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エスエムエル服飾会社総務担当笹井小徒の新たな日常 2017年01月24日 (火) 20時09分
英語で plausible と呼ばれている“あり得そうな”大男を、現実感のある設定の中で、描いていこうかと思います。
遅々とした投稿になるかもしれませんが、よろしければお付き合いください。
マリガン   4nice!
 
<2> プロローグ/コマーシャル 2017年01月24日 (火) 20時16分
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テレビ画面の中で、関西ローカルではよく顔の知られている、男前の芸人が歩いて出てきて、中央で立ち止まった。
濃紺のピンストライプのスーツを着て、バシッと決めている。
「どや? ええやろぉ、このスーツ。でも、普通のMサイズだけじゃないんよ。」

同じ風合いのスーツを着た、芸人の胸までしか背がない小男が、前に出て来た。
「超Sサイズもあれば、そんから……」
芸人の背後に大きな影が現れた。カメラがズームアウトすると、また同じスーツを着た、芸人よりも頭一つ分以上大きな男が現れた。
「……超Lサイズだって。どんな服でも、わてらのところで、ご注文ください。」

画面には肥った女性、痩せた女性、中くらいの女性もキャーキャー騒ぎながら現れた。これまたお揃いのピンクのOLスーツを着ている。

さらに舞台衣装のようなド派手な格好をした人たちも、次々と踊りながら出て来た。

「特注の衣服は、エスエムエル服飾会社まで!あなたに合わせて、どんな服でも作ります!」
マリガン   7nice!
<3> 第1章/新規就職希望 2017年01月24日 (火) 20時27分
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ここは神戸市兵庫区。工場が立ち並ぶ一角に、エスエムエル服飾会社はあった。
テレビのコマーシャルに出ていた長身の男が叫んだ。
「おーい、ショート。仕事だ。ちょっと徳島まで行ってくれ。」

2メートルを超えるバタ臭いハンサム男は、この会社の社長だ。
従業員十数名の小規模の会社だが、経営は順調だ。コマーシャルで言っていた通り、臨機応変に対応するので、ニッチなニーズをさらっている。普通にオーダーメイドをする裕福な個人や、劇団やイベントの大口の注文が、次々とある。割に儲かっているらしい。
とはいえ大会社ではないので、明確な部署はない。各人が得意分野を分け合って、会社全体の仕事をこなしている。

声をかけられた「ショート」こと、笹井小徒(ささい・しょうと)は、主として事務仕事を請け負っている。鼻眼鏡をかけ直すと、椅子をきしませて、立ち上がった。
社長の背谷宙大(せや・ちゅうだい)のところへ行き、徳島出張の詳細を聞くことにした。

グレーの机がいくつか並ぶ、いたって実務的な事務所である。机によっては、資料や布地見本などが山積みになっている。その物品の合間を通り抜ける、笹井の頭がある。
だが、その頭の位置はえらく低い。
かろうじて机上に積まれた物の上に出る程度だ。

社長の椅子のそばに来た。
元バスケ選手の背谷は腰掛けていながらも、笹井を見下ろしている。
笹井の身長は、135センチしかないのだ。小学生3〜4年生並だ。

もちろん、顔や体つきは大人になっている。
コマーシャルに出ていた小男は、この笹井だ。クリッとした瞳、やや太めの眉、横にも広がった鼻。顔だけ見れば、それなりに整っている。
太っているわけでは決しないのだが、身長がまるで伸びず、中年にさしかかろうという30歳代半ばになると、やや体つきが丸みを帯びてきた。上背がないと、体についたぜい肉がやけに目立つものだ。
CMのときとは違い、光沢のない灰色の背広を着ている。すると、ずんぐりしたおじさん風に遠目には見える。だが、顔つきと小柄のかわいらしさで、青年の雰囲気もまだまだ残している。

一方の背谷社長は、赤いネクタイなどやや派手めな印象がある。手の甲や、少しだけのぞいている腕には剛毛が生え、男らしさを一段と醸している。
夏場にシャツを開襟にすれば、胸毛が見え隠れしてくる。
バスケ選手時代の写真を見ても、脇の下は真っ黒だ。影以上に、彼の毛深さがその所以である。
まつ毛も長く、髭の剃り跡も青い。顔つき全体も、非常に濃い印象だ。よく陽に焼けた肌は脂ぎっていて、ボディビルダーがオイルでも塗っているかのようだ。リーチが長いのであまり目立たないが、腕にも脚にも、しっかりとした筋肉はついている。さすがは元スポーツ選手だ。ピンクのシャツを内側から押し上げている胸筋は、背谷が腕や肩を動かすたびに、ピクついて更に布地を盛り上げている。よく見ると乳首の黒さがシャツの布地越しにもうかがえ、左右対称に勃っている突起がある。
セックスアピールはビンビンだ。

何やら楽し気に、白い歯を見せながら、背谷は笹井に向けて説明をした。

この会社に就職希望の問い合わせが届いたのだ。ただ、止むを得ない事情があって、神戸の会社に一人でやってくることはできないらしい。それでも、絶対にこの会社のためには役に立つ人材だから、徳島の自宅にまで、人事担当者が面会に来てほしいという依頼なのだ。

「え?何様のつもりですか?就職希望なのに、この申し出はないでしょう。それとも、ヘッドハンティングに値する実績の持ち主なのですか?」
また鼻眼鏡を直しながら笹井が訊くと、背谷社長は答えた。
「いや。20歳で、初めての就職だそうだ。」
「バカバカしい。」
「とはいえ、この自信は小気味イイじゃないか。今、日常業務はそんなに立て込んでもいないだろう。徳島県でも住所を見る限り、かなり遠いんだ。泊りがけになってもいいから、ショート、お前、行ってどんな人物か、確かめてきてくれ。」
「物好きですね。まあ、社長がそのつもりなら、わたしは一向に構いませんが。」

男性社員で独身なのは笹井だけなので、急な出張を頼まれることは、時々ある。
それに、この社長の野生的なカンは、中々鋭いのだ。翌日から留守にするため、その日の残りは、笹井はとりかかっている仕事を切りのいいところまで片付けていった。
マリガン   5nice!
<4> 第2章/宙に浮かぶ…… 2017年01月24日 (火) 20時37分
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神戸から徳島は、海を渡るが、隣接している。だが、就職志願者の住所は三好市だ。西の端で、神戸からは一番遠い。四国の他県と隣接する、山奥に位置するところだ。
しかも、象潟(きさかた)という件の人物がいる村は、どうやら限界集落らしい。
そんな僻地から、わざわざ神戸のド真中に、なぜ就職しようとしているのだろうか。

会って話を聞いてみなければ、何も分からない。
社長のところに届いたメールに返信をした上で、笹井は出掛けていった。

社用車のプロボックスをすっとばし、明石海峡や鳴門海峡を通り抜けていく。天気もよく、見晴らしもいい。宙を渡るようで、気分がいい。ほどなく徳島市内に入ったが、目的地はまだ100キロほど先なのだ。ひたすら山間部を走っていく。時々見かける人工物もほとんど見かけない。徳島県の端になる、三好のインターで下り、更に下道で目的地を目指す。途中からは舗装されていない道路を走り続け、車が傷つかないか心配だ。

険しい山道を注意しながら運転し、いい加減疲れてきた。
と思うと、道を覆うように茂っていた樹々がまばらになり、少し開けた谷合いの集落が見えてきた。
地図のルートで見る限り、ここに間違いない。
ただ、何軒かの家は既に朽ち果てている。
ナビ画面ではよく分からなかったので、あらかじめ用意してきた詳細な住宅地図のコピーで、象潟の家を目指す。
一番上地にあるらしい。

他の家に比べると、家の周りが整えられている。落ち葉などのゴミも少ないし、道がよく踏み固められている。
敷地内の空き地に車を入れる。
茅葺き屋根の母屋の他に、簡易物置を高さも幅も2〜3倍にしたような、納屋とおぼしき建物がある。
笹井は母屋に向かった。

家は留守だった。
「象潟さーん、こんにちはー。エスエムエル服飾会社の者ですけれどもー。」
返事はない。
試しに引き戸に手をかけると、鍵もかかっていない。
中をのぞくと、薄暗い。電気は何も点いていない。

笹井は長時間ドライブで、疲れていた。家はここで間違いないはずだ。
広い土間の片隅に、水道が整備された台所とおぼしき一角がある。流しの脇に作業台があり、さらにその脇には大きな薪ストーブがあって、どうやら火を使う煮炊きはこれでこなしているらしい。
土間を横切り、あがりかまちに腰掛け、背筋を伸ばす。古い農家らしく、天井が高い。
そのまま仰向けに寝転がると、板の間の冷たさが、汗ばんだ背中に気持ちイイ。
ふうーぅ。
大きく息を吸った。
古い家ながら、何か落ち着く雰囲気があった。
(こんな昔ながらの家に住んでいるのって、どんな奴なんだろうか……)

開けっ放しの玄関が、ふいに黒い影で、完全に覆われた。先程まで外の様子が白日の下に見えていたのが、何か巨体のものが現れ、外界との出入口を全く塞いでしまったのだ。
戸口に手が掛けられ、体をねじ込もうとしているらしい。ガタガタと音がする。屋内には光がほとんど届かず、様子がまるで分からない。咄嗟に笹井は、熊が襲ってきたのだと考え、命の危険を感じた。ハッと身を起こし、文字通り手足をバタバタさせて、慌てふためいた。その拍子に、極度の近眼用の眼鏡が外れてしまった。

静かに何かがうごめく気配があった。戸口をくぐるときに屈めていた身を、土間の中に入ってきて、スックと伸ばしたのだ。その巨体の持ち主のシルエットは、熊ではなく、人のものに他ならなかった。

繰り返すが、屋内の照明は何も点いていない。
戸口から射し込む自然光だけが、光源だ。
笹井のいるところからは逆光であり、中に入ってきたものの詳細は、まだよく分からない。
だが、徐々に外から射し込むささいな光で物を見ることに目が慣れてきた。

笹井は空中に浮かぶ電球を見た気がした。
妙な表現だが、そう思えたのだ。

天井に付いているにしては低い。普通の人の頭ほどの位置のところに、ほのかに白く輝く、ランプシェードのようなものがあるのだ。
笹井は立ち上がり、そこに近づいた。
薄暗い屋内。見ず知らずの場所。その上、眼鏡が外れて、視力が悪い。把握できたその白い物に歩み寄り、笹井は腕を上げて、宙を探りながら、それに触れた。
表面の手触りは布地のようだ。だが、少し手を押し当てると、柔らかい感触。何か、円柱状のものがある。ビールのロング缶のような大きさだが、ゴムチューブのように婉曲している。指先に少し力を入れると、布に包まれたその長い物がグニグニと動き、弾力があることが分かる。
身に覚えのある感覚なのだが、それが何なのか一向に思い出せない。
さらに手を当てて、側面をさすったりしていると、何やら熱を帯びてきて、柔らかかったものの弾力が増して、少し固くなってきた。

