―――12月23日 午前7時03分
綾人達は潜水艦へと移り、ちょうど沖縄を過ぎた辺りを潜っていた。
米軍兵から支給された最低限度の食料、医療セット、武具の詰ったリュックサックが
各自で至急された。
綾人は改めて自分の持つ魔本に映し出された術、その効果を確認した。
自分の持つ術(すべ)をどう生かすか、どう繋げるかなどの自己流コンビネーション創案に
余念がなかった。
その他も景色を眺める者、武具扱いのチェックなどとにかくジッとしていることは
ほとんど無かった。
そして、残りの約1時間分も予想以上にあっという間に過ぎて、目的地へ数10メール前に着いた。
潜水艦の目が水上から覗かせると、それぞれが潜水艦から陸へ繋がるパイプ巻を通って
陸へ上がった
辺りは生い茂る木々で囲まれている。
「―――アルト、敵の気配は?」
「この森周辺はいなさそうだね・・・。
ただ、その奥の山に4つの気配が感じられる・・・」
ジュリアが黙って手を上げると2列に並んだ。
常に縦に並んで、人間、魔物の交互にならび、あらゆる方向からの
攻撃に対処できるように並び、ゆっくりと歩き出した。
10分もたたぬ間に、森を抜け、ルル等の知る“秘密の入り口”が見えた。
そこはデコボコした荒らいトンネルだった。
うまく、凹凸した岩に手足を引っ掛けて、進んでいくと、大きなゴツゴツした
広間へ出た―――
「・・・ここが、最初の広間ね」
ジュリアは地面をジッと見つめると、岩を指で軽く叩いた。
「・・・軽いな。・・・罠?・・・いや、違うか。
・・・お前等、来るぞ?」
突如、天井が崩れると、白銀の鎧を全身に纏った兵が大量に
振り出した。
「・・・あ!!」
アルト、シオン、リリィ等は見覚えのある兵士に驚きを隠しきれなかった。
「戦闘はもう始まってるんだぞ!?どうした!!」
「アレって・・・アイツが持ってたハズなのに・・・」
かつて見た兵士はユーゼスが何らかのルートを使って持ってきた
魔界の機械兵だった。
それらはアルト等によって全滅させられ、ユーゼス本人も送還された今
この兵士が存在するのはおかしいことになる。
―――他の場所にも兵が存在していた?
―――あるいは兵が他の魔物にまで渡っていた?
細かいことは一旦忘れ、目の前の敵に専念するよう、雑念を振り払った。
「陣形を取れ!敵数はざっと20体!アルト、ロバートも前衛に出て
最短で敵を殲滅させろ!いいな!?」
全員が返事をした。
「ゴウ・フィドルク!」
「ウィルム!」
「ドルノビル!」
一斉に3人が飛び掛り、敵陣へ突っ込むと
先頭に立つ兵の何人かが突き飛ばされた。
「・・・・・・」
葵は後ろでギリギリと機械と機械が擦れる音が聞こえ、
咄嗟に振り返った。
途端、白銀の兵が短剣を葵に振りかざすが、
間一髪でそれを避けて、大きく下がった。
「ジュリアさん、後ろにも敵が・・・」
「チィ・・・パートナーは全員中衛位置まで下がれ!」
パートナー等が一斉に中衛位置―――
広間の中心へと戻った。
今度は地面の下からゴゴゴと地響きに似た音がどんどんとこみ上げてきた。
刹那―――
回転する大量の水が地面を突き破って、広間一体をまとめて吹き上げた。
「!!!・・・クソッ・・・なんで水が・・・!?」
パートナー達は四方八方に吹き飛ばされ、魔物、兵達もバラバラに
宙を舞った。
「(・・・しかも、地面の下に地面・・・!!
落ちたら、即死・・・)
いいか、お前等!?今持ちうる術を最大に生かして
この4つの入り口のどこでもいいからたどり着け!
もちろん、パートナーと一緒にだ!!!」
綾人はウィルムを唱えると、アルトが宙を走って、落下する綾人を抱きかかえると
正面の入り口に着地した。
「僕達はOKです!」
スティーブはディオジキル・フィドルクで駆けてくるシオンの身体に
跨ると左手前の入り口に入り込んだ。
「俺達も大丈夫だ!」
ジュリアはノビルガを唱え、ロバートの伸びる鼻に捕まり、
カーネルがポルクを唱えると、パウロの下半身がバネになって
地面の破片を踏み台にして、勢いよくはねると、直線上にいる
カーネル、ジュリア、パウロをまとめて抱きかかえ、勢いで
左奥の入り口に飛び込んだ。
「私達も平気だ!全員入口に着いたか!?」
リリィは葵の服の襟を抱えながら、フラフラした状態ではあるが
なんとか、右の入り口へと辿りついた。
「私達も無事です!」
「じゃあ・・・ルル達は!?」
ルルと真奈美は合流してはいるが、部屋の中心を落下しているため
どうあがいてもこの広間のどこの入り口にも届くワケがなかった。
「綾人、強化の術で・・・」
「わかった。ただし、やるからには最速だ―――
ウィレイド!」
アルトの体から蒼い光が放たれる。
「―――ウィル・ガドルク!」
さらに、白い光がアルトを身体を包むと、顔面から
勢いよく飛び出した。
そのスピードはまさに高速で、数秒と数える間も無く
ルルと真奈美を軽々と抱え上げると、元の入り口まで戻った。
しかし、途端、各入り口が壁から飛び出した銅色の扉で塞がれてしまった。
「・・・なんだよコレ!?・・・クソッ開かない!」
アルトが必死に叩いて、蹴るがビクともしない。
「おーい!みんなー!聞こえるーーー!?」
今度は叫んで見るが、一向に返事が返ってこない。
声が届いていないらしい。
「どーしよ・・・別れちゃった・・・」
ルルが不安げな表情で真奈美の衣服を掴んだ。
「・・・と、とにかく先へ行こうよ。
この4つ入り口全部、最終的には1つの部屋に
繋がってるしさ・・・そこできっと合流できるよ!」
4人は立ち上がると、先見えぬ一直線のルートを黙って歩き出した。