[128] FINAL SECTION ブイゼルとエイパムの誓い! |
- フリッカー - 2007年12月14日 (金) 18時05分
あたし達は、ポケッチの『マーキングマップ』を頼りに、ラティオスを探した。その近くに、ブイゼルもいるはず! あたしは、先頭に立ってポケッチを見ながら歩いていく。 画面の点滅してる点を追って行くと、どんどん町から離れていって、暗い森の中へと入っていった。途中でズバットの影を何度か見たけど、あたしは気にしないで『マーキングマップ』の示す通りに進んでいく。 「なあ、これでホントに合ってるのか? 圏外とかになってないよな?」 不安になったのか、サトシがそんな事を言った。 「ダイジョウブ! 圏外なんてある訳ないでしょ!」 「まあ、そうだけどさ・・・」 そんなやり取りをしながら歩いて行くと、目の前の視界が開けた。そこには、月光に照らされた大きな池が広がっていた。とてもきれいな風景だったけど、今はそんな事はどうでもよかった。 「池か・・・」 タケシがつぶやいた。あたしは、ポケッチの画面に目をやる。点滅している点は、あたし達のいる所からそう離れていない所にある。ラティオスは近くにいる! 「近いわ! この辺りにいるはずよ!」 あたしは、辺りを見回した。すると、遠くからドン、ドンと何かを叩くような音が聞こえてきた。 「ねえ、何か聞こえない?」 「・・・ああ、確かに聞こえる!」 「行ってみよう!」 あたし達は、音がする方向に歩いていった。進む度に、音はどんどん大きくなっていく。ラティオスかどうかはわからないけど、何かが近くにいる事は確実。 「ブイッ!! ブイッ!!」 すると、叩く音に混じって、そんな聞き慣れた声も聞こえてくる。 「この声・・・ブイゼル?」 結構近くまで来た。あたし達は、岩陰から音がする場所の様子をそっと除いた。そこには、やっぱりブイゼルの姿があった!
FINAL SECTION ブイゼルとエイパムの誓い!
「ブイッ!! ブイッ!! ブイッ!!」 ブイゼルは、ひたすら近くに生えている木を殴り続けていた。その拳には、いつも以上に力が入ってる。そのまま木を倒しちゃうんじゃないかと思うくらいの勢い。そして、唇を噛んでいるその表情は、怒ってるようにも悔しがってるようにも見えた。 「ブイゼル・・・」 やっぱり、ブイゼルはあんなに怒ってたけど、ホントはあたしと一緒にいられない事が寂しいんだ・・・あたしには、すぐにわかった。 「ブイィィィィィィッ!!」 そんな思いを振り払うように叫び声を上げながら、ブイゼルは拳を思い切り木に叩き込んだ。ブイゼルの拳は、木に深々と突き刺さった。 「ブイ・・・・・・ッ!!」 ブイゼルは突き刺さった手を抜かないまま、わなわなと腕を震わせていた。「ヒカリのバカヤロウ!」とかって思ってるのかな・・・? 言わなきゃ、あたしはブイゼルを見捨ててなんかいないって・・・! あたしは決意を固めた。 「・・・行こう!」 「ポチャ!」 「エイッパ!」 あたしの言葉に、ポッチャマとエイパムが答えた。 「俺も行く」 「あたしに行かせて。ブイゼルには、やっぱりあたしから話さなきゃいけないから・・・!」 あたしと一緒に行こうとしたサトシを、あたしは止めた。 「・・・ああ、わかった。気をつけろよ」 サトシはそう言って身を引いた。そして、あたしは2匹と一緒に岩陰を出た。 「ブイゼル!」 「・・ブイ!?」 あたしが呼びかけると、ブイゼルは驚いた様子でこっちを向いた。 「探したのよ、ブイゼル。あたしは・・・」 「ブイッ!!」 すると、言い終わらない内にブイゼルはすぐに正面を向いて、身構えた。毛が逆立っている。完全にあたしを警戒してるみたい。 「怒らないでブイゼル。あたしはあなたを迎えに来たのよ・・・」 あたしは、足を踏み出す。 「ブゥーッ!!」 