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(857) 脅威編 復刻版 @ 投稿者:大輝 MAIL

第一章〜垣間見える脅威〜
 浩二は最近平穏すぎる日常に飽き飽きしていた。
 何か刺激がほしくて、イタリアに留学、というよりも遊びにきた。だが、イタリアでも紳士ぶっているキザな気取り屋がたくさんいるだけで、日本となんら変わりはなかった。
「あ〜あ、なんかおもしろいことでもおきね〜かなぁ」
 浩二がつぶやきながらイタリアの路地を歩いていた。
 その時、ふと暗い裏路地からなにかの“気”を感じた。
 ぞっとして浩二が裏路地に目をやると、そこには緑の服を着た6才くらいの少年がいる。
「な〜んだ、ただのガキか」
 少年にそっぽを向けて、浩二はすたすたとそこを立ち去ろうとした。
 しかし、さっきの“ガキ”が光二の前に立ちはだかり、若葉色の、謎の文字が書いてある本を光二に突き出して、こう言う。
「これ読めますか?」


 この少年から、魔界の王を決める戦いの話を聞いて浩二はとても興奮した。
「へ〜、すっごいな」
「そうですか? 僕にとっちゃ、戦いなんてね……」
 その少年は苦い顔をして声を止めた。
「戦いなんてなんだ?」
 デレカシーのない浩二は少年の気持ちも考えずに聞いた。
「……それよりも、一度僕の仲間に会いますか?」
「えっ、お前仲間なんかいるのか?王になれるのは一人じゃないのか?」
「そうなんですけど、その人たちと僕は昔からの友達でしてね。僕たちのグループだけが残ったら誰が王になってもいいってことで手を組んでいるんですよ」
「ふ〜ん。そうだ、お前の名前聞いてなかったな。ちなみに俺は『北島 光二』ってんだ」
「僕の名前は、レイン。レイン・クロベイルです」


「レイン、戻ったか」
「あぁ、本の持ち主も……光二さんだよ」
「レ、レイン?」
 浩二が驚いてレインに喋りかけた。
「はい?」
「おまえ、本当は敬語じゃないんだな」
「そりゃあ、いつまでも敬語なんて使ってられませんよ。昔からの友達に」
「まあ、それもそうだな」
 浩二はあっさりとなっとくする。
「君がレインの本の持ち主?」
「あぁ、そうだよ」
 さきほどレインに喋っていたほうの魔物の子供が浩二に喋りかけた。
「俺の本の持ち主ももう少しでくるよ」
「で、そいつの名前はなんてんだよ」
「『シェイン・シャース』ていうんだ。ちなみに俺はレンていうんだ」
「レンか、よろしく」
「あっ、もう一人の魔物もきましたよ」
 木造のおおきな扉を開いて、またもや六歳ほどの男の子と、女の子が入ってきた。
「あ、あ、あなたがレインの本の持ち主さんですかぁ?」
 女の子が言った。
「そ、そうだけど」
 なんであついつはあんなにおどおどしているのかと浩二がレインに聞くと、微笑してこう答えた。
「まあ、人見知りですから」
「そうか……で、君たち、名前は? 俺は浩二」
 男の子の方は、ウェン、という中国人風の名前で、女の子の方はルルというらしい。
 しばらくその2人といろいろ話した。そして、扉が突然ギギーと音を立ててあいた。
 ルルは安心したように扉から入ってきた15歳ほどの女の子にとびついた。
「真奈美さん、おそい〜!」
「ごめんね…君は?」
真奈美と呼ばれる女はいった。
「俺はレインの本の持ち主だ。あんたがルルの本の持ち主か」
「そうよ。よろしくね」
 真奈美は浩二に手を差し伸べてきた。浩二は頭をぽりぽりとかいて、赤面しつつもしかたなく握手をした。
「それで、ウェンの本の持ち主は?」
「もうそろそろ来るとおも…っと、噂をすれば」
 開きっぱなしの扉から50歳くらいの頭のよさそうな男性が部屋に音もたてずに入ってきた。
「おぉ、君がレインの本の持ち主かね!」
「そ、そうですけど……」
「そりゃぁ良かった。この中で唯一の攻撃できるレインが、術が使えなくて、困っていたところだったからな」
「…本当か?」
 浩二が小声でレインに聞くとレインはこくりと頷いた。
「私の名前はフォル・フォーラという。君は?」
 何度も何度も答えるのは面倒くさくなっていたが、浩二です、と一言だけ答えた。
「で、いくつ術は使えるんだね? ……あぁ、ごめんね。1つだろうね。本を持って一時間もたっていないんだから。ちなみに私は2つだ。真奈美君も2つだったね?」
「はい、そうで〜す」
 真奈美が明るい声を出して返答した。
「まあ、術はあるていどたてば増える。もちろん戦わなければいけないがね」
「はぁ……」
「頑張りたまえ」
「はい」
「じゃあ、私は――」
 真奈美が台所にすたすたと走っていき昼食を作り始めた。


「レウォケル」
 獣の姿をした魔物、『ハイツ』が重力の波動を敵に向かって、口から放出した。
 弱りきった敵は重力の波動でとどめを刺さればたりと地面に倒れた。
 人間のほうは10分も前に魔本を捨ててどこかに逃げていった。
 ハイツの、本の持ち主はライターでエメラルド色の魔本を燃やす、無表情で。
「今回の自然使いはあまり強くなかったな」
 本の持ち主はハイツにぽつりとつぶやく。ハイツはこくりとうなずいた。
「エリートのお前がパートナーでよかったよ。こいつみたいな“ザコ”がパートナーなら俺はすぐさま自分から本を燃やしただろうな」
「ありがとう。僕も君みたいな頭脳明晰で心の力も強い人間にあえて幸福だよ」
 ハイツは微笑しながら持ち主に答えた。
 魔物の力の根源が“心”だと今の時点で気付いている者は数少ない。
 今回の魔物は気付いていない魔物。すなわち彼等から見れば、バカでザコ…というものに分類される。
 エメラルドの魔本が燃え尽きたところで、2人はそこを立ち去っていった。
「はぁ、だれが自然属性の驚異、『ジュディオダム』を覚えているんだろう……」
第二章〜昔の仲間〜
 真奈美の昼食はなかなか豪華なものだった。鳥のスモーク焼き、チキンのサラダ和え、フィレステーキ―など、浩二はそれを満足の行くまで堪能した。
「浩二君は、くいしんぼうね♪」
「ははは、またおいしいもん作ってよ真奈美さん」
にこりと笑って浩二が言った。
「そうだ」
 フォーラが光二にふと話し掛けた。
「街に行かないか? 買物をしたいんだ」
「え? い、いいですよ。俺も何か買おうかな?」
「私は、服を買お〜う」


「浩二君」
「はい?」
 ふと気付いたようにフォーラが浩二のほうを向いた。少しなからず真剣なフォーラの顔に浩二は驚いた。
「敵と遭遇したら、人気のないところに急いで行くこと。いいかね」
(なんだ、そういうことか)
「はい、分かりました」
 フォーラの考えは分かった。自分もそれを考えていた。“人を傷つけない”、それが一番大切なのだ。レインたちの王……それは、『傷つけない王』。心も体も、なにも傷つけない王。
それがレインたちの王なのだという。浩二には良く分からないのだが。


 日もだいぶ暮れかかり、家にそろそろ帰ることになった。
 帰路の途中に大きな公園があり、そこには子供の好きそうな遊具があった。
「フォ〜ラ〜、あれ乗りたい!」
 ウェンがフォーラに駄々をこね出した。フォーラはため息をついてしかたなく付き合うことになった。
「浩二君たちはかえっていてもいいよ」
「いえ、待ってますよ。真奈美さんはどうする?」
「私は夜食の用意があるから、帰っておくわ。じゃあまた後でね」
 真奈美は手を振ってスキップで帰っていった。
 ウェンと……レインも無邪気に遊んでいる。やっぱりまだ子供なんだな、と浩二は思う。
「フォーラさんはいつから戦っているんですか?」
 浩二が膝に頬杖をついて夕焼けを眺めながらつぶやいた。
「二ヶ月前くらいからかな。出会ったばかりのころはたいへんだったね、毎日毎日 ウェンとルルを狙ってくる魔物が現れてね…」
「えっ?なんでですか?」
「ウェンとルルは魔界では落ちこぼれだったらしいんだ。まあ、毎日とは言わなかったけど、一週間に一回くらいは襲われたね。今まではなんとか逃げてきたけど……」
 浩二は、へ〜、といってなにか考え事をしていた。その瞬間横から稲妻が飛んできた。
「ザケル!」
「えっ…!?」
 そこにいたのは、日本にいた時に同級生だった「高峰 清麿」だった。
「お前は……浩二? なんでお前がフォーラといっしょにいるんだ!?」
「説明している時間はない! ……浩二君、いくぞ!」
 フォーラの持っている赤紫色の魔本が輝きだした。周りには人っ子一人いない。
「グ・リアルク」
 叫ぶとウェンの体が消えた。
「続けて……ゴウ・ソドルク!!」
 目に見えないウェンの体に大剣が装備された。装備された剣が宙に浮いているように見える。
「攻撃だ、ウェン!」
 ウェンがガッシュのほうに走っていった。
「清麿、私たちも攻撃だ!」
「おう! ……ジケルド!」
 雷がウェンのほうへ飛んでいっていた。
「かわせ!」
 ウェンは間一髪でジケルドをかわし、ガッシュを大剣できりつけた。
「ぐっ……清麿、やばいのだ。ここはひとまず撤退を……」
「だめだ!忘れたのか、あの事を!」
(あのこと?)
 浩二にはその言葉が引っかかった。なにか清麿にあるのか。
「浩二君!君も戦ってくれないか……早く!!」
「は、はい……」
 と、そのときレインが、先端に緑の翼がついた杖を背中から取り出した。
「これが、僕の術の媒体です」
「わ、分かった……第一の術、ウィス!」
 レインの杖から風の衝撃波が放たれた。
「ら……ラシルド!」
 風は、清麿たちの前に出現した壁に跳ね返されてレインを襲った。
「ぐっ……!」
「だ、だいじょうぶか?!」
 浩二が叫ぶと、はい、とレインが返事をしてきた。
「浩二君……」
「な、なんですか……」
「作戦があるんだ。まずは、こうやって――」
 フォーラが浩二に説明しだした。
「ガッシュ、ぼやぼやしているひまはないぞ! ……ザケルガ!」
「くそっ……ウェン!かわせ!」
 飛んでくる電撃を、間一髪でウェンがかわした。
「浩二君、やるぞ!」
「は、はい! レイン……ウィス!」
 レインが木の葉の山に風の衝撃波を放ち、それを清麿とガッシュのほうに飛ばした。
「ぐっ……あれ?」
 清麿が目をあけると、浩二達の姿がなかった。
「くそっ、逃げたのか!? ……いや、逃げていないはずだ……どこだ!」
 清麿の後ろから、風がぶわっとふいてきた。ばっと清麿がふりむくと、風の塊が飛んできていた。
 清麿の体に風の塊が直撃し、三メートル程吹き飛ばされて、地面に倒れた。
「き、清麿、大丈夫か!?」
「ガッシュ! ウェンは姿が見えないんだ! 気をつけろ!」
「ウヌ、わかった!」
 ガッシュがさっと清麿に近づいていった。


「くそっ、とどめをさせなかったか……。しかし、目的は果たした。浩二君、作戦通り動いてくれ」
「はい……」
 浩二は、さっと静かに立ち上がると、早足で草むらを出て行った。
「がんばれよ、浩二君……」


