[879] 本格RS《Dream Makers》 最終日 悠かなる夢 (1) |
- あきはばら博士 - 2010年10月14日 (木) 21時25分
激しい攻撃によって草木が完全に焼き尽くされて。 先ほどの衝撃によって完成されたクレーターが残っていた。 しばらくの静寂の後。一人、光が立ち上がった。 直前に全力で[光の壁]を張って防御をしたお陰で、ダメージも最小限に抑えられたようだった。 光はビーストがいないことを確認してムクリと起き上がる。 そして、周りに倒れている皆の様子を窺って回る、気絶しているだけで命に別状はないようだった。 ただし、あの瞬間にビーストから一番近くにいたベルを除いては……。 ベルには目立った外傷は無かったが、内臓がことごとく負傷しており、ひどい内出血で体がさらに青色に染まっていた。 心臓はなんとか動いているものの、複数の臓器があの衝撃で破裂しており、まず助からないことが光には分かった。 「(ああ……、なんてこった……)」
その時、ベルがかすかに動いた。 「……あ、…う……」 「――ベルさん! 大丈夫ですか?! 今、《復活の種》を持ってきますから!」 「いや、いらないです……よ。 ともかく、ビーストはどうなりましたか?」 光は言葉に迷って、黙って首を振る。 「……そうですか、逃げられましたか」 ベルから落胆した表情が出た。 「すみませんでした、私がもっと早く気づけば――」 「いえ、光さんの所為では無いですよ、僕たちは最大限のことをやりました。敗因とは、運と相手が悪かったのです。神に仇為すこの行為は《バベルの塔》そのものでしたね」 「――そうだな、全くだ」 「策は尽くしました、悔いはありません。僕は既に二回も死んだも同然です、一回目はユーナ、二回目は昨日…いえ一昨日のこと、三回目は今、四回目はありません」 ベルの哀愁漂う顔を、光は見ることしか出来なかった。 「最期にすみませんが、これを……バシャーモの悠に届けてください」 「これは……ミュウを呼ぶためのあのオルゴールか」 ベルがこれと示したものは小さなオルゴールだった。さすがはミュウのアメジストの物であの衝撃を受けても傷一つ付いていなかった。 「ビーストは多分、ハナダシティの洞窟に向かったと思います。そして、今のビーストの相手になれそうなのは多分、あのバシャーモの悠しかいないと思われます」 「悠―― か、あいつは強いよな、ただの強さではなく、違う強さを持ち備えているというのだろうか……、宝石の原石のように磨けば光るタイプと言うのか……」 「僕も、彼は強いと思いますよ」 ベルは嬉しそうに頷いて言う。 「あぁ、あと、僕のつまらない一生の中で得たもので、せめてものこの世への土産として、残しておきたい話があるので、良ければ聞いて貰えますか?」 「……あまり言って欲しくない寂しい言葉だな。 でも、貴方の意志は尊重します」 「すみません、ありがとうございます、――ゼロについてです。貴女も知っての通り、ゼロは精神世界での戦いの後に、ブイズのアカリンとその友人であるガムの手によって紅蓮本部塔で、殺された。 ここまでは、一般に公開されているものですが――。どうやら……ゼロは、生きているようです」 「っ!」 光の体をわずかに震えたのを感じて、ベルは話を続ける。 「これはその時現場にいたユーリより聞いたものですが、ゼロとガムが落ちたはずの場所には、ゼロの死体が見つからなかったそうです。 もちろん、この事実はその場に居合わせた数人と僕しか知らない事実です。大量殺戮者であるゼロは死んでしまったことにした方が、世間として都合がいいですからねぇ。 と、ここまでは前置きの話で、ここからが本題になります。そもそも、ゼロと言う人物とは―――」
