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連載小説『ディアーナの罠』

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名前 MUTUMI
題名 142
内容  ひとりごち、新たに浮上したデータベースを叩く。エリクソンの脳内でイメージ化された円柱体が、粉々に砕けた。
 リンケイジャーは、データや数値を一定のイメージとして捉えることが多い。実生活に根ざす物体に置き換えて、仮想世界での処理を早めているのだ。勿論そのイメージは人によって千差万別で、フェンタジックな想像をする者もいれば、あくまで論理的に味気ない見方をする者もいる。どちらが良いという訳でもないが、柔軟な思考の持ち主の方が、処理速度は早くなる傾向にあった。
 リンケイジャーには、視覚を司る感覚器は必要ない。電子化された情報は、電子受容体で電気化され、ナノニューロンを通って直接脳のシナプス回路に送り込まれる。その後は通常の処理行程を経由し、最終的に頭の中にイメージが浮かび上がる。それが外部から取り込んだデータだ。
 リンク中は、目を開けていても瞑っていてもどちらでもいいのだが、視覚やからの情報が、つまり目で見る景色が、脳で混乱を招くことも多いので、閉じる者の方が多かった。
[172] 2006/05/16/(Tue) 19:27:49

名前 MUTUMI
題名 141
内容  ピ、ピピ。
 エリクソンの膝の上の携帯端末が時々小さな音をたてる。エリクソンの体はピクリとも動かなかったが、その頬は時々歪んだり、口元が楽しげに弓なりに反ったりしていた。
 現実では何の行動もしていないが、電子の世界では違う。電脳空間においてエリクソンは、ルキアノ・フェロッサーの指示を守るべく、限界ぎりぎりまで自らの脳を使い破壊活動を行っていた。
 エリクソンが行っているのは、ネット上の無差別テロだ。ディアーナ星を覆うローカルネット、通称Dネットを混乱に陥れるのが目的だった。
 エリクソンが狙う物は別にあったが、それに近づくために、彼は手当たり次第にあちこちの有名なシステムや、一流のデータベースを破壊して回っていた。
 ガードプログラムも常駐の監視者もいたが、エリクソンを阻むことは出来なかった。リンケイジャーの速度に対応できるのは、同じリンケイジャーしかない。硬直的なプログラムや反応速度の遅い人間では、どうにもならないのだ。
(ちょろいもんだ)


 
[171] 2006/05/11/(Thu) 22:51:54

名前 MUTUMI
題名 140
内容 (この世は策謀と欺瞞に満ちている。避ける術もなく、落とされる……)
 ギリッと歯が音を発てた。ネロは、何かを見定める様に虚空を睨みつけた。怜悧な瞳に強固な意思が浮かぶ。
(連隊長、仇は必ず!)
 無意識に拳が握り込まれ、フルフルと怒りで揺れる。ギリギリと爪が肉にくい込み、裂かれた皮膚から滲んだ血がポタリと床に1滴落ちた。エリクソンの作業を見守りながら、ネロもまた異なった怒りを発露する。
 互いの怒りや憎悪を共有する事はないが、二人は良く似ていた。この世に対し、あまりに強い感情を持ち過ぎている。忘れる事の出来ない暗い感情は、人の理性を容易く飲み込みバランスを狂わせる。踏み出した狂気は止まらない。
 その目的が果たされる迄は……。
[170] 2006/05/07/(Sun) 21:50:35

