、一斉にサトシに踊りかかった! 危ない! あたしは思わず、そう叫びそうになった。でも、サトシの両手が一瞬光ったと思うと、マサシのポケモン達は、全員何かに動きを止められていた。ナエトル、ムクバード、ヒコザル、ブイゼルだ! ナエトルはオコリザルを、ムクバードはカイロスを、ヒコザルはアリアドスを、ブイセルはヘルガーを押さえ込んでいる! 「な!?」 その状態に、驚きを隠せないマサシ。 「昔の俺は、確かに1人ぼっちだったさ・・・でも、今は違う!! 今の俺には、心強い『仲間』がいるんだ!! もう俺は1人じゃないんだ!!」 サトシは、強い眼差しでマサシにそう言い放った。その姿は、さっきまでとは正反対。 「サトシ・・・!」 いつものサトシに、完全に戻ってる・・・! あたしは嬉しくなった。そしてその言葉に、あたしの心の中の『何か』が動いた。 「ヒカリ!!」 「ヒカリちゃん!!」 すると、後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはこっちに走ってくるタケシとミライさんが。よくわからないけど、こっちの事態に気付いたみたい。 「大丈夫か?」 「うん、何とかね・・・」 「もう、だから『こんな夜中に1人じゃ危ない』って言ったのに・・・」 タケシが、あたしの体を起こした。そして、タケシとミライさんは、サトシに目を向けた。そして、すぐにマサシの存在にも気付いた。 「あいつは・・・!」 タケシが、前に出ようとした。でも、すぐにサトシは右手をタケシの前にかざした。 「タケシ・・・ここは俺1人にやらせてくれ・・・あいつとは、俺が決着を付ける!」 サトシは振り向かないまま、そう言った。 「でも・・・」 「わかったわ」 すぐに、ミライさんが相槌をした。 「ここは、サトシ自身にやらせましょ。サトシ自身の過去を振り払うためにもね」 ミライさんはタケシの肩に手を置いて、そう言った。 「・・・わかった」 タケシは、その事を理解して後ずさりした。 「くそおっ、ヒーロー気取りやがってえっ!! ヘルガーッ!!」 その様子にマサシは完全にキレた。ヘルガーが、サトシに向かって飛び出した! 「ブイゼル!!」 「ブイッ!!」 サトシの力強い指示でブイゼルが前に出た。 「“オーバーヒート”ォ!!」 ヘルガーは、“オーバーヒート”でブイゼルを攻撃! でも、さっきより炎の勢いは弱くなっている。一度使ってるから、パワーが落ちてるんだ! 「ブイゼル、“アクアジェット”!!」 「ブゥゥゥゥイッ!!」 ブイゼルは、自慢の“アクアジェット”で飛んで来る炎の中に飛び込んだ! パワーが落ちた炎の中を、簡単に突き破っていくブイゼル! 「な!?」 「行っけええええええっ!!」 サトシの叫びが、水の槍となってヘルガーに飛んでいく! 直撃! 効果は抜群! “アクアジェット”の勢いで強く押し出されて、とうとう弾き飛ばされて、近くの木に思い切り叩きつけられた。ヘルガーは完全にノックアウト! 「ちいっ!! 調子こくんじゃねえっ!! アリアドスッ!!」 今度はアリアドスが前に出る。 「ヒコザル!!」 「ヒッコ!!」 サトシの指示で前に出たのは、ヒコザル。 「“ナイトヘッド”ォ!!」 アリアドスが、“ナイトヘッド”をヒコザルに向けて撃つ! 「“あなをほる”だ!!」 「ヒコッ!!」 サトシの力強い指示に答えて、ヒコザルは素早く地面に穴を掘ってそこに飛び込んだ! 穴の上を素通りする“ナイトヘッド”。そして、すぐにアリアドスの足元が崩れて、ヒコザルが勢いよく飛び出した! 上に吹き飛ばされるアリアドス。 「今だヒコザル!! “かえんほうしゃ”!!」 「ヒッコオオオオオッ!!」 サトシの叫びが、炎となってアリアドスに放たれた! 炎は容赦なくアリアドスを飲み込んだ! 効果は抜群! 黒焦げになったアリアドスは、ヘルガーの上に弾き飛ばされた。アリアドスもノックアウト! 「ええいっ!! カイロスッ!!」 マサシの顔に焦りが見え始めた。カイロスが前に出る。 「ムクバード!!」 「ムックバーッ!!」 今度はムクバードがサトシの前に出た。 「“はさむ”攻撃だあっ!!」 「ムクバード、“つばめがえし”だ!!」 マサシとサトシの指示はほぼ同時だった。カイロスが低空を飛ぶムクバードを捕まえようとツノを開いてジャンプした! でも、カイロスがムクバードを挟もうとしたその瞬間、ムクバードは突然、カイロスの視界から姿を消した! 「!?」 「今だ!!」 「ムックバアアアアアッ!!」 サトシの叫びを現すように、ムクバードは勢いをつけてカイロスに飛び込んだ! 