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終わっていた街 2016年03月08日 (火) 00時03分
破壊巨人モノ
特に先の目星は立てず、見切り発車で空いた時間に書いていく予定です。
モライビ   4nice!
 
<2> 2016年03月08日 (火) 00時05分
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 爆発音のようなもの凄い地響きだった。断続的ではないものの、すさまじい大きさの揺れに、まともに動くこともできない。昼寝をしていた僕は、目は覚ましても、身体を起こすことができず、じっと揺れが沈静化していくのを待っていた。僕が暮らしているのは小さいアパートで、他の部屋からも、驚き、怯え、ささやく声が、かすかに聞こえてくる。いつもは、壁が薄くて文句ばかり言っていたが、こういう時に孤独を感じにくいのはありがたいかもしれない。
 枕元近くに置いたテレビのリモコンに手を伸ばすが、どうやら停電してしまったようだ。近くに置いてあるスマホを持つと、僕はインターネットを開く。動画サイトに飛んでみると、やはり生で現状を撮影し配信している人がいるようだ。僕はその動画を見ようと、リンクに飛んだのだが、それはすぐに後悔へと変わる事になる。
 動揺と焦りか、配信者の発言は、まったく要領を得ることができなかったが、そんなものは映し出されている光景を見れば、誰だってそうならざるを得ない。何故なら、配信者の周囲は瓦礫の山と化していた。土埃が舞っているのか、画面はどこか白く濁って見える。地面には巨大なヒビが入り、画面に映る限り、周囲にあるのは、吹き飛び地に落ちて踏まれたビスケットのように砕けた、家、家、家……。電柱はひしゃげ、パチパチと電線が火花を上げている。さっきの凄まじい音といい、巨大な爆弾でも落ちたかのような光景だった。そして、これは案の定だ。この配信者は極力映さないようにしているが、崩れた建物の端々に潰れた死体が転がっている。建物の下だけとは限らない。配信者の歩く道にだって、白目を向いた人々の身体が、無残に散らばっていた。この配信者が生きているだけでも不思議なくらいだ。そして、僕は怖くなり、常日頃から用意しておいた防災道具を担いで、スマホを持ったままアパートを飛び出した。振り返ると、やはり建物にヒビは入っていた。軋む音まで聞こえる。僕は外から他の住民に、すぐさま建物から離れろと大声で呼びかけた。その後、青ざめた顔の住民達が、わたわたとアパートから出てきた。
 外に出て周囲を見渡すと、不自然な点に気づく。自分の住むアパートから遠く離れた場所。確かあの辺は住宅地だったはずだ。そしてその中心に、見たこともない黒く巨大なひとつの影がそびえていた。
「わあ! なんだあれ!」
 緊張で静まった周囲に、僕のスマホから、配信者の声が響く。動画に集中すると、無言で数人、僕の周囲に集まってきては、傍らからのぞき込む。全員が息を飲み、眉をひそめた。
「これは……足……!?」
 画面には確かに、つま先部分と靴紐のような黒い塊が映し出されていた。見ているものが信じられないというように、呼吸を激しくし、カメラが揺れる。乱れた画面と地面を蹴る音がなると、再び画面は黒い塊を映した。どうやら、後退したようだ。おかげで、それが何かわかる範囲まで、画面に収めることができている。そしてそれは、配信者が最初に言った通りだった。巨大な足だ。厳密に言えば軍隊が履くブーツのような靴。もちろん、普通の人間が履くようなサイズではない。
 その時、重く内臓にのしかかるような音が響いた。画面内からだ。映像は覆いかぶさっていた何かが取り払われたように、やや明るくなり、配信者はその音の鳴る方向――今しがた見つけた巨大な足の続く場所を映していった。
 僕達は愕然とした。それは配信者も同じで、手元の揺れが大きくなる。僕だって、このスマホを落としてしまいそうだったが、隣でのぞき込んでいた人が、なんとか僕の腕を支えてくれた。それでも、その人だって、かなり動揺を隠せないでいる。顔は汗でびっしょりだ。まあ、それはこの人だけに限らないが。