そうして、ベルは話し始めた。光はほとんど何も言わずに相槌をだけを打って彼の話を聞いていた。 「――と、言うわけです。僕がゼロについて知っていることはこんなものですが、粗筋としてはこれで充分でしょう」 「ゼロ……」 光はそこで聞かされた事実に驚愕すると同時に、その情報の危険性からそれを自分の心の内に封印する事に決めた。 なのでその時、どのような話がされたのかは残念ながら知るすべもないが、その時にベルが言ったことはそれから数年後の事件の際に関係してくるが。それはまた後々に判明していくだろう。 不意にベルの脳裏に亡くなった恋人の言葉が浮かんでくる。 『負ける時に負けることが出来て勝つ時に勝つことが出来ることが本当に強いと言う事、勝つことしか出来ない人はちっとも強くなんてないわ、ここぞの時を勝つ勝負に出来る事もまた強さ。でも、強くなくてもいいよ……ベルくん』 いつの間にか、ベルの眼からとめどなく涙が溢れて来た。 「(なんでだろう…? 涙なんてとうに枯れ果てたはずなのに……)」 しかし、いくらその理由を探しても見つからなかった。 その瞬間、ベルは激しく咳き込んで吐血と喀血をした。 「大丈夫か!!」 光は慌てて声をかける。 「大丈夫……大丈夫、です……」 だんだん、ベルの意識が朦朧をしてきた。 「会いたかったよ……ユーナ」 そして、最期の言葉は今は亡き恋人の名前だった。
仙崎澪亮、瑞、小鷹光、プリンス・マッシュの4人はハナダシティのポケモンセンターにいた。 センターはビースト来襲を聞いた住民たちは避難していたのか、もぬけの殻になっていた。 最初は8人いたはずのFチームであったが、ここに残っていたのはその半分だった。 ひことクラスタの生存は絶望的、由衣やガムなどの他のメンバーの消息も分からない。もしかしたら、他のメンバーもビーストの襲撃にあって全滅しているかもしれない。 そして、再びビーストがここに来襲してきたとしたら、果たして自分達は迎え撃つことができるのだろうか? 不安で一杯だった。 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 沈黙が続く。 「…………」 「…………」 「……最後に、使った技は[サイコブースト]だったのでしょうね」 沈黙を破った瑞の言葉に澪亮が呟く。 「ビーストだけにブースト……で、燃えてバースト」 くだらないし、笑えない。 「…………」 「…………」 重い雰囲気が周囲を包む
突然、近くにあった電話が鳴り出して。ビックリして皆の体が一様に震えた。 「電話……だよね?」 おそるおそる、瑞は電話に近づく。 「僕が出るよ」 「イヤ、プリンクン、お前が出ちゃ不味いだろう、仮にも裏切りの身なんだから」 「だからと言って、澪亮さんが出たら余計に話がこじれると思うけど」 そんな二人のやりとりを無視するように、瑞は受話器を取る。 「もしもし……」 「ん……? え〜と… 瑞さんですか?」 聞き覚えの無い声が電話口から聞こえてきた。 「え、ええそうですけど……。あなたは誰ですか?」 「……誰だと思いますか?」 「(!?)えっと、一度どこかで会った事がありましたっけ…? 私、記憶力に自信が無いので」 「いえ、初対面――いや、対面じゃないか。初会話ですね」 「は、はぁ……」 瑞は不審者からの電話を一刻も早く切りたいと思ったが、大事な話だと困るので聞くことにする 「では、瑞さんに問題です」 電話口からは極めてマイペースに問題を出してきた。 「夢の対義語とは?」 「……え、えぇと… 現実ですか?」 「不正解です。夢とは不確定なこと、つまり未来名詞であるに対し、現実とは現在名詞です。甘いの対義語が辛いとは限らないように、その答えは不適切ですね。 夢とは叶えようと思う願望であるに対し、叶えようと思わない願望を示す言葉は……妄想です。私が思うに、夢の対義語とは妄想でしょう」 電話口からそんな言葉が返ってくる。 「では、続けてもう一題、問題です。 私の名前は何でしょうか?」 「……あきはばら博士さん?」 「正解です。改めてこんにちは、瑞さん」 瑞は、そこで何故か秋葉の口調が明るくなったように感じた。 「こんにちは…… って、なんで私達がここにいることを知っていたのですか?!」 「なんでって、賢い貴女ならだいたい見当はついているでしょう? ビーストの身代わり幻影や銀のフォークには[念力]が使われている情報を提供したのは私ですし」 少し考えて、ああ、なるほどと瑞は思った。 確かに、それは実際にその攻撃を受けた者や見た者にしか分からない事実だった。 恐らく、情報を欲していたベルは戦いの前に何らかの方法で秋葉とコンタクトを取ったのだろう。 そして、戦いが終わった後に私達が集まるところなど限られているからだ、と瑞は思った。 「では本題に入りましょうか、戦況はどうでしたか?」 瑞はビクと口ごもってから、「はぁ」とため息をついてから、話し始めた。 「昨日の夜、私たちは―――」
