[823] SECTION01 エテボースのモンスターボール! |
- フリッカー - 2009年05月29日 (金) 17時59分
あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事! パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……
SECTION01 エテボースのモンスターボール!
「ほらほら、こっちこっち!」 あたしは目の前にいる黒髪の女の子――スズナに案内されて、雪が積もる森の中を歩いていた。パートナーのイーブイちゃんも、雪に足を取られそうになりながらも、しっかりと後をついて来ているのを確かめる。 スズナの話じゃ、ここにあたしにピッタリな場所があるって聞いたんだけど、こんな森の奥に一体何があるのか、あたしは想像できなかった。お宝でもあるのー? なんてね! って冗談まじりで聞くと、スズナはある意味そうかもね、と答えるだけだった。 どれくらい森の中を歩いたかと思ったその時、目の前が急に眩しく光った。あたしは思わず、顔を手で覆った。 「着いたよ」 スズナが言った。 改めて見てみると、それは家の部屋の天井くらいの高さがある、大きな氷だった。しかも、ただの氷じゃない。その氷はキラキラとまるで宝石のように輝いていて、見る人が見たら、これを氷とは思わないかもしれないほどのきれいな氷だった。 「凄いでしょ」 「凄い……こんな所にこんな氷があったなんて……知らなかったあ……」 あたしはもう、そんな言葉しか出なかった。こんなものがどうしてキッサキの観光名物にならないのか、不思議でならなかった。 「さて、本題。ミライ、イーブイをその岩に触らせてみて」 スズナはいきなり、意味のわからない事を言い出した。 「え?」 「いいから」 スズナに言われるままに、あたしはイーブイちゃんを抱き上げて、そっと氷に近づけていく。これで何か起こるとしたら…… 「まさか、イーブイちゃんが進化するとか、ないよね……?」 あたしが冗談交じりにそう言った時、イーブイちゃんが氷に触れた。するとイーブイちゃんの体が、眩しく光り始めた。体がどんどん大きくなっていく。まさか、あたしが言った事が、本当に……!? そしてイーブイちゃんが変わった姿は、水色の体に、首を覆う毛がなくなって、スラリとした体を持つ、見た事のないイーブイの進化系だった。進化形が多いイーブイだけど、こんな姿があったなんて聞いた事がない。あたしは驚くしかない。当の本人も、自分が変わった姿に驚いていた。 「これって……!?」 「しんせつポケモン・グレイシア。こおりタイプのポケモンよ」 スズナが説明した。 「グレイシア……ちゃん……」 あたしは初めて、スズナがここに連れて来たかった理由がわかった。スズナは、イーブイちゃんを進化させるために、ここへ…… その瞬間、あたしはこのしんせつポケモン・グレイシアちゃんの事が好きになっていた。そしてこれが、あたしがこおりポケモンを集めるきっかけになった。
* * *
そんな何年か前の事を、この景色を見ていると思い出す。 外は一面、雪景色。周りの景色が、雪で覆われて真っ白になっている。雪はしんしんと降っていて、弱くだけど冷たい風が吹いている。 コートを着ないととても外には出られない寒さだけど、こういう景色は、あたし好き。こういう景色を見た事が、あたしが『氷の魔女』になる全てのきっかけだったなあ。場所も場所だし、まさに何もかもが懐かしい場所。 「サトシ達もそろそろ、ここに来ている頃かもしれないわね。じゃ、行こっか。グレイシアちゃん!」 最近手に入れたばかりの白い帽子を整えて、あたしは足元にいるグレイシアちゃんに声をかけた。そしてグレイシアちゃんの返事を確かめて、あたしは雪道の中へ、足を踏み出していった。
