開場2時30分にもかかわらずその前から入口に列ができていた。 熱心なファンが増えてきたのだろうか。会場はほゞ満席で開演前から熱気が漂っていた。冒頭のウエルカムスピーチで東北地方とひとつになる話のとき、操は緊張のためか感動のためか、泣き声に近い表情を見せた。状況設定に自ら酔っていた(感動していた)のだろう、素直な思いが伝わってきた。“酔っていた”という言葉を私は悪口としては使っていない。酔うことは、アーティストが自然な感情のままに演奏できる状況だと思うので。第一部は神妙に聞かせてもらった。力強く静かに、これぞフルートという演奏だった。第ニ部 ややリラックスした波戸崎操の進歩した本領が発揮された感じがした。最初、フラメンコ、ギターと声だけのフラメンコの中にでも波戸崎操の存在は見えた。その後パーカッション・ピアノが加わり、音量的にははるかに小さくなったフルートであったが、主役はフルートであり続けた。これは素直な驚きであった。 約10年前のリサイタルで、琴・和楽器との合奏を聞いた時のことを思い出した。この時の印象を言えば、フルートは影の存在だった。一瞬よみがえったその記憶と今回の演奏との違いは歴然としている。波戸崎のフルートが見えない指揮者のように他の音曲を支配しているのだった。各共演者に一言ずつコメントを求めたとき、口裏を合わせたようにみんなが“波戸崎さんのおかげです”と言っていたが、あれはお世辞ではあるまい。彼らが心から波戸崎操のフルートに協奏していたことは聴衆の耳に届いていた。 今回は、かなり手の込んだ演出であった。演出に手を入れ出しそれが成功したということはフルート演奏の実力が上がり自信ができてきたということだろう。一般論として言えば、時として演出過剰から演奏者の自信のなさが見えることがある。 そんな時は聞いていて少し気の毒になるものだ。今回は今までの演奏会よりも高い演出を感じたが決して過剰ではない。正にフルートと一体となって会場を盛り上げていた。
アンコールに入ってから波戸崎のリラックス感はさらに盛り上がった。楽しんでいる。フィギャスケート大会のあと入賞者によるエキシビション演技がある。私はあれを見るのがむしろ本番より好きだ。選手たちが伸び伸びとスケートを楽しんでいるのが見えるから。今回3回にわたるアンコール演奏でも、主役の波戸崎のみならず各演奏者も楽しげに演奏していた。こんな雰囲気の下では当然聞き手も楽しくなる。いい料理の後おいしいデザートを食べた満足感を残しつつ帰路に着けた。妻が一緒でなかったのは惜しいことをした。
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