「ちょっと、すいません。失礼しますよ。」
太く大きな声がした。かと思うと、笹井の体が持ち上げられた。訳も分からず、笹井はわき腹から腰のあたりをつかまれ、グイと高く、うつぶせの体制で宙に浮いた。
そのままバウンドするように何度か移動すると、不意に体が落下し、一瞬の後、また浮き上がった。そして、今度はゆっくりと、直立の姿勢に戻された上で、体が下りていった。足が地に着いた。笹井がきちんと土間に立ったことが確かめられた上で、笹井を持ち上げた何かは、離れていった。
こめかみのあたりに何かが当たった。
「これ、あなたの眼鏡でしょう。かけて、ちゃんと見てください。」

笹井が眼鏡を受け取ると、巨体の何かはさらに間合いを取った。

笹井は眼鏡をキチンとかけた。目を慣らし、屋内の様子を確認した。
巨体はさらに退き、戸口の脇に立っていた。
外から入る光によって、それが照らし出されている。
何度か睨みをきかし、笹井は目に入ってきたものを頭に入れようとした。だが、それには時間が少しかかった。

入口は、ごく普通の大きさの戸口だったはずだ。
だが、今その脇には脚が立っている。
二本の脚が、戸口の高さほどに、スックと伸びている。
見た目は人間の脚そのものだが、あり得ない長さだ。裸足で、その上には毛が生えたすねがある。丼くらいの膝関節の上には、並の人間ほどの質量のある太ももがそびえている。そして、鴨居近くに、白い布に覆われた股間が見える。腰骨のあたりも素肌が露わだ。股間だけを包む、六尺ふんどしをまとっている。

暗がりの中で光をよく反射する白布を、ランプの表面かと笹井は見間違えたのだ。
その白い塊が、ふいに落下した。伸びていた脚が膝を中心に曲り、ふんどし一丁の姿の者が、しゃがんだのだ。
上半身も戸口の脇に下がってきて、光を浴びる。
鴨居の辺りに頭が下りてきて、初めて顔を拝むことができた。

ニコッと笑う、若者の顔があった。
「エスエムエル服飾会社の笹井さんですよね。初めまして。連絡さしあげた、象潟です。どうぞよろしくお願いします。」
マリガン   17nice!
<5> 第3章/一問一答 2017年01月27日 (金) 10時41分
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その後、笹井が象潟麒麟(きさかた・じらふ)なる大男を質問攻めにしたことは想像に難くない。整理して、そのやり取りの内容を伝えよう。

Q 身長は?
A およそ2メートル70センチ。

Q いつからそんなに大きくなったのか?
A 9歳の時に転んで頭を打ってから、急に身長が伸び始めた。今は成長が止まっている。

Q 一人でここに暮らしているのか?
A 先月隣のおばあさんが亡くなって、この集落で他に誰もいなくなった。

Q ご両親は?
A 麒麟がまだ幼児の頃、徳島市内で二人そろって交通事故死。以後、この集落の祖父母のもとで育てられる。

Q そのお爺さん、お婆さんは?
A 18歳のときに祖母が熱で寝込んだ末に病死、19歳のときに祖父が脳溢血で突然死。それから一年は、隣家のおばあさんと一緒に暮らしてきた。

Q このような僻地でずっと暮らしていて、不便はなかったのか?
A 基本的にこの集落での生活は自給自足であった。象潟家を含め自家発電装置を備えた家も何軒かあったが、なくても構わないと言う者たちも多かった。山間なので広い田んぼはできず、棚田なので、農作業も手作業になってしまう。吉野川の源流が近いので、上水道も必要ない。都会暮らしに憧れる若者は出て行き、排他的な気質の人だけがこの集落には残っていた。自分も祖父に従い、農作業や整地、家屋の整備など集落中の力仕事を手伝っていた。

Q 麒麟氏の存在は、社会に知られているのか。
A 集落の住民には当然、知られていた。中には教員免許を持つ者もいて、小中学校は分校で教育を受けた扱いになっている。こんな限界集落なので、行政関係者は年に数回来るだけだった。住民の数が数人になると、電話連絡で済ますことが多くなった。自分の身長が異常に伸びた後は社会で変に見世物扱いされることを恐れ、外部者には姿を見せないことに祖父たちが決めた。反抗する理由もなく、それに従っていた。

Q 集落の外との交流は完全に断たれていたのか?
A そんなことはない。元気だった祖父が時々、町で買い物をしてくることもあった。物品はそれで受け取り、情報は主にBS放送で得ていた。衛星電話(当然ながら普通の携帯の電波は届いていない地域なので)も16歳のときに買い与えられた。今回の会社を含め、外界との通信手段として使っていた。

Q (本来訊かなけれならないことを思いだし)今回、弊社に就職を希望した理由は?
A この体で困ることは衣服であろう。食事も人の五倍くらい必要だが、それはまだ何とかなると思う。普段はシーツを細くして継いだふんどしや、祖母や隣のおばあさんに作ってもらった簡素な服で過ごしている。だが、他に住む者がいないこの集落を自分が出ることになれば、手持ちのものでは済まされないだろう。すべて特注品にするには元手がないので、ならば服を作ることのできる会社に勤めようと考えた。

Q どうでもいいけど、下の名前が「きりん」を漢字で書いて、英語の「ジラフ」ってよませるんだね。
A テレビで見たけど、キラキラネームっていうんでしょう。親がそういうのに憧れてたみたいで。

笹井の大体の疑問は溶けてきた。スムーズに会話ができたので、象潟も気を許してきた。先程までの緊張感は薄れ、互いにくつろいだ表情になってきている。
象潟が付け足した。
「まあ、集落のお年寄りには『象潟ンとこの孫』だの、『象潟ンとこのでっかいの』とか呼ばれることの方が、多かったです。一つの名前のなかに、“ぞう”と“きりん”があるから、こんな体になったんじゃないかと、うちのお爺さん、お婆さんはからかわれてましたね。」

笑いながらも、納得できた。
「あっ、でも、さっきはゴメン。知らないとはいえ変なところを触っちゃったりして。」
笹井は目に映ったふんどしの白さで思い出し、謝った。

象潟は屈託なく笑って答えた。
「ああ、全然気にしなくていいですよ。集落のじいさんたちも『立派に育ったな』なんて言いながら、股間をつかんで来たり、尻をさすることも、しょっちゅうでしたから。」

(なら、いいけれど……)
笹井はふと視線を外した。気持ちが落ち着くと、ふんどし一丁で他は裸体の、象潟を正面から見るのが失礼な気もしたのだ。今は視野に股間の白布が入ると、どうしても意識してしまう。
それに象潟の体は筋骨隆々で、何とも見事なものだ。笹井自身の体の貧弱さが、気恥ずかしくなってしった。

正午は過ぎていた。話に一段落がついたので、昼飯にすることにした。笹井も、他に食事処もないので、一緒に食べようという誘いに、素直に乗ることにした。
すると、喜々として象潟は食事の準備を始めた。
マリガン   14nice!
<6> 第4章/エネルギー源 2017年01月31日 (火) 21時12分
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大きな土鍋いっぱいに炊いたご飯。鶏卵。丸ごとのキャベツ。山もりのトマトやキュウリ。それに薪で焼いたヤマメが笹井に2匹、象潟のために10匹皿に載せられ、食卓に並んだ。味噌汁の具は、なめこ。天然モノだそうだ。

笹井も相伴にあずかったが、象潟の食欲は、その体格にふさわしく途轍もなかった。
食材が次々に口の中に消えていく。
素材が山や川や畑からとれたて新鮮なため、どれもうまかった。ただ、笹井の箸は食事の途中で止まってしまった。象潟の圧巻の食べっぷりは、ある種のショーなのだ。実際の食事の美味さより、ディスポーザーのような象潟の口元を、ひたすら鑑賞してしまっていた。

あらかた机の上のものが片付いてしまった頃、象潟が気付いて、ふと言った。
「あれ、笹井さん。食べないんですか。」
笹井の返事を待たず、長い腕が伸びて、笹井の前の皿が上空に浮かび、そのまま象潟の口元で皿の底が露わになると、ふたたび表を見せた皿には何も残っていなかった。
そして、自分の取り皿、机上の皿、すべてをきれいにすると、笹井の飯茶碗に汁をぶっかけ、食べ残しをズズズとすすりこんだ。

「ふうーっ、ちょっとだけ食べすぎちゃったかな。」
そう言って象潟は腹をさすった。
そして両の腕を輪の形に近づけ、つまりボディビルで言う所モストマスキュラーのポーズで、上半身の筋肉を軽く奮い立たせた。
胸筋が大きくバウンドする。
腹筋が波うつ。
それによって、食道にひっかっていた食材を、胃に落とし、胃の中をかき混ぜ、腸へと送りこんでいるらしい。
脇にあった大きなヤカンを持ち上げ、口を付けずに、水を開けた口の中に注ぎ込んだ。
ゴルフボールのようなのどぼとけが上下に動いている。象潟が横向きになったので、その様子が笹井によく見えたのだ。

「あっ、そうだ、忘れていた。」
笹井は車に戻って、スーパーの袋を運んできた。宿泊することになったら、限界集落なのだから、当然象潟の家になると思い、手土産を用意していた。
「これ、ビール。おみやげ。どこか、冷やしておくとこって、ある?」
「本当っスか? 俺、一度飲んでみたかったんスよ! あっ、ご免なさい。ラフな口、きいちゃって……」
「いいよ、いいよ。」
笹井は笑った。象潟も巨体に似合わず、照れながら笑った。
冷蔵庫は農作物保存用の超大型のものがあるが、普段は使っていないらしい。家の裏手の用水路の流れの中にビール缶を沈めた。つまみと、ワインや焼酎は部屋の片隅に置いておいた。

