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(794) 夢現 〜はじまり〜 投稿者:キャメロン大佐

第一巻 出会い

ザーザー。
一人の少年に、雨が激しく打ち付けていた。
(くっそぉ〜。ゲームの攻略法聞いてたら、こんな時間になっちまった・・・。)
時計を見てみると午後12時を指し示していた。しかたないと、彼は細い路地へと入って行った。
と、その時、すさまじい勢いで黄色の球体が飛んできた。
「ぬ!?」
彼はとっさに、ブリッチの体形をとった。(その時にゴキュッという、にぶい音がしたとは言うまでもない)
腰をさすりながら目を細めてよく見ると、こちらに小さな子供が走ってきた。
「おぬし、何をしている!!ここは危ない!!」
よくは見えないが、かなり怪我をしているようだった。
「何言ってる!!おまえ、子供だろ!!」
その瞬間、また黄色の球体が飛んできた。
「とにかく逃げるぞ!!」
彼はその子をかついで家まで全速力で走った。
家には、たまたま誰もいなかった。改めて、その子を見ると怪我がすっかり消えていた。髪は深い青色で、ぼさぼさだ。だいたい小1ぐらいの身長だろうか。
「おぬし、名は何と申す?」
いきなり、問いかけてきた。
「俺?俺は鬼道。鬼道 霧円だ。」
「拙者はキガルという者だ。霧殿、おぬしは命の恩人だ。どうか主君(パートナー)になってもらえないだろううか。」
馬鹿な霧円は、言っていることの半分もわかっていなかったが、とにかく「いいよ。」といっておいた。



 



第二巻 驚き×驚き

「ところで霧殿。さっきの攻撃、まともに受けていたが大丈夫か?」
霧円は、ゆっくりと体を動かしながらいった。
「異常なし!」
ボーン。午前1時の鐘が鳴った。
「それより、今日はもうおそいからさっさと寝よう。」
階段をあがっている時、ふと霧円は思った。
(こんなにおそい時間なのに、誰もいない。おかしいな。)
そして、自分の部屋のドアノブをまわし、開けた瞬間、パーンというクラッカーの音がした。
「誕生日おめでとう!!」
そこに、父さんと母さんがいた。
「父さん、母さん。俺の誕生日は明日だよ。」
そんなことは気にもとめず、真ん中の椅子にむりやり座らされた。
「いいの、いいの。今日は前夜祭!!」
「でも、もう夜中だよ。」
といったか、いわなかった時にはもう熟睡していた。

気がつくと、布団の中で寝ていた。
(誰かがかけてくれたのかな・・・。)
と、寝ぼけ頭で考えていたとき、キガルのことを思い出した。
「は!!キガルはどこだ!!」
急いで下に降りると、そこに、楽しそうにトランプをやっているキガルと母さんがいた。
「母上殿、これでおわりじゃ〜!!」
「あ〜、また負けちゃった。強いのねキガルちゃん!」
霧円は、ちょっと考えてからいった。
「その子、どうしたの。」
母さんはちょっとびっくりしながらいった。
「あっ、起きてたの!?キガルちゃんがね、玄関で寝てたから起こしたらね、『霧円は?』っていっていたから遊んで待っていたのよ。」
霧円は、必死でうそを考え、こう言い放った。
「そいつはな、え〜と、友達からもらった新型ロボットなんだ!!」
「なにをいっておる。拙者はれっきとした・・・。」
霧円はキガルの口を塞いだ。
「ロボットなんだよな〜!!」
母さんは、一瞬あやしい顔をしたがすぐに
「どうりで頭がいいわけね!!」
と納得した。
(単純な母さんでよっかった。)霧円は心から、胸をなでおろした。
「ところで、父さんは?」
母さんは台所で洗物をしながらいった。
「なにいってるの。もう会社よ。」
あ、そうかと思っていたその時、
「ぬぁ〜!!拙者の本がない!!」
キガルがいきなり騒ぎだした。
(本?いったいなんのことだ??)




第三巻 なくしもの

「おい、キガル!本ってなんのことだよ!」
「いや〜、拙者もよく知らんのだが、なんでも命にかかわるとか・・・。」
そういうと、キガルは玄関へとむかっていった。
「どこいくんだ?」
ときくと、
「昨日通った道を探してくる。」
と答えた。
「待てよ。俺もついていく。」
その日の午前中、ずっと探していたがその本はとうとう見つからなかった。
「元気出せよキガル。そのうち見つかるって!」
あいからわず、キガルは下をむいたままだ。
「そうだ!!明日、部活があるから一緒に行こうぜ!!」
キガルがやっと顔をあげた。
「ブカツ?」
「ああ。部員は俺を含めて二人だし、顧問もめったに来ないから、大丈夫だぜ!」
(それに、キガルの好きそうなものがたくさんあるし・・・。)
「おぉ!!とても楽しそうではないか!!明日、絶対だぞ!」
ひとまずは一件落着かと思いながら、霧円は眠りについた。
ひそかにせまる、影にもきずかずに・・・。



第四巻 魔物

キガルをむりやりバッグに押し込み、霧円は学校へと向かった。
「い、息苦しいぃぃ〜!!」
バッグの中で、キガルがジタバタしだした。
「もう少しの辛抱だ。がまんしろ。」
階段を上り、ある部屋に入った。
「よ〜し。もういいぞ。」
キガルが、バッグから顔を出した。
「ぬほおぉぉ〜!!」
そこには、たくさんの武器や巻物が置いてあった。
「名付けて、『日本文化研究会』だぁ!!」
キガルはすでに、バッグを抜け出していた。
「これ全部、本物なのか?」
「んなわけねぇ〜だろ!!ほとんどが複製だ!!」
キガルは近くにあった日本刀を、ぶんぶん振り回しながらいった。
「ほとんどとゆうことは、本物もあるのだな!?」
霧円は、キガルから日本刀を取り上げてからいった。
「まぁそれは置いといて、どうだ、弓矢やってみないか?」
キガルに一番小さい弓を持たせると、奥から的を持ってきた。
「こうゆう風に構えて、ぱっと離すんだ。」
霧円の矢が、ヒュンといって真ん中にくっついた。
「先がきゅうばんだから、子供でもたぶん大丈夫だよ。」
キガルはゆっくり構えてから、矢を放った。ヒュン、ペタッ。見事、真ん中にくっついていた。
「す、すごっ!!おまえ、本当にロボットなんちゃうか?」
キーン、コーン、カーン、コーン。
「おっと、部活終了時間だ。さぁ、帰るか。」
霧円は重そうなバッグをさげながら歩いていた。
「霧殿!拙者、部活が大好きになったぞ!!」
「あい、あい。」
そのとき、ちょうど人とすれちがった。
「ちょっとそこの人!!」
すれちがった瞬間、いきなり呼びかけてきた。
「はい!?俺??」
よく見ると、そいつもキガルと同じような子供と一緒にいた。
「そう、君だ。君、魔物を持っているだろう。つぶさせてもらうよ!!」
背中に、キガルが震えている振動が伝わってきた。
(いったい、これはどうゆうことなんだ・・・。)



第五巻 最悪の敵

「おいっ、キガル!どうゆうことなんだよ!!」
いきなりの出来事で、混乱した霧円はキガルに呼びかけた。
「拙者にもよくわからんのだ。」
そういうと、キガルはバッグから飛び出した。
「ただ、奴と拙者は同じ者同士のような気がする・・・。」
(同じ者同士ということは・・・は!!)
「キガル。たしか、本が命にかかわるとか言ったよな。」
「あぁ。」
霧円は、敵の手元を指差した。
「つまり、あの本をなんとかすればいいんだな。」
その時、敵が動き始めた。
「おらぁ、おらぁ。そろそろいくぜぇ〜!!」
霧円は敵にむかって走り出した。
「キガル!俺が奴の本を投げ飛ばすから、それを持って逃げろ!」
敵はちょっと驚いたらしく、動きを止めた。
「お!人間の方から来るとは珍しい。お手並み拝見!!」
霧円は、本に拳を突き出した。
「くらえぇ!!」
敵はひらりとよけ、子供を霧円にむけて投げ飛ばした。
「グレイズ・マウル!」
子供の口から、矢印の形をした青い物が飛び出した。霧円は、かなり無理をしてよけたが、よけきれずに当たってしまった。だが、何の変化もない。
「どんなネタがあるのかは知らねぇーが、どうやら失敗したみたいだな。」
今度は蹴りを入れようとしたが、子供が前に立ちはだかった。
「グレイズ・ダヂル!」
また、口から矢印が出た。色は赤色だった。
「そんなことしても、無駄・・・!」
急に自分が浮いているような感覚におちいった。
「フフフ。やっと気付いたか。今、おまえの五感の内、二感をつぶさせてもらった。」
「なに!?」
敵は笑いながら言った。
「こいう道具があると、便利だよなぁ〜!」
ブチッ。頭の中で、そんな音がしたような気がした。
「さぁ、次は2発いっぺんにいくぜ!!」
霧円の頬に汗が流れる。
(くっそぉ〜。体が思うように、動かねぇ。)
「グレイズ・アイル!グレイズ・ノズル!!」
視界が真っ暗になった。においもしない。敵の荒い息づかいが、近くから聞こえる。
「だいぶ、心の力を消費しちまった。これで、終わりにする。」
ザッ、ザッという足音が聞こえてきた。
(キガル・・・。)
「グレイズ・イヤル!!」
霧円は、完全に孤独となった。
そんな時、心の底から声が聞こえてきた。
「霧殿!霧殿!!」
「キガ・・・ル。」
目を開くと、目の前に青い人影が二つあった。片方の人は色の濃い四角い物を持っている。これでもか!と思うほどめいいっぱいの力を込めて、その四角い物を蹴り上げた。空中にほうり出された四角の物体を、赤い矢のようなものが突き抜けた。
その瞬間、すべてがもとどうりとなった。最後に、赤く燃える本と、消えていく子供の姿を見てから気を失った。



第六巻 新たな友情

目が覚めると、病院にいた。(もちろん、学校は休んだ。)
なんでも、路上で寝ているところを発見されたそうだ。
「なぁ、キガル。俺が五感をつぶされたとき、どうなったんだ?」
キガルは、ベットの上に座ると(こいつはまったくの無傷だった)話し始めた。
「霧殿が敵にむっかって走り出したとき、『ギガルガ!!』とゆう声がしてな、拙者の手元に不思議な形をした弓矢が現れたのだ。拙者はそれを構えて、霧殿が本を投げ飛ばすの待っていたのだ。その瞬間に霧殿が倒れて動かなくなったのでな、こりゃまずいと思うて、霧殿と叫んだのだ。それを合図かのように、霧殿が急に立ち上がって敵の本を蹴り上げたので、矢を打ち放ったというわけだ。」
「それで、その後は?」
そういった瞬間に、となりのベッドのカーテンが勢いよく開いた。
「その後のことは、俺が話そう。」
この前戦った敵が、そこにいた。
「だぁ〜!!なんでおまえがここにいる!!」
「おいおい、それはないだろ。せっかくここまで連れて来てやったんだから。」
どうやら、救急車を呼んだのはこの男らしい。
「それよりも、まずは自己紹介だ。」
「俺は稲田 源。よろしく!」
そういって、手を差し出した。すると、キガルはとなりのベットに飛び移り、手を握った。
「拙者はキガル!こちらこそ、なのだ!」
(おいおい。元敵と、仲良くなっていいのか!?)



第七巻 術の力

「ぬぁ〜!?おぬしは!!」
キガルはベッドから、転げ落ちた。
「どうしたんだ、キガル。」
すると、ベッドの後ろから倒したはずの子供が出てきた。
「なぁ!?おまえ、たしか消えたんじゃ・・・。」
「おまえではない。僕はラズだ。」
キガルが、急に背後をドンっと蹴った。
「敵だ!!霧殿、戦うぞ!!」
ベッドから蹴り飛ばされた霧円は、まだ足が治ってないのにもかかわらず、立ち上がった。(もちろん、ゴキッという音もした。)
「ぎゃああぁぁ!!」
霧円は叫び、そして倒れた。
「は!!おぬしら、今度は何をした!!」
キガルは、ビッと相手を指差した。
「いや・・・、俺達はなにもしていない。」
その時、キガルの体がフワッと浮かんだ。
「キガル!!おまえはどっかに行ってろ!!」
キガルは窓の外へ、ほうり出された。
「で、稲田さんだっけな、なんの用だ?」
稲田は、一冊の本を渡した。その本は、真ん中に大きな穴が開いていた。
「それは、俺の術で魔本と見せたてるために使ったものだ。」
(うん?ハ○ー・ポッ○ー。この題名どこかでみたような・・・。)
「って、あぁぁぁ!!これ、俺の本じゃん!!」
「そんなことはどうでもいい。問題はその穴だ。」
稲田はそう言うと、カーテンを開いた。太陽の光が部屋中に広がる。すると、また本が燃え出したのだ。
「やめろぉぉ!!1900円もした本を、これ以上傷つけるな!!」
稲田は、カーテンを閉めながら言った。
「どうやら、おまえの術は『天気』に関係するらしい。
「は?天気?術??」
馬鹿な霧円は、まったく理解できなかった。



第八巻 頼み事

稲田は両手を顔の前で合わせた。
「そこでおまえに頼みがある。」
すこし間を置いてから、ズバッと稲田が言った。
「仲間になってくれ!!」
急に言われたので霧円はびっくりしたが、すぐに
「別にいいよ。」
と答えた。
「よしっ、これで決まり!!来週の日曜日に、ここの入り口に集合な。」
そういうと、稲田は出て行った。霧円は、ボーっと窓の外を見ていた。
(案外階が高いんだな、この病院。そういやキガルを見かけないな・・・。)
そして霧円は思い出すのだった。キガルを窓から放り投げたことを。霧円はおそる、おそる下を見た。赤い物体が、チラッと見えた。その時だった。ドアをノックする音が聞こえた。
「ど、どうぞ。」
入ってきたのは、頭から血を流したキガルだった。
(ヒィィィ!!)
「霧、殿。き、金髪の少年からもらったのだ。」
キガルからそれを受け取ると、まじまじと見た。ポッキーの箱に、割り箸を4本つけた単純な人形だった。よく見ると、『バルカン300』と書かれてある。
「はは。いいもんもらったな・・・。」
バルカンを返すと、霧円は目を見開いた。なんと、噴出すようにして流れていた血が止まっているのだ。
(やはりこいつは、魔物なのだろうか。)
霧円は、とにかく寝ることにした。あまりにもいろいろなことがありすぎたので、霧円の思考回路がショートしたのだ。ゆっくりとまぶたをつむり、夢の世界へと旅立って行った。



第九巻 特訓

『敵魔物打倒キガル強化新技獲得訓練』は、霧円の一言によって始まった。病院から脱出すると、毎日部活にかよった。(もちろんキガルを連れて。)
ひと〜つ。日本刀レプリカを磨くべし!
「のぁ〜!!キガル、そんなめいいっぱい磨くなぁ〜!」
「霧殿、折れたぞ!!」
ふた〜つ。巻物を整理すべし!
「バルカン、焚き火をしようぞ!」
「だぁ〜!!巻物を燃やすなぁ!!」
みぃ〜つ。座禅を組むべし!
「ぬぉ〜!!バルカンを燃やすなぁ〜!!」
「動くなぁ〜!!!」
バシィ!!
ついに、二人は体力を失った。
「はぁ、はぁ。もう限界・・・。」
「せ、拙者も・・・。」
その時、部室のドアが勢い良く開いた。
「ちぃーっす!」
「おぉ!武野!!久しぶり!!!」
武野は、唯一の部員である。
「あ!部チョー!!」
「ちょうど良かった!ちょっと手伝ってくれ!」
こうして、地獄の『敵魔物打倒キガル強化新技獲得訓練』は続いた。

追伸 家に帰った3人は、瀕死の状態だったとゆう



第十巻 番外編〜登場人物達の秘密〜

第十巻を記念して、番外編を作りました!!

一、登場人物ぷろふぃーる
   
名前 鬼道 霧円(きどう むえん)
年齢 十三歳
身長 145センチ
趣味 弓矢(自己流)
性格 のんびりや
夢  サラリーマン

名前 キガル
年齢 八歳ぐらい
身長 111センチ
趣味 バルカン投げ
性格 喜怒哀楽が激しい
夢  喜怒哀楽の激しい王様
本の色 ?

名前 稲田 源(いなだ げん)
年齢 十四歳
身長 170センチ
趣味 プラモ製作
性格 ほがらかで、元気
夢  プラモ専門店を開くこと

名前 ラズ
年齢 10歳ぐらい
身長 130センチ
趣味 散歩
性格 白黒はっきりしている
夢  稲田と一緒に店を開くこと
本の色 赤紫

名前 武野 和樹(ぶの かずき)
年齢 十三歳
身長 147センチ
趣味 小説(読み書きどっちも)
性格 いつも、幽体離脱をしている
夢  不明

二、魔界にいたころは・・・

キガル
拙者はよう覚えとらんのだ。たしか、鍛冶屋だったかのう。

ラズ
僕の父さんは、建築士。母さんは、家事をしている。僕には友達がいてね、ケルベルクというんだ。あいつ、どうしてるかな〜。

三、質問コーナー

Q霧円は、キガルからどう呼ばれているのですか?
Aキ)霧殿(きりどの)と呼んでいるぞ!!

Q稲田は、ラズとどうやって会ったんですか?
A稲)中学の帰りに会ったんだ。あ〜、思い出せば・・・。
 霧)はいはい。わかったよ!!

Qキガルとラズは知り合いなのですか?
Aラ)まったくの無関係だ。

Qキガルの魔本の持ち主は、どこにいるんですか?
A霧)まったくわからん。

Q第二巻以来、霧円の父さんを見かけません。いったいどこへ?
A霧)父さんは、単身赴任なんだ。どこにいるかは聞かないでくれ。

四、作者の失敗

実は、キガルの名前はギガルの予定だったのに書き込む際にミスして、キガルになってしまったんですよ。(これからは気おつけなくては・・・)では、ここら辺で終わりにします。




第十一巻 いざ、戦場へ

ついに、稲田との約束の日がやってきた。(霧円達は、『敵魔物打倒キガル強化新技獲得訓練』のおかげでかなり強くなった・・・と思いたい。)行ってみると、すでに稲田達が待っていた。
「おいおい。いきなり5分遅れだぞ。」
稲田が、腕組をしながら言った。
「そっちの方が、早いだけだよ。」
こうして、霧円達は出発した。目指す場所は、駅から30分の場所にあるそうだ。その電車の中でのこと。
「そもそも、なにが理由でそいつらと戦うんだ?」
「いや、なんでも子供を使って金をかつあげする奴がいるらしんだ。そして、子供といったら魔物しかいないだろう。」
そういうと、稲田は魔本を取り出して術をチェックしはじめた。
「ふぅん。とゆうか、なぜ俺を誘う?」
「一人より、二人のほうがいいだろ。」
そんなことをしゃべっているうちに、キガルたちはバルカン投げをはじめた。
「ゆくぞ、ラズ殿!トルネードバルカンクラッシュ!!」
バルカンが回転しながら飛んでいった。だが、バルカンはラズの手元には行かず、霧円の頭に見事命中した。
「だぁ〜!!てめぇら、いいかげんにしろぉー!!!」
そんなこんなでやっと目的地に到着した。さっそく、敵のよくいる場所(稲田がいうには)に向かった。
「稲田。おまえちゃんと調べたんだよな。」
「あ、ああ。」
びっくりしたことに、そこに敵はいた。しかも、かつあげのまっさいちゅうだ。
「よし。ゆっくり近ずいて、背後から攻撃だ。」
霧円がそういった瞬間にもう、キガルは飛び出していた。
「やぁ、やぁ、我こそはキガル!!かつあげとは上等だぁ!!」
(あぁ。いきなり作戦失敗かよ・・・。)
皆、開いた口がふさがらなかった。



第十二巻 術の脅威

「なんだ?」
敵はぐるっと振り向いた。
「ちょっといいか霧円。」
稲田が肩をぽんぽんとたたいた。
「なんだよ。」
「奴にはちゃんと中田とゆう名前があるから、敵と呼ぶな。」
霧円は頷いた。
「わかった。それよりどうやって戦う?」
「は?おまえ、魔本を使って術を発動させればいいだけじゃないか。」
そういうと、稲田は魔本を取り出した。
「俺、その『マホン』とかゆうの持ってないんだけど・・・。」
「なにぃぃぃぃ!?」
稲田は少し考えた後、奇跡を信じて霧円を敵のところへむかわせた。
「霧円、おまえはおとりになれ。すきをねらって、俺が攻撃する。」
霧円は、キガルと合流した。そして中田をにらみながらいった。
「おまえ、かつあげしてるんだってな。」
中田は、しっかりとこっちをみすえた。子供の方は、キガルより少し身長が高い。
「それがどうしたってんだよ。」
「俺と勝負しろ!」
霧円とキガルは、一歩前に踏み出た。
「フフ、勝負か。久しぶりだなぁ!!」
中田は不敵な笑みを浮かべている。霧円は、弓を構えた。
「キガル、おまえも弓が手に入りしだいすぐに攻撃しろ。」
霧円の手から矢が放たれた。ねらうはもちろん魔本だ。しかし、それは中田の呪文によって跳ね返された。
「ゼンデム・ドラガ。」
中田達の周りを扉が囲む。全部で7つある。
「ラギ・ゼンデム。」
扉が円形に並び、グルグル回り始めた。
(いったい、どんな術が!?)
霧円の頬を汗が流れた。