 映し出されていたのは、黒いタンクトップを着た、巨大な人間の姿だ。高い場所から着地した後のようにかがめていた身体を、ゆっくり起こしている最中だった。重く響く音は、この巨人が動く音に違いない。迷彩柄のズボンを履き、タンクトップはぴったりと身体に張り付いている。胸の筋肉は巨大な山を作り、腹筋は浮き出て、汗でタンクトップを湿らせていた。伸びた二本の腕は、岩を連ねたように太い。映像の目線が低くなった。「あ……あ……」と漏れる声。どうやら、腰を抜かしたらしい。僕は恐る恐る首を動かし、さきほど見た、黒い影へと目をやった。さきほどよりも、縦に伸びていた。この身を持ち上げた巨人のように。
「あー! 結構足痺れたなぁ! しかも、面白いくらいに、周りが更地になってやがる!」
 ものすごい音量だ。しかも、これは画面外からも、しっかりと聞き取れた。
「なんだよ、周りの小人の奴等、だいたい死んでるじゃねぇかよ。まあ、この登場がやりたかったんだから、仕方ないか。……それに」
 画面内の巨人が、この配信者の方に身体を少し向けた。画面が乱れ、必死に立ち上がろうとしているのがわかる。それでも、決してカメラを落とさないのは、もはやジャーナリスト魂に近しいものなのかわからないが、今となってはどこか哀れだ。見ている身として、そんなことを言える立場ではないが、一刻も早くカメラなど捨てて逃げ出して欲しかった。
 画面一杯に巨大な腕が伸びてくると、配信者のいる地面ごとすくい上げたようで、みるみる視界が上昇していく。近くで見ると、浅黒い肌に汗がしたたり、筋肉の山を輝かせ、際立たせている。そして、カメラは巨人の顔の前で止まった。画面に入りきらないほど巨大な男の顔。もみあげから顎にかけて、髭がおおい、荒々しさを際立たせている。鋭い目と、それに深みを与えているシワ。太い眉。年齢としては、四十代前後といったあたりだろうか? 男の目はぎょろぎょろと動き、配信者を見定めている。そして、カメラに気づくと、口角を持ち上げた。巨人とカメラの目があった瞬間、僕の隣にいた一人が気絶していた。他の人達も、見なかったことにでもするように――そして、恐らくこれから起こる悲劇から目を逸らすように、僕の周りから離れていった。しかし、僕だけは画面に釘付けだった。怖くて怖くてたまらない。手だって、足だって震えて、立っているのもやっとだ。だけど――だけど、僕はこの巨人をカッコいいと思ってしまっていた。
「もしかして、こいつで生放送みたいのしてんのかぁ? だったらちょうどいい。今からおまえらがどうなるか、その一例を見せてやるよ」
 巨人は恐ろしい笑みを見せると、巨大な口が迫ってきた。もはや、言葉にもできていない、配信者の悲痛な絶叫がこだまし、僕も顔をしかめる。しかし、目を逸らせなかった。
 とうとうカメラは配信者の手から放り出され、薄暗く涎がつたう赤い肉壁を映すだけになる。配信者と一緒にすくいあげた、コンクリートの地面を砕く音がする。画面にはちらちらと、配信者が舌で転がされているところが映り、全て見れないのが、どこかもどかしい。やがて、配信者は声を出す気力さえも失くし、その瞬間、歯と歯が重なる鋭い音が響いた。画面に、擦り千切れた人間の一部が流れてきては、そのまま薄暗い喉の奥へと、カメラもろとも落ちていった。ぽちゃんと液体に落ちる音とともに映像は消えた。
モライビ   20nice!
<3> 応援してます(*´ω`*) 2016年03月08日 (火) 02時03分
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こういうギガサイズでリアル系なのは最近見なかったのでありがたいですw
これからもがんばってくださいw
はたはた   0nice!
<4> Re:終わっていた街 2016年05月31日 (火) 00時51分
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遅くなりましたが、はたはたさん、コメントありがとうございます。
物語とはいえ、リアルに巨人が実際に街に現れたらと、小人の反応からしても考えるのは楽しいです。