食器を片付けながら、象潟が笹井におずおずと訊いた。
「それで、就職の件ですけれど、俺……あっ、私みたいな者でも雇ってもらえますかね?」
笹井は考えた。
(普通の仕事がどれほどできるかは、分からない。ただ、特注品を扱う会社にとって、この規格外の体格の男は、生きた広告塔として、非常に有益だろう。待遇として、問い合わせのあった衣服は当然、社販の割引制度がある。住居なども含めて世話を焼くことになろうが、それでも、この稀な存在は会社にとっても好都合であろう。)
「社長に確認を取らなければ確かなことは言えないけれど、まずは大丈夫だよ。多分、広告に出たり、普段からうちの会社の服を、その大きな体でアピールすることになるだろうけれど、顔と巨体が世間にさらされることは、別に構わない?これまでと大違いだよ。」
「新しい生活をしていくためだったら、一向に構いません。」
「オッケー。じゃ、社長に連絡してみるよ。そうそう、それから……きみ、TPOもちゃんと分かっていそうだから、これからぼくとしゃべるとき、別に『俺』でいいから。」
象潟はニッコリと笑った。

笹井は社用携帯を取り出した。屋外に出ても、圏外だった。
象潟の衛星電話を借り、神戸に連絡した。

「おお、ショートか。どうだった?」
「とんでもない逸材ですよ。とりあえず、社長にもすぐ会ってもらいたいんですが。」
「じゃ、連れて来い。」
「簡単にはそういかない理由がありまして……」
「まあ、そうだな。だから、オマエが様子見に行ったんだしな。いいぞ。オレもそっちに行ってみる。」
聞き耳を立てていた象潟が、口を挟んできた。
「できれば俺が乗れる大型車を用意してもらえませんか。すぐにでも神戸に行っても、俺、構わないので。」
笹井は社用車のリストを思い起こした。
軽トラでは、荷台でも窮屈だろう。
「ならば、社長。二トン車で来てもらえますか?」
「はあ? そんな大荷物を運ぶ必要があるのか?」
「あるんです! 社長の驚く顔が見たいから、詳細はこちらに来たら、伝えます。あと発砲(スチロールの板、緩衝用)も少し多めにお願いします。」
「わかったよ。オマエの声の調子で、何やらすごいことが起きているのは、オレにも伝わって来るぞ。面白そうだから、言う通りにしてやる。待ってろよ、明日の朝イチでそっちに向かうからな。」

電話を切って、笹井はVサインを出した。
象潟は笹井を頭上高く抱え上げ、グルグルと回った。
遊園地にあるコーヒーカップとジェットコースターに乗った気分を、一度に味わった。ただし、動力源は自分の身長の二倍もある生身の大男なのだった。
マリガン   10nice!
<7> 第5章/胸の内の気持ち 2017年01月31日 (火) 21時15分
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身長2メートル超の背谷社長が、人と話す時に頭をのけぞらせている。
初めて見る光景に、笹井も、それからエスエムエル服飾会社経理担当の普山(ふやま)も、失笑を隠せなかった。
普山も社長に同行してきた。この普山は先代の時代から、長年会社に勤めている。55歳の熟年で、成人男子の平均的身長と体重の体系の男である。

背谷社長も普山経理も、笹井がもくろんだ通り、ギネス級の身長の象潟が会社にとって益になると算段した。
一も二もなく就職を認め、二度手間になるといけないと象潟が主張するので、この日の内にトラックに乗って、神戸に移動することになった。

トラックの荷台の床には発砲スチロールを敷き詰め、象潟が使っていた布団を敷いた上で、あとは本当に僅かな所有物だけを車に積んで、四人は限界集落を後にした。

笹井が乗ってきたプロボックスは、背谷社長が運転している。
トラックは背山が運転席にいる。
そして、囲いのついた荷台の中には、当然大男の象潟がいた。ただ、そのスペースでは象潟は立ち上がったり、自由に動き回ることができない。何かのときの連絡要員として、笹井も荷台の中にいた。

神戸の会社までは、三時間足らずの所要時間。
象潟は寝転がっていた。象潟にとっては天井も低いし、他に落ち着く姿勢もないのは確かだ。ただ、そのままうつらうつらしている。笹井は手持無沙汰だ。
薄汚れた布団を見ていると、夕べのことを思い出していた。



神戸に行くと象潟は決心していたので、昨日の午後は、まず身の周りを整理した。
持ち物は非常に限られていた。
本棚の本は全部持って行きたいそうだ。その他に象潟が持っていこうとしたのは、衛星電話、身辺の使い慣れた道具、シーツでできた衣服などだ。ただその数も多くはなく、聞けば冬以外、ふんどしだけで過ごすことも多いそうだ。ふんどしの数だけは、10枚以上そろっている。
布団は今晩使った後に運ぶ。台所用品や、テレビを含めて家財道具は置いていくそうだ。
それからまだ片付けがあると言って、表に出て行った。

笹井は本棚の本を箱に詰めていた。
家の周りで象潟が動き回っている。それが収まり、しばらくすると、鶏の啼く声が断続的に響いた。
少し気になって笹井も表に行くと、鶏小屋の前で象潟が、大きな手で、最後の鶏の頭と胸をつかんでいた。
「こいつらも始末していかないとなりませんからね。夕げに出します。」
象潟の手の中でクッククックと鶏が鳴き続けている。象潟が軽く手を動かすと、鶏の首が“つ”の字に曲がった。断末魔の叫びを上げて、鶏はぐったりとした。

都会の人間との田舎の人間との感覚の違いなのかもしれない。だが、いともたやすく、本当に事も無げに、鶏の命を断った。まだ笹井が知らない、象潟の中に秘められているものに、恐ろしさを少し感じた。

とはいえ、夕飯に出された鶏の丸焼きはウマそうだった。
ビールで乾杯した。象潟の手の中では、350ml缶も、ミニサイズに見える。炭酸に慣れていないせいか、飲み込もうとしたときにむせてしまった。
「世間の皆さんは、こんなものを本当に飲んでいるんですか?」
「脂ののった鶏を食べた後で飲んでみなよ。」
笹井の提案に、象潟は従った。しばらく口を動かしながら、考えるように味わっていた。
「なるほど、苦い味と炭酸が、口の中をさっぱりさせますね。」
そして、缶を握りつぶし、胡桃くらいの小ささに圧縮してしまった。
なんという力だ。そして、たった二口で一缶を飲み干していた。
次の缶に手を伸ばし、すぐさま空にしていた。鶏と交互にビールが進み、たちまち象潟の前には五つの胡桃もどきが転がっていた。
全部をまとめて象潟が握ると、今度は蜜柑ぐらいの塊になった。
「アルミ缶が、“ある蜜柑”になっちゃった。」
ふと、笹井がつぶやいた。合点がいくと、象潟も大笑いした。

笹井はワインを取り出し、封を開けた。
茶碗でもいいから何か注ぐものがあるかと部屋を見回した。その隙に、象潟はワインのボトルをそのまま口に当て、グビグビと中味を飲んでいた。
「こっちの酒のほうが、俺には合うかもしれません。」
一向に酒に酔う気配がなく、ワインもたちまち空にした。その後は、焼酎をお湯割りにして飲んでいった。
大きな声では言えないが、集落のおばあさんたちが造るどぶろくは、年齢に関係なく飲んだりしていたそうだ。

それでも、食事と共に随分な分量の液体を飲んだ。
笹井はビール一缶と、焼酎が二〜三杯目だが、ちょっと膀胱が膨れてきた。
トイレを借りようとしたら、外の用水路で構わないと言われた。
夜風に当たりながらジョボジョボと用を足していると、笹井の背後に象潟が立った。そしてふんどしを緩めると、中身を引っ張り出し、放尿をし出した。
ホースが上向きになるよう指を添えているため、笹井の頭上を越えて、放物線を描いて、大量の小水が用水路に落ちていく。
大半は水流のまま用水路の水面に落ちていくが、中には飛び散るしずくもある。おしっこが終わった笹井は慌ててズボンのファスナーを締めると、その場から逃げ出そうとした。前に行けば小便をモロにかぶってしまう。後ろには、象潟の両脚が壁のように立ちはだかっている。当然ながら脇に逃れるしかない。こんないたずらをした象潟を睨むように笹井が見上げると、小水越しに、微笑んでいる顔があった。明るい月に照らされて、小水が輝きながら舞っているその向こうに、目を細めて、この上なく幸せそうな象潟の笑顔があった。

怒る気も失せて、笹井が脇に退くと、次第に象潟の小便の勢いも弱まってきた。
何度が振って、ふんどしを整え直すと、象潟は笹井をひょいと抱き上げ、背中に腕を回した。そして、きつく胸に抱き寄せた。頬をすり寄せてくる。宙に浮く笹井の足は、象潟のふんどしにも届かない高さだ。

「俺、嬉しいんスよ。初めて若い、友だちのような人と一緒に話せて、食事ができて、酒まで飲めて。」
「ぼくはだいぶ年上だよ。」
「それでも、集落にいたのは気難しいおじいさんや、同じ話を繰り返すおばあさんばっかりでしたからね。あ、みんなには本当にお世話になって、感謝しているんスよ。だから、最後の一人まで看取ってあげようと決めていたし。でも、自分と同じような感覚で冗談が言えたり、それこそちょっとしたいたずらができるような相手が、ずっと欲しかったんスよ。笹井さんが来てくれて、本当、嬉しい。これからも、よろしくお願いします。」
「お手柔らかに頼むよ、こんだけ体の大きさが違うんだから。」
「もう、笹井さんのためだったら、何でもしますよ。全身全霊で守ってあげます。」
そう言って、更に力を込めて腕の中の笹井を、ギュッと象潟は抱き締めた。
(いや、まさにこういうことをこそ、気を付けて欲しいんだけどな……)
「ふぁーあ。眠くなってきちゃったな。あのー、母屋で寝てもらおうと思ってたけど、普通サイズの布団はもうないんです。男同士だし、俺の寝床に一緒でいいですよね。」
笹井の返事を待たず、象潟は納屋のほうに歩き出した。

納屋は扉も大きく、象潟が頭を下げなくても通れた。
どうやら普段はこちらで暮らしているらしい。
象潟にかぶせられる特大サイズの布団があり、象潟は笹井を抱いたまま、寝床にもぐりこんだ。そして、すぐに寝息を立て始めた。

笹井は絡みつく腕を退けようとした。力を込めて象潟の腕を上げようとしたが、逆に決して逃がすまいと象潟はよけい笹井を身許に引き寄せるのだった。
普通の成人男性の5〜6倍の体重がある。超小柄な笹井にしてみれば、十倍の体重の持ち主なのだ。とてもかなわない。観念して、なされるがままにされていよう。