第十三巻 魔界

ぐるぐると回っていた扉が、ピタリと止まった。そして、目の前の扉がゆっくりと開いた。その瞬間、扉の中から何百本もの槍が飛んできた。
「いかん!キガル、横に動け!!」
霧円とキガルはなんとかよけた。
(くそぉ〜、なんなんだあの扉は?)
そんなことを思っているうちに、次の扉が開く。今度は、剣が飛んできた。霧円たちは下にふせ、避けた。
「しぶとい野郎だな。次は三枚いっぺんにいくぜ!!」
中田がそういうと、それが合図かのように三枚の扉が真正面で止まった。
「オープン!!」
扉の中から、矢、爆弾、弾がいっきに襲って来た。
(くっ。キガルだけでも・・・。)
霧円は、キガルを自分の背後に移動させた。武具がもうそこまでせまってきている。
(ここまでか!?)
その時、「グラビス!」とゆう声ががした。いつのまにか、目の前に一人の子供がいた。ものすごい勢いで、武具をはらいのけている。しかも、まったくの無傷だ。
「ラズ!?」
「情けないないぞ、霧円!!」
中田はラズを見て少し驚いた後、こう叫んだ。
「稲田、まさかおまえがいるとはな!!」
すると、稲田が出てきた。
「久しぶりだな。今日は、けじめをつけにきた。」
「そうかい、そうかい。じゃあ、邪魔者には消えてもらおう!」
稲田は少しあせった。
「いや、そんなことしなく・・・。」
「ラゴウ・ゼンダルム!!」
すると、一つの扉がゆっくりと開いた。そして、ものすごい速さで霧円たちは吸い込まれていった。

目が覚めると、草原にねっころがっていた。
「ん?ここは・・・。」
すでに起きていたキガルが、目を見開いていた。
「どうしたんだ、キガル?」
「霧殿。ここに拙者は来たことがある。」
キガルは、近くにあった花をじっと見つめていた。
「ここは・・・魔界だ。」



第十四巻 帰還

「な、なんだとぉ!?」
(とゆうことは、この前に見た映画みたいに魔界に飛ばされたのか!?)
霧円は必死で考えた。
(ここにいられる時間はたしか24時間なはず。いったいどうやって観光する!?)
キガルが霧円の服を引っ張った。
「き、霧殿。せ、拙者は家族にもう一度会ってみたいのだが・・・。」
キガルはかなり興奮しているようだった。
「あぁ。それがいいな。」
(その後、ゆっくりと観光を・・・。)
霧円の顔が自然とにやけてきた。二人は、ゆっくりと町へ歩いっていった。そして、キガルの実家は意外と早く見つかった。
「ここかぁ。」
(立派な家だなぁ〜。)
しばらく見とれていると、待ちきれなくなったキガルが先に入って行った。ちょうどその時、ぽんぽんと肩をたたかれた。
「は、はい!?なんですか?」
そこにいたのは、深い青色の髪をした長身の若者だった。
「君も、魔本を焼かれたのかい?」
「は、はぁ?」
霧円は意味がさっぱりわからず、適当に答えた。すると、彼は一つの飴玉を差し出した。
「この飴が、君にいい友達を作ってくれるよ。」
「あ、ありがとうございます!?」
霧円は、一応もらっておいた。そしてドアを開け、向こう側に足を踏み入れた瞬間に、人間界に戻ってきていた。もう、真っ暗だ。
「よぉ!遅いじゃねぇーか!!」
そこには、傷ついた稲田とラズがいた。
「あれ?」
霧円の思考回路から、けむりが出てきた。
「中田は逃げた。とゆうか、見逃してもらった。」
そういうと、稲田はゆっくりと歩き始めた。
「今日は解散!俺はもうくたくただ。」
四人は、それぞれの場所へと帰っていった。(もちろん、親に怒られた。)
霧円はさっさとベッドに入り、物思いにふけっていた。
(帰ってきた・・・。それよりもあの人、キガルによく似ていたな。父親だったのだろうか。)
霧円は、ゆっくりと眠りについた。
新たなる戦いに向けて、深く考えながらも・・・。



第十五巻 飴玉

ふと目覚めると、霧円は電車の中にいた。隣にはキガルが座っている。
「あ〜、キガル。今日、なんかあったけ?」
キガルは、自分のバッグからバルカンを取り出しながら答えた。
「何を言っておる。この前、二人で遠足に行く約束をしたではないか!」
霧円は少し疑問に思いながらも、窓の風景を楽しんでいた。その時、ズキッとのどが痛んだ。どうやら風邪らしい。
「キガル、のど飴持ってないか?」
すると、キガルは一個の飴玉を差し出した。
「これならあるのだ。」
「お、ありがとう。」
霧円は、飴をなめながら聞いた。
「これ、どこにあったんだ?」
「うん?これは霧円の机の上にあったのだ。」
霧円は、急いで吐き出そうとしたが遅かった。口の中の飴はもう、完全に溶けてしまっていたのだ。
(魔界の食べ物を人間が口にしたら、絶対なにか起こるはずだ。)
霧円はキガルに、「どこか変わったところはないか?」と聞こうとしたのだが、声が出ず、そのかわりに電撃が出た。
(な、なにぃ!?)
何度しゃべろうとしても、電撃しか出てこない。霧円は声にならない声で、叫んだ。

「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
頬を、大量の汗が流れる。時計を見ると、午前5時32分41秒だった。
(なんだ、夢か・・・。)
おそるおそる、机の上を見ると飴玉がのっかっていた。霧円は着替え、さっさと下に降りていった。
「あら、最近早起きねぇ〜。」
すでに、母さんは起きていた。
「まぁね。」
霧円は、ご飯を流し込むと上に上がった。部屋の中でキガルがバルカン投げをしていた。
「プラネットファイヤァバルカン〜!!」
霧円は、顔面に向けて飛んでくるバルカンを払いのけると、飴をつかんだ。
「キガル。おまえ、この飴知って・・・。」
よく見ると、中身がなくなっていた。そして、キガルの口元が妙に動いている。
「おまえ・・・、食ったんか・・・。」
「おう!けっこう美味だったぞ!!」
霧円は、キガルを色々と調べたが特に変化はなかった。
(な〜んだ。ただの飴だったのか。)
「き、霧円!バルカンが!」
よく見ると、バルカンの口から煙が出ている。
「いかん!!」
霧円は、バルカンを外に投げた。バルカンは、なおも煙を上げている。すると、だんだん煙がある形になってきたのだ。
「こ、これは!?」



第十六巻 召喚

煙が、だんだん龍の形になってきたのだ。そして、ゆっくりと目を開いた。その目は赤く、数々の戦いを見てきたような落ち着いた目だった。
「おぬしはいったい何者だ!!」
キガルが叫ぶ。龍がこちらを向く。
「MEは、YOUの守護霊だ。」
(なんだ、このDJ口調は・・・。)
「YOUの食べた飴は、守護霊を実体化させる力があるのだ。」
すると、龍はバルカンを拾い上げた。
「YOUが『バルカン』と言えば、MEはいつでも召喚されるYO。」
そういうと、キガルにバルカンを渡した。
「ちなみに、一日30分しか実体化できないから・・・。」
そう言った龍は、バルカンの中に戻っていった。
「あと、MEの名は『黒煙龍』だYO。」
そして、完全に消えた。
(何だったんだ・・・。)
「霧殿、ちょっと見てくれ!」
そういって、キガルがバルカンを差し出した。よく見ると、『300』のところが『30』になっていた。そして、しばらくすると『30』が『29』になった。
(そうか。今、1分間実体化したから残り29分実体化できるってことか。)
その時、下から声が聞こえてきた。
「霧円ー、学校はいいのー?」
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
霧円は、急いでしたくをした。キガルは、
「バルカン♪」
と楽しそうに言っていた。煙がもくもくとたちこめる。
「だぁ〜!!室内で召喚するなぁ〜!!」



第十七巻 はじめてのおつかい

「あぁ、暇だのう・・・。」
霧円が学校に行った後、キガルは一人さみしく遊んでいた。
「はぁ・・・。」
ため息をついたその時、霧円が帰ってきた。
「母さん!今日は祝日じゃねぇーか!!」
「あ、ごっめーん!」
キガルは、勢いよく下に降りた。
「霧殿、おかえりなのだ!!」
「あぁ、ただいま。」
しかし、霧円が帰って来ても何も変わらなかった。
「霧殿、今日は部活もないのか?」
「ない。」
そういって、勉強道具を取り出す。
「じゃあ、一緒にゲームをしようぞ!!」
「やだ。」
霧円は、シャーペンで文字を書こうとしたが芯が出てこない。
「ありゃ、シャー芯切れか・・・。」
その瞬間、キガルの目が輝く。
「霧殿!拙者がおつかいに行ってあげるのだ!!」
「え、別に他のがあるんだけど・・・。」
(は!キガルを追い出すチャンス!!)
「あ!やっぱり買って来て。ちなみに、ピク○ンのおまけが付いたやつね!」
「承知!!」
それだけを言うと、キガルは出かけて行った。
(よぉーし。勉強はじめっか。)
霧円は引き出しからシャー芯を取り出し、勉強を再開した。
一方、キガルはコンビニへ歩いていった。
「よし!黒殿と一緒に行こう!」
そういった後、バルカンを取り出した。
「バルカン!」
黒煙龍が、召喚された。
「なんかYOかい?」
「一緒に買い物に行こうぞ!!」
こうして、子供一人と龍一匹はコンビニに向かった。
「あの、ピク○ン付きのシャー芯ください!!」
店員は迷っていた。この、子供一人と龍一匹の変人を通報しようかしまいか。結局、通報した。
「君、この龍はいったいなんなんだ!?」
場所は変わって警察署。キガルは尋問を受けていた。
「黒殿は拙者の友達で・・・。」
もじもじしていると、霧円が駆けつけた。
「キガル、大丈夫か!」
「あ、関係者ですか。この龍は一体なんなんですか?」
霧円はとまどった。
「え、え〜と。それはロボットです。」
「ほう。誰が作ったんだね?」
霧円は、必死で考え答えた。
(武野、すまん!!)
「武野という人からもらいました。」
霧円は、紙切れに武野の住所と電話番号を書くと、キガルを連れて家に帰った。
「この、どあほぅ!!道ばたで召喚する馬鹿がいるか!!」
今日の霧円はかなり迫力がある。
「で、でも、霧殿!シャー芯は買ってきたぞ!!」
キガルの手には、白ピク○ン付きのシャー芯が握られていた。
(まぁ、いっか・・・。)
「よくやった!」
霧円は一言そうほめると、夕食を食べにキガルと降りていった。

追伸 武野はこの後、学校に一週間来なっかった。



第十八巻 盗難

ラズと稲田は、廃墟となった学校の校門に立っていた。
「ここか・・・。」
稲田が静かに言う。
なぜ、稲田達は廃墟にいるのか。時間は今日の朝にさかのぼる。稲田のもとへ届いた一通の手紙が、事件の発端となった。
「うん?なんだ??『おまえの携帯を奪った。返してほしければ、この場所まで来い。』
って、はぁ!?携帯!?」
その手紙の下には、正確な地図が描かれていた。
(たしかに、おとといごろから携帯が見当たらないな。まぁ、たいしたことじゃないけど。)
実は、流行からして買った携帯だが、電話以外に使ったことがないのが現実であった。稲田はその後、学校を早く切り上げその場所へ向かっていったのだった。
(携帯も一応高いからね・・・。)
そう思いながら、学校の中に入っていった。その瞬間、声が聞こえてきた。
「スモルギガ!!」
白い煙がこちらに襲ってきた。
「おっと!」
稲田はさっと避けた。煙はそのまま、まっすぐ進んで行った。そして、鉄パイプの椅子にあたった。しばらくした後、煙が消えた。
「どれ、どれ。な・に!?」
鉄のパイプが侵食され、ボロボロになっていた。
(あんなの、まともにくらったらマジでやばい!)
稲田の背中に悪寒が走った。煙が来た方向を見つめていると、二つの人影が近寄ってきた。
「君が、稲田君かい?」
「それが?」
稲田は反抗的に答えた。敵は、侵食されボロボロになった椅子の方に目を向けた。
「どうだ、すごいだろうこの術は。」
「グレイズ!」
ラズの手から、矢印型の光線が放たれる。しかし、敵はかるく避けた。
「もう、バトルをはじめるのかい。まぁ、いいけどね!」
敵の魔物が、目の前に現れる。
(早い!!)
「スモーガル!!」
魔物に、煙の鎧が装備される。
「ならば、グラビス!」
ラズの五感が強化された。ラズはすばやく魔物の後ろに回り、鎧の装備されていないところを殴りつけた。魔物は、教室の壁にたたきつけられた。だが、魔物はまったく無傷だった。
(なるほど。奴の使う煙は、あたったところの時間を早めるのか。)
「ラズ、敵の鎧に触れるな!!触れたら、じじぃになるぞ!!」
ラズはうなずくと、人間の方に手を向けた。
「グレイズ・アイル!!」
人間に青い矢印が直撃した。その瞬間、人間が倒れこんだ。
「き、きさま、何をした!!何も見えないぞ!」
「なーに、五感の一つをつぶしただけさ!」
稲田の魔本が光り始めた。
(おっし!調子が出てきたぞ!!)
「ラズ、行くぞ!!グレイズ・マウル!」
その時だった、魔物がラズに体当たりをした。煙の鎧にもろにあたってしまったのだ。
「ラズ!?」



第十九巻 最大呪文

しかし、ラズに変化はなかった。
(そういや、魔物の成長スピードは人間と比べて遅いんだっけ。)
体制をくずしたにもかかわらず、その五感を使ってラズは術を放った。またしても命中。だが、そのせいで敵はやけになってしまった。
「くそぉ〜!!皆くたばれぇ〜!!スモルギガ!スモルギガ!」
魔物の手から無数の煙が放たれる。
「ちぃ、めんどくさいことになっちまった。グレイズ・ダジル!」
稲田達は、軽く避けた後に術を発動させた。
「くそぉぉ!!くらえぇぇ、ホェーグル・スモルガル!!」
なんと、五感のほとんどをつぶしたにもかかわらず、敵は最大呪文を唱えたのだった。魔物が、両手を上にあげる。そして、手から膨大な量の煙が出てきた。
「ま、マジですかい!?」
稲田達は、一歩さがった。魔物の手から放たれた煙は、だんだん鯨の形になっていったのだ。
「いっけぇぇぇ!!!」
鯨がすごい勢いで、迫ってくる。口を大きく開いたその姿は、猛獣をも思わせる。
(く、どうすれば。漫画ならここで本が光るはずなんだが・・・。)
すると案の定、稲田の魔本が激しく光始めたのだ。稲田はパラパラとページをめくると、呪文を言い放った。
「ラゴウズ・グロウギオン!!」
ラズの手から、煙をまとった馬が現れた。馬は力強く地を蹴り、鯨に向かって行った。

ズギャァァー

激しい効果音と共に、爆風がはおる。稲田達は10m近く飛ばされた。ほこりが飛び散るなか、チリチリと魔本が燃えていた。しばらくして、燃えているのは相手の本だとと言うことに気付く。
「勝った・・・。救急車を呼ばなくては・・・。」
稲田は、相手のポケットから携帯を探り出すと『119』とボタンを押した。




第二十巻 相談

ある日突然、鬼道宅に一本の電話がきた。
「あっ、霧円?術についてちょっと相談したいことが・・・。」
稲田の誘いで、霧円達は超巨大ショッピングモールに来ていた。
「で、でかい・・・。」
と霧円。
「バルカン何個分!?」
とキガル。
「ほう、けっこうすごいYO。」
と黒煙龍。
それぞれがそのでかさに驚かされていると、肩をぽんぽんとたたかれた。
「よ!!」
「おう!稲田!!」
ラズを連れた、稲田がいた。稲田はキガルの方を向くと、急に目をこすり始めた。
「ん?どうしたんだ?」
「いや、なんか龍が見えないか?キガルのとなりらへんに。」
(あ、そういや稲田に黒煙龍のこと話してなかったな。)
霧円は、黒煙龍について簡単に説明した。そして、4人と1匹はショッピングモールに入って行った。(もちろん、たくさんの人に龍という未確認生物を見せつけた。)キガルとラズを本屋で待たせたあと、霧円達はファーストフード店へむかった。
「で、黒煙龍にも相談したいことってなんだよ。」
「ああ、実はな・・・。」
そういうと、稲田は魔本を取り出した。
「術ってのは、ページの1行目から読めるんだけど、この最大呪文の前の一行が読めないんだ。予想だと、○○・ラゴウズ・グロウギオンとなるんだが。」

ズゴォーン

「いま、変な音がしたけど大丈夫?」
「た、たぶん。」
ちょっと間をいれたあと、ずっと黙っていた黒煙龍がボソッといった。
「すごいものを手に入れたな・・・。」
「うん?なんか知ってんのか?」
霧円が聞く。
「いや、なんでもない。」
その時、放送が入った。
『稲田様、稲田様。ラズ君とキガル君が迷子です。1階の迷子センターまできてください。』
霧円達はさとった。このままではやばいと。
この後、霧円達は武野と再会した。
(どこで再会したかは、きみの想像に任せる。)


2005年03月06日 (日) 21時15分


(795) 夢現 〜二つの道〜 投稿者:キャメロン大佐

第二十一巻 詐欺

夜の公園に、四つの人影がある。
「はぁ、はぁ。なんとか逃げ切れた・・・。」
「ああ・・・。」
そこにいたのは霧円達だった。(誰に追われているかは、想像がつくだろう。)
「しかし、察もしぶといな・・・。」
「霧殿、霧殿。拙者、あの遊びがしてみたいのだが。」
キガルの指差した方向には、一人の男とスロットマシーンが座っていた。看板に『ハズレなし』と書いてある。
「あぁ〜、わかったよ。おじさん何円?」
「100。」
霧円は、スロットマシーンに百円を入れた。数字がグルグル回り出す。キガルは、すばやくレバーを倒した。
「すごい!7がそろったぞ!!」
スロットの口から、あたりと書かれた紙が出てきた。
「だぁ〜!!なんだこれはぁ!!」
稲田が冷静に言う。
「つまり、ハズレと書かれた紙は出てこないということか。」
「なぁ〜!!いくらハズレなしでも、これは詐欺!詐欺罪だ〜!」
その時、男がむくっと立ち上がった。
「おまえら魔本を持っているようだな。どうだ、俺と勝負しないか?」
霧円は男を指差す。
「おまえの魔物がいねぇじゃねーか!!」
すると、スロットに手足が生えた。
「このスロルと、俺が相手だ!」
全員が一瞬、同じことを思った。
(ええぇぇぇぇぇ!?)






第二十二巻 友情の絆

「スロルガァ!!」
スロットが回りだす。ブラックホールのマークが三つそろった。コインが一つ、スロルの手に現れる。
「人間の方ががらあきだぞ!グレイズ!!」
ラズの手から、光線が放たれる。しかし、人間に向けて放った光線は、スロルの持つコインに吸い込まれた。
「なに!?」
次に、スロルはコインを投げつけてきた。コインが地に触れたとき、全方位に分裂したグレイズが襲いかかってきた。
「ギガルガ!!」
どこからともなく、また、あの声がした。キガルの手には弓矢が握られている。
(天気は・・・って今は夜じゃん!!)
そんなことを気にも留めず、キガルは矢を放った。
「あ!」
なんと、キガルの矢は分裂したグレイズを全て包み込み、自分の力にしてしまったのだ。グレイズの雨が敵を襲う。もろにくらった敵はじっとしている。
「稲田、あの光線はどうゆう効果なんだ?」
「あれは、体を一定時間麻痺させる力を持っているんだ。」
霧円は、キガルに矢を放つよう言った。もちろんねらうは魔本だ。
だが、寸前のところで術が解け、敵は危機一髪で避けた。
「しかたない。最大呪文で行くぞ、スロル!!」
スロルはニヤッと笑った。まるで、勝利を確信したかのようだ。
「ガグル・スロンガァ!!」
スロットが回り、コインのマークが三つそろう。スロルの手にやや大きめのコインが現れた。スロルは、コインを転がした。
「それが最大呪文!?」
霧円が油断していると、稲田がはっと息を飲んだ。
「おい、霧円!コインが大きくなってないか?」
たしかにコインの大きさがまえより大きい。
(そうか!周りの物を引き寄せて大きくなっているのか!!)
コインは、周りの物を巻きこみながら猛スピードで迫ってくる。
「ちょっと、やばくないか・・・。」
「いや、俺の新技を見せてやる!」
稲田はやる気満々だ。その時、稲田の本が虹色に輝き始めた。
「な、なんだ!?ん?読める、最初の部分が読めるぞ!!」
「じゃあ、はやく読めえぇぇぇぇぇぇ!!」
稲田は一呼吸すると、術を言い放った。
「ルギ・」
稲田の声があの声と重なる。
「ラゴウズ・グロウギオン!!」
と稲田が。
「イグル・ジオルガァ!!」
とあの声が。
するといつの間にか、キガルの頭上に大鷲、ラズの頭上には馬がいた。二匹の動物は一度輝くと、一匹の獣と化した。上半身が鷲、下半身は馬。想像上の動物、『ヒッポグリフ』だ。ヒッポグリフは一鳴きすると、敵に向けて力強くはばたいた。

ズゴォォォォ・・・・ギィィィィンンン

前の経験から稲田達は近くの鉄棒に捕まったが、霧円達は吹き飛ばされてしまった。そして、飛びながら霧円は一つの疑問を持った。
(キガルのパートナーはいったい誰なんだ??)
自分の命すら心配しない霧円だった。







第二十三巻 誓い

稲田とラズは霧円宅に来ていた。稲田の手には五枚のコインがしかっりと握られいる。稲田はゆっくりとチャイムを押し、ドアを開けた。
「実は、留学することになったんだ・・・。」
霧円が病院を退院してから(もちろんかなりの重傷だった。)2日たったある日、稲田のいきなりの告発に驚きを隠せないキガルと霧円。
「え!?どこに行くんだよ!!」
「ユナイテット・スティツ・オブ・アメリカ・・・。」
霧円はいまいち国名がわからなかったが、どこか遠いところだというのはなんとなくわかった。
「で、いつ帰って来るんだ?」
「来年の9月ごろ・・・。」
霧円はだまりこんでしまった。
「あのさ、二つ目の頼みごとがあるんだ・・・。」
急に稲田が口を開いた。
「交換留学で、あっちの国からも一人来るんだ。そいつと友達になってやってくれ。」
「了解。」
霧円は適当に返事をした。その時、稲田が手を差し伸べた。
「それと、約束だ。俺が帰って来るまで、生き延びろ!」
「あんたもな!!」
霧円も手を握った。
「そして君に、プレゼントがある。」
そういうと、稲田は五枚のコインを霧円に手渡した。
「これは、この前戦ったスロルからもらったものだ。」
稲田が言うには、スロルは消える寸前でこのコインを渡したという。
「それで、スロルによると赤コインはコピー、黄コインは融合、青コインは強化、あと最後の緑コインと白コインなんだが効果を言う前にスロルが消えてしまってよくわからない。」
稲田は真剣な眼差しでいった。
「とにかく、大切に使ってくれ。ただ、白コインだけは一度使うと消えてしまうらしいんだ。」
「おまえはいらないのか?」
稲田はふふっと笑うと、言った。
「いらないもなにも、俺には必要ないよ!」

霧円は空港で稲田達を見送った後、あっちの国の留学生を待った。だが、いつまでたっても誰も来ない。霧円があきらめかけていると、ふいに足をたたかれた。
「うん?」
そこには、ひづめのある犬が手提げバックと紙を持って立っていた。(犬にひづめなんてあったけ?)紙を必死に見せようとしている。
「なになに・・・。『りゅうがくせい』ってはぁ!?」
霧円は犬?を見つめた。
「おまえが留学生なのか?」
犬?がこくっとうなずく。
(ずぅえってえぇぇぇ、うそだああぁぁぁぁぁぁ!!)