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グランドフェスティバル出場が決まる5つ目のリボンをかけて挑んだ、ポケモンコンテスト・タツナミ大会。 サトシと「グランドフェスティバルへ連れて行ってくれ」って約束したエテボースで挑んだあたしは、無事にファイナルにまで進んだ。そしてファイナルでぶつかった相手はケンゴ。ケンゴはしばらく見ない内に結構腕を上げていて、あたしは初めてのバトルオフ負けになっちゃった。ちょっと5つ目のリボンを意識しすぎちゃったかな、って反省してる。 その後開催されたポケモンピンポン大会にも、あたしはエテボースで出場した。ポケモンピンポンをエテボースの演技の参考にした事がきっかけなんだけど、その実力をポケモンピンポントップクラスの選手、オウさんに見いだされて、エテボースをスカウトしたいと言われた。サトシと一緒に悩んだけど、エテボース自身に決めさせる事にした。そしてエテボースは、ポケモンピンポンの方を選んで、オウさんと一緒にクチバシティへと旅立っていった……
* * *
外は結構吹雪いている。こんな天気で外に出ようなんて誰も考えないはず。下手したら遭難しかねない。 そんな吹雪に巻き込まれたあたし達も、ちょうどいい洞窟を見つけて、その奥で吹雪が治まるまで留まる事になった。 雪の中での野宿は、今まで以上にしんどい。下手したら凍死する可能性だって充分にあるから、今まで以上に体に気を使う。雪国っていうのは、結構大変なのねとつくづく思う。 目の前の焚き火と、ママからもらった赤いコートで寒さをしのぎながら、洞窟の入り口から見える外の景色をふと見てみる。吹雪のせいで真っ白で、先に何があるのか全く見えない。それを見ていても、何も面白くない。別に理由があって見てる訳じゃない。ただ、あたしはずっと考えていた事があって、ただぼけっと眺めているだけ。 「エテボース……」 自然と口から、その名前が出た。
* * *
ポケモンピンポン大会に出場したエテボースは、その身軽さもあって結構活躍して、決勝戦まで進んだ程だった。そして本人も、ポケモンピンポンが気に入ったみたいで、急にいなくなったと思ったら、外でピンポンの壁打ちを1人でしていたくらい。 そんなエテボースをスカウトしたいとオウさんが言ったのも、当然だったのかもしれない。でもエテボースは、コンテストでも欠かせないメンバーの1人になっていたし、交換した相手のサトシに凄く悪いと思っていた。第一、前のタツナミ大会で優勝できなかったから、「あたしをグランドフェスティバルに連れていく」っていうサトシとの約束も破る事になっちゃう。だから、エテボースが離れちゃうのには抵抗があった。あたしはサトシと相談して、とりあえずはエテボース自身にどうするかを決めさせる事にした。 そしてオウさんが出発する日。 あたしはエテボースを連れて、コンテストかポケモンピンポン、どっちがやりたいのかを、ボールカプセルとピンポン球を両手で差し出してエテボースに聞いた。エテボースは少し考えていた様子だけど、気分を和ませるためなのか、あたしとサトシの帽子を取って、ボールカプセルとピンポン球と一緒にジャグリングをしてみせた。そしてそれが終わった後、エテボースがあたしの手に返したのは……
ボールカプセルだった。 エテボースが選んだのは、ポケモンピンポンだった。
それが、あたしは正直言ってショックだった。 本当は、コンテストを選んで欲しかった。いや、必ずそうすると思っていた。でも、今まであれだけコンテストで一生懸命がんばってくれたのに、ポケモンピンポンを選ばれた事が、とてもショックだった。 でもそれは、エテボースが本当にやりたいもの。あたしが無理にコンテストをやれと強制する事はできない。この考えは、あたしの1人よがりなのかもしれない。そして、目の前のエテボースも、笑顔を浮かべている。 正直、悲しい気持ちだったけど、あたしはそれを押し殺して、エテボースと笑顔を見せて最後の握手をして、みんなとエテボースを明るく見送った。
でもやっぱり、後になってくるとそれが悲しくなってくる。 エテボースはなんで、ポケモンピンポンの方に行っちゃったのか、あたしは気になっていた。あれだけ大好きだったサトシの側、そして同じように大好きだったコンテストから、あっさりピンポンに切り替えるなんて、普通できるはずがないと思うのは、あたしだけじゃないはず。 でもエテボースはそれをした。その理由は何? あたしに考えられる事は1つだった。
――ひょっとしてエテボースは、あたし達を見捨てたんじゃかな……?