それでも、象潟の体温とゆっくりとした鼓動が生肌から伝わって来る。
腕が重苦しいときもあるが、とてつもなく強い存在に守られている安心感もある。
まどろみながら、間近で改めて、象潟の腕を見つめた。
遠目に見ても、逞しさがあふれ出ているのが象潟の肉体とプロポーションだ。
社長の背谷もそうだが、長身になればリーチが長くなり、ムキムキの体躯にはなりにくい。しかし象潟は、はっきりとした逆三角形の上半身をしている。肩や胸の筋肉量は半端ないのだ。長身ゆえスラッと見えるときもあれば、少し筋肉が膨らむと、驚くほどボリュームアップする。ボディビルダーと違って、脂肪を落としているわけではない。筋肉そのものと共に、うっすらと全身に脂肪をまとっている。それが、パンプアップした瞬間に、ガッチリムチムチ感を倍増させている。
今、笹井の目の前には、見たことない太さの二の腕がある。
上腕二頭筋は、大根のような形と大きさで、腕にくっついている。もう少し腕を曲げれば、力こぶが笹井の頭部よりも大きく丸く固まるのだ。そして、最高に盛り上がった頂点から、肩にかけ、肘にかけ、アメリカンフットボールのような曲線が描き出される。
体をねじって、笹井は指先を自由にし、それを伸ばして、力こぶを触ってみた。
表面の柔らかい層の奥に、すぐ弾力を増した固い塊がある。
少し力を込めて押してみると、ビクッと上腕二頭筋が震えた。
象潟の顔のほうを振り向いて見ると、目は開けてないが、ニヤッと口元が上がった。
(どうだ、俺の体はスゴイだろう?)と、暗黙裡に問いかけているようだ。

その通りだ。
そして、こんなすごい人物とファーストコンタクトを取れた光栄を想い、笹井自身も象潟と知り合えてよかった。その嬉しさをかみしめながら、笹井も眠りについたのだった。



そのときの様子からすると、神戸に移動するトラックの中の象潟は、えらくぶっきらぼうだった。
不意に、何の躊躇もなく鶏の首を折ったように、閉ざされた空間の中、寝首をかかれるのではないかと妄想じみた考えが湧いてきた。

だから、「……笹井さん……」と、寝ていたとばかり思っていた象潟の声がしたとき、笹井は飛び上がるほどビックリしてしまった。
「……俺、今、不安なんですよ。意気込んで旅立ったけれど、これからどうなるか、良からぬ妄想も沸いてくるし……本当に、大丈夫ですかね?……」
すべての人から見上げられるような、立派な体格をしているからといって、象潟の中味はまだ二十歳そこそこの若者なのだ。しかも、自然の中で育った純粋さにあふれ、性格はいたって素直だ。都会の子のようにすれている要素は微塵もない。慣れ親しんだふるさとを初めて離れるのだから、当然と言えば、当然すぎることだ。
それに気付かず、変な妄想をしていた自分は、何て愚かだったのだろう。

どんな対応をすべきか笹井は思い巡らし、すぐに象潟の枕元に移動した。
「大丈夫。ぼくたちは責任をもってきみを会社に迎え入れるし、ぼく個人としても、できる限りのことは何でもするよ。だから、大丈夫。一緒にやっていけば、きっとうまくいくさ。」
そう言葉かけをしながら、笹井は象潟の頭をなでてやった。
多少ゴワゴワの髪の毛が、小さな手によって梳かされている。

象潟は一旦顔を上げ、笹井の目を見た。やさしく微笑んでいる表情が確認できると、あぐらをかいている腰に抱き付いてきた。笹井としては、自分がたぐり寄せられるような感覚だった。
象潟は顔を伏せて、嗚咽し始めた。
笹井はまた頭をなでてやった。
大男の目から涙があふれだし、笹井のズボンを湿らせていく。笹井の股間に濡れ染みができ、涙の温かさと湿り気が笹井の小さなチンチンにまで伝わってきたが、象潟を安心させるため、頭をなで続けてやった。
マリガン   18nice!
<8> 第6章/初体験の場所 2017年02月03日 (金) 10時34分
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「すみません!俺ってば、笹井さんのズボンを涙でグショグショに濡らしてしまったりして……ほんと申し訳ないっ!それに、恥ずかしい……」
「そんな、気にしなくてもいいよ。きみはまだ若いし、こんなことは誰にだってあったさ。むしろ、象潟くんのピュアな気持ちを感じたよ。」
「とはいえ、変なところに染みを付けちゃったじゃないですか。お漏らししたみたいですよ。このままでは笹井さん、表に出れないでしょう……会社にそのまま戻れませんよ。」
それは、その通りだ。
ズボンも、下着も、中身までけっこう湿っているのだから。さすがの巨体からは出る涙の量もちがうものなのか? それとも、象潟の純真な性格ゆえなのだろうか?

明石大橋を渡り終え、神戸の中心部に向かうためには、垂水ジャンクションを曲がる。
その大きなカーブで揺られて、二人の体が離れると、象潟は我に返ったのだ。

トラックは次の名谷ジャンクションに向かっている。
笹井はふと思いつき、運転席の普山に携帯で連絡を取った。
会社にまっすぐに向かうのでなく、須磨インターチェンジで下りて、寄り道をしてほしいと頼んだ。
JR須磨駅の近くにある笹井の自宅で、着替えをしたいのだ。

海にほど近いぼろアパートで、笹井はズボンを替えてきた。
トラックは大通りに停めてある。
象潟の姿がさらされれば大騒ぎになりそうだったが、空気の入れ替えもあって、少し荷台のカバーは隙間を空けていた。

「おまたせ。ん? どうかしたか?」
象潟がしきりと空気の匂いを嗅いでいる。
「この匂いって、海の匂いですか?」
「そうさ、須磨の海岸まですぐだからね。潮風が……あっ、そうか。象潟くんはずっと山間部で暮らしていたから、海が初めてなんだ。」
心境を分かってもらえて、象潟は嬉しそうだった。
「そうなんです。へー、海辺ってこんな感じなんだ。あれ、ヤシの木ですよね。初めて見るなぁ。」

そんなやりとりをした上で、トラックは会社のある兵庫区に向けて、再び走り出した。
あとは下道のままでも、そう遠くない。



とりあえず、会社の工場に向かった。事務所では狭苦しいので、天井の高い場所のほうがいいだろう。
会社の従業員たちは皆、不意に現れた新入社員の大きさにビックリしていた。

それでも、しばらく話している内に純朴な人柄も伝わり、うちとけてきて、歓談が盛り上がっていた。
特に女性たちは、象潟が裸同然の見事な体をさらけているので、大興奮している。
ふんどしに包まれた股間が目の前にあることの事件性を、象潟自身が認識していないらしい。
眼下で騒いでる太田・中田・細田たちの喧騒を、きょとんとした笑顔で見守っている。

その様子もうかがい、背谷社長が命じた。
「どんな仕事をしてもらうかはおいおい考えるとして、とりあえず、服飾会社の社員がふんどし一丁じゃあ、仕方ないな。採寸して、すぐに何着か服を作ってやれ。」



会社のすぐ近くの空き倉庫を普山が会社名義で借り、象潟をそこに住まわせることにした。
買い物一つでも独りで表に出すことにも無理があるので、笹井が生活全般の面倒を見ることになった。
予想していたが、しばらくは唐突な仕事が多そうだ。

コンビニでおむすびやサンドイッチをドサドサ買い込み、笹井は倉庫に届けた。
掃除や簡単な引っ越しを手伝っていた社員たちへの差し入れだが、半分以上は象潟が食べることだろう。

工場の宿直室で自分用の寝具を整えた。
今晩を含め、何かあったら笹井はここで寝泊まりし、すぐに象潟のところへ駈けつけられるようにしておいた。

本来笹井が担当すべき仕事も溜まっていたので、事務所で片付け、バタバタしている内に8時になっていた。
夕飯は社長が届けると言っていたし、今日はもういいだろう。
明日の朝、象潟の様子は見にいくことにした。衛星電話にメールすると、了解の返事がすぐに返ってきた。



いろいろありすぎて早々に寝てしまったので、翌朝は数時間前倒しで目覚めてしまった。
コンビニでパンでも買っておこうと工場を出ると、象潟が道を歩いていた。

「おはよう、朝の散歩かい。」
「はい。ちょっと海まで行ってきました。でも、この辺の海はゴチャゴチャしているんですね。」
「まあ、工業地帯だからね。船着き場にはガラクタも多いし。」

並んで歩き始めた象潟が不意に体をよじらせた。
信号機や交通標識が頭にぶつかりそうになるのだ。かといって、あまり車道を歩くことは推奨できない。
山奥から出てきて、昨日は海辺に来たことに、とても期待していた様子だった。その夢をしぼませてしまうような街並みで、笹井は心苦しかった。

「そうだ。ちょっと足を延ばしてみようか。」



会社の軽トラを借りて、兵庫区から西に向かった。短距離なら、象潟は押し込まれるような恰好になるが、軽の荷台の床に座っていてもらってもいいだろう。
昨日立ち寄った笹井のアパートのそばには、須磨海水浴場がある。
あそこなら広々としているし、象潟ものびのびできるのではないかと考えたのだ。

果たして、その通りだった。

駐車場から、草木の間を通り抜けて海と砂浜が見えてくると、象潟は相好を崩し、いきなり駆け出した。
競走馬のような力強さと猛ダッシュだった。
裸足で砂浜を駆け回り、大喜びだ。
腕を上げて走っても、ぶつかることがない。それに、初めて砂の上を走り、その感触が興味深くてたまらないらしい。

シーツで出来たシャツと短パンも脱ぎ捨て、ふんどし一丁で側転をしたり、ついには寝転がったりしている。
犬がはしゃいでいるのを見るかのように、笹井はそれを見守った。
笹井も裸足になって、足の裏で、秋も深まり、ずいぶんと涼しくなった砂の温度を感じていた。

じきに笹井のところに砂まみれの象潟が寄ってきた。

「ねえ、海に入ってもいいですか?」
「え?もう10月だよ。冷たいよ。」
「大丈夫ですよ。集落では一年中、吉野川の源流の水で体を洗ったりしてましたから。」
「どうしても入りたいと言うのなら、別にいいけど。」

象潟は踵を返すと、まっすぐ波打ち際まで走っていった。
そして立ち止まると、腰に手をあて、何やらもぞもぞと動かしている。
ハラリとふんどしを解いた。
長い布を背後に投げ捨てた。そして、昇ってきた朝日をキラキラと反射している海の中に、足を踏み入れていった。

まるでトドか、セイウチだ。
巨体で波の上をまたぎながら、どんどん沖に進んでいく。それは大きな海獣が跳ねているようにしか見えなかった。

随分と沖に進んだ上で、腰に水がかかるようになると、象潟は全身を水に沈めた。
そして、30メートル以上離れた、思いも寄らない場所で、頭を水面に出した。
え?(あいつ、潜水もできるの?)

