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[105] ヒカリストーリー STORY05 2人の絆(後編)
フリッカー - 2007年11月05日 (月) 22時05分

 どうも、フリッカーです。
 『2人の絆』ついに後編に突入です!

 前編はこちら↓
 http://bbs4.sekkaku.net/bbs/?id=watafa&mode=res&log=15

[106] SECTION04 ヒカリの涙とサトシの願い!
フリッカー - 2007年11月05日 (月) 22時09分

 あたしはヒカリ。トップコーディネーターになるために旅に出たポケモントレーナー。
 ひょんな事から、ケンカをしちゃったあたしとサトシ。でもそこに、どういう訳かサトシを狙ってきたポケモンハンターGが現れて、ピカチュウを奪い取っていったの! それを追いかけたサトシは罠に落ちて、連れ去られちゃった! しかもそれだけじゃなくて、助けに行こうとしたあたし達も罠にかけようとした。何とか振り切って、サトシを助けたのはいいけど、サトシはあたしをかばってGの攻撃の前に倒れた・・・全部あたしのせいだ、あたしのせいでサトシが・・・!


SECTION04 ヒカリの涙とサトシの願い!


 意識不明のサトシの前で泣き崩れるあたしの近くで、ミミロルがさっきのバトルでボロボロのピカチュウを支えながら歩いてきた。
「ピカ!? ピッ・・・!」
 倒れたサトシの姿を目の当たりにしたピカチュウは、傷も省みないでサトシの許に行こうとした。でも、体中を激痛が走って、その場に崩れる。そんなピカチュウを心配するミミロル。
「心配するなヒカリ、サトシはまだんだ訳じゃないんだ・・・」
 タケシの説得も、あたしの耳には全然届かなかった。そんなあたしを、みんなは慰めるような目で見つめていた。サトシがんでないって事はわかってる。あたしが泣いてるのは、そんな理由じゃない・・・
「とにかく、サトシを早く病院に・・・!」
「それはダメよ」
 タケシがそう言いかけた時、ミライさんが口を挟んだ。
「どうしてだよ!? さっき『今はサトシの事が最優先』って言ってたじゃないスか!」
「いや、確かにサトシの事は大事よ。でも、何だか嫌な予感がするのよ」
 ミライさんの目は、真剣そのものだった。
「嫌な、予感?」
「あのGっていうポケモンハンター・・・『俺は物事を始める前に念入りに計画を立てないと気がすまない性質(たち)でな』って言ってたわよね。あいつは、サトシがピカチュウの助けに来る事を予測して罠にかけた。そして、そのサトシを捕らえたら、あたし達が助けに来る事も予測してダブルトラップにかけた。こっちに手の内を明かす自身といい、あいつは、事前にかなり計算して行動している事は間違いないわ。だから、もしあたし達がサトシを病院に連れて行く事も計算していたとしたら・・・逃げたのはお芝居で、実は道を先回りしてこっちを待ち伏せしているかもしれない・・・そう思わない?」
 その言葉に、みんながはっとした。
「今サトシがこんな状態で不意討ちなんかされたら、ひとたまりもないわ」
「じゃあ、どうすればいいって言うんスか!?」
「下手に動けば、あいつの思い通りになるだけよ。できるなら、ここは留まって様子を見るべきだと思うんだけど・・・」
 ミライさんが不安な表情を浮かべて、サトシに目を向けた。サトシの手当てをどうするのか悩んでいる事がわかる。
「幸い、ここには木の実がたくさんあるようだから、応急処置くらいはできそうだ」
 タケシが、辺りの木々を見回して言った。ミライさんが、ほっとした表情を浮かべる。
「よかったわ。じゃ、決まりね」
「とにかく、まずは広い場所を探して、そこにキャンプを張ろう。ムクバード、探すのを頼めるか?」
 タケシはムクバードにそう言うと、ムクバードはうなずいて、空へと飛び立っていった。
「・・・ヒカリ、泣くなよ」
 カズマが、あたしを心配して後ろから声をかけた。肩に手を伸ばそうとしていた。
「・・・・・・」
 あたしは、答える気になれなかった。もう泣き声を出す事もできなくて、顔をうつむけたまま、その場を動けなかった。地面に、涙がこぼれ落ちる。それを見たカズマは、伸ばそうとしていた手を止めた。
「ムックバーッ!」
 空から、ムクバードの声が聞こえてきた。
「見つかったか、ムクバード?」
 タケシが聞くと、ムクバードは、自分について来てと言わんばかりに、ゆっくりと飛び去っていく。
「運ぶの、手伝うわ」
「ああ」
 タケシとミライさんは、2人がかりでサトシの体をあたしの前で持ち上げて、ムクバードの後をついて行く。ポケモン達も、その後に続く。
「・・・ヒカリ、行こうぜ」
 カズマが、遠慮がちにあたしに言った。あたしは何も言わないままその場を立って、顔をうつむけたまま、タケシ達の後をついて行った。
「ヒカリ・・・」
 1人残ったカズマは、そんなあたしの後ろ姿を、どこか寂しそうな目で見つめていた。

 * * *

 キャンプが張れる、開けた場所に着いたあたし達は、早速準備を始めた。まずは、サトシの手当てをするためのテントを用意して、そこにサトシを寝かせた。その後、自分達が寝るためのテントを用意した。あたしはこの時も、サトシの事で頭がいっぱいだった。
「これで準備は整ったわね」
「さて、すぐにサトシの手当てをしなきゃな。早速木の実を・・・」
「・・・あたしがやる」
 そんなタケシの言葉を聞いて、あたしはすぐに答えた。その言葉に、みんなは少し驚いてた。
「手当てに使う木の実を取ってくればいいんでしょ?」
「あ、ああ・・・そうだが」
 タケシがそう答えたのを聞いて、あたしはすぐに近くの木に駆け足で向かっていって、そこになっていた木の実を、片っ端から取っていく。
「そんな、木の実なら何でも取ればいいってものじゃないぞ」
「ダイジョウブ」
 あたしはそう空返事をして、黙々と木の実を取り続けた。ポフィンを作っているから、木の実については言われなくても大体はわかる。腕いっぱいにいろいろな木の実を取ってきたら、タケシの前に持っていく。
「・・・これでいいでしょ」
「ふーむ、選び方は悪くないな。ありがとう。じゃあこれから俺が、これをすりつぶして簡単な薬を作るから・・・」
「それも手伝わせて」
 あたしは、反射的にそう答えていた。
「ああ、それは構わないが・・・まずは、テントに運んでくれ」
 タケシの指示通り、あたしはサトシのいるテントに木の実を運んで行った。
「ヒカリちゃん・・・」
 そんなあたしの姿を見ていたミライさんは、何かを感じ取っていたようだった。

 木の実をすりつぶして作った簡単な薬を、スプーンでサトシの口に運ぶ。これも、あたしがやっていた。
「随分と熱心ね・・・」
 ミライさんは、傍らからあたしの様子を見て、感心したようにそう言った。
「・・・ねえタケシ」
 あたしは手を止めて、タケシに声をかけた。
「どうした?」
「この仕事、あたしにやらせて」
「え!? どうしてそんな事・・・!?」
 突拍子もないあたしの言葉に、驚くタケシ。
「ダイジョウブ。あたしは、ダイジョウブだから・・・!」
 あたしはただ、はっきりとわかるようにそう答えた。
「でもな・・・」
「やらせてあげたら?」
 動揺するタケシに、ミライさんが声をかけた。タケシは、しばらく考え込む。
「・・・わかった。任せるよ」
「ありがとう」
 あたしはそう答えて、またスプーンに薬をすくってサトシの口に運ぶ。少しすると、ミライさんはタケシを突然引っ張って、テントの外に出て行った。
「ちょ、ちょっと何をするんだいきなり!?」
「・・・1人にさせてあげて。いや、2人っきりにね」
 ミライさんは、テントを見つめながらタケシにそう言った。カズマは、少し離れたところから、テントを見つめていた・・・

 あたしの心の中は、サトシへの罪悪感でいっぱいだった。みんなあたしが悪いの。あの時のケンカは、よく考えたらあたしの方が悪かった。それでもあたしはそれを認めたくなかった。だからケンカになって、サトシは・・・それにあの時も、あたしが余計な事をしちゃったから、こんな目に・・・その罪償いを、あたしはどうしてもしたかった。
 スプーンの手を止める。寝ているかのようなサトシの顔を見てると、罪悪感がまた湧き出てくる。本当なら今すぐ謝りたい。でも、今はそれができない。そんな状況にサトシを追いやったのは・・・あたし自身・・・
「・・・・・・っ!」
 そんなあたしが悔しくて、涙がまたこぼれる。
「・・・ピカ?」
 サトシの横で、タケシの手当てを受けた体を休めていたピカチュウが、あたしを心配そうに見ていた。
「・・・ごめんねピカチュウ・・・あたしが、しっかりしてなくて・・・」
 あたしは、顔をうつむけたまま、そう言った。

