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(858) 【第21話】 共鳴反応 投稿者:マクルク HOME

綾人達の住む街を山の頂上から見下ろす2人の男がいた。
「――ここか、お前と同じ“力”を秘める者が居る町は・・・」
「・・・そうだ。そいつと俺が出会う時、力は第1の解放へと歩む。
 行くぞッ!!――」

―綾人家―
「ねぇ〜綾人〜」
「ん〜?」

綾人とアルトは真夏の残暑には耐えられず、ここ数日家に
ずっと篭っていた。
扇風機が首を回し、冷ややかな風を交互にあおっている。

「カブト虫・・・欲しいなぁ」
「じゃあ、外行けば?」
「一人じゃイヤだよ」
「僕、暑いのダメなんだ」
「昨日、僕がずっと楽しみにおいておいたケーキ
 食べたじゃん・・・」
「・・・子供のクセに。人を強請る気?」
「あのケーキ・・・人気でなかなか手に入らない
んだよなぁ〜・・・食べたかったなぁ〜・・・
アルティメットイチゴエボリューションX・・・」
「・・・・・・」

――公園:裏山――
「うぅ・・・暑い。いや、熱い・・・」
「ホラッ!だらしないなぁ、もう!」

アルトが綾人のズボンを引っ張り無理やり山へと
上らせた。
綾人は異常なまでに暑い日の光に既に滅入っている。

「むむぅ・・・見つかんない!」
「やっぱ。居ないんだよ〜帰ろうよ〜」

カブト虫捜索から2時間半。
セミしか見つからない現状に、ダルさを感じ
いい加減諦めて帰宅を考え出した。
木の陰で陽が直接当たらないにしても、体中が
汗まみれだ。

「――見つけたぜ」

突如、目の前に現れたのは紺色のマントを羽織った
黒髪の子供と銀髪のボウズ頭の少年だった。

「えっ・・・?」
「ガルシア、本は?」
「・・・光っている。新しい術も出ている」

綾人はガルシアという少年が本を持っていることにも
驚いたが、カバンの中が強く光っていることの方が驚きだった。
あの2人が出てきた瞬間、突然だったからだ。
 綾人はカバンから本を取り出し、ページを捲った。

「あ、新しい・・・術だ・・・けど――」

そこには確かに術が書かれていた。
しかし、今までならば“第Xの術”という番号の文書
のようなものが前に書かれていた。今回はそれが無い。

「・・・今までの術とは違うのか?」
「フン、お前だったんだな・・・一族の――」

黒髪の少年はいきなり、飛び掛りアルトを
力いっぱい殴り飛ばした。

「さぁ、お前の実力!試させてもらうッ」


2005年03月18日 (金) 18時34分


(866) 【第22話】 風神降臨 投稿者:マクルク HOME

黒髪の少年はアルトを殴り飛ばすと、
肩に羽織っていたマントを捨て、不満足げな表情で
ため息をついた。

「チッ、この程度の不意打ちも避けられんとはな!」
「痛ってぇ〜・・・だったら――」
「ウィルガ!!」

綾人が術を唱え、アルトが構え、術が手から放たれようと
した瞬間――
その一撃は発動と呼べる段階に至る前に、黒髪の少年の
片手によって打ち消された。

「・・・!!!(速ッ・・・)」
「俺が知りたいのは、お前の持つ低俗な術の威力ではない。
 おまえ自身の身体能力という力だ・・・さぁ、来い」
「・・・へへ、わかった――
 ラァ!!」

アルトは姿勢を起き上がらせると同時に、拳を放った。
ブォンと空気が敗れる音が聞こえた時には、少年は
目の前から姿を消している。

「後ろだ」
「!!?」

アルトは後ろ向くと直に間合いと取った。

「・・・俺が今から右ストレートを打つ。
 避けろよ・・・」
「・・・?」

パァンと鋭く空気が避ける音が聞こえた時には
もう、アルトは鼻血をだしながら、地面を引きずりながら
殴られていた。
アルトにはパンチを食らったのは殴られてから、地を
引きずった後だった。

「ウソ・・・全然、見えない・・・」
「やはり、育った環境と育成スキルに違いがありすぎるな・・・」

綾人、アルトは黒髪の少年の発言がまったくわからない。
“環境””スキル””力”――
少なくともアルトと少年には何らかの関係があることには
間違いないだろう。
それは少年に対する恐怖をよりいっそう、湧き出させた。

「・・・最後だ。今、覚えた術を使え!
 俺も使う・・・」
「はぁ・・?」

ガルシアはページを捲ると、その本は凄まじい光を放ちだした。
綾人は少ない経験の中から、これがどれほど危険なことかを
咄嗟に判断した。
相手の術を太刀打ちするにはウィルガ、ウィル・ガドルク
ではどうにもならない。時限が違う。

「アルト!前を向いて!!」
「ああ!!!」

綾人も不思議な術が書かれているページを捲った。
少し、怖い感じがし、背筋が寒くなったが
その寒さは無理やり打ち消した。
瞳を固定し、真っ直ぐと黒髪の少年を見つめた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

両者の本の光の増幅が止んだ――

「頼む、打ち勝ってくれよ!――
 アイオロス・ウィルドン!!!」
「・・・・・意義を見出す――
 ハオルクス・ディオデイス!!!」

「!」
「!」

アルト、黒髪の少年は相反する光の色――
白と黒の光を纏い、その光は上空に集まり――

アルトの光は下半身を竜巻で覆い
両手に鋭く、太い爪を5本ずつ生やし
鬼のような形相をした獣が現れた。

黒髪の少年の光は、全身を黒いオーラを纏った
さらに黒い鱗で覆った龍のような獣が
長い首をくねらせている。

「ジジャアアアアアアアアアアアアアアアア――」
「グロオオオオオオオオオオオオオオオオオ――」

互いに周りの木々を吹き飛ばし、両者はぶつかり
一閃の光になった――




「――・・・ん・・・」

綾人は太陽のまぶしい光が閉じている目に射している
のがわかった。
耳はセミの鳴き声だけを捉えている。
身体は熱で暑くなった土の熱を感じている。

「・・・・・・」

綾人が起き上がるとすぐ隣にはアルトが目を瞑って
息を立ていいる。意識を失ったのだろうか。
左手には本。
寝起きでイマイチ現状が理解出来ていない。

「確か・・・あの2人と戦って・・・・!!!」

綾人はようやく、現状を理解した。
目の前には公園がある。
ついさきほどまでは、山の上部にいたはずなのに
今、自分は平行に公園を見ている。見下ろしていない。

「え・・・何?コレ・・・ちょっ・・・っどなって・・!?」

綾人はアルトを背負って、後援を急いで出た。
そして、振り返った――
そこには山は無く、公園と裏山の境界線の先は
木も草もない、荒地が広がっていた。

「あ・・・まさか・・・」

綾人の信じがたい予想は否定しようが無かった。

「僕達の術の・・・ぶつかり合いが・・・・・・
 山1つ・・・消しちゃった・・・・」
「何が・・・何なんだよ・・・・・・・コレ・・・」

その光景は平和でのどかな公園と
ベトナムの戦場のような荒地のギャップに体が震えていた。
頭の思考はワケがわからなくなってしまった。
――綾人はまだ、気づいていなかった。
新たに覚えた術”アイオロス・ウィルドン”が読めなくなった
ことを。
そして、その代わりをするかのように
新たな術が読めるようになったことを――


2005年03月19日 (土) 19時19分


(875) 【第23話】 In New York 投稿者:マクルク HOME

翌日、綾人は寝込んでしまっていた。
目覚めたときは、ショックのあまり疲労を感じさせなかったが
家に着きほっとした途端、急激に疲労が遅い、
寝込んでしまった。全身のダルさは未だに取れない。

「(・・・あの術、何だったんだ?
 今までとは何もかもが違いすぎる・・・。
 しかも、もう読めなくなってる上に新しい術が2つも・・・
 効果はわかんないけど・・・あの術見たいなとんでもない
 術だったら――)」

綾人は考えただけでゾッとした。
肩まで被ってた布団を頭の上までいっきにかぶった。
この戦いが一体、どれほど壮絶なものか予想できない
自分に覚悟の足りなさを感じた。
綾人は一生懸命他の事で気を紛らわそうとするが
どうしても、あの2体の凶凶しい姿が
シーツに染み付いたシミのように、なかなか消えてくれない。
そして、アルトはそれを心配そうな顔で様子を見ている――

――ニューヨーク 市街地

高々と聳えるビルの屋上でシオンとスティーブは
突然襲ってきた魔物との攻防を繰り広げていた。

「――ディオ・メズルガ!!!」

幾層にも重なった輪の中心を筒状のエネルギーが
一直線に走る。

「シオン!」
「・・・ハァァッ!!!」

ディオジキル・フィドルク形態のシオンは4枚の羽
から繰り出される無数のカマイタチがそれをかき消した。

「なッ・・・!!?我々の最大の呪文を――」

相手の反撃を出させる前にシオンは本を顔で弾いた。

「・・・カマイタチの発展形――」
「飛べぇ!!ハリケーン!!!」

縦横ともの40m強あるビルの屋上から隙間無く
吹き荒れる台風は相手のパートナー、魔物関係なく
切り刻み、天高く突き上げた。
その凄まじい台風は下の市街地を歩く人々の視線を
釘付けにさせた。
中には携帯電話のムービーでその状況を懸命に撮ろうする
人もいたが、数秒で終わってしまったため、無意味だった。

「――これで5人目だな、シオン」
「ああ・・・!?――」

本をカバンにしまおうとした途端、本が光りだした。
そして、本に書き込まれていたページはかなり
後ろの方にあった。

「オイ・・・これ・・・」

そこにはこう書かれていたのはこの戦いの現在状況。
その内容は100名の争い合う魔物が70名に減ったという
お知らせだった。

「なるほど。さっきの奴がちょうど30番目の敗者と
 いうことだな・・・」
「おっし!この調子でドンドン強くなるぞ!!
 ・・で、奴を今度会う時・・・12月に決着を
 つける!!!」

スティーブはシオンに跨るとビルを飛び降り
シオンは羽を羽ばたかせながら、飛んでいった。

――日本

「・・・残り70名・・・か・・・」

綾人ただ、それをボーっと見ている。
しばらくは何も考えたくない、。
ゆっくり少しずつ、思い出して、それを
丁寧に砕いて理解して――

今日はめずらしく風が吹いていない。


2005年03月21日 (月) 16時58分


(885) 【第24話】 過去の人 投稿者:マクルク HOME

――青森

「――どうも、有難うございましたー!!!」

公民館のホールに一斉に歓声が沸き上げた。
サーカス団員は皆、満足げな表情をしている。

――準備室

「イヤァ、今日もパウロの変化は大人気だったな!」
「ええ、あれを見るためになんたって鹿児島から来た人も
 いるくらいですからね」
「そりゃそうさ!僕の変化は本物の変化だからね!!」

準備室ではそれぞれふぁ今回の予想以上の好評っぷりに
揚々と感想を述べている。
特にパウロの“自由自在変化ショー”はいつも大拍手。
タネのしかけもないからなのだろうか。

「みんなー!一段落したら、荷物を全部トラックに
 乗せろよ〜ぃ!!」

団長もやはりと言うべきか、少し普段よりテンションが
高いのが感じられる。
荷物を乗せる作業が始まると、パウロはあのモノに気がついた。
それは団員達の写真。
昔撮ったのだろうか、パウロはいない。
パウロがサーカス団と出会う前に撮ったものであろう。
そして、一番左端の長身の男。
パウロはその男に見覚えが無かった。
既にメンバーの顔を全員把握しているのに――
辞めてしまったのだろうか?

「ねぇカーネル・・・この左端のオジサンは?」
「ああ、ルドルフ・ウェルスタンさ・・・。
 ちょっと、いざこざがあって辞めたんだけどな。
 あと、オジサンは失礼だぜ。
 ああ見えても俺と同い年だからな!」

パウロは改めてルドルフの顔をジッと見た。
見た感じ頑固そうな人だ。
パウロはそれをダンボールの中へと入れようとした瞬間――
団員の悲鳴が聞こえた。
パウロとカーネルは慌てて外へと飛び出た。

「――カーネル・ノルゲムスは何処だッ!?」

公民館の裏にいちのは新人の女性サーカス団員の
胸倉を掴む、ルドルフと、1m寂しかない小さな子供だった。

「・・・・・・ルドルフ・・・」
「んん?・・・オゥ、カーネル・・・
 久しぶりだなぁ??」

ルドルフは団員を突き飛ばすと、一本のタバコを吸いだした。

「フン、覚えているか?私が辞めたあの日のことを?」
「ああ、昔、興ざめした客がステージにクレープを投げつけた
 ことに対してキレた。そして、それをキッカケに辞めさせられ
 た・・・違うか?」

ルドルフはタバコを地面に落とすと、靴のカカトでタバコを
潰した。

「そうだ・・・別に私は何も悪いことをしていない。
 なのに、客に手を出すことは許されないなどと戯言を・・・」
「・・・それは違――」
「おかげでこっちは未だに無職!!!
 ストレス解消ついでに有り金を頂こうって思ったわけだッ――
 ゼルセン!!」

隣にいた小さな子供は両腕を翳し、
その両腕をロケットパンチのようにカーネルに向けて
飛ばしてきた。

「パウロ!――」
「うん!」

とっさにパウロが子供の目の前に向かって飛び出した。

「――ゴムルク!!!」

ゼルセンはパウロに直撃したが、ゼルセンは全身をゴムの
ように柔らかくしたパウロの体で威力を殺されてしまった。

「・・・面白い術を持ってるじゃないか?」
「引き下がる気は無さそうだな・・・
 こっちが追い返すまでだ!!!」

両者の本が一斉に強い光を放った。


2005年03月23日 (水) 13時18分


(898) 【第25話】 帰る場所 投稿者:マクルク HOME

「さて、行こうか?――
 ガルゼルセン!!!」

子供の両腕がブクっと晴れ上がり
それぞれ、バランスよく4枚の扇型の刃を覗かせた。
それを鉄と鉄の擦れる音をうならせながら
飛ばしてきた。

「(・・・これはゴムルクでは無理か)
 ガンズ・ブルク!!」

カーネルはページを捲り、本を前に翳しながら術を唱えた。
パウロの周辺は煙に包まれた。
数秒と経たぬ間にその煙の中から何人ものパウロが
飛び出してきて、ガルゼルセンを10人がかりで受け止めた。
回転する刃にパウロ達は打ち消されていくが、
それに平行して回転力もどんどんと落ちていき、止まった。