我ながら説明は下手で、要領を得ずに不明瞭な点があったような気もしたが、秋葉は合いの手を入れながら真剣に聞いていた 全て話し終えたところで、実感が湧かなかった、自分の説明力の低さの所以だと説明できるかもしれないが、 もっとも、いくら水をも漏らさないくらいに精密に物語ったところで、その背景にあるヴィジョンまでは語りつくせない。 トゥースィーイズ、トゥービリーブ。 でも、それでも理解には充分だ。
「……そうですか」 聞き終えた秋葉は至極残念そうな声を漏らした。 「私も急いで加勢で加わればよかったかもしれませんね……」 「……過ぎたるは猶及ばざるが如しですよ。それに秋葉さんも戦闘宣言して奮闘したのでしょう?」 「いえ……相手の弱点を探している間に逃げられてしまったので、あまり戦った気がしません」 「それでいいじゃないですか、私なんか爆裂パンチを受けて三途の川に足を突っ込みましたし」 「混じってますよ」 「え?」 「いえ、なんでもありません」 秋葉は電話の向こう側を苦笑いを浮かべているようだった。 「では、積もる話は後に回しましょう。私もアッシマーさんやルカ☆さんと一緒に、これからそちらに向かいます。あと悠さん達も、そちらに向かうそうですので。みんなで会って話しましょう、では!」 そう言い残して、電話が切れた。 ともかく、他のメンバーの消息というものを知ることができて、安心する。 そして瑞には何故、秋葉に自分の声が分かったのだろうという疑問が残った。 ベルからここにいるメンバーを教えてもらったしても、ひこさんと澪亮さんは消去法で消しても女声は私と光さんが残る。 しばらく悩んでみたが、わからず結局、みんなに相談してみる事にする。 すると、澪亮の口から信じられない言葉が出た。 「ふぅん、そんなの可能性は一つに決まっているじゃねぇか」 「! なんですか?」 「秋葉さんは瑞さんの声を知っているんだよ」 「え?」 瑞はその言葉の意味が掴めなかった。
きょとんとする瑞に澪亮は言葉を続ける。 「大体、あのときの古列車を動かしていたのは誰だと思っているんだ?」 「……え? ……そう言われれば、あれ?」 『……何が起きても、いちいち驚いてる場合ではないようだな、この世界は…』 そう言ったのはたしか浅目さんだったが、確かに何故か分からないが列車が動き出していた。あの列車に乗っていたのはサイドンだったので、彼の仕業だと言う事でその場で解決したが、 今思えば彼がわざわざそんなことをするメリットなど無いし、失礼かもしれないが、動かすスキルがあるのも疑わしい。 「あいつは俺達に出会う前からドリームメイカーの本拠地が海の上の島にあるって予測がついていたのだろうな、わざわざ初っ端でドラゴン四天王とか言う偉い四人組がシャシャり出て来たのも、本拠地の周りが海だからそうせざるを得なかったのだろうな」 確かにドラゴン四天王は皆[空を飛ぶ]か[波乗り]を使えるポケモンだった。 澪亮さんは前に秋葉さんがハインツのことをあんなやつ呼ばわりしていると言っていたから、四天王全員の名前と種族程度は知っていたのだろう。 「ここまでで、少なくとも陸続きの場所から来ていないことは推測できるが、もちろんここでグレン島から来ているとは決まったわけではないし。 もしかしたらナナシマとかかも知れないけど、とりあえずあの時点で一番近いかつ大きいのはグレン島だ、あいつは俺たちが古列車に乗ったのを見て……いや、違うな復活草を摘んだ場所から尾行をしていたのか? まあいいや、とりあえず皆を有力候補のグレン島に向かわせてみようとしたのだろう、そこで自分の電気で古列車の電力を復活させて、夜のうちにクチバに移動させようとした。しかし、翌日挨拶にやってきてみれば、おっとビックリ! 俺とひこさんと悠くんしかいなかった。 