ただ、今作、ジリジリと相変わらずの鈍足ペースで書き進めていたにはいたのですが、そんなさなかに、熊本での、あの出来事……。
私自身が被災したわけではないですが、創作と割り切っても、街破壊モノを書くという事になんだか筆が進まず、ここでの更新を止めてしまうという結果にしてしまいました。

でも、続きが書きたいとは思っていますので、いつか載せられたらなあとは思っております。

ちなみに、その間、他のお話を作ってはいました。
まだ完結してないですが、しばらくはそちらの方で、お暇を潰せたらなとも思います。
モライビ   1nice!
<5> 終わっていた街2 2016年08月22日 (月) 22時45分
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 小人をひとりたいらげた。当然のように腹になんか全然たまんねぇ。むしろ、小さすぎて、喰ったのかどうかも怪しいくらいだ。一緒に頬張った、コンクリートのほうが、まだ食べたという感覚がある。無味で妙に埃臭い味と、ざらざらした舌触り。正直まったくうまくなかった。そもそも小人だけを掴むという加減がわからない。こういう事は初めてだ。たぶん、普通に小人だけをすくおうとしていたら、そのまま指で潰していた。それもそれで、自身の圧倒さに酔いしれられるかもしれないが、本当の目的はそうじゃないだろうに。飯だ、飯。俺は飯を――肉を喰いたい。肉だ、小人の肉。そのために俺は、この場所にやってきたのだ。それに喰う直前の、あいつの表情……あれはたまらなかった。もっと、アレが見たい。もっと、こいつらを恐怖に陥れてやりたい。なに、心配はいらないさ。餌はまだ十分に残っている。
 さすがに俺の着地した周囲は、何もかもが吹き飛び、小人の気配など感じられない。しかし、遠くを見渡せば、建物が密集した場所は確かにあった。揺れも相当だったみたいで、中には崩れ、今に崩壊寸前なんて建物もある。まあ、あの辺に行けば、避難している小人共にありつけるだろう。何人かは死んでいるだろうが、俺から見れば、ほんの端数だ。
 俺は足を浮かせ、目の前の地面を踏みしめた。なんてことのない、ただの歩くという行為だ。しかし、ほんのこれだけのことで、この世界の地面はひび割れ、世界は振動し、遠くの方で、またひとつ建物が壊れた。なんて脆すぎる世界で生きているんだ、コイツらは。腹の底から、笑いがこみあげてくる。そういえば、さっき喰った小人は、もう消化されたんだろうか。俺は腹をさすり、耐え切れず、笑い声を解放した。本当に、ちっぽけで、惨めで、哀れなこの世界に。

「あーはっはっはっは! はーはっはっはっはっ!」

 まさに、魔王降臨と言ったところか。
 世界を征服しにやってきた魔王。その圧倒的な力で、どんなモノも根絶やしにする。おまけに、勇者なんて都合の良い存在はいねぇ。そういう風にできてたんだ。最初から、この場所はな。
 俺は大袈裟に足を振り下ろし、遠くの小人共のおののく姿を想像しては、それを奴等に現実として突きつける瞬間を待ち侘びていた。どこか、どこかに大量に小人は集まっていないか? 俺は首を動かし、あたりを見回す。そして、ある場所に目が止まった。
広い敷地に、3つほどの建物が、大きく地面を囲うように連なっている。縦にも横にも細長い建物がふたつ。ひとつはどうもボロっちいようで、すでに半壊していた。残るひとつは、高さはそこまでではないものの、広い面積でその敷地を三分の一くらいは埋めているんじゃないだろうか? 囲われた地面と合わせ、運動するのに丁度良さそうだ。なるほど、こいつは学校というわけだ。
俺は舌なめずりをした。俺が歩くことで断続的に揺れを起こす。まだ避難しきれていない奴等が結構いるようだ。現に校庭となっている広い地面には、小人共がいびつな列を作りながら集まっているのが見える。日頃の避難訓練の賜物と言ったところか。こんな明らかにイレギュラーな状況でさえ、妙な規律に縛られて、気持ちが悪いとさえ思う。しかし、これならオヤツになりそうだ。前菜と言ってもいい。俺は建物が完全に崩れぬよう、少しだけ静かに歩き、学校へと距離を詰めた。
 何匹かの小人が俺に近づいてくる俺に気づき、ピーピー騒いでいる。混乱の波は次第に大きくなり、列は崩れ、蜘蛛の子を散らすように小人共は校舎の外を目指していた。まったく行動がおせぇんだよ。まあ、俺を前にしちゃ何が正しいとかはないけどな。ともかく、逃がしてやるものか。俺は校門付近に拳を振り下ろした。

バゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

打ち付けた場所はあっという間にクレーターのような溝を作り、揺れで多くの小人が転倒しわめいている。ゆっくりと拳を持ち上げた。さすがに何匹かは潰してしまったようだ。赤い塊が穴の底にへばりついていた。そして俺の拳にも。俺は拳のそれを、丁寧に舐めとった。

「さて、もうわかっただろ? 逃げようとか考えんじゃねぇぞ。さもないと、ゴミ同然の薄汚れた塊になるぜ」

 俺は校舎の反対側を囲うよう着座した。ケツの下でミシミシと建物が潰れていく感触がある。こそばゆくて、なかなかに気持ちいいじゃないか。完全に腰を下ろすと、まじまじと小人共に目をやる。さっきよりも奴等の顔がよく見える。どいつもこいつも幼ねぇ。青ざめ、震え、泣き喚き、腰を抜かしたふぬけばかりだ。
しかし、そんな中に一人、震える足を気力で引きずりながら、俺の前に向かっている奴がいた。白髪混じりの頭に、少々恰幅のいいジジイだ。おそらく、この学校の校長だろう。そいつは歯を震わせながら、たどたどしく何かを話そうとしている。しかし、声もまともに発せず、全然聞こえねぇ。俺は腕を伸ばし、注意深く、そのジジイをつまみあげてみた。小人の来ている服をつまむ感じだと丁度いいか。結果、殺さず、顔のとこまで持ち上げることに成功した。それでも、この校長は顔を歪めて悲痛なうめき声をあげている。骨を少しばかりは折ってしまったらしい。

「何が言いたいんだ? はっきりしてくんなきゃ聞こえねぇよ」

 ジジイの顔が突風を受けたみたいに、ひきつった。俺は少しだけ猶予をやる。何もしゃべらず見ていると、ジジイはなんとか口を開いた。
「どうか……どうか、お願いします……子供達だけは……どうか、どうか……」
 あー、なるほどなるほど。納得した。しかし、こんな状況でも、自分の学校の生徒達を一番に気遣い、そして俺へと対話を求めるなんて、なかなかの根性じゃねぇか。俺は笑顔を浮かべ、こくこくと頷いた。その時の校長の安堵の顔といったら。よほど、良い教師だったんだろうな。だが……。

「それは、おまえたち大人はどうなってもいいってことか?」

 こいつの言う事は、そういうことになる。一瞬緩んだ校長の顔はみるみる青ざめ、全身が震えだした。しかし、ここで訂正や救済を請うほど、落ちぶれてもいないようだ。ジジイは、息をのむとゆっくり頷いた。まるでサビた機械を無理にでも動かしたような遅さだった。
 ジジイは目を閉じて動かない。冷汗だけが滝のように顔面を流れていった。俺は大きく口を開け、ジジイをその中へと運んでいく。擦れた吐息と歯の震える音ははっきりと聞こえた。
 俺はジジイの上半身だけ口内に入れると、ギロチンのような勢いで噛み切った。歯と歯が合わさる鋭利な音に、下の小人共から悲鳴も聞こえている。離れた下半身は、あっけなく地面に落ち、潰れてしまった。さっきまで動いていたとは考えたくもない、その無残な肉の塊に、小人共の恐怖はピークに達したようだ。気を失う奴に、失禁する奴、理不尽に叫び暴れている奴と、集団教育もこの現状じゃ、何の役にもたってねぇ。
 そんな様子を無様に思いつつも、俺はそこそこ楽しんでいた。恐怖の対象として見られる事が、これほど気持ち良いとは思わなかった。心の底をくすぐっていくような熱い感情が湧き上がってくる。癖になるような心地良さだ。
 俺は、口の中でジジイの身体を転がしながら、血の味に舌鼓を打つ。あまり口を開けて咀嚼するのは良くないが、ぐちゃぐちゃくちゃくちゃと、血のついた歯を小人共に見せつけながら、ジジイの身体を噛み砕いた。もはや、この死体に人間の原型などはない。俺は肉を味わい、喉を鳴らして、短い食事に終わりを告げる。もちろん、まだまだ喰い足りないがな。

「おい、ガキンチョ共! さっきの校長のジジイか? アイツが最期に俺になんて言ったかわかるか?」

 俺の食事を前に、恐怖に震えるだけだったガキ共は、突然の呼びかけに、一層身体を震わせる。醜い魚のように口をぱくぱくさせている奴等もいて、到底質問に答えられるような状態ではなかった。