「チィ・・・チビがッ!!」
「先生、どうしよう・・・想ったより強いよ?」
「焦るな。こちらが力押しで十分倒せる相手!
 マリオ、アレを出すぞ!」

ルドルフが言った「アレ」に聊か恐怖感を感じたカーネルと
パウロは2,3歩下がり、急な攻撃に対処できる距離をとった。

「ラージア・ゼルセン!!!」

マリオの両腕はさきほどの2つとは比べ物にならないほど
大きく膨れ上がり、硬そうな両腕へと変貌を遂げた。

「いっけぇええええ!!!」

その掛け声と共にラージア・ゼルセンは微進藤し、
勢いよく、飛んで行った。

「――デカい!?」
「う・・・わぁッああッ!!!」

カーネルは一度、振り返ると
パウロを抱えあげ、反対方向へと走っていった。

「避けられはしない!」

ルドルフの発言どおり、逃げたしたものの
ラージア・ゼルセンのスピードに敵わず
勢いに任され、突き飛ばされた。2mも3mも。


「――あ・・・」

カーネルは白目で意識が朦朧とするなか、パウロを
抱えたまま地を滑っていった。
押しつぶされないだけ、まだマシだったのだろう。
押しつぶされていたら、即死は免れなかったはず。

「カー・・・ネル?・・・だいじょうぶ?」

抱える腕を押し上げ、パウロが心配そうに見上げるが
どう見ても大丈夫そうには見えない。
額、鼻、口からは血が零れ、目もどこか遠くを見ている
ような感じだった。

「・・・よし、終わった」

ルドルフが本を閉じ、マリオを肩に乗せると
後ろのほうにいた団長のもとへと足を運んだ。

「・・・・ルドルフ」
「お久しぶりです。団長・・・・。
 いやしかし、酷いじゃないですか?
 客を殴っただけで、僕を解雇するなんて・・・」
「それは仕方が無いだろう・・・。
 サーカスにおいて・・・いや、全ての商売において
 客の信頼とは絶対的なもの。
 それをお前は無にした。仕方がないんだ」

団長の額は油汗でいっぱいで
ルドルフと目を合わせようとしない。

「・・・そうですか。やはり、ミスを認めようとしない」

ルドルフは本を持っている右手で団長の
米神を殴った。
団長は一瞬、悲鳴をあげると、その場に倒れた。

「このクソがよぉ・・・団長だからいきがりやがってよぉ・・・」

起き上がろうとする団長の顔をひたすら蹴り続けた。
団員が止めようとするも、マリオが腕を前に出すと
何も出来ずに立ちすくんでしまった。

「あれから、私は職にもつけず街をさまよう日々・・・・
 時にはゴミ箱をもあさった。
 そして、貴方は豪勢な食事を毎日毎日・・・
 心底貴方を恨んだ。殺したいくらい・・・」


団長の顔は青紫っぽくハレて、そこが切れ
赤く滲んでいる。
団長の涙は土と混じって茶色くなっている。

「――次は金だ。マリオは奴等を見張っておけ」

ルドルフが団長を顔にツバを吐き捨てると
トラックの中の荷物を調べだした。
 
「・・・・・・・・・オイ」
「あぁ?」
「いい加減にしろよ?」
「んだよ。こっちは忙しい――
 !?」

ルドルフが振り返ると、全身ボロボロのカーネルが
苦しそうではあるが、気迫ある形相でルドルフを睨んでいる。
呼吸が激しい。

「フンッ!戦えるのか?」
「・・・・俺の恩人に手あげたんだ。
 好き放題させて、帰すと想ってんのか?」
「・・・やってみろよ?」

カーネルは震える手を持ち上げると
本は大きく、強い輝きを見せた。
カーネルの内から湧き上がる感情に呼応して――

「ポルクゥ!!!」
「!!(・・・別に焦る必要はないさ。
 頭に血が上ってる奴にまともな作戦は立てられん。
 ましてや、あんなボロボロで何が出来る?)」

内心不安なルドルフはカーネルの状態を見て
なんとか自分が有利な状況下にあることを
自己暗示で教え込んだ。
心臓の高鳴りが徐々に収まっていき、ホっと
胸をなでおろした。

「・・・んん?」

パウロが変身したのはルドルフだった。
その容姿はまったく見分けがつかないほど、そっくりだ。

「オオオオオ!!!」

パウロはトラックの積荷の上にいるルドルフ向かって
そのまま突っ込んだ。
2人は崩れる荷物の下敷きになった。

「・・・・どうなった?」
「――痛ってぇ・・・ざっけんなよチビがぁ!」
「――くそ、あのガキめ!!いきなり突き飛ばしやがってぇ」
「先生・・・あれ?」

荷台をまきあがる砂煙から現れたのは二人のルドルフ。
もちろん、一体はパウロである。

「・・・あ!テメェ・・・」
「せ、・・・先生どっち??」
「私に決まってるだろ!ホラ、魔本を持ってる!!」

しかし、隣のルドルフも同じ色、大きさ、デザインの本をちゃんと持っている。

「私だ!」
「いいや、私だ!騙されるなよ!?」
「うぅぅ・・・・・・」

マリオは交互に見比べるも、全く区別がつかない。
同じ人間は2人いる。これが適切な答えと言っても過言ではなかった。

「おい!後ろを向け!・・・
 まだ、一個だけ唱えてない術がある、
 それが判るのは本物の私・・・いいか?」

ここでまさかの予想外の展開にパウロは汗を流した。
マリオが後ろを向いた。一方のルドルフは本を開いて、
その本が輝きを見せている。

「!・・・どうした?そちらは本を開かないのかい?」
「ほ・・・本を開かなくたって術を唱えることは出来る!」
「じゃあ、何故本が光らない?術を唱える以上本が光を
 放たないわけがないんだ」
「ぐ・・・」

ルドルフは本を閉じ、マリオのもとへと近寄った。
そして、頭を軽く叩いた。

「もう迷う必要はない。
 彼が偽者だ。証拠に術を唱えられない上に本も開けない」
「・・・どうして?」
「簡単なこと。手と本が一体化しているからさ・・・・
 いくら変身できても、物2つに変身することは出来ない。
 だから、本と腕をセットでくっつけたってわけさ。OK?」

マリオは強気の笑みを見せると両腕を前へと翳した。

「違っ・・・私が本物だ!!ホラッ」
「もう騙されない」
「(・・・ダメだ、このままじゃ――)」
「ラージア・――」

パウロ自身がそれを受け止める自信、勇気は
無かった。
どうにでもなれ!という気持ちから
自然とある言葉が出た。

「マリオォォ!!!後ろだあぁッツ!!!」
「――えッ?」

咄嗟の叫びに思わず、マリオは振り返ってしまった。
その強い気迫を感じさせる叫びに一瞬とはいえ
信じてしまった。
腕をかざしたまま180°回転してしまった。
もう、元には戻れない。

「――ゼルセン!!!ってぇ――」

勢いにまかせて零距離から唱えられた呪文は
マリオのミスを指摘する間も与えず、顔面から
徐々に身体へとめり込んでいき、天高く舞い上がった。
ルドルフを中心に舞う血は美しくも、鮮やかであった。
飾り立てる中心のルドルフを除いて。

「・・・・・・・バッ・・・カ・・・・」

―――公民館 夕刻

「・・・」

ルドルフはいきなり襲った頭痛に目を覚ました。
あたりは見覚えのある個室。
下は銀の鉄の地面。
下だけでなく上も右も左も――
サーカス団専用のトラックの荷物台の中だった。

「目が覚めたか・・・コーヒー飲むか?」

奥から現れたのは団長だった。
顔はバンソウコウまみれだ。
ルドルフの前にコーヒーを置くと、その隣に座った。

「・・・本がない」
「ああ、本は燃えてなくなったよ。あの子供も帰った」
「・・・・・・じゃあ、なんでここにいるんだ俺は?
 警察に突き出すのか?」

荷台がガタンがタンと揺れるのが今頃わかった。
おそらく、どこかを走っているのだろう。
ルドルフはコーヒーをいっきに飲み干すと
カップを強く置いた。

「・・・私がお前と出会った時、こう言ったのを
 覚えているか?」
「・・・?」
「お前はやっぱりその時は無職で・・・
 自分の生きがいになるような仕事を探していると言った。
 だから、サーカスをやりながら生きがいを見つけていかないか
と言った」
「・・・で?」
「まぁ、不器用なお前は何年たっても上手くならない。
 後輩には抜かされてばっか」
「・・・るっせーんだよ、クソッ」
「だから、お前にサーカスの才能はないと思ったよ。
 そして、あの事件を起こした。
 完全にサーカス団員として失格だと思い、解雇・・・
 クビにした」
「そうだ・・・あん時、俺はアンタに裏切られたんだ。
 生きがいを見つけていこうと言ったくせに俺を
 追い出しやがった・・・・」

自然と口調が変わって、威圧感がよりいっそう高まった感じに
なったが、団長それ動じる様子を見せず
そのまま話を続けた。

「私はサーカス団員としてクビにはしたが、お前自身を捨てた
 わけじゃなかったんだ」
「・・・言い訳だ。そんなの」
「サーカスを辞めても一緒に居て、また一緒に生きがいを
見つけていこうって思っていた。なのに、お前は・・・」
「あーーーッ!!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙りやがれッてんだぁよ!!!
今さら、そんな・・・」
「・・・私は良かったと思ってるよ。お前が負けて」
「!?」
「もし、お前が勝ってサーカスの金を全部持っていったら
 きっと未知の力で無理やり金を奪って自由に生きる。
 それが自分の生きがいだと思ってしまうだろうな。
 犯罪に手を染めることが人の生きがいだなんて
 哀しすぎると思わないか?
・・良かったな。お前の生きがいは
犯罪をに手を染めず、世の中に貢献することなのかも
しれないんだぞ?」

団長は起き上がると飲み干したカップを拾い上げた。

「また、一緒に探そう」

そう一言言うと荷台の奥へと去っていった。
どうやら、奥では団員が騒いでるらしい。

「・・・んだょ・・・俺の勘違いかよ・・・。
 バカは俺だった・・・早とちりして
この数年間ずっと無駄に・・・」

ルドルフはゆれる荷台に寝そべると
また、眠りに着いた。
その顔は無職で街中の暗い隅っこで
震えながら眠っていた表情とは違って
とても、安らかな表情だった。
帰れる場所はあった。
それがとても嬉しかった。


2005年03月28日 (月) 09時28分


(902) 【第26話】 修学旅行 投稿者:マクルク HOME

――夏休みが終わり、赤い陽を見られる涼しい秋が来た。
時間というものは、綾人の良い薬となった。
最初は、アルトに秘められた“強すぎる術”に怯えて
何もできない日々が続いたが、時が経つにつれ
それが徐々に感じられなくなっていった。
それでも、一ヶ月近くかかった。
月は10月――
学校最大のメインイベントである修学旅行が間近になってきた。
場所は北海道。
クラス、いや、1年生全員が盛り上がるイベントに綾人は
特にテンションは高くはならなかった。
せいぜい、普段とは違う場所へ行くレベルの考えであった。
グループもあまっていた所に入っただけで、
誰かと一緒に、ということは無かった。

「(・・・明日か)」

帰宅すると、修学旅行の準備をしながらある計画を立てていた。
それを考えると妙に緊張と興奮でもどかしい気持ちになるので
明日の計画表を見ながら、気を逸らした。
アルトは両親に預けるわけにも行かないので、隣に預けようと
思ってたが、
何故か、一緒に行くと言い出した。
子供が一人では行けないことぐらいわかってるので
それは聞き流した。

「(・・・いよいよ、明日、あぁ・・)」

“あの計画”が頭を離れず、結局あまり寝られず、朝を迎えた。

――――翌日

綾人は学校で借りたバスを使い、空港に着くと
チケットが配られた。
そして、そのチケットを引き換えに飛行機の中へ――
綾人にとって飛行機に乗ることは始めての体験で
北海道で決まったルートを延々と歩くことよりは
興味があった。
飛行機が離陸した――

「・・・おぉ」

離陸する際の感覚がジェットコースターの急な坂の前の
ゆっくりとした上りに似ていた。
飛行機が平行に飛んでからはいたって普通で
たまに耳がつまったような感覚になった。
それも、ツバを飲んだりしてるうちに収まった。
飛行機内の2時間弱は持参したMDウォークマンの音楽を
聞きながら、一面に広がる水色の空と灰色がかった雲を
ボーっと眺めているだけで終わった。

――――北海道

北海道に到着すると、クラスメイトのテンションがいっきに
高まった。
反面、綾人は一面雪景色を期待していたのに
雪が全く無いことが残念でしかたがなかった。
このままでは、つまらないコース延々と歩くのに
雪のない北海道など、ただの田舎にすぎない。
その日、予想通りのつまらないコースを延々と歩き
ホテルで夕食を済ませ、あとは就寝までは自由になった。
綾人は2人部屋で一人、携帯電話をジーッと見つめていた。

「・・・電話・・・するか?・・」

ゆっくりと電話の番号を押していく――
トゥルルルルルル・・・
電話のコール音が繰り返される度に
どんどんと、鼓動が高まっていく。
ガチャ
でた――

「もしもし」
「あ・・・・・・桐生さん?・・・」

綾人が電話をかけたのは桐生だった。

「・・・どうだった?今日」
「・・・まぁまぁ楽しかったけど」
「今・・・何してる?」
「テレビ見てるの」
「・・・あの、今から外出られないかな?」
「・・・なんで?」
「ちょっと、大事な話が・・・」
「入り口は先生が見張ってるよ?」
「・・・そっちは2階でしょ?なんとかベランダから
 降りられない?」
「・・・・・・・・・・いいよ。今から行くね」

そこで電話は切れた。
綾人の部屋は3階。
ベランダから降りるのは危険だが、無理をすれば降りれない
わけではない。
柵やパイプに捕まりながらなんとか降りようと決めると
ベランダを開けた。

「――やぁ、綾人」

ベランダを開けた途端、聞き覚えのある声――
アルトがベランダんに立っていた。

「うおああああああああああああああ!!!?」
「シーッ!騒がないでよ・・・見つかったらどうすんの?」
「なん、なんで、なんでココにいんの!?」
「・・・ヘヘ、運送トラックに捕まりながら
 青森まで頑張ってェ・・・あとは漁船にコッソリ――」
「コッソリじゃないってば!ヤバイよ・・・今日何処で
 過ごす気だったんだよ!?」
「・・・ベランダで野宿。このみのむしふとんで一夜をね」

綾人は一度部屋に戻るとベットにうずくまった。
これから大事な時にさらに、余計なやっかい事が
増えたおかげで頭が痛くなった。

「ハァ・・・とりあえず、3階から飛び降りるか――
 ウィルム!」

綾人はアルトに捕まりながらゆっくりと降りていった。
電柱ライトのその隣に葵は立っていた。

「・・・あ、桐生さん!!」

綾人が葵の元へと駆け寄った。
アルトも一緒に。

「・・・アルト、どっか行っててよ。
 大事な話しなきゃいけないんだから・・・」
「えー!?ウッソォ〜・・・綾人告白すんのぉ!?」

葵の肩から姿を表したのはリリィだった。
葵に言わせれば、リリィほどのサイズだったら
連れて行くのには問題がないから、らしい。
アルトとリリィはしぶしぶ、海岸沿いを散歩することにした。