でも、ブイゼルはあたしの言葉も聞こうとしないで、あたしに向かって“みずでっぽう”を撃ってきた! 「うっ!!」 顔に水がかかる。相変わらずの強い力。何とか押し倒されないように足をふんばった。 「まだ、怒ってるのね・・・でも、違うのよ! あたしはブイゼルを見捨ててなんか・・・」 「ブイーッ!!」 すると、今度は尻尾を振って“ソニックブーム”を撃ってきた! 衝撃波がこっちに飛んで来る! 「ポッチャマーッ!!」 すると、すかさずポッチャマが“バブルこうせん”を発射。“ソニックブーム”と正面からぶつかって、相殺した。 「ポチャ! ポチャポチャッ!」 「ブイ・・・ッ!!」 ポッチャマが説得しようとしてるみたいだけど、ブイゼルは全然聞こうとしない。 (また、あの時の人間か・・・!) そんな声が突然、頭の中で響いたと思うと、あたしの体が、急に何かの強い力に押さえつけられた。間違いない、この声は・・・! 「ラ・・・ラティオス・・・!!」 あたしが言うと、初めて見た時と同じ、男の人の姿であのラティオスが現れた。光る『こころのしずく』を持つ右手を突き出している。これは、ラティオスの“サイコキネシス”なんだ! (逃げた『奴隷』を捕まえに来たという訳か。そんな事はさせん!!) 人の姿をしたラティオスは、『こころのしずく』を持つ右手を横に振った。すると、あたしの体が思いっきり投げ飛ばされた! 「きゃあっ!!」 地面に思いっきり叩きつけられるあたしの体。 「ヒカリ!!」 そんなみんなの声が聞こえた。そんなあたしをかばおうと、ポッチャマが前に出た。 「ポッチャマーッ!!」 ポッチャマが“バブルこうせん”をラティオスに向けて撃つ! 命中! でも、ラティオスは元の姿に戻っただけで手応えがない。そして、ラティオスは“ラスターパージ”で反撃! 直撃! たちまち弾き飛ばされるポッチャマ。ポッチャマのダメージはかなり大きい。なんて威力なの!? 「くそっ!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」 とっさにサトシが出てきて、あたしのリリーフに入った。ピカチュウが、自慢の電撃をラティオスにお見舞いした! でも、ラティオスはそれを軽やかによける。そして、すかさずもう一度“ラスターパージ”を撃つ! ピカチュウも、自慢のスピードでよけた。 「ちっ!! なんてスピードなんだ!!」 唇を噛むサトシ。 「相棒、“シャドーパンチ”!!」 そんなサトシに加勢するゲキさん。モンスターボールから出て来たベトベトンは、“シャドーパンチ”をラティオスにお見舞いする! 当たった! 効果は抜群みたい! どんなに素早いラティオスでも、必ず当たるわざはよけられない。 「ヒカリ!! ここは俺達に任せろ!!」 「う、うん!!」 いけない、本来の目的を忘れるところだった。あたしは、ブイゼルの方に体を向き直した。 「ブイ・・・・・・ッ!!」 ブイゼルはまだ、こっちを鋭い目付きでにらんでいる。まずは何とかして、ブイゼルを落ち着かせなきゃ・・・こうなったら奥の手! あたしは、懐からある物を取り出した。
チリン、というきれいな音色が響き渡った。 「ブイ・・・?」 それを聞いたブイゼルは一瞬、顔を緩めた。 「落ち着いて、ブイゼル・・・あたしの話を聞いて!」 「エイッパ!」 そう、あたしが出したのは、前のタッグバトル大会での優勝商品、『やすらぎのすず』。準優勝だったあたしは直接もらえなかったものだけど、シンジが「必要ない」って言ってサトシに渡したものだから、サトシからあたしがもらっちゃったもの。この音色なら、ブイゼルは落ち着いてくれるはず。そう思って持って来た。 あたしは『やすらぎのすず』を右手に持って前に突き出しながら、ブイゼルにゆっくり近づいていく。 