「は! こんな無能共教育して何になるのかね。まあいい、優しい俺が教えてやるよ。あのジジイはなあ、子供達だけは助けてって言ったんだ」

 ガキ共を取り巻く空気が変わったのがわかる。希望を抱いたように、何人かが、ざわざわと周囲を見渡し始めた。その視線はある一点を見つめたまま、動く事がなくなる。なかなか察しの良い奴もいるようだな。

「大人はどうなってもいい……。さっき、俺もそんなこと言ったよなぁ……。まさか、聞こえなかったなんて言わせねぇぞ」

 何人かのガキが先ほどまで見つめていた場所まで歩き出す。
 大人の――教員達が並んでいる場へ歩き出す。

「そうだ! そのメシをとっとと俺の前に持ってこい!」

 俺により明確な命令が下された瞬間、ガキ共は一斉に教員めがけて狂気の雄叫びをあげながら走り出す。数の多さには大の大人も歯が立たず、ガキ共に捕らえら、俺の前に差し出されるのに、そう時間はかからなかった。
 差し出された大人は十数人程度。どいつも、逃げ場のない絶望に、すでに表情からは生気が抜け落ちたようだった。俺は両手を擦り合わせ、ゆっくりと小人共の前に差し出してやる。

「よくやったな。さあ、そいつらをこの手の上に早く乗せろ」

 俺が言い終わるのを待たずにして、ガキ共が後方から波のように押し寄せ、大人達を俺の手の上へと追いやった。乗せられた小人共は見事に大人だけ。実に哀れだ。俺はその手を口の近くに持ち上げた。

「教え子に裏切られ、可哀相な奴等だな。どんな大切な事を教えようが、ガキ共の自分の命の前には――この世界の中では全部無意味だったようだぜ。安心しろ。痛い思いはさせず、ゆっくり腹の中で消化してやるからよ」

 俺は大人達めがけて、ゆっくりと舌を伸ばす。未来が掻き消え、死を待つしかない、無様な表情。ぐつぐつと俺の中の感情が高ぶってくる。じっくりと、一人一人の感触を楽しむように、舌を這わせ、大人共を舐めとっていった。舌から感じる旨味に、もがくようにくすぐってくる感触。全てを舌に取り込んだ俺は、ゆっくり口の中へとそれを仕舞い込んだ。
 口の中でうごめく小人の感覚を楽しみながら、何度も何度も舌で転がし食事の時間を思う存分楽しんでいく。充分に味わい尽くしたところで、喉の奥へと少しづつ落としてやった。喉を上下させ、その度に快感のうめき声がついつい漏れる。やがて、俺の口の中は空っぽになってしまった。
 ふとガキ共を見ると、ちらほらと安堵したような表情が見える。俺がジジイを喰った時はあんなに怯えていたというのに。ドス汚くて、いやしい奴等だ。そんな奴等には、ここが学校という場としても、指導という名のお仕置きが必要だな。

「おい、お前達、何か勘違いしてないか?」

 俺が振りかけた言葉に、一瞬にして空気が重くなっていく。思いあがらせるのも一瞬。恐怖に陥れるのも一瞬。ほんとこの場所は俺こそが全てであり、これほど面白いことはない。

「俺は別にジジイと約束を結んだわけじゃねぇ。それに、どちらにしろアイツの血と肉はもう俺の一部になっているんだしな。どうしようと俺の勝手だ」

 俺はゆっくり腰を持ち上げ立ち上がる。巨大な影がはるか遠くまでガキ共を覆いつくし、まさにこいつらの先にある未来そのもののようだった。ガキ共の集団は再び恐怖で喚き散らす。いい加減こいつらの態度もイライラしてきたところだ。まあ、こんな状態を前にしちゃ当然な事だがな。

「午後の授業って辛いよなぁ〜? なんてったって、すぐ眠くなっちまうもんなぁ〜」

 ゆっくり身体を傾けていく。ガキ共の悲鳴は大きくなり、やがて……

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン

静かになった。学校全体が俺の身体に押し潰されて、地面が陥没していった。一体この胸や腹筋の下で、何人のガキが絶望の基に惨めな肉塊になっていったのか? 想像するだけで笑いがこみあげてくる。俺はゆっくり地面と身体を擦り合わせた。