第二十四巻 仲間

霧円はその後、犬?を家に連れ帰った。
「霧殿〜、いぬ?殿に名前をつけてあげてほしいのだ〜!」
霧円は少し考えると、ぽんっと手を打った。
「う〜んそうだな・・・。よしっ、POCHIなんてどうだ!?」
「おぉ!!英語とはかっこいいのだ!」
POCHIもとても喜んでいる。しかし、誰も気付かないのだろうか。POCHI=ポチということに・・・。
ポチは霧円を見て急に驚いた顔をした後、手提げバックから魔本を取り出し、霧円に押し付けた。
「へ!?おまえ、魔物だったの!?しかも、これ読めっていうのか?俺に読めるはずが・・・。」
(よ、読める・・・。)
霧円にははっきりと読めた。『第一の術 グルク』と。
「え、なに!?俺、こいつのパートナーってこと!?」
「まぁ、そうなるのう。」
霧円は魔本しばらくじっと見つめた後、ある発見をした。
(この五つの丸、スロルからもらったコインの大きさと一緒だ。)
そんなことを思っているうちに、キガルとポチは外に行ってしまった。
「稲殿の家に送るのだ!」
「ちょ、ちょっと待てぇ〜!!」
行ってみると、なんと玄関の前で稲田の父さんと母さんが待っていたのだ。
「え〜と、紹介します。ユナイテット・スティツ・オブ・アメリカからきたPOCHIです。」
稲田の父さんはポチを肩車すると、庭へ向かった。
「おまえのために犬小屋を作っといたぞ!」
お母さんも、
「ありがとう。いつでも遊びに来てね!」
といった後、犬小屋の方に行ってしまった。
「よかったな、キガル。」
「うぬ?」
霧円は自分の家に向かった。
「いい友達ができて・・・。」
「うぬ!!」







第二十五巻 架空の勝負

とある休日、鬼道宅のまえに二つの人影が現れた。一人がチャイムを押す。
「はーい、誰ですか?」
「中田です。」
「はい!?」
「中田です。」
中田とは、前に霧円とキガルを魔界に飛ばした張本人である。
「え〜、今日は休日なので、戦いはお断りします。」
「とにかく中に入れてくださいよ。」
そんなこんなで、敵が自分の家に遊びに来たのだった。
「『金色のガッシュベル!!友情タッグバトル2』を一緒にやろう。」
中田はわざわざゲームをするためにここに来たらしい。
「なんで俺とやるんだよ!?」
「稲田がいなくて暇なんだよ。」
とかいいながらPS2の電源を入れる。
「え!?おまえら仲いいのか?」
「あったりめぇだろ。」
(ああ、俺は稲田にだまされたんだ・・・。)
そんなことを思っていると、あることに気付いた。
「それよりもおまえ、かつあげしてただろ。」
「あれは文化祭の集金だよ。」
(ああ、俺は稲田にはめられていたんだ・・・。)
しばらくして、ゲームが始まった。しかも、いつのまにか自分のキャラがガッシュになっていた。
「スタート。」
今思うと、中田はゲームの神様といってもいいくらい強かった。
「中殿がザケルガを放ったぁぁ!!見事命中!霧殿はラシルドを知らないのかぁ!?」
キガルが中継をする。
「あ、最大呪文発動だぁぁ!!霧殿、即死!!」
「うるさい!!」
霧円はキガルをぼこっと殴る。これを十回ぐらいくりかえした。結果は霧円の惨敗。
「また来るからなぁ!!」
といって中田は去っていった。
「霧殿!あの魔物はアドバンという名前だそうだ!!」
「あ〜、はいはい。」
(それより、あいつは敵なのか味方なのか・・・。)
霧円は、とにかく稲田をボコすことに誓った。






第二十六巻 風邪

7時14分34秒、鬼道宅にて大事件発生。
「母上殿、き、霧殿が風邪をひいたのだ!」
「えぇ〜、霧円が!?」
霧円は、寒い部屋を自分の体温で暖めるほどの高熱だった。
「馬鹿は風邪をひかないというのは、やっぱり嘘だったのね。」
「あぁ、いくら馬鹿でもウィルスには勝てなかった・・・。」
キガルは部屋でじっとしている。
「キガル、風邪がうつっちまうから外で遊んでろ。」
「で、でも・・・。」
すると、母さんがキガルの頭をなでながら優しい声いった。
「大丈夫、霧円はお母さんに任せて遊んでおいで。」
「では、行ってくるのだ!!」
キガルの行く先はもう決まっている。
「P殿、遊びにいこうぞよ!」
P殿、つまり、ポチが玄関の柵を乗り越えて来た。
「今日は空地に行こう。」
ポチもコクッとうなずいた。しかし、空地には先客がいた。
一方、霧円はというと
「母さん、暇つぶしにその本とコイン5枚を取ってくれ。」
「はい、はい。」
必死に魔本の謎を解こうとしていた。
そのころ、キガル達は
「おぉ、魔物が二匹!今日は運がいい。バルギ、行くぞ!」
「あいよ。」
敵と遭遇していた。
「ボグル!」
空地の周りが土の高い壁に塞がれてしまった。
「うう、どうしよう?」
キガルとポチはじっとするしかなかった。
「呪文はどうした!?こっちから先に行くぞ!!ボゲルガ!!」
キガルとポチの下に大きな穴が開く。
「ぬぁぁぁぁ!!」
キガルとポチは、地中深くに落ちていった。
「もう終わりかぁ?」
上のほうから声が響いてきた。
「き、霧殿・・・。」
ポチはがんばって上に登ろうとしているが、ひずめでは登れない。
一方、霧円は
「この『第一の術 グルク』とコインが関係していると思うんだが・・・。」
あっさりと呪文を唱えていた。
そして、キガル達の方では
「うぉぉ!!P殿、すごいではないか!!」
ポチがパワーアップしていた。後ろ足にはジェットが一つずつ、
胴体にはガトリングガンが二丁、背中にはロケットミサイルが装備されていたのだ。
ポチはキガルを背負うと、空へと上昇した。
「反撃開始!!」
キガルの声が響きわたった。







第二十七巻 絶望

「なに!?あいつ、空を飛べるのか!?」
「祐樹、術の準備を・・・。」
祐樹は魔本をしっかりと持った。そして、上空のポチらは・・・
「発射!!」
一斉砲撃中。400弾の弾とミサイルが敵に降り注ぐ。
「マジかよ!?ボ、ボウジルド!!」
敵の前に巨大な土の壁が現れた。しかし、衝撃に耐えられず崩れてしまった。
「まだ、まだぁ!!ガザ・リボウル!!」
なんと崩れた壁が再生し、さらにもう一枚の壁が現れた。いくらポチの術でも、二重の壁は破れなかった。
「よしっ、こっちも行くぞ、バルギ!」
バルギが両腕をポチに向ける。
「バグル!」
バルギの足元から、土の塊が放たれた。
「ぬあ!?」
土をもろに受けたキガルは、地上へと落下していった。
「チャンス!アムガ・ボグルガン!!」
なんと土が盛り上がり、蛇の頭の形になった。そして、キガルに向け大きな口を開いた。
「うああぁぁぁぁ!!」
キガルは、蛇の口の中に落ちた。
「まずは一匹。蛇の腹でおさらばとは、なかなかいいじゃないか!」
その言葉を聞いたポチの目には、悲しみと怒りが入り混じっていた。やがて、ポチに一つの思いが芽生えてきた。『復讐』というどす黒い思いが・・・。
「さぁ、次はおまえだぞ犬っころ!!」
ポチは上に向けて、砲撃した。
「はっ、どこ狙ってんだか・・・。」
上空を飛んでいた弾は、重力によってやがて落ちてくる。猛スピードで落下していく弾が狙うは、がら空きの敵の頭上だ。
「おい、祐樹。上。」
「ははっ、そうゆうことか・・・。バルギ、やってくれ。」
バルギはうなずくと土の壁を持ち上げ、上空に向け投げ飛ばした。
壁は、弾をすべて受け止めると消えた。
「今の内♪バグル!!」
再び、土の塊がポチを襲った。ポチは激しく、地面にたたきつけられた。しかし、ポチはこりもなく起き上がった。
「しぶとい野郎だ。バグル!」
どんな攻撃を受けても、ポチは起き上がった。心には、復讐の炎がめらめらと燃えていた。
「なんだ?魔本が!?」
そのころ、霧円の魔本が激しく光っていた。
「あっ!表紙に穴が!!」
表紙に書いてある五つの丸の内、一つに穴が開いたのだ。そして、その穴は青いコインを磁石のように吸い付けた。その瞬間、今まで金色に輝いていた光が青色に変わったのだ。
「キガル達になにかあったのか?」
熱を測ると、平熱に戻っていた。(つまり、2時間で風邪が治ったということだ。)霧円は急いでジャンパーを着ると、キガルのよく行く場所、空地へと向かった。空地は、大きな土の壁で囲まれていた。
「魔物か!?」
その時、中で轟音が響いた。
「くそ、いったい中で何が・・・。」
中では、ポチが暴れまわっていた。
青コインによって武装が強化されたポチは、敵に向け集中砲火した。
「ふん、それぐらいの攻撃、ボウジルド!ガザ・リボウル!!」
二重の壁はたった一発の弾により、崩壊していた。
「なにぃ!?ぐあぁぁぁ!!」
800のミサイルが敵を襲う。もちろん、一瞬で本は燃えた(打ち抜かれた?)。
本が燃えると同時に、土の壁も消えた。
「おーい!キガル、POCHI!」
霧円が空地に目を向けると、必死に穴を掘るポチが見えてきた。
「あれ、キガルは?」
ポチは、涙を流しながらも穴を掘り続けている。
「まさか、そんな・・・。」
キガルに会った、最初の日がよみがえってくる。
涙が止まらない。
あんなに楽しげだったのに・・・。
あんなに、嬉しそうだったのに・・・。
でも、あいつはもう・・・。
「うわぁぁぁぁぁー!!」
霧円の悲痛な叫びが、空地にむなしく響いた。







第二十八巻 作戦a

「こちら、稲田。テスト開始まで残り1分、どうぞ。」
「了解。呪文の準備、どうぞ。」
稲田は、バックの中の魔本に軽く手を触れると、呪文を唱えた。
「グラビス。」
稲田は今、とあるアメリカの教室にいた。その教室はテストの真っ最中だ。
そんな中、二人は『作戦a(アルファ)』、つまりカンニングを実行していた。
今さっきの呪文で、バックの中にいるラズは五感が強化された。それを、超小型トランシーバーで通信しあっているのである。
「テスト開始!」
先生の声が聞こえた瞬間、そこは沈黙の世界となった。
「問一の(1)の答えは『A』、どうぞ。」
「了解。」
ラズはその五感を生かし、ボールペンのこすれる音、バックの透き間からかすかに見える答案、机のゆれる振動などを感じ、答えを瞬時に計算するのである。
こんなやりとりが30分ほどあった後、フィニッシュした。
残り15分。
(暇だ〜。)
とか思っていると、外から視線を感じた。恐る恐る窓の外を見ると、そこに一人の少年がいた。
(あ、全部見られたっぽい・・・。)
テストが終わり皆解散した後、稲田を少年の所に行った。
「おまえ、魔物持ってるだろ。」
片方の髪と目が青、もう片方の髪と目は赤色の少年がいきなり話しかけてきた。
「ということは、おまえも魔物だな。」
「それよりも、俺と戦ってくれ。」
いきなりの挑戦に少し戸惑うが、テストのため、稲田は挑戦を受けることにした。
「ところで、おまえのパートナーはどこだ?」
稲田が質問すると、魔物は左が青、右が赤色の一風変わった魔本を近くのベンチに置いた。
「パートナーはいない。俺自身の力を試してみたいんだ。もちろん、そっちは呪文を使ってもいいからな!」
そういうなり、いきなり殴りかかってきた。
「くっ、グラビス!!」
ラズの五感が強化された。素早く横に避けると、敵の右腕めがけて殴りかかった。

ジュ

「ぐぁ!?」
なんと敵に触れた瞬間、ラズの手が大火傷していたのだ。肉の焼けた臭いがそこらじゅうに漂う。
「おっと、説明してなかったが、俺の左側に触れると爆発し、右側に触れると高温で火傷するぜ。」
ラズが自分の手を見つめると、指と指がくっつき、かなりひどい状態となっていた。
(これじゃぁ、接近戦は無理だな・・・。)
稲田の頬を汗が一筋流れた。







第二十九巻 真の友

「グレイズ!!」
ラズの手から、矢印型のビームが出る。
「ぐっ・・・。」
直撃すると、敵は倒れこんだ。
「麻痺呪文。しばらく体が動かないはずだ。」
ラズは、両腕を敵に突き出した。
「甘く見てもらっちゃぁ、困るんだ・・・。」
敵は、うなるように言った。しかし、稲田は容赦しなかった。
「グレイズ・イヤル、グレイズ・アイル。」
ラズの手から、色の異なる二本の矢印が同時に発射される。敵の聴覚と視覚は閉ざされた。
「まだだ・・・。」
魔物はむくっと立ち上がると、熱き片腕を振り上げた。
「なに!?」
(奴の五感の内、二つ潰されているんだぞ!?そんなまさか?)
その時、急にベンチの方から強い光が放たれた。
「ベルアス!」
魔物の片腕を炎がまとう。どうやら、魔物の腕が強化されたようだ。
「だ、誰だ!!」
魔物と稲田が同時に叫んだ。呪文を唱えた人は、ベンチから立ち上がるとバタッと倒れた。片手に、しっかりと敵の魔本を持っている。
「おいっ、大丈夫か!?」
稲田が無理やり立たせた。
「わ、私はブルース・ジェイソン。B・Jと呼んでくれ。」
B・Jは、流れるように英語を話した。(もちろん、稲田には通じてる。)
「自己紹介はわかった。一体どうしたんだ?」
すると、B・Jは魔本を稲田に見せた。
「これを音読したら、急にふらっと・・・。うっ・・・。」
というと、再び倒れた。
(あー、なるほど。心の力を消費して、もうだめってことか・・・。)
「おい、おまえ。名は?」
稲田は、じっとしていた魔物に呼びかける。
「俺はアディスだ。おまえらは?」
「俺は稲田。こっちはラズだ。」
稲田はB・Jをかつぎ、保健室に向かった。
「今日は休戦だ。おまえらはそこで待ってろ。戦うなよ。」
稲田はそう釘を刺すと、学校の中に入っていった。
稲田が見えなくなると、ラズはアディスの手を握った。とたんに、シュウという音がする。
「なんだよ、手が溶けちまうぞ。」
それでも、ラズは手を離さなかった。
「これは握手というもので、戦った者同士がすることだ。」
ラズは、大きくはっきりとした声で言った。
「は!?」
「そしてまた、友の意も込めてある。僕は、君と友達になりたい。」
アディスは手を振りほどく。
「な、なに言ってんだよ。そんなもんになっても仕方ないだろ。だいいち、俺とおまえはいずれ戦うことになるんだぞ。」
ラズはこりずに、今度は肩をつかんだ。ドンと爆発する音と共に、ラズの手が無残な姿になっていく。
「いずれ戦うまでの間だけだ。その間、友達になろう。」
アディスはラズの手を振り払い、校門へと歩いていく。そして、少し小さい声で言った。
「友達ではなく、ライバルならいいぞ・・・。」
彼の声が、いつもより優しく感じられた。
その直後、稲田が戻ってきた。
「いやー、疲れた、疲れた。うん!?ラズ、その手はどうした!!」
ラズの手は赤く焼けただれ、指が数本なくなっていた。
「アディスとの、友の印だ。」
「えぇ!あいつのどこがいいんだよ!!」
「フフッ、気付かなかったのかい?『目』だよ。希望と不安に取り巻かれていた。なにか、深い理由がありそうだ。」
そういうと、ラズは倒れた。どうやら、一番体力を使っていたのはラズらしい。稲田は静かにラズを背負うと、ゆっくりと家に向かった。








第三十巻 復讐

霧円は、悲しみと絶望にひたっていた。

キガルがいなくなって、いろいろと思い出すな。
朝起きたら、あそこでキガルが寝たんだっけ。
玄関を出る時、部活に行きたいとせがまれたな。
帰ったら、おかえりっていつもいつも言ってくれてた。
そういえば、二階にまで間食を運んでくれたのもキガルだったな。
でも、それはもう、昔の話。

霧円はうつむき、思い出の溢れ出る頭の中を真っ白にしようとしたができなかった。涙を出すこともなくなった。
「おい、キガル。」
霧円は、つぶやいた。
こう言うと、ドアからひょっこりとキガルが顔を出しそうな気がしたからだ。だが、そこにいるのは自分だけ。
「くそ・・・。」
こんなことを一ヶ月もくりかえした。
学校に行き、帰り、妄想にふける。毎日、毎日同じ行動をしつずけた。
そして、霧円の気持ちに変化が現れ始めた。悲しみと絶望が、怨み、憎しみ、そして怒りへと変わっていった。
「うぉぉぉぉ!グルク!!」
霧円はポチをひきつれ、目の前に現れた全ての魔物を倒し、破滅へと追いやった。
「に、逃げるぞ!」
「うん!」
たいていの魔物は逃げようとした。だが、それ許すような霧円ではない。容赦なく、術を唱える。
「行け。」
霧円はポチに命令した。だが、ポチは動かない。魔物を傷つけるのは、ポチにとっても苦痛なのだ。
「反抗するか・・・。」
そういうと、霧円は蹴るなどの暴行を始めた。
「やれ、やるんだ。」
ポチは仕方なく弾を撃ち放った。とたんに、敵の魔本が燃え始める。すると、霧円の肩が小刻みに震え始めた。どうしたのかと思いポチがのぞきこむと、笑っていた。
「クックックッ。」
そして、ポチの頭をゆっくりとなでた。でも、その手に以前のぬくもりはなかった。冷たく、恐怖までおぼえるほどの冷酷なものだった。
そして、ポチは霧円が笑うわけを理解した。勝利の笑みではない。魔物とパートナーが倒されていくのを面白がっているんだ。
どんなことがあっても、暴走した霧円は止まらなかった。
10対1という不利な戦いもあったが、全勝無敗を崩せる者は誰もいなかった。
「俺は、魔物で魔物に復讐する。」
もはやそこに、以前の霧円はいなかった。








第三十一巻 情け

「へ〜、数が多ければ俺達に勝てるとでも思ったのかい。」
霧円は今、とある廃棄工場にいた。
霧円とポチの前には、二十人の魔物達が半円状に並んでいる。
「そのとうりだ!!おまえには、この前の仕返しをさせてもらうぜ!」
リーダーらしき人物が、吠え立てた。
「クックックッ。せいぜい楽しませてくれよ!」
霧円の本が光り始めた。霧円はすかさず青コインをはめ込む。
「今回は多少きついからな、グルク。」
ポチが強化武装される。
「なめんなよ!ウゴウル!!」
魔物達が、いっせいに呪文を放つ。霧円は素早くしゃがみ、ポチはジェットで飛び上がった。
「足元がらあき、頭上もがらあき。」
霧円はしゃがみながらも弓をかまえ、先に火のついた矢を4本いっきに放つ。
二人の魔物が声も出さずに消えていく。そして頭上にいたポチは、弾丸の雨を降らせた。何人かは防御呪文で防いだが、さらに5人の魔物が消える。
「まだまだ行くぞ!ウゴルガァ!!」
十三本の光線がポチを狙う。何本かは避けたが、残りは全て命中した。ポチは、地面にたたきつけられる寸前で逆噴射した。そして、なんとか体制を整えた。その時、霧円とポチの脳裏をボロボロのキガルがかすめた。
(キエルノハ、アイテダケダ。)
その瞬間、魔本が強く輝き始めた。新呪文が浮かび上がる。
「ゲグルド。」
霧円は、静かに術を唱えた。相手の目の前に、魔本と同じ模様の四角い鉄の壁が現れた。そして五つの丸が穴となり、そこから無数の弾丸が打ち放たれた。数人の魔物が消える。
(なるほど、防ぐだけでなく攻めることもできるのか。使える。)
「く、くそ。でも、まだだ。ウィゲル!!」
敵が呪文を言い放つ。気が付くと、両手が自分の意思にそむき、魔本を捨てようとした。
(ぐっ、腕が言うことを聞かん。操られているようだ。・・・!)
その時、霧円は敵の呪文の効果に気付いた。
「POCHI!敵と俺の間を打ちまくれ!」
ポチは、言われたとおりに行動した。弾丸が打たれるたびに、プチっという糸の切れる音がする。しばらくして、腕が自由に動くようになった。再び、術を唱える。
「ゲグルド。」
敵の目の前に、壁が多数出現する。
(心の力の量によって、数も変わるのか・・・。)
敵は素早く避けると、術を放った。
「ウゴルガァ!!」
ポチはすかさずミサイルを放ち、相殺させた。
「フィニッシュだ。ゲグルド。」
壁が二枚、敵から数メートル離れた場所に現れた。
「ははは、ついに狂ったか。どこ狙ってんだか。」
敵は走って横に避けたが、壁にはばまれた。
「な、なに!?いつの間に!」
一人の魔物を、壁がぐるっと囲んでいた。そして、霧円は話し出した。まるで、今にも死にそうな子犬に話しかけているようだった。
「おまえは見えない糸を使って、19体の人形を操っていたんだ。それに、どうやらその糸は術の力を伝達する力もありそうだしな・・・。」
「お、俺は人形だぞ。あ、あっちが本物だ!」
敵はそういうと、近くにいた魔物を指差した。
「馬鹿めが。人形はしゃべらねぇんだよ。」
敵は、ガクガクと震え始めた。
「すまない、俺が悪かった!だから、魔本だけは・・・。」
「情けは無用。夢と共に**。」