いつしかあたしは、そんな事ばかり考えるようになった。
* * *
洞窟から吹きこんでくる風が、冷たく感じた。 あたしの手には、入るポケモンがいなくなった、空っぽのモンスターボールがある。あの時エテボースにどっちを選ぶか聞いた時に使ったままの状態だから、ボールカプセルも付いたまま。 このモンスターボールに、またエテボースが入る事はあるのかな? また、ボールカプセルの演出と一緒に、このモンスターボールから出てくる事はあるのかな? ボールの握る手に、そっと力が入った。
「どうしたんだ?」 サトシの声を聞いて、あたしははっと我に返った。見ると、サトシとタケシの視線が、真っ直ぐあたしに突き刺さっている。サトシの側にいるピカチュウも、あたしのすぐ横にいるポッチャマも、同じ顔をしている。 「まだ、気にしているのか? エテボースの事……」 「うん、まあね……」 そう答えて、あたしはまた空のモンスターボールを見つめる。 「ねえ、みんな」 あたしは試しに、みんなに聞いてみた。 「エテボースは、あたし達を見捨てたんじゃないかな……って思わない?」 あたしの言葉に、みんなは一瞬驚いた。 「どうして、そう思うんだ?」 素直にサトシが聞いてきた。 「だって、あんなにサトシやコンテストが好きだったなら、あんなにあっさり別れられる訳ないよ……それなのに……」 「まあ、エテボースは前からいろんな事に興味持つ奴だったからな……」 サトシも続けるようにつぶやく。 サトシの話だと、進化する前のエテボースは、自分からサトシの後をついてきて、自分からサトシにゲットされたらしい。そして旅の中でコンテストに興味を持って、ノゾミの勧めでブイゼルとの交換って形であたしのポケモンになった。 ここまでは、サトシと一緒にいられる事に変わりはないから、別に気にならない。でも問題なのは、その後。 ポケモンピンポンに興味を持ったエテボースは、コンテストをやめる所か、大好きなサトシの側からも離れる事になるのに、別れの時には寂しそうな様子を1つも見せなかった。隠していたって可能性もあるけど…… 「だから、あたし達にはもう興味がなくなって、あたし達を……」 「考えすぎだよ、ヒカリ」 あたしは思った事を口に出したけど、途中でサトシに遮られた。 「エテボースがどんな事を思っているのかはわからないけど、少なくともエテボースは、そんな事を考える奴じゃない。俺はわかるさ」 サトシは当然、あたしよりもエテボースとの付き合いは長い。だからわかるのかもしれない。サトシはエテボースの事をあまり心配していない様子。 それでも、あたしは不安だった。あたしもそう信じたいけど、やっぱりエテボースが、あんな事をしたのは不自然に見える。
こんな時に、エテボースとまた会う事ができたら、それを確かめられるのに……
* * *
吹雪が治まったのを見計らって、あたし達は洞窟から出発した。 周りの葉っぱの生えていない木は、全部雪を被っていて、一面真っ白。その景色はとてもきれい。でも、そんな景色に見とれてばかりはいられない。時々雪が深くなっている所があるから、うっかりそこに足を入れたら足が埋まって大変な事になっちゃう。だから、足元に気を付けながら歩いて行く。 日は射しているけど、吹く風は相変わらず冷たいから、コートが手放せない。あたしと同じように、サトシとタケシもデザインがお揃いの青いコートを着ているけど、これはあたしのコートと一緒にママが送ってきたもの。そしてあたしはもらったコートに合わせて、白い大きなマフラーと、今まで履いていたのとは違うタイプのブーツを履いている。