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連載小説『ディアーナの罠』

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名前 MUTUMI
題名 170
内容 「普段ならありえないんですか?」
 一矢が慎重な言い回しで聞く。
「ええ。確かにテリーもメイファもどじる事が多いけれど、でも逮捕術に関してはなかなかの腕前なのよ」
「へえ」
(意外だ。メイファさんってどじっ子って訳でもないのか)
 今迄のメイファーの行動とは少し違った一面を、一矢は知った。隣に座るボブも、彼女を少し見直したようだ。
「容疑者の方が一枚上手だった、そう言われればそれまでなんだけど……」
 確証も何もなく、皮膚感覚だけの発言なので、シェリーの言葉尻はいかんとも弱気だ。
(身体能力か……。なる程、なかなか面白い情報だ。肉体強化でもしてあったのか? それとも……)
[202] 2006/08/24/(Thu) 22:43:53

名前 MUTUMI
題名 169
内容  一矢は勲章の破片をビニールパックへ戻すと、二つ折りの端末を閉じ、視線をロン達へと向けた。
「陸軍の調査はこちらで行い、後程そちらに報告します。それでよろしいですね?」
「ああ、結構だ」
 ロンが一同を代表して回答する。
「他に何か気付いた事とか、気になった事はありませんか?」
 大した情報はもう出て来ないだろうと考えつつも、刑事独特の皮膚感覚に期待した一矢はそう続けた。すると、裕斗とシェリーが何か言いたそうに見つめ合う。互いに、どう切り出せば良いか迷っているようだ。ややして、裕斗に押し切られたシェリーが口を開く。
「あのう……、いいでしょうか?」
「どうぞ」
「その、なんというか……。ネロ・ストークについてなんですけど、少し身体能力が高過ぎると思いませんか?」
「身体能力ですか?」
「はい。容疑者はビルからビルへ飛び移って逃げています。確かにテリーとメイファも同じ事をしましたけど、追いかけて直ぐに引き離されています。鮮やか過ぎると思いませんか?」
 そうシェリーが疑問を呈すれば、裕斗も心情を露呈する。
「テリーってさ、身体能力だけはいいんだ。メイファもいい方だし。あの二人があっさりと引き離されるなんて、何だかちょっと気になってさ」
 
[201] 2006/08/23/(Wed) 21:08:45

名前 MUTUMI
題名 168
内容 (どうも引っかかるんだけど……、まあいいか。桜花部隊を嵌めようとする馬鹿はいないだろうし。いたとしても返り打ちにすれば済む話か)
「最大限、周囲には注意を払うこと。何か可笑しい素振りがあったら、直ぐに報告させて」
「了解」
 真面目くさった顔でボブは応じた。
[200] 2006/08/16/(Wed) 10:43:58

名前 MUTUMI
題名 167
内容 「どうしても必要か?」
「考える迄もなく」
「……」
 一矢はじっとボブを見つめた。そんな一矢を説き伏せる様にボブは続ける。
「髪の毛一本落とさない容疑者が、偶然に勲章を残すと思いますか?」
「……常に持ち歩いていて、慌てていたら……」
「本気で思っています?」
 胡乱な視線に晒され、一矢はあらぬ方を向いた。自分でも非常に苦しい言い訳だと、わかっている。
「……ないよなやっぱり、そんなこと」
 溜め息混じりに漏らせば、
「ないですよ」
 ボブの短い返事が返って来る。
「どう考えても作為があります。それが何かは知りませんが、恐らくストーク連隊に対する何らかの意図が働いています」
「……意図か。わかった。いいよ、好きなだけ調べな」
 胸の内に嫌な予感を抱きつつも、一矢はゴーサインを出した。
[199] 2006/08/13/(Sun) 19:14:06

名前 MUTUMI
題名 166
内容  それでも一矢は答えを渋る。
 終わった事を蒸し返すのは、何もなければどうという事もないが、今回の様にきな臭い噂がつきまとう物に関しては別だ。下手に弄るととんでもない事になりかねない。
 一番有力な『嵌められた説』が事実なら、ケニー・ストークを嵌めた人間がどこかにいるはずで、その人間は今も陸軍にいる可能性が高い。或いは政治家として、星間連合の内部に食い込んでいる可能性もある。
 事件を蒸し返す者に対して、良い印象は抱かないだろうし、妨害が起こる可能性もある。或いはケニー・ストークと同じ様に、何らかの方法で嵌められてしまう可能性も……。調査をする側にとって、リスクが大き過ぎるのだ。
 だから一矢は渋る。
[198] 2006/08/06/(Sun) 16:41:27

