投稿日:2015年02月05日 (木) 04時44分
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一円たりとも
ウエブの記事を読んでいて違和感を覚える表現に出合った。
「おふくろは、入院後も連載の執筆活動など、仕事は続けていました。入院前に収録したものがオンエアされることもありましたし、ギャラの発生する仕事はやっていたんです。それなのに、入院した昨年7月以降、おふくろの口座には1円たりとも入金されていなかったんです」(2015年01月15日 07:11 NEWSポストセブン) http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=125&id=3226320
この記事の「1円たりとも」が述語とマッチしていないと感じた。「1円も」と表現すれば足りるケースである。「たりとも」を使うときには、「たとえ……であっても」といった仮定のニュアンスが伴っているだろう。さらに否定的な表現となじみやすい。「1円たりとも入金しない」という表現ならば安定する。 「たりとも」の用例を集めてみた。 「国会会議録(平成22年1月30日から平成27年1月30日までの間)」から202例を集めた。 「国会会議録」では「一円」「一時」「一度」などのようにほとんどが「一(いち、いっ、ひと)」の付く表現である。最小の数を示してそれを事態の成立を否定する。他に、一ミリ、一秒、一件、一瞬、一歩、一名、一銭、一粒、一時、一寸、一滴、いっとき、一分一秒、一字一句、一ベクレル、一頭、ひととき、一行、一視聴者、一ドル、一年度、一ピース、一文、一兵、一平米、一枚、一物、一文言、一戸、一校、一体、一点、一つ。特別なものに「かけらたりとも」というのがあった。 用例数の多い事例は「一円」48件、「一度」21件、「一日」20件、「一人」13件で、上位4形式で全体の50%を占めている。 「1円」の例では「無駄にしない」といった述語が17例ある。これ以外はたいていが他動詞による表現である。冒頭の違和感を覚えた表現は「入金されていなかった」という受身の形で結果を表現している。「1円たりとも入金しない(しなかった)」のように表現すれば落ち着くけれども文意が変わる。当該事例は「たりとも」を使わず「1円も」を使って全否定をすれば足りる表現だと考えられる。 (2015年2月5日) |
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