ズガアアァァァァァ

「さぁ、帰るか・・・。」
また、魔物が一人消えた。






第三十二巻 遭難

ことの始まりは、B・Jの『休日に山登りをしよう』という言葉からだった。皆は、それぞれのリュックにそれぞれの物をつめこみ、出発した。
「オイナリサン、聞イテクレ。」
オイナリサン。つまり、稲田が振り向く。
「その片言日本語、どうにかなんないのか?(というか、いつの間に日本語覚えたんだ・・・。)」
「ワカッタ、考エテオク。ソレヨリ、アディスノ効果ナンダガ・・・。」
そう言うと、B・Jはアディスの肩をつかんだ。
「な!?おまえ、手が溶けちまうぞ!!」
稲田は、B・Jの手をひきはがしたが、なんともなっていなかった。
「え?あれ??」
「フフフ。アディスハ、魔物ダケニ効果を発揮スルコトガデキルヨウナンダ。」
そして、魔本を取り出してコツコツとたたいた。
「呪文ハ別ダケドネ・・・。」
そんな会話をしながら、四人は山を登った。
そして!ついに!頂上に!!つくどころか、遭難した。
「おい、B・J!なんだか、どんどん道が細くなっているようだぞ!」
「ナニ、ソンナ事ハナイ。ミテミロ、ソコ二山ノ頂上ガ・・・。」
そこには山ではなく、うっそうとおいしげる森があった。
「おい、まさか・・・。」
アディスはB・Jに問いかけた。
「遭難、だな。」
真っ白になって燃え尽きたB・Jの代わりに、ラズが答えた。
とにかく、皆は道をゆっくりと戻っていった。しかし、木の数はどんどん増え、ついには道までもが消えてしまった。
「そういえば、稲田は携帯を持っているんじゃないのか?」
ずっと黙っていたアディスが、急に話した。稲田は首を横に振った。
「試してみたが、圏外で無理だった・・・。」
皆は、また黙りこくってしまった。稲田は、なんとか明るい雰囲気にしようとがんばった。
「大丈夫、明日には救出隊が来るよ!」
「オイナリサン。実ハ、何ノ連絡モセズニ山ヲ登ッテシマッタンダ。」
またしても沈黙。
(あぁ、俺達は死ぬのか・・・。)
稲田はこんなことを思っていた。頭の上に石がのっかっているようだ。
「仕方ない。今日はここで、キャンプをしよう。」
稲田の提案で、テントをはることになった。
そして、今日の疲れがピークに達し、皆は瞬時に眠りについた。
―夜―
それは、本当に偶然なことだった。
稲田は、激しい寝相で自分とB・Jのリュックを偶然、アディスの足元に蹴り飛ばした。
そして偶然、魔物と戦う夢を見ていたB・Jは魔本をつかみ、呪文を発した。
アディスは、うっとうしい蚊を払おうとして、偶然呪文の効果で強化された片腕片足でテントを燃やし、リュックを炭にした。
こうして偶然に偶然が重なり、稲田達は一夜にしてテントと食料、そして携帯を失った。







第三十三巻 SOS

「ハックチィ!!」
稲田は、大きな声でくしゃみをした。それもそのはず、彼らは布団一枚で寝ていたのだから。
「これは魔物の仕業かもな・・・。」
テントを燃やした張本人である、アディスが言った。
「そうらしいな・・・。リュックが炭になってる。用心したほうがいい。」
ラズは、真っ黒な物体(リュック)を調べながら言った。
「そうだったら、こんな所でぐずぐずしている場合じゃない。前に進もう!!」
B・Jは数少ない荷物を持ち、立ち上がった。
「あぁ、そうだな・・・。って、ちょっと待て!B・J、おまえいつの間に日本語を覚えたんだ!?」
「うん?・・・・・わからん!!」
B・Jの才能に充分驚かされたあと、一同は出発した。
木にナイフで傷をつけながら、ゆっくりと進む地道な作業をくりかえす。
しばらくして稲田が後ろを振り向くと、B・Jらの手に卵がたくさんのっていた。
「お、おまえら!どこに食料が!?」
ラズは、木の上を指差した。
(あぁ、そうかい、そうかい。鳥の巣があったのかい・・・。)
「B・J、呪文を頼む。」
「了解、ベルアス!!」
アディスの手が炎に包まれる。すかさず、B・Jがフライパンをのせる。
「ラズ、卵を。」
ラズは、器用に卵を割った。巨大卵焼きがあっという間に出来上がっていく。
「では、いただきます!!」
その時だった。突然、空気の塊が卵焼きを吹っ飛ばしたのだ。
「ノオォォォ!!」
これは、稲田の悲痛な悲鳴。
「コロス。」
ラズは、やばい言葉をつぶやいている。
空気の塊が飛んできた方向を見ると、一匹の黒い龍と人間がいた。
「あ!おまえ、たしか黒煙龍とかいうキガルの友達じゃないか!」
稲田は、黒煙龍を指差しながら言った。
「キガル。懐かしい名前だ・・・。」
「どういうことだ!!」
黒煙龍は、余裕の笑みを浮かべている。
「ME、じゃなくて、俺に勝てたら教えてやるよ。」
「望むところだぁぁ!!」
ラズは敵に向けて走っていく。だが、寸前のところでアディスに止められた。
「邪魔するな!!食べ物の恨みは一生許せん!」
「ラズ、それよりもまず、俺の実力を見てほしいんだ。」
そう言うと、アディスはMDを取り出し、再生ボタンを押した。
「今日は、ベートーベンの第九番をチョイス。」
気付くと、アディスはいつのまにか黒煙龍の後ろ側に回っていた。
「ベルアス!!」
B・Jが呪文を唱えると、アディスの片腕が真っ赤に燃え始めた。
「ぐぁ!!」
黒煙龍を、素早く殴り倒した。そして、蹴りを入れる。爆発音と共に、黒煙龍は吹き飛んだ。
「バーク、呪文を!」
「エアグル!!」
黒煙龍の口から、空気の塊が発射される。
「ブーストバーニング!!」
アディスは空気の塊を簡単に跳ね返し、強烈なアッパーを喰らわせた。そして、地面の岩を持ち上げる。岩がどろどろと溶け始めた。
「ビッグバーゲン!!」
黒煙龍に、溶岩の雨が降り注ぐ。
「フィニッシュ!!」
アディスは、イヤホンをはずした。
しかし、黒煙龍の姿がどこにも見当たらない。その時、横からパンチが放たれた。
「ぐあぁぁ!!」
アディスは、近くの木にぶつかると動かなくなった。
「フフフ。空気に物理攻撃は意味ないよ。」
なんと、黒煙龍は周りの空気と同一化していたのだ。
「次は、僕の番だ。」
ラズが立ち上がる。怒りのオーラが体中をおおっている。
「グラビス!!」
ラズの五感が強化される。ラズは、黒煙龍めがけて走り出した。
「ほう、俺がどこにいるのかわかるのか。だが、殴るだけでは意味ないぞ!」
だが、ラズは黒煙龍のそばを素通りした。
「どこ行ってんだか。・・・!」
ラズはパートナーに向けて殴りかかった。
「稲田!新呪文を!!」
「グレイガル!!」
実は、アディスと戦った時に新呪文が出ていたのだが、B・Jのおかげで使わなかったのだ。
「視覚!」
ラズは、右手で殴り倒す。
「聴覚!」
後ろに回り、右足で蹴り飛ばす。
「味覚!」
左拳で、アッパーを繰り出す。
「嗅覚!」
パートナーの上から、左足のかかと落とし。
「ラストォ!触覚!!」
ラズは飛び上がり、強烈な頭突きをくらわせた。
「ぐあぁぁぁ!!」
パートナーは、倒れこんだ。ラズも、かなり息が上がっている。
「エアグル!」
だが、パートナーは五感を失ったのにもかかわらず呪文を唱えた。
「ぐっ!!」
ラズの後ろにいた黒煙龍から空気が放たれた。ラズに直撃し、前倒しになってしまった。
「どうやって呪文を!?」
すると、稲田の頭の中から声が聞こえてきた。
(こうやってさ)
(なに!?)
(俺は、五感がなくても直接頭に言葉を送ることができるのさ!)
「エアグル!!」
ラズは、かなりボロボロの状態だった。おまけに、新呪文はかなり心の力を消費する。アディス同様木にぶつかり、滑り落ちた。
「終わりだ。」
黒煙龍が、ラズの前に立ちはだかる。
「ゴグン・エアルグ!!」
黒煙龍は、ための姿勢に入った。空気の玉がどんどん大きくなる。
(くそぉぉ!!)
やはり、どんな時でも友達がいると便利な時がある。
ラズと黒煙龍の間にドアが現れた。ゆっくりと扉が開く。
「よぉ、元気かぁ?」
中から出てきたのは、中田だった。




第三十四巻 真実

「聞いてくれ!バオウ強化バージョンを手に入れたんだ!!」
中田の手に、キラキラと輝く一枚のカードが握られていた。
「あ、あぁ。よかったな・・・。」
稲田は突然のことに対応できず、適当に答えた。
「それじゃ!」
「ちょ、ちょっち待ちぃ!!」
中田がドアの中に入ろうとしたのを稲田は阻止した。
「この状況を見て、何か思わないか!?」
中田は周りを見回した。
木の根元で倒れている一人の魔物。
その魔物を看病している外国人。
同じく、木の根元に倒れこんでいるラズ。
後ろには、黒い龍と外国人一人がいる。
黒い龍。なに?龍だと!!
「おぉ!この世に龍は存在していたのか!!」
「あほぅ!俺は今、ピンチなんだよ!!」
中田の顔がにやけてきた。(これは、なにか名案を思いついた時の中田のくせである)
「で、俺に助けてほしいと。」
「その通り!!」
中田の顔がさらににやける。
「2セットだな・・・。」
「はい!?」
中田は二本の指を立ち上げた。
「だから、アースとテッドの2セットで負けてやると言っているんだ。」
「なに!?2セット!!」
中田はこくっと頷く。
今、稲田の頭の中には天秤が一つあった。片方に、カードを2セット置く。そして、もう片方に皆の命を置く。
天秤はしばらく揺れたあと、『皆の命』の方に傾いた。
「よ〜し!乗った!!」
稲田は、中田の手をたたいた。
「交渉成立!アドバン!!」
ドアの奥からアドバンが出て来た。
「ゼンデム・ドラガ!」
ラズとアディスの周りをドアが囲む。そして、なんとか危機一髪で、黒煙龍の攻撃を防いだ。
「ドアを破壊するほどの力があるのか。できるな・・・。」
黒煙龍は、もう一度タメの姿勢に入った。力ずくでも、ドアを破壊するつもりらしい。
「ラギ・ゼンデム。」
ドアがグルグルと回りだす。一枚のドアが黒煙龍の目の前で止まった。そして、中から多数の爆弾が降り注いだ。
しかし、空気と同一化した黒煙龍には爆風で多少に軌道をずらすことしかできなかった。
「あ、中田!奴には物理攻撃ができないから。」
「そういうことは早く言え!無駄に心の力を消費しちまった。」
その時、急に中田の魔本が光だした。
「使い時だ!新呪文で行くぞ!!」
同時に、黒煙龍の体が消えていく。どうやら、また空気と同一化する呪文を使ったらしい。
「無駄だ!ラゴウ・ゼフォース!!」
黒煙龍とパートナーの周りを4枚のドアが囲む。
「春。戦意を忘れ・・・」
一枚の扉が開く。敵は、上の空となった。
「夏。酷き疲れを感じ・・・」
手前の扉が開く。敵の頬を汗が流れる。
「秋。肉体は傷つき・・・」
左の扉が開く。激しい風により、深い切り傷が増えていく。
「冬。全ては凍りつく。」
敵は、あっという間に氷に包まれた。ドアが消えていく。
「終わりだ。」
中田は、氷漬けのパートナーから魔本を奪い取ると、火をつけた。
パチパチと魔本が燃えていく。
その時、稲田の頭に声が流れ込んできた。
(稲田)
(おぉ!な、なんだよ!!)
(約束通り、伝えておく。キガルは、もう日本にいない)
(なっ!?嘘だろ!)
(嘘をついてどうする?俺にとって、得でもなんでもないだろ)
(たしかに・・・)
(あと、最後にこれを見てくれ)
稲田の脳裏に、映像が流れる。
そこは、ある森だった。急に上空から大剣が落ちてきた。
地面に突き刺さったその瞬間、巨大な魔法円が描かれ、周辺の木々を吹き飛ばす。
そして、その魔法円の中心から手が伸び、剣の柄を握った。
そいつは、体を引きずり出すと大剣を持ち、立ち去っていった。
(これは一体!?)
(あとは、自分で考えろ。)
そういうと、黒煙龍の声が途切れた。
目を開くと、そこに黒煙龍の姿はなかった。
その後、稲田らはアドバンの術によって病院に運ばれた。






第三十五巻 番外編〜隠せざる秘密〜

一、登場人物ぷろふぃーる

名前   鬼道 霧円(きどう むえん)
年齢   14歳
身長   152センチ
性格   己に厳しい
好物   エビフライ
得意教科 国語
趣味   弓矢(自己流)
夢    魔物の戦いをなくすこと

名前   POCHI(ポチ)
年齢   2歳ぐらい
身長   80センチ(二足歩行時)
性格   遊ぶ事以外は興味なし
好物   小枝
得意教科 英語
趣味   穴堀
夢    キガルと思う存分遊ぶ事
魔本の色 銀メッキ

名前   稲田 源(いなだ げん)
年齢   15歳
身長   172センチ
性格   冷静
好物   ご飯
得意教科 社会
趣味   化石発掘
夢    考古学者

名前   ラズ
年齢   10歳ぐらい
身長   130センチ
性格   真の正義をつらぬく
好物   ようかん
得意教科 数学
趣味   日光浴
夢    友達と富士山の頂上でおにぎりを食べる
魔本の色 赤紫

名前   中田 康介(なかた こうすけ)
年齢   15歳
身長   173センチ
性格   『能ある鷹は爪を隠す』そのまんま
好物   牛丼
得意教科 音楽以外全て
趣味   カード集め、ゲーム
夢    ゲーム会社設立

名前   アドバン
年齢   10歳ぐらい
身長   135センチ
性格   気軽
好物   トマトケチャップ
得意教科 理科
趣味   旅行
夢    魔界に帰ること
魔本の色 ダークブルー

名前   ブルース・ジェイソン(B・J)
年齢   17歳
身長   180センチ
性格   適当
好物   ホットドック
得意教科 体育
趣味   登山
夢    冒険家

名前   アディス
年齢   12歳ぐらい
身長   137センチ
性格   クールと見せかけて、恥かしがりや
好物   カップラーメン
得意教科 家庭科
趣味   修行
夢    強くなること
魔本の色 左が青、右が赤

二、名の由来

POCHI・・・犬といったら、この名前
ラズ・・・・・・朝ご飯に、ラズベリーのジャムが出たから
アドバン・・・ゲームボーイアドバンスから
アディス・・・スポーツブランド『アディダス』から

三、作者お気に入り呪文ランキング

1位 ラギ・ゼンデム(アドバンの呪文 第十二巻)
   「名前も効果もかっこいいから」

2位 ホェーグル・スモルガル(敵の呪文 第十九巻)
   「名前がお気に入りです!」

3位 ルギ・ラゴウズ・グロウギオン(ラズの呪文 第二十二巻)
   「強さ的に3位!!」

六、これから・・・

今後は、登場人物の秘密がどんどん暴かれていきます。そして、霧円にある事件が!?さらにラズたちは偶然、あの人に出会ってしまう!! 


2005年03月06日 (日) 21時29分


(887) 夢現 〜6人の光〜 投稿者:キャメロン大佐

第三十六巻 導き

「くっ・・・・・またか・・・。」
霧円は、午前5時17分39秒にベットから起き上がった。
なぜか?原因は『夢』にあった。
キガルが消えてから今日まで、ずっと同じ夢を見続けているのである。その内容は、空から大剣が振ってくるというものだった。
「一体、何なんだ・・・。」
霧円は、今日も悩む。

そのころ、稲田達は病院にいた。(といっても、入院したのは稲田とB・Jだけであったが・・・)
「稲田、大丈夫か?」
ラズが、心配そうに声をかけた。
「あぁ。栄養失調だけで済んだんだから、まだいい方だ。」
そう言うと、稲田はベットに倒れこんだ。ラズは、アディスと共に病院の裏庭に行ってしまった。
(あの映像は、何だったんだろうか?)
黒煙龍との記憶がよみがえる。森に突然落ちてきた大剣。それを持ち去っていった者。さっぱりわからない。ただ、大剣を持つ者と昔会った気がしてならない。
「人間って無力だな・・・。」
稲田はつぶやいた。
「なに言ってんだよ、お稲荷さん。」
横にいた、B・Jが言った。
「たしかに、魔物と比べるとそうかもしれない。でも、だからと言って無力と思っちゃいけない。君には君の力があるじゃないか。」
稲田は、微笑んだ。
「そうだな。」
「じゃあ、私は『ポケットモ○スターアドバ○スジェネレーショ○』を見に行ってくる。」
B・Jは、一階のテレビを見に出て行った。その時、ちょうどラズが入ってきた。
「稲田・・・。なんか、ムズムズしないか。」
「あぁ、俺も気になってたんだ。」
そう言うと稲田は魔本を取り出した。なんと、金色に光り輝いている。
「最大呪文のところが光っている・・・。」
すると突然、光が一方を指し示した。
「僕たちを、導いているようだな。」
稲田は頷くと、光の指す方向へ歩き出した。ラズもついて行く。
光は、廊下の突き当たりの個室を指していた。ネームプレートに、『八月一日 優一』と書いてある。
「妙な名前だな。なんと読むのかわからん。」
そう言うと、稲田はノックをしてドアを開く。
目に入ってきたのは、魔本を持つ少年だった。その瞬間、急に魔本が今まで以上に激しく光だした。まるで、共鳴しているようだった。
「ぐ・・・!」
その時、ラズが手を押さえた。手から細く、煙が出ている。
「どうしたんだ!」
稲田がラズの手の平を見ると、驚くべき事が起こっていた。ラズの手に紋章が浮かび上がってきたのだ。
丸い円の中に、左を向く馬、右を向く鷲、そして真ん中にはヒッポグリフが描かれていた。
「これは一体・・・!?」



第三十七巻 復活

「ちょっと、説明した方がいいな。」
ラズは、歯を食い縛りながら言った。紋章は、なおも煙を上げている。
「あの〜、誰ですか?」
その時、奥にいた少年が声をかけてきた。よく見ると、日本人だ。
「えっと、俺は稲田、こっちはラズ。別に怪しい者じゃないから。君と同じ、魔物のパートナーなんだ。」
そう言うと、少年も自己紹介をしてくれた。
「僕は、八月一日。ところで、ラズ君は大丈夫なのかい?」
どうやら、八月一日と書いて『ほづみ』というらしい。
「ご心配ありがとう。じゃあ、ちょっと説明させてもらう。」
ラズは近くの椅子に座り込むと、話し始めた。
「話は、1000年前から始まる。実は僕の父さんも、戦いに参加した一人だったんだ。」
(ちょっと待て〜!おまえの親父さんは今何歳なんだよ!!)
ふと、こんな思いが稲田をよぎったが、話は続く。
「そして、父さんに人間界で一人の仲間ができた。名前は、フィーデスだったかな?とにかく王にはなれなかったけど、二人は厚い友情で結ばれた。その時に、契約をしたんだ。互いの紋章を組み合わせたものを、互いの肉体に刻む。これによって、真の友情と強大な力を手にいれることになったんだ。」
その話を聞いて、稲田は気付くことがあった。
「ということは、スロットマシーンと戦った時に出た最大呪文が強大な力ということですね・・・。」
しかし、八月一日が先に言ってしまった。
「え!?おまえ、何で知ってんの?」
あの時いたのは、霧円、稲田、キガル、ラズの四人だけだったはずだ。
「そうか、わかったぞ。八月一日、君はキガルのパートナーだろう?」
ラズが、八月一日を指差す。
「よくわかったね。そうか、今はキガルと名乗っているのか。」
「というと?」
稲田が問いかける。
「キガルには、名前が無いんだ。ちなみに、僕にはフィーバスと名のった。」
すると、ラズは手をポンと打った。
「やっぱりな。フィーデスの子供がキガルだったんだ。そして、紋章がキガルの魔本に反応したんだ。それより、どうしてキガルと一緒にいないんだい?」
八月一日は、シュンとなった。
「キガルとは日本で会ったんだ。でも、僕の足の容態があまりにも悪いんで、アメリカに移ったんだ。それ以来、キガルとも会えなくなってしまったんだ。」
さらに、稲田にはもう一つ気になることがあった。
「今まで、どうやって術を発動したんだ?」
すると、八月一日はノートパソコンを取り出した。
「キガルの胸に、緑色の石が付いていただろう?あの中には小型カメラが入っているんだ。といっても、室内や雨の降っている時は受信できないんだけどね。」
ノートパソコンの画面に森が映し出されている。
「ここんとこ、森の風景ばっかなんだ。迷っているのかな?」
稲田は画面を凝視していた。
「これは、あの時の森だ。黒煙龍の。そして、情報によるとここはアメリカの森なんだ。なんか、最近術を出した?」
「あ〜、うん。画面が真っ暗な時があってね、助けるつもりで術を放ったんだ。」