サトシの肩の上のピカチュウも、少し寒そうにしているけど、ポッチャマはいつも通りの顔をしている。ポッチャマは元々、こういう寒い地方に住んでいるポケモンだから、寒さはへっちゃらなのね。 「この先を行けば、ポケモンセンターだ」 タケシが地図を確かめて、そう言った。 「本当!?」 「やっと暖かい場所に入れるぜ〜!」 あたしとサトシは、思わず声を上げた。これだけポケモンセンターがあると聞いて、嬉しいと思った事があるかな? やっぱり寒い外を長い間歩いていたからかな。寒い所に長くいる事は、思ってたより辛い事だったから。 すぐにサトシが駆け出した。おい、とタケシが声をかけたけど、サトシは止まらない。でもその時、サトシが突然、つまずいてバタリと雪の中に倒れた。 「ああっ、サトシ!?」 何が遭ったのかなと思って見ると、サトシの左足が雪に深く埋まっている。雪の深みにはまっちゃったのが、転んだ原因だった。体を起こしたサトシは、埋まった左足を抜こうとしているけど、なかなか抜けない。結構深く埋まっちゃっている。あたしはすぐに、足を抜くのを手伝ってあげた。それで、サトシの足は無事に抜く事ができた。 「もうサトシ、足元ちゃんと注意してなきゃダメでしょ?」 「ごめんごめん。ああ、足が冷てぇ……」 サトシは右足で片足立ちをしながら、左足の靴を脱いで、中に入った雪を落とす。こういう時、あたしが履いているような長靴を履いていればあまり困らないんだけど、サトシは違うから、それが完全にアダになっちゃった。結局サトシは、足が冷たくなるハメになった。
その時だった。 突然あたし達の後ろから、何かが素早く伸びてきた。途端に聞こえたピカチュウの悲鳴。気がつくと、ピカチュウの姿は、サトシの肩の上から消えていた。 「ピカチュウ!?」 あたし達はピカチュウの声が吸い込まれた後ろを見ると、そこには、空から延びるマジックハンドが、ピカチュウを鷲掴みにしている光景が見えた。 『わーっはっはっは!!』 そのマジックハンドをたどった先から聞こえてくる、聞き慣れた高笑い。そこには、横長のキャタピラを付けた、まるで装甲車のような雪上車があった。その真ん中には、赤い文字で、『R』と書いてある。 「お前達は!!」 サトシが叫ぶと、運転席がせりあがって、そこからいつも聞くあの言い回しが聞こえてきた。 「『お前達は!!』の声を聞き!!」 「雪原乗り越えやって来た!!」 「雪よ!!」 「あられよ!!」 「北風よ!!」 「世界に届けよ、ブリザード!!」 「宇宙に伝えよ、アヴァランチ!!」 「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」 「誰もが震える、魅惑の寒さ!!」 「ムサシ!!」 「コジロウ!!」 「ニャースでニャース!!」 「時代の主役は、あたし達!!」 「我ら雪の!!」 「ロケット団!!」 そこに現れたのは、間違いなくいつものあいつら――ロケット団だった。 「ロケット団!!」 あたし達はいつものように声を揃えて叫ぶ。そしてサトシが、またお前達か、と続ける。 「本日は雪上車で、ピカチュウをゲットしに来たのニャ!!」 ニャースが堂々と言う中で、鷲掴みにされているピカチュウは、抵抗しようとして電撃を出した。でも、雪上車に手応えは全くない。 「わ〜っはっはっは!! 例によって電気対策はバッチリなのだ!!」 「そのままピカチュウゲットでチュウ!!」 コジロウが自信満々に笑った。そのままピカチュウを鷲掴みにしたマジックハンドは、雪上車の中に引き込まれていった。 「ピカチュウ!! こうなったらブイゼル、君に決めた!!」 