 * * *

「・・・チッ、待っても待っても姿を見せないと思えば、あんな所に隠れていたのか。さすがに二度も同じ手に引っかかるほどバカではないという事か・・・」
 キャンプから少し離れた木の陰から、ポケモンハンターGが双眼鏡でキャンプの様子を眺めていた。Gはミライさんのカン通り、道を先回りして、あたし達を待ち伏せしていたようだった。
「サトシの治療をしているようだな・・・まあいい、しばらく様子を見るとしよう。回復しきった所を倒して、奴らに絶望感を植え付けるのもおもしろい」
 双眼鏡を下ろしたGは、不敵な笑みを浮かべてそうつぶやいた後、風のように素早くその場を立ち去っていった・・・

 * * *

 あたしは、一生懸命サトシの手当てをした。自分にできる事は、全部やったつもりだった。あたしやサトシのポケモン達も、たくさん手伝ってくれた。でも、サトシは1日経っても、2日経っても、3日経っても目を覚まさない。日が経っていく内に、あたしの心にどんどん不安が募っていく・・・
 そんなあたしの事をよそに、外では夕ご飯の準備が始まっていた。外からいい香りがしてくる。今日は、シチューかな?
「おぉ〜、うまそうなシチューだな〜」
 焚き火にくべている鍋の中身を見て、カズマが目を輝かせた。でも、ミライさんはちょっと困った顔をしている。
「う〜ん・・・あたし、猫舌だからシチューはちょっといただけないのよね・・・」
「どうかしたかい?」
「え? いや、なんでもないわ。やっぱり食べないのは失礼よね・・・がまんがまんっと」
 タケシの質問に、ミライさんは苦笑いしながらそう答えた、最後の言葉は音量を下げて。タケシがシチューを器に盛り付け始めた。
「お〜いヒカリ、食事ができたぞ〜!」
 タケシがこっちに呼びかけてくる。
「・・・あたし、いい」
 不安なせいか食欲が湧かない。あたしはそう答えて、その場を動かなかった。
「ヒカリの分も用意してあるんだぞ!」
「1人にさせて・・・」
 まだ聞こえてくるタケシの声に、あたしはポツリとそう答えた。
「ヒカリ、まだあんな調子か・・・一体どうしちゃったんだ?」
 タケシが首を傾げる。
「カズマ君、ヒカリちゃん結構落ち込んでるみたいよ。ここは一発、ビシッとカッコよく励ましてあげたら? 好きな子なんでしょ?」
 器を受け取ったミライさんは、隣にいたカズマに、笑みを浮かべてささやくようにそう言った。
「・・・いや、遠慮するッス。ここはオレの出る幕じゃないッスよ・・・さ、取りあえず食べるとするか!」
 カズマは遠慮がちに首を横に振って、右手を上げた。そして、何かを払いのけるように器のシチューを勢いよく食べ始めた。
「ふぅ・・・」
 ミライさんはため息を1つついて、器を手に取った。スプーンにすくったシチューをフーフーと何回も念入りに息を吹きかけてから、慎重に口に運ぶ。その直後、「あちっ!」と思わずスプーンを口から離した。

 * * *

 気が付くとそこは、どこまでも広がる暗闇の中だった。どこからが空で、どこからが地面なのかもわからない。人影も1つない。何も聞こえない。そして、冷たい。
「ここは、どこ・・・?」
 あたしは、ただ立ち尽くすだけだった。怖い。動きたくても足がすくんで動けない。一歩踏み出したら、そのまま深い闇に吸い込まれちゃうんじゃないかと、嫌でも思っちゃう。誰か、いないの・・・? 怖い・・・怖いよ・・・
 ドンと、不意に大きな音が響いた。爆発音。あたしは、音がした方向を見た。そこでは、2人の人がポケモンバトルをしている。戦っているポケモンは・・・ピカチュウとガラガラ。そして、向かい合っているトレーナーは・・・?
「サトシ!? それに、ポケモンハンターG!?」
 そう、サトシとGが、目の前でバトルをしている。どうしてこんな所で・・・?
「ピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」
 サトシが力強く指示すると、ピカチュウは、自慢の電撃をガラガラに向けて放つ! 強烈なフラッシュで、辺りがまぶしいほど一瞬光った。でも、じめんタイプのガラガラには全く効いていない。
「ガラガラ、“ホネこんぼう”!!」
 今度はガラガラが攻撃に出る。電撃をものともせずに、ピカチュウに骨を振り上げて突撃していく! 骨の一撃は強烈なものだった。効果は抜群! サトシの目の前に弾き飛ばされるピカチュウ。
「ピカチュウ!」
 思わず、声を上げるサトシ。
「サトシ・・・っ!?」
 サトシが危ない。あたしは反射的に、サトシの所へ行こうとした。でも、体が動かない・・・!? さっきのように足がすくんでるんじゃなくて、体中が“かなしばり”にあったようだった。
「無駄なあがきはよせ、サトシ。俺と出会った時点で、お前の負けは決まっているのだよ」
「くっ・・・!」
 Gの余裕の表情に、唇を噛むサトシ。
「お前の命運もここまでだ。ガラガラ、“はかいこうせん”!!」
 ガラガラが口から、凄まじい光線を発射した! その先にいるのは、紛れもなくサトシ!
「ぐわああああああっ!!」
 爆発に巻き込まれ、悲鳴を上げるサトシ。煙が、サトシの体を飲み込む。
「サトシッ!!」
 あたしは、思わず大声を出しちゃった。そのせいで、Gに気付かれた。Gの視線がこっちを向く。背筋に寒気が走ったのがわかった。
「・・・ガラガラ、奴に“ホネブーメラン”!!」
 Gは真っ直ぐあたしを指差して指示した。するとガラガラは、“はかいこうせん”の反動を無視してるように、骨をこっちに投げつけた! よけたいけど、体が石のように動かない!
「きゃああああっ!!」
 あたしは、もう悲鳴を上げる事しかできなかった。
「ヒカリーッ!!」
 そんなサトシの声が聞こえたと思うと、サトシは素早くあたしの体に飛びついて一緒に倒れた。お陰で、骨はあたしの真上を通り過ぎて行った。
「サトシ・・・!」
 あたしは、そんなサトシの姿を見て、嬉しくなった。
「ヒカリ、大丈夫か・・・ぐっ!!」
 サトシが立ち上がってそう言いかけた時、ドスッと鈍い音がサトシの後ろでした。見ると、サトシの後ろには骨を持ったガラガラが! そうだ、“ホネブーメラン”って、2回連続で攻撃するんだったっけ・・・!
「う・・・ぐ・・・・・・」
 そう思う間もなく、サトシがその場でゆっくりと崩れ落ちた。その瞬間が、スローモーションのように見えた。
「!!」
 あたしの中で湧き上がっていた希望が、一瞬の内に打ち砕かれた。そんな・・・また、あたしのせいでサトシが・・・!
「サトシ!! しっかりして!! サトシ!!」
 なぜか、体は自由になっていた。あたしは、必でサトシの体をゆすって呼びかける。サトシは一瞬、弱々しくてもこっちに顔を向けた。
「ヒ、カ・・・リ・・・・・・」
 でもその直後、サトシの顔は力が抜けたようにガクリと倒れた。
「・・・サトシ!? どうしたの!? しっかりして!! 目を開けて・・・!!」
 あたしはもう一度、サトシの体をゆすって呼びかける。でも、どんなに呼びかけても、体をゆすっても、サトシは何も答えてくれない。閉じた目も空く様子がない。あたしは確信した。サトシはもう、目を開けてくれない・・・また、あたしのせいで・・・あたしが、サトシをこんな目に・・・そう思うと、涙が止まらなくなった。
「サトシイイイイイイイイッ!!」
 あたしの行き場のない嘆きの叫びは、無限の闇にこだまするだけだった・・・

 * * *

 あたしは、ガバッと寝袋から体を起こした。ここは、暗いテントの中。あたし自身が、荒い息をしているのが聞こえる。
「今のは・・・夢・・・」
 夢でよかったあ・・・あたしはほっとした。あたしはまた、横になって寝ようとした。でも、さっきの夢の出来事が頭の中から離れない。自分のした事が、またあんな事に繋がっちゃうんじゃないかと思うと、怖くて眠れない。体が震えてるのがわかった。あたしはふと、サトシの事が心配になった。