謎が、一つ解けた。

「八月一日、キガルは日本に向かっているぞ。」



第三十八巻 交わり

今日の朝は、何かが違った。いつもの夢を見なくなったのだ。霧円は着替えと朝食を済ませると、魔本を持ち、ポチのいる場所へ向かった。
――残り1時間――
ポチは、門の前で待っていた。どうやら、霧円と同じ事を感じたらしい。1人と1匹は無言のまま(といっても、ポチはしゃべれないが)本能の示す方向へ歩き始めた。何が待っているのだろうか。疑問の渦が、霧円とポチを包み込む。
――残り45分――
だんだん、潮の香りがしてきた。近くに海が見えてきた。本能は、そこに行けと言っているようだ。霧円は、また静かに歩き始めた。その後ろを、ポチがトコトコついてくる。
――残り25分――
周りには、釣具屋などの釣り専門店が並んでいる。朝早いため、店は一つも開いていない。沈黙の世界が広がっている。しばらくして、海に着いた。波が、霧円を飲み込もうと上下している。ポチは初めて海に来たらしく、波と追いかけっこをしたり、貝殻を拾おうとしていた。(もちろん、ひづめで物を拾うことは不可能だ。)
――残り10分――
その時突然、海が二つに割れた。海底が、海の底から見え始めた。霧円は、別に驚く様子もなかった。あらかじめ、わかっていたことが予定どうり起こったという感じだ。そして、奴は現れた。フードをかぶり、全身黒尽くめだ。砂をゆっくりと踏みしめ、歩いてくる。背中から伸びている大剣が、太陽の光で輝く。
霧円がずっと待ち望んでいた者が、ついに来たのだ。
大剣を持ちし魔物が。
――残り0分――
魔物が海岸に足を触れさせた瞬間、海は元の姿に戻った。
それが、戦いの合図でもあった。

運命を変える戦いが、今、始まる。



第三十九巻 希望と絶望

魔物は、地面に勢いよく剣を突き刺した。とたんに、魔法円が現れた。そして、同時に剣も消える。
(夢と全く同じだ。)
霧円は、少し驚きながらも呪文を唱えた。
「グルク!」
ポチが武装される。相手は、武器を持っていない。チャンスだ。ポチがミサイルを放つ。しかしミサイルは軌道を変え、近くの石にぶつかった。まるで、磁石のようだ。ポチは、すぐさま飛び上がった。
「ギバウセン!!」
どこからともなく、声が聞こえきた。
上空から剣が落ち、地に突き刺さる。魔物は剣をつかみ、振り上げた。
「POCHI!」
ポチはこくっと頷き、400の弾を放つ。
魔物は、剣を使って弾を受け止めた。そして、すぐさまポチに切りかかった。かなりの跳躍力だ。ポチは、なんとか避けた。すかさず、霧円が術を言い放つ。
「ゲグルドォ!!」
地面と平行に壁が現れ、発砲した。
「ぐぅ!」
魔物は、剣をサーフィンボードのようにして風に乗り、避けた。
そして、上空から剣を振り落とす。剣は、霧円とポチの間に突き刺さった。同時に魔法円が描かれる。
「こ・・・れは!?」
魔法円の描かれた場所の時の速さが、遅くなった。霧円も、ポチも、術の効力が切れるの待つことしかできなくなった。
「ギバウセン!」
魔物の手に、剣が現れる。そして、霧円の心臓に突き刺した。
その瞬間、脳裏にたくさんの記憶が流れ込んだ。
キガルと出会った、雨の日。
初めての仲間。ラズと稲田。
謎の存在、中田とアドバン
ポチが日本に来た日。
そして、そして・・・・・あれ?
様々記憶が流れていく中に、悲しい記憶がない。
剣が、赤く輝いている。どうやら、悲しみを吸いっとているようだ。しばらくした後、剣は消えた。
「俺は、一体・・・。」
目の前にいた魔物が、フードを脱いだ。現れたのは、深い青色をしたぼさぼさの髪の毛。そして、赤く輝く瞳。心の底から、熱い何かがこみ上げる。頬を、熱い水が流れた。
「おまえは・・・・キガル?」
魔物は、頷いた。
「久しぶりだな、霧殿。」
霧円は、キガルの手を握り締めた。
「どこ行ってたんだよ、こんちくしょうめがぁ!!」
キガルも、強く握り返す。
「フフフ!どこかだよ!!」
(キガルに、地理の知識は全く無い。)
キガルの顔に笑みが広がっていく。
「おぬしの悲しき過去は、拙者が取り除いた。全ては、元通りだ。」
キガルが言った。
「あぁ、そうだな。」
霧円はそう答えたが、本当は違った。深い心の傷を治すことは、一生できない。
たとえ、魔物の術であっても・・・。
ポチも、そばでニコニコしている。
しかし、幸せがそんなに長く続くことは無かった。黄色い球体が、キガルに向けて放たれたのだ。
「うぁぁ!!」
キガルが、海に飛ばされる。
「誰だ!!」
霧円は、黄色い球体が飛んできた方向を見つめた。
「お久しぶりだ、鬼道。いや、部長と呼んでおこうか?」
そこにいたのは、巨大な銃を構える武野だった。



第四十巻 二人

「武野!?おまえ、一体?」
武野は、冷ややかな笑みを浮かべながら言った。
「俺は、魔物を消し去るために存在しているんだ。だから、そこの魔物にも消えてもらう。」
そう言うと、武野は球体を放った。
「なんのこれしきぃぃ!!」
霧円は、ポチをかばって球体に当たってしまった。しかし、球体は霧円をすり抜けた。
「なに!?」
武野は、銃を指差しながら言った。
「こいつの放つ球体は、魔物と魔本以外には無害なんだ。どうだ、すごいだろ?」
(なるほど、それであの時も無傷だったんだ。)
実は霧円も以前、黄色い球体をもろに受けていたのだ。
「ゲグルドォォ!!」
霧円は、かわまず術を放つ。武野の目の前に、壁が現れる。だが、球体によってことごとく破壊された。
「うお!?魔物の術をあんなにも簡単に・・・。」
その時、後ろからキガルが現れた。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ。だが、あの武器はかなり強いぞ。剣をたやすく破壊してしまった。」
キガルの手元に、ボロボロの剣が握られている。
「俺に、いい作戦がある・・・。」
霧円は、その作戦とやらをキガルに伝えると立ち上がった。
「行くぞぉぉ!ゲグルドォ!!」
武野の後ろ側に壁が現れる。
「意味のない攻撃をするとは。」
そう言うと武野は後ろを向き、壁を破壊した。
「うぉぉぉ!!」
キガルが、武野目がけて剣を投げる。
「うおっと!」
しかし、武野は軽々と避けた。だが、全ては作戦通りだった。剣を中心に巨大な魔法円が描かれる。
「磁気!!」
キガルが叫ぶと、魔法円が強く輝き始めた。
「これは!!」
武野の銃が煙を上げている。
「そうだ。機械は磁気に弱いと聞いた。だから、その場所だけ磁気を強めたのさ。」
「くそぉぉ!!」
武野は、銃を背負って逃げて行った。
「厄介なことになりそうだ・・・。」
霧円がつぶやく。
「あと、気になっていたんだが、あの剣にはどういう効果があるんだ?」
キガルは、少し考えた後にこう言った。
「拙者の考えを実現する剣だと、拙者は思っている。」
「そうか。」
そう言うと、霧円は考えこんだ。
(何かやばいことが起こりそうな気がする・・・。)
「霧殿〜!置いてくぞぉ!!」
気が付くと、キガルがポチに乗って家に向かって走っている。
「お、おい!待てよぉ〜!!」
そこには、楽しそうな2人と一匹の影があった。



第四十一巻 泥棒

とある平日、鬼道宅の前に四つの人影が現れた。一人がチャイムを押す。
「はーい、誰ですか?」
元気な声で霧円が言う。
「中田&愉快な仲間達です。」
バコッという殴られる音がする。
「訂正します。中田とアドバン、その他暴力的な仲間達です。」
「え〜、今日は平日ですけど、戦いやゲームはお断りです。」
霧円が、冷たく言い放つ。
「とにかく中に入れてくださいよ。」
そんなこんなで、中田が我が家にやってきた。
「新しい仲間を紹介しに来た。夜飛見 真左エ門とトラッパーだ。」
「よろしくっす。」
夜飛見は軽く会釈をした。身長は中田より少し低め、髪の毛はくしゃくしゃだ。
「パラッパァ〜!」
意味不明な言葉を発するトラッパー。それよりも、身長がかなり低い。約50センチぐらいなのだろうか。
(こいつ、絶対魔物だな。)
そんな思いを跳ね除け、こちらも自己紹介。
「あ、どーも。鬼道 霧円です。」
「拙者はキガルでござる。よろしくでござる。」
「・・・・。」
上から順に、霧円、キガル、ポチが言葉を交わす。
「って、待っち〜なボケェ!なんだこいつらぁ!!」
霧円が叫ぶ。中田は、指を鳴らした。
「夜飛見、椅子。」
「へい、中田の兄貴!!」
夜飛見が椅子を持ってきた。
(おいおい、仲間どころか奴隷じゃんかよ・・・。)
「話は、一週間前になる。たしか、夜中の1時ごろだった・・・。」
中田の話によると、一階の方から物音がしたからアドバンを連れて下に降りた。すると、人がいたのだ。中田はそいつらを泥棒と思い込み、コテンパンにしたと言うのだ。
「しかし、夜飛見は泥棒ではなくお袋の友達だったんだ。なんでも、家に招待されたのにドアが閉まっていたから忍び込んだんだとよ。」
「それで奴隷、じゃなくて仲間になったと。」
霧円は頷きながら言った。
「で、どんな術を使うんだ?」
「よくぞ聞いてくれた。これから空地に行こう。」
5分後、一同は空地に到着。
「ケラケラケラ♪」
トラッパーは、あいからわず笑っている。
「行くっすよぉ!ヴァミス!!」
球体がトラッパーを包み込む。
「これで、全方位からの防御ができるっす。ヴィゲ・リギオ!」
トラッパーは、術と同時に走り出した。
「は、速い!!」
トラッパーの姿が全く見えない。いつのまにか、トラッパーは足元にいた。
「さぁ、霧円。空地を歩き回ってごらん。」
中田がせかす。霧円は、言われるままに歩き出した。
空地に足を踏み入れた瞬間、横から矢が放たれた。
「ぬぉぉぉ!?」
霧円は、得意のブリッチの体制をとった。手を地面に付けると、今度は鍋が落ちてきた。
「うぎゃ!」
霧円は、情けない声を出して倒れた。そして、倒れた所全域が落とし穴となった。
「うぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しばらくして、ズトンという着地の音がした。
「この術は、トラッパーの触れた場所全てにトラップを仕掛けられるんだ。」
上から、中田の声が聞こえてくる。
「グルク!!」
霧円は術を唱えた。ポチが武装強化される。ジェットで助けてもらう寸法だ。
「POCHI〜!助けてくれ〜!!」
しかし、返事が返ってこない。
「お〜い!!」
――1時間後――
「俺を置いてくな〜!!ばっきゃぁろ〜!!」
自分が置いてけぼりにされた事に、やっと気付いた霧円だった。



第四十二巻 夢と現実

冷たい感触で、俺は目覚めた。どうやら、石に寝そべっているらしい。手元には魔本が置いてある。魔本を持ち、両手に力を入れる。簡単に体が持ち上がった。
(何だ?ここは無重力なのか?)
そんな事を思っていたら、隣の方から声がした。
「稲田、そこにいたのか!」
ラズが駆け寄ってきた。と言うよりは、泳いで来たと言った方が良さそうだ。
「ラズ、ここはどこなんだ?」
見たところ周りは真っ白で、球体の中にいるようだ。そして、壁、地面、天井らは全て、石のような冷たさだ。
ラズは、首を横に振った。
「僕にもわからない。でも、重力が無いのには驚いたよ。」
『魔物を持ちし者は、戦いに導かれる。』
その時、まさにその通りの事が起こった。
「やーっとこさ、目覚めたかぁ!?」
横を見ると、魔物と人がいた。人の方は、東洋人っぽい。魔物は、そのまんまカブトムシがでかくなった感じだ。
「おまえ、どこかで会ったことあるよな・・・。」
そう言うと、俺は深く考え込んだ。
そうだ、思い出したぞ。
「おまえは、俺達と戦った最初の魔物だろう?」
「憶えていただき、誠に光栄だよ。」
東洋人の方が、わざとらしくお辞儀をした。
「それよりおまえ、なんでここにいるんだ?」
今度は、魔物の方が口笛を吹きながら言った。
「な〜ぜかな〜?」
「くそっ、ふざけるな!ここはどこなんだ!!」
俺は、少々キレ気味で叫んだ。
「僕達に勝てたら、教えてやろう。」
「望むところだぁ!」
手元の魔本を開く。
(俺は、どうかしちまったのだろうか?)
魔本に、そう思わねば説明のつかないことが起きた。
『第一の術 グレイズ』
そこしか術が、読めないのだ。



第四十三巻 夢は現実

「グラビス!!」
試しに、他の術を言ってみたが発動しない。やはり、『グレイズ』しか使えないようだ。
「稲田、大丈夫か?」
心配して、ラズが俺に声をかけてくれた。
「あぁ、なんとかってところだな。」
そして、戦いは始まった。
「メィリヌ!!」
カブトムシの体が、銀色に変わっていく。
たしか、体をメタル化する術だったはずだ。
「グレイズ!」
メタル化すると、動きが鈍くなる。つまり、パートナーに危険が及ぶということだ。
そこを、この術で突けば・・・。
しかし、パートナーは軽々と避けてしまった。
「そ〜んな、ちんたらビームは効かんよ!」
俺は、本当に困ってしまった。
たしかに、『グレイズ』はスピードが少々遅い。それを、ちんたらと言われたらお終いだ。
その時、名案を思いついた。
「うるさいぞ!!グレイズ!グレイズ!」
ラズの両手から、矢印型のビームが発射された。
一つはカブトムシに、もう一つはパートナーに向けて放った。
パートナーは無重力を生かし、飛び上がって避けた。一方、カブトムシの方は銀の体で術を跳ね返した。
(よしっ)
俺は、この時を待っていたのだ。
無重力の時、移動中に方向転換はできない。つまり、避けることができないのだ。
「グレイズ!!」
跳ね返された光線と、ラズの放った光線が見事命中する。
パートナーは硬直し、頭ごと壁に突っ込んだ。
(後は魔本を!)
誰もが終わりと思ったこの瞬間を、カブトムシがくつがえした。
「ぐぁぁぁ!!」
ラズの叫びが後方から聞こえた。振り向くと、カブトムシの角で串刺しにされたラズの姿があった。
「ラズ!!」
俺は、ラズに駆け寄ろうとした。
「ちょっと待て〜!これ以上近づくと、どうなるかな?」
ラズの死を意味しているようだ。
(くっそ〜。あと、もう少しだったのに・・・。)
ちょうど、パートナーの麻痺効果もきれたようだ。
「メィリニア!」
すかさず、パートナーは術を唱えた。
「新呪文をいつのまに覚えたんだ!?」
俺ははっきり言って、驚いた。前に戦った時は、こんな術はなかったはずなのだが。
「稲田!」
ラズの声で、我に返った。
よく見ると、串刺しにされた部分からラズの体が、どんどん銀色になっている。
「見たかい、僕の新呪文。カブシに触れたら鉄になってしまうんだ。すばらしだろ?」
(このままじゃ、やばいな・・・。)
その時、ラズが合図を送ってきた。術を発動してほしいらしい。
「(一か八か)グレイズ!!」
カブトムシは麻痺した。どうやら、カブトムシの目を狙ったらしい。
(なるほど、目を鉄にしたら何も見えないもんな。)
今度は、パートナーが驚く番だった。
すかさず、俺は魔本を奪い取った。そして、手に触れた瞬間敵の魔本が輝き始め、自分の魔本に取り込まれた。
「もしかして・・・。」
ページをめくると、新たな術が読めるようになっていた。
『第二の術 グラビス』
「おめでとう、僕らの完敗だ。約束通り教えてやる。ここは『夢の現実』、『現実の夢』だ・・・。」



急に、意識が戻った。
辺りを見回すと、自分の部屋だ。
時計は、6時43分56秒を指している。
(夢、だったのか?にしては、妙にリアルだったな。)
手元の魔本をめくってみた。術が、2つしかない。
(まだ、夢の中なのか?)
その時、おかしなことに気付いた。
いつもなら、俺よりも早く起きているラズの姿がないのだ。
「ラズ・・・?」
ラズがいつも寝ている押入れの中を覗いてみた。
布団が、真っ赤に染まっている。
「おーい。」
そして、ついに見つけた。
腹に大きな穴を開け、息も絶え絶えのラズを。



第四十四巻 レム睡眠

あの後、ラズは病院に転送された。
医者の話によると、傷口が鉄におおわれていて手術は困難だと言う事である。
(あれは、夢じゃなかったのか!?)
術が二つ。重症のラズ。この二つの事実から考えられるのは、東洋人の言った謎の言葉だけだ。
『夢の現実』 『現実の夢』
夢は現実であり、現実は夢であるということなのか?
とにかく、戦うことでヒントがつかめるのは確かだ。
俺はそう決心し、ラズを見守ることにした。(そして、魔物の体の構造が人間に似ていることを願った。)
『手術中』のランプが消える。
失敗か、成功か・・・。
頭の中に、二つの運命が思い浮かぶ。
医者の言った言葉。それは・・・・
「成功です。」
自然と顔がほころぶ。
「それと稲田君、ちょっと話が・・・。」
医者にそう言われ、個室に連れて行かれた。
「なんですか?」
「実はラズ君の事なんだが、手術をしようとしたら・・・」
なんだかいやな予感がする。
「傷が治っていたんだ。本当に驚いたよ。一体彼は何者なんだい?」
どうする、どう言い訳をする?
その時、医者が急に倒れた。
(な、なんだ!?)
俺は、周りをキョロキョロ見回したが変化は無い。
これ以上面倒臭い事にはかかわりたくないので、逃げることにした。
――場所は変わってラズの病室――
「ラズ、大丈夫か?」
大丈夫なわけがないが、一応声をかけておいた。
「うん。稲田はどうなんだ?」
「めちゃくちゃピンピンだよ!!」
俺の声を聞いて安心したのか、ラズはゆっくりとベットに横たわった。
「あの夢は、なんだったんだろう?」
ラズが静かにつぶやく。
「おまえも見たのか!?」
「稲田もかい!?」
お互いの顔を見合わせる。
「じゃあ、あれは夢じゃなかったとしか言いようが無いな。」
「その通り。術が二つしかないのと、おまえの傷がそう物語っている。」
その時、二人の背筋に悪寒が走った。
「も、もしかして・・・!?」
「あぁ。たぶん、今夜も来るぞ。」


「今度はおまえか・・・。」
今、俺とラズは森の中にいた。
「久しぶりだね、稲田君。」
そこにいたのは、煙を操る魔物だった。
(奴には最大呪文で勝った。しかし、今あるのは『グレイズ』と『グラビス』だけだ。それに、ラズだってまだ回復しきってない。どうする!?)
心臓が高鳴り、手が震えた。



第四十五巻 ノンレム睡眠

(一応、五感強化だけはしておくか。)
「グラビス!」
ラズの体が光に包み込まれた。
「スモーガル!!」
敵も俺と同じことを考えたらしい。煙の鎧が魔物に装備された。
「うぉぉぉ!!」
二人の魔物は、お互いに突っ込んだ。拳が飛び交う。
(ラズには煙の効果が効かないはずだ。今回も勝てる!)
しかし、その考えはくつがえされた。敵と激しい攻防をしていたラズが、急に倒れこんだのだ。
「な!?大丈夫か?」
ラズを覗き込むと、腹に巻いていた包帯が赤く染まっている。
「驚いたかい?」
「てめぇ、何をしやがった!?」
俺は、激しい口調で言い放った。
「あの煙は時間を早めるだけでなく、戻す事もできるんだ。」
パートナーは不思議な笑みを浮かべた。
「僕の見たところ、ラズ君は腹に怪我をしているようだ。なぜかって?そりゃぁ、腹に包帯を巻いてたら誰だってなんかあるなって思うよ。そこで、時間を戻して怪我を元の状態にしてやったのさ。」
俺は敵をにらみつけたが、内心は冷や冷やだった。
(やはり、術二つで勝てるわけが・・・。)
ふと気が付くと、ラズの姿が無い。なんと、あの状態でまた戦闘をしていた。
「ラズ、やめろ!下手すると死ぬぞ!!」
「そんな事はどうでもいい!それより、稲田は作戦を考えてくれ!!」
俺は、必死に考えた。もはや、時間との勝負だ。そして、俺はある物を見つけた。
「ラズ、北北東32°に手を!」
ラズは、腕を振り上げた。
「グレイズ!!」
矢印型の光線が見事命中した。俺は、落ちて来たその物体をキャッチすると、すぐさま敵に向けて放り投げた。
「作戦HS実行!!」
俺の投げた物、それは・・・
「や、やばい!!」
蜂の巣(『H』ACHIの『S』U)だった。一時的に麻痺していた蜂が一斉に動き始める。もちろん、狙うは一番巣の近くにいる魔物とパートナー。
魔物は煙の鎧のおかげでなんとかなったが、パートナーの方はボロボロだ。
「くひょ!しゃいひゃいひゅもんを!!」
訳)くそ!最大呪文を!!
唇が腫れ上がり、まともにしゃべれていない。でも、稲田には充分通じたようだ。
「ちょっと待ちな。俺達はおまえらよりももっと強力な術を持っているんだぜ。どっちが強いか比べてみるか?」
もちろん嘘である。
「くらえ!ラリルレロォ!」
俺はでたらめ呪文を唱えた。相手は手で顔をおおった。
「なんちゃって。グレイズ!!」
敵が気付いたときは、もう遅かった。体が麻痺して動かないのだ。
敵の魔本が自分の魔本に吸収されていく。
『第三の術 グレイズ・アイル』
術が、また一つ戻ってきた。