もちろん、こんな状況を黙って見ている訳にはいかない。サトシはすぐにモンスターボールを投げた。中からブイゼルが飛び出す。 「“アクアジェット”!!」 ブイゼルは“アクアジェット”で、雪上車目掛けて、真っ直ぐ突撃していった。水の槍になったブイゼルは、そのまま雪上車に体当たり! でもブイゼルは、簡単に跳ね飛ばされた。なんて頑丈なの!? 「ニャハハーッ!! この雪上車は電撃以外にも耐えられるように頑丈にできているのニャ!!」 ニャースが高笑いした。 「くそっ、こうなったらもっと強い攻撃で……!!」 サトシがすぐに別のモンスターボールを取り出した。でもその手はすぐに止められた。 「待てサトシ!! 闇雲に攻撃するのは危険だ!!」 タケシだった。 「どうしてだよ!?」 「下手にここで強い攻撃をしたら、衝撃が広がって雪崩が起きる可能性がある……そうなったら、助けるどころじゃないぞ!!」 タケシの言う言葉は正しかった。あたしは、雪山でポケモンバトルをしちゃいけないって言われていた事を思い出した。こんな山間の中で、何か大きな衝撃を地面に与えたら、それは雪崩の原因になる。ポケモンの攻撃1つで、大きな災害が起きてしまいかねない。あたしは雪山でポケモンバトルをしちゃいけない理由が、改めて理解できた。 「どうしたジャリボーイ? 相棒のピカチュウを助けられないのか?」 「雪崩が怖くて攻撃できないんじゃなーい?」 コジロウとムサシがサトシを挑発する。サトシはただ、唇を噛むしかなかった。 雪山でポケモンバトルは厳禁。でも今は、そんな場合じゃない。何とか雪崩のリスクを少なくして、ピカチュウを助ける方法は…… 何とかして雪上車に穴を開ければ、ピカチュウを助けられそう。そのためには、なるべく爆発は起こさずに、強い攻撃ができるポケモンが理想的。それができるポケモンといったら……1匹しかいない。 あたしは自然とボールカプセルが付きっぱなしのモンスターボールを手に取った。 「ならエテボース、お願い!!」 そう叫んで、あたしはモンスターボールを投げた。そしてその中から、エテボースが飛び出す……
事はなかった。 空のモンスターボールは、そのままムサシの頭にコツンと当たっただけだった。そして跳ね上がったモンスターボールを、コジロウがキャッチした。あたしは一瞬、目を疑った。 「なんだ、このモンスターボール? ……空じゃねえか?」 コジロウがスイッチを押して、モンスターボールを開けて中を確かめてみる。でもその中からは、何も出てこない。 「ああっ!! エテボースはもういないんだった!!」 あたしはそれを見て、初めてあたしが勘違いをしていた事に気付いた。エテボースはもう、あたしの側にはいない。それをどういう訳か、まだいるって勘違いしちゃってた! 「おいヒカリ、しっかりしろよ!! こんな時にボケてる場合じゃないだろ!?」 「……ごめん」 サトシの注意に、あたしは素直に謝るしかなかった。 「ちょっとアンタ!! あたしに空のモンスターボールぶつけるなんて、何のつもり!?」 「落ち着くニャ、ムサシ!! こんな事に構ってないで撤収するのニャ!!」 「そ、そうね……!!」 「じゃ、撤収だ!!」 怒るムサシを、ニャースが説得する。そして、ムサシとコジロウと一緒に雪上車にまた潜り込んだ。そして、雪上車のエンジンがうなり始めた。 『今日はとっても、いい感じ〜っ!!』 スピーカーから、そんな勝ち誇った声が響く。そのまま雪上車は、反転してその場を去ろうとする。 「ピカチュウ!!」 サトシの声が空しく響く。 このままピカチュウは、ロケット団に……!