兎にも角にも予定変更して4人でグレン島に行こうとクチバ港でグレン行きチケットを買ったが、見事にジルベースさんの妨害を受けて、断念。結局、天国か地獄か分からない所に行くのは後になってしまったわけだな」 澪亮さんの最後の方の言葉の意味は良く分からなかったが、瑞はその言葉に驚愕を隠せなかった。 「(……確かに、四天王のカールはセキチク沖に現れてた……。まさか、そんなところにヒントが隠されていたなんて――)」 そんな思考の最中に 「ん? 誰だ? 誰かがここに近づいてくるな」 プリンスの言葉が入ってきた。 「そうか? 何も感じないぞ、プリンクンの気のせいじゃねぇか?」 澪亮が言う。 「いえ、僕だって天気屋、空気の流れを読んで少しくらいは[みらいよち]くらいできますよ、ビーストじゃないことは確かだけど……ちょっと僕、行ってきます。」 「私達も一緒に行こう、敵ではない可能性は否めない」 「ああ」 「おう」 そうして、4人はセンターを後とする。 そして、そこには懐かしい、あかつき達の姿があった。
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「みんなで会って話しましょう、では!」 と言って、秋葉は公衆電話の受話器を置く。 「・・・誰と話してたんですか?」 と、アッシマーが秋葉に尋ねる。 「瑞さんですよ・・・あ、そういえば、瑞さんはこの世界では何のポケモンでしたっけ?」 「・・・ブラッキーですよ。この世界でもブラッキーマニアって言ってましたし ・・・って、なんで瑞さんが電話の相手なんですか? 瑞さんは僕の目の前で爆死してしまったはずなのに?」 アッシマーは話しているうちに、事の矛盾点に気がつき、大声で秋葉に問う。 「どうやら何らかの理由で蘇ったそうです。光さんも同じように蘇って、共闘しているそうですよ」 「そうですか・・・」 ふぅ、とため息をついて、アッシマーはその場に腰掛けた。 「彼女達は、昨夜ハナダの手前でビーストと交戦したようです。なんでも、サイコブーストで自爆させるところまでいかせたとか・・・」 「じゃあ・・・僕達の目的は・・・」 「いいえ、残念ながら果たせたところまでは行かなかったようですが、ほとんど虫の息まで行ったので良しとしましょう。さて私たちもハナダへ向かって、彼女たちと合流しましょうか」 と、秋葉は答えた。
「わああああああっ!」 と、その時後ろから声が聞こえた。ルカ☆の声だ。 「どうした?」 アッシマーは振り向く、すると、こちらに向かって全速力で走って(?)くるルカ☆の姿が。 彼女は先程から食べ物を探しに行っていたはずだが、とアッシマーは思う。 しかし、その理由は彼にもすぐ分かった。 彼女の後ろから、なにやら大勢のポケモンが走ってくる。 「お、おいルカ☆、何を・・・」 「話は後にしてええええっ!」 ルカ☆の後ろ・・・そこには、彼女を追いかける3体のポケモンの姿が! 「あん? お前らそいつの仲間か・・・」と、ルカ☆を追いかけてきたポケモンの1体、ハガネールがいう。 「悪いんだけどよ、そいつは俺達のテリトリーに入っちまったんだよなぁ・・・ なぁに、ちょいと通行料を払ってくれりゃあ、許してやっからよ!」と、その隣のハッサムが続いて言った。 「な・・・か、勝手なこと言うな! 誰だか知らないけど、お前達の勝手でお金なんてたかられてたまるかよ!」 と、アッシマーは反論する。 「んだと!? ケンカ売ってんのかてめ・・・」 「おい待て、そう焦るんじゃないよ」 ハガネールはアッシマーに食って掛かろうとするが、彼の足元にいたクチートにたしなめられる。 このクチートが、どうやら彼らのボスらしい。 「あんたら、そんなに通行料払いたくないっていうのかい?」 クチートがアッシマー達に尋ねる。 「当たり前だろ! 顔も知らないあんたらに、なんで僕達がお金を恵んでやんなきゃいけないんだ!」当然、アッシマーはそう答える。 「やっぱりそう言うと思ったよ。それなら・・・」 と、突然クチートは右手で水晶球のような物を取り出す。どうやら『ふしぎだま』のようだ。 「力ずくであたしを倒して、ここを抜けていくんだね!」 その言葉と共に、ふしぎだまが光を放つ!