「意地きたねぇガキ共を喰ったって腹下しそうだからなぁ。恨むなよ。その資格はねぇがな。どっちにしろ、お前達は遅かれ早かれこうなるのが運命だったんだよ。この世界に生まれた限りはな」

 俺はそのまま目を閉じる、別に寝るつもりがあるわけじゃねぇ。単なる食後の休憩時間だ。
モライビ   13nice!
<6> Re:終わっていた街 2016年08月23日 (火) 09時28分
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一つひとつの描写が丁寧で、特に喰いのシーンに興奮しました!巨人の圧倒的パワーで人間達を更に支配してほしいと思います!
匿名巨望   0nice!
<7> Re:終わっていた街 2016年08月25日 (木) 12時09分
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コメントありがとうございます!
自分は巨大男の喰い描写がとにかく好きなため、今作はとにかくその面をフォーカスして書いてみました。
この先も、そういう面が多く出てくると思いますが、お楽しみ頂けたら幸いです。
モライビ   1nice!
<8> 終わっていた街3 2016年11月27日 (日) 22時52分
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 人が食べられるところを僕は見た。
自分達と同じ、生きている人間が、あんなにも簡単に消えていく光景は、当然のように初めてだ。
配信者の恐怖の声が耳から離れない。表情が見えなかったにも関わらず、僕の脳裏には恐怖でひきつり壊れたと言ってもいい哀れな顔が、鮮明に思い浮かんでくる。
あれから、正直あまり記憶がない。今の僕はただ座り込んでいる。
同じように恐怖で身を震わせている人に紛れ、僕はその中のただ一人でしかない。特別な能力も、皆を奮い立たせる先導力も、今の状況に立ち向かおうとする勇気さえなかった。
ただ、たえず揺れ動く地面に怯え、あの目撃した巨人の前では無意味としか言えない、避難場所である市民ホールに、じっとしている事しかできない。
あの映像を見てからというもの、僕の記憶は霧がかかったように、薄ぼんやりとしている。ここに来たのも、周囲の逃げる人達に混ざり、ただ流されてきたのだ。文字通り流されてきた。歩いた、もしくは走ったという認識はなかった。
非常事態の時はこのホールに避難する。この街に暮らして、それは幾度となく知らされていた事であり、地震や大停電の時には実際にこの屋根の下で夜を明かした。
 僕達にはただ避難する事しかできない。事態が自然と収まるのを待つことしかできない。ここに集まって恐怖に震えるしかできない。周りの人達もそれを十分承知で、どんなに今までとは違う――巨人の進撃という場面に出くわしても、それに適応した応用ができないのだ。
「最新の情報が入りました。ただいま、巨人は南溝倉町付近で横になり、寝息をたてているそうです。死者、行方不明者の具体的な人数はいまだ把握されておらず……さらにここで残念なお知らせをしなければなりません……。南倉町中学校は巨人の下敷きになり、生徒と教員の生存は絶望的だと思われます……」
避難所にラジオから聞こえる冷たい音声が響き渡る。それでもアナウンサーの声からは、なんとか平静を装い、情報だけを伝えるために感情を押し殺している、そんな気持ちが読み取れた。
その知らせと共に、嗚咽にも近い悲しみの声が、このホールに鳴り響いていく。擦れた声を漏らす者。赤ん坊のように泣く者。そして絶叫する人々……。
「どうして! どうして、智恵理が犠牲にならなきゃならないの!!!?」
巨人の下敷きになった学校の生徒の親なのだろう。身体を曲げ、床に顔をうずめては、しきりに言葉を吐き出している。
僕の両親は幼い頃に死んでおり、今この状況において、安否を確認したい存在は自分自身には思い当たらない。だが、それはひとつ救いのようにも思えた。子供の死に直面し、さらにこの非常事態で完全に心の折れてしまった人々がこう目の前にいると、残酷かもしれないが、少しは自身の境遇がマシに思えた。
「いまだ巨人に対し消失現象は発生しておらず、我々には早く平和な時間が戻ることを祈るしかありません。皆さま、非常時に備え、すぐに避難に移れるよう心がけてください! 私達も引き続き巨人の動向を……は、今巨人が動き出しました! 離れて! すぐに巨人から離れて!!」
そこでラジオからの音声は途絶えた。みしみしと建物が揺れ、地面が揺れる音と振動が身体全体に伝わってくる。
「また……またなの……」
「早く! なんであの巨人は消えねぇんだよ?!?」
確かに今回は何から何までおかしい。消失現象――あの巨人に対し今すぐに発動しなければならないはずだ。奴は何百、何千もの人々を殺している。街を破壊し、人々を恐怖に陥れている。「秩序を乱す者は強制的にこの世界から抹消される」。小さい頃から言われ続けてきたことだ。実際には目にしたことはないが、殺人、強盗、それらの犯罪者はすぐにでも世界から掻き消されていく。仕組みはわからない。でも、最初から法として決められていたことだ。消失が起きたことなどニュースで聞いたくらいだが、実際に見た人が言うには、それこそマジックのようにその場から消えてしまうらしい。だから僕らの世界には犯罪者への対抗の術が存在しない。今こうして再び巨人が動き出した現状においても、逃げては祈るしかできない……。
 大きくなる地響きに、ホール内はパニックになった。その場にいたほとんどの人々が出口へと駆け出し始める。一度ここへ避難したというのに、どこに行くというのだろうか。それは人に流され、同じく出口へ駆けている僕自身にもわからない。とにかくじっとしていたくなかった。全身で感じる揺れと音から、巨人がこのホールに近づいているのは、火を見るよりも明らかだからだ。

