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(1005) 序章〜始まり〜 一話【ある大雨の春の日】 投稿者:Mr.ブッチ

物語なんて唐突に始まるものだ。
桃太郎だって、普通のお婆さんが、川から流れてきた桃を拾ってきたことから始まった。浦島太郎だって普通の青年が、いじめられていた亀を助けたことから始まった。
そう、身の回りには物語りの種が潜んでいるのである。
ほら、あそこで物語が始まるぞ……

「おい、そこの人間。ちょっと話を聞いてくれ。」
・・・え?
「この本が読めるか?」
・・・・・・・・・・な!?
「なんだよ、少しは返事してくれたってもいいじゃねえかよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?!?
「こら、聞いてんの―――」
『犬がしゃべっているうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「…そりゃ魔物だから話せるさ。」

季節:春  天気:大雨+時折雷  時刻:4時半頃  

学校からの帰り道に、突然降り出した雨。傘は持っていない=どん底にびしょ濡れ。
制服は雨を吸って重くなり、びしょ濡れの肌着が肌に吸い付いて冷たい。身体の芯から凍えて、頭が少しフラフラしてきた……。そんな矢先――――

「とりあえずこの本が読めるかどうか、試しな。」
黒犬…とでも呼べばよいのだろうか。いや、それ以前にこいつは犬なのだろうか。さっきしゃべってたし、それに・・・・
「お前…でかいな。」
「まあな。こっちの世界で言ったら俺17歳になるし。」
いや、歳聞いてねえし。っていうか17歳か、犬にしては長生きだよなぁ―――――――って何考えてんだよ俺。疑問点はそっちじゃねえだろ。
黒犬(以下黒犬で通す)の大きさはぱっと見、熊ぐらいあるんじゃないだろうかと思われる。それじゃわからないって読者の人はシロクマに黒のペンキを塗ったような犬だと思ってくれればいい。
右が紅、左が蒼の眼は俺をじぃっと見つめている。いや、睨んでるよなぁ、こいつ。

「さあ、本を読んでみな!」
本・・・。黒犬の口には薄灰色の本が咥えられていた。そらよっとそいつは本を放り投げ、俺の手中に本が納まった。・・・・・・う、唾液でベトベト…なんか臭いし……。
本を開くと不思議な文字が書かれていた。
その字を見つめる事0.1秒
読めない。以上。
とは言え、読めないなんて言えない。
人として、犬に敗北すること=負け犬!(こいつ犬かどうかもわからんけどね)
この世は弱肉強食、生きたければ勝者になるべし。今まで人間はそうやって生き、そしてこの座までのぼりつめた。
ここは人として、人間の誇りにかけて、意地でも読むべし!!
「オホン。 ディスイズアブック。ディスブックイズベリーブラボー!」
「いや、読めないなら読むなよ。っつうかブラボーは英語じゃなくて仏語だぞ、覚えとけ人間。」

俺 負 け 犬 決 定 。



くぅ、ついてないな。人間界に着いた途端雨にみまわれるとは…
これが人間界…建物がたくさんある。これが魔法を捨て、科学の道を進んだ人間の結果か、って雨が強くなってきたな。

とにかく雨宿りができる所を探―――っと、人間発見!
これはついているかもしれん。あいつがパートナーならば他の魔物に先を越せる=俺超有利。
よし、話し掛けよう。えっと、日本語でよかったか?
「おい、そこの人間。ちょっと話を聞いてくれ。」
…ん?通じているよな、ここ日本だよな?
「この本が読めるか?」
…?反応はしてるよな…
「なんだよ、少しは返事してくれたってもいいじゃねえかよ。」
ちっ、聞くそぶり無しかよ。
「こら、聞いてんの―――」
『犬がしゃべっているうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「…そりゃ魔物だから話せるさ。」
あぁ、そうか。聞いてないんじゃなくて、俺が喋ったことに対して驚き声が出なかったのか。確かに普通犬は喋らないよなぁ。
よし、通じているのならばさっさと行動しよう。…雨がまた強くなってきたから。
「とりあえずこの本が読めるかどうか、試しな。」
「お前…でかいな。」
いや、解答になってねえよ人間。人間って馬鹿なのか?
まあいい答えてやろう。ええと、人間界の計算でいくと…
「まあな。こっちの世界で言ったら俺17歳になるし。」
少し人間でも観察してみるか。人間も考え事をしているようだからな。
…魔物の子とたいして変わりはないな。ただ魔物の方が圧倒的にたくましい。人間は魔力を持ってないしな。
さて、考えがまとまったかな?

