[117] まぁとにかく題名無。 |
- ヒカル - 2004年05月15日 (土) 00時57分
序章もどき 格好良いタイトルなんか付けられませんなオリジナル小説。
樹海の奥深く、木々に分け隔たれた空間に、真冬の弱い陽光が降り注ぐ。 僅かな光。しかしそれは長い間見ていないものだったが為か、彼の視界を一瞬で奪うに値するものでもあった。 だから巨木を背もたれに眠っていた彼は少なからず驚き、微かに身動ぎした。 何しろここ最近はずっと、瞳だけを動かして外界を認知していたようなものだ。 とてつもない物ぐさで阿呆な人間がやることではあるが何いつのまにか自嘲してんだ俺は…と、 そこまで考えて思考が働き始めた事に気付く。 体も長らく動かしていなかった。全身に力が入らない。 何も見えない虚の世界の中、体中にじわりと行き渡る血液だけが温かく、
――やがて、再び戻ってきた視界。
そこにあるのは、すんだあおとふかいみどり。ただ、それだけ。 樹木。樹木。樹木。そして、それに囲まれては見えるわけも無い大海。
「…はぁ」 見飽きた光景に軽く溜息を付き、僅かによろけつつ歩き出した。 何も考えずにただ歩きたかったのか、鈍った体を活性化させる為か、 行きたい場所があった訳なのか、単なる独り善がりの使命感に駆られてか。 とにかく歩こうとまた一歩踏み出して、ふと気付く。 久しく外界に接していない視覚以外が、ひどく何かを渇望していたからか。 だから彼は、震える足を動かして、巨木に手をつきその合間をゆっくりと歩き出した。
途中で巨木の下に古い外套を忘れていた事を思い出し、更にいらない体力を使う。 再度溜息。 白い空を見上げ、彼は思う。 とにかく。
…とにかく今は腹減った、と。
「……我ながら中々現実的じゃないか…」 怪しい言葉を呟き、ぐぎゅるるるという謎の効果音(理由は単純明快)をバックに、彼はやっとよろよろと進みだす。 そして彼は、更に思う。 こんな格好悪いような場面を最初から書くなよ印象最悪だろうが阿呆…と、誰かに向かって。
何度かコケた。
◇†◇
「私としてはこの状況は全く持って気に喰わねぇうわぁぁぁッ、もぅ何なのよぉぉぉッ!!」 元々あまり我慢強くない彼女は、遂にキレた。 まず手始めに椅子を蹴り飛ばしそれに巻きついた蔦を引き剥がして机に向かって剣を一閃、 真っ二つにした後は剣そのものを投げ飛ばしその家の主のような巨大な壷を豪快に割る。 ぶわりと降り積もった埃が宙へ舞い、 次は片割れの机を抱え上げとても古びているとは思えない滑らかな壁に投げ付けるとその壁は以外にも脆かったらしく。 例えてみれば薄い硝子の様にいとも簡単に崩れた。 その音に自分で驚いて、一連の破壊行動をやめてみるといかにもな廃墟。 よしっ、と両手の埃をはたいて壷の残骸の下に落ちていた剣、というよりは短剣を拾う。 彼女にしてみれば、自分のどこに小奇麗だった建物を廃墟にしてしまうような力が秘められているのかはもうずっと前から既に溶けない謎となっている。 が、そんな事は今の彼女にとっては関係無い。 とにかく今は、この渦巻く腹立たしさを消してしまえばいいのだ。 破壊行動により大体は解消されたものの、やはりその原因に直接関与していないが為か未だ不快感は拭い去れなかった。 原因を解消。 つまり、ここに住民が帰ってくればいい、とただそれだけの事だ。
「…はぁ」 し飽きた行動に嫌気が差して軽く溜息を付き、やがて急激な運動の反動がきたのか僅かによろけつつ歩き出した。 理由は明白、とにかくこの腹立たしさの解消を。 ふっ、やっぱり私は誰かさんとは大違い…と、そこまで考えて思った。
―――誰かさん?
首を振る。 思考を半ば無理矢理に中断。
―――関係の無いことは考えちゃ駄目だ…。
追い出して、無心にずかずかと歩き出す。 何処行くのかと問うてはいけない。 彼女の脳内は無心、そうせめて今だけは無心で有らねばならなかったから。
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