――――海岸沿い

「――!!・・・魔物の感じだ。先に2体」
「えッ?マジ?」

「私はルル・フィーネと申します。
 アナタの力を貸して欲しく、ここまでやってきました」
「あんちゃんよぉ・・・この戦いのルールを知ってんのかいぃ?
 王になれるのは一人!なのに協力もクソもあっかよぉ!!――
 メルギル!!」

アルト達の前方で強い爆発が起こった。
夜で明かりが射さない海岸線では、何が起こったのか
ハッキリ見えない。

「・・・チィ、逃がしたか」
「小次郎!前方に魔物の反応がある・・・2体だ」
「おう!今度は逃がしはしねぇぜ!」

暗闇から姿を現した2人に気づき、
アルトは急いで綾人達のもとへと走った。

「――あの・・・」

2人は少し古びたベンチに座っている。
数十秒の沈黙のあと、ようやく綾人が口を開いた。

「あ〜〜や〜〜と〜〜!!大変だ!魔物が襲ってきた!!」
「はいいいぃぃぃぃ!!?」

アルトが綾人のもとのたどり着いた時には既に
小次郎等も追いついていた。

「・・・どうしてこう、やっかい事が次々と・・・」

心で泣いている一方、小次郎は相手を品定めすると
魔本と木刀を取り出した。
電光に照らされた2人の影――
中年のガタイの良い中年の男に
ロングTシャツの上から赤いドクロのマークが入った
黒のTシャツを着た、銀髪の子供がいた。
子供のズボンはだぼだぼであるが、5cm感覚で
ベルトで締め上げられている。

「・・・小次郎、2対1だけどいいの?」
「構わん」
「お前・・・一体なんなんだよ・・・」
「雪村小次郎。立ち合いを望む者だ!」


2005年03月29日 (火) 17時07分


(911) 【第27話】 武士の挑戦 投稿者:マクルク HOME

「己の力、この未知の生物に何処まで通用するか・・・」

小次郎は右手に魔本、左手に木刀を構えた。
刀は中断で構えられ、木刀の先はアルトに向けている、

「シドウッ!お前はあの娘を・・・私があの者と――
 ゴウ・メルギルク!!」

シドウの身体は肩、腕、脚、腹の四箇所が四角いブロック
を装着した。

「では・・・」
「散!」

小次郎とシドウはそれぞれの敵対する者へと走り出した。

「・・・人間相手だ!手加減しながら手早く倒すんだ――
 ウィル・ガドルク!!」

アルトの体が白いオーラに包まれると、
小次郎は木刀を大きく振りかざした。

「・・・こんな木の棒なんかァ!!」

真っ直ぐと振り下ろされる木刀の動きを予想して
当てれば、木刀を折れる位置にストレートに拳を入れた。

「!?」

しかし、木刀は寸でのところで止められ、拳は空振りし
勢いで体を背けてしまった。

「フン・・・人間が正面から魔物とォ――」

小次郎は45℃回り込むと、アルトの脇腹を思いっきり突いた。

「――立ち会うわけが無かろうがあ!!!」
「が・・ぁ・・・っ」

アルトは突き飛ばされ、砂浜に身体を打ち付けるが
身体についた砂を払うとすぐに起き上がった。

「――ガンズ・ビライ!」
「・・・んなものぉ!!」

無数に飛び交う光線を両腕を振り回しながらまとめて弾いた。

「小次郎ーッ!強化はもういい!次の術だ!」
「ええぃ、メンドクサイ・・・メルギブロン!!」

シドウの装着していた四角いブロックは身体を離れ
宙をフワフワと浮いている。

「バルガン・メルギル!!」

すると、その四角いブロックは光を放ち、何本もの
光線を放った。しかも、あらゆる方向から――

「葵ッ、私の近くに」
「ギガノ・ビライシル!!」

半透明の球状のバリアがそれを防ぐが
四方八方からの攻撃で身動きがほとんど取れない。

「さてさて・・・いつまで持つか・・・」

「――ウィケルド!!」
「ぬぉお!!」

今度は小次郎が球状のバリアに閉じ込められた。

「これで眠ってもらうから!動かないでよね!」

アルトが振りかぶり、拳を放つ。
――が、ウィケルドがとけたと同時に木刀で服を引っ掛けて
背負い投げのように円心を使って放り投げた。

「――ウィルム!」

アルトは身体を一回転させると空中に着地した。

「・・・・(桐生さん達をこれ以上方って置いたら危ない。
 あんな光線の雨をまともに食らったら――)」
「フハハハハハ!どーしたどーしたよぉ!?
 当たらないか?攻撃が!」
「アルト、こっちへ戻るんだ!」
「・・・え、なんでさー?」
「いいから!」

アルトは階段を降りるようにリズムよく空中を
降りていった。

「・・・スキ有りぃぃ!!」

アルトが地面に脚を踏み入れようとした途端、
小次郎の木刀が後頭部を叩き付け、顔から地面に落っこちた。

「痛ってぇー!後ろから攻撃すんなよな!?」
「じゃぁーかいしんじゃ!敵に背を向けるとは何事だ!!」

アルトhあ頭を抑えながら綾人のもとへと駆け寄った。

「いい?――――
 ・・・これで終わらせるから」
「ん・・・・できんの?」
「それはアルト次第・・・さ、行こう!」

アルトは表情を引き締めると、階段を登るように
空中まで駆け上った。

「フッ・・・どう来る小僧!?」

夜空の寒々とした風が肌に凍みる。
アルトは高くから見下ろした小次郎を見ると
身体を地面に急降下させながら走った――


2005年04月01日 (金) 10時51分


(928) 【第28話】 告白 投稿者:マクルク HOME


「アルト、頼んだよ!?」
「・・・OK!」

アルトは宙に歩を踏みしめながら、小次郎のもとへと走った。

「――ッらぁ!!」

勢いに任せた攻撃は小次郎に当たることも無く
背中をとられ、木刀の一振りのまともに喰らった。
今度はギリギリまで引き付けると、
軽く2,3歩ステップを踏んで、下がった。
小次郎はそれを追う。
紙一重で小次郎の一振りを避けながら、アルトは
綾人の言葉を思い出した。

「(―――いい?相手の魔物は葵さんへの攻撃に気をとられてる。
 多分、僕達はあのおじさんに任せてるんだと思う。
 あの魔物は動いてない。だから、おじさんの延長線上に
 魔物が来るようにして攻撃を撃つ。あとは――)」
「・・・綾人ッ、揃った!OKだ!!」

綾人は俯きながら笑みを見せた。

「ウィルガ!!」

小次郎から中距離で放たれるウィルガは
アッサリと避けられた。

「フン、甘いわぁ!――」
「――うごぁあ!!?」

小次郎は後ろでシドウの叫び声が聞こえ、
思わず後ろを振り返った。
シドウは頭から煙を立たせながら、頭を摩っている。

「・・・そっちの流れ弾が当たったじゃねーか!
 しっかりしろよ!!」
「むぅぅ・・じゃあかいしい!」
「――ウィル・ガドルク!!」

小次郎は戦闘の最中だと言うことに気づき
改めて場を持ち直そうとした瞬間――
光のオーラを纏ったアルトに腕を弾かれ、
本を奪われた。一瞬の出来事だった。
シドウもこちらを見入っている。

「しま・・帰せぇ!」

小次郎が手を伸ばした瞬間、
本を高く放り投げた。

「リリィ!トドメだ!!」

気をとられたシドウの攻撃は止まっていた。
リリィの指は高く舞う本に向けられている。

「ビライ!!」

真っ直ぐと飛ぶ光の球は本に直撃し、
白い炎に包まれた。
それと平行するようにシドウの体が薄くなっていく。
そして、数十秒後、シドウは消え、魔界に帰った。

「・・・・・ぐぞぉぉ・・・我々の力不足と!?」

木刀の砂浜に落とし、前かがみに項垂れる小次郎に
後ろからアルトが思いっきり殴った。
鈍い音が夜の海岸沿いに響いて、意識を遠くにした。

「・・・あ〜・・・疲れた」
「アルト、散歩の続きしない?」

リリィは戦いが終わるや否やアルトと
連れましていった。
再び、綾人と葵の2人になった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・あの・・さ・・・」
「そういえば、大事な話って何?」

葵の唐突な質問で心臓の鼓動のテンポが
一気に高まった。

「(言ってやる!言ってやる!!言ってやる!!!
 前フリとか、そんなの要らない!
 要点だけを・・・たったの2文字だ・・言ってやる!)」
「で、何なの?」
「・・・・・ス・・・スゥウ・・・ス――」
「――ウオラアアアアア!!!!
 てめぇ等何してやがらああ!!!?消灯時間は
 とっくに過ぎてんだぞぉぉぉああ!!?」
「――キです」

寒い夜空のとあるホテルの裏側でとてつもないほどの
超人的な大声を張り上げたのは生徒指導の村上先生だった。
結果、綾人のスズメの涙ような小声の一言は
無駄に叫ぶ大声の前に見事にかき消された。
たとえ、目の前であっても――

「・・・」
「・・・今。何て言ったの?」
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!」」

綾人の内心は一世一代の決意をアッサリと踏みにじられ
言葉では表せない混沌の冥界の負の世界のどん底に
叩き落されたようなとにかくショックな感じで
いっぱいになった――

その後、一時間の説教を延々と聞かされた後就寝。
昨日の一言は“ス”晴らしい思い出作ろうね
と書き換えるハメになった。二度は言えなかった。
その後の修学旅行はモヤモヤとしたものが残り
あまり快適なものではなく、肩を落とし続ける日々となった。
修学旅行後の感想作文で、最後にこう書いた――
“この修学旅行での一番の目的を達成できませんでした”



2005年04月04日 (月) 13時43分


(938) 【第29話】 死の招待状 投稿者:マクルク HOME

――――オランダ ロッテルダム

「おい、エムス。手紙だぜ・・・しかも、とんでもないヤツ」
「オーディ・・・それ取ってきて」

オランダのとある町、に住む青年、エムスと
魔物のオーディは日々、魔界の王となるための特訓を続けていて
ちょうど、新しい術の効果を試したところで帰宅した
ばっかりだった。
エムスはレモンティーを口に含みながら、その手紙を受け取り
人差し指、中指を器用に使って手紙を開けた。

「・・・・・・」

“3日後の正午にパキスタン・インド・チベ ット・ネパール・ ブータンの国境付近に位置するヒマラヤ山脈前付近まで来い。
 詳しい場所は来れば判る。
 もし、来なかった場合、魔物の力の前に死を見ることになる”
                 
エムスはそれを最初質の悪いイタズラだと思ったが
文章の後半に書かれた魔物という言葉が現実味を高めさせた。
エムスは手紙に添えられたチケットを握り締め、
ヒマラヤ山脈への旅を誓った。

「ナメたことしやがって・・・」

――――ヒマラヤ山脈

「――・・・人がいるぞ!オーイッ」

三日後の正午前にエムス質はヒマラヤ山脈に辿り着いた
ものの山脈の辺りの気温は予想以上に寒かった。
風は何よりも厳しく、正面からの風はまともに呼吸も出来ない。

「・・・お前が手紙の送り主か?」

相手の返事は予想外のものだった。

「なんだ・・・手紙って――」
「そうだ、名無しの手紙に呼ばれてな・・・
 その隣にいる子供、まさか・・・」
「この子は人間ではない。魔物だ。アンタの隣にいる子も?」
「ああ」

しばらく、辺りを見回しながら歩いている内に同じような
魔物を持つ者達が3組、6人出会った。
それから探すも一向に出会わないことを考えると
この10人が謎の手紙に呼び出されたことになる。

「・・・そろそろ呼び出し人が来てもよさそうだがな」
「・・・ようこそ、墓場へ」

突然、後ろで声が聞こえた。
振り返った先、黒髪の少年のレイヴンとガルシアが立っていた。

「アンタだな?俺等を呼び出したのは・・・」
「そう、お前たちは光栄だ。・・・フフ、アレを見れるんだ」
「でもよ、10対2で闘おうってつもりかよ?
 そいつぁ無謀なんじゃねーの?」
「戦いはしない。お前は解放のためのエサだ」
「なめやがッ――」
「ハオルクス・ディオデイス!!!」

エムスは――
正確にはその後何の迷いも見せずに走った。全力で。
本能が叫んで語る危険信号に顔を恐怖に染めることはなかった。
恐怖に顔を歪めてるヒマがあるなら走れ!とにかく
あらゆるものを捨ててでも走って、逃げて、生きろと体中の
細胞がそれだけの目的に動いているように
一心不乱走った。途中、何かにぶつかったかもしれない。
怪我をしたかもしれない。
でも、そんなことはどうだっていい。治るから。
とにかく、とにかく走れ――

「ああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああ――」

――――日本

綾人は学校から帰宅して、着替えるとテレビをつけた。
その音に反応して部屋からアルトで出てきてソファーに
飛び乗った。

「では、本日のニュースです。
 なんと、あのヒマラヤ山脈に隕石が落ちたとの情報が
 流れています。現場の森さん――」

いきなりのスケールの大きい事件の2人はTVに釘付けになった。

「はい、森です!現在ヘリコプターから上空の撮影なんですが、
 見ぃてください!この巨大な穴を!!!
 この穴は推定ではありますが、過去の隕石の衝撃跡の3〜4倍
 の大きさが伺えます。目撃者はいないもようです。
 現時点で判るのはここまでです!――」
「はぁい!判りました。しかし、これだけデカイのが人の住む
 町なんかに落ちた日にはとんでもないことになりうるでしょう
 ね・・・。では、次のニュースです――」

「うっはぁ〜・・・凄げぇ〜〜」
「魔物の仕業だったりしてね・・・」
「まさか、あんなの魔界だってないね!
 あんなのあったら絶対僕等、王になれないって!」
「ハハハ」

この事件が意外にも自分の身近な出来事だということに
2人はまったく気づいていなかった。


2005年04月06日 (水) 15時16分


(945) 【第30話】 忠告 投稿者:マクルク HOME

11月の秋とも冬とも言えぬ寒い時期の中
変わらぬ日々を送る綾人とアルトはおMDコンポから流れる
J―POPを聞きながら、各々の自由行動をとっていた。

「ん〜・・・♪Get up Get up Get up Top of theWars・・・
 Drop the bomber〜〜〜!!!year〜〜〜〜〜♪」
「ちっと静かにしてくんない?うるさいよ。
こっちは雑誌読んでんのにさぁ」
「いや、ははは・・この曲は歌わずにいられないねッ!」