第四十六巻 PGO波

あの夢を見てから、もう8日も経つ。つまり、8つの術を取り戻したのだ。
カブシという、鉄の魔物。
フォルという、煙の魔物。
スロルという、コインの魔物。
黒煙龍という、空気の魔物。
どいつらも、かなりの強敵だった。しかし、俺達の力に勝てる奴はいなかった。
それよりも、一番驚いた事があった。
ケルベルクという、武装の魔物。
トラッパーという、罠の魔物。
アディスという、爆発と炎の魔物。
キガルという、武器の魔物。
そう、味方の魔物が登場したのだ。(トラッパーを除いて。)
かなり戦いにくかったが、もちろん全勝した。
そして、ここまで来て俺は気付くことが一つあった。
今、俺の目の前に立っている奴がまだ出て来てなかったのだ。
「やはり、戦わなくてはいけないようだな。」
「俺も、そう思っていた。」
ステージは砂漠。四人の間を砂風が通る。
「全てはあのころからだったな。」
「あぁ。今でも、くっきりと覚えている。」

俺は、3年から4年になると同時に親から見離された。
車で旅行に行くと見せかけて、遠い町に捨てられたのだ。
警察に行けば家に戻れるが、俺はそうしなかった。
なぜなら、親の虐待が怖かったからだ。
その日からが本当に大変だった。
ダンボールで寝床を作り、虐待で鍛え上げた力を使い、かつあげをした。
そんな生活の繰り返しだった。
いくら病気になろうと、天候が悪かろうと、俺の戦いは続いた。
そして6年の3学期ごろ、俺は奴に出会った。
いつも通り、俺はそいつに喧嘩を申し込んだ。
結果は、惨敗だった。
初めて、負けたのだ。
そんな時に、そいつは手を差し伸べた。
俺を、孤独の呪縛から解き放ったのだ。
それからすぐ、俺に仮の家族を提供してくれた。
その日から俺は古い名を捨て、『稲田 源』として生まれ変わったのだ。

「そして、俺はおまえにけじめをつけることにした。今までの恩返しも含めてな。」
二つの魔本が光り始めた。
「中田 康介!俺と勝負だ!!」
運命の歯車が、今、動き始めた。



第四十七巻 同調因子

実は、この日のために作戦V(ビクトリー)を考えておいた。作戦があるのとないのとでは、力が愕然に違う。
「ゼンデム・ドラガ。」
中田達の周りをドアが囲む。
中田は、武器を飛ばして攻撃をして来るのがいつものパターンだ。こんな時にはもちろん・・・
「グラビス!!」
ラズの五感が強化され、防御率が95%になった。
そんな時に突然不意打ちを受けた。砂嵐が来たのだ。
「マジかよぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
中田らはドアで防いだようだが、こちらは無防備状態。空高く吹き飛ばされた。
「あぁぁぁ!いい事思いついたぞぉぉぉぉぉぉ!!」
上空から降下中の俺は、ドアの防御が上に無いことに気付いたのだ。
「グレイズ×10!!」
グレイズの雨が空から降り注ぐ。突然の攻撃に、中田らは避けきれずに当たってしまった。
「グレイズ・アイル!」
すかさず、視覚封じの呪文を唱えた。これもまた命中する。
俺は、そのまま頭ごと砂丘に突っ込み、なんとか致命傷を避けた。
「ラギ・ゼンデム。」
立ち上がった瞬間に、多数の爆弾が襲い掛かって来た。
「稲田、下がれ!!」
ラズはそう言うと、爆弾を左右に受け流した。そして、手を構えた。
「グレイズ・ダヂル!!」
矢印型の光線が、ドアの透き間を狙って放たれる。
「ラゴウ・ゼンダルム。」
しかし、寸前の所でドアの中に吸い込まれてしまった。
「終わりだ。ラゴウ・ゼフォース!!」
俺とラズの周りを、四枚のドアが囲む。
「なんのこれしきぃぃ!グギルト!!」
だが、術を唱えても意味は無かった。
「春。戦意を忘れ・・・」
一枚の扉が開く。なんだか力が抜けていくようだ。俺は、重力に耐え切れずに座り込んだ。
「夏。酷き疲れを感じ・・・」
手前の扉が開く。あ、暑い。体から汗が噴出す。
「秋。肉体は傷つき・・・」
左の扉が開く。その瞬間、激しく風が吹き荒れた。腕や足に痛みを感じる。
「冬。全ては凍りつく。」
その声を聞いて、俺は意識を失った。
「稲田、おまえはかなり強くなった。俺が認める。」
中田は目が見えないため、手探りで稲田の魔本をつかんだ。
本を手に取ると、だんだん視力が回復してきた。
中田はガスバーナーに火をつけると、稲田の魔本を燃やした。
そして、完全に視力が回復した時に、中田はあることに気付いた。
なんと、燃えているのが自分の魔本なのだ。
「はっはっはっ、そういうことか!!俺の完敗だ!」
稲田は術で、自分の魔本と中田の魔本を入れ替えていたのだ。
視力の無い中田には、魔本の区別がつかないという巧妙な作戦だったのだ。
中田の姿が消えていく。
「今回は夢の中だから助かったぜ。稲田、がんばれよ!!」
稲田は、氷の中で勝利の笑みを浮かべていた。







第四十八巻 時と記憶と環境

朝の気分は最悪だった。
寒いのと嬉しいの二つの感覚が交じり合い、なんというか、微妙。
(まぁ『祝 中田に初勝利』な訳だし、今日の昼飯はコンビニでなくファーストフード店にしよう!!)
と思って財布を開けたが、あるのは小銭ばかり。
『祝 中田に初勝利』計画は無残にも終わった。
「ラズ〜、元気か??」
場所は変わってラズの病室。
行き場を失った俺は仕方なく病院へ行った。ラズは、相変わらず元気そうだ。
「ハハハ。その様子だと、稲田も元気そうだね。」
そんな愉快な会話は、一瞬にして作戦会議なった。
「それと、第九の術が出てるから作戦Vは成功したぞ!」
「やったね、初勝利だ!!」
そして、話題は今日の敵に変わり・・・
「一応、今まで会ってきた全ての敵と戦ったんだが次は誰なんだろうか?」
ラズは腕を組んだ。
「僕の予想だと、この夢の戦いをを仕組んだ張本人が出るはずだ。」
俺も、その事でずっと悩んでいた。もちろん、ラズの考えも間違いとは言い切れない。むしろ、真相のような気がする。
「だとすると、かなりの強敵なんだろうな・・・。」
俺は、ため息交じりでつぶやいた。
「大丈夫だよ!こっちには最大呪文があるじゃないか!!」
ラズはそう元気付けてくれたが、焦りが感じられた。

そこは、無限に広がる白の世界。全ては地と空で作られている。
そこにある、3つの人影。
「おまえは・・・誰だ?」
俺は、静かに問いかけた。
「私は、時と記憶と環境を操りし者。名は、ノアルだ。」
黒いシルクハット。身の引き締まったタキシード。顔には鬼の仮面。白い世界にある、唯一の黒だ。
「ノアル。俺は、何をすればいい?」
ノアルはクックッと笑うと、楽しそうに言った。
「何もしなくていい。存在を、語り合おう。」

夢の世界。そこは、時と記憶と環境を操りし者の場所。



第四十九巻 正体

「まぁ、まずは私の仕事を紹介しようか。」
そう言うと、ノアルは指で円を描いた。その円の中には、魔物の戦いが描かれていた。
「基本的には、魔物の戦いを人間界から消すことだ。」
俺には、意味がさっぱりわからない。
「つまりは、目撃者の記憶を操作し、環境を元の姿に戻し、時を操り修正をするというわけなんだけどわかるかな?」
なるほど。魔物の戦いを関係者以外の人間に見られたくないということか。
「あっ、そうそう。君、医者に問い詰められた事があったよね?」
確かに、ラズの回復力があまりにもすごいため、医者に質問(尋問?)されたことがあった。
「あの時、医者が急に倒れただろう?あれも、私の仕業なのさ。」
そんな時に、ある質問が思い浮かんできた。
「それより、どうしてこんな戦いをしたんだ?」
ノアルの表情はあまりよく読み取れない。唯一見えるのは目だけ。その目も、なんだか宙に浮いているようだ。
「まずは、君達の力量を測るため。もう一つは、君達に未来を伝えるためだ。」
「僕の未来がわかるのか?」
ラズは、驚いたように尋ねた。
「わかるとも。君はね、王にはなれないいだ。というよりも、なっちゃいけない。」
いきなりの発言に、ラズと俺は驚いた。魔物の戦いに負けるという事なのだろうか?
ノアルはその事に軽く触れた後、たくさんあるポケットから何かを探り出した。
「あと、これも返さなきゃね・・・。」
ノアルの投げた物体は、魔本に吸い込まれた。ページをめくると、全ての術がそろっていた。
「後もう一つだけ聞いてくれ。君にはたくさんの仲間がいるだろう?」
頭に、キガルやアディスの顔が思い浮かぶ。
「その人達を大事にするんだ。」
ノアルは、キガルの顔を描きながら言った。
「特にキガルだ。キガルは君の最大の力になる。」
言い終わると、白の空間にぽっかりと黒い穴が現れた。
「さようなら。ラ・フィーネとそのパートナー。」
その言葉を聞いた時にはもう、黒い穴の中だった。

驚いた。
時間が戻っている。
夢の戦いを初めて見た日の朝に戻っているのだ。
もちろん、ラズもいる。
「ラズ、一体あれは何だったんだろうな。」
俺は、そう言いながら押入れの戸を押し開けた。そこにいたラズは、なんと震えていた。
「どうしたんだ!?」
「稲田、『フィーネ』の意味がわかるかい?」
ラズは、静かに問いかけた。
「わからん。」
少し間をあけた後、ラズは震えた声で言った。

「『神』だよ。」



第五十巻 再会

「うおおぉぉぉ!?」
霧円は、汗びっしょりで起き上がった。
(何だったんだあの夢は?)
霧円はカレーをお腹いっぱい食べた後に、大好物のエビフライが出され、一つも食べれなかったという最悪な夢を見たのだ。
「おぉ、霧殿!おはようなのだ!!」
キガルがバルカン二世(霧円作)を持って遊んでいた。
「あぁ、おはよう。さぁ、朝飯行くぞぉ。」
そして、朝ご飯に出てきたのは・・・
「あぁ!!憎きカレーがなぜここにぃ〜!?」
そんな霧円を椅子に座らせると、霧円のお母さんは言った。
「昨日の残りよ。ちょっと多く作りすぎちゃって!」
お母さんは『ちょっと』と言ったが、皿に盛ってあるカレーの量は間違いなく、大人4、5人分だ。
霧円は一分で食べると、外に出かけた。
「POCHI!」
霧円は今、稲田宅の前にいた。ポチを何とか呼び寄せると、散歩に行く。いつものパターンのはずだったが、いきなり目の前にドアが現れた。
「お久しぶりっす、鬼道さん。」
そして、中から現れたのは夜飛見だった。
「この前はよくもぉ〜!!」
霧円は、かまわず夜飛見をボコボコにした。
ボコボコにされた夜飛見は、霧円達をドアの中へ導いた。
「こ、こひゅらにどうひょ。」
ドアの向こう側に行くと、一面中緑色に染まっていた。草木の天国だ。
「お〜い、霧円!!」
驚いた事に、向こう側から稲田が走って来た。
「あれ?なんだ、まだ夢を見てるのか。」
と思ったが、稲田は霧円の頬をつまみ、現実である事を確認した。
「おまえ、どうしたんだよ。あれからまだ、半年しか経ってないぞ。」
稲田は後頭部をかきむしりながら答えた。
「いや〜、飛び級に飛び級を重ねて、卒業しちゃったんだよね!」
稲田の天才っぷりに驚いていた時に、ラズの方も驚いていた。
「あっ、君はケルベ・・・。」
ルクと言おうとしたらしいのだが、霧円の光速に近いスピードで言い放たれる『ポチ』の連続でかき消された。
「さぁ〜て、皆さんそろったところで、新しい仲間に自己紹介でもしますか!」
いつのまにかいた中田の声で、皆は自己紹介を始めた。
「鬼道霧円です。カレーよりエビフライが好きです。キガルとPOCHIのパートナーでもあります。」
よほど朝の夢が癪に触れたらしい。
「拙者はキガル。武術が好きなのだ!!」
「パクパクぱくぱくぱく。」
ポチは一生懸命しゃべろうとしているが、『パク』しか聞こえない。
「俺は稲田源。一応、戦略家でラズのパートナーです。」
「僕はラズ。こちらは僕のライバル・・・」
ラズが手を向けた所には、アディスとB・Jの姿があった。
「アディスです。日本のカップラーメンが好きです。」
「ブルース・ジェイソンことB・Jです。本場のポケモ○を見に来ました。」
と言いながら、日本の『ポケモ○赤』を体験している。
「中田康介です。まぁ、りーダー的な存在です。」
と言った瞬間、皆の頭の中でブチっという音がしたが気にせず次へ。
「名はアドバン。」
アドバンはボソッとつぶやいた。
「夜飛見真左エ門と・・・」
「トラッパァ〜!!」
一通り自己紹介を終えると、中田が急に立ち上がった。
「今日は、皆でピクニックをしましょう!!」
中田の手には、しっかりとランチボックスが握られていた。


2005年03月24日 (木) 18時28分


(975) 夢現 〜仲間達の過去〜 投稿者:キャメロン大佐

第五十一巻 弱肉強食

「しかし困ったなぁ。」
中田は急に悩み出した。
「どうしたのだ、中殿。」
キガルが心配して声をかけた。
「いや〜、ランチボックスが2つしかなくて・・・。」
「なに!!?」
一同は驚きの声をあげた。その時、中田はポンッと手を打った。
「いい事考えたぞ!!俺はランチボックスと一緒にあの山の頂上にいるから、一番先に着いた奴にランチを提供しよう。」
そういうと、中田はいつのまにかあったドアの中に消え去った。たぶん、頂上に行ってしまったのだろう。
ぐぅ〜〜。
一同の腹が鳴る。
「じゃぁ、俺はこっちに行かせてもらうわ。」
霧円とポチとキガルは、そう言って西の森へ入って行った。
その後、残された3人もそれぞれの方向へ向かった。
そして、こちらは霧円チーム。
「なぁ、ここはどこなんだろうな?」
霧円がキガルに問いかけた。中田には毎回さんざんな目に遭わされているため、ここにも何かあるはずだ。霧円はそう推理したのだ。
しかし、キガルが答えるよりも早く答えは現れた。
ギャシャァァー!!
「は!?恐竜!!?」
そう、目の前には数十メートルもある恐竜が立ちはだかっていたのだ。
「ノ、ノオォォォォォォォォ!!」
霧円はキガルとポチをつかむと、回れ右をした、が。
キシャァァ〜!!
「か、囲まれてるぅ!!」
絶体絶命になってしまった哀れ霧円チーム。
そのころ、夜飛見は・・・
「待てよぉぉ!!」
空飛ぶ恐竜に魔本を盗まれ、追いかけ中。
「いや〜、いい景色だ。なぁ、アディス?」
「あぁ、空気がおいしいな。修行に最適だ。」
そんな時に、ラズとアディスらはのんきにピクニック気分を満喫していたとさ。



第五十二巻 状態変化

「キガル、バルカンを貸せぃ!!」
そう言うと霧円はバルカンを奪い取り、恐竜に投げつけた。
「恐竜はずっと前に絶滅したんだ。だとすると、こいつらは幻覚だ!」
つまり、バルカンが恐竜の体を突き抜けることを想定したのだろう。だが、現実はそんなに甘くはなかった。
恐竜は飛んできた物体を口でつかみ、バリバリと食べ始めたのだ。
「あ、あ、拙者の、拙者のバルカンがぁ・・・。」
こうして、二代目バルカンは無残にも消えていった。
「本物なのか!?おぉ、グルク!!」
ポチが武装強化された。そして、すぐさま威嚇射撃。
ゲェシャァァ〜
(え、何?逆切れぇ!!??)
鋭い爪がポチを襲う。切り傷がドンドン増えていく。
霧円は、ポチの背中に絶望しているキガルを乗せ、自分自身はポチの足に摑まった。
「ジェットで飛び上がれぇぇ!POCHI!!」
ポチは言われた通りに飛び上がったが、恐竜の背の高さには勝てなかった。あっという間に地面に叩きつけられ、逆戻り。
「こうなったら、ゲグルドォ!!」
霧円達の周りに四枚の壁が現れた。が、恐竜はあさっりと乗り越えてきた。
「何ぃ!?あとはもう、キガルしかいないじゃん!!」
霧円はキガルの肩を持ちブンブン揺さ振ったが、バルカンがよほど効いたらしい。反応なし。
そして、鋭い爪が再び襲ってきた。敵は、霧円達が疲れるのを待っているらしい。
「ここは、俺達がやるしかないいようだ。」
ポチも鼻息を荒げながら、やる気満々の様子。
魔本が、強い光を放つ。
「おぉ、新呪文や!スピニティ・ゲルグビア!?」
術を言うと、ポチの武装が違う形になっていった。
ボディが流線型になり、ミサイルなどの飛道具は消え、代わりにカッターのような刃物が体の両端に装備されている。そして、目にはなんとサングラスが装着されていた。
「おまえ、スリムになったなぁ。足が伸びたんとちゃう?」
霧円は無視して、ポチは一匹の恐竜に突進して行った。
その速さはすさまじかった。トラッパーには及ばないが、かなりの速さだ。
瞬きすると、そこにはボロボロの恐竜がたたずんでいた。
「おぉ、瀕死じゃねーか。POCHI、手加減したんだな。」
ポチはこくっと頷くと、まだいた3匹の恐竜をにらみつけた。
こうして、恐竜は全て去っていった。
ガァァァァァ
遠くの方でかなりでかい恐竜の鳴き声がした。
「キガル、POCHIに乗れ。やばい気がする・・・。」
2人が乗り込むと、ポチは鳴き声のした方向に走り出した。



第五十三巻 高所恐怖症

「待ってくれよぉう!!」
夜飛見は、息を荒げながら翼を持つ恐竜を追いかけていた。
「パラッパラッパァ〜!」
トラッパーもクルクルと回転しながら楽しそうに夜飛見を追いかけて行く。
「く、くそぉう。このままじゃきりがないっす。」
夜飛見は走りながらも考えた。
(あいつの動きを止めることが先決っすよね・・・。)
そして、ある考えを思いついた。素早く近くの石を拾うと、恐竜に向けて投げ飛ばす。
石は、かろやかなカーブを描きながら恐竜の首に命中した。
一瞬動きが止まり、すぐ目の前に恐竜が迫ってきた。
(今だ!!)
夜飛見は、魔本にかじりついた。
「あっ、やべぇ!トラッパーを忘れたぁ!!」
下を見ると・・・見れない。夜飛見は高所恐怖症なのだ。
(ヒ、ヒィィィィィィ!!怖イヨヨヨヨォォォ!!)
夜飛見の体は硬直し、魔本にしがみつくのも精一杯だ。
手が汗で滑り、何度も落ちそうになるがなんとか持ちこたえた。
「トトトトトラッパー!!助けてくれぇぇ!!」
恐竜の方も、疲れてきたらしい。ついに、魔本ごと落とした。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
夜飛見は落下していった。地面と逆の方向に顔が向いているので、あまり怖くはない。
(空ってこんなにきれいだったんだ。)
最近の人はあまり空を見ない。空への憧れやパワーを感じないのだろうか。それとも、下を見ることしかできない人達なのだろうか。
よくはわからないが、両手で魔本をしっかりと握り締め、なんとなく術を唱えた。
「ヴィゲ・リギオ。」
ズボッ
両足が何かにはまったようだ。地に足がつかない。それに、液体の中にいるようだ。
「これは、底無し沼!!」
見回すと、トラッパーがすぐ近くにいた。どうやら、落下地点に罠を作ったらしい。
「ありがとう。と言いたいんだが、どっちにしろ俺死ぬんじゃないか?」
もう、胸まで沼に浸かっている。そんな時にトラッパーは太い枝を差し出した。腕をかけ、脚を投げ出す。なんとか助かったようだ。
ガァァァァァァ
その時、すごい鳴き声が森を振動させた。動物が鳴き声とは逆方向に走って行く。
「なんだろうか。見に行くか、トラッパー?」
「パラッパァ。」
トラッパーは頷いた。と同時に夜飛見の襟首を掴み、走り出した。
「く、首が苦しいィィィィィ!!」
すごいスピードで走る小人と、引きずられている人影が、森の中を駆け巡る。



第五十四巻 全員集合

「B・J、ゲームどこまでいった?」
「いやー、この前レベル3の奴に手持ちを全滅させられちゃってさぁ。」
四人は楽しく歩いていた。気付くと、目の前に巨大な壁が立ちはだかっていた。
「これは、なんだ?」
ラズは、壁に手を当てながら言った。
「邪魔だから、俺がなんとかする。B・J!」
B・Jは魔本を開き、術を唱えた。
「ベルアス!!」
アディスの片腕が燃え上がった。
「はぁぁぁぁ!!」
壁に、高熱の拳を押し当てる。
ガァァァァァァ
上の方で、すごい鳴き声が響いた。
「なんだ!?」
一同が見上げると、ナイフのような歯をちらつかせる恐竜の顔が現れた。しわくちゃな顔が痛さと怒りでさらにしわくちゃになっている。実は、皆が壁と思った場所は恐竜の尻尾だったのだ。
「そんな馬鹿な!恐竜はずっと昔に絶滅したはずだぞ!!」
稲田はため息まじりに答えた。
「中田のことだ、何かあると思ったよ。どうやら俺達は恐竜の時代に連れてこられたようだ。」
その時、左右の方向から砂埃を上げて何かが突っ込んできた。
「キガル、やめろ!たかがバルカンくらいで自殺するなぁ!!」
「もう、いいのだ。拙者は、拙者は・・・・。」
ポチに乗ったキガル達が左からやってきた。
とすると、右の方は・・・・
「パラパラパラァ〜パ!!」
「うっ・・・。ピ――――――」
トラッパーは元気だが、夜飛見は心拍が停止している。
「皆、どうしたんだ?」
稲田は驚きを隠せず、口をぱっかりと開けている。
「ガァァァァっていう鳴き声を聞いたからなんとなく。」
ガァァァァァァァァ
言ってる側から鳴き声が響く。
「POCHI!俺達の新呪文を見せてやろうぜ!!」
霧円は銀メッキ色の魔本を開いた。光がページから漏れこぼれる。
「スピニティ・ゲルグビア!」
ポチの体を銀色のボディが包み込む。
「行っけぇぇぇぇ!!」
銀色の筋が見えたかと思うと、恐竜が急に倒れこんだ。
「よくやったぞ!次は・・・うぐっ!!」
霧円の腹に強烈な頭突きが入った。恐竜が倒れた時に偶然当たったらしい。
恐竜が目を開くと、目の前においしそうな肉が転がっている。
恐竜は両手で肉を引き寄せ、かぶりついた。
「うぉぉぉ!霧殿を放せぇぇ!!」
キガルは、恐竜の腹に拳をくらわせた。
恐竜はあまりの痛さに、口を大きく開いた。
「ヴィゲ・・・リギ・・・・オ。」
夜飛見は、最後の力を振り絞って呪文を唱えた。同時にトラッパーは恐竜の周りをグルグルと走り始めた。
あっという間に巨大な落とし穴が現れ、恐竜は落ちていった。
「ううっ。」
霧円の腕には、深い傷跡が残されていた。
「や、やばいのだ。霧殿がぁぁ!!」
「どけ、俺に任せろ!」
アディスは人々をかきわけながら現れた。
「このままじゃやばいな、ウイルスに感染しちまう。応急処置だ、B・J!!」
「ベルアス!!」
アディスの片腕が炎に包まれる。傷口に指を当て、密着させた。その瞬間、霧円が起き上がった。
「治ったぁ〜!!復活だ!!」
魔物とほぼ同等の回復力を持つ人間は、たぶんこいつしかいないだろう。
「まぁとにかく、もう暗いことだし今日はここでキャンプしよう。」
稲田がお決まりの文句を言った。
火は空気をなめ、枝を炭にしていた。
「は〜い皆さん、せっかくここに来たんだから何か話でもしましょう!」
完全に元気になった霧円が皆に呼びかけた。
夜遊び開始だ!!