「ブイゼル、あたしはあなたを見捨ててなんかいないよ。ただ、あなたのためを思って交換しただけよ。ブイゼルはあたしには合わないなんて、思ってないわ」 「・・・・・・」 ブイゼルはまだ疑い深い眼をしてるけど、ちゃんと話は聞いている。 「だって・・・」 話を続けようとした時、後ろに突然、何かの気配を感じ取った。振り向くと、そこにはこっちに飛んで来るラティオスの姿が! その瞬間、あたしの背中は何かに思い切り殴られた! 「しまった!!」 「きゃあっ!!」 そんなサトシの声と、あたしの体が弾き飛ばされたのはほとんど同時だった。地面に倒れるあたし。衝撃で体中に痛みが走った。今のは・・・“はがねのつばさ”!? サトシ達が時間を稼いでくれてたんじゃないの!? (奴の言葉に惑わされるな! また奴に利用されるだけだぞ!) そんなラティオスの声が響く。そして、あたしが体を起こすと、ラティオスがもう一度こっちに来るのが見えた。またやられる! 「エイッパァーッ!!」 すると、エイパムが“きあいパンチ”でラティオスにアッパーをお見舞いした! と思ったら、ラティオスは突然、“テレポート”でもしたみたいにスッと姿を消した! エイパムのパンチが空を切る。 「!?」 あたしが驚いてる間に、またあたしの体に衝撃が走った。 「ああっ!!」 今度は横からだった。倒れるあたし。衝撃でまた、体中に痛みが走る。今、確かに姿が消えたよね・・・!? ラティオスって、どんなポケモンなの!? 「くそっ!! 逃がすなピカチュウ、“10まんボルト”!! ヒカリに近づけるな!!」 「ピ〜カ、チュウウウ!!」 「ポッチャマーッ!!」 あたしの体の上を、ピカチュウの電撃とポッチャマの“バブルこうせん”が通り過ぎていく。そうだ、こんな事考えてる場合じゃない。早くブイゼルに、話を続けないと・・・ラティオスに妨害される前に・・・! あたしは、落としていた『やすらぎのすず』を拾って、もう一度立ち上がった。すずのきれいな音色がまた鳴った。 「だって・・・今まで、ここぞって時にブイゼルはいつも頼りになったわ・・・そんなあなたを、あたしが見捨てると思う?」 あたしはやさしく話しかけながら、ゆっくりとブイゼルに近づいていく。ブイゼルの側まであと少し。 「ブ・・・・・・ブイッ!! ブイーッ!!」 ブイゼルは一瞬、あたしの言葉を聞き入れてくれたように表情を緩めた。でも、それをやっぱり受け入れられないのか、まだ怒った顔に戻って、こっちに“ソニックブーム”を撃ってきた! 「ああっ!!」 もろに体に直撃。体中に痛みが走った。のけぞって、思わず膝を突くあたし。まだ、怒ってる。けど、話は確実に伝わってる。意地張ってるだけなのかも。 「っ・・・意地張らないでブイゼル・・・」 あたしは、痛む体をこらえてまた立ち上がって、ゆっくりと歩き出す。そして、ブイゼルのすぐ側まで歩み寄った。 「交換したって、あなたはあたしの大事な『仲間』なんだから・・・」 そう言って、あたしはブイゼルの前でしゃがんで、ブイゼルを優しく抱きしめた。 「ブ・・・・・・!」 そんなあたしの行動に、ブイゼルは何かを感じ取った様子だった。 「ブイイイイイッ!!」 でも、まだ意地を張ってるのか、あたしの腕をほどこうと、あたしの腕の中で暴れ始めた。 「ブイゼル・・・! もう気が済んだでしょ・・・!」 「ブイッ!!」 あたしのそんな声も聞かないで、ブイゼルは左の二の腕に思い切り噛み付いた。 「・・・っ!」 左腕に痛みが走る。やっぱり強い力。普通だったら、思わず腕を放しちゃう所。それでも、あたしはブイゼルを放さなかった。 「ブイゼル・・・サトシのポケモンになったからって、あたしはあなたを見捨てたりなんかしないから・・・だから、一緒に帰ろう・・・ダイジョウブ・・・」 「ブ・・・・・・!」 