[1115] Lizzie Borden |
- 安住 小乃都 - 2012年08月01日 (水) 17時13分
―――Lizzie Borden took an axe, がすんごすんと音がする。 瞳に生気を宿さずに、単調に腕を振り上げる。 顔の筋肉は強張って、どんな感情も浮かべない。 がすんごすんと音がする。 虚ろに開いた唇から、かすかに漏れ出るカウントダウン。 足元のしみは少しずつ、少しずつ確実に広がっていく。 「リジー、お願い、やめて、リジー、やめて、お願い、リジー、リジー!」 耳障りな母の声、かき消すようにまた振り上げる。 がすんごすんと音がする。 ―――And gave her mother forty whacks. 鈍い疲れが身体を回り、やっと床に座り込む。 赤と赤とピンクとどす黒い赤の中に、母の頬だけが白く光る。 触れて冷たい白い頬に、そっと口付けて目を閉じる。 ―――When she saw what she had done, 後ろの扉が突然開いて、また耳障りな音を立てる。 振り向きざまの遠心力で、腕をふるってため息をつく。 「リジー、何故、こんなことを、リジー、やめなさい、リジー、リジー!」 がすんごすんと音がする。 しみの中に横たわる、父の声はもう聞こえない。 がすんごすんと音がする。 カウントダウンを終えた後、もう一つおまけに振り下ろす。 おやすみなさいのキスの代わりに。 ―――She gave her father forty-one.
近隣の住民の通報で、駆け付けた警察が目撃したもの。 多分母親だろうというものと、多分父親だろうというもの。 床に広がる血溜まりの中に、あおむけに横たわる幼い少女。 どこか遠くを見るようなうっとりとした目つきの彼女は、誰の言葉にも反応せずにマザーグースを口ずさんでいた。 ―――Lizzie Borden took an axe, 今日もどこかで、がすんごすんと音がする。
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