「さあ、本を読んでみな!」
そらよっと本を投げ渡す。・・・あぁこいつ読めそうにないなぁ。表情を見れば0.1秒でわかる。
それでもなんとか読もうとしている。
「オホン。 ディスイズアブック。ディスブックイズベリーブラボー!」
「いや、読めないなら読むなよ。っつうかブラボーは英語じゃなくて仏語だぞ、覚えとけ人間。」

お前馬鹿だよ人間…。こんな奴はパートナーにしたくないよなぁ。


くぅ、犬ごときに間違いを正されるとは……
こうなったら意地でも読んでやる。そうさ、読めなかったのはこのページだけ!他のページには読める言葉があるはず!人間は常に勝者!俺はこの本を読んで、こいつに勝ち、人間としての誇りを取り戻す!!!(大雨のせいで頭がおかしくなってます)
パラリ・・・解読不可能 ええい、次のページ!
パラリ・・・解読不可能 おのれぃ、次のページ!
パラリ・・・解読不可能 畜生、次のページ!
パラリ・・・解読不可能 ・・・・・・・・・・・・・・
WRRYYYYYYYYYYYY!!!!!!
俺は…このまま負け犬に成り下がって人間やめてしまうのか……
…否!俺はこの犬に勝って、人間を超越する!(大雨のせいで頭が(略
「大丈夫か人間?読めないのならそう無理はするな。」
黙れ黒犬!哀れみの言葉など俺にはいらん!!俺はお前に勝って海賊王になる!!!(大雨のせ(略
もう一度パラリ……解読不可能 ・・・・・・・・・・まだだ…
「まだだ!まだ終わらんよ!」
必死にページをめくる。神よ、私に力を!こいつに勝つための力を!(大雨(略
・・・・・・・・・・こ、こいつぁああ!???



この人間情けねえよなあ、っつうか傍目から見たら危ない。なんかブツブツ言ってるし…
まあ仕方がないか。大雨でびしょ濡れのところに、喋る犬と変な本。頭がいかれたと思うよな。
まだページをめくっている。なんか少し可哀相になってきた…
「大丈夫か人間?読めないのならそう無理はするな。」
しかし、人間は更にページをめくり、
「まだだ!まだ終わらんよ!」
・・・なんだ?なにがそこまでお前をかりたてるのだ?読めないものを読もうとしたって無理…そ、そうか!これが大和魂というやつか!(こいつも雨で頭がおかしく(略
がんばれ人間!まけるな人間!(雨で頭が(略
必死にページをめくっている。神よ、人間に力を!魔本を読むための力を!(雨で(略
そのとき人間の手がとまり、視線が本に釘付けになった。
これは…まさか……!

「フハハハHAHAHAHAHAHAAAA!!読める…読めるぞぉ!」
「な、なにぃ、それは本当か!?」

ああ本当だとも黒犬!遂にお前に勝利した!これで俺は新世界の神になる!!(大(略

すごい!すごいぞ人間!ディモールト・ブラボーな大和魂だったぞ!!(雨(略
…ん?あの本が読めた?ということはまさかこの人間が…(こっちは一足先に正気に)

「パー…トナー……」
「どうした黒犬?」


――――――――――ある大雨の春の日
                 物語が始まった―――――――――――



2005年05月06日 (金) 22時22分




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