 清麿の前に浩二とレインが現れた。
「……ウェンとフォーラはどうした」
「そんなの答えてられるか! ウィス!」
 風の衝撃波が現れる。清麿と、ガッシュはそれを楽に横っ飛びでかわした。
「そんな術で俺たちを倒せるものか! ザケルガ!」
 レインの足元に稲妻が放たれた。地面がえぐられ、大量の石が飛び散った。浩二とレインは視界を奪われた。再び目をあけると、前方に清麿たちはいなかった。
「ザケル!」
 後ろに回りこんでいた。浩二の背中に命中して、前方に思いっきり吹っ飛ばされた。
「がぁっ!」
 地面に叩きつけられて、浩二は口から血を流す。
「大丈夫ですか!?」
 レインが心配して、近づく。
「あぁ……」
 浩二はぐらつく体を起こして、清麿をにらむ。
「……レイン、作戦開始だ……」
「はい」
レインがそれをきいて、はじけるように動き出した。右に左に、目にも止まらぬ速さで動いていく。そして、ガッシュに突っ込んでいった。
「ガッシュ、 レインの足を見ろ。体制を崩すんだ! ザケルガ!」
ガッシュのすぐ二メートル先にいたレインの足元の石が砕かれて、飛び散った。
「同じ手は、二度とくらいませんよ」
レインがいつのまにか、清麿たちの背後に回り込んでいた。
「なにっ!?」
「ウィス!」
レインの杖から、風の衝撃波が発生した。それが命中し、清麿が吹っ飛んだ。が、落ちる寸前でガッシュが体を受け止めて、たいしたダメージにならなかった。
「攻撃の手をぬるめるな、レイン、杖をもう一度!」
レインは、杖をガッシュに向ける。
「ウィス!」
衝撃波が再び飛ぶ。これでは、清麿にも当たってしまう。
「清麿、少しどいておくのだ!」
といって、ガッシュは清麿を横に投げた。清麿は、大木で背中を打って、うめきながらも、立ち上がった。ガッシュは、衝撃波をうけて、噴水に落ちていた。
「ガッシュ、大丈夫か!?」
「うぬぅ! 大丈夫なのだ」
ガッシュがぬっと立ち上がった。
「よし、それじゃあ、ラウザル……」
と、いきなり魔本が宙に浮いて、フォーラのほうに飛んでいった。
「ひっかかったな!」
浩二がガッツポーズをした。
「ま、まさか……」
「そう、ウェンの姿は消えていた。俺とレインは、おれたちとの戦闘に集中させるために、人間の方に攻撃したり、二人を分裂させたりした。清麿が戦闘に集中しはじめたら、後ろから近づいて、ウェンが魔本を奪う! 少し手荒だったが、まあ成功したから、よしとしよう」
「く……くそ」
その時、フォーラが思いもかけない言葉を発した。
「本当に、私たちの仲間になる気はないのかね?」
「な、なにをいってるんですか!?」
「……後にしてくれ、浩二君。さあ、どうするんだ?」
「清麿、いつまでも意地をはっているのだ。たまには素直になろうぞ……」
「ガッシュ……分かった。フォーラ、また仲間になろう」
「また?」


「実はね、清麿と私たちは、昔は仲間だったんだ」
「でも、何で今は敵だったんですか?」
「それはだね……」
「フォーラさん、それはいわないでくれ。お願いだ……」
「……清麿がこういっているが」
「じゃあいいです」
「そうか、ありがとう」
レインが久々に口をあけた。
「浩二さん、フォーラさん、清麿、帰りましょう」
「おぉ、そういえばレイン、ひさしぶりだのう」
「ガッシュも、久しぶり。やっぱりその言葉づかい、かわってないな〜」
「お、お主こそ――」
レインとガッシュの口げんかが始まった。
「おい、喧嘩はやめろ」
清麿が怒鳴ってガッシュを持ち上げると、それじゃあ俺は、と言って、自分の家に帰っていった。
「おい、清麿。お前、日本にすんでるんじゃないのか?」
「いや、今は親父のところに来ていたんだ。親父は、イタリアの学校の教授だからな」
「そうなんだ、へー」
「それじゃあ、帰国するときにでもよるよ、じゃあな」
「うん、バイバイ」
「それじゃあ、私たちも帰ろうか」
「はい」
レインを抱きかかえて、浩二は駆け出した。
「は、はなしてください! 恥ずかしいじゃないですか!」
レインが真っ赤になって、浩二に訴えた。
「いいじゃん、レインちっちゃいから、軽いぜ?」
「そういう問題じゃないんですよ、やめて〜!」
ウェンがレインに向かってけらけらと笑うと、ギロリとレインが睨み返す。
そんな状況を見て、浩二もフォーラもふきだしてしまった。
「な、なんでわらうんですか!」
情けない声を出すレインに、浩二は、別に、と一言言っただけで、再び駆け出した。


「あら!? そんなことがあったの?」
「ホント、ホント! 真奈美さんがいなかったけど、二対一だったからね、楽勝!」
「また清麿君が仲間になったんだ。あんなことがあったのに……」
「そのことは、清麿言ってほしくないんだってさ。だから俺知らないんだ」
「そうなの、なら言わないでおくわ」
「浩二さん! 次はもう僕をだっこして走るのはやめてくださいよ!!」
まだ根に持っているようだ。浩二は、はいはい、と答えておいた。
「それじゃあ、お夕食の準備できてるから、食べましょ」
「うん、俺持ってくるよ」


2005年03月18日 (金) 17時22分


(907) 脅威編外伝@〜忘れられていたレイラ戦〜 投稿者:大輝 MAIL

 後ろからとてつもない早さでレイラがついてくる。浩二たちは焦っていた。
 レイラが後ろからついてくることは分かるのだが、木の上を走っているから姿が見えないこと。体力がもう続きそうもないこと。
「真奈美さん、シェイン、ここら辺で……」
 浩二が息を切らせながら二人を横目で見ながら言った。
 二人は頷くと、全員その場に立ち止まった。
 すると、木の上から声が聞こえてきた。
「もう体力が続かないとか? ふふふ、やっぱり人間はスタミナなしね」
 前触れもなく、木の上から三日月が飛んできた。
「び、ビシルド!」
 ルルが両手をとっさに前に出して、焔の盾を現した。それは三日月とぶつかり合って、消えた。
「ルルの防御呪文は、この中で一番強いでしょ? でも、攻撃はあんまり威力がないの。攻撃は二人に任せるわ!」
『おう!』
 二人は同時に返事をした。そしてレインは杖を上に向けて構え、レンも右手を上に向ける。
「ウィスガ・キロロ!」
 杖の先端の翼から風の刃が複数飛んでいく。
「オルガ・ウィガル!」
 レンの右手の平から猛スピードで回転する暗黒の塊が放たれた。
 二つが木々の草に入って視界から消えたとたん、なにかにぶつかって爆発したような音がした。直後、三日月が木の上から降ってきた。あまりに早い反撃に、驚く三人。
「ちぃっ……ビシルド!」
 ルルが両手を前に出すと、円形で少し分厚い焔の盾が現れた。
 だが、その三日月は焔を交わして、再び浩二たちに突っ込んでくる。
「ウィス!」
「オルガ・ラギュガル!」
 風の衝撃波と回転する暗黒が放たれ、三日月を砕いて消滅した。
(やっかいね、あの三日月……呪文の名前も聞こえないし、あの操れるやつと直線に飛んでくるやつの見分けがつかないわ……)
 真奈美が思っているうちに、再び攻撃が飛んできた。また三日月だ。
(……多分あの魔物、もう操れる三日月しか出してこないはずだわ。直線に飛ぶやつより勝手がいいし、デメリットもない……どうすればいいの!?)
 真奈美は完全に焦っていた。あの操れる三日月は、たしかに直線に飛んでくる三日月より多少威力は低い。でも、レインとレンの攻撃でやっと相殺できるくらいの威力なのだ。
 それではまずい。それでは、心の力がこちらの方が先に底をつくのはもう目に見えて分かる。
「真奈美、ぼけっとするな!」
 シェインが大声で言うと、はっと我に返った。気を引き締めて、本を構える。
「ビシルド!」
 いちかばちかで盾を出した。すると、爆発音と共に、焔の盾と三日月が相殺した。
(……威力がある方を使ってきたわけね、この盾なら防げるけど)
「へー、防御呪文使うんだ。あなたなら、もう私がオル・ミグルガしか使わないと思ってたのかと思ってたわ」
 レイラの声が上からした。直後、レインとレンがそこへ呪文で攻撃を加えたが、もう移動していた様で空振りだった。
(読まれてる……相手の姿が見えない状態で、このまま戦いつづけるのは危険。でも、どうやったら下に降りてこさせられる……?)
 真奈美が冷や汗を流しながら、必死で考える。そして、
(あっ! そうだ、あの術を使えばいいんだわ!)
「ルル、両手を上に!」
「え? あ、うん」
「ギガ・ラ・ビシル!」
 上空に、焔の膜で出来た巨大な焔のドームが現れた。
「ルル、両手をそのまま下へ!」
 ルルが両手を勢いよく振り下ろすと、焔のドームが地面に叩き落された。焔が飛び散って、ドームの姿がなくなった。
 直後、そのなかからレイラが飛び出してきて、地面に転げ落ちた。
 それの意味に、浩二が今気付いた。
(そうか……ギガ・ラ・ビシルなら隙間がなく、地面にギガ・ラ・ビシルを落とせば、その中のものも絶対に落ちるって訳だな)
 レイラがうめきながらふらふらたちあがる。
「よくも……してくれたわね!」
 レイラの形相がいきなり変わった。周りの空気が緊張で満たされる。三人はおもわずあとずさってしまった。
「私の最大の呪文を受けてみなさい!」
 レイラが叫ぶ。レイラの持っていた杖の先端についていた三日月が消える。
 刹那、大量の三日月が現れた。
「な、なんだこれは!?」
 シェインが驚きの声を上げる。レイラが手を動かすたびに、連動する様に三日月たちも動く。
 そのうちの三つが、浩二たちに突っ込んできた。
「ロール!」
 レイラが叫ぶと、三日月が回転する。もろに受けたら、かなりのダメージになりそうな程の回転力だ。それが一度に、三方向から襲いかかってきた。防御呪文が使えるのは二人。防ぎきれない。
「ギガ・ラ・ビシル!」
 真奈美がとっさに全体防御の、焔の膜を張った。三日月を弾き飛ばして、焔の膜は消えた。
「あらら? 全体防御ですら、一番弱い回転で壊れちゃうんだ」
 それを聞いて、浩二たちがたじろぐ。今のが一番弱い? 冗談じゃない、あれはレインの術で言えば、ウィスガ・キロロと同じ程度の威力だ。あれよりも強い術があるとすれば、オルダ・ウィガルの何倍もあるはずなのだ。
 そこで浩二がふと思った。
(もしかして、あの新しい呪文、あれ攻撃呪文なのか? そうだとしたら……相殺できるかもしれない)
 だが、こんな危険な状況下で、賭けに出るわけにはいかない。勝負は確実性が大切なのだから。
「ちぃっ……あれで一番弱いんじゃ、焔の盾(ビシルド)でも防ぎきれないわ……どうする?」
 真奈美が横目で浩二のことを覗きながら、聞く。
「俺の最大呪文でも相殺は、多分無理だ……」
 そこでシェインが、思いついたように言う。
「私にいい考えがある。二人とも、手伝ってくれないか?」
 シェインが二人に小声で作戦を言う。それを聞いて、二人は頷いた。
(正直……驚いたな……ただのナルシストだと思ってたのに、シェインって意外と本番に強いんじゃん)
 浩二は微笑をたたえながら、シェインの顔をちらっと見た。
「なんの作戦を立てたのかは知らないけど、そんなもの無駄よ!」
 レイラが杖を構える。
「真奈美!」
 シェインが真奈美に合図を送る。
「ギガ・ラ・ビシル!」
 ルルが赤く輝く手をレイラに向ける。球状をした焔の膜がレイラの周りに現れた。
「だから、そんなものは無駄よ!」
 レイラが焔の膜を破ろうとした直後、その焔の膜がなぜか外からなにかに吸いこまれていく。
 その直後、レイラは信じられないものを見た。
 焔を纏った竜巻がこちらにものすごいスピードでとんできていたのだ。
(あ、あれをくらったら……)
 レイラは突然のことに、かなり焦った。いそいで三日月を全て、自分のものに呼び寄せた。それから、レイラは気付いた。
(これじゃ、私からの距離が近すぎて、ファイアを使えない……ロールで防げるかしら!?)
「ロール!」
 三日月が回転する。それと回転する竜巻がぶつかり合って、相殺した。
(ふぅ……なんとかしのいだわね……)
「オルガ・ラギュガル!」
 刹那、信じられないことが起こった。レイラの背中に猛回転する暗黒がぶつかった。
「がはぁっ!」
 レイラが口から血を吐いて、地面に倒れた。五人が前から、後ろから一人レイラに近づいてくる。前から寄ってくる浩二たちを忌々しげに見上げながら、レイラが聞く。
「ど、どうなってるの……?」
 シェインが前へ出て説明する。
「まず焔の膜を張り、お前の視界を奪う。それから、レインが竜巻を現す呪文、レンが闇にとけ込む呪文を使用する。お前はもちろん、三日月で焔の膜を一発で破れることを知っているから、それをこちらに放ってくるだろう。だが、竜巻で焔の膜を吸収して、それで奇襲をかけたらどうなると思う?」
 そこでレイラの顔が、驚きでゆがむ。
「気付いたようだな。そう、お前は焔の膜をらくらく壊して、私たちを一気にたたみかけられる、そう確信していたはずだ。だが、突然の自体にお前は冷静さを失った。だから、後ろから近づくレンの気配にも気付けなかったし、自らの近くに三日月をわざわざ戻すなどという愚かな行為をしたのだ。理解できたかね?」
「えぇ、良く理解できたわ」
 シェインが勝ち誇った顔をして言うと、違う場所からレイラの声が聞こえてきた。
 全員がまさかと思って、声のした方向へばっと顔を向けると、無傷のレイラがいた。
「な、なんだと!?」
「残念でした、それはミベルナ・マ・ミグロンの効果で現した、私の分身よ。クローン・リリース(複製・解放)」
 レイラが言うと、傷だらけのレイラが消えた。そこでレイラがにやっと笑うと、叫ぶ。
「ファイア!」
 浩二たちの背後で、全ての三日月が大爆発を起こした。
『ぐわぁぁぁ!』
 六人全員がぶっ飛んだ。そのぶっ飛んだ先に、レイラが待ち構えている。レイラが杖を浩二たちに向けてきた。
「死になさい」
 杖から巨大な三日月が浩二たちに、一直線に飛び出した。六人は確信した。死ぬと。
 だがその直後、遠くで爆発音がしたかと思うと、レイラも三日月も消えた。
『え゛っ!?』
 六人はそのまま地面に転げ落ちた。続々とたちあがって、お互い唖然としている顔を見詰め合って、
『え〜!?』
 あまりの不思議さに、叫んだのであった。