ズウウウウウウウウウゥウウゥゥウゥゥゥウン

大きな振動で僕はバランスを崩し、床へと身体を打ち付ける。見れば周りの人達も同じような状態になっていた。人の流れは止まり、誰もが顔を青ざめ、最悪の光景を想像する。
ぎしぎしとホールはうめき、コンクリートの屑が天井から降りかかってきた。僕はおそるおそる天井へと目を向ける。壁と天井の隙間からは空が見えていた。それは徐々に大きくなっていく。まるで初めからこのホールの天井は開閉式だったかのようだ。薄暗かった室内が空からの明かりで照らされ、だがすぐにドス黒い影で覆われることとなる。
僕達の見上げる空を占める存在。それはあの恐ろしい大男の顔だった。

「みーつけた」

 まただ。また身体が動かない。巨人はまるでクッキーの缶を開けたように、笑みを浮かべ、舌なめずりをしている。
 逃げなきゃ!逃げなきゃ! 逃げなきゃ! 何度気持ちを鼓舞しても、足が動かない。他の人達もよたよたと立ち上がろうとしては失敗し、絶叫の声やすすり泣く声をあげるばかりだ。

「さて、メインディッシュといきますか」

  巨人が両手を合わせるその風圧だけで、僕達は少し吹き飛んでしまう。身体を震わせながら、僕はなんとか身をひきずって外へ向かおうとした。巨大な手がホールの中へ迫ってくるのが目に入る。それでも歯を食いしばり、涙を浮かべながら必死に身を動かした。

「ぎゃああああああああ!!!」
「いやだぁぁぁぁああああ!!!」
「たすけ……! ひっ! たすけを!!!」

 悲鳴が一層大きくなり、咄嗟に僕は振り返る。見れば、巨人はまるで水面から水をすくい上げるように、両手いっぱいに人々を持ち上げていた。あと少し後ろにいれば、僕だって巻き込まれていたに違いない。手の甲で潰される人。ひきずられ地面に血の跡を残す人。両手に潰される人。まさに地獄絵図が広がっており、思わず僕はその場で吐いた。
 不幸にも巨人の手に収まってしまった人々。その人達が辿る運命を想像するのは容易だった。

「大量だなあ! これはいい腹の足しになりそうだ」

 上空から聞こえる阿鼻叫喚の渦に僕は顔をうずめた。人々の声はどんどん小さく、弱く、聞こえなくなっていき、反対に耳を塞ぎたくなるような残酷な擬音がこだましていく。
 骨を砕く音。肉を断つ音。それらが混ざりぐちゃぐちゃと、鼓膜にへばりついては離れない。
 身体を引きずることも気がつけば出来なくなっていた。目に見えなくても、頭の中に膨らんでいく残酷な光景に、僕は震えて泣くばかりだ。勇気を出して前に進もうと目を開けても、すぐに後悔へと変わることになる。自分の周りに広がっていたのは、巨人の手や口からこぼれ落ちて醜く潰れた人の死体。血の混ざった巨人の唾液が空から降り注ぎ、あたり一面を真っ赤に染めていた。