 夜中とはいっても、さすがにパジャマ姿のままで外に出る訳には行かないから、ちゃんと着替えてサトシのいるテントへ急いだ。中に入ると、まだ目を覚まさないサトシの姿が視界に入る。あたしはほっとした。その顔は、どう見ても普通に寝ているようにしか見えない。そんなサトシの寝顔を見ていると、サトシへの罪悪感がまた湧き出てきた。
「あたしの、せいなんだよね・・・」
 あたしの頬を、涙が流れていったのがわかった。
「何してるのさ、こんな夜中に」
 すると、後ろから誰かの声がした。振り向くと、そこにはミライさんがいた。
「ミライさん・・・」
「いつまでクヨクヨしてるのよ。泣いてばっかりいると、幸せが逃げて行っちゃうよ、なんてね!」
 ミライさんは、あたしの肩に手を置いて、笑顔を浮かべながらそう言った。あたしは、涙を隠すために顔をうつむけた。目の前でサトシが意識不明の重態だっていうのに、ミライさんの表情からは、その事を気にしているような様子は何も感じ取れなかった。あたしには、ミライさんがサトシの事を全然心配していないように見えた。あたしは、こんなに心配なのに・・・
「・・・ミライさん、平気なんですか・・・?」
「・・・何が?」
 ミライさんが首を傾げる。
「サトシが・・・全然目を覚まさないっていうのに、どうして笑っていられるんですか・・・?」
「フフ、心配し過ぎよヒカリちゃん。サトシの体力は、回復するのに時間がかかってるだけよ。じきに目を覚ますわ」
 ミライさんは、笑顔を崩さないまま答えた。あたしの心の中に、あの時の夢の出来事が頭の中に浮かんだ。ミライさんはダイジョウブって言ってても、あたしは全然ダイジョバない・・・
「でも・・・」
「でも、何?」
 ミライさんが、あたしの顔を覗き込む。
「サトシが・・・本当にんじゃったらどうしよう・・・」
 あたしの不安が、自然と言葉になった。
「ヒカリちゃん?」
「もしかしたら、サトシは本当に・・・うっ、うっ・・・」
 気が付くと、あたしは声を出して泣き出していた。そんなあたしの様子を、ミライさんはしばらく見つめていた。
「あたしのせいで・・・あたしのせいでそんな事になっちゃったら・・・あたし・・・!」
「!」
 あたしのその言葉に、ミライさんは何かに気付いた。そして、間を置いて、こんな事を言った。
「・・・ヒカリちゃんはサトシの事を信じていないの?」
「・・・え?」
 あたしは一瞬、何を聞かれたのかわからなかった。
「さっきの質問の答えはもう1つあるの。それは、あたしは『サトシを信じてるから』なの」
「サトシを・・・信じる?」
「そ。あたしは、サトシがどんな人なのかは昔っからよく知ってる。サトシは小さい頃からタフだったからね。どんなに風邪で倒れようが、ケガをしようが、ちゃんと元気になって戻ってきたわ。それだから、サトシはこんな事でくたばる人なんかじゃないって思うの。サトシが今までどんな旅をして、どんな事を経験してきたかは知らないけど、あたしはそう信じられる」
「ミライさん・・・」
 ミライさんの話は、まるでミライさんがサトシのお姉さんかのようなものだった。
「そしてもう1つ」
 ミライさんが、右手の人差し指を立てた。
「ヒカリちゃんがサトシの手当てを引き受けたのは、サトシに罪償いをしようって思ったから。違う?」
「!」
 あたしはちょっと動揺した。自分の思っていた事は、ミライさんの言う通りだったから。
「図星のようね」
「どうしてわかったんですか?」
「だって、あんなにケンカしてたのに、事件が起きたら途端にそれを忘れて心配してたじゃない。それに、さっきも『あたしのせいで』って言ってたじゃない。とにかく、そう思ったのは、自分がヘマをしたせいで、サトシが助けに来て、結果相手に隙を見せる事になったからでしょ?」
 ミライさん、なんて鋭いんだろ・・・あたしはそう思った。
「その気持ちもわかるわ。でもね、そこまで心配し過ぎる事はないわ。たとえ自分が傷ついてもつかなくても、サトシはヒカリちゃんを助けたと思うわ」
「え?」
 ミライさん、何を言いたいんだろ・・・?
「サトシは、ちゃんと今でもポケモンを大事にしてるんでしょ? 見ればわかるわ」
 ミライさんは、サトシの横で寝ているピカチュウを見て言った。
「どうしてサトシはそんな風に思ってるか、知ってる?」
 あたしは、首を横に振った。サトシがポケモンの事に人一倍熱いのは知ってるけど、そう思う理由はって聞かれても、ピンと来ない。ミライさんは、上を見上げて語り始めた。
「ヒカリちゃんは知らないでしょうけど、サトシはね、家族はママしかいないのよ。いわゆる『母子家庭』って奴。パパは生まれる前にどこかに旅に出ちゃったきり、戻って来ていないの。それに、ああ見えて昔はいじめられっ子で、ほとんど1人きりで遊んでいたそうなの。だから、いつも寂しい思いをしてたのよ」
 あたしは驚いた。あんなサトシに、そんな過去があったなんて・・・その事はあたしも同情できた。ミライさんは話を続ける。
「あたしはしょっちゅう家に遊びに行ってたけど、サトシはいつも嬉しそうに出迎えてくれたわ。そして待ってましたとばかりに、あたしに溜め込んでた話をいっぱい話すのよ。あたしに会う事は、サトシも一番の楽しみだったみたいだったわ。
 サトシが旅立つ前の日に、あたしが家に行った時の事だったわ。サトシはあたしに、1枚の紙を見せたの。聞いたらそれは、いなくなったパパが、サトシが立派になったら読ませて欲しいと思って書いた置き手紙だって。『まだ見ぬ我が息子へ こんな形でしか君に言葉を残せない事を許してくれ・・・』とかいう文章が書いてあって、その最後には、こう書いてあったの。
『最後にこれだけは言っておきたい。仲間を大切にしろ。仲間のためなら命をかけられるような勇敢な人になってくれ』
 ってね。サトシはあたしに言ったわ、
『パパもこう言い残してくれてるんだ。せっかくできる新しい仲間だから、ポケモンは大事にしていかなきゃって思ってるんだ。そいつらに何かあったら、どんな事があっても助けてやるさ』
 ってね。その目は、本当に真剣そのものだったわ。寂しい思いをしてたサトシの事だから、その言葉を真剣に受け止めたのよ」
「そんな事が、あったんだ・・・」
 あたしは、ポツリとそうつぶやいた。サトシが、ポケモンを大切にするのは、自分が寂しい思いをしたから・・・それなら、ポケモン達のために無茶ができるのもわかる。
「サトシはね、ああ見えて寂しがり屋なのよ。その思いは、ポケモンに対してだけじゃなくて、人に対しても同じだと思うなあ」
 そのミライさんの言葉に、あたしははっとした。そういえば、サトシの事を「使えない」とかいろいろ文句を言うシンジに対しても、サトシはいつも前向きに接していたっけ・・・どんな人とも、仲良く接しようとするサトシ。そう思えば、あたしを助けた訳もすぐわかった。あたしが、サトシにとって大事な『仲間』だから・・・
「そんなサトシの旅の仲間なんだから、サトシを信じられなくてどうするの? もっと信じてあげたら? 変に自分のせいだなんて考え過ぎないで、ケンカの事は目が覚めたら素直に謝ればいいじゃない」
 ミライさんは、あたしの顔を覗き込んでそう言った。その笑みに、あたしは励まされた。
「そう、よね・・・」
 あたしがそう答えると、ミライさんがあたしに1個のおにぎりを差し出した。
「はいこれ。タケシ君がヒカリちゃんのために用意してくれたものよ。元気が出たなら、食べなさい!」
 ミライさんがウインクした。夕ご飯を食べていないあたしは、急にお腹が空いてきた。
「ありがとう」
 あたしは差し出されたおにぎりを手に取って、口に運んだ。ダイジョウブ。あたしはそう自分の心に言いながら、おにぎりをほおばった。