笹井は思わず目を疑った。
さらに、きれいなフォームで、そしてとてつもなく力強く、象潟はバタフライを始めたのだ。
(まるでイルカだ。)

すぐ横の水族園には、本物のイルカがいる。透明な壁が人の背丈ほどもあるプールのすぐそばまで、近付いて見ることができる。
ただ、プールの内側に手を絶対に入れないでくれと、飼育員が注意されたことがある。
小さ目のイルカでも、体重はボブ・サップ並なのだそうだ。それがジャンプした上で、お客さんの手に当たったら、骨折させてしまう。だから手を出してはいけないのだそうだ。

しかし、サップより倍以上も重い象潟が、逞しく波間を動き回っている。豊かな自然の中で育って来た成果だろう。

象潟の周りで魚影が飛び交っている。この辺りによくいるボラの群れだ。水面を越えてジャンプするものもいる。
象潟は大声で歓喜の叫びを上げた。
他愛もない事に大袈裟に興奮している若者を、笹井は愛おし気に見つめていた。

しばらくしてから、笹井の待つ砂浜に象潟が帰ってきた。

あ。
股間も露わだ。
前に自宅で知らない内に触ってしまったときには、ビールのロング缶の大きさを感じた。今はさすがに海水で冷やされ、縮まっている。それでも、レギュラー缶ほどはあろう。
一糸まとわぬ正面姿に、笹井が目のやり場に困ってしまう。
しかし、象潟は気にもしていないようだ。
それにまで早朝なので、海岸を見渡しても、人影はない。

「すごいっスね。海底をのぞいたら、ウニとかもいますよ。それにあの魚と一緒に、波に揺られる感じ。砂浜もいいけど、やっぱ水は楽しいですね。笹井さんも行きましょうよ。」
「そんな!きみは平気でも、普通の人は風邪ひいちゃうよ。」
「もう〜ノリが悪いなぁ。じゃあ、これでどうだ。」
象潟は笹井を肩車し、海の方に走っていった。
(え? いったい、どうするつもりだ? こんな時期に海に入るなんで、バカな学生のノリか、心中でもする恋人同士じゃないか。)

先程と同じように、象潟はズンズンと沖に進む。
少し海に入ったところで、急に深くなるところがある。
だが、笹井の上半身はまだまだ水面より高い位置にある。
象潟は歩き続ける。
笹井が振り向いて確かめたら、10メートルくらいは離れている。
普通はこの辺まで来れば、みんな足が付くかどうかで、泳いでいる。だが、象潟は平然と歩き続けている。
時々象潟の胸に波があたり、笹井の足にも水しぶきがかかるようになった。水深は1.5メートルくらいだろうか。

神戸市では目下、この須磨海岸を遠浅にして、安全性を高めようと100メートル沖まで水深1.5メートルにしようと砂を入れている。
しかし、そうであればこの象潟は、海の中を100メートルも歩いて進むことができるようになる。(まるでゴジラか、ポセイドンだな。)

象潟は笹井と一緒に海に来れて、楽しそうだ。
鼻歌交じりにクルット回って、バランスを崩しそうにもなる。
わざと頭を傾け、笹井を海の中に落とそうとしたりする。
もちろん、決してそうはしないことは分かっている。
だが、限界集落のお年寄りたちにはできなかった他愛もないいたずらを、心より楽しんでいるようだ。

テトラポットの向こうでは、太陽が少し高く昇ってきた。
じきに道行く人も多くなってくるだろう。
「そろそろ戻ろうか」と、笹井が促し、象潟もそれに応じた。

だが、波に背を向け歩き出したとき、思いの外大きい波が押し寄せ、象潟は前のめりに倒れてしまった。

笹井も当然ながら、海の中に放り出された。

まあ、ある程度は予測もしていたので、笹井は水中でも冷静に、水面に向けて泳いでいった。だが、象潟のほうがパニクってしまっていた。
水から顔を出し、辺りを見回す。犬かきのような恰好で浮かんできた笹井を見つけると、必死になって腕を伸ばした。

笹井は落ち着いて泳げていたのだが、力まかせに引き寄せる剛腕によって溺れかけた。
口や鼻に、水が入る。
何か言おうとしたが、象潟がともかく自分で助けなければと焦って、確保しようと、必死になって抱きかかえる。
身体の自由がほとんど効かない。
水の中で思いっきり抱き締められ、痛いくらいだ。
象潟の胸を叩いて合図しようとしたが、全然感じてないようだ。顔をひっぱたきたかったが、腕が伸ばせない。
仕方なく、足をのばして、股間を探った。
下腹部も太もももガッチリと筋肉が詰まっている感じだが、その間にナマコのようにブヨブヨグニョグニョした巨根を見つけた。
そこを水中で小突いた。
水の抵抗があって、あまり気付いていないようだ。
相当力をこめて蹴り続けていると、やっと象潟もハッとした顔をした。

腕の力が、落ちない程度に弱まった。

「大丈夫、大丈夫だから、落ち着け。な、岸まで戻ろう。」

象潟は赤ん坊を抱くように笹井を腕の中に横たえた。
象潟の目の前には筋肉で隆起した胸と、その膨らみの頂上に茶饅頭の色と直径をした乳首がある。
象潟はズンズンと歩いて、岸辺に戻った。

そして、脱ぎ捨てたふんどしを広げた上で何重かに折りたたみ、笹井の濡れた全身を拭いていった。
ほのかに汗の匂いと、染み込んだ微かな糞尿の匂いがする。
だが、笹井は象潟のするにまかせた。

黙ったままの象潟に、気遣って笹井は言葉をかけた。

「初めて見る風景は、いいものだね。よく来る海だけど、きみの頭越しで一緒に見るのは、楽しかったよ。ありがとう。」

象潟は涙があふれそうな目をしている。

「海に一緒に入るのは、来年の夏にします。」
「この海水浴場、とんでもなく混むんだぞ。象潟がいたら、目立ち過ぎて、困っちゃうぞ。」
「望むところです。会社でつくった海パンを穿いて、ちゃんと会社の広告をします。」

二人とも笑った。ぼちぼち平常心を取り戻してきたようだ。
海岸に散歩をしに来た人たちが、遠くに見える。あまり象潟を人目にさらさないほうがいいだろう。
笹井の濡れた服は、近くのアパートで替えれば済む話だ。
象潟にはノーパン(正確には“ノーふんどし”だが)でズボンをはかせ、この場を引き上げることにした。

「ハックション!」
笹井がくしゃみをすると、象潟は再び慌てて、少し湿って手に持っていたふんどしを笹井に巻き付けると、風の当たらないように抱きかかえて、笹井のアパートへと走り出した。
マリガン   13nice!
<9> 第7章/有難迷惑? 2017年02月07日 (火) 17時30分
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その日の昼休み前、エスエムエル服飾会社の事務所には笹井が一人で詰めていた。書類と向かい合う日常業務をこなしていた。
そこに女子職員の中田さんが興奮して駆け込んできた。
「工場のほうに来てください!」

縫製作業をする一角の空きスペースに、人だかりができていた。
その中央に上半身を露わにそびえ立っているのは、象潟麒麟に他ならない。ただ、何か印象が違う。
象潟がいつも着ているのは、集落のお婆さんがシーツから作ったダボッとかぶるようなシャツだった。汗や土埃も染み込んで、薄汚れていた。
しかし、今身に着けている白い半袖のTシャツは、体にフィットした立体縫製されたもので、光沢のある新品の輝きを放っている。
髪の毛も、伸びたら自分で切っていたそうでボサボサだったのが、整髪料も付けて整えられているようだ。そうだ。朝イチで社長が出張散髪の手筈を整えていた。洒落っ気のある社長の指示で、軽いリーゼント風というか、前髪を立ち上がらせ、要所にウェーブをつけた、スタイリッシュな髪形になっていた。
笹井が近づくと、皆が道を開けてくれた。
象潟の全貌を眺めることができた。
(……かっこいい……)
それが笹井の第一印象だった。

いや、象潟は相当いい素材だったはずだ。ただ、自給自足を営む作業で、いつも労働の汚れが顔や皮膚にはこびりついていた。その重労働が立派な体を形作ってはいたのだが、都会的なおしゃれとは無縁だった。
ただ、象潟は体つきだけでなく、顔つきも元々悪くはなかった。
トム・クルーズというか、若い頃のハリソン・フォードというか、いかにも美形のハンサムとは言わずとも、普通に整った顔に内面からの男らしさがにじみ出るような顔面なのだ。目は少し細めで、鼻や顎がガッチリとしている。もちろん和風ではあるが、本木雅弘や鈴木亮平のように世界に出しても遜色のないような、面構えなのだった。
今は無精ひげも剃って、さっぱりしている。
普段と違う雰囲気になっていることと、仲間内とはいえ皆からはやし立てられ、だいぶ照れくさそうな表情をしている。

昨日採寸したデータに基づき、何着か象潟の服が作られていた。
まずは一番基本のTシャツとGパンだ。
スタイルがいいので、それだけで絵になっている。
広報係の室岡がしきりと写真を撮っていた。

皆の前で、何枚か試着をした。
ラグランのロンT、シンプルなセーター、胸や腕の膨らみがあるので、スポーツ選手がモデルになったようだ。また、とりあえず作ったものは単色だったが、布地の面積が非常に大きいので、デザインの凝り甲斐があると中田は言って、アイディアをメモしていた。

作りかけの襟付きのシャツや、スーツの上下、さらには上着のコートもある。
外部発注した靴は、近日中にサンダルならできるということだ。
こざっぱりとしてくる象潟に、女性陣たちは尚一層熱視線を向けている。
細田は自分にはないあのたくましさにベタぼれだ。
太田は、後日聞いた話だが、御姫様だっこなども軽々としてくれるので、自分が太めなのを気にせずいいそうだ。

象潟は無防備にボトムスも着替えたりしている。
下着はふんどしのままだった。生尻に女性たちは生唾ものだった。昨日も見ているのだが、まともな格好からのギャップが、これまたたまらないのだそうだ。
股間の膨らみの大きさに、男性社員たちも改めて驚愕していた。それが嫌でも目に入る高さにあるのが、困りものなのだ。

社長はこれらの服に合うマネキンを特注し、早速会社としての広告につなげたい考えを述べた。
もっともそうなれば、衣服代は経費で落とすと普山も進言したので、象潟も多少恐縮しながらも、喜んで承諾した。

