[131]K'SARS
「ただいま〜と」 夜の町から帰ってきた僕とモモ。 道中、モモは僕の手を強く握って、今までよりも明るい笑顔だった。 会話も弾んで、すごく楽しかった。 「おっと、電気をつけないとな」 ぱち。 「きゃ!」 玄関の電気がついた途端、モモはいきなり僕にしがみついてきた。 そういえば、モモが買い物から帰ってくるときは、いつも電気がついていたっけ。 少しずつトラウマが解消されてきたと思ったけど、やっぱり、モモは電気が苦手なんだな。 「大丈夫だよ。何も心配する事無いから」 「は、はい。ありがとうございます、ご主人様」 「さて、中に入ろうか」 「はい」 とはいえ、暗い部屋の中をモモに歩かせるわけにはいかないから、まず僕が先に入って、リビングの電気をつける。 そのあとでモモを入らせた。 それにしても、随分と久しぶりに誰もいない我が家に帰ってきたな。 みんなが僕のところに来てからというものの、誰かが家の中にいて、必ず「おかえりなさい」って出迎えてくれた。 こんなに寂しいものなんだな、誰もいない家って。 「…なんか、寂しいです」 「モモも、そう思うかい?」 「はい。やっぱり、お姉ちゃんたちがいないと、モモは、寂しいです」 「やっぱり、寂しいよな」 「…はっ。で、でも、ご、ご主人様がお側にいてくれるので、も、モモは、ちっとも寂しくないです」 「あははは。ありがとう」 慌てて弁解するモモの姿も、かわいかったな。 「そういえばさ、お守りに願い事、決まった?」 「まだです。だって、たくさんありすぎて、どれにしたらいいのか、わからなくて…」 「まあ、ゆっくり考えればいいよ。まだ時間はあるんだし」 そういえば、あの女性、どうして12時間以内って言ったんだろうな。 叶えるのは僕だから、期限なんてどうでもいいだけどな。 まあ、深く考えてもどうにもならないから、モモが言ってくれるまで待つことにしよう。 さてと、お風呂でも沸かそうかな。 立ちあがって浴室に行くと、誰かが掃除していったのか、綺麗になっていた。 「あっ、モモがやります」 湯船のお湯を入れようとしたときに、後ろからモモがやってきた。 「いいよ。これぐらいできるから」 「でも、あの…」 「…わかったよ。モモにしてもらうよ」 「は、はい!」 この場をモモに任せて、僕は台所に向かう。 何をするかと言えば、ホットミルクを作るのだ。 モモ専用と僕専用のカップを出して適量に牛乳を入れた後、レンジに入れてセットする。 火を使うよりも、こっちの方が断然時間がかからない。 「ご主人様、終わりま…した」 「あっ、うん」 一瞬台所に姿を見せたモモだったが、すぐに引っ込めてしまった。」 そういえば、モモはレンジが動いているときは、近づけないんだっけ。 うっかりしたな。 温め終わったら少々の砂糖を入れて、リビングに戻る。 「はい、モモ」 「ありがとうございます」 カップを受け取ったモモは、火傷しないように冷ましながら両手で飲んだ。 僕も合わせるようにカップに口をつけて飲む。 と同時に、また静寂が包むが、さっきのような重たい空気は流れない。 むしろ、この静寂が心地よいものになっていた。 これは、モモと僕との絆が深まったからかもしれないな。 「…あの、ご主人様」 「うん?」 「モモ、1つ目のお願い事、決まりました」 少し遠慮がちに、モモは言った。 「そっか。それで、どんなの?」 「はい。えっと、ご主人様のお膝の上で寝たい、です」 「僕の膝の上で寝る?」 ということは、俗に言う『膝枕』か。 「モモ、タマミお姉ちゃんがしているのを見て、羨ましくて、その…」 「ああ、そういうことか」 そういえば、タマミにしてあげてたところを、モモたちに見られたっけ。 そのぐらいなら、お安いご用かな。 「じゃあ、モモの1つ目のお願い、叶えてあげるね」 「は、はい!」 今にも飛びあがりそうなモモの嬉しそうな笑顔を見ながら、僕はタマミにしてあげたように正座になる。 本当なら僕がモモの膝の上で寝たいのだけど、今はモモのお願いを聞いてあげなければならないので、ぐっと堪える。 「さあ、モモ」 「は、はい。じゃあ…」 モモはごろんと僕の膝の上に頭を置く。 桃色の長い髪が、無造作に散らばる。 