綾人は雑誌を閉じて隙間だらけの本棚に無造作にしまい、
部屋の時計を見た。
時計は5時35分を示している。

「・・・そろそろ夕飯の材料買いに行こうか?」
「うっそ!弁当じゃないの!?」
「ま、たまには手作りもいいじゃん?」
「・・・料理上――」
「上手い。だから、行くよ・・・」

最後の質問だけ無理やりねじ伏せられたように言いくるめられた
が、あえて耐えてみた。文句は料理の後にタップリと言えるからだ。

―――――スーパー

「――・・・(たまねぎ、にんじん、ピーマン、麺、
 きくらげ、きのこ・・・あと、オリーブオイルだけか)」
「ねぇ、綾人・・・トイレってどこだっけ?」
「えっと、あのアイスとかが置いてあるコーナーのね・・・
 角を曲がった右先にあったと思う」
「サンキュー!やっば、マジ漏れる!」

綾人はゆっくりと品定めをする客の間をスルスルと起用に
避けながら、駆け抜けていった。
アイスコーナーの手前のお惣菜コーナーを曲がりそうに
なって、途中で気がついて片足を軸にして一回点して
また角を曲がるという落ち着きの無い行動っぷりからして
そうとう我慢していたのだろう。

――――スーパー トイレ

「あ〜〜〜この開放感がぁ〜〜――」

小さなトイレで一人親父臭い唸り声を上げながら
用を足していると、突然、人が入ってきて
思わず後ろを振り返ると共にズボンのチャックを上げてしまった。
そして、後から感じるズボンが湿る感覚――

「・・・(微妙に出し切ってなかった・・・)」

アルトは手も洗わず、トイレを飛び出し、勢いで店の外まで
出て行ってしまった。
店にいると視線がどうも気になるからだ。

「・・・ちょっとだし、平気か?
 黙っておけば、気づかず洗濯されるかな・・・」
「――君、ちょっとそこまでいいかな?」

綾人は感じたことのある戦いを示す間隔が脳裏を刺激した。
魔物の感覚が目の前に――
声をかけた長身の男から感じられたのだ。

「・・・いつからそこに?」
「今、ここに来た」
「・・・・・・」

アルトの近隣の魔物を探知する能力がある限り
こんな近づかれるまで気がつかないことはありえない。
本当にいきなり突然ここに現れたことになる。

「・・・勝負か?」
「いや、君に大事な忠告しに来た。
まず、自己紹介を―――」」

――――スーパー 入り口前

「―――そういうわけだ。では、頼んだぞ」
「・・・・・・・(なんで・・・どうして!!)」

男は画面の映像が途切れるように左右にブレながら、消えた。

「あ、アルトー!どこ行ってたんだよ?探したんだからね」
「!!!」
「・・・どうしたの?もう、買い物終わったから買えるよ?」
「え、ああ、ゴメン・・・行こう」

アルトは帰り道、綾人と短い細切れの会話を続けている間
目をあわそうとしなかった。
どこか挙動不審な感じで指の爪を何回も見たり、景色を一点集中して
見ようとしない。

「・・・何か様子が変な感じ、どしたの?」
「・・!え、えああ!?・・・いや、綾人の料理が不安で・・」
「ったく、いいよ。後で絶対うまいって言わせてやる!」
「・・・・・・――
 (なんで・・・僕はもう、ココには・・・居られないの?――)」

紅い夕日が徐々に薄暗い雲に覆われようとしている。
アルトの辛くも楽しい日々を塗り消しだすかのように――


2005年04月08日 (金) 19時27分


(964) 【第31話】 幼児虐待 投稿者:マクルク HOME

「ざッけんなテメーよぉッ!!」

とある町のアパートの一室――
そこに住む住人は離婚経験のある女とその息子と新しく
出来た父親と三人で暮らしている。
その中でも一際荒い性格を持つ男は日々のストレスの発散の
ために今日も子供を大人気なく蹴り続けた。

「テメェ、邪魔くせーんだよ。いっつもいっつも
 隅っこでワケわかんねー人形持ってやがってよぉ!!!」

男は背を向けて丸まって震えている子供の頭を
踏みにじった。

「うぅぅ・・・ヒック・・・ごめんなさいごめんなさい
 ・・・・・・」
「はぁ?調子乗ってんじゃねーぞ!?ガキ!!」

台所から菓子パンを取り出し、今に母親が姿を見せた。

「ちょっと・・・あんまり酷いことすると
 警察に捕まるよ?前の一回疑われたんだからね」

言葉と重みとは別で大して気を使う様子も見せず
パンを齧りながら机に散らかったゴミを払いのけて
リモコンのスイッチを入れた。
テレビをつけて数秒後にはテレビの前で大笑いしている。

「・・・(痛い。・・・助けてよジャスティスマン・・・
助けて・・・)」

蹲る子供の持つ人形、ジャスティスマン。
特撮シリーズの新作で幼い子供に人気のヒーローだが
彼にとって実在すると思ってるため、ひたすら助けを願い続け
いつか救われると信じることが今の苦境に屈せずにいられる
希望の光だった。
キメセリフは“正義の名の下に悪は俺が倒す!!!”
その言葉を幼くも何日も、何週間も、何ヶ月も待ち、信じ続ける
心が折れることは無かった。

「ねぇ、新宿行かない?あそこに良い店できたんだよねぇ〜」
「うーっそマジで!?・・・じゃ、行くか」

2人は着替えると子供を無視して家を出て行った。

「・・・・・・・・・」

それから数分後、子供が起き上がるとイスを利用して
ドアを開けると散らかった部屋においてあった
ポテトチップスを手に持って外へ出て行った。
もちろん、カギはかかっていない。

――――公園

「・・・・・(またお腹が痛い)」

少し吐き気を催すような気分の悪さが残る体で
公園を出向いたがいつも遊ぶ砂場、ブランコが占領
されてるため仕方が無くベンチに座った。
隣にはロッカーがよく切る黒の短めの皮ジャンに
紅い血を吹いた羽根の生えたドクロ模様のTシャツを
着て、鋭いサングラスをかけたオールバックの青年が
同じように座っていた。

「・・・・・・」

子供に見覚えのある感覚が過ぎり、青年をまじまじと見る。

「・・・?」

青年も気づくが無視する。

「・・・・・・ジャスティスマン?」
「ハァ?」
「ジャスティスマンでしょ!!?」

子供が目を輝かせながら、青年の太股に両手を置いて
屈託の無い笑顔を見せつける。
青年も戸惑い気味な表情が頭をかく。

「・・・あのなぁ、何か勘違――
(つーか、オレの名前はベルゼブだっての!」
「僕、鈴本勝(すずもと まさる)って言います!
いっつもテレビ見てます!」
「・・・・・・」
「もしかして、僕の願いを聞いてくれたんですか!?」

勝は今までの虐待を足りない言葉で必■に伝えた。
ベルゼブはそれに驚愕せずにはいられなかった。
まるで勝という過去の自分を見ているかのよう
だったからだ。

「・・・・・そうだ。オレはお前の願いを聞きつけて
 やってきたんだ!お前の家に案内しろ。
 オレがお前の親をこらしめてやっからよ」
「本当!!?」
「ああ」
「でも、ジャスティスマンは何でも知ってるから
 教えなくても知ってるんでしょ?」
「・・・一応だよッいちおう!」

ベルゼブは照れながら子供の頭を撫で回すとベンチ
を立ち上がった。
勝はそのあとを尊敬の眼差しで見つめ続けながら
着いていこうとした。

「お前はここで待ってろ。必ず戻ってくるから」
「・・・はい!」

――勝宅

ベルゼブが公園を出て行って2時間弱が過ぎた頃、
カギを差込、ドアを開ける音が聞こえた。
両親が帰ってきた。

「・・・ゲームの続きでもすっかな?オイ、勝!
 おとーさんのおかえりですよー?」

嘲るような父親の声に何の反応も帰ってこなかった。
父親は口元を歪めると、電気をつけてリビングへと向かった。

「オイ!シカトしてんじゃねーッ」

明るく照らす電気の下にはベルゼブが父親愛用の膨れ上がった
リュックを背負い、右手には丸まった毛布をかかえている。

「・・・んだ?お前・・・ドロボウか?」
「・・・てめぇ等が勝の親か?」
「はぁ?だったら何だよ!テメーこそ誰だよ。
 どうやってウチに入ってきた?」
「・・・窓割った」

後ろの台所で母親が身を隠しながら様子を確認している。
男はベルゼブを睨んだまま台所へ向かった。

「テメー動くなよ・・・・」

父親が取り出したのは包丁だった。

「オイ、麻美!警察にはこう言え・・・
 ドロボウが襲ってきたので仕方が無く近くにあった包丁で
 殺してしまったってな・・・。
 ドロボウさんよ・・・こういうのはせーとーぼーえーって
 言うんだぜ?」
「・・・・どけよ。お前らには任せてたら勝が可哀想だ。
 俺が引き取る」
「じゃあ、■」

男は上半身は動かさず、腰の辺りに構えた包丁を真っ直ぐと
向け、走った。
しかし、ベルゼブは目の見えぬ速さで包丁を横から裏拳で
薙ぎ払った。

「〜〜〜ッ」

男の両手はシビれ、小刻みに震えている。

「・・・口のわりに弱ぇ。じゃあ、■」

ベルゼブは男の首を両手で逆さに持つと雑巾を
ねじる様にいっきに首をねじった。
男の首が骨が砕ける音共に二回転回ると
全身を脱力に任せ、前から倒れた。

「ヒッ・・・・」

麻美が思わず悲鳴を上げる。
手に持った電話を下に落とすとベルゼブを涙目で
見つめ、顔が引きつっている。

「・・・・・・・」

ベルゼブは麻美には手を下さないまま、
ドアを蹴破るとそのまま姿を消した。
麻美が警察に電話したのは体の竦みが無くなった
一時間ほど後となった――

――――公園

「――オウ」
「あ、ジャスティスマン!」

子供が相変わらずの満面の笑みで近寄ってくる。

「お前のお母さんとお父さんは懲らしめておいた。
・・・今日からお前と2人で一緒に暮らす。いいな?」
「え・・・。・・・はい!!」

多少と戸惑いを見せるも、直に首を縦に振った。

「・・・今日はここの裏山で泊まる。
 明日の朝からは旅にでる!」
「はい!」

辺りは完全に真っ暗な闇に染まり、勝は
毛布敷いた上に毛布をさらに2枚かぶせた状態で寝ている。

「(・・・コイツは俺が引き取る。で、魔界にも帰らねぇ。
 自分と女に境遇・・・か。俺にとって初めて辛さを分かり合
 える奴に出会えたんだ。ずっと一緒にいたい。ずっと――」

風も吹かない静かな夜に照らされた勝の寝顔を見て
少し笑うと自分も毛布に包まって、目を瞑った。
きっとこれも何かの運命だ。
ベルゼブは明日の朝食のメニューを考えながら
眠りについた―――


2005年04月16日 (土) 14時57分


(967) 【第32話】 罪深きヒーロー 投稿者:マクルク HOME

“では、今朝のニュースです。
 先日、夕方頃に○○市、○○町で強盗殺人事件が起こりました“

ベルゼブが盗んできた生活用具の1つ、ラジオを片手に
公園の水道で顔を洗っていた。
ニュースでは強盗が押し入り、それを目撃した家族の父親が
止めようとし、揉め合った所、撲殺されたと考えられており
母親には手を出さず、食料、金銭だけでなく息子までもを
奪い去った、と報道されている。
自分のしたことの重大さをようやくが知るが既に時遅し。
しかし、あくまでも自分の行動を正義と堅く信じ、
寝床へと戻っていった。
その表情に後悔の一片を見せることなく。

「おい、勝・・・起きろ」

勝は毛布をのけると、眠たそうな目を擦りながら
嬉しそうな挨拶をした。

「水道で顔洗ったら、ここで待ってろ・・・。
 ちょっと、買う物がある」
「・・・・はい!」

相変わらずの気持ちよいくらい、元気な返事に
笑顔を見せると、頭をなでた。
勝のさらさらの髪質がベルゼブにとって心地の良いものだからだ。

「じゃあな。あっちこっちに行くなよ?」

――公園を曲がって十字路を右に曲がり、信号を渡る。
ベルゼブは一本道を歩きながら、過去を思い出していた。
乱暴で酒豪の父親暴力を賢明に庇い、傷つく母。
いつか母を守れるほど強くなると誓った矢先、
父と一緒に暴力を振るう母。
自分の息子の安全よりも自分の安全のために寝返った
母親の信じられない行動に心底のショックを受けて
胃に穴があくほどに―−
もだえ苦しむ自分を高い目線から冷たくあざ笑う2人の親。
どうしようもないほど、それが悲しく、泣くことすら出来
なかった。自分を助けてくれる人が居ないとわかった時の
恐怖感――
何も無い世界に一人残された不安感――
少し前まで心癒す風に葉が揺れる音も今は空っぽの
心を喰らうような悪魔の戦慄のささやき――
ベルゼブはあの時の何もかもが真っ白になった感覚は
孤児院で過ごしたときも、新しく出来た友達の笑顔を見たときも
保母さんに優しく抱かれたときも、誕生日にみんなが偽り無い
笑顔で自分を祝ってくれたときも――
あのときの真っ白が頭から消えることはなかった。今も――

「・・・(あいつはあんな親の所で過ごすよりも、俺と
 一緒にいたほうが良い。誰が来ても、勝は俺が守るッ
 ・・・・絶対に)」

――公園の裏山でベルゼブが持ってきたリュックの漁ると
見覚えのない、ダークグリーンの本が食料に埋もれていた。

「・・・?」

それを手にとって読んでみるも、ある一箇所を覗いて
まったく読めない。

「・・・ザオルク?何だろ?
 あ、まだ顔洗ってない!ジャスティスマンが帰ってくる
 までに洗わなきゃ」

勝は本を手にしたまま水道へと走っていった。
水道の蛇口をひねり、手に水を貯めて顔を洗う。
それを2〜3回し、濡れた顔をTシャツの袖で拭いた。

「・・・」

振り返った先、お気に入りの砂場が空いている。誰も居ない。
昨日、遊べなかった分遊んでおこうと砂場に駆け寄り
嬉しそうな顔で砂を手で掘り起こす。

「お前どけよー!」

後ろで枯れた声が聞こえる。振り返ると
太った子供と後ろに痩せた子供が2人、いやらしい目つきで
勝を見ている。
背丈から1〜2歳年上と思われる。

「何?」
「ここはおれたちの遊び場なんだから、どけっていってんだよ!」
「そーだよ!どけよ」
「・・・・公園の遊び場はみんなでなかよくつかおうって
 看板に・・・」
「うるせー!」