完全な不意討ち。カイロスはよけられる訳ない。効果は抜群! カイロスはそのまま、アリアドスの上に落ちていった。カイロスもノックアウト! 「な、何だと・・・!? オコリザルッ!!」 マサシは完全に動揺してる。そんなマサシは、残ったオコリザルを呼び出す。 「ナエトル!!」 「エル!!」 サトシの前にナエトルが出た。 「“たいあたり”だ!!」 「エ〜ル・・・ッ!!」 ナエトルは、勢いをつけてオコリザルに飛び込んでいく! 「調子こくんじゃねえっ!! “インファイト”ォ!!」 オコリザルも応戦する。オコリザルも、勢いをつけてナエトルを正面から迎え撃つ! オコリザルが拳を振る! 「よけろ!!」 その拳がまさにナエトルに迫ろうとした時、ナエトルは自慢のスピードで方向転換、拳をかわした! オコリザルの拳が空を切る。そして、地面に食い込んだ。 「何だと!?」 「今だ!! 行けええええっ!!」 「トオオオッ!!」 サトシの叫びに答えるように、スピードを上げて横からオコリザルに突撃していく! 直撃! そのまま弾き飛ばされるオコリザル。かなりダメージを与えられたみたい! 「凄い・・・!」 あたしは、そんなサトシの姿に目を丸くした。『バトルしたって勝ち目はない』とか言ってたのがウソみたいだった。 「どうだ!! 俺達はこうやって力を合わせて、今までジム戦をがんばってきたんだ!! さあ、バッジを返せ!!」 「ふざけるな・・・オレはまだ負けた訳じゃねえっ!!」 サトシの力強い言葉に、マサシも負けじとそう叫んだ。すると、オコリザルが立ち上がって完全にキレ出したと思うと、体から赤いオーラが突然出て来た! 「オコリザルの『いかりのつぼ』に触れたみたいだな・・・ただで済むとは思うなよっ!!」 マサシの表情に、余裕さが戻った。 「『いかりのつぼ』?」 「攻撃が急所に当たると、攻撃が極限まで上がるとくせいだ!」 あたしの疑問に、タケシが答えた。これって、ヤバイって事!? 「サトシ、気をつけて!!」 「『ダイジョウブ』さ!!」 「!」 サトシが、あたしがよく言う事を口にして、あたしはちょっと驚いた。そして、心の中で『何か』が動いた。 「最大パワーで“しっぺがえし”だあっ!!」 マサシの指示で、オコリザルはものすごい剣幕でサトシに向かって行く! 「頼むぞ、ピカチュウ!!」 「ピッカ!!」 その前に、ピカチュウが出た。ピカチュウは気合充分。電気袋から火花が出ていた。 「“ボルテッカー”だ!!」 「ピカピカピカピカ・・・ッ!!」 ピカチュウは電撃を体に纏って、向かって来るオコリザルに正面から突撃して行った! 「サトシ!!」 タケシが声を上げた。 「サトシ!!」 今度はミライさんが声を上げた。 「サトシ・・・がんばって!!」 あたしも、思い切りそう叫んだ。ピカチュウとオコリザルの距離が、どんどん詰まっていく! 「これが・・・俺達の力だあああああっ!!」 「ピッカアアアアアアッ!!」 そんなサトシのお腹からの叫び声に答えるように、ピカチュウの電撃も強さを増していく! そして、2匹が正面からぶつかった! 爆発! あたし達は息を呑んだ。爆風の中から、オコリザルが吹っ飛ばされてきた。 「ぐあっ!!」 オコリザルはマサシに正面からぶつかった。オコリザルの下敷きになるマサシ。そして、そのマサシの手元に、サトシのバッジケースが転がり落ちた。オコリザルは、完全に戦闘不能になっていた。勝った! 「勝った・・・!」 あたしの口から、そんな言葉がこぼれた。 「バッジは返してもらうぞ!!」 サトシは堂々とマサシの前に出て、落ちていたバッジケースを拾った。 「お・・・オレが・・・『ヒーロー気取り』に負けるだと・・・あ、ありえねえっ!!」 マサシは倒れたオコリザルの体をよけて悔しそうにそう言いながら立ち上がると、4匹のポケモンをモンスターボールに戻した。 「つ、次はこうは行かないからな!! 覚えてろよっ!!」 そうサトシに言い放った後、マサシは一目散にその場から逃げ出した。そんなマサシの背中を、サトシはしばらく見届けていた。 「ピカーッ!」 そんなサトシに、ピカチュウ達が集まってきた。 「みんな! ありがとう、みんなのお陰だよ!」 5匹のポケモンに囲まれたサトシは、笑顔でそう言った。5匹も、そんなサトシに笑顔で答えていた。 「これで、サトシは完全に過去の自分から決別したんだな・・・」 「逃げしなに覚えていろは負けた奴、なんてね!」 タケシとミライさんの顔にも笑顔が戻った。あたしもほっとした。そんなサトシを見ていると、サトシがあたしの前に来た。 