ぐげげげええっつっっっぷヴヴうううヴおおおお

 直後、大地を震わす勢いの爆音が空から降りかかる。同時に強引なまでに鼻の中に浸食してくる、かすかに血の臭いが混じった、すさまじい悪臭。僕は顔全体を手で覆い、身体をジタバタと動かした。その際仰向けになってしまったのは最悪の展開だ。うっすらと開けていく視界が、巨人の顔で覆われていく。巨人は僕達へゲップを吹きかけ、血だらけの口は笑みを浮かべていた。

「さてと。残さず食べなきゃもったいねぇよな」

 巨人の口から出る恐怖の言葉に、身体中を冷や汗が走る。なんとか身を動かそうと
するも、すでに身体の自由は効かず、周囲から鳴り響く爆音に、何が起こっているのか理解するのに、かなりの時間がかかった。
 見れば、周囲の壁が大きな手でどんどん取り払われていっている。数時間ぶりに目の当たりにする周囲の街の光景はひどいものだった。建物という建物は、どれもが原型を留めないほど崩れ、紙でできたジオラマを潰してしまったかのようだ。さらには、いたるところに、先に逃げ出したであろう人達が残した、血と肉が散乱している。
 その光景にショックを受けるのも束の間、身体が妙な感覚を覚え、僕は胸に手を当てて首を動かした。壊れた街の景色が下降していっている。状況を理解した時には、すでに手遅れだ。僕の視線の先には、巨人の厳つい顔が間近に迫っている。巨人の鋭い視線と目があった。ヤツは地面ごとこの建物を持ち上げたのだ。
 自分のいる市民ホールの床がゆっくり斜めになっていく。掴むところなんてなくても、手と足に力を込め、僕は必死に床にへばりついた。ふと視線を下に向けゾッとする。斜面の下には、開かれた大きな口が、僕達がそこに訪れるのを心待ちにしている。舌が不気味に動き、喉の奥は真っ暗で、だからこそ落ちていくことが恐ろしい。周りの生き残っていた人達も、抵抗虚しく、巨人の口内へと吸い込まれていってしまう。
 そして僕もその一人だった。
 手は行き場を失い、宙を仰ぐと、身体が風を切りながら巨人の口をめがけて落ちていく。
「嫌だ……! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」
 必死に泣き叫び身体をねじった。喰われるのだけは嫌だ! その他は何も考えられなかった。先ほどの人々の絶叫が。あの配信者の最期が。何度も何度も頭の中で繰り返し再生されていく。少しでも巨人の口から遠ざかりたい。避けたところで、地面に落ちて潰れるしかなかろうと、この大男に弄ばれ、栄養にされるよりはマシに思えた。

ガチン!

 喰われまいと無意味な抵抗をする僕の耳に飛び込んできたのは、巨人の歯と歯が合わさる鋭利な音、次に感じたのは、茂みのような場所に飛び込んだ感覚だった。
 足と腕が、無数にある黒いロープのようなものに絡まっている。そして籠ってはいるが、かすかに聞こえてくる、人々の泣き叫ぶ声と、肉や骨を噛み砕く音。無意識のままに、絡まったロープを強く掴み、なんとか冷静になろうと試みた。聞こえる悲鳴には目をつむり、必死に今の自分の状況だけを理解しようとした。
 この場所から見る景色は高い。この場所から世界を見下ろせば、人々は虫同然に見えるだろう。さっきまで自分の立っていた、破壊された街という現実が、この場所から見るだけで、作り物めいて見える。
 空っぽの頭を埋めていくように、今見た情景から、自分の状況が見通せてくる。
 巨人に喰われそうになった僕。それでも、こうして外の景色を見ている。歯と歯が合わさる音に、無数の黒いロープ。そうか、そういうことだったのか。
僕が巨人の口に入りきる前に、ヤツは幸運にも口を閉じたのだ。そして僕は巨人の顎髭に、これまた幸運にも身を預けることとなった。
なんとか繋ぎ止めた命だ。無駄にしてたまるものか。巨人の頬の筋肉が動き、振り落とされそうになりつつも、残った力を腕に集中し、僕は髭にしがみつく。この巨人の生やした髭は濃く、もみあげまで続いていたはずだ。
落ちないように。巨人に気づかれないように。頭の上をめがけて、僕は髭を登っていった。
モライビ   10nice!




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