 * * *

 次の日の朝。
 気が付くとあたしは、自分のテントに戻らないままサトシの側で横になって寝ちゃっていた。ミライさんの話を聞いて、ほっとしたせいかな? 体には、身に覚えがない毛布がかかっている。ミライさんがかけてくれたのかな? テントの布越しに、太陽の光を感じる。
「う・・・」
 その光に反応するように、誰かが小さな声を出した。この声は、サトシ? あたしはすぐに体を起こして、サトシの顔を見た。サトシの目が、ゆっくりと開いていく。
「サトシ・・・!」
 ようやく、目を覚ましてくれたのね・・・! あたしは、嬉しくなった。目から涙がこぼれそうになる。でも恥ずかしいから、あたしは涙が流れるのを必でこらえた。
「ヒカリ・・・?」
「ごめん・・・ごめんサトシ! あの時の事、あたしが悪かったわ! 勝手な事しちゃって、ホントにごめん!」
 あたしはミライさんが言った通りに、頭を下げて必に謝った。サトシは、体をゆっくりと起こす。
「え・・・あの時の事か? それなら、もういいさ。過ぎちゃった事だし。俺の方こそ、こんなになっちゃって、みんなに迷惑かけちゃったみたいだし・・・」
「ダイジョウブ、そんな事ないよ・・・」
 サトシのあたしを気遣っているような言葉に、あたしは心を動かされそうになった。
「あの時はもう、ホントにダメかと思った・・・ヒカリが、俺の手当てをしてくれたのか?」
「うん・・・」
 サトシの質問に、あたしはゆっくりとうなずいた。
「やっぱりそうだったのか。ありがとう」
 『ありがとう』。何気ないその言葉が、あたしの心の中で大きく響いた。こらえた涙が今にもこぼれそうになって、「どういたしまして」も言えなかった。
「ピカピ!」
 すると、今度はいつの間にか起きていたピカチュウの声がした。サトシが振り向くと、ピカチュウはサトシの胸に真っ直ぐ飛び込んでいった。
「ピカチュウ! お前も無事だったんだな・・・!」
「チャア〜ッ!」
 ピカチュウを強く抱きしめるサトシ。嬉しそうな声を上げるピカチュウ。
「よかった、本当に・・・」
 そんな様子を見たあたしは、とうとう我慢できなくなって、涙があたしの頬を流れていった。
「・・・ヒカリ? 泣いてるのか?」
 そんな様子を、サトシに見られちゃった。
「・・・何でもない」
 あたしは涙を右手で拭いて、そう答えた。


TO BE CONTINUED・・・

[108] 感想
ひこ - 2007年11月11日 (日) 17時45分

後編始まりましたね!
執筆頑張ってください

ミライは大人だなぁと思いました
ヒカリを諭す(説教?)するシーンが特にかっこよかったです


えーとヒカストの絵を描いてみました
http://watafa.web.fc2.com/first2.html
結構気合を入れて描いたので、宜しければ見てやってください

[116] FINAL SECTION Gとの決着! 2人の絆!
フリッカー - 2007年11月23日 (金) 20時31分

 目の前は真っ暗。あたし・・・死んじゃったのかな・・・?
「・・・ヒカリ!! ヒカリ!!」
 暗闇の中で、誰かの声が聞こえてくる。あたしの体がゆすられた。
「しっかりしろ!! ヒカリ!!」
 誰・・・? あなたは、誰・・・?
「ヒカリ!! 目を開けるんだ!! ヒカリッ!!」
 誰なの・・・? どうして、そんなに必死になってあたしを呼んでるの・・・?
「・・・・・・ヒカリ、見えるか!! 今、木の実をやるからな!! 目を覚ましてくれ!!」
 少し間を置いて、また声が聞こえてくる。あたしの体が、仰向けになる。何かをクチャクチャと噛む音。そして、あたしの口が少し開けられて、何かがあたしの口を優しく包み込んだ。
 ・・・!? 何だろう・・・やわらかくて、暖かい・・・? あたしの口に、何か甘いものが流れ込んできた。それだけじゃなくて、なんていうか、暖かくて、優しい何かが一緒に流れ込んでるような気がする・・・
 あごが持ち上げられて、甘いものがあたしののどを通って行った。あれ・・・? 何だか、少しだけど力が戻ってくる・・・? もう一度、あたしの口が何かに優しく包み込まれて、甘いものがまた流れ込んできた。よくわからないけど、これが、あたしに力をくれる・・・あたしは、それを受け入れる。甘いものがのどを通り過ぎていくと、また、力がみなぎってくる・・・

「う・・・う・・・」
 今まで出せなかった声が出た。あたしの目が、ゆっくりと開いた。目の前に、誰かの顔が映った。最初はぼやけていた顔に、ゆっくりとピントが合っていく。
「・・・ヒカリ!!」
 嬉しそうな顔を浮かべる、見覚えのあるその顔・・・紛れもなくサトシだった。
「サ、トシ・・・?」
「よかった・・・!!」
 助けてくれた・・・サトシが、あたしを助けてくれたの・・・?


FINAL SECTION Gとの決着! 2人の絆!