2005年03月30日 (水) 21時55分


(908) 脅威編 復刻版 A 投稿者:大輝 MAIL

第三章 〜脅威を追うもの〜
 浩二とフォーラ達がであってから一週間経っても、一向にレンの本の持ち主は現れない。
「レン、そのシェインって言う奴、ぜんぜん現れないけど、どうしたんだよ。」
「さあ、あいつ良く消えるからな」
「えっ……ははは」
 浩二は苦笑いして、話の話題を変えた。
「フォーラさんに真奈美さん、あなたたちは術が二つも三つもありますけど、どうやったら術の数は増えるんですか?」
 フォーラも真奈美も首を横に振る。
「私たちにも分からないの。でも、なんとなく新しい術が現れる時は、ピンチだったり、なんだか気持ちが良かったりするわ」
「右に同じ。私もそんなかんじだね」
「あっ、清麿もいたんだ」
 浩二が今気づいたかのようにのほうを見た。
「……(10分前から、お前の目の前にいたのに、なぜ気付かん?)」
「清麿にも聞くけど、術の数はどうやったら増えるの?」
「オレはナゾナゾ博士という人に教えてもらった」
「じゃあ、教えてよ!」
 浩二が叫んだ。だが清麿の表情が突然無表情になって、こういう。
「それはできない」
「なんで?」
「……ナゾナゾ博士に教えてはいけないといわれたからだ」
「ふーん……あ、そうだ。みんな、今何時?」
 浩二がはっとして、時計を探す。
「今は、午前九時二十八分よ」
 自分の時計を見ながら、真奈美が返答した。
「ヤバイ! す、すみません、俺ちょっと学校に行かないと行けないので、行ってきます!」
「あれ? 先週の水曜日はうちにいたわよね?」
「二週間に一回なんです、俺の行ってる学校は」
 それじゃあ、といって浩二は自分のかばんを引ったくり、外へ飛び出していった。
「レイン、浩二君の後についていきなさい。途中で魔物に襲われるやもしれん」
 フォーラがレインに言った。彼はうなずいて、なにかつぶやくと、かすみになってきえた。
「あれ? れ、レイン、どこいったの?」
突然レインが消えたことに驚いて、真奈美が叫んだ。
「大丈夫だ。レインの特殊能力で移動した」
「え、レインに特殊能力なんてありました?」
「ああ、本の使い手がいないと、使えなかったが、今では使えるそうだ」


浩二は、いつもとかわらぬ表路地を走っていた。広い道なので、人が多くても走っても問題無い。
問題は、時間なのだ。家を出たのが、九時二十八分。学校は九時三十五分には始まるのだ。
「……多分もう、三十分にはなったはずだ……あと、一キロもあるってのに……」
と、いきなり浩二のかばんが膨らんだ。あまりに驚いたので、浩二は歩みを止めて、かばんを開いた。中からは、レインが現れた。
「レイン!?」
「あ、あははは……」
そう笑うと、レインはそれ以上何も言わず、裏路地に逃げいてった。
「えっ……?」
浩二は一瞬呆気に取られたが、今の自分の使命を思い出して、再び学校へ走り出した。
レインが後ろからついてくるのが少し気になったが、そのまま走っていく。


「はい、浩二遅刻」
先生が息を荒げながら入ってくる浩二に言った。
「す、すみません」
浩二が先生をこわごわ見た後、自分の席についた。
実はこの学校、この教室しかない。全生徒合わせて、二十人。中学一年から、三年生までいて、浩二は、二年生だ。今日は、二年生の授業の日。二年生は、全学年で一番多く、十一人だ。
「それじゃあ、授業を……ん?」
先生が外をふと見ると、教室のみんなも外を見た。浩二も鞄から用意を出しながらふと見ると……
「レイン!?」


「おいレイン、おまえのせいで、今日は帰れって先生にいわれちゃっただろ! どうしてくれるんだよ!」
「ご、ごめんなさい。で、でも、でもね、浩二さんを魔物が襲わないかって、僕不安で不安で……」
「気持ちだけは受け取っておく! だからもう学校に入ってくるなっていってんだよ!」
浩二はおこって、レインを追い越して、早足で歩いていく。
「そ、そこまで言うなんて……ひどい、ひどいよぉ!」
レインは突然泣き出して、山の方へ走っていく。
「勝手にしろ! ……もう、ガキってなんでまあ、すぐ泣くんだろう、**、あー**
浩二はそう言いながら歩くも、気になって仕方が無かった。
「……俺、お兄さんだもんな。ちょっとは我慢しないとな。それに、言い過ぎたよな……よし、レインを探しに行こう!」
早くも決断すると、浩二はくるりと振り返り、レインの通った道を走っていった。


「うぅぅっ……」
レインは泣きじゃくって、人っ子一人いない山道をのたのたと歩いていた。
「浩二さん、なんであそこまで言うんだ……? ひどいじゃないか……」
と、突然後ろで叫ぶ声がした。
「ゾゲル!」
あたりが強く照らされたかと思ったら、レインは吹っ飛んでいた。
「かはぁっ!」
レインは地面に体を叩き付けられた。
「ラグナス、手をもう一度あいつに向けろ」
男の声がした。その横で、レインに向けて手をかざす、十六歳くらいの魔物、ラグナスと呼ばれたものがいた。
「ゾゲル!」
手から再び、強い光が放たれた。爆音とともに、レインに直撃して、またも吹っ飛んだ。
頭から流れる血を拭きながら、レインはふらふらと立ち上がった。
「しぶといな。よし、『天撃』をつかうぞ」
「おう」
ラグナスは空に向かって手を伸ばす。
「準備完了」
「標的、セットオン! テオゾゲル!」
伸ばしていた手を、地面に一気に叩き付けると、上空から、光線が大量に降り注ぎだした。地面を破壊し、木を食い千切るほどの威力だった。レインは、ふらふらしながらも、それをかわしてく。だが、
「ゾオルダ!」
人間が詠唱した後、ラグナスが地面に付けて、指をちょいと動かすと、突然光線の軌道が変わり、レインは光線を大量に浴びてしまった。集中攻撃で、レインはもう倒れる寸前だった。
「そろそろ終わらせるぜ! ギル・リゾ……」
人間が呪文を発動しようとしたときだった。レインが杖を取り出し、ラグナスに向けた。
そして、ラグナスたちのうしろから、叫ぶ声があった。
「ウィス!」
杖の先端についている翼から、風の衝撃波が放たれた。それは、ラグナスにぶつかり、ラグナスは後ろに吹っ飛んだ。その隙に、二人の脇を走り抜け、レインの横に浩二が現れた。
「待たせたな」
「遅いですよ、浩二さん。僕もうこんなにぼろぼろですよ」
レインは大袈裟に頭の血を浩二に見せつけた。
「はいはい、分かったから少し離れろ。反撃がくるぞ」
レインはおとなしく浩二から少し距離を置いて、敵に杖を向けた。
「……前みたいに、人間を傷つけるまねはしないでしょうね?」
レインが敵の方をむいたまま、浩二にたずねる。浩二は頭を掻いて、
「多分な。危険になれば、攻撃するぞ」
「……もうあんなことは、二度としません。今回もです。魔物に攻撃するのだって、本当はいやなんです」
「……魔物にまで攻撃の手を緩めたら、おまえの本を燃やすぞ!」
浩二は真剣な目で、レインをにらんだ。
「くそ……ラグナス、反撃だ!」
「分かっている!」
ラグナスは両手を前にかざす。
「ゾバルセン!」
詠唱すると、ラグナスの手が強烈に光りだし、あたりを真っ白にした。これは危険だと、浩二が魔本を腕で包み込む。
「ゾゲルガ!」
光線が浩二に命中した。浩二は、十メートル程吹っ飛んで、体中から血を流してうめき声をあげる。
「人を攻撃するなんて、なんてひどいことをするんだ!」
レインは激怒して、ラグナスたちを睨んだ。
「なんだって、おちびちゃん?」
人間の方が、話し出した。
「人間を攻撃するのが、ひどいこと? はーはははっ! そんな甘ったるいことをいっているのか、おまえは。魔物より、人間の方が脆い。中級呪文くらい当てれば、全身傷だらけになるだろう。だから、人間をねらうのだ。その方が確実だ。魔本を持っている上に、一度気絶させてしまえば、パートナーは呪文すら使えん。それになにより、相手の痛みにひしがれる顔。なんともいえないね!」
人間は、大声で笑い出した。その声を聞けば聞くほど、どんどんレインの目に涙があふれてきた。
「……おまえは、傷つけられるものの気持ちが分からないから、そんなことがいえるんだ!」
「ほう、それじゃあおまえは、そのなんちゃらの気持ちってやつが、わかるのか?」
「……僕は……僕は……」
「もういい、もうやめろ」
浩二は、これ以上の会話は無意味だと考えて、レインを止めた。
「……これからも、誰も傷つけない……誰に何といわれようとも…… 絶対に、絶対に……そして、守る王になる!」
レインが叫んだ。途端、浩二の持っていた魔本が強烈な光を放ちはじめた。驚きながらも、浩二はページをめくってく。
(第二の術……ウィスガ・キロロ!?)
「レイン、第二の術が出たぞ!」
浩二がレインに叫んだ。レインは涙を拭いて、笑った。
「浩二さん、それを!」
「させるか! ギル・リゾゲルガ!」
「こっちも! ……第二の術、ウィスガ・キロロ!」
風の刃が複数出現し、ラグナスに飛んでいく。
敵の強烈な二つの光線は、一直線に浩二に向かっていた。
「れ、レイン! だめだ、あの術に負ける!」
それは、誰が見ても明らかだった。敵の光線は二つある上に、一つだけでも、力負けしている。浩二は、とっさに横に飛んだ。
風の刃は光りに当たって消し飛び、それでもそのまま、ものすごいスピードで、飛ぶ。そして、浩二の右足に当たった。
「がぁぁぁぁっ!!!」
足全体に、煙草を押し当てられたようなあつさだった。心配して、レインが駆け寄る。離れた位置から、ラグナスが構える。
「さあ、とどめだ、テオゾ……」
と、突然人間のポケットから着信音がした。呪文の詠唱を止められて、不機嫌な顔をしながらも、人間はそれにでた。
「ラグナスに伝えろ。そいつは、風の驚異だ」
それだけ言うと、誰かは電話を切った。
「ほー、おまえは、風の驚異だったのか。それじゃあ、みのがしてやる」
というと、ラグナスたちは、あっさりとどこかへ走り去ってしまった。
「風の……驚異?」
浩二は、もうろうとする意識の中で、それだけつぶやくと、気絶してしまった。