名前 MUTUMI
題名 165
内容 「だが……」
「ええ、推測は出来ます。一番有力なのは『嵌められた説』でしょうか」
「嵌められた?」
 ロンが眉を潜める。
「先程も言いましたが、当時の情勢は混乱していました。外部からの命令が紛れ込んだ可能性も、なきにしもあらず、なのです」
「え?」
 シェリーが目を見開き、そんな馬鹿なという顔をする。
「或いは、陸軍内部のケニー・ストークを邪魔だと思っている一派が、絡んだ可能性もあります」
「……っ!」
「何だよ、それは! そんな事でどうして!?」
 裕斗が思わず怒鳴る。
「さあ? 自分には何とも」
 ボブは軽く肩を竦めた。
「他にも『ケニー・ストークが狂った説』だとか、『陸軍上層部が秘密の実験を行った説』だとか、『寒村ではなくゲリラ施設だった説』だとか、きりがない程あります」
「どれが真実かわからない程あるのか?」
「そうです」
 ボブは頷き返し、隣に座る一矢に視線を向けた。
「陸軍の暗部になりますが、探っても良いですか?」
「……」
「桜花」
 許可を求めるボブに対し、一矢は渋面を向けた。くっきりと眉間に皺が寄っている。
「かなり、……やばいんじゃないのか?」
「そうかも知れません」
「薮を突いて蛇が出る可能性は?」
「あります」
 あっさりと一矢の疑念を肯定し、ボブは続ける。
「けれど、ネロ・ストークを調査するのには必要な情報でしょう」
「だけど……」
[197] 2006/08/06/(Sun) 12:20:14

名前 MUTUMI
題名 164
内容 「銀星十字勲章!?」
「確かなのか!?」
 捜査官達が驚きの声をあげた。
「ええ。銀星十字勲章は基本的に僕ら軍属に贈られる物ですから、見覚えありますし……。裏側に刻印されたシリアルナンバーもちゃんとありましたし……、多分これ、割れてるけど本物ですよ」
 一矢はあっさりと断言した。
「データベースの検索結果から、持ち主も判明しています」
「! それがケニー・ストークか!?」
 先程からの一矢とボブの会話を振り返り、ヒューズが聞く。核心に近い情報に、捜査官達はわずかに身を乗り出した。彼らにしてみれば、驚く程の捜査の進展があったのだから、それも無理はない。
「ケニー・ストークは自殺したと、先程言っていたようだが……」
「ええ。僕も細かい事は知りません。ケニー・ストークの所属は陸軍ですし……。【02】、補足出来る?」
 一矢はボブの横顔を見上げた。
「多少なら。前にも言いましたが、彼は不祥事の責任を取って自殺をした、そういうことになっています」
「なっている?」
 微妙なボブの言い回しに、ロンが反応する。
「ええ、『なっている』です。本当のところはわかりません。殺されたのか、自殺だったのか、今や薮の中です。ただ、ケニー・ストークが死んでいる、この一点だけは事実です」
「不祥事と言われたが、それはどのような?」
「それは……」
 裕斗の質問に、ボブは躊躇うような表情を見せた。そっと一矢を伺うと、構わない話せと命じる視線に出会う。ボブは唾をのみ込むと、意を決して話し出す。
「作戦行動中にストーク連隊の一班が、寒村を攻撃し村人全員を射殺。その後行方をくらませました。彼らは、いまもって行方不明です」
「なっ!?」
「何よ、それ!」
 不祥事の規模と酷さに捜査官達は言葉をなくした。
「事件が起きたのは、星間連合が組織された2ヶ月後です。当時はまだ星間中が混乱していた時期で、事件は表に出る事なく、陸軍内部で処理されました」
「……っ」
「密室処理か」
「そうです。査問委員会も非公開のまま、判決が出たと聞いています。内容迄は知りません。ケニー・ストークが自殺したのは、その直後です」
「……虐殺はどうしておこったんだ?」
「わかりません」
 ボブは緩く首を振る。
「噂はそれに触れていませんから」
[196] 2006/08/03/(Thu) 14:39:33