 爆発。それが、あたしを現実に引き戻した。
 サトシが、顔を右に向ける。あたしも、そっちに顔を向ける。そこには、倒れたサトシのポケモン達が。その奥にいるのは・・・Gのドククラゲとヌケニン! サトシがあたしを助けていた間に、戦ってくれていたみたい。
「フッ、俺と勝負をした所で、結果は目に見えているぞ、サトシ!」
 Gの声が聞こえてきた。そうだ、まだGは倒していない・・・!
「G・・・!!」
 あたしは、無理して立ち上がろうとした。体中に、痛みが走る。でも、そんな事にかまってられない! だけど、サトシがそれを止めた。
「ダメだヒカリ! ここで休んでいるんだ! あいつとの決着は、俺がつける!」
 サトシにまた寝かされると、サトシはゆっくりと立ち上がった。動きがぎこちない。ちょっと待って・・・! サトシの体力はまだ・・・! でも、体が言う事を聞いてくれない。あたしはその場で、ただ見守るしかなかった。
「負けるもんか・・・ヒカリやみんなのがんばりは・・・無駄にはしない!!」
「ピッカ!!」
 そんなサトシの叫びに答えるように、ピカチュウが前に出た。
「ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」
 サトシの叫びが、ピカチュウの電撃となって飛んで行った! 飛んでいく先は、ドククラゲ! 直撃! 効果は抜群! そして爆発! たちまちドククラゲは戦闘不能。
「やったぜ!! 言っただろ、みんなの思いは無駄にはしないって!!」
 ガラガラがいない今、ピカチュウは思い切り電撃が使える。これなら、前のように苦戦する事はないかもしれない。
「ドククラゲがやられてしまったか・・・戻れ!」
 Gはドククラゲを戻した。それだけじゃなくて、ヌケニンも戻した。
「なかなかのものだな・・・だが、ドククラゲを攻略した所で、まだ俺を倒せると思うな・・・!」
「何・・・!?」
 Gは余裕の表情を浮かべて言った。『俺は物事を始める前に念入りに計画を立てないと気がすまない性質(たち)でな』というGの言葉が頭に浮かぶ。まだ、何かあるって言うの・・・!? あたしは、不安に駆られた。
「そろそろ切らせてもらおう、俺のジョーカーを・・・!!」
 Gは別のモンスターボールを取り出して、サトシに見せ付けるように突き出した。突き出されたモンスターボールが開いた。そこから出てきたのは・・・
「えっ!?」
 そのポケモンの意外な姿に、サトシもあたしも驚いた。だって、出て来たポケモンは、世界で一番美しいポケモンといわれてるポケモン、ミロカロスだったんだから! その美しさといったら、Gのような悪者が使うポケモンとは、とても思えないほど。
「・・・相性ならこっちが有利だ!! ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
 サトシは攻撃に出る。ピカチュウがさっきと同じように、“10まんボルト”をミロカロスに放つ! 直撃! 効果は抜群・・・のはずだけど、ミロカロスはそれに耐え抜いた! 苦しい表情は浮かべるけど、電撃が止むと、平気な顔でピカチュウをにらみ返した! あたしも、目を疑った。
「な、何!?」
「“アクアリング”だ」
 動揺したサトシを尻目に、ミロカロスの周りを、水のベールが覆い始めた。すると、ミロカロスはみるみるうちに力を取り戻していってる!?
「そして“ハイドロポンプ”!!」
 Gが勢いよく右手を突き出すと、ミロカロスは息を深く吸い込んで、“ハイドロポンプ”を発射した! ピカチュウに直撃! ピカチュウは凄まじい水流に押し流されて、サトシの横を通り過ぎて、木に叩きつけられた! なんてパワーなの!?
「負けるなピカチュウ!! 今度は“かみなり”だ!!」
 負けじともう一度攻撃を指示するサトシ。体勢を立て直したピカチュウは、力を込めて、強い電撃をミロカロスにお見舞いした! 直撃! 効果は抜群・・・でも、ミロカロスは耐える。でんきタイプ最強わざの“かみなり”にも屈しなかった! そして、また水のベールが体を覆った。
「そ、そんな・・・!? 効果は抜群のはずなのに!?」
「確かにその通りだ。だが、ミロカロスの防御力を甘く見てもらっては困るな」
 動揺するサトシを尻目に、Gは余裕の表情を浮かべた。そして、ミロカロスはせせら笑うようにこっちをにらんでいた。すると、ミロカロスの体に火花が走った。ミロカロスは『まひ』してるみたい!
「・・・でも、『まひ』してるなら!! ピカチュウ、“ボルテッカー”だ!!」
 サトシは怯まないで攻撃を指示した。ピカチュウは、ミロカロスに向かって突撃する。そして、その間に、強い電気が体を包んだ! スピードを緩めないまま、ミロカロスに体当たり! 効果は抜群・・・のはずだけど、ミロカロスは大きく立ちはだかる壁のように微動だにしないで、ピカチュウをはじき返した!
「な、何!?」
 また動揺するサトシ。ピカチュウ必殺の“ボルテッカー”も通用しないの!?
「ミロカロス、“からげんき”!!」
 ミロカロスが反撃に出る。尻尾に力を込めて、ピカチュウを思い切り殴りつけた! ものすごいパワー。ピカチュウは思い切り弾き飛ばされて、また木に叩きつけられた! かなりダメージを受けたみたい!
「そ、そんな!? “ボルテッカー”も通用しないのか!?」
「フフフ、ミロカロスは『ふしぎなウロコ』というとくせいを持っている。状態異常になれば、防御力はさらに高まる。そして、『まひ』している時にパワーが上がるわざ“からげんき”もある。『まひ』した方が、むしろ好都合なのだよ。それに、どんなにダメージを受けようと、“アクアリング”で常にミロカロスの体力は回復する」
 余裕綽々に説明するG。サトシの表情に、焦りが見え始めた。
「お前のポケモンに共通する戦術。それは、『常に正面から攻め続ける事』だ。その戦術に対して、もっとも有効な能力を持つポケモン、それがミロカロスなのだ。言っただろう? お前がバトルでどんなポケモンを出してどんな行動をしようが、俺の知らないものはない、と」
 Gが勝利を確信したように、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そんな・・・」
 強い・・・このミロカロス強すぎ! 嫌でもそんな事があたしの頭に浮かぶ。
「ふざけるな・・・俺は、絶対に勝ってやるさ!! いや、勝たなきゃいけないんだ!! ピカチュウ!!」
「無駄なあがきはよせ・・・俺の勝利の方程式に、狂いはない!! ミロカロス、“りゅうのはどう”!!」
 サトシの指示で立ち上がろうとするピカチュウに追い討ちをかけるように、ミロカロスは口から衝撃波をピカチュウに狙って発射した! 放たれた衝撃波は、ドラゴンの頭へと姿を変えて、本当に生きてるみたいに吠えながらピカチュウに牙をむいた! 直撃! そして爆発!
「ピカチュウ!!」
「ピ・・・ピカチュウ!!」
 あたしも思わず、サトシと一緒に叫んだ。このままじゃ、サトシは負けちゃう! でも、そう思った所で、あたしには何もできない・・・あたしのポケモン達は、みんなやられちゃったんだから・・・
「次はあいつにお見舞いしてやれ!!」
 ミロカロスは、目をサトシの方に向けた。パワーを蓄え始める。狙いは、間違いなくサトシ! このままじゃ・・・!
「やめてえっ!! サトシを殺さないでえっ!!」
 あたしは、気が付くとそんな叫び声を上げていた。Gが、あたしに顔を向けた。完全にいらだってる。
「・・・またお前か・・・敗者の分際で水を刺すな!!」
 Gの叫びに答えるように、ミロカロスの顔がこっちを向いた。そして、あたしを狙って“りゅうのはどう”を撃ってきた! ドラゴンの頭が、あたしに牙をむく! よけられる訳ない!
「ヒカリッ!!」
 その時、サトシの影があたしを覆った。“りゅうのはどう”はサトシの体に遮られた!
「ぐわあっ!!」
 爆発! 悲鳴を上げるサトシ。サトシは、あたしのすぐ側で、ばたりと倒れた。
「サトシ・・・!?」
 あたしは、目を疑った。サトシが、盾になってあたしをかばった・・・? あの時、ヒコザルをザングースの爪からかばったように・・・
「だ・・・大丈夫か・・・ヒカリ・・・」
 サトシは、あたしの肩に手を伸ばして、「俺は平気だ」と言ってるかのように、笑顔を作ってあたしの顔を確かめる。でも、明らかに無理をしているのがすぐにわかった。そして、顔をGの方に向ける。
「ひ・・・卑怯だぞ!! ヒカリは、戦ってなんかないじゃないか!! 関係ない人を巻き込むな!!」
「・・・ハハハ、それだから身を挺してそいつをかばったのか。何とまあ、すばらしい事だ・・・!」
 Gの笑みは、明らかにサトシを皮肉っている。
「だが言ったはずだ、他人の心配をしていると、自分がひどい目に遭うだけだとな! この機会を逃すなミロカロス、攻めつくせ!!」
 Gの指示で、もう1回“りゅうのはどう”が来る! それでも、サトシはあたしをかばい続ける。連続で飛んで来る“りゅうのはどう”を受けては爆発。そして、悲鳴を上げるサトシ。サトシが、どんどんボロボロになっていく。そんな姿に、あたしは助けられる喜びよりも、また自分のせいで、サトシを傷つけてしまう事への恐れがどんどん募っていった。もうやめて・・・そんな事したら、また・・・
「ぐっ・・・」
 あたしのすぐ側で、倒れるサトシ。
「サトシ!!」
「心配ないさ・・・これくらい、どうって事ないって・・・」
 あたしの不安をよそに、サトシはさっきと同じように、笑顔を作ってあたしに答えた。
「サトシ、もうやめて・・・これ以上、あたしの事で・・・」
 あたしの目には、いつの間にか涙が溜まっていた。
「何言ってるんだ、ヒカリ・・・俺達は、『仲間』じゃないか・・・!」
「・・・!」
 あたしは、そんなサトシの言葉を聞いて、ミライさんの言葉を思い出した。
『サトシはね、ああ見えて寂しがり屋なのよ。その思いは、ポケモンに対してだけじゃなくて、人に対しても同じだと思うなあ』
 そういえばあたしも、こんなにボロボロになるまで、Gと戦い続けた・・・それは、大事な『仲間』のサトシを守るため・・・今のサトシも、きっと同じ思いなんだ。
「・・・そんな荷物、捨ててしまったらどうだ? そいつをかばい続ければ続けるほど、お前は自らの首を絞めるだけだ」
 Gの言葉が聞こえた。
「黙れ・・・! 大事な仲間を見捨てる事なんて、できるもんか・・・!」
 サトシはあたしに背を向けて、ぎこちなく立ち上がる。でも、すぐに体の痛みを感じて、膝を突いた。
「その志はほめてやろう。そんなに言うなら、2人仲良く消し去ってやろうか!! ミロカロス、“りゅうのはどう”!!」
 またミロカロスが“りゅうのはどう”を撃ってくる! でも、すぐに電撃が飛んできて、“りゅうのはどう”を相殺した! ピカチュウだ! ピカチュウはもうボロボロ。それでも、よろよろとだけどあたし達の前に出て、仁王立ちした。そして、ミロカロスに“でんこうせっか”で突撃していく!
「む、まだ来るか!! “ハイドロポンプ”で迎え撃て!!」
 でも、その突撃は、“ハイドロポンプ”で空しく退けられた。あたし達の前に弾き飛ばされるピカチュウ。ピカチュウは、もうかなりやばい状態。そんなピカチュウの様子を、1匹のポケモンが見ていた事には、気付かなかったけど。
「ピカチュウ!!」
「さて、そろそろ止めを刺してやる・・・“りゅうのはどう”!!」
 ミロカロスが、ピカチュウに狙いを定めて“りゅうのはどう”を発射した! 動けないピカチュウにドラゴンの頭が容赦なく襲い掛かる! もう、ダメなの・・・? あたしのポケモン達が、まだ戦えたなら・・・! あたしがあきらめかけた、その時だった!