ギュッと腕に力を込めると、チリンと、すずが鳴った。あたしがそう言うと、ブイゼルは、はっとした様子をして、放心状態になったようにしばらく動かなくなった。この気持ちが、ブイゼルに届きますように・・・! あたしはただ、そう祈った。すると、ブイゼルの噛む力が緩んだのがわかった。そして、ブイゼルはゆっくりと口を二の腕から離した。そして、噛んだ事を謝るように、噛んだ所を優しく舐め始めた。 「ブイゼル・・・!」 わかってくれたんだ・・・! 気持ちが伝わった! あたしは嬉しくなった。 「ヒカリ!! 危ない!!」 そんなサトシの叫び声で、あたしは現実に引き戻された。えっ、と思ったその時、あたしの体はまた強い力に押さえつけられた! 見ると、やっぱりラティオスの“サイコキネシス”だった! (そいつから離れろ!!) そんな声がしたと思うと、あたしはまた、思いっきり投げ飛ばされた! 「きゃあっ!!」 あたしが倒れた場所は、池の岸のすぐ近くだった。もう少し倒れるのが遠くだったら、池に落ちていた所だった。 (これ以上、こいつを惑わせるな・・・!!) ラティオスの気迫の表情に、あたしは背筋に寒気が走った。 「させるか!! 相棒、“ダストシュート”!!」 ゲキさんのベトベトンが、ラティオスに向けて“ダストシュート”を発射! でも、ラティオスはそれを素早くよけた。 (邪魔をするな!!) その声と同時に、ラティオスは“ラスターパージ”をベトベトンに向けて発射した! 直撃! そして爆発! 効果は抜群みたい! その一撃で、ベトベトンは完全にノックアウト。 「ちっ、さすがは幻のポケモン、ここまでよく持った方か・・・!」 唇を噛むゲキさん。 (かくなる上は・・・!!) ラティオスは、また視線をあたしに向けた。あたしはポッチャマを呼ぼうとしてたけど、ラティオスの動きの方が早かった。ラティオスの目が光ったのが見えた。 「ああっ・・・!!」 あたしの体が、また強い力に押さえつけられて、宙に浮いた。そして、思い切り池に向かって投げつけられた! 「きゃあああああっ!!」 「ヒカリ!!」 みんなの声が聞こえてすぐ、あたしの体は池に落ちた。夜の水の中は暗い。あたしは反射的に、息をこらえていた。すぐに浮かぼうとしたけど、まだ“サイコキネシス”が効いていて、体が動かない! 体がどんどん沈んでいく。すると、暗い水の中に、ラティオスの姿が見えた。暗い水の中で、目が不気味に光っていた。 「!!」 (ここで動けなくして、もがき苦しませてやる!!) そんなテレパシーの声が聞こえる。ラティオス、あたしを溺れさせるつもりなの!? そんな事・・・! あたしは体を動かそうとするけど、やっぱり“サイコキネシス”で押さえつけられてるせいで、動かない! 体がどんどん沈んでいく! 息が苦しい・・・! そんな時、ラティオスの側を“バブルこうせん”が通り過ぎたのが見えた。姿はかすかにしか見えないけど、あたしはすぐにわかった。ポッチャマだ! ポッチャマは、あたしの方に真っ直ぐ泳いで来る。そうよ、早くこっちに来て! と、あたしが思ったのもつかの間、ラティオスは“サイコキネシス”を緩めないまま、ポッチャマに向けて“ラスターパージ”を発射した! 直撃! 爆発の衝撃がこっちにも伝わってきて、あたしを押し出していく。ポッチャマはあたしからどんどん遠ざかっていった。そんな・・・! あたしの体が、とうとう池の底に仰向けで付いた。息が前よりどんどん苦しくなってきた・・・! もうそろそろやばい・・・! ポッチャマ、早く来てよ! そんな願いも空しく、ラティオスはポッチャマに攻撃を続ける。攻撃のせいで、ポッチャマはあたしに近づけない! う・・・ぐ・・・もうダメ・・・早く・・・誰でもいいから・・・助けてよ・・・! 水の中だから、そんな事も声に出して叫べない。もうあきらめるしか、ないの・・・? 神様・・・っ! そう思った、その時だった。