そして僕は、そんなモモの顔を上から見上げている。 「どう? 寝心地は」 「はい。とても、とても気持ち良いです」 「そっか」 満面の笑みを僕に向けるモモ。 そういえば、タマミにはこれもしてたっけ。 なでなで。 「ご、ご主人様…」 「これはサービスだよ。モモが、いつも良い子にしているご報美と、それと…」 「それと?」 「…僕からの、気持ちだよ」 こんなものがお礼になるとは思ってもいないが、少しでも感謝したかった。 僕を大切に持ってくれる、モモの気持ちに。 「……ふあ〜」 「モモ?」 「す、すみません。あの、その…」 「…そっか、もう遅いもんな」 時計を見てみると、もう10時を過ぎていた。 普段だと、もうモモは寝ている時間だ。 「眠いんだろう?」 「…はい」 「そっか。じゃあ…」 「…モモ、2つ目のお願い、言ってもいいですか?」 僕がモモの体を起こそうとしたとき、急にモモが言ってきた。 少しだけ戸惑ったものの、僕は少しの嬉しさを持って、 「いいよ。言ってごらん」 と、笑って言ってあげた。 「モモの、2つ目のお願いは、ご、ご主人様と、い、一緒に、眠りたい、です」 「…そっか。じゃあ、どっちで寝ようか?」 「モモは、ご主人様のお布団で、眠りたいです」 「じゃあ、連れて行ってあげる」 「えっ? …きゃあ!」 眠っているモモの体を持ち上げて部屋へと向かって、ゆっくりとモモを降ろしてやった。 「…ご主人様の、匂いがします」 「そりゃ、僕がいつも使っているからね。嫌だった」 ぶんぶん。 モモは髪を乱すほど、激しく横に振った。 「も、モモは、ご主人様の匂い、好きです。大好きです!」 「あはは、ありがとう。さてと、寝ようか」 「はい」 僕は家中の電気を消してから、布団の中に入った。 「…なあ、モモ」 「なんですか?」 「まだ1つだけ、お願いが残っているんだけど」 「…まだ、決めてません」 「そっか。まあ、無理に決める事無いからさ、ゆっくり考えなよ」 「はい。ご主人様」 それからしばらくして、モモは夢の中へと入っていった。 おやすみ。 ちゅ。 モモの頬にキスをして、僕も眠りについた。
まいどおなじみ、一方その頃。 「きゃぁぁぁぁぁぁ! ご、ご主人様の甘い唇が、も、モモのほっぺにーーーーーー!!」 「ご、ご主人様…」 「ああー、ランちゃんがおよよよ〜って感じでしゃがみこんじゃったの〜」 「まあ、しょうがないよ。アタシだって、結構ショックなんだから」 「うう、モモちゃん、ずるいです」 「いいな〜、モモ」 「モモ姉たんだけ、ずるいお〜」 「ミドリさんも、してもらいれすね」 「ご主人様が悪いわけじゃないけど、なんか、こう、狩猟本能が…」 「あらら、みなさん、個々のリアクションをとっていますね」 「しょうがないですわよ。わたくしたち全員は、ご主人様のキスに憧れているのですから」 「もう我慢できない。ミカは、ご主人様の元に帰るーー」 「ミカちゃん、そんなに急がなくても帰れますわ」 「へ?」 「うふふ、どうせなら、みなさんで帰りましょう。そして、種明かしをしてあげないと、読者の人たちもわかりませんでしょうし」 「というわけで、明日の朝一に帰りますわよ」 「「「「「「「「「は〜い(なの〜)」」」」」」」」」 ということを話していましたとさ。
<続>
後書き♪
なんか、ものすごくあま〜ったる仕上げしまったような…。 「これ、あま〜ったる度、どのぐらいなんですか?」 …4ぐらいだな。 「これで、4、なんですか?」 まあ、そうだな。 頑張ればもっとあま〜ったい展開を作れたんだけど、今回は4ぐらいにしないと収集がつかなくなってしまうからな。 「とはいえ、出来はそんなに悪いような感じはしませんけどね」 …ありがとうな。 「うう、信じていませんね〜」 信じているともさ。 なんといっても、サキミは俺の守護天使だからな。 「えへへ、ご主人様〜」 ということで、次回もお楽しみに〜 「バイバイですぅ〜」
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2003年10月21日 (火) 16時02分
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