太った子供は無理やり本とロ利上げた。

「あッ・・・返してよ!」
「やーだよ!」

太った子供は逃げまとい、勝が追いかけるも
中々おいつかない。

「中島くん!さっき拾ったライター使えばぁ?」
「いいねーッそれ!」

痩せた子供が2人掛りで勝を押さえつける。
そして、中島がポケットから汚れたライターを取り出し
火をつけた。

「アッ・・ダメーッやめてー!!」

ライターの赤い火は本の角をチリチリとあぶり、
そして火が灯された。

「ああ!!」
「おい、砂場行こうぜ!」
「ぁ・・・・・あ・・・・・」

勝は涙を流しながら、水道の水で必■に火を消そうとするが
火はどんどん広がる一方だ。

「どうしよ・・・どうしよ・・・・」
「―――勝?お前ッ、それ・・・」
「あッ・・・あの人達に燃やされて・・
 ごめんなさい!ごめんなさい!」

ベルゼブは急に恐ろしい形相に変わると勝を
素通りして、砂場の子ども達に向かって早歩きで
向かっていった。

「おい」
「・・・なに、おじさん?」
「お前等があの本を燃やしたんだな?」
「なんだよ!アイツがおれたちのせんりょうくいきに
 勝手に――」
「お前等がやったんだな?・・・じゃ、■」

ベルゼブは思いっきり後ろに振り上げた右足を
中島の顔面に入れ、高くに突き上げた。
中島の顔は陥没していて、ドス黒い血が花の辺りを
ぬらしている。

「うッあああああ!!!」

2人の痩せた子供は逃げようとするも、一人は首を折られ、
もう一人は頭を砂場を囲うコンクリートに叩きつけ、
頭をかち割った。
それは行動を起こしてから3秒とたっていない。

「・・・・・ちくしょうがッ」

一方の勝はベルゼブとは正反対の向きを向いているため
惨劇の舞台には背を向けている。
そこにベルゼブがやってきた。

「ジャスティスマン・・・ごめんなさい・・・」
「・・・今、新しい怪獣が・・・遠くの国に
 現れたから倒して来いって指令が来た・・・
 だから、悪りぃ・・・お前とはお別れだ」
「!!!」

勝は目を見開いて、その場に座り込んだ。

「・・・ジャスティスマン、一緒に度に連れて行ってくれる
 って言ったのに・・・あの本が燃えちゃったらダメなの?」

震える声にベルゼブの心が揺れ動く。
心が締め付けられるような痛みに唇を噛んだ。

「・・・悪りぃ・・・・・じゃな」
「待って!!」
「!」
「・・・どうしたら、今度いつ会えるの?
 僕、待ってるから」
「・・・・・・・・・強く生きろ。ずっと強く行き続けろ
 ・・・そしたら・・・」
「・・・・・・会えるよね?」
「ああ」

ベルゼブは公園を出ると、真っ直ぐと走っていった。
勝をそれを目で追い、見えなくなってもしばらく
公園の出口を見続けていた。

「・・・あーッくそ!
 (どーして俺はこんなに運がねーのかね。
 結局、アイツのこと手に負えなくなって
 逃げただけじゃん。・・・俺、バカじゃん)
 ・・・・・・・・クソ」

ベルゼブの身体は徐々に薄れていき、
黒いサングラスから流れる涙が頬をつたって、
地面に落ち、弾けたと同時に、消えていった。
後悔の念だけを残して――――

――時は流れ、先進国のトップに立つ日本に
新しいシリーズ物のドラマが始まろうとしていた。
そして、恭賀そのシリーズ開始の記者会見が行われていた。

「――では、〜マンシリーズ25作目であり、最終作である、
 アルティメットマンの主役に選ばれた気持ちは?」
「はい、このシリーズは要所の頃がよく見ていました。
 ある意味、子供頃の夢が叶ったと思ってます」

カメラのフラッシュが眩しく主役の青年の顔を捕らえる。

「ところで、記念すべき第1話の最後に助けた孤児の
 子供に一言言うシーン・・・、あれはアナタが考え
 直接、監督に交渉した・・・というのは?」
「ええ、あれは昔、恩人とも呼べる人から同じように
 言われたんですよ・・・。境遇も似てましたし。
 “強く生きろ”。これは俺の人生の活力みたいな
 もんですね・・・」

―――ジャスティスマン

―――じゃなくて・・・のそっくりさん

―――貴方の言葉の通り、今

―――何にも屈さず、強く強く生きてます

―――そして、これからも


2005年04月17日 (日) 18時47分


(983) 【第33話】 嘘吐き 投稿者:マクルク HOME

季節は冬を向かえ、月は12を示しだした頃
アルトの機嫌が普段よりも良いことに綾人は気づいた。
今日は12月3日、水曜日―――
綾人の許可を得て、前々から楽しみにしていた新作の
RPGゲームの発売日だった。
綾人の長年溜めてきた一万五千円の入った財布を握り締め
隠し切れない笑みを必死に抑えながら、店へと走っていった。
何故かいつも見る風景がなんとなくよく見える。
何故か道を歩く人々がとても善良な人に見える。
抑えきれない胸の高鳴りがアルトのリズムのないガクガクした
ステップによく現れている。落ち着いていない。

「トゥルルル〜〜♪・・・・・・着〜いたッ」

目的の店頭はアルトの高鳴りをいっきに崩し去った。
先の見えない行列がずらりと並び、その数は悠々と50を
超えると思わせるほどの長蛇の列だった。

「やっべェ〜・・・これもしかして全部ゲーム目的なの!?
 いくらなんでもコレ並んで、買えるのか・・・?」

一抹の不安が頭を過ぎった矢先、後ろからの自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返った先にはおかっぱ頭の長鼻の子供が電柱に寄りかかり、
両腕を組んで、大きな態度でこちらをニヤニヤと見ている。

「何、もしかしてアレ買いたいの?」
「・・・え、まぁ、そうだけど・・・」
「じゃあ、ここからまっすぐ右に進んで、そこの十字路を
 左に・・・。その並びに店、あるぜぃ?
 そこ、ガ〜ラガラ・・・」
「マジ!!?」
「俺もそこで買ったんだよ。まだ、いっぱい置いてたぜ?」
「ホント!?ホントにホント!!!?・・・速攻ダッシュ!!
(・・・そいや、アイツの感覚・・・。ま、いっか)」

綾人はその子供に手を振りながら、猛ダッシュで走っていった。

「・・・プププ・・・プ〜ップップップ・・・」


「―――んだよコレッ・・・
 全然ゲーム売ってる店ないじゃん!」
「よぉ〜・・・目的の店、あったかい?」

十数分ほど歩き続けたにも関わらず、一向に目的の店が見えない時
情報提供した長鼻の少年が既に待ち伏せしていたかのように
最初に見たときと同じポーズでこちらを見ていた。

「あッ・・・ねぇ、ゲーム売ってる店ぜんぜんないよ!?
 どこにあんの?」
「プププ・・・あんじゃん。・・・ホラ」

少年が指指した先、そこにはボロい駄菓子やがあった。

「え、どーゆうこと?」
「あれ、君・・・駄菓子屋のポッキー買いに来たんじゃないの?」
「・・・・え、ちょ・・・まさか・・・」
「いや、君もポッキーを買いに来たんだとばかりに・・・」
「んなッ!!?」

アルトはショックを受ける間も無く、猛ダッシュで最初に着いた
ゲームショップへと走っていった。

「―――申し訳ありません。既に入荷されたものは売れきれとなって
 しまいました・・・。それに、次とその次の入荷も予約でいっぱい
 でして、お客様が予約したとしても、最低2ヶ月近く待たなければ
なりませんが・・・よろしいでしょうか?」
「・・・・そうですか・・・」

アルトは肩を落としながら、店を出ると財布に入っていた一万五千円を
悲しげな目で見つめる。脳裏に浮かぶ、雑誌に載っていたゲームのコマ
切れに写る写真を思い出しながら、より一層肩を落とした。
アルトは特に理由も無く、無常に家に変えることの出来ない環境に
置かれた気分になり、夕日が辺りを紅く照らし出す頃までブランコに
揺られていた。

「・・・この数ヶ月・・ずっと・・・これだけを支えに・・・
 綾人がいない間の家事を・・・おつかいも・・・見たい番組も
 譲ったのに・・・この仕打ち。神様は僕に恨みあんの?・・・」
「・・・一日一嘘・・・今日は久々にいい嘘つけたぜ。
 なんたって―――」
「あ」
「・・・やべっ」

偶然通りかかった長鼻の少年にアルトの視線が地面から動く。
長鼻の少年は目を合わせようとせず、視線を斜めに変えた。

「・・・今、嘘って・・・」

長鼻の少年は黙って一目散に逃げ出し、アルトは彼の嘘を確信し
全力で追いかけた。
長い直線がない周辺の道でアルトは顔の皮膚が震えるほどのスピードで
走るが、それに対して常に一定の距離を保ちながら走る長鼻の少年に
若干の焦りと動揺を感じた。

「(やっぱり、コイツのありえないスピード。魔物だ)」

一瞬の心の揺れがさらに、少しの差を広げた。
アルトは改めて気を引き締めなおすと、姿勢を低くして
スピードを高めた。

「―――ジュリア〜〜〜!助けて〜〜〜!!」

ガムシャラに走り続けてきたアルトは立ち止まった長鼻の少年を見て
ようやく辺りの景色に気がついた。
そこはバブル時代に栄えていた工場の廃になった跡地だった。
周りには濃い色の木々が生い茂っている。
街からは意外と離れてはいない。

「アンタ、また嘘ついて怒らせたんでしょ?」
「違うんだって!アイツが・・・」
「やかましい!!」

ジュリアのゲンコツが長鼻の少年を脳天に鈍い音を響かせる。
長鼻の少年はその場に蹲り、頭を必死になでている。
そのマヌケな姿に怒りが少しだけ収まった。
ジュリアはアルトに気がつくと、こちらへとやって来た。

「ごめんね・・・。アイツの嘘に騙されたんでしょ?
 ほんのイタズラ心なの、許してくれる?」

ジュリアの優しい対応に、アルトは怒りを納めると一言返事して
頷いた。

「あの、いいですか?」
「何?」
「あの鼻の長い人・・・魔物ですよね?ってことはお姉さんが――」
「魔物?・・・あなた、魔物のこと知ってるの?」
「知ってるっていうか、僕自身、魔物です」
「!・・・へぇ・・じゃあ、帰すわけにはいかないね」
「え?」

ジュリアの目つきが急に鋭く、野生をたぎらせるような赤い感じの
目つきに変わった。
アルトもその目に一歩足を引いてしまった。

「アンタが魔物だってなら、話は別だね。
 今すぐ、パートナーを連れてきな。ここで勝負してもらう」
「んなムチャな!何でいきなり・・・!」

ジュリアはその好戦的な目でアルトを見ると、アルトのポケットに
手を突っ込み、財布を無理やり取り出した。

「あ!」
「・・・一万五千円・・この金返して欲しかったら、私たちと戦って
 勝ちな。イヤって言ったらお前の家探してこっちから殴りこませて
 もらうよ・・・どうする?」

どっちを選んでも戦わなきゃいけないムチャな選択にアルトはこの場で
戦いを挑むことを選ぶと、箸って綾人の家まで駆けていった。

「―――ロバート、準備しとけ」
「ププ・・・バカじゃん。こっちを選ぶことがどんだけヤバイか
 知らないんだろなー・・・プフフフ・・・」

三十分後、アルトは綾人を連れて廃工場の前までやってきた。
そこには私服姿のジュリアは居ず、軍服姿のジュリアが
ワラ色の本を手に持ち、立っていた。

「随分、ひ弱そうな子供。やっぱり違うね」
「・・・どうしても、戦わなきゃいけないんですか?」
「アンタ、勘違いしてない?」
「!?」
「この王を決める戦いは少人数で行われる多他国との戦争と
 同じなんだよ。戦争中、敵と敵で出会う・・・勝負以外の
 何がある?」
「・・・」
「教えてやるよ。アンタ達と私達との決定的な違いを・・・」


2005年04月23日 (土) 11時17分


(986) 【第34話】 Marvelous 投稿者:マクルク HOME


綾人とジュリアは本を開くと、もう片手を本の上においた。
そして、本が輝きだすとアルトとロバートが片脚を
下げて、構えた。

「・・・ウィルム!」

先手で綾人が呪文を唱え、アルトが地面を蹴って高々と
飛び出すと、斜めに落下するように駆け下りた。

「ロバート、狙いは!?」
「・・・オッケイ!狂いなし!」
「ノビルガ!」

ロバートの鼻の先端は、4枚の刃をつけ、残りを金属で覆うと
一直線に伸ばした。

「ウィルガ!」

ウィルガはノビルガと押し合い、ガガガガと削るような接触音
を響きだした。
アルトは苦衷でロバートを中心に回って方向を変えるが、
それに応じてロバートも身体を少しずつまわしていって
ぶつけ続けた。
ついにウィルガとノビルガは互いの衝撃で弾かれ、
一方は消えて、また一方はもとへと戻っていった。

「・・・アム・ノビル!!」

ロバートの鼻は形を変えて、マジックハンドのような手へ
変わり、空中のアルトの足を掴み、地面に叩きつけた。

「・・・がッ、うく・・・」
「ノビルガ!」

“手”の鼻はもとの鼻に戻ると槍の鼻、ノビルガが
アルトの横っ腹を刺し、突き飛ばした。
アルトはそれをすぐに抜くと、鼻を掴んで地面に差し込んだ。
副を貫いて刺さった腹からは地が滲んで、ポタポタと
地面に零れていった。
本の光が消えると、鼻は刺さった槍を軸に戻り
アルトに近づいていく。

「ここで叩くんだ!ウィル・ガドルク!!」

アルトの体が光満ち溢れると、花の先端の前に立って、
戻ってくるロバートの顔目掛けて拳を握った。

「フフ、カワイイ浅知恵ね―――ドルノビル!!」

刺さっていた先端の槍が抜けて、縮みだすと
先端が10cmほどのドリルに変わってしまった。
アルトがロバートを殴るにはまだ距離が遠い。
アルトは走り出すが、ロバートは回転するドリルで地面を
彫り、地面を潜った。

「くっそ・・・隠れんなよ!何処だ!?」
「アルト、相手は下から狙ってくる!動き回るんだ!」

アルトは丈夫なバネのように大幅に飛び跳ねりながら
ジュリアの表情を見るも、焦りどころか余裕が感じられた。

「・・・・・・・・・こーなったらぁ!」

アルトは立ち止まると地面に向かって手を翳した。

「アルト!?何考えてるんだよ!?」
「・・・受け止める」

しばらく、ほんの数秒の後後ろで地面が盛り上がる音がした。
間違いなくロバートだと確信して振り返った。
予想通り、ロバートが居たが、鼻だけで地面にささったまま
だった。

