投稿日:2015年02月12日 (木) 04時19分
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第411回 「何人たりとも」「何人も」
「たりとも」は基本的に「一円」「一度」「一日」といった最小値を表す語について、それにかかわる事態の成立を否定する表現である。「国会会議録」を検索していて気が付いた。この原則的な表現とは異なるものが少なからずヒットしたのである。それは「何人たりとも」で、第1回の国会から現在(平成27年1月30日)までに59例を数えた。決して多くない数である。 留学生に日本語を教えていたとき、「何人」の読み方を話題にすることがあった。人数を表す「なんにん」と、国籍を表す「なにじん」とがあると説明した。「何人」にはほかにも読み方がある。「なにびと」「なんびと」「なんぴと」で、自分自身は「なんぴと」と理解している。多く「何人も」の形で「いかなる人も」「すべての人は」という意味を表す。 日本国憲法に「何人も」が18例使われている。「その賠償を求めることができる」(第17条)、「自由を有する」(第21条)、「裁判を受ける権利を奪われない」(第32条)など、すべて文の主語である。 「国会会議録」では「何人も」の形が膨大にヒットする。しかし、その半数近くは「なんにん」の例であり、「なんぴと」の例は最近の200例中約66%であった。「何人たりとも」に比べると圧倒的に多い。 「何人たりとも」の使用例は基本的に否定文で使われる。「何人も」で置き換えても差し支えないものがほとんどである。ならば「何人も」と言えば済むのだが、否定を強調する意味合いが強く働いている。 「これを否定することは何人たりともできないだろうと思います。」(第112回、衆議院予算委員会公聴会、昭和63年2月16日) 「できない」は59例中10例を数える。 肯定文でも使われる。 「これは何人たりとも意見を述べることは日本国憲法が保障しているわけで」(第159回、衆議院文部科学委員会、平成16年5月18日) 面白い例としては「何人も」と「何人たりとも」が共存しているものがある。「何人も」を「何人たりとも」と言い換えているのである。 「この法律に書いてありますように、『何人も』とあるのでありますから、何人たりとも特殊な政治的目的をもって教壇を蹂躙しようとするようなことをする者があればそれを取締る、こういうのでありますから」(第19回、衆議院文部・労働委員会連合審査会、昭和29年3月17日) さらに面白いものとして、「何人といえども」という発言を受けて「何人たりともとは何事です。」と非難する例がある。(第10回、衆議院水産委員会、昭和26年5月28日) 「何人たりとも」は「何人も」と言えば足りるところを、強調する気持ちで使われた少数例である。 (2015年2月12日) |
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