何か、水流みたいなものが、ラティオスに直撃した! そのせいで、あたしを押さえつけていた“サイコキネシス”が緩んで、あたしの体がやっと自由になった。誰なの? 暗くてよく見えない・・・ うっ! いけない! もう息が・・・! そう思った時にはもう遅かった。とうとうあたしは息を我慢できなくなって、口を開けちゃった。そして、そのまま気を失っちゃった・・・
バシッ、と誰かに背中を思い切り叩かれた。あたしは、思わず咳き込んだ。目を開けて周りを見るとそこは、いつの間にか池の水面だった。あたしはそこに上を向いて浮いていた。 「ブイ!」 横から聞き慣れた声が聞こえてきたと思って見ると、そこには首の浮き袋を膨らませて、頭を水面から顔を出してるブイゼルの姿が。 「ブイゼル・・・! あなたが、あたしを助けてくれたの?」 「ブイ!」 あたしの質問に、ブイゼルははっきりと答えた。その表情は、さっきまでの出来事が嘘のような、いつも見慣れたブイゼルの表情だった。そんなブイゼルの手引きで、あたしは岸に上がる事ができた。 「ヒカリ! 大丈夫か!?」 みんなが集まって来る。ポッチャマやエイパムの姿も。 「ダイジョウブ。ブイゼルが助けてくれたから。ありがと、ブイゼル」 「ブイ!」 ブイゼルは、いつものように腕を組んで答えた。そんな喜びもつかの間、ラティオスが池の中から勢いよく飛び出してきた! (おのれ・・・!! 何故だ!? 何故裏切られた主の許に戻ったのだ!?) ラティオスの視線がブイゼルに向いた。 「ブイブイ! ブイブイッ、ブイッ!」 ブイゼルが、ラティオスに何か言い返した。 (『俺は勘違いしてた。ヒカリは俺を見捨ててなんか、ない!』だと・・・? 奴隷としての立場にまた戻るとでも言うのか!?) 「それは違うぞ、ラティオス!」 ラティオスの言葉に、ゲキさんが反論する。 「ポケモンバトルというのは、トレーナーとポケモンとの信頼関係があってこそ成り立つものだ。トレーナーを信頼していないポケモンは、トレーナーの言う事は聞いてくれない。ポケモンがトレーナーの指示通りに動いてくれるのも、そのポケモンがトレーナーを信頼しているからだ!」 「そうだ! 確かに、ポケモンを利用しようとする悪い奴らもいるけど、みんなそんな人ばかりじゃない! ポケモントレーナーはみんな、ポケモンを大事にしているんだ!」 ゲキさんの言葉に、サトシも続いた。 (だが、自らのポケモンを交換した事は、その事と矛盾しているぞ!) 「違うわ!」 あたしも、みんなに負けてられない。あたしは、ラティオスに向けて主張した。 「あたし達は、ブイゼルやエイパムの事を思って交換したのよ! それに、交換したって、ブイゼルは『パートナー』に変わりはないわ!」 (『パートナー』に変わりはない、だと・・・) 「そうよ! 確かに、もう一緒にバトルができなくなるけど、あたしはようやくわかった、あたし達は離れ離れになる訳じゃない、だから交換したって、ブイゼルとの思い出は無駄になんかならないって! ブイゼルもエイパムも、ずっとあたしやサトシの『パートナー』なんだから!」 「トレーナーが入れ替わったって、俺達は1つなんだ!」 「エイッパ!」 「ブイ!」 あたし達の声に合わせるように、エイパムがあたしの前に、ブイゼルがサトシの前に出た。エイパムが横目で、あたしを見た。あたしは、もう迷わない。エイパムはサトシとの、ブイゼルはあたしとの絆は、途切れないってわかったから・・・! 「そうよ、エイパムは、あたしだけのポケモンじゃない・・・!」 「そうさ、ブイゼルは、俺だけのポケモンじゃない・・・!」 「だから!!」 最後の言葉が、サトシと合わさった。 (そんな理屈などっ!!) ラティオスが、水しぶきを上げながら、水面をものすごいスピードで飛んで来た! エイパムとブイゼルが身構えた。 「エイパム、“スピードスター”!!」 「エイッパァーッ!!」 あたしは、思い切り声を出した。エイパムは、向かってくるラティオスに向けて“スピードスター”を発射! 飛んで行く星は、集まって1つの大きな星を作り出して、ラティオスの前に立ちはだかった! 「!?」 ラティオスはそれを強引に突き破った。でも、大きな星はまた小さな星にばらけて、ラティオスの周りを飛び散った。それに、ラティオスは目がくらんだのがわかった。あたしの思った通り! 「今よサトシ!!」 「ああ!! ブイゼル、“アクアジェット”だ!!」 「ブゥゥゥゥイッ!!」 その隙は逃さない! ブイゼルが、“アクアジェット”でラティオス目掛けて突撃して行った! 直撃! ラティオスは体勢を崩した。そしてブイゼルはそのまま、池の中に飛び込んだ。体勢を立て直したラティオスは、すかさずブイゼルを追撃する! たちまち、水上バトルが始まった。でも、岸からは遠い。このままじゃエイパムは何もできないけど・・・ 「まずいぞ! あの距離じゃエイパムが攻撃できないぞ!」 「ダイジョウブ!!」 そんなタケシの声に、あたしは自身を持ってそう答えた。あたしには1ついい考えがあったから! 「エイパム、もう1回“スピードスター”!!」 あたしの指示通り、エイパムはもう一度“スピードスター”を発射した! ラティオスに向かって飛んで行く“スピードスター”。でも、それで直接攻撃しようって訳じゃない。 「それを使って、ラティオスに近づくのよ!!」 そう、ゲキさんとのバトルで使ったのと同じ、“スピードスター”を足場にする事を利用してラティオスに近づくって戦法! エイパムの身のこなしなら、これができる! その期待通り、エイパムは“スピードスター”をうまく使って、飛び石のようにラティオスに近づいていく! ブイゼルを追いかけるラティオスの横を取った! 「そこよ!! “きあいパンチ”!!」 もらった! エイパムは尻尾の拳に力を込めて、ラティオスに向かって振った! 不意討ちになると思ったけど、気付かれた! ラティオスは、素早くよけた。 「!?」 当然、落ちる先には池。いけない! 池に落ちちゃったら・・・! 「ブイゼル、“みずでっぽう”でエイパムを助けるんだ!!」 とっさにサトシがリリーフ。ブイゼルがエイパムに向けて“みずでっぽう”を発射! 池に落ちそうになったエイパムの体を打ち上げた! ナイス! よし、もう1回! ラティオスがエイパムをマークしている。これじゃ、さっきのようには行かない。だったら! 「エイパム、“かげぶんしん”!!」 エイパムの体が、いくつにも分裂する。ラティオスを取り囲んだたくさんのエイパムの姿に、ラティオスは戸惑ってる。今だ! 「今よ!! “きあいパンチ”!!」 エイパムがもう1回“きあいパンチ”! たくさんのエイパムの影がする“きあいパンチ”を、ラティオスは見切れない! 影が消えた瞬間、直撃! 弾き飛ばされたラティオスは、池に落ちそうになったけど、何とか体勢を立て直した。エイパムは、ブイゼルの背中にうまく着地した。 「やるじゃないか、エイパムで『空中戦』をするとは・・・」 ゲキさんが、そんな事をつぶやいた。 そんな時、体勢を立て直したラティオスの姿が急に溶け込むように消えた。 「消えた!?」 やっぱり、ラティオスは姿を消せるんだ! こうなったら、どこから来るかわからない。居場所を見つけられたらいいんだけど・・・! 「ブイゼル、水面に向かって“ソニックブーム”だ!!」 その答えを出したのはサトシだった。ブイゼルはエイパムを乗せたまま水面を飛び上がった。そして、“ソニックブーム”を真下に発射! 水面に当たって、水しぶきが飛ぶ。その影に、ラティオスの姿が映った! 