「ガンジャス・ノビルガ!!!」

地面から無数の槍の鼻が飛び交い、アルトの体中を
切り裂き、宙を血しぶきを上げた。

「ああ!・・・ッッ痛ッてええええ!!!」
「ああッ・・・アルト!!」
「―――アンタ、なんでそんなとこでつっ立てるのかしら?」
「え?」

横から声が聞こえ、咄嗟に振り向くと銀色の細いものが
飛んできた。とっさに両腕庇って、ドスッと銀色のなにかが
刺さった。

「・・・・?」

そっと瞑った目を開けると、アーミーナイフがふかぶかと
刺さり、細い血のラインが腕を伝って、肘へと流れる。
ようやく事態を飲み込むと、痛みがいっきに走り出した。

「ああああああああああああああああ」
「・・・」

ジュリアは黙って進むと、綾人の近くにあった
太く絡み合ったツルを掴み上げた。

「蔓技(つるぎ)」

蔓を放り投げ、綾人の体の辺りでいっきに両腕を引いて
綾人を縛り上げると、そのまま引っ張り、木に叩きつけた。

「あ・・・痛ッ、くうううぅぅ・・・」
「なんでアンタは戦ってないの?
 術を出して、指示をする。それだけがアンタの役目?」
「・・・?」

ジュリアは柄のないナイフを二本取り出すと、
両足に突き刺し、入念に足で深く押し込んだ。
綾人の身体にさらに激痛が走った。
言葉にならないほどの。
綾人は涙を流しながら、精一杯歯を食いしばった。

「魔物は魔物に・・・。人は人と戦う。それでこそのコンビで
 あって、もっとも王になりやすい2人組になる・・・」
「あああッ・・・・あ・・・・あ・・・・」

アルトは綾人の現状に一瞬、目を奪われて、ロバートのとび蹴り
を喰らって、倒れてた。

「アム・ノビル!」

手の鼻はアルトを掴み、持ち上げた。

「・・・方角は!?」
「バッチリ」
「角度、パワーは!?」
「よりバッチリ」

ロバートは鼻でアルトを放り投げた。
ウィルムの効果は既に切れていて、地面に足を向けるよう
身体をひねり、地面に足をつけた瞬間
全身に重力がまかされて原のあたりのゾクっとした感じが
走った。

「・・・落ちたね」
「キメな!」

落とし穴に落ちたアルトは体が丸く挟まってしまって
身動きがうまく取れない。
そこに上からロバートが顔を覗かせた。

「プ〜ップップップ♪」
「・・・ギガノ・ノビセン!!!」

鼻の先端が巨大なミサイルの変わると、奥深く落ちた
アルトめがけて大爆発を起こした。
穴からは煙が立ち上がる。

「アル・・・トッ・・・」
「・・・・・・Marvelous(最高だ)」


2005年04月24日 (日) 18時44分


(995) 【第35話】 蒼 投稿者:マクルク HOME


「アルトォォッ!!」

悲哀な綾人の叫びが地の荒れた戦いを裏返すような
透けた綺麗な雲に吸い込まれるように消えていった。

「・・・ま、こんなもんでしょ」
「ロバート、ちゃんと確認したのか?」
「大丈夫だってぇ。あんだけ喰らい続けてたら
 仮に立ち上がったとしてもナンも出来っこないさ・・・」
「・・・一応、見張っておきな。本を燃やすまでは・・・」

ジュリアはゆっくりと歩き出した。
縛られた綾人から視線を話すことなく―――

「・・・・・・(まだか、あとどれくらいだ!?)」

ツルで縛られ、アーミーナイフが深く刺さった左腕が
綾人の背中に隠れながら、ゆっくりとツルを削っている。
緊張で体が火照って、頬をつたる汗とジュリアの一歩一歩が
よけいに動きを雑にさせていった。

「・・・・・・(間に合わないッ・・・やけそくだッ!)」

綾人は縛られた体と木の間に出来た僅かな空間を
埋めるように少し、腰をかがめると勢いよく
両足で地面を蹴って、絡まりついたツルをいっきに契った。
同時に腕に刺さった刃が周りの肉をかき回すことで
余計に激痛が走った。
耐え難い痛みに涙をこぼしながら必死に歯を食いしばって絶えた。
あとは自由に使える腕でツルを無理やり剥ぎ取ると、
本を抱えて、一目散に箸って距離を置いた。
しかし、それも足に刺さったままのナイフが下半身に
痛みを、痺れを与え、綾人を転倒させた。
綾人はその両刃をすぐに抜き捨てた。

「・・・よくやるね・・・今さらあがいたって
 苦しいだけなのに・・・」
「ハァッ・・・ハァッ・・・ゼッ・・ハァッ・・・フゥーッ・・」
「あのね、アンタみたいな子供がそこまで必死になって
 頑張るにはまだ幼すぎるんだよ。・・・素直に諦めな」

ジュリアは宥めるようにかけた言葉を無視するように
綾人は黙って座ったままジュリアを観続けた。
その動かぬ雁行にジュリアは闘志を見た。

「・・・ハァ。しょうが―――
「―――オオオオオオオオ・・・ッラァアア!!」

突然、後ろからの咆哮に振り返る間もなく、ジュリアの
体が天高く舞い、自分の体が重力に預けきっていることに
気づいた。
今、アイツよって自分が空中に投げ飛ばされた!
その感覚を知ったのは綾人の隣にいるアルトの姿を
確認した時だった。

「うっわぁッああ!!」

慌ててロバートがジュリアの落下位置を予測すると
その場で立ち止まって両腕を真上に構えた。

ドスン

と大きな音が響くとロバートは折りたたんだかのように
真っ直ぐと瞑れ、埋もれていた。

「・・・重、重・・・」
「・・・・一、一応!一ヶ月前よりは痩せたんだからな!!?
 お前の受け止め方がおかしいから―――」

「―――綾人、その腕に足・・・!!
 大丈夫かよ!?」
「・・・多分・・・ね・・・」

綾人の言葉とは裏腹に出血はひどく、意識がイマイチ
はっきりしない虚ろな目をしていた。

「・・・あいつらマジで強いよ・・・このままじゃ」
「・・・大丈夫・・・だって。
 第6の術・・・アレ使うから・・・」
「でもッあれってどんな効果かあんまわかんないじゃん!」
「・・・大丈夫、なんとなくさ・・・予想はできてるから・・・」


「―――ジュリア!次で終わらせようぜ!?」

ジュリアの持つ本が今までに

「・・・・ギガノ・ノビセン!!!」

前に放ったギガノ・ノビセンよりも二周りほど大きい
ミサイルはロバートの鼻の先端でガクガクと振動し、
噴射口からオレンジ色の火を一気に放ちながら
轟音を響かせ、地をえぐりながら飛んでいった。

「―――第6の術、ウィレイド!!」

綾人が力を振り絞って叫ぶと、アルトの体が
蒼い光に包まれ、その光をあたり一面に広げていった。
その光を出し切ったようにアルトの身体にはもう光は
纏われていない。
どういうわけか、そこで綾人の意識は別の――
過去の記憶を思い出していた。

―――確かに見たんだ

―――ウィレイドを発動させたときに吹いた自然な風

―――それと交じり合って勢いを増す自然に吹く風

交じり合う―――

「綾人ォ!!!」

綾人の意識が戻った時、ギガノ・ノビセンは
もう目の前まできていた。

「・・・あ」

ギガノ・ノビセンは綾人達を巻き込むように巨大な
爆風をうねり上げ、辺りを包み込んだ。


2005年04月30日 (土) 12時47分


(999) 【第36話】 タイムラグ 投稿者:マクルク HOME

「・・・・あ」
「綾人ッ!!!」

放たれた巨大なミサイルはアルトの眼前で膨れ上がり、
赤い光を垣間見せ、オレンジ色の爆風を撒き散らした。

「―――ウィ―――」

爆風はアルトの身体を半分近く覆った。

「―――ル―――」

爆風はアルトを包み、豪華で身体を焼き、
座り込んでいる綾人の足から徐々に覆っていった。

「―――ガ―――」

綾人の身体を爆風が囲んだ時、
その爆風は綾人を拒絶するかのように二つ裂け、
左右へと流れていった。
そして、綾人の眼前に立つアルトの両手から
身長の倍以上の巨大な渦を巻いたエネルギーが
爆風をかき消しながら、付近の蒼い光を表面に
絡ませながら一直線に走った。

「!!!」

2人はほんの一瞬で起こった何かに術が消され、
それが自分達狙ってうねりを上げながら進んでくることが
わかった時には、ロバートは顔を突き出し、鼻をそれの
中心に合わせ、ジュリアは本を開き、光る本に書き出された
文字を唱えた。

「―――ノビ―――」

ジュリアが術を唱えきる前に渦巻く風はロバートを捕らえ、
依然変わらぬ、うねりで地を抉りながら数十メートル進み、
大爆発を起こした。

「・・・・・・・な・・・にがッ!!
 何が、起こったんだ!?」

吹き飛んだロバートの姿よりも綾人達の方を
ジッと見て、言葉を失くした。

「・・・綾人、何が、何が起こったの!?今!」
「ハハ、この術は術本来の風に他の風・・・自然に吹く風、
 術の風問わず融合して、勢いと大きさを増す術・・・。
 単発じゃ何も起こらない・・・わけ・・・」
「じゃあ、さっきの術をウィルガで防げたのは・・・!?」
「スピードと大きさが増加する・・・結果的にね・・・
 破壊力の増加になる・・・わかる?
 ようはパワー・・・アップの術・・・みたいな・・・」
「・・・・・・すっげぇ」

両者が驚きあう中、土煙からボロボロになったロバートが
起き上がって来た。

「・・・んにゃろぁが〜〜・・・よくもやりやがってよぉ!!」
「ロバート、地中から攻めるぞ!パートナーは動けないんだ!
 ―――ドルノビル!」

ロバートの鼻がドリルへと変化すると飛び込むように
鼻から地面へと潜っていった。

「アルト、アイツは任せたからね。行って―――
 ウィル・ガドルク!」

アルトの体が白い光で覆われるのと平行して
蒼い光がアルトの身体へと渦巻いて、しみこんでいった。


「オオオオオオオオオオオオッ!!!」

勢いを出すために蹴った地面がはぜ割れ、
地中の小石が宙を待った。
そして、その穴を無理やり手で彫って進んでいった。

「(・・・大体、あの辺で出るかな・・・?)」
「オオオオオオオオオ!!!」
「ハアア!!?」

ボコンと土が彫りあがると、アルトがロバートを
後ろから両腕、両足で締め上げながら出てきた。

「離せッ離せってば!!」
「・・・・・ラァッ!!」

アルトはその姿勢のまま、足を離すと両腕で
バックドロップするように思いっきり放り投げた。

「う・・・ぁあああああああ!!!」

「―――マズイね・・・早いトコ本を獲っておかないとね・・・」

ジュリアはそう言うとポケットから刃渡り10cmのナイフを
握りしめながら、綾人のもとへと走っていった。
ギュっと握られたグリップが手によく馴染み、くっついてるよう
な感覚さえ感じられた。
かつて、自衛隊に所属していた時の感覚が戻りつつあった。

「・・・僕も戦わないと・・・」

綾人は自分が捨てた血のついたナイフを拾い上げ、構えた。

「・・・(あんな戦い慣れた人にどうすれば勝てる・・・
 あー、怖い・・・ヤバイ、あんなことしたら死なないかな?
 でも、あれぐらいしか・・あーッ・・・ちくしょう―――)」

ジュリアは綾人との距離を足一歩半のところで動きを止め、
ナイフを斜めに振り下ろした。

「・・・(わかってる。アンタはとっさにそのナイフでこの攻撃を
 防ぐだろうね。そのためにスピードも抑えてる。
 で、私がワザとのけぞったように見せて、大きなスキを見せる。
 で、そこにスペツナズナイフで刃を飛ばして・・・腹にグサリ
 ―――)」

綾人は振り下ろされるナイフをしっかりと目で捉えていた。
そして、痛む足で踏ん張って立ち上がった。

「!!!?」

綾人の肩にスペツナズナイフが半分以上、深く刺さっていた。

「ウッソ・・・」

綾人はそのまましゃがんでナイフを抜くと、
垂直になった足に抱きついて、そのまま思いっきり押した。

―――判ってた!?スペツナズナイフのことを

―――こんな子供が知るはずが

―――このままじゃ

ジュリアは地面に倒れると、綾人はジュリアの腹部に
跨った―――
マウントポジションだ。
綾人はジュリアの首のすぐ隣にナイフを突き立てた。

「これが・・・」
「?」
「これが・・・一緒に戦うってことなんですか!?」
「・・・・・・」
「僕は、アルトを王にしたいんです・・・。
 そのためにはパートナーも一緒に叩かうことが必要なんですか?
 だっらら、どういうことが戦うってことなんですか!?
 教えて・・・ください!!!」

ジュリアは予想外の言葉にあっけに取られた。
まさか敵が強くなる秘訣を聞いてくるなんて―――
そして、それを教えてもらおうとしてる考え肩が
不思議でしかたがなかった。

「・・・ちょっとムチャしすぎだけど、まあ・・・
 そんなとこかもね・・・」

ジュリアは思わず言ってしまったことに自分でツッコミを入れた。
何言ってるんだ!?

