アメリカ、ニューヨークの市街地に座り込む一人の男。
男はかつて生まれ持った権力と有余るほどの金で
世界の企業を締めくくる存在だった。
しかし、力は傲慢を生んでしまった。
一般人から言えば2人の人間が一生遊べるだけの大金を手にしてにも
関わらず、その金銭感覚の狂った脳がズルをして多額の金を得ようという
電気信号を身体に送り、身体が躊躇うことなく実行した。
その一ヵ月後、男は住む家を失った。
雨がザーザーと降る。
男の身体が濡れているが、冷たいとも思わなくなった。
何もかもがどうでもよく思えた。
当初は、無意識に自分を雨から守る秘書の存在を探していた。
いないと分かるとグッと怒りがこみ上げ、壁を殴っていた。
何故、自分がこんなことになってしまったのだろう?
何故、自分がこんな状況下に置かれなければならないのだろう?
また、怒りがこみ上げてくる。
しかし、今は何も感じない。
そこら辺にいる捨て猫がゴミをあさるようにコンビニやスーパーの裏の
賞味期限切れの商品を漁って食べた。
喉が渇けば、好きなだけ水道水を飲む。
ホームレスと言う生活のわりにちゃんと生活できていることに
贅沢感すら感じてしまう自分に見かけだけのため息を吐いた。
「あ、なんか臭くない?」
「・・・バカッ!そーいうこと言うなよ!」
男の前を通るカップルが小声で話している。
「あ、そっかそっか・・・」
「あーいうのに絡まれるのが一番メンドウなんだからさ・・・」
「ハハハハハ!」
こちらの立場を気にしていった彼の発言に彼女が笑った。
それを見て、彼も大声で笑う。
所詮その程度の気遣いだ。
――――――雨が止んだ。
「さて・・・メシ探しに行くか・・・」
男は起き上がると、大きなスーパーの袋を下げて、
夜の市街地の中へと姿を消した。
「――――今日はこんなもんかな・・・」
男の袋の入ってるのはショートケーキ2個とブレッド1つ。
甘いものは元気の源になるため、ケーキが2個も手に入ったのは
かなりラッキーだった。
ふと、昔の自分を思い出した。
――ふざけるな!こんな庶民が買うような市販ケーキなど・・・ッ
――食えるかぁ!
昔の自分が脳裏でどなっている。
自分のことではあるが、クスっと笑ってしまった。
「意外と市販のも・・・悪くねぇのによぉ・・・」
深夜、いつも座る市街地で男は一枚の羽毛を被り、床に着いた。
今までは寝るときには想像すらしなかったことが身近に感じる
ことがあった。
――――ホームレス狩り。
ここ数日、近辺で同属者達が次々と狙われている噂を耳にしていた男は
不安でイッパイになった。
もともと権力と金で全てを解決してきた上に争い事は苦手とくれば
もう、襲われてしまっては一溜まりもない。
だからといって冬に寒い風をしのぐのに丁度いい今の場所を退けば
すぐにでも他の仲間がそれを奪うだろう。
とにかく、自分のところに来ないことばかりを祈りながら、眠りについた。
「コラ、オマエ!止まれッ止まるんだ!!」
「ギィ・・・ヤアアアア!!」
「う・・ぉ・・・バケモンがぁ!」
かすかに聞こえる音に半分目が覚め板男は
そのあと間近で響いた銃声にハッと目を覚ました。
そして、辺りの光景に今まで無いゾッとした感覚に襲われた。
何台もひっくり返り、煙をあげているパトカーと身体のグシャグシャに
曲げられた警官数人が電光に静かに晒されていた。
そして、その手前に立つ紅い肌をした人間じゃないが、人間に近い男が
片手に本のようなものを持っている。
「・・・・・・・」
どういう状況だったのかは男は知らない。
が、まず警察沙汰になればかつての男ならまず、金が出てくるハズ。
しかし、目の前のアイツは違った。その編のチンピラとも違った。
あらゆる万物を全て力のみ、腕力のみで解決する。
アイツの背中がそう語っている。
アイツはこちらを振り向いた。
一歩ずつ歩み寄ってくる。
自然と恐怖の感情は無かった。
むしろ、遭難者が人命救助隊と出会う感覚に似た――――
男はアイツに憧れに似た高揚感を覚えた。
アイツが手に持っていた本を渡し、口を開いた。
「お前、これを読んでみろ」
かつて、権力と金で全てを支配していた男、ドレイク・フェニックス。
現在(いま)、力のみで全てを支配化の置こうとする男、カグヅチ。
支配する“道具”は違えど、目的を共有していた二人の男は出会った。
荒んだ市街地のとある場所で――――
For Mr.ブッチ