「ヒカリ、ありがとう」 「え? お礼を言わなきゃいけないのはこっち! サトシが来てくれなかったら、ずっとあいつに・・・」 「いや、俺だって言わなきゃいけないさ。ヒカリがあいつとバトルしなかったら、俺は『みんながいる事』に気付けなかったよ」 「みんなが、いる事・・・」 あたしは、そんなサトシの言葉が気になった。ふと見ると、あたしのポケモン達は、サトシのポケモン達と久しぶりの挨拶を交わしていた。特にミミロルは、ピカチュウに泣きながら抱きついていた。 「さて、一件落着した所でヒカリちゃん」 ミライさんが、あたしに声をかけた。 「みんなに言わなきゃいけない事、あるんじゃないかな?」 「え?」 ミライさんにそう言われて、あたしは思い出した。みんなと勝手に別れちゃった事を。サトシとタケシが、あたしに顔を向ける。 「あ・・・えっと・・・あたしは・・・」 あたしは正面から2人と向かい合うけど、なんて言ったらいいのか言葉に迷った。 「ヒカリ、探したんだぜ、俺達」 そうこうしている内に、サトシが先に口を開いた。 「コンテストで失敗した事が気になるのはわかるさ。でも、だからって勝手に出て行くなよ」 怒られるかと思ったけど、2人の表情は穏やかだった。 「でも・・・あたし・・・」 あたしの中の不安が、よみがえってきた。 「あの時のあたしの話、聞いてなかったの? 『みんなについて行って、いい刺激をもらう方がいい』って」 ミライさんの言葉に、あたしははっとした。 「そうさ、こんな時に1人で悩むのはよくないさ。悩んでるなら、正直に話せばいいじゃないか」 タケシが、ミライさんの言葉に続けた。 「一緒に行こうぜ、ヒカリ! 俺達と行けば、そんな悩みなんて吹っ飛んじゃうさ!」 「ピカチュ!」 そう言って手を差し伸べるサトシの肩に、ピカチュウが飛び乗った。ピカチュウもサトシ達と気持ちは同じみたい。 「みんな・・・」 みんなの暖かさを感じたあたしの心の中に、あの時の本音がよみがえってきた。やっぱりあたしは、こんなみんなと一緒に旅をしたい・・・! そんな思いが、あたしの不安を消していく。 「・・・ごめん。勝手にあんな事しちゃって。やっぱり、みんなと行くよ」 あたしはサトシの手を取ってゆっくりと立ち上がりながら、そう言った。その言葉には迷わなかった。それを聞いたみんなが、笑みを浮かべた。 「そうだよ、そういう時こそ言わなきゃ、『ダイジョウブ!』ってさ」 サトシが微笑んだ。 「うん、ダイジョウブ」 あたしも、今作れる精一杯の笑みを浮かべて、自分にそう言い聞かせた。
その日の夜は、あの悪夢にうなされる事はなかった。
* * *
次の日。 あたし達が、この町を出発する時が来た。 「サトシ、次はトバリシティに行くんでしょ?」 「ああ。次のジム戦に向けて、がんばらなくちゃな!」 サトシはミライさんに、張り切ってそう答えた。ミライさんは笑みを浮かべた。そして、今度は顔をあたしに向けた。 「ヒカリちゃん」 「何ですか?」 「最後に言っておくわ。旅の中でよく考えるのよ、『自分が本当は、何がしたいのか』って」 「何がしたいのか・・・」 あたしは、ミライさんの言った事をもう一度、口にしてみる。 「それは、ヒカリちゃん自身が一番よく知ってるはずだからね! ポッチャマも、ヒカリちゃんを頼むね!」 「ポチャ!」 あたしの肩の上にいるポッチャマが、元気よく答えた。 「じゃ、行こうか」 「うん」 そろそろ出発するみたい。あたし達は、ミライさんに背を向けた。 「3人共気をつけてね〜!」 「さようなら〜!」 お互いに手を振りながらそんな挨拶を交わして、あたし達は道を進み始めた。ミライさんは、そんなあたし達の背中をしばらく見送っていた。 「ヒカリちゃん、これからが正念場ね。『喉元過ぎれば熱さを忘れる』って言うけど、ヒカリちゃんのはそう簡単に忘れられる熱さじゃなさそうね・・・ちょっと心配だわ・・・カズマ君はこの事をどう思うかしら」 ミライさんは手を下ろして、そんな事をつぶやいていた。
* * *
これから先、どんな事が起こるのかはわからない。あたしがコンテスト出場を続けるのかどうかも、わからない。正直言って、不安な事だらけ。でも、あたしは信じる。みんなと一緒に旅をしていけば、きっとその答えをつかめるって。もしつかめなくても、みんなと一緒に楽しく旅ができるなら、それでもいい。 そんな小さな希望が、あたしの胸の中にあった。
こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く・・・・・・
STORY08:THE END
|
|