ただ、着なれない服を着た象潟は、笹井にだけ耳打ちした。
「よく皆さん、こんなゴワゴワしたもの着てられますね。俺、裸のままのほうが、気持ちいいスよ。」
マリガン   8nice!
<10> 第8章/裸のつきあい(前編) 2017年02月07日 (火) 17時34分
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神戸市長田区にある、笹井の馴染みの銭湯に、象潟と笹井がやってきた。

普山が提案したのだ。大きな風呂に連れていったら、喜ぶんじゃないか、と。
聞いてみれば、象潟は随分とお湯の風呂には入っていないそうだ。体が巨大化したら集落のどの家の風呂に入ることはできず、ずっと行水で済ませてきた。あるいは川で体をすすぐだけだったそうで。それで一も二もなく、神戸に来て二日目にして象潟はまともな服を初めて着たが、夜は裸のつきあいをすることになった。

さて、住宅街の中にあるこの店は、一階が駐車場になっている。軽トラを停めた。いきなり見たこともない大男が登場すると、店や他の客も驚くかと思い、笹井が先に様子見をしに出た。そこそこ夜も更けてきて、店の前の道に人通りは多くはない。笹井は小銭入れを出して、先に二人分の会計を済ませようかと店に駈けこもうとした。途端、反対方向から店に入ろうとした数人連れの先頭の男とぶつかってしまった。
小銭をまき散らしながら、小柄な笹井が道に倒れた。
「いてて……あ、でも、すみません。前をよく見てなくって……」

「おいおい、ガキがこんな夜遅くまで、ほっつき歩いてんじゃねえぞ。」
そう言う男の腕には、入れ墨が見えた。背後の男たちが、騒ぎ始めた。
「このドチビ野郎が、兄キに何しや…が…」
だが、途中で言葉を詰まらせた。

駐車場の天井に頭をぶつけないように、前かがみになりながら、象潟が表に出て来たのだ。やっと全身を伸ばせるので、腕を上げて、踵を浮かせた。拳は二階の窓に悠々届く位置にある。
腕を下ろし、笹井と男たちのほうに、のっし、のっしと、歩を進める。
何気ない動作でも、胸、肩、太もも、ふくらはぎなどの筋肉の塊が、大きくユサユサと動く。長身の上にその逞しさが、迫力だ。

ヤクザめいた男たちも、息をのんで、凍りついた。
上空から笹井たちの様子をうかがい、すぐさま状況を把握したようだ。象潟は真っ直ぐに笹井の傍にまで歩み寄ってきた。怒った面持ちの象潟が足を踏み下ろすたびに、その場に居合わせた者たちには、足音がはっきりと聞こえた。振動もかすかに体に伝わってきた。

長身を二つに折り、足元の笹井に手を伸ばすと、そのまま持ち上げて、象潟の胸元に抱きかかえた。
「……俺の連れが、どうかしましたか?」
ドスの効いた低い声で、象潟が言った。背筋をまっすぐに伸ばし、息を吸い込むと共に、力を込めて、胸を大きく膨らませた。体に密着している笹井には、その動きがヒシヒシと伝わってきた。

「何でもねえよ」と、銭湯に逃げ込もうとする男たちに、先頭の入れ墨の男が指示を出した。
「小銭を全部、拾ってやれ。向こう様が悪いってことでも、なかっただろう。」

そそくさと弟分たちが皆で金を拾い集めると、象潟が広げた手の平に、それを集めた。ガタイがいいと思える男たちでも、手の大きさ、指の長さはもとより、掌の厚みも歴然たる差がある。
硬貨が豆粒のように見える。
「これで全部だと思うぜ。」
弟分たちがそう言うと、象潟はグッと拳を握りしめた。ヒッと、息を飲む音を出す弟分もいた。怪力を自慢する男が素手でリンゴを潰すことがある。象潟のゴツイ手は、実はパイナップルでも可能なのだ。
普通の人間の頭でも、握りつぶせそうにも思えたのだ。
「すまなかったな。」
兄貴分の男が言うと、男たちは先に店に入った。

象潟が呼吸をするたびに、胸が動く。そのゆっくりとした増幅と、自分より高い体温が笹井に伝わってくる。
興奮はだいぶ鎮まってきたようだ。


笹井は靴を脱いで、二階の風呂に向かう。象潟は今日は裸足のままだったので、足の裏を風呂屋に借りたぞうきんで拭いた。
階段は本当に狭そうだ。

予め大男が来ると番台には伝えておいたが、想像を遥かに超えていた。

脱衣所を過ぎ、這うようにして、湯気の立ちのぼる浴場に入った。
中に入れば天井も高く、象潟も直立することができる。
「うわー、これが銭湯っスかぁ。行きたいとずっと夢みてたんスよ。」
象潟は小さなタオルしか持ってないので、後から入る笹井には裸の尻が丸見えだ。もっともふんどし姿はこれまで何度も見ているが、笹井の視点からすると、両脚の隙間のむこうにぶらついているものの黒い影が、目に映るのだ。

早朝に海に入った際にも体をさすっていたし、散髪の際にも頭はシャワーを浴びたそうだ。そんなに体が汚れてはいないので、軽く全身をすすいで、早速湯船に浸かることにした。
二人で一番大きな湯船に向かう。
象潟は、笹井の顔と、自分でもゆったり入れる大きさの湯船を交互に見ながら、興奮が高まっていた。
軽々と縁をまたぎ、一気に一番水深のあるところまで爪先をのばした。
そして、おずおずと湯の中に、足を入れていった。
体中が震撼したようだ。笹井にもその震えが見えた。
やっと腹までを湯に入れると、安堵の吐息を長い、長い「はあ〜」と漏らした。
笹井も湯船に入り、象潟に並んで座った。
小柄な笹井は、肩まで十分に浸かる深さだ。
視線を少し上向きにしたところに、象潟の乳首が見える。
象潟が頭の後ろで両手を組んだ。
笹井の頭上に、密に腋毛が茂った真っ黒な凹みが見えた。象潟は決して毛深くはないが、腋の下や鼠蹊部など、生えるところはまとまって濃く生えている。
大きな手で湯をすくい、顔や肩にかけている。大きなしぶきが笹井にもかかる。
それに気付いて、迷惑をかけてはいけないと、象潟は上半身を湯につけた。仰向けに寝そべると、すねから先が水面に出て、反対側の風呂の縁の上に乗せられた。

波紋がゆらぐ水面ではっきりとは分からないが、股間の様子がうかがえる。
黒々とした陰毛が、水草のように揺れている。
そしてイチモツは、ナマズのようにくねっている。
「笹井さんって、小さくてかわいいですよね。頼りにしているけれど、ぬいぐるみみたいで、すぐに抱き締めたくなっちゃうんですよ。あ、そうだ。」
象潟は体をねじり、笹井の両脇の下に、それぞれ掌をさしこんだ。笹井の体が湯の中から空中に浮いた。象潟は腕の力だけで軽々と、笹井を持ち上げ、自分の股間をまたがせる形で、象潟の目の前に連れてきた。
「へー、笹井さんのチンチンもかわいいものなんですね。」
そう言いながら、片手を離して、指先で笹井のチンチンを自分の指と大きさ比べをしたり、引っ張ったりしだした。
(何するんだよ!)
当然、そう騒ぎたかったが、あまりに屈託なくいたずらをするので、反応が遅れてしまった。

「あ、あの階段のところ『サウナ』って書いてありますね。一度入ってみたかったんだ。行きましょうよ。」
ザバーと体から湯を滴らせながら、象潟は立ち上がった。湯船を跨いでから、笹井を床に下ろした。どうやら本当に何の気なしに、いやらしい気持ちは微塵もなく、股間を純粋な好奇心で、のぞいたらしい。

この銭湯は階層構造で、二階に脱衣場と洗い場と湯船がある。三階に、サウナと露天が用意されている。
ベッタ、ベッタと大きな足音をタイルに響かせながら歩き、象潟は洗い場を横切り、階段を上った。笹井が後に続いたが、身長差がありすぎて、象潟の尻は視野の外だ。ふくらはぎだけを見ている。ふいごのように、大きく膨れたり、スッと伸びたりしている。
階上にやってきた。水風呂の近辺でしゃべっている男たちがいるが、笹井は近眼用の眼鏡を外しているので、その顔がよく見えない。
象潟は喜々としてサウナ室に入り、笹井もまた後に続いた。
中には、先客が一人いるだけだった。
サウナ室はさすがに天井が低く、象潟は大きく身を屈めている。
奥にいる男の手前に象潟は座り、入り口近くに笹井は座った。
笹井が持っているタオルで股間を隠したので、象潟も真似をした。
だが、横長にタオルをかけるだけでは、どうしても巨根がはみ出てしまう。
試しに縦長にタオルをかけたが、なぜそんな風にしなければいけないのかが分からこともあって、象潟はタオルを外して、肩にかけた。

「おう、デカい兄さん。あそこもとんでもなくデカいんだな。」
奥の男が声を掛けてきた。聞き覚えのあるような声だった。
「そうなんスか。貴方はどの位なんですか?」
そう言って、象潟はいきなり見ず知らずの隣の男の股間のタオルを取り除いた。
(あっ、何するんだ。)
笹井は慌てて、詫びなければならないと立ち上がった。
象潟の前を回り、奥の男の前に出た。
頭を下げて「すみません、こいつ山奥から出て来たばかりで……」
男の腕に入れ墨が見えた途端、言葉に詰まってしまった。
店先でぶつかってしまった、ヤクザの兄キ分だった。
マリガン   9nice!
<11> 第9章/裸のつきあい(後編) 2017年02月09日 (木) 14時15分
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神戸ナンバーの黒塗りのベンツといえば、乗っている人種を言い当てることができよう。
特にこの長田区のあたりでは、よく風呂の注意書きの「刺青のある方は入浴お断り」が、掲げられて “いない” 風呂屋があるものだ。

だが、堅気の者に変に振る舞うことは滅多にない。
この風呂屋で笹井もそのテの方々に何度も出くわしているが、別段他の客と変わったところはない。

「見て。先輩のは小さいでしょ。自分のは、体に比べても大き目なのかな。貴方のは、やっぱり中間サイズなんだね。」
象潟は自分のイチモツを握って、奥の男に見せた。
(いったい、どういう神経をしているんだ?)