 どこからか、白い光線が飛んで来て、“りゅうのはどう”を相殺した!
「・・・ピカ!?」
「何だ!?」
「誰!?」
 あたし達は、驚いて光線が飛んで来た方向を見た。そこにいたのは・・・

「・・・ミミ!!」
 紛れもなくあたしのミミロル!
「ミ・・・ミミロル!?」
 ボロボロだけど、確かにミミロルは立っている。まだ戦えたみたい! あたしの心で、驚きと喜びが混ざり合った。
「ミミッ!!」
 ミミロルは、素早くピカチュウの前に立って、両手を横に広げた。まるで、「ピカチュウはやらせない!」とでも言ってるみたいに。そんなミミロルの姿に、ピカチュウは目を丸くしていた。
「こいつ・・・あの少女のポケモンの生き残りか!?」
「ミミーッ!!」
 Gの言葉をよそに、ミミロルはミロカロスに向けて“とびはねる”! ミロカロスの上を取る。
「だが、そんなものが出て来た所で・・・!! “からげんき”!!」
 ミロカロスが尻尾で迎え撃つ! 簡単に弾き飛ばされて、地面に倒れるミミロル。でも、ミミロルは怯まない。今度は“ピヨピヨパンチ”でミロカロスに飛び込む! また尻尾で弾き飛ばされる。それでも、また立ち上がってミロカロスに向かっていくミミロル!
「ミミロル・・・?」
 あたしは、こんなに必死なミミロルを初めて見た。一体何が、ミミロルを奮い立たせているの? それは、すぐにわかった。ミミロルは、ピカチュウの事が大好き。そのピカチュウのピンチを見て、ミミロルはピカチュウを助けようとしてるんだ・・・! 今のサトシやあたしと同じように・・・!
「“りゅうのはどう”!!」
 ミロカロスが、“りゅうのはどう”を発射する! それをかわすミミロル。でも、かわした“りゅうのはどう”はこっちに飛んで来る!
「ヒカリ・・・!!」
 サトシは、またあたしをかばおうとする。でも、ミミロルの行動に勇気付けられたあたしは、こっちからサトシを助けようとした。あたしの思いに答えるように、今まで言う事を聞いてくれなかった体が、動いてくれた! あたしはすぐにサトシの体を力いっぱい押し倒した。間一髪、“りゅうのはどう”はあたし達の上を通り過ぎて行った。
「ヒカリ・・・!?」
 逆に助けられたサトシは、目を丸くしていた。体中が痛い。やっぱり、無理しちゃったみたい。でも、そんな事はもうどうでもよかった。
「サトシ・・・無理しないで・・・!」
 あたしの思っていた言葉が、自然と出た。
「・・・え?」
「サトシが、仲間を大事にしたいって気持ちはわかるよ・・・でも、1人だけで無理しちゃダメよ・・・もしこのままサトシが死んじゃったら、あたしや・・・みんなは・・・どうすればいいのよ・・・! サトシが大事な『仲間』なのは、あたし達だって、同じなんだから・・・!」
 あたしは、痛みをこらえてゆっくりと立ち上がろうとした。
「だから・・・1人だけでがんばろうとしないで・・・あたしが、ここにいるんだから・・・うっ!」
 すぐに体中に痛みが走った。あたしは膝を付く。サトシはとっさにあたしの体を支えた。
「ダメだヒカリ! 無理してるのはヒカリの方じゃないか! ここは俺が・・・」
「『俺が』じゃないよ・・・『俺達が』よ!」
「え・・・!?」
「一緒に戦おう、サトシ・・・! あたしには、ミミロルがいるわ!」
 あたしは、自分の意志をはっきりと伝えた。あたしは、『仲間』を大事にするサトシの『仲間』の1人として、その思いに答えたい・・・! そんなカッコイイ言葉は、さすがに恥ずかしくて言えなかった。ミミロルに顔を向けると、こっちを見たミミロルは、コクンとゆっくりうなずいた。
「ヒカリ・・・わかった!」
 サトシは、ゆっくりとうなずいた。あたしの思いをわかってくれたみたい。サトシはあたしの右手を背負って左手をあたしの背中に回して、あたしを支えながら一緒に立ち上がった。それに気付いたミミロルも、ピカチュウを支えながら一緒に立ち上がった。そして、Gと正面から向かい合う。
「フン、2人で挑むか・・・だが、相手は2体だが手負いの状態だ、いつまで持ちこたえられるかな? ヌケニン!!」
 Gは一度戻したヌケニンをまた出した。完全に2対2のダブルバトル。
「いいか、ヒカリ。あのミロカロスは、ピカチュウの電撃も効かないほど防御力が高い。あいつを倒すには、あいつの防御力以上の攻撃を当てるしかない。ピカチュウ1匹だけじゃ無理だ。力を貸してくれるよな?」
「ダイジョウブ。タッグバトルの事は、あの時色々勉強したんだから!」
 1人だと負けちゃったGが相手でも、今は不思議と怖くなかった。やっぱり2人でいた方が心強いからかな?
「行け!!」
 Gが右手を横に振る。ミロカロスとヌケニンが、一斉に向かってきた!
「行くぞヒカリ!!」
「ええ!!」
「ピカチュウ!!」
「ミミロル!!」
 あたし達も、力いっぱい声を上げた。ミミロルとピカチュウも、一斉にミロカロスとヌケニンに向かっていく!
「ミミロル、“とびはねる”!!」
 4匹の距離が縮まった時を見計らって、あたしは指示した。ミミロルは、ミロカロスの目の前でジャンプ! ミロカロスが、思わずミミロルを追って上を向いた!
「今よサトシ!!」
「ああ!! ピカチュウ、“でんこうせっか”!!」
 その隙を突いて、ピカチュウは“でんこうせっか”でミミロルに飛び込んだ! 直撃! 体勢を崩すミロカロス。そして、ジャンプしたミミロルは、ヌケニンに向けて落ちていく! ヌケニンはそれに気付くのが遅かった。ミミロルがヌケニンに直撃! 効果は抜群! ヌケニンはミミロルの下敷きになって、地面に落ちた。ヌケニンは動く気配を見せない。もう戦闘不能。
「何・・・!!」
「やった!!」
 あたしは声を上げた。効果抜群の攻撃を受けたら一発でやられちゃうなんて、ヌケニンって意外ともろいじゃない。
「ちっ・・・!!」
 Gは舌打ちをして、ヌケニンを戻す。でも、まだ安心はできない。残るは、強敵ミロカロス!
「これで、残りはミロカロス、2対1か・・・だが、それだけ手負いの状態ならば、1匹で充分だ!」
 Gは少し焦るけど、まだ余裕の表情を見せる。あたしは、ミロカロスにとにかく強い攻撃を当てなきゃと思って、サトシにこう言った。
「サトシ、こっちが“ピヨピヨパンチ”を出すから、ミミロルの耳に電撃を撃って!」
「え・・・そうか、わかった!!」
 サトシは、最初はよくわからなかったみたいだけど、すぐにわかってくれた。
「ミミロル、“ピヨピヨパンチ”!!」
「ミミ〜ッ・・・!!」
 あたしが指示すると、ミミロルは耳に力を込めて、ミロカロスに向かって行く!
「今だピカチュウ!! ミミロルの耳に“10まんボルト”!!」
「ピ〜カ、チュゥゥゥゥゥ!!」
 サトシはあたしが言った通りにピカチュウに指示してくれた。ピカチュウは、力の限りの電撃をミミロルに耳に発射する! そして、見事命中! ミミロルの“ピヨピヨパンチ”は、ピカチュウからもらった電気エネルギーを受けて、電気を纏ったパンチになった!
「ロォォォォッ!!」
 そして、ミミロルは電気を纏った“ピヨピヨパンチ”を思い切りミロカロスに叩き込んだ! ミロカロスに、ピカチュウから電撃がパンチを通じて流れた! 確実に効いてる! そう、これは、前にノゾミがコンテストの練習の時にニャルマーとカラナクシで見せていた事を真似しただけ。
「ピカチュウ、もう一度“10まんボルト”だ!!」
 そして、ピカチュウが“10まんボルト”で追い討ちをかける! ミミロルが、巻き込まれないように素早くミロカロスから離れた。直撃! 効果は抜群!
「くっ・・・“ピヨピヨパンチ”に“10まんボルト”を合わせて擬似“かみなりパンチ”を作るとは・・・! なんて変則的な・・・!」
 Gはコンテストでの『魅せるバトル』の事はあまり知らない・・・?
「だが、まだ負けた訳ではない!! “ハイドロポンプ”!!」
 ミロカロスが“ハイドロポンプ”で反撃! 水流はミミロルに直撃! 押し流されるミミロルは、ピカチュウにぶつかって、一緒にあたし達の前に弾き飛ばされた! でも、まだいける!
「“アクアリング”!!」
 ミロカロスの周りを、水のベールが覆う。いけない! 体力が回復されちゃう! もっと攻撃しなきゃ!
「まだまだ!! もっと行くぞ!!」
「ええ!!」
 あたし達の声に答えるように、ミミロルとピカチュウが飛び出していく!