「ヒカリ!!」 「今ね!!」 そんなサトシの指示を待っていたように、エイパムは前に飛び出した。あたしは、サトシのしたい事がすぐにわかった。2匹で同時攻撃をかけるんだ! 「ブイゼル、“アクアジェット”!!」 「エイパム、“きあいパンチ”!!」 「ブィィィィィッ!!」 「エイッパァーッ!!」 ブイゼルは“アクアジェット”、エイパムは“きあいパンチ”で影に飛び込む! 直撃! 姿を隠していたラティオスが姿を見せた。弾き飛ばされたのが見えた。2匹の同時攻撃は手応え充分! あたしが喜んでいた時、エイパムはまたブイゼルの背中に着地した。 「やった!!」 (おのれ・・・この程度で・・・!!) でも、ラティオスにはまだ決定打は与えられていない。ラティオスはブイゼルとエイパムに向けて“ラスターパージ”を発射した! 直撃は免れたけど、ブイゼルは体勢を崩しちゃって、エイパムもろとも池に投げ飛ばされた! 「エイパム!!」 「ブイゼル!!」 あたし達は、思わず声を上げた。ブイゼルは池に落ちたエイパムを助けて、何とか岸に戻ってきた。ラティオスはまだ来いと言ってるかのように、こっちをにらんでいる。そして、こっちに勢いよく飛んで来る! こうなったら・・・! 「エイパム!! ブイゼル!!」 あたしは、2匹に呼びかけた。エイパムも、ブイゼルも、あたしに顔を向けてコクンとうなずいた。 「エイパム、“きあいパンチ”でブイゼルを思いっ切りラティオスに向けて吹っ飛ばしちゃって!!」 「ヒカリ!?」 その指示に、みんなが驚いた。みんなは、あたしが何をしようとしているのかわからなかったみたい。確かに、ちょっと無茶かもしれないけど、やるしかない! 「ブイ!!」 ブイゼルは、いつでも来いって言ってるように、身構えた。 「ヒカリ、どうするつもりなんだ?」 サトシが、あたしに聞いた。 「エイパムがブイゼルを吹っ飛ばしたら、“アクアジェット”の指示して!」 あたしは、考えた作戦をサトシに話した。 「・・・そうか! わかった!」 「エイエイエイエイエイ・・・!!」 その間、エイパムは、尻尾を振り回して拳に勢いをつける。そして・・・! 「パアアアアアアッ!!」 エイパムは思い切りブイゼルに“きあいパンチ”でブイゼルを思いっ切り殴って吹っ飛ばした! こっちに向かってくるラティオスに向けて、勢いよく飛んで行くブイゼル。 「行け、ブイゼル!! “アクアジェット”!!」 サトシの声に答えて、ブイゼルは体に水を纏った! でも、それだけじゃない。 「ブゥゥゥゥイッ!!」 ブイゼルは、自分から体にスピンをかけた! その姿は、水でつくられたドリルのようだった。 「ブイゼル・・・!?」 あたしは、それに驚いた。これで、パワーが上がるだけじゃない。見ただけで、あたしがブイゼルで見せたかった『力強さ』が伝わってきたんだから! 確かに、ブイゼルは自分からバトルの戦術を考える事はあったけど、これは明らかにコンテストの『魅せ方』から考えてる・・・やっぱり、今までのコンテストの練習は無駄にならなかったんだ! ラティオスが気付いた時にはもう手遅れ。水のドリルとなったブイゼルが、ラティオスに正面からぶつかった! 吹っ飛ばされた勢いも加わって、ラティオスを押し返していく! 水のドリルは、その勢いを緩めないままラティオスを斜め上へ打ち上げた! ラティオスが悲鳴を上げる。そして、池へドボンと水しぶきを上げて落ちた! 「やったあ!!」 勝った! あたしは、思わず声を上げた。ブイゼルが、こっちに戻って来た。 「よくやったぞブイゼル!! エイパムもよくやったぞ!!」 「ブイ!!」 「エイッパ!!」 サトシも、2匹を喜びの顔で褒めた。 「・・・やったのか?」 ゲキさんとタケシは、まだ顔から緊張が取れていなかった。すると、ラティオスが落ちた場所から、少しだけ泡が出たと思うと、いきなりザバンとものすごい水しぶきが上がった! 「!!」 見ると、そこにはまだピンピンしてるラティオスが! こっちをにらんでる! 「そんな・・・!? まだやられてなかったの!?」 「くそっ、まだやる気か!!」 あたし達の背筋に、また緊張が走る。エイパムとブイゼルも、身構えてラティオスをにらむ。そんな一触即発のにらみ合いが続いて、少し経った時だった。 (・・・フッ、見事だ) ラティオスが、目を閉じて少し顔を下げた。その言葉に、みんなは少し驚いた。 (君達の絆は、確かに本物のようだ。完全に僕の負けだよ) 「ラティオス・・・!」 ラティオスもわかってくれたんだ・・・ちょっと嬉しくなった。 (僕は少し勘違いをしていたよ。人間はポケモンを『奴隷』としてこき使ってるなんて、バカな話だと確信したよ。人間というのは、いい生き物なんだな) 「そりゃ、どうも・・・」 サトシが、ちょっと照れた表情をして、頭をかいた。 (これからも、そのポケモン達を大事にしていくんだ。だが、もしポケモンをひどい目にあわせるような事があったら、その時はただじゃ済まないぞ・・・!) 「ダイジョウブ!」 あたしは、自身を持ってそう答えた。 (その答え、本物と受け取った。さらばだ、人間達よ!) ラティオスはそう言って、あたし達に背を向けて、飛び去って行った。途中で、姿が夜空に溶け込むように消えて、完全に姿が見えなくなった。 「よかったな、ラティオスもわかってくれて・・・」 サトシが、そんな事をつぶやいた。 「ええ」 あたしも、その言葉に相槌をした。 「それにしてもよかったじゃないか、あのバトル。ヒカリもサトシも、エイパムとブイゼルの能力を上手く引き出してたじゃないか」 タケシが、間に入ってきた。 「ああ。俺もお似合いだと思うぞ、このコンビは」 ゲキさんも笑みを見せた。 「そうね・・・」 あたしは、改めてブイゼルに顔を向けた。ブイゼルに一言言っておこうと思って、あたしはブイゼルの前でしゃがんだ。 「ブイゼル、とてもよかったよ、さっきのバトル。これなら、サトシと一緒でもがんばれるはずよ。あたしとは何も成し遂げられなかったけど、他のみんなと一緒に、サトシをシンオウリーグに連れてってあげて。あたしも応援してるから!」 「ブイ!」 ブイゼルは、はっきりとうなずいた。 「エイパム、改めてヒカリをよろしくな!」 「エイッパ!」 サトシもエイパムにそう一言言って、エイパムははっきりとうなずいた。そして、エイパムは立ち上がったあたしの背中に昇ってきた。あたしは、サトシの方に体を向き直した。サトシも、こっちに体を向き直す。 「サトシ、改めて言うけど、ブイゼルをお願いね!」 「ああ、そっちもエイパムを頼むぜ!」 あたし達は、はっきりとそう言葉を交換し合った。これで、ようやくエイパムがあたしのちゃんとしたポケモンになれたと、確信した。 「これで、今度こそ交換成立って訳だな」 タケシが笑みを浮かべてつぶやいた。 「さあ、交換成立した所で、俺達も戻ろう。交換した2匹の歓迎会と行こうじゃないか!」 ゲキさんが、そんな提案をした。 「いいわねそれ!」 「そういえば、まだ飯食ってなかったよな〜!」 あたし達は、思わず笑みを浮かべた。そして、早速あたし達は元来た道を戻って行った。
* * *
交換して『親』が変わっても、交換したポケモンとはずっと『パートナー』。『ポケモンとの絆を大事にする町』オーブタウンで、あたしはそれを確かめる事ができた。 そして、あたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く・・・・・・
STORY06:THE END
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