阿部と名乗った男は言った。
「小っちゃな兄さん、さっき何か言いかけてたよな。いったい、このデカい兄さんは、どういう神経をしとるんや
(ぼくもそう思っているところでした。)
だが、当の象潟はきょとんとしている。
そして、握っていたものを、少しシコシコとしごき出した。お湯に温められ、象潟の巨根は、野菜ジュースなどの1リットルのペットボトルサイズだった。それが、みるみる炭酸飲料などの1.5リットルサイズに膨れていった。
そのあまりの迫力に、笹井も、阿部も、思わずガン見してしまった。

「あれ、そんなに珍しい? もっと握っていると、もっと大きくなって、そのうちオシッコとは違うものがとび出してくるんだけど、見たい?」


その後、サウナの中で、水風呂の中で、落ち着かないので階上の露天風呂に誰も入って来ないように阿部が手下たちを門番にして、根掘り葉掘り笹井と阿部が聞いたことを問答形式で述べると以下のようになる。


Q 「勃起」とか、「射精」の意味は、分かるか?
A 一応、実の祖父から性教育は受け、聞いている。辞書でも読んで、知っている。

Q 先程自分のしようとしていたことが、それだと分かっているのか。
A 旧約聖書にオナニーの語源が載っていることを知っている(創世記38章9節)。色々な小説を読んで、そのときの感情とか、もっと詳しく知っている。自分がすることも、それだと思うようになった。

Q そうした性に関することは、普通は恥ずべき行為だとの認識はあるのか?
A そうなの? 全然そう思ってなかった。本の中には普通に書かれていたから。実生活では、性交渉をするような世代の者が誰もいなかったし、集落のおじいさんとおばあさんが一緒に風呂に入って、互いの体で冗談を言い合うこともあったので、秘め事だと思ってなかった。

Q でも、ふんどしは締めているじゃないか。
A 性器をしまっておかないと、作業のときに邪魔だから締めている。恥ずかしいとか、体のどこかを隠しておくべきだとかは、あまり考えていなかった。

Q 他人の性器を見たり、触ったりすることも、平然としていたのか。
A 自分を含め、集落のおじいさんたちはふんどしだけで過ごすことも多かったし、ボディタッチも当たり前だったから、そう違和感はなかった。それこそ、一緒に風呂に入ったときには、同性異性にせよ、相手の体を手で触ることもよくあった。それで、この風呂屋でも、二人に対して、そうしてしまった。



「まあ、中々おもしれえ兄チャンじゃねえか。」
「にしても、すみません。」
「まあ、見たって減るもんじゃねえし、それこそ触られたって無くなるもんでもねえからな。驚きはしたけれども、風呂屋に入る前にこのデカい体を見たときのほうが、ビックリしたぜ。あり得ねえ大きさだしな。あ、でも兄チャンのチンチンこそ、あり得ねえ巨大さだったな。」

阿部と笹井がそんなやりとりをしていたが、象潟は自分の世間知らずを改めて恥じているようだ。また、大好きな先輩にも迷惑をかけたことを、心苦しく思っていた。
巨体だが背を丸め、縮こまっている。

阿部が言った。
「なあ、兄チャン。オレも、オマエも、そこの小さな兄さんも、みんな人間の男だ。チンチンもキンタマも持っているのが当たり前で、それこそが同じことだ。それを人に見せるのが恥ずかしいか、そうでないかは、小っちゃな違いだぜ。世間一般では恥ずかしいとしても、オマエが育った村ではそうだというなら、いいじゃねえか。とりあえず、神戸では恥ずかしいフリをしておけ。だが、オマエが村のことを全部捨ててしまったら、亡くなった村人たちが悲しむと思うぞ。オレはオマエの考えが、よく分かった。いくらでもオマエに付き合ってやるよ。」
そう言って阿部は、二人に背を向けている象潟の正面に回った。

そして、股間にあてがっている象潟の両手を外した。
象潟はそれに気付いて、すぐに手を戻し、股間を隠した。
今度は阿部がどんなに力を込めても、象潟の手は全然動かない。
阿部は背後の笹井の方を向き、あごをしゃくって「こっちに来い」と合図をした。

さらに目配せして「象潟の腕を後ろに回せ」と、声は出さずに、くちびるを動かして伝えた。
(そんなの無理だ。)
(いいから、やれ。)
象潟の右腕に、笹井が小さな手をあてがった。驚いて、股間を固定していた力が抜けた。
笹井が腕を動かすように促すと、素直に背中に手を回した。
左腕も同じようにして、背後に回した象潟の両手に、笹井の手をあてがっていた。
催眠術にかかったように、その手を振り払くことは、象潟にはできなくなっていた。

「ホレ。オレの粗チンを見比べてみい。太さも長さも、倍くらいあるじゃねえか。スゲエなあ。オイ、小っちゃい兄サンもこっち来いや。」
阿部は自分の前身頃を露わにしていた。
この流れでは、笹井もそうせざるを得ない。
「ホレ、ホレ。オマエはこの兄サンの、倍の身長はあるんだろう。チンポに関しては、一体何倍のもの持っとるんジャ。いつまでも小っちゃな考えで、ウジウジしているんじゃネエぞ。」
そう怒鳴るように言うと、阿部は本気で象潟に張り手を食らわした。
バチンと大きなスラップ音が夜空に向けて響いた。

笹井はちょっと驚いたが、象潟がこれで吹っ切れたようだ。
象潟の眼に生気が戻り、一文字だった唇が動き、顔全体の表情が変わってきた。

笹井も言葉を掛けた。
「新しい土地で生きていくのに、きっと失敗はつきものだ。でも、前にも言ったけど、ぼくは一緒にいるから、頑張っていこう。」
前にも聞いて励まされた言葉を思い出し、象潟はニヤッと微笑した。

集落を出ると決めたときの闘志が、湧き上がってきたようだ。

象潟は何かうなり始めると、目の前の阿部をグローブのような手でガッシとつかんだ。
肩をつかんだまま象潟が直立すると、身長180センチの阿部の足が床を離れた。
立ち上がった勢いをそのまま阿部に伝え、体重85キロの男が空中に放り投げられた。

阿部が地上4〜5メートルに上がっていき、重力と相殺されて停止した途端、象潟は怪力を瞬発することのできる腕で阿部の足首をつかんだ。
阿部の頭と上半身が下を向き、普通なら大柄の男の体が上下さかさまに、宙吊りにされてしまった。
しばらくは、そのまま振り子のように揺れていた。

何かをうなり続けていた象潟の声は、怒涛の叫びをあげた。
「ウォー!そうだ、どんなことだって、やっつけてやるぜぇー!」

阿部はさすがに肝が据わっているようで、そのような状態でも、「そうだ。やっつけてやれぇ」とエールを送った。
「これだけ立派な体格と、チンチンも持っているんだ。エライことをやってやれ!」
そう言って、象潟の巨根に軽くパンチを食らわした。

しかし、立て続けに発せられる大声を聞いて、さすがに只ならないことが起こっていると思った弟分たちが、区切りの扉を開けて様子をうかがった。

そこで彼らの目に映ったのは、自分たちの兄キが股間も露わに大男に逆さ吊りにされ、更に大男に股間に手を伸ばしている様だった。

予想外の展開に皆フリーズしてしまった。一人が言った。
「……えっと、兄キ……立ちながら、二つ巴ですか?」

まず笹井が、続いて象潟が、笑い出した。
そして、阿部が怒鳴り声を上げた。 
「オンドリャアー! んなワケねえやろ! とっとと向こうに行っとれぇー!」
弟分たちは慌てて扉を閉めた。
マリガン   8nice!
<12> 第10章/数値データと比較対象など 2017年02月09日 (木) 18時30分
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笹井小徒(ささい・しょうと)身長135センチ、体重38キロ。
象潟麒麟(きさかた・じらふ)身長270センチ、体重380キロ。
小学3〜4年生並の小男と、ギネス記録級の大男である。
身長は、ちょうど二倍。しかし、だからといって何もかものサイズが倍というわけではない。

身長が2倍なら、体の表面積は2の二乗で4倍、体重は三乗で8倍となる。
だが、二人のプロポーションが全く同じではない。
体重は筋肉量の違いで増幅されているところが大きい。

笹井は6頭身足らずの、少しぽっちゃりした印象も受けるが、標準的体型。
象潟は9頭身超えのモデル並み、しかも見事な逆三角形体格で、筋骨隆々。

二人とも人並外れた体格で、ともかく注目を集めてしまう。ただ、二人がそろうことで、更にインパクトが生じる。
二人が勤めているエスエムエル服飾会社の従来のCMは、身長203センチの背谷社長と、平均的な体格の芸人と、笹井とが共演していた。
すると、悠々頭一つ分の身長差がそれぞれの間に生じていた。

象潟のいた限界集落で撮られた写真があるが、270センチの象潟、203センチの社長、135センチの笹井が並んでいる。
するとほぼ等間隔の頭二つ分以上の身長差がある。
新しいコマーシャルはこれを活用しようと、今企画案が練られている。広報担当の室岡(むろおか)がCM制作会社と打ち合わせをしている。

さもなくば、ちょうど倍の差がある象潟と笹井をどう対比させるかだ。
会社で二人が話すことはよくあるが、近くでは首の角度が極端になるので、象潟は自分の身長と同じ脚立に乗っている。
CMプランナーの頭からはその画も離れない。

笹井は大人としては滅多にない身長だが、誰しも子どもの頃、その身長を経験してきている。どんな風に世界が見えていたも思い出せるし、日常的にも同じくらいの背の子どもを見かけてもいる。
だが、象潟の身長は未曽有のものだ。
普通なら、背谷社長ほどの身長で十分、非日常である。
一緒に写真を撮れば、客観的に、歴然たる身長差が現れる。
身近で直に2メートル超えの人と対面したら、圧倒される。近くにいると、足の長さが異様に長いことが、まずは目に付く。遠目にはスレンダーに見えたとしても、やはり長身を支える体の部分は、逞しい。全身の要となる、腰回りは普通の人以上に、ゴツいものだ。
また、多少背が高い・低い人と一緒にいても、せいぜい見上げたり・見下げたり、首を曲げることで、相手の顔を視野に収めることができる。しかし、背谷のような2メートルでは、腰の位置が、普通の人の間近な視野に入っていることが普通なことでなく、驚かされる。
そして、手などを見比べれば、体のパーツがどこもかしこも一回りほど大きいのが実感できる。