「・・・覚悟の量で負けたよ。あとはあいつ等次第。
 アンタももう、限界だろ?」
「・・・僕はアルトを信じてます」


アルトのウィル・ガドルクの効果が切れ、
アルトが一方的に攻めて、ロバートはそれを避けることしか
出来なかった。

「・・・いい雅言・・・諦・・・らめたらどうなんだ!?」
「イヤだね!・・・・」

ロバートが一瞬のスキを見つけると、アルトを突き飛ばして
綾人のほうへと走って行った。

「いつまで付き合ってられっか!!」
「綾人!!危ない!」
「・・・・・!
 ―――ウィケルド!」

すると、アルトの両手から半透明の光の球が回転しながら
ロバート目掛けて飛んでいった。
そして、捉えた。

「なんだよ!コレ!出られないじゃん!ジュリアァ!」

必死に叫ぶ声もそれは届かず、球の中で響いた。
蒼い風は消えている。

「・・・今までの分、まとめて返すよ」

アルトは思いっきり握った拳骨を全力で振り下ろし、
ウィケルドを突き破って、ロバートの鼻を、顔を陥没
させ、地面に叩きつけた。

「・・・ぁ・・・」

ロバートはいがんだ鼻からドス黒い地を流しながら
大の字に倒れた。
しかし、すぐに起き上がった。

「・・・よぉ、僕はどのパートナーより優れた
 パートナーに選ばれたんんだ・・・。
 だから、それに相応しい魔物でなきゃ・・・いけないんだ」
「・・・・・・・・・」
「ジュリアはなぁ・・・男より強くて、カッコよくて、
 頭もいいし、自衛隊に入ってたし・・・
 だから、僕もそれくらい強いんだ!お前より強いんだ!」

強気の言葉を吐き続けるが、全身がガクガクと痙攣して
目も霞んだような、消えそうなうっすらとした目をしていた。
アルトはもう限界だということをすぐに悟った。

「・・・来いよ。僕は無敵なんだぜ?」
「もうウソつかなくていいよ」
「ウソじゃねー」
「ウソだって」
「じゃあ、やってろよ。倒してみろよ」
「綾人!第7の術を使って!!」

綾人は本に手を当てた。

「第7の術、ウィグルドン!!」

アルトの右手に、掌に乗るほどの小さな球が
空気を裂くようにキイイインと高い音を奏でている。

「・・・・・・」
「行くぞ」

アルトはウィグルドンをロバートの胸に押し付けた。
ウィグルドンはロバートの身体に吸い込まれると
消えていった。

「・・・へッ・・なんも起こんねーじゃん
 ププッ・・・やっぱ、俺は無―――」

刹那、ロバートの全身が内側から突き破るような
衝撃が襲い、目の前の景色がグニャグニャにゆがむと
隅から徐々に黒ずんでいって、真っ暗になると
ロバートは倒れていた。

「・・・・・・・・やっぱ、ウソじゃん」

アルトはそういうと全身の力が抜けてその場に
座り込んでしまった。

「・・・私達の負けか・・・本は好きにしな
 燃やすんだろうけど。金も返すよ」
「わかった」
「ちょ・・・ちょ待って!」

突然、アルトが身体を引きずりながら離しに割り込んできた。

「あのさ、本を燃やさない代わりに○○○○○ってゲーム
 買って来て欲しいんだ・・・アレ、アイツのおかげで
 どーしても手に入らなかったんだよね・・・」
「ああ、アレならロバートが今日買ったヤツじゃん・・・
 いいよ、それと金交換でいい?」
「うん!全然オッケイ!」

―――夜 ジュリア宅

「・・・ねぇ、今日買ったゲームしらない!?」

ロバートは戦いの後、2時間弱で目を覚まし
体中を包帯塗れにしていた。

「・・・ああ、アレは今日戦った子にあげたよ」
「ええ!!?」
「もともとアンタのウソがいけないんでしょ?」
「・・・すっげー楽しみだったのに・・・」
「・・・・・・・・ホラ」

ジュリアがスーパーの袋をロバートに渡した。
袋からは長方形の黒いモノが透けて見える。
ロバートはそれを取って中身を見ると、
そこには今日買ったゲームと同じものが入っていた。

「・・・あげたんじゃないの?」
「今日は珍しく言いこと言ったからね。
 特別に買って来てあげたのよ」
「・・・へへ、今日のジュリアは一段とキレイだね」

ジュリアは呆れた顔をしながら優しく微笑むと
頭を軽く殴った。

「イッテェ!・・・んだよ、ホメたのにさ」
「アンタ、私だってそれくらいのウソはわかるっての」
「・・・ちぇ」

ロバートはゲームのパッケージのビニールを開けると
中身のディスクを取り出して、本体に入れた。


2005年05月02日 (月) 10時55分


(1009) 【第37話】 勧誘 投稿者:マクルク HOME

「――あのぉ〜〜・・・ちょっとよろしいでしょうか?」

もうすぐクリスマスを向かえることを実感させるように
街が賑わい、込み合う中に葵は買い物袋を下げながら
歩いているところをライトオリーブ色のスーツを着た女性が
声をかけてきた。

「・・・はい」

葵は表情を変えることなく返事を返す。
女性は嬉しそうな笑みを見せると、近場の
カフェへと誘った。

「・・・何か?」
「実はアナタが魔物パートナーであると言うことを
 確認させていただいたことを前提に申し上げますね」

女が言うにはここ数日の葵の行動を観察させてもらって
そばにいる妖精のような生き物―――
魔物と行動しているところから判断したらしい。

「で、私達はオーストラリア付近にある小さな孤島・・・
 ここであるモノを守っています」

女が世界地図を広げ、オーストラリアから南東にある
点のような小さな島を指差した。

「そこに眠るあるモノ、それは魔界に存在する兵器です」
「・・・!?」
「それは、核兵器よりも強く、大陸1つを簡単に消すほどの
 恐ろしいもの。それを発動させるまでの残り5日間・・・
 この兵器を破壊されないよう、守りきったら報酬を出し――」
「お断りします」

葵はあっさりと断ると自分の飲んだ紅茶代だけ払うと
店を早足で出て行った。

「・・・もぅ、ちょっとは考えてよね・・・」

女は携帯電話を取り出すと、2通のメールを送り
代金を払って店の正面にあるフラワーショップの
花を眺めている金髪のロールさせた髪を持つ女の子に
声をかけた。

――葵はしばらく歩くと目的の駅から遠ざかるように
大道理のわき道を左右ジグザグに進んでいった。

「・・・葵?ドコ行く気?・・・そっちは――」

リリィがカバンから顔を出して、その行き先を
尋ねるも黙って、葵は急ぎ足で歩いていった。
そして、ようやく行き止まりの広場――
今度開発されるテーマパークの工事現場の正面で止まった。
作業員はいない。
葵はようやく一呼吸置くと、振り返った。

「・・・やっぱり、逃がすつもりはないのね」
「・・・フフフ、当たり前じゃない。
 極秘情報を聞いちゃった以上、そのままにはできないわ。
 この話にNOはありえないわ・・・来てちょうだい」

すると、いくつも重なった鉄筋の陰から2人の男、2体の
魔物らしき生き物が現れた。
どれも2m以上の庚申町で一体は爬虫類のような外見をしている。
この時点でこれから起こりうる場面がおおよそ浮かんだ。
戦いだ――――

「ジェミニカ、エディ、ラムサス・・・集中攻撃でいきますわよ?」
「・・・OKよ、マキュリー!」

ついさきほどカフェで話した女、ジェミニカの隣から
姿を現す金髪のロールヘアーの薄黄色のドレスを着た少女が各々の
パートナーに声をかける。

「・・・リリィ、来る!―――」

3人の本が一気に輝きを放ち、本の呪文を唱え、叫んだ。

「―――ゴウ・ゾンドル!!」
「―――ガリス!!」
「―――ロズル!!」

マキュリーの腕から赤紫色のトゲ付バラが飛び出し――
巨体の魔物の一体、全身を黒い鎧で覆う方が
片手に茶色と垢の混ざった光球が投げ飛ばされ――
巨体の爬虫類の方が両腕の皮膚を鋭い三角錘の刃へと変え
飛び掛ってきた。

「―――ギガノ・ビライシル!!」

薄ピンク色の円球のバリアーがロズル、ガリスを受け止め、
解除と同時に巨体の爬虫類の方目掛けて飛んで行った。

「ハッ!こんなチビとも言えねぇような―――」

爬虫類の方が三角錘の刃を振りかざしたが、それは空振りし
リリィを見失った。
左右を確認してる間にも、リリィは背後をとって、そのまま
真っ直ぐ飛んでいった。

「ガンズ・ビライ!!」

リリィの両手から無数の細い光線が飛び交った。

「・・・そんなか弱い術で!」
「ラージルド・ロズルガ!!」
「オルダ・ガリス!!」

マキュリーの正面には巨大な一厘のバラが現れ、
花びらと花びらの間には鋭く長いトゲが生えている。
無数に飛び交う光線は赤茶色のエネルギーのムチの鞭打と
バラの盾に綺麗に全て受け止められた。

「・・・フフ、花の蜜のように甘い攻撃ですこと!」
「――ビライ!」

盾と鞭の大きさでリリィを視界を一瞬外すと、
既に自分達の懐へと入っていた。
ビライは地面にあたり、砂煙が立ち込める。

「ちょ・・・ゲホッゲホッ・・・どこ!?」
「・・・見えな・・・」
「ムゴオオ!!」
「バカッ!ガンマ、暴れるな!あぶねーだろ!?」

5人が混乱しているスキをついて、リリィは男の真後ろに立って。
ピンと立てた指先をつつじ色の本へと向けた。

「ビライ!」

光球は見事に本に直撃し、燃え盛る炎に焼かれる本はたちまち
黒ずんでいき、徐々に縮まるように折れ曲がっていって、
消えた。

「ああッ・・・ローゲス!!」
「ガンズ・ビライ!!」
「ムグッ・・・!!」
「きゃあああ!!?」

さらに、煙が晴れたと同時に飛び交う光線は4人に直撃し
前へと吹っ飛ばされた。

「・・・・・・ヘヘン♪どーだッ!」

リリィは一旦、葵のいる場所へと戻った。
4人は痛む身体を必死に起き上がらせた。
背中は光線で穴だらけで、千切れかけている。

「・・・やってくれますわね!?」
「3対1でそのザマなんて・・・なっさけないわね〜〜?」
「まぁ・・・!!なんてお下品な・・・!!!
 ガンマ、エディ!アレを使いなさい!」
「――――チャージル・ガリスクス!!」

ガンマは両腕を天高く翳すと、その真上に
さきほどと同様の赤茶色の光球が現れた。


2005年05月07日 (土) 18時42分


(1013) 【第38話】 創造再生 投稿者:マクルク HOME

「・・・ムググググ・・・」
「よぉし!ガンマ・・・撃てぇ!」

赤茶色のエネルギーは光球の中で乱回転し、
それは黒い正方形の箱に閉じ込められた。
一面には“03,00”とデジタル文字が
書き込まれている。

「ムゴオオオオオアアアァァァ・・・!!!」

ガンマはそれを力任せに精一杯投げ飛ばした。
空を切って、草を裂け、地を抉って飛んでいった。
―――カッと正方形の角々から光が漏れ出すと、
半径10mあたりが一気には爆風の渦に飲み込まれ、
凄まじい轟音を街に響かせた。

「・・・キャァ!・・・ちょっと爆風がこっちまで・・・
 飛んでくるじゃありませんの!?威力、考えましたの!?」
「・・・・・そんなハズはない。てか、爆風が
 こっちに向かってきてるような・・・・・・・・・!!?」

爆風は突然吹いた荒風に流され、その一片から白い
角が丸い何かが見えた。
ジェミニカたちは思わずまさかと思ったが、煙が
晴れると共にそれは現実となっていった。

「―――第5の術、ディオ・ラ・ビシルド。
 盾に触れたものを皆返す反射盾の術・・・」
「・・・まだ術を持ってたなんてね・・・やるじゃない?」
「さっきから出してくる盾、中々屈強だな、手強いぜ・・・」
「ジェミニカ!こっちも第5の術ですわよ!」

ジェミニカは本のページをパラパラと2〜3枚捲る。

「ロズレイド!」

マキュリーの掌に丸く、赤い球が現れ、それをそっと吹いた。
それは風に乗って、赤いチリとなってあたりに散らばった。

「あ、イイ匂い・・・・・・アレ?」

リリィの背中の高速で羽ばたく羽のスピードが落ちて、
体がフラつきだした。

「リリィ?・・・あ・・コレ・・・」
「わかったかしら?この香水、睡魔を誘う効果がありますの。
 そのまま、可愛らしくオネンネして頂きますわ♪」
「ククッ・・・ガンマ、アレもっかいぶつけるぜ?」
「ムグッ!!」

エディとガンマは眠気で身体をフラつかせているのを
確認すると、大きく前へ出た。

「チャージル・ガリスクス!!」

再び赤茶色のエネルギーがガンマの上空に現れて
乱回転を始めた。

「・・・リリィ、前を向いて。これで次は終わるから」
「・・・?」

リリィは眠たい目を擦って、顔を思いっきり叩くと
目を思いっきり開き、羽根を羽ばたかせた。
強くたたきすぎたせいか、涙目になっている。

「・・・第4の術、チャージオ・ビライ!」

リリィは両手を組んで、両人差し指を前へと向けて
サッカーボール程度の大きさの光球を放った。

「・・・ガンマ!足元当たるぞ!?」
「ムゴォァ!?」

ガンマは軽くジャンプすると光球は地面へ当たって、
吸い込まれていった。

「ハッ・・・最後の一撃も虚しく終わった所で・・・」

チッチッチッチッチッチ―――

エディは足元でチッチッチと時計の針の進む音が聞こえた。
しかし、この追い込み場でそれを気にすることはなかった。

カッ―――

エディの足元で黒く、四角い何か――
何度も見覚えのあるチャージル・ガリスクスが象る
箱の一面が“00,00”と示していた。
それに驚く間もなく、閃光が2人を包み、
爆風がそのあとで身体を包み、天高く舞い上がらせた。
本は燃え盛る姿を見せることなく灰となって風に
運ばれていった。

「・・・・・・・・・・・・・」

ジェミニカとマキュリーは愕然とした表情で
立ち込める煙を見続けた。

「チャージオ・ビライは生物の怪我の治癒、
それだけでなく、破壊された物質の再構築を可能に
 する術・・・」
「アンタ達・・・この現状分るかしら?」

マキュリーは辺りを改めて見ると、そこには共に
戦える仲間はおらず、胸を鷲掴みにされるような
不安感が襲った。

「・・・まだやる?」
「・・・・・・・うぅ・・・」

ジェミニカはマキュリーの手を引っ張ると全力で
反対方向へと走っていた。
マキュリーは顔を顰めると息を大きく吸い込んで叫んだ。

「アンタ達なんかどーーーせ、5日後にはここごとチリ
 になってるんだからねーーー!!!」

しばらく去ったあと、吹いた風がとても冷たく肌に刺さった。
ふと見上げた空は綺麗に形を作っていた雲は崩れてしまっている。
また歩き出した街を通る人達、街が消えてしまうと考えたとき
とても悲しくなった。

「・・・ある兵器・・・なんだろ・・・」
「・・・綾人達に相談してみる?」
「うん」


2005年05月09日 (月) 17時34分


(1017) 【第39話】 先駆者 投稿者:マクルク HOME

―――ピンポーン

綾人の家のインターホンが鳴った。
綾人はイヤホンを外して、MDウォークマンの
コントローラーをボタンを押して一時停止にすると
起き上がってカギを開けて、ドアを開けた。

「・・・どちらさまで?」

ドアの先には小さな子供と同い年と思われる女の子が一人――
女の子の制服から別の学校の人と判断した。
珍しい客だなと思った。

「初めまして、私は西条 真奈美(さいじょうまなみ)。
 この子はルルって言うの」

ルルは照れくさそうに軽い会釈をし。半身を真奈美の足で隠した。

「・・・貴方を魔本の使い手として大事なお願いがあります。
 話だけでも聞いてもらえますか?」
「・・・い、いや・・・わざわざここじゃなくても・・・。
 立ち話もなんだから上がってよ。僕の部屋で話そう?」
「・・・ありがとう!おじゃましまぁす」