「“れいとうビーム”!!」 すると、あたし達の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。すると、あたし達のすぐ横を、白い光線が通り過ぎた。その光線は、キャタピラに命中! キャタピラはたちまち凍り付いて、雪上車の動きはゆっくりと止まった。 「だ、誰!?」 あたし達は、後ろを振り向いた。するとそこには、1人の女の人が立っていた。赤のアクセントが入った白い帽子を被っていて、水色のジャンパーに赤いミニスカート。でもその顔は、知っているものだった。そして足元にはしんせつポケモン・グレイシア。 「はいはーい皆さん、そこまでー! なんてね!」 「ミ、ミライさん!?」 そこにいたのは、間違いなくミライさんだった。カンが鋭いサトシのいとこで、サトシにとってはお姉さんのような存在。あたし達と違って目標っていうのは特になくて、ただ自由気ままに旅をする事自体を楽しんでいる。こおりタイプの使い手で、『氷の魔女』っていつも名乗っている。 「ミライ!!」 「全く、こんな所で何やってるのかと思ったら……でも、状況は大体わかったわ。ここはこの、『氷の魔女』にお任せ! なんてね!」 サトシの横に歩いてきたミライさんは、そう言って笑みを見せた。そして、モンスターボールを1個取り出した。 「呼ばれて飛び出てジュゴンちゃん!!」 ミライさんはそのモンスターボールを投げた。そして中から飛び出したのは、一見すると人魚とも間違えそうな、白くてきれいなポケモンだった。あたしはポケモン図鑑を取り出した。 「ジュゴン、あしかポケモン。全身が真っ白な体毛で覆われているため、雪の中では天敵に見つかりにくい」 図鑑の音声が流れた。 「“つのドリル”!!」 ミライさんが指示すると、ジュゴンは頭のツノに力を込めて、雪上車に体当たりした! すると、ツノがドリルのように回り出して、たちまち装甲車のボディに大穴が開いた! そのままさらに穴を開け続けると、ある程度した所でジュゴンは下がる。すると、空いた穴から、ピカチュウが飛び出してきた。 『な、何!? 何が起きてるの!?』 「“せったいれいど”でフィニッシュ!!」 ジュゴンはサッと雪上車から離れると、口の中にパワーを蓄え始める。そしてそれを一気に解き放つと、“れいとうビーム”より強烈な白い光線を発射! それの直撃を受けた雪上車は、一瞬で見事なまでの氷の塊と化した。これでもう、雪上車は動けなくなった事は確実。 「これにて一件落着〜! なんてね!」 ミライさんがそうつぶやく横で、サトシは戻ってきたピカチュウを、しっかりと受け止めていた。 さすがはミライさん。こおりタイプの使い手だけあって、こういう場所でのバトル方法も、ちゃんとわかってるんだ……あたしは感心しちゃった。
* * *
ミライさんの案内で、あたし達はポケモンセンターに無事に到着した。 ロケット団はほっといたままだけど、ミライさんは「いいのよ、それで。あのまま動けないんだから、後は野となれ山となれ、なんてね!」って言っていた。まあ、下手に手を出していたらそれこそ雪崩が起きていたかもしれないし。 とりあえず、暖かいポケモンセンターに着いてほっと一息。当然、あたし達はコートを脱いだ。ミライさんもジャンパーを脱いでいるけど、その姿を見て、あたしはミライさんの中の服装も変わっている事に初めて気付いた。 服も水色になっていて、あたしのと同じようにノースリーブになっている。両手首には黒いリストバンド。今まではスカートの下にジーパンを履いていたけど、今は履いていない。そして水色の靴下に、白い靴。白い帽子や赤いミニスカートとも色合いはマッチしていて、結構かわいい感じになっていると思う。 「どうでしょ、ヒカリちゃん。いい感じでしょ?」 ミライさんはあたしが見ていた事に気付いたのか、わざとらしくポーズをとってそう聞いてきた。 「はい、すごく似合ってると思います」 「ありがと」 あたしが答えると、ミライさんは嬉しそうにほほ笑んだ。そこに、サトシがやってきた。 「なあヒカリ、お前に手紙が来ているぞ。『ポケモンコンテスト協会』から」 「え、手紙?」 あたしは驚いた。手紙が来る事自体珍しい事だし、何よりポケモンコンテスト協会からって言うのが気になる。一体何だろうと思いながら、あたしはサトシから封筒を受け取る。それを開けて、中に入っている手紙を読んでみた。