第四章 〜その名は“運命の脅威”@〜
「それでは、すぐさまこちらに来てください。……はい、よろしくお願いします」
 フォーラは電話をおろすと、そのまま深刻な表情でみんなが集まったテーブルについた。
 レンの本の使い手、シェインも昨日到着した。フランス貴族のような雰囲気を漂わせる、二十歳前後の男だった。
「それで……」
 フォーラが説明をはじめる。
「その、情報屋という『なぞなぞ博士』。彼がいうには、魔物が使う術には、“脅威”なるものが存在するらしい。それが何なのかは、博士が来るまでは分からないが、その“脅威”を求める集団がある。そして、レインはその脅威の術を使う一人、『風の脅威』なのだ」
 テーブルにいた全員が、息を飲んだ。
「そ、それじゃあ、おとといレイン君を襲ったのは……」
 真奈美が恐る恐る聞くと、フォーラはうなずいた。
「ほほう、それでは、私たちまで危険ではないか?」
 シェインが目を細めてレインを見下した。
「……すみません」
 レインがうつむいたまま答える。その言葉で、全員がシェインをにらんだ。
「なんだ、その目は? 私にたてつく気――」
「シェイン、少し黙ってくれないか?」
 レンが怒ったように、シェインにいった。
「ははは、怖いなぁ」
 反省した様子もなく、シェインはさわやかに微笑んだ。
「この微笑の貴公子、ペ・ヨンジュ……」
「あー黙って〜」
 真奈美が耳をふさいだ。シェインは、そのまま自分のすばらしさを語りだそうとするが、真奈美が飛びひざ蹴りを一発きめて、シェインは地面に倒れ付した。
「……レン、お前のパートナーはかなりおちゃらけものだな」
 浩二が言うと、ウェンが、そうだそうだ、と連呼した。それに浩二は、
「おぉ、ウェン、久しぶりにしゃべったな」
「ごめんなさいね、目立たなくて!」
 浩二がなだめる。ウェンはぷんぷん怒ったかと思えば、突然泣き出してフォーラの胸に飛び込む。
「なくな、ウェン。あいつはな、世界最強の悪魔なのだ。KOUZIデビルだ。気をつけろ……」
「あー!? フォーラさんまで俺を困らせるのか!?」
「まあ、話を続けよう」
 フォーラがウェンを隣の席に座らせて、浩二を完璧無視モードに突入してから、話をすすめる。
「それで、おとといレイン君をおそったのは、その集団の一人だ。浩二君がいうに、光使いだったかな?」
「はい」
 浩二は無視されたことで半ギレになっていたが、なんとか平常心を保って答えた。さっきまで地面に倒れていたシェインはというと、いつのまにか椅子に戻っていて、懐から鏡を取り出して、自分の顔を満足げに見つめていた。
「シェイン君、聞いているのかね?」
「ふっ、そんなたわいのないことなど、聞くに値しないね。そんなことを聞いているのなら、まだこの微笑の貴公子、『ペ』のハンサムフェイスをチェックしておくほうが……」
 と、また言葉はそこで切れて、地面に倒れふした。
「……真奈美さん、プロレスでもしてたの?」
 浩二が聞くと、なぜか真奈美は回し蹴りをきめた。
「真奈美君、そんなに人をぶっ飛ばしていたら、話が進まないのだが」
 少しおどおどしながら、フォーラが顔を引きつらせた。真奈美はちょろっと舌を出して、すみません、といった。
 と、犠牲者の二人はぴくぴくしながら、地面に倒れていた。
「……しかたないわね、ルルの新呪文で回復よ!」
 真奈美がかばんから魔本を出すと、ルルもぴょんと地面に飛び降りて、二人の近くにいく。
「ま、まなみくん、いつの間にそんなものを……」
「清麿たちに、訓練してもらったときに、出たんですよ……じゃあルル、準備いい?」
「できたよ」
 両手を上にかかげながら、ルルが答えた。
「それじゃあ……第三の術、『ビバルジオ』!」
 真奈美がそう叫ぶと、ルルの手のひらに赤く光る円形の焔が現れた。ルルが、それを思いっきり地面に叩きつけると、それがとてつもない爆発を起こした。
「ぐわぁぁ!」
 椅子に座っていた三人は、驚きのあまり椅子から転げ落ちた。爆発がやんだ。
「あれ?」
 レンがあたりを見回すが、部屋のものは何一つ吹き飛んでいない上に、焦げ目もついていない。どういうことだ、という目でレンがルルを見上げると。
「あ、おどろいちゃった? ごめんね。この術は、爆発で心の力と体の傷を癒す術なんだよ」
「ま、まじ〜!」
 レンが驚いて、さけんだ。フォーラもレインもかなり驚いた表情で顔を合わせていた。
「どう、新呪文の効力は?」
 浩二とシェインは、ぬっと立ち上がって、体を見た。
「おぉ、痛みが引いたと思ったら、傷が治っている〜!」
 シェインが興奮気味に飛び跳ねた。
「な、なんだ今の爆発は?」
 扉の向こうから、突然声がした。全員が、ばっと扉の方を見ると、片目にめがねをつけて、へんてこな格好をした老人と、小さな子供がいた。
「キッド!?」
 魔物たちが全員叫んだ。
「あ、レイン、レン、ウェン、それと……ルル?」


「まさか、なぞなぞ博士のパートナーがキッドだったなんて」
 レインがつぶやいた。
「私の名前を忘れかけていたのが、ちょっと気になったけど……」
 ルルは半泣き状態でうつむいた。真奈美がいつもの調子でルルを慰めた。
「それで、ミスター・ナゾナゾ……」
 フォーラが話を聞こうとすると、
「ノンノン! ミスター・フォル・フォーラ! ナゾナゾ博士と呼んでくれたまえぇ!」
「そうだそうだ、ナゾナゾ博士と呼べ!」
 ナゾナゾ博士がびしっときめた後、後ろからキッドが威張っていった。
「ではナゾナゾ博士、その脅威を求めている集団について、早速情報をいただきたい」
 あくまで冷静にフォーラは対処した。
「まあまあ、その前に私のマジックを見て楽にでも……」
「あなたの話の断片を聞いただけでも、今どれだけ危険な状態か分かりました。時間がないのですぞ?」
 フォーラがナゾナゾ博士をにらむが、
「それでは、まず私の部下、MJ12『マジョスティックテュエルブ』を紹介……」
「ミスター・ナゾナゾ!」
「まったく、ミスター・フォーラ。貴方も乗り気じゃないねー」
「ねー」
 キッドが連呼する。
「フォーラさんのいうとおり、今は早く情報を教えてほしいですね」
 浩二が目を細めてナゾナゾ博士を見た。レインも早く話してほしそうに、椅子をがたがたならした。
「うぅ、みんな敵ね、わしのマジック、見たくないのだね……まあよい。早速話をはじめるよ」
 そういうと、どこから取り出したのか、少し大きめの黒板を地面に置いて、なかからいろいろな資料を取り出し始めた。


「その集団の名前は、『運命の脅威(ディスティニー・ナメス)』。集団の目的は、魔物が使う、『脅威』と呼ばれる特殊な効力を発揮する術。それを使う魔物を探すための集団だ」
「じゃあ、レインはやっぱり脅威が使えるんですか?」
浩二が恐る恐る聞くと、
「ああ、そうだろう。レイン君は風の術を使う……ということは、風の驚異ということになる。それでは、この資料を見てくれ」
なぞなぞ博士が机の上に一枚の写真を置いた。なんと、五十体以上もいる魔物が、一個所に集まっている。
「な、なぜこんなに魔物がたくさん……?」
真奈美が聞くが、ナゾナゾ博士は首を振った。
「わしにも、よくわからん。だが、この魔物たちを撮影した場所は、以前、ゾフィスという魔物が千年前の戦いで石にされた魔物たちを復活させて、操っていた城なのじゃ。それに関係するのかもしれない……。とにかく話を進めよう。うわさによれば、ディスティニー・ナメスは驚異を使う魔物を手に入れるためなら、何でもすると聞いた。ほんの使い手がんだという話も聞いたな」
それを聞いた途端、ナゾナゾ博士とキッド以外の人はうっとひいた。
「今回も、そんなことがおこらないとはいいきれんぞ。それに、奴等は驚異を見つければ、必ず一週間以内には襲ってくる。今日襲ってきてもおかしくはないだろう。そこで、今日から私は君たちの仲間に、一時的だが、なろう」
フォーラがナゾナゾ博士に聞く。
「それで、貴方のメリットは?」
「わしのパートナーキッドも、驚異の一人じゃからな」
ナゾナゾ博士があっさりと言い放った。そこにいる全員が唖然とした。
「それを早く言いたまえ!」
シェインは、いばって、びしっとナゾナゾ博士を指差した。レンも横で真似して、ばしっとナゾナゾ博士を指差した。
 真奈美があきれたような、それでいてどこか楽しそうな半眼で彼を見た。
 そんな光景を見ながら、ナゾナゾ博士は微笑を浮かべた。
「あー、君たちは面白いね。清麿たちを思い出すよ……」
 全員が驚いて、ナゾナゾ博士を見た。浩二が口を開く。
「ナゾナゾ博士は、清麿を知ってるんですか?」
「あぁ。ディスティニー・ナメスのいる城に、前にも魔物がいたといったな? そやつを協力して倒したのじゃ」
「そうなんですか。その魔物は魔界に帰ったんですよね?」
「おそらくな。シェリーという人間が連れて行ったからな。魔界へ帰ったのかはよく分からん。じゃあ、話をすすめるぞ。これ以上無駄な話をはさまないでくれよ。特に、その……」
「ペ様かい?」
 シェインが髪をかきあげて、さわやかに言った。
「……そういうことにしておこう。ペ様、これ以上は無駄口を叩かぬよう」
「はいはい、分かりましたよ……」
「キッドが使う脅威の術の名前は、『ルオウ』と呼ばれておる。まだわしの魔本には現れておらんのだが……レイン君は?」
 レインが、多分まだ出てません、と答えた。
「そうか……とにかく、敵の数は多い。綿密な作戦を立てなければ、すぐに本を燃やされてしまうだろう。そこで、サバイバル戦をしようと思うのだが、どうだろう?」
「それはどういう意味ですのかな、ミスター・ナゾナゾ?」
「ここにいる全員で、戦いあうということじゃ」