象潟とは、それ以上の差がある。
写真を撮って傍目に見てみれば、普通の人の頭の位置に、象潟の股がある。
だが、実際に身近に寄れば、そのことよりも、気になることがある。象潟が歩いたり、何気なく移動するときに、膝や、太ももが、普通の人のアイレベルにまで上がって来ることのほうが、違和感がある。
象潟が腕を伸ばせば、遥か頭上でそれが動くのである。天井までの空間に、動物が自由奔放に動くようなことは、滅多にない。そりゃ、虫がなどごく小さな生き物が飛ぶことはある。しかし、自分より大きく、自分に危害を与え得る力のあるものが、自分がまるで注意を払うことのない上空で動くことは、慣れない内は案外、ビクビクしてしまう。
あまりに大きさの差がある手を、指の間で組み合わせてみても、握手をした印象がない。
むしろ象潟の巨大な手の中に、普通の人の握りこぶしがスッポリ包まれてしまったほうが、きちんとこの巨体と挨拶を交わした感じがする。
大男の小指が、親指のような太さがあるというのは、2メートルそこそこの身長の場合だ。
象潟の場合、別物で、それこそ普通の人間の手の中には、象潟の指の一本分しか入れることができない。
(ゲイだったら、象潟の指の一本一本が、超巨根並だと思い、それがアナルにさし込まれることを想像するだろう。)

巨人症の人の映像記録を見ると、動きに体が追い付かず、また怪我や病気の心配が絶えず付きまとい、おずおずとスローモーにしか動けない。
しかし象潟の場合は、筋肉をとてつもなく身に付けているためか、アスリート張りに体を自由に動かしている。
リーチが長いので、手足を動かしても風を起こすほどで、巨体がすりぬけていけば風圧が半端ない。



さて、神戸における象潟の住居は、倉庫を改装したものである。

大型の重機も出入りすることのできる正面の扉は、象潟が楽にくぐることのできる開閉しやすい玄関扉に替えられた。
脇には勝手口のような扉があるが、そこを通ると、会社の応接を兼ねた面会室が設けられ、象潟の服を着た特注のマネキンが並べられている。
一々象潟に登場してもらわなくても、この会社にいる超大男の大きさを来客に実感してもらうための工夫である。

その応接室から、象潟でも通ることのできるウォーク・イン・クローゼットとなる区画を経て、倉庫の奥のほうが象潟のプライベート・スペースだ。
象潟の体格に合わせた机や椅子が誂えられ、象潟が集落から持って来た布団が乗せられるベッドも造られた。

スーツなど特別な服は会社でクリーニングをするが、ふんどしを含め、日常着であっても布団サイズのものが多い。
コインランドリーにある大型洗濯機も水回りに設置された。

業務用の超大型冷蔵庫も導入され、象潟の数日分の食料も買いだめすることができる。
水道の蛇口やシンクは象潟の身長に合わせてつけられたので、背谷社長以外の人では手が届かない。

トイレの便器は特注することができなかったが、象潟が絶対に入ることのできない小ささの(つまり、普通サイズの)バスタブがこの家にはつけられた。
これは普山の提案だった。

1970〜80年代のプロレスを知る熟年の普山は、アンドレ・ザ・ジャイアントに関する伝説を見聞きしてきていた。
アンドレは身長223センチ、体重236キロの巨漢レスラーだ。
電話をするときには鉛筆を求めたという。メモをとるためかと思いきや、電話のダイヤルの穴に細い棒を入れて回したのだ。つまり、太い指を含めてアンドレのレベルで、巨体は普通の工業製品にはまるで合わなくなるのだ。
また、あまり大きな声では言えないが、普通の便器ではうまく用を足せないので、ホテルのバスタブに大便をしていたこともあるという(そして、そこに尻がはまって、救助を求めたという話が伝わっている。)

象潟もきっと苦労するだろうから、と、バスタブの排水の配管を、下水につなげた。
そして、象潟が腰掛けることができる高さに、幅広い縁をつけて、バスタブを大用の便器として設置したのだ。
下世話な話だが、大量に出た場合は少しずつチリトリですくって普通の便器で流し、残ったカスを洗い流すためにこそシャワーを使うようにした。
小用の便器は、公共のトイレ掃除用の深い陶器のシンクを、これまた象潟の股間の位置に合わせて設置した。
神戸に来てから、一般のトイレでえらく苦労をしていた象潟は、普山のこの配慮に並々ならぬありがたさを感じていた。


笹井は最初から親しくしていたこともあり、象潟が生活する上での不便を聞き取り、それが解消するよう工夫を凝らしていた。
当然、象潟のプライベート・スペースに、誰よりも足しげく、入ってきていた。


その日も笹井は、自分の背よりも高い机のそばで、象潟の衣食住に関するリクエストを聞いていた。
クリップボードに挟んだ紙に、いろいろ書き込んでいる。
象潟はその周囲を動き回りながら、いろいろ答えている。

だが突然、象潟が膝をついて、それでも笹井よりもはるかに上背があったが、笹井に背後から抱き付いた。
「ヒィッ」と、声を押し殺した小さな叫びが、倉庫の片隅に響いた。
笹井は首を回し、象潟と視線を合わせた。
象潟は、笹井の胸や腹に当てた大きな手を、上下左右に愛撫するように動かしている。
マリガン   8nice!
<13> 第11章/まさかのハプニング 2017年02月10日 (金) 15時08分
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笹井のほうが先に言葉をかけた。
「どうした。まだ何か、欲しいものがあるのか。それとも、また不安になったのか?」

言葉に出すことを躊躇っていたが、意を決して象潟は言った。
「……神戸に来て、色々な人と知り合ったけど、俺にとって笹井さんは特別です。」
「そんな風に言ってくれて、ありがとうよ。」
自分の胸を覆うような象潟の手の甲を、笹井はポンポンと叩いた。

象潟は笹井の前腕をつかむと、大きく口の中に笹井の手の平を入れた。
そう大きく口を開かなくても、すっぽりと手を丸ごと、納めてしまった。
そして、ペロペロと舌を這わせ、手の平だけでなく、指の付け根も舐めたりしている。
「おいおい、何をふざけてるんだ。」
「……笹井さんの味を、確かめているんですよ……」

象潟は手を口から出すと、今度は唇を重ねて来た。

さすがに笹井も慌て始めた。
だが、そんなことに構わず、笹井の口の中に象潟の舌が蛇のように侵入してきた。
口の中の空間をすべて埋め尽くすように舌が挿入されると、歯の裏、口蓋の天井まで、すべてを味わった上で、抜かれていった。

「……笹井さん、オレが会った中で一番小さいんです。最初から思っていたけれど、一番かわいいんです。もっと素敵な人がいるかと探したけれど、笹井さん以上の人は、いそうにないです。そう考えたら、我慢できなくなって、俺のチンポを、どこかに突っ込みたくなって、でもそうしたら笹井さんをぶっ壊しそうだったから、舌を入れてみたんです……」

笹井は小さな手で軽く、大きな頬に往復ビンタを食らわせた。
「おい、目を覚ませ。ぼくは男だぞ。」
「だから何です? 好きになるのに、男も女も関係ないでしょう?それに俺はこんな体だから、どんな相手でも征服することはできるんです。でも、小さな笹井さんを征服することが、一番してみたいんです。」
象潟は笹井の手を甘噛みした。
笹井が引き抜こうとしたら、象潟は口をすぼめて逆にその手を手首まで吸い込んでしまった。

象潟がパカッと口を開けたので、笹井はすぐさま手を引き抜いた。
そして、今度は渾身の力を込めて、バチンと左頬に手の跡が残るほど強い張り手を食らわした。
象潟の顔は太い首の筋肉に支えられて、ビクとも動かない。
そして、口角を上げて、ニヤリと笑った。

笹井の背中に当てられた象潟の腕に力が込められた。
目の前では、力こぶが少しだけ膨らんでいる。
しかし、とてつもないベアハグだ。
呼吸もろくにできない。
「フ、フ、フ……本当にか弱くて、かわいいスね。」

少し力が緩み、象潟の右手が笹井の体から離れていった。
しかし、左手だけでも、軽々と小柄な体を自分に密着させながら、束縛することができる。

ビリ、ビリビリ、ビイーッ!
布の裂ける音が響いた。
象潟が笹井のシャツを破いたのだ。

ベリベリベリベリッ!
ズボンも真っ二つに裂かれてしまった。

ドスッ。
笹井が床に落とされた。背面は、上から首筋から足首まで、裂かれた衣服の間から、素肌が見えている。
それを見て象潟はよだれを垂らした。
「象潟さんの体、俺と自慢の息子で味わわせてもらいますよ……」
「止めてくれーっ! 象潟、目を覚ませっ!」



「……ってな展開になったんじゃない?」
いやらしそうに太田がしゃべっていた。
「よくもそこまで妄想を広げられるわね?」
中田が言った。
太めの太田、細めの細田、中くらいの中田が弁当を食べながら、先日見かけた光景に付いて、話し合っていた。

仕事の問い合わせがあって、笹井の後を追いかけ、細田も象潟の居住区域にやってきた。
そのとき、笹井を抱きかかえる象潟を見たと話したら、勝手な想像を太田がBL,SM交じりで暴走させていたのだ。
そこに当の笹井が現れた。
三人娘はしれっと挨拶を交わす。

コーヒーを飲み始めた笹井に細田が訊いた。
「この間、笹井さん、象潟くんに背後から抱き締められていませんでした? あれって、何だったんです?」
「あ、見てたの? 」
「一体なんなんです? 仲、良さげじゃなかったですか? あたし、見たとき声を上げそうになっちゃいましたよ。」
「いやいや。ぼくの服の中に胸元から、象潟が机の上から落としたボールペンが入っちゃったんだよ。そうしたら、あいつがそれを取ろうと、ぼくの体を探っていたんだ。まあ、ペンもドでかい特注品だからね。慌てて取り戻そうとしていたんだよ。」
「ホントに、それだけですか?」
「ほんとに、それだけだよ。」
そして、コーヒーを片手にその場を去っていった。

太田が言った。
「ボールペンよりも、もっと太い棒を探っていたんだと思うんだけどな。」
細田が言った。
「笹井さんの棒は、象潟くんには細すぎるわよ。」
中田が言った。
「まだ、そんな妄想をしているの。昼休みが終わるわよ。」

だが、笹井と象潟が二人っきりのときに何をしているのか、すべてを知る人は当人以外にはいない。
そう。二人きりのときには他の社員には秘密の出来事が行われていたのだった。
マリガン   8nice!
<14> 中座のおしらせ 2017年02月10日 (金) 15時31分
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ベタな「夢」というか「妄想」落ちで、すみません。最初に考えていたエピソードは大体書いたので、一旦、このお話しはお休みといたします。
巨大「化」はないので、馴染みのある神戸の具体的風景と絡ませながら、話を展開してみました。思い出もまじえて書けたので、けっこう楽しかったです。
とはいえ、まだまだ発展させられる要素は残しているので、続きはないとは言い切れませんが、わたしの中でもあいまいなのです。とりあえずは翻訳を含め、他の作品の発表をお待ちください。
マリガン   5nice!




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