「う・・・う〜ん・・・」
 そんな時、今まで気を失っていたミライさん達が目を覚ました。
「くそっ、あいつめ・・・よくもやりやがって・・・ん!?」
 カズマがそうつぶやいた時、みんなが必死に戦ってるあたし達の様子に気付いた。
「・・・! あれは!!」
「ヒカリとサトシが、戦ってるわ!」
「・・・よし!! ならオレ達も加勢するっきゃないな!!」
 カズマが、すぐに立ち上がった。
「・・・その必要はなさそうよ」
「え?」
 そんなカズマを、ミライさんが止めた。
「何だか、あの2人だけで勝てそうな勢いじゃない。あたしのカンだけどね」
 ミライさんはそう言って、あたし達の方に顔を戻した。

 あたし達は、ミロカロスへとにかく攻撃を加え続けた。その効果は、少しずつ出てきている。“アクアリング”は回復わざだけど、完全に回復できる訳じゃない。猛攻撃を加えていけば、少しずつダメージは溜まっていく。
「ミロカロス、“ハイドロポンプ”!!」
 今度はGが攻撃に出る。強い水流が、こっちに来る!
「ミミロル、“れいとうビーム”で氷の壁を作って!!」
 あたしの指示通りに、ミミロルは“れいとうビーム”を地面に発射した。たちまち、氷の壁ができあがって、“ハイドロポンプ”を受け止めた! 氷が砕け散る。その氷の粒が、きらきらと光りながら宙を舞った。これがコンテストバトルなら、向こうの減点になってるはず。
「何!? 奴の行動は先が読めん・・・!!」
 Gは明らかに動揺している。やっぱりGはコンテストバトルの戦法は知らないんだ! そこに勝ち目があるかも!
「ねえ、サトシ。コンテストバトルの戦法でやったら勝てるかもしれないわ」
 あたしはすぐに、この事をサトシに教えた。
「コンテストバトルの戦法?」
「Gは、サトシの戦術は知らないものはないって言ってたけど、コンテストバトルの事は知らないみたいよ。やれる?」
「・・・自信はないけど、やってみる!!」
 サトシは、はっきりとうなずいた。あたしは、そんなサトシを信じた。
「ミロカロス、“からげんき”!!」
 ミロカロスの尻尾が、2匹に迫る!
「ミミロル、コンテストバトルのつもりでやるわよ!!」
「ピカチュウ、クロガネジムのジム戦の事を思い出すんだ!!」
 ミミロルとピカチュウは、ミロカロスをギリギリまで引き寄せる。まだまだ、慌てないで・・・!

 ・・・・・・今だ!!
「よけて!!」
 その声が、サトシと合わさった。ミミロルとピカチュウは、ミロカロスの横に飛び込むようにミロカロスの尻尾をよけた! 空を切るミロカロスの尻尾。きれいに着地したミミロルとピカチュウに対して、体制を崩したミロカロス。
「何!?」
「今よサトシ!! タイミングを合わせて!!」
「ああ!!」
 その隙は逃さない! ミミロルとピカチュウが攻撃態勢になる。2匹は互いに顔を合わせてうなずいた。
「ミミロル、回りながら“れいとうビーム”!!」
「ピカチュウ、こっちも回りながら“ボルテッカー”!!」
 2匹はすぐにジャンプする。ピカチュウが前に出る。そして、ミミロルが体をミロカロスに向けて、体を軸に回転しながら“れいとうビーム”を発射! “れいとうビーム”が渦を描きながら飛んで行く! それに合わせて、ピカチュウも体を軸に回転させながら、“ボルテッカー”でミロカロスに飛び込む! そして、渦を描きながら飛んで来た“れいとうビーム”が“ボルテッカー”を包む! “れいとうビーム”と回転の力、2つの力を借りたピカチュウは、勢いよくミロカロスに体当たりした!
「ピカアアアアアアッ!!」
「ミミイイイイイイッ!!」
 2匹の叫びに答えるように、凄まじいパワーがミロカロスに流れ込む! さすがのミロカロスも悲鳴を上げる。ミロカロスの周りを、“アクアリング”の水のベールが覆うけど、それは前より弱まっている!
「何だこの威力は!? “アクアリング”の回復が間に合わないのか!?」
 Gの動揺が大きくなってる。これなら、勝てる!
「行けええええっ!!」
「ピカアアアアアアッ!!」
「ミミイイイイイイッ!!」
 あたし達の叫びに答えるように、ミミロルとピカチュウはさらにパワーを強める。ミロカロスのダメージがどんどん増えていく。ミミロルが、どんどんミロカロスへ落ちていく。ミミロルがピカチュウにぶつかろうとした時、2匹は攻撃をやめて、お互いの体を押し合ってミロカロスの横へ離れた! 着地するミミロルとピカチュウ。それと同時に、ミロカロスが大爆発!
「決まっちゃったわね、2人の『ラブラブアタック』」
 それを見ていたミライさんが、そんな事をつぶやいた。
「やった・・・の・・・?」
 あたしは、固唾を呑んで見守る。煙の中から、ミロカロスがゆっくりと立ち上がったのが見えた。まだやられてない・・・!?
「まだか・・・!!」
 サトシは唇を噛んだ。
「フン、やはりこんな事で倒れるミロカロスでは・・・」
 Gがそう言いかけた時だった。やられてないと思ったミロカロスは、ゆっくりとその場に倒れた! 勝った!
「やった・・・ミロカロスを倒した・・・!!」
「やったぜ!!」
 サトシは、思わずジム戦で勝った時のように声を上げた。
「こ、こんな事が・・・!!」
 Gは自分の負けが認められないのか、ショックでしばらくの間その場に立ち尽くしていた。少しすると、何か思い立ったように、ミロカロスを戻した。
「くそっ!! こうなったら出直すしかない!!」
 Gは突然、身を翻してその場から逃げようとする!
「そうはさせないわ!!」
 すると、あたし達が行動するよりも早く、ミライさんの声が聞こえてきた。見ると、ミライさんだけじゃなくて、カズマやタケシも起きてる。
「さっきのお礼はきっちりさせてもらうわよ!! グレイシアちゃん、“ふぶき”!!」
 ミライさんの指示で、グレイシアは“ふぶき”をGに向けて発射する!
「バ、バカな・・・俺は、どこで計算を間違えたというのだ・・・!?」
 Gが抵抗する間もなく、Gは“ふぶき”に飲み込まれた。そして、たちまちその体は氷付けになった!
「やったぜ!!」
 ガッツポーズを取るカズマ。氷付けになって動かなくなったGに、ミライさんが歩いて近づいた。
「どこで計算を間違えたのかって? あなたが1つだけ計算し忘れていた事・・・それは、サトシは1人じゃないって事よ」
 ミライさんは、さっきのGの言葉に答えるように、凍ったGに言った。
「・・・ま、とにかくこれにて一件落着〜、なんてね!」
 ミライさんはGに背を向けて、いつもの軽いノリに戻ってそう言った。

「終わったんだね・・・」
 あたしは、ほっとしてつぶやいた。
「ああ・・・俺達は、勝ったんだ。ヒカリのお陰だよ。あのままだったら、俺は勝てなかったよ」
 サトシが、あたしに顔を向けた。
「ううん、こっちだって、サトシに助けられちゃったもの。お礼を言わなきゃいけないのは、こっちの方よ」
 サトシの言葉に、あたしはちょっと照れた。
「ホントに、ありがとな」
「こっちこそ、ありがとう・・・」
 お互いにお礼を言い合う。無事でいてくれて、ホントによかった・・・あたしは何だか、暖かい気分になった。すると、急に頭がふらついてきた。
「う・・・」
 体の力が抜けて、倒れそうになる。でも、すぐにサトシの両手が止めた。
「しっかり立てよヒカリ、こんな所で倒れちゃったら、何にもならないじゃないか」
 サトシが、笑みを浮かべてあたしに言った。そんなサトシの姿が、ちょっとだけカッコよく見えた。
「・・・ダイジョウブ!」
 あたしも、精一杯の笑顔で答えた。
「さ、みんなの所へ行こうぜ」
「うん!」
 あたしは、サトシに支えられながら、みんなの所へ歩いて行った。
 ミミロルも、ボロボロになって膝をついていたピカチュウに笑みを浮かべながら手を差し伸べた。ピカチュウは笑みを返しながらその手を取って、ミミロルに支えられながらあたし達の後をついて行った・・・