※キッドは消えてない設定です。


2005年03月30日 (水) 21時56分


(988) 脅威編 復刻版B 投稿者:大輝 MAIL

第五章 〜その名は“運命の脅威”A〜
 木々が深くおいしげっている。そいつらは、浩二の行く手をさえぎるように、複雑に絡み合っていた。
「……あれから三日……新たな呪文は、二つ……」
 サバイバルが始まってから、たったの三日で浩二は新たな術を二つも手に入れた。何故かは、浩二には分からなかった。


“自分で、理解するのじゃ。それでこそ、意味がある”


 ナゾナゾ博士は、みんなにそういった。そして、このナゾナゾ博士の私有地の一つ、『心の森』に連れてきて、サバイバルをするといった。
 理由は、二つ。
 まず、ここなら敵に襲われる可能性が下がるということだ。人の私有地なら、大群で乗り込むことなど、そうやすやすとできるものでもないし、こんなふかい森ならば、見つかる可能性も低い。なによりも、こちらが「待つ側」なので、断然有利だ。
 そしてもう一つの理由は、戦力強化。ナゾナゾ博士は、最初にこう説明していた。


「どうやれば出るのかは教えられないが、あそこでサバイバルをすれば、確実に術が増えるはずじゃ。そして、戦闘能力も上がることじゃろう」


 そのとおりになった。
(第三の術……オルダ・ウィガル。第四の術……レイウィルク……)
 まだ、両方使ったことがない。戦闘の中で手に入れた術ではないからだ。れいんが怪我をしていた鳥を助けたとたん、二つの術が手に入った。
「どうします、浩二さん。そろそろ戦闘を開始した方がいいと思うんですけど……」
 レインが口を開いた。浩二は枝を掻き分けて草まみれてなりながら、振り向いた。
「ん? なんかいった?」
「戦闘をはじめた方が良いんじゃないんですか!?」
「あぁ……そうだな。戦闘能力を上げるのも、目的の一つだし。でも、ルルは爆発属性使いだろ? こんな森で戦っても大丈夫かな?」
「それは、大丈夫でしょう。この木と草、なんか燃えませんでしたから」
「あ、そっか。昨日木を燃やして温まろうとしたら、燃えなかったもんな。多分……燃えないよな?」
「おそらくね。じゃあ、まずはルルと戦ってみましょうか」
「あぁ。じゃあ、木にのぼって、どこにいるか見てみてくれ」
 レインはいわれるがままに木によじのぼっていった。
「……木が多すぎて、見えません」
「そうか、仕方ないな、じゃあ探すか」
「いや……ちょっと待ってください。あの赤い髪……ルルも木の上にいます!」
 三キロ程先の木の上に、ルルがたっている。
「ま、マジ!? じゃ、じゃあ、位置を確認したら、気づかれる前にすぐ下りろ!」
 レインはちらりと位置を確認すると、そのままするすると下りてきた。
「はい、位置を確認しました。多分、気づかれてないと思います」
「よし、よくやったな。それじゃあ、案内してくれ」
「こっちです」


「ルルー、なんか見える?」
「んー、やっぱり何も見えないよ」
「そう。ありがとう、もう降りてきて良いわよ」
 ルルはそのまま地面に飛び降りた。
「真奈美さん、疲れてない?」
「大丈夫よ。これでも体力はあるんだからね」
「そう、良かった」
 ルルは少し微笑む。が、その表情が一変した。
「ど、どうしたの、ルル!」
「やあ、真奈美さん」
 真奈美の後ろから、声がした。彼女も聞き覚えがある声だった。素早く振り向くと、そこには浩二とレインがいた。
「戦ってみませんか?」


「じゃあ、私の呪文を使っても、森は燃えないのね?」
「何故かは分からないけどね。それじゃあ、早速はじめよう」
 二組は、距離をとって向かい合った。
「準備は良いかしら」
「いつでもどうぞ」
「それじゃあ……」
『バトルスタート!』
「第二の術、ウィスガ・キロロ!」
 レインの杖から、大量に風の刃が発生し、ルルに飛んでいく。
「ルル、手を前に! ……第二の術ビシルド!」
 ルルの前方に、ごうごうと燃え盛る、焔の盾が出現した。その焔は、風の刃をかき消して、そのまま残っている。
「そして残った焔を……第五の術、ギガロ・ビオル」
 ルルが手を、ぶんっ、と振ると焔の盾から小さな焔がどんどんレインに向かって放たれた。
「この術は、現している焔を操れる術なのよ!」
 真奈美が叫んで説明した。浩二は舌打ちをしながら、魔本をめくる。
「第三の術、オルダ・ウィガロ!」
 レインが杖を数回回転させると、回転する風が複数現れた。その風は、飛んできた焔を巻き込んで、そのままルルに突っ込んでいく。
「やばいわよ、ルル……」
「しかたない、真奈美さん、“あの術”を!」
「あの術?」
 浩二が首をかしげた。真奈美はルルの言葉を聞くと一つうなずいて、魔本をめくる。
「今私たちが使える、最強の盾……見せてあげるわ! 第四の術ギガ・ラ・ビシル!」
 そう真奈美が叫ぶと、浩二とレインの周囲に、焔の膜が現れて、囲んだ。
 さっきはなった風は、焔に跳ね返されて、消えた。
「こ、これは!?」
 焔の外から、真奈美の返事が聞こえる。
「これは、相手の周囲に焔の膜を張ることで、敵からの反撃を防ぐ呪文よ。その上……焔は酸素を消費する、急激にね。だから、そのままだとあなたたちは酸素不足で、すぐに息できなくなる、というナイスなおまけ特典つきなのよ!」
 真奈美の言うとおりだった。この焔の膜、半径二十メートルはあるはずなのに、すぐに息が苦しくなってきた。
「こ、浩二さん、もうあきらめましょう……これ以上は、無意味……」
「黙れ!」
 浩二がレインの言葉をさえぎって、叫んだ。
「これは、お前のための戦いだ! ディスティニー・ナメスに抗うための、“力”を手に入れるための戦いだ! この程度の状況が打開できなくてどうする!? 俺はあきらめない……俺はあきらめないぞ……」
 魔本の輝きが増していく。強く、強く輝く。
「レイン、杖を前に……」
 レインは泣きそうになりながら、杖を前にかざした。
「この一撃に、ありったけの力をこめろ……分かったな?」
「は、はい!」
 レインは、こんどことしっかりと杖を前にかざした。
「さあ、いくぞ……第三の術……オルダ・ウィガル!」
 魔本の輝きが最高潮に達した。その瞬間、レインの杖から、巨大な竜巻が大量に発生した。竜巻は、焔を巻き込んで、前方に飛んでいった。意表を突かれたルルと真奈美は、術を出す暇もなく、横に飛びのいて術をかわして、地面に倒れた。
「レイン、チャンスだ! 杖をルルに向けろ!」
 レインはゆっくりとルルに杖を向けた。
(第四の術を使ってみるか……否、もしそれが攻撃系でなければ全て無駄になる! 素早く飛んでいく、キロロだ!)
「第二の術、ウィスガ・キロロ!」
 レインの杖から大量に風の刃が発生して、ルルに飛んでいく。ルルは、なすすべなく刃に切り刻まれて、血を流した。
「痛っ……おい……」
 ルルの口調が突然変わった。
「レイン、おめぇ、何してくれやがんだ、え?」
 レインがやっぱりこうなったか、という顔をしながらも、浩二の陰に隠れた。
「それに、浩二……おまえデブのくせに、何調子こいてこの美少女ルル様に攻撃してんだよ、格の差を知れ、格の差をなぁ……!」
「え゛!?」
 浩二が間抜けな声を出して、半眼でルルを見た。
「る、ルル、お前何を……」
「ルル? ルルだって? ルル様だろ? この豚が!」
「の、豚!?」
 浩二はあまりの言われように呆然とたち尽くした。
「な、なにをいってるの、ルル?」
 真奈美まで取り乱し始めた。
「あん? おめーもな、いつもいつも、あたいに命令ばっかりしてんじゃねえよ、馬糞(ばふん)が!」
「ば、馬糞!? ちょっと、ルルさっきからなにを……」
「ルル様だって言って……あれ!? わ、私今まで何を……」
 ルルは突然いつものおどおどした態度に戻って、周りを見回した。鬼のような顔をした人間が二人いたことには、間違いなかった……


「そ、そんな……私がそんな失礼なことを、皆さんに……?」
「あぁ、俺は野豚、真奈美さんは、馬糞だってよ!」
「何でそんなこといったの! 答えなさい!」
 ルルの暴走によって、いつのまにか戦闘は終わっていた。浩二は、いままでに見たことがないほど、怒り狂っていた。
「あの、お二人方?」
 レインが二人の鬼の前に立って、しゃべりだした。
「なんだ、レイン? そこをどけ。俺たちはな、別に侮辱されたから怒っているわけじゃない、その子の教育のためなのだ!」
「そうよそうよ!」
 と、まるっきり嘘と分かる台詞をはいて、レインをどかせようとするが……
「いえ、これには色々事情がありまして……」
「事情〜!?」
「ええ。ルル、実は魔界のときからこうでした。攻撃を受けると、内に秘められし、『ダーク・サイド』の“ルル”が降臨して、自分のことを『ルル様』と三回言わないと戻らない……いわいる、二重人格なんです」
 ルルを含めて、三人は唖然とした。ルルが取り乱して、口を開いた。
「な、なんでそれを魔界で言ってくれなかったの!?」
 レインは、髪を少し掻いて、ふと思いついたように顔をあげた。
「そういえば、僕も二重人格だった」
『えぇっ!?』
 全員が驚きのあまり、レインから離れた。
「そ、そんなことよりも、まだサバイバル中なのですから、ここでいったん別れましょう。決着はついてないけど」
 レインの提案に同意して、四人は分かれた。


 ガラスの割れる音……食器棚から皿が落ちた音だ。
 ハイツは、十組の魔物を引き連れて、“風の脅威”がいると聞いたここに来ていた。
「……ラグナス、嘘はいけないなぁ。風の脅威がいるんじゃなかったのかな?」
 ハイツは、その姿が見えないので、いらだっている。
「す、すまん……(犬のくせに、生意気な……)」
 謝りながらも、心の中ではそうつぶやく。
「犬がいつ、人間より身分が低くなったんだ?」
「えっ?」
「忘れたのかい? 僕は、魔物の心が読めるんだよ? そのおかげで、脅威者と普通の魔物を見分けることもできる……本当に忘れたの?」
「……いや、すまなかった。犬とはいえ、お前は特別だ……」
「ふざけるな。この世界にいる、全ての生物は、平等だ。人型だからって、調子に乗るなよ」
 ハイツはラグナスを見上げていった。ラグナスはというと、心を読まれてはいけないと思い、必に、殴りたい気持ちを抑えた。
「まあいいや、どうせナゾナゾ博士が“あそこ”に引き込んでくれただろう」
「そうだといいな」
 そういいながら、ハイツは完全に家を破壊した後、その場を立ち去った。




第六章 〜その名は“運命の脅威”B〜
 ナゾナゾ博士はうつろな瞳で一つ頷くと、携帯をきった。
「ナゾナゾはかせぇ〜」
 キッドがナゾナゾ博士の足元にまとわり着く。ナゾナゾ博士はふと我に帰ったようにキッドを見下ろした。
「あ、ああ……そろそろ私たちも行動を開始するぞ」
「うん! みんなに会えるかな?」
「ははは、今はサバイバル中じゃからな。会わない方が良いぞ」
「そうなの〜?」
「これは本当じゃ」
 それでもキッドはナゾナゾ博士をにらむ。
「サバイバルに勝ちたくないのなら、それでもいいが?」
「う、嘘だよナゾナゾはかせー!」
「ん。それでは、いくぞ」
「おー!」
キッドは元気よく右手を突き上げた。その右手をつかんで、ナゾナゾ博士は自分の肩にキッドを乗せた。