フタバタウンのヒカリさん あなたはポケモンコンテストにおける素晴らしい活躍ぶりと、ヨスガコレクションで優勝し、優秀なポケモンコーディネーターである事が評価され、あなたを『ポケモンコンテスト・エキシビション』に招待する事を決めました。
「ええーっ!? エキシビションに出られるのー!?」 あたしはそこまで読んだだけで、思わず声を上げちゃった。それを聞いて、みんなの視線が一斉にこっちに向いた。 「まさか、『ポケモンコンテスト・エキシビション』か?」 「うん!! これに出られるなんて、夢みたい……!!」 あたしは信じられない気持ちもあったけど、それ以上に嬉しかった。あたしは飛び上がって喜ばずにはいられなかった。側にいたポッチャマも、つられたのか一緒に飛び上がって喜ぶ。 「『ポケモンコンテスト・エキシビション』?」 「ポケモンコンテストで3回以上優勝したコーディネーターの中で選ばれた者だけが出場できる、採点や順位付けをやらない特別実演のポケモンコンテストさ」 「テレビでも盛大にやってる競技よ。それに出られるなんて、凄いじゃないヒカリちゃん!!」 サトシの疑問に、タケシとミライさんが答える。 「じゃ、すぐにどんな演技するか決めて、練習しなきゃ! ね、ポッチャマ!!」 「ポチャマ!!」 あたしはもうハイテンションだった。ポッチャマとそんなやり取りをすると、早速あたしはバトル場へ行こうとした。もちろん、あたしのポケモン達にこの事を教えるために。
その時だった。 「ハーイ!! 今日もあたしはハイテンショーン!!」 急にそんな聞き覚えのあるような声が聞こえたと思うと、あたしの体に突然、正面から出てきた何かにぶつかった。目の前に衝撃が走った。反動で、あたしは尻もちをついた。 「おい、大丈夫か!?」 みんながすぐに、あたしの側に駆けつけてくれた。 「いったー……誰、いきなり……!?」 こんな時にぶつかったのは誰……? と思って体を起こして目の前を見た瞬間、あたしは驚いた。
袖が黒い赤い長袖の服にピンクのミニスカート、茶色がかったショートヘアーの女の子。その頭には赤い耳当てを付けている。 この子の姿は、はっきりと覚えている。だって、この子は……
「あれ……!? もしかして、ミホ……!?」 「あっ、ヒカリン! ひっさしぶりねーっ!」 その女の子――ミホはすぐにあたしの事がわかったみたいで、すぐに満面の笑顔を見せた。ミホはすぐに立ち上がって、立ち上がったばかりのあたしに抱き付いた。 「こんな所で会えるなんて、思ってなかったよ! ヒカリ〜ン!」 「え、ええ……」 その底抜けに陽気な性格は、相変わらずみたい。あたしは、思わず苦笑いした。でも決してミホは、付き合いづらい人じゃない。それより…… 「でも……今まで行方不明になってたんじゃ……?」 「行方不明? 変な事言わないでよ〜! あたしはこうやって健在じゃない! 人を勝手に死んだような扱い方しないでよ〜!」 でもミホは、そんな事を何も知らないように、笑顔を返した。まあ、旅をしている人に対しては、どうしても連絡が取れなくなっちゃう。あたしだって最近はママに連絡入れていないし、ノゾミとも連絡を取る事はあまりない。だから、行方不明って言っても、ある意味そんな暗い事じゃないのかもしれない。 「ヒカリ……その子は知り合い?」 すると、サトシのそんな質問が耳に入った。見ると、サトシ達も少しミホを見て驚いたような顔をしていた。あたしは答えようとしたけど、その前にミホが口を開いた。 「あたし、ミホ! ヒカリンのベストフレンドなの!」 ミホはあたしの顔の側で、得意気にVサインを作ってこれでもか、というくらいの笑顔を見せた。
TO BE CONTINUED……
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