名前 MUTUMI
題名 139
内容  エリクソンは視力を奪われ盲目となり、足を奪われ歩行不能となった。生きている事を感謝するよりも先に復讐を誓った。戦う事を誓った。
 サイボーグ化の手術を受けても、目は蘇らない。人工角膜も入手は難しい。戦う方法は限られており、それは決して平坦な道程では無かった。
 最も早く最も楽に第一線に戻る方法は、リンケイジャーとなる事だった。エリクソンはそれを選択し、恐ろしく低い生存確率を執念で突破した。ただ己の復讐の為だけにその力を手に入れ、相手と同じ舞台を手に入れた。
 それは妄執とも呼べる感情だった。
(おっかないな。だがそれがどこ迄通用するやら……)
 憎悪や憤怒が通用する相手では無い。ネロやエリクソンが狙う相手は、直情的な行動でどうにかなるような、そんな生易しい相手ではなかった。幾重にも罠を張り巡らせようやく落とせる、そんな人物だ。
(罠は全て張り巡らせた。一のカードは『総代暗殺』。二のカードは『星間中央警察』。三のカードは『リンケイジャー』。四のカードは『ディアーナ』。そして最後のカードは『神の巫女』)
 ネロはそっと眼差しを伏せた。なぜか口がへの字に曲がる。
(正しいと思わなければ、罪悪感に支配されそうだな)
 ルキアノ・フェロッサーの描いたシナリオとはいえ、盲目的な支持はしたくなかった。
(神の巫女……か)
 その映像の衝撃をネロは忘れられない。ルキアノ・フェロッサーから渡されたディスクに映っていた物は、ネロの感情にすら揺さぶりをかけた。それが真実だとするのなら、星間連合に正義は無い。そう思わせるものだった。
[169] 2006/05/05/(Fri) 16:36:44

名前 MUTUMI
題名 138
内容  …………表だっては。
 リンケイジャーシステムの心臓部である電子受容体も、脳と電子受容体を繋ぐナノニューロンも、今では製造されていない。だが決して星間からなくなったわけではないのだ。禁止される直前迄製造されていた物が、デッドストックとして残っている。わずかではあるが、裏で流通していた。
 手術をする医者にしても、死に絶えた訳では無い。それなりの金を積む、それなりの規模を持った組織であれば、違法ではあっても、新たにリンケイジャーを産み出す事は可能だった。
 もっとも、生存確率の低い手術を希望する者は極まれではあったが。
[168] 2006/05/05/(Fri) 15:44:15

名前 MUTUMI
題名 137
内容  ある意味リンケイジャーは兵器なのだ。人が産み出した、人の形をした心を持つ残酷な演算マシン。
 外部からの情報を取り込み瞬時に分析し判断を下す、1分1秒が生死をわける状況下においては、これほど有利なものは無い。脳内で判断された事象はタイムラグなく繋がれた機械(マシン)に反映される。それが戦闘機であろうと、宇宙船であろうともだ。
 リンケイジャーが遅滞なく判断出来る情報の量は、個体によってかなり差がある。戦闘機1機が精一杯の者もいれば、大規模な宇宙船の艦隊を動かせる者もいる。その能力の開きは、どれだけリンケイジャーシステムに順応出来るかによって、決まると言って良い。
 また、電子受容体やナノニューロンの埋め込み手術後、演算処理を早めるために脳内に刷り込まれる、機械(マシン)の制御的な情報も、各自ほとんど同じだ。けれどそれを引き出す過程で差が生じる。きちんとアクセス出来るかどうかによって、操作出来る範囲も変わって来るのだ。
 通常はせいぜい頑張って、未開発宇宙での宇宙船の自由航行だろう。航路の定まらない宇宙を、宇宙船の機能を使って、自由裁量で飛ぶぐらいしか出来ない。
 けれどこれが上位レベルとなると話は変わってくる。大破した宇宙船の機能を自らが代価してしまうのだ。
 宇宙船のメインプログラムはもとより、エンジンの制御プログラム、武器制御プログラム。果ては航宙図まで脳内から引きずり出して来る。恐ろしい事に、そういった制御情報を自らアレンジしてしまう者もいた。
 機械の正確さと人間の柔軟さ兼ね備えたリンケイジャーの出現は、皮肉にも戦火を拡大し、数多の犠牲を新しく産んだ。星間戦争を、地域紛争から星間レベルの大戦へと発展させていった遠因の一つとして、今では認識されている。
 それ故に、リンケイジャーに関する一切の技術は戦後に封印され、その手術は違法となった。
[167] 2006/05/05/(Fri) 14:37:38