「レンが……いたよ」
 林の陰に隠れながらルルは真奈美を見上げた。真奈美は息を荒げていた。先ほど浩二とした戦闘の疲れがまだ残っているのだ。
 日はもう暮れかかっていた。視界は少し悪い。
「不意打ちなら、勝てるかもしれなわね。暗くなってきたし」
 真奈美は目を凝らしてレンを覗き込んでいた。ルルが口を開く。
「でも、レンはどんな術を使うか、不明だよ。戦闘のときはいつもレンだけいなかったし、戦おうともしなかったし、どんな術を使うのかも教えてくれなかったの」
「そうだったわね……でも、本気の勝負でもないんだし、いいわよね」
「そうだね。じゃあ……私が木の上から先回りしていくから、私が飛び降りるのが見えたら、“衝撃”だよ?」
「分かったわ」
 真奈美がうなずくと、ルルは木によじ登ってサルのように素早く木を飛んでいった。


 シェインは鏡を片手に、すたすたと歩いていた。
「レン、敵はなかなか現れないな」
「ああ」
 レンはあたりを見回しながら返事をする。
「あー、めんどくさい。高貴な私がなぜこのようなところにこなければいけないのだ……」
「ちょっとは我慢しろよ」
「はいはい、分かりましたよ……」
 二人はそのまま歩いていく。レンも首が疲れたようで、あたりを見回すのを止めた。
「ところで、いつになったら休むのだ?」
「もう少ししたら、休……」
 レンが言いかけると、頭上で物音がした。その直後、
「ドムルド!」
 声が響いたとたん、レンの体に何かがあたり、爆発した。シェインはレンを抱き上げた。顔をあげると、そこにはルルと真奈美がいた。
「不意打ちとは、ずるいな」
 シェインが怒ったように目を細めて言うと、真奈美が鼻を鳴らして言い返す。
「ナゾナゾ博士に言われたでしょ? 不意打ちくらいしないと、新しい呪文は出ない、って。あなたのためよ。準備いいなら、もう攻撃はじめるけど?」
 レンはシェインの腕を振りほどいて、地面に飛び降りた。
「シェイン、やっぱりルルの攻撃は弱い。ぜんぜんダメージなしだ。俺たちも、攻撃だ」
 レンは手を前にかざした。
「あぁ……第一の術、ラギュウル!」
 彼の手のひらから、暗黒のエネルギーが放たれた。ルルも両手を前にかざす。
「ビシルド!」
 燃え盛る焔の盾が出現した。ふたつはぶつかり合い相殺して、白い煙を上げた。
 ルルの視界が白一色になった。
「……前、上、右、左……どこから来る? 仕方ない……ルル手を前に!」
「全体防御ね!」
「ギガ・ラ・ビシル!」
 敵にかける呪文だが、それを自分にかけた。そとで呪文を叫ぶ声と、盾とぶつかり合う音がしたとともに、真奈美たちを守っていた炎の盾が消えた。
「へえ、敵にかける呪文を自分にかけるなんて……やるな」
 レンは、けっ、と笑った。
「だが、俺は攻撃だけじゃない……シェイン!」
「……第四の術……ギガロ・ラギュルク!」
「!!!」
 ルルと真奈美は目を疑った。レンの姿が突然、闇と同化したように消えた。
「ははは、暗黒を使いこなす私たちを夜に襲うとは……君もバカだね」
 シェインがはっはっはと笑った。
「あんたたち、今まで術の効力も属性も教えてくれなかったから分からなかったのよ!」
「まあ、そうだが……攻撃だ、レン……ラギュウル!」
 頭上から暗黒がルルへと降り注いだ。ルルは間一髪のところで横に飛びのいた。だが、シェインはさらに呪文を唱える。
「ラギュウル!」
 次は、ルルの目の前で暗黒が現れた。なすすべなくルルは攻撃に直撃して吹っ飛ぶ。空中で浮いているルルにさらに攻撃を叩きこむ。
「ラギュウル!」
 暗黒はルルの胸に直撃し、地面にたたきつけた。真奈美がルルに駆け寄って抱き上げる。
 レンが姿を現して、ルル見てふんと笑い、言葉を発する。
「偉そうなこと言っておいて、弱いな」
 ルルがその言葉を聞いて、思い出した。今まで体験してきたことを。
 そして、自分の無力さを、大切な人の裏切りを――


 昔、私の親友だったレイナ。
 弱虫でいじめられていた私を、レイナはいつも守ってくれた。泣きそうなとき、いつも隣に座ってくれていた。
 いつも、いつも。
 レイナは、私のお姉さんのような存在になっていった。
 私も、私を大切に思ってくれているレイナの為にもっと強くなろうと思った。
 そして魔王をきめる戦いが始まった。レイナは私に別れ際にこういってくれた。
『最後まで一緒にがんばろうね』
 私はその言葉に力強くうなづいた。最後までいけたら、レイナに王を譲ろう。そう決めた瞬間でもあった。
 そして、レイナと引き離されて、人間界へ飛ばされた。


 人間界へ来てから一ヶ月。私はずっとレイナを探していた。そして、フランスまできた。暗い裏路地を歩いているときだった。
「レ、レイナ!?」
 ずっと求めてきた人がそこにはいた。レイナが微笑みながら私の前に現れた。
「あぁ、久しぶり」
 レイナが微笑んだまま言った。
「奇遇ね、こんなところで」
「奇遇ね、って私レイナのことずっと探してた……」
 と、私の言葉をさえぎってレイナが言う。
「私、もうあなたはいらない」
 えっ? 今なんていった? いや、きっと私の聞き間違えだ。そうに違いない。
「な、なんていった?」
「だから、あたしもうあなたの友達でもないし、なかまでもなんでもないって言ってるの」
 レイナの微笑みは、いつしか嘲笑に変わっていた。私の目から、たくさんの涙が零れ落ち始めた。なんで、なんでレイナはこんなことを……?
「私もう、仲間見つけたから……みんな、約束通りよ。攻撃して」
 レイナが後ろに下がりながら言うと、私に向かってたくさんの何かが飛んできた。
 赤みを含んだ、黒い波動。周りのものを燃やし尽くす光。激流。
 そして、
「フリゼル」
 レイナの手のひらからたくさんの氷柱が私に向かって放たれた。全てが私を襲った。黒い波動と光は皮膚を焼き尽くし、激流と氷柱は皮膚を凍りつかせた。そんな痛みだった。
 絶望と痛みの中で私は意識が遠くなっていった。最後のこんな言葉が聞こえた。
「君の親友の洗脳を解いてほしければ、もっと強くなれ。弱者よ……」
 そこで私の意識は完全に途絶えた。


「ル、ルル?」
 真奈美がルルを呼ぶ。
「私は、もう負けない。誰にも……」
 ルルの赤い魔本から少し光が漏れ出す。
「弱い私なんて、要らない。強さを……」
 漏れ出す光が強くなっていく。
「強さを……誰にも負けない、強さを!」
 本が強く輝く。
 それに気づいて真奈美が魔本をめくっていった。そして、強く輝くページを開いた。
「ルル、新しい呪文よ! ……二つも!」
 レンとシェインが少しなからず驚いた。ルルは真奈美に振り向いて笑った。
「使って!」
「第八の術、マオウ・ドムグルイド!」
 レンとシェインは身構える。だが、何もおこらない。
「そ、そんな……」
 ルルが驚愕の声をあげる。
「ま、まだあるわ! ……第七の術、ドムグルイド!」
 魔本がさらに輝くと、天から声が響いてきた。
『光よ』
「な、なにこの呪文は!?」
 真奈美が叫んだ。声が響く呪文? そんなわけがない。でも、何もおこらない。
「な、なんなのよ!」
 新しく出たはずの呪文は、二つとも使えない。
「な、何で?」
 ルルは呆然と立ち尽くしていった。だが、また天から声が響いた。
『天よ』
「ま、また?」
 そういえば、魔本が輝き続けている。真奈美はもしかしてと思い、ルルを見てから、少し待ってみると……
『焔よ』
「やっぱり! 天から声が響くたびに、ルルの体から少しづつ赤い光が漏れ出している! この呪文は何かの準備なのよ!」
 真奈美が叫んだ。ルルの体はすでに、かなり赤く光っていた。
「も、もしかして」
『第八の術!』
 二人が同時に叫んだ。そういっている間にも、天から言葉が響く。
『時は満ちた 解き放て』
 ルルの体が強烈な、赤い光を放つ。
「準備できたみたいね……」
「真奈美さん、それを使って!」
「ええ……」
 レンとシェインは魔本を構える。
「シェイン、来るぞ!」
「あぁ」
 ルルは両手を前にして構える。
「第八の術、マオウ・ドムグルイド!」
 ルルの体の周りに定着していた光が姿を変えて手のひらから上空に上がっていく。
「これは、女神!?」
 赤く光る女神が上空に現れて、魔本の輝きはとまった。
「ええぃ、こっちも攻撃だシェイン!」
「……第三の術オルガ・ラギュガル!」
 レンの手のひらからものすごいスピードで回転する暗黒が女神に向かって放たれた。が、
「えっ!!!」
 女神が少し手を振ると、暗黒が一瞬で霞のように分散し、女神はそれを、胸の虹色に輝く鏡に吸い込んだ。
「な、なんだと!? ……もっと攻撃だ、シェイン!」
「あ、あぁ……オルガ・ラギュガル!」
 女神に放つがまたもやそれを吸収する。もう一度放ったが、やはり吸収されてしまった。
「し、仕方ない、ルルに攻撃だ! 女神は何故か知らないが、動かない」
「ああ。オルガ・ラギュガル!」
 ルルに暗黒が飛ぶ。そしてルルの目の前まで迫っていった。
「よし!」
 レンが喜びの声をあげた。だがそれはつかの間の喜びだった。女神がささやく。
「フォスプ」
 すると、ルルの目の前まで迫っていた暗黒が分散して、また女神の胸へと吸収された。
「こ、この術は、防御呪文なんかとは、はるかに格が違う……防御するのではなく、吸収する!」
 真奈美が喜びの色が混じった声音で叫んだ。女神はさらにささやく。
「レイド」
 胸が黒く輝きだす。そして、胸から超回転する暗黒が現れた。そこにいる全員が目を疑った。
「ちっ……第二の術、ラギュシルド!」
 レンの前に円形の黒い盾が現れた。そして、女神が放った暗黒と触れ合った瞬間、物凄い音を立てて爆発した。レンとシェインは爆風で後ろに吹っ飛んだ。二人が目を開けたときにはもう、茶色の魔本は奪われていた。
「今回は私たちの勝ちね」
 魔本をシェインに投げ返しながら、真奈美が言った。
「仕方がないな……」
 レンは肩を落とした。それから真奈美が興奮して叫びだす。
「新呪文すごい! 全ての攻撃を吸収する上に、吸収したエネルギーを爆発能力付で敵に返せるなんて!」
 ルルを肩に乗せて真奈美は二人に背を向けて歩き出しながら、まだ叫び続ける。
「それにあの第七の術のせりふ、ちょっと決まってなかった!?」
「そ、そうだね」
 ルルは興奮する真奈美にちょっと引き気味でつぶやいた。
 真奈美はちょっと声を低くして言い出す。
「光よ、天よ、焔よ、時は満ちた 解き放て……だって! かっこよくない!?」
「はあ、こどもだね、真奈美さんは。かっこよくもないよ」
「あ……あんたに言われたくないわよ!」
「その歳のわりには、子供っぽいって言ってるんだよ?」
「その歳ってあなた――」
 そんな二人の会話を後ろから、男たちが苦笑いで見ていた。