ルルと真奈美は靴を脱いでそろえると玄関より一番手前の部屋――
綾人の部屋へと入っていった。
真奈美は綾人の部屋を見るや否や、へぇーと大きな声を出して
キョロキョロと見回した。
そのあとスグ、アルトに視線を止めた。

「・・・へぇ〜・・・この子か」
「?」
「あ、・・・ちょっと散らかってるかもしれないけど・・
 とりあえず、座って」
「うん」

綾人とアルトが窓側、真奈美とルルが反対のドア側に座った。
綾人は妙に緊迫したムードに馴染めず、視線をあちこちに動かしている。

「あのね・・・―――」
「あ!?あ。はいはい・・・」

綾人はスグに視線を真奈美に向けた。

「率直に言わせて貰うと・・・今、この世界は危機に陥ってるの」
「危機?」
「そう、話は長いし、ややこしいけどちゃんと理解して聞いてね。
 今、ある場所に魔界に存在していたハズの恐ろしい兵器がここに 現れたの」
「・・・兵器・・・ですか」
「で、その兵器はかつて、魔界で起こった二つの他種族の戦争で開 発されたもの。今となっては負の遺産に過ぎないけど。
 まぁ、結局は開発した側が使う前に負けたから、使われなかった んだけどね・・・・・・・その内の1つなの。
 今、この世界に現れたのは!」

綾人は特に驚くようなそぶりは見せられなかった。
とてもスケールの大きい話だが、
逆に大きすぎて実感が沸かなかった。
“へぇ〜”の一言じゃ失礼なので、軽く黙って頷いた。

「開発されたのは3つ。“魔導巨兵ファウード” 
“魔導飛空船フ ァイレクス”
 で、この世界に現れたのが―――」
「・・・う、うん!」

綾人とアルトは生唾を飲んだ。

「―――“魔導巨砲レギオン”。
 おそらく、大陸2〜3は簡単に消 すほどのシロモノよ」
「何か、実感わかないけど凄そうですね・・・」
「どういった方法で手に入れたかはわかんないけど・・・。
 今、レギオンはオーストラリアから南東にある島にあります。
 それを破壊する協力を頼みに来たの・・・ダメかしら?」

綾人はアルトの顔を見た。
アルトの表情は意気込みを漢字される堂々たる表情で
綾人は決意した。

「わかりました。協力させてください!」
「ホント!?」
「うん。僕らが力なるかわかんないけど・・・
でも、世界が消えちゃうのは困るしね」
「・・・アリガトね」

真奈美は初めて、笑顔を見せた。
その屈託の無い笑顔に胸がちょっと締め付けられるような
感覚がした。
“僕は葵さん一筋だ!!”―――
綾人は顔を横に振って、淫らな感情を押しつぶした。

「私からの説明はこれでお終い。詳しくは、ルル・・・いい?」
「・・・うん。じゃあ、説明しますね
「・・・おぅ!」
「さっき説明したレギオン。アレはある魔物とその部下数人が持ってます」
「やっぱ、魔物絡みかぁ・・・」
「その魔物は・・・・・・・・・」
「・・・何?なんかじらさないでよねぇ」
「―――カグヅチ」
「え―――」

アルトの表情が一変して、血の気が引いたような表情になった。
綾人はそれを不思議そうに見つめ、ルルが少し後悔したように
目線をそらした。

「カグヅチは・・・この戦いの優勝候補の一角で、圧倒的な
 強さを持ってるだけでなく、残忍な性格を持った恐ろしい魔物です」
「ハハハ。何かちょっとだけ行く気が失せたかも・・・」
「カグヅチはスカウトした魔物をレギオン発動までの護衛を島で
行っています。
 当然、護衛の魔物も屈指の実力者ばかり・・・」
「あッの・・・さ・・・。そのレギオンが発動するのっていつなの?」

暗い雰囲気を打ち消そうと、綾人はちょっと話題を変えるような
感じでルルに振った。

「あと、5日後です。今まで仲間を探しに日本を回ったんですが・・・
 仲間になってくれたのは一人だけで・・・」
「ルル!だっら大丈夫!僕の知り合いが3人いる!
 全員協力してくれるかわかんないけど・・・もし、仲間になってくれたら・・・」
「え、そ、そんなに居るの?」

アルトは知り合いのイメージの中に、リリィ、パウロ、ロバートを思い出した。
ロバートだけは仲間になるか微妙だけど。

「とりあえず、あとで連絡してみるよ」
「・・・うん。ありがとう。真奈美、ひょっとしたら上手くいくかもね?」
「そうね、日本中回っただけのことはあるね」
「で、相手の本拠地に乗り込むのは・・・?」
「おそらく、発動は5日後の午前11時。それより24時間前に
 横浜の米軍基地前に集合して、飛行機で行きます」
「・・・わかった」
「あと、コレ、私のケータイの番号。仲間が増え次第連絡してね」

真奈美はノートの切れ端のような紙を綾人に渡した。
電話番号とメールアドレスと可愛げな顔文字が描かれている。

「じゃあ、私達はこれで―――」

ピンポーン

―――インタホーンが鳴った。
綾人が早足で玄関へ向かってドアを開けた。
ドアの前には葵とリリィが居た。

「あ・・・桐生さん」
「西条君、ちょっとお話いい?」
「あ〜〜〜!ねぇ、キミ!そこ肩にいるチッチャイの・・・」
「実は彼女、例の知り合いの一人なんだ・・・ハハハ・・・」

綾人は真奈美に葵との関係を述べたあと、
葵にレギオンのことについて大まかに説明した。
イマイチ、内容をつかめてなさそうな表情のようにも見えたが
普段、無表情故に区別がつかなかった。
“多分大丈夫だろう”と勝手に解釈した。
そして、葵のカグヅチの仲間らしき2体を既に倒して
しまっていることに、真奈美とルルは心の底から
驚いたような顔を見せた。

「―――・・・西条さん、近いうちに連絡するね」
「うん、良い返事期待してるから」

真奈美はルルと手をつなぎながら、かたっぽの手で
エレベーターの装置を押した。
グィーンとドアが閉まる音がしだすと、真奈美は軽く手を振った。
綾人は軽い笑顔で、リリィとアルトは満面の笑みで、葵は無表情で
手を振った。
真奈美は右から葵、綾人、リリィ、アルトに並んで、それぞれの
笑みが3段階に分かれてるのが面白くて
エレベーター内でクスッと笑った。
ルルはその表情を見て、少しホッとしたような安心感に満ちた
高揚的な気分に浸った。

「・・・魔導巨砲レギオン・・・か」
「なんか、どんどん現実から離れてる気分・・・」
「私達、魔物からすれば、そんな気分はあんましないかもねぇ」

綾人はその後、自宅でいろいろと話したりしながら夜7時まで
一緒に居た。
綾人はその瞬間を精一杯楽しんで、めいっぱい笑った。
これから起こりうることがとても大変そうで
今のうちに十分に楽しんでおこうと言う気持ちを実行したくて
しょうがなかった。
夜11時、綾人は寝自宅を済ませると、既にアルトが眠っている
部屋へと入った。
そして、飛びつくようにふとんに飛び込んで、枕を抱いた。
今まで実感が無かったモノが、一人になった時に
潜んでいたものが突然現れるように、心が小さな不安でいっぱいになった。

―――僕達、これからどうなるんだろ?


2005年05月14日 (土) 12時03分


(1018) 【第40話】 集合 投稿者:マクルク HOME

――横浜の海岸線沿いにある灰色のアスファルトが延々と続く
米軍基地前のフェンスに真奈美とルルは2人で立ち続けていた。
魔導巨砲レギオンの発動まで24時間を切ろうとしていた頃―――

「――-あ、西条さーーん!」

遠くから綾人の声が聞こえた。
超えのほうを振り返ると、SUVから降りる綾人の姿が見えた。
そして、アルト、葵の姿が次々と助手席から降りてくる。
リリィの姿は小さすぎて見えないが、多分肩に止まっているだろう。
さらに、運転席からサラサラとした、三つ編みの女性と
金髪の長身の男性、ピエロ姿の子供と鼻の長い子供が降りてきた。

「・・・え、えっ・・・もしかして・・・」

綾人は真奈美の前まで駆け寄ると、口元のマフラーをずらした。

「うん。みんな、OKだったんだ・・・」
「・・・ウッソォ・・・・・・・」

真奈美は唖然とした表情でジュリア、カーネルの顔を見た。
2人が気づくと、軽く手を振って笑顔を見せた。
真奈美も笑顔を返した。

「初めましてね・・・私はジュリア。
 で、鼻の長いのがロバート、ピエロみたいな顔してるのがパウロ
 そのパウロの隣にいるのがカーネル。・・よろしく!」

ジュリアの差し出した手をギュッと握り締めた。

「さ、寒いし例の場所へ行こうか?」
「はい!」

10人は米軍兵が寝泊りする宿舎の一部―――
2階の部屋を借りた。
部屋は一直線の廊下にそれぞれ5つずつ左右と、
一番奥に1つ部屋があった。
配分としては一人一部屋で、リリィと葵は一部屋と
考えればちょうど良いだろう。
各自が荷物を部屋に置くと、ジュリアの部屋に集まった。

「えっと、真奈美ちゃん・・・」
「はい?」
「予定の人数より1組足りないんだけど・・・」
「・・・そろそろ来るん―――」
「―――いや〜〜ッ!仕度に手間取っちゃってさぁ!!」

いきなり開いたドアに大きな白馬に跨る金髪の少年―――
シオンとスティーブが部屋へと入ってきた。
シオンは呆れ顔でその場に座り込んだ。

「申し訳ない・・・コイツが無駄に手間をかけるから・・・」
「・・・ハハハ、それより・・・また会っちゃったね・・・」
「あッ!テメー等は・・・日本で会った奴等!!
 あん時は戦えなかったが―――」
「え?ちょ・・・戦う気!?」
「―――黙りやがれクソ共がああぁッッ!!!!!」
「・・・・・・・・はい。すいませんでした」

ジュリアの鬼のような怒号が部屋中に響き、スティーブは
あっさりと黙り込んでしまった。

「・・・オホン!今から簡単に作戦の説明をする。
 まず、レギオン発動から3時間前の8時に島に到着する。
 で、島の一番高い山に隠された秘密の裏口を通ると
 ココに繋がる・・・」

ジュリアは白い紙に正方形を書き、それから4のラインが引かれ、
延長線上にまた正方形を書いて、その内のの1つからまた延長戦を
引いて一番大きな正方形を書いた。

「最初に書いたココに繋がる。
 その部屋から4つの通路があるが正面にあるルートが
 最短だと思われる。そして、一番奥の・・・
 最後に書いたこの四角の部屋にレギオンがある・・・分ったか?」
「・・・あの、質問いいですかー?」

カーネルが手を上げた。

「何だ?」
「ジュリアさんはどうして本拠地の内部構造を詳しく知ってるんですか?」
「ああ、真奈美ちゃんがね・・・スカウトされてここに来たことがあるからだ」
「私はレギオンのことを知るとすぐにボートで逃げたんですけどね・・・」
「じゃあ、続きを言う。
 恐らく敵との戦闘はさけられない。
 そのための陣形を教えるから一回で覚えろ」
「・・・・・・」
「ルルやアルト達から聞いた術の詳細を洗いざらいすると・・・
まず、戦闘は基本的にパートナーは後方で待機。
 前衛は打撃力の高いシオンと前衛専用補助のルルだ。
 状況に応じてアルトと交代してくれ。」
 ガンガン前に出て戦え。シオンはスピードを生かすといい」
「・・・オウ」
「中衛は前衛の役割と援護を両方担ってもらう。
 中衛は術のバラエティのあるアルトとロバートとパウロ
 パウロは攻撃術がないので、援護、錯乱を頼む」
「オッケイ!」
「で・・・後衛はリリィ。
 防御術に長けているから、後方からの中衛の仲間への
 攻撃を防いでもらいたい。
 ルルで補いきれない場合は、前衛も頼む。判断力が重要になる
 あと、タイミングを計って、中衛からのガンズ・ビライによる 錯乱も 出来る」
「りょ〜かい♪」
「以上が陣形だ・・・質問は?」
「・・・・」
「・・・最後に集団同士の戦いで一番有利な戦法は戦力の分断。
 魔物による奇襲、地形からのトラップ・・・様々な方法を使って
 くるだろうが、決して一人にならないように!
 一人いるのといないのでは大きく変わってくる・・・・・。
あと、ミッション時は動きやすい格好にするように!
真奈美ちゃんと葵ちゃんは髪を結んどくといいね・・・」
「分りました・・・」
「以上で作戦の説明は終了する。最後に質問は?」

誰もが納得した表情で軽く頷いた。

「じゃあ、作戦実行まで準備なり、仮眠なりしとけーー!
 本番で疲れたなんて甘えたこと抜かさないようになぁ!!」

各々が個室へと戻っていった。
ジュリアは全員が出て行くと、ベットに座り込み、バックの中から
刃に自分の名前が彫られたナイフを取り出して、ジッと見つめ
グリップを握り締めた。

―――カーネル室

カーネルはTVをつけて、バラエティ番組を無表情で見ていた。
TVから聞こえる人工の笑い声がとても遠いものに感じられた。
一週間後、同じ番組を見て大きく口をあけて、めいいっぱい笑える
だろうか―――
どうも拭えない不安を枕を抱きつけて、消そうと必死に握り締めた。

「・・・みんな。きっと戻ってくるから・・・」

カーネルはTVの隣においたサーカス団員の集合写真を見た後
電気を消して眠った。

―――シオン室

薄いシーツを身体に羽織って地面に座り込むシオンは
カーテンの隙間から漏れる付の光に照らされた
木製の木の板をボーっと見つめていた。

「(・・・カグヅチか・・・どうも決着のつかない戦いを残していると
 もどかしい物があるな・・・。ヤツを超え、アルトを完封するならば
 俺の力は誇示されるだろうな・・・)」


―――綾人室

綾人は夢を見ていた。
みんなが丁度島に向かう直前のころが脳裏に映っていた。
みんな、自信ありげな笑顔を見せる。

「・・・みんなで一緒に帰ろうね・・・きっと、一緒に・・・」

そこで夢は途切れ、真っ暗な何もない空間が映し出されると
綾人はそのまま朝まで起きることなく眠りについた。

――――葵室

葵はふと目覚めた。
額に嫌な汗が出て、前髪が張り付いている。
それをそでで拭うと、隣で眠ってるリリィの顔を見た。
幸せそうな寝顔に安心を覚えると、また眠りについた。

「(・・・あんなの、きっと夢よね。
 あんなこと・・・・・あるはず・・・―――――)」

―――そして、朝を迎えた。


2005年05月16日 (月) 18時07分




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