名前 MUTUMI
題名 136
内容  エリクソンが受けた手術は、リンケイジャー(自らの脳と外部機械を電子的に直結させ、脳内で処理したものを機械に直接反映させる事が出来る者)を作り出すというものであった。
 星間戦争時代に開花した人体改造技術の一つなのだが、人の脳と機械を繋ぐというその悪魔的な発想故に、当時から倫理問題に抵触していると騒がれたものだ。
 星間戦争中は、神の側も抵抗勢力の側も、勝ち残る為に倫理問題には目を瞑っていた節がある。共にその手術の致死率の高さを知っていながら、隠蔽していたのだから。
 リンケイジャーは戦争末期に大量に産まれたが、そのほとんどは大戦中に亡くなっている。大多数のリンケイジャーが最前線に投入され、殺しあったのだ。生き残る事の出来た者は、ごく少数の幸運な者だけだった。
 また仮に生き残れたとしても、ほとんどの人間は大なり小なり脳に損傷を負っていた。全く無傷と胸を叩いて断言出来るのは、僅かに三人だけだ。
 
[166] 2006/05/02/(Tue) 00:13:10

名前 MUTUMI
題名 135
内容 (こんな事で殺せるのならば、世話はないんだがな)
 肩を竦めつつ、ネロは無意識に腕を組む。無感動な目が、エリクソンの顔面を覆う傷に向けられた。サングラスで隠された下には、目を覆いたくなる程の痛々しい傷が残っている。
 その傷は目を一直線に抉り、鼻の一部を削いでいた。眼球が潰されていることは、間違いがない。鋭利な刃物というよりは、何かのエネルギーで焼かれたような傷だった。
(盲目の癖によくやる。……いや、盲目だからこそあの手術を希望したのか)
 その覚悟だけは、尊敬に値すると思った。
[165] 2006/04/27/(Thu) 23:56:04

名前 MUTUMI
題名 134
内容 「お前と違い、俺はあいつと直接相対した。あいつがどれだけ危険かなど、百も承知だ」
「ふん、そうか」
 眼鏡を押し上げ、ネロは皮肉気に口元を歪める。
「そのわりには、前回はズタボロにやられたそうじゃないか」
「嫌味か?」
「別に」
 ネロは冷笑しながらも、エリクソンの片腕を軽く叩いた。
「まあ、せいぜい頑張ってくれ」
「ああ」
 エリクソンは軽く頷き、個人用端末を起動させた。その側にはネロが佇み、何かを観察するように、エリクソンを見つめている。その表情は、実験動物を見る者のそれのようだった。
[164] 2006/04/26/(Wed) 21:37:27

名前 MUTUMI
題名 133
内容  言葉にはねっとりとした悪意が絡まっている。凶器にも似た憎悪はどこ迄も暗い。車椅子の男は愉快そうに笑い、膝の上の個人用端末をひと撫でした。指先に金属の冷たい質感が伝わる。
「失った目と足以上の物を、俺は手に入れた。あいつと同じこの能力をな」
 ネロは黙って車椅子の男の独白を聞く。その表情は、何故か能面のようだった。仲間にもかかわらず、大した感慨も抱いていないようだ。それには気付かず、盲目の男は言葉を続ける。
「見てろよ。パーフェクトに仕上げて、あいつを釣り出してやる」
 ネロは微かに眉をひそめた。
「エリクソン、油断は禁物だ」
「そんな事は、言われなくともわかっている」
 エリクソンと呼ばれた男は、忌々し気に舌打ちする。ネロの忠告が気に喰わなかったようだ。
[163] 2006/04/23/(Sun) 21:17:16






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