2005年04月25日 (月) 21時04分


(1030) 脅威編 復刻版 C 投稿者:大輝 MAIL

第七章 〜“複製体”〜
 ハイツはデボロ遺跡の頂上にある椅子に腰掛けた。月に照らされたことで、人の姿へと変化している。
「ハイツ」
 ラグナスが後ろから現れ、ハイツの名を呼んだ。
「なんだい?」
「風の脅威のことだが……」
「ああ、いつ襲うかって?」
 ハイツはラグナスの心を読んでいった。
「そうだ。心の森にいることはわかっているが、あそこは特別な場所だからな」
「そうだな……でも、僕たちが直接襲いに行くことはしないよ。複製体に行かせる」
「まあ、そうだな」
 ハイツは眠たそうに目を細めながら、一人つぶやいく。
「まさか、風の脅威の仲間に、もう一人、脅威使いがいたなんて……」


 ラグナスはハイツが寝たのを確認した後、下に下りていった。
「おい、お前」
 月の模様が入った服を着た女の子がラグナスの前にいる。車のおもちゃで遊んでいる。
「これをもって、日本にいる清麿のところへ行け。魔物にばれぬようにな」
「分かったわ」
 そういって、ラグナスは青く光る粉が入った小瓶を女の子の手のひらに落とした。
「失敗するなよ」
「ええ」


「清麿〜、バルカンを知らぬか?」
 ガッシュが清麿のズボンにしがみついて聞く。
「俺が知るか。ウマゴンにでも聞いてみろ」
「そうしてみるのだ」
 ガッシュは階段を下りて、ウマゴンの小屋へ向かっていった。清麿は少し疲れたようにベッドに寝転んだ。
「最近、どうしてだろう……? 時々気絶する……そして目をあけたら、違う場所に立っている……何故だ……?」
「へー、そんな状態になるんだ、あれって」
「な、何!?」
 清麿はばっと起き上がって、声がした方を見てみた。そこには、ここにはいるはずのない、レイラがいた。月の杖を構えている。
「レイラ!? なんでここにいるんだ!? 魔界に帰ったんじゃないのか!?」
「何の話? 私はあなたのことなんて知らないし、魔界にだって帰ってないわ。ゾフィスが消えてから、私はハイツ様の僕(しもべ)になったのよ?」
「ハイツ?」
「おっと……こんなことをしている暇はないわ……」
 レイラはぽけっとから、青い粉が入った小瓶をとりだして、栓を開く。
「これはね、心の力を大きくする薬なの」
 そういいながら、清麿にその薬をかけた。粉は、強烈に光って、清麿の体に吸収された。
「でも、これであなたはさらに……それじゃあ用は済んだから、失礼するわ」
 そういうと、レイラは窓から飛び出して、家々の屋根の上をぴょんぴょん飛んでいって、消えた。
「な、なんだったんだ……?」


「なに? レイラがここに来たというのか!?」
 ガッシュは驚いて、一歩下がった。
「ああ。ハイツってやつの僕になったらしい。それよりも、何故人間界にいるのかが問題だ」
「ウヌ。そうだな……」
 清麿は部屋を何回も何回もぐるぐる回って考えてみたが、結局答えは見出せなかった。
「仕方がない。ナゾナゾ博士に電話してみよう」
 そういうと、清麿は一階に下りて、受話器をとり、ナゾナゾ博士の電話番号を押した。そして、通じた。途端、
『私はなぞなぞ博士。何でも知ってるナゾナゾ博士だ、はーははは』
 普通の人がかけたら、あっ電話番号間違えちゃった、と思うほど変な出方をするナゾナゾ博士。
「ナゾナゾ博士か?」
『あー、清麿君か。なにか用でもあるのかね?』
「いま俺のところに……レイラが来た」
『な、何じゃと!?』
 ナゾナゾ博士は何か事情を知っているような感じだった。清麿はとっさに、何か知っているのか、と聞き返した。
『それはおそらく……“運命の脅威”じゃ』
「“運命の脅威”? なんだ、それは?」
『以前、千年前の魔物たちと戦った、デボロ遺跡を拠点とする、謎の大集団だ』
「な、なんだって!?」
『リーダーは犬型の魔物で、ハイツという名前だ。そいつが、なんらかの方法で、デボロ遺跡で消えた魔物を復活させている』
「!!!」
 清麿は驚愕のあまり、声が出なかった。だから、だからレイラが……?
『その上、ゾフィスがココにしていたように、全員が攻撃的な性格に変えられている。全部でその魔物は四十体を超える』
「……ああ、そうか。分かった、ありがとう。俺もこれから気をつけるようにするよ」
『ではな』
「あぁ……」
 清麿は重い気分で受話器を置いた。ガッシュが上から降りてきた。
「どうだったのだ?」
「レイラは……運命の脅威という軍団に操られているらしい」
「な、何!? また、心の操られている者が!?」
「……また戦うときが来たか……」


「どうしたの、ナゾナゾ博士〜?」
「いや、清麿から電話があっただけだ」
「なんで?」
「今度、一緒に食事をしよう、ということだ。ゾフィスを倒した記念にな」
「ふーん」
 二人は心の森の中心近くにいた。クリスタルのように輝く光の球をぶら下げた、『心球樹』が目印だ。
「そろそろ僕たちも戦おうよ。脅威呪文も早く見てみたいし」
「そうだな。ここで待ち伏せしとこ……と思ったら、その前にきたみたいじゃな」
 ナゾナゾ博士たちの後ろから、ウェンとフォーラが現れた。
「ナゾナゾ、あなたと戦うことになるとはね……」
「わしもだよ、フォーラ殿。あなたのチームの中で、一番強いと見た、あなたと戦うことになるとはね」
「いいえ、おそらく今一番強いのは、レンだろう」
 ナゾナゾ博士とフォーラは魔本を取り出した。ナゾナゾ博士が言う。
「けんそん必要はありませぬぞ。魔物の能力でレンの方が上回っていようと、あの子はあまり頭が良くない。戦闘は、頭脳が征しますからな」
 フォーラが反論する。
「いいえ、レン
の方が強いですよ」
「……では、そろそろやりましょうか?」
 フォーラがうなずくと、二人は魔本を開いた。
「ウェン!」
「キッド!」
 そして、二人が同時に叫ぶ。
『コブルク!』
 ウェンは目をつぶって両手を横に広げると、空中から小さいウェンがたくさん現れた。
 キッドは口から小さい自分をたくさん生産している。
「まさか、あなたもこの術を使うとはね」
 フォーラが苦笑いしながら、ナゾナゾ博士に言った。
 小さい分身たちは、それぞれ戦いあって、全部共倒れした。
「……僕とキッドの力は……互角ということかな?」
 ウェンがキッドをにらむ。にんまりとキッドが笑い返した。
「いいや、僕の方が強い」
「な、なにを〜! フォーラ、強化呪文だ!」
「あぁ。ゴウ・ソドルク!」
 ウェンに剣が装備された。
「キッド、腕を前に! ……ゼルセン!」
 キッドの腕がウェンへと飛んでいく。ウェンは、片方の腕を剣で叩き落とした。だが、もう片方の腕にみぞおちを殴られてうめく。
 腕が再生し、ふたたび腕を前に構える。
「ラージア・ゼルセン!」
 キッドの腕が巨大化されて、それはウェンへ再び飛ぶ。
「何度もくらうバカと思うな……第三の術、ゴウ・エドルク!」
 ウェンは剣を投げ捨て、現した棍を装備した。それをニ、三回振りまわすと、巨大化した腕はわずかにウェンをそれて後ろに飛んでいった。
「ほほう。ウェンは武器装備系魔物か」
 なぞなぞ博士は少し汗を流しながら言った。
「その通り。だがそれだけだと思わないでよ……フォーラ!」
 ウェンは棍を地面に投げ捨てた。
「第七の術、ゴウ・ベドルク!」
 ウェンは現した杖を持った。
「やはり、装備系ではないか」
 なぞなぞ博士は鼻で笑った。だが、ウェンは笑い返す。
「これをただの武器と思うなよ!」
 ウェンが杖の先端をキッドに向ける。
「第二の術、ネシル!」
 ウェンが叫ぶと、杖の先端からキッドへ向けて少し赤みを帯びた、白い球が飛んでいく。それはキッドの直撃し、
「ぐわぁぁぁ!」
 キッドは後ろへ吹っ飛んだ。地面にぶつかる寸前でなぞなぞ博士が受け止めた。
「な、なぜ魔物が術を発動できる!?」
 なぞなぞ博士が驚いて聞いた。
「この杖自体が魔力を纏っているから……と思うんだけど、本当のところはよく分からない」
「無駄話はいらぬ。さあ、同時装備だ……」
 フォーラは輝く魔本をあげる。
「ど、同時装備だと!?」
 ナゾナゾ博士が驚いて叫ぶ。ウェンは杖を左手に持ち替えて、目を瞑った。フォーラは言葉を無視して、魔本をめくっていく。
「第八の術、ライツ・ソドルク!」
 ウェンが目を、かっ、と見開いた。その途端、レイピアのような、細い剣がウェンに装備された。
「僕はね、斬撃(ゴウ・ソドルク)、打撃(ゴウ・エドルク)、刺突(ライツ・ソドルク)、三種類全ての攻撃ができるんだ」
 ウェンは自慢げに言った。フォーラがキッドを指差した。ウェンはそれを見るとキッドに襲いかかる。
「刺突(しとつ)!」
 フォーラが指令すると、レイピアでキッドの腕を突きぬこうとする。
「ゼルセン!」
 刺そうとした腕は、フォーラへと飛んでいった。
「ウェン!」
 フォーラは少し慌てて叫んだ。ウェンは振り向いて、うなずいた。その隙にナゾナゾ博士とキッドはウェンから離れた。
「第九の術、ジャン・マ・ベドルク!」
 ウェンは持っていた杖を捨てた。すると、空中から目を瞑った女神の装飾がついた杖が現れた。ウェンはそれをすかさずつかみ、飛んでいく腕に向けた。
「第二の術、フォスプ!」
 ウェンが叫ぶと、杖の女神が腕を上げた。その途端、ゼルセンが小さくなって、キッドに戻っていった。
「な、なんだと!?」
 ナゾナゾ博士は声を荒げた。
「杖は攻撃の分類で言うと、補助。他の武器では対処しきれない場合に使うんだ。ゴウ・ベドルクも、ジャン・マ・ベドルクも」
 ウェンはさらに自慢げに言った。そして、杖を自分に向けた。
「杖を自分に!? 何をする気じゃ!」
「まあ見ててよ……第三の術スプルク!」
 灰色の光がウェンを包み込んだ。すると、ウェンの両腕が突然巨大化した。
 それを見て、ナゾナゾ博士はウェンに向かって叫んだ。
「フォスプで吸収した術の効果を発動する呪文か!?」
「ちょっと違うけど、まあまああってる。じゃあ……第四の術、オン・スプルク!」
 ウェンは両手に持っていた武器を地面に落とした。その直後、巨大化した腕がキッドに飛ぶ。
「くそ……ラージア・ゼルセン」
 両腕はぶつかり合い、キッドの腕が勝った。ウェンに両腕が戻った。その途端、地面に落としていた女神の杖を拾って、巨大な腕を横殴りで両方吹っ飛ばした。
「うぅ……やられた」
 ナゾナゾ博士がうめくのを見て、フォーラが少し笑って言う。
「勝負はこれからですぞ、ナゾナゾ」