「っ!」 その瞬間、アッシマー達の体に鋭い痛みが走った。 「な・・・なん・・・だ・・・?」 体が上手く動かない。言葉を発する事さえ困難なほどだ。 そう、クチートが使ったふしぎだまは、相手の動きを止める『しばりだま』だったのだ。 「くっ・・・卑怯・・・な・・・」 「卑怯で悪かったねぇ!」 クチートは開き直ったようなセリフをいい、アッシマーの腕に「かみくだく」をかける! 「ぐ・・・ぎゃああああっ!」 アッシマーの悲鳴が響く。 「そのままその腕、食いちぎってやろうか!」 クチートは尚も、アゴに力を入れ続ける。 「ぐっ・・・ぐああああああ!」 ついにアッシマーの腕から血が流れ始めた。 「ア・・・アッシマーさんっ!」 秋葉が動こうとする、だが、体が動かない。 「お・・・おにい・・・ちゃん!」 と、その瞬間、ルカ☆の体が自由に動くようになった。彼女の特性は「だっぴ」であり、状態異常から自力で回復できるのだ。 「悪い人・・・おにいちゃんをいじめる悪い人!!」 ルカ☆はクチートをかみくだこうとする。だが・・・ 「こいつ・・・バカにすんじゃないよ!」 クチートは突っ込んでくるルカ☆目掛け、きあいパンチを放った! 「きゃああっ!」 よける術もなく、ルカ☆はその直撃を食らい、弾き飛ばされた。効果は抜群だ! 「身の程知らずだな・・・おとなしく金払えば何もしないって言ってんのによ・・・ コイツの腕をちぎられたくないんなら、さっさと金置いてうせな!」 血が滴り落ちるアッシマーの腕をくわえたまま、クチートは威圧的な言葉でルカ☆に向かって言う。 「う・・・・・・」 何もできないのか・・・そう思ったとき、ルカ☆の懐から何かが転がり落ちた。 ホテルで見つけた「ふしぎなアメ」だ。 「ほらどうした! 早くしないとこいつの腕がもたないぞ!」 クチートの言葉を尻目に、ルカ☆はふしぎなアメをくわえた。 「お願い・・・何か新しい技でも・・・っ!」
ごくり。 ルカ☆はふしぎなアメを丸呑みした。 その瞬間・・・
ルカ☆の体が光り始めた。 「な、何っ!」 「うおおおおっ!」 光に包まれたルカ☆の身体は次第に変形していく。 やがて、光が引き、その姿は現れた。 ・・・最強クラスの能力を持つポケモン、バンギラス・・・
「なんだとッ!?」 クチートの表情に、驚きの色が現れる。 「わかるまい! ポン引きを遊びにしているお前らには、この私の体を通して出る力が!」 力強い声でルカ☆は言う。体を通して出る力とは何ぞや、という突っ込みは置いておいて・・・ 「秋葉さん!!」 ルカ☆は何を思ったか、秋葉の許へ駆け寄り、秋葉を抱きかかえた。 「わかるぞ・・・私の体がアメの力を・・・アメの力が私に!」 意味不明な言葉を言いつつ、ルカ☆はすこしかがみこんだ。 「いっけえええええええええええええっ!」 掛け声と共に、ルカ☆は猛烈に地面を揺らし始めた! 「じしん」だ! そう、彼女が秋葉を抱きかかえたのは、地面技が効果抜群になる秋葉を守る為だったのである。 「ぐああああっ!」 3体のポケモンの悲鳴が響いた。と同時に、クチートもアッシマーの腕を離した。 「う、うわあああああっ!」 ルカ☆のパワーに恐れをなしたのか、ハガネールとハッサムは逃げていく。 「おいお前ら・・・ちっ、覚えてろ!!」 その後に続いて、クチートも逃げていった。 「逃げしなに覚えていろは負けた奴・・・そんな川柳がありましたね・・・ というか」 硬直が解けた秋葉が呟くそして、 「ふしぎなあめがあるならもっと早く使って進化してくださいよ・・・」 と、ボソリと言った。
「おにいちゃん!」 ルカ☆と秋葉はすぐアッシマーに駆け寄る。 「大丈夫ですね。思ったより傷は浅いです。このくらいならこれでなおせますよ」 秋葉は傷の様子を一通り見た後、そう言った。そして、アッシマーの傷にすごいキズぐすりを吹きかける。 「・・・ごめんなさい。迷惑かけちゃって・・・」 アッシマーは申し訳なさそうな顔をして、そう答える。 「ううん、困ったときはお互い助け合うのが仲間ってもんでしょ!」 と、ルカ☆は勇ましく答えた。 「・・・なんだか少し大人になったね、ルカ☆」 「え? そう?」 笑いあうきょうだい、身長が逆転されたことは気にしないお兄ちゃん。実に和やかな風景がそこにあった。 「・・・さて、私達も行きましょう。ハナダシティへ」 「ビーストは倒されたと、さっき瑞さんたちから連絡もありましたからね」 そう言って、アッシマーは再び立ち上がる。 「え? いつの間にやられちゃったの?」 と首を傾げるルカ☆。 「瑞さんたちが必死の戦いをしたお陰で、ビーストは倒せたそうです。ドリームメイカー側の犠牲者も出てしまったようですけど・・・」 と、秋葉は話す。 「・・・何はともあれ、これで一件落着だ。よかったじゃないか」と、アッシマーはルカ☆に言う。 「・・・そうだね!」 ほほ笑み返すルカ☆。 「では、行きましょう!」 そして、3人はハナダシティを目指し、再び旅立つのであった・・・
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