 * * *

 ポケモンハンターGは、ジュンサーさんの所に届けられて、見事御用となった。そして、あたし達はしばらくの間、ケガの手当てのために、充分な休みを取った。

 そして今。あたしとサトシは、バトルの真っ最中。相手は、ミライさんとカズマ。そう、あの時できなかったバトルの決着をつけていたの。もちろん、あの時と同じポケモンで。白熱するバトルが続く。
「グレイシアちゃん、“こごえるかぜ”!!」
 ミライさんのグレイシアが、“こごえるかぜ”を発射! ミミロルとピカチュウに飛んで来る!
「よけて!!」
 あたしとサトシの声が合わさった。ミミロルとピカチュウは、“こごえるかぜ”をうまくよけてくれた!
「そこだ!! ナエトル、ミミロルに“タネマシンガン”だ!!」
 よけた隙を狙って、カズマのナエトルが“タネマシンガン”を撃つ! いけない、よけられない!
「ピカチュウ、“10まんボルト”で“タネマシンガン”を打ち消すんだ!!」
 とっさにサトシが指示した。ピカチュウが“10まんボルト”でリリーフ! たちまち“タネマシンガン”は“10まんボルト”に打ち消されて、さらに電撃はナエトルに命中! 効果は今ひとつだけど、結構ダメージを与えられたみたい!
「ありがと、サトシ」
「どういたしまして! じゃ、次はこっちから行くぜ!!」
「ええ!!」
 そんなやり取りをした後、あたし達は反撃に出る!
「ミミロル、ナエトルに“れいとうビーム”!!」
「ミミ〜・・・!!」
 ミミロルが、“れいとうビーム”の発射体勢になる。ナエトルに当たれば、効果は抜群!
「グレイシアちゃん、ガードの用意をして!! “ミラーコート”!!」
 とっさにミライさんがリリーフに入る。グレイシアが前に出て、“ミラーコート”の構えを取った!
「ロォォォォッ!!」
 ミミロルは、それでも構わずに“れいとうビーム”を発射! このまま当たっちゃったら、跳ね返されちゃうけど・・・
「今だピカチュウ!! グレイシアに“アイアンテール”!!」
 すぐに、サトシが指示を出した。ピカチュウが、グレイシアに向かって一気に飛び出す!
「!?」
「ピッカア!!」
 グレイシアの不意を付いて、“アイアンテール”を叩き込む! “ミラーコート”じゃ、物理わざは防ぐ事はできない! 効果は抜群! 弾き飛ばされるグレイシア。その横を、ミミロルの“れいとうビーム”が通り過ぎる。そして、ナエトルに見事命中! 効果は抜群! そう、これがあたし達の作戦。グレイシアがガードをしようとした所を狙って、ピカチュウの“アイアンテール”。そして、ガードがなくなった所に“れいとうビーム”が飛んで行くって寸法。
「グレイシアちゃん!!」
「ナエトル!!」
 2人が声を上げた。グレイシアが倒れる。そして、ナエトルも、凍りついたまま動かない。
「グレイシア、ナエトル、両者戦闘不能! よって勝者、サトシとヒカリ!」
 タケシが左手を上げて、試合終了を知らせた。こっちの勝ち!
「やったあ!!」
 あたしは、思わず声を上げた。だって、最初の時と違って、ちゃんとしたタッグバトルができたんだから!
「くそっ、負けちまったか・・・」
「なかなかのチームワークだったじゃない。敵ながら見事、なんてね。『ケンカするほど仲がいい』ってのは、まさしくこの事ね」
 唇を噛むカズマと、あたし達の戦い方に感心するミライさん。
「ピッカチュウ!!・・・ピカ!?」
「ロ〜ルロ〜ル!!」
 ミミロルは、嬉しさのあまりガッツポーズを取るピカチュウの手を取って、踊り出しちゃってる。ピカチュウは、それに振り回されてるっぽいけどね。ピカチュウと組めてバトルに勝てたのがよっぽど嬉しかったんだね。
「やったな、ヒカリ!!」
「ええ!!」
 あたしとサトシは、そう言ってハイタッチをした。

 * * *

 そして、日も暮れてきて、あたし達が出発する時が来た。
「・・・そう、トバリシティに行くのね」
「ああ、そこでジム戦に挑戦するんだ!」
「フフ、がんばるのよ。吉報を待ってるわ」
 サトシとミライさんが、そんな話をしていた。あたしとタケシは、そんな様子を後ろから見ていた。
「・・・さて、最後に1つ、言わせていい?」
 ミライさんが、右手の人差し指を立てた。
「何?」
「サトシは昔っから何でも1人で解決しようとするよね」
「・・・?」
 ミライさんが、サトシの両肩に両手を置いた。
「でも、いつもそういくとは限らない。1人じゃうまくいかない時だってあるわ。どんなに力が強くたって、1人きりじゃ戦う事はできないわ。そういう時は、無理しないで誰かに頼ってもいいのよ」
「誰かに、頼る・・・?」
「ほら、サトシにはこんないい仲間達がいるんだから」
 ミライさんは、あたし達の方を指差した。サトシが、こっちを向く。あたしは、そんなサトシに自然と笑顔を見せていた。それを見たカズマは、ちょっと動揺した様子だった。
「・・・そうだな。わかったよ」
 サトシがそう答えた時、何かを我慢できなくなったように、カズマがあたしの前に出た。なぜか目は伏せている。
「ヒカリ・・・」
「何?」
「・・・ケンゴにあったら、よろしく言っとくからな。コンテストも、応援してるからな。じゃあな!!」
「あっ、ちょっと・・・!!」
 カズマはそう言った後、何かを振り払うように突然あたしを通り過ぎて走り去って行っちゃった。その時見たカズマの顔は、何かをこらえている様子だった。
「あらあら・・・とにかくサトシ、仲間を大事にするのよ! じゃあね!」
 ミライさんは、そう手早く言った後、カズマの後を追いかけるようにその場を走り去って行った。
「じゃあな〜、ミライ! また会ったら色々話しような〜!」
「さようなら〜!」
 サトシが、手を振ってミライさんを見送った。あたし達も手を振る。ミライさんが、手を振って答えたのが見えた。

 * * *

「ちょっと待って〜!」
 ミライさんがやっとカズマに追いついた。カズマはまだ、目を伏せている。
「どうしたのよ、急に・・・まさか、ヒカリちゃんの事?」
「・・・・・・」
 カズマは黙り続ける。
「図星のようね。男らしくないわよ。『ヒカリちゃんをあいつから奪い取ってやる!』とかって思ってないの?」
「・・・いや、もういいッスよ。ヒカリは、あいつの方に気があるっぽいし・・・やっぱ初恋って、実らないものなんだな・・・」
 いつもの軽いノリで聞くミライさんに、カズマは顔を上げてそう答えた。その顔は、すっきりした様子だった。
「・・・あら、あっさりあきらめちゃうのね。まあいいわ、ヒカリちゃんとサトシはきっといい仲になるわ。当の2人はまだ気付いていないみたいだけどね。その内気付く時は来るわ」
 ミライさんは、空を見上げながらそうつぶやいた。
「かくして、事件は無事解決し、2人はさらに強い絆で結ばれたのでした、めでたしめでたし、なんてね!」

 * * *

 あたし達も、トバリシティに向けて出発した。
 あたしは、サトシに目を向けた。サトシの横顔が見える。やっぱり、サトシに会えてよかった。これからも、今までのように一緒に旅をしていきたいな。そんな事を思った。
「・・・ねえ、サトシ」
「何?」
 あたしはちょっとサトシに聞いてみたい事があった。
「サトシって、今までいろんな所旅してきたんでしょ? だったら、その時の話、いろいろ聞かせてくれない?」
「え?」
 サトシは、目を丸くした。当然か、こんな事自分から聞こうとなんてしなかったからね。何だかあたし、サトシの事がもっと知りたくなったの。サトシが、今までどんな所を旅してきて、どんな事を経験したのかを・・・できる事なら、全部聞きたい。
「そんな事言われてもなあ・・・」
 サトシはしばらく考え込む。
「だったら、俺が話してやろうか?」
「タケシには聞いてないの!」
 タケシが首を突っ込んできたけど、あたしは断った。あたしは、サトシの口から聞きたかったんだから。
「・・・そうだ! いい話があった!」
「聞かせて聞かせて!」
 サトシが、何か思いついたみたい。どんな話なのか、わくわくしてきた・・・!

 * * *

 こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く・・・・・・


STORY05:THE END

[117] 次回予告
フリッカー - 2007年11月23日 (金) 20時35分

「これで、ホントによかったのかな・・・?」

 ブイゼルとエイパムを交換したあたし達は、ポケモンとの関係を何よりも大事にする町、オーブタウンって町にやってきた。
 交換してとりあえず解決したのはよかったけど、時間が経つと、やっぱりこれでホントによかったのかなと疑問に思えてきた。エイパムやブイゼルは、ホントにこれを望んでいたのかな・・・?

 そこへ現れるむげんポケモン、ラティオス!

「お前は騙されているんだ。お前が交換されたのは、そいつがお前を相応しくない存在だと思ったからだ!!」
「違う!! ポケモンはあたし達の大事なパートナーよ!!」
「パートナーだと言うのならば、そう簡単に手放せる訳がないだろう!!」

 その言葉が、あたしの心に深く突き刺さった。
 そして、それを聞いたブイゼルは・・・

「ちょっとブイゼル!? 何するの!?」

NEXT STORY:交換の光と影

「エイパム・・・これでホントにいいの?」

 COMING SOON・・・

[118] SECTION04修正
フリッカー - 2007年11月24日 (土) 17時40分

 先程、何気なくサトシの意外な過去を知ったので、SECTION04の文章を修正しました。もう一度目を通して置いてください。

[860]
ahahasann - 2010年09月05日 (日) 20時05分

サトシと、ヒカリが事故チューしてしまったお話はどうでしょう
わたくしは、そんなお話が見たいな♪
ぜひぜひおねがいしまっす!







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