第五十五巻 悲しき過去

「じゃあ、俺は企画者だからパス。」
とたんにブーイングが飛び交うが、それを無視してキガルが話し始めた。
「拙者達が恐竜に会った時、バルカンが瞬殺されたのだ。実は、実はあの中に・・・・。」
キガルは歯を食いしばっている。よほど悲しかったのであろう。
「き、霧殿の・・・ぜ、全財産が入れてあったのだ。」
「な、なにぃ!?」
霧円は驚嘆の声をあげた。
「霧殿の貯金箱がこの前紛失した時に代わりに入れといたのだ。」
「どうりで、金がないと思った。」
霧円はそう言うと、脱力し、倒れた。
次はポチだが、しゃべれないのでパス。
「俺は、ついさっきゲームをクリアした。それくらいかな。」
今度はB・Jが答えた。今日の朝、ゲームを始めたのにもうクリアしたようだ。
「次は俺だな。じゃあ、どうしてこんな体になったのか教えてやろう。」
B・Jの隣にいたアディスが自分の手の平を見つめながら言った。

俺に触れた魔物は皆溶ける。例え、肉親であっても・・・。
そういうわけで、俺は仲間はずれの対象だった。
そんな俺の行き場所が一つだけあった。図書館だ。
本の中はとてもすばらしかった。俺は毎日のように通い、物を言わない友達をたくさん作った。
そして、いつものように本に手を伸ばした時、違う手に触れたのだ。
互いの片手は使用不可になったが、おかげで仲間を見つけることができた。
名はベネル。
彼に触れた所は、爆発する。そのせいで俺の手は吹き飛んだ。
まぁ、友達に会えたから別にいいんだけどな。
それから俺達は架空の世界の旅をやめ、現実の世界を冒険した。
洞窟の中で鬼ごっこをしたり、森の中に秘密基地を作ったり。
好奇心をくすぐる事は、危険であっても全てやった。
一つの課題を成し遂げるたびに、俺達は笑い、次にする冒険を考えた。
そして、ついに事件はおきた。
二人で山を登っていた時だった。突然、土石流が流れてきたのだ。
俺は硬い石に押し倒され、山のふもとまでいっきに流された。
その後は病院の人から聞いたのだが、俺は片腕と片足の骨が粉々に砕け、傷口に大量の砂が入るという重体だった。
ベネルの方は、頭を強打し出血が止まらないそうだ。
そんな中、手術をしようとする者は誰もいなかった。
なぜなら、二人に触れた者は一生手術のできない体になってしまうからだ。
その時意識があったのはベネルだけで、俺はずっと意識が無かったそうだ。もちろん二人の家族は全員集まった。
「僕は・・・もう、だめだ。だから、だから僕の体を・・・奴に提供してやって・・・・くれ。」
ベネルはかすれた声でそう言うと、この世を去った。
その言葉を聞いた二つの種族は力を合わせ、魔法を手に入れた。
そして、俺はここにいる。
つまり成功したのさ。
あの時に巨大な魔法円と空に浮かぶ五つの剣が見えた。
それと、二つの種族は手術をすると霧のように消え去ったそうだ。

アディスの話が終わると、皆黙りこくった。
誰にでも、つらい過去や苦い思い出はある。
でも、ここまで悲しく、寂しい思いをしたのはアディスだけなのではないのだろうか?
自分の救えなかった奴が、自分の中にいる。
過酷な運命だ。
「だから、俺もその魔法を学ぼうとしたができなかった。でも、一応医学はできるほうなんだぞ!!」
アディスのちょっとした自慢で周りの緊張は解けた。
アディスの手に、皆が手を重ねた。
「がんばれよ。」
今言えるのは、この言葉だけだ。



第五十六巻 人間のわがまま

「次は、僕が話そう。」
そう言ったのはラズだった。
「ケルベル(霧円の鋭い視線)いや、POCHIがさっき言おうとしていたことが僕にはわかるんでね、皆に話そうと思う。」
それを聞くと、ポチは口をパクパクとせわしく動かし始めた。
「アディスとかぶるが、POCHIの過去の話だ。」

ポチと初めて出会ったのは、肌が軽い火傷をするくらいの暑い日だった。
僕は、暑い日にはいつも涼しい森に行っていた。
いつものように森にいると、虫に追いかけられる犬の姿が見えた。
僕はすぐさま手を掲げ、麻痺呪文を唱えて犬を救ったんだ。
僕にはどんな言語でも理解する能力が具わっていたから、どんな経過でここに来たのかすぐわかった。
名前はケルベ(霧円の鋭い視線)でなくてPOCHI。
聞いた話によると、人間界にいたそうだ。
生まれた時から労働のために働かされ、ご飯は全て、主人の残飯だそうだ。
もし逆らったりすると、足に鉛をつけ、川に投げ込まれる。
毎日毎日が精一杯だった。
そして、ついに脱走を考えるようになった。
首についている鉄製の首輪を、壁にこすりつけて厚さを薄くしようとした。
そんな時、主人は犬の首輪を外したまま散歩に行ってしまった。
犬はすぐさま走り出し、遠くへ、遠くへと逃げって行った。
それからと言うもの、拾われては捨てられ、拾われては捨てられの繰り返しだった。
50人目の主人に捨てられた時、犬は強く思った。
「他の世界に行きたい。」
その瞬間、目の前に巨大な扉が現れた。
犬は、導かれるようにして扉の中に入った。
そして、魔物になるかわりに声を奪われ、ひづめが与えられた。

「これで、POCHIの術が全て近代的な人間の兵器だという謎が解けるだろう?」
この場合は人間の身勝手さがポチを傷付け、人間を嫌いにさせたのだろう。
いや、人間を憎む動物は沢山いるはずだ。
いつか必ず、人間はなんらかの方法で復讐を受ける運命に立たされている。
「おっと、もう夜明けだな。皆、山まで一気に突っ走ろうぜ!!」
そんな霧円の一声で、皆は立ち上がった。
あの憎き中田を潰す(殺す?)ために。



第五十七巻 化石発掘

「最悪だな。」
ラズは、小さくつぶやいた。
一同は無事に山のふもとに着いたのだが、目の前には何千もの扉のトラップが仕掛けられていたのだ。
100%中田の仕業だ。
「強行突破だ!!行くぞ!」
霧円を先頭に、皆山を登り始めた。
いきなり3枚の扉が開き、中から飛道具が放たれる。
「グラビス!」
ラズが現れ、槍や剣を払いのける。
今度は50枚の扉が開く。
「スピニティ・ゲルグビア!!」
ポチは、扉をドンドン破壊していく。
「俺達も行くぞ!ベルアス!!」
アディスに触れる矢や爆弾は瞬時に溶け、その勢いで扉も爆破する。
「トラッパー、皆を守れ!!ヴァミス!」
皆を包み込むほどの巨大な球体が現れる。
「行っけぇぇぇぇぇ!!」
9人のコンビネーションは凄まじかった。もはや、向かう所敵なし。
そして、ついに山頂に到着した。
だが、そこには中田の姿はなく、1枚の扉と紙切れが置いてあった。
「『疲れたので帰ります。皆はこの扉を使ってください。』だとぉ!!」
霧円は扉を蹴り開けた。
「あれ?皆早かったねぇ。」
中田はのん気にサンドイッチを食べている。
ブチッ
(かなり暴力的なため、ここからは音声でどうぞ)
「グレイズ!!」
バキ、ボカ、ゴキ
「ベルアス!」「スピニティ・ゲルグビア!」
シュン、ジュ、ジョバ、ドゴーン
「ヴィゲ・リギオ。」
ヒュン、グサ、ドシュ、バン

中田をボコボコにした後、皆はそれぞれの家に帰った。
「お昼のニュースです。」
テレビに無表情のアナウンサーが映る。
「今日の午前5時ごろ、福井の発掘現場から奇妙な恐竜が発掘されました。」
続いて写真に入れ替わった。そこには、尻尾の骨が溶け、足の骨が粉々になっている恐竜の化石が展示されていた。
「専門家の櫻崎さん、この恐竜はどうしたんでしょうか?」
『専門家』のところをかなり強調させ、アナウンサーが言った。
「はい。たぶん、尻尾が溶岩に触れて溶け、痛さによろけているいる時につまずいて足を複雑骨折したのでしょう。」
これを見ていた霧円とキガル。
「あぁぁぁぁぁぁ!あの時の恐竜!!」
歴史を超えた、大発見。



第五十八巻 お花見

アディスは近所の公園をいつもランニングし、トレーニングをしている。
「おっ、ついにつぼみが出たな。」
そして、桜の木を見ることが一種の日課になっていた。
さらに、木に一つ一つ名前をつけているのだ。この公園には十本の桜があり、それぞれ『花男、花次郎、花三郎、花輔、花子、花実、花城、花利、花美、アディスの木』となり、お気に入りはもちろん『アディスの木』だ。
そんな公園の常連客とも仲良くなった。
まずは、猫の三毛猫マイケルだ。いつも花子の下でゴロゴロしているので、猫じゃらしで遊んでやっている。
次は、カラスのミケランチェロ。なぜかは知らないが、いつもアディスの頭に乗りたがる。
そんな楽しい仲間達と遊びながら(世話をしながら?)アディスは日々トレーニングに励んでいた。
(あれ?)
いつものようにミケランチェロを頭に乗せ、三毛猫マイケルと遊んでいると、人がめったに来ない公園に人が来ていたのだ。
しかも、本編始まって以来初めての女の子だ。(霧円母と稲田母を除いて)
その子は次の日も次の日も現れた。雨の日にはさすがに来ないが、それ以外はちゃんと来る。
(なにやってんのか、見て来い。)
ミケランチェロにそう命令して、偵察に行かせる。
数分して帰ってきたミケランチェロが言うには、その子はスケッチブックに何かを一生懸命書き込んでいるそうだ。
アディスは気にも留めず、今日もまた仲間達と遊ぶ。
「アディス!花見に行こうぜ!!」
場所は変わって高校の寮。すっかり日本人化したB・Jが、ブルーシートと100本入り団子パックを持って言った。
「あぁ、ならオススメの場所があるぜ。」
もちろん、いつもトレーニングをしている公園だ。今はアディスの木を除いて全ての木が満開だ。
その時、急に雨の音がし始めた。
「な、雨だと!?」
「あっ、電話だ。」
どうやら、雨の降る音を着信音にしているらしい。かなりめざわりだ。
「B・J!おまえ、今どこだよ!!」
霧円の怒鳴り声が響く。
「え?自宅だけど・・・。」
「おめぇ忘れたんか!!今日は、パートナー同士の花見パーティの日だぞ!!」
B・Jの顔に汗が浮かぶ。
「あ!でも、なんで魔物抜きなんだ?」
「うるさいから。」
ガチャッという音が携帯からした。
「じゃ、行ってくる!」
B・Jは大急ぎで外に出て行った。アディスの両手にはブルーシートと100本入り団子パックが握られている。
「一人で行くか。」
アディスは結局一人で花見をすることにした。
公園に着くと、ミケランチェロと三毛猫マイケルが近寄ってきた。
「アディスの木は・・・おぉ!!」
なんと、アディスの木が満開になっていた。
さっそくシートを広げ、団子を取り出す。
周りを見ていると、スケッチブックの女の子がいた。
「なぁ、一緒に花見やろうぜ!」
アディスが大声で呼びかけた。大勢の方が盛り上がるに決まっている。
「え、でも・・・。」
女の子は頬を赤く染めた。
「まぁいいから。」
アディスは半ば強引にシートに座らせると、団子をくばる。
女の子が団子をほうばるのを見届けると、アディスは動物用に団子を小さくちぎり始めた。
女の子はすかさずスケッチを始める。
それから夕日が暮れるまで、二人と二匹は団子を食べまくっていた。(おかげで100個の団子を見事完食した)
桜の木が夕日でオレンジにそまり、辺りが暗くなる。
「では、また今度!」
アディスはそう言うとブルーシートを丸め、去って行った。
実は、彼女が大切に持っているスケッチブックにはアディスが動物にやさしく接している様子が鮮明に何枚も何枚も描かれていたのだ。
春の季節が、アディスにもやってきたようだ。



第五十九巻 森の楽園

稲田とラズは、久しぶりに山登りをすることにした。
初めて行った時はB・Jのせいでめちゃくちゃになったが、二人なら楽しく行けそうだ。
しかし、B・Jがいなくても災難は起こった。
山の天候が変わりやすいため、すぐに雲が現れ、雨が降り始めたのである。
「ヌォォォ!予定外だぞ、こんなこと!!」
「稲田、落ち着け!あそこに灯りが見えるから行ってみよう。」
そこには、小さな山小屋が作られていた。小さいにしてはかなり頑丈そうだ。
「すいませ〜ん。」
ドアを開けると、暖かいシチューの香りが漂う。中には、一人の男と子供がいた。稲田はすかさず頭を下げる。
「迷惑ですが、雨が降ってきたのでここに泊めさせてください!!」
突然のことに二人は少し驚くが、笑顔で答えてくれた。
「いいですよ。」
中に入れさせてもらうと、稲田はさっそく観察し始めた。
周りには、鍋やナイフ、そして自転車までもがあった。
しかも、部屋にあまりホコリがない。新築のようだ。
(作ってからまだ1年も経ってないな・・・。)
そんなことを考えている内に、食事の準備ができたようだ。コーヒーとシチューが、木でできたコップと皿の中に入れてある。
さっそく、木製スプーンを使ってシチューを口に注ぎ込む。冷えていた体が内側からゆっくりと温まっていく。彼らの作ったシチューはとてもうまかったのだ。新鮮で水分たっぷりな野菜と溶けるように柔らかい肉を、真っ白なホワイトソースがやさしく包み込んでいる。
しばらくガフガフと食べた後、稲田は自己紹介を始めた。
「自己紹介まだでしたね。俺は稲田源という者です。」
「僕はラズだ。」
稲田とラズは自分の胸を指差した。
「私はミーネといいます。こちらは、相棒のガラムです。」
ミーネは自分を指し示すと、次に子供を指差した。
「こ、こんにちは!ラ、ラズさんはじめまして!!」
ガラムはすっかり上がってしまったようだ。
「すいませんね。ここにはあまり人が来ませんから、緊張しているんですよ。」
その後、雨は午前中に降り止み、皆でマキ集めに行くことにした。
「ラガウル!」
ミーネは、魔本を取り出し術を唱えた。とたんに、ガラムの爪が伸び、剣のような物ができあがる。
「魔物使いだったんですか!?」
稲田がすっとんきょうな声をあげる。
「えぇ。すると、あなた方も?」
その後、四人はすぐに和気藹々となった。
今までの戦いや日常の話。ミーネは笑顔で聞いている。
話をしながら歩いていると、目的地に到着した。
目の前に、巨木が立ちそびえている。この木は、何年も昔からここにいたのだろう。
木の目には、この世界がどのように写るのだろうか。
「ここの木の枝を、少し分けさせてもらっているんです。」
ガラムは木をスルスルと登ると、太い枝を一本切り落とした。
皆で重い枝を持ち上げ、運んでいると夕日が突然現れた。オレンジ色の光が、木々の透き間からこぼれ落ちる。
「きれいだ・・・。」
しばらく見とれた後、四人は枝をかついで山小屋へと戻った。
そして、あっという間に時は過ぎ、夜になった。
稲田は窮屈なベットに身を縮込ませ、天井窓から見える星空を眺めていた。
(ここはとてもいい所だ。ラズも気に入っていたし・・・。よしっ!山登りは中止にして、ここにもう少し泊めさせていただくことにしよう。)
森に隠れる小さな楽園。全ては自然のままに。



第六十巻 月夜

森はざわめき、山小屋の住民に危険を伝えた。
雲の透き間から、月の光が一直線に放たれる。
森に隠された山小屋の窓に、光が集中的に流れ込んだ。
その瞬間、寝ていた子供の体形が変貌し始めた。
爪が伸び、髪が逆立ち、全身が黒く硬い毛におおわれていく。
「グ、グァァギギ・・・。」
歯のこすれる音が激しくなる。
「なんだ?」
ラズがその音で目を覚ますと、ガラムのいた所に一匹の猛獣が立っていた。
(食われたのか!?)
ラズは手を伸ばし、稲田の口と鼻をつまむ。
顔を真っ赤して稲田は起き上がった。
「なんだ・・・よ!?」
稲田も猛獣に気付いたらしい。ゆっくりと魔本を引き寄せ、ページを開く。
「グレイズ。」
ラズの手から矢印型のビームが放たれる。
猛獣に当たったが、麻痺するどころかこちらの居場所を教えてしまった。
ラズは近くにあった窓を蹴り破り、稲田と共に外に出る。
「グラビス!」
ラズの五感を強化し、猛獣が飛び出すのを待つ。
しかし、一向に現れない。
「はっ、ミーネが中にいる!!」
再び中に入ると、ミーネと猛獣が取っ組み合いをしていた。
「グレイズ!!」
術が当たり、こちらに気がそれた。
その瞬間、ミーネは猛獣を外に投げ飛ばす。
「大丈夫か?」
稲田は心配そうに声をかけた。
「えぇ。久しぶりのお客なので、カーテンを閉め忘れてしまいました。」
突然壁から鋭い爪が飛び出した。
稲田達は素早く外に出た。
ラズは猛獣の後ろに回りこむと、猛獣を投げ飛ばす。
猛獣はしばらく倒れこんだ。
その時ちょうど、月が雲に隠れた。
「ガラム!?」
なんと、体の毛が抜けてガラムの姿に戻ったのだ。
だが、また月が出て元の姿に戻る。
あっけにとられていたラズは、猛獣に左腕を噛まれてしまった。
「がっ!!」
ラズが痛さでよろけている内に、ミーネは猛獣に布をかぶせた。
とたんに、猛獣はおとなしくなった。
それを見届けた後、ミーネはラズに近寄り、緑色の液を傷口に注いだ。悪臭と共に青い煙が立ち上る。
痛みが消えたらしい。ラズは、押さえていた腕を放す。
「君達に申し訳ないことをしてしまいました。」
稲田とラズは首をかしげた。
「傷が治ったから一件落着じゃないのか?」
「はい。ガラムは見ての通り、狼魔物です。狼男に噛まれた人がどうなるか知ってますか?」
稲田の顔が青くなった。
「もしかして・・・。」
「そうです。噛まれた者も狼男になってしまうんです。」
稲田とラズはなんとも言えなくなってしまった。
「でも、いつもというわけではありません。この薬を塗った為、毒はかなり薄まったはずです。」
稲田は、ふと疑問に思うことがあった。
「あんたはなんでそんなにくわしいいんだ?」
それを聞いたミーネは、腕をまくった。ラズと似た傷跡がミーネの腕にもついていた。
「現に、噛まれたからです。」
その後、稲田達は夜明けと共に出発した。
一番の理由は、ガラムが悲しむのをラズが望まなかったからだ。
外にいるミーネに手を振りながら、稲田達は歩き始めた。
しばらく歩いた後、もう一度振り返る。
(あれ?)
そこに山小屋の姿はなく、緑の木々が生い茂っているだけだった。
全てを優しく包み込む山々は、今日も人々を見下ろしていた。