名前 MUTUMI
題名 163
内容  ボブが怪訝そうな声を出す。
 一矢は黙って端末をボブの方へと向けた。ディスプレイ上には、星間連合のデータベースに入っているという目印でもある、太陽と月のマークがあり、検索項目には勲章という表示と、金属片に彫られていた5桁の数字が入力されていた。
「刻印されていた数字は5つだけしかなかったけど、その数字が並ぶ物は一つだけしかない」
 ボブは表示された検索結果に目を見張る。
「これの持ち主は……ケニー・ストーク。【02】が本部で連想した、陸軍の自殺した元連隊長の物だ」
「これは一体全体、どういう事なんでしょうか?」
 困惑も露に一矢を見ると、一矢も何やら不安そうな顔色だった。
「わかんないけど、少なくともネロ・ストークの偽名が、この連隊長に関連しているのは、明らかだよ」
「ストーク連隊が……」
 ボブはそう呟き、押し黙る。一矢も思う所があるのか、何やら深く考え込んでいる。期せずして、二人が沈黙の回廊と思考の渦に入った事により、室内から会話らしい会話と音が消えた。
 捜査官達はそんな二人を前に、困ったような表情をしている。頼むからこちらにも説明してくれと、その顔は無言で主張していた。
 だが、一矢もボブもそれに一向に気付く事はなく、……結局、我慢出来なくなったヒューズが代表して声を張り上げた。
「悪いんだが、こっちにも説明してくれないか? その金属片から、何がわかったんだ?」
「あ、ごめん。ええっと、これの正体なんですけど、勲章です」
「勲章?」
「はい。星間連合の銀星十字(ぎんせいじゅうじ)勲章です」
[195] 2006/07/31/(Mon) 00:44:16

名前 MUTUMI
題名 162
内容 「どこの物かわかるんですか?」
「……うん」
 短く答え、一矢は視線を端末からボブへと向けた。
「壊れていないのを僕も持ってるよ」
「え?」
 一矢は視線を端末へと落とす。端末は一矢の入力した数値を懸命に検索していた。一矢がアクセスしているのは星間連合のデータベースだ。古今東西のあらゆるデータが保存されている、誰でも使える公共の代物だ。
「あ。ヒットした」
 端末に表示された情報を見つめて一矢が呟く。
「……そう繋がるのか」
「桜花?」
[194] 2006/07/26/(Wed) 22:43:59

名前 MUTUMI
題名 161
内容  ビニールパックの中には、銀色の金属のような物があった。一見した所では、金属片のように見える。
「金属の欠片か?」
 ボブは呟きつつも、ヒューズに向かって片手を伸ばした。ちょっと貸せということらしい。ヒューズは黙って証拠品をボブへ放る。難無くボブはそれをキャッチし、一矢にも見える様に机の上に置いた。
 金属片と見えた物は、複雑な形をしていた。加工物らしく縁部は丸みを帯びており、一部は塗料が塗られているのか、青く輝いていた。ただぞれの全体像は、はっきりとしない。どうも粉々に砕かれた物の一部のようだ。縁部以外はザラザラしており、金属独特の無惨な折れ口が見えた。
「何かの一部のようですが……。どこかで見たような……」
 ボブが考え込む。その横で、一矢は呆然と目を見開いていた。
「……桜花?」
 微動だにしない一矢の様子に違和感を感じて、ボブが言葉をかける。
「心当たりでも?」
「あ……いや。……もっと良く見てもいい?」
 許可を求めてロンを見遣ると、ロンは静かに頷いた。一矢はビニールパックを引き寄せ、中の物を取り出す。重さを確かめる様に手の平に乗せ、後ろにひっくり返した。金属には小さな数字が幾つか刻まれていた。
「……本物だ」
 呟き、再び表を向ける。確認するかの様に青い部分を指先でなぞり、
「七宝焼き」
 と小声で漏らす。
「え?」
 ボブはぎょっとして一矢を見た。ベースが金属で七宝焼きで、刻まれた数字と来れば、ボブには思いつく物は一つしかない。
「まさか」
「多分、そうだよ」
 一矢はエアカーの中で使っていた端末を取り出すと、金属片に書かれていた数字を入力する。
[193] 2006/07/24/(Mon) 22:17:35






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