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[1153] 感情絶滅計画(お題『天才』)
エンディミオン - 2012年08月27日 (月) 00時17分

 天才科学者は決意した。この世からそれを消し去ろうと。熟考を何度繰り返しても、その他の手段は結局栄光の未来を描き出してはくれなかった。本を絶たなければ何も解決しない。ならば彼が為すべきは、この世からそれを最後の一片までも消し去ってしまう事。あらゆる害悪の元凶たるそれを絶滅すれば、人類はこれ以上苦しみや悲しみを覚える事なく繁栄の道を歩んでいける。彼はもちろん神など信じていなかったが、その時は己の前に天命が示されているような気がしていた。
 感情、あるいは情緒、感性。歴史はいつもそれによって汚されてきた。押し寄せる激情に人々は抗えず、結果として多くの血が流れ、そうでなくても涙が人々の頬を伝った。なぜそんなものが、我々を過ちへと走らせるものがなぜ一度もそのレゾンデートルを疑われなかったのか。あるいはこれまで疑われ得なかったのなら、今こそ立ち上がるべきではないか。そして実際に、その考えは一人の天才を突き動かす事となったのである。
 彼は、彼の決意に賛同する者を世界中から集めた。食品、飲料、製薬、健康食品そして化粧品。人体に作用するものを扱う業界にはすべからく手を伸ばした。するとどの世界にも天才は、同じ志を宿した者達は少なからずいるようで、壮大な野望を目論む集団はすぐにその輪郭を現わし始めた。静まりかえった演壇で、しかし各々に秘められた熱狂にあてられながら彼は確信した。この世界から感情は消える。誰にも気づかれぬ程ゆっくりと、しかし着実に薄らいでいき。そして人々が気付いた時には既に遅く、完全に合理的な存在となった彼らがそれを取り戻したいと思うはずもないのだ。
 あるいは万に一つの可能性として、将来人々が感情の復活を願ったとしたら、それはそれとして甘受しよう。なぜならそれが合理性を追求する人類の答えなのだから。私が出した「感情の絶滅」という結論は最終的には誤りであったという事になるが、私は私の意見を押し通したいのではない。答えを知り、世界をそれで包み込みたいのだ。
 逆に合理性の追求が、例えば結婚という不合理な制度を人々が見離す事につながり、結果として人口の減少、ひいては人類の絶滅を引き起こしたとしても、やはり私は甘受しよう。かつて「たとえ世界は滅ぶとも正義は遂げよ」と言い放った者と同じように。こうは考えられないか。最も進化した種族が最終的に自ら消滅を選択する。何とも皮肉で、美しい物語ではないか、と。
 しかし、人類はあくまでも、そしてどこまでも不合理であった。
 それほど時が流れぬうちに、問題が起きた。感情の滅却を唯一の効用とする薬。その負担をこれ以上背負えないと匙を投げる者が相次いだのだった。引きとめようと彼は手を尽くしたが、無駄だった。「悪いが、これ以上リスクを引き受けられない」「こちらとしても不本意なのだが……すまない」。彼は気付いていた。彼らの表情の裏に、仄暗いものが潜んでいる事に。薬の費用などたかがしれている。元々、金銭的な問題が生じぬように作ったし、原価同様の金額で彼らに売り渡していたのだから。つまり、彼らの瞳は言葉とは裏腹にこう語っていたのだった。「もうお前には付いていけない」「お前のやり方は、気に食わない」。彼は独り残された演壇で、深々と嘆息した。
 その場を後にして外へ出ると、いつの間にか土砂降りの雨が世界を濡らしていた。空を見上げると、濁った色の雲が空をふさいでいる。その時額にひとしずく、雨粒がぶつかった。
 フッ、と彼は微笑した。冷たい。それに、可笑しい。どうやら私の負けのようだ。思えば最初から、感情から抜け切れていなかったのは私自身だったのかもしれない。感情を呪い、絶滅を目指した時点で、私の敗北は目に見えていたのだろう。それなのに私はいったい何をしていたのか。何を目指していたのか。私はどこで間違ってしまったのだろう。己の信念を信じてやってきた。その判断に誤りはどこにもなかったはず。正しい道を歩んできたはずなのに。再び雨粒が当たる。肩にそして、手の甲にも。
 握る拳に込められていた力が、徐々に抜けてきた。もう良い。もうどうでも。要するに私の計画は失敗したのだ。これ以上どうする事も出来ない。どうしたことだろう、相変わらず雨粒は世界を濡らし続けているが、私は気付かぬうちにその冷たさを忘れてしまっていた。先程は肩を揺らさんばかりであった可笑しみも、とんとついえてしまった。感じるのは、ずんと重くのしかかる空虚な何か。そして耳に響くやかましい雨の音。それ以外は本当に、どこに行ってしまったのだろう。両手を広げても、何も付いてきてくれないではないか。
「ねぇ」
 振り返ると、そこにいたのは赤いワンピースの少女だった。
「ねぇ」
 ゆっくりと、しゃがんで彼女の顔をのぞき込む。
「おじさん。これ、あげる」
 彼女が差し出したのは、服と同じ色の大きな風船。
「おじさん、大丈夫?」
 真っ白な肌の上で、不安げな表情が揺らめいていた。
 震える手で、彼女から風船を受け取り。


 あぁ……大丈夫、だよ。


 頬に伝うものが、冷たくて、可笑しかった。

 * * *

 アイディアを思いついた時には「いける!」と思ったのですが……なんか微妙ですね。

[1155]
すばる - 2012年08月28日 (火) 22時05分

 盲目な人間って、結構書くの難しいですよね。
ところで思ったのですが、文の中では最初『それ』と濁しているのに題で『感情』ってつけたらその意味あまりなくないですか?



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