投稿日:2014年10月16日 (木) 04時21分
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第394回 ばんなりまして
夜のあいさつとして、鳥取県倉吉市では「ばんなりまして」と言う。道で会った時や家を訪れたときに言う。筆者自身は聞いただけで、実際に使ったことはないと思う。大人のあいさつことばであった。50年前のこどもは「こんばんは」と言っていた。「ばんなりまして」は大人の領域のことばだという意識があった。 夜のあいさつには全国でさまざまな形がある。宮城県仙台市に下宿していたときには「おばんです」「おばんでござりす」を聞いた。自分でも下宿の大家さんや銭湯の番台のおじさんや小さな雑貨屋のおばちゃんには「おばんです」を使った。郷に入っては郷に従えの気持ちであった。 さて、このあいさつことばには、二つの特徴がある。一つは助詞の「に」が省かれていること。「ばんになりまして」とは言わない。もう一つは「なりました」と終止しないで、「なりまして」とテ形になる点である。 「に」の省略については「ばん」の「ん」と「なりまして」の「な」にはさまれた「に」が、たぶん「ん」といっしょに融合したと考えられる。 テ形終止については、倉吉方言ではよく使われる形である。「ありがとうございまして」「お世話になりまして」「お暑うございまして」など。さらにこのテ形には、感嘆の意を含む終助詞「なあ」が付いて「ありがとうございましてなあ」などとなる。テ形終止以外に「ありがとうございました」のような通常の終止の形もある。しかし、これには「なあ」が付きにくいと思われる。 テ形終止の形は、ここで表現が終わるのではなく、あとに何かの表現が続く可能性を含んでいて、完全に終止しないという表現上の特徴もある。 このようなテ形終止の用法も、大人が使用するものであり、50年前のこどもは使わなかった。倉吉を離れて50年近くになる。この間(かん)、大人として倉吉方言を使う機会がなかったので、「ばんなりまして」は使えない。 (2014年10月16日) |
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