第八章〜反撃開始!〜
「……キッド、そろそろ反撃じゃ……」
「うんっ!」
 ナゾナゾ博士は少し苦しそうに立ち上がった。
「いつまでも力を抑えて、なめられては困るからな」
「ふん、はったりを……」
 ウェンが少し笑うと、ナゾナゾ博士がそれ以上に笑って言い返す。
「私たちは、まだ三種類しか術を使っていないのだ」
「そ、そうじゃった……」
「ナゾナゾ博士、反撃だね♪」
「そうだな、はっはっは」
 二人は本当に愉快そうに笑っていた。それを不愉快そうに二人が睨みつける。
「じゃあ、攻撃だ!」
「あぁ……第四の術、ゼガルガ!」
 青い波動がウェンに向かって飛ぶ。
「ウェン、ぼっとするな!」
 ウェンはふと気がついて、手を前に構える。
「ゴウ・ベドルク!」
 ウェンが、現した杖をフォーラに向ける。
「ネシル!」
 発光する球が前よりも速いスピードで飛んでいく。
「強化した呪文に勝てると思うか!?」
 ナゾナゾ博士が笑った。たしかに、ゼガルガの威力はネシルよりも高い。相殺は狙えない。
「ネシル、ネシル!」
 さらに、発光の球が二つでた。
「な、何!? 術は、そんなに連発できないはず……」
 ナゾナゾ博士が驚いて声をあげると、さらに一発ネシルを放ってからウェンが言う。
「この杖の呪文は、魔本とは発動方法が違う。本の魔力……今は魔力としとくけど、何らかの力を使って本は術を使う。杖はそれを作って作られた。でも、本の場合は、本が光っている間、違う呪文はつかえない。でも、杖はね、それ自体が魔力だから、連発できるんだ。分かった? ……ネシル!」
 説明をしている間に、いつのまにか、ゼガルガはネシルに負けていて、杖はナゾナゾ博士に向けられていた。杖から球が放たれる。だがキッドは不適に笑い返してくる。
「僕たちはまだ本気を出してないんだって言わなかったかな……?」
「なめるなといったはずだ……ギガノ・ゼガル!」
 キッドの胸から砲身が現れた。そこから、巨大な青い波動が放たれる。そして、ネシルを巻き込んで、全てがウェンに向かう。ウェンはとっさに後ろに飛ぶ。波動は追いかけてくる。
「フォーラ!」
「第六の術、クロン・シルドルク!」
 ウェンがめいさい柄の盾を現して、それを装備した。その盾と波動はぶつかり合う。
「ぐわぁぁ!」
 ウェンの盾が攻撃に耐え切れず、壊れた。余波がウェンを襲い、後ろへ吹き飛ばした。惨めに倒れふすウェン。それをキッドが少し笑って見下ろした。
「ナゾナゾ博士、腕強化!」
「あぁ……アムゼガル!」
 キッドの片腕が機械化して、巨大化した。そして倒れているウェンに向かって走り出す。
「おりゃぁ!」
 ウェンの腹に振り下ろした。
「ぐふぅっ……!」
 そのままキッドは、ウェンのわき腹を殴って、ぶっ飛ばした。
「ウェン! 立てるか!?」
 フォーラがウェンに向かって叫んだ。ウェンは血を流しながらも、立ち上がった。
「だ、大丈夫……フォーラ、そろそろ“あの術”で決めよう……」
「……あぁ」
 フォーラはうなずいて、魔本をめくっていく。
「“あの術”?」
 ナゾナゾ博士が聞きながら構える。
「僕がこの勝負の中で、現した武器の数、全部で七つ。それの全てを……」
 ウェンがフォーラに目配りした。フォーラはうなずくと、術を唱える。
「第五の術、ルグセン!」
 フォーラが叫ぶと、地面からたくさん何かが浮かんできた。それを見てナゾナゾ博士は絶句した。
 浮かんできたのはなんと、ウェンが術で現した武器だった。
「な、何故じゃ!? 剣も、棍も、杖も、地面に捨てて消えた……。!!!」
 ナゾナゾ博士がはっとした。
「気づいたようだね。さっ**ったけど、武器は魔力でできているんだ。その魔力が消えるまでは、僕の手から離れても消えないんだよ!」
 ウェンが手を上に向ける。空中に浮いている武器の数が増加していく。数秒後には、百にはなっていた。
「な、何!?」
「しかもね、この術は武器の数を増加させるんだ。そして……」
 ウェンが上に向けていた両手をぶんっと振った。途端に、武器がキッドに飛んでいく。
「全てを対象者に飛ばす!」
 キッドとナゾナゾ博士の視界が武器で埋め尽くされる。それでも、なぜか笑いを浮かべるナゾナゾ博士。
「あなた程度にこの術を使うことになるとは……キッド!」
「うん!」
 キッドの体が光りだす。
「な、何をする気だ!」
 フォーラが叫ぶ。
「ミコルオ・マ・ゼガルガ!」
 キッドの体から光があふれた。そしてその光は変化していき、機械女神の姿へと変化した。
「なっ……!」
 ウェンは目を疑った。女神がこちらに飛んでくる。それと同時に、キッドに飛んでいっていた武器はすべて、泡のように消えてしまった。
「ぼ、僕の武器が……?」
 ウェンは呆然と立ち尽くした。女神はウェンに直撃した。
「あぁぁ……」
 突然襲ってきた激痛に、意識が薄れていく。声も出ない。
「ウェン! ウェーン!」
 遠くで自分を呼ぶ声が聞こえる。深い闇のそこへと落ちていく……


「な、なんだと!?」
 ラグナスは思わず声を荒げた。彼は今、脅威者を探して、スペインにきていた。そんなとき、ハイツから電話で連絡があった。
「風の脅威の仲間の中に、脅威者が二人もいた!?」
『そうだ。風の脅威以外にも、一人いることは分かっていたが、まさかもう一人いるなんてね……』
「……そこに全軍で乗り込もう!」
『早まるな。前にも言ったが、複製体に行かせる。そうだなー……レイラと……バルスに行かせようか? あの二人なら、やれるだろう』
「何故だ? 何故そこまで奥手になる必要がある?」
『ラグナスは、全軍で乗り込んで、三人も脅威者が手に入るなら、少々犠牲があっても良いと思ってるかもしれないけど、少数精鋭、って言葉を知らないようだね。レイラと、バルスを送り込む……二人は“中級レベル”の中でも、トップクラスだ』
「じゃ、じゃあ、四天王に……」
『だめだ。デボロの守りが薄くなる』
「……本当に奥手だな」
『ふふっ、君もだろ。じゃあ、電話切るよ』
「あぁ……」
 そういうと、ラグナスは電話を切った。それから、一人ごちる。
「脅威者が三人も手に入る……二人だけ送る? ……そうか、レイラとバルスにはあの呪文があったな」
 ラグナスは忘れていた。あの二人が使う、“全体束縛”の強さを……
 一安心したようで、ラグナスはスペインの町をさらに歩いていった。


「ウェン! ウェン!」
 フォーラがウェンの肩を揺らす。
「うぅん……」
 ウェンが目を覚ますと、フォーラは安心したようにしりもちをついた。
「ウェン君、生きてて良かったなー。私たちもいきなりのことだったから、力を制御しきれなかったんじゃ、すまんな」
 フォーラが怒ってナゾナゾ博士をにらみつけた。
「ウェンが死んだら、どうするつもりでした?」
「死ぬなんて、思ってもなかったし、死んでもいないではないですか?」
「あんたって人は……ミスター・ナゾナゾ。貴方は、人間にとって大切ななにかが欠落しているように思えますな」
 フォーラが言い放つと、ウェンを抱きかかえて、どこかへ行ってしまった。
 そんなひどいことを言い放たれたナゾナゾ博士の顔を、キッドは恐る恐る覗いてみた。すると、なぜかナゾナゾ博士は笑っていた。自分を嘲るような、笑みだった。
「……もういい。キッド。ここら辺で休むぞ」
 ナゾナゾ博士は、その笑いを一瞬で、何事もなかったのかのようにかき消して、近くの木にもたれかかって、眠り始めた。
 キッドは、何故笑っていたのか、それを聞きたかったが、もう眠たかったので、ナゾナゾ博士の横に腰を下ろして、寝た。


2005年05月29日 (日) 08時45分


(1031) 脅威編 外伝A〜真奈美妄想青春日記〜 投稿者:大輝 MAIL

Manami‘s Diary
○月×日 晴れ
 晴れ渡る蒼穹、優しく降り注ぐ木漏れ日、髪を撫でる潮風。
 こんななに気持ちいい日曜日はもちろん浩二君とデート――
 うるさいガキんちょとナルシストたちは置いて、今日は二人っきり。
 嬉しくて嬉しくてもうたまりません♪
 ふと横を見ると、潮風に茶髪がなびく彼がいました。私がその顔を見ていると、彼も私の顔を微笑んで見返してきて――きゃんっ(@>。<@)
 私はもうドキドキが止まらないので、浩二君の胸にダイレクトアタックゥ!
 浩二君は私のアタックを愛のトスで受け止めてくれました。嗚呼、これがバレーボールという名の、愛の協同作業なのね――きゃんっ(@>。<@)
 彼のトス、いわく抱擁で包み込まれた私……彼の胸の中は大きくて、とってもあったかかったです。そして私今、青春してるって思いました……
 その後、マクドナルドに二人で食事に行きました。
 そのときの浩二君ったら……
「トマトチキンフィレオと、コーラと……君のスマイルテイクアウト」
 いやん、もう、浩二君ったら、キザなんだから……スマイルをテイクアウトって、浩二君、もう私がいるでしょ? そんな男のスマイルテイクアウトして、どうしようっていうの?
 浩二君の心を奪うなんて……相当やる男の様ね。私の猛反撃。
「ハンバーガーとミルクと……貴方のハートをテイクアウト」
 そういって私が接吻を迫ると、男はなんか顔を引きつらせながら後ろに下がっちゃって……もう、照れ屋さんね。
 とにかくその男に打ち勝った私は、浩二君と同じコップにストローを二本さして、夢だった、両端からポッキー食べていって最後には――状態に。
 え、ちょっと違うって? そうねぇ、私がストローを口の中で折り曲げていって、浩二君に猛接近して――それで浩二君のハートをテイクアウトよ。
 でも失敗。浩二君も照れ屋さんで、私が唇にダイレクトアタックしようとすると、顔を引きつらせて後ろに下がっちゃうの……もう、かわいいんだからぁ♪
 それから世界の中心出会いを叫ぶ、略してセカアイだっけ? え、違うの?
 それを二人で見に行きました。
 映画を見ていくうちに、目がうるうるなっていく浩二君。そしてあの場面、
「助けてください! 誰か、助けてください!」
 浩二君はもう号泣しそうな勢いなんだけど、私はそんな可愛い浩二君しか見てないから微笑んでるだけ。
 でもそこで私がはっと気付いて、浩二君に言ったの。
「ねえ浩二君、私が今から倒れる真似するから、それを受け止めて、助けてください、って叫んでみてよ」
 そう私がいうと、浩二君は号泣を止めて、また顔を引きつらせたの。照れ過ぎよ、浩二君。
 そしてまずは練習。私が合図すると、浩二君が小さく口を開いてぽつんと、
「た、助けてください……」
 ノンノンッ! そんなありんこみたいな声じゃ皆の心に届かないわよ! じゃあ、もう本番。
 顔を赤らめながら、両手をいやいやいやと振る浩二君。もう有無をいわせず、私が倒れると、浩二君は私を寸前で受け止めて、号泣しながら叫んだ。
「誰か、誰か僕を助けてくださぁい!」
 浩二君……もう私が言うことは何も無いわ。
 そう、羽ばたきなさい。
 世界へと羽ばたきなさい。貴方のその迫真の演技は、もう誰も止める事ができないわ。
 その証拠に、号泣する浩二君を周りの人達は、眩しすぎて目をそらしているもの。
 子供に見てはいけません、って言ってるお母さんもいるわ。そうよ、子供はこんな崇拝なる演技を見てはいけません。
 私は余りの嬉しさに、そのまま気絶してしまいました。
 目が覚めた時は、泣きじゃくる浩二君の膝枕の上。彼の膝枕は……贅肉かな? とっても柔らかかったの。浩二君って以外とふっくらさんなのね。
 目が覚めても泣きじゃくる浩二君の膝枕の上に笑顔で寝つづける、西条真奈美、一六の春でした。


2005年05月29日 (日) 08時48分




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