小説『シャナ』 投稿者：郁
モダンロマンスリクエストシリーズ。　キャサリーン・ウッディウィス作　株式会社サンリオ

　18世紀、霧のロンドンの町を全力疾走する馬車があった。馬車の中でシャナは身を固くしていた。これから絞首刑が決っている殺人犯と交渉をするのだ！

　彼女はカリブ海に島を持つイギリス商人の娘で裕福な暮らしをしていた。彼女の父親は一代で富を築き、お金の次には貴族の爵位の望んでいた。娘シャナをイギリスの貴族と結婚させ自分の子孫には貴族を名乗らせる。彼は娘に貴族の結婚相手を見つけてくるようにと『期限付き』の宿題を出した。シャナが相手を見つけられなかったときは自分が選んだ貴族と結婚してもらうという内容だった。
　シャナは結婚相手には夢を持っていた。『貴族で相思相愛。財産ではなく自分個人を全身全霊で愛してくれる男性』

　しかし、理想の相手にめぐりあえないまま帰国の日が迫っていた。焦ったシャナは父親への反感から罪人と『偽装結婚』をしてしまった。式をあげ、書類に署名し・・・。
罪人の名前はルアーク。殺人の罪で投獄され絞首刑を待っていた。シャナはうるさい夫はいらないので最初から未亡人になるつもりで死ぬ運命のルアークに白羽の矢をたてた。彼は、イギリス侯爵と同じ名前を持っていたからだ。実際に結婚せずとも貴族の名前が手に入る。これで父親も納得するし自分も未亡人になることでしばらくは結婚のことをうるさく言われなくてすむ。これがシャナの狙いだった。

　ルアークは牢獄でシャナに一目惚れをしてしまった。「俺を立派な墓に埋葬してくれる見返りに君を抱きたい」という条件をつきつけた。足元を見られ拒めないシャナ。彼女は最初から守るつもりのない約束を彼と交わした。式後、約束が守られるかどうか焦れたルアークは馬車の中で彼女を犯してしまった。シャナは婚礼服に身をつつんだルアークに胸をときめかせている自分に驚いた。どうせ、すぐに別れてしまう男だ。と思っても気持ちが落ち着かない。彼から与えられた性的な快楽は彼女の中でくすぶり続けた。彼の死の知らせを聞いた時は罪悪感にかられ、逃げるようにして故郷のカリブ海へ帰って行った。

　シャナの父は部下に命令してイギリスから数名奴隷を連れて帰った。競り市で買った奴隷もいれば格安な値段で監獄から買った奴隷もいた。シャナは気がつかなかったが、監獄で看守に虐待されて顔がみみずばれになってしまったルアークと同じ船で、そうとは知らずに故郷の土を踏んだ。ルアークのことを考えると意味もなく意気消沈してしまう。シャナは彼を忘れようと故郷での生活を楽しんだ。ある日、愛馬で外出したシャナの前に日に焼けたたくましい奴隷が現れた。ルアークその人だった！

■感想■
キャサリーンの作品はどれも面白いけれど、この作品は「面白さを出しおしみしない」って感じでよかったです。物語の最初から目が離せません。彼女の小説が全部廃盤とは悲しいです。偽装結婚はロマンス小説の王道ですね♪キャサリーンの作品全般に共通することだけど、小説の最初のほうに小さな疑問点があり、それは物語の進行とともに途中で忘れそうになりながら切れない糸のように後半までつながり最後の肝心かなめのところでその小さな疑問点の解決の糸口がみつかり、ハッピーエンドってパターンが多いです。

　再会して約束を果たせと迫るルアーク。すでに彼に恋していて夜中中彼のことを考えてしまうシャナ。その恋心を「彼への罪悪感」だと勘違いし、自分の最悪感から逃れるために一夜限りのつもりでシャナは彼に抱かれます。しかし、それは禁断の味のように彼女のなかに広がり、また次もと何度も彼を求めてしまいます。ルアークはシャナに一目惚れだったので彼女を受け入れますが、ふたりの間には令嬢と奴隷というたか〜い山があるのですよ。
このルアーク。品があって知識も行動力もある。シャナの父親に仕事振りを認められていつのまにかリーダーシップをとっていきます。働きがいいので奴隷の身分から抜け出すくらいの財力もあるのですが彼女の傍にいたいから奴隷の身分に甘んじています。

ルアークはイギリス貴族と同じ名前だけど素性はわかりません。爵位が欲しいシャナと愛情が欲しいルアーク。欲しいものが違うため愛し合っているのに悩みます。揺れます。

後半で明かされるルアークの素性。そして彼の罪の行方。面白くてひといきに読んでしまった。前後巻です。宝塚のお芝居の素材になりそうな活劇風ミステリー恋愛小説です。