第六十一巻 手紙

もし、アドバンよりも強い奴がいたとしたら霧円はどうするのだろうか?
全ては、一通の手紙から始まった。

「おぉ!」
霧円は突然、感嘆の声をあげた。
「どうしたのだ、霧殿?」
「聞いてくれ。俺は初めて、稲田から手紙をもらったぞ!!」
霧円の手には、茶色い封筒が握られている。
「どれどれ・・・。『実は、数日前に中田と夜飛見が謎の言葉を残して消えてしまったんだ。その言葉は、【二日経っても帰って来なかったら俺達は死んだと思え】というものだった。そして、本当に奴らは帰って来なかった。心配になった俺はB・Jと共に、中田の家に急行した。中田の部屋には鍵がかかっていたので術で打ち壊すと、中に一枚の扉があった。中になにかあると思ったから、この手紙を書くことにした。俺達は今から扉の中に入ろうと思う。そして、君にも同じ事を伝える。二日経っても帰って来なかったら俺達は死んだと思え。』」
霧円は第一に、自分が仲間外れにされたことにショックを受けた。
そして、封に書いてある送信日から今日で丁度二日目だ。
「キガル、(俺を仲間外れにした)仲間を助けたいか?」
キガルの答えはもちろん決まっている。
「あぁ。」
その前に、霧円はつい最近発見したことがあった。
キガルは普段武士口調なのだが、興奮するとヤクザ口調になる。
この謎はまた後日、深く追求したいと思う。
さっそく、ポチと食料(ほとんどがお菓子)を持って中田の家に向かった。
部屋の真ん中には、扉が一枚置いてあった。
(あの、中田や稲田でも手に負えなかった奴がこの中にいる。)
頬を流れる汗を拭い、ドアノブをゆっくりとひねった。
(待ってろよ、皆。会ったらボコボコにしてやるから!!)
ドアの中に、三つの影が消えていく。
だが、霧円達は二日経っても戻って来なかった・・・。



第六十二巻 案内役

扉の向こうには、緑の草原が広がっていた。
「うぉぉぉ!」
もはや、感動の域を通り過ぎていた。
(ここなら、夕日に向かって永遠に走れそうだ。)
そんな漫画に出そうな光景を頭に浮かべていた時、キガルが何かを発見した。
「霧殿、あれ!!」
キガルの指差す方向には、巨大なクレーターがあった。
「あれは、ラズさんが放った最大呪文の跡ですね。」
突然、後方から声がかかった。振り返ると、本編始まって以来二人目の女の子がいた。(霧円母、稲田母を除いて)
「おまえ、魔物だろう?」
霧円は静かに問い詰めた。長年魔物と戦ってきた霧円は、人間と魔物のだいたいの区別がつくようになっていた。
「正解!よくわかりましたね!!さすが・・・っと、あなたの名前をまだ聞いていませんでしたね。」
「俺は、鬼道霧円。横にいるのがキガルとPOCHIだ。」
霧円は一通りの自己紹介をした。
「私は、ハランといいます。一応、鬼道さん達のガイド役です。」
「ガイド役!?」
霧円とキガルは声をそろえて驚嘆した。
「えぇ、心配しなくてもいいですよ。私の魔本は今ここにはありませんから。」
「わかった、頼りにさせてもらうとしよう。それでだ、稲田らはどこにいいる?ここにはいないようだぞ。」
霧円は周りを見回しながら言った。
「そこへ案内するのが私の役目です。さぁ、行きましょう!!」
ハランはまるで行き先が見えているかのように、正確に進んだ。
霧円達もトボトボと付いて行き、丘を登っていたその時、頭上から何かが降り注いできた。
「ん?」
足元には、マキビシが撒かれていたのだ。
「第一関門、セイガ見参。」
丘の上に、黒い影が二つ現れた。
(おぉ、忍者だぁ〜!!忍者がいるぅ!!!)
妙に興奮している霧円をよそに、キガルは尊敬の眼差しであった。
(忍者に初めて会った。拙者感動!!)
そんな、見てるだけで楽しい馬鹿3トリオにハランは微笑していた。
その微笑からは、冷たく、じっとりとしたものが感じられた。



第六十三巻 ニンニン

「グルク!POCHI、魔本を狙えぇ!!」
武装されたポチは、丘の上にいるパートナーの魔本を打ち抜いた。とたんに赤々と炎が燃え上がる。
「へ!?」
魔本が燃えているにもかかわらず、忍者は消えない。それどころか、パートナーごと燃え始めた。
「ビニセン!!」
スピーカーから聞こえるような、くぐくもった声がどこからともなく聞こえた。
(パートナーは別の場所にいるのか?)
忍者に視線を戻すと、数が増えていっている。2人が4人、4人が8人に。ついに、100人もの忍者に囲まれてしまった。
「俺の予想だとこいつらは幻覚なはず。ゲグルドォ!!」
霧円達の周りを4枚の壁が囲む。
「発射ぁぁ!!」
しばらく銃声が響き、周りの幻覚忍者を打ち飛ばす。
壁が消えると、そこに忍者の姿はなかった。
「勝った・・・のか?」
その時、左から数枚の手裏剣が放たれた。
横に避けると、足に激痛が走った。
「ぐっ、マキビシか!」
霧円はそのままよろけ、マキビシが散った地面に倒れこんだ。
「ギバウセン!!」
上空から降ってきた大剣をキガルは掴み、素早く霧円の足元に投げつけた。
霧円の足元がツタで固定され、なんとか踏み止まった。
「ふぅ、危なかった。キガル、ありがとな。」
霧円は得意のブリッチで、体制を整えた。
「当然のことをしたまでだ。」
「あいよ。スピニティ・ゲルグビア!」
スピード形態になったポチは、物凄い速さで丘の周りを駆け巡った。
数秒後、切り傷だらけの忍者を引きずりながらポチが現れた。
「よくやったぞ!!」
霧円はポチを抱きかかえた。
「トズカル!」
忍者はすきを突いて、周りの色と同化した。
「なに、どこへ行った?」
「どうやら、逃げて行ったようですね。」
ハランが、音もなく近づいてきた。
「そうか、逃げたか。それなら、次行こうぜ、次!!」
一同はハランを先頭に再び歩き始めた。
ひそかに尾行する忍者にも気付かずに・・・。



第六十四巻 建築士

どこまでも続いていた草原は消え、目の前に巨大な岩が多数出現し始めた。そしてなによりも、生物の気配がしないことに寒気を感じる。
「なぁ、ハラン。もしかして、ここの時間は止まっているのか?」
岩々の透き間から見える太陽の位置が、霧円の見たところまったく変わらないのだ。
「えぇ、その通りです。ここの創造主が眠りと時を奪ってしまったという話を聞いたことがあるだけで、詳細はよくわかりません。」
「なに!?眠ることもなく戦うのか!!」
ハランは小さく頷いた。
(感覚が狂いそうだな。それにしても、こいつらは自分の立場がわかってんのかどうなのか・・・。)
『こいつら』は、互いの影を踏みあって遊んでいる。
「霧殿、お腹が空いたのだ。」
どうやら遊び疲れたらしい。霧円はキガル達を黙らせる為、ペロペロキャンディーを渡した。
キガルはともかく、ポチはペロペロキャンディーに結構悪戦苦闘しているようだ。
「見つけたでヤンス。」
上の方から、突然声が聞こえてきた。
「うぉぉぉ!?」
周りにコンクリートが現れ、どんどん霧円達を持ち上げていく。
「これは・・・ビルか!!?」
そう、霧円らは今、15階建てのビルの屋上に立っていたのだ。
「そうでヤンス!」
振り向くと、声の主が立っていた。
忍者と同じようにパートナーはいないが、魔物の風貌はまさに大工そのものだった。腰に巻き付けてあるベルトには様々な道具がくくりつけてある。
「あの、お名前は?」
こんな時でも調子を崩さない霧円。
「これは失礼でヤシた。おいらはリトというでヤンス。」
リトはそういうと、屋上の地面に手を付けた。
「バトル開始でヤンス!!」
「シグナル・リダイ。」
どこからともなく、またスピカーの声が聞こえた。それと同時に、驚くべきことが起こった。
リトの手元の地面から、なんと信号機が生えてきたのだ。
「赤信号は停止でヤンス。」
信号機から赤い光が放たれると、霧円達は身動きがとれなくなった。
リトは釘を数本取り出すと空中に並べ、一本ずつハンマーで打ち始めた。釘は弾丸のごとく、肉体を突き抜けた。
「青信号は動いてよしでヤンス!!」
二人と一匹は、屋上に倒れこんだ。
青空が、いつもより近くに感じられた。



第六十五巻 惨敗

「ぐ、負けてたまるかよ。ゲグルドォ!!」
霧円達の目の前に壁が現れた。
「あんたは頭がいいでヤンスね。光が当たらなければ効果が発揮されないことによく気付いたでヤンス。」
「ロード・リダイ。」
術が唱えられると、霧円達の足元と屋上の周りに突然道路が張り巡らされた。
「何だこの道路?」
霧円は道路から出ようとしたが、見えない壁に塞がれた。
「この道路で、あんたらの行動範囲が制限されたでヤンス!」
霧円の額に汗が浮かぶ。
(こいつ、できるな。スピニティ・ゲルグビアが封じられてしまった。)
霧円は遠距離攻撃に作戦を切り替えた。
「グルク!!」
ポチが武装強化され、発砲する。しかし、リトに容易く避けられた。
「もう、勝敗は決まったでヤンス。」
「バルス・リダイム。」
霧円達は、窓やドアのない家に閉じ込められた。
「なんだ、力が・・・。」
「うぬぅ・・・。」
霧円らは次々と倒れこんだ。今では、息をするのがやっとだ。
「その家は、生きているんでヤンス。食料は『体力』なんでヤンスよ。」
ポチは最後の力を振り絞って発砲したが、家には全く効かなかった。
(中田、夜飛見、稲田、B・J、すまん。俺はおまえらを助けられなかった・・・。)
霧円の意識が遠のいていった。
その時、リトの頬を手裏剣がかすめた。
「なんだ、セイガもいるでヤンスか。」
リトの後ろにセイガが現れた。
「久しぶりだな、リト。」
「セイガ、自分の陣地を守らなくていいでヤンスか?」
セイガは、微笑を浮かべた。
「私は分身だ。」
確かに、セイガの体が多少透けている。
「ところで、こいつらを見逃してやってくらないか?」
いきなりの発言に、リトは目を見開いた。
「なんでヤンスか?おいらよりも雑魚なんでやんすよ!」
セイガは青空に向かって手を広げた。
「感じるんだよ。こいつらは強い。俺達を助けてくれる気がするのだ。」
リトは小さくため息をついた。
「おいらが例え見逃しても、次で絶対捕まるでヤンス。それでもでヤンスか?」
「あぁ。」
リトは再びため息をして、術を解いた。
「ありがたい。後は、俺に任せてくれ。」
セイガが皆を背負い、屋上から飛び降りようとするとリトが止めた。
屋上の角を指差している。そこにはハランが横たわっていた。
「セイガ、こいつもいるでヤンス!うろちょろしてたから気絶させたんでヤンス。」
セイガはハランも背負い、岩々をジグザグに飛んでいった。
(確かに、あいつらはいい目をしていたでヤンス。もしかしたら、もしかしたらおいら達を・・・。)
リトは、セイガが見えなくなってもそこにずっと立っていた。



第六十六巻 意外な人物

「・・・霧殿、き・り・ど・の!!」
「ん、あぁ・・・。」
キガルの大声で、霧円は目を覚ました。
自分が横たわっていた地面は灰色で、コンクリートのようだ。空も曇り空で一面灰色。
「天国ってこんな所だっけ?」
「何を言っておる!ここは現実じゃぁ〜!!」
キガルに頬を思いっきり叩かれ、正気に戻ってきた。
「どうして俺達は生きているんだ?傷も消えてるし・・・。」
(リトと戦った後に何があったのだろうか?俺達は何者かに運ばれたのか?)
そう考えながら傷が無いかチェックすると、服に穴は開いているものの、傷は見事に完治しているようだ。
「それだけではない。ハランの姿も消えてしまっているのだ。」
「何!?それはやばいじゃないか!これから一体・・・ん!!」
突然、上空から何万の何かが落ちてきた。
「あぁ・・・あれ全部敵とかいったら俺マジで死んじゃうよ。」
予想的中。空から降ってきたのは数々の怪物達だった。
「霧殿、あれらは人間界の動物を組み合わせてあるようだぞ!」
確かに、馬の胴体から人間の上半身が出ていたり、ペガサスらしき動物もいる。
「問答無用。行くぞ!!」
その時、黄色の球体が放たれた。何匹か怪物に当たり、次々と倒れていく。
「武野!?」
球体の放たれた方向には、銃を構えた武野の姿が見えた。
「てめぇらを追っかけてたら、こんな所に来ちまったぜ。鬼道、おめぇは先行ってろ。俺は後から追っかける。その後には、死んでもらうぜ!!」
武野はそう叫ぶと銃を連発し、活路を作り上げた。
「すまねぇな!スピニティ・ゲルグビア!!」
霧円とキガルはポチに乗り込み、走り出す。
ポチの両端の刃物は、近寄ってくる怪物を真っ二つにした。
それを見届けると、武野は黒い球体を取り出し何万の軍勢に投げつけた。
ドゴ――――ン
凄まじい轟音と共に、怪物達は上空に放り出された。
武野は素早く銃のモードを切り替えた。
「こんなショボゲー、さっさとクリアしてやる。」
雨のごとく、黄色の細いエネルギー弾が降り注ぐ。
横隣から怪物が襲い掛かってきたがナイフを投げつけ、瞬殺する。
武野は背中にあるもう一つの銃を取り出し、両手に持つ。
「ハハハ、雑魚だな。」
反撃の隙を与えず、武野はひたすら銃弾を打ち込み続けた。
数分後、そこは戦場よりも酷くなっていた。
海のように噴出す真っ赤な血に、怪物の肉片が浮かんでいる。
「あ〜あ、もうクリアか。暇だねぇ〜。」
武野は薄笑いを浮かべながら2丁の銃を背負い、ゆっくりと歩き始めた。



第六十七巻 約束

灰色の大地を、銀色の筋が駆けていく。
生物とは思えないその速さに、霧円の髪は逆立ち、摑まるので精一杯だ。
灰色の大地はだんだんと消えていき、周りにはビルなどの廃墟が並んでいく。
道路沿いの木々や花々はなく、ここも生気を感じられない。
その時、ビルの間から右側に人影がちらっと見えた。
「POCHI、止まってくれぇぇ〜!!」
ポチが急停止した為、キガルと霧円は数十m先に投げ飛ばされた。
「ゲホ、ゲホ。霧殿、大丈夫か?」
「あぁ・・・。でも、アバラが何本か折れたかも。」
霧円はキガルの手を借りて立ち上がると、人影の方に向かった。
近づくにつれ、二人の人が倒れていることに気付いた。
「あれ?お、おまえら、どうしてここに!?」
倒れていたのはなんと、中田とアドバンだった。
「鬼道、お前も来たのか・・・。」
中田は頭から足の先まで血まみれだった。
「どうしたんだよ。なんでこんなにボロボロなんだよ!」
中田は上体を起こし、真剣な眼差しで霧円の目を見つめた。
「稲田達は無事だ。俺はなんとか脱出したんだが敵が手強くてな。今追っ手が来ているはずだ。」
中田がそう言うと、地下鉄の入り口やビルから人が何万と隊列を組んで現れた。よく見るとどれにも顔は無く、人形のようだ。しかも、兜や盾で武装している。
「中田、立て!!逃げるぞ!!」
霧円は無理やり中田を立たせようとしたが、中田は応じなかった。
「逃げるのはお前だけだ。」
「何言ってるんだ!?死んじまうぞ!」
中田はアドバンの肩を借りて立ち上がると、ダークブルーの魔本を開いた。
「俺は今から最大呪文を開放する。そしたら、お前は確実に死ぬ。だから逃げろ。」
中田が命を捨ててまでも、仲間を守ろうとしている。
そんな必死な中田の姿を見て、霧円はなぜ皆が自分を置いていったのかがわかった。
『俺達が消えても、おまえは生き残れ。』
手紙の本当の意味を理解した霧円は、涙した。
そして、少し間をおいてから霧円は中田に満面の笑みを見せた。
「ぜってー、追いかけてこいよ。」
中田も笑い、握り拳を霧円に見せつけた。
「おまえ・・・こそ。」
霧円は急いでポチに乗ると、走り始めた。
霧円らの姿が見えなくなると、中田の魔本が激しく光り出す。
360度人形に囲まれ、もはや逃げることは不可能だ。
「さぁ、かかってこい。」
最強のタッグは、ここにいる。



2005年04月20日 (水) 07時34分


(978) 第六十八巻 限界 投稿者:キャメロン大佐

「霧殿、中殿は大丈夫であろうか?」
場所は変わり、木々や蔓がうっそうと生い茂るジャングルのステージになっている。
霧円やポチは絡み合う蔓を払い除けながらも、なんとか前進していた。
「あぁ、大丈夫だ。キガルも知ってるだろう?あいつらの強さは半端じゃない。しかも、最大呪文を使うと言ってるんだぜ。中田の勝ちは確定だよ!」
そんなことを言ってみたものの、本当は霧円も心配だった。
(あの出血量、立っていられるのがおかしいくらいだ。中田、俺はおまえを置いて行って良かったのか?)
そんな霧円の問いかけに答えるべく、中田は大勢の敵軍に囲まれながらも巨木のようにずっしりと立っていた。
しかし、動く気配は全く無い。
人形達は少しずつ、中田に近寄っていく。
(あと、1m。もっと近寄れ。)
そして、人形が次の一歩を踏み出したその時、破滅の時計が動き始めた。
「ラージアム・ゼボルガン。」
中田とアドバンの周りを、突如現れた1万のドアがグルグルと回転する。
これにより、前列の人形達が吹き飛ばされた。
さらに、一万のドアは回転速度を速めながらもアドバンを中心に球状になっていく。その大きさは、一軒家12軒分に匹敵した。
「オォープン!!」
一万のドアが一気に開く。現時点の回転速度、MAX!!
さらに、限りのないドアの中から出てくるのは世界各国の様々な武器だった。
完全な球体と化した一万枚のドアに、もはや死角はない。
全方向に打ち出される武器は、近寄ってくる物全てを蹴散らした。
万が一武器をかわせたとしても、ドアの強烈な回転になす術は無い。
数秒も満たない内に、全ては無となった。
何万もの軍勢の姿はどこにも見当たらない。装備していた武具のかけらさえ、見つけることができないのだ。
さらに驚くことに、無数に立ち並んでいた高層ビルの形や影が消えていた。
そこに、かつて大都市があったなんて誰が想像しようか。
全ては、一人の人間と魔物によって奪われたのだ。
「中田・・・。なぜ、最大呪文を使わなかった?」
アドバンは静かに問いかけた。
「すまねぇ・・・。」
中田は、灰色のコンクリートに倒れこんだ。
「俺にも、限界があるようだ・・・。」
中田とアドバンのいる所以外の場所は、深く、地の底までえぐれていた。


2005年04月20日 (水) 18時51分


(982) 第六十九巻 なぞなぞ 投稿者:キャメロン大佐

「俺、始めて見たわ。やっぱでけーんだな・・・。」
今、霧円の目に映っている物。それは、胴体がライオン頭部が人間の怪物。そう、スフィンクスだ。
岩のような肌だが動きは意外としなやかで、その青い瞳をした美しい怪物が人を食うと思うと、震えが止まらなくなりそうだ。
スフィンクスは、首をゆっくりとこちらに向けた。
「我が十の問を全て正解したならば、我はおまえ達を通す。しかし、解答できなければおまえ達を食うてやろう。」
スフィンクスは、無表情でそう告げた。
「一問につき、一人一回ずつ解答権が与えられる。おまえらの名を申せ。」
「俺は鬼道霧円。んで、こいつがキガルでこっちはPOCHI。」
霧円は普段通りに自己紹介をした。別に恐怖心を抱いている訳ではなさそうだ。
「では第一問。星は星でも、すっぱい星はな〜んだ?」
(なんだ、結構簡単だな。)
霧円が解答を言おうとしたが、キガルが先に言ってしまった。
「わかったぞ!金平糖だ!!」
「アホ!金平糖は甘いだろーが!!答えは梅干だ!!」
スフィンクスは微笑を浮かべた。
「正解だ。第二問 外に出すと融けてしまう椅子な〜んだ?」
今度は霧円が即答した。
「アイス。」
「正解。第三問 足で行って、尻で帰ってくるものな〜んだ?」
霧円は初めて戸惑った。そんな霧円をよそにキガルがまた答えた。
「今度は正解だぞ!滑り台!!」
(なるほど。確かに足で階段を登り、尻で滑るな。)
「正解。第四問 夜、野球の試合に赤ん坊を連れて行った。その時とった赤ん坊の行動は?」
霧円とキガルの眉間に、さらにしわがよった。
(どんな行動って、どうやったらわかるんだ?)
もう、だめか。と霧円が思っているとポチがひづめで地面に文字を書き始めた。
『a night game』
地面にはこう書かれていた。それを見て、霧円は何かひらめいたようだ。
「ナイトゲーム。つまり、野球の夜試合のことを英語で書いたものだ。たしか、日本語ではナイターとか言ったよな。だから答えは泣いた、だ!」
「正解。第五問 耳やへそのある食べ物はな〜んだ?」
ついに、残り五問となった。心臓の脈打つ回数が自然と増えていく。
「拙者、そんなもの食べたかのう?」
「毎日食べてるよ。ずばり、答えはパン。食パンには耳が、アンパンにはへそがあるからな。」
ここまでなんとか順調に進んできた霧円達に、スフィンクスは氷のような無表情で問いを出した。
「正解。第六問 最初は四本足、次は二本足、最後は三本足の動物はな〜んだ?」
霧円達全員が黙りこくった。誰にも答えがわからないのである。
スフィンクスの顔を見ると、なんと笑っていた。その笑みは霧円達を哀れむかのように、じっと見つめている。
「ギブアップだ。」
霧円がそう言うと、スフィンクスは襲い掛かってきた。
「グルク!!」
霧円は術を唱えたが発動しない。
(心の力が尽きたか!?)
キガルの方も武器が来ないようだ。
「くそぉ!ここまで来て、負けてられるかよ!!」
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「ガクラ・ソウブデン!!」
術が唱えられると、スフィンクスの周りがどんどん壁で覆われていく。最後に、上空から屋根が落ちてきた。霧円達の目の前にと突如現れたのは、スフィンクスが入っても余裕があるくらいの巨大な屋敷だった。門には、大きく『からくり屋敷』と書かれている。
「な、なんだ?」
霧円があまりのでかさに驚嘆していると、いつの間にか隣に人がいた。
「セイガ、見参。」
黒い衣に包まれし影の部隊、